説明

角線の巻線装置及びエッジワイズコイルの巻線方法

【課題】フランジの外径よりも小さい短径を有するコイルを巻線する。
【解決手段】角線の巻線装置は、角線11を長手方向に繰り出す送り機構24と、その角線の側面に接触するシャフト31と、角線をシャフトの周囲に掛け回すように折り曲げるベンダ32と、角線の折り曲げ時にシャフトに掛け回される角線をシャフトの軸方向に押さえるフランジ41とを備える。フランジの一部に切り欠き部41aが形成され、フランジ移動機構46が設けられる。巻線方法は、平角線11をフランジにより厚さ方向から押さえつつシャフトの周囲に掛け回す角線折り曲げ工程と、フランジの切り欠き部を折り曲げた先の部分に対向させるフランジ移動工程と、平角線を長手方向に繰り出して平角線を切り欠き部に通過させてシャフトの周囲から外す角線送り工程と、フランジを移動させて平角線を押さえる位置にフランジを復元させるフランジ復元工程とを繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッジワイズコイルを巻線するのに適した角線の巻線装置及びエッジワイズコイルの巻線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常ボビンなどに巻回されてコイルを形成する被覆銅線は、長手方向に直交する方向の断面が円形であることが多い。断面が円形である被覆銅線をコイル状に巻回した場合、巻回方向に隣接する被覆銅線同士は線接触し合い、銅線同士の間にすき間が生じるので、コイル肉厚の割には、通電できる電流量が少ない。
【0003】
これに対し、近年平角線と呼ばれる線材が巻回されて形成されるエッジワイズコイルが開発されるようになった。エッジワイズコイルの場合には、巻回方向に隣接する線材同士は、幅側の面同士を密着できるため、通常のコイルと肉厚を同じにした場合、より大きな電流を通電でき、より強い磁力を発生することができる。
【0004】
しかし、このようなエッジワイズコイルを構成する平角線の剛性が高い場合、平角線を巻芯治具に沿って四角形に巻回することが困難と言われている。即ち、エッジワイズコイルは平角線をその幅方向に折り曲げて巻線するため、その巻線されたコーナ部分の形状に膨らみが生じ易く、そのコーナ部分に曲げしわが生じたり、コーナ部分とコーナ部分を接続する直線部分が曲がり、このコイルにコアを挿入した場合にそのコアとの空隙が大きくなり易いという特殊性があった。この点を解消するものとして、本出願人は巻線の形状精度を高めるエッジワイズコイル巻線方法及び装置を提案した(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この巻線方法及び装置はベンダにより平角線をシャフトの周囲に掛け回すことにより折り曲げるものであり、その折り曲げ時にシャフトの端部に形成された円盤状のフランジによりそのシャフトに掛け回される平角線をシャフトの軸方向に押さえ、これによりその平角線の折り曲げにより形成されるコーナ部分の膨らみや曲げしわを防止するとともに、コーナ部分とコーナ部分を接続する直線部分が曲がるようなことを回避するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−74881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記巻線方法及び装置では、得られたコイルの内周形状における短径がフランジの外径よりも小さい場合には、そのコイルがフランジを通過せずに、得られたコイルをシャフトから取り外すことができないという未だ解決すべき課題が残存していた。具体的に、図7に示すように、平角線2を2回U字状に折り曲げることにより1回巻きされるトラック形のエッジワイズコイル1を例にして説明すると、このトラック形エッジワイズコイル1を得るためには、図7(a)に示すように、先ず直線状に延びた平角線2をフランジ3により厚さ方向から押さえ、ベンダ5を旋回させてその平角線2の幅方向の側端部を支持する断面円形のシャフト4の外周に沿ってその平角線2をU字状に折り曲げる。その後、図7(b)に示すように、ベンダ5を元の位置に戻して平角線2を長手方向に新たに繰り出して、再び平角線2を折り曲げることになる。
【0008】
しかし、図7(b)に示すように、先にU字状に折り曲げられた部分2aより先の部分2bは新たに繰り出された平角線2と平行になり、シャフト4を両側から挟む構造となる。このため、この状態ではU字状に折り曲げられた部分2aより先の部分2bはフランジ3を通過せずに、フランジ3により依然として押さえられる位置に存在することになる。よって、新たに繰り出された平角線2を再び折り曲げようとすると、図7(c)に示すように、平角線2の先端縁2cが新たに繰り出されてフランジ3に押さえられる平角線2に接触し、それ以上の折り曲げが困難になる不具合があった。
【0009】
この場合、U字状に折り曲げられた部分2aより先の部分2bを、その弾性により図の実線矢印で示すように移動させてフランジ3を超えさせ、それによりその先の部分2bをシャフト4から取り外すことも考えられる。すると、図7(d)に示すように、新たに繰り出された平角線2をシャフト4の外周に掛け回してU字状に折り曲げることが可能になり、そうすることにより1回巻きされたトラック形エッジワイズコイル1が得られることになる。
【0010】
一方、このように1回巻きされたトラック形エッジワイズコイル1を得たとしても、1回巻きを超えたトラック形エッジワイズコイル1を得るためには、1回巻きされたトラック形エッジワイズコイル1が得られた図7(d)の状態から二点鎖線矢印で示すように再び平角線2を繰り出して、既に得られた1回巻きされたコイル1をシャフト4の周囲から外すことが必要となる。
【0011】
しかし、得られたトラック形エッジワイズコイル1の内周形状における短径Fはフランジ3の外径Dよりも小さいものであるので、その得られたコイル1の図の斜線で示す部分Pをフランジ3に通過させることができない。即ち、得られたコイル1をシャフト4の周囲から外すことができない。よって、円盤状のフランジを使用する従来の巻線方法及び装置では、フランジ3の外径Dよりも小さい短径Fを有するコイル1を巻線することができないという未だ解決すべき課題が残存していた。
【0012】
本発明の目的は、フランジの外径よりも小さい短径を有するコイルを巻線し得る角線の巻線装置及びエッジワイズコイルの巻線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、角線を長手方向に繰り出す送り機構と、繰り出されて直線状に延びた角線の側面に接触するシャフトと、シャフトの周囲を旋回して角線をシャフトの周囲に掛け回すように折り曲げるベンダと、角線の折り曲げ時にシャフトに掛け回される角線をシャフトの軸方向に押さえるフランジとを備えた巻線装置の改良である。
【0014】
その特徴ある構成は、フランジの一部に切り欠き部が形成され、切り欠き部では角線が押さえられないようにフランジを移動させるフランジ移動機構が設けられたところにある。
【0015】
本発明のエッジワイズコイルの巻線方法は、繰り出されて直線状に延びた平角線をフランジにより厚さ方向から押さえつつ平角線の幅方向の側縁に接触するシャフトの周囲に平角線を掛け回す角線折り曲げ工程と、フランジを移動させフランジに形成された平角線の押さえを外す切り欠き部を平角線の折り曲げられた先の部分に対向させるフランジ移動工程と、平角線を長手方向に繰り出して平角線の折り曲げられた先の部分を切り欠き部に通過させてシャフトの周囲から外す角線送り工程と、フランジを移動させ厚さ方向から平角線を押さえる位置にフランジを復元させるフランジ復元工程とを繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の角線の巻線装置及びエッジワイズコイルの巻線方法では、フランジに切り欠き部を形成したので、その切り欠き部を角線の折り曲げられた先の部分に対向させることにより、角線を繰り出す際にその先の部分を切り欠き部に通過させることができる。このため、得られたエッジワイズコイルの内周形状における短径がフランジの外径よりも小さい場合であっても、そのコイルをシャフトの周囲から外すことが可能となり、フランジの外径よりも小さい短径を有するコイルであっても巻線することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明実施形態の巻線装置を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】その巻線装置における巻線機構の上面図である。
【図4】本発明の巻線方法により1回巻きされたエッジワイズコイルを得るまでの工程を示す図である。
【図5】その1回巻きされたエッジワイズコイルがフランジを通過する状態を示す図4に連続する図である。
【図6】更に平角線を折り曲げて1回巻きを超えるエッジワイズコイルを得る状態を示す図5に連続する図である。
【図7】従来の巻線手順を示す図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に、本発明における角線の巻線装置10を示す。図1では、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が水平前後方向、Y軸が水平横方向、Z軸が垂直方向に延びるものとして、この巻線装置10について説明する。この装置10により巻回される線材は断面矩形の角線であり、厚さに対して幅が広い角線である平角線11を用いることにより、エッジワイズコイル16(図5)を得る場合を説明する。この平角線11はその供給源となるリール12に巻回されてテーブル10aに設置され、この平角線11の表面には絶縁皮膜が形成される。そして、この角線の巻線装置10は、リール12からY軸方向に繰り出されて供給される平角線11を真っ直ぐ伸ばす複数のローラ13a,13b,13c(図1には3個のローラが設けられる場合を示す。)と、Y軸方向に延びた角線である平角線11をその長手方向に繰り出す送り装置20と、繰り出された平角線11を折り曲げる巻線機構30とを備える。
【0020】
平角線11を長手方向に繰り出す送り装置20は、ローラ13a,13b,13cにより真っ直ぐ伸ばされた平角線11を固定支持する固定機構23と、その固定機構23のリール12側に設けられ平角線11をY軸方向に送る送り機構24とを備える。固定機構23は、図示しないエアシリンダによって上下動して平角線11を掴む第1チャック23aと、その第1チャック23aが取付けられた固定台23bを有し、この固定台23bがテーブル10aに設けられた基台20aに取付けられる。送り機構24は、図示しないエアシリンダによって上下動して平角線11の途中を掴む第2チャック24aと、その第2チャック24aを支持する移動台24bと、平角線11の長手方向に延びて設けられ移動台24bを基台20aに対してY軸方向に移動可能に支持するレール24cと、移動台24b側に螺合する図示しないボールネジと、そのボールネジを回転駆動するサーボモータ24dとを備える。レール24cとサーボモータ24dは基台20a上に固定され、サーボモータ24dによるボールネジの回転によって移動台24bが移動し、第2チャック24aに掴まれた平角線11をY軸方向に移動可能に構成される。
【0021】
そして、この固定機構23の第1チャック23aを解放して第2チャック24aに掴まれた平角線11を送り機構24によりY軸方向に移動させることによりその平角線11を長手方向に繰り出すように構成される。一方、送り機構24の第2チャック24aが平角線11を解放した状態で移動台24bが移動する際に固定機構23により平角線11を掴むことにより一旦繰り出された平角線11がその第2チャック24aとともに移動することを防止することができ、リール12側に移動した第2チャック24aにより平角線11を再び掴んだ状態で固定機構23の第1チャック23aを解放し、平角線11を掴んだ送り機構24の第2チャック24aを再びリール12から遠ざける方向に移動することにより、供給源であるリール12から供給された平角線11をその長手方向であるY軸方向に順次繰り出すことができるように構成される。
【0022】
なお、図1における送り装置20は例示であって、図示しないが、送り機構24は、平角線11に転接する複数のローラを備え、それら複数のローラを回転させることによりリール12から供給される平角線11をこれらのローラの間から長手方向に繰り出すようにしても良い。なお、図1では、平角線11はその扁平な断面が水平方向に延びるようにして送られる場合を示す。
【0023】
リール12が設置されたテーブル10aには送り装置20により平角線11が繰り出される位置に水平な固定台10bが設けられ、この固定台10bに巻線機構30が設けられる。図2に詳しく示すように、この固定台10bには中心軸を鉛直とする筒部10cが形成され、この筒部10cにはローラスリーブ34がネジ34aにより鉛直に固定される。ネジ34aを用いることにより、ローラスリーブ34は固定台10bに取り外し可能に固定される。
【0024】
巻線機構30は、平角線11の折り曲げ内側端部となる平角線11の側面に接触する断面が円形のシャフト31と、そのシャフト31のまわりを回動してシャフト31に沿って平角線11を折り曲げるベンダ32と、このベンダ32を旋回させる旋回駆動機構33とを備える。シャフト31は固定台10bに設けられたローラスリーブ34に軸受31cを介して回転可能であって、かつ軸方向に移動可能に支持される。このシャフト31は鉛直に設けられ、シャフト31は、平角線11が掛け回される掛け回し部31aと、ローラスリーブ34に支持される被支持部31bを有し、それらが同軸に連続して設けられる。トラック側エッジワイズコイルを得るこの実施の形態では、掛け回し部31aの断面は、そのコイルの両側における内径に相当する外径を有する円形に形成され、掛け回し部31aより被支持部31bを小径とすることにより、シャフト31はローラスリーブ34にZ軸方向の上側から取り外し可能に挿入支持される。
【0025】
一方、ローラスリーブ34は、シャフト31の被支持部31bを実際に回転可能であってかつ軸方向に移動可能に支持する支持部34bと、シャフト31の掛け回し部31aを包囲する包囲部34cとが同軸に形成され、包囲部34cが固定台10bの上面から上方に突出しかつ送り装置20により繰り出された平角線11がその上縁に載置されるように、支持部34bがその固定台10bにおける筒部10cに埋設固定される。包囲部34cの外径Dは後述するフランジ41の外径Dに略等しく形成され、図2の拡大図に示すように、掛け回し部31aの外周に幅方向の側面が接触する平角線11の幅方向の約半分程度がその上縁に載置されるように構成される。そして、平角線11が接触移動する包囲部34cの上面はその平角線11の外表面に傷を生じさせないためにコーナ部に丸み付けが成されるとともに研磨仕上げされる。
【0026】
旋回駆動機構33は、固定台10bの上面におけるローラスリーブ34の周囲に軸受33bを介して回転可能に支持される旋回ギヤ33cと、この旋回ギヤ33cに噛み合う駆動ギヤ33dと、この駆動ギヤ33dを回転駆動するモータ33eとを備え、旋回ギヤ33cにベンダ32が取付けられる。モータ33eには図示しないコントローラの制御出力が接続され、コントローラの指令によりモータ33eが駆動ギヤ33dを回転させると、これに噛み合う旋回ギヤ33cがシャフト31の中心軸を回転中心として回転し、ベンダ32をシャフト31を中心とする円弧状の軌跡を持って旋回させるように構成される。
【0027】
一方、ベンダ32は、旋回駆動機構33を構成する旋回ギヤ33cとともに平角線11をシャフト31の周囲に押し付けながら旋回することにより、平角線11をシャフト31の周囲に掛け回すように折り曲げ可能に構成される。そして、図2の拡大図に示すように、このベンダ32には平角線11の幅方向の側縁が進入するガイド溝32aが形成される。このガイド溝32aは、ローラスリーブ34における包囲部34cの外周からベンダ32側に突出する平角線11を収容し、ベンダ32が旋回してその平角線11をシャフト31に掛け回して折り曲げる際にその平角線11の外周端部に係合するよう構成される。このため、この凹溝32aの内面は、平角線11の外表面に傷を生じさせないために各コーナ部に丸み付けが成されるとともに研磨仕上げされる。
【0028】
また、角線の巻線装置10は、ベンダ32による平角線11の折り曲げ時に、シャフト31に掛け回される平角線11をシャフト31の軸方向に押さえるプレス機構40を備える。このプレス機構40は、ローラスリーブ34の包囲部34cから上方に突出するシャフト31の上端に同軸に形成された円盤状のフランジ41と、フランジ41が形成されたシャフト31を軸方向に駆動するアクチュエータ42を備える。図3に示すように、フランジ41は、シャフト31における掛け回し部31aの外径fに平角線11の幅を加えた値と略等しい外径Dを有し、掛け回し部31aの外周に幅方向の側面が接触する平角線11の幅方向の約半分程度を覆うように形成される。また、後述するけれども、このフランジ41の上面にエッジワイズコイルが順次形成されることから、このフランジ41の厚さt(図2)は比較的薄く形成され、平角線11の折り曲げにより形成されるコーナ部の膨らみや曲げしわを防止できるだけの強度を有する最小の厚みに形成される。そして、平角線11が接触移動するフランジ41の周囲及び上面はその平角線11の外表面に傷を生じさせないために各コーナ部に丸み付けが成されるとともに研磨仕上げされる。
【0029】
アクチュエータ42は、本体42aと、この本体42aからZ軸方向に出没して伸縮作動するロッド42bとを備え、本体42aが支持台42cを介して固定台10bに支持される。ロッド42bの先端部には、軸受42d、継ぎ手42eを介してシャフト31における被支持部31bの下端が回転可能に連結される。このアクチュエータ42には図示しないコントローラの制御出力が接続され、コントローラの指令によりアクチュエータ42が伸縮作動すると、シャフト31とともにフランジ41が図2の実線で示す平角線11を押さえる状態とその押さえを解除した一点鎖線で示す状態との間を昇降するように構成される。なお、シャフト31の昇降の程度は、フランジ41の上面にエッジワイズコイルが順次形成されることから、平角線11の押さえを解除可能な比較的小さな範囲に留められる。
【0030】
図示しないコントローラは、平角線11をシャフト31に掛け回して折り曲げる過程でアクチュエータ42を収縮作動させ、図1及び図2の拡大図に実線で示すように、平角線11をフランジ41とローラスリーブ34における包囲部34cの上縁との間に挟み込み、平角線11の折り曲げ内周部をZ軸方向である図の上側からフランジ41がシャフト31の軸方向下方に押さえてその平角線11の内周部が拡がるような変形を押さえるように構成される。ここで、アクチュエータ本体42aとしては、油圧シリンダ、エアシリンダ、電磁アクチュエータ等が例示されけれども、これらに限るものではない。そして、アクチュエータ42が付与する平角線11をフランジ41が押さえる荷重は、平角線11の寸法、材質等に応じて適宜設定される。
【0031】
本発明の特徴ある構成は、平角線11を押さえるフランジ41の一部に切り欠き部41aが形成され、その切り欠き部41aでは平角線が押さえられないようにフランジ41を移動させるフランジ移動機構46が設けられたところにある。図3に示すように、切り欠き部41aは、シャフト31の掛け回し部31aに頂角が接するなだらかな山形を成すように形成され、その掛け回し部31aに側縁が接する真っ直ぐな平角線11がこの切り欠き部41aを通過可能にその掛け回し部31aに接するように形成される。なお、このなだらかな山形を成す切り欠き部41aは一例であって、フランジ41が角線11を押さえ可能であって、かつこの切り欠き部41aを介して掛け回し部31aに接する角線11が通過可能である限り、フランジ41を扇状にして切り欠き部41aを比較的大きな山形としても良い。この場合の扇状のフランジ41の円弧は、それを両側から挟む両辺が略直角又はそれ以下の角度で交わるようなものであっても良い。
【0032】
図2に戻って、フランジ移動機構46はアクチュエータ42に平行に設けられたモータ47と、このモータ47の回転をシャフト31に伝達する伝達機構48により構成され、伝達機構48は、モータにより回転駆動される駆動プーリ48aと、固定台10bに形成された筒部10cの下端に回転可能に取付けられてシャフト31がスプラインを介して軸方向に摺動可能にかつ回転不能に挿通された従動プーリ48bと、これらのプーリ48a,48bに渡って掛け回されるタイミングベルト48cとを備える。モータ47には図示しないコントローラの制御出力が接続され、コントローラの指令によりモータ47が駆動すると駆動プーリ48aが回転し、その回転はベルト48cを介して従動プーリ48bに伝達され、そこにスプライン結合されたシャフト31がフランジ41とともに回転するように構成される。
【0033】
図1及び図3に示すように、固定台10bには、送り装置20によりY軸方向に繰り出された平角線11がX軸方向に振れることを防止する支持部材54と、第1及び第2ピッチガイド55,56が設けられる。支持部材54は、Y軸方向に繰り出された平角線11が進入する凹溝54aが上部に形成され、この凹溝54aにY軸方向に延びる平角線11が進入して収容されることにより、その平角線11の長手方向であるY軸方向の繰り出しを許容しつつ幅方向であるX軸方向への移動を防止するように構成される。
【0034】
第1ピッチ送りガイド55は平角線11の先端縁が摺接するものとして、第2ピッチ送りガイド56は得られたトラック形エッジワイズコイル16(図6(a),(b))が摺接するものとして設けられる。第1ピッチ送りガイド55は楔状の断面を有する第1摺接部55aを有し、第1摺接部55aの上面に最初に折り曲げられた平角線11の先端縁11c(図4(c))が摺接するようにその表面が水平面に対して傾斜するように固定台10bに取付けられる。そして、第1摺接部55aの表面に平角線11の先端縁が摺接することにより平角線11が水平面に対して傾斜し、平角線11はその折り曲げられた部位が繰り出された平角線11と干渉することを防止するように構成される。
【0035】
一方、第2ピッチ送りガイド56は、アクチュエータ57を介して固定台10bに取付けられる。アクチュエータ57は、固定台10bに取付けられた取付治具57cに固定された本体57aと、この本体57aから図示しないコントローラからの指令によりX軸方向に出没して伸縮作動するロッド57bとを備え、そのロッド57bの突出端に第2ピッチ送りガイド56が固定される。図3の一点鎖線で示すように、ロッド57bが本体57aから突出すると、第2ピッチ送りガイド56がシャフト31に接近し、楔状の断面を有する第2摺接部56aの上面にエッジワイズコイルが摺接可能にその上面が水平面に対して傾斜して形成される。一方、図3の実線で示すように、ロッド57bが本体57aに没入すると、第2ピッチ送りガイド56はシャフト31から離間し、その第2摺接部56aにエッジワイズコイルが接触不能に取付けられる。
【0036】
次に、本発明のエッジワイズコイルの巻線方法について説明する。
【0037】
この巻線方法は、トラック形エッジワイズコイルの巻線方法であって、ベンダ32が平角線11をシャフト31の周囲に掛け回してU字状に折り曲げる折り曲げ行程と、送り装置20が平角線11を繰り出す角線送り工程とを繰り返すものであるけれども、2回目の折り曲げ工程以後は角線送り工程の前後にフランジ移動工程とフランジ復元工程が挿入されることを特徴とする。以下、これらの工程を説明する。
【0038】
<最初の角線折り曲げ工程>
平角線11を折り曲げるために、リール12から繰り出される平角線11を各ローラ13a,13b,13cの間に通して直線状に延ばし、直線状に延ばされた平角線11を送り装置20により長手方向に繰り出す。具体的には図1に示す固定機構23の第1チャック23aを解放して送り機構24により平角線11をY軸方向に移動させることにより行われる。そして、図3に示すように、平角線11を支持部材54の凹溝54aに収容するとともにシャフト31とベンダ32の間に挿通させる。その後、送り装置20における固定機構23の第1チャック23aを閉じて平角線11の移動を禁止する。そして、旋回駆動機構33により旋回ギヤ33cとともにベンダ32を180度に回動させ、図4(a)に示すように、平角線11をシャフト31に掛け回すようにして折り曲げる。
【0039】
このとき、プレス機構40(図2)はフランジ41を用いてシャフト31に沿って折り曲げられる平角線11を厚さ方向から押さえる。具体的に、プレス機構40(図2)はフランジ41を図2の実線で示す平角線11を押さえる状態とし、ベンダ32が回動することによりローラスリーブ34の上端縁とフランジ41との間の隙間に平角線11を押し込み、これにより平角線11をシャフト31に掛け回すように折り曲げる。そして、フランジ41は、そこに形成された切り欠き部41aを送り装置20側に位置させ、U字状に折り曲げられる平角線11の全ての部分をフランジ41aが押さえ、シャフト31に掛け回される部分の折り曲げによる膨らみや、折り曲げに起因する曲げしわを防止する。
【0040】
なお、この折り曲げが完了した後は、旋回駆動機構33によりベンダ32を逆方向に180度回動させて最初の位置に復元させる。このベンダ32の復元と同時又はその前後に、プレス機構40により、フランジ41による平角線11の押さえを解除する。
【0041】
<最初の角線送り工程>
図4(b)に示すように、その後、平角線11を送り装置20により長手方向に繰り出し、新たに繰り出された平角線11をシャフト31とベンダ32の間に挿通させて最初に折り曲げられた部分11aをY軸方向に移動させてシャフト31から遠ざける。このとき繰り出される平角線11の量は、得ようとするエッジワイズコイルの1回巻きに必要な量の半分である。この必要な量が繰り出された後には、送り装置20における固定機構23の第1チャック23a(図1)を閉じて平角線11の更なる繰り出しを防止する。
【0042】
<2回目の角線折り曲げ工程>
平角線11の繰り出しを禁止した状態で、図4(c)に示すように、旋回駆動機構33によりベンダ32を再び回動させ、平角線11をシャフト31に掛け回すようにして折り曲げる。このとき、プレス機構40によりフランジ41を用いてシャフト31に沿って折り曲げられる平角線11を厚さ方向から押さえる。
【0043】
一方、最初の折り曲げ工程によりU字状に折り曲げられた部分11aより先の部分11bは新たに繰り出された平角線11と平行になり、シャフト31を両側から挟む構造となる。けれども、図4(c)に一点鎖線で示すように、新たに繰り出された平角線11を折り曲げると、平角線11の先端縁11cが第1ピッチ送りガイド55に摺接してZ軸方向であるシャフト31の軸方向に移動する。そして、フランジ41に形成された切り欠き部41aを送り装置20側に位置させているので、ベンダ32を再び回動させると図4(c)に実線で示すように、そのU字状に折り曲げられた部分11aより先の部分11bは第1ピッチ送りガイド55により持ち上げられてその切り欠き部41aを通過し、これによりシャフト31から外れ、新たに繰り出された平角線11と干渉することなくその平角線11と交差することになる。
【0044】
そして、更にベンダ32の回動を継続し、その新たに繰り出された平角線11をU字状に折り曲げると、図4(d)に示すように、折り曲げられた部分11aより先の部分11bはピッチ送りガイド55に摺接してZ軸方向であるシャフト31の軸方向であるフランジ41の上側に移動し、1回巻きされたトラック形エッジワイズコイル16が得られる。そして、フランジ41aはU字状に折り曲げられる平角線11の全ての部分を押さえて、その部分の折り曲げによる膨らみや、折り曲げに起因する曲げしわを防止する。
【0045】
なお、この折り曲げが完了した後は、旋回駆動機構33によりベンダ32を逆方向に180度回動させて最初の位置に復元させる。このベンダ32の復元と同時又はその前後に、プレス機構40により、フランジ41による平角線11の押さえを解除する。
【0046】
<フランジ移動工程>
次に、図5(a)に示すように、フランジ41を移動させ、そのフランジ41に形成された平角線11の押さえを外す切り欠き部41aを平角線11の新たに折り曲げられた部分11dより先の部分11eであってその平角線11の繰り出し方向に直交する位置に移動させる。このフランジ41の移動はフランジ移動機構46により行われ、具体的には、図示しないコントローラから指令を発してモータ47を駆動し、駆動プーリ48aを回転させてベルト48cを介して従動プーリ48bを回転させ、そこにスプライン結合されたシャフト31をフランジ41とともに一点鎖線矢印で示すように回転させる。これにより、角線折り曲げ工程時には、送り装置20側に向いていた切り欠き部41aを略90度回転移動させることができ、その平角線11の繰り出し方向に直交する位置にその切り欠き部41aを移動させることができる。
【0047】
<角線送り工程>
平角線11を長手方向に繰り出して平角線11の先の折り曲げ工程時に新たに折り曲げられた部分11dより先の直線部分11eを切り欠き部41aに通過させる。具体的には、図5(a)の二点鎖線矢印で示すように、平角線11を送り装置20により長手方向に繰り出し、新たに繰り出された平角線11をシャフト31とベンダ32の間に挿通させる。すると、先の折り曲げ工程で得られた1回巻きされたトラック形エッジワイズコイル16とともに新たに折り曲げられた部分11dがシャフト31から遠かるようにY軸方向に移動することになる。このとき繰り出される角線の量は、得ようとするエッジワイズコイルの1回巻きに必要な量の半分である。
【0048】
ここで、得られたトラック形エッジワイズコイルの内周形状における短径Fはフランジの外径Dよりも小さいものであるけれども(図5(d))、切り欠き部41aが平角線11の新たに折り曲げられた部分11dより先の直線部分11eに対向しかつその平角線11の繰り出し方向に直交する位置に存在するので、平角線11を長手方向に繰り出すと、その直線部分11eは切り欠き部41aを通過してシャフト31の周囲から外れる。そして、(図5(b))に示すように、前に折り曲げられた部分11aはフランジ41上側に載り、その後(図5(c))に示すように、そのフランジ41上側を通過する。よって、この巻線方法では、フランジ41の外径Dよりも小さい短径Fを有するコイル16であっても巻線することができる。なお、この必要な量が繰り出された後には、送り装置20(図1)における固定機構23の第1チャック23aを閉じて平角線11の更なる繰り出しを防止する。
【0049】
<フランジ復元工程>
図5(d)の一点鎖線矢印で示すように、次にフランジ41を回転移動させて厚さ方向から平角線11を押さえる位置にフランジ41を復元させる。このフランジ41の復元はフランジ移動機構46により行われ、モータの回転方向が逆である点を除いて、その動作は先のフランジ移動工程と同一であるので、ここでの繰り返しての説明は省略する。これにより、角線送り工程時には、平角線11の繰り出し方向に直交しかつ折り曲げた先の部分11eに対向していた切り欠き部41aを略90度逆方向に回転移動させることができ、厚さ方向から平角線11を押さえる位置である送り装置20側にその切り欠き部41aを移動させることができる。
【0050】
<3回目の折り曲げ工程>
フランジを復元させた状態で、図6に示すように、旋回駆動機構33によりベンダ32を再び回動させ、平角線11をシャフト31に掛け回すようにして折り曲げる。このとき、プレス機構40によりフランジ41を用いてシャフト31に沿って折り曲げられる平角線11を厚さ方向から再び押さえる。
【0051】
一方、平角線11を折り曲げる際には、最初の折り曲げ工程と2回目の折り曲げ工程により得られた1回巻きのエッジワイズコイル16がフランジ41と干渉するおそれがある。このため、図6(a)に示すように、アクチュエータ57におけるロッド57bを一点鎖線矢印で示すように突出させて第2ピッチ送りガイド56をシャフト31に接近させる。すると、平角線11の折り曲げとともに移動する1回巻きのエッジワイズコイル16は楔状の断面を有する第2摺接部56aの上面に摺接し、図6(b)に示すように、その第2摺接部56aは、そのエッジワイズコイル16をフランジ41の上面に案内する。なお、エッジワイズコイル16がフランジ41の上面に載置された後に、ロッド57bは直ちに二点鎖線矢印で示すように没入させる。すると、第2ピッチ送りガイド56はシャフト31から離間して、その第2摺接部56aにエッジワイズコイル16を接触不能になる。これにより、そのエッジワイズコイル16がフランジ41と干渉することなく、図6(c)に示すように、新たに繰り出された平角線11をU字状に折り曲げることができる。そして、フランジ41aはU字状に折り曲げられる平角線11の全ての部分を押さえて、その部分の折り曲げによる膨らみや、折り曲げに起因する曲げしわを防止する。
【0052】
なお、この折り曲げが完了した後は、旋回駆動機構33によりベンダ32を逆方向に180度回動させて最初の位置に復元させるとともに、それと同時又はその前後に、プレス機構40により、フランジ41による平角線11の押さえを解除する。
【0053】
以後、上記<フランジ移動工程>から、この<第3回目の折り曲げ工程>を順次繰り返すことにより、平角線11を整列して巻回し、所定幅、所定層の巻線を行うことができ、これにより、フランジ41の上面にZ軸方向に延びるエッジワイズコイル16を形成することができる。こうして所望のエッジワイズコイル16を形成した後は、図示しないカッタ装置を介して平角線11を切断し、得られたエッジワイズコイル16を取り外すことにより一連の巻線作業を終了させる。
【0054】
得られたトラック形エッジワイズコイル16は支持ローラ22の外径に沿って湾曲する両側のコーナ部分と、その両側のコーナ部分を連結する直線状に延びる部位とを有し、従来の巻芯治具を用いて巻回する方法に比べて、巻線部の形状精度を高めるとともに、エッジワイズコイル16を構成する平角線11の長さを短くし、コイルの小型化が図られ、コイルの抵抗を小さくして電動機等の性能向上を図ることができる。
【0055】
特に、ベンダ32が平角線11をシャフト31に押し付けながら旋回する際に、シャフト31に沿って折り曲げられる平角線11をプレス機構40によりフランジ41が厚さ方向から押さえるので、平角線11がシャフト31に沿って折り曲げられる過程で平角線11の断面が厚さ方向に拡張したり曲げしわが生じることを抑えることができ、平角線11を隙間なく整列して巻回することができる。このため、得られたエッジワイズコイル16に対する平角線11の占積率を高めることができ、電動機等の性能向上を図ることができる。
【0056】
また、送り機構24が繰り出す平角線11の量や、シャフト31の曲率半径等を変えることにより、エッジワイズコイル16の大きさや形状を容易に変更することができる。この実施の形態における装置では、シャフト31やローラスリーブ34を取り外し可能にしているので、その交換が容易であり、比較的容易に曲率半径の変更等が可能である。
【0057】
また、角線の巻線装置10は、先に形成されたトラック形エッジワイズコイル16に摺接する第1及び第2ピッチ送りガイド55,56を備えることにより、そのエッジワイズコイル16を平角線11やフランジ41に干渉させることなく円滑に巻回することができる。
【0058】
なお、上述した実施の形態では、フランジ41が平角線11の幅方向の約半分程度を覆うように形成される場合を例示したが、折り曲げられる過程で平角線11の断面が厚さ方向に拡張したり曲げしわが生じることを抑えることができる限り、フランジ41が押さえる程度は、平角線11の幅方向の半分未満であっても良く、半分を超えていても良い。
【0059】
また、上述した実施の形態では、フランジ移動機構46として、アクチュエータ42に平行に設けられたモータ47と、このモータ47の回転をシャフト31に伝達する伝達機構48により構成されたものを例示したが、フランジ移動機構46は、フランジ41を移動可能である限り、これに限らず、シリンダ等の他の手段によりフランジを移動させるようなものであっても良い。
【符号の説明】
【0060】
10 巻線装置
11 平角線
11e 折り曲げられた先の部分
24 送り機構
31 シャフト
32 ベンダ
41 フランジ
41a 切り欠き部
46 フランジ移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角線(11)を長手方向に繰り出す送り機構(24)と、繰り出されて直線状に延びた前記角線(11)の側面に接触するシャフト(31)と、前記シャフト(31)の周囲を旋回して前記角線(11)を前記シャフト(31)の周囲に掛け回すように折り曲げるベンダ(32)と、前記角線(11)の折り曲げ時に前記シャフト(31)に掛け回される前記角線(11)を前記シャフト(31)の軸方向に押さえるフランジ(41)とを備えた巻線装置において、
前記フランジ(41)の一部に切り欠き部(41a)が形成され、
前記切り欠き部(41a)では前記角線(11)が押さえられないように前記フランジ(41)を移動させるフランジ移動機構(46)が設けられた
ことを特徴とする角線の巻線装置。
【請求項2】
繰り出されて直線状に延びた平角線(11)をフランジ(41)により厚さ方向から押さえつつ前記平角線(11)の幅方向の側縁に接触するシャフト(31)の周囲に前記平角線(11)を掛け回す角線折り曲げ工程と、
前記フランジ(41)を移動させ前記フランジ(41)に形成された平角線(11)の押さえを外す切り欠き部(41a)を前記平角線(11)の折り曲げられた先の部分(11e)に対向させるフランジ移動工程と、
前記平角線(11)を長手方向に繰り出して前記平角線(11)の折り曲げられた先の部分(11e)を前記切り欠き部(41a)に通過させて前記シャフト(31)の周囲から外す角線送り工程と、
前記フランジ(41)を移動させ厚さ方向から前記平角線(11)を押さえる位置に前記フランジ(41)を復元させるフランジ復元工程と
を繰り返すエッジワイズコイルの巻線方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−61099(P2011−61099A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211157(P2009−211157)
【出願日】平成21年9月12日(2009.9.12)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】