説明

設備機器の保守管理システム

【課題】 測定データの誤読や点検漏れ等を防止した保守管理の効率化を図った設備機器の保守管理システムを提供する。
【解決手段】 プラントの設備機器の動作情報を測定し通信網を介してDBに記録し部品の保守管理を行う設備機器の保守管理システムである。当該設備機器11の動作情報をセンシングして定期的に測定値を蓄積するICタグ12を前記設備機器11毎に設置し、前記設備機器11を巡回して前記ICタグ12に蓄積した前記設備機器11のID番号と動作情報を抽出してDBサーバ16に送信し前記設備機器11の保守管理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種プラントの設備機器の保守管理システムに係り、特に、点検業務の省力化と保守管理の効率化を図る設備機器の保守管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種プラント設備機器の保守管理に関し、測定対象となる設備機器の動作状態を把握する方法として、図4に示す方法がある。図示のように、設備機器の点検者は、測定対象となる設備機器1に加速度センサや温度センサのヘッダ2と呼ばれるセンシング端子を取付け、データレコーダ3やメータ等の表示機で各種の動作情報を取得していた。取得した情報の記録方法は、点検者が複数の点検箇所を巡回し、メータを目視にて読み取り、あらかじめ用意したチェックリストに現場にて手書きで記載していた。そして、点検後のチェックリストは、纏めて書庫4に保存していた。
【0003】
しかしながら、図4に示す方法では以下のような問題点があった。まず点検者の点検箇所の巡回忘れによる不正記入を防止することができない。また、点検者によるメータの表示データの誤読や、メータの読み取り結果をリストに記入する際の記載ミス、又はチェックリストの汚れによる誤読についても防止することはできなかった。さらに、記入したチェックリストは書庫で管理しているため、チェックリストの蓄積による書類の保管スペースの確保や、データの整理整頓等の管理が煩雑となっていた。また必要な記録データの検索に多大な労力と時間を要していた。
【0004】
これらの問題を解決するために、バーコード等を利用したシステムが提案されている。図5にバーコードとコンピュータを利用した保守管理方法を示す。図示のように点検者は前述同様に設備機器の点検箇所にバーコード5や二次元コードを設置し、点検時にバーコードスキャナ6を用いて認識する。これにより、点検対象となる部品番号等を特定し点検状況をコンピュータ7で管理することができ、点検者の巡回忘れを防止できる。
【0005】
また、近年、ネットワーク接続可能なデータレコーダが開発されており、これにより自動で、センシング結果をDB(データベース)に登録することが可能となっており、データの誤記、点検作業の低減が実現している。図6にネットワーク接続可能なデータレコーダを利用した従来方法を示す。図示のようにこれまでのデータレコーダに替えて、設備機器1に通信ユニットを有するネットワーク接続可能なデータレコーダ8を設備機器に接続している。ネットワーク接続可能なデータレコーダ8はWAN,無線LAN等の通信回線を介してDBサーバ9に測定データを送信している。またチェックリストにおいても、DB化されておりDBサーバにて管理することにより、情報の蓄積管理、検索作業が簡便に行えるようになった監視システムが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平2004−184400公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、測定データの読み取りにバーコードを使った場合、点検者は部品の部番等の設備機器情報についてはバーコードを通じて容易に入力することができるが、メータの読取り値(測定値)については手入力しなければならない。このため測定データの入力を誤るおそれがある。また、バーコードの汚れによりID番号を認識できない場合がある。
【0007】
また、特許文献1に記載のネットワーク接続可能なデータレコーダを使用した場合には、使用するデータレコーダが高価であるため、事実上センシングポイントが限定されてしまい、プラント全体を包括した保守管理が困難であった。さらに前記ネットワーク接続可能なデータレコードは装置が大掛かりであり、設置スペースが取れない設備機器等には適用できず、データレコードを設置する箇所が限定されるという問題があった。
【0008】
また、部品交換時には管理者が、該当する部品の製品番号や製造メーカを調べて発注している。よって、交換部品の検索に手間がかかり、また故障発生から迅速な部品交換ができず、その間設備機器が停止して生産に支障を来たすという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、上記従来技術の問題点に着目し、測定データの誤読や点検漏れ等を防止した点検業務の省力化と保守管理の効率化を図った設備機器の保守管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を達成するために、プラントの設備機器の動作情報を測定し通信網を介してDBに記録し部品の保守管理を行う設備機器の保守管理システムであって、当該設備機器の動作情報をセンシングして定期的に測定値を蓄積するICタグを前記設備機器毎に設置し、前記ICタグに蓄積した前記設備機器のID番号と動作情報を抽出してDBサーバに送信し前記設備機器の保守管理を行うことを特徴としている。
【0011】
この場合において、前記ICタグは、前記設備機器の動作情報をセンシングするセンサと、前記センサによる前記設備機器の測定を定期的に起動させるタイマと、前記センサが定期的に測定した測定値を記録するメモリと、を有するとよい。
【0012】
また、前記ICタグは、前記センサによって測定した前記設備機器の測定値のうち、あらかじめ設定した前記機器設備の動作情報の閾値から外れた値を蓄積する制御手段を備えるとよい。
【発明の効果】
【0013】
上記構成による本発明は、センサとタイマとメモリを有したICタグをプラントの点検対象である設備機器に直に設置し、タイマにより定期的にセンサが取得した設備機器の動作情報を設備機器毎にメモリに蓄積している。
【0014】
これにより、点検者による点検漏れがなく、測定データの誤読を防止し点検業務の省力化と保守管理の効率化を図ることが可能となる。また、メモリに記録する測定データは閾値を超えた場合に記録するようにしているため、メモリを節約することができる。
【0015】
さらに、ICタグのメモリをスキャナによって読み取り、接続しているDBサーバにおいて予めDBに登録したICタグの独自に割振られたID番号を検索し、動作情報を登録している。このため、ICタグに通信機器を設置する必要がなく、コンパクト化できるので設置箇所の狭い場所であっても設置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る設備機器の保守管理システムの好ましい実施形態を、添付図面に従って詳細に説明する。図1に実施形態に係る保守管理システムの構成概略図を示す。図2に本実施形態に係るICタグの構成概略図を示す。なお、本実施形態では工場設備の保守管理を例に説明する。また、以下に示す実施例は本発明の実施形態の一態様にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
設備機器の保守管理システム10は、各種設備機器11毎に設置して測定データを計測し記録するICタグ12と、当該ICタグ12のデータを読み取るスキャナ14と、当該スキャナ14に接続し、測定データを登録し保守管理するDBサーバ16とから大きく構成されている。
【0018】
まずICタグ12は、図2に示すようにアンテナ部18とIC部20とで構成されている。また、通信距離を増長させるための電源22、あるいはコンデンサ等を設けても良い。
【0019】
IC部20は、受信、送信、検波、復調、変調などを行う通信回路部24と、データの読み取り、書込み、演算、認証、暗号などを行う制御手段となるロジック部26と、ICタグ12に独自に割当てられたID番号(取付け対象となる設備機器の部品番号など)が書込まれたROMメモリ28と、ユーザが自由に書込み可能なRAMメモリ30とで構成されている。
【0020】
さらに本発明では、タイマ32とセンサ34を設置している。センサ34は加速度計、温度計、超音波計、ひずみ計等の機能を有し、前記IC部20に少なくとも1つ以上形成することができる。一方、タイマ32は一定時間をカウントし、センサ34の測定を定期的に起動させることができる。これにより、定期的にセンサ34が測定した測定データをRAMメモリ30に記録することができる。RAMメモリ30には測定値とともに測定時間を記録することができる。
【0021】
なお、タイマ32は、一定間隔で起動するほか、センサ34の測定値にあらかじめ閾値を設定しておき、この閾値を超えた場合に前記メモリに蓄積する構成とすることもできる。あるいは、測定値に異常が発生した場合にメモリに蓄積するようにすることもできる。これにより、メモリを節約することができる。
【0022】
また、アンテナ部18は後述するリーダライタ38のアンテナ42と交信可能な構成としている。このようにICタグ12はタグ全体がコンパクト化した構成であるため、モータ、加工装置、プレス機器などの設置スペースの狭い各種設備機器11であっても容易に設置することができる。さらに、複数のセンサ34をICタグ12に設置することによりICタグの設置数を少なくすることができる。
【0023】
一方、ICタグの蓄積データを読み込むスキャナ14及びDBサーバ16側には、PC36が設置してある。PC36にはICタグ12と通信するためのリーダライタ38を接続し、リーダライタ38を制御する制御ソフト40を搭載してある。リーダライタ38には更に前記アンテナ部18と交信可能なアンテナ42が接続してある。前述のICタグ12のアンテナ部18とリーダライタ38に接続したアンテナ42が接近すると、ICタグ12に内蔵されたアンテナ部18が、リーダライタ38に接続したアンテナ42からの電波を受信する。ICタグ12の通信回路部24では受信電波を電流と信号に変換して発生した電流によってICタグ12の各機能を起動させる。そしてロジック部26にて信号を処理してメモリ内のデータを信号化し、ICタグ12に内蔵したアンテナから発信する。発信した信号はリーダライタ38に接続したアンテナ42で受信され、リーダライタ38で信号化してPC36に搭載した制御ソフト40にてデータ化することができる。
【0024】
スキャナ14とDBサーバ16は本実施形態では無線LAN等の無線通信44を介して接続している。DBサーバ16はICタグ12の動作情報を登録するDB46を形成してある。DB46はさらに設備機器の情報が登録してある。設備機器の情報には、機器の型番、部品の発注先、および使用期限や使用限度等の部品の寿命に関する情報が登録されている。そしてDB46に登録されている設備情報はPC36あるいはスキャナ14上の表示画面で一覧表として閲覧することができる。
【0025】
また、DBサーバ16は部品の有効期限を算出する寿命判断手段を形成してある。寿命判断手段は、ICタグ12から新たに登録された設備機器の状態情報と、あらかじめDB46に登録されている部品の寿命に関する情報とを比較する。
点検結果に基づいて交換が必要な部品の発注、及び部品の使用限度等の寿命を判断することができる。
【0026】
また、DBサーバ16は部品メーカと通信回線48を介して受発注可能に形成してある。交換が必要な部品が生じた場合、保守管理システム10は、設備機器の保守管理責任者に通知すると共に、DBサーバ16が複数の部品メーカの端末50に接続しており、電子メール52で交換部品を自動的に発注することができる。また、本システム10は、通信回線48を介して部品メーカが型番、連絡先、担当者等のあらかじめ登録してあるデータを書き換え可能に形成してある。よって、保守管理システム10利用者は定期的に保守管理等のメンテナンスを行う必要がない。
【0027】
なお、ICタグ12の送受信に利用する無線通信方法は主に、電磁誘導やマイクロ波方式を用いると良い。また、センサ34やタイマ32は通常、内部のコンデンサに蓄積した微量の電流を利用する方法や、センサ34が取得する振動や熱等のエネルギーを電流に変換する方法にしても良い。
【0028】
上記構成による設備機器の保守管理システム10の作用を以下説明する。図3は実施形態に係る設備機器の保守管理の処理フローを示す図である。
(S102)プラントの保守管理が必要な箇所、例えばモータ、加工装置、プレス機器等、設備機器11の点検箇所にICタグ12を取付ける。このとき使用するセンサ34はモータや回転軸には周波数を、加工装置など経年劣化するものは運転時間を、プレス機等利用回数に制限があるものでは使用回数を把握するために必要に応じたセンサ34をICタグ12に内蔵する。なお、このセンサ34は少なくとも1つ以上ICタグ12に内蔵するようにすると良い。
(S104)ICタグ12に内蔵したセンサ34は、タイマ32によって一定周期でセンシングする。タイマ32の一定周期は任意に設定可能であり、設定変更することができる。
(S106)一定周期でセンサ34が測定した測定データおよび測定時間をRAMメモリ30に蓄積する。なお、タイマ32により一定間隔で記録可能であるが、予め設定した閾値から外れた値をRAMメモリ30へ蓄積する方法や、閾値から外れた場合、記録間隔を変更するなどの方法によりRAMメモリ30の蓄積データを節約することができる。
(S108)点検者は巡回する際、点検箇所に取付けたICタグ12にスキャナ14をかざすことによって、ICタグ12に蓄積された設備機器のID番号および測定値となる動作情報を読み込んで抽出する。
(S110)スキャナ14は(無線)LAN等の無線通信44によって接続しているDBサーバ16に動作情報を送信する。
(S112)DBサーバ16は、受信した動作情報に相当するID番号をDB46の蓄積データから検索する。
(S114)またDBサーバ16は、測定データをDB46に登録する。なお、DB46には、ICタグ12に独自に割当てられた設備機器のID番号と、ICタグ12が取付けられた設備情報と点検結果を記載する欄があり、設備機器11の情報には、少なくとも、機器の型番、部品の発注先、および使用期限や使用限度等の部品の寿命に関する情報が登録されることになる。登録した設備機器11の情報は、スキャナ14及びDBサーバ16上の表示画面で閲覧することができる。
(S116)DBサーバ16は寿命診断手段によって、DBサーバ16に登録された設備機器の状態情報を、あらかじめDB46に登録されている部品の寿命に関する情報と比較する寿命判断を行う。
(S118)寿命診断結果に基づき使用限度の近付いた部品について交換が必要か否かの判断を行う。
(S120)部品の有効期限が近付き部品の交換が必要な設備機器においては、設備機器の保守管理者に警告を通知すると共に、あらかじめDB46に登録した部品の発注先に、交換部品の型番、数量を記載した発注書を電子メール52で部品メーカの端末50に自動的に送信することができる。
【0029】
これにより点検者は自立分散的に設備機器に配置した個々のICタグ12にスキャナ14をかざすことによって容易に設備機器のID番号および過去の測定データなどを抽出することができる。このため、メータ表示の点検データの読み間違いや、チェックリストへの誤記入あるいは記入忘れを防止することが可能となる。また、点検者の点検漏れを防止すると共に、点検作業の回数を低減することができる。
【0030】
実施形態に係るICタグ12は測定データを定期的に蓄積することができるので、測定者は点検時の設備機器の動作データだけでなく、過去に遡った測定データも抽出することができる。したがって、例えば、小型センサでは、非破壊の配管の肉厚を測定することは困難である。しかし、配管異常を事前に検知する手段として加速度センサ等を用いることにより、測定を連続値で利用することで配管の異常を検知することができる。
このように測定データは信頼性が高く、点検業務の省力化と保守管理の効率化を図った設備機器の保守管理システムを提供することができる。
【0031】
なお、実施形態に係るスキャナ14は作業者がICタグ12にかざすことによって測定データを抽出しているが、測定データの抽出にあらかじめ設備内に配置した据置きアンテナを用いても抽出しても良い。この据置きアンテナは、個々のICタグ12と直接通信して、抽出したデータをDBサーバ16に送信することができる。したがって、作業者が携帯端末をもってセンシングを行う作業を省くことができる。
【0032】
また、ICタグ12とスキャナ14とは無線でデータの送受信を行っているため、従来の有線システムでは取付けが困難であった回転軸などの回転体に直接取付けが可能となる。また、ICタグ12で使用している記録データの送受信は無線であるため、密封された空間であっても設置することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、工場の設備保守管理を始め各種プラントの設備機器の保守管理、あるいは定期的な管理を要する販売業務などの流通管理にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施形態に係る保守管理システムの構成概略を示す図である。
【図2】実施形態に係るICタグの構成概略を示す図である。
【図3】実施形態に係る設備機器の保守管理の処理フローを示す図である。
【図4】従来の機器設備の保守管理を示す図である。
【図5】従来のバーコードとコンピュータを利用した設備機器の保守管理システムを示す図である。
【図6】従来のネットワーク接続可能なデータレコーダを利用した設備機器の保守管理システムを示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1………設備機器、2………ヘッダ、3………データレコーダ、4………書庫、5………バーコード、6………バーコードスキャナ、7………コンピュータ、8………ネットワーク接続可能なデータレコーダ、9………DBサーバ、10………保守管理システム、11………設備機器、12………ICタグ、14………スキャナ、16………DBサーバ、18………アンテナ部、20………IC部、22………電源、24………通信回路部、26………ロジック部、28………ROMメモリ、30………RAMメモリ、32………タイマ、34………センサ、36………PC、38………リーダライタ、40………制御ソフト、42………アンテナ、44………無線通信、46………DB、48………通信回線、50………端末、52………電子メール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの設備機器の動作情報を測定し通信網を介してDBに記録し部品の保守管理を行う設備機器の保守管理システムであって、当該設備機器の動作情報をセンシングして定期的に測定値を蓄積するICタグを前記設備機器毎に設置し、前記ICタグに蓄積した前記設備機器のID番号と動作情報を抽出してDBサーバに送信し前記設備機器の保守管理を行うことを特徴とする設備機器の保守管理システム。
【請求項2】
前記ICタグは、前記設備機器の動作情報をセンシングするセンサと、前記センサによる前記設備機器の測定を定期的に起動させるタイマと、前記センサが定期的に測定した測定値を記録するメモリと、を有することを特徴とする請求項1記載の設備機器の保守管理システム。
【請求項3】
前記ICタグは、前記センサによって測定した前記設備機器の測定値のうち、あらかじめ設定した前記機器設備の動作情報の閾値から外れた値を蓄積する制御手段を備えてなることを特徴とする請求項2記載の設備機器の保守管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−85573(P2006−85573A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271625(P2004−271625)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000005452)日立プラント建設株式会社 (1,767)
【Fターム(参考)】