説明

触媒担体、触媒担体の製造方法、触媒、アンモニアの製造方法、および反応装置

【課題】アンモニアの製造に用いる新規な触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】触媒担体は、6アルミン酸バリウムを含有する。触媒担体の製造方法においては、まず、有機溶媒に界面活性剤を溶解し、この溶液に水を滴下し、エマルジョンを作製する。つぎに、アルミニウムアルコキシド、バリウムアルコキシド、およびキレート剤を有機溶媒に溶解し、この有機溶媒溶液を、上述のエマルジョンに加え、アルミニウムアルコキシドおよびバリウムアルコキシドを加水分解する。つぎに、所定温度で所定時間かけて、水酸化物の結晶を熟成する。つぎに、液相を除去して、水酸化物粒子を分離し、界面活性剤を加熱分解した後に、所定温度で所定時間かけて焼成する。触媒は、担体にルテニウムを担持する。また、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、または希土類化合物を助触媒として担持することができる。この触媒は、アンモニア合成反応に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体に関する。
また、本発明は、その触媒担体の製造方法に関する。
また、本発明は、その触媒担体を用いる触媒に関する。
また、本発明は、その触媒を用いるアンモニアの製造方法に関する。
また、本発明は、その触媒を用いる反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンモニア合成には鉄を主成分とし、アルミナや酸化カリウムなどを助触媒として添加した鉄系触媒が長きにわたり広く使用されてきた。この触媒は400℃未満の低温でのアンモニア合成活性が低いため、合成プロセスは500℃以上の高温数十気圧以上の高圧および一回転化率を抑止した高原料ガス循環率で運転しなければならず、鉄系触媒を用いるアンモニア合成プロセスは典型的なエネルギー大量消費型プロセスとなっている。すなわち、反応器や生成したアンモニアと未反応原料ガスを分離するための分離器、未反応原料ガスを循環して再度アンモニア合成反応器に供給するコンプレッサーなどの装置規模が大きくなり、コンプレッサーの動力ガスの冷却および加熱に多大なエネルギーを消費するプロセスとなっている。
【0003】
この問題を解消し、鉄系触媒に代わる触媒として、400℃未満の低温10気圧未満の低圧といった穏和な条件でもアンモニアを効率良く合成できるルテニウム系触媒が開発されている。この触媒は、一酸化炭素や水によるアンモニア合成阻害が少ないなどの特性も有する(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
このようなルテニウム系触媒においては、助触媒の添加等の化学修飾が必須であり、担体や助触媒の種類や添加方法などの調製方法が、アンモニア合成活性に大きく影響する。例えば、酸性のγ-アルミナ担体を用いた場合電子供与性助触媒と強く相互作用しそのアンモニア合成促進効果が低減されるため、多量の助触媒が必要となるが、酸化マグネシウム等の塩基性酸化物を担体に用いると、少量の助触媒でもアンモニア合成への促進効果が得られる(例えば、非特許文献1参照。)。また、アルカリ助触媒は常圧下のアンモニア合成に極めて優れた促進効果を示す一方、高圧下の合成反応ではルテニウムへの水素毒をも増し、アンモニア合成活性が逆に低下してしまう。希土類酸化物を助触媒として用いた場合には、アンモニア合成の促進効果はアルカリ助触媒よりも劣るが、高圧下でも助触媒効果は損なわれない(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
このような既往のアンモニア合成用ルテニウム触媒では、担体として酸化マグネシウム、希土類酸化物を、あるいは非金属酸化物担体として活性炭等の炭素担体を用いる担持ルテニウム触媒が有望とされる(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかし、これらのルテニウム触媒においては、担体に求められる、賦活条件あるいは反応条件下での化学的安定性の点で問題がある(例えば、非特許文献2参照。)。すなわち、炭素担体では賦活時や反応時に550℃程度の高温になった場合、ルテニウムにより賦活された水素による担体のメタン化が起こり、触媒は不可逆的に劣化する問題があり、希土類酸化物担体では還元賦活時に比表面積が約半分程度になってしまう問題がある。酸化マグネシウム担体にはこのような化学的変化に起因する問題はないが、一般的に機械強度に低いことによる実用的成型性の欠如が指摘される。これらの観点からはアルミナが好ましい材料であるが、上述のルテニウムの化学修飾によるアンモニア合成の促進の点からは、酸性を有する金属酸化物であるアルミナは好ましくない。このようなことからアルミナの化学的安定性等の優れた性質を有したまま、酸性が弱く、酸点が少ない材料が望まれる。
【0007】
最近、発明者らによりマイクロエマルション法を用い、アルミナの結晶系を制御できることが分かった(例えば、特許文献3参照。)。この方法は、イソオクタンを主成分とする油層中に微小液滴を作り、この微小液滴を反応場とするアルミニウムアルコキシドの加水分解により水酸化アルミニウムを調製し、これを焼成することによりアルミナを得るものである。この加水分解の際、バリウムアルコキシドを添加することにより得られるアルミナの耐熱性を増しているとともに、調製時のバリウムとアルミニウムの比により得られるアルミナをγ型あるいはα型とすることができる。この方法はアルミン酸バリウムなどの新しいアルミナベースの材料の調製にも適用できる可能性があると思われる。
【0008】
しかし、既存の技術(例えば、特許文献3参照。)ではアルミニウムとバリウムの比を調整してもアルミナとアルミン酸バリウムの混合物が得られるだけで、アルミン酸バリウムを調製することはできず、新しい工夫を要する。
【0009】
高比表面積を有するアルミン酸バリウムの合成例が報告されている(例えば、非特許文献3参照。)。この報告によると凍結乾燥法を用いた微粒子回収法をとることにより最大160 m2/gの比表面積をもつアルミン酸バリウムが調製できた、とされている。
【0010】
しかし、この報告に記載されている合成方法に従ってアルミン酸バリウムを合成したが、高比表面積を有するアルミン酸バリウムを得ることができなかった。また、この報告に記載されている方法により調製されるアルミン酸バリウムは焼成温度が低く、高温での焼成時や還元雰囲気下での焼成時には比表面積が減少するものと考えられる。このことから、本報告については、安定して高比表面積を有するアルミン酸バリウムの合成方法の開示が不十分であるものと考えられる。
【0011】
なお、発明者は、本発明に関連する技術内容を開示している(例えば、非特許文献4参照。)。
【特許文献1】特開平06-079177
【特許文献2】特開2001-246251
【特許文献3】特開2003-137541
【非特許文献1】秋鹿研一,触媒,38巻,287(1996); 触媒,40巻,588(1998); 触媒,45巻,17(2003).
【非特許文献2】Bielawa, H., Hinrichsen, O., Birkner, A., and Muhler, M., Angew. Chem. Int. Ed.,40巻, 1061(2001).
【非特許文献3】Andrey J. Zarur, Jackie Y. Ying, Nature, 403巻,65(2000).
【非特許文献4】游志雄,稲津晃司,Ioan Balint,秋鹿研一,第93回触媒討論会,討論会A予稿集84(2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な触媒担体を提供することを目的とする。
また、本発明は、その新規な触媒担体の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、その触媒担体を用いる新規な触媒を提供することを目的とする。
また、本発明は、その触媒を用いるアンモニアの新規な製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、その触媒を用いる新規な反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の触媒担体は6アルミン酸バリウムを含有する。
【0015】
本発明の触媒担体の製造方法は、界面活性剤を含む有機溶媒溶液に水を滴下する工程と、アルミニウムアルコキシド、バリウムアルコキシド、およびキレート剤を含む溶液を加える工程とを有する。
【0016】
本発明の触媒は、6アルミン酸バリウムを含有する担体にルテニウムを担持する。
【0017】
本発明のアンモニアの製造方法は、触媒を用いるアンモニアの製造方法において、触媒が、6アルミン酸バリウムを含有する担体にルテニウムを担持することを特徴とする。
【0018】
本発明の反応装置は、触媒を用いる反応装置において、触媒が、6アルミン酸バリウムを含有する担体にルテニウムを担持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
本発明は、6アルミン酸バリウムを含有するので、新規な触媒担体を提供することができる。
【0020】
本発明は、界面活性剤を含む有機溶媒溶液に水を滴下する工程と、アルミニウムアルコキシド、バリウムアルコキシド、およびキレート剤を含む溶液を加える工程とを有するので、新規な触媒担体の製造方法を提供することができる。
【0021】
本発明は、6アルミン酸バリウムを含有する担体にルテニウムを担持するので、新規な触媒を提供することができる。
【0022】
本発明は、触媒を用いるアンモニアの製造方法において、触媒が6アルミン酸バリウムを含有する担体にルテニウムを担持するので、アンモニアの新規な製造方法を提供することができる。
【0023】
本発明は、触媒を用いる反応装置において、触媒が6アルミン酸バリウムを含有する担体にルテニウムを担持するので、新規な反応装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、触媒担体、触媒担体の製造方法、触媒、アンモニアの製造方法、および反応装置にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0025】
最初に、触媒担体について説明する。本発明の触媒担体は、6アルミン酸バリウム(barium hexaaluminate, BHA)を含有する触媒担体である。
【0026】
触媒担体は、バリウム、アルミニウム複合酸化物から構成されている。バリウム、アルミニウム複合酸化物は、BaxAlyOz(x=0.75〜1,y=11〜12,z=17.25〜19)の組成からなっていることが好ましい。この酸化物の構造は6アルミン酸バリウムの組成、Ba0・6Al203(BaAl12O19)であるが、欠陥が存在することをまぬがれない。この構造であることが性能を発揮するために重要であり、そのためには上記組成範囲を取ることが好ましい。
【0027】
触媒担体の比表面積は、50〜80m2/gの範囲にあることが好ましい。比表面積が50m2/g以上であると、活性金属であるルテニウムが2〜10 nm程度の微粒子として担持できるという利点がある。比表面積が80m2/g以下であると、ルテニウム粒子が金属ルテニウムとして活性が低くなってしまう粒径2nmよりも小さくなることを防ぐという利点がある。
【0028】
つぎに、上述の触媒担体の製造方法について説明する。
【0029】
触媒担体の製造方法においては、まず、有機溶媒に界面活性剤を溶解する。つぎに、この溶液に水を滴下し、エマルジョンを作製する。つぎに、アルミニウムアルコキシド、バリウムアルコキシド、およびキレート剤を有機溶媒に溶解する。つぎに、この有機溶媒溶液を、上述のエマルジョンに加え、アルミニウムアルコキシドおよびバリウムアルコキシドを加水分解する。つぎに、所定温度で所定時間かけて、水酸化物の結晶を熟成する。つぎに、液相を除去して、水酸化物粒子を分離する。つぎに、界面活性剤を加熱分解した後に、所定温度で所定時間かけて焼成する。
【0030】
つぎに、触媒担体の製造方法を、各工程に分けて説明する。
【0031】
まず、有機溶媒に界面活性剤を溶解する。
【0032】
有機溶媒としては、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、イソオクタン(2,2,4-トリメチルペンタン)、ノナン、またはペンタンから選ばれる1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0033】
界面活性剤としては、ポリエチレングリコール200、500、または1000から選ばれる1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0034】
つぎに、上述の溶液に水を滴下し、エマルジョンを作製する。
【0035】
つぎに、アルミニウムアルコキシド、バリウムアルコキシド、およびキレート剤を有機溶媒に溶解する。
【0036】
アルミニウムアルコキシドとしては、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムプロポキシド、またはアルミニウムブトキシドから選ばれる1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0037】
バリウムアルコキシドとしては、バリウムメトキシド、バリウムエトキシド、バリウムプロポキシド、またはバリウムブトキシドから選ばれる1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0038】
有機溶媒としては、上述の有機溶媒を用いることができる。
【0039】
アルミニウムプロポキシドとバリウムアルコキシドの比率は、バリウムとアルミニウムの原子比で、1/10〜1/15の範囲内にあることが好ましい。比率が1/10以下であると、量論組成の6アルミン酸バリウムの存在比が高くなるという利点がある。また、比率が1/15以上である場合にも量論組成の6アルミン酸バリウムの存在比が高くなるという利点がある。
【0040】
キレート剤としては、3-オキソエタン酸エチル、3-オキソプロパン酸エチル、3-オキソブタン酸エチル、3-オキソペンタン酸エチル、または3-オキソヘキサン酸エチルから選ばれる1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0041】
つぎに、アルミニウムアルコキシド、バリウムアルコキシド、およびキレート剤を溶解した有機溶媒溶液を、上述のエマルジョンに加え、アルミニウムアルコキシドおよびバリウムアルコキシドを加水分解する。
【0042】
つぎに、所定温度で所定時間かけて、水酸化物の結晶を熟成する。
【0043】
水酸化物の熟成温度は100〜180℃の範囲内にあることが好ましい。熟成温度が100℃以上であると、主溶媒である水が亜臨界状態に近くなり、溶質の混合が促進されるという利点がある。熟成温度が180℃以下であると、到達最高圧力が2MPa未満になり、過度の凝集を防げるという利点がある。
【0044】
水酸化物の熟成時間は10〜30時間の範囲内にあることが好ましい。熟成時間が10時間以上であると、水酸化物の大部分が回収可能な微粒子のなるという利点がある。熟成時間が30時間以下であると、生成した微粒子が過度に凝集しないという利点がある。
【0045】
つぎに、液相を除去して、水酸化物粒子を分離する。
【0046】
液相を除去する方法としては、超臨界乾燥法、フリーズドライ法、ロータリーエバポレータ法などを用いることができる。
【0047】
つぎに、界面活性剤を加熱分解した後に、所定温度で所定時間かけて焼成する。
【0048】
焼成温度は900〜1300℃の範囲内にあることが好ましい。焼成温度が900℃以上であると、アンモニア合成条件下で生じうる突発的高温にも比表面積の減少なく対応できるという利点がある。焼成温度が1300℃以下であると、比表面積が50m2/g未満になることを防げるという利点がある。
【0049】
焼成時間は18〜30時間の範囲内にあることが好ましい。焼成時間が18時間以上であると、ほとんどの水酸化物が酸化物になるという利点がある。焼成時間が30時間以下であると、必要以上の比表面積の低下を防げるという利点がある。
【0050】
つぎに、上述の触媒担体を用いた触媒について説明する。
【0051】
本発明の触媒は、6アルミン酸バリウム(BHA)を含有する担体に、ルテニウムを担持したものである。
【0052】
ルテニウムの担持量は、担体の質量に対して、0.1〜30質量%の範囲内にあることが好ましい。担持量が0.1質量%以上であると、アンモニア合成を有意に促進することができる表面ルテニウム原子が得られるという利点がある。担持量が30質量%以下であると、担持したルテニウムを有効に表面に露出されることができるという利点がある。
【0053】
本発明の触媒は、アルカリ金属化合物を助触媒として担持することができる。アルカリ金属化合物としては、ナトリウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物、またはセシウム化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物を用いることができる。具体的には、NaOH,KOH,RbOH,CsOHなどを用いることができる。
【0054】
アルカリ金属助触媒の担持量は、ルテニウムに対するアルカリ金属の原子比で、0.1〜20の範囲内にあることが好ましい。担持量が0.1以上であると、一定量のアルカリ金属化合物を表面ルテニウム近傍に存在させることができるという利点がある。担持量が20以下であると、添加したアルカリ金属化合物が表面ルテニウムの大部分を被覆することが防げるという利点がある。
【0055】
また、助触媒としてアルカリ土類金属化合物を用いることができる。アルカリ土類金属化合物としては、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、またはバリウム化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物を用いることができる。具体的には、CaO,SrO,BaOなどを用いることができる。
【0056】
アルカリ土類金属助触媒の担持量は、ルテニウムに対するアルカリ土類金属の原子比で、0.1〜15の範囲内にあることが好ましい。担持量が0.1以上であると、一定量のアルカリ土類がルテニウム近傍に存在できるという利点がある。担持量が15以下であると、添加したアルカリ土類化合物が表面ルテニウムの大部分を被覆することが防げるという利点がある。
【0057】
助触媒として希土類化合物を用いることができる。希土類化合物としては、ランタン化合物、セリウム化合物、またはサマリウム化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物をもちいることができる。具体的には、La2O3,CeO2,Sm2O3などを用いることができる。
【0058】
希土類助触媒の担持量は、ルテニウムに対する希土類元素の原子比で、1〜10の範囲内にあることが好ましい。担持量が1以上であると、一定量の希土類酸化物がルテニウム近傍に存在できるという利点がある。担持量が10以下であると、添加した希土類酸化物が表面ルテニウムの大部分を被覆することが防げるという利点がある。
【0059】
つぎに、上述の触媒の製造方法について説明する。
触媒の製造方法としては、6アルミン酸バリウム(BHA)をルテニウム化合物溶液に含浸し、溶媒を留去・乾燥した後に加熱する、一般的な方法を採用することができる。
【0060】
ルテニウム化合物としては、ドデカカルボニルトリルテニウム、トリアセチルアセトナトルテニウム、ニトロニトラトルテニウムなどを用いることができる。
【0061】
助触媒の担持方法としては、上述の6アルミン酸バリウム(BHA)担持ルテニウム触媒を助触媒金属化合物溶液に含浸し、溶媒を留去・乾燥した後に加熱する、一般的な方法を採用することができる。助触媒金属化合物としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、または希土類化合物を用いることができる。
【0062】
アルカリ金属化合物としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ルビジウム、硝酸セシウムなどを用いることができる。
【0063】
アルカリ土類金属化合物としては、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸ストロンチウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸ストロンチウムなどを用いることができる。
【0064】
希土類化合物としては、酢酸ランタン、酢酸サマリウム、酢酸セリウム、硝酸ランタン、硝酸サマリウム、硝酸セリウムなどを用いることができる。
【0065】
つぎに、上述の触媒を用いるアンモニアの製造方法について説明する。
本発明のアンモニアの製造方法は、上述の触媒を用い、所定温度、所定圧力、所定GHSVで、窒素と水素を反応させる方法である。
【0066】
アンモニア合成の温度は270〜450℃の範囲内にあることが好ましい。温度が270℃以上であると、ルテニウム触媒による窒素分子活性化が有意の速度で進行するという利点がある。温度が450℃以下であると、長時間の合成反応においてもルテニウム触媒の劣化が防げるという利点がある。
【0067】
アンモニア合成の圧力は0.1〜5.1MPaの範囲内にあることが好ましい。圧力が0.1MPa以上であると、平衡的にアンモニア合成に有利な状態を保つことができるという利点がある。圧力が5.1MPa以下であると、反応ガスを昇圧するために過剰なエネルギーを要しないという利点がある。
【0068】
アンモニア合成のGHSVは1,000〜1,000,000の範囲内にあることが好ましい。GHSVが1,000以上であると、生成したアンモニアが触媒により再び窒素と水素に分解されることを防ぐことができるという利点がある。GHSVが1,000,000以下であると、反応ガスを循環するために過剰なエネルギーを要しないという利点がある。
【0069】
つぎに、上述の触媒を用いる反応装置について説明する。
本発明の反応装置は、アンモニアの合成に用いるものであって、上述の触媒を用いるものである。
【0070】
反応装置としては、回分式反応装置、固定床式反応装置、流動床式反応装置などを用いることができる。
【0071】
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、6アルミン酸バリウムを含有するので、新規な触媒担体を提供することができる。
【0072】
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、界面活性剤を含む有機溶媒溶液に水を滴下する工程と、アルミニウムアルコキシド、バリウムアルコキシド、およびキレート剤を含む溶液を加える工程とを有するので、新規な触媒担体の製造方法を提供することができる。
【0073】
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、6アルミン酸バリウムを含有する担体にルテニウムを担持するので、新規な触媒を提供することができる。
【0074】
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、触媒を用いるアンモニアの製造方法において、触媒が6アルミン酸バリウムを含有する担体にルテニウムを担持するので、アンモニアの新規な製造方法を提供することができる。
【0075】
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、触媒を用いる反応装置において、触媒が6アルミン酸バリウムを含有する担体にルテニウムを担持するので、新規な反応装置を提供することができる。
【0076】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0077】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0078】
試料の作製方法について説明する。
【0079】
(実施例1)
触媒担体BHAの作製方法
イソオクタン(2,2,4-トリメチルペンタン)油相70mlに界面活性剤ポリエチレングリコール(PEG)200(平均分子量:200)を10ml添加し均一になるまで数分間攪拌した。得られた油相-界面活性剤混合物に脱イオン水25 mlを滴下し、極微小水滴を油相中に形成した(マイクロエマルジョン)。一方、アルミニウムプロポキシド1.0g、バリウムプロポキシド0.1g、およびキレート剤3-オキソブタン酸エチル10mlをイソオクタン10mlに溶解し溶液を作製した。ここで、アルミニウムプロポキシドとバリウムプロポキシドは、アルミニウムとバリウムの比率が原子比で12:1である。このイソオクタン溶液を上述のマイクロエマルジョンに加え、室温にて20時間撹拌しながらアルミニウムプロポキシドおよびバリウムプロポキシドを加水分解した。その後、オートクレーブにて150℃で20時間形成された水酸化物の結晶を熟成し、続いてロータリーエバポレータを用い30℃にて液相を除去し水酸化物微粒子を分離した。さらにマッフル炉を用いて不活性ガス雰囲気中にて500℃で1時間界面活性剤を分解したのちに空気中で24時間1100℃にて焼成して酸化物微粒子を得た。
【0080】
(実施例2)
Ru/BHA触媒の作製方法
上記方法で調製したBHAにドデカカルボニルトリルテニウムあるいはトリアセチルアセトナトルテニウムをルテニウム金属質量としてBHA質量の1〜16%となる濃度でTHFあるいはアセトンの有機溶媒に溶解して、室温にて6〜12時間含浸した。そののちにロータリーエバポレータを用いて溶媒を留去し、オーブンにて100℃にて6〜12時間乾燥した。その後10-3Pa以下の圧力とした排気下または不活性ガス雰囲気中400℃で2〜4時間加熱することにより錯体の配位子を分解除去してBHA担持ルテニウム触媒(2%Ru/BHA)とした。
【0081】
(実施例3)
CsOH-Ru/BHA触媒の作製方法
実施例2のようにして作製したRu/BHAをセシウム/ルテニウム原子比が1〜10となる量の硝酸セシウムを含む水溶液に含浸し、室温で6時間以上撹拌、その後、蒸発乾固したものを、水素雰囲気下で450℃まで加熱する賦活処理を行うことによりセシウム促進触媒(CsOH-Ru/BHA)を得た。
【0082】
(実施例4)
BaO-2%Ru/BHA触媒の作製方法
実施例2のようにして作製したRu/BHAをバリウム/ルテニウム原子比が5〜15となる濃度とした硝酸バリウム水溶液に含浸し、室温で6時間以上撹拌、その後、蒸発乾固したものを、水素雰囲気下で550℃まで加熱する賦活処理を行うことによりバリウム促進触媒(BaO-2%Ru/BHA)を得た。
【0083】
(比較例1)
2%Ru/γ-アルミナ触媒の作製方法
担体にγ-アルミナ(アロンC、アエロジル社製)を用いた以外は、実施例2と同様にしてγ-アルミナ担持ルテニウム触媒(2%Ru/γ-Al2O3)を得た。
【0084】
(比較例2)
8%Ru/Ba-γ-Al2O3触媒の作製方法
担体に比較例1の場合のアルミナにアルミニウム/バリウム比が原子比で1/12となるように硝酸バリウムを添加し、550℃、空気中で加熱処理したバリウム添加アルミナを用い、担持するルテニウムの量を担体の8%とした以外は、比較例1のようにして作製した。(8%Ru/Ba-γ-Al2O3
【0085】
(比較例3)
CsOH-2%Ru/γ-Al2O3触媒の作製方法
比較例1のようにして作製したRu/γ-Al2O3をセシウム/ルテニウム原子比が10となる濃度とした硝酸セシウムの水溶液に含浸し、室温で6時間以上撹拌、その後、蒸発乾固したものを乾燥後、水素雰囲気下で450℃まで加熱する賦活処理を行うことによりセシウム促進触媒(CsOH-2%Ru/γ-Al2O3)を得た。
【0086】
(比較例4)
BaO-2%Ru/γ-Al2O3触媒の作製方法
比較例1のようにして作製したRu/γ-Al2O3をバリウム/ルテニウム原子比が10となる濃度とした硝酸セシウムの水溶液に含浸し、室温で6時間以上撹拌、その後、蒸発乾固したものを乾燥後、水素雰囲気下で450℃まで加熱する賦活処理を行うことによりセシウム促進触媒(BaO-2%Ru/γ-Al2O3)を得た。
【0087】
(比較例5)
2%Ru/MgO触媒の作製方法
担体にマグネシア(100A、宇部マテリアルズ製)を用いた以外は、実施例2と同様にしてマグネシア担持ルテニウム触媒(2%Ru/MgO)を得た。
【0088】
(比較例6)
CsOH-2%Ru/MgO触媒の作製方法
比較例5のようにして作製したRu/MgOにセシウム/ルテニウム原子比が10となる濃度とした硝酸セシウムの水溶液に含浸し、室温で6時間以上撹拌、その後、蒸発乾固したものを乾燥後、水素雰囲気下で450℃まで加熱する賦活処理を行うことによりセシウム促進触媒(CsOH-2%Ru/MgO)を得た。
【0089】
(比較例7)
BaO-2%Ru/MgO触媒の作製方法
比較例5のようにして作製したRu/MgOにバリウム/ルテニウム原子比が10となる濃度とした硝酸バリウム水溶液に含浸し、室温で6時間以上撹拌、その後、蒸発乾固したものを、水素雰囲気下で550℃まで加熱する賦活処理を行うことによりバリウム促進触媒(BaO-2%Ru/MgO)を得た。
【0090】
つぎに、本実施例の評価方法について説明する。
【0091】
(比表面積)
30メッシュ程度の大きさにペレット成形した約0.2または0.4 gの試料を450℃、窒素気流下で前処理したのちに精秤し、-196℃にて窒素吸着を行い、BET法により比表面積を測定した。
【0092】
(粉末エックス線回折分析)
作製された6アルミン酸バリウム約100mgをガラス製試料ホルダーに塗り付け、粉末エックス線回折装置(リガク製、Multiflex S,Cu Kα線使用)により、作製された試料の結晶組成を分析した。
【0093】
(アンモニア合成速度)
30メッシュ程度の大きさにペレット成形した乾燥試料0.2gを内径約6 mmのステンレス製反応管に充填し、窒素、水素またはその混合ガスを通じて120℃〜550℃までの所定の温度で2〜3時間の還元、賦活処理を行ったのちに、315℃〜400℃までの所定の反応温度にて水素+窒素混合ガス(3+1)を毎分60 mlの流速で通じることでGHSV(Gas-hourly space velocity)が18000の条件でアンモニア合成試験を実施した。生成したアンモニアを含む出口ガスを希硫酸に通じ、そのプロトン電導度の減少からアンモニア生成速度を算出した。
【0094】
(ルテニウム原子当たりのアンモニア合成速度、TOF(Turn-over frequency)の算出)
30メッシュ程度の大きさにペレット成形した乾燥試料0.2または0.4 gを内径約4 mmの石英製反応管に充填し、窒素、水素またはその混合ガスを通じて120℃〜550℃までの所定の温度にて2〜3時間の還元、賦活処理を行った。そののち、処理温度のまま真空排気して表面を清浄にし、続いてヘリウム気流を20mL/minで通じ、試料温度を50℃としたのちに0.5 mLの水素ガスを繰り返しパルス導入し、水素の飽和化学吸着量を求めた。物理吸着した水素はパルス間にヘリウム気流により取り除かれる。水素は熱伝導度検出器(TCD)により検出・定量した。求められた水素の化学吸着量を元に、表面に存在するルテニウム原子上でのみ水素分子が解離吸着し、ルテニウム1原子あたり水素1原子の吸着状態になっているとして、表面ルテニウム原子数を求めた。上記のようにして得られている各触媒試料の315℃でのアンモニア合成速度を表面ルテニウム原子数で割ることで表面ルテニウム原子あたりの毎秒アンモニア合成速度、TOFを得た。
【0095】
(アンモニア昇温脱離法)
30メッシュ程度の大きさにペレット成形した乾燥試料0.2または0.4 gを内径約6 mmの石英製反応管に充填し、窒素、水素またはその混合ガスを通じて120℃〜550℃までの所定の温度にて2〜3時間の還元、賦活処理を行った。そののち、処理温度のまま真空排気して表面を清浄にし、反応管にアンモニアガスを通じて飽和吸着させた。物理吸着したアンモニアを真空排気によって取り除いたのちに毎分5℃で昇温して表面酸点に吸着したアンモニアを脱離させた。脱離したアンモニアは熱伝導度検出器(TCD)により検出・定量した。
【0096】
つぎに、本実施例の評価結果について説明する。
【0097】
本発明で見出したマイクロエマルション法により調製された酸化物粒子試料のエックス線回折分析および窒素吸着法による表面積測定を行った結果、図1に示すように試料は6アルミン酸バリウム(BHA)のみで構成され、比表面積は68m2/gと高比表面積であり、さらに実施した試験条件(空気下、窒素下、水素下、700℃)では比表面積は減少しない高い熱安定性を有した。
【0098】
図1において、最上図は作製された6アルミン酸バリウム(BHA)のエックス線回折パターンであり、下の二つの図はASTMデータベースにあるBHAの参照パターンである。中段の図は、6アルミン酸バリウム(BHA)BaxAlyOz(x=0.75,y=11,z=17.25)の参照パターンである。最下図は、6アルミン酸バリウム(BHA)BaAl12O19の参照パターンである。このように6アルミン酸バリウムは量論的にはBaAl12O19であるが、構造を保ったままいずれかの原子を欠く欠陥を有することが多く、一般的には図1に示したいずれかのエックス線回折パターンを示す。このことから本発明で得られたバリウムとアルミニウムの複合酸化物は主として6アルミン酸バリウムであるといってよい。
【0099】
助触媒を用いない2%Ru/BHA触媒上でのアンモニア合成速度を常圧0.1 MPaと高圧1.1 MPaの反応圧条件について、既往の代表的アンモニア合成用ルテニウム触媒であるRu/γ-Al2O3触媒とRu/MgO触媒と比較して表1に示す。用いた触媒のルテニウム添加量は等しく、Ru/BHA触媒が比較に用いた2つの触媒よりも3.3〜8.7倍高いアンモニア合成活性を示すことが分かる。さらに比較例に見られるように既往のルテニウム触媒は高反応圧では強い水素吸着により水素被毒し、アンモニア合成活性が低下するが、Ru/BHA触媒では反応圧が約10倍になると既往のものとは逆に1.6倍の活性が向上した。
【0100】
【表1】

【0101】
BHAに担持するルテニウムの量をBHAに対して1〜16%の範囲で変えたところ、Ru/BHA触媒表面にあるルテニウム原子当たりのアンモニア合成活性はルテニウム担持量が1%または2%のときに高くなった(表2)。このことはルテニウムの粒子経が小さくBHAと相互作用しやすい場合に活性が高くなるためと考えられる。
【0102】
【表2】

【0103】
一方で、一般的な担持金属触媒に見られるように、BHAに担持するルテニウムの量をBHAに対して1〜16%の範囲で変えたRu/BHA触媒についても、触媒質量当たりのアンモニア合成活性は、ルテニウム量を増すと増加し、8%でほぼ最大となった。得られた最高活性は常圧(0.1 MPa)、380℃での合成反応で2769μmol/g/h、高圧(1.1MPa)下で380℃での4022μmol/g/hであった(表3)。表3の結果から、ルテニウムの担持量は、担体の質量に対して、1〜16質量%の範囲にあることが好ましい。
【0104】
【表3】

【0105】
次に助触媒としてセシウムを用いたCsOH-2%Ru/BHA触媒上でのアンモニア合成を常圧0.1 MPaと高圧1.1 MPaの反応圧条件について行い、添加したセシウム助触媒の量を変えた場合のアンモニア合成速度の試験結果を表4に示す。いずれの反応圧力、反応温度においても添加するセシウム量が増すほどアンモニア合成活性は増し、作製された触媒の中ではRu/Cs=1/10のものが最も高活性で助触媒を添加しない場合と比較すると最大で4.7倍の活性を示した。一方で、Ru/Cs=1/10よりも多くすると触媒調製時に助触媒の前駆体である硝酸セシウムが均一に分散しなくなり、結果として一様な組成の触媒を調製することができなかった。よって実際上Ru/Cs=1/10の触媒が最も高活性であるといえる。既往の代表的アンモニア合成用ルテニウム触媒においてもRu/Csが一定以上になると著しく活性が向上する。この点においてはRu/BHA触媒は同様の傾向を示し、BHA担体がルテニウムの化学修飾敏感性とセシウムの助触媒効果を損ねずに担体として良好な性質を持つことが分かる。
表4の結果から、セシウム化合物の担持量は、ルテニウムに対するセシウムの原子比で、5〜10の範囲にあることが好ましい。
【0106】
【表4】

【0107】
さらにこのセシウムの助触媒効果はルテニウム量を増した場合にも維持され、触媒質量当たりのアンモニア合成活性が最も高くなった、担体に対して8%のルテニウムを担持した場合にも表5に示すように高い活性が得られた。
【0108】
【表5】

【0109】
つぎに助触媒としてセシウムを用いたCsOH-2%Ru/BHA触媒上でのアンモニア合成速度を常圧0.1 MPaと高圧1.1 MPaの反応圧条件について、既往の代表的アンモニア合成用ルテニウム触媒であるRu/γ-Al2O3触媒とRu/MgO触媒とルテニウム量および助触媒量を等しくした条件にて比較した結果を表6に示す。Ru/BHA触媒は比較に用いた2つの触媒よりも1.9〜3.6倍高いアンモニア合成活性を示し、比較例よりも優れていることが分かる。また、この場合のようにセシウム等のアルカリ助触媒を用いた既往のルテニウム触媒では高反応圧の水素被毒が極めて深刻になり、有意の活性を失うものさえある。このことは比較例、特に比較例2、にも見られる。しかし、Ru/BHA触媒では反応圧が約10倍になると既往の触媒とは逆に1.2倍以上に活性が向上し、BHAを担体とするアンモニア合成用ルテニウム触媒がアルカリ助触媒を用いた場合にも既往の触媒と比べて優れたものになることがわかる。
【0110】
【表6】

【0111】
上記のようにBHAが優れた担体であることはその構造中に助触媒としても有効に働くことができるバリウムを含むことによる可能性がある。そこでγ-Al2O3にBHA中のバリウムと等しくなる量のバリウムを添加したRu/Ba-γ-Al2O3触媒のアンモニア合成活性を異なる反応温度、反応圧力で比較した(表7)。全ての条件でRu/BHA触媒の方が高い活性を示し、BHAが優れていることが単に構造中にバリウムを含むためではないことが分かる。反応温度が高くなるほど差は顕著となり、BHAが反応雰囲気下でも熱的に安定であることも示唆される。
【0112】
【表7】

【0113】
さらに助触媒にバリウムを用いたBaO-2%Ru/BHA触媒上でのアンモニア合成速度を常圧0.1 MPaと高圧1.1 MPaの反応圧条件について、既往の代表的アンモニア合成用ルテニウム触媒であるRu/γ-Al2O3触媒とRu/MgO触媒とルテニウム量および助触媒量を等しくした条件にて比較した結果を表全て8および表9に示す。Ru/BHA触媒は比較に用いた2つの触媒よりも1.4〜3.2倍の高いアンモニア合成活性を示し、アルカリ土類助触媒を用いた場合にも比較例よりも優れていることが分かる。また、既往のルテニウム触媒では、バリウム等のアルカリ土類助触媒を用いた場合には、セシウム等のアルカリ促進剤を用いた場合と異なり、高反応圧の水素被毒はあまり増加せず、むしろアンモニア合成活性は平衡的に有利になることを反映して高くなる。これは比較例、特に比較例7、に見られる。一方、Ru/BHA触媒では既往のものよりも反応圧向上による活性増加が顕著であり、2倍以上の活性向上を示した。さらに、既往の触媒、BaO-2%Ru/γ-Al2O3(比較例4)が400℃になると活性が低下する(表8、表9)のに対し、このRu/BHにおけるバリウム助触媒の効果は315℃から400℃までのいずれの反応温度、常圧0.1 MPaと高圧1.1 MPaのいずれの反応圧力においても既往のアルミナ担持触媒よりも最大1.7倍高く、反応条件によらずにBHAが安定に、かつ、有効な担体として作用していることが分かる。このように、アルカリ助触媒と促進作用が異なるアルカリ土類助触媒を用いた際にも既往ものに比べRu/BHA触媒は優れているといえる。
【0114】
【表8】

【0115】
【表9】

【0116】
さらにバリウムの添加量が異なる触媒についてアンモニア合成活性を調べた(表10)ところ、いずれのバリウム添加量でも反応圧力による活性低下はなく、平衡的に有利になることに応じた活性増加が見られた。反応温度のアンモニア合成活性への影響について見ても、少なくとも315℃から380℃の範囲では、どのバリウム添加量を用いた場合も反応温度が高くなると合成活性が増すことが確認された。一方、バリウム添加量には最適量が存在し、ルテニウムに対して原子比で10倍まではバリウム添加量が増すほど活性は向上したが、15倍量のバリウムを加えると逆に活性は低下した。10倍量のバリウムを添加した触媒はいずれの反応条件でも最も活性が高く、高い反応温度、高い反応圧力により活性は増加した。
表10の結果から、バリウム化合物の担持量は、ルテニウムに対するバリウムの原子比で、5〜10の範囲にあることが好ましい。
【0117】
【表10】

【0118】
以上のようなRu/BHA触媒の既往のルテニウム触媒に比べた有意性は単純に比表面積が大きいために表面のルテニウム原子数が多くなっていることに起因する可能性が考えられるが、表11に示すように、実際は逆にRu/BHA触媒は比較例に用いた触媒よりも有意に比表面積が小さかった。このことはRu/BHA上のルテニウム原子当たりのアンモニア合成能(TOF)が比較例の触媒のそれに比べて、観測されたアンモニア合成速度の差よりも大きいことを示唆する。実際、表11に示したように50℃での水素吸着測定から求められたTOFでもRu/BHAは比較例の6.8〜22倍の値を示した。Ru/BHAが優れている原因の一つには表面の酸性度が低いことが挙げられる(表11、アンモニア吸着量)。典型的な既往の酸性金属酸化物担体のγ-Al2O3を用いた場合に比べ、1/24の酸量、これも典型的な塩基性金属酸化物であるMgOを用いたものとほぼ同様の酸量であった。このような低酸量であるためにアンモニア合成における助触媒の主な作用である活性金属(ルテニウム)への電子供与が損ねられることなく、助触媒が有効に作用していると考えられる。さらに担体構造中に助触媒作用を持ちうるバリウムを含むことで助触媒を添加しない場合にも担持したルテニウムの表面が既往の触媒よりも電子リッチな状態で存在できることが、助触媒を添加しない場合にも優れた活性を示す理由と考えられる。
【0119】
【表11】

【0120】
さらに、本発明で見出されたBHAを担体とする触媒では担体に含まれるバリウムが助触媒として作用し、アンモニア合成活性が増すと考えられたが、このBHAに含まれるバリウムは、一般的な担持金属触媒と同様の調製法、すなわち、ルテニウムを担体に担持したのちに逐次的に加える方法で添加されたバリウム助触媒とは異なる作用を示した。逐次的に加えられたバリウム助触媒によるアンモニア合成の促進効果は、おそらくはバリウムが反応ガス中の微量の水分により酸化物から水酸化物に変わることにより、経時的に失われていったが、BHA中のバリウムは、おそらく担体構造中に含まれるため、安定した助触媒効果を示した(表12)。また、いずれの触媒も反応温度が高くなると安定度が増したが、これはバリウムが高温であるほど水酸化物になりにくいことと対応していると考えられる。400℃での反応の場合、CsOH-Ru/BHAとRu/BHAの事実上の活性は、少なくとも20時間、一定であった。この安定した助触媒効果はセシウムを助触媒として添加したCsOH-Ru/BHA触媒においてもみられ、BHAがセシウムの助触媒効果を損ねることなく、安定した合成活性促進をもたらす担体であることが分かる。
【0121】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】最上図は作製されたBHAのエックス線回折パターンであり、下の二つの図はASTMデータベースにあるBHAの参照パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6アルミン酸バリウムを含有する
触媒担体。
【請求項2】
BaxAlyOz(x=0.75〜1,y=11〜12,z=17.25〜19)の組成からなる
請求項1記載の触媒担体。
【請求項3】
比表面積が50〜80m2/gの範囲にある
請求項1記載の触媒担体。
【請求項4】
焼成温度が900〜1300℃の範囲内にある
請求項1記載の触媒担体。
【請求項5】
6アルミン酸バリウムを含有し、
BaxAlyOz(x=0.75〜1,y=11〜12,z=17.25〜19)の組成からなり、
比表面積が50〜80m2/gの範囲にあり、
焼成温度が900〜1300℃の範囲内にある
触媒担体。
【請求項6】
界面活性剤を含む有機溶媒溶液に、水を滴下する工程と、
アルミニウムアルコキシド、バリウムアルコキシド、およびキレート剤を含む溶液を加える工程とを有する
触媒担体の製造方法。
【請求項7】
有機溶媒は、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、イソオクタン(2,2,4-トリメチルペンタン)、ノナン、またはペンタンから選ばれる1種または2種以上の混合物である
請求項6記載の触媒担体の製造方法。
【請求項8】
界面活性剤は、ポリエチレングリコール200、500、または1000から選ばれる1種または2種以上の混合物である
請求項6記載の触媒担体の製造方法。
【請求項9】
アルミニウムアルコキシドは、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムプロポキシド、またはアルミニウムブトキシドから選ばれる1種または2種以上の混合物である
請求項6記載の触媒担体の製造方法。
【請求項10】
バリウムアルコキシドは、バリウムメトキシド、バリウムエトキシド、バリウムプロポキシド、またはバリウムブトキシドから選ばれる1種または2種以上の混合物である
請求項6記載の触媒担体の製造方法。
【請求項11】
キレート剤は、3-オキソエタン酸エチル、3-オキソプロパン酸エチル、3-オキソブタン酸エチル、3-オキソペンタン酸エチル、または3-オキソヘキサン酸エチルから選ばれる1種または2種以上の混合物である
請求項6記載の触媒担体の製造方法。
【請求項12】
ポリエチレングリコールのイソオクタン溶液に、水を滴下する工程と、
アルミニウムプロポキシド、バリウムプロポキシド、および3-オキソブタン酸エチルを含む溶液を加える工程とを有する
触媒担体の製造方法。
【請求項13】
6アルミン酸バリウムを含有する担体に、ルテニウムを担持する
触媒。
【請求項14】
ルテニウムの担持量は、担体の質量に対して、1〜16質量%の範囲にある
請求項13記載の触媒。
【請求項15】
ナトリウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物、またはセシウム化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物を、さらに担持する
請求項13記載の触媒。
【請求項16】
セシウム化合物を、さらに担持する
請求項13記載の触媒。
【請求項17】
セシウム化合物の担持量は、ルテニウムに対するセシウムの原子比で、5〜10の範囲にある
請求項13記載の触媒。
【請求項18】
カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、またはバリウム化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物を、さらに担持する
請求項13記載の触媒。
【請求項19】
バリウム化合物を、さらに担持する
請求項13記載の触媒。
【請求項20】
バリウム化合物の担持量は、ルテニウムに対するバリウムの原子比で、5〜10の範囲にある
請求項13記載の触媒。
【請求項21】
ランタン化合物、セリウム化合物、またはサマリウム化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物を、さらに担持する
請求項13記載の触媒。
【請求項22】
触媒を用いる、アンモニアの製造方法において、
上記触媒は、6アルミン酸バリウムを含有する担体に、ルテニウムを担持する
ことを特徴とするアンモニアの製造方法。
【請求項23】
ルテニウムの担持量は、担体の質量に対して、1〜16質量%の範囲にある
ことを特徴とする請求項22記載のアンモニアの製造方法。
【請求項24】
触媒は、ナトリウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物、またはセシウム化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物を、さらに担持する
ことを特徴とする請求項22記載のアンモニアの製造方法。
【請求項25】
触媒は、セシウム化合物を、さらに担持する
ことを特徴とする請求項22記載のアンモニアの製造方法。
【請求項26】
セシウム化合物の担持量は、ルテニウムに対するセシウムの原子比で、5〜10の範囲にある
ことを特徴とする請求項22記載のアンモニアの製造方法。
【請求項27】
触媒は、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、またはバリウム化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物を、さらに担持する
ことを特徴とする請求項22記載のアンモニアの製造方法。
【請求項28】
触媒は、バリウム化合物を、さらに担持する
ことを特徴とする請求項22記載のアンモニアの製造方法。
【請求項29】
バリウム化合物の担持量は、ルテニウムに対するバリウムの原子比で、5〜10の範囲にある
ことを特徴とする請求項22記載のアンモニアの製造方法。
【請求項30】
触媒は、ランタン化合物、セリウム化合物、またはサマリウム化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物を、さらに担持する
ことを特徴とする請求項22記載のアンモニアの製造方法。
【請求項31】
触媒を用いる、反応装置において、
上記触媒は、6アルミン酸バリウムを含有する担体に、ルテニウムを担持する
ことを特徴とする反応装置。
【請求項32】
ルテニウムの担持量は、担体の質量に対して、1〜16質量%の範囲にある
ことを特徴とする請求項31記載の反応装置。
【請求項33】
触媒は、ナトリウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物、またはセシウム化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物を、さらに担持する
ことを特徴とする請求項31記載の反応装置。
【請求項34】
触媒は、セシウム化合物を、さらに担持する
ことを特徴とする請求項31記載の反応装置。
【請求項35】
セシウム化合物の担持量は、ルテニウムに対するセシウムの原子比で、5〜10の範囲にある
ことを特徴とする請求項31記載の反応装置。
【請求項36】
触媒は、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、またはバリウム化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物を、さらに担持する
ことを特徴とする請求項31記載の反応装置。
【請求項37】
触媒は、バリウム化合物を、さらに担持する
ことを特徴とする請求項31記載の反応装置。
【請求項38】
バリウム化合物の担持量は、ルテニウムに対するバリウムの原子比で、5〜10の範囲にある
ことを特徴とする請求項31記載の反応装置。
【請求項39】
触媒は、ランタン化合物、セリウム化合物、またはサマリウム化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物を、さらに担持する
ことを特徴とする請求項31記載の反応装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−88058(P2006−88058A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277564(P2004−277564)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月30日 触媒学会発行の「第93回 触媒討論会 討論会A予稿集」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】