説明

記録方法、該記録方法に適用可能なインク組成物のセット及び画像形成装置

【課題】 色材物質の定着部間でのにじみの発生を抑え、定着時間が短縮可能で、定着性の良好な記録方法及びインクのセットを提供する。
【解決手段】 溶媒、色材及びアニオン性ポリマーを含有し、前記色材が前記アニオン性ポリマーに内包された第一のインク組成物と、溶媒、色材及びカチオン性ポリマーを含有する第二のインク組成物とを用意する工程と、媒体上に前記第一のインク組成物と第二のインク組成物とを接触させて付与する工程とを有し、前記接触により前記アニオン性ポリマー及び前記カチオン性ポリマーの少なくとも一方の粘度が増加する記録方法。本発明の記録方法に適用可能な第一のインク組成物と第二のインク組成物とを備えたインクのセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録方法、該記録方法に適用可能なインク組成物のセット、及び画像形成装置に関する。より詳しくは、インクジェット法を用いた記録に好適な記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル印刷技術は非常な勢いで進歩している。このデジタル印刷技術は、電子写真技術、インクジェット技術と言われるものがその代表例であるが、近年オフィス、家庭等における画像形成技術としてその存在感をますます高めてきている。
【0003】
インクジェット技術はその中でも直接記録方法として、コンパクト、低消費電力という大きな特徴がある。また、ノズルの微細化等により急速に高画質化が進んでいる。インクジェット技術の一例は、インクタンクから供給されたインクをノズル中のヒーターで加熱することで蒸発発泡し、インクを吐出させて記録媒体に画像を形成させるという方法である。他の例はピエゾ素子を振動させることでノズルからインクを吐出させる方法である。
【0004】
これらの方法に使用されるインクとしては通常染料水溶液が用いられるため、色の重ね合わせ時ににじみが生じたり、記録媒体上の記録箇所に紙の繊維方向にフェザリングと言われる現象が現れたりする場合があった。これらを改善する目的でアニオン性インクとカチオン性インクとの反応を用いている例がある(特許文献1、特許文献2)。しかしながら更なる耐候性の向上、耐擦過性の改善などが求められている。
【特許文献1】米国特許第5555008号明細書
【特許文献2】米国特許第5801733号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、色材を含むインク組成物を用いて色材物質の定着部からなる画像を記録媒体に形成する際に、色材物質の定着部間でのにじみの発生を抑え、定着時間が短縮可能で、定着性の良好な記録方法を提供するものである。更にこの記録方法に適用可能なインク組成物のセット、及び画像形成装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により提供される記録方法は、溶媒、色材及びアニオン性ポリマーを含有し、前記色材が前記アニオン性ポリマーに内包された第一のインク組成物と、溶媒、色材及びカチオン性ポリマーを含有する第二のインク組成物とを用意する工程と、媒体上に前記第一のインク組成物と第二のインク組成物とを接触させて付与する工程とを有し、前記接触により前記アニオン性ポリマー及び前記カチオン性ポリマーの少なくとも一方の粘度が増加することを特徴とする記録方法である。
【0007】
前記アニオン性ポリマーおよび前記カチオン性ポリマーは、ポリアルケニルエーテルの繰り返し構造を有するものとすることができる。
また、本発明においては、前記第一の液体組成物のアニオン性ポリマーがポリアルケニルエーテル構造を有し、前記ポリアルケニルエーテル構造が下記一般式(1)で表されるものとすることができる。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Ra 、Rb 、Rc はそれぞれ独立にHまたはCH3 である。R1 は炭素数1から18までの直鎖状、分岐状または環状のアルキル基、または−(CH(R2 )−CH(R3 )−O)l −R4 もしくは−(CH2m −(O)n −R4 から選ばれる。l、mはそれぞれ独立に1から12の整数から選ばれ、nは0または1である。またR2 、R3 はそれぞれ独立にHまたはCH3 である。R4 はH、炭素数1から6までの直鎖状、分岐状または環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−CHO、−CH2 CHO、−CO−CH=CH2 、−CO−C(CH3 )=CH2 、−CH2 COOR5 、−PhCOOR5 からなり、R4 が水素原子以外である場合、炭素原子上の水素原子は炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルキル基と置換していてもよい。R5 はH、或いはNaまたはKからなる塩である。)
また、本発明においては、前記第二のインク組成物のカチオン性ポリマーがポリアルケニルエーテル構造を有し、前記ポリアルケニルエーテル構造が下記一般式(2)で表されるものとすることができる。
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Xはポリアルケニル基を表す。Aは炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されてもよいアルキレン基を表す。mは0から30までの整数を表す。mが複数のときはAは異なってもよい。Bは単結合または置換されてもよいアルキレン基を表す。Dはアンモニウム塩を表す。)
前記第一のインク組成物及び前記第二のインク組成物における色材は、顔料とすることができる。
【0012】
また、前記第二のインク組成物における色材は、染料とすることもできる。
また、前記第二のインク組成物は、有機イオンと染料を含むものとすることができる。
更に、本発明は、本発明の記録方法に適用可能な第一のインク組成物と第二のインク組成物とを備えたインクのセットをも包含する。
【0013】
更に、本発明は、前記第一のインク組成物と前記第二のインク組成物のそれぞれにエネルギーを作用させ、前記インク組成物を媒体に付与して画像を形成するためのインク付与手段と、前記インク付与手段を駆動するための駆動手段とを備えていることを特徴とする画像形成装置を包含する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、色材を含むインク組成物を用いて色材の定着部からなる画像を記録媒体に形成する際に、色材の定着部間でのにじみの発生を抑え、定着時間が短縮可能で、定着性の良好な記録方法を提供することができる。また、本発明は本発明の記録方法に適用可能なインクのセットを提供すると共に、色材定着部間でのにじみの発生を抑えることが可能な画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明にかかる記録方法は、溶媒、色材及びアニオン性ポリマーを含有し、前記色材が前記アニオン性ポリマーに内包された第一のインク組成物と、溶媒、色材及びカチオン性ポリマーを含有する第二のインク組成物と、を用意する工程と、媒体上に前記第一のインク組成物と第二のインク組成物とを接触させて付与する工程と、を有し、前記接触により前記アニオン性ポリマー及び前記カチオン性ポリマーの少なくとも一方の粘度が増加することを特徴とする。
【0016】
前記第一のインク組成物および第二のインク組成物に含有されている色材として、2種類の異色または同色の色材を用いることが好ましい。本発明の方法を用いることで、2種類の異色の色材を含むインク組成物を用いた複色記録、または2種類の同色の色材を用いたインク組成物を用いた同色記録が可能となる。そしてこれらの記録をすると、記録媒体上で行った着色部に良好な定着性が得られ、かつ異なるインク組成物から得られる着色部間でのにじみの発生を良好に抑えることが可能となる。
【0017】
本発明においては、第一のインク組成物と第二のインク組成物はいずれも溶媒と機能性物質を含み、第一のインク組成物はポリアルケニルエーテル構造を有するアニオン性ポリマーに機能性物質が内包され分散し、第二のインク組成物は前記アニオン性ポリマーの対イオン性のカチオン性ポリマーを含有し、それぞれのインク組成物を互いに接触させて記録媒体上に複色記録または同色記録する記録方法とすることが好ましい。
【0018】
本発明において色材としては、顔料のような粒状固体、染料化合物などを挙げることができる。
色材としては前述したように顔料が例としてあり、無機の無彩色顔料、有機、無機の有彩色顔料があり、また、無色または淡色の顔料、金属光沢顔料等を使用してもよい。本発明のために、新規に合成した顔料を用いてもよい。
【0019】
以下に、黒、シアン、マゼンタ、イエローにおいて、市販されている顔料を例示する。
黒色の顔料としては、Raven1060(商品名、コロンビアン・カーボン社製)、MOGUL−L(商品名、キャボット社製)、Color Black FW1(商品名、デグッサ社製)、MA100(商品名、三菱化学社製)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0020】
シアン色の顔料としては、C.I.Pigment Blue−15:3、C.I.Pigment Blue−15:4、C.I.Pigment Blue−16、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
マゼンタ色の顔料としては、C.I.Pigment Red−122、C.I.Pigment Red−123、C.I.Pigment Red−146、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
イエローの顔料としては、C.I.Pigment Yellow−74、C.I.Pigment Yellow−128、C.I.Pigment Yellow−129、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
また、本発明には顔料同様に染料を用いることもできる。使用しうる染料は、公知のものでも新規のものでもよく、例えば以下に述べるような直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料、食品用色素の水溶性染料、脂溶性(油溶性)染料又は、分散染料の不溶性色素を用いることができるが、固体化した状態で使用されてもよい。この点では好ましくは、例えば、油溶性染料が使用されえる。
【0024】
例えば、水溶性染料としては、C.I.ダイレクトブラック,−17,−62,−154;C.I.ダイレクトイエロー,−12,−87,−142;C.I.ダイレクトレッド,−1,−62,−243;C.I.ダイレクトブルー,−6,−78,−199;C.I.ダイレクトオレンジ,−34,−60;C.I.ダイレクトバイオレット,−47,−48;C.I.ダイレクトブラウン,−109;C.I.ダイレクトグリーン,−59等の直接染料、
C.I.アシッドブラック,−2,−52,−208;C.I.アシッドイエロー,−11,−29,−71;C.I.アシッドレッド,−1,−52,−317;C.I.アシッドブルー,−9,−93,−254;C.I.アシッドオレンジ,−7,−19;C.I.アシッドバイオレット,−49等の酸性染料、 C.I.リアクティブブラック,−1,−23,−39;C.I.リアクティブイエロー,−2,−77,−163;C.I.リアクティブレッド,−3,−111,−221;C.I.リアクティブブルー,−2,−101,−217;C.I.リアクティブオレンジ,−5,−74,−99;C.I.リアクティブバイオレット,−1,−24,−38;C.I.リアクティブグリーン,−5,−15,−23;C.I.リアクティブブラウン,−2,−18,−33等の反応染料;
C.I.ベーシックブラック,−2;C.I.ベーシックレッド,−1,−12,−27;C.I.ベーシックブルー,−1,−24,;C.I.ベーシックバイオレット,−7,−14,−27;C.I.フードブラック,−1,−2等が挙げられる。
【0025】
また、油溶性染料として、以下に、各色の市販品を例示する。
黒色の油溶性染料としては、C.I.Solvent Black−3,−22:1,−50等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
イエローの油溶性染料としては、C.I.Solvent Yellow−1,−25:1,−172等が挙げられるが、これらに限定されない。
オレンジの油溶性染料としては、C.I.Solvent Orange−1,−40:1,−99等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
レッドの油溶性染料としては、C.I.Solvent Red−1,−111,−229等が挙げられるが、これらに限定されない。
バイオレットの油溶性染料としては、C.I.Solvent Violet−2,−11,−47等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
ブルーの油溶性染料としては、C.I.Solvent Blue−2,−43,−134等が挙げられるが、これらに限定されない。
グリーンの油溶性染料としては、C.I.Solvent Green−1,−20,−33等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
ブラウンの油溶性染料としては、C.I.Solvent Brown−1,−12,−58等が挙げられるが、これらに限定されない。
なお、これら上記の色材の例は、本発明の液体組成物に対して特に好ましいものであるが、本発明に使用する色材は上記色材に特に限定されるものではない。
【0030】
色材物質は、インク組成物の全質量に対して、0.01〜80質量%の範囲で含有させることが好ましい。色材物質を2種以上用いる場合は、その合計量がこの範囲になるように設定することが好ましい。色材物質の量が、0.01質量%以上であれば好ましい発色性が得られ、80質量%以下であれば好ましい分散性が得られる。好ましい範囲としては0.1質量%から50質量%の範囲である。さらに好ましくは0.3質量%から30質量%の範囲である。
【0031】
また、本発明に用いられるインク組成物は液媒体を含有する。本発明のインク組成物に含まれる液媒体は、特に限定されないが、インク組成物に含まれる成分を溶解、懸濁または分散できる液媒体を意味する。本発明では、直鎖、分岐鎖、環状の各種脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、複素芳香族炭化水素などの非水溶性有機溶剤、水溶性有機溶剤、水などが液媒体として使用でき、もちろんそれらの混合溶媒を使用することも可能である。
【0032】
特に、本発明においては、水あるいは、水と水溶性有機溶剤からなる水性液媒体を好適に使用することができる。
水溶性有機溶剤の例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロビレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、置換ピロリドン、トリエタノールアミン等の含窒素溶媒等を挙げることができる。また、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の一価アルコール類を用いることもでき、必要に応じてその2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
水性液媒体のpHに関しても全ての範囲で使用可能であるが、好ましくはpHは1から14の間である。本発明の液体組成物に用いられる液媒体の含有量は、0.9質量%以上99質量%以下の範囲から選択でき、好ましくは10質量%以上99質量%以下である。0.9質量%以上であれば、インクとしての粘性が高くなりすぎることがなく、99質量%以下であれば、好ましい発色性が得られる。
【0034】
また、本発明における第一のインク組成物に使用されるアニオン性ポリマーは、特に限定はされないが、ポリアルケニル構造を有するアニオン性ポリマーであることが好ましく、さらに好ましくはブロックポリマーが用いられる。本発明で言うブロックポリマーは異なる繰り返し単位構造からなるポリマーユニット、すなわちブロックセグメントが共有結合で結ばれた共重合体であり、ブロックコポリマーあるいはブロック共重合体とも言う。さらに好ましくは、前記ブロックポリマーが両親媒性のポリマーであることが好ましい。両親媒性とは、親媒性を有する部位と疎媒性を有する部位を併せ持つ性質を言う。たとえば媒質が水であった場合、両親媒性物質はミセル粒子を形成し、該粒子を観測することができる。
【0035】
次に、アニオン性ポリマーは、ブロックポリマーであることが好ましい。本発明に用いることができる第一のインク組成物のブロックポリマーとして、具体的な例をあげると、アクリル、メタクリル系ブロックポリマー、ポリスチレンと他の付加重合系または縮合重合系のブロックポリマー等、従来から知られているブロックポリマーを用いることもできる。
【0036】
本発明における第一のインク組成物のブロックポリマーとしてはAB、ABA、ABC等のブロック形態がより好ましい。A、B、Cはそれぞれ異なるブロックセグメントを示す。良好な内包状態を形成しえる点でABCブロックポリマーが好ましく、ABCブロックポリマーであってABCの順に疎水性、親水性、親水性のブロックセグメントが形成されているポリマーがより好ましく、さらにその疎水性、親水性、親水性のうちBが非イオン性の親水性であり、Cがイオン性の親水性であり、さらにCがアニオン性であることが好ましい形態である。
【0037】
本発明の第一のインク組成物に用いられるアニオン性ポリマーは、ポリアルケニルエーテル構造を含むブロックポリマーが好ましく用いられる。特に好ましくはポリビニルエーテル構造を含むブロックポリマーである。本発明に好ましく用いられるポリアルケニルエーテル構造を含むブロックポリマーの合成法が報告されているが、青島らによるカチオンリビング重合による方法(ポリマーブレタン誌 15巻、1986年 417頁、特開平11−322942号公報)が代表的である。カチオンリビング重合でポリマー合成を行うことにより、ホモポリマーや2成分以上のモノマーからなる共重合体、さらにはブロックポリマー、グラフトポリマー、グラジュエーションポリマー等の様々なポリマーを、長さ(分子量)を正確に揃えて合成することができる。また、ポリアルケニルエーテルは、その側鎖に様々な官能基を導入することができる。カチオン重合法は、他にHI/I2 系、HCl/SnCl4 系等で行うこともできる。
【0038】
また、ポリアルケニルエーテル構造を含むブロックポリマーの構造は、ビニルエーテルと他のポリマーからなる共重合体であってもよい。好ましくはポリビニルエーテル繰り返し単位構造からなるポリマーが使用される。
【0039】
本発明での第一のインク組成物に用いられるアニオン性ポリマーはポリビニルエーテル構造を含む繰り返し単位構造であることが好ましく、その一例は以下の一般式(1)で表される。
【0040】
【化3】

【0041】
(式中、Ra 、Rb 、Rc はそれぞれ独立にHまたはCH3 である。R1 は炭素数1から18までの直鎖状、分岐状または環状のアルキル基、または−(CH(R2 )−CH(R3 )−O)l −R4 もしくは−(CH2m −(O)n −R4 から選ばれる。l、mはそれぞれ独立に1から12の整数から選ばれ、nは0または1である。またR2 、R3 はそれぞれ独立にHまたはCH3 である。R4 はH、炭素数1から6までの直鎖状、分岐状または環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−CHO、−CH2 CHO、−CO−CH=CH2 、−CO−C(CH3 )=CH2 、−CH2 COOR5 、−PhCOOR5 からなり、R4 が水素原子以外である場合、炭素原子上の水素原子は炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルキル基と置換していてもよい。R5 はH、或いはNaまたはKからなる塩である。)
Phはフェニル基またはフェニレン基、Pyrはピリジル基を示す。
【0042】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位構造は、本発明で好ましく用いられるABCトリブロックポリマーのA,B,C各セグメント中に好ましく用いられる。用いられる繰り返し単位構造の具体例としては、以下のものが例としてあげられる。
【0043】
以下に疎水性ポリマーの繰り返し単位分子構造を明記するが、本発明に用いられるポリビニルエーテル構造は、これらに限定されない。
【0044】
【化4】

【0045】
以下に熱による刺激応答性性ポリマーの繰り返し単位分子構造を明記するが、本発明に用いられるポリビニルエーテル構造は、これらに限定されない。応答性は加熱により親水性から疎水性への変化である。一例を挙げると、(I−f)の変化は21℃で現れる。
【0046】
【化5】

【0047】
以下に親水性ポリマーの繰り返し単位分子構造を明記するが、本発明に用いられるポリビニルエーテル構造は、これらに限定されない。
【0048】
【化6】

【0049】
以下にアニオン性ポリマーの繰り返し単位分子構造を明記するが、本発明に用いられるポリビニルエーテル構造は、これらに限定されない。カウンターのカチオンにはNH4+やNa+ 、K+ などが挙げられる。
【0050】
【化7】

【0051】
上述した例に限定しないが、これらポリアルケニルエーテルの繰り返しユニット構造を用いて両親媒性のブロックポリマーを作成するには、例えば疎水性のブロックセグメントと親水性のブロックセグメントを選択、合成することにより得ることができる。また、グラフトポリマーの場合、例えば疎水性のポリマーセグメントを親水性のポリマーにグラフト結合させることにより両親媒性のポリマーを得ることができる。特に本発明で好ましく用いられる第一の液体組成物に含まれるアニオン性ポリマーは、両親媒性のブロックポリマーである。

本発明で用いられる第一のインク組成物に用いられるアニオン性ポリマーの分子量分布Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は2.0以下であることが好ましい。更に好ましくは1.6以下であり、更に好ましくは1.3以下である。さらに好ましくは1.2以下である。
【0052】
本発明で用いられるアニオン性ポリマーの数平均分子量Mnは2000以上である。好ましくは3000以上であり、100万を超えないほうが良い。数平均分子量が2000未満である場合、機能性物質の分散安定性が良くない場合がある。本発明のポリマーの数平均分子量、重量平均分子量は、体積排除クロマトグラフィー(別名 ゲルパーミエイションクロマトグラフィー/GPC)で測定することが可能である。
【0053】
本発明の第一のインク組成物に用いられるアニオン性ポリマーの含有率は、液体組成物の0.1質量%以上90質量%以下であり、好ましくは1質量%以上50質量%であり、0.1質量%以上であれば、液体組成物中での機能性物質の分散または溶解状態が十分であり、90質量%以下であれば、粘度が高くなりすぎることがないため好ましい。
【0054】
本発明における第一のインク組成物に含有される機能性物質は、外的環境からの影響による変性を抑制する意味でポリマーに内包されていることが好ましい。
ここで述べる変性とは、物理的な変性でも、化学的な変性でも、またその両方による変性でもよい。一例を述べると、前記第一のインク組成物と前記第二のインク組成物とを接触させたときに、前記カチオン性ポリマー及び前記アニオン性ポリマーの少なくとも一方のイオン解離度が変化(変性)するものである。また別の例を挙げると、前記2液を接触させたときに、前記カチオン性ポリマー及び前記アニオン性ポリマーの少なくとも一方の溶解度が変化(変性)するものである。さらにはこれらの変性により、少なくとも一方のインク組成物の粘性が変化することが好ましく、増粘乃至ゲル化する変性が望ましい一形態である。
【0055】
特に両親媒性のブロックポリマーを用いることで、自己集積構造を形成することにより機能性物質を容易に内包することができる。また、分散安定性向上、包接性向上のためにはブロックポリマーの分子運動性がよりフレキシブルであることが機能性物質と物理的に絡まり親和しやすい点を有しているため好ましい。さらには記録媒体上で被覆層を形成しやすい点でもフレキシブルであることが好ましい。このためにはブロックポリマーの主鎖のガラス転移温度Tgは、好ましくは20℃以下であり、より好ましくは0℃以下であり、さらに好ましくは−20℃以下である。この点でもポリビニルエーテル構造を有するポリマーは、ガラス転移点が低く、フレキシブルな特性を有するため、好ましく用いられる。
【0056】
本発明の第一のインク組成物は、前述したように色材を内包していることが好ましい形態である。内包状態は、例えば、ブロックポリマーが形成する水中でのミセルに、水に不溶の有機溶媒中に色材を溶解させたものを添加し、その後有機溶媒を留去することにより形成することが出来る。そのほかに有機溶剤中にブロックポリマーと色材を共溶解もしくは均一分散させた状態から、水系の溶媒中に転相することにより自己集積的プロセスを利用することにより包接状態を形成することも可能である。残存溶媒は留去することも可能である。さらには、例えばブロックポリマーが形成する水中でのミセルに、水に不溶の有機溶媒中に顔料を分散させたものを添加することによっても内包状態を形成することが出来る。
【0057】
内包状態の確認は、各種電子顕微鏡、X線回折等の機器分析により実施することが可能である。また、ミセル状態の包接の場合、ミセル崩壊条件で色材が溶媒からポリマーと別々に分離することで内包状態を間接的に確認することが出来る。
【0058】
以上説明してきたようにブロックポリマーがミセル状態を形成することが好ましく、そのためにも、本発明に用いられるブロックポリマーとしては両親媒性ものが効果的である。ブロックポリマーはこの意味でより好ましくはアニオン性の繰り返し単位構造を有するポリマーセグメントを有することが好ましい。後述する必要性からもアニオン性の繰り返し単位構造を有していることが好ましいが内包状態を形成するためにも好ましい。本発明においては分散の安定性、色材の内包、粘性等の諸特性の上からブロックポリマーを用いることが好ましい。
【0059】
次に、本発明における第二のインク組成物について説明する。第二のインク組成物は、前記第一のインク組成物の対イオン性インク組成物であり、第一のインク組成物がアニオン性の液体組成物で、第二のインク組成物はカチオン性の液体組成物である。カチオン性の付与に関して塩基性を示す化合物の添加などが挙げられる。一例として、有機化合物では、アンモニアやアルキルアミン等のアミノ基(−NH2 )を有する化合物及び窒素を更に多く有するアルギニンやグアニジンあるいはビグアニド誘導体等のグアニジノ基やビグアニド基を持つ化合物の添加などが挙げられる。そして特にこれに限定されるものではないが、複色記録後における第二のインクの耐擦過性の点からカチオン性ポリマーを第二のインク組成物に含有させるのが好ましい形態である。
【0060】
カチオン性ポリマーとしては特に限定されないが、側鎖あるいは主鎖にアミノ基あるいはイミノ基をもつ高分子として、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の合成高分子及びポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸があり、いずれも水溶性のポリマーで塩基性を示すため、通常塩酸塩等の酸塩の形で用いられる。特に本発明における第二のインク組成物に用いられるカチオン性ポリマーとしては、定着性、分散安定性の点から、Tgが低く水溶性であるポリアルケニルエーテル構造を有するポリマーが有用であり、特に下記一般式(2)で表される構造を含むポリマーが好ましく用いられる。
【0061】
【化8】

【0062】
(式中、Xはポリアルケニル基を表す。Aは炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されてもよいアルキレン基を表す。mは0から30までの整数を表す。mが複数のときはAは異なってもよい。Bは単結合または置換されてもよいアルキレン基を表す。Dはアンモニウム塩を表す。)
【0063】
アンモニウム塩とは、例えば、ピリジル基、ピリジルフェニル基、少なくとも1つの水素がアミノ基に置換されている芳香環、あるいはアミノ基等の酸塩である。ここで酸塩とは例えば、アミノ基(−NH2 )の塩酸からなる酸塩は(−NH +3 Cl- )、ピリジル基(−Pyr)の塩酸からなる酸塩は(−PyrH+ Cl- )になっているものである。
【0064】
用いられる繰り返し単位構造の具体例としては、以下のものが例としてあげられる。カウンターのアニオンにはBr- 、Cl- 等が挙げられる.
【0065】
【化9】

【0066】
本発明で用いられる第二のインク組成物におけるカチオン性ポリマーの分子量分布Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は2.0以下であることが好ましい。更に好ましくは1.6以下であり、更に好ましくは1.3以下である。さらに好ましくは1.2以下である。
【0067】
本発明で用いられる第二のインク組成物におけるカチオン性ポリマーの数平均分子量Mnは2000以上である。好ましくは3000以上であり、100万を超えないほうが良い。数平均分子量が200未満である場合、二液接液による反応性が良くない場合がある。本発明のポリマーの数平均分子量、重量平均分子量は、体積排除クロマトグラフィー(別名 ゲルパーミエイションクロマトグラフィー/GPC)で測定することが可能である。
【0068】
本発明の第二のインク組成物中に含有されるカチオン性ポリマーの含有率は、液体組成物の0.1質量%以上90質量%以下であり、好ましくは1質量%以上50質量%であり、0.1質量%以上であれば、第一の液体組成物との反応性が好ましく、90質量%以下であれば、粘度が高くなりすぎることがないため好ましい。
【0069】
本発明における第二のインク組成物に含有されるカチオン性ポリマーは主鎖のガラス転移温度Tgが、好ましくは20℃以下であり、より好ましくは0℃以下であり、さらに好ましくは−20℃以下である。この点でもポリビニルエーテル構造を有するポリマーは、ガラス転移点が低く、フレキシブルな特性を有するため、好ましく用いられる。
【0070】
本発明における第二のインク組成物の色材が自己分散顔料であることも好ましく、カーボンブラック等に見られる表面処理による自己分散型顔料が代表例である。一例としては、Aqua−Black(登録商標)162、Aqua−Black(登録商標)001(東海カーボン製)などが挙げられる。
【0071】
また、本発明においては、第一のインク組成物中のブロックポリマーに対し、対イオン性染料を第二のインク組成物の色材に含む様態が好ましく、特に第一のインク組成物中のブロックポリマーがアニオン性である場合、第二のインク組成はカチオン性染料を用いることも好ましい。カチオン性染料としては、トリフェニルメタン染料としてマラカイトグリーン型、パラローズアニリン型、オーリン型等やメチレンブルー(アミノ塩酸塩型)、Aizen Cathilon Red 6BH、Aizen Cathilon Blue K−2GLH、Aizen Cathilon Brilliant Yellow 5GLHなどが挙げられる。
【0072】
さらには、第一のインク組成物中のブロックポリマーがアニオン性とする場合の他のケースとして、第二のインクにカチオン性の有機イオンと染料を用いることも好ましい。カチオン性の有機イオンとしては、アミノ基及びその誘導体(アミン塩または4級アミン塩など)を有する有機化合物からなるカチオンが挙げられる。
【0073】
また、本発明に適用されるインク組成物には上記以外の、例えば酸化防止剤、減粘剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、防かび剤等の添加物を含有させることも可能である。
本発明は、溶媒と色材を含む第一のインク組成物及び第二のインク組成物を用い、第一のインク組成物にはアニオン性ポリマーに有色色材が内包され分散し、第二のインク組成物は前記アニオン性ポリマーの対イオンのカチオン性インク組成物であり、それぞれのインク組成物を互いに接触させて記録媒体上に複色記録または同色記録する記録方法でもある。好ましくは第一のインク組成物においては有色色材がポリアルケニルエーテル構造を有するアニオン性ポリマーに内包されて分散している。
【0074】
本発明においては、第一のインク組成物および第二のインク組成物に含有される色材は、互に異なる色の2種類の色材を用いてもよく、または互に同じ色の2種類の色材を用いてもよく、記録媒体上に記録すると、複色記録を、後者は同色記録をすることができる。
【0075】
本発明は、その2種類のインク組成物が、典型的には記録媒体上で接液したとき、少なくとも片方のインク組成物がもう一方のインク組成物の極性と対を成しているため、イオン的性質に変化が生じる。イオン的性質の変化としては、pHの変化、溶解性の変化、粘性の変化等が挙げられる。その結果、該2種のインク組成物間のにじみが抑制されたり、乾燥速度が向上したりする、画像形成方法が可能となる。より好ましくは接液によって感応し、ポリマーが変性するものである。
【0076】
このようなケースの例をさらに具体的に説明する。第一のインク組成物に両親媒性のアニオン性トリブロックポリマーが形成するミセルに黄色の顔料を内包した、水分散インクがあり、このブロックポリマーの親水部は非イオン性の親水性ブロックとアニオン性の親水性ブロックからなるものであり、アニオンのブロックはpHを9で調製されたカルボン酸のナトリウム塩でとする。さらに第二インク組成物として、水溶性のカチオン性ポリマーを含有した黒色の自己分散顔料を含む水分散インクがあり、このカチオン性ポリマーは側鎖にピリジンの塩酸塩を有するものであり、pHを2に調製する。第一のインクと第二のインクが隣接箇所にインクジェット記録され、接液すると、第一のインクはpHが酸性に変化し、親水基のカルボン酸ナトリウムが中和されミセル粒子同士が強く相互作用するようになり、増粘される。極端な場合粒子が凝集する。その結果第一のインクは増粘し、ブリードすなわち色交じりが減少する。また、この場合に用いられる第一のインクはミセルを形成し色材を覆うことも可能である。その結果、色材が直接外気に接することが減少するため、色材の保護層として機能する。具体的な効果としては耐擦過性などがあげられる。さらに色材に顔料を用いる際には、ポリマーのガラス転移温度が比較的低いポリアルケニル構造を有しているため、被記録媒体、特に紙への定着性や耐水性に優れることが期待される。
【0077】
本発明における好ましい形態として、上記の様に第1のインク組成物と第2のインク組成物とが接した際にこれらのインク組成物の少なくとも一方に増粘が生じるが、第1のインク組成物と第2のインク組成物とが接するとは、第1のインク組成物の液面と第2のインク組成物の液面とが接触する場合、または記録媒体中にインク組成物が膨潤した状態で接液したりする場合のことを表し、2つのインク組成物の液体を一度に容器に入れて機械的に混合することとは異なるものである。例えば、インクジェット法による記録により、同時に吐出された2つのインク組成物の液体の液面が接触し、接触した界面から互に内部に移動した各々のインク組成物のpHの変化により強く相互作用し、顔料内包分散体がより強く相互作用し、液体組成物が増粘される。
【0078】
次に、本発明の方法を実施するのに好適なインクジェット記録装置について説明する。インクジェット記録装置としては、圧電素子を用いたピエゾインクジェット方式や、熱エネルギーをインクに作用させて膜沸騰現象を生じせしめて記録を行うバブルジェット(登録商標)方式等、様々なインクジェット記録装置に適用できる。
【0079】
以下、このインクジェット記録装置について図1を参照して概略を説明する。但し、図1はあくまでも構成の一例であり、本願発明を限定するものではない。
図1は、インクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。
【0080】
図1は、ヘッドを移動させて被記録媒体に記録をする場合を示した。図1において、製造装置の全体動作を制御するCPU50には、ヘッド70をXY方向に駆動するためのX方向駆動モータ56およびY方向駆動モータ58がXモータ駆動回路52およびYモータ駆動回路54を介して接続されている。CPUの指示に従い、Xモータ駆動回路52およびYモータ駆動回路54を経て、このX方向駆動モータ56およびY方向駆動モータ58が駆動され、ヘッド70の被記録媒体に対する位置が決定される。
【0081】
図1に示されるように、ヘッド70には、X方向駆動モータ56およびY方向駆動モータ58に加え、ヘッド駆動回路60が接続されており、CPU50がヘッド駆動回路60を制御し、ヘッド70の駆動、即ちインクジェット用インクの吐出等を行う。さらに、CPU50には、ヘッドの位置を検出するためのXエンコーダ62およびYエンコーダ64が接続されており、ヘッド70の位置情報が入力される。また、プログラムメモリ66内に制御プログラムも入力される。CPU50は、この制御プログラムとXエンコーダ62およびYエンコーダ64の位置情報に基づいて、ヘッド70を移動させ、被記録媒体上の所望の位置にヘッドを配置してインクジェット用インクを吐出する。このようにして被記録媒体上に所望の描画を行うことができる。また、複数のインクジェット用インクを装填可能な画像記録装置の場合、各インクジェット用インクに対して上記のような操作を所定回数行うことにより、被記録媒体上に所望の描画を行うことができる。
【0082】
また、インクジェット用インクを吐出した後、必要に応じて、ヘッド70を、ヘッドに付着した余剰のインクを除去するための除去手段(図示せず)の配置された位置に移動し、ヘッド70をワイピング等して清浄化することも可能である。清浄化の具体的方法は、従来の方法をそのまま使用することができる。
【0083】
描画が終了したら、図示しない被記録媒体の搬送機構により、描画済みの被記録媒体を新たな被記録媒体に置き換える。
なお、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態を修正または変形することが可能である。例えば、上記説明ではヘッド70をXY軸方向に移動させる例を示したが、ヘッド70は、X軸方向(またはY軸方向)のみに移動するようにし、被記録媒体をY軸方向(またはX軸方向)に移動させ、これらを連動させながら描画を行うものであってもよい。
【0084】
本発明は、インクジェット用インクの吐出を行わせるために利用されるエネルギーとして熱エネルギーを発生する手段(例えば電気熱変換体やレーザ光等)を備え、上記熱エネルギーによりインクジェット用インクを吐出させるヘッドが優れた効果をもたらす。かかる方式によれば描画の高精細化が達成できる。本発明に適用されるインクを使用することにより、更に優れた描画を行うことができる。
【0085】
上記の熱エネルギーを発生する手段を備えた装置の代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号明細書,同第4740796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は所謂オンデマンド型,コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体が保持され、流路に対応して配置されている電気熱変換体に、吐出情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応した液体内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長および収縮により吐出用開口を介して液体を吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れた液体の吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4463359号明細書,同第4345262号明細書に記載されているようなものが適している。なお、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4313124号明細書に記載されている条件を採用すると、さらに優れた吐出を行うことができる。
【0086】
ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組合せ構成(直線状液流路または直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4558333号明細書,米国特許第4459600号明細書を用いた構成も本発明に含まれるものである。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスリットを電気熱変換体の吐出部とする構成を開示する特開昭59−123670号公報や熱エネルギーの圧力波を吸収する開孔を吐出部に対応させる構成を開示する特開昭59−138461号公報に基いた構成としても本発明の効果は有効である。すなわち、ヘッドの形態がどのようなものであっても、本発明によればインクジェット用インクの吐出を確実に効率よく行うことができる。
【0087】
さらに、本発明の画像形成装置で被記録媒体の最大幅に対応した長さを有するフルラインタイプのヘッドに対しても本発明は有効に適用できる。そのようなヘッドとしては、複数のヘッドの組合せによってその長さを満たす構成や、一体的に形成された1個のヘッドとしての構成のいずれでもよい。
【0088】
加えて、シリアルタイプのものでも、装置本体に固定されたヘッド、または、装置本体に装着されることで装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプのヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0089】
さらに、本発明の装置は、液滴除去手段を更に有していてもよい。このような手段を付与した場合、更に優れた吐出効果を実現できる。
また、本発明の装置の構成として、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定化できるので好ましい。これらを具体的に挙げれば、ヘッドに対してのキャッピング手段、加圧または吸引手段、電気熱変換体またはこれとは別の加熱素子、または、これらの組合せを用いて加熱を行う予備加熱手段、インクの吐出とは別の、吐出を行なうための予備吐出手段などを挙げることができる。
【0090】
本発明に対して最も有効なものは、上述した膜沸騰方式を実行するものである。
本発明の装置では、インクジェット用インクの吐出ヘッドの各吐出口から吐出されるインクの量が、0.1ピコリットルから100ピコリットルの範囲であることが好ましい。
【0091】
また、本発明の液体組成物としてのインクは、中間転写体にインクを印字した後、紙等の記録媒体に転写する記録方式等を用いた間接記録装置にも用いることができる。また、直接記録方式による中間転写体を利用した装置にも適用することができる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
合成例1(ポリマーの合成)
(1)イソブチルビニルエーテルと2−(4−ビフェニルオキシ)−エチル−ビニルエーテル(Aブロック成分)と、2−(2−メトキシエトキシ)−エチルビニルエーテル(Bブロック成分)と、4−(2―ビニルオキシエトキシ)安息香酸ナトリウム(Cブロック成分)からなるトリブロックポリマーの合成。
【0093】
三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下250℃に加熱し吸着水を除去した。系を室温に戻した後、イソブチルビニルエーテル(IBVE)20mmol(ミリモル)、2−(4−ビフェニルオキシ)−エチル−ビニルエーテル(BPhOVE)20mmol、酢酸エチル16mmol、1−イソブトキシエチルアセテート0.1mmol、及びトルエン11mlを加え、反応系を冷却した。系内温度が0℃に達したところでエチルアルミニウムセスキクロリド(ジエチルアルミニウムクロリドとエチルアルミニウムジクロリドとの等モル混合物)を0.2mmol加え重合を開始した。分子量を時分割に分子ふるいカラムクロマトグラフィー(GPC)を用いてモニタリングし、A成分の重合の完了を確認した。
【0094】
次いで、2−(2−メトキシエトキシ)−エチルビニルエーテル(MOEOVE)44mmolを添加し、Bセグメントの重合を開始した。分子量を時分割に分子ふるいカラムクロマトグラフィー(GPC)を用いてモニタリングし、B成分の重合の完了を確認した。
【0095】
最後に10mmolのCブロック成分のトルエン溶液を添加して、重合を続行した。16時間後、重合反応を停止した。重合反応の停止は、系内に0.3質量%のアンモニア/メタノール水溶液を加えて行った。反応混合物溶液をジクロロメタンにて希釈し、0.6M塩酸で3回、次いで蒸留水で3回洗浄した。得られた有機相をエバポレーターで濃縮・乾固したものを真空乾燥させたものを、セルロースの半透膜を用いてメタノール溶媒中透析を繰り返し行い、モノマー性化合物を除去し、トリブロックポリマーを得た。
【0096】
得られたポリマー化合物の同定は、NMRおよびGPCを用いて行った(重合比A/B/C=100/116/9、数平均分子量25300、重量平均分子量30800)。このブロックポリマー26重量部をpH13の水酸化ナトリウム水溶液200重量部ともに0℃で3日間攪拌し、カルボン酸ナトリウム塩ポリマー溶液とした。透析を行い過剰の水酸化ナトリウムを除去し、乾燥し、溶媒を留去してカルボン酸ナトリウム塩型ABCブロックポリマーを単離した。
【0097】
(2)重合性化合物(CH2 =CHOCH2 CH2 O−(4−(2,6−ジメチル)ピリジン))の合成
2,6−ジメチル−4−ヒドロキシピリジン、11.34モルをジメチルホルムアミド11Lに溶かし、炭酸カルシウム25.52モルを加えた。
【0098】
2−クロロエチルビニルエーテル 12.47モルを注加した後、昇温し、100〜110℃時間撹拌したのち室温まで冷却し、氷水33Lに注いだ。
トルエンで抽出後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水したのち濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、活性炭で脱色後、減圧蒸留を行い、2,6−ジメチル−4−ヒドロキシピリジンを得た(収率15.6%)。
【0099】
(3)CH2 =CHOCH2 CH2 O−(4−(2,6−ジメチル)ピリジン)からなるポリマーの合成
CH2 =CHOCH2 CH2 O−(4−(2,6−ジメチル)ピリジン)100mmol、水2mmol、エチルアルミニウムダイクロライド5mmolを無水トルエン中でカチオン重合した。
【0100】
20時間後反応を終了し、メチレンクロライドと水を加え、水洗、希塩酸で洗浄、アルカリ洗浄したのち、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去し高分子化合物(ポリマー)を得た。排除体積クロマトグラフィーによる数平均分子量は3000であった。上記と同様に合成した。このポリマー26重量部を塩化メチレンに懸濁させ、pH2の塩酸水溶液200重量部ともに0℃で3日間攪拌し、分液ろうと中で振り混ぜた。得られた有機層を数回水洗したのち、濃縮乾固するとで、塩酸塩型ポリマーを単離した。
【0101】
インクの作成例(インクの調製)
(1)第一のインク:マゼンダ顔料C.I.PigmentRed122を3質量部、合成例(1)のブロックポリマー5質量部、およびジエチレングリコール15質量部をイオン交換水178質量部に加え、さらにpHを7.8に調製し、超音波ホモジナイザーを用いて分散した。1μmのフィルターを通して加圧濾過し、顔料分散水性インクを調製した。顔料の分散性は良好であった。
【0102】
上記液体組成物のそれぞれをエネルギーフィルターを備えたクライオTEMで水溶液を凍結し電子顕微鏡観察したところ、球状のミセル粒子のみが観察され、色材はブロックポリマー中に完全に内包されていることがわかった。
【0103】
(2)第二のインクA:黒色顔料(商品名モーグルL、キャボット社製)を3質量部、合成例(3)のポリマー5質量部、およびジエチレングリコール15質量部をイオン交換水178質量部に加え、さらにpHを4.5に調製し、超音波ホモジナイザーを用いて分散した。1μmのフィルターを通して加圧濾過し、顔料分散水性インクを調製した。顔料の分散性は良好であった。
【0104】
(3)第二のインクB:塩基性染料のメチレンブルー(塩酸塩型)を3質量部、およびジエチレングリコール15質量部、塩酸を添加したイオン交換水178質量部を加えて、超音波ホモジナイザーを用いて均一溶解した。1μmのフィルターを通して加圧濾過し、酸性の水性染料インクを調製した。
【0105】
(4)第二のインクC:青色染料(C.I.ダイレクトブルー−6)を3質量部、ジメチルアミン塩酸塩5質量部、およびジエチレングリコール15質量部をイオン交換水178質量部に加え、超音波ホモジナイザーを用いて均一溶解した。1μmのフィルターを通して加圧濾過し、顔料分散水性インクを調製した。顔料の分散性は良好であった。
【0106】
実施例1 印字評価
上記第一のインクと、第2のインクAを用いて、インクジェット法による記録を行った。インクジェットプリンタ(商品名BJF800、キヤノン(株)製バブルジェット(登録商標))のインクタンクに2種のインク組成物を充填し、1mm間隔で黒とマゼンダの交互のパターンを普通紙に記録したところ、黒とマゼンダ境界線のにじみはほとんど無かった。顕微鏡で観察したところにじみの平均の幅は0.18mmであった。また印字30秒後に指で被記録部を強く押したところインクが指に付着しなかった。
また印字直後に蒸留水10mlで約50cm2 の面積にわたって濡らしたところ、記録パターンは変化しなかった。
【0107】
実施例2
上記第一のインクと、第2のインクBを用いて、実施例1と同様にインクジェット法による記録を行った。1mm間隔で2色の交互のパターンを普通紙に記録したところ、2色の境界線のにじみはほとんど無かった。顕微鏡で観察したところにじみの平均の幅は0.21mmであった。また印字30秒後に指で被記録部を強く押したところインクが指に付着しなかった。
また印字直後に蒸留水10mlで約50cm2 の面積にわたって濡らしたところ、記録パターンは変化しなかった。
【0108】
実施例3
上記第一のインクと、第2のインクCを用いて、実施例1と同様にインクジェット法による記録を行った。1mm間隔で二色の交互のパターンを普通紙に記録したところ、二色の境界線のにじみはほとんど無かった。顕微鏡で観察したところにじみの平均の幅は0.23mmであった。また印字30秒後に指で被記録部を強く押したところインクが指に付着しなかった。
また印字直後に蒸留水10mlで約50cm2 の面積にわたって濡らしたところ、記録パターンは変化しなかった。
【0109】
比較例1
第一のインクに対応するインク:オレンジII〔4−[(2−ヒドロキシ−1−ナフタレニル)アゾ]ベンゼンスルフォニック酸モノナトリウム塩〕;〔4−[(2−hydroxy−1−naphthalenyl)azo]benzenesulfonicacid monosodium salt〕を3質量部、ジエチレングリコール15質量部をイオン交換水178質量部に加え、さらにpHを8.0に調製し、超音波ホモジナイザーを用いて溶解した。1μmのフィルターを通して加圧濾過し、橙色染料インクを調製した。色材の溶解性は良好であった。
【0110】
第二のインクに対応するインク:黒色顔料(商品名モーグルL、キャボット社製)を3質量部、スチレンスルホン酸ナトリウムとスチレンのランダム共重合体(1:2共重合体、数平均分子量4,500、重量平均分子量7,900)5質量部、およびジエチレングリコール15質量部をイオン交換水178質量部に加え、さらにpHを6.1に調製し、超音波ホモジナイザーを用いて分散した。1μmのフィルターを通して加圧濾過し、顔料分散水性インクを調製した。顔料の分散性は良好であった。
【0111】
実施例1と同様の印字試験を行なったところ、黒と橙色の境界部に目視で
はっきりとにじみが見られた。顕微鏡で観察したところにじみの平均の幅は0.36mmであった。また印字30秒後に指で被記録部を強く押したところインクが指に付着した。
また印字直後に蒸留水10mlで約50cm2の面積にわたって濡らしたところ色の滲みと交じりが同時に発生し、記録パターンが大きく変化した。
【0112】
比較例2
第一のインクに対応するインクの調製
マゼンダ顔料C.I.PigmentRed122を3質量部、スチレンアクリル酸ナトリウムブロックポリマー(1:1共重合体 数平均分子量6,300、重量平均分子量9,200)5質量部、およびジエチレングリコール15質量部をイオン交換水178質量部に加え、さらにpHを9.7に調製し、超音波ホモジナイザーを用いて分散した。1μmのフィルターを通して加圧濾過し、顔料分散水性インクを調製した。顔料の分散性は良好であった。
【0113】
第二のインクに対応するインクの調製
黒色顔料(商品名モーグルL、キャボット社製)を3質量部、スチレンスルホン酸ナトリウムとスチレンのランダム共重合体(1:2共重合体、数平均分子量4,500、重量平均分子量7,900)5質量部、およびジエチレングリコール15質量部をイオン交換水178質量部に加え、さらにpHを6.1に調製し、超音波ホモジナイザーを用いて分散した。1μmのフィルターを通して加圧濾過し、顔料分散水性インクを調製した。顔料の分散性は良好であった。
【0114】
第一のインクに対応するインクと、第二のインクに対応するインクを用いて実施例1と同様に1mm間隔で交互のパターンを普通紙に記録したところ、境界線のにじみは目視で見られ、顕微鏡で観察したところにじみの平均の幅は0.38mmであった。
【0115】
また印字直後に蒸留水10mlで約50cm2 の面積にわたって濡らしたところ色の滲みと交じりが同時に発生し、記録パターンが大きく変化した。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の記録方法は、色材の定着部間でのにじみの発生を抑え、定着時間が短縮可能で、色材定着部間でのにじみの発生を抑えることが可能なインクジェット記録装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0118】
20 インクジェット記録装置
50 CPU
52 Xモータ駆動回路
54 Yモータ駆動回路
56 X方向駆動モータ
58 Y方向駆動モータ
60 ヘッド駆動回路
62 Xエンコーダ
64 Yエンコーダ
66 プログラムメモリ
70 ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒、色材及びアニオン性ポリマーを含有し、前記色材が前記アニオン性ポリマーに内包された第一のインク組成物と、溶媒、色材及びカチオン性ポリマーを含有する第二のインク組成物とを用意する工程と、媒体上に前記第一のインク組成物と第二のインク組成物とを接触させて付与する工程とを有し、前記接触により前記アニオン性ポリマー及び前記カチオン性ポリマーの少なくとも一方の粘度が増加することを特徴とする記録方法。
【請求項2】
前記アニオン性ポリマーおよび前記カチオン性ポリマーがポリアルケニルエーテルの繰り返し構造を有することを特徴とする請求項1記載の記録方法。
【請求項3】
前記第一のインク組成物のアニオン性ポリマーがポリアルケニルエーテル構造を有し、前記ポリアルケニルエーテル構造が下記一般式(1)で表されることを特徴とする請求項2記載の記録方法。
【化1】

(式中、Ra 、Rb 、Rc はそれぞれ独立にHまたはCH3 である。R1 は炭素数1から18までの直鎖状、分岐状または環状のアルキル基、または−(CH(R2 )−CH(R3 )−O)l −R4 もしくは−(CH2m −(O)n −R4 から選ばれる。l、mはそれぞれ独立に1から12の整数から選ばれ、nは0または1である。またR2 、R3 はそれぞれ独立にHまたはCH3 である。R4 はH、炭素数1から6までの直鎖状、分岐状または環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−CHO、−CH2 CHO、−CO−CH=CH2 、−CO−C(CH3 )=CH2 、−CH2 COOR5 、−PhCOOR5 からなり、R4 が水素原子以外である場合、炭素原子上の水素原子は炭素数1から4の直鎖状または分岐状のアルキル基と置換していてもよい。R5 はH、或いはNaまたはKからなる塩である。)
【請求項4】
前記第二のインク組成物のカチオン性ポリマーがポリアルケニルエーテル構造を有し、前記ポリアルケニルエーテル構造が下記一般式(2)で表されることを特徴とする請求項2記載の記録方法。
【化2】

(式中、Xはポリアルケニル基を表す。Aは炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されてもよいアルキレン基を表す。mは0から30までの整数を表す。mが複数のときはAは異なってもよい。Bは単結合または置換されてもよいアルキレン基を表す。Dはアンモニウム塩を表す。)
【請求項5】
前記第一のインク組成物及び前記第二のインク組成物における色材が顔料であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の記録方法。
【請求項6】
前記第二のインク組成物における色材は、染料であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の記録方法。
【請求項7】
前記第二のインク組成物は、有機イオンと染料を含むことを特徴とする請求項6記載の記録方法。
【請求項8】
前記請求項1乃至7のいずれかに記載の第一のインク組成物と第二のインク組成物とを備えたインク組成物のセット。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の前記第一のインク組成物と前記第二のインク組成物のそれぞれにエネルギーを作用させ、前記インク組成物を媒体に付与して画像を形成するためのインク付与手段と、前記インク付与手段を駆動するための駆動手段とを備えていることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−205707(P2006−205707A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132956(P2005−132956)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】