説明

触媒基材およびこれを用いたカーボンナノ構造体の製造方法

【課題】カーボンナノ構造体を製造する際の析出効率を向上させることが可能な触媒基材、および該触媒基材を用いたカーボンナノ構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】気相成長によってカーボン結晶を成長させカーボンナノ構造体を製造するために用いられる触媒基材の製造方法であって、原料ガス供給面から結晶成長面に貫通する触媒材料を有する触媒構造体を形成する工程と、前記触媒構造体の結晶成長面側の触媒材料を水を用いて酸化処理する工程とを含む、触媒基材の製造方法および該触媒基材を用いたカーボンナノ構造体の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばカーボンナノチューブ等のカーボンナノ構造体を効率良く生成させるために用いられる触媒基材、およびこれを用いたカーボンナノ構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブ等のカーボンナノ構造体の製造において、炭素を浸透させることが可能な金属を触媒として用い、該触媒から炭素材料を成長させる方法が検討されている。
【0003】
たとえば特許文献1には、浸炭可能な金属元素を含む触媒層上にカーボンナノチューブを形成させる方法であって、触媒層上に設けられた突起部から上方に向かってカーボンナノチューブを成長させる工程を含むカーボンナノチューブの製造方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2および特許文献3には、触媒材料を含む触媒基材の結晶成長面から気相成長によってカーボン結晶を成長させるカーボンナノ構造体の製造方法において、触媒材料の内部を介してカーボンを結晶成長面に供給する技術が開示されている。
【0005】
しかし、触媒層を炭素が透過するようにして触媒層上に炭素材料を析出させる方法においては、触媒層上への炭素材料の析出をより確実に生じさせ、炭素材料の析出効率を向上させることが求められている。
【特許文献1】特開2006−160592号公報
【特許文献2】特開2005−330175号公報
【特許文献3】特開2005−350281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の課題を解決し、気相成長によって炭素結晶からなるカーボンナノ構造体を製造する際の析出効率を向上させることが可能な触媒基材、および該触媒基材を用いたカーボンナノ構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は気相成長によってカーボン結晶を成長させカーボンナノ構造体を製造するために用いられる触媒基材の製造方法であって、原料ガス供給面から結晶成長面に貫通する触媒材料を有する触媒構造体を形成する工程と、前記触媒構造体の結晶成長面側の触媒材料を水を用いて酸化処理する工程とを含む、触媒基材の製造方法である。
【0008】
前記触媒材料を酸化処理する水は100℃以上300℃以下の水蒸気であることが好ましい。
【0009】
前記触媒材料を酸化処理する工程は、カーボンナノ構造体の製造工程において、前記触媒構造体の原料ガス供給面からカーボンを供給する際に前記触媒構造体の結晶成長面側から水を供給し触媒材料の酸化処理工程を開始し、前記カーボン結晶が成長を開始する前の段階で前記水の供給を停止することが好ましい。
【0010】
前記触媒基材が、前記結晶成長面を上面とする柱状の前記触媒材料の側面の少なくとも一部に前記カーボン結晶の成長に対して実質的に触媒作用を有しない非触媒材料が形成されてなる前記触媒構造体を複数配置した集合体として形成される工程を含むことが好ましい。
【0011】
前記触媒材料がFeからなり、かつ、前記非触媒材料がAgおよび/またはAg含有合金からなることが好ましい。
【0012】
前記触媒基材が縮径加工により形成されることが好ましい。
前記縮径加工が、引抜加工、押出加工、ロール加工、鍛造加工の少なくともいずれかにより行なわれることが好ましい。
【0013】
本発明は、前記触媒基材の製造方法で得られた触媒基材の原料ガス供給面からカーボンを供給して前記触媒材料中のカーボンの少なくとも一部を飽和状態にする工程と、結晶成長面からカーボン結晶を成長させる工程とを含む、カーボンナノ構造体の製造方法である。
【0014】
本発明は、前記触媒構造体の原料ガス供給面からカーボンを供給して前記触媒材料中のカーボンの少なくとも一部を飽和状態にする工程の際に触媒構造体の結晶成長面側から水を供給し触媒材料の酸化処理工程を開始し、結晶成長面からカーボン結晶が成長を開始する前の段階で前記水の供給を停止する工程とを含む、カーボンナノ構造体の製造方法である。
【0015】
カーボンナノ構造体の製造方法において、カーボン結晶を成長させる前またはカーボン結晶を成長させる際に前記触媒基材の原料ガス供給面に還元性ガスを接触させ、前記触媒材料の内部を介して還元性ガスが結晶成長面に連続的に供給されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、触媒構造体の結晶成長面側の触媒材料を水を用いて酸化処理することにより、気相成長によって炭素結晶からなるカーボンナノ構造体を製造する際の析出効率を向上させることが可能な触媒基材、および該触媒基材を用いたカーボンナノ構造体の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<触媒基材>
本発明の触媒基材の構造を図1(E)および(F)を用いて説明する。本発明の触媒基材は気相成長によって炭素結晶からなるカーボンナノ構造体を製造するために用いられ、原料ガス供給面から結晶成長面に貫通する触媒材料11を有する触媒構造体17の結晶成長面(触媒構造体17の上面または下面に該当)側の触媒材料11表面が水を用いて酸化処理されていることを特徴とする。酸化処理することで、結晶成長面に露出した一の触媒材料11表面にカーボンナノ構造体の成長起点が複数形成されるため、カーボンナノ構造体の析出効率を向上させることができる。
【0018】
本発明に使用される触媒基材は触媒材料のみで形成されても良いが、端面が結晶成長面である柱状体として形成された触媒材料の側面の少なくとも一部に、カーボン結晶の成長に対して実質的に触媒作用を有しない非触媒材料が形成されることが好ましい。この場合、結晶成長面方向へのカーボン結晶の広がりが非触媒材料の存在によって防止され、カーボン結晶の成長方向が制御されることにより、形状のより均一なカーボンナノ構造体の製造が可能となる。
【0019】
触媒材料としては、Feが挙げられる。結晶成長面に露出したFeを水を用いて酸化処理することにより、該Fe表面にカーボンナノ構造体の成長起点が形成される。さらにFeは後述するように非触媒材料として好ましく使用されるAgと合金等を実質的に形成しない他、変質し難い触媒であるという点からも好適である。
【0020】
非触媒材料はカーボン結晶の成長に対して実質的に触媒作用を有しないものであれば良く、具体的には、Ag、Au、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptから選択される1種以上を含む金属または合金等が好ましく挙げられる。中でもAgおよびAg含有合金は、比較的安価で加工し易く、化学的に安定であるという点で好適である。Ag含有合金としては、Ag−Pd合金、Ag−Pt合金、Ag−Au合金等が好ましく使用できる。
【0021】
触媒材料と非触媒材料との複合体からなる触媒基材を用いる場合、触媒材料および非触媒材料は、互いの接触による合金の生成や反応などが実質的に生じず、結晶成長面の形状が損なわれる危険性が少ない組み合わせで用いられることが好ましい。このような組み合わせとしては、たとえば触媒材料がFeからなり、非触媒材料が、Agおよび/またはAg含有合金からなる組み合わせが好ましい。
【0022】
非触媒材料の融点は、カーボンナノ構造体の生成温度よりも高いことが好ましい。この場合結晶成長時の非触媒材料の変形が生じ難く、カーボンナノ構造体の析出効率を向上させることができる。
【0023】
本発明においては、効率よくカーボンナノ構造体を生成させるため、たとえば、触媒材料と非触媒材料とからなる柱状の触媒構造体を複数配置することによって形成される柱状の触媒基材が好ましく使用できる。複数の触媒構造体からなる触媒基材を用いることで、カーボンナノ構造体の製造効率を向上させることができる。
【0024】
触媒材料と非触媒材料とからなる触媒構造体が複数配置された柱状の集合体として触媒基材が形成される場合には、該集合体の側面の少なくとも一部に非触媒材料がさらに形成されることが好ましい。この場合、各々の触媒構造体における非触媒材料の寄与に加え、集合体の側面に形成された非触媒材料の寄与により、生成したカーボンナノ結晶が結晶成長面の面方向に広がることによるカーボンナノ構造体の形状の不均一化がさらに抑制される。
【0025】
触媒材料と非触媒材料とからなる触媒基材の少なくとも一部、好ましくは該触媒基材の周縁部の少なくとも一部には、該触媒基材の変形を抑制するための補強材料が形成されていても良い。この場合、触媒材料と非触媒材料との間の間隙の発生が該補強材料によって抑制され、触媒材料と非触媒材料との界面からカーボンが不純物として生成することを防止できるため、カーボンナノ構造体の純度をより向上させることができる。補強材料としては、カーボンナノ構造体の製造条件において触媒材料および非触媒材料からなる触媒基材よりも大きいヤング率を有する材料が好ましく用いられ、特に非触媒材料よりも耐熱性の高いものは好ましく用いられる。具体的には、たとえばタングステンカーバイド、セラミックス、インコネル等の耐熱高強度金属等が挙げられる。
【0026】
本発明における縮径加工の方法としては、触媒材料、または触媒材料と非触媒材料との複合材料を塑性変形させて径を小さくすることが可能な方法が採用でき、具体的には、引抜加工、押出加工、ロール加工、鍛造加工から選択される少なくともいずれか1つが好ましく挙げられる。これらのうち2以上の加工を組み合わせて行なう場合、たとえば棒状等に形成された材料をロール加工で一定の程度まで細線化した後、引抜加工または押出加工によってさらに縮径する方法、鍛造加工によって棒状材料の半径方向に応力をかけるよう型押しして一定の程度まで細線化した後、引抜加工または押出加工によってさらに縮径する方法、等が採用できる。縮径加工を行なう際には、材料の物性低下を防止するため、急激な塑性変形を生じさせない加工条件を適宜選択することが好ましい。
【0027】
<触媒基材の製造方法>
以下に本発明の触媒基材の作製方法について図を参照しながら説明する。図1は、本発明の触媒基材の作製方法の例を示す図である。
【0028】
まず、図1(A)に示すように、棒状の触媒材料11をパイプ状の非触媒材料12に充填して複合材料13を得る。
【0029】
次に、図1(B)に示すように複合材料13を引抜ダイス14に通して引抜加工することにより該複合材料13を塑性変形させて縮径し、さらに図1(C)に示すようにパイプ状の非触媒材料15に充填して複合材料16を得る。
【0030】
図1(D)に示すように得られた複合材料16を再び引抜ダイス14に通すことにより塑性変形させて縮径する。上記の充填および縮径の操作を繰り返すことにより、たとえば10μm以下の直径を有する触媒材料11が複数配置された柱状の集合体が得られる。
【0031】
該集合体を所定の長さに切断し、切断面を研磨して、最終的に、図1(E)および図1(F)に示すような複数の触媒材料11からなる柱状体であって、該柱状体の端面の一方が結晶成長面、他方が原料ガス供給面となる触媒構造体17が得られる(ここで図1(E)および図1(F)の点線で囲まれた部分は同一の領域を示している)。
【0032】
図1(E)に示す触媒構造体17の結晶成長面および原料ガス供給面に現れる触媒材料11は円形状を有している。該触媒材料11の断面形状は円形状以外の形状であっても良く、たとえば縮径加工の結果生じるいずれの形状(長方形、楕円形など)でも良い。従来の技術では、結晶成長面に現れる触媒材料の断面全体をカーボン結晶成長の成長起点として用いるため、触媒材料の結晶成長面における断面積を、所望のカーボンナノチューブの径に合わせる必要があった。そのため、触媒材料の伸線加工後における外径を、伸線加工前に比べて、たとえば1%以下にしなければならなかった。前記外径の触媒材料を得るためには伸線加工を繰り返さなければならないが、この間に触媒材料が切断されないように伸線加工を施すのは技術的に難しく、作業工程も多くなっていた。本発明によれば、後の工程において、触媒構造体の結晶成長面側の触媒材料を水を用いて酸化処理し、結晶成長面に露出した触媒材料表面上にカーボン結晶成長起点を複数形成するため、結晶成長面に現れた触媒材料の断面積を所望のカーボンナノチューブの径にまで細くすることを要しない。したがって、本発明に係る触媒基材は伸線加工の工程が減り、大量生産に適している。
【0033】
次に、該触媒構造体17の結晶成長面側の触媒材料を水を用いて酸化処理する。酸化処理は結晶成長面を水蒸気を含んだ大気雰囲気中で100〜300℃で熱処理することにより行う。
【0034】
なお、該酸化処理の前に、結晶成長面に露出している触媒材料11の酸化が進みやすくなるように、非触媒材料12をエッチング処理して触媒材料11をさらに露出させても良い。
【0035】
さらに、該酸化処理は、カーボンナノ構造体の製造工程において、触媒構造体11の原料ガス供給面からカーボンを供給する際に前記触媒構造体の結晶成長面側から水を供給し酸化処理工程を開始し、前記カーボン結晶が成長を開始する前の段階で前記水の供給を停止して行うこともできる。
【0036】
ここで、たとえば触媒構造体17の原料ガス供給面に触媒材料層を設けても良い。このような構成の触媒基材を用い、原料ガス供給面に原料ガスを接触させた場合、表面積が大きい触媒材料層の寄与によって触媒材料11内部に高濃度のカーボンが溶解し、結晶成長面にカーボンが高濃度で供給されるため、カーボンナノ構造体の生成速度を向上させることができる。
【0037】
棒状および/またはパイプ状の触媒材料、または触媒材料と非触媒材料との複合材料を用いる場合、縮径加工された触媒材料または複合材料を所望の長さに切断し、たとえばイオンミリング、レーザービーム加工等によって切断面(端面)を研磨して、該端面のうち一方を結晶成長面、他方を原料ガス供給面とする柱状の触媒基材として形成されることが好ましい。
【0038】
触媒基材が柱状体として形成される場合、触媒基材の厚み、すなわち柱状体の高さは、たとえば1〜100μm程度に設定されることが好ましい。触媒基材の厚みが1μm以上であれば触媒基材の調製が容易であり、100μm以下であれば原料ガス供給面のみに原料ガスが接触される場合にも結晶成長面に安定してカーボンが供給される。しかし、触媒基材の厚みが比較的小さい場合には、雰囲気ガスの供給条件等の製造条件によっては触媒基材の変形が生じる場合がある。
【0039】
<カーボンナノ構造体の製造>
本発明においてカーボンナノ構造体を製造する方法について以下に説明する。図2は、カーボンナノ構造体の製造装置の例を示す図である。加熱装置である電気炉、ガス導入・排気系、成長温度制御系、真空制御系、ガス流量計等を備えた耐熱耐圧熱処理炉管21に、触媒材料22と非触媒材料23とからなる触媒基材24を挿入し、シール材25で隙間を塞いだ状態で該触媒基材24を耐熱耐圧熱処理炉管21に固定する。触媒基材24およびシール材25によって、耐熱耐圧熱処理炉管21は、結晶成長面側の空間と非結晶成長面側の空間とに分離される。原料ガス供給面側の空間には、たとえば隔壁26を設け、矢印の方向に流れるように原料ガスを供給する。結晶成長面側の空間にはキャリアガスを供給する。原料ガス供給面側の空間に供給された原料ガスの熱分解によって生じたカーボンは、触媒基材24中の触媒材料22の内部を移動して結晶成長面27に達し、結晶成長面27からカーボン結晶として析出して、複数本のカーボンナノチューブおよび/またはカーボンナノファイバーからなるカーボンナノ構造体28が成長する。
【0040】
<原料ガス>
本発明においてカーボンナノ構造体を成長させるための原料ガスとしては、プロパンガス、エチレンガス、アセチレンガス等の炭化水素系ガス、メチルアルコールガス、エチルアルコールガス等のアルコール系ガス、一酸化炭素等、カーボンナノ構造体の製造に対して一般的に用いられるガスを用いることができる。
【0041】
ここで、生成したカーボンナノ構造体は水素ガス等により分解する場合があるため、結晶成長面近傍においては、生成するカーボン結晶を実質的に変質させないガスをキャリアガスとして供給することが好ましい。好ましいキャリアガスとしては、たとえばアルゴン、窒素等の不活性ガスが挙げられる。
【0042】
触媒基材に接触させるガスの供給条件は、結晶成長面近傍と原料ガス供給面近傍とで同一とされても良いが、両者を異なる条件として触媒材料に対するカーボンの溶解とカーボン結晶の析出とが触媒基材表面の別個の部位で発生するように制御することが好ましい。たとえば、原料ガス供給面近傍に原料ガスを接触させ、結晶成長面近傍にカーボンソースを含まないキャリアガスを接触させる場合、結晶成長面に対して供給されるカーボンは、原料ガス供給面から供給され、触媒基材内部を移動して結晶成長面に達したカーボンのみであるため、結晶成長面近傍の雰囲気ガス中にカーボンや水素、酸素などを含む活性なガスが存在する場合に発生し易い不純物の生成を抑制し、より高純度のカーボンナノ構造体を生成させることができる。
【0043】
本発明において使用されるガスとしては、たとえば1種の原料ガスのみ、または原料ガスおよびキャリアガスの2種とする組み合わせ、等が採用できるが、3種以上のガスを組み合わせて用いても良い。具体的には、結晶成長面近傍以外の部位における触媒材料に対して原料ガスを接触させるとともに、結晶成長面近傍にカーボンナノ構造体の成長を促進する第1のキャリアガスを供給し、さらに生成させたカーボンナノ構造体を移動させるための第2のキャリアガスを供給する組み合わせや、原料ガス自体および触媒基材と原料ガスとの接触部位からのカーボンの析出を抑制するガスと、原料ガスとの組み合わせ等が採用され得る。
【0044】
特に、触媒基材と原料ガスとの接触部位における雰囲気ガスの圧力が、結晶成長面近傍の雰囲気ガスの圧力よりも高くなるように設定される場合、原料ガスの熱分解によって生じたカーボンが触媒材料内部に対してより効率良く取り込まれるため好ましい。
【0045】
また、雰囲気ガスのうち1種以上が大気圧以上の圧力で触媒基材に接触するように供給されることも好ましい。原料ガスが大気圧以上の圧力で触媒基材に接触する場合、触媒材料内部により効率的にカーボンが取り込まれる。また結晶成長面近傍の雰囲気ガスの圧力と原料ガス供給側の雰囲気ガスの圧力とが同等となるように設定することにより、触媒基材の変形を抑制することができる。
【0046】
また、触媒基材表面において原料ガスと接触する触媒材料の断面積が、結晶成長面に現れる触媒材料の断面積より大きくなるように設定されることも好ましい。この場合、原料ガスの熱分解により生じたカーボンがより高濃度で結晶成長面に供給されるため、カーボンナノ構造体の製造効率が良好となる。
【0047】
<触媒基材の還元>
本発明においては、カーボン結晶を成長させる前またはカーボン結晶を成長させる際に、触媒材料の少なくとも炭素原料を供給する面に対して還元性ガスを接触させることが好ましい。本発明においては、触媒基材の作製工程で結晶成長面に露出している触媒材料は酸化されているが、還元性ガスたとえば水素などを触媒材料を通して拡散させて、結晶成長面の金属酸化物層を下地から還元することにより、カーボンナノ構造体の成長起点とすることができる。
【0048】
<カーボンナノ構造体の製造条件>
本発明におけるカーボンナノ構造体の生成温度は特に限定されず、適用される触媒基材の性状や原料ガスの種類等によって適宜選択されれば良いが、たとえば500〜960℃程度に設定されることができる。但し製造条件によっては触媒材料が変形する場合がある他、触媒材料表面に不純物が付着して触媒材料の合金化や化合物化等が生じ、触媒活性が低下するという変質が起こる場合がある。触媒材料の結晶成長面が変形または変質した場合、所望の形状を有するカーボンナノ構造体を確実に成長させることが困難となるため、カーボンナノ構造体の生成温度は触媒基材を変形または変質させない温度以下に設定されることが好ましい。たとえばFeを含む触媒材料を使用する場合、カーボンナノ構造体の生成温度は、Fe(鉄)のA1変態温度(たとえば純鉄のA1変態温度である723℃)以上、特に850℃以上に設定されることが好ましい。
【実施例1】
【0049】
(実施例1〜5、比較例1)
(1)触媒基材の作製
本実施例においては図1に示す方法で触媒基材を作製した。非触媒材料12として外径が3mm、内径が1mmのAg(銀、純度99.99%)パイプの内側に、触媒材料11として外径が1mmのFe(鉄、純度99.998%)棒を挿入して得られた複合材料13を(図1(A))、外径が1mmになるまで引抜ダイス14によって伸線加工し、線材1を得た(図1(B))。線材1を長さ1mごとに切断して束ね、空隙が生じないようにAgのスペーサーで隙間を埋めながら、非触媒材料15として外径20mm、内径16mmのAgパイプに充填して複合材料16を形成し(図1(C))、該複合材料16を引抜ダイス14に通して直径約1.2mmになるまで伸線加工し、線材2を得た(図1(D))。水素ガスを用いた軟化熱処理を工程の途中に入れながら、線材1から線材2を得る工程を繰り返し、最終的に、Feフィラメントの断面が縦5μm、横0.2μmの長方形に設定され、触媒材料と非触媒材料とからなる複数の触媒構造体が束ねられてなる直径10mmの集合体を得た。該複合体を長さ1mmに切断し、両端の切断面(両端面)をバフ研磨で厚さが50μmになるまで研磨した。
【0050】
触媒材料であるFe部分の構造が両端面にフィラメント状で露出するように過酸化水素とアンモニアの混合水溶液を使ってAgをエッチング処理し、両面のFeフィラメントを露出させ、触媒材料11のFe部分が非触媒材料12のAg部分の中に多数配置された触媒構造体17を作製した(図1(E))。
【0051】
次に作製した触媒構造体17を水蒸気を用いて酸化処理して触媒基材を作製した。実施例1−5は水蒸気を含んだ大気雰囲気中で熱処理を行った。一方、比較例1は作製した触媒構造体17を室温で減圧雰囲気中で乾燥することにより、触媒構造体17の表面の水分を除去した。実施例1−5の酸化処理温度を表1に示す。
【0052】
(2)カーボンナノ構造体の製造
上記で得た触媒基材17(実施例1−5)または触媒構造体(比較例1)を用い、図2の製造装置を使用し、炭素透過法によってカーボンナノ構造体としてのカーボンナノチューブを製造した。加熱装置である電気炉、ガス導入・排気系、成長温度制御系、真空制御系、ガス流量計等を備えた耐熱耐圧熱処理炉管21を、挿入された触媒基材24または触媒構造体およびシール材25によって結晶成長面側の空間と原料ガス供給面側の空間とに分離した。触媒材料22は結晶成長面側と原料ガス供給面側の両空間に露出している。触媒基材24または触媒構造体の原料ガス供給面側に原料ガス(CH4ガス:200cc/min、H2ガス:400cc/min、Arガス:400cc/min)を供給しながら、耐熱耐圧熱処理炉管21内の温度を850℃に設定し2時間熱処理した。一方結晶成長面側にはキャリアガスとしてArガス(1000cc/min)を供給した。
【0053】
(3)結果
結果を表1に示す。実施例1−5では、触媒基材17の結晶成長面に露出したFeフィラメントから長さ0.2mmのカーボンナノチューブ(以下「CNT」ともいう)の生成が確認された。さらに、実施例1−3では結晶成長面に露出したFeフィラメントの全てからCNTが生成していた。一方、比較例1ではCNTは生成しなかった。
【0054】
【表1】

【0055】
CNTの生成:1 全てのFeフィラメントからCNTが生成、2 一部のFeフィラメントからCNTが生成、3 CNTの生成なし
(実施例6および比較例2、3)
(1)触媒構造体の作製
本実施例においては図1に示す方法で触媒基材を作製した。非触媒材料12として外径が3mm、内径が1mmのAg(銀、純度99.99%)パイプの内側に、触媒材料11として外径が1mmのFe(鉄、純度99.998%)棒を挿入して得られた複合材料13を(図1(A))、外径が1mmになるまで引抜ダイス14によって伸線加工し、線材1を得た(図1(B))。線材1を長さ1mごとに切断して束ね、空隙が生じないようにAgのスペーサーで隙間を埋めながら、非触媒材料15としての外径20mm、内径16mmのAgパイプに充填して複合材料16を形成し(図1(C))、該複合材料16を引抜ダイス14に通して直径約1.2mmになるまで伸線加工し、線材2を得た(図1(D))。実施例1と同様の方法で線材1から線材2を得る工程を繰り返し、最終的に、Feフィラメントの断面が縦5μm、横0.2μmの長方形に設定され、触媒材料と非触媒材料とからなる複数の触媒構造体が束ねられてなる直径10mmの集合体を得た。該複合体を長さ1mmに切断し、両端の切断面(両端面)をバフ研磨で厚さが50μmになるまで研磨した。
【0056】
触媒材料のFe部分の構造が両端面にフィラメント状で露出するように過酸化水素とアンモニアの混合水溶液を使ってAgをエッチング処理し、両面のFeフィラメントを露出させ、触媒材料11のFe部分が非触媒材料12のAg部分の中に多数配置された触媒構造体17を作製した(図1(E))。
【0057】
(2)カーボンナノ構造体の製造
上記で得た触媒構造体17を用い、図2の製造装置を使用し、炭素透過法によってカーボンナノ構造体としてのカーボンナノチューブを製造した。加熱装置である電気炉、ガス導入・排気系、成長温度制御系、真空制御系、ガス流量計等を備えた耐熱耐圧熱処理炉管21を、挿入された触媒構造体24およびシール材25によって結晶成長面側の空間と非結晶成長面側の空間とに分離した。触媒材料22は結晶成長面側と原料ガス供給面側の両空間に露出している。
【0058】
実施例6では触媒構造体24の原料ガス供給面側に原料ガス(CH4ガス:200cc/min、H2ガス:400cc/min、Arガス:400cc/min)を供給しながら、耐熱耐圧熱処理炉管21内の温度を850℃に設定し2時間熱処理した。一方結晶成長面側にはキャリアガスとして最初の1分間は加湿したArガス(1000cc/min)を供給し、その後1時間50分は乾燥したArガス(1000cc/min)を供給した。
【0059】
比較例2では実施例6と同様の条件で原料ガスを供給し、キャリアガスとしては2時間を通じて乾燥したArガス(1000cc/min)を供給した。
【0060】
比較例3では作製した触媒構造体17の表面をあらかじめH2ガスで800℃、10分間熱処理することにより、Feフィラメントの表面の酸化膜を完全に還元して除去し、その状態を保ったまま比較例2と同様の条件で原料ガスとキャリアガスを供給した。
【0061】
(3)結果
実施例6では、触媒基材17の結晶成長面に露出したFeフィラメントから長さ0.2mmのカーボンナノチューブの生成が確認された。一方、比較例2、3ではCNTは生成しなかった。
【0062】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明において使用される触媒基材の作製方法の例を示す図である。
【図2】カーボンナノ構造体の製造装置の例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
11,22 触媒材料、23 非触媒材料、13,16 複合材料、14 引抜ダイス、17,24 触媒構造体、21 耐熱耐圧熱処理炉管、25 シール材、26 隔壁、27 結晶成長面、28 カーボンナノ構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長によってカーボン結晶を成長させカーボンナノ構造体を製造するために用いられる触媒基材の製造方法であって、
原料ガス供給面から結晶成長面に貫通する触媒材料を有する触媒構造体を形成する工程と、
前記触媒構造体の結晶成長面側の触媒材料を水を用いて酸化処理する工程とを含む、
触媒基材の製造方法。
【請求項2】
前記触媒材料を酸化処理する水は100℃以上300℃以下の水蒸気である、請求項1に記載の触媒基材の製造方法。
【請求項3】
前記触媒材料を酸化処理する工程は、カーボンナノ構造体の製造工程において、前記触媒構造体の原料ガス供給面からカーボンを供給する際に前記触媒構造体の結晶成長面側から水を供給し触媒材料の酸化処理工程を開始し、前記カーボン結晶が成長を開始する前の段階で前記水の供給を停止する、請求項1または2いずれか1つに記載の触媒基材の製造方法。
【請求項4】
前記触媒基材が、前記結晶成長面を上面とする柱状の前記触媒材料の側面の少なくとも一部に前記カーボン結晶の成長に対して実質的に触媒作用を有しない非触媒材料が形成されてなる前記触媒構造体を複数配置した集合体として形成される工程を含む、請求項1〜3いずれか1つに記載の触媒基材の製造方法。
【請求項5】
前記触媒材料がFeからなり、かつ、前記非触媒材料がAgおよび/またはAg含有合金からなる、請求項4に記載の触媒基材の製造方法。
【請求項6】
前記触媒基材が縮径加工により形成される、請求項1〜5いずれか1つに記載の触媒基材の製造方法。
【請求項7】
前記縮径加工が、引抜加工、押出加工、ロール加工、鍛造加工の少なくともいずれかにより行なわれる、請求項6に記載の触媒基材の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の製造方法で得られた触媒基材の原料ガス供給面からカーボンを供給して前記触媒材料中のカーボンの少なくとも一部を飽和状態にする工程と、
結晶成長面からカーボン結晶を成長させる工程とを含む、
カーボンナノ構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項1記載の触媒構造体の原料ガス供給面からカーボンを供給して前記触媒材料中のカーボンの少なくとも一部を飽和状態にする工程の際に触媒構造体の結晶成長面側から水を供給し請求項1記載の触媒材料の酸化処理工程を開始し、
結晶成長面からカーボン結晶が成長を開始する前の段階で前記水の供給を停止する工程とを含む、
カーボンナノ構造体の製造方法。
【請求項10】
カーボン結晶を成長させる前またはカーボン結晶を成長させる際に前記触媒基材の原料ガス供給面に還元性ガスを接触させ、前記触媒材料の内部を介して還元性ガスが結晶成長面に連続的に供給される、請求項8または9いずれか1つに記載のカーボンナノ構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−99572(P2010−99572A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272100(P2008−272100)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】