説明

解体性接着剤組成物

【課題】高強度の接着剤を外的刺激により、容易に解体する方法の提供。
【解決手段】接着剤成分と融解剤を含む解体性接着剤組成物であって、融解剤の融点が解体性接着剤の硬化温度以上、且つ350℃以下であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤によって組み立てられた構造体又は物品をその接着接合部において容易に解体させることを可能にする解体性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤は、構造用接着剤をはじめとして、より接着力が強く、より耐久性が長く、さらには、耐熱性、温度環境の変動にも強いものが求められ、開発が進められてきた。しかしながら、限り有る資源を有効に使用しようとするリサイクルの面では、アセンブリーされた部品を再利用するために、解体可能な接着剤の開発が必須である。解体性接着剤とは、使用期間後に何らかの処置により接合部をはがしうるものである。このような接着剤として、熱可塑性接着剤は、加熱により接合部の解体が可能であるが、いったん冷却すると再び接着力が復元する。解体する場合は、接着剤だけを加熱することは困難であるため、高い雰囲気温度下で解体する必要があるが、高温となった接合物の解体は、危険性の高いものであった。
【0003】
この問題を解決するため、熱可塑性よりもより高強度の接着力が要求される熱硬化性接着剤にも適用可能な解体性接着剤として、接着剤成分にバーミキュライトや熱膨張性黒鉛等の熱膨張性無機物を添加した解体性接着剤の開発が進められている。しかしながら、これらの解体性接着剤は、加熱後に接着強度が低下するものの完全に強度がゼロにはならないという問題があった(特許文献1参照)。また、解体温度は400℃以上という高温を想定しているため、多大な熱エネルギーが必要であることに加え、被着体が樹脂材料の場合、加熱時に被着体自身が熱劣化するため再利用が困難であるという問題があった(特許文献2参照)。
また、接着剤成分に熱膨張性樹脂バルーンや化学発泡剤を添加した解体性接着剤の開発も進められている。しかしながら、これらの解体性接着剤は、高強度の接着剤は解体出来ず、10MPa以下の接着強度を有する接着剤の解体に留まっていた(特許文献3、特許文献4参照)。
高接着強度を有する接着剤を解体するため、接着剤成分に有機ポリマーを添加した解体性接着剤の開発が進められているが、200℃以上という高温条件下でのみ接着強度がゼロとなるため、熱可塑性接着剤同様に、高温となった接合物の解体は、危険性が高いという問題があった(特許文献5参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−204332号公報
【特許文献2】特願2004−189856号公報
【特許文献3】特開2002−187973号公報
【特許文献4】特開2003−171648号公報
【特許文献5】特開2004−231808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高強度の接着剤を用いて接合された構造体又は物品を、必要な場合に外的刺激によって、比較的低温で接着接合部を解体可能な接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記従来技術の問題点を克服するため、鋭意研究した結果、特定の温度領域に融点を持つ融解剤を接着剤に含有させることにより、外的刺激により融解剤を融解させ、接着剤の残存強度を極小化、あるいは、完全に消失させることを見出した。
すなわち、本発明は下記に記載するとおりの、解体可能な接着剤、接着方法、解体方法を提供する。
(1)接着剤成分と融解剤を含む解体性接着剤組成物であって、融解剤の融点が解体性接着剤の硬化温度以上、且つ350℃以下であることを特徴とする解体性接着剤組成物。
(2)前記融解剤の350℃における重量減少率が10%以上であることを特徴とする前記(1)に記載の解体性接着剤組成物。
(3)接着剤成分がエポキシ樹脂であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の解体性接着剤組成物。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の解体性接着剤組成物で被接着体と被接着体を接着する接着方法。
(5)一方の被接着体と他方の被接着体が異材質であることを特徴とする前記(4)に記載の接着方法。
(6)前記(4)又は(5)に記載の方法で接着された接着構造体を外的刺激によって接着強度を消失させる解体方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高接着強度の構造体又は物品を、後程定義する外的刺激により容易に解体可能な接着剤が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本願発明について、その好ましい実施態様を中心に、詳細に説明する。
本発明において利用できる接着剤成分としては、何ら限定されるものではないが、本発明の主旨が、解体しにくいものを解体することにあるから、構造用の接着剤を用いること好ましい。構造用接着剤とは、「長期間破壊することなく、その最大破壊荷重に比較的近い応力を加えることのできる信頼性の保証された接着剤」(接着応用技術 日経技術図書株式会社発行 1991年 P93 接着剤の分類参照)であり、化学組成による分類によれば、(同上図書 P99)熱硬化性、アロイがよい。
本発明の解体性接着剤に用いることができる接着剤成分を例示すれば、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、レゾルシノール樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンズイミダゾール、アクリル(SGA)、アクリル酸ジエステル、シリコーンゴム系などを主成分とする接着剤を挙げることができる。アロイとしては、エポキシフェノリック、エポキシポリサルファイド、エポキシナイロン、ニトリルフェノリック、クロロプレンフェノリックビニルフェノリック等、または上記物質を変性させた樹脂、上記物質を2種類以上混合した樹脂が使用できる。特にエポキシ樹脂系接着剤は、副生成物を遊離せずに硬化し、高い剪断強さを有しており、好ましい。
【0009】
本発明の接着剤成分としてエポキシ樹脂を使用する場合、主剤としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂類、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステルなどのグリシジルエステル類、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどのグリシジルアミン類、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油などの線状脂肪族エポキサイド類、3,4エポキシ−6メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレートなどの脂環族エポキサイド類、もしくはこれらを2種類以上混合したものが使用できる。
硬化剤としては、重付加型硬化剤として、例えばジエチレントリアミン、メタキシレンジアミン、ジシアンジアミドなどのアミン系硬化剤、無水フタル酸、テトラヒドロメチル無水フタル酸などの酸無水物系硬化剤、その他フェノールノボラック硬化剤やポリメルカプタン硬化剤が使用できる。また、触媒型硬化剤として、例えば第三アミンやルイス酸錯体が使用することが出来、これらを2種類以上混合したものが使用出来る。
構造用接着剤の場合、実施例で示したような接着強度測定を常温で実施したときに10MPa以上の値を示すものが好ましい。
【0010】
本発明の接着剤に含有される融解剤は、融点が接着剤の硬化温度以上且つ350℃以下である。融点が接着剤の硬化温度より低いと、接着剤の硬化時に融解剤が融解するため、融解剤のブリードアウトや分解により、接着剤の接着強度や解体性の低下を生じる場合がある。また、融点が350℃以上の場合、接着接合部の解体のため、接着構造体を350℃以上に加熱する必要があり、多大なエネルギーが必要になるばかりか、被着体が熱劣化する場合がある。より好ましい融解剤の融点は、100℃以上300℃以下であり、さらに好ましくは150℃以上250℃以下であり、さらに好ましくは200℃以上240℃以下である。具体的な融解剤として、例えば尿素、ビウレット、グアニジン硝酸塩、2−ビフェニルカルボン酸、o−アセトアミドフェノール等が挙げられ、これらを2種類以上組み合わせても良い。なお、本発明における融点とは、示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて測定した融点を言う。
【0011】
融解剤の含有量は、接着剤成分100重量部に対して、5重量部以上200重量部以下が好ましく、10重量部以上100重量部以下がより好ましい。融解剤の含有量が5重量部未満であると解体性の付与が不足し加熱後に接着強度が低下しない場合があり、200重量部を越えると接着剤の粘度上昇が著しく、塗工作業性が悪くなる場合がある。
融解剤の粒径については、一般的に接着剤の厚みが最大でも1mm程度であることから、融解剤の粒径は1mm以下が好ましい。接着剤の塗工作業性が向上し、接着剤成分中における融解剤の分散性も向上することから、融解剤の粒径は0.1〜400μmが好ましく、0.5〜100μmがより好ましく、1〜50μmが特に好ましい。なお、本発明における粒径とは、レーザー回折式粒度分布計を用いて測定したメジアン径をいう。
【0012】
融解剤が硬化中に接着剤成分と反応すると、接着剤成分が変質し硬化後の接着強度が低下したり、融解剤が変質し解体性が低下したりする場合があるので、融解剤は接着剤成分と化学反応しないものが好ましい。
融解剤は、加熱融解後、接着剤と被着体の界面に滲入し、接着強度を低下もしくは消失させるため、融解後の粘度が低く、被着体との相溶性が高い方が界面に滲入しやすいため、容易に解体することが出来る。
融解剤は、気化することで350℃における重量減少率が1〜100%、特に10〜100%であることが好ましい。融解後、接着剤と被着体の界面に滲入した融解剤が気化することで、接着界面での解体性を著しく向上させることが出来る。なお、本発明における重量減少率とは、示差熱熱重量同時測定装置(TG−DTA)を用いて求めた値であり、開放アルミセルに融解剤を約5mg入れ、大気雰囲気下で15℃/minの昇温速度で常温から350℃まで昇温した際の重量減少から算出したものを言う。
【0013】
本発明においては、接着剤の流動性調整のため、非反応性希釈剤や反応性希釈剤、炭酸カルシウムやタルク、アルミナ等のフィラーを、接着剤成分100重量部に対して0〜200重量部、好ましくは0〜100重量部添加することが出来る。
また、可とう性付与のため、モノエポキサイド、ジエポキサイド、ポリチオールなどの可塑剤や、液状ゴムを、接着剤成分100重量部に対して0〜200重量部、好ましくは0〜100重量部添加しても良い。
接着剤成分と融解剤、その他流動性調整成分、可とう性付与成分等の混合順は、接着剤の接着強度、解体性等を損なわなければ、どの順序で混合しても良い。また、塗布直前に混合しても良いし、予め一部の成分を混合しておいても良い。
本発明の接着剤は、液状で用いても良いし、テープ状で用いるために、フィルム基材に塗布して用いても良い。
【0014】
本発明の接着剤は外的刺激によって接着性が低下又は消失するため、該接着剤を用いて接着した接着構造体を容易に解体することが可能となる。
本発明で言う外的刺激とは、熱、火等の物理的な刺激をいい、より具体的には、熱風加熱、赤外線照射、高周波加熱、マイクロ波加熱、化学反応熱、摩擦熱等、ガスバーナーなどの火による加熱が挙げられる。本発明の接着剤によって接着された接着構造体に上記外的刺激が与えられると、接着剤の温度が上昇し、接着剤成分自身の凝集力や被着体との接着力が低下するという現象に加え、外的刺激を受けることで、その際、接着剤成分に含有した融解剤が融解し、接着剤と被着体との界面に滲入することで、接着力を大きく低減、あるいは、消失させることができる。
【0015】
大型の接着された構造体を均一加熱するという点では、電気炉、ガス炉等の内部構造に加熱部を有し、外部が断熱材で構成されたものの内部空間で構造体を加熱する方法がより好ましい。また、解体時の温度としては、金属/FRP接合体、FRP/FRP接合体などは、FRPのマトリックス樹脂の融点以下で短時間での解体を可能とすることは、極めて重要な課題である。例えば、複合材料に使用される樹脂PPS(ポリフェニレンサルファイド、融点:280℃)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン、融点:335℃)などの接着構造体の解体においては、リユースを考慮した場合に、樹脂に対して融点以上の温度での加熱を長時間行わないことは樹脂の変質を招かないために重要であり、加熱温度は350℃以下が好ましく、より好ましくは、300℃以下である。
【0016】
加熱解体時の昇温速度については、被接着体の熱劣化を抑制すること、また高い解体性を付与する場合があることから、高い昇温速度で接着剤を加熱することが好ましく、具体的には5℃/min以上、より好ましくは10℃/min以上の昇温速度で昇温することが好ましい。
また、被接着体のリサイクル等を考慮すると、リサイクル等したい側の被接着体界面で剥離させることが望ましい。このため、リサイクル等したい被接着体側から加熱することで、解体面を選択することが出来る。
本発明の接着剤の使用箇所は、特に制限されるものではないが、リサイクル、リユース、リワーク用途に使用することが可能であり、特に例示すれば、金属−FRPや、金属−ガラスのような異材質の接着に好適に用いることが出来る。また異種の金属−金属、FRP−FRPの接着に用いることも可能である。
【実施例】
【0017】
以下、実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでは無い。
実施例で使用した試料の略号は以下の通りである。
EP−4901:ビスフェノールF型エポキシ、ADEKA(株)製、アデカレジンEP−4901
EH−463:変性脂肪族ポリアミン系硬化剤、ADEKA(株)製、アデカハードナーEH−463
o−AAP:o−アセトアミドフェノール、融点210℃、和光純薬工業(株)製試薬
2−BPCA:2−ビフェニルカルボン酸、融点114℃、和光純薬工業(株)製試薬
GN:グアニジンン硝酸塩、融点210℃、和光純薬工業(株)製試薬
BU:ビウレット、融点190℃、和光純薬工業(株)製試薬
ADCA:アゾジカルボンアミド、225℃分解(融点無)、和光純薬工業(株)製試薬
各実施例、各比較例について、表1に示す組成で、接着接合体の作成、引張剪断試験、加熱解体試験を以下の方法で行った。
【0018】
<接着接合体の作成>
表1に示す各接着剤組成に従い、主剤、融解剤、硬化剤の順に十分混合し、接着剤を作成した。被接着体は、幅25mm、長さ100mm、厚さ1.6mmの金属板(SUS304製)を用い、ラップ長は12.5mmとした。接着面に、作成した接着剤を塗布して張り合わせ、接着接合部をクリップで止め、25℃の恒温槽中で24時間保持した(プレキュア)。その後、表1に記載のポストキュア温度のオーブン中で1時間保持し、硬化させた(ポストキュア)。
【0019】
<引張剪断試験>
上記方法で得られた接着接合体を25℃まで冷却後、(株)島津製作所製オートグラフ(型式AGS−J、ロードセル1トン用)を用いて、引張モード、変位速度5mm/minで試験片が破壊するまでの最大荷重を測定した。最大荷重を接着接合部の面積で除して、引張剪断接着強さを算出した。5試験体について測定を行い、その平均値を算出した。測定結果を表1に示す。
【0020】
<加熱解体試験>
上記方法で得られた接着接合体を25℃まで冷却後、300℃のホットプレート上に載せて、接着接合部が解体するか目視で確認した。なお、接着接合体は、一方の被接着体(下側被接着体)の被接着面の対面がホットプレートに接し、もう一方の被接着体(上側被接着体)はホットプレートと接しないようにホットプレートに載せる。このように配置することで、上側被接着体とホットプレート間には、下側被接着体の厚さ(1.6mm)と接着厚の和に相当する空隙が確保される。解体とは、加熱により接着強度が低下した際、上側被接着体の自重により自然に接着接合部が外れ、上側被接着体がホットプレートに接した状態を言う。下側被接着体の温度が290℃に到達しても解体しなかったものについては、解体しないと判定(表1では「×」で表記)した。なお、下側被接着体の温度を表面温度測定用温度計で測定し、解体時の温度を記録した。結果を表1に示す。
実施例1〜実施例4の条件では、10MPa以上の接着強度と200〜230℃での解体性を兼備するものであった。しかしながら、融解剤を添加しない比較例1は良好な接着強度を有するものの、被接着体が290℃に到達後も解体しなかった。比較例2では、融解剤の融点(114℃)以上の温度で硬化させたために、接着強さが低下し、さらに290℃到達後も解体しなかった。また、融解せずに分解する物質(アゾジカルボンアミド)を添加した比較例3や、融解剤の添加量が少ない比較例4(3重量部)は、良好な接着強度を示すものの、290℃到達後も解体しなかった。
【0021】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の解体性接着剤を使用すれば高強度の接着剤を容易に解体することが出来る。従って、本発明の接着剤は、リサイクル、リユース、リワーク用途に有用であり、金属−FRPや、金属−ガラスのような異材質の接着に好適に用いることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤成分と融解剤を含む解体性接着剤組成物であって、融解剤の融点が解体性接着剤の硬化温度以上、且つ350℃以下であることを特徴とする解体性接着剤組成物。
【請求項2】
前記融解剤の350℃における重量減少率が10%以上であることを特徴とする請求項1に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項3】
接着剤成分がエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の解体性接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の解体性接着剤組成物で被接着体と被接着体を接着する接着方法。
【請求項5】
一方の被接着体と他方の被接着体が異材質であることを特徴とする請求項4に記載の接着方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の方法で接着された接着構造体を外的刺激によって接着強度を消失させる解体方法。

【公開番号】特開2009−114276(P2009−114276A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286956(P2007−286956)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】