計量部を有するチップ
【課題】 本発明は、正確に試料を計量することができるチップを提供することを目的とする。
【解決手段】 回転軸21を中心とする回転により試料を計量する計量部13を有するチップであって、前記計量部13は、計量時に前記試料が満たされる計量部本体13aと、前記計量部本体13aの一端に接続され、前記試料の導入口である第1端部13bと、前記計量部本体13aの他端に接続される第2端部13cとを有し、前記回転軸21を中心としてチップを回転して試料を計量するときに、前記第1端部13bでの試料液面と前記第2端部13cでの試料液面とが前記回転軸21を中心とする回転の同心円上にあり、かつ前記第1及び第2端部13b、13cでの試料液面と前記回転軸21との距離は、前記計量部本体13aと前記回転軸21との距離よりも近いかあるいは同じであるチップを提供する。
【解決手段】 回転軸21を中心とする回転により試料を計量する計量部13を有するチップであって、前記計量部13は、計量時に前記試料が満たされる計量部本体13aと、前記計量部本体13aの一端に接続され、前記試料の導入口である第1端部13bと、前記計量部本体13aの他端に接続される第2端部13cとを有し、前記回転軸21を中心としてチップを回転して試料を計量するときに、前記第1端部13bでの試料液面と前記第2端部13cでの試料液面とが前記回転軸21を中心とする回転の同心円上にあり、かつ前記第1及び第2端部13b、13cでの試料液面と前記回転軸21との距離は、前記計量部本体13aと前記回転軸21との距離よりも近いかあるいは同じであるチップを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の計量を行う計量部を有するチップに関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓・胆道系疾患やアルコール性肝障害を診断し、その治療経過を観察するため、肝臓、腎臓、膵臓などで活動している酵素やその生成物を血液中から採取して濃度測定する生化学検査が広く実施されている。このような生化学検査を行うためのチップとして、遠心力を利用して血漿を遠心分離する血液分析チップが、特許文献1に開示されている。図11は、特許文献1に開示されている血液分析チップの平面図である。血液サンプルは開口28から導入され、血液保持チャンバ36に保持される。ここで、血液分析チップでは、血液中の対象成分の所定量を正確に計量して、試薬との混合や反応を行わせる。そのため、血液分析チップ内の血液サンプルを、遠心力により血液保持チャンバ36から血液分離チャンバに導入するとともに対象となる試料を遠心分離する。そして、分離された試料を試料測定手段63において計量する。このように計量された試料を用いることで、正確な分析等を行うことができる。
【特許文献1】米国特許第4、883、763号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、対象となる試料の性質によっては、試料測定手段63での計量を正確に行うことができない。例えば、試料の濡れ性が低い溶液の場合は、図12(a)に示すようにその表面張力により試料測定手段63での液面が盛り上がる。一方、濡れ性が高い試料の場合は図12(b)に示すように液面がへこむ。このように試料の性質により液面が上下し、試料が盛り上がった分やへこんだ分だけ計量すべき量と異なってしまう。よって、試料を正確に計量することができない。
【0004】
そこで、本発明は、正確に試料を計量することができるチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願第1発明は、上記の課題を解決するために、回転軸を中心とする回転により試料を計量する計量部を有するチップを提供する。ここで、前記計量部は、計量時に前記試料が満たされる計量部本体と、前記計量部本体の一端に接続され、前記試料の導入口である第1端部と、前記計量部本体の他端に接続される第2端部とを有する。また、前記回転軸を中心としてチップを回転して試料を計量するときに、前記第1端部での試料液面と前記第2端部での試料液面とが前記回転軸を中心とする回転の同心円上にあり、かつ前記第1及び第2端部での試料液面と前記回転軸との距離は、前記計量部本体と前記回転軸との距離よりも近いかあるいは同じである。
【0006】
試料を計量する場合、第1端部から計量部本体及び第2端部に順に試料を導入して、回転軸を中心としてチップを回転する。すると、試料は、計量部本体を満たすとともに、第1端部及び第2端部において液面を有する。これは、第1及び第2端部での試料液面と回転軸との距離が、計量部本体と回転軸との距離よりも近いかあるいは同じであるためである。このように、試料は第1端部及び第2端部においてのみ液面を有するため、その液面の面積が小さい。一般的に、試料の濡れ性が小さい場合は表面張力により液面が盛り上がり、濡れ性が大きい場合は液面がへこむ。上述のように、計量部本体の体積に対して試料液面の面積が小さいため、表面張力による計量の誤差を最小限に抑えることができる。また、濡れ性による影響が小さいため、試料が通過する計量部本体、第1端部及び第2端部に、例えば試料の濡れ性を改善するための内壁処理を行う必要が無い。よって、チップの製造コストを削減することができる。また、異なる表面張力を有する試料に対しても表面張力を考慮することなく上記チップを用いることができる。
【0007】
本願第2発明は、第1発明において、前記計量部は、前記第2端部から分岐し、前記第2端部から溢れる試料を流出させる取り出し管をさらに有するチップを提供する。
例えば、計量部本体、第1端部及び第2端部を満たす以上の試料をチップに導入し、回転軸を中心としてチップを回転する。この回転による遠心力により、第2端部内の液面と第1端部内の液面とが同心円上に位置するようになる。このとき、第2端部から分岐する取り出し管を介して、第2端部からあふれ出た試料が流出する。よって、第1端部、計量部本体及び第2端部からなる計量部には、所定量の試料で満たされている。そのため、過剰の試料をチップに導入した場合であっても、計量部により所望の量の試料を正確に計量することができる。
【0008】
本願第3発明は、第1発明において、前記計量部は、前記第2端部に接続され、前記第2端部の試料液面に大気圧を印加するための空気孔をさらに有するチップを提供する。
試料は、その表面張力により第2端部の分岐点から取り出し管の壁面を伝って流れ出る傾向にある。空気孔から空気を取り込むことにより、分岐点において第2端部から取り出し管の壁面を伝って過剰に流れ出ようとする試料を断ち切ることができる。よって、計量部において正確に試料を計量することができる。
【0009】
本願第4発明は、第1発明において、前記計量部本体、前記第1端部及び前記第2端部は、前記回転軸に対して開きを有するU字管あるいはV字管形状に形成されている、チップを提供する。
計量部本体、第1端部及び第2端部を、U字管あるいはV字管などに形成することで、流路や試料内の気泡が流路壁に付着することを防止することができる。よって、気泡による影響を受けることなく正確に試料を計量することができる。例えば、チップを回転軸を中心として回転することにより、第1端部、計量部本体及び第2端部に順に試料を導入する。このとき、U字管あるいはV字管は回転軸に対して開きを有するように形成されているため、発生した気泡は遠心力を受けて流路壁に付着することができず、流路壁に沿って移動して計量部から放出される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、計量部本体の体積に対して試料液面の面積が小さいため、表面張力による計量の誤差を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(発明の概要)
チップは、試料を計量するための計量部を有している。また、計量部における試料の計量は、回転軸を中心としてチップを回転することにより行われる。計量部は、計量部本体に試料を導入する第1端部と、計量部本体から試料を導出する第2端部を有している。また、第1端部及び第2端部の断面積は計量部本体よりも小さくなるように形成されている。チップを回転させて計量を行う場合、試料は計量部本体を満たしつつ第1端部及び第2端部に液面を有する。第1端部及び第2端部は計量部本体よりも断面積が小さいため、第1端部及び第2端部での試料液面の面積は計量部本体において試料液面を有する場合と比較して小さくなる。よって、試料の表面張力による計量の誤差を最小限に抑えることができる。
【0012】
<実施形態例>
(構成)
図1は本発明に係るチップの分解平面図であり、図2は回転軸とチップの各部との関係を示す説明図ある。チップ1は、板状基板である第1基板3と第2基板5とが貼り合わされて形成されている。第1基板3には、試料が導入される取込口7a、空気の取込口である空気孔9a及び試料を取り出すための取出口11aが形成されている。また、第2基板5には、取込口7a、空気孔9a及び取出口11aそれぞれに対応する取込口7b、空気孔9b及び取出口11bが形成されている。さらに、第2基板5には、計量部本体13a、計量部本体13aと取込口7aとを接続する第1端部13b、計量部本体13aと空気孔9aとを接続する第2端部13c、及び取り出し管19が設けられている。取り出し管19は、第1端部13bの途中から枝分かれし、第1端部13bと取出口11bとを接続する。ここで、試料を計量する計量部13は、計量部本体13a、計量部本体13aの一端に接続される第1端部13b及び計量部本体13aの他端に接続される第2端部13cから構成される。また、第1端部13b又は第2端部13cの断面積は、計量部本体13aの断面積よりも小さい。さらに、計量部13により計量される試料の体積当たりの液面の面積が、0.01〜1mm2/μlであると好ましく、さらに好ましくは0.1〜1mm2/μlである。また、第1端部13b又は第2端部13cの断面形状は、円形状の方が断面積が小さくなるので矩形状よりも円形状の方が好ましい。
【0013】
この検査チップ1では、図2に示すように回転軸21を中心とする回転により試料を計量する。よって、第1端部13b及び第2端部13cの少なくとも一部は、計量部本体13aよりも回転軸21側に位置している。ここで、計量部本体13aを構成する壁面のうち最も回転軸21に近い壁面を壁面Aとし、取り出し管19が第1端部13bから枝分かれする位置を分岐点Bとする。分岐点Bと回転軸21との距離は、計量部本体13aの壁面Aと回転軸21との距離よりも近くなるように設計されている。つまり、計量部本体13aが分岐点Bよりも回転軸21から遠くなるように設計されている。
【0014】
(計量時の試料液面と回転軸との関係)
図3は、計量時の試料の状態を説明するための説明図である。図3の斜線部に示すように、回転軸21を中心とする計量時の回転において、試料は計量部本体13aを満たし、第1端部13b及び第2端部13cに液面を有する。具体的に計量時の試料液面と回転軸21との関係を次に説明する。
【0015】
計量対象である試料は取込口7a及び7bから取り込まれる。チップ1は回転軸21を中心として回転され、試料は取込口7bから第1端部13bに導入され、計量部本体13aに導入される。ここで、前述のように分岐点Bが計量部本体13aの壁面Aよりも回転軸21側に位置している。よって、試料は計量部本体13aを満たしつつ第2端部13cに導入される。さらに、第2端部13cの途中から取り出し管19が分岐しているため、第2端部13c内の試料は取り出し管19を介して取出口11bに導入される。つまり、第2端部13c内において取り出し管19との分岐点Bからあふれ出た試料は、取出口11bに導入される。よって、第2端部13c内の試料の液面Yは、第2端部13c内の分岐点Bに位置する。さらに、試料は、第1端部13bにおいても液面Xを有する。ここで、回転軸21と第1端部13b内の液面Xとの距離は、回転軸21と第2端部13c内の液面Yとの距離と概ね同一である。つまり、液面X及び液面Yは、回転軸21を中心とする同心円21a上に位置する。
【0016】
なお、図3では、計量部本体13aの底部Cから液面X及び液面Yの距離が同程度である。しかし、回転軸21から液面X及び液面Yの距離が概ね同一であれば良く、図4に示すように、計量部本体13aの底部Cから液面X及び液面Yの距離は異なっていても良い。
(空気孔)
試料は、その表面張力により第2端部13cの分岐点Bから取り出し管19の壁面を伝って流れ出る傾向にある。そして、第2端部13c内の試料の液面Yが分岐点Bよりも回転軸21から遠ざかる方向に位置する場合がある。よって、計量部13で計量される量が、本来計量されるべき量よりも少なくなる場合がある。そこで、空気孔9bから空気を取り込むことにより、分岐点Bにおいて第2端部13cから取り出し管19の壁面を伝って過剰に流れ出ようとする試料を断ち切る。これにより、計量部13において正確に試料を計量することができる。
【0017】
また、図1に示すように第1端部13bにもまた取出口7a及び7bを介して、空気が取り込まれる。ここで、第1端部13b及び第2端部13cの液面の位置は、第2端部13cと取り出し管19との分岐点Bにより決定されるが、その他の影響も受ける可能性がある。例えば、計量部本体13a、第1端部13b及び第2端部13cに導入される試料の量、第1端部13b又は第2端部13cの液面に印加される圧力、回転のトルクなどによって影響を受ける。例えば、第2端部13c内の圧力が第1端部13b内の圧力よりも大きい場合は、第2端部13cの液面は第1端部13bの液面よりも回転軸21からより離れて位置するようになる。一方、第2端部13c内の圧力が第1端部13b内の圧力よりも小さい場合は、第2端部13cの液面は第1端部13bの液面よりも回転軸21に近い場所に位置するようになる。上述のように第1端部13bの液面には取出口7bを介して大気圧が印加され、第2端部13cの液面には空気孔9bを介して大気圧が印加される。上述のように空気を導入可能な空気孔9を設けて液面に印加される圧力を一定とすることで、前述のような圧力の変動による液面の位置の変動を無くし正確な計量を行うことができる。また、液面の位置を変動させるパラメータを減らすことで、導入すべき試料の量の調整、回転のトルクの調整又は計量部の設計等を容易に行うことができる。
【0018】
(変形例1)
図5は、計量部13の変形例1を示す平面図である。上記では、第2端部13cに接続される空気孔9a、9bを設けている。表面張力により第2端部13cから壁面を伝って取り出し管19に試料が流れ出す場合があるが、流れ出すことにより変動する試料の量が誤差の範囲内であれば、空気孔9a、9bを設けなくても良い。よって、図5に示すように、第2端部13cから連続するように取り出し管19を設けても良い。
【0019】
(変形例2)
図6は、計量部13の変形例2を示す平面図である。上記図1では分岐点Bと回転軸21との距離は、計量部本体13aの壁面Aと回転軸21との距離よりも近くなるように設計されている。しかし、試料の計量の際に、第1端部13b及び第2端部13cのみに液面が位置するように設計すれば良く、例えば図6のように設計しても良い。図6では、計量部本体13aのうち最も回転軸21に近い壁面Aと回転軸21との距離が、液面X及び液面Yと回転軸21との距離と同程度である。この場合、試料は、計量部本体13a内を満たしつつ第1端部13b及び第2端部13cに液面を有する。
【0020】
(変形例3)
図7は、計量部13の変形例3を示す平面図である。計量部本体13a、第1端部13b及び第2端部13cは、回転軸21に対して開きを有するU字管あるいはV字管形状に形成されても良い。図7に示すような形状で計量部を形成した場合であっても、第1端部13b及び第2端部13cに液面が位置するため、表面張力の影響を最小限に抑えて試料を正確に計量することができる。
【0021】
また、図7に示すように計量部13をU字管あるいはV字管などに形成することで、流路や試料内の気泡が計量部13の流路壁に付着することを防止することができる。よって、気泡による影響を受けることなく正確に試料を計量することができる。例えば、チップを回転軸21を中心として回転することにより、第1端部13b、計量部本体13a及び第2端部13cに順に試料を導入する。このとき、U字管あるいはV字管は回転軸21に対して開きを有するように形成されているため、発生した気泡は遠心力を受けて流路壁に付着することができず、流路壁に沿って移動して計量部13から放出される。
【0022】
(作用効果)
上述の通り、試料は第1端部13b及び第2端部13cにおいてのみ液面を有するため、その液面の面積が小さい。一般的に、試料の濡れ性が小さい場合は表面張力により液面が盛り上がり、濡れ性が大きい場合は液面がへこむ。本発明では、計量部本体13aの体積に対して試料液面の面積が小さいため、表面張力による計量の誤差を最小限に抑えることができる。また、濡れ性による影響が小さいため、試料が通過する計量部本体13a、第1端部13b及び第2端部13cに、例えば試料の濡れ性を改善するための内壁処理を行う必要が無い。よって、チップの製造コストを削減することができる。また、異なる表面張力を有する試料に対しても、それぞれの試料の表面張力を考慮することなく上記チップを用いることができる。
【0023】
<実施例>
(構成)
図8は、本発明の実施例に係るチップの平面図である。チップ100は、血液導入部107、遠心分離部122、血球分離部124、空気孔109、計量部113、取り出し管119、廃液溜111、試薬溜125、混合部127及び検出路129を含む。
【0024】
血液導入部107には、人体等から採取された全血が導入される。遠心分離部122は、回転軸121を中心とするチップ100の回転により全血から血漿を遠心分離する。血球分離部124は、遠心分離された血球を保持する。
計量部113は、上述の図7と同様の構成の計量部13であり、回転軸123に対して開きを有するV字状に形成されている。ここで、計量部113は、細い管状を有しており、その内部に位置する溶液の表面積は小さくなる。
【0025】
また、空気孔109及び取り出し管119は、上記図1等に示す空気孔9及び取り出し管19と同様の構成である。取り出し管119及び空気孔109はともに、V字状の計量部113の端部に接続されている。なお、取り出し管119は計量部113の端部から折れ曲がるように形成されており、その折れ曲がった形状により所定の量の血漿を計量部113にて計量可能にしている。つまり、計量部113が所定量満たされると、計量部113から溢れた血漿が取り出し管119から流れ出る。空気孔109は、計量部113から取り出し管119に血漿が過剰に流れ出るのを防止するため、空気を取り込む。廃液溜111は、取り出し管119から取り出された血漿を保持する。
【0026】
試薬溜125は、混合部127で血漿と混合される試薬を保持する。試薬溜125内の試薬は、回転軸121を中心とする回転により試薬溜125から混合部127に導入される。また、回転軸121を中心とする回転により、さらに計量部113内の血漿が混合部127に導入される。そして、混合部127では血漿と試薬とが混合される。
検出部129には、混合部127で混合された血漿及び試薬が導入される。そして、例えば検出部129に光を照射して出射される光の波長を検出するなどして、血漿内の対象成分の検出を行う。
【0027】
(処理)
チップ100における試料の処理の方法について説明する。図9は、チップ内の試料の処理流れを示す模式図である。
ステップS1:血液導入部107には人体等から採取された例えば全血が導入される。また、試薬溜125には対象成分と反応させるための試薬が導入される。
【0028】
ステップS2:血液導入部107に取り込まれた全血は、回転軸121を中心とするチップ100の回転により遠心分離部122に導入される。そして、血液中の血球が血球分離部124に導入され、遠心分離部122には血漿が分離される。また、この回転軸121を中心とする回転により、試薬溜125内の試薬が混合部127に導入される。
ステップS3:次に、回転軸123を中心とするチップ100の回転により、血漿が計量部113に導入される。計量部113から溢れ出た血漿は、空気孔109からの大気圧の影響及び遠心力を受けて取り出し管119から廃液溜111に導入される。このとき、計量部113により計量されている血漿は、その液面が計量部113の管内に位置する。よって、液面の面積が小さいため、表面張力による計量の誤差を最小限に抑えて正確に計量される。
【0029】
ステップS4:回転軸121を中心とする回転に切り替えて、計量部113により計量した血漿を混合部127に導入して試薬と混合する。
ステップS5:混合された血漿及び試薬を検出部129に導入して、光の照射により対象成分を検出する。
<比較例>
(構成)
図10は、本発明の比較例に係るチップの平面図である。チップ200は、血液導入部203、遠心分離部201、計量部205、試薬溜219a及び219b及び混合部217を含む。ここで、計量部205は、本発明とは異なる形状を有している。つまり、特許文献1に示すように計量部205内での試料液面の面積が、本発明と比較して大きくなるような形状である。図10では、血液導入部203に導入された全血が回転軸310を中心とする回転により、遠心分離部201に血漿が分離される。そして、回転軸311を中心とする回転により、計量部205に血漿が導入されて計量される。図10には、計量部205に導入された血漿が斜線で示されている。このように計量部205での試料液面は大きい。計量部205で計量された血漿は、回転軸310を中心とする回転により、混合部217に導入されて試薬と混合される。
【0030】
(計量部での計量結果)
表1は、実験例の図8に示す計量部113及び比較例の図10に示す計量部205での各種検体の計量ばらつきを示す結果である。ここでは、検体1〜3を用い、計量部に内壁処理を行わなかった場合(内壁処理無し)と内壁処理を行った場合(内壁処理有り)とで軽量ばらつきCV(coefficient of variation)値を算出した。
【0031】
【表1】
検体1〜3:それぞれ異なるヒト全血から血球分離して得られた血漿1〜3。
検体4:Lタイプワコー酵素キャリブレータ(和光純薬製):人工血清を精製した試薬であり、含有成分をある一定の濃度になるように調整した試薬。
内壁処理:テフロン(登録商標)、フッ素系コーティング剤で流路内壁をコーティング。撥水性を向上させることで血漿の濡れ性を低める。
【0032】
上記表1に示すように、実験例での内壁処理無しと比較例での内壁処理無しとを比較すると、実験例での計量ばらつきの方が少ないことが分かる。また、実験例での内壁処理有りと比較例での内壁処理有りとを比較すると、同様に実験例での計量ばらつきの方が少ないことが分かる。以上より、本発明のように構成された計量部では、正確に試料を計量することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の計量部により正確に溶液を計量することができるため、正確な分析等が必要な各種流体チップに本発明を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るチップの分解平面図。
【図2】回転軸とチップの各部との関係を示す説明図。
【図3】計量時の試料の状態を説明するための説明図。
【図4】液面の位置を説明するための説明図。
【図5】計量部の変形例1を示す平面図。
【図6】計量部の変形例2を示す平面図。
【図7】計量部の変形例3を示す平面図。
【図8】本発明の実施例に係るチップの平面図。
【図9】チップ内の試料の処理流れを示す模式図。
【図10】本発明の比較例に係るチップの平面図。
【図11】特許文献1に開示されている血液分析チップの平面図。
【図12】特許文献1の試料測定手段での液面の様子を示す説明図。
【符号の説明】
【0035】
9:空気孔
11:取出口
13:計量部
13a:計量部本体
13b:第1端部
13c:第2端部
19:取り出し管
21:回転軸
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の計量を行う計量部を有するチップに関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓・胆道系疾患やアルコール性肝障害を診断し、その治療経過を観察するため、肝臓、腎臓、膵臓などで活動している酵素やその生成物を血液中から採取して濃度測定する生化学検査が広く実施されている。このような生化学検査を行うためのチップとして、遠心力を利用して血漿を遠心分離する血液分析チップが、特許文献1に開示されている。図11は、特許文献1に開示されている血液分析チップの平面図である。血液サンプルは開口28から導入され、血液保持チャンバ36に保持される。ここで、血液分析チップでは、血液中の対象成分の所定量を正確に計量して、試薬との混合や反応を行わせる。そのため、血液分析チップ内の血液サンプルを、遠心力により血液保持チャンバ36から血液分離チャンバに導入するとともに対象となる試料を遠心分離する。そして、分離された試料を試料測定手段63において計量する。このように計量された試料を用いることで、正確な分析等を行うことができる。
【特許文献1】米国特許第4、883、763号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、対象となる試料の性質によっては、試料測定手段63での計量を正確に行うことができない。例えば、試料の濡れ性が低い溶液の場合は、図12(a)に示すようにその表面張力により試料測定手段63での液面が盛り上がる。一方、濡れ性が高い試料の場合は図12(b)に示すように液面がへこむ。このように試料の性質により液面が上下し、試料が盛り上がった分やへこんだ分だけ計量すべき量と異なってしまう。よって、試料を正確に計量することができない。
【0004】
そこで、本発明は、正確に試料を計量することができるチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願第1発明は、上記の課題を解決するために、回転軸を中心とする回転により試料を計量する計量部を有するチップを提供する。ここで、前記計量部は、計量時に前記試料が満たされる計量部本体と、前記計量部本体の一端に接続され、前記試料の導入口である第1端部と、前記計量部本体の他端に接続される第2端部とを有する。また、前記回転軸を中心としてチップを回転して試料を計量するときに、前記第1端部での試料液面と前記第2端部での試料液面とが前記回転軸を中心とする回転の同心円上にあり、かつ前記第1及び第2端部での試料液面と前記回転軸との距離は、前記計量部本体と前記回転軸との距離よりも近いかあるいは同じである。
【0006】
試料を計量する場合、第1端部から計量部本体及び第2端部に順に試料を導入して、回転軸を中心としてチップを回転する。すると、試料は、計量部本体を満たすとともに、第1端部及び第2端部において液面を有する。これは、第1及び第2端部での試料液面と回転軸との距離が、計量部本体と回転軸との距離よりも近いかあるいは同じであるためである。このように、試料は第1端部及び第2端部においてのみ液面を有するため、その液面の面積が小さい。一般的に、試料の濡れ性が小さい場合は表面張力により液面が盛り上がり、濡れ性が大きい場合は液面がへこむ。上述のように、計量部本体の体積に対して試料液面の面積が小さいため、表面張力による計量の誤差を最小限に抑えることができる。また、濡れ性による影響が小さいため、試料が通過する計量部本体、第1端部及び第2端部に、例えば試料の濡れ性を改善するための内壁処理を行う必要が無い。よって、チップの製造コストを削減することができる。また、異なる表面張力を有する試料に対しても表面張力を考慮することなく上記チップを用いることができる。
【0007】
本願第2発明は、第1発明において、前記計量部は、前記第2端部から分岐し、前記第2端部から溢れる試料を流出させる取り出し管をさらに有するチップを提供する。
例えば、計量部本体、第1端部及び第2端部を満たす以上の試料をチップに導入し、回転軸を中心としてチップを回転する。この回転による遠心力により、第2端部内の液面と第1端部内の液面とが同心円上に位置するようになる。このとき、第2端部から分岐する取り出し管を介して、第2端部からあふれ出た試料が流出する。よって、第1端部、計量部本体及び第2端部からなる計量部には、所定量の試料で満たされている。そのため、過剰の試料をチップに導入した場合であっても、計量部により所望の量の試料を正確に計量することができる。
【0008】
本願第3発明は、第1発明において、前記計量部は、前記第2端部に接続され、前記第2端部の試料液面に大気圧を印加するための空気孔をさらに有するチップを提供する。
試料は、その表面張力により第2端部の分岐点から取り出し管の壁面を伝って流れ出る傾向にある。空気孔から空気を取り込むことにより、分岐点において第2端部から取り出し管の壁面を伝って過剰に流れ出ようとする試料を断ち切ることができる。よって、計量部において正確に試料を計量することができる。
【0009】
本願第4発明は、第1発明において、前記計量部本体、前記第1端部及び前記第2端部は、前記回転軸に対して開きを有するU字管あるいはV字管形状に形成されている、チップを提供する。
計量部本体、第1端部及び第2端部を、U字管あるいはV字管などに形成することで、流路や試料内の気泡が流路壁に付着することを防止することができる。よって、気泡による影響を受けることなく正確に試料を計量することができる。例えば、チップを回転軸を中心として回転することにより、第1端部、計量部本体及び第2端部に順に試料を導入する。このとき、U字管あるいはV字管は回転軸に対して開きを有するように形成されているため、発生した気泡は遠心力を受けて流路壁に付着することができず、流路壁に沿って移動して計量部から放出される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、計量部本体の体積に対して試料液面の面積が小さいため、表面張力による計量の誤差を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(発明の概要)
チップは、試料を計量するための計量部を有している。また、計量部における試料の計量は、回転軸を中心としてチップを回転することにより行われる。計量部は、計量部本体に試料を導入する第1端部と、計量部本体から試料を導出する第2端部を有している。また、第1端部及び第2端部の断面積は計量部本体よりも小さくなるように形成されている。チップを回転させて計量を行う場合、試料は計量部本体を満たしつつ第1端部及び第2端部に液面を有する。第1端部及び第2端部は計量部本体よりも断面積が小さいため、第1端部及び第2端部での試料液面の面積は計量部本体において試料液面を有する場合と比較して小さくなる。よって、試料の表面張力による計量の誤差を最小限に抑えることができる。
【0012】
<実施形態例>
(構成)
図1は本発明に係るチップの分解平面図であり、図2は回転軸とチップの各部との関係を示す説明図ある。チップ1は、板状基板である第1基板3と第2基板5とが貼り合わされて形成されている。第1基板3には、試料が導入される取込口7a、空気の取込口である空気孔9a及び試料を取り出すための取出口11aが形成されている。また、第2基板5には、取込口7a、空気孔9a及び取出口11aそれぞれに対応する取込口7b、空気孔9b及び取出口11bが形成されている。さらに、第2基板5には、計量部本体13a、計量部本体13aと取込口7aとを接続する第1端部13b、計量部本体13aと空気孔9aとを接続する第2端部13c、及び取り出し管19が設けられている。取り出し管19は、第1端部13bの途中から枝分かれし、第1端部13bと取出口11bとを接続する。ここで、試料を計量する計量部13は、計量部本体13a、計量部本体13aの一端に接続される第1端部13b及び計量部本体13aの他端に接続される第2端部13cから構成される。また、第1端部13b又は第2端部13cの断面積は、計量部本体13aの断面積よりも小さい。さらに、計量部13により計量される試料の体積当たりの液面の面積が、0.01〜1mm2/μlであると好ましく、さらに好ましくは0.1〜1mm2/μlである。また、第1端部13b又は第2端部13cの断面形状は、円形状の方が断面積が小さくなるので矩形状よりも円形状の方が好ましい。
【0013】
この検査チップ1では、図2に示すように回転軸21を中心とする回転により試料を計量する。よって、第1端部13b及び第2端部13cの少なくとも一部は、計量部本体13aよりも回転軸21側に位置している。ここで、計量部本体13aを構成する壁面のうち最も回転軸21に近い壁面を壁面Aとし、取り出し管19が第1端部13bから枝分かれする位置を分岐点Bとする。分岐点Bと回転軸21との距離は、計量部本体13aの壁面Aと回転軸21との距離よりも近くなるように設計されている。つまり、計量部本体13aが分岐点Bよりも回転軸21から遠くなるように設計されている。
【0014】
(計量時の試料液面と回転軸との関係)
図3は、計量時の試料の状態を説明するための説明図である。図3の斜線部に示すように、回転軸21を中心とする計量時の回転において、試料は計量部本体13aを満たし、第1端部13b及び第2端部13cに液面を有する。具体的に計量時の試料液面と回転軸21との関係を次に説明する。
【0015】
計量対象である試料は取込口7a及び7bから取り込まれる。チップ1は回転軸21を中心として回転され、試料は取込口7bから第1端部13bに導入され、計量部本体13aに導入される。ここで、前述のように分岐点Bが計量部本体13aの壁面Aよりも回転軸21側に位置している。よって、試料は計量部本体13aを満たしつつ第2端部13cに導入される。さらに、第2端部13cの途中から取り出し管19が分岐しているため、第2端部13c内の試料は取り出し管19を介して取出口11bに導入される。つまり、第2端部13c内において取り出し管19との分岐点Bからあふれ出た試料は、取出口11bに導入される。よって、第2端部13c内の試料の液面Yは、第2端部13c内の分岐点Bに位置する。さらに、試料は、第1端部13bにおいても液面Xを有する。ここで、回転軸21と第1端部13b内の液面Xとの距離は、回転軸21と第2端部13c内の液面Yとの距離と概ね同一である。つまり、液面X及び液面Yは、回転軸21を中心とする同心円21a上に位置する。
【0016】
なお、図3では、計量部本体13aの底部Cから液面X及び液面Yの距離が同程度である。しかし、回転軸21から液面X及び液面Yの距離が概ね同一であれば良く、図4に示すように、計量部本体13aの底部Cから液面X及び液面Yの距離は異なっていても良い。
(空気孔)
試料は、その表面張力により第2端部13cの分岐点Bから取り出し管19の壁面を伝って流れ出る傾向にある。そして、第2端部13c内の試料の液面Yが分岐点Bよりも回転軸21から遠ざかる方向に位置する場合がある。よって、計量部13で計量される量が、本来計量されるべき量よりも少なくなる場合がある。そこで、空気孔9bから空気を取り込むことにより、分岐点Bにおいて第2端部13cから取り出し管19の壁面を伝って過剰に流れ出ようとする試料を断ち切る。これにより、計量部13において正確に試料を計量することができる。
【0017】
また、図1に示すように第1端部13bにもまた取出口7a及び7bを介して、空気が取り込まれる。ここで、第1端部13b及び第2端部13cの液面の位置は、第2端部13cと取り出し管19との分岐点Bにより決定されるが、その他の影響も受ける可能性がある。例えば、計量部本体13a、第1端部13b及び第2端部13cに導入される試料の量、第1端部13b又は第2端部13cの液面に印加される圧力、回転のトルクなどによって影響を受ける。例えば、第2端部13c内の圧力が第1端部13b内の圧力よりも大きい場合は、第2端部13cの液面は第1端部13bの液面よりも回転軸21からより離れて位置するようになる。一方、第2端部13c内の圧力が第1端部13b内の圧力よりも小さい場合は、第2端部13cの液面は第1端部13bの液面よりも回転軸21に近い場所に位置するようになる。上述のように第1端部13bの液面には取出口7bを介して大気圧が印加され、第2端部13cの液面には空気孔9bを介して大気圧が印加される。上述のように空気を導入可能な空気孔9を設けて液面に印加される圧力を一定とすることで、前述のような圧力の変動による液面の位置の変動を無くし正確な計量を行うことができる。また、液面の位置を変動させるパラメータを減らすことで、導入すべき試料の量の調整、回転のトルクの調整又は計量部の設計等を容易に行うことができる。
【0018】
(変形例1)
図5は、計量部13の変形例1を示す平面図である。上記では、第2端部13cに接続される空気孔9a、9bを設けている。表面張力により第2端部13cから壁面を伝って取り出し管19に試料が流れ出す場合があるが、流れ出すことにより変動する試料の量が誤差の範囲内であれば、空気孔9a、9bを設けなくても良い。よって、図5に示すように、第2端部13cから連続するように取り出し管19を設けても良い。
【0019】
(変形例2)
図6は、計量部13の変形例2を示す平面図である。上記図1では分岐点Bと回転軸21との距離は、計量部本体13aの壁面Aと回転軸21との距離よりも近くなるように設計されている。しかし、試料の計量の際に、第1端部13b及び第2端部13cのみに液面が位置するように設計すれば良く、例えば図6のように設計しても良い。図6では、計量部本体13aのうち最も回転軸21に近い壁面Aと回転軸21との距離が、液面X及び液面Yと回転軸21との距離と同程度である。この場合、試料は、計量部本体13a内を満たしつつ第1端部13b及び第2端部13cに液面を有する。
【0020】
(変形例3)
図7は、計量部13の変形例3を示す平面図である。計量部本体13a、第1端部13b及び第2端部13cは、回転軸21に対して開きを有するU字管あるいはV字管形状に形成されても良い。図7に示すような形状で計量部を形成した場合であっても、第1端部13b及び第2端部13cに液面が位置するため、表面張力の影響を最小限に抑えて試料を正確に計量することができる。
【0021】
また、図7に示すように計量部13をU字管あるいはV字管などに形成することで、流路や試料内の気泡が計量部13の流路壁に付着することを防止することができる。よって、気泡による影響を受けることなく正確に試料を計量することができる。例えば、チップを回転軸21を中心として回転することにより、第1端部13b、計量部本体13a及び第2端部13cに順に試料を導入する。このとき、U字管あるいはV字管は回転軸21に対して開きを有するように形成されているため、発生した気泡は遠心力を受けて流路壁に付着することができず、流路壁に沿って移動して計量部13から放出される。
【0022】
(作用効果)
上述の通り、試料は第1端部13b及び第2端部13cにおいてのみ液面を有するため、その液面の面積が小さい。一般的に、試料の濡れ性が小さい場合は表面張力により液面が盛り上がり、濡れ性が大きい場合は液面がへこむ。本発明では、計量部本体13aの体積に対して試料液面の面積が小さいため、表面張力による計量の誤差を最小限に抑えることができる。また、濡れ性による影響が小さいため、試料が通過する計量部本体13a、第1端部13b及び第2端部13cに、例えば試料の濡れ性を改善するための内壁処理を行う必要が無い。よって、チップの製造コストを削減することができる。また、異なる表面張力を有する試料に対しても、それぞれの試料の表面張力を考慮することなく上記チップを用いることができる。
【0023】
<実施例>
(構成)
図8は、本発明の実施例に係るチップの平面図である。チップ100は、血液導入部107、遠心分離部122、血球分離部124、空気孔109、計量部113、取り出し管119、廃液溜111、試薬溜125、混合部127及び検出路129を含む。
【0024】
血液導入部107には、人体等から採取された全血が導入される。遠心分離部122は、回転軸121を中心とするチップ100の回転により全血から血漿を遠心分離する。血球分離部124は、遠心分離された血球を保持する。
計量部113は、上述の図7と同様の構成の計量部13であり、回転軸123に対して開きを有するV字状に形成されている。ここで、計量部113は、細い管状を有しており、その内部に位置する溶液の表面積は小さくなる。
【0025】
また、空気孔109及び取り出し管119は、上記図1等に示す空気孔9及び取り出し管19と同様の構成である。取り出し管119及び空気孔109はともに、V字状の計量部113の端部に接続されている。なお、取り出し管119は計量部113の端部から折れ曲がるように形成されており、その折れ曲がった形状により所定の量の血漿を計量部113にて計量可能にしている。つまり、計量部113が所定量満たされると、計量部113から溢れた血漿が取り出し管119から流れ出る。空気孔109は、計量部113から取り出し管119に血漿が過剰に流れ出るのを防止するため、空気を取り込む。廃液溜111は、取り出し管119から取り出された血漿を保持する。
【0026】
試薬溜125は、混合部127で血漿と混合される試薬を保持する。試薬溜125内の試薬は、回転軸121を中心とする回転により試薬溜125から混合部127に導入される。また、回転軸121を中心とする回転により、さらに計量部113内の血漿が混合部127に導入される。そして、混合部127では血漿と試薬とが混合される。
検出部129には、混合部127で混合された血漿及び試薬が導入される。そして、例えば検出部129に光を照射して出射される光の波長を検出するなどして、血漿内の対象成分の検出を行う。
【0027】
(処理)
チップ100における試料の処理の方法について説明する。図9は、チップ内の試料の処理流れを示す模式図である。
ステップS1:血液導入部107には人体等から採取された例えば全血が導入される。また、試薬溜125には対象成分と反応させるための試薬が導入される。
【0028】
ステップS2:血液導入部107に取り込まれた全血は、回転軸121を中心とするチップ100の回転により遠心分離部122に導入される。そして、血液中の血球が血球分離部124に導入され、遠心分離部122には血漿が分離される。また、この回転軸121を中心とする回転により、試薬溜125内の試薬が混合部127に導入される。
ステップS3:次に、回転軸123を中心とするチップ100の回転により、血漿が計量部113に導入される。計量部113から溢れ出た血漿は、空気孔109からの大気圧の影響及び遠心力を受けて取り出し管119から廃液溜111に導入される。このとき、計量部113により計量されている血漿は、その液面が計量部113の管内に位置する。よって、液面の面積が小さいため、表面張力による計量の誤差を最小限に抑えて正確に計量される。
【0029】
ステップS4:回転軸121を中心とする回転に切り替えて、計量部113により計量した血漿を混合部127に導入して試薬と混合する。
ステップS5:混合された血漿及び試薬を検出部129に導入して、光の照射により対象成分を検出する。
<比較例>
(構成)
図10は、本発明の比較例に係るチップの平面図である。チップ200は、血液導入部203、遠心分離部201、計量部205、試薬溜219a及び219b及び混合部217を含む。ここで、計量部205は、本発明とは異なる形状を有している。つまり、特許文献1に示すように計量部205内での試料液面の面積が、本発明と比較して大きくなるような形状である。図10では、血液導入部203に導入された全血が回転軸310を中心とする回転により、遠心分離部201に血漿が分離される。そして、回転軸311を中心とする回転により、計量部205に血漿が導入されて計量される。図10には、計量部205に導入された血漿が斜線で示されている。このように計量部205での試料液面は大きい。計量部205で計量された血漿は、回転軸310を中心とする回転により、混合部217に導入されて試薬と混合される。
【0030】
(計量部での計量結果)
表1は、実験例の図8に示す計量部113及び比較例の図10に示す計量部205での各種検体の計量ばらつきを示す結果である。ここでは、検体1〜3を用い、計量部に内壁処理を行わなかった場合(内壁処理無し)と内壁処理を行った場合(内壁処理有り)とで軽量ばらつきCV(coefficient of variation)値を算出した。
【0031】
【表1】
検体1〜3:それぞれ異なるヒト全血から血球分離して得られた血漿1〜3。
検体4:Lタイプワコー酵素キャリブレータ(和光純薬製):人工血清を精製した試薬であり、含有成分をある一定の濃度になるように調整した試薬。
内壁処理:テフロン(登録商標)、フッ素系コーティング剤で流路内壁をコーティング。撥水性を向上させることで血漿の濡れ性を低める。
【0032】
上記表1に示すように、実験例での内壁処理無しと比較例での内壁処理無しとを比較すると、実験例での計量ばらつきの方が少ないことが分かる。また、実験例での内壁処理有りと比較例での内壁処理有りとを比較すると、同様に実験例での計量ばらつきの方が少ないことが分かる。以上より、本発明のように構成された計量部では、正確に試料を計量することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の計量部により正確に溶液を計量することができるため、正確な分析等が必要な各種流体チップに本発明を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るチップの分解平面図。
【図2】回転軸とチップの各部との関係を示す説明図。
【図3】計量時の試料の状態を説明するための説明図。
【図4】液面の位置を説明するための説明図。
【図5】計量部の変形例1を示す平面図。
【図6】計量部の変形例2を示す平面図。
【図7】計量部の変形例3を示す平面図。
【図8】本発明の実施例に係るチップの平面図。
【図9】チップ内の試料の処理流れを示す模式図。
【図10】本発明の比較例に係るチップの平面図。
【図11】特許文献1に開示されている血液分析チップの平面図。
【図12】特許文献1の試料測定手段での液面の様子を示す説明図。
【符号の説明】
【0035】
9:空気孔
11:取出口
13:計量部
13a:計量部本体
13b:第1端部
13c:第2端部
19:取り出し管
21:回転軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心とする回転により試料を計量する計量部を有するチップであって、
前記計量部は、
計量時に前記試料が満たされる計量部本体と、
前記計量部本体の一端に接続され、前記試料の導入口である第1端部と、
前記計量部本体の他端に接続される第2端部とを有し、
前記回転軸を中心としてチップを回転して試料を計量するときに、前記第1端部での試料液面と前記第2端部での試料液面とが前記回転軸を中心とする回転の同心円上にあり、かつ前記第1及び第2端部での試料液面と前記回転軸との距離は、前記計量部本体と前記回転軸との距離よりも近いかあるいは同じであるチップ。
【請求項2】
前記計量部は、前記第2端部から分岐し、前記第2端部から溢れる試料を流出させる取り出し管をさらに有する、請求項1に記載のチップ。
【請求項3】
前記計量部は、前記第2端部に接続され、前記第2端部の試料液面に大気圧を印加するための空気孔をさらに有する、請求項1に記載のチップ。
【請求項4】
前記計量部本体、前記第1端部及び前記第2端部は、前記回転軸に対して開きを有するU字管あるいはV字管形状に形成されている、請求項1に記載のチップ。
【請求項1】
回転軸を中心とする回転により試料を計量する計量部を有するチップであって、
前記計量部は、
計量時に前記試料が満たされる計量部本体と、
前記計量部本体の一端に接続され、前記試料の導入口である第1端部と、
前記計量部本体の他端に接続される第2端部とを有し、
前記回転軸を中心としてチップを回転して試料を計量するときに、前記第1端部での試料液面と前記第2端部での試料液面とが前記回転軸を中心とする回転の同心円上にあり、かつ前記第1及び第2端部での試料液面と前記回転軸との距離は、前記計量部本体と前記回転軸との距離よりも近いかあるいは同じであるチップ。
【請求項2】
前記計量部は、前記第2端部から分岐し、前記第2端部から溢れる試料を流出させる取り出し管をさらに有する、請求項1に記載のチップ。
【請求項3】
前記計量部は、前記第2端部に接続され、前記第2端部の試料液面に大気圧を印加するための空気孔をさらに有する、請求項1に記載のチップ。
【請求項4】
前記計量部本体、前記第1端部及び前記第2端部は、前記回転軸に対して開きを有するU字管あるいはV字管形状に形成されている、請求項1に記載のチップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−17342(P2007−17342A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200451(P2005−200451)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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