説明

記憶素子及び記憶装置

【課題】極性の異なる電気パルスを印加する場合でも書き込みディスターブの発生を防止することが可能であり、かつ抵抗変化素子に大電流を流すことが可能である、データを問題無く書き込み可能な(即ち、書き込みディスターブが発生しない)記憶素子及びそれを備える記憶装置を提供する。
【解決手段】
極性が正又は負の電気パルスの印加によりその電気抵抗値が変化しかつ該変化した後の電気抵抗値を維持する抵抗変化素子1と、抵抗変化素子1に電気パルスの印加時に流れる電流を抑制する電流抑制素子2と、を備え、抵抗変化素子と電流抑制素子2とが直列に接続された記憶素子3であって、電流抑制素子2は、第1の電極と、第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に配設された電流抑制層と、を備え、電流抑制層が、SiN(0<x≦0.85)でかつアモルファス半導体により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶素子及びそれをマトリクス状に配設してなる記憶装置に関し、特に、極性の異なる電気パルスを印加してデータを書き込む記憶素子及びそれをマトリクス状に配設してなる記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆる抵抗変化素子を記憶素子として利用してそれをマトリクス状に配設する形態の記憶装置が提案されている。
【0003】
この抵抗変化素子は、主として金属酸化物からなる材料により構成される薄膜を有している。この薄膜に電気パルスを印加すると、その電気抵抗値が変化し、かつ、その変化した後の電気抵抗値が保存される。従って、この薄膜の高抵抗状態と低抵抗状態とを、それぞれ、例えば2値データの“1”と“0”とに対応させると、抵抗変化素子に2値データを記憶させることが可能になる。尚、抵抗変化素子の薄膜に印加する電気パルスの電流密度や、電気パルスの印加により発生する電界の大きさは、薄膜の物理的な状態を変化させるには十分であり、かつ、薄膜を破壊しない程度であればよい。又、この抵抗変化素子の薄膜には、電気パルスを複数回印加してもよい。
【0004】
このような、抵抗変化素子が複数のワード線と複数のビット線との各々の立体交差部に複数配設されてなる記憶装置(いわゆる、クロスポイント型の記憶装置)においては、ある抵抗変化素子にデータを書き込む際に、迂回電流により他の抵抗変化素子の電気抵抗値が変化してしまうという障害(以下、この障害を「書き込みディスターブ」という)が発生する場合がある。そのため、このようなクロスポイント型の記憶装置を構成する場合には、書き込みディスターブの発生を防止するための格別な構成を別途設ける必要がある。
【0005】
そこで、このような書き込みディスターブの発生を防止することが可能な記憶装置として、記憶素子が抵抗変化素子とショットキーダイオード(電流抑制素子)との直列回路により構成されている記憶装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
かかる提案された記憶装置では、データを書き込むべき記憶素子(選択記憶素子)以外の記憶素子において、抵抗変化素子への迂回電流がショットキーダイオードにより阻止される。これにより、クロスポイント型の記憶装置において、書き込みディスターブの発生が防止される。ここで、この提案された記憶装置では、抵抗変化素子へのデータの書き込みは、同じ極性の電気パルスを抵抗変化素子に印加することにより行われる。従って、抵抗変化素子に対して直列に接続されたショットキーダイオードによりデータの書き込みが阻害されることはない。
【0007】
一方、抵抗変化素子には、主としてその抵抗変化機能を担う薄膜を構成する材料の種類に起因して、2値データの“1”と“0”とを、異なる極性の電気パルスを薄膜に印加することにより書き込むタイプの抵抗変化素子もある。かかる抵抗変化素子を用いる場合、抵抗変化素子に対してショットキーダイオードを直列に接続すると、一方の極性の電気パルスはデータの書き込みに利用することができるが、他方の極性の電気パルスはデータの書き込みに利用することはできない。このような極性の異なる電気パルスを印加することによりデータを書き込むタイプの抵抗変化素子を備えるクロスポイント型の記憶装置では、抵抗変化素子に対してショットキーダイオードを直列に接続するという単純な構成をとることはできず、従って、ある抵抗変化素子にデータを書き込む際に迂回電流により他の抵抗変化素子の抵抗値が変化してしまう書き込みディスターブの発生を防止することはできない。
【0008】
この問題は、抵抗変化素子に対して直列に接続するダイオードに「非線形の電気抵抗特性を示し、かつ電流−電圧特性が印加電圧の極性に対して実質的に対称な素子」を用いれば解決することができる。このような特性を備える素子としては、例えば、MIMダイオード(etal−nsulator−etal;金属−絶縁体−金属の意味)、MSMダイオード(etal−emiconductor−etal;金属−半導体−金属の意味)、或いは、バリスタ等の二端子素子が知られている。
【0009】
図15は電流抑制素子の電流−電圧特性を模式的に示す特性図であって、図15(a)はバリスタ等の二端子素子の特性図であり、図15(b)はショットキーダイオードの特性図である。
【0010】
図15(b)に示すように、ショットキーダイオードは、非線形の電気抵抗特性を示すものの、その電流−電圧特性は印加電圧の極性に対して全く対称ではない。
【0011】
これに対して、図15(a)に示すように、MIMダイオード、MSMダイオード、バリスタ等の二端子素子は、非線形の電気抵抗特性を示し、かつ、その電流−電圧特性は印加電圧の極性に対して実質的に対称となる。即ち、正の印加電圧に対する電流の変化と、負の印加電圧に対する電流の変化とが、原点0に対して実質的に点対称となる。又、これらの二端子素子では、印加電圧が第1の臨界電圧(範囲Aの下限電圧)以下でありかつ第2の臨界電圧(範囲Bの上限電圧)以上である範囲(つまり、範囲C)では電気抵抗が非常に高く、その一方で、第1の臨界電圧を超えるか、又は、第2の臨界電圧を下回ると、電気抵抗が急激に低下する。即ち、これらの二端子素子は、印加電圧が第1の臨界電圧を超えるか第2の臨界電圧を下回る場合に大電流が流れるという、非線形の電気抵抗特性を有している。
【0012】
従って、これらの二端子素子を電流抑制素子として利用すれば、極性の異なる電気パルスが印加されるクロスポイント型の記憶装置において、書き込みディスターブの発生を確実に回避することが可能になると考えられる。
【0013】
ところで、記憶装置が備える抵抗変化素子へのデータの書き込み時、抵抗変化素子に電気パルスを印加することによりその電気抵抗値を変化させて、抵抗変化素子の状態を高抵抗状態或いは低抵抗状態とするためには、抵抗変化素子の材料やその構成等にも大きく依存するが、通常は、抵抗変化素子に大電流を流す必要がある。例えば、抵抗変化素子を備える記憶装置の動作において、抵抗変化素子へのデータの書き込み時に30000A/cm以上の電流密度で電流を流すことが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−319587号公報
【特許文献2】特開2006−203098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献2においては、30000A/cm以上の電流密度で電流を流すことを可能とする電流抑制素子の実例は一切開示されてはいない。
【0016】
又、上述した「非線形の電気抵抗特性を示し、かつ電流−電圧特性が印加電圧の極性に対して実質的に対称な素子」の代表的な一例である、MIMダイオード、MSMダイオード、バリスタ等の二端子素子に関しては、30000A/cm以上の電流密度で電流を流すことを可能とし、かつ、いわゆるシリコン半導体の製造プロセスと親和性のある(例えば、シリコン半導体の製造プロセスにおいて過去に使用実績のある)材料系で構成された二端子素子は知られていない。
【0017】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであって、極性の異なる電気パルスを印加する場合でも書き込みディスターブの発生を防止することが可能であり、かつ抵抗変化素子に大電流を流すことが可能である、データを問題無く書き込み可能な(即ち、書き込みディスターブが発生しない)記憶素子及びそれを備える記憶装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る記憶素子は、極性が正又は負の電気パルスの印加によりその電気抵抗値が変化しかつ該変化した後の電気抵抗値を維持する抵抗変化素子と、前記抵抗変化素子に前記電気パルスの印加時に流れる電流を抑制する電流抑制素子と、を備える記憶素子であって、前記電流抑制素子は、第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に配設された電流抑制層と、を備え、前記電流抑制層が、SiN(xは正の実数)により構成されている。ここで、SiN(xは正の実数)とは、いわゆる窒化シリコンのことであり、xの値は窒化の程度を示している。
【0019】
かかる構成とすると、極性の異なる電気パルスを印加する場合でも書き込みディスターブの発生を防止することが可能であり、かつ抵抗変化素子の抵抗変化層に金属酸化物材料を使用する場合であっても抵抗変化素子に大電流を流すことが可能である、データを問題無く確実に書き込むことが可能な記憶素子を提供することが可能になる。
【0020】
特に、SiNを電流抑制層に適用する場合、xの値(即ち、SiNの窒化の程度)を制御することにより、電流抑制層の禁制帯幅を制御することが可能である。従って、電流抑制層と共に電流抑制素子を構成する電極の材料の種類に応じて電流抑制層の禁制帯幅を制御することにより、電極と電極に隣接する電流抑制層との間に形成される電位障壁の大きさを制御することが可能となり、電流抑制素子を構成する電極として様々な電極材料を使用することが可能となる。これにより、記憶素子の設計自由度が大きくなるという利点が得られる。又、SiNは、半導体産業において既に使用実績のある材料である。そのため、半導体製造ラインの保守及び保全方法や、成膜或いはエッチング等に関する既存の設備及びその設備のための処理条件の転用が容易であり、生産性に優れた記憶素子を提供することが可能になる。
【0021】
この場合、前記電流抑制層がSiN(0<x≦0.85)により構成されている。
【0022】
かかる構成とすると、電極と電極に隣接する電流抑制層との間に形成される電位障壁を小さくすることができる。従って、電流抑制素子に流すことができる電流密度を大きくすることが可能になる。その結果、抵抗変化素子へのデータ書き込み時に必要となる大きさの電流密度で電流を流すことが可能になる。
【0023】
この場合、前記電流抑制層がSiN(0.2≦x≦0.7)により構成されている。
【0024】
かかる構成とすると、電極と電極に隣接する電流抑制層との間に形成される電位障壁による整流性を得ることができる。その結果、選択記憶素子以外の記憶素子における抵抗変化素子への迂回電流の流れ込みを阻止することが可能となる。従って、書き込みディスターブの発生を防止することが可能となる。
【0025】
又、かかる構成とすると、電極と電極に隣接する電流抑制層との間に形成される電位障壁を更に小さくすることができる。従って、電流抑制素子に流すことができる電流密度を更に大きくすることが可能になる。その結果、抵抗変化素子へのデータ書き込み時に30000A/cm以上の電流密度の電流を流すことが実現可能となる。
【0026】
ここで、上記何れかの場合、前記第1の電極及び前記第2の電極の少なくとも一方が窒素を含んでいる。
【0027】
かかる構成とすると、電流抑制層と第1の電極及び第2の電極の少なくとも一方との密着性が向上するので、電流制御素子の信頼性が向上する。
【0028】
又、上記何れかの場合、前記第1の電極及び前記第2の電極の少なくとも一方が窒化タンタルを含んでいる。
【0029】
かかる構成とすると、抵抗変化素子へのデータ書き込み時の、選択記憶素子以外の記憶素子における抵抗変化素子への迂回電流の流れ込みをより一層小さくすることが可能になる。この構成は、記憶装置を実際に動作させる上で、より一層好ましい構成である。
【0030】
一方、本発明に係る記憶装置は、極性が正又は負の電気パルスの印加によりその電気抵抗値が変化しかつ該変化した後の電気抵抗値を維持する抵抗変化素子と該抵抗変化素子に前記電気パルスの印加時に流れる電流を抑制する電流抑制素子とを備え、該電流抑制素子は第1の電極と第2の電極と該第1の電極と該第2の電極との間に配設された電流抑制層とを備え、該電流抑制層がSiN(xは正の実数)により構成されている複数の記憶素子と、複数のビット線と、前記複数のビット線に各々立体交差する複数のワード線と、を備え、前記複数の記憶素子は前記抵抗変化素子と前記電流抑制素子との直列回路を備え、前記複数の記憶素子が、前記ビット線と前記ワード線とが立体交差する各々の部分に配設され、該各々の部分において、前記直列回路の一端がその対応する前記ビット線に、前記直列回路の他端がその対応する前記ワード線に、各々接続されている。
【0031】
かかる構成とすると、記憶装置が上述した本発明に係る特徴的な記憶素子を備えているので、記憶装置における電子回路、或いは、記憶素子の動作方法に追加回路や追加動作を加えることなく、データを問題無く書き込むことが可能な好適な(即ち、書き込みディスターブが発生しない)記憶装置を提供することが可能になる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る記憶素子及び記憶装置の構成は、極性の異なる電気パルスを印加する場合でも書き込みディスターブの発生を防止することが可能であり、かつ抵抗変化素子に大電流を流すことが可能である、データを問題無く書き込み可能な記憶素子及びそれを備える記憶装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る電流抑制素子を備える記憶装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る電流抑制素子の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、窒素ガスの流量比を変化させて成膜した6種類のSiN膜におけるxの値をラザフォード後方散乱分光法により測定した結果を示す相関グラフである。
【図4】図4は、SiNからなる膜厚20nmの電流抑制層と白金(Pt)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。
【図5】図5は、SiNからなる膜厚10nmの電流抑制層と窒化チタン(TiN)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。
【図6】図6は、SiNからなる膜厚20nmの電流抑制層と窒化タンタル(TaN)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。
【図7】図7は、SiNからなる膜厚20nmの電流抑制層とタンタル(Ta)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。
【図8】図8は、SiNからなる膜厚20nmの電流抑制層とアルミニウム(Al)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。
【図9(a)】図9(a)は、電流抑制素子の電流抑制層を膜厚10nmのSiNにより構成した場合におけるxの値と、電流密度が500A/cmである場合における電流抑制素子の両端間の電圧との関係を示す相関グラフである。
【図9(b)】図9(b)は、電流抑制素子の電流抑制層を膜厚20nmのSiNにより構成した場合におけるxの値と、電流密度が500A/cmである場合における電流抑制素子の両端間の電圧との関係を示す相関グラフである。
【図10】図10は、SiNからなる膜厚10nmの電流抑制層と窒化タンタル(TaN)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。
【図11】図11は、SiNからなる膜厚10nmの電流抑制層とタングステン(W)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。
【図12】図12は、電流抑制素子の電流抑制層をSiNにより構成した場合におけるxの値とオン/オフ比との関係を実験的に求めた結果を示す相関グラフである。
【図13】図13は、本発明の実施の形態に係る電流抑制素子の電流−電圧特性を模式的に示す特性図である。
【図14】図14は、本発明の実施の形態に係る書き込み電圧の印加動作を示す模式図であって、図14(a)は書き込み電圧の具体的な印加動作を示す第1の模式図であり、図14(b)は書き込み電圧の他の具体的な印加動作を示す第2の模式図である。
【図15】図15は、電流抑制素子の電流−電圧特性を模式的に示す特性図であって、図15(a)はバリスタ等の二端子素子の特性図であり、図15(b)はショットキーダイオードの特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0035】
図1は、本発明の実施の形態に係る電流抑制素子を備える記憶装置の構成を模式的に示すブロック図である。尚、図1では、本発明を説明するために必要となる構成要素のみを図示し、その他の構成要素は図示を省略している。
【0036】
図1に示すように、本実施の形態に係る記憶装置21は、いわゆるクロスポイント型の記憶装置である。この記憶装置21は、記憶素子アレイ20と、記憶素子アレイ20を駆動するための周辺回路(例えば、ビット線デコーダ4、読み出し回路5、ワード線デコーダ6,7)とを備えている。
【0037】
ここで、実際の記憶素子アレイは、通常、複数のビット線と複数のワード線とを有しているが、本明細書では、図1に示すように、記憶素子アレイの構成を容易に理解可能とするため、4本のビット線BL0〜BL3と4本のワード線WL0〜WL3とを備える記憶素子アレイ20を例示する。
【0038】
本実施の形態に係る記憶素子アレイ20では、4本のビット線BL0〜BL3と、4本のワード線WL0〜WL3とが、互いに直角に立体交差するように配設されている。そして、これらの4本のビット線BL0〜BL3と4本のワード線WL0〜WL3との立体交差部11の各々には、記憶素子3(いわゆる、セル)が配設されている。換言すれば、本実施の形態に係る記憶素子アレイ20では、記憶素子3が4行4列のマトリクス状に配設されている。ここで、記憶素子3の各々は、抵抗変化素子1と、この抵抗変化素子1に対して直列に接続された電流抑制素子2との直列回路により構成されている。そして、この直列回路の一端及び他端が、各々、その立体交差部11に対応するビット線BL0〜BL3及びワード線WL0〜WL3に接続されている。
【0039】
そして、図1に示すように、4本のビット線BL0〜BL3の一端が、ビット線デコーダ4に接続されている。又、ビット線BL0〜BL3の他端が、読み出し回路5に接続されている。一方、4本のワード線WL0〜WL3の両端が、ワード線デコーダ6,7に接続されている。
【0040】
このように、2つのワード線デコーダ6,7をワード線WL0〜WL3の両端に配設することにより、例えば、偶数番目のワード線をワード線デコーダ6に接続し、奇数番目のワード線をワード線デコーダ7に接続するというように、ワード線WL0〜WL3をワード線デコーダ6とワード線デコーダ7とに交互に接続することができる。本実施の形態では、図1では具体的には図示してはいないが、このような接続形態を採用している。かかる構成とすることにより、ワード線WL0〜WL3の間隔を小さくすることができると共に、ワード線デコーダ6,7の回路配置に関する自由度を大きくすることができる。
【0041】
かかる記憶装置21では、ビット線デコーダ4が、制御器(図示せず)からの指令に応じて、ビット線BL0〜BL3を選択する。又、ワード線デコーダ6,7は、制御器からの指令に応じて、ワード線WL0〜WL3を選択する。そして、ビット線デコーダ4とワード線デコーダ6,7とは、制御器からの指令がデータの書き込み(以下、単に「書き込み」という)であるか、或いは、データの読み出し(以下、単に「読み出し」という)であるかに応じて、ビット線BL0〜BL3における選択されたビット線とワード線WL0〜WL3における選択されたワード線との間に、その電圧が所定の書き込み電圧Vwである電気パルス(正確には、電圧パルス)、又は、その電圧が所定の読み出し電圧Vrである電気パルス(正確には、電圧パルス)を印加する。一方、読み出し時、読み出し回路5は、ビット線BL0〜BL3における選択されたビット線に流れる電流値を検出して、選択された記憶素子3に記憶されたデータを読み出し、これを制御器に向けて出力する。ここで、図1に示すビット線デコーダ4、読み出し回路5、ワード線デコーダ6,7等の周辺回路は、例えば、MOSFETにより構成される。又、記憶装置21は、通常、半導体の製造プロセスにより作製される。
【0042】
尚、本実施の形態では、電流抑制素子2を構成する第1及び第2の電極31,32(図2参照)は、各々、抵抗変化素子1の一方の電極(図示せず)及びワード線WL0〜WL3の何れかに接続されている。一方、抵抗変化素子1の他方の電極(図示せず)は、ビット線BL0〜BL3の何れかに接続されている。しかし、このような形態に限定されることはなく、例えば、電流抑制素子2の第1の電極31(又は、第2の電極32)を抵抗変化素子1の一方の電極と共用とする構成としてもよい。
【0043】
次に、本実施の形態に係る抵抗変化素子の構成について詳細に説明する。
【0044】
図1に示す抵抗変化素子1は、対向する一対の電極(図示せず)の間に抵抗変化材料からなる薄膜(図示せず:以下、この薄膜を「抵抗変化薄膜」という)が配設され構成されている。この抵抗変化薄膜に所定の電気パルスを印加すると、所定の低抵抗状態(以下、この状態を単に「低抵抗状態」という)と所定の高抵抗状態(以下、この状態を単に「高抵抗状態」という)との間で、抵抗変化薄膜の状態が遷移する。ここで、この抵抗変化薄膜は、所定の電気パルスを印加しない限り、その遷移した後の状態を維持する。本実施の形態では、この低抵抗状態と高抵抗状態とに、各々、2値データの“0”及び“1”の何れか一方及び他方が割り当てられており、抵抗変化薄膜の状態を低抵抗状態と高抵抗状態との間で遷移させるために、極性の異なる電気パルスを印加する。このような、抵抗変化薄膜を構成するための抵抗変化材料としては、ペロブスカイト型の金属酸化物や、典型金属又は遷移金属の酸化物等を用いることができる。
【0045】
具体的には、抵抗変化薄膜を構成するための抵抗変化材料としては、Pr(1−x)CaMnO(0<x<1)、TiO、NiO(x>0)、ZrO(x>0)、FeO(x>0)、CuO(x>0)、TaO(0<x<2.5)等や、これらの置換体、又は、これらの混合物や積層構造物等が挙げられる。勿論、抵抗変化材料は、これらの抵抗変化材料に限定されることはない。
【0046】
次に、本実施の形態に係る電流抑制素子の特徴的な構成について詳細に説明する。
【0047】
本実施の形態において、電流抑制素子は、対向する一対の電極の間に電流抑制層を配設することにより構成している。この構成は、先に述べたMIMダイオード或いはMSMダイオードの構成と同じ構成である。そして、本実施の形態に係る電流抑制素子は、非線形の電気抵抗特性を示し、かつ、電流−電圧特性が印加電圧の極性に対して実質的に対称となる。そのため、本実施の形態に係る電流抑制素子によれば、極性の異なる電気パルスを印加する場合でも、書き込みディスターブの発生を防止することが可能になる。
【0048】
又、本実施の形態に係る電流抑制素子の電流−電圧特性は、電極と電極に隣接する電流抑制層との間に形成される電位障壁に大きく依存し、この電位障壁により整流性が生じるため、非線形の電気抵抗特性が得られる。本実施の形態では、かかる特性を有効に利用しながら、電位障壁の高さをある程度以下の高さに抑制することにより、大電流を流すことができる電流抑制素子を提供する構成について説明する。
【0049】
以下、本実施の形態に係る電流抑制素子の具体的な構成について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0050】
図2は、本発明の実施の形態に係る電流抑制素子の構成を模式的に示す断面図である。
【0051】
図2に示すように、電流抑制素子2は、第1の電極31と、第2の電極32と、これらの第1及び第2の電極31,32の間に配設された電流抑制層33とにより構成されている。ここで、第1及び第2の電極31,32は、Al、Cu、Ti、W、Pt、Ir、Cr、Ni、Nb等の金属や、これらの金属の混合物(合金)或いは積層構造物により構成される。
【0052】
或いは、これらの第1及び第2の電極31,32は、TiN、TiW、TaN、TaSi、TaSiN、TiAlN、NbN、WN、WSi、WSiN、RuO、In、SnO、IrO等の導電性を有する化合物、又は、これらの導電性を有する化合物の混合物或いは積層構造物により構成される。勿論、第1及び第2の電極31,32を構成する材料は、これらの材料に限定されるわけではなく、電流抑制層33との間で形成される電位障壁により整流性が生じるような材料であれば、如何なる材料であってもよい。
【0053】
そして、本実施の形態では、電流抑制層33がSiN(xは正の実数)により構成されている。
【0054】
SiNのようなシリコン化合物は、四配位の結合を形成するテトラヘドラル系アモルファス半導体を形成し、このテトラヘドラル系アモルファス半導体は基本的には単結晶シリコンやゲルマニウムの構造に近い構造を有しているため、シリコン以外の元素を導入することによる構造の違いが物性に反映され易いという特徴を有している。このため、シリコン化合物を電流抑制層33に適用すれば、シリコン化合物の構造制御作用により電流抑制層33の物性を制御することが容易となる。従って、これにより、第1及び第2の電極31,32との間に形成される電位障壁の制御がより一層容易となるという効果が得られる。
【0055】
特に、SiNを電流抑制層33として使用すると、SiN中の窒素の組成を変化させることにより禁制帯幅を連続的に変化させることが可能であるため、第1及び第2の電極31,32とこれらに隣接する電流抑制層33との間に形成される電位障壁の大きさが制御可能となり、より一層好ましい。
【0056】
更に、SiNは、半導体の製造工程において極一般的に使用されるシリコン及び窒素をその成分として有しており、現在の半導体の製造工程において広く使用されている。このため、SiNの導入に起因する新たな不純物汚染の発生はなく、半導体製造ラインの保守保全上好都合である。又、加工面では、成膜或いはエッチング等に関して既存の設備の転用が容易であり、加工条件についても、既存の成膜或いはエッチング条件の転用で対応可能であるという利点を有する。
【0057】
さて、極性の異なる電気パルスを印加してデータを確実に書き込み可能なクロスポイント型の記憶装置を構成するためには、電流抑制素子が「非線形の電気抵抗特性を示し、かつ電流−電圧特性が印加電圧の極性に対して実質的に対称な素子」でありかつ「抵抗変化素子へのデータ書き込み時に必要な電流密度の電流を流すことができる素子」であることが求められる。又、記憶素子の微細化或いは高集積化といった観点からは、電流抑制素子の微細化が可能であり、かつ、特性のバラつきが小さいことが望ましい。
【0058】
かかる観点に基づくと、電流抑制素子として適用可能な二端子素子(例えば、MIMダイオード、MSMダイオード、バリスタ等)の内、MIMダイオードは、絶縁体を金属間に挟んだ構造を有するため、大電流を定常的に流す用途には基本的に不向きであると考えられる。又、バリスタは、その特性が結晶粒界に起因することが知られているが、結晶の粒径分布の相違に基づく特性バラつきが原理的に発生するため、微細化時の動作特性バラつきが不可避となり、この点において電流抑制素子としては好ましくないと考えられる。又、MSMダイオードは、アモルファス半導体を使用する場合には半導体の構造に起因する特性バラツキは原理的に発生しないと考えられるため、微細化時の動作特性バラつきを回避することができるが、半導体を金属間に挟んだ構造を有するものの、大電流を定常的に流す用途には未だ不向きであると考えられる。
【0059】
電流抑制層33にSiNを適用する場合、先に述べたように、電流抑制層33の電気伝導特性はxの値によって大きく変化する。具体的には、いわゆる化学量論組成(x=4/3)では絶縁体であるが、これより窒素の比率を小さくすると(即ち、xの値を小さくすると)SiNは次第に半導体として振舞うようになる。そのため、xの値を適切に制御することにより、電流抑制層33を有する電流抑制素子2をMSMダイオードとして機能させることが可能となる。ここで、MSMダイオードは、印加電圧が第1の臨界電圧以下でありかつ第2の臨界電圧以上である範囲では電気抵抗が非常に高く、第1の臨界電圧を超えるか、又は、第2の臨界電圧を下回ると、電気抵抗が急激に低下する。即ち、MSMダイオードは、印加電圧が第1の臨界電圧を超えるか第2の臨界電圧を下回る場合に大電流が流れる(以下、この大電流が流れる状態を「導通状態」という)という、非線形の電気抵抗特性を有している。本実施の形態では、このようなMSMダイオードの電気抵抗特性を有する電流抑制素子2を抵抗変化素子1に直列に接続することにより、迂回電流を確実に抑制する。
【0060】
本願の発明者らは、鋭意検討の結果、SiNにおけるxの値を所定の範囲内の値に制御することにより、電流抑制素子2にMSMダイオードと同様の電気抵抗特性を付与しながら、導通状態に流すことができる電流密度を十分に大きくすることが可能であることを見出した。尚、このSiNにおける適切なxの値については、後に詳細に説明する。
【0061】
次に、本発明の実施の形態に係る電流抑制素子の製造方法について説明する。
【0062】
電流抑制素子を製造する場合には、先ず、所定の基板の主面上に第2の電極32をスパッタ法により形成する。この第2の電極32の成膜条件は、使用する電極材料等によって変わるが、例えば、白金(Pt)を第2の電極32の材料に用いる場合はDCマグネトロンスパッタ法を用い、成膜の際の真空度を0.5Paとし、DCパワーを200Wとし、アルゴン(Ar)流量を6sccmとし、厚さが20〜100nmとなるよう成膜時間を調節する。
【0063】
次に、第2の電極32の主面上に、電流抑制層33としてのSiN膜を形成する。この成膜の際には、例えば、多結晶シリコンターゲットをArと窒素との混合ガス雰囲気の下でスパッタする手法(いわゆる、反応性スパッタ法)を用いる。そして、典型的な成膜条件として、真空度を0.3〜2Paとし、基板温度を20〜300℃とし、窒素ガスの流量比(Arと窒素との総流量に対する窒素の流量の比率)を0〜40%とし、DCパワーを100〜300Wとした上で、SiN膜の厚さが5〜20nmとなるよう成膜時間を調節する。
【0064】
最後に、電流抑制層33の主面上に、第1の電極31をスパッタ法により形成する。ここで、第1の電極31の成膜条件は、使用する電極材料等によって変わるが、例えば、白金(Pt)を第1の電極31の材料に用いる場合には、第2の電極32の成膜時と同様にしてDCマグネトロンスパッタ法を用い、成膜の際の真空度を0.5Paとし、DCパワーを200Wとし、アルゴン(Ar)流量を6sccmとし、厚さが20〜100nmとなるよう成膜時間を調節する。
【0065】
本実施の形態において、SiN膜におけるxの値は、スパッタ条件(Arと窒素とのガス流量比等)を変えることにより、適宜変化させることが可能である。
【0066】
図3は、窒素ガスの流量比を変化させて成膜した6種類のSiN膜におけるxの値をラザフォード後方散乱分光法により測定した結果を示す相関グラフである。尚、図3は、真空度を0.4Paとし、基板温度を20℃とし、DCパワーを300Wとした場合の測定結果を示している。又、図3において、横軸は窒素ガスの流量比(Arと窒素との総流量に対する窒素の流量の比率)を示し、縦軸はSiN膜におけるx値を示している。
【0067】
図3に示すように、窒素ガスの流量比を0%から40%まで連続的に変化させることにより、SiN膜におけるxの値を連続的に変化させることが可能となる。このように、SiN膜における窒素の組成を窒素ガスの流量比により変化させることで、禁制帯幅を連続的に変化させることが可能となる。これにより、第1及び第2の電極31,32とこれらに隣接する電流抑制層33との間に形成される電位障壁の大きさを適切に制御することが可能となる。そして、これにより、電流抑制素子2にMSMダイオードと同様の電気抵抗特性を付与しながら、導通状態に流すことができる電流密度を十分に大きくすることが可能となる。
【0068】
以下、SiNにおける適切なxの値の検討内容について説明する。
【0069】
図4は、SiNからなる膜厚20nmの電流抑制層と、白金(Pt)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。尚、図4において、横軸は電流抑制素子への印加電圧を示し、縦軸は電流抑制素子に流れる電流値を示している。
【0070】
この実験においては、基板の主面上にPt薄膜、SiN薄膜をこの順でスパッタ法により成膜した後、直径100μmの円孔を有するメタルマスクを介してPt薄膜をスパッタ法により成膜することで、電流抑制素子2を形成した。ここで、SiN薄膜は、多結晶シリコンターゲットをアルゴンと窒素との混合ガス雰囲気の下でスパッタすることにより成膜した。又、SiN薄膜におけるxの値は、スパッタ条件(アルゴンと窒素とのガス流量比等)を変えることにより変化させた。又、SiN薄膜におけるxの値は、ラザフォード後方散乱分光法により求めた。尚、図4に示すように、この実験では、スパッタ条件を変えることにより、xの値が異なる4種類のSiN薄膜を作成した。ここで、xの値は、それぞれ0.52,0.67,0.85,1.38であった。
【0071】
図4に示すように、第1及び第2の電極31,32にPtを用い、電流抑制層33をSiNにより構成した電流抑制素子2は、非線形の電気抵抗特性を示し、かつ、電流−電圧特性が印加電圧の極性に対して実質的に対称な素子となることが判明した。又、電流抑制層33にSiNを適用する場合には、xの値が大きくなるに連れて第1及び第2の電極31,32とこれらに隣接する電流抑制層33との間に形成される電位障壁が大きくなることに対応して、導通状態となる電圧が大きくなることが判明した。更には、xの値が0.85までの場合は、第1の電極31と第2の電極32との間に印加される電圧が4V未満であっても電流密度が500A/cmを優に超え、これに電圧を更に印加することにより更に大きな電流密度が得られることが図4より推察された。しかしながら、xの値が1.38である場合には、印加電圧が5Vであっても導通状態とはならず、更に印加電圧を高くすると、導通状態となる前に電流抑制素子2そのものが破壊されてしまうことが判明した。これは、xの値を大きくすることにより電流抑制層33の禁制帯幅が著しく大きくなり、その結果として、電流抑制層33が絶縁体となってしまったことを示している。従って、電流抑制層33にSiNを適用する場合には、xの値は0を超え0.85以下であることが好ましいことが判明した。この構成を採る場合、電流抑制層33は半導体として機能し、電流抑制素子2はMSMダイオードとして機能する。
【0072】
図4に示した、電流抑制層33をSiNにより構成した電流抑制素子2の電流−電圧特性は、電極にPt以外の材料を用いた場合でも同様の特性となる。
【0073】
図5は、SiNからなる膜厚10nmの電流抑制層と窒化チタン(TiN)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。
【0074】
又、図6は、SiNからなる膜厚20nmの電流抑制層と窒化タンタル(TaN)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。
【0075】
又、図7は、SiNからなる膜厚20nmの電流抑制層とタンタル(Ta)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。
【0076】
又、図8は、SiNからなる膜厚20nmの電流抑制層とアルミニウム(Al)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。
【0077】
ここで、これらの実験における電流抑制素子2の作成方法は、上述したPtを電極材料に用いた場合と同様である。即ち、基板の主面上に電極材料、SiN薄膜(本実験におけるxの値は0.52,0.67,或いは、0.85(電極材料がTaNである場合については、xの値は0.52、或いは、0.67))を順にスパッタ法により成膜した後、直径100μmの円孔を有するメタルマスクを介して電極材料をスパッタ法により成膜することで、電流抑制素子2を形成した。
【0078】
尚、図5、図6、図7、図8では、便宜上、印加電圧の極性が負である場合の電流−電圧特性の図示を省略しているが、図3と同様、電流−電圧特性は印加電圧の極性に対して実質的に対称となる。
【0079】
図5、図6、図7、図8に示すように、何れの場合でも、xの値が大きくなるに連れて導通状態となる電圧が大きくなることが判明した。この特徴的な特性は、図4に示す特徴的な特性と同様である。又、第1の電極31と第2の電極32との間に印加される電圧が5V未満であっても、電流密度は500A/cmを優に超えることが判明した。又、電極に対する印加電圧を更に上昇させることにより、更に大きな電流密度が得られることが各グラフから推察された。従って、図5〜図8に示す測定結果からも、電流抑制層33にSiNを適用する場合には、xの値は0を超え0.85以下であることが好ましいことが判明した。ここで、電極材料がTaNである場合には、後述するように、xの値が0.7以下であることが好ましいことが判明した。
【0080】
図9(a)は、電流抑制素子の電流抑制層を膜厚10nmのSiNにより構成した場合におけるxの値と、電流密度が500A/cmである場合における電流抑制素子の両端間の電圧との関係を示す相関グラフである。又、図9(b)は、電流抑制素子の電流抑制層を膜厚20nmのSiNにより構成した場合におけるxの値と、電流密度が500A/cmである場合における電流抑制素子の両端間の電圧との関係を示す相関グラフである。
【0081】
尚、図9(a)及び図9(b)は、図4、図5、図6、図7、図8に示す測定結果に基づいている。又、図9(a)及び図9(b)における各プロットは、同一条件で作成した2〜3個の電流抑制素子に係る測定値の平均値を示している。又、本実験では、電流抑制素子を構成する電極の大きさが直径100μmの円孔を有するメタルマスクにより規定される関係上、30000A/cm程度の電流を実際に流すために必要となる電流が数A程度となり、一般的な測定系(通常、測定に使用している測定系)では測定不能な領域となるため、電流密度が500A/cmである場合を基準としてデータの比較を行なっている。
【0082】
図9(a)及び図9(b)に示すように、第1及び第2の電極31,32を構成する材料の如何に関わらず、xの値が小さくなると電流抑制素子2の両端間の電圧が低下する傾向が観察される。換言すれば、第1及び第2の電極31,32を構成する材料の如何に関わらず、同じ電流密度の電流(この場合は500A/cm)を流すために、第1の電極31と第2の電極32との間に印加すべき電圧としては、電流抑制層33を構成するSiNのxの値に応じて変化し、xの値が小さい場合には低電圧が、xの値が大きい場合には高電圧が必要となる。これは、第1及び第2の電極31,32を構成する材料の如何に関わらず、xの値を制御することにより、第1及び第2の電極31,32とこれらに隣接する電流抑制層33との間に形成される電位障壁の大きさが制御可能であり、従って、電流抑制素子2にMSMダイオードの電気抵抗特性を付与し、かつ、導通状態となる電圧を制御しながら、同時に導通状態に流すことができる電流密度を十分大きくとることが可能であることを示している。
【0083】
図10は、SiNからなる膜厚10nmの電流抑制層と窒化タンタル(TaN)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。尚、図10では、SiNにおけるxの値が0.3,0.7,0.8である場合の電流−電圧特性を示している。又、図10では、便宜上、印加電圧の極性が負である場合の電流−電圧特性の図示を省略している。
【0084】
本実験では、基板の主面上にTaN,SiN,TaNをこの順にスパッタ法により成膜して積層した後、通常のリソグラフィ及びドライエッチングを適用することにより、電極面積が1平方ミクロンメートルの電流抑制素子2を作成し、これを測定対象とした。
【0085】
図10に示すように、SiNにおけるxの値を0.3から0.7とすることで、MSMダイオードの電気抵抗特性と同様の電気抵抗特性を示しながら、導通状態となる電圧が3V程度大きくなり、かつ、何れの場合も30000A/cmを超える大きな電流密度を実現できることが判明した。その一方で、図10に示すように、SiNにおけるxの値を0.8とすると、印加電圧が約6.3Vである場合には約3000A/cm程度の大きな電流密度の電流を流すことが可能であるが、印加電圧を更に上昇させると電流抑制素子2が破壊(短絡)することが判明した。この現象は、いわゆる化学量論組成では基本的に絶縁体であるSiNの絶縁体的な特性が現出したためであると考えられ、更に大きな電流密度の電流を流すことが必要な場合には、xの値を0.8よりも小さくすることが好ましいことを示している。従って、窒化タンタル(TaN)からなる一対の電極を備える電流抑制素子を構成する場合、例えば30000A/cmを超える大きな電流密度を実現するためには、xの値を0.7以下とすることが好ましい。
【0086】
図11は、SiNからなる膜厚10nmの電流抑制層とタングステン(W)からなる一対の電極とを備える電流抑制素子の電流−電圧特性を測定した結果を示す特性グラフである。尚、図11では、SiNにおけるxの値が0.3,0.45,0.6である場合の電流−電圧特性を示している。又、図11でも、便宜上、印加電圧の極性が負である場合の電流−電圧特性の図示を省略している。
【0087】
本実験では、基板の主面上にW,SiN,Wをこの順にスパッタ法により成膜して積層した後、通常のリソグラフィ及びドライエッチングを適用することにより、電極面積が1平方ミクロンメートルの電流抑制素子2を作成し、これを測定対象とした。
【0088】
図11に示すように、SiNにおけるxの値を0.3から0.6とすることで、MSMダイオードの電気抵抗特性と同様の電気抵抗特性を示しながら、導通状態となる電圧が1.2V程度大きくなり、かつ、何れの場合も30000A/cmを超える大きな電流密度を実現できることが判明した。従って、タングステン(W)からなる一対の電極を備える電流抑制素子を構成する場合でも、30000A/cmを超える大きな電流密度を実現するためには、xの値を0.7以下とすることが好ましいと考えられる。
【0089】
このように、第1及び第2の電極31,32とこれらに隣接する電流抑制層33との間に形成される電位障壁の大きさは、基本的には第1及び第2の電極31,32を構成する材料の仕事関数によって変化するが、電流抑制層33を構成するSiNのxの値を適切な値に設定することにより、所望の電位障壁の大きさを実現することが可能になる。つまり、本実施の形態によれば、電流抑制素子2の構成或いは製造方法に応じて、それに適した種々の電極材料を用いることが可能となり、電流抑制素子2或いは記憶素子3の設計自由度が大きくなるという利点が得られる。
【0090】
図12は、電流抑制素子の電流抑制層をSiNにより構成した場合におけるxの値とオン/オフ比との関係を実験的に求めた結果を示す相関グラフである。尚、図12では、電流抑制層33の膜厚を10nmとし、第1及び第2の電極31,32として窒化タンタル(TaN)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、窒化チタン(TiN)を用いた場合の実験結果を示している。又、図12では、横軸はSiNにおけるxの値を示し、縦軸はオン/オフ比を示している。
【0091】
本実験では、第1及び第2の電極31,32にTaNを用いる場合、図10に示す測定結果を取得する際に用いた電流抑制素子2の作成方法と同様にして、基板の主面上にTaN、SiN、TaNをこの順でスパッタ法により成膜して積層した後、通常のリソグラフィ及びドライエッチングを適用することにより、電極面積が1平方ミクロンメートルの電流抑制素子2を作成した。ここで、本実験では、SiNにおけるxの値を、それぞれ0,0.1,0.2,0.3,0.4,0.6とした。又、第1及び第2の電極31,32にPt、Al、或いはTiNを用いる場合には、図9(a)に示す測定結果を取得する際に用いた作成方法と同様の作成方法により、電流抑制素子2を作成した。
【0092】
ここで、本実施の形態において、「オン/オフ比」とは、電流抑制素子2の電流−電圧特性の測定結果から電流密度が500A/cmである場合の印加電圧(オン電圧)を求めると共に、印加電圧がオン電圧の半分の電圧である場合の電流抑制素子2を流れる電流密度(オフ電流)を求め、オン電圧時の電流である500A/cmをオフ電流で割った値をオン/オフ比として定義する。このオン/オフ比は、データの書き込み動作時における、選択素子(データを書き込む記憶素子)に流れる電流と非選択素子(データを書き込まない記憶素子)に流れる電流との比を示している。尚、記憶装置の動作に関し、記憶装置を好適に動作させるためには、このオン/オフ比の値が大きいことが好ましい。
【0093】
尚、電流密度が500A/cmである場合を1つの基準とした理由は、図9に関する説明において記述した理由と同様であって、電流抑制素子を構成する電極の大きさが直径100μmの円孔を有するメタルマスクにより規定されると、30000A/cm程度の電流を実際に流すために必要となる電流が数A程度となり、これを測定するためには特別な測定系が必要となるためである。
【0094】
さて、図12において、電極材料がTaNである場合の実験結果を参照すると、xの値が0.1まではオン/オフ比は一桁の数字で殆ど変化せず、xの値が0.2以上ではオン/オフ比が10以上となり、xの値が大きくなるに連れてオン/オフ比が急激に大きくなることが分かる。ここで、xの値が0.1まではオン/オフ比が一桁の数字で殆ど変化しないという現象は、xの値が0.1までは電流抑制素子2における第1及び第2の電極31,32と電流抑制層33が概ねオーム性接触を形成しているためであると考えられる。従って、xの値が0.1までは、オン/オフ比がxの値に依存せず、小さい数字になっているものと考えられる。この実験結果から、電流抑制素子2における第1及び第2の電極31,32と電流抑制層33との間で形成される電位障壁が整流性を示すためには、xの値が0.2以上であることがより一層好ましいと考えられる。
【0095】
又、図12に示すように、xの値が大きくなるとオン/オフ比も大きくなるという相関関係は、電極材料がTaN以外である場合(つまり、電極材料がPt,Al,TiNである場合)においても成立している。
【0096】
更には、図12は、同一のxの値を有するSiNに対して、電極材料にTaNやTiN等のナイトライド化合物を用いる場合、他の電極材料を用いる場合に比べてオン/オフ比を大きくすることが可能であることを示している。これは、双方共に窒化物であるナイトライド化合物とSiNとの間の界面がより一層清浄な状態で(界面準位が低減された状態で)形成される結果、電流抑制素子2における整流特性がより一層理想的なものとなるためであると考えられる。その一方で、ナイトライド化合物以外の電極材料を用いた場合には、ガリウム砒素(GaAs)等のいわゆる化合物半導体におけるショットキー接合と同様にして、SiNと第1或いは第2の電極31,32との界面に存在する界面準位の中性準位によりフェルミ準位がピン止めされ、その結果として、整流特性がナイトライド化合物電極適用品に比べて好適ではないものになると考えられる。
【0097】
特に、図12は、TaNを電極材料として用いた場合、他の電極材料を用いた場合に比べてオン/オフ比を非常に大きくとることが可能であることを示している。従って、電流抑制素子の第1及び/或いは第2の電極を構成する電極材料の内の最も好ましい電極材料としては、窒化タンタルを挙げることができる。
【0098】
一方、第1及び第2の電極31,32を構成する電極材料の選択に関しては、電流抑制層33との密着性が良好であることが要求される。かかる観点からは、電流抑制素子2を構成する電流抑制層33が含有する元素を、電流抑制層33を挟む第1及び第2の電極31,32の何れか一方又は双方に含有させると、電流抑制層33と第1及び第2の電極31,32との密着性が向上する。その結果、電流抑制素子2の信頼性が向上するため、記憶素子3の信頼性をより一層向上させることが可能になる。
【0099】
具体的には、第1及び第2の電極31,32の何れか一方又は双方に窒素或いは珪素を含有させると(即ち、いわゆるナイトライド化合物やシリサイド化合物を第1及び第2の電極31,32の何れか一方又は双方に適用すると)、電流抑制素子2の信頼性を向上させることができる。ここで、本実施の形態では、金属ナイトライド化合物や金属シリサイド化合物は、SiN層との密着性が良好であり、かつスパッタ法やCVD法による成膜や通常のエッチングによる加工も比較的容易なため、第1及び第2の電極31,32の何れか一方又は双方に適用されることが好ましい。特に、窒化チタン、窒化タンタル、窒化タングステン等に代表される(但し、前記化合物群に限定されるものではない)金属ナイトライド化合物は、熱的及び化学的安定性が比較的高いため、これらを電極材料として用いると、電流抑制層33と第1及び第2の電極との間の界面が安定して存在することになり、電流抑制素子2の信頼性確保の観点から好ましい。
【0100】
又、タングステンシリサイド、チタンシリサイド、及びタンタルシリサイド等に代表される(但し、前記化合物群に限定されるものではない)金属シリサイド化合物は、電気抵抗が小さく、従って、微細化された電流抑制素子における電極の電気抵抗を小さくすることができるため、電流抑制素子2および記憶素子3の高集積化の観点から好ましい。
【0101】
尚、第1及び第2の電極31,32の製造プロセスと現在の半導体の製造プロセスとの親和性という観点に基づけば、最も好ましい電極材料の1つとして現在の半導体において銅(Cu)配線用バリアメタルとして多用される窒化タンタルを挙げることができるが、勿論、これに限定されることはない。
【0102】
このように、電流抑制素子2を適切に構成することにより、非線形の電気抵抗特性を示し、電流−電圧特性が印加電圧の極性に対して実質的に対称であり、更に、抵抗変化素子に大電流を流すことが可能な電流抑制素子2を得ることが可能になる。これにより、極性の異なる電気パルスを印加する場合でも書き込みディスターブの発生を防止することが可能であり、かつ抵抗変化素子1に大電流を流すことが可能である記憶素子3及びそれを備える記憶装置21を提供することが可能になる。特に、電流抑制素子2を構成する第1及び第2の電極31,32の何れか一方又は双方に窒化タンタルを用いる形態は、先に述べたように、オン/オフ比や電流抑制素子2の信頼性、更には現在の半導体の製造プロセスとの親和性という観点から、より一層好ましい形態である。
【0103】
尚、データを書き込む際に電流抑制層33に大電流を流すという観点に基づけば、第1及び第2の電極31,32を構成する材料としては、エレクトロマイグレーション耐性の高い材料を使用することが好ましい。このような、エレクトロマイグレーション耐性の高い材料としては、例えば、Cr、Mo、Nb、Ta、W、Ti、V、Zr、Hf等の遷移金属が挙げられる。又、例えば、シリサイド、ナイトライド、炭化物、硼化物等の化合物が挙げられる。但し、エレクトロマイグレーション耐性の高い材料は、これらの材料に限定されることはない。
【0104】
次に、本実施の形態に係る記憶装置の具体的な動作について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0105】
図13は、本発明の実施の形態に係る電流抑制素子の電流−電圧特性を模式的に示す特性図である。尚、図13において、Vwは書き込み電圧を示しており、Vrは読み出し電圧を示している。
【0106】
図13に示す電流抑制素子2の電流−電圧特性において、書き込み電圧Vwは、その絶対値が臨界電圧(範囲Aの下限電圧及び範囲Bの上限電圧)の絶対値以上であって、抵抗変化素子1の状態を低抵抗状態と高抵抗状態との間で遷移させるために十分な電圧でありかつ抵抗変化素子1を破壊しない絶対値を有する電圧に設定される。本実施の形態では、書き込み電圧Vwは、範囲Aの上限電圧及び範囲Bの下限電圧とされている。ここで、抵抗変化素子1の状態は、例えば、正の電気パルスを印加すると低抵抗状態から高抵抗状態に遷移し、負の電気パルスを印加すると高抵抗状態から低抵抗状態に遷移する。
【0107】
一方、図13に示す電流抑制素子2の電流−電圧特性において、読み出し電圧Vrは、その絶対値が臨界電圧の絶対値以上であって、抵抗変化素子1の状態を低抵抗状態と高抵抗状態との間で遷移させない絶対値を有する電圧に設定される。具体的には、本実施の形態では、読み出し電圧Vrは、図13に示す範囲A及び範囲Bに含まれる所定の電圧に設定される。
【0108】
さて、図1に示す記憶装置21は、制御器(図示せず)によりその動作が制御される。即ち、この制御器から書き込み指令が記憶装置21に入力されると、ビット線デコーダ4は、書き込み指令により指定されたアドレスのビット線BL0〜BL3の何れかを選択する。一方、ワード線デコーダ6,7は、書き込み指令により指定されたアドレスのワード線WL0〜WL3の何れかを選択する。これにより、書き込むべき記憶素子3が選択される。そして、ビット線デコーダ4とワード線デコーダ6,7とは、協働して、選択されたビット線BL0〜BL3の何れかとワード線WL0〜WL3の何れかとの間に、書き込み指令により指定されたデータ(ここでは“1”又は“0”)に対応する書き込み電圧Vwの電気パルスを印加する。これにより、書き込み指令により指定されたアドレスの記憶素子3に、指定されたデータが書き込まれる。尚、書き込み電圧Vwの具体的な印加動作については後で説明する。
【0109】
一方、上述の制御器から読み出し指令が記憶装置21に入力されると、ビット線デコーダ4は、読み出し指令により指定されたアドレスのビット線BL0〜BL3の何れかを選択する。一方、ワード線デコーダ6,7は、読み出し指令により指定されたアドレスのワード線WL0〜WL3の何れかを選択し、これにより、読み出すべき記憶素子3が選択される。そして、ビット線デコーダ4とワード線デコーダ6,7とは、協働して、選択されたビット線BL0〜BL3の何れかとワード線WL0〜WL3の何れかとの間に、所定の読み出し電圧Vrの電気パルスを印加する。すると、読み出し回路5は、選択されたビット線BL0〜BL3の何れかに流れる電流を検出して、その検出した電流に基づき、選択された記憶素子3に記憶されているデータの値が“1”であるか“0”であるかを検知する。そして、読み出し回路5は、この検知した“1”又は“0”の値を読み出しデータとして制御器に向け出力する。尚、読み出し電圧Vrの具体的な印加動作については、後で説明する。
【0110】
以下、書き込み電圧Vwの具体的な印加動作、及び、読み出し電圧Vrの印加動作について、図面を参照しながら説明する。
【0111】
図14(a)は、本発明の実施の形態に係る書き込み電圧の具体的な印加動作を示す模式図である。尚、以下の説明では、ビット線BL1とワード線WL1との立体交差部に位置する記憶素子3が選択され、この選択された記憶素子3(以下、「選択素子」という。この選択素子は、図1に示す記憶素子3aに相当する)にデータを書き込む場合の動作を例として説明する。
【0112】
図14(a)において、縦線は、左から順に、ビット線BL0,BL1,BL2,BL3を表している。そして、それらのビット線の上端には、各ビット線に印加される電圧値が記載されている。一方、横線は、上から順に、ワード線WL0,WL1,WL2,WL3を表している。そして、それらのワード線の左端には、各ワード線に印加される電圧値が記載されている。
【0113】
さて、図14(a)では、この4行4列の記憶素子アレイを構成する、ビット線BL0〜BL3とワード線WL0〜WL3との各立体交差部に位置する各記憶素子3の両端における電圧差の絶対値が、縦線及び横線の各交点に図形により示されている。従って、これを見れば、選択素子(ビット線BL1とワード線WL1との立体交差部11に位置する記憶素子3)以外の記憶素子3の両端における電位差の絶対値は全てVw/2又は0となっており、よって、選択素子へのデータの書き込み時に選択素子以外へのデータの書き込みは行われないことが分かる。
【0114】
具体的には、本実施の形態では、ビット線デコーダ4が、選択素子に接続するビット線BL1に書き込み電圧Vwを印加する。又、ワード線デコーダ7が、選択素子に接続するワード線WL1に電圧0を印加する。これにより、選択素子である記憶素子3の電流抑制素子2が導通状態となる。すると、抵抗変化素子1にはその抵抗状態の遷移に十分な電流が流れ、その結果、抵抗変化素子1の抵抗値が高抵抗状態或いは低抵抗状態に遷移する。
【0115】
一方、ビット線BL1は共通するが、ワード線WL1は共通しない列方向の他の記憶素子3(即ち、ビット線BL1と、ワード線WL0,WL2,WL3との各立体交差部11に位置する記憶素子3)は、ビット線及びワード線の内、ビット線のみが選択された形態となることから、半選択素子(BL選択)と呼ばれる。そして、これらの半選択素子(BL選択)に接続するビット線BL1にはビット線デコーダ4により選択素子と同様に書き込み電圧Vwが印加されるが、ワード線群(ワード線WL0,WL2,WL3)にはワード線デコーダ6,7がVw/2の電圧を印加する。これにより、半選択素子(BL選択)の両端における電位差をVw/2とする。
【0116】
又、ワード線WL1は共通するが、ビット線BL1は共通しない行方向の他の記憶素子3(即ち、ワード線WL1とビット線BL0,BL2,BL3との立体交差部11に位置する記憶素子3)は、ビット線及びワード線の内、ワード線のみが選択された形態となるので、半選択素子(WL選択)と呼ばれる。そして、これらの半選択素子(WL選択)に接続するワード線WL1にはワード線デコーダ7により選択素子と同様に電圧0が印加されるが、ビット線群(ビット線BL0,BL2,BL3)にはビット線デコーダ4がVw/2の電圧を印加する。これにより、半選択素子(WL選択)の両端における電位差をVw/2とする。
【0117】
本実施の形態では、半選択素子の両端に印加されるVw/2の電位差では、電流抑制素子2が遮断状態(電流抑制素子2に流れる電流が非常に小さい状態)となる。そのため、半選択素子の抵抗変化素子1には電流が殆ど流れない。従って、半選択素子の抵抗変化素子1へのデータの書き込みは行われない。逆に言えば、本実施の形態では、半選択素子の両端に印加されるVw/2の電位差では抵抗変化素子1に非常に小さい電流しか流れないように書き込み電圧Vwが設定されており、これにより、半選択素子におけるデータの書き込みが防止される。
【0118】
又、非選択素子(即ち、ビット線BL0,BL2,BL3とワード線WL0,WL2,WL3との立体交差部11に位置する記憶素子3)の各々には、その両端にVw/2の電圧が印加されるので、記憶素子3の両端に電位差は生じない。従って、これらの非選択素子では、抵抗変化素子1へのデータの書き込みは行われない。これにより、半選択素子及び非選択素子においてはデータの書き込みが行われず、選択素子のみにデータの書き込みを行うことが可能になる。即ち、書き込みディスターブを防止することが可能になる。
【0119】
尚、データの読み出し動作の際、選択素子のビット線BL1には読み出し電圧Vrが、ワード線WL1には電圧0が、各々印加される。又、この際、非選択素子には、データの書き込み動作の場合と同様にして、Vr/2の電圧が印加される。つまり、図14(a)における書き込み電圧Vwを読み出し電圧Vrに置き換える。これにより、選択された記憶素子3からデータが読み出される。
【0120】
一方、図14(b)は、本発明の実施の形態に係る書き込み電圧の他の具体的な印加動作を示す模式図である。尚、以下の説明においても、ビット線BL1とワード線WL1との立体交差部に位置する記憶素子3が選択され、この選択された記憶素子3(選択素子)にデータを書き込む場合の動作を例に挙げて説明する。
【0121】
図14(b)においても、縦線は、左から順に、ビット線BL0,BL1,BL2,BL3を表している。そして、それらのビット線の上端には、各ビット線に印加される電圧値が記載されている。一方、横線は、上から順に、ワード線WL0,WL1,WL2,WL3を表している。そして、それらのワード線の左端には、各ワード線に印加される電圧値が記載されている。又、ビット線BL0〜BL3とワード線WL0〜WL3との各立体交差部に位置する各記憶素子3の両端における電圧差の絶対値が、縦線及び横線の各交点に図形により示されている。
【0122】
図14(b)に示す印加動作では、ビット線デコーダ4が、選択素子に接続するビット線BL1に書き込み電圧Vwを印加する。又、ワード線デコーダ7が、選択素子に接続するワード線WL1に電圧0を印加する。これにより、選択素子である記憶素子3の電流抑制素子2が導通状態となり、抵抗変化素子1に十分な電流が流れ、その結果、抵抗変化素子1の抵抗値が高抵抗状態或いは低抵抗状態に遷移する。
【0123】
一方、この図14(b)に示す印加動作では、ビット線BL1以外のビット線(即ち、ビット線BL0,BL2,BL3)にVw/3の電圧が印加され、かつ、ワード線WL1以外のワード線(即ち、ワード線WL0,WL2,WL3)に2Vw/3の電圧が印加される。この点が、図14(a)に示す書き込み電圧の印加動作と異なる点である。
【0124】
このように、図14(b)に示す書き込み電圧の印加動作では、選択素子以外の記憶素子3の両端に印加される電圧の絶対値を全てVw/3とし、このVw/3の電圧では抵抗変化素子1へのデータの書き込みが行われないよう書き込み電圧Vwを設定することで、半選択素子へのデータの書き込みを防止する。例えば、図13においてVwと記載された電圧をここでの書き込み電圧Vwとして設定すれば、Vw/3の電圧における電流抑制素子2の電気抵抗は非常に大きく、電流抑制素子2を流れる電流の値が非常に小さいため、選択素子以外の記憶素子3を構成する抵抗変化素子1に流れる電流は非常に小さくなる。その結果、抵抗変化素子1へのデータの書き込みが防止される。
【0125】
この図14(b)に示す印加動作によれば、選択素子以外の記憶素子3の両端における電位差が相対的により小さくなる。そのため、この図14(b)に示す印加動作は、書き込みディスターブの防止に有効である。尚、データの読み出し動作については、図14(a)を参照した説明と同様であり、図14(b)における書き込み電圧Vwを読み出し電圧Vrに置き換えればよい。
【0126】
以上、本発明によれば、記憶素子へのデータの書き込みの際、データを書き込むべき抵抗変化素子には大きな絶対値の電圧が印加され、それ以外の抵抗変化素子には小さな絶対値の電圧が印加されるよう電気パルスの電圧を設定すると、データを書き込むべき抵抗変化素子には大電流が流れ、それ以外の抵抗変化素子には電流が流れないようになる。従って、金属酸化物材料を用いて抵抗変化素子を構成する場合でも、選択された記憶素子にはデータが確実に書き込まれ、それ以外の記憶素子にはデータは書き込まれない。
【0127】
しかも、本発明に係る電流抑制素子は、極性が正及び負の何れの印加電圧に対してもMIMダイオードやバリスタ等の電気抵抗特性と同様の電気抵抗特性を示すので、異なる極性の書き込み電気パルスを用いても、迂回電流が確実に抑制される。これにより、記憶装置における書き込みディスターブの発生が確実に防止される。
【0128】
又、本発明によれば、データの書き込みの際に電気パルスの印加回路上で電位の設定のみを行えばよいので、記憶装置における電子回路、或いは、記憶素子の動作方法に特段の工夫を加えることなく、データを問題無く書き込むことが可能な好適な記憶装置を容易に提供することが可能になる。
【0129】
更には、本発明によれば、電流抑制素子を半導体の製造プロセス及びその製造設備を用いて製造することができるので、電流抑制素子を微細化することが容易になると共に、高品質の電流抑制素子を製造することが可能になる。これにより、極性の異なる電気パルスを印加してデータを書き込む記憶素子及びそれをマトリクス状に配設してなる記憶装置の小型化及び高品質化が実現される。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明に係る記憶素子は、極性の異なる電気パルスを印加する場合でも書き込みディスターブの発生を防止することが可能であり、かつ抵抗変化素子に大電流を流すことが可能である、書き込みディスターブが発生することなくデータを問題無く書き込み可能な記憶素子として、産業上の利用可能性を十分に有している。
【0131】
本発明に係る記憶装置は、極性の異なる電気パルスを印加する場合でも書き込みディスターブの発生を防止することが可能であり、かつ抵抗変化素子に大電流を流すことが可能である、書き込みディスターブが発生することなくデータを問題無く書き込み可能な記憶装置として、産業上の利用可能性を十分に有している。
【符号の説明】
【0132】
1 抵抗変化素子
2 電流抑制素子
3 記憶素子
3a 記憶素子(選択素子)
4 ビット線デコーダ
5 読み出し回路
6,7 ワード線デコーダ
11 立体交差部
20 記憶素子アレイ
21 記憶装置
31 第1の電極
32 第2の電極
33 電流抑制層
WL0〜WL3 ワード線
BL0〜BL3 ビット線
Vw 書き込み電圧
Vr 読み込み電圧
A,B,C 範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性が正又は負の電気パルスの印加によりその電気抵抗値が変化しかつ該変化した後の電気抵抗値を維持する抵抗変化素子と、
前記抵抗変化素子に前記電気パルスの印加時に流れる電流を抑制する電流抑制素子と、を備え、前記抵抗変化素子と前記電流抑制素子とが直列に接続された記憶素子であって、
前記電流抑制素子は、第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に配設された電流抑制層と、を備え、
前記電流抑制層が、SiN(0<x≦0.85)でかつアモルファス半導体により構成されている、記憶素子。
【請求項2】
前記第1の電極及び前記第2の電極の少なくとも一方が、窒化タンタルを含んでいる、請求項1に記載の記憶素子。
【請求項3】
前記電流抑制層の膜厚が20nm以下である、請求項1に記載の記憶素子。
【請求項4】
極性が正又は負の電気パルスの印加によりその電気抵抗値が変化しかつ該変化した後の電気抵抗値を維持する抵抗変化素子と該抵抗変化素子に前記電気パルスの印加時に流れる電流を抑制する電流抑制素子とを備え、該電流抑制素子は第1の電極と第2の電極と該第1の電極と該第2の電極との間に配設された電流抑制層とを備え、該電流抑制層がSiN(0<x≦0.85)でかつアモルファス半導体により構成されている、複数の記憶素子と、
複数のビット線と、
前記複数のビット線に各々立体交差する複数のワード線と、を備え、
前記複数の記憶素子は前記抵抗変化素子と前記電流抑制素子とが直列に接続されて構成されており、
前記複数の記憶素子が、前記ビット線と前記ワード線とが立体交差する各々の部分に配設され、該各々の部分において、前記直列回路の一端がその対応する前記ビット線に、前記直列回路の他端がその対応する前記ワード線に、各々接続されている、記憶装置。
【請求項5】
前記第1の電極及び前記第2の電極の少なくとも一方が、窒化タンタルを含んでいる、請求項4に記載の記憶装置。
【請求項6】
前記電流抑制層の膜厚が20nm以下である、請求項4に記載の記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9(a)】
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【図9(b)】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−253377(P2012−253377A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−178318(P2012−178318)
【出願日】平成24年8月10日(2012.8.10)
【分割の表示】特願2009−506194(P2009−506194)の分割
【原出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】