説明

触媒不織布用の金属繊維

白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムまたはイリジウムの群からの1もしくは複数の元素をベースとし、ニッケル、コバルト、金、レニウム、モリブデンおよびタングステンの群からの1もしくは複数の付加的な合金元素0〜30質量%を含有する金属繊維は、本発明によれば、ホウ素またはリンを1〜500質量ppm含有している。特に、窒素酸化物を製造するため、または青酸を製造するための本発明による不織布またはネットは前記の繊維からなる。溶融物から繊維を延伸することにより貴金属をベースとし、付加的な合金金属を30質量%まで含有する繊維を製造するために、繊維を延伸する前に金属の融点を、ホウ素またはリンの添加によって少なくとも400℃低下させ、かつ該繊維からホウ素またはリンをふたたび除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸および青酸を製造するための触媒構造物、および触媒を製造するために適切な、貴金属をベースとする金属繊維、該繊維から製造されるネットおよび不織布、ならびにこのような繊維、不織布およびネットを製造するための方法に関する。
【0002】
DE19945742C1は、溶融急冷法によりその金属繊維が製造される金属繊維触媒成形体を開示している。該繊維からテキスタイル技術によって、特に繊維不織布が製造される。触媒材料である白金、パラジウム、ロジウムは、該繊維中に含有されているか、または付加的な繊維が織布材料中に存在する。
【0003】
DE10000097は、100μmより小さい直径を有する細い繊維の金属繊維を、1500℃を上回る溶融浴温度で製造するための溶融急冷法を開示している。
【0004】
DE19712625A1は、特に金属繊維を分配ロールのメッシュにより、移動する土台の上に配置し、かつ交点を相互に結合する方法を記載している。
【0005】
これらの方法は、高い融点を有する金属については、金属繊維を製造するため、および該繊維から製造されるネットまたは不織布を製造するために不適切であるか、または少なくとも実現が困難である。
【0006】
DE10040591C1は、白金、イリジウム、ロジウムおよびルテニウムを、特にホウ素およびリンと合金化することを教示している。
【0007】
公知の触媒、特に白金・ロジウム触媒の効率は、時間の経過において低下する。
【0008】
本発明の課題は、貴金属ベースの繊維、ネットまたは不織布を製造することである。この方法は、できる限り簡単であるべきである。触媒は、高い効率を長期間にわたって維持すべきである。
【0009】
前記課題を解決するために、繊維加工前の金属の融点を、ホウ素またはリンにより劇的に低下させ、かつホウ素またはリンを繊維の製造後、または繊維から製造した不織布もしくはネットからほぼふたたび除去する。
【0010】
前記課題の解決は、独立請求項の特徴によって行われる。従属請求項は有利な実施態様を記載している。
【0011】
ホウ素もしくはリンを除去する際に、繊維の表面粗さが拡大され、この付加的な多孔度に伴い、触媒の効率が上昇することが考えられる。さらに、ホウ素またはリンは触媒作用を有していない酸化物の形成を防止し、かつ触媒への侵入を阻止することが推測される。
【0012】
本発明によれば、貴金属ベースの、特に白金族金属である白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムおよびイリジウムをベースとし、かつ場合により金属のニッケル、コバルト、金、レニウム、モリブデンおよびタングステンの付加的な合金元素を合計で30質量%まで含有する金属の融点を、ホウ素またはリンによって著しく低下させ、特に少なくとも400℃、有利には少なくとも500℃低下させる。このために有利にはホウ素またはリンとの共融組成物が製造される。このような共融混合物は一般に、加工すべき金属に対して1〜5質量%のホウ素またはリンを含有している。
【0013】
本発明は、共融混合物以外にもさらに実施可能である。しかしホウ素またはリン0.5質量%未満ではこの効果は役に立たない。といのは、合金の広い溶融間隔が著しい分離につながるからである。ホウ素またはリンの割合が高い場合には、一方では不要なホウ素またはリンが燃焼され、他方、その消費量が上昇することに加えて、これらの元素を除去するためのコストが同様に必要以上に高くなるというさらなる欠点が生じる。従って、10質量%を越える濃度、およびホウ素またはリンの含有率の上昇と共に、それまでは共晶を生じなかった組成物でさえ、ホウ素またはリンの高い消費量の形での欠点と、融点低下の利点の低下との関係で、その除去のためのコストの上昇とが考えられる。
【0014】
本発明による融点の低下は、特に白金、イリジウムおよびこれらの合金の場合に顕著である。融点を低下させるためのホウ素の使用は有利である。というのも、リンを使用する場合、一般に、より高い安全措置を講じる必要があるからである。
【0015】
本発明によれば、10〜200μm、特に50〜100μmの直径を有する繊維が得られる。溶融物からの、特に溶融急冷法による繊維の延伸は、本発明によればホウ素またはリンによる融点の低下によって、特に融点低下を行わないコストと比較して、またはワイヤ切削の製造コストと比較してエネルギーを節約し、かつ装置を保護する。本発明による融点の低下によって、繊維をDE19757093A1に記載のワイヤ注型法、またはDE3136303A1に記載の溶融紡糸法でも製造することができる。
【0016】
本発明によれば、溶融物からの、特に溶融急冷法による延伸により繊維の製造が簡単になること以外に、繊維からネットまたは不織布を製造するために必要とされる焼結温度および時間が低減され、その際、不織布の触媒特性および機械的特性は損なわれない。といのも、ホウ素もリンも、規定の繊維、不織布またはネットの適用の前に、ふたたびほぼ除去されるからである。ホウ素およびリンの除去は部分的に繊維の延伸の間に、および繊維をネットまたは不織布へと焼結する間に行われる。ホウ素またはリンの残留含有率が高すぎる場合、触媒としての適用のための所望の特性が損なわれる。ホウ素またはリンを、繊維をネットまたは不織布に焼結した後に、生成物を数分間、白熱させることが特に有利であることが証明された。このような処理工程の際に材料の強度が向上し、かつホウ素またはリンの含有率が低減される。ホウ素またはリンは、これらの元素による通常の不純物含有率を越えて、特に1〜500ppm残留することが推定される。特にホウ素を1〜20質量%またはリンを5〜20質量%に低減する際に、本発明により製造される繊維、ネットまたは不織布の触媒作用および機械的安定性に対してこれらの元素の否定的な効果は予測されない。
【0017】
貴金属でない合金元素または酸化に敏感な白金族金属、たとえばイリジウムおよびルテニウムを適用する場合には、ホウ素もしくはリンの酸化は空気雰囲気下ではなく、緩和な条件下で、たとえばH2/H2Oを含有する酸化ガス混合物中で行う。この保護的な方法は、特に酸化に敏感な金属が合金中に含有されている場合に、前焼結のために有利である。
【0018】
以下では本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0019】
約2質量%のホウ素を白金に添加することにより、融点を1770℃から790℃に低下させることができる。これにより、溶融急冷法によりPt合金、たとえばPtRh5から繊維を製造することが容易になる。Pdの融点は、同様にして約3質量%のBを添加して合金化することにより1555℃から1065℃に低下される。
【0020】
ホウ素と合金化されたPtRh5繊維は、ある温度(たとえば750℃)で、共融点よりわずかに低い温度で前焼結される。前焼結の際に、ホウ素は酸化され、かつ大部分が液化されるか、または生じる酸化ホウ素が気化される。同様に第一の焼結化合物が繊維間で生じる。1200℃〜1400℃の範囲の温度での短時間(数分)の焼結処理(たとえば火炎)により、不織布は強固に焼結される。場合によって残留する酸化ホウ素の痕跡は、温水中での洗浄により除去することができる。
【0021】
同様にして、パラジウム合金から不織布を製造することができる。しかしPd−B系の共融点は、1065℃で白金の場合によりも明らかに高いか、またはPdの1555℃は白金の場合よりも明らかに低いので、前焼結および焼結のための温度の調整の際には細心の注意を払う必要がある。しかし適切な温度は、簡単な時効硬化試験およびその後の顕微鏡写真による金属組織学的な検査によって容易に確認することができる。
【0022】
実施例:
慣用の方法で前溶融した、PtRh5からなる合金5kgを、直径10mmを有する鋳塊へと中型した後にロールかけし、かつ約30mmの長さに切断した。切断物を引き続き酸化ジルコニウムるつぼ中、アルゴンブランケット下に徐々に誘導加熱し、その際、ホウ素顆粒(PrB共晶に相当)2.1質量%を溶融物に添加した。短時間の溶融後、該溶融物が1000℃以上に加熱されることを慎重に回避して、ホウ素とるつぼの酸化ジルコニウムとの反応を危険を最小限に減少させた。こうして製造した合金を、銅鋳塊鋳型中に注型して、約20mm×20mm×120mmの鋳塊が得られた。
【0023】
B含有PtRh5合金からなる準備した鋳塊を、酸化ジルコニウムるつぼ中、溶融急冷装置(DE19945742C1、第2欄、第40行目以降を参照)で、アルゴン保護ガス雰囲気下に溶融し、その際、溶融浴の温度を820〜860℃に保持した。ホウ素を含有していないPtRh5合金からなる繊維を製造するための比較試験は、合金の高い溶融温度(約1820℃で液状)およびこれに起因する溶融るつぼの損傷が生じた。延伸法は、前試験により、PtRh5合金から、直径50〜60μmおよび平均長さ5mmを有する繊維2.6kgが得られるように調整した。
【0024】
DE19712625A1に記載の方法と同様に、繊維の単位面積質量が1500g/m2になるまで、400mm×800mmの寸法を有する酸化アルミニウムからなる平坦な土台上に繊維を散布した。
【0025】
こうして作成した不織布を土台上で、空気雰囲気下のチャンバー式加熱炉に導入し、750℃に加熱し、この温度で5時間維持した。ホウ素は繊維から拡散し、PtRh合金の表面で酸化され、かつこの温度で液状(融点450℃)の酸化ホウ素を形成した。前焼結された不織布を有する土台を、炉から取り出し、かつ室温に冷却した。冷却後、酸化ホウ素は温水中に溶解させることができ、これにより不織布が土台から剥離した。
【0026】
前焼結によりすでに、不織布を白金ワイヤと共に縣下するために十分な機械的強度が生じている。しかしこの段階では、不織布は極めてもろいので、極めて慎重に取り扱う必要がある。水素酸素火炎中で、該不織布を白熱(おそらく約1200℃)するまで加熱し、かつ2〜3分間保持する。この処理後に、強度は明らかに上昇している。円形の不織布(直径95mm)を周囲にしっかりと張設し、かつスチールの半球(直径40mm)を、不織布が破けるまで押しつけることによって強度を測定した。最大で達成された力は95Nで測定された。これと比べて、延伸されたPtRh5ワイヤをシート状にして焼結することにより作成し、かつ同様に1500g/mm2の単位面積質量を有している2つの不織布を試験した。第一の不織布は、1640℃で10分間、炉中で焼結し、かつ10Nの圧縮強さを有していた。第二の不織布は、1350℃で12時間焼結し、かつ85Nの圧縮強さを有していた。本発明による不織布は問題なく取り扱うことができた。PtRh5合金のホウ素含有率は、<0.001%に低減された。該不織布は、91%の多孔度を有していた。
【0027】
1500g/m2の単位面積質量を有する不織布から、それぞれ62mmの直径を有する円形の生地を4つ作成した。アンモニアを窒素酸化物へと酸化するための試験炉中で、該生地を1平方メートルおよび一日あたり窒素22.4トン(t N/m2/d)の負荷下に、圧力3.5バールおよび温度860℃で試験した。比較のために、PtRh5からなる76μmのワイヤを製織して、それぞれ600g/m2の単位面積質量を有する10の慣用の触媒ネットを製造し、並行する反応器中で試験した。
【0028】
該不織布の圧力損失はネットの場合よりも1.4倍高く、生成物ガス中の煙道ガスの濃度は不織布およびネットの場合には比較可能なものであった。該不織布の酸化効率は、試験条件下で96.2%であり、かつ126.0時間の全試験時間の間、このレベルにとどまっていた。該ネットの酸化効率は、試験の開始時に96.0%であり、かつ試験時間の経過において95.5%に低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムまたはイリジウムの群からの1もしくは複数の元素をベースとし、ニッケル、コバルト、金、レニウム、モリブデンおよびタングステンの群からの1もしくは複数の付加的な合金元素0〜30質量%を含有する金属繊維からなる不織布材料またはネットにおいて、該金属繊維がホウ素またはリンを1〜500質量ppm含有していることを特徴とする、金属繊維からなる不織布材料またはネット。
【請求項2】
窒素酸化物を製造するため、または青酸を製造するための請求項1記載のネットまたは不織布材料の使用。
【請求項3】
貴金属をベースとし、付加的な合金金属を30質量%まで含有する繊維を、溶融物から繊維を延伸することにより製造する方法であって、繊維を延伸する前にホウ素またはリンを付加的に合金化することによって、金属の融点を少なくとも400℃低下させ、かつ該繊維からホウ素またはリンをふたたび除去する方法において、繊維を焼結して不織布材料またはネットを形成することを特徴とする、貴金属ベースの繊維の製造方法。
【請求項4】
ホウ素またはリンを保護ガス雰囲気下で金属と混合することを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
ホウ素またはリンを熱により酸化物として除去することを特徴とする、請求項4記載の方法。

【公表番号】特表2011−530655(P2011−530655A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522401(P2011−522401)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005521
【国際公開番号】WO2010/017894
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(390023560)ヴェー ツェー ヘレーウス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (42)
【氏名又は名称原語表記】W.C.Heraeus GmbH 
【住所又は居所原語表記】Heraeusstrasse 12−14, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】