説明

記録装置

【課題】PGが変化してもキャリッジの首振りを適切に抑制することのできる記録装置を提供する。
【解決手段】インクジェットプリンター1は、媒体に記録を行う記録ヘッド29を備えた、記録ヘッド29の走査方向に移動可能なキャリッジと、記録ヘッド29と媒体との間のギャップが変化する方向においてキャリッジ本体28aとの相対位置を変位可能に設けられ、キャリッジ28とともに前記走査方向に移動する第1摺動部33aと、第1摺動部33aが接する、前記走査方向に延設されたガイド部材41と、第1摺動部33aに対するキャリッジ本体28aの位置を調整することによりギャップを調整するギャップ調整手段32と、キャリッジ本体28aに設けられ、ガイド部材41において第1摺動部33aが接する側に対し反対側と摺接する第2摺動部37aをガイド部材41に向けて付勢する付勢部材(板ばね)37と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体に記録を行う記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
以下、記録装置の一例としてのインクジェットプリンターを例に説明する。インクジェットプリンターは、記録用紙にインクを吐出する記録ヘッドをキャリッジに備えている。このキャリッジは、記録ヘッドの走査方向(以下「主走査方向」と言う)に延びるガイド部材に案内されるとともに、例えば無端ベルトの一部に固定され、当該無端ベルトに牽引されることで主走査方向に往復動作する様に構成されている。
【0003】
ここで、キャリッジにおいて無端ベルトが固定される位置と、キャリッジの重心位置とは通常一致させることはできない為、無端ベルトがキャリッジを牽引する際、キャリッジが回転しようとする現象(”首振り現象”とも呼ばれる)が発生し、インク着弾精度が低下する場合がる。尚、首振りの方向にはいくつかあり、用紙の記録面において用紙搬送方向をy方向、y方向と直交する方向(用紙幅方向)をx方向、記録面と直交する方向をz方向とすれば、x−z平面における首振りや、x−y平面における首振りなどがある。
【0004】
特許文献1には、キャリッジの首振りを防止する為に、ガイド部材(ガイド軸)とキャリッジとの間で付勢力を発揮する付勢手段を設け、これによりキャリッジに予め一定方向の回転モーメントを与えておき、キャリッジの移動方向に拘わらず常に一定方向の回転モーメントを生じさせることで首振りを防止する様に構成された記録装置が記載されている。
【0005】
また特許文献2には、キャリッジの移動方向に沿って設けられた第1及び第2ガイド部材と、キャリッジと、の間のガタを抑える為に、付勢手段によって各ガイド部材と摺接する摺接面がガイド部材に押し付けられる様に構成された画像形成装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−96028号公報
【特許文献2】特開2004−17314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところでインクジェットプリンターには記録ヘッドと用紙との間のギャップ(以下「PG」と言う)を調整可能に構成されたものがあり、PGを調整することにより、用紙の厚みに拘わらず適切な記録結果を得ることができる様になっている。
このPGを調整する調整機構には種々のものが提案されており、例えばキャリッジを主走査方向に案内するガイド部材の高さ位置を変化させることによりPGを調整するものがある。
【0008】
ここで、PG調整機構として、ガイド部材は固定的に設けた上で、キャリッジにおいてガイド部材と摺接する摺動部材とキャリッジ本体との間の相対位置を変化させることによりPGを調整する様に構成する場合を考える。
【0009】
この様な構成にあっては、ガイド部材を変位させる必要がなく、装置の低コスト化を図ることができる一方で、PG調整を行うとガイド部材に対するキャリッジ重心位置や、ガイド部材に対するキャリッジ牽引位置(キャリッジにおいて無端ベルトが固定される位置)が変化する。従ってPG調整に伴いキャリッジ牽引時の回転モーメントの大きさ(首振り現象の程度)も変化する。このため、PGの大きさに拘わらず、適切な首振り防止効果が得られることが望まれるが、上述した従来の記録装置においては、この様な技術的課題については考慮されていなかった。
【0010】
そこで本発明はこの様な状況に鑑みなされたものであり、その目的は、PGが変化してもキャリッジの首振りを適切に抑制することのできる記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する為の、本発明の第1の態様に係る記録装置は、媒体に記録を行う記録ヘッドを備えた、当該記録ヘッドの走査方向に移動可能なキャリッジと、前記記録ヘッドと媒体との間のギャップが変化する方向において前記キャリッジを構成する前記キャリッジの本体との相対位置を変位可能に設けられ、前記キャリッジとともに前記走査方向に移動する第1摺動部と、前記第1摺動部が接するとともに前記第1摺動部を介して前記キャリッジの自重を受ける、前記走査方向に延設されたガイド部材と、前記第1摺動部に対する前記キャリッジの本体の位置を調整することにより前記ギャップを調整するギャップ調整手段と、前記キャリッジの本体の側に設けられた付勢部材により前記ガイド部材に向けて付勢され、前記ガイド部材において前記第1摺動部が接する側に対し反対側と摺接する第2摺動部とを備えたことを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、ガイド部材と摺接する第1摺動部とキャリッジ本体との間の相対位置を変化させることによりギャップ(PG)を調整する構成を備えた記録装置は、ガイド部材において第1摺動部が接する側に対し反対側と摺接する第2摺動部を付勢する付勢部材が前記キャリッジ本体に設けられているので、PGの変化に伴って前記付勢部材が前記第2摺動部を付勢する付勢力が変化する。
【0013】
より具体的には、PGが大きくなる(キャリッジ本体がガイド部材から離れる)と、キャリッジ重心とガイド部材との距離も大きくなるので、首振りが生じ易くなる。しかし、同時にキャリッジ本体と第2摺動部との距離も大きくなるので、前記付勢部材は伸ばされこれにより前記付勢部材が前記第2摺動部を付勢する付勢力も大きくなり、これにより首振り抑制効果が増大する。尚、PGが小さくなる場合には、上記とは逆となる。以上により、本態様によればPGが変化してもその変化量に応じてキャリッジの首振りを適切に抑制することが可能となる。
【0014】
尚、付勢部材が「キャリッジの本体の側に設けられる」とは、付勢部材が、キャリッジにおいて上記第1摺動部に対してPG調整方向に変位する構成の側に設けられるという意味であり、キャリッジ本体を構成する筐体に限られず、キャリッジ本体に設けられるその他の構成(記録ヘッドなど)に付勢部材が設けられることも含むものである。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第2摺動部が、前記走査方向に沿って複数設けられていることを特徴とする。
本態様によれば、前記第2摺動部が、前記走査方向に沿って複数設けられているので、複数箇所でキャリッジの首振りに対向することでキャリッジの首振りをより適切に抑制することが可能となる。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1のまたは第2の態様において、前記第2摺動部と、前記ガイド部材と、前記付勢部材と、のこれらが金属材料により形成されるとともにこれらが互いに電気的に接触し、前記記録ヘッドが前記付勢部材と電気的に接触することにより、前記付勢部材、前記第2摺動部、前記ガイド部材、のこれらが前記記録ヘッドを接地する接地手段を構成することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、キャリッジの首振りを抑制する構造を利用して記録ヘッドの接地手段を構成するので、記録ヘッドの接地手段を専用に設ける必要がなく、装置の低コスト化と省スペース化を図ることができる。
【0018】
本発明の第4の態様は、第2の態様において、前記複数の第2摺動部のうち少なくとも1つの第2摺動部と、前記ガイド部材と、前記付勢部材と、のこれらが金属材料により形成されるとともにこれらが互いに電気的に接触し、前記記録ヘッドが前記付勢部材と電気的に接触することにより、前記付勢部材、前記第2摺動部、前記ガイド部材、のこれらが前記記録ヘッドを接地する接地手段を構成し、前記複数の第2摺動部のうち前記接地手段を構成する第2摺動部が、前記接地手段を構成しない第2摺動部よりも小さい付勢力で前記ガイド部材に接することを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、キャリッジの首振りを抑制する構造を利用して記録ヘッドの接地手段を構成するので、記録ヘッドの接地手段を専用に設ける必要がなく、装置の低コスト化と省スペース化を図ることができる。そして、その上で本態様においては複数設けられた第2摺動部のうち上記接地手段を構成する第2摺動部を、上記接地手段を構成しない第2摺動部よりも小さい付勢力で前記ガイド部材に接するので、荷重変動に伴う接地抵抗の変動を招く虞が低減され、適切な接地を行うことができる。
【0020】
本発明の第5の態様は、第1から第4の態様のいずれかにおいて、前記付勢部材が、板ばねにより構成されていることを特徴とする。
本態様によれば、前記付勢部材が、板ばねにより構成されるので、前記付勢部材を構造簡単にして且つ低コストに構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るプリンターの用紙搬送経路を示す側断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係るプリンターの、キャリッジの側面図。
【図3】ギャップ調整手段の分解斜視図。
【図4】ギャップ調整手段の断面図。
【図5】ヘッドカバー、板ばね、の斜視図。
【図6】(A)、(B)はキャリッジ本体の移動方向とキャリッジ本体の首振り方向を説明する為の模式図。
【図7】(A)〜(C)はPG調整に伴うキャリッジ本体と第2ガイド板との位置関係の変化を示す為の模式図。
【図8】第2摺動部の他の実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明は、以下説明する実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることを前提として、以下本発明の一実施形態を説明するものとする。
【0023】
図1は、本発明に係る記録装置、そして更にその一例としてのインクジェットプリンター1の側断面概略図、図2はキャリッジ28の側面図、図3はギャップ調整手段32の分解斜視図、図4はギャップ調整手段32の断面図、図5はヘッドカバー30、板ばね37、の斜視図である。また図6、図7はキャリッジ28及びギャップ調整手段32の構成を模式的に描いたものであり、図6(A)、(B)はキャリッジ28の移動方向とキャリッジ本体28aの首振り方向を説明する為の模式図、図7(A)〜(C)はPG調整に伴うキャリッジ本体28aと第2ガイド板41との位置関係の変化を示す為の模式図である。更に、図8は第2摺動部の他の実施形態を示す図である。
【0024】
尚、図中においてx−y−z座標系は説明の便宜上方向を示したものであり、z方向は鉛直方向(重力方向、用紙記録面と直交する方向)、y方向が用紙Pの搬送方向、x方向がy方向及びz方向と直交する方向(主走査方向、用紙幅方向)である。
【0025】
以下では先ず、インクジェットプリンター1の全体構成を概説する。図1において符号2は媒体の一例としての記録用紙にインクジェット記録を行う記録部を、符号3は記録部2の上部に設けられるスキャナ部を、符号4はスキャナ部3の上部に設けられる自動原稿搬送部を、それぞれ示しており、即ちインクジェットプリンター1はインクジェット記録機能に加えてスキャナ機能を備える複合機として構成されている。
【0026】
装置下部において符号18は記録用紙をセットする着脱可能な用紙カセットであり、符号47は排出された記録用紙を受ける排紙受けトレイである。この記録部2は2つの用紙給送経路を備えており、1つは装置下部に設けられた第2用紙給送部6からの用紙給送経路であり、他の1つは装置背面側に設けられた第1用紙給送部5からの用紙給送経路である。尚、破線Pfは第2用紙給送部6から送り出される記録用紙の通過軌跡を示し、破線Prは第1用紙給送部5から送り出される用紙の通過軌跡を示している。
【0027】
第2用紙給送部6において、用紙カセット18と対向する位置には、回転軸15aを中心に揺動可能なローラー支持部材(アーム部材)15に軸支された、用紙給送手段を構成する給送ローラー17が設けられている。この給送ローラー17は、ローラー支持部材15の揺動動作により用紙カセット18に対して進退可能に設けられ、用紙カセット18に収容された記録用紙Pの最上位のものと接して回転することで、当該最上位の記録用紙Pを下流側に送り出す。
【0028】
給送ローラー17によって送り出された記録用紙Pは、大径の反転ローラー21によって湾曲反転させられた後、搬送手段としての搬送駆動ローラー23及び搬送従動ローラー24に到達する。尚、符号22は反転ローラー21との間で用紙をニップすることにより用紙の分離を行う分離ローラーを示している。
【0029】
一方、記録部2の上部後方に設けられた第1用紙給送部5において、支持部材11は記録用紙を傾斜姿勢に支持するとともに、上部の図示しない揺動軸を中心に揺動することで、支持している用紙の最上位のものを給送ローラー12に圧接させる。給送ローラー12は、回転することにより、圧接している用紙を下流側へ送り出す。尚、符号13は給送ローラー12との間で用紙をニップすることにより用紙の分離を行う分離ローラーを示している。
【0030】
搬送駆動ローラー23及び搬送従動ローラー24は、下流側へと記録用紙Pを精密送りするローラー対であり、このローラー対の下流側にはインクジェット式の記録ヘッド29と、用紙を下流側へ案内する支持部材25とが対向配置されている。
【0031】
記録ヘッド29は、用紙搬送方向と直交する方向(図1の紙面表裏方向:以下では適宜「主走査方向」或いは「用紙幅方向」と言うこととする)に往復動可能なキャリッジ28の底部に設けられ、主走査方向に移動しながら記録用紙Pに対してインクを吐出することにより記録を行う。尚、本実施形態においてキャリッジ28はインクカートリッジを搭載せず、プリンター本体側に固定的且つ着脱可能に設けられたインクカートリッジからインクチューブ27を介して記録ヘッド29にインクが供給される構成であるが、本発明がこれに限られないことは言うまでも無い。
【0032】
記録ヘッド29の下流側において、符号43は記録用紙Pの浮きを防止する従動ローラーであり、符号44は回転することにより記録用紙Pを排出する排出駆動ローラーであり、符号45は排出駆動ローラー44との間で記録用紙Pをニップする排出従動ローラーである。これらローラー対により、記録の行われた記録用紙Pは、排紙受けトレイ47に向けて排出される。
【0033】
尚、インクジェットプリンター1は、おもて面(第1面)に記録の行われた記録用紙Pを排紙受けトレイ47に向けて排出せずに、バックフィードして反転ローラー21により湾曲反転させることで、うら面(第2面)への記録が可能となっている。
【0034】
以上がインクジェットプリンター1の大略構成であり、以下、記録ヘッド29と用紙Pとの間のギャップ(PG)を調整するギャップ調整手段32と、キャリッジ28の首振りを抑制する付勢部材(板ばね37)手段、のこれらについて詳説する。
【0035】
図2において符号40は第1ガイド部材を示し、符号41は第2ガイド部材を示している。第1ガイド部材40、第2ガイド部材41ともに主走査方向に長い形状をなしており、キャリッジ28が主走査方向への移動に際して第1ガイド部材40、第2ガイド部材41によって主走査方向に案内される様になっている。尚、第1ガイド部材40及び第2ガイド部材41は、本実施形態ではともに金属材料により形成されている。
【0036】
より詳しくは、キャリッジ28の上部には摺動部28cが設けられており、この摺動部28cが第1ガイド部材40に摺接する様になっている。またキャリッジ28に設けられたスライダ33が、「ガイド部材」としての第2ガイド部材41の上面に摺接する様になっている。尚、第1ガイド部材40は、専らキャリッジ28の図2における反時計回り方向の回転を止める機能を果たし、第2ガイド部材41は、専らキャリッジ28の自重を受ける機能を果たす。
【0037】
次に、キャリッジ28は、ギャップ調整手段32によって、摺動部28cと第1ガイド部材40との接触状態、及びスライダ33と第2ガイド部材41との接触状態が維持されつつ、キャリッジ28の本体28aが上下方向(z方向)に変位し、これによりPGを調整できる様になっている。即ちギャップ調整手段32は、スライダ33(第1摺動部33a)に対するキャリッジ本体28aの位置を調整することによりPGを調整する。尚、本実施形態では第1ガイド部材40及び第2ガイド部材41は固定的に設けられており、これらが変位することはない。
【0038】
図3及び図4においてギャップ調整手段32は、上述のスライダ33と、カム部材34と、を備えて構成されている。スライダ33、カム部材34は、ともにキャリッジ28と一体となって主走査方向に移動する部材であるが、カム部材34はキャリッジ本体28a及びスライダ33に対して主走査方向に変位可能となる様にキャリッジ本体28aに設けられており、このカム部材34が主走査方向に変位することによりPGが変化する。
【0039】
より詳しくは、符号28bはキャリッジ本体28aに一体的に設けられた当接部であり、この当接部28bがカム部材34の上面に載った状態となっている。即ち、キャリッジ28の自重が当接部28bを介してカム部材34に掛かっている。
【0040】
カム部材34は、下面が階段状のカム面となっており、符号34a、34b、34c、34d、のこれらは階段状のカム面を構成する第1当接部、第2当接部、第3当接部、第4当接部、をそれぞれ示している。そしてこれら当接部が、スライダ33の上面側に形成された支持部33bによって支持される様に構成されている。尚、各カム面は、滑らかな傾斜面によって接続されており、カム部材34が引っかかりなく主走査方向に移動できる様になっている。
【0041】
次に、スライダ33において下面側には「摺動部」としての第1摺動部33aが形成されており、この第1摺動部33aが、キャリッジ28の移動に際して第2ガイド部材41の上面と摺接する様になっている。
【0042】
続いて符号26はキャリッジ28を主走査方向に牽引する無端ベルトを示している。無端ベルト26は、図示を省略する駆動プーリーと従動プーリーとに係回され、駆動プーリーが図示を省略するモーターにより駆動されることで、無端ベルト26が稼働し、キャリッジ28が主走査方向に移動する様になっている。尚、符号28dは、キャリッジ本体28aにおいて無端ベルト26が固定される位置(被牽引部)を示している。
【0043】
以上の構成において、上述した様にカム部材34はキャリッジ本体28a及びスライダ33に対して主走査方向に変位可能となる様にキャリッジ本体28aに設けられている。また更にスライダ33は、キャリッジ本体28aに対して主走査方向には一体的に移動するもののPG調整方向(z方向)には相対的に動くことができる様にキャリッジ本体28aに設けられており、換言すればスライダ33に対してキャリッジ本体28aがPG調整方向に変位できる様になっている。
【0044】
カム部材34の厚みは、第4当接部34d、第3当接部34c、第2当接部34b、第1当接部34a、のこの順に厚くなるので、従って例えばカム部材34が図4の位置(最もPGが低い状態)から右方向に変位し、スライダ33の支持部33bと当接する当接部が第4当接部34dから第3当接部33c、第2当接部33b、第1当接部34a、と変化していくと、PGが段階的に増加していく様になっている。尚、PGが最も大きい状態から、逆にカム部材34が図4の左方向に移動すれば、上記とは逆にPGが段階的に減少していくこととなる。
【0045】
尚、カム部材34のスライド動作は、図示を省略する係合部とキャリッジ移動動作とによって行われる様になっている。即ち、係合部(不図示)がキャリッジ28の往復動経路においてカム部材34と係合可能な位置と係合しない位置とを変位可能に設けられている。そして係合部(不図示)がカム部材34と係合可能な位置にあるときにキャリッジ28が移動することで、カム部材34が係合部(不図示)と係合し、そして更にキャリッジ28が移動することで、カム部材34のキャリッジ本体28a及びスライダ33に対するスライド動作が行われる様になっている。
【0046】
尚、このカム部材34のスライド動作は、カム部材34が係合部(不図示)によって主走査方向に拘束された状態で、キャリッジ28が移動することで実現されるので、PG切り換え時に実際に主走査方向に変位するのはカム部材34ではなく、キャリッジ本体28a及びスライダ33の側となる。
【0047】
尚、PGが現在どの段階にあるか(スライダ33の支持部33bが、第1〜第4当接部(34a〜34d)のいずれと当接しているか)は、キャリッジ28を移動させた際のキャリッジ駆動モーター(不図示)の電流値増加と、キャリッジ移動方向と、キャリッジ移動量と、で検出できる。即ち、キャリッジ駆動モーターの電流値増加により、PGが最も小さいか或いは最も大きいと判断でき、キャリッジ移動方向により、PGが大きい側に変化するか小さい側に変化するかを判断できる。尚、キャリッジ移動量は、キャリッジ移動量を検出する手段(例えばリニアエンコーダー:不図示)により検出できる。
【0048】
次に、付勢部材(付勢手段)としての板ばね37について説明する。上述の通り、第2ガイド部材41の上面には第1摺動部33aがキャリッジ本体28aの自重が掛かった状態で摺接するが、第2ガイド部材41において第1摺動部33aが接する側に対し反対側、即ち下面側には第2摺動部37aが板ばね37の付勢力によって圧接した状態で摺接する。
【0049】
第2摺動部37aは板ばね37の一部で構成されており、本実施形態では板ばね37の一部が2方向に別れる様にして構成されたことで、図5に示す様に2つの第2摺動部37aが形成されている。
【0050】
板ばね37において第2摺動部37aが形成された側の反対側は、記録ヘッド29に固定される。より詳しくは、図5において符号30は記録ヘッド29を構成する、金属材料で形成されたヘッドカバーを示しており、板ばね37の取付部37bがヘッドカバー30に形成された穴部30aに入り込む様になっている。
【0051】
尚、ヘッドカバー30、板ばね37、第2ガイド部材41、のこれらは、本実施形態では金属材料により形成されており、互いが電気的に接続された状態となり、これによって記録ヘッド29を接地する接地手段を構成している。この様に板ばね37が接地手段を兼ねるので、記録ヘッド29を接地する専用の接地手段を設ける必要がなく、装置の低コスト化を省スペース化を図ることができる。
【0052】
続いて、記録ヘッド29に取り付けられた板ばね37、およびその一部で構成された第2摺動部37aの作用効果について説明する。図6(A)はキャリッジ28が同図左方向に牽引される場合を示すものであり、このとき、キャリッジ本体28aには位置R1まわりに回転しようとする傾向(首振り)が生じる。
【0053】
尚、同図において符号Mはキャリッジ28の自重、符号αはキャリッジ移動方向の加速度、gは重力加速度、符号Tbは無端ベルト26の牽引力である。また、符号Gはキャリッジ28の重心位置である。
【0054】
図6(A)に示す様にキャリッジ28が静止状態から同図左方向に移動を開始するとき、力Tbはキャリッジ28を同図反時計回り方向に回転させようとし、Mα、Mgはこれを打ち消す様に作用するが、力TbがMg、Mαに打ち勝つことによりキャリッジ28は矢印U1で示す様に同図反時計回り方向に回転しようとし、即ち首振りしようとする。
【0055】
しかしながら板ばね37の付勢力によって第2摺動部37aが第2ガイド部材41の下側に圧接しているので(力Fa)、力Faの反力が記録ヘッド29即ちキャリッジ本体28aに反力Fbとして作用し、これが回転モーメントU1に対する抵抗力となる。
【0056】
図6(B)に示す様にキャリッジ28が同図右方向に移動する際も、同様に矢印U2で示す様にキャリッジ28は位置R2まわりに回転しようとするが、板ばね37の付勢力によって第2摺動部37aが第2ガイド部材41の下側に圧接しているので(力Fa)、力Faの反力が記録ヘッド29即ちキャリッジ本体28aに反力Fbとして作用し、これが回転モーメントU2に対する抵抗力となる。従って以上により、キャリッジ28の首振り現象が抑制され、良好な記録品質を得ることができる。
【0057】
そして第2摺動部37aが第2ガイド部材41に接する際の力Faは、PG変化に応じて変化する。即ち、板ばね37はPG調整によって上下するキャリッジ本体28aの側(本実施形態では記録ヘッド29)に設けられており、また板ばね37の一部で構成された第2摺動部37aは固定的に設けられた第2ガイド部材41に圧接するので、図7(A)、(B)、(C)に示す様にPGが変化すると、それに伴い力Fa(反力Fb)も変化する。
【0058】
より具体的には、図7(A)はPGが最も小さい状態を示しており、符号Z2はこのときの第2ガイド部材41と被牽引部28dとの間のz方向距離を、符号Z1は第2ガイド部材41と当接部28bとの間のz方向距離を示している。尚、符号X1は第1摺動部33aと被牽引部28dとの間のx方向距離を示している(但しこの距離X1はPGに拘わらず一定となる)。
【0059】
PGが図7(A)から図7(B)に示す様に一段階大きくなると、距離Z1、Z2にはそれぞれPG変化分(PG1)が上乗せされ、これによってキャリッジ本体28aはより一層首振りが発生し易くなる。同様に、PGが図7(B)から図7(C)に示す様に更に一段階大きくなると、距離Z1、Z2にはそれぞれPG1より大きいPG変化分(PG2)が上乗せされ、これによってキャリッジ本体28aは更に一層首振りが生じ易くなる。
【0060】
しかしながら、PGの増加に伴ってキャリッジ本体28a及び記録ヘッド29、即ち板ばね37の取付部37bも上方向に移動する為、これにより板ばね37は圧縮されてばね力も大きくなり、第2摺動部37aが第2ガイド部材41に圧接する力Faも大きくなる。従って以上により、PGが変化してもその変化量に応じてキャリッジ28の首振りを適切に抑制することが可能となる。
【0061】
尚、上記実施形態では第2摺動部37aは2つ設けられているが、これに限られず、1つ、或いは3つ以上であっても構わない。またその際、複数設けられた第2摺動部の間で付勢力(第2ガイド部材41に圧接する力の大きさ)を異なる様にしても良い。
【0062】
例えば、図8に示す他の実施形態では、2つの第2摺動部37aの間に更に第2摺動部37a’を設けている。この第2摺動部37a’は、他の板ばね37’によって構成されており、この板ばね37’は記録ヘッド29を接地する接地手段を構成しない(板ばね37とは電気的に絶縁されている)。そして第2摺動部37a’の両側に位置する第2摺動部37a、即ち接地手段を構成する第2摺動部は、接地手段を構成しない第2摺動部37a’よりも小さい付勢力で第2ガイド部材41に接する様に、ばね力が調整されている。これにより、荷重変動に伴う接地抵抗の変動を招く虞が低減され、適切な接地を実現することができる。
【0063】
尚、本実施形態では、当接部28b、支持部33b、第1摺動部33a、のこれらをx−y平面において同一位置に配置することで、特にカム部材34及びスライダ33の変形を防止できる様になっている。
【符号の説明】
【0064】
1 インクジェットプリンター、2 記録部、3 スキャナ部、4 自動原稿搬送部、5 第1用紙給送部、6 第2用紙給送部、11 用紙支持部材、12 給送ローラー、13 分離ローラー、15 ローラー支持部材、15a 回転軸、17 給送ローラー、18 用紙カセット、19 分離部材、21 反転ローラー、22 分離ローラー、23 搬送駆動ローラー、24 搬送従動ローラー、25 支持部材、26 無端ベルト、27 インクチューブ、28 キャリッジ、28a 本体、28b 当接部、28c 摺動部、28d 被牽引部、29 インクジェット記録ヘッド、30 ヘッドカバー、32 ギャップ調整手段、33 スライダ、33a 第1摺動部、33b 支持部、34 カム部材、34a 第1当接部、34b 第2当接部、34c 第3当接部、37 板ばね(付勢部材)、37a 第2摺動部、37b 取付部、40 第1ガイド部材、41 第2ガイド部材、43 従動ローラー、44 排出駆動ローラー、45 排出従動ローラー、47 排紙受けトレイ、P、P1、P2 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に記録を行う記録ヘッドを備えた、当該記録ヘッドの走査方向に移動可能なキャリッジと、
前記記録ヘッドと媒体との間のギャップが変化する方向において前記キャリッジを構成する前記キャリッジの本体との相対位置を変位可能に設けられ、前記キャリッジとともに前記走査方向に移動する第1摺動部と、
前記第1摺動部が接するとともに前記第1摺動部を介して前記キャリッジの自重を受ける、前記走査方向に延設されたガイド部材と、
前記第1摺動部に対する前記キャリッジの本体の位置を調整することにより前記ギャップを調整するギャップ調整手段と、
前記キャリッジの本体の側に設けられた付勢部材により前記ガイド部材に向けて付勢され、前記ガイド部材において前記第1摺動部が接する側に対し反対側と摺接する第2摺動部と、
を備えた記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の記録装置において、前記第2摺動部が、前記走査方向に沿って複数設けられている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の記録装置において、前記第2摺動部と、前記ガイド部材と、前記付勢部材と、のこれらが金属材料により形成されるとともにこれらが互いに電気的に接触し、
前記記録ヘッドが前記付勢部材と電気的に接触することにより、前記付勢部材、前記第2摺動部、前記ガイド部材、のこれらが前記記録ヘッドを接地する接地手段を構成する、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項4】
請求項2に記載の記録装置において、前記複数の第2摺動部のうち少なくとも1つの第2摺動部と、前記ガイド部材と、前記付勢部材と、のこれらが金属材料により形成されるとともにこれらが互いに電気的に接触し、
前記記録ヘッドが前記付勢部材と電気的に接触することにより、前記付勢部材、前記第2摺動部、前記ガイド部材、のこれらが前記記録ヘッドを接地する接地手段を構成し、
前記複数の第2摺動部のうち前記接地手段を構成する第2摺動部が、前記接地手段を構成しない第2摺動部よりも小さい付勢力で前記ガイド部材に接する、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の記録装置において、前記付勢手段が、板ばねにより構成されている、
ことを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−71434(P2013−71434A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214518(P2011−214518)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】