説明

触媒材料及びその作製方法

【課題】安価で大量に存在するWC1−xを担体上に分散担持させた新規な燃料電池用触媒材料及びその作製方法を提供すること。
【解決手段】粒径が2〜10nmのタングステンカーバイト微粒子を担体に担持させてなる。このタングステンカーバイトは、式:WC1−x(但し、xは0≦x≦0.5である)で表され、アーク放電法により担体に担持せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒材料及びその作製方法に関し、特に白金等の貴金属触媒材料に替わる燃料電池用触媒材料及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの技術分野で、種々の触媒材料が使用されている。例えば、携帯用電源供給装置と携帯バッテリーとしての燃料電池や、自動車用燃料電池や、発電用燃料電池等の分野では、従来、燃料電池用電極触媒の場合、例えばカーボンブラックのようなカーボン粉末を担体として用い、この担体に2〜5nm程度の白金微粒子を担持させ、それにより触媒活性を向上させていた。しかし、白金の埋蔵量は、最近枯渇の問題が加速している希少金属のインジウムよりもさらに少ないので、種々の産業分野で白金の使用量が増えれば増える程、枯渇問題が加速し、将来深刻な事態となるのは目に見えている。
【0003】
例えば、現在、燃料電池を用いる自動車を1台製造するためには、電極触媒としてだけで白金が約100g必要であると言われており、また、自動車排ガス処理用触媒としても白金が用いられていることから、自動車の販売台数を考えれば、日本だけでも白金の使用量は莫大な量になってしまう。
【0004】
また、近年、白金とその他の金属との合金を触媒材料として用いる研究が盛んに行われているが、白金フリーな触媒の研究はほとんど行われていないのが現状である。
【0005】
白金フリーな触媒として、例えば、白金の代替材料としてタングステンカーバイト(WC)を用いる研究が行われている。しかし、この場合、液相法で作製するため、WCを作製するまでに900℃程度の高温処理が必要となり、かつ、成分の組成比を変えることは困難であるという問題がある。組成比を変えたWC1−xを合成するのに有効な温度域は、2510〜2760℃と非常に狭く、加えて高温状態から急激に冷却しなければ準安定相であるWC1−xは得られない。そのため、液相法での合成が困難とされているのが現状である。スパッタ法やEB蒸着法で作製することも考えられるが、合成温度域から考えて、適当な方法ではないと言える。参考のために、W−Cの状態図を図1に示す。
【0006】
さらに、燃料電池用触媒として、タングステンと炭素との二元系相図中、WC1−xで表される相の材料からなるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このWC1−x(0.36≦x≦0.41)は、高周波熱プラズマ法により作製されるために、ガス圧の制御が難しいという問題と共に、原材料が変わると安定した組成比を有する触媒組成物を作製することが難しく、組成ずれが生じてしまうという問題がある。
【特許文献1】特開2006−107987号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、アーク放電により安価で大量に存在するWC1−xを担体上に分散担持させた新規な触媒材料及びその作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の燃料電池用触媒材料は、アーク放電法により作製した粒径が2〜10nmのタングステンカーバイト微粒子を担体に担持させてなることを特徴とする。
【0009】
このタングステンカーバイトは、式:WC1−x(但し、xは0≦x≦0.5である)で表されることを特徴とする。
【0010】
触媒微粒子を担持する担体は、カーボン、アルミナ、シリカ及びチタニアの粉体材料から選ばれた少なくとも1つの粉体材料であることが望ましい。
【0011】
本発明の燃料電池用触媒材料の作製方法は、粒径が2〜10nmのタングステンカーバイト微粒子をアーク放電法により担体に担持させて作製することを特徴とする。
【0012】
上記作製方法で用いるタングステンカーバイトは、式:C1−x(但し、xは0≦x≦0.5である)で表されるものであり、担体は、カーボン、アルミナ、シリカ及びチタニアの粉体材料から選ばれた少なくとも1つの粉体材料であることが望ましい。
【0013】
本発明の燃料電池用触媒材料の作製方法はまた、円筒状のトリガ電極とタングステンカーバイト微粒子作製用材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極とが、円板状の絶縁碍子を挟んで隣接して配置されてなり、前記カソード電極とトリガ電極との周りに同軸状に円筒状のアノード電極が配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えている同軸型真空アーク蒸着装置を用い、前記トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させて、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させ、担体に、タングステンカーバイト微粒子を担持させてなることを特徴とする。この場合、タングステンカーバイトは、式:WC1−x(但し、xは0≦x≦0.5である)で表され、タングステンカーバイト微粒子の粒径は2〜10nmであり、担体は、カーボン、アルミナ、シリカ及びチタニアの粉体材料から選ばれた少なくとも1つの粉体材料であることが好ましい。
【0014】
本発明では、上記したように、好ましくは、触媒微粒子としてWC1−x(但し、xは0≦x≦0.5である)を用い、この微粒子をアーク放電により担体へ担持せしめる。WC1−xは、白金と電子構造が非常に似ており、白金を用いた触媒材料に近い性能が期待できる。また、アーク放電法を使用することにより、急冷凍結が容易に行え、WC1−xの組成も、ターゲットを、その成分の混合比を変えて作製するだけで簡単に変えることができるという利点も挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安価で大量に存在する触媒活性を有するWC1−xを担体へ担持させることが可能であり、燃料電池等の電極触媒として十分な性能を発揮できる触媒材料を提供できるという効果を奏する
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、燃料電池の電極触媒材料を例にとって、詳細に詳細に説明する。
【0017】
本発明による触媒材料は、カーボンブラック(VULCAN XC−72、キャボット社製)担体等のカーボン担体に、例えば同軸型真空アーク蒸着源(アークプラズマガン、以下、「APG」とも称す)を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用いて、触媒として機能するWC1−x(0≦x≦0.5)微粒子を担持させて作製される。この担持方法は、APGを用いるアーク法に限定されるものではなく、低圧アーク法、真空アーク法及びトーチアーク法といったアーク放電を発生させることができる公知の手法であればよい。カーボンブラックのような担体は粒径10〜100nmのものを用いることができる。また、担持する触媒微粒子の粒径は、2〜10nmとなることが好ましい。2nmより小さいと、触媒としての機能が著しく低下してしまい、10nmを超えると触媒微粒子の比表面積が減少するため、触媒性能の劣化につながってしまう。また、WC1−xの組成は、0≦x≦0.5であるものが好ましく、0≦x≦0.3であるものがより好ましい。x<0の場合は、安定なWC1−x相を保つことができず、触媒性能が悪くなってしまい、また、x>0.5の場合は、安定なWC1−x相を維持できないため、同様に触媒としての性能が悪くなる。
【0018】
本発明において、担体に、WC1−x(0≦x≦0.5)触媒微粒子を担持させて触媒材料を作製する方法には、例えば、蒸着装置として、円筒状のトリガ電極と、触媒微粒子作製用材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極と、このトリガ電極及びカソード電極の間に両者を離間させるために設けられた円板状の絶縁碍子と、カソード電極とトリガ電極との周りに同軸状に配置された円筒状のアノード電極とを有するAPG(蒸着源)を備え、この蒸着源のコンデンサを蒸着源近傍に設けてある同軸型真空アーク蒸着装置を用いてもよい。この蒸着装置を用い、例えば、放電電圧を100V〜400V、コンデンサ容量を8800μF以下、間欠運転の周期を1〜5Hz、放電時間を1000μs以下に設定して、トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電を発生させて、カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を誘起させ、そしてカソード電極を構成する触媒微粒子作製用材料から生じるプラズマ化されている粒子を蒸着装置の真空チャンバ内へ放出せしめ、真空チャンバ下方に設置された容器内に装入された担体粉体上に供給し、例えば室温で、担体粉体上に触媒微粒子を形成することができる。上記カソード電極は、その全体が上記触媒微粒子作製用材料で構成されていても、その先端部であるアノード電極の開口側方向の端部が上記触媒微粒子作製用材料で構成されていても良い。
【0019】
上記した同軸型真空アーク蒸着装置の詳細な構成及びこの装置を用いて本発明の触媒材料作製方法を実施する場合について、添付図面を参照して、以下説明する。
【0020】
図2に示すように、同軸型真空アーク蒸着装置1は、円筒状の真空チャンバ11を有し、この真空チャンバ内の下方には、基板ステージ12が水平に配置されている。真空チャンバ11には、基板ステージ12を水平面内で回転させることができるように、基板ステージ裏面の中心部にモーター等の回転駆動手段13を有する回転機構が設けられている。
【0021】
担体粉体Sを装入する容器14が載置される基板ステージ12を加熱できるようにヒータ等の加熱手段(図示せず)を設け、所望により、担体粉体を所定の温度に加熱できるようにしてもよい。基板ステージ12は1又は複数個設けられ、それぞれに、担体粉体S用容器14が保持・固定されて取り付けられ得るようになっている。真空チャンバ11の上方には、各担体粉体用容器14と対向して、1又は複数個の後述する同軸型真空アーク蒸着源15が、カソード電極15a側を基板ステージ12に向けて配置されている。これにより、触媒微粒子が、真空チャンバ11上方から下方に向かって飛翔し、容器14内の担体粉体Sに蒸着できるようになっている。容器14は、攪拌機構16を備えており、容器14内に装入される担体粉体Sを、例えばかき混ぜたり、振動させたりして攪拌し、担体粉体S表面に均一に触媒微粒子を形成できるように構成されている。
【0022】
真空チャンバ11の壁面には、ガス導入系17及び真空排気系18が接続されている。このガス導入系17は、バルブ17a、マスフローコントローラー17b及びガスボンベ17cがこの順序で金属製配管で接続されている。また、真空排気系18は、バルブ18a、ターボ分子ポンプ18b、バルブ18c及びロータリーポンプ18dがこの順序で金属製真空配管で接続されており、真空チャンバ11内を好ましくは10−5Pa以下に真空排気できるように構成されている。
【0023】
図2に示すように、同軸型真空アーク蒸着装置1に設けられた同軸型真空アーク蒸着源15は、一端が閉じ容器14に対向する他端が開口しており、触媒微粒子作製用材料で構成されている円筒状のカソード電極15aと、ステンレス等から構成されている円筒状のアノード電極15bと、ステンレス等から構成されている円板状のトリガ電極(例えば、リング状のトリガ電極)15cと、カソード電極15aとトリガ電極15cとの間に両者を離間させるために設けられた円板状の絶縁碍子15dとから構成されている。カソード電極15aが、容器14に対向して設けられている。カソード電極15aと絶縁碍子15dとトリガ電極15cとの3つの部品は、図示していないが、ネジ等で密着させて取り付けられている。また、アノード電極15bは、図示していないが支柱で真空フランジに取り付けられ、この真空フランジは真空チャンバ11の上面に取り付けられている。カソード電極15aは、アノード電極15bの内部に同軸状にアノード電極の壁面から一定の距離だけ離して設けられている。カソード電極15aは、上記したように、その少なくとも先端部(アノード電極15bの開口部A側の端部に相当する)が、前記材料から構成されていても良い。
【0024】
トリガ電極15cは、前記ターゲット材料ないしはカソード電極15aとの間にアルミナ等から構成された絶縁碍子(ワッシャ碍子)15dを挟んで取り付けられている。絶縁碍子15dはカソード電極15aとトリガ電極15cとを絶縁するように取り付けられており、また、トリガ電極15cは絶縁体を介してカソード電極15aに取り付けられていてもよい。これらのアノード電極15bとカソード電極15aとトリガ電極15cとは、絶縁碍子15d及び絶縁体により電気的に絶縁が保たれていることが好ましい。この絶縁碍子15dと絶縁体とは一体型に構成されたものであっても別々に構成されたものでも良い。
【0025】
カソード電極15aとトリガ電極15cとの間にはパルストランスからなるトリガ電源15eが接続されており、また、カソード電極15aとアノード電極15bとの間にはアーク電源15fが接続されている。アーク電源15fは直流電圧源15gとコンデンサユニット15hとからなり、このコンデンサユニット15hの両端は、それぞれ、カソード電極15aとアノード電極15bとに接続され、コンデンサユニット15hと直流電圧源15gとは並列接続されている。
【0026】
コンデンサユニット15hは、1つ又は複数個のコンデンサ(図2では、1個のコンデンサを例示してある)が接続したものであって、その1つの容量が例えば2200μF(耐電圧160V)であり、直流電圧源15gにより随時充電される。トリガ電源15eは、入力200Vのμsのパルス電圧を約17倍に変圧して、3.4kV(数μA)、極性:プラスを出力している。アーク電源15fは、100V、数Aの容量の直流電源であって、直流電圧源15gからコンデンサユニット15h(例えば、4個のコンデンサユニットの場合、8800μF)に充電している。この充電時間は約1秒かかるので、本システムにおいて8800μFで放電を繰り返す場合の周期は、1Hzで行われる。トリガ電源15eのプラス出力端子はトリガ電極15cに接続され、マイナス端子はアーク電源15fの直流電圧源15gのマイナス側出力端子と同じ電位に接続され、カソード電極15aに接続されている。アーク電源15fの直流電圧源15gのプラス端子はグランド電位に接地され、アノード電極15bに接続されている。コンデンサユニット15hの両端子は直流電圧源15gのプラス端子及びマイナス端子間に接続されている。図2中、15iはケーブルを示し、放電時の放電電流の流れを矢印→で示してある。実際には、放電電流の電流の大部分は電子によるものなので、実際の電子の流れる向きは矢印と逆になるが、図2では簡易的に電気的な配線図による電気回路で示してあるので、電流の流れの方向として示してある。
【0027】
次に、図2に示す同軸型真空アーク蒸着装置1を用いて、真空チャンバ11内の担体粉体Sの表面に触媒微粒子(WC1−x(但し、xは0≦x≦0.5である))を形成する場合について説明する。
【0028】
例えば、まず、直流電圧源15gによりコンデンサユニット15hに100Vで電荷を充電し、コンデンサユニット15hの容量を8800μFに設定する。次いで、トリガ電源15eからトリガ電極15cにパルス電圧を出力し(出力:3.4kV)、カソード電極15aとトリガ電極15cとの間にワッシャ碍子15dを介して印加することで、カソード電極15aとトリガ電極15cとの間にトリガ放電(ワッシャ碍子表面での沿面放電)を発生させる。カソード電極15aとワッシャ碍子15dとのつなぎ目から電子が発生する。このトリガ放電によって、カソード電極15aの側面とアノード電極15b内面との間で、コンデンサユニット15hに蓄電された電荷が真空アーク放電され、カソード電極15aに多量のアーク電流が流入し、このアーク放電により、カソード電極15aから白金等の金属材料のプラズマが形成される。コンデンサユニット15hに蓄電された電荷の放出により放電は停止する。このトリガ放電を複数回繰り返し、そのトリガ放電毎にアーク放電を誘起させることが好ましい。
【0029】
上記したアーク放電の間、触媒微粒子作製用材料の融解により発生した微粒子(プラズマ化している原子状イオンやクラスタや電子等)が形成される。この微粒子をアノード電極15bの開口部(放出口)Aから真空チャンバ11内に放出させ、開口部Aに対向して設置されている容器14内の担体粉体Sに対して、上記のようにして形成された触媒微粒子を供給し、担体粉体S表面上に触媒微粒子を付着させ、凝集せしめて直径数nm(例えば、2〜10nm程度)の触媒微粒子が担持された触媒材料を形成する。この担体粉体Sは、室温であっても、加熱手段により所定の温度に加熱されていても良い。
【0030】
本実施の形態によれば、上記同軸型真空アーク蒸着源15の近傍にコンデンサユニット15hを取り付けたものを用い、上記した放電条件を用いて行うことにより、2〜10nm程度の触媒微粒子を形成することができると共に、この触媒微粒子を担体粉体に密着性よく担持せしめることもできる。コンデンサユニット15hを同軸型真空アーク蒸着源15の近傍に取り付ける場合、カソード電極15a及びアノード電極15bとの接続ラインを短く、例えば、100mm以下、好ましくは10mm〜100mm程度の距離になるように取り付ければ良い。
【0031】
上記した触媒微粒子の放出は次のようにして行われる。カソード電極15aに多量の電流が流れるので、カソード電極15aに磁場が形成され、この時発生したプラズマ中の電子(この電子はカソード電極15aからアノード電極15bの円筒内面に飛行する)が自己形成した磁場によってローレンツ力を受け、前方に飛行する。一方、プラズマ中のカソード電極材料の金属イオンは、電子が前記したように飛行し分極することでクーロン力により前方の電子に引きつけられるようにして前方に飛行し、担体粉体S上に触媒微粒子が担持することになる。
【0032】
上記した同軸型真空アーク蒸着源15を用いて燃料電池電極触媒用の担体粉体(カーボンブラック)に触媒微粒子を蒸着させることにより、担体表面上に、触媒微粒子が、例えば粒径2〜10nm、好ましくは2〜5nmで形成され、担持されるため、この触媒微粒子が担持した触媒材料を燃料電池用電極として使用すると、燃料電池の電気特性(酸化還元反応)が改善される。
【0033】
前記実施の形態では、容器内に装入した担体粉体を同軸型真空アーク蒸着源と対向させて配置し、担体粉体に直接的に触媒微粒子を担持させたが、このように、蒸着源を真空チャンバ、ひいては担体粉体に対して鉛直に配置した場合、蒸着源からμサイズのパーティクル(液滴)が担体粉体内に混入する場合がある。この場合には、同軸型真空アーク蒸着源を真空チャンバに対して水平状態に取付け、例えば磁石2個をアノード電極近傍に挟み込むように平行に配置して磁場を形成し、プラズマを偏向させて担体粉体に触媒微粒子を蒸着させてもよい。
【0034】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明について図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例では、燃料電池分野で欠かすことのできない触媒担体材料として、カーボンブラックを例に取り、触媒となる金属としてのWC1−x(但し、xは0≦x≦0.5である)に対し、APGを備えた蒸着装置を用いて担持せしめた。
【0035】
なお、燃料電池用電極触媒の触媒活性を評価する方法としては、種々考えられるが、本発明の場合は、電極表面における化学反応の過程を解析する際に用いられるボルタンメトリー法のうち、公知の回転ディスク電極法として知られている、電圧を時間当たり一定の割合でゆっくり上昇させて電位−電流曲線を測定する電気化学測定法を用いて評価する。
【実施例1】
【0036】
本実施例では、図2に示す同軸型真空アーク蒸着源15(APG)を備えた同軸型真空アーク蒸着装置1を用い、ターゲット材として、WC1−x(x=0)材料で構成されたカソード電極15aを配置して、容器14内に装入せしめた担体としてのカーボンブラック粉体(粒径10〜100nm)を攪拌しながら、室温でこの担体表面上にWC微粒子を担持せしめた。なお、アノード電極15bの先端(開口部A)からカーボンブラック粉体までの距離を約40mmに設定して実施した。
【0037】
まず、WC微粒子を形成する前に、直流電圧源15gによりコンデンサユニット15h(本実施例では4つのコンデンサを設けた)に電荷を充電し、アーク電圧を100Vとし、コンデンサユニット15hの容量を8800μFに設定した。次いで、トリガ電源15eからトリガ電極15cにパルス電圧を出力し(出力:3.4kV)、カソード電極15aとトリガ電極15cとの間にワッシャ碍子15dを介して印加することで、カソード電極15aとトリガ電極15cとの間にトリガ放電を発生させた。カソード電極15aとワッシャ碍子15dとのつなぎ目から電子が発生した。この時、カソード電極15a側面とアノード電極15b内面との間で、コンデンサユニット15hに蓄電された電荷がアーク放電され、カソード電極15aに多量の電流が流入し、カソード電極15aからWC材料のプラズマが形成された。コンデンサユニット15hに蓄電された電荷の放出により放電は停止した。放電周期は1Hzとし、放電発数を10,000ショット繰り返し、そのトリガ放電毎にアーク放電を誘起させた。
【0038】
上記したアーク放電の間、WC材料の融解により発生した微粒子(プラズマ化している原子状イオンやクラスタや電子等)が形成された。この微粒子をアノード電極15aの開口部Aから真空チャンバ11内に放出させ、容器14内に装入したカーボンブラックS上に供給し、室温でカーボンブラック表面にWC微粒子を担持させ、凝集せしめてWC微粒子を形成せしめた。
【0039】
このWC微粒子担持工程では、上記成膜条件で400ショット静止蒸着後、攪拌しながら100ショット蒸着する工程を一工程とし、この工程を繰り返して、合計10,000ショットの蒸着を行って、担体粉体上にWC微粒子を担持せしめた。
【0040】
かくして作製されたWC担持カーボンブラック粉体をTEMにより観察した。得られたTEM像を図3に示す。このTEM像から明らかなように、カーボンブラック粉体上に粒径2〜5nm程度のWC微粒子が分散されて担持されていることが確認できた。
【実施例2】
【0041】
実施例1と同様の手法でWC1−x(x=0.5)微粒子をカーボンブラック粉体上に担持せしめた。作製したWC0.5担持カーボンブラック粉体をTEMにより観察したところ、実施例1で得られたTEM像と同様のものが確認できた。
(比較例1)
【0042】
実施例1と同様の手法でWC1−x(x=1)微粒子をカーボンブラック粉体上に担持せしめた。作製したW担持カーボンブラック粉体をTEMにより観察したところ、実施例1で得られたTEM像と同様のものが確認できた。
【実施例3】
【0043】
実施例1〜2及び比較例1で得られたWC1−x微粒子担持カーボンブラック粉体について、燃料電池用の電極触媒としての評価を行うために、この電極触媒に対して、0.5mol/Lの硫酸水溶液を電解液として用い、酸素飽和中で公知の対流ボルタンメトリー法(回転ディスク電極法)を用いる電気化学測定により、酸化還元反応で得られた電流値を測定した。この場合の測定条件は、掃引速度50mV/sec、回転数2000rpmであった。
(比較例2)
【0044】
触媒を担持させていないカーボンブラック粉体のみを用いて、実施例3と同様の手法で電気化学測定を行った。
【0045】
上記実施例3及び比較例2で得られた電流値の測定結果を、横軸に電位(V vs Ag/AgCl)、縦軸に電流(A)をとり、図4にプロットした。図4中、CB(カーボンブラック粉体)は比較例2、CB(APG−WC10000)は実施例1、CB(APG−W10000)は比較例1、及びCB(APG−WC0.510000)は実施例2で、それぞれ得られた触媒材料の場合を示す。
【0046】
図4から明らかなように、カーボンブラックのみ、及びWのみを担持させた触媒材料では酸化還元活性をほとんど示さなかったのに対し、WCを担持させた触媒ではWのみよりも大きな触媒活性を示し、さらにWC0.5の場合には極めて顕著な酸化還元触媒能を示していることが分かる。従って、本発明のWC1−x(0≦x≦0.5)微粒子担持触媒は、燃料電池用電極触媒として有用であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、高価で希少価値の高い白金を使用することなく、アーク放電により、安価で大量に存在し、触媒活性を有する触媒として機能するタングステンカーバイト:WC1−x(0≦x≦0.5)を担体へ担持させることにより有用な触媒材料が提供できる。
【0048】
従って、本発明の触媒材料及びその作製方法によれば、コスト面からも安心であり、また、触媒としての性能を十分に発揮することができる有用な触媒材料を提供できるので、触媒として様々な技術分野で利用可能である。例えば、燃料電池用電極触媒や排ガス用触媒等の白金等の高価で希少価値の高い金属からなる触媒を用いている技術分野において、その代替え触媒として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】W−Cの状態図を示すグラフ。
【図2】本発明で使用する同軸型真空アーク蒸着装置の一構成例を模式的に示す構成図。
【図3】実施例1で得られたWC担持カーボンブラック粉体のTEM写真。
【図4】実施例1〜2及び比較例1で得られたWC1−x微粒子担持カーボンブラック粉体からなる燃料電池用電極触媒の触媒活性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0050】
1 同軸型真空アーク蒸着装置 11 真空チャンバ
12 基板ステージ 13 回転駆動手段
14 容器 15 同軸型真空アーク蒸着源
15a カソード電極 15b アノード電極
15c トリガ電極 15d 絶縁碍子
15e トリガ電源 15f アーク電源
15g 直流電圧源 15h コンデンサユニット
15i ケーブル 16 攪拌機構
17 ガス導入系 17a バルブ
17b マスフローコントローラー 17c ガスボンベ
18 真空排気系 18a バルブ
18c バルブ 18d ロータリーポンプ
18b ターボ分子ポンプ A 開口部
S 原料粉体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク放電法により作製された粒径が2〜10nmのタングステンカーバイト微粒子を担体に担持させてなることを特徴とする燃料電池用触媒材料。
【請求項2】
前記タングステンカーバイトが、式:WC1−x(但し、xは0≦x≦0.5である)で表されることを特徴とする請求項1記載の触媒材料。
【請求項3】
前記担体が、カーボン、アルミナ、シリカ及びチタニアの粉末材料から選ばれた少なくとも1つの粉体材料であることを特徴とする請求項1又は2記載の触媒材料。
【請求項4】
粒径が2〜10nmのタングステンカーバイト微粒子をアーク放電法により担体に担持させて触媒材料を作製することを特徴とする燃料電池用触媒材料の作製方法。
【請求項5】
前記タングステンカーバイトが、式:C1−x(但し、xは0≦x≦0.5である)で表されることを特徴とする請求項4記載の触媒材料の作製方法。
【請求項6】
前記担体が、カーボン、アルミナ、シリカ及びチタニアの粉体材料から選ばれた少なくとも1つの粉体材料であることを特徴とする請求項4又は5記載の触媒材料の作製方法。
【請求項7】
円筒状のトリガ電極とタングステンカーバイト微粒子作製用材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極とが、円板状の絶縁碍子を挟んで隣接して配置されてなり、前記カソード電極とトリガ電極との周りに同軸状に円筒状のアノード電極が配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えている同軸型真空アーク蒸着装置を用い、前記トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させて、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させ、担体に、タングステンカーバイト微粒子を担持させてなることを特徴とする燃料電池用触媒材料の作製方法。
【請求項8】
前記タングステンカーバイトが、式:WC1−x(但し、xは0≦x≦0.5である)で表されることを特徴とする請求項7記載の触媒材料の作製方法。
【請求項9】
前記タングステンカーバイト微粒子の粒径が2〜10nmであることを特徴とする請求項7又は8に記載の触媒材料の作製方法。
【請求項10】
前記担体が、カーボン、アルミナ、シリカ及びチタニアの粉末材料から選ばれた少なくとも1つの粉体材料であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の触媒材料の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−311054(P2008−311054A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157436(P2007−157436)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】