診断及び治療用標的としての低分子量タンパク質チロシンホスファターゼ(LMW−PTP)
低分子量タンパク質チロシンホスファターゼ(LMW−PTP)を、ガンの診断、予後及び処置における新規診断及び治療用標的として同定する。本発明は、LMW−PTP及び、任意に、EphA2受容体を発現しているガンとの関連において有用な診断及び処置の方法を提供する。発ガンタンパク質EphA2を有効にターゲティングする候補のガン治療物質を同定するためにLMW−PTPの量及び/又は活性の変化を利用するスクリーニング方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、引用によってその全体が本明細書に組み入れられる2002年5月23日出願の米国仮出願番号第60/382,988号の利益を主張するものである。
【0002】
本願はまた、以下の米国特許出願を引用することによってそれらの全体を本明細書に組み入れる:2000年8月17日出願の第09/640,952号;2000年8月17日出願の第09/640,935号;及び2001年9月12日出願の第09/952,560号。
【背景技術】
【0003】
ガンは、細胞群が不適切に増殖し、そして生存する能力を獲得したときに生じる。これらの生物学的挙動はしばしば、悪性細胞の当該不適切な増殖及び生存を促進する特定のシグナル伝達経路を引き起こすよう一緒に働く遺伝的且つ環境的異常性に起因する。特に、タンパク質のチロシンリン酸化は、細胞の挙動の多くの異なる側面を支配する強力なシグナルを惹起すると考えられている。一般的なパラダイムは、チロシンキナーゼとホスファターゼ活性との平衡が、タンパク質チロシンのリン酸化の細胞レベルを決定する役割を果たし、それによって増殖、生存及び浸潤に関する細胞の決定を支配することを示唆している。このパラダイムは、概して、チロシンキナーゼが発ガン性であろうという一方、チロシンホスファターゼが悪性転換をネガティブに制御することを推定する。この部分は概して正しいが、明るみになってきた事実は、より複雑なものがチロシンキナーゼとホスファターゼとの間で相互作用していることを明らかにしている。例えば、PTPCAAXチロシンホスファターゼは、強力な発ガン遺伝子として機能することが近年証明されてきた。更に、Srcファミリーキナーゼの酵素活性は、重要なチロシン残基のホスファターゼ媒介脱リン酸によって解放される。後者の状況においては、ホスファターゼは、キナーゼの酵素活性を増大させることによってタンパク質チロシンリン酸化を実際にアップレギュレートしうる。
【0004】
EphA2受容体チロシンキナーゼは、多数のヒトのガンにおいて過剰発現する。高レベルのEphA2は、多数の異なるガン、例えば乳ガン、前立腺ガン、大腸ガン及び肺ガン並びに転移性黒色腫に当てはまる。更に、最高レベルのEphA2が一貫してヒトのガンの最も攻撃的な細胞モデル上で見られる。EphA2は、EphA2の異所的な過剰発現が非形質転換上皮細胞に腫瘍原性及び転移性を賦与するのに十分であるので、単なる悪性疾患のマーカーではない。
【0005】
ガン細胞はまた、非形質転換上皮細胞と比較した場合に、EphA2機能の差異を示す。非形質転換上皮細胞において比較的低レベルで存在するにも関わらず、これらの細胞中のEphA2は、顕著にチロシンリン酸化される。対照的に、悪性細胞中のEphA2は、それがこれらの細胞においてひどく過剰発現するにも関わらず、チロシンリン酸化されない。EphA2のホスホチロシン含量におけるこれらの差異は重要であり、それはチロシンリン酸化されたEphA2がネガティブに腫瘍細胞の増殖及び浸潤を制御し、一方、リン酸化されてないEphA2が悪性細胞におけるこれらの同一の挙動を促進するためである。EphA2と悪性との関連は、国際特許出願WO01/12172及びWO01/12804において更に詳述されている。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、ガンの診断、予後及び処置における新規診断及び治療用標的としての低分子量タンパク質チロシンホスファターゼ(LMW−PTP)を同定する。従って、本発明は、新規なガンの診断、予後及び処置の方法を提供する。
【0007】
1つの側面において、本発明は、哺乳類、好ましくはヒトにおけるガンの処置方法を提供する。本発明の処置方法の1つの態様において、当該方法は哺乳類におけるガンを処置するのに有用であり、ここで、当該ガン細胞は、低分子量タンパク質チロシンキナーゼ(LMW−PTP)を発現する。当該処置方法は、LMW−PTPの活性を阻害するのに有効な処置物質を哺乳類に投与することを包含する。
【0008】
本発明の処置方法の別の態様において、当該方法は哺乳類におけるガンを処置するのに有用であり、ここで、当該がん細胞は低分子量タンパク質チロシンキナーゼ(LMW−PTP)及びEphA2受容体分子を発現する。当該処置方法は、LMW−PTPの活性を阻害するのに有効な第一の処置物質及び当該EphA2受容体分子の生体活性を望ましく変化させるのに有効な第二の処置物質を哺乳類に投与することを包含する。好ましくは、EphA2の生体活性は、EphA2受容体分子のホスホチロシン含量を増大させることによって望ましく変化する。
【0009】
本発明の方法を用いて処置されるガンは、好ましくは転移性ガン腫である。任意には、本発明の処置方法において、前記処置物質は、細胞毒性物質と共有結合する。
【0010】
LMW−PTPの過剰発現は、哺乳類におけるガン細胞の存在を示唆する。従って、別の側面において、本発明は、LMW−PTPの過剰発現に基づいた、哺乳類におけるガンの診断方法を提供する。1つの態様において、本発明の当該診断方法は、哺乳類から得られる生体材料中の細胞を可溶化して細胞可溶化物を生成せしめ;当該細胞可溶化物を、LMW−PTPに結合する診断物質と接触させて結合複合体を形成せしめ;そしてLMW−PTPが非ガン性の生体材料と比較して、前記生体材料中で過剰発現しているか否かを決定すること、を包含する。任意に、当該方法はまた、哺乳類から前記生体材料を得ることを含む。本発明の当該診断方法の別の態様において、LMW−PTPの発現レベルは、前記生体材料をアッセイして、LMW−PTPが、非ガン性生体試料と比較して前記生体材料中で過剰発現しているか否かを決定することによって解析される。この診断方法は、哺乳類において、又は哺乳類の外側で実施されうる。哺乳類のあらゆる生体材料を解析することができ、例えば哺乳類の組織、器官又は体液である。
【0011】
更に別の側面において、本発明は、Epは2受容体分子をターゲティングする候補のガン治療物質の有効性を評価するためのスクリーニング方法を提供する。1つの態様において、当該スクリーニング方法は、EphA2受容体分子及びLMW−PTPを発現するガン細胞を、候補の治療物質と接触させて処置されたガン細胞を生成せしめ;当該処置されたガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性を決定し;そして当該処置されたガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性と、類似の未処置のガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性と比較すること、を包含する。当該処置された細胞におけるLMW−PTPの量又は活性の低下は、前記候補の治療物質のEphA2ターゲティングの有効性を示唆する。
【0012】
好ましい態様の詳細な説明
チロシンリン酸化は、細胞膜チロシンキナーゼ(すなわち、他のタンパク質又はペプチドをリン酸化する酵素)によって制御され、そしてチロシンキナーゼの発現の増大は、転移性のガン細胞において生じることが知られている。しかしながら、我々は、その逆の反応である脱リン酸を触媒する酵素が強力な発ガン性タンパク質であるという驚くべき発見をした。この酵素は、低分子量のタンパク質チロシンホスファターゼ(LMW−PTP)であり、そしてその発ガン性の能力は、少なくとも場合によっては受容体チロシンキナーゼEphA2に関連しており、これはまた、発ガン及び転移に関与している。
【0013】
従って、LMW−PTPは、ガン治療を対象とする処置方法のための新規で且つこれまでにない標的として確立される。LMW−PTPは、単独で、又はEphA2、他の発ガン性チロシンキナーゼ、あるいは他の発ガン性遺伝子又は発ガン性タンパク質を標的とする処置と組み合わせて、標的となり得る。LMW−PTPレベルはまた、ガンの検出におけるマーカーとして、あるいはEphA2又はガンの発生若しくは進行に関連する他のチロシンキナーゼを標的とする処理の影響を解析するための代理のマーカーとしての役割を果たし得る。
【0014】
低分子量タンパク質チロシンホスファターゼ
タンパク質チロシンホスファターゼ(時にホスホチロシンホスファターゼとも称される)は、PTPアーゼとして知られており、リン酸一エステルの加水分解、具体的にはタンパク質ホスホチロシル残基の脱リン酸を触媒する。3つの主要なPTPアーゼのクラス;二重特異性PTPアーゼ、高分子量PTPアーゼ及び低分子量PTPアーゼがある(Zhang, M. , Stauffacher, C. , and Van Etten, R. L. (1995), "The Three Dimensional Structure, Chemical Mechanism and Function of the Low Molecular Weight Protein Tyrosine Phosphatase," Adv. Prot. Phosphatases 9, 1-23)。複数の異なる頭字語が、低分子量(LMW)PTPアーゼについて交換可能に使用されており、それらにはLMW−PTP、LMWPTP、LMW−PTPアーゼ及びLMWPTPアーゼが含まれる。
【0015】
LMW−PTPは、多数の異なる生物から単離されたメンバーを含むPTPアーゼファミリーを表す。それらは、典型的に約18kDの相対分子量を有する。高等生物に見られるLMW−PTPファミリーのメンバーには、ウシ(Heinrikson, R. L. (1969), “Purification and Characterization of a Low Molecular Weight Acid Phosphatase from Bovine Liver,” J Biol Chem. 244, 299-307)、エルウィニア(Erwinia)(Burgert, P. and Geider, K. (1997), “Characterization of the ams I Gene Product as a Low Molecular Weight Acid Phosphatase Controlling Exoplysaccharide Synthesis of Erwinia Amylovora,” FEBS Lett. 400, 252-256)、出芽酵母(Ltp1)( Ostanin, K., Pokalsky, C., Wang, S., and Van Etten, RL., “Cloning and Charaterization of a Saccharomyces cerevisiae Gene Encoding the Low Molecular Weight Protein Tyrosine Phosphatase,” J. Biol. Chem., 270, 18491-18499)、分裂酵母(Stpq)(Mondesert, O., Moreno, S. and Russell, P. (1994), ”Low molecular weight protein-tyrosine phosphatases are highly conserved between fission yeast and man,“ J. Biol. Chem. 269, 27996-27999)、ラットACP1及びACP2イソ酵素(Manao G, Pazzagli L, Cirri P, Caselli A, Camici G, Cappugi G, Saeed A, Ramponi G (1992), “Rat liver low Mr phosphotyrosine protein phosphatase isoenzymes purification and amino acid sequences,” J. Prot. Chem. 11, 333-345)、ヒト(HPTP)(Wo, Y.-Y. P., Zhou, M.-M., Stevis, P., Davis, J. P., Zhang, Z. Y., and Van Etten, R. L. (1992), “Cloning, expression, and catalytic mechanism of the low molecular weight phosphotyrosyl protein phosphatase from bovine heart”, Biochemistry 31, 1712-21; Dissing J, and Svensmark O. (1990)“Human red cell acid phosphatase: purification and properties of A, B and C isozymes,” Biochem. Biophys. Acta.1041:232-242; Waheed, A., Laidler, P. M., Wo, Y.-Y. P., and Van Etten, R. L., (1988)“Purification and physicochemical characterization of a human placental acid phosphatase possessing phosphotyrosyl protein phosphatase activity,” Biochemistry. 1988 Jun 14;27(12):4265-73; Boivin, P. and Galand, C. (1986), “The human red cell acid phosphatase is a phosphotyrosine protein phosphatase which dephosphorylates the membrane protein band 3. Biochem Biophys Res Commun 1986 Jan 29;134(2):557-564)、及びBPTP(Zhang, Z-Y. and Van Etten, R. L. (1990), “Purification and characterization of a low-molecular-weight acid phosphatase--a phosphotyrosyl-protein phosphatase from bovine heart,” 282, 39-49; Chernoff, J. and Li, H.-C. (1985), “A major phosphotyrosyl-protein phosphatase from bovine heart is associated with a low-molecular-weight acid phosphatase,” Arch Biochem Biophys. 240, 135-45) が含まれる。これらのタンパク質は、他のPTPアーゼと同様に、共通の活性部位配列モチーフであるCys−(Xaa)5−Argを共有する。高等脊椎動物の酵素との高度の配列同一性を共有する幾つかのタンパク質には、エスケリッチャ・コリ(Escherichia coli)(Stevenson, G. Andrianopopoulos, K. Hobbs, M. , and Reeves, P. R. (1996), "Organization of the Escherichia coli K-12 Gene Cluster Responsible for Production of the Extracellular Polysaccharide Colanic Acid," J. Bact. 178, 4885-4893)、クレブシエラ属(Klebsiella)(Arakawa, Y. , Washarotayankun, R., Nagatsuka, T. , Ito, H. , Kato, N. , and Ohta, M. (1995), "Genomic Organization of the Klebsiella pneumoniae CPS Region Responsible for Serotype K2 Capsular Polysaccharide Synthesis in the Virulent Strain Chedid, "J. Bacteriol. 177, 1788-1796)、シネココッカス(Synechococcus)(Wilbanks, S. M. and Glazer, A. N. (1993), "Rod Structure of a Phycoerythrin D-containing Phycobilisdome.I. Organization and Sequence of the Gene Cluster Encoding the Major Phycobilirotein Rod Components in the Genome of Marine Synechococcus sp. WH8020, "J. Biol. Chem. 268, 1226-1234)、及びトリトリコモナスフォエタス(Tritrichomonasfoetus)(gb U66070)が含まれる。
【0016】
幾つかの哺乳類低分子量PTPアーゼがイソ酵素として存在する。特定の種内で、当該イソ酵素間のアミノ酸配列同一性は95%超である。1つのそのような種はヒトであり、ここではヒト赤血球タンパク質チロシンホスファターゼ(HPTP)が発現している。このタンパク質の2つの形態A(ファスト)及びB(スロー)は、デンプンゲル電気泳動の間に分離した場合にそれらの電気泳動の移動度において異なる。可変領域である残基40−73を除き、当該イソ酵素は同一のアミノ酸配列を有する。
【0017】
ヒトイソ酵素(A及びB)は、BPTPと比較した場合に、それぞれ81%及び94%という高レベルのアミノ酸配列同一性を有する。低分子量PTPアーゼのプロトタイプであるBPTPの結晶構造が解明されている(Zhang, M. , Van Etten, R. L. , and Stauffacher, C. V. (1994), "Crystal Structure of Bovine Heart Phosphotyrosyl Phosphatase at 2.2-A Resolution,"Biochemistry 33,11097-11105)。当該構造は、四本鎖の中心の平行β−シートの両側にα−ヘリックスという構造から成る。この構造は、2つの右巻きのβαβモチーフ部分に存する古典的なヌクレオチド結合フォールドであるロスマンフォールドの部分を組み込んでいる。HPTP−A及び酵母LTP1の結晶構造が解明されており(Wang, S. , Stauffacher, C. and Van Etten, R. L. (2000), "Structural and Mechanistic Basis for the Activation of a Low Molecular Weight Protein Tyrosine Phosphatase by Adenine," Biochemistry 39,1234-1242 ; Zhang, M. (1995), Ph. D. Thesis, Purdue University)、そしてBPTPに似ている。低分子量PTPアーゼは、8個の保存されたシステイン(全て遊離チオール型)、7個の保存されたアルギニン、及び2個の保存されたヒスチジンを有する(Davis JP, Zhou, MM, and Van Etten RL.(1994), "Kinetic and site-directed mutagenesis studies of the cysteine residues of bovine low molecular weight phosphotyrosyl protein phosphatase." J. Biol. Chem. 269, 8734-8740)。
【0018】
チロシンリン酸化されるタンパク質及びペプチド、並びにより単純な分子、ホスホチロシン及びpNPPは、全て、低分子量PTPアーゼの基質の候補である。
【0019】
これらの酵素の天然阻害剤及び合成阻害剤も存在している。低分子量PTPアーゼの最も強力な阻害剤には、イオンのバナジウム酸塩、タングステン酸塩、及びモリブデン酸塩がある。
【0020】
EphA2受容体チロシンキナーゼ
EphA2は130kDのタンパク質であり、受容体チロシンキナーゼの最大のファミリーのメンバーである(Andres AC; Reid HH; Zurcher G; Blaschke RJ; Albrecht D; Ziemiecki A. (1994), "Expression of two novel eph-related receptor protein tyrosine kinases in mammary gland development and carcinogenesis," Oncogene 9, 1461-1467; Lidberg et al., Mol. Cell. Biol. 10:6316-6324(1990))。それは主に、上皮細胞起源、例えば乳房、肺、卵巣、結腸等の細胞において発現している。このタンパク質は、ECK、Myk2、及びSek2としても知られており、エリスロポエチン産生肝細胞性のガン腫細胞系から単離された(Hirai, H., Maru, Y., Hagiwara, K., Nishida, J. and Takaku, F. (1987) "A novel putative tyrosine kinase receptor encoded by the eph gene," Science 238:1717-1720)。多数の名前及び、異なるが関連しているEphタンパク質の増大しているファミリー、に起因して、命名委員は、前記タンパク質を公的に命名するために会合した(Flanaga JG, Gale NW, Hunter T, Pasquale EB, Tessier-Lavigne M)(1997), "Unified nomenclature for Eph family receptors and their ligands, the Ephrins," Cell 90:403-404)。前記タンパク質は、それらがGPI連結型又は膜貫通であるリガンドに結合するか否かに依存して、それぞれEphA又はEphBと命名された。EphAタンパク質は、エフリン−Aリガンドに結合し、一方、EphBタンパク質はエフリン−Bリガンドに結合する。番号は、それらが発見された順番を表す。
【0021】
異なる方法がEphA2を単離するために使用されている。初めに、ハイブリダイゼーション技術がDNAライブラリーからEphA2を単離するために使用された (Lindberg et al., Mol. Cell. Biol. 10: 6316-6324 (1990); Hirai, H. , Maru, Y. , Hagiwara, K., Nishida, J. , and Takaku, F. (1987), "A Novel Putative Tyrosine Kinase Receptor Encoded by the Eph Gene,"Science 238, 1717-1720)。次に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が、当該キナーゼのドメインのためのプライマーを用いて利用された(Andres, A. C. , Reid, H. H. , Zurcher, G. , Blaschke, R. J. , Albrecht, D., and Ziemiecki, A. (1994), "Expression of Two Novel eph-related Receptor Protein Tyrosine Kinases in Mammary Gland Development and Carcinogenesis,"Oncogene 9,1461-1467 ; Gilardi-Hebenstreit, P. , Nieto, M. A., Frain, M., Mattei, M. G. , Chestier, A. , Wilkinson, D. G. , and Charnay, P. (1992), "An Eph-related Receptor Protein Tyrosine Kinase Gene Segmentally Expressed in the Developing Mouse Hindbrain, "oncogene 7, 1499-2506)。次に、cDNA発現ライブラリーがホスホチロシン特異的抗体でプローブされた(Zhou, R., Copeland, T. D., Kromer, L. F., and Schultz, N. T. (1994), "Isolation and Characterization of Bsk, a Growth Receptor-like Tyrosine Kinase Associated with the Limblic system," J. Neuro. Res. 37, 129-143)。最後に、モノクローナル抗体が、発ガン性に形質転換している細胞において、チロシンリン酸化されているタンパク質に対してスクリーニングされた(Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue University)。
【0022】
EphA2は、エフリンAとして知られているリガンドと、エフリンA1として同定されている生理学的リガンドと一緒に結合する。リガンド結合は、Ephタンパク質のチロシンリン酸化を誘導する。EphA2は、特に、5個の異なるエフリンリガンドに結合することができる。
【0023】
EphA2は、正常な乳房上皮と形質転換した乳房上皮とで特徴的な差異を有する(Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue University)。正常な乳房上皮において、EphA2は低いタンパク質レベルで存在し、それがチロシンリン酸化され、そして、最終的に、細胞間接着部位において局在する。形質転換した乳房上皮において、高タンパク質レベルのEphA2が存在しており、それはもはやチロシンリン酸化されず、そして膜ラッフル内に局在する。
【0024】
EphA2は、ガンにおいて機能的な役割を有することが明らかとなっている。過剰発現した場合、EphA2は強力な発ガン性タンパク質である (Zelinski, D. P. , Zantek, N. D., Stewart, J. , Irizarry, A. & Kinch, M. S. (2001) Cancer Res 61, 2301-2306)。MCF−10A細胞におけるEphA2の過剰発現は、悪性転換をもたらす。また、これらの過剰発現細胞のヌードマウスへの注入は腫瘍を引き起こす。興味深いことに、ガン細胞及びEphA2過剰発現細胞におけるEphA2は、チロシンリン酸化されず、一方、非形質転換細胞におけるEphA2はチロシンリン酸化される。
【0025】
EphA2を制御することが本明細書で証明されているLMW−PTPはまた、Ephファミリーの別のメンバーであるEphB1と相互作用することが証明されている(Stein, E. , Lane, A. A., Cerretti, D. P. , Schoecklmann, H. O., Schroff, A. D. , Van Etten, R. L. , and Daniel, T. O. (1998), "Eph Receptors Discriminate Specific Ligand Oligomers to Determine Alternative Signaling Complexes, Attachment, and Assembly Responses," Genes & Dev. 12,667-678)。
【0026】
LMW−PTP活性の治療的阻害
低分子量タンパク質チロシンホスファターゼ(LMW−PTP)は、多数の腫瘍細胞において過剰発現している。以下の例は、EphA2のホスホチロシン含量はLMW−PTPによってネガティブに制御され、発ガンにおけるこのホスファターゼの役割を確立していることを示している。それらは更に、LMW−PTPの過剰発現が、EphA2のレベルの同時の増大を誘導し、且つ非形質転換上皮細胞に悪性転換を賦与するのに十分であることを示している。LMW−PTPの増大した活性化又は発現と関連している発ガン(ガン細胞がEphA2を発現するか否か)は、本発明に従いLMW−PTPの活性を阻害することによって処置又は予防されうる。
【0027】
これらの発見は、予防方法及び治療方法の標的としてLMW−PTPを確立する。LMW−PTPの活性を阻害することによって、EphA2の脱リン酸は遅延又は予防され、それによって望ましくはEphA2の活性を変化させ、そしてガンの進行を予防又は逆転しうる。
【0028】
LMW−PTPの活性の阻害をもたらす処置は、それ故に、ガン患者の病状における望ましい変化を伴うことが予期される。ガン患者の病状における望ましい変化には、例えば全身腫瘍組織量(tumor burden)の減少、腫瘍増殖の遅延、病期の進行の予防又は繰延及び転移の予防又は繰延、が含まれる。患者の病状の望ましい変化は、X線撮影、断層撮影、生化学的アッセイ等を含む任意な常用の方法を用いて検出されうる。
【0029】
従って、本発明は、哺乳類、好ましくはヒトのガンを処置する方法を提供する。当該方法はまた、脊椎動物への応用、例えば、ペット、例えばネコ又はイヌのガンの処置、に良く適している。当該方法は、LMW−PTPを過剰発現する細胞、特に、過剰発現し、又は機能的に変化したEphA2チロシンキナーゼ受容体を更に有する乳房、前立腺、結腸、肺、膀胱、卵巣、膵臓及び皮膚(黒色腫)の転移性ガン腫細胞、を特徴とするガンを処置するのに有効である(例えば、Kinch et al., Clin. Cancer Res. , 2003,9 (2): 613-618 ; Kinch et al. , Clin. Exp. Metastasis, 2003,20 (1) : 59-68; Walker-Daniels et al. , Am J. Pathol. , 2003, 162 (4): 1037-1042; Zelinski, D. P. , Zantek, N. D. , Stewart, J., Irizarry, A. & Kinch, M. S. (2001) Cancer Res 61, 2301-2306; Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue Universityを参照のこと)。LMW−PTPの生体活性を阻害する処置物質は、哺乳類に対し、全身的に又はガン腫瘍部位に、EphA2の生体活性を阻害するのに有効な量で導入される。任意には、当該処置物質は薬物、好ましくは細胞毒性薬と連結されることがあり、それによって、LMW−PTPを阻害し、且つ当該細胞毒性薬のためのキャリヤー分子として役割を果たすという二重の活性を有する。生じた分子複合体が開裂可能な治療物質を含む場合、処置には、開裂を達成するための更に別の物質の送達が含まれることがある。
【0030】
LMW−PTP活性の「阻害」は、処置の前のLMW−PTP活性と比較して評価されうる。典型的に、これは、細胞系、例えば以下の実施例に記載のものを用いて、研究室の設定において評価される。ヒトのガン研究において慣習的に使用されるモデル系の研究室の設定においてLMW−PTP活性の阻害を引き起こす処置物質の、患者に対する投与は、in vivoでの患者の細胞におけるLMW−PTP活性の阻害をもたらすことが十分に予期される。本発明の方法が、LMW−PTP活性が標的細胞において阻害される方法、又はその範囲に限定されないことを理解すべきである。
【0031】
LMW−PTP活性の阻害方法には、例えば1又は複数のLMW−PTP酵素(例えばHPTP−A及びHPTP−B)をコードする遺伝子に直接働くもの、当該遺伝子によって産生されるmRNA転写物、当該mRNA転写物の前記タンパク質への翻訳を妨害するもの、及び当該翻訳タンパク質の活性を直接損なうもの、が含まれる。
【0032】
遺伝子の転写は、前記細胞をアンチセンスDNA又はRNA分子あるいは二本鎖RNA分子を送達することによって妨害されうる。例としてはsiRNA及びiRNAがある。酵素活性を阻害し得る別の方法は、前記遺伝子のmRNA転写産物を妨害することによるものである。例えば、リボザイム(又はリボザイムを作用可能にコードするDNAベクター)は、標的mRNAを開裂するよう前記細胞に送達されうる。アンチセンス核酸及び二本鎖RNAはまた、翻訳を妨害するために使用されることもある。
【0033】
本発明は、前記処置物質を送達するために使用される方法に限定されない。当該処置物質がポリペプチド、例えばD129A LMW−PTPである場合、それは、都合よくは、細胞に一旦送達されると転写され、そして翻訳するように作用可能に前記処置物質をコードするDNA分子を当該細胞内に導入することによって、遺伝子治療の態様で送達されうる。DNAは裸のDNAであってもよく、あるいはそれはベクターの一部として準備されてもよい。ベクターは、ウイルス性又は非ウイルス性のものでもよく(例えば、プラスミド又はコスミド)、組込み又は非組込みのものであってもよい。ウイルスベクターの例には、レトロウイルスベクター及びアデノウイルスベクターが含まれる。
【0034】
ペプチド、リガンド、リガンドミミック、ペプチドミメティック化合物及び他の小分子は、前記翻訳タンパク質の活性を直接損なわせるのに使用されうるものの例である。任意には、これらの物質は、送達担体、例えばリポソームを用いて導入され得る。あるいは、LMW−PTPの活性を阻害するタンパク質性の細胞内物質は、核酸、例えばRNA、DNA、又はそれらのアナログ又は組み合わせとして、常用の方法を用いて送達されることがあり、ここで、治療用ポリペプチドは前記核酸によってコードされ、そして標的哺乳類細胞において発現するよう作用可能に制御因子に連結している。
【0035】
LMW−PTP活性の阻害における使用に好ましい処置物質には、小分子、ペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、及び基質ミミック(例えば、非加水分解性又は基質捕捉性阻害剤)が含まれる。処置物質は、基質に似ているアンタゴニスト、又はLMW−PTPがその基質に結合するのを妨害するアンタゴニスト、特にEphA2−LMW−PTPの相互作用を妨害するもの、を含むことがある。リン酸ピロドキサールに似ている小分子が特に好ましく、例えば、リン酸ピロドキサールのリン酸基をホスホン酸又はスルホン酸で置換しているものである。LMW−PTPの活性部位が標的となることもあり、特にTyr131、Tyr132及びAsp129である。例えば、以下の実施例において示すように、基質捕捉変異体であるLMW−PTPタンパク質D129A(129位のAspがAla)は、野生型LMW−PTPに対して有効に競合して、正常な上皮の形態を形質転換した細胞に対し戻す。BPTPのX線結晶構造が解明されているので、特に治療的に有用であることが予期されるLMW−PTPの高度に特異的な阻害剤を同定し、又は設計するための合理的な薬物設計が使用されうる。
【0036】
前記処置方法の好ましい態様には、LMW−PTPを標的とする第一の処置物質及びEphA2を標的とする第二の処置物質をガン患者に投与することを含む。当該処置物質は、任意の順番で投与されてもよく、あるいは同時に投与されてもよい(同時投与)。LMW−PTP又はEphA2を標的とする多数の処置物質が投与されることもある。
【0037】
EphA2を標的とする処置物質は、例えば抗体、小分子、ペプチド、リガンド若しくはリガンドミミック、又はアンチセンス核酸であってもよい。前記方法の1つの側面において、前記第二の処置物質は、受容体分子上に細胞外エピトープを結合させることによってEphA2を「活性化」する。リガンドを媒介する活性化は、EphA2のホスホチロシン含量の増大を特徴とし、そしてEphA2活性の望ましい変化を伴う。「EphA2活性の望ましい変化」とは、細胞増殖を抑止又は反転させるような、あるいはガン細胞の死滅を惹起又は生じさせるような、ガン細胞におけるEphA2受容体の活性、数字(すなわちタンパク質レベル)及び/又は機能、の変化を意味する。細胞増殖(growth)又は増殖(proliferation)の抑止又は反転は、ガン細胞における種々の表現型の変化、例えば分化の増大、ECMタンパク質についての親和性の低下、細胞間接着の増大、増殖速度の遅延、EphA2の数の低下及び/又はEphA2の局在化の増大、細胞遊走又は浸潤の低下、によって証明することができ、そして直接的又は間接的に引き起こされうる。任意に、第二の処置物質はEphA2架橋、及び/又はEphA2の分解の加速、をもたらす。本発明の別の側面において、当該第二の処置物質は、標的のガン又は前ガン性の細胞におけるEphA2の発現を、DNA/RNAレベルで、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドの結合を介して低下させる。
【0038】
ガン又は前ガン性の症状の検出
LMW−PTPはまた、哺乳類、好ましくはヒトにおけるガン又は前ガン性の症状のマーカーとしての役割を果たすことがある。本発明は、それ故に、生体試料中のLMW−PTPを検出し、そして、任意にそれらの量又は活性を定量することによって、ガン性又は前ガン性の症状を診断し、あるいはガンを病期決定(staging)する方法も含む。本発明の診断方法は、ガンの最初の診断を得て、又はそれを確認し、あるいはガンの局在、ガンの転移、又はガンの予後についての情報を提供するために使用されることもある。前記方法は、ヒト及び獣医学的な使用にも応用可能である。
【0039】
前記診断方法の1つの態様において、哺乳類から得られた生体試料、例えば組織、器官又は体液が解析される。当該方法は、任意に、哺乳類から生体材料を取り出す段階を含む。当該生体材料中に存在する細胞は可溶化され、そして当該可溶化物は、ポリクローナル又はモノクローナルLMW−PTP抗体と接触される。生じた抗体/LMW−PTP結合複合体は、それ自体検出可能であるか、あるいは別の化合物と会合して検出可能な複合体を形成することができる。結合抗体は、ELISA又は類似のアッセイで直接検出することができ;あるいは、診断物質が検出可能な標識を含んで成ることがあり、そして当該検出可能な標識は、当業界で知られている方法を用いて検出されることがある。
【0040】
LMW−PTPが検出可能に標識された診断物質、例えば抗体、の結合を介して検出される診断方法の態様において、好ましい標識には、色素生産性色素、蛍光標識及び放射性標識が含まれる。最も一般的に使用されるものには、3−アミノ−9−エチルカルバゾール(AEC)及び3,3’−ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド(DAB)がある。これらは光学顕微鏡を用いて検出されうる。
【0041】
最も一般的に使用される蛍光標識化合物は、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルデヒド(phthaldehyde)及びフルオレサミンである。化学発光及び生物発光化合物、例えばルミノール、イソルミノール、セロマティック(theromatic)アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩、シュウ酸エステル、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びエクオリンも使用されうる。蛍光標識抗体が適切な波長の光に曝露される場合、その存在はその蛍光により検出されうる。
【0042】
本発明の抗体の標識に特に有用な放射性同位体には、3H、125I、131I、35S、32P、及び14Cが含まれる。放射性同位体は、ガンマカウンター、シンチレーションカウンターのような手段によって、又はオートラジオグラフィーによって検出されうる。
【0043】
抗体−抗原複合体は、ウェスタンブロッティング、ドットブロッティング、沈殿、凝集、酵素免疫アッセイ(EIA)又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫組織化学、in situハイブリダイゼーション、様々な組織又は体液に対するフローサイトメトリー及び様々なサンドウィッチアッセイ、を用いて検出されうる。これらの技術は当業界で周知である。例えば、引用によって本明細書に組み入れられる、米国特許第5,876,949号を参照のこと。酵素イムノアッセイ(EIA)又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)において、酵素は、その後その基質に曝露される場合、当該基質と反応し、そして、例えば分光光度的、蛍光光度的、又は視覚的手段によって検出され得る化学的部分を生成させる。検出可能に抗体を標識するために使用されうる酵素には、限定しないが、マレイン酸デヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカルヌクレアーゼ、デルタ−5−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ−グリセロホスフェートデヒドロゲナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、及びアセチルコリンステラーゼが含まれる。抗体を標識し、そして検出する他の方法は当業界で知られており、そして本発明の範囲内にある。
【0044】
前記診断方法の別の態様において、生体材料は、LMW−PTPホスファターゼ活性についてアッセイされる。使用するアッセイに依存して、この方法は、哺乳類に存在するか、又は哺乳類から取り出された生体材料上で実施されうる。例えば、哺乳類から得られる生体材料は、LMW−PTPホスファターゼ活性についての生化学的アッセイにかけられることがある。検出はまた、LMW−PTPタンパク質をコードするDNA又はRNAに結合する検出可能な試薬を用いることによって達成されうる。
【0045】
LMW−PTPは、ガン、前ガン性又は転移性疾患のためのマーカーとして、広範な組織試料、例えば、生検された腫瘍組織及び広範な体液試料、例えば血液、血漿、髄液、唾液、及び尿において使用されることがある。
【0046】
ガンの存在又は不在及び病状に関する更なる情報を提供するために、他の抗体が、LMW−PTPに結合する抗体と組み合わせて使用されることもある。例えば、抗EphA2又はホスホチロシン特異的抗体の使用は、悪性度をの検出又は評価を決定するための追加のデータを提供する。
【0047】
ガンの処置の有効性の指標としてのLMW−PTP活性
LMW−PTPは、ガンの治療剤、特にEphA2を標的とするものの有効性を評価するための代理マーカーとしての役割を果たすことがある。LMW−PTPを過剰発現するガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性(コントロール)は、候補の治療剤で処置された類似のガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性と比較される。処置された細胞におけるLMW−PTPの量又は活性の低下は、有効なガンの処置を示唆するものである。
【0048】
本発明は、以下の実施例によって例示される。特定の例、材料、量及び手順が、本明細書に記載のような本発明の範囲及び精神に従い広く解釈されるべきであると理解されるべきである。
【実施例】
【0049】
実施例I.低分子量タンパク質チロシンホスファターゼ及びEphA2を包含するタンパク質間相互作用
材料と方法
タンパク質の産生。アンピシリン、N−Z−アミンA(カゼイン加水分解産物)、IPTG、及びSP−セファデックスC−50は全てSigmaから入手した。SP−セファデックスG−50は、Pharmaciaから購入した。YM3膜はAmiconから入手した。全ての他の材料は、Sigma又はBioRadのいずれかから購入した。
【0050】
細胞系。この研究に使用した細胞モデルは、乳房上皮である。この研究室において一般的に使用される細胞系はMCF−10Aである。この細胞系は、MCF−10細胞のファミリーの一部であり、これは樹立された不死化ヒト乳腺上皮細胞系である。MCF−10細胞は、線維嚢胞性疾患の成人女性の乳腺組織から単離された。MCF−10A細胞は、接着細胞として増殖する。MCF−10A(Neo)細胞系は、ネオマイシン耐性遺伝子を有する親細胞系のMCF−10A細胞である。MDA-MB-231細胞系は高度に浸潤性で且つ転移性の乳腺細胞系である。これらの細胞は、乳ガンを有する成人女性から単離された。
【0051】
これらの細胞の世話は、2日毎に、培地を新しくし、又はそれらを分割することによりそれらを扱うことから成る。当該細胞を分割するために、培地は吸引によって最初に除去した。細胞を2〜3mlのPBS中で洗浄し、続いてトリプシン溶液(PBS中で1:50に希釈した2〜3mlのもの)を添加し、そしてプレートを37℃のインキュベーター内に10〜30分間据えた。次に、2〜3mlの培地を各プレートに添加した。PBS/トリプシン溶液及び培地中の細胞を、卓上遠心機で遠心してペレットにした。PBS/トリプシン溶液及び培地を吸引し、そして細胞を培地中で再懸濁した。細胞を続いて組織培養ディッシュにプレーティングした。
【0052】
MCF−10A(Neo)細胞の増殖培地は、DMEM/F12、5.6%ウマ血清、20ng/mlの上皮増殖因子(これらは全て、Upstate Biotechnolgy., Inc.から購入)、100μg/mlストレプトマイシン、100ユニット/mlのペニシリン、10μg/mlのインスリン(Sigma)、0.25μg/mlのフンジゾン(fungizone)、及び2nMのL−グルタミンから成る。MDA−MB−231細胞の増殖培地は、RPMI、2nMのL−グルタミン、100μg/mlのストレプトマイシン、及び100ユニット/mlのペニシリンから成る。
【0053】
抗体。EPhA2の細胞内ドメインを認識する抗体はD7である(Upstate Biochemicals,ニューヨーク)。このモノクローナル抗体(MAb)は、Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue Universityにおいて述べられているように、バルクの培養物から産生された。この抗体による免疫沈降のために、30μlを使用した。イムノブロットのために、TBSTB(30mlの5M NaCl、50mlの1M Tris、pH7.6、1mlのTween−20、1gのBSA、及び920mlの蒸留水)中で1:1希釈したものを使用した。免疫蛍光顕微鏡のために、抗体は希釈せずに使用した。
【0054】
HPTPに対するモノクローナル抗体(10.1及び7.1)は、Alfred Schroff, Ph. D. Thesis, Purdue Universityにおいて述べられているように開発した。免疫沈降の場合、10.1(α−HPTP−B)を10μl使用した。イムノブロッティングの場合、当該抗体はTBSTB中で1:100に希釈した。免疫蛍光顕微鏡の場合、当該抗体はPBS中で1:10に希釈した。同一の条件を、HPTPに対する外のMAb、7.1(α−HPTP−A/B)に使用した。HPTPに対するポリクローナル抗体の場合、10μlの抗体を免疫沈降に使用した。イムノブロッティングの場合、当該抗体はTBSTB中に1:2000で希釈した。免疫蛍光顕微鏡の場合、当該抗体は、PBS中で1:100に希釈した。
【0055】
ホスホチロシンを検出するために、4G10として知られている抗体を使用した。この抗体は、大量培養で産生した。イムノブロッティングの場合、TBSTB中での1:1希釈を使用した。免疫蛍光顕微鏡に使用した二次抗体は、PBS中で1:40希釈したDAR−F1及び/又は1:00希釈したDAM−Rhであった。イムノブロッティング実験の場合、ヤギ抗マウス(MAb用)又はヤギ抗ウサギ(PAb用)をTBSTB中で1:10,000希釈して使用した。
【0056】
アフィニティーマトリックス。プロテイン−AセファロースをSigmaから購入した。Affi−ゲル10はBioRadから購入した。
【0057】
他の材料。他の材料は、Fisher、Pierce、Malinckrodt、New England Biolabs、QIAGEN、及びRoche Diagnosticsから購入した。
【0058】
LMW−PTPの発現及び精製。増殖培地(M9ZB)は以下のように調製した:4Lのフラスコ中、20gのN−ZアミンA(カゼイン加水分解産物)、10gのNaCl、2gのNH4Cl、6gのKH2PO4、及び12gのNa2HPO4H2Oを2Lの蒸留水中に溶解した。培地のpHを続いてNaOHのペレットで7.4に調整した。500mlのフラスコに対し、200mlのM9ZB溶液を注いだ。培地の2つの容器を続いて20分間オートクレーブした。室温に冷却した後、ろ過滅菌した、20mLの40%グルコース及び2mLの1MMgSO4溶液を2Lの培地当たり添加した。播種直前に、200μlの50mg/mLアンピシリンを、200ml(M9ZB)培地を含むフラスコに添加した。注目の遺伝子を有する組換えプラスミドを含むE.コリのBL21株の200mlの培養物を、250〜300rpm、37℃に設定した旋回シェーカー上で一晩生育させた。
【0059】
次の日、1.8mlの50mg/mlアンピシリンを残りの1.8Lの新鮮な培地に添加した。一晩経過した培地を、続いて新鮮な(M9ZB)培地中で1:10に希釈し、そして細胞を更に3時間増殖させた。600nmでの光学密度(OD600)が0.6〜1.0の間に達したとき、2mlの4mMIPTGを添加してタンパク質発現を誘導した。培養物は、WT−PTPアーゼの場合には更に3時間、又は変異体PTPアーゼの場合には更に6時間、37℃でインキュベートした。細胞は、5000rpmで15分間の冷却遠心によって収集した。上清を4Lのフラスコに注いで戻し、続いて廃棄する前に20分間オートクレーブした。細胞ペレットを10mLの0.85%NaCl中で再懸濁し、そして洗浄し、再び500rpmで遠心してペレットにし、続いて2mLの0.85%NaCl中で再懸濁した。混合物を小さい遠心管中に据え、続いて5000rpmで10分間遠心した。上清を捨て、そしてペレットを−20℃で一晩保存するか、又は直ちに可溶化した。
【0060】
細胞ペレットを融解し(妥当ならば)、続いて1mM EDTA及び1mM DTTを含む、pH5.0の100mM CH3COONa緩衝液中で再懸濁した。DTTを使用直前に添加した。細胞は、それらを、100psiの圧力ゲージに設定した予め冷やした、フレンチプレッシャーセルに2回かけることによって破壊した。可溶化物は、16,000rpmで15分間、冷却遠心機内で遠心してペレットにした。上清を新しい遠心管中に注ぎ、続いて、30mMのNaH2PO4、1mM EDTA及び60mM NaClを含む、pH4.8の10mM CH3COONa緩衝液で予め平衡化したSP−セファデックスC−50陽イオン交換カラム(1.5x30cm)に添加した。
【0061】
C−50カラムを、10倍量の総容積の10mM CH3COONa緩衝液で、A280が大体ゼロになるまで洗浄した。続いて、高塩濃度の溶液である、pH5.1の300mM NaH2PO4及び1mM EDTAでタンパク質を溶出した。流速は30〜40mL/時間に設定した。回収した各画分には約6ml含まれていた。最高のA280を有する画分を、タンパク質純度を得るために、15%SDSポリアクリルアミドゲル上で分離した。最も純粋な画分をまとめ、続いてAmicon限外ろ過装置を用いて大体5mlに濃縮した。濃縮液は、30mMのNaH2PO4、1mM EDTA及び60mM NaClを含む、pH4.8の10mM CH3COONa緩衝液で予め平衡化したSephadex G−50サイズ排除カラムに添加した。流速は15〜25ml/時間に設定し、そして約6mLの画分を回収した。最高のA280を有する画分を、タンパク質純度を得るために15%SDSポリアクリルアミドゲル上で試験した。最も純粋な画分をまとめ、そしてG−50緩衝液中で4℃で保存した。
【0062】
免疫蛍光顕微鏡。最大5枚のカバーガラスを3.5cmディッシュ上に据えた。特定の研究に適切な細胞系を、使用の24時間前にこれらのディッシュ内に据えた。細胞は通常この時間までに60〜70%コンフルエントに達した。細胞を3.7%ホルムアルデヒド溶液中に2分間固定し、続いて1%Triton中で5分間透過処理し、そしてユニバーサルバッファー(UB)中で5分間洗浄した。細胞は、続いて室温で一次抗体と30分間インキュベートした。次に、細胞をUB(12mlの5M NaCl、20mlの1M Tris、pH7.6、4mlの10%アジド)中で5分間洗浄した。細胞は続いて2次抗体と一緒に30分間インキュベートした。蒸留水中で簡単に5秒間洗浄した後、カバーガラスを、表を下にして、スライドガラス上の約5μlのFluorSave(Calbiochem)の上に据えた。細胞を室温で約15分間乾燥させ;続いて、それらを「Low」に設定したヘアドライヤーのもと、更に15分間又は乾くまで静置した。細胞は、蛍光顕微鏡の油浸レンズ(60x)で観察した。
【0063】
免疫沈降。モノクローナル抗体による免疫沈降(IP)の場合、ウサギ抗マウスプロテインAセファロース(RAMPAS)を使用した。ポリクローナル抗体によるものの場合、プロテインAセファロース(PAS)を使用した。ビーズは、最初に、プロテインAセファロースを、1.5mLの遠心管の100μlの印まで添加することによって調製した。次に、1mlのUBを添加してビーズを膨潤させた。RAMPASの場合、50μl/mlのウサギ抗マウス(RAM)IgGもビーズとUBの遠心管に添加した。混合物は、者移転スターラー上で一晩4℃で回転させた。次の日、ビーズを3回1mlのUB中で洗浄した。続いて、ビーズをUB中50%のスラリーにした。
【0064】
細胞のプレートを氷上に据えた。細胞を2〜3mlのPBSで1回洗浄した。その後、細胞は、1mMのNa3VO4、10μg/mlのロイペプチン、及び10μg/mlのアプロチニンを含む、1%Triton可溶化緩衝液(5mlの1M Tris、pH7.6、3mlの5mM NaCl、1mlの10%NaN3、1mlの200mM EDTA、10mlの10% Triton X−100、80mlの蒸留水)又はRIPA可溶化緩衝液(5mlの1M Tris,pH7.6、3mlの5M NaCl、1mlの10% NaN3、1mlの200mM EDTA、10mlの10% Triton X−100、5mlの10%デオキシコール酸、500μlの20% SDS、74.5mlの蒸留水)中、氷上で5分間可溶化した。可溶化物を回収し、そして各組の可溶化物を、クーマシータンパク質アッセイ試薬を用いて等しいタンパク質含量に標準化した。590nmの吸光度を測定するためにプレートリーダーを使用した。前記可溶化物を適切な可溶化緩衝液で平衡化した後、試料を調製した。
【0065】
各試料につき、30μlのPAS(又はRAMPAS)を各試料チューブに添加した。次に、一次抗体を添加した。最後に、前記可溶化物の150〜200μl部分を添加した。試料を4℃で1.5時間又は一晩回転させた。試料は、続いて、細胞を可溶化するのに使用したものと同じ、1mlの可溶化緩衝液中で洗浄した。最後の洗浄の後、15μLのLaemmli緩衝液をペレット化したビーズに添加し、そして試料を10分間沸騰させた。その後、試料は、220Vに設定した15%SDSポリアクリルアミドゲル上に添加して1.75時間分離した。タンパク質分離の後、タンパク質をニトロセルロースに一晩かけて移した。
【0066】
基質捕捉。精製した、触媒として不活性のLMW−PTP組換え変異体であるD129A−BPTP及びC12A−BPTPを、潜在的な基質捕捉を作り出すために使用した。アフィニティーサポートは、最初に1〜1.5mlのAffiゲル10を、複数の容積の冷却した蒸留水中で洗浄することによって調製した。次に、モイストゲルを、5mg/mlの純粋なPTPアーゼと一緒に15mlのコニカルチューブに添加した。当該チューブを4℃で4時間回転させ、そしてタンパク質をビーズに結合させた。その後、1mlのAffiゲル当たり100μlのエタノールアミンを添加して、タンパク質と結合しなかった反応性ゲル部位をブロックし、つづいて当該チューブを更に1時間回転させた。スラリーを小さいプラスチックカラム内に注いだ。ビーズをカラム内に静置させ、それらを続いて20mlの蒸留水で洗浄した。洗浄液のpHを測定した。7以上である場合、pHを1mMのHClで調整した。次に、A280を測定した。ゼロ付近でない場合、A280がゼロ付近に達するまで洗浄を続けた。カラムは、使用するまで4℃で保存した。
【0067】
前記可溶化物を利用する前に、カラムを10mlの蒸留水で3回洗浄し、続いて適切な可溶化緩衝液中で平衡化した。細胞は、適切な可溶化緩衝液中で5分間、氷上で可溶化した。可溶化物を回収し、そしてカラムに添加して様々な時間4℃でインキュベートした。続いて、ビーズを適切な可溶化緩衝液中で3回洗浄した。Laemmli緩衝液をビーズに添加し、これを10分間煮沸した。試料を15%SDSポリアクリルアミドゲル上で分離し、そして最終的にニトロセルロースに一晩かけて移した。
【0068】
脱リン酸。MCF−10A(Neo)細胞を80%コンフルエントにまで増殖させた。細胞を1%Triton可溶化緩衝液中、5分間氷上で可溶化した。可溶化物を回収し、一まとめにした。EphA2 IPを調製した:30μlのD7、30μlのRAMPAS、及び200μlの可溶化物。当該IPを1.5時間4℃で混合した。それらを500μlのTriton可溶化緩衝液中で2回洗浄し、続いて500μlの蒸留水中で2回洗浄した。各ペレットを10mMの50μl CH3COONa緩衝液中で再懸濁し、そしてチューブを37℃のウォーターバス内に5分間据えて温度を生理学的条件に調整した。次に、選択した濃度の500μlのPTPアーゼ溶液をチューブに添加し、EphA2と選択した時間反応させた。当該反応終了時に、ビーズをペレット化し、そして上清を吸引によって除去した。Laemmli緩衝液を各試料に添加し、そしてそれらを10分間煮沸した。最後に、タンパク質を10%SDSポリアクリルアミドゲル上で分離し、そして一晩かけてニトロセルロース膜上に移した。
【0069】
イムノブロッティング。前記ニトロセルロース膜をPonceau Sで染色して、分子量マーカーの位置を同定して印をつけた。当該膜を複数回蒸留水中ですすぎ、色素を除いた。当該膜上の非特異的部位を、Teleosteanゼラチン(50mlのTBSTB及び「茶」色を呈すのに十分なゼラチン)溶液でブロッキングした。当該膜を当該ブロッキング溶液中、室温で30分間インキュベートした。次に、当該膜を一次抗体と一緒に30分間インキュベートした。当該膜を3回、それぞれTBSTB中で10分間洗浄し、これに続き、二次抗体と一緒に30分間インキュベートした。その後、当該膜を3回、TBSTB中でそれぞれ8分間インキュベートし、続いて2回、TBS(30mlの5M NaCl、50mlの1M Tris,pH7.6、920mlの蒸留水)中でそれぞれ6分間インキュベートした。次に、化学発光試薬を膜に添加した(1:1)。最後に、フィルムを膜に曝露し、これをサランラップで包み、そして現像した。
【0070】
小規模のDNA精製。HPTP遺伝子を含むプラスミドpET−11dを、QIAGENから市販されているQIAprep Miniprepを用いてE.コリのBL21株から精製した。HPTP−A及びHPTP−Bを含むE.コリをいずれも、しかし別々に、LB/Ampプレート上にストリーキングした。両プレートを37℃のインキュベーター内に一晩据えた。次の日、3mlのLB培地及び6μlのアンピシリンを2つの滅菌スナップトップチューブ内に据えた。当該チューブを、続いてHPTP−A又はHPTP−Bとラベルした。各プレート由来の1つのコロニーを使用し、それぞれラベルしたチューブに、HPTP−A遺伝子又はHPTP−B遺伝子を含むコロニーを播種した。当該チューブを、250rpmに設定したシェーカー上に一晩(12〜16時間)載せた。次の日、培地を遠心してペレットにし、そして上清を吸引で除去した。
【0071】
QIAprep Miniprepプロトコールを用いて、細菌のペレットからDNAを精製するために、細菌のペレットを250μlの緩衝化RNアーゼA溶液(緩衝液P1)中で再懸濁した。次に、細胞懸濁液をマイクロチューブ内に据え、そして、NaOH及びSDSを含む250μlのアルカリ性可溶化緩衝液(緩衝液P2)中に据えた。当該チューブを穏やかに5回反転させた。可溶化は5分間実施した。混合物は、つづいて、350μlの中和緩衝液(緩衝液N3)を添加することによって中和した。
【0072】
当該チューブを13,000rpmで10分間遠心した後、情勢をQIAprepスピンカラムに移した。当該スピンカラムを2mlの回収チューブ内に据えた。一緒に、それらを遠心機に据え、そして13,000rpmで1分間遠心した。フロースルーを廃棄した。次に、当該スピンカラムを750μlの緩衝液PEで洗浄し、そして13,000rpmで1分間遠心した。フロースルーの廃棄後、当該スピンカラムを1回以上13,000rpmで1分間遠心した。当該スピンカラムを、きれいなマイクロチューブ内に据え、そしてDNAを60μlの緩衝液EBで溶出し、そして−20℃で保存した。
【0073】
コード領域の増幅。ポリメラーゼ連鎖反応を使用して、遺伝子のコード領域を増幅させた。フォワード鎖のために設計したプライマーは、HindIII制限部位を含む:AAT TTA AAG CTT CCA TGG CGG AAC AGG CTA CCA AG(配列番号1)。リバース鎖のために設計したプライマーは、EcoRI制限部位を含む:CGT TCT TGG AGA AGG CCC ACT GAG AAT TCT TCG T(配列番号2)。リバース鎖のために設計した追加のプライマーは、BamH I制限部位を含む:GCG CGC GGA TCC TCA GTG GGC CTT CTC C(配列番号3)。
【0074】
要約すると、40μlの蒸留水、5μlの10x緩衝液、1μlのフォワードプライマー、1μlのリバースプライマー、1μlのdNTP及び1μlのpfuポリメラーゼから成る50μlの反応混合物を調製した。反応混合物は、以下のサイクルに設定したサーマルサイクラー内に据えた:94℃で2分間、94℃で1分間、55℃で1分間、65℃で1分間、65℃で10分間、続いて4℃で維持。2〜4のステップを、次の65℃で10分間のステップに進む前に30回繰り返した。
【0075】
前記サイクルが終了してから、PCR産物を1%アガロースゲル(600mgのアガロース、1.2mlの50X TAE、58.8mlの蒸留水)上で解析した。当該PCR産物は、続いて、QIAGENから市販されているQIAquick PCR精製キットを用いて精製した。要約すると、5倍量の緩衝液PBを1倍量のPCR産物反応混合物に添加し、そして簡単に混合した。混合物をQIAquickスピンカラムに添加し、そして13,000rpmで1分間遠心した。フロースルーの廃棄後、750μlのPE緩衝液を当該カラムに添加し、そして13,000rpmで1分以上遠心した。当該カラムをきれいなマイクロチューブ内に据え、そして30μlの緩衝液EBを当該カラムに添加した。カラムを室温で1分間、前記緩衝液と一緒にインキュベートし、その後13,000rpmで1分間遠心してDNAを溶出した。
【0076】
伸長の除去。PCR産物の反応混合物を消化のために調製した:5μlのPCR産物、1μlのNEBバッファー2、1μlの10X BSA、及び0.9μlのHindIII/BamHIストック。InvitrogenのpcDNA3ベクター(図1)の消化のための反応混合物を調製した:1μlのpcDNA3、1.5μlのNEBバッファー2、1.5μlの10X BSA、0.5μlのHindIII、及び0.5μlのBamHI。プラスミドpcDNA3は、5.4kbの哺乳類発現ベクターである。HPTP遺伝子は、このベクターのHindIII/BamHI部位内にクローニングし、そして当該遺伝子の発現は、CMVプロモーターによって駆動させた。PCR産物及び哺乳類発現ベクターpcDNA3を37℃で2.5時間消化した。消化産物を1%アガロースゲル上で解析した。分離後、ゲルの写真を撮った。PCR産物及びpcDNA3の消化は、それぞれ491bp及び5,428bpであるフラグメントを生成することが予想された。
【0077】
消化産物を含むゲルの断片を、当該ゲルから除去し、そしてマイクロチューブ内に据えた。ゲルから消化産物を除去するために、QIAGENから市販されているQIAquickゲル抽出キットを使用した。要約すると、210μlの緩衝液QGをチューブに添加した。当該チューブを50℃のウォーターバス内に約10分間、2〜3分おきに混合して静置した。次に、70μlのイソプロパノールを当該チューブに添加し、そして混合した。試料を続いて回収チューブとくっつけたカラム内に据え、そして13,000rpmで1分間遠心した。フロースルーの廃棄後、500μlの緩衝液QGをカラムに添加し、そして当該カラムを13,000rpmで1分間遠心した。フロースルーを廃棄し、そしてカラムを750μlの緩衝液PEで洗浄し、続いて13,000rpmで1分間遠心した。フロースルーを廃棄し、そしてカラムを1回以上13,000rpmで1分間遠心して、DNAを溶出させた。DNAは−20℃で保存した。
【0078】
ライゲーション及び形質転換。増幅したHPTP−A及びHPTP−B遺伝子はいずれも、しかし別々に、pcDNA2ベクターとライゲーションした。ライゲーション反応混合物を調製した:10μlのインサート、5μlのベクター、2μlの10Xライゲーションバッファー、2μlの10X ATP、及び1μlのリガーゼ。ライゲーション混合物を16℃に設定したサーマルサイクラー内に18時間据え、続いて温度を4℃に維持した。
【0079】
コンピテントE.コリEHα5株を、ライゲーション混合物で形質転換させた。それぞれ200μlのコンピテントE.コリ(DHα5)を含む2つのマイクロチューブを氷上で融解させた。ライゲーション混合物を、細胞の各チューブに添加し、当該チューブを簡単にボルテックスにかけ、そして次に、氷上で20分間インキュベートした。チューブを42℃のウォーターバス内に1.5分間据え、続いて氷上に2分間据えた。チューブの中身を、1mlのLBを含むチューブ内に別々に据えた。混合物を250rpmに設定したシェーカー上に45分間据えた。次に、200μlの各培地を2つのLB/Ampプレート上に蒔いた。プレートは、蓋を上にして37℃のインキュベーター内に10分間据え、続いて蓋を下にして一晩(16〜18時間)据えた。
【0080】
コロニーのスクリーニング。QIAprep Miniprepプロトコールを使用し、6つの細菌培養物それぞれからDNAを精製した。精製したDNAを含むチューブを適当にラベルした:コロニーA1、コロニーA2、コロニーB1、コロニーB1、コロニーB2等。コロニーをスクリーニングするために、それぞれに由来する精製DNAをHindIII及びBamHI;NdeI及びEcoRI;並びにAccIで消化した。HindIII/BamHI消化反応液を調製した:5μlのベクター/インサート、1μlのNEEBバッファー2、1μlの10X BSA、1.8μlのHindIII/BamHIストック、6.2μlの蒸留水。HindIII/BamHIストックは以下の様に調製した:7.2μlのBamHIをを9.6μlのHindIIIに添加した。次に、NdeI/EcoRI消化反応液を調整した:5μlのベクター/インサート、0.5μlのEcoRI、0.3μlのNdeI、1.5μlのNEBバッファー4、7.7μlの蒸留水。最後に、AccI消化反応液を調製した:5μlのベクター/インサート、0.5μlのAccI、1.5μlのNEBバッファー3、及び8μlの蒸留水。全ての消化は、37℃で一晩行った。消化物は、1%アガロースゲル上で分離し、そしてゲルの写真を撮った。
【0081】
中規模のDNA精製。6時間たった5mlの培養物を250rpmに設定したシェーカー上で37℃で増殖させた。5mlの培地を50mlのLBで希釈した。チューブをシェーカー上に据えた。次の日、40mlの一晩たった培養物を、5mlのネジ口遠心管に移し、そして5000rpmで5分間の遠心によってペレット化した。BioRadから市販されているQUANTUM MidiPrepを使用し、中規模にDNAを精製した。要約すると、上清を流し捨て、そして5mlの細胞再懸濁溶液を細胞のペレットに添加した。チューブをボルテックスにかけ、細胞を再懸濁した。次に、5mlの細胞可溶化物をチューブに添加し、続いて6〜8回反転させた。混合物を、5mlの中和溶液を添加することによって中和し、続いてチューブを6〜8回反転させて当該溶液を中和した。混合物を8000rpmで10分間遠心した。上清を、1mlのQuantumPrepマトリックスと一緒に新しいチューブに移した。混合物を穏やかに15〜30秒間回転させ、続いて8000rpmで2分間遠心した。ペレットから洗浄緩衝液を排出した後、600μlの洗浄緩衝液をマトリックスに添加し、そして振とうによって混合した。チューブを8000rpmで2分間遠心した。ペレットから洗浄緩衝液を排出し、600μlの洗浄緩衝液をチューブに添加してペレットを再懸濁した。スピンカラムをマイクロチューブに取り付け、そして穴をマイクロチューブの蓋に開けた。チューブを12,000rpmで30秒間遠心した後、フロースルーを廃棄した。次に、500μlの洗浄緩衝液をチューブに添加し、そして当該チューブを12,000rpmで30秒間遠心した。フロースルーを廃棄し、続いて当該カラムを12,000rpmで2分以上遠心し、残りの洗浄緩衝液を除去した。カラムをきれいな遠心管に移した。DNAを600μlのTE(pH8)で溶出させた。
【0082】
次に、DNAは、1/10量の5M NaCl、続いて合計量(NaCl+DNA)の2倍の100%エタノールを添加することによってエタノール沈殿した。マイクロチューブを数回穏やかに反転させ、そして−20℃で20分間インキュベートした。DNAを13,000rpmで10分間遠心してペレットにした。滅菌条件下、エタノール/NaClをペレットから吸引した。ペレットをフード内で風乾するまで放置した。その後、DNAを100μlの滅菌TE(pH8)中で再懸濁した。DNA試料の濃度を決定するために260nmの吸光度(A260)を測定した。DNAは−20℃で保存した。
【0083】
トランスフェクション。MCF−10A(Neo)細胞系においてHPTPを発現させるために、Roche Diagnosticsから市販されているFuGENE(商標)トランスフェクションキットを使用した。細胞を、使用前に6穴プレートに18時間プレーティングし、それらのコンフルエントがトランスフェクションの日に50%となるようにした。マイクロチューブ内で、97μlの無血清希釈培地を3μlのFuGENE試薬に添加した。希釈したFuGENEを室温で5分間インキュベートした。次に、1μgのDNAを第二のマイクロチューブに添加した。一滴ずつ、希釈したFuGENE試薬をDNAに添加した。当該チューブを穏やかにたたき、チューブの中身を混合した。チューブは、続いて室温で15分間インキュベートした。細胞上の培地に、2mlの新鮮な培地を再び据えた。一滴ずつ、FuGENE/培養液をプレーティングされた細胞に添加し、続いてプレートを回転させてプレートの周りに中身を分配した。細胞は37℃で36〜48時間インキュベートした。
【0084】
解析の日に、細胞を1%Triton可溶化緩衝液中で可溶化し、HPTP及びD7の免疫沈降を行った。試料は、最終的に15%SDSポリアクリルアミドゲル上で分離し、続いてニトロセルロースに一晩かけて移した。次の日、イムノブロッティングが、EphA2、HPTP、及びホスホチロシンに対する抗体により行われた。
【0085】
結果
LMW−PTPの発現及び精製
LMW−PTPは、陽イオン交換クロマトグラフィー(典型的に、SP−セファデックスC−50カラムを用いる)、続いて、サイズ排除クロマトグラフィー(典型的に、セファデックスG50カラムを用いる)、を包含する二段階の精製スキームを用いて精製されうる。組換えタンパク質(E.コリにおける発現の後に単離されたもの)と、天然のウシ又はヒトのタンパク質との間の軽微な差異は、組換えタンパク質が、天然の組織タンパク質のように、N末端のアラニン残基上でアセチル化されていないことである。この実施例において、WT−BPTP、D129A−BPTP、及びC12A−BPTPが、pET−11発現系を用いて発現し、そして精製された。精製タンパク質、HPTP−A及びHPTP−Bのストックの補給品は既に手元にあった。
【0086】
E.コリからのWT−BPTPの発現及び精製は容易に行われ、そして良好な品質のタンパク質を生成させた(発現培地1L当たり40〜50mg)。組換え体、変異PTPアーゼの発現は、あまりタンパク質をもたらさなかった(発現培地1L当たり10〜15mg)。D129Aウシ変異体の場合、インキュベーション期間は6時間に増大され、そして洗浄緩衝液を1mMのEDTAに変えて変異体タンパク質とC50カラムとの結合を増大させた。一旦精製した後、タンパク質はリン酸緩衝液中−20℃で数ヶ月間安定であった。
【0087】
MCF−10A(Neo)とMDA−MB−231細胞系におけるLMW−PTPの比較。
タンパク質レベル。EphA2は非形質転換MCF−10A(Neo)細胞系においてチロシンリン酸化されるが、悪性MDA−MB−231細胞系においてはされない。
【0088】
MCF−10A(Neo)とMDA−MB−231細胞系におけるLMW−PTPの内因性タンパク質レベルは、最初にイムノブロッティング解析によって比較された。その結果は、MDA−MB−231細胞系におけるタンパク質レベルと比較して、MCF−10A(Neo)細胞系におけるLMW−PTPのタンパク質レベルが低いことを明らかにした。このことは、MDA−MB−231細胞系で観察される、LMW−PTPのより高いタンパク質レベルが、MCF−10A(Neo)細胞系と比較した細胞系において実質的により脱リン酸されているEphA2と相関しうることを示唆している。
【0089】
EphA2はMCF−10A(Neo)細胞系においてチロシンリン酸化されるが、当該細胞のより高レベルのチロシンリン酸化でさえも、EphA2がそのリガンドの可溶性形態で処理され、又は細胞表面で人工的に活性化される場合には達成されうる(Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue University)。このことを考慮して、LMW−PTPがMCF−10A(Neo)細胞においてEphA2を脱リン酸するが、MDA−MB−231細胞と同程度まではしないことも示唆されうる。EphA2のリン酸化と脱リン酸の間には競合があるようであり、そしてMDA−MB−231細胞において、そのバランスは脱リン酸の方へ傾くようである。しかしながら、MCF−10A(Neo)細胞においては、そのバランスは一方向又は他に実質的に傾かない。その結果、EphA2はMCF−10A(Neo)細胞系において幾つかのそのチロシンリン酸化を残す。
【0090】
細胞内局在。全てがLMW−PTPに対するポリクローナル及びモノクローナル抗体のパネルは、MCF−10A(Neo)細胞及びMDA−MB−231細胞を染色するために使用した。MCF−10A(Neo)細胞及びMDA−MB−231細胞におけるLMW−PTPの細胞内局在を決定するために、細胞をカバーグラス上で一晩増殖させた。固定及び透過処理後、細胞を一次抗体で染色してLMW−PTPを検出した。二次抗体に付着させた蛍光タグは、蛍光顕微鏡でのLMW−PTPの細胞内局在の観察を容易にした。LMW−PTPは、拡散してMCF−10A(Neo)細胞内に広く分布することが明らかとなった。MDA−MB−231細胞が染色された場合、LMW−PTPは、膜ラッフルに局在していることが明らかとなった。このことは興奮するような発見であり、何故ならば、EphA2は、同様に、MDA−MB−231細胞系において膜ラッフル内に局在することが知られていたからである(Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue University)。
【0091】
LMW−PTPとEphA2との間でのin vitroでのタンパク質間相互作用
免疫共沈降。2つのタンパク質を、いずれかのタンパク質に対する別々の抗体により免疫共沈降する試みがなされた。LMW−PTPの免疫共沈降は、D7のEphA2特異的抗体で免疫沈降し、続いて7.1又は10.0LMW−PTP抗体でイムノブロッティング解析をした場合、容易に検出可能であった。免疫共沈降は、10.1抗体でブロッティングした場合、より明らかであった。LMW−PTPの相対的なタンパク質レベル解析から予想されるように、LMW−PTPは、MCF−10A(Neo)細胞系からより、MDA−MB−231細胞系からより免疫共沈降した。7.1又は10.1項体のいずれかで免疫共沈降し、続いて、D7抗体でイムノブロッティングした場合、あまり劇的でない結果が得られた。D7 IPコントロールのものと大体共線性のバンドが、7.1及び10.1IPのレーンにおいて見られた。このことは、これらのバンドがEphA2を表しているであろうことを示唆している。
【0092】
タンパク質の免疫共沈降が我々の細胞系の両方で生じたことはやや驚くべくことであった。相互作用が検出されうることが予想されたが、これは、MCF−10A(Neo)細胞系においてより可能性があると予想され、何故ならば、EphA2がそこでチロシンリン酸化されるためである。しかしながら、ホスファターゼとその基質との相互作用はかなり一過性であるか、又はかなり弱いので、相互作用は容易には検出されえないとも考えられた。我々の件では、相互作用は両細胞系で検出された。
【0093】
In vitroでの脱リン酸
基質捕捉において、EphA2とLMW−PTPとの間での直接的な相互作用を検出する試みは失敗したので、代わりにin vitroでの試験が実施された。我々は、純粋なLMW−PTPが、免疫沈降によって単離されたEphA2を脱リン酸する能力を試験した。我々は、LMW−PTPがEphA2を酵素濃度依存的に且つ時間依存的に脱リン酸したことに気付いた。
【0094】
予想されるように、LMW−PTPによるEphA2の脱リン酸の範囲は、大量のホスファターゼが使用された場合に、少量使用された場合よりもより大きいことが明らかとなった。LMW−PTPによる、酵素濃度依存性のEphA2の脱リン酸は、高レベルのLMW−PTPがMDA−MB−231細胞のチロシンリン酸化を抑制するという仮定と一致している。より高いLMW−PTPレベルがこれらの細胞におけるEphA2の実質的な脱リン酸を引き起こすと考えられている。EphA2の酵素濃度依存性の脱リン酸は、基本的な速度論的挙動に従う。反応速度は、酵素濃度が増大するにつれて増大する。その結果、単位時間当たりより大きなターンオーバーが存在する。当該反応の進行がより長期間にわたり研究される場合、より高い酵素濃度が、より低い酵素濃度と比較して、EphA2を脱リン酸し続けることがわかる。観察される脱リン酸の安定化は、当該タンパク質が非常に薄い条件下で不安定であることに起因するようである。
【0095】
LMW−PTPとEphA2との間のin vivoでのタンパク質間相互作用
ベクターの構築。MCF−10A(Neo)細胞系においてLMW−PTPを過剰発現する効果を検討するために、LMW−PTPのコード領域を含むpcDNA3真核生物発現ベクターが構築された。マイクログラム単位の量のpET−11dプラスミドが、市販のDNA精製キットを用いて容易に単離された。プライマーは、LMW−PTPのA−及びB−イソ型のコード領域を増幅するよう設計され、そして使用された。
【0096】
PCR産物は、QIAGENから市販されているPCR産物精製キットを用いて精製された。LMW−PTPイソ酵素の増幅されたコード領域は、伸長を除去するためにBamHI及びHindIIIで消化された。生成した「粘着末端」は、哺乳類発現ベクターpcDNA3におけるインサートのディレクショナルクローニングを可能にし、これはまた、HindIII及びBamHIで消化された。イソ酵素の消化は、491bpのフラグメントを生成した。pcDNA3の消化は、環状ベクターよりも18少ない塩基対を有する、開いたベクターを生成させた。
【0097】
細胞の形質転換の後、構築されたベクターが細胞から単離され、そして制限酵素群を用いてスクリーニングされ、LMW−PTPのヒトA−及びB−イソ酵素のコード領域が、当該制限酵素によって生じた切断により示されるとおりに、それらの各ベクター内に存在していたか否かを決定した。
【0098】
MCF−10A(Neo)細胞におけるLMW−PTPの過剰発現
MCF−10A(Neo)細胞におけるLMW−PTPの過剰発現が、EphA2のチロシンリン酸化状態に対する、ホスファターゼのタンパク質の増大効果を検討するために試みられた。大量の前記構築ベクターが、市販のDNA精製キットを用いて、高度に純粋な形態で単離された。この手順を用いたベクターの単離は、大きな困難なしに行われた。市販のトランスフェクションキットFuGENEは、それぞれ、「空の」pcDNA3、HPTP−A/pcDNA3及びHPTP−B/pcDNA3でMCF−10A(Neo)細胞系をトランスフェクションするために使用された。当該「空の」ベクターは本実験におけるコントロールとしての役割を果たし、その結果、EphA2のチロシンリン酸化状態のあらゆる変化が、LMW−PTPレベルの増大に起因し、そして当該哺乳類発現ベクターには起因しないと考えられるはずである。
【0099】
MCF−10A(Neo)細胞系におけるHPTP−Bの過剰発現は、EphA2のチロシンリン酸化レベルの低下をもたらした。EphA2のチロシンリン酸化における知覚可能な差異は、HPTP−Aが同一の細胞系で過剰発現した場合には見られなかった。この情報から、EphA2とLMW−PTPの相互作用はイソ酵素特異的であると結論付けることができ、これは不合理な可能性ではない。前記イソ酵素のアミノ酸配列における差異は、なぜ一つのイソ酵素だけが優先的にEphA2と相互作用するように見えるかということの潜在的な理由となりうる。しかしながら、同様に前記差異を説明する多数の他の理由が存在する。
【0100】
考察
形質転換した乳房上皮、例えばMDA−MB−231において、EphA2はチロシンリン酸化されない。しかしながら、EphA2のチロシンリン酸化の回復は、これらの細胞が過酸化バナジン酸(pervanadate)イオンで処理される場合に生じる(Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue University)。このことは、PTPアーゼがEphA2のチロシンリン酸化の減少を引き起こしていることを強力に示唆するものである。あた、エフリンA1リガンドの可溶性形態によるEphA2の処理及び細胞表面でのEphA2の架橋は、EphA2の一過性チロシンリン酸化を引き起こす。これらの処理により時間とともに生じるEphA2のチロシンリン酸化の減少は、EphA2とのPTPアーゼの相互作用に起因すると思われる。
【0101】
実施例II.低分子量タンパク質チロシンホスファターゼによるEphA2の制御
材料と方法
細胞系及び抗体。ヒト乳房(MCF−10A、MCF 10A ST、MCF−7、MDA−MB−231、MDA−MB−435、SK−BR−3)上皮細胞は、実施例Iに記載及び概説(Paine, T. M. , Soule, H. D., Pauley, R. J. & Dawson, P. J. (1992) Int J Cancer 50,463-473 ; Jacob, A. N., Kalapurakal, J. , Davidson, W. R. , Kandpal, G. , Dunson, N. , Prashar, Y. & Kandpal, R. P. (1999) Cancer Detection & Prevention 23,325-332 ; Shevrin, D. H. , Gorny, K. 1. & Kukreja, S. C. (1989) Prostate 15,187-194)のように培養した。ホスホチロシン(PY20)及びβ−カテニン特異的なモノクローナル抗体は、Transduction Laboratories(Lexington,KY)から購入した。ホスホチロシン(4G10)及びEphA2(クローンD7)特異的モノクローナル抗体は、Upstate Biotechnology,Inc.(Lake Placid,NY)から購入した。ビンキュリンに対するモノクローナル抗体は、NeoMarkers(Fremont,CA)から購入した。
【0102】
細胞可溶化物。細胞可溶化物を収集し、そして概説のように等しい添加のために標準かされた(Kinch, M. S. Clark, G. J, Der, C. J. & Burridge, K. (1995) J Cell Biol 130, 461-471)。等しい添加を確認するために、ブロットは概説のとおりストリッピングされ、そしてβ−カテニン又はビンキュリン特異的な抗体で再プローブされた(Kinch, M. S. Clark, G. J, Der, C. J. & Burridge, K. (1995) J Cell Biol 130, 461-471)。
【0103】
免疫沈降及びウェスタンブロット解析:EphA2又はLMW−PTPの免疫沈降は、ウサギ抗マウス(Chemicon,Temecula,CA)複合プロテインAセファロース(Sigma,St.Louis,MO)を用いて、既述のとおり実施された(Zantek, N. D. , Azimi, M. , Fedor-Chaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638)。等しい添加を確認するために、ブロットは概説のようにストリッピングされ(Kinch, M. S. Clark, G. J, Der, C. J. & Burridge, K. (1995) J Cell Biol 130, 461-471)、EphA2又はLMW−PTP特異的抗体で再プローブされた。ウェスタンブロット解析は、標準化された細胞可溶化物で実施され、そして免疫沈降は、Zantek, N. D. , Azimi, M. , Fedor-Chaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638において詳述されているように実施された。抗体の結合は、高感度ケミルミネッセンス(ECL;Pierce,Rockford,IL)によって検出し、そしてオートラジオグラフィー(Kodak X−OMAT;Kodak,Rochester,NY)によって可視化した。
【0104】
EGTA及び過酸化バナジン酸処理。「カルシウムスイッチ」実験を概説のとおり(Zantek, N. D. , Azimi, M. , FedorChaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638)、70%コンフルエントに増殖したMCF−10A細胞及び終濃度4mMのEGTAを含む培地を用いて実施した。過酸化バナジン酸は、0,1,10又は100mMの終濃度で、単層培地中のMDA−MB−231に添加され、そして当該処理は、37℃、5%CO2で10分間インキュベートしてもよい。組み合わせたEGTA−過酸化バナジン酸処理の場合、MDA−MB−231細胞は最初に100mM過酸化バナジン酸で処理され、続いてEGTA処理にかけられた。
【0105】
in vitroキナーゼ及びホスファターゼ処理。EphA2に対するLMW−PTP活性を評価するために、EphA2はMCF−10A細胞から免疫沈降され、そして0.45,7.8,又は26.5mg/mLの濃度の精製LMW−PTPタンパク質と一緒に、0.5,15,又は30分間インキュベートされた。本アッセイは、Laemmliサンプルバッファーの添加を介して終了した。当該処理におけるEphA2のホスホチロシン含量は、続いて、ホスホチロシン特異的抗体を用いるウェスタンブロットを用いて観察された。in vitroでの自己リン酸化活性を決定するために、免疫沈降したEphA2は、Zantek, N. D. , Azimi, M. , FedorChaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638において詳述されているようにin vitroキナーゼアッセイを用いて評価した。
【0106】
トランスフェクション及び選択。MCF−10A細胞の単層は、30〜50%コンフルエントにまで増殖され、そして、Lipofectamine PLUS(Life Technologies,Inc.,Grand Island,NY)を用いて、pcDNA3.1−LMW−PTP又はpcDNA3.1−D129A−LMW−PTPをトランスフェクションされた。当該トランスフェクション手順のコントロールとして、空のpcDNA3.1ベクターを同一の細胞系に平行してトランスフェクションした。一過性トランスフェクションは、トランスフェクション後48時間増殖させてもよい。安定な系の場合、ネオマイシン耐性細胞が、16mg/mLのネオマイシンを含む増殖培地(Medistech,Inc.,Herndon,VA)中で選択された。LMW−PTPの過剰発現を確認するために、ウェスタンブロット解析が、LMW−PTP特異的抗体を用いて実施された。親細胞及び空のpcDNA3.1ベクターをトランスフェクションした細胞は、ネガティブコントロールとして使用した。
【0107】
増殖アッセイ。単層アッセイを用いて細胞増殖を評価するために、1x105個の細胞を、組織培養処理した多数の穴のディッシュ内に1,2,4又は6日間、3回一組の実験において播種した。細胞数は、試料をトリプシン懸濁し、続いて、血球計数器を用いて顕微鏡により評価することによって評価した。ソフトアガーでのコロニー形成は、Zelinski, D. P. , Zantek, N. D. , Stewart, J. , Irizarry, A. & Kinch, M. S. (2001) Cancer Res 61,2301-2306) ; Clark, G. J. , Kinch, M. S. , Gilmer, T. M., Burridge, K. & Der, C. J. (1996) Oncogene 12,169-176において詳述されているように実施され、そして定量された。EphA2アンチセンスを用いる実験の場合、細胞は、ソフトアガー中での懸濁の前に、オリゴヌクレオチドと一緒にインキュベートした。示したデータは、少なくとも3つの異なる実験の代表的なものである。
【0108】
アンチセンス処理。MCF−10A Neo細胞及び安定してLMW−PTPを過剰発現しているMCF−10A細胞の単層は、30%コンフルエントにまで増殖され、そして詳述されているとおりに、EphA2アンチセンスオリゴヌクレオチドをトランスフェクションされた。逆位のEphA2オリゴヌクレオチド又はトランスフェクション試薬単独でトランスフェクションされた試料は、ネガティブコントロールを提供した。
【0109】
結果
EphA2は関連のチロシンホスファターゼによって制御される。
複数の独立した調査系は、EphA2が関連のチロシンホスファターゼによって制御されることを示唆した。最初に、EphA2は、非形質転換上皮細胞において迅速に脱リン酸されうる。ホスホチロシン抗体(PY20又は4G10)を用いたウェスタンブロット解析は、EphA2−リガンド結合のEGTA媒介型の破壊後5分以内に、より低レベルのEphA2ホスホチロシン含量を示した(図2A)。同様に、EphA2のチロシンリン酸化は、非形質転換上皮細胞の、EphA2−リガンド結合のドミナントネガティブインヒビター(例えばEphA2−Fc)とのインキュベーション後に低下した。同一の結果が、MCF−12A、MCF10−2、HEK293、MDCK及びMDBK細胞を含む、多数の非形質転換上皮細胞系を用いて得られた。これらの知見を基に、我々は、チロシンホスファターゼインヒビターが、EGTA処理に応じてのEphA2ホスホチロシン含量の減少を防ぎ得るかを問うた。事実、インヒビター、例えばオルトバナジン酸ナトリウムは、EGTAによるMCF−10A細胞の処理の後、EphA2ホスホチロシンの低下を防いだ(図2B)。
【0110】
我々の研究所によるこれまでの研究は、EphA2のホスホチロシン含量が、非形質転換上皮細胞と比較して、悪性上皮細胞において大きく低下することを示した(Zelinski, D. P. , Zantek, N. D., Stewart, J. , Irizarry, A. & Kinch, M. S. (2001) Cancer Res 61, 2301-2306; Zantek, N. D. , Azimi, M. , Fedor-Chaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638)。従って、我々は、チロシンホスファターゼ活性が、悪性細胞におけるEphA2のホスホチロシン含量の低下に寄与し得るか否かを問うた。EphA2は悪性乳ガン細胞(MDA−MB−231、MDA−MB−435、MCFneoST、又はPC−3細胞)においてチロシンリン酸化されなかったが、オルトバナジン酸ナトリウム濃度の増大を伴うインキュベーションは、EphA2のチロシンリン酸化を迅速且つ激しく低下させた(図2C)。細胞のバナジン酸塩処理がしばしば生理学的に無関係な部位の誇大なリン酸化を導き得るので、我々は、32P−ATPで標識されたEphA2を用いて、ホスホペプチドマッピング研究をin vitro又はin vivoのいずれかで実施した。これらの研究は、非形質転換MCF−10A細胞及びバナジン酸塩処理MDA−MB−231細胞におけるチロシンリン酸化の同一パターンを解明した。細胞質ドメインは、無差別にリン酸化されているかもしれない多数の部位を含むが、これらは本明細書で利用した条件下ではリン酸化されず、このことは、バナジン酸塩が無関係の部位のリン酸化を増大させなかったことを示唆している。要するに、これらの結果は、EphA2が、悪性細胞においてEphA2ホスホチロシン含量を抑制する関連のホスファターゼによって制御されることを示す。
【0111】
LMW−PTPはEphA2と相互作用し、そしてそれを脱リン酸する
悪性細胞においてEphA2を制御し得るチロシンホスファターゼを同定するために、我々は、LMW−PTPが関連分子EphB4を制御するという最近の報告(Jacob, A. N., Kalapurakal, J. , Davidson, W. R. , Kandpal, G. , Dunson, N. , Prashar, Y. & Kandpal, R. P. (1999) Cancer Detection & Prevention 23,325-332)を検討した。我々の最初の実験は、非形質転換(MCF−10A Neo)及び悪性(MCF−7,SK−BR−3,MDA−MB−435,MDA−MB−231)の哺乳類上皮細胞におけるLMW−PTPの発現及び機能の目録を作成することから開始した(図3)。全細胞可溶化物のウェスタンブロット解析は、非形質転換MCF−10A哺乳類上皮細胞と比較した場合の、腫瘍由来乳ガン細胞における比較的高レベルのLMW−PTPを解明した。等しい試料の添加を確認するために、膜をストリッピングし、そしてコントロールタンパク質(ビンキュリン)に対する抗体で再プローブして、高レベルのLMW−PTPが添加の間違い又は悪性細胞におけるタンパク質レベルの一般化された増大を反映しなかったことを証明した。MCF−10の悪性変異体MCFneoSTも、LMW−PTP発現の増大を示し、これは、EphA2がこれらの細胞においてチロシンリン酸化されないという最近の報告(Zantek, N. D., Walker-Daniels, J. , Stewart, J. C. , Hansen, R. K. , Robinson, D., Miao, H. , Wang, B. , Kung, H. J. , Bissell, M. J. & Kinch, M. S. (2001) Clin Cancer Res 7,3640-3648)に基づくと興味深いものであった。遺伝的に適合した系の使用も、細胞期限又は培養条件に起因する潜在的な差異を排除した。従って、最高レベルのLMW−PTPが悪性上皮細胞において一貫して見られ、そしてEphA2ホスホチロシン含量に反比例していた。
【0112】
上文の結果は、LMW−PTPが腫瘍細胞においてEphA2のホスホチロシン含量をネガティブに制御し得るという、示唆的な、しかし間接的な証拠を提示した。この仮説を更に検討するために、我々は最初に、前記2つの分子がin vivoで相互作用するか否かを問うた。EphA2は、特異的抗体(クローンD7)を用いてMDA−MB−231細胞から免疫沈降され、そしてこれらの複合体はSDS−PAGEによって分離された。次に、ウェスタンブロット解析により、LMW−PTPがEphA2免疫複合体内で顕著に見られたことを明らかにした(図4A)。反対の実験により、EphA2が免疫沈降したLMW−PTPの複合体において同様に検出されうることを確認した(図4B)。無関係の抗体によるコントロールの免疫沈降により、前記2つの分子の相互作用の特異性を確認した。
【0113】
免疫共沈降では、EphA2がLMW−PTPの基質としての役割を果たし得るか否かを明らかにできなかった。このことに直接取り組むために、EphA2は、通常チロシンリン酸化されているMCF−10A細胞から免疫沈降された。精製したEphA2は、続いて、異なる濃度の精製LMW−PTPと一緒にインキュベートされ、その後、ホスホチロシン特異的抗体(PY20及び4G10)によるEphA2のウェスタンブロット解析を行った。これらの実験は、精製したLMW−PTPが、用量及び時間依存的にEphA2を脱リン酸し得ることを示した(図5A)。
【0114】
in vitroでの研究は、EphA2がLMW−PTPによってin vitroでリン酸化されうることを示したが、我々は、in vitroでの研究がin vivoでの類似の状況を常に表すものではないと認識した。従って、LMW−PTPは、MCF−10A細胞において異所的に過剰発現した。この特定の細胞系は、非形質転換MCF−10A細胞が低レベルの内因性LMW−PTPを有し、且つこれらの非形質転換上皮細胞におけるEphA2が通常チロシンリン酸化されないために選択された。LMW−PTPの異所的な過剰発現は、特異的な抗体を用いたウェスタンブロット解析によって決定した場合(図6A)、安定なトランスフェクションによって達成された。重要なことに、LMW−PTPの過剰発現は、ベクターをトランスフェクションしたネガティブコントロールと比較して、EphA2のホスホチロシン含量を低下させるのに十分であった(図6A)。同一な結果が、異なる実験を使用し、異なるトランスフェクタントを用い、且つ安定及び一過性トランスフェクションした両試料において得られ、その結果、クローンのバリエーションについての潜在的な関心を排除した。更に、低下したホスホチロシン含量は、LMW−PTPを過剰発現している細胞のホスホチロシン含量が概して低下したように、EphA2特異的であった(図6B)。
【0115】
LMW−PTP過剰発現細胞は上皮細胞の悪性転換を引き起こす
チロシンリン酸化EphA2は、腫瘍細胞の増殖をネガティブに制御し、一方、リン酸化されてないEphA2は、強力な発ガンタンパク質として働く(Zelinski, D. P. , Zantek, N. D., Stewart, J. , Irizarry, A. & Kinch, M. S. (2001) Cancer Res 61, 2301-2306; Zantek, N. D. , Azimi, M. , Fedor-Chaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638)。従って、我々は、LMW−PTPの過剰発現が悪性転換を誘導するのに十分であるか否かを問うた。この疑問に取り組むために、我々は上述のMCF−10A細胞を利用し、これを野生型LMW−PTP又はベクターコントロールのいずれかでトランスフェクションした。我々の最初の研究は、単層培養におけるコントロール及びLMW−PTP過剰発現細胞の増殖速度を評価した。標準的な2次元培養条件を用いて評価した場合、LMW−PTPを過剰発現しているMCF−10A細胞の増殖速度は、対応するコントロールの増殖速度よりも有意に遅かった(P<0.05)(図7A)。
【0116】
増殖の2次元的な評価はしばしば、腫瘍細胞の悪性の特徴を反映しなかった。その代わりに、ソフトアガー及び再構成した基底膜を用いた細胞挙動の3次元的解析は、悪性の挙動を評価する、更に関連している方法を提供し得る。ベクターをトランスフェクションしたMCF−10A細胞は、大部分ソフトアガーにコロニー形成することができないが、LMW−PTPを過剰発現している細胞は、強拡大の顕微鏡1視野当たり平均4.9コロニーを形成した(P<0.01;図7B)。他の3次元アッセイ系を用いた最近の知見に基づき、我々はまた、3次元の再構成した基底膜を用いて、細胞の挙動を評価した。更に攻撃的な表現型と一致して、マトリゲルにおける細胞挙動の顕微鏡による評価は、LMW−PTP過剰発現細胞の悪性の特徴を確認した。マトリゲルの上に又はその中に、LMW−PTP過剰発現細胞は、ベクターをトランスフェクションした細胞よりも大きなコロニーを形成した。つまり、多数の且つ異なる系と一致した結果が、LMW−PTPの過剰発現が悪性転換を誘導するのに十分であることを示唆する。
【0117】
LMW−PTP過剰発現細胞の発ガン性の表現型はEphA2発現に関連している
EphA2のチロシンリン酸化は、その内部移行及び分解を誘導する。従って、我々は、LMW−PTPの過剰発現が、EphA2のタンパク質レベルを増大させうると仮定した。事実、全細胞可溶化物のウェスタンブロット解析は、ベクターをトランスフェクションしたコントロールと比較した場合の、LMW−PTPを過剰発現するMCF−10A細胞におけるより高レベルのEphA2を明らかにした(図6A)。更に、このEphA2は、チロシンリン酸化されなかった(図6B)。しかしながら、ウェスタンブロット解析は、ホスホチロシンの通常のレベルがLMW−PTP形質転換細胞において変化しなかったので、低下したホスホチロシン含量がEphA2にとって選択的であったことを明らかにした(図6C)。
【0118】
LMW−PTPの過剰発現がEphA2発現を増大させ、そしてそのホスホチロシン含量を低下させたという発見が興味深いのは、この表現型が、高度に攻撃的な腫瘍細胞の暗示であったためである(Zelinski, D. P. , Zantek, N. D., Stewart, J. , Irizarry, A. & Kinch, M. S. (2001) Cancer Res 61, 2301-2306; Zantek, N. D. , Azimi, M. , Fedor-Chaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638)。従って、我々は、悪性細胞におけるLMW−PTPの選択的なターゲティングがEphA2に影響を与えるか否かを問うた。これを達成するために、触媒として不活性なLMW−PTPの酵素的な変異体(D129A)(Zhang, Z. , Harms, E. & Van Etten, R. L. (1994) Journal of Biological Chemistry 269,25947-25950)は、高レベルの野生型LMW−PTPを有し(図3)、且つリン酸化されてないEphA2を過剰発現するMDA−MB−231細胞において過剰発現した。LMW−PTPD129Aの異所的な過剰発現は、EphA2のレベルを低下させることが明らかとなった。更に、免疫沈降した材料のウェスタンブロット解析は、このEphA2がチロシンリン酸化されたことを明らかにした(図6C)。従って、一致した結果が、野生型LMW−PTPの過剰発現が、腫瘍由来細胞において観察されているEphA2の過剰発現及び機能的変化を付与するのに必要且つ十分であることを示している。
【0119】
LMW−PTPを過剰発現しているMCF−10A細胞におけるEphA2はチロシンリン酸化されなかったが、それは酵素活性を保持していた。in vitroでのキナーゼアッセイは、LMW−PTP形質転換MCF−10A細胞由来のEphA2が、ベクターをトランスフェクションしたコントロールに匹敵したレベルの酵素活性を有していたことを証明した(図8A)。等しい試料添加を確認するために、2つのコントロールが実施された。等量のインプットの可溶化物は、β−カゼイン抗体を用いたウェスタンブロット解析によって確認した。更に、免疫沈降したEphA2を分割し、そしてその材料の半分をSDS−PAGEによって分離し、そしてEphA2及びホスホチロシン特異的抗体を用いたウェスタンブロット解析によって解析した(図8B)。従って、リン酸化EphA2及び非リン酸化EphA2はいずれも酵素活性があった。
【0120】
EphA2のレベルがLMW−PTP形質転換細胞において上昇したので、我々は、EphA2の発ガン活性が、この表現型に寄与し得るか否かを問うた。このことに取り組むために、我々はアンチセンスストラテジーによる我々の経験を利用し、LMW−PTP形質転換細胞におけるEphA2発現を選択的に低下させた(Hess A. R., Seftor, E. A. , Gardner, L. M. , Carles-Kinch, K., Schneider, G. B. , Seftor, R. E. , Kinch, M. S. & Hendrix, M. J. C. (2001) Cancer Res 61,3250-3255.)。我々は、ウェスタンブロット解析により、これらのストラテジーの成功を検証し(図9A)、そして次に、EphA2発現の低下がソフトアガーのコロニー形成を変化させるか否かを問うた。事実、EphA2アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたトランスフェクションは、LMW−PTP形質転換MCF−10A細胞のソフトアガーコロニー形成を少なくとも87%に低下させた(P<0.01;図9B)。対照的に、逆位のアンチセンスコントロールヌクレオチドコントロールによるこれらの細胞のトランスフェクションは、ソフトアガーでのコロニー形成を有意に変化させなかった。従って、我々は、アンチセンスオリゴヌクレオチドによる結果が、トランスフェクション手順によって生じた非特異的な毒性からもたらされたということを排除することができた。つまり、我々の結果は、EphA2を発現する細胞において、過剰発現したLMW−PTPの発ガン性の作用が高レベルのEphA2を必要とすることを示す。
【0121】
考察
我々による本研究の主要な発見は、EphA2が関連のチロシンホスファターゼによって制御されるということであり、そして我々は、LMW−PTPをEphA2のチロシンリン酸化の必須の制御因子として同定している。我々はまた、LMW−PTPが転移性ガン細胞において過剰発現し、そしてLMW−PTPの過剰発現が非形質転換上皮細胞モデルに対し悪性転換を付与するのに十分であることも証明する。最後に、我々は、LMW−PTPがEphA2の発現をアップレギュレートし、そしてLMW−PTPの発ガン活性がEphA2のこの過剰発現を必要とすることを証明する。
【0122】
我々の研究所及び他者からの最近の報告は、多数の悪性上皮細胞が、チロシンリン酸化されていない高レベルのEphA2を発現することを示した。これまで、我々は、これらの抑制されたレベルのEphA2チロシンリン酸化を、低下したリガンド結合と関連付けていた。悪性細胞はしばしば不安定な細胞間接触を有しており、そして我々は、このことが、EphA2が、隣接細胞の膜に結合したそのリガンドと安定的に相互作用する能力を低下させると仮定していた。部分的に、我々の本データは、EphA2のホスホチロシン含量も、悪性細胞において過剰発現している関連のチロシンホスファターゼによってネガティブに制御されるという新しいパラダイムを示唆する。EphA2のリン酸化と細胞間接着との関係を考慮すると、我々は、細胞間接触もLMW−PTPの発現及び機能を制御し得るということを排除できず、これは、将来の研究により、この可能性について対処されるべきである。
【0123】
高レベルのLMW−PTPが、悪性ガンの複数の異なる細胞モデルにおいて観察されたという事実は、LMW−PTPの過剰発現が悪性転換を付与するのに十分であることを考慮するならば注目すべきである。LMW−PTPを過剰発現している細胞は、ソフトアガーにコロニー形成する能力を手に入れ、そして、3次元の基底膜。例えばマトリゲルにおいて培養した場合、悪性の表現型を獲得する。しかしながら、特にLMW−PTPを過剰発現しているMCF−10A上皮細胞は細胞増殖の2次元アッセイを用いて測定した場合に細胞増殖速度の低下を示した。この後者の観察は、高レベルのLMW−PTPが他の細胞型の単層での増殖速度を同様に低下させるという最近の報告と一致している(Shimizu, H. , Shiota, M. , Yamada, N., Miyazaki, K. , Ishida, N., Kim, S. & Miyazaki, H. (2001) Biochemical & Biophysical Research Communications 289, 602-607; Fiaschi, T. , Chiarugi, P., Buricchi, F., Giannoni, E. , Taddei, M. L. , Talini, D. , Cozzi, G. , ZecchiOrlandini, S. , Raugei, G. & Ramponi, G. (2001) Journal of Biological Chemistry 276,49156-49163)。そのような発見は、LMW−PTPが悪性転換をネガティブに制御し得るということを示唆すると解釈されたが、我々の発見は、非常に異なる結論を支持している。これと一致して、我々の研究所及び他者による最近の研究は、MCF−10A細胞の悪性転換がしばしば単層での増殖速度の低下を伴い、そしてMCF−10Aの最も攻撃的な変異体が、in vivoで、単層培養において最も遅い増殖を示すことを証明している。これらの発見は、非形質転換上皮細胞系を用いた場合の発ガン遺伝子の機能の設計及び解釈に影響を与える。
【0124】
EphA2チロシンリン酸化の生化学的な結論は、大部分が不明確なままである。自己リン酸が酵素活性に必要な他の受容体チロシンキナーゼと異なり、EphA2のチロシンリン酸化は、その酵素活性に必要ではない。我々による本結果と一致して、EphA2は、そのホスホチロシン含量における劇的な差異にも関わらず、非形質転換細胞及び腫瘍由来細胞において、匹敵するレベルの酵素活性を保持している(Zantek, N. D. , Azimi, M. , Fedor-Chaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638)。同様に、EphA2の自己リン酸の抗体を媒介する刺激は、EphA2の酵素活性レベルを変化させない。EphA2細胞質ドメインのホスホペプチド解析は、1つの可能性のある説明を提供する。EphA2は、残基772に推定上の活性化ループチロシンを有するが(Lindberg, R. A. & Hunter, T. (1990) Molecular & Cellular Biology 10,6316-6324)、in vitro又はin vivoのいずれのホスホペプチド解析も、この部位が正常な細胞モデルにおいてリン酸化されず、又は悪性細胞モデルにおいて外因性リガンドに応答しないことを明らかにした。従って、共通の活性化ループチロシンの欠如は、チロシンリン酸化されない、細胞におけるEphA2の酵素活性の保持を説明することができる。
【0125】
EphA2のチロシンリン酸化はその固有の酵素活性に必要であるようには見えないが、リガンド媒介型のチロシンリン酸化は、EphA2タンパク質の安定性を制御する。具体的には、チロシンリン酸化は、c−Cblアダプタータンパク質と相互作用し、そして次に内部移行してプロテオソーム内で分解されるようEphA2を運命付ける(J. Walker-Daniels et al. , Mol. Cancer Res. 2002 Nov; 1 (1) : 79-87)。結果的に、LMW−PTPのホスファターゼ活性は、EphA2タンパク質の安定性を増大させることが予想される。事実、最高レベルのEphA2が、高レベルのLMW−PTPを有する細胞において一貫して見られる。この発見の1つの興味深い暗示は、それがEphA2の遺伝的制御から独立した機構を提供し、なぜ高レベルのEphA2が多数の異なる腫瘍において見られるかを説明する。別の可能性は、LMW−PTPがEphA2の遺伝子発現をアップレギュレートし、そして、我々による本発見はこの可能性を形式的には排除しない。EphA2インヒビターがLMW−PTPを過剰発現する細胞の悪性の特徴を逆転させたという事実は、EphA2のアップレギュレーションがLMW−PTPを媒介する形質転換の細胞性挙動に関連することを示唆している。
【0126】
要約すると、我々による本研究は、この実施例及びKikawa et al. , J. Biol. Chem. 277 (42): 39274-39279 (2002)に記載のように、腫瘍由来ガン腫細胞において過剰発現する新規発ガン遺伝子としてLMW−PTPを同定する。我々はまた、EphA2と同様に、過剰発現したLMW−PTPの生化学的作用と生物学的作用を関連付ける。これらの発見は、上皮細胞の転移の進行に寄与する生化学的機構及び生物学的機構の理解に影響を与える。更に、我々による本研究は、EphA2又はLMW−PTPを過剰発現する多数のガン細胞を標的とする機会を最終的に提供する重要なシグナル伝達系を同定する。
【0127】
実施例III.LMW−PTPの過剰発現の効果
細胞系及び試薬は、実施例IIに記載のものを使用した(Kikawa et al. , J. Biol. Chem. 277 (42): 39274-39279 (2002))。細胞の可溶化物の生成方並びに免疫沈降及びウェスタンブロット(イムノブロット)解析、EGTA及び過酸化バナジン酸処理、トランスフェクション及び選択、並びに増殖アッセイ、を実施する方法も、実施例IIに記載の通りである(Kikawa et al. , J. Biol. Chem. 277 (42): 39274-39279 (2002))。
【0128】
非形質転換細胞におけるLMW−PTP過剰発現の形態学的効果
野生型ヒトLMW−PTP、又は対応するベクターコントロールで安定的にトランスフェクションされたMCF−10A細胞の単層培養物を、顕微鏡にかけた(600x)(図10)。非形質転換(ベクター)細胞は、特徴的な上皮の形態を保持したが、LMW−PTPをトランスフェクションした細胞は、悪性上皮細胞の特徴である間充織の表現型の形をとった。従って、LMW−PTPの過剰発現は、細胞の2次元的な形態を変化することが観察された。
【0129】
LMW−PTPをトランスフェクションしたMCF−10A細胞は、更に、高細胞密度で培養した場合、悪性転換の特徴である3次元的な病巣を形成することが観察された(図11)。
【0130】
形質転換細胞におけるLMW−PTP不活性化効果
腫瘍細胞においてLMW−PTPを阻害するという生物学的な結果を評価するために、高度に浸潤性のMDA−MB−231細胞がLMW−PTP変異体(D129A)で安定的にトランスフェクションされた。D129Aは基質捕捉変異体として機能し、それにより腫瘍細胞において内因性LMW−PTPの活性と離れて競合する。それは、形質転換細胞においてLMW−PTPを効果的に不活性化する。
【0131】
D129Aをトランスフェクションした細胞は、対応する(ベクター)コントロールと比較して、ソフトアガーにおけるコロニー形成の低下を示した(図12)。従って、形質転換細胞におけるLMW−PTPの不活性化は、ソフトアガーでのコロニー形成の減少をもたらす。このことは、LMW−PTPが、悪性細胞の特徴である足場依存性の細胞増殖及び/又は生存に必要であることを示す。
【0132】
また、LMW−PTPの不活性化が、形質転換細胞における2次元の形態及びEphA2分布を変化させることが明らかとなった。ドミナントネガティブなLMW−PTP(D129A)又は対応するベクターコントロールを発現するMDA−MB−231細胞の形態は、標識したEphA2の免疫蛍光形態学によって評価した(図13)。コントロール培養物MDA−MB−231は、通常、EphA2が膜ラッフルに拡散して分布し又はそこに豊富に存在している、間充織の形態をとる。対照的に、D129Aをトランスフェクションした細胞は、細胞間接触部位内にEphA2が豊富に存在する、特徴的な上皮の形態を示す。
【0133】
D129A LMW−PTP MDA−MB−231細胞は、EphA2のリン酸化状態に対するその効果を決定するために、EGTAで処理された。5x106個のコントロール及びD129AをトランスフェクションしたMDA−MB−231細胞からの洗剤抽出は、実施例I及びIIに記載のように収集した。D7抗体でEphA2を免疫沈降した後、試料はSDS−PAGEで分離され、そしてホスホチロシン特異的(4G10)抗体を用いたウェスタンブロット解析にかけられた。D129Aをトランスフェクションした細胞におけるEphA2は、EGTAによる処理後であっても、より高度にチロシンリン酸化されることが明らかとなった(図14)。EGTAは、細胞間接触を不安定化し、それにより、リガンド結合の損失の後であっても、EphA2が脱リン酸されるのを防ぐ。
【0134】
図15は、LMW−PTPをトランスフェクションしたMCF−10A細胞及びD129AをトランスフェクションしたMDA−MB−231(形質転換した)細胞を用いた免疫蛍光顕微鏡研究に由来する証拠を要約する表である。LMW−PTPをトランスフェクションしたMCF−10A細胞の変化した形態及びマーカーは、悪性転換と一致している。更に、D129Aを過剰発現する細胞の形態は、あまり攻撃的でない(より分化した)表現型と一致する。
【0135】
形質転換細胞及び非形質転換細胞におけるEphA2及びLMW−PTPの共存
コントロール及びLMWをトランスフェクションしたMCF−10A細胞におけるEphA2(D7抗体を用いる)及びLMW−PTP(ウサギポリクローナル血清を用いる)の細胞内局在は、ホルマリン固定し(3.7%、2分)、洗剤で透過処理した(0.5%Triton−X−100を含むPBS)、カバーガラス上で培養した単層において評価した。イメージ(図16A)はニコン社製顕微鏡(600x)を用いて視覚化し、そしてイメージはニコン社製デジタルカメラ及びソフトウェアを用いて捕らえた。
【0136】
野生型LMW−PTPの過剰発現は、ストレスファイバーの形成を引き起こすことが明らかとなった(コントロールの細胞において優勢な接着帯と対照的)。反対の状況において、LMW−PTPのドミナントネガティブなインヒビター(D129A)は、MDA−MB−231におけるストレスファイバーの数を減少させる。これらの観察は、野生型LMW−PTPが悪性(遊走性及び浸潤性)の表現型を促進し、一方、LMW−PTPの阻害は攻撃的な表現型を逆転させるのに十分であるという仮説と一致している。
【0137】
局所接着に対するLMW−PTP過剰発現の効果
局所接着の機構は、パキシリン特異的抗体を用いて決定した場合、更に免疫蛍光顕微鏡によりMDA−MB−231細胞において評価された。パキシリンの細胞内局在は、ホルマリン固定し(3.7%、2分)、洗剤で透過処理した(0.5%Triton−X−100を含むPBS)カバーガラス上で培養した単層において評価した。イメージ(図18)はニコン社製顕微鏡(600x)を用いて視覚化し、そしてイメージはニコン社製デジタルカメラ及びソフトウェアを用いて捕らえた。
【0138】
野生型LMW−PTPの過剰発現は、特に細胞遊走及び浸潤の最前線での、局所接着の突出を増大させ、このことは、より攻撃的な表現型と一致している。反対の状況において、LMW−PTPのドミナントネガティブなインヒビター(D129A)は、MDA−MB−231における局所接着の突出を低下させ、局所接着の(局在化というよりむしろ)散在性の分布をもたらし、このことは細胞遊走又は浸潤と一致している。
【0139】
悪性の特徴の病理学的マーカー
サイトケラチン(図19)及びビメンチン(図20)の発現は、免疫蛍光顕微鏡を用いて評価した。サイトケラチン及びビメンチンの染色は、ホルマリン固定し(3.7%、2分)、洗剤で透過処理した(0.5%Triton−X−100を含むPBS)、カバーガラス上で培養した単層において評価した。イメージ(図18)はニコン社製顕微鏡(600x)を用いて視覚化し、そしてイメージはニコン社製デジタルカメラ及びソフトウェアを用いて捕らえた。
【0140】
野生型LMW−PTPの過剰発現は、サイトケラチンの発現を減少させるが、ビメンチンの発現を増大させることが明らかとなった。これらの結果は、中間径フィラメントタンパク質の発現におけるこれらの変化が、ガンの診断及び分類の病理学者によってしばしば使用されることを考慮すると、注目すべきことである。
【0141】
実施例IV.非形質転換上皮細胞の腫瘍形成能に対するLMW−PTP過剰発現の効果
細胞(MCF−10A、MCF−10A Neo(コントロール)及び安定的に野生型LMW−PTPを過剰発現する、トランスフェクションしたMCF−10A細胞)を、皮下注射を介してマウスに導入した。2つの投与量レベルを使用した:約200万個及び500万個の細胞。3匹のマウスを各グループに含めた。マウスは注射してから20日目に観察され、そして腫瘍(存在する場合)のサイズを測定した。
【0142】
図21は、注射後20日目に観察した、5x106個の細胞を注射したマウスについての腫瘍測定データを示す。親MCF−10A細胞又はコントロールベクターを注射したマウスのいずれも、注射部位での腫瘍形成を示さなかった。しかしながら、安定的に野生型LMW−PTPを過剰発現するMCF−10A細胞を注射したマウスは、500万個の細胞を注射したマウスのうち3匹全てが、そして100万個の細胞を注射した3匹のマウスのうち2匹が、有意な増殖を示した。これらの結果は、LMW−PTPの過剰発現が、非形質転換上皮細胞に腫瘍形成能を付与するのに十分であることを示唆している。EphA2は、我々が、非形質転換上皮細胞に対して腫瘍形成能を付与することができることに気付いた唯一の他の発ガン遺伝子である。
【0143】
本明細書で引用した、全ての特許、特許出願、及び刊行物、及び電子的に入手可能な材料(例えば、ヌクレオチド配列の、例えばGenBank及びRefSeqへの提出、並びにアミノ酸配列の、例えばSwissProt、PIR、PRF、PDBへの提出、並びにGenBank及びRefSeqにおける注釈付きのコード領域からの翻訳、を含む)は、引用によって組み入れられる。前述の詳細な説明及び例は、理解を明確にするためだけに示したものである。不必要な限定がそれらから理解されるべきではない。本発明は、特許請求の範囲内に含まれるであろう当業者にとって自明な変動について示し、そして説明した正確な詳細に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】図1は、5.4kbの哺乳類発現ベクターである真核生物発現ベクターpcDNA3の模式的なマップを示す。独特の制限部位を示す。HPTP遺伝子はこのベクターのHind III/BamH I部位内にクローニングした。
【図2】図2は、EphA2が関連のホスファターゼによって制御されることを示す。(A)MCF−10Aヒト哺乳類上皮細胞の単層を、4mMのEGTAの存在下又は不在下(「C」としてコントロールを表す)、洗浄剤抽出の前に20分間インキュベートした。試料をSDS−PAGEで分離し、そしてホスホチロシン特異的抗体(PY20及び4G10;上段)でプローブした。膜をストリッピングし、そしてEphA2特異的抗体で再プローブして等しいサンプル添加を確認した(下段)。(B)MCF−10A細胞は、EGTAを用いて、NaVO4の存在下又は不在下で、上文で詳述したように処理してホスファターゼ活性を阻害した。(B)EphA2は、指定の濃度のNaVO4の存在下で37℃で10分間インキュベートしたMDA−MB−231細胞から免疫沈降された。
【図3】図3は、LMW−PTPタンパク質レベルが悪性細胞系において上昇することを示す。洗浄剤可溶化物(2〜7レーン)を非形質転換型(MCF−10Aneo)、発ガン遺伝子形質転換型(MCF−10AneoST)、及び腫瘍由来型(MCF−7,SK−BR−3,MDA−MB−435,MDA−MB−231)の哺乳類上皮細胞から収集した。この試料をSDS−PAGEによって分離し、そしてLMW−PTP特異的抗体を用いたウェスタンブロットにかけた(上段)。精製したLMW−PTP(レーン1)は、ウェスタンブロット解析のためのポジティブコントロールを提供した。続いて膜をストリッピングし、そしてビンキュリン特異的抗体で再プローブして試料の添加を評価した(下段)。注目すべきは、LMW−PTPが、非形質転換(MCF−10Aneo)試料の相対的に過剰な添加にも関わらず、腫瘍由来細胞において過剰発現しているということである。
【図4】図4は、EphA2及びLMW−PTPがin vivoで分子複合体を形成することを示す。(A)EphA2の複合体は、5x106のMCF−10A又はMDA−MB−231細胞から免疫沈降し、SDS−PAGEによって分離し、そしてLMW−PTP特異的抗体を用いてウェスタンブロット解析にかけた。(B)複合体の形成を確認するために、LMW−PTPの複合体を同様に免疫沈降によって単離し、そしてEphA2特異的抗体でプローブした。
【図5】図5は、EphA2は、in vitroでLMW−PTPの基質としての役割を果たし得ることを示す。EphA2は、指定量のLMW−PTPタンパク質との37℃での0〜30分間のインキュベーション前に、5x106のMCF−10A細胞から免疫沈降した。続いて、この試料をSDS−PAGEによって分離し、そしてホスホチロシン特異的抗体によるウェスタンブロット解析にかけた。膜をストリッピングし、そしてEphA2特異的抗体で再プローブして等量のサンプル添加を確認した。
【図6】図6は、LMW−PTPがEphA2をin vivoで脱リン酸することを示す。(A)MCF−10A細胞は、野生型LMW−PTPをコードする発現ベクターで安定的にトランスフェクションした。洗浄剤可溶化物をSDS−PAGEによって分離し、そして、LMW−PTPの過剰発現を確認するために、LMW−PTP抗体と、ポジティブコントロールを提供する精製LMW−PTPとを用いたウェスタンブロットにかけた。続いて、対応する試料を、添加用コントロールとしてのβ−カゼイン特異的抗体でプローブした。(B)EphA2を免疫沈降し、そしてEphA2(上段)及びP−Tyr(下段)特異的抗体を用いてウェスタンブロットを実施した。(C)コントロール及びLMW−PTPをトランスフェクションした細胞におけるホスホチロシンの全体レベルは、特異的な抗体を用いて比較した。注目すべきは、内因性のEphA2発現の差異を克服するために、等量のEphA2がこれらの結果のために利用されたことである(項目Bと対照的)。(D)LMW−PTPのドミナントネガティブ型(D129A)又は対応するベクターのコントロールをトランスフェクションしたMDA−MB−231細胞におけるEphA2のタンパク質レベル(上段)及びホスホチロシン含量は、ウェスタンブロット解析によって評価した。LMW−PTP活性がEpは2ホスホチロシン含量の低下及びEphA2タンパク質レベルの増大に関連するという一貫した発見に注目すべきである。
【図7】図7は、LMW−PTPが悪性の特徴を増強することを示す。(A)足場依存性の細胞増殖を評価するために、1x105個のコントロール又はLMW−PTPをトランスフェクションしたMCF−10A細胞を単層培地内に播種し、そして細胞数を顕微鏡により示した間隔で評価した。(B)平行の研究において、コントロール及びLMW−PTPをトランスフェクションした細胞をソフトアガー中で懸濁した。37℃での5日間のインキュベーション後のコロニー形成(強拡大1視野当たりのもの)を示す。これらの結果は、少なくとも別々の実験の代表例を示した。*はp<0.01を示す。
【図8】図8は、EphA2がLMW−PTP形質転換細胞において酵素活性を保持することを示す。等量のEphA2をコントロール又はLMW−PTP形質転MCF−10A細胞から免疫沈降し、そしてin vitroでのキナーゼアッセイにかけた。(A)γ−32P標識ATPによる自己リン酸化は、オートラジオグラフィーによって評価した。等量の試料添加を確認するために、免疫沈降した材料の一部を(B)EphA2又は(C)ホスホチロシン抗体を用いるウェスタンブロット解析によって評価した。EphA2はLMW−PTP形質転換細胞においてチロシンリン酸化されないが、それは酵素活性を保持している。内因性のEphA2発現の差異を克服するために、等量のEphA2がこれらの結果に利用されたことに注目すべきである(例えば、図5Bを参照のこと)。
【図9】図9は、LMW−PTPによる悪性転換がEphA2の過剰発現に関連することを示す。MCF−10A細胞を、EphA2アンチセンス(AS)オリゴヌクレオチド、逆方向のアンチセンス(IAS)オリゴヌクレオチド又はネガティブコントロールを提供するためのトランスフェクション試薬単独、を用いて処理した。(A)EphA2特異的抗体を用いるウェスタンブロット解析は、当該アンチセンス処理がEphA2のタンパク質レベルを低下させたことを確認した(上段)。続いて膜をストリッピングし、そしてβ−カテニンについて再プローブして等しい試料添加を確認した(下段)。(B)平行の試料を懸濁し、そしてソフトアガー中で5日間インキュベートした。強拡大の顕微鏡1視野当たり(HPF)の平均コロニー数を示す。*はp<0.01を示す。
【図10】図10は、LMW−PTPの過剰発現がトランスフェクションしたMCF−10A細胞の2次元的な形態を変化させることを示す。
【図11】図11は、LMW−PTPを過剰発現する、トランスフェクションされたMCF−10A細胞が高い細胞密度で病巣を形成することを示す。
【図12】図12は、形質転換細胞におけるLMW−PTPの不活性化が、ソフトアガーでのコロニー形成の低下をもたらすことを示す。
【図13】図13は、形質転換細胞におけるLMW−PTPの不活性化が、2次元的な形態及びEphA2の分布を変化させることを示す。
【図14】図14は、LMW−PTPを不活性化させるためにD129Aをトランスフェクションした形質転換細胞のEGTA処理の結果を示す。
【図15】図15は、免疫蛍光の発見の要約を示す。
【図16A】図16Aは、コントロール及びトランスフェクションされたMCF−10A細胞におけるEphA2とLMW−PTPの共存を示す。
【図16B】図16Bは、LMW−PTPを不活性化させるためにD129Aをトランスフェクションした形質転換細胞におけるEphA2とLMW−PTPの共存を示す。
【図17】図17は、アクチン骨格の変化した構成がLMW−PTPの発現及び機能に関連することを示す。
【図18】図18は、変化した局所接着の形成が、LMW−PTPの発現及び機能に関連することを示す。
【図19】図19は、LMW−PTPによって変化したサイトケラチンの発現を示す。
【図20】図20は、LMW−PTP発現によって変化したビメンチンの発現を示す。
【図21】図21は、5x106個のEphA2過剰発現MCF−10A細胞及びコントロールを注射したマウスにおける、注射後20日目の腫瘍の発生に関連するデータを示す。
【技術分野】
【0001】
本願は、引用によってその全体が本明細書に組み入れられる2002年5月23日出願の米国仮出願番号第60/382,988号の利益を主張するものである。
【0002】
本願はまた、以下の米国特許出願を引用することによってそれらの全体を本明細書に組み入れる:2000年8月17日出願の第09/640,952号;2000年8月17日出願の第09/640,935号;及び2001年9月12日出願の第09/952,560号。
【背景技術】
【0003】
ガンは、細胞群が不適切に増殖し、そして生存する能力を獲得したときに生じる。これらの生物学的挙動はしばしば、悪性細胞の当該不適切な増殖及び生存を促進する特定のシグナル伝達経路を引き起こすよう一緒に働く遺伝的且つ環境的異常性に起因する。特に、タンパク質のチロシンリン酸化は、細胞の挙動の多くの異なる側面を支配する強力なシグナルを惹起すると考えられている。一般的なパラダイムは、チロシンキナーゼとホスファターゼ活性との平衡が、タンパク質チロシンのリン酸化の細胞レベルを決定する役割を果たし、それによって増殖、生存及び浸潤に関する細胞の決定を支配することを示唆している。このパラダイムは、概して、チロシンキナーゼが発ガン性であろうという一方、チロシンホスファターゼが悪性転換をネガティブに制御することを推定する。この部分は概して正しいが、明るみになってきた事実は、より複雑なものがチロシンキナーゼとホスファターゼとの間で相互作用していることを明らかにしている。例えば、PTPCAAXチロシンホスファターゼは、強力な発ガン遺伝子として機能することが近年証明されてきた。更に、Srcファミリーキナーゼの酵素活性は、重要なチロシン残基のホスファターゼ媒介脱リン酸によって解放される。後者の状況においては、ホスファターゼは、キナーゼの酵素活性を増大させることによってタンパク質チロシンリン酸化を実際にアップレギュレートしうる。
【0004】
EphA2受容体チロシンキナーゼは、多数のヒトのガンにおいて過剰発現する。高レベルのEphA2は、多数の異なるガン、例えば乳ガン、前立腺ガン、大腸ガン及び肺ガン並びに転移性黒色腫に当てはまる。更に、最高レベルのEphA2が一貫してヒトのガンの最も攻撃的な細胞モデル上で見られる。EphA2は、EphA2の異所的な過剰発現が非形質転換上皮細胞に腫瘍原性及び転移性を賦与するのに十分であるので、単なる悪性疾患のマーカーではない。
【0005】
ガン細胞はまた、非形質転換上皮細胞と比較した場合に、EphA2機能の差異を示す。非形質転換上皮細胞において比較的低レベルで存在するにも関わらず、これらの細胞中のEphA2は、顕著にチロシンリン酸化される。対照的に、悪性細胞中のEphA2は、それがこれらの細胞においてひどく過剰発現するにも関わらず、チロシンリン酸化されない。EphA2のホスホチロシン含量におけるこれらの差異は重要であり、それはチロシンリン酸化されたEphA2がネガティブに腫瘍細胞の増殖及び浸潤を制御し、一方、リン酸化されてないEphA2が悪性細胞におけるこれらの同一の挙動を促進するためである。EphA2と悪性との関連は、国際特許出願WO01/12172及びWO01/12804において更に詳述されている。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、ガンの診断、予後及び処置における新規診断及び治療用標的としての低分子量タンパク質チロシンホスファターゼ(LMW−PTP)を同定する。従って、本発明は、新規なガンの診断、予後及び処置の方法を提供する。
【0007】
1つの側面において、本発明は、哺乳類、好ましくはヒトにおけるガンの処置方法を提供する。本発明の処置方法の1つの態様において、当該方法は哺乳類におけるガンを処置するのに有用であり、ここで、当該ガン細胞は、低分子量タンパク質チロシンキナーゼ(LMW−PTP)を発現する。当該処置方法は、LMW−PTPの活性を阻害するのに有効な処置物質を哺乳類に投与することを包含する。
【0008】
本発明の処置方法の別の態様において、当該方法は哺乳類におけるガンを処置するのに有用であり、ここで、当該がん細胞は低分子量タンパク質チロシンキナーゼ(LMW−PTP)及びEphA2受容体分子を発現する。当該処置方法は、LMW−PTPの活性を阻害するのに有効な第一の処置物質及び当該EphA2受容体分子の生体活性を望ましく変化させるのに有効な第二の処置物質を哺乳類に投与することを包含する。好ましくは、EphA2の生体活性は、EphA2受容体分子のホスホチロシン含量を増大させることによって望ましく変化する。
【0009】
本発明の方法を用いて処置されるガンは、好ましくは転移性ガン腫である。任意には、本発明の処置方法において、前記処置物質は、細胞毒性物質と共有結合する。
【0010】
LMW−PTPの過剰発現は、哺乳類におけるガン細胞の存在を示唆する。従って、別の側面において、本発明は、LMW−PTPの過剰発現に基づいた、哺乳類におけるガンの診断方法を提供する。1つの態様において、本発明の当該診断方法は、哺乳類から得られる生体材料中の細胞を可溶化して細胞可溶化物を生成せしめ;当該細胞可溶化物を、LMW−PTPに結合する診断物質と接触させて結合複合体を形成せしめ;そしてLMW−PTPが非ガン性の生体材料と比較して、前記生体材料中で過剰発現しているか否かを決定すること、を包含する。任意に、当該方法はまた、哺乳類から前記生体材料を得ることを含む。本発明の当該診断方法の別の態様において、LMW−PTPの発現レベルは、前記生体材料をアッセイして、LMW−PTPが、非ガン性生体試料と比較して前記生体材料中で過剰発現しているか否かを決定することによって解析される。この診断方法は、哺乳類において、又は哺乳類の外側で実施されうる。哺乳類のあらゆる生体材料を解析することができ、例えば哺乳類の組織、器官又は体液である。
【0011】
更に別の側面において、本発明は、Epは2受容体分子をターゲティングする候補のガン治療物質の有効性を評価するためのスクリーニング方法を提供する。1つの態様において、当該スクリーニング方法は、EphA2受容体分子及びLMW−PTPを発現するガン細胞を、候補の治療物質と接触させて処置されたガン細胞を生成せしめ;当該処置されたガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性を決定し;そして当該処置されたガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性と、類似の未処置のガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性と比較すること、を包含する。当該処置された細胞におけるLMW−PTPの量又は活性の低下は、前記候補の治療物質のEphA2ターゲティングの有効性を示唆する。
【0012】
好ましい態様の詳細な説明
チロシンリン酸化は、細胞膜チロシンキナーゼ(すなわち、他のタンパク質又はペプチドをリン酸化する酵素)によって制御され、そしてチロシンキナーゼの発現の増大は、転移性のガン細胞において生じることが知られている。しかしながら、我々は、その逆の反応である脱リン酸を触媒する酵素が強力な発ガン性タンパク質であるという驚くべき発見をした。この酵素は、低分子量のタンパク質チロシンホスファターゼ(LMW−PTP)であり、そしてその発ガン性の能力は、少なくとも場合によっては受容体チロシンキナーゼEphA2に関連しており、これはまた、発ガン及び転移に関与している。
【0013】
従って、LMW−PTPは、ガン治療を対象とする処置方法のための新規で且つこれまでにない標的として確立される。LMW−PTPは、単独で、又はEphA2、他の発ガン性チロシンキナーゼ、あるいは他の発ガン性遺伝子又は発ガン性タンパク質を標的とする処置と組み合わせて、標的となり得る。LMW−PTPレベルはまた、ガンの検出におけるマーカーとして、あるいはEphA2又はガンの発生若しくは進行に関連する他のチロシンキナーゼを標的とする処理の影響を解析するための代理のマーカーとしての役割を果たし得る。
【0014】
低分子量タンパク質チロシンホスファターゼ
タンパク質チロシンホスファターゼ(時にホスホチロシンホスファターゼとも称される)は、PTPアーゼとして知られており、リン酸一エステルの加水分解、具体的にはタンパク質ホスホチロシル残基の脱リン酸を触媒する。3つの主要なPTPアーゼのクラス;二重特異性PTPアーゼ、高分子量PTPアーゼ及び低分子量PTPアーゼがある(Zhang, M. , Stauffacher, C. , and Van Etten, R. L. (1995), "The Three Dimensional Structure, Chemical Mechanism and Function of the Low Molecular Weight Protein Tyrosine Phosphatase," Adv. Prot. Phosphatases 9, 1-23)。複数の異なる頭字語が、低分子量(LMW)PTPアーゼについて交換可能に使用されており、それらにはLMW−PTP、LMWPTP、LMW−PTPアーゼ及びLMWPTPアーゼが含まれる。
【0015】
LMW−PTPは、多数の異なる生物から単離されたメンバーを含むPTPアーゼファミリーを表す。それらは、典型的に約18kDの相対分子量を有する。高等生物に見られるLMW−PTPファミリーのメンバーには、ウシ(Heinrikson, R. L. (1969), “Purification and Characterization of a Low Molecular Weight Acid Phosphatase from Bovine Liver,” J Biol Chem. 244, 299-307)、エルウィニア(Erwinia)(Burgert, P. and Geider, K. (1997), “Characterization of the ams I Gene Product as a Low Molecular Weight Acid Phosphatase Controlling Exoplysaccharide Synthesis of Erwinia Amylovora,” FEBS Lett. 400, 252-256)、出芽酵母(Ltp1)( Ostanin, K., Pokalsky, C., Wang, S., and Van Etten, RL., “Cloning and Charaterization of a Saccharomyces cerevisiae Gene Encoding the Low Molecular Weight Protein Tyrosine Phosphatase,” J. Biol. Chem., 270, 18491-18499)、分裂酵母(Stpq)(Mondesert, O., Moreno, S. and Russell, P. (1994), ”Low molecular weight protein-tyrosine phosphatases are highly conserved between fission yeast and man,“ J. Biol. Chem. 269, 27996-27999)、ラットACP1及びACP2イソ酵素(Manao G, Pazzagli L, Cirri P, Caselli A, Camici G, Cappugi G, Saeed A, Ramponi G (1992), “Rat liver low Mr phosphotyrosine protein phosphatase isoenzymes purification and amino acid sequences,” J. Prot. Chem. 11, 333-345)、ヒト(HPTP)(Wo, Y.-Y. P., Zhou, M.-M., Stevis, P., Davis, J. P., Zhang, Z. Y., and Van Etten, R. L. (1992), “Cloning, expression, and catalytic mechanism of the low molecular weight phosphotyrosyl protein phosphatase from bovine heart”, Biochemistry 31, 1712-21; Dissing J, and Svensmark O. (1990)“Human red cell acid phosphatase: purification and properties of A, B and C isozymes,” Biochem. Biophys. Acta.1041:232-242; Waheed, A., Laidler, P. M., Wo, Y.-Y. P., and Van Etten, R. L., (1988)“Purification and physicochemical characterization of a human placental acid phosphatase possessing phosphotyrosyl protein phosphatase activity,” Biochemistry. 1988 Jun 14;27(12):4265-73; Boivin, P. and Galand, C. (1986), “The human red cell acid phosphatase is a phosphotyrosine protein phosphatase which dephosphorylates the membrane protein band 3. Biochem Biophys Res Commun 1986 Jan 29;134(2):557-564)、及びBPTP(Zhang, Z-Y. and Van Etten, R. L. (1990), “Purification and characterization of a low-molecular-weight acid phosphatase--a phosphotyrosyl-protein phosphatase from bovine heart,” 282, 39-49; Chernoff, J. and Li, H.-C. (1985), “A major phosphotyrosyl-protein phosphatase from bovine heart is associated with a low-molecular-weight acid phosphatase,” Arch Biochem Biophys. 240, 135-45) が含まれる。これらのタンパク質は、他のPTPアーゼと同様に、共通の活性部位配列モチーフであるCys−(Xaa)5−Argを共有する。高等脊椎動物の酵素との高度の配列同一性を共有する幾つかのタンパク質には、エスケリッチャ・コリ(Escherichia coli)(Stevenson, G. Andrianopopoulos, K. Hobbs, M. , and Reeves, P. R. (1996), "Organization of the Escherichia coli K-12 Gene Cluster Responsible for Production of the Extracellular Polysaccharide Colanic Acid," J. Bact. 178, 4885-4893)、クレブシエラ属(Klebsiella)(Arakawa, Y. , Washarotayankun, R., Nagatsuka, T. , Ito, H. , Kato, N. , and Ohta, M. (1995), "Genomic Organization of the Klebsiella pneumoniae CPS Region Responsible for Serotype K2 Capsular Polysaccharide Synthesis in the Virulent Strain Chedid, "J. Bacteriol. 177, 1788-1796)、シネココッカス(Synechococcus)(Wilbanks, S. M. and Glazer, A. N. (1993), "Rod Structure of a Phycoerythrin D-containing Phycobilisdome.I. Organization and Sequence of the Gene Cluster Encoding the Major Phycobilirotein Rod Components in the Genome of Marine Synechococcus sp. WH8020, "J. Biol. Chem. 268, 1226-1234)、及びトリトリコモナスフォエタス(Tritrichomonasfoetus)(gb U66070)が含まれる。
【0016】
幾つかの哺乳類低分子量PTPアーゼがイソ酵素として存在する。特定の種内で、当該イソ酵素間のアミノ酸配列同一性は95%超である。1つのそのような種はヒトであり、ここではヒト赤血球タンパク質チロシンホスファターゼ(HPTP)が発現している。このタンパク質の2つの形態A(ファスト)及びB(スロー)は、デンプンゲル電気泳動の間に分離した場合にそれらの電気泳動の移動度において異なる。可変領域である残基40−73を除き、当該イソ酵素は同一のアミノ酸配列を有する。
【0017】
ヒトイソ酵素(A及びB)は、BPTPと比較した場合に、それぞれ81%及び94%という高レベルのアミノ酸配列同一性を有する。低分子量PTPアーゼのプロトタイプであるBPTPの結晶構造が解明されている(Zhang, M. , Van Etten, R. L. , and Stauffacher, C. V. (1994), "Crystal Structure of Bovine Heart Phosphotyrosyl Phosphatase at 2.2-A Resolution,"Biochemistry 33,11097-11105)。当該構造は、四本鎖の中心の平行β−シートの両側にα−ヘリックスという構造から成る。この構造は、2つの右巻きのβαβモチーフ部分に存する古典的なヌクレオチド結合フォールドであるロスマンフォールドの部分を組み込んでいる。HPTP−A及び酵母LTP1の結晶構造が解明されており(Wang, S. , Stauffacher, C. and Van Etten, R. L. (2000), "Structural and Mechanistic Basis for the Activation of a Low Molecular Weight Protein Tyrosine Phosphatase by Adenine," Biochemistry 39,1234-1242 ; Zhang, M. (1995), Ph. D. Thesis, Purdue University)、そしてBPTPに似ている。低分子量PTPアーゼは、8個の保存されたシステイン(全て遊離チオール型)、7個の保存されたアルギニン、及び2個の保存されたヒスチジンを有する(Davis JP, Zhou, MM, and Van Etten RL.(1994), "Kinetic and site-directed mutagenesis studies of the cysteine residues of bovine low molecular weight phosphotyrosyl protein phosphatase." J. Biol. Chem. 269, 8734-8740)。
【0018】
チロシンリン酸化されるタンパク質及びペプチド、並びにより単純な分子、ホスホチロシン及びpNPPは、全て、低分子量PTPアーゼの基質の候補である。
【0019】
これらの酵素の天然阻害剤及び合成阻害剤も存在している。低分子量PTPアーゼの最も強力な阻害剤には、イオンのバナジウム酸塩、タングステン酸塩、及びモリブデン酸塩がある。
【0020】
EphA2受容体チロシンキナーゼ
EphA2は130kDのタンパク質であり、受容体チロシンキナーゼの最大のファミリーのメンバーである(Andres AC; Reid HH; Zurcher G; Blaschke RJ; Albrecht D; Ziemiecki A. (1994), "Expression of two novel eph-related receptor protein tyrosine kinases in mammary gland development and carcinogenesis," Oncogene 9, 1461-1467; Lidberg et al., Mol. Cell. Biol. 10:6316-6324(1990))。それは主に、上皮細胞起源、例えば乳房、肺、卵巣、結腸等の細胞において発現している。このタンパク質は、ECK、Myk2、及びSek2としても知られており、エリスロポエチン産生肝細胞性のガン腫細胞系から単離された(Hirai, H., Maru, Y., Hagiwara, K., Nishida, J. and Takaku, F. (1987) "A novel putative tyrosine kinase receptor encoded by the eph gene," Science 238:1717-1720)。多数の名前及び、異なるが関連しているEphタンパク質の増大しているファミリー、に起因して、命名委員は、前記タンパク質を公的に命名するために会合した(Flanaga JG, Gale NW, Hunter T, Pasquale EB, Tessier-Lavigne M)(1997), "Unified nomenclature for Eph family receptors and their ligands, the Ephrins," Cell 90:403-404)。前記タンパク質は、それらがGPI連結型又は膜貫通であるリガンドに結合するか否かに依存して、それぞれEphA又はEphBと命名された。EphAタンパク質は、エフリン−Aリガンドに結合し、一方、EphBタンパク質はエフリン−Bリガンドに結合する。番号は、それらが発見された順番を表す。
【0021】
異なる方法がEphA2を単離するために使用されている。初めに、ハイブリダイゼーション技術がDNAライブラリーからEphA2を単離するために使用された (Lindberg et al., Mol. Cell. Biol. 10: 6316-6324 (1990); Hirai, H. , Maru, Y. , Hagiwara, K., Nishida, J. , and Takaku, F. (1987), "A Novel Putative Tyrosine Kinase Receptor Encoded by the Eph Gene,"Science 238, 1717-1720)。次に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が、当該キナーゼのドメインのためのプライマーを用いて利用された(Andres, A. C. , Reid, H. H. , Zurcher, G. , Blaschke, R. J. , Albrecht, D., and Ziemiecki, A. (1994), "Expression of Two Novel eph-related Receptor Protein Tyrosine Kinases in Mammary Gland Development and Carcinogenesis,"Oncogene 9,1461-1467 ; Gilardi-Hebenstreit, P. , Nieto, M. A., Frain, M., Mattei, M. G. , Chestier, A. , Wilkinson, D. G. , and Charnay, P. (1992), "An Eph-related Receptor Protein Tyrosine Kinase Gene Segmentally Expressed in the Developing Mouse Hindbrain, "oncogene 7, 1499-2506)。次に、cDNA発現ライブラリーがホスホチロシン特異的抗体でプローブされた(Zhou, R., Copeland, T. D., Kromer, L. F., and Schultz, N. T. (1994), "Isolation and Characterization of Bsk, a Growth Receptor-like Tyrosine Kinase Associated with the Limblic system," J. Neuro. Res. 37, 129-143)。最後に、モノクローナル抗体が、発ガン性に形質転換している細胞において、チロシンリン酸化されているタンパク質に対してスクリーニングされた(Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue University)。
【0022】
EphA2は、エフリンAとして知られているリガンドと、エフリンA1として同定されている生理学的リガンドと一緒に結合する。リガンド結合は、Ephタンパク質のチロシンリン酸化を誘導する。EphA2は、特に、5個の異なるエフリンリガンドに結合することができる。
【0023】
EphA2は、正常な乳房上皮と形質転換した乳房上皮とで特徴的な差異を有する(Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue University)。正常な乳房上皮において、EphA2は低いタンパク質レベルで存在し、それがチロシンリン酸化され、そして、最終的に、細胞間接着部位において局在する。形質転換した乳房上皮において、高タンパク質レベルのEphA2が存在しており、それはもはやチロシンリン酸化されず、そして膜ラッフル内に局在する。
【0024】
EphA2は、ガンにおいて機能的な役割を有することが明らかとなっている。過剰発現した場合、EphA2は強力な発ガン性タンパク質である (Zelinski, D. P. , Zantek, N. D., Stewart, J. , Irizarry, A. & Kinch, M. S. (2001) Cancer Res 61, 2301-2306)。MCF−10A細胞におけるEphA2の過剰発現は、悪性転換をもたらす。また、これらの過剰発現細胞のヌードマウスへの注入は腫瘍を引き起こす。興味深いことに、ガン細胞及びEphA2過剰発現細胞におけるEphA2は、チロシンリン酸化されず、一方、非形質転換細胞におけるEphA2はチロシンリン酸化される。
【0025】
EphA2を制御することが本明細書で証明されているLMW−PTPはまた、Ephファミリーの別のメンバーであるEphB1と相互作用することが証明されている(Stein, E. , Lane, A. A., Cerretti, D. P. , Schoecklmann, H. O., Schroff, A. D. , Van Etten, R. L. , and Daniel, T. O. (1998), "Eph Receptors Discriminate Specific Ligand Oligomers to Determine Alternative Signaling Complexes, Attachment, and Assembly Responses," Genes & Dev. 12,667-678)。
【0026】
LMW−PTP活性の治療的阻害
低分子量タンパク質チロシンホスファターゼ(LMW−PTP)は、多数の腫瘍細胞において過剰発現している。以下の例は、EphA2のホスホチロシン含量はLMW−PTPによってネガティブに制御され、発ガンにおけるこのホスファターゼの役割を確立していることを示している。それらは更に、LMW−PTPの過剰発現が、EphA2のレベルの同時の増大を誘導し、且つ非形質転換上皮細胞に悪性転換を賦与するのに十分であることを示している。LMW−PTPの増大した活性化又は発現と関連している発ガン(ガン細胞がEphA2を発現するか否か)は、本発明に従いLMW−PTPの活性を阻害することによって処置又は予防されうる。
【0027】
これらの発見は、予防方法及び治療方法の標的としてLMW−PTPを確立する。LMW−PTPの活性を阻害することによって、EphA2の脱リン酸は遅延又は予防され、それによって望ましくはEphA2の活性を変化させ、そしてガンの進行を予防又は逆転しうる。
【0028】
LMW−PTPの活性の阻害をもたらす処置は、それ故に、ガン患者の病状における望ましい変化を伴うことが予期される。ガン患者の病状における望ましい変化には、例えば全身腫瘍組織量(tumor burden)の減少、腫瘍増殖の遅延、病期の進行の予防又は繰延及び転移の予防又は繰延、が含まれる。患者の病状の望ましい変化は、X線撮影、断層撮影、生化学的アッセイ等を含む任意な常用の方法を用いて検出されうる。
【0029】
従って、本発明は、哺乳類、好ましくはヒトのガンを処置する方法を提供する。当該方法はまた、脊椎動物への応用、例えば、ペット、例えばネコ又はイヌのガンの処置、に良く適している。当該方法は、LMW−PTPを過剰発現する細胞、特に、過剰発現し、又は機能的に変化したEphA2チロシンキナーゼ受容体を更に有する乳房、前立腺、結腸、肺、膀胱、卵巣、膵臓及び皮膚(黒色腫)の転移性ガン腫細胞、を特徴とするガンを処置するのに有効である(例えば、Kinch et al., Clin. Cancer Res. , 2003,9 (2): 613-618 ; Kinch et al. , Clin. Exp. Metastasis, 2003,20 (1) : 59-68; Walker-Daniels et al. , Am J. Pathol. , 2003, 162 (4): 1037-1042; Zelinski, D. P. , Zantek, N. D. , Stewart, J., Irizarry, A. & Kinch, M. S. (2001) Cancer Res 61, 2301-2306; Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue Universityを参照のこと)。LMW−PTPの生体活性を阻害する処置物質は、哺乳類に対し、全身的に又はガン腫瘍部位に、EphA2の生体活性を阻害するのに有効な量で導入される。任意には、当該処置物質は薬物、好ましくは細胞毒性薬と連結されることがあり、それによって、LMW−PTPを阻害し、且つ当該細胞毒性薬のためのキャリヤー分子として役割を果たすという二重の活性を有する。生じた分子複合体が開裂可能な治療物質を含む場合、処置には、開裂を達成するための更に別の物質の送達が含まれることがある。
【0030】
LMW−PTP活性の「阻害」は、処置の前のLMW−PTP活性と比較して評価されうる。典型的に、これは、細胞系、例えば以下の実施例に記載のものを用いて、研究室の設定において評価される。ヒトのガン研究において慣習的に使用されるモデル系の研究室の設定においてLMW−PTP活性の阻害を引き起こす処置物質の、患者に対する投与は、in vivoでの患者の細胞におけるLMW−PTP活性の阻害をもたらすことが十分に予期される。本発明の方法が、LMW−PTP活性が標的細胞において阻害される方法、又はその範囲に限定されないことを理解すべきである。
【0031】
LMW−PTP活性の阻害方法には、例えば1又は複数のLMW−PTP酵素(例えばHPTP−A及びHPTP−B)をコードする遺伝子に直接働くもの、当該遺伝子によって産生されるmRNA転写物、当該mRNA転写物の前記タンパク質への翻訳を妨害するもの、及び当該翻訳タンパク質の活性を直接損なうもの、が含まれる。
【0032】
遺伝子の転写は、前記細胞をアンチセンスDNA又はRNA分子あるいは二本鎖RNA分子を送達することによって妨害されうる。例としてはsiRNA及びiRNAがある。酵素活性を阻害し得る別の方法は、前記遺伝子のmRNA転写産物を妨害することによるものである。例えば、リボザイム(又はリボザイムを作用可能にコードするDNAベクター)は、標的mRNAを開裂するよう前記細胞に送達されうる。アンチセンス核酸及び二本鎖RNAはまた、翻訳を妨害するために使用されることもある。
【0033】
本発明は、前記処置物質を送達するために使用される方法に限定されない。当該処置物質がポリペプチド、例えばD129A LMW−PTPである場合、それは、都合よくは、細胞に一旦送達されると転写され、そして翻訳するように作用可能に前記処置物質をコードするDNA分子を当該細胞内に導入することによって、遺伝子治療の態様で送達されうる。DNAは裸のDNAであってもよく、あるいはそれはベクターの一部として準備されてもよい。ベクターは、ウイルス性又は非ウイルス性のものでもよく(例えば、プラスミド又はコスミド)、組込み又は非組込みのものであってもよい。ウイルスベクターの例には、レトロウイルスベクター及びアデノウイルスベクターが含まれる。
【0034】
ペプチド、リガンド、リガンドミミック、ペプチドミメティック化合物及び他の小分子は、前記翻訳タンパク質の活性を直接損なわせるのに使用されうるものの例である。任意には、これらの物質は、送達担体、例えばリポソームを用いて導入され得る。あるいは、LMW−PTPの活性を阻害するタンパク質性の細胞内物質は、核酸、例えばRNA、DNA、又はそれらのアナログ又は組み合わせとして、常用の方法を用いて送達されることがあり、ここで、治療用ポリペプチドは前記核酸によってコードされ、そして標的哺乳類細胞において発現するよう作用可能に制御因子に連結している。
【0035】
LMW−PTP活性の阻害における使用に好ましい処置物質には、小分子、ペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、及び基質ミミック(例えば、非加水分解性又は基質捕捉性阻害剤)が含まれる。処置物質は、基質に似ているアンタゴニスト、又はLMW−PTPがその基質に結合するのを妨害するアンタゴニスト、特にEphA2−LMW−PTPの相互作用を妨害するもの、を含むことがある。リン酸ピロドキサールに似ている小分子が特に好ましく、例えば、リン酸ピロドキサールのリン酸基をホスホン酸又はスルホン酸で置換しているものである。LMW−PTPの活性部位が標的となることもあり、特にTyr131、Tyr132及びAsp129である。例えば、以下の実施例において示すように、基質捕捉変異体であるLMW−PTPタンパク質D129A(129位のAspがAla)は、野生型LMW−PTPに対して有効に競合して、正常な上皮の形態を形質転換した細胞に対し戻す。BPTPのX線結晶構造が解明されているので、特に治療的に有用であることが予期されるLMW−PTPの高度に特異的な阻害剤を同定し、又は設計するための合理的な薬物設計が使用されうる。
【0036】
前記処置方法の好ましい態様には、LMW−PTPを標的とする第一の処置物質及びEphA2を標的とする第二の処置物質をガン患者に投与することを含む。当該処置物質は、任意の順番で投与されてもよく、あるいは同時に投与されてもよい(同時投与)。LMW−PTP又はEphA2を標的とする多数の処置物質が投与されることもある。
【0037】
EphA2を標的とする処置物質は、例えば抗体、小分子、ペプチド、リガンド若しくはリガンドミミック、又はアンチセンス核酸であってもよい。前記方法の1つの側面において、前記第二の処置物質は、受容体分子上に細胞外エピトープを結合させることによってEphA2を「活性化」する。リガンドを媒介する活性化は、EphA2のホスホチロシン含量の増大を特徴とし、そしてEphA2活性の望ましい変化を伴う。「EphA2活性の望ましい変化」とは、細胞増殖を抑止又は反転させるような、あるいはガン細胞の死滅を惹起又は生じさせるような、ガン細胞におけるEphA2受容体の活性、数字(すなわちタンパク質レベル)及び/又は機能、の変化を意味する。細胞増殖(growth)又は増殖(proliferation)の抑止又は反転は、ガン細胞における種々の表現型の変化、例えば分化の増大、ECMタンパク質についての親和性の低下、細胞間接着の増大、増殖速度の遅延、EphA2の数の低下及び/又はEphA2の局在化の増大、細胞遊走又は浸潤の低下、によって証明することができ、そして直接的又は間接的に引き起こされうる。任意に、第二の処置物質はEphA2架橋、及び/又はEphA2の分解の加速、をもたらす。本発明の別の側面において、当該第二の処置物質は、標的のガン又は前ガン性の細胞におけるEphA2の発現を、DNA/RNAレベルで、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドの結合を介して低下させる。
【0038】
ガン又は前ガン性の症状の検出
LMW−PTPはまた、哺乳類、好ましくはヒトにおけるガン又は前ガン性の症状のマーカーとしての役割を果たすことがある。本発明は、それ故に、生体試料中のLMW−PTPを検出し、そして、任意にそれらの量又は活性を定量することによって、ガン性又は前ガン性の症状を診断し、あるいはガンを病期決定(staging)する方法も含む。本発明の診断方法は、ガンの最初の診断を得て、又はそれを確認し、あるいはガンの局在、ガンの転移、又はガンの予後についての情報を提供するために使用されることもある。前記方法は、ヒト及び獣医学的な使用にも応用可能である。
【0039】
前記診断方法の1つの態様において、哺乳類から得られた生体試料、例えば組織、器官又は体液が解析される。当該方法は、任意に、哺乳類から生体材料を取り出す段階を含む。当該生体材料中に存在する細胞は可溶化され、そして当該可溶化物は、ポリクローナル又はモノクローナルLMW−PTP抗体と接触される。生じた抗体/LMW−PTP結合複合体は、それ自体検出可能であるか、あるいは別の化合物と会合して検出可能な複合体を形成することができる。結合抗体は、ELISA又は類似のアッセイで直接検出することができ;あるいは、診断物質が検出可能な標識を含んで成ることがあり、そして当該検出可能な標識は、当業界で知られている方法を用いて検出されることがある。
【0040】
LMW−PTPが検出可能に標識された診断物質、例えば抗体、の結合を介して検出される診断方法の態様において、好ましい標識には、色素生産性色素、蛍光標識及び放射性標識が含まれる。最も一般的に使用されるものには、3−アミノ−9−エチルカルバゾール(AEC)及び3,3’−ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド(DAB)がある。これらは光学顕微鏡を用いて検出されうる。
【0041】
最も一般的に使用される蛍光標識化合物は、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルデヒド(phthaldehyde)及びフルオレサミンである。化学発光及び生物発光化合物、例えばルミノール、イソルミノール、セロマティック(theromatic)アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩、シュウ酸エステル、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びエクオリンも使用されうる。蛍光標識抗体が適切な波長の光に曝露される場合、その存在はその蛍光により検出されうる。
【0042】
本発明の抗体の標識に特に有用な放射性同位体には、3H、125I、131I、35S、32P、及び14Cが含まれる。放射性同位体は、ガンマカウンター、シンチレーションカウンターのような手段によって、又はオートラジオグラフィーによって検出されうる。
【0043】
抗体−抗原複合体は、ウェスタンブロッティング、ドットブロッティング、沈殿、凝集、酵素免疫アッセイ(EIA)又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫組織化学、in situハイブリダイゼーション、様々な組織又は体液に対するフローサイトメトリー及び様々なサンドウィッチアッセイ、を用いて検出されうる。これらの技術は当業界で周知である。例えば、引用によって本明細書に組み入れられる、米国特許第5,876,949号を参照のこと。酵素イムノアッセイ(EIA)又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)において、酵素は、その後その基質に曝露される場合、当該基質と反応し、そして、例えば分光光度的、蛍光光度的、又は視覚的手段によって検出され得る化学的部分を生成させる。検出可能に抗体を標識するために使用されうる酵素には、限定しないが、マレイン酸デヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカルヌクレアーゼ、デルタ−5−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ−グリセロホスフェートデヒドロゲナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、及びアセチルコリンステラーゼが含まれる。抗体を標識し、そして検出する他の方法は当業界で知られており、そして本発明の範囲内にある。
【0044】
前記診断方法の別の態様において、生体材料は、LMW−PTPホスファターゼ活性についてアッセイされる。使用するアッセイに依存して、この方法は、哺乳類に存在するか、又は哺乳類から取り出された生体材料上で実施されうる。例えば、哺乳類から得られる生体材料は、LMW−PTPホスファターゼ活性についての生化学的アッセイにかけられることがある。検出はまた、LMW−PTPタンパク質をコードするDNA又はRNAに結合する検出可能な試薬を用いることによって達成されうる。
【0045】
LMW−PTPは、ガン、前ガン性又は転移性疾患のためのマーカーとして、広範な組織試料、例えば、生検された腫瘍組織及び広範な体液試料、例えば血液、血漿、髄液、唾液、及び尿において使用されることがある。
【0046】
ガンの存在又は不在及び病状に関する更なる情報を提供するために、他の抗体が、LMW−PTPに結合する抗体と組み合わせて使用されることもある。例えば、抗EphA2又はホスホチロシン特異的抗体の使用は、悪性度をの検出又は評価を決定するための追加のデータを提供する。
【0047】
ガンの処置の有効性の指標としてのLMW−PTP活性
LMW−PTPは、ガンの治療剤、特にEphA2を標的とするものの有効性を評価するための代理マーカーとしての役割を果たすことがある。LMW−PTPを過剰発現するガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性(コントロール)は、候補の治療剤で処置された類似のガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性と比較される。処置された細胞におけるLMW−PTPの量又は活性の低下は、有効なガンの処置を示唆するものである。
【0048】
本発明は、以下の実施例によって例示される。特定の例、材料、量及び手順が、本明細書に記載のような本発明の範囲及び精神に従い広く解釈されるべきであると理解されるべきである。
【実施例】
【0049】
実施例I.低分子量タンパク質チロシンホスファターゼ及びEphA2を包含するタンパク質間相互作用
材料と方法
タンパク質の産生。アンピシリン、N−Z−アミンA(カゼイン加水分解産物)、IPTG、及びSP−セファデックスC−50は全てSigmaから入手した。SP−セファデックスG−50は、Pharmaciaから購入した。YM3膜はAmiconから入手した。全ての他の材料は、Sigma又はBioRadのいずれかから購入した。
【0050】
細胞系。この研究に使用した細胞モデルは、乳房上皮である。この研究室において一般的に使用される細胞系はMCF−10Aである。この細胞系は、MCF−10細胞のファミリーの一部であり、これは樹立された不死化ヒト乳腺上皮細胞系である。MCF−10細胞は、線維嚢胞性疾患の成人女性の乳腺組織から単離された。MCF−10A細胞は、接着細胞として増殖する。MCF−10A(Neo)細胞系は、ネオマイシン耐性遺伝子を有する親細胞系のMCF−10A細胞である。MDA-MB-231細胞系は高度に浸潤性で且つ転移性の乳腺細胞系である。これらの細胞は、乳ガンを有する成人女性から単離された。
【0051】
これらの細胞の世話は、2日毎に、培地を新しくし、又はそれらを分割することによりそれらを扱うことから成る。当該細胞を分割するために、培地は吸引によって最初に除去した。細胞を2〜3mlのPBS中で洗浄し、続いてトリプシン溶液(PBS中で1:50に希釈した2〜3mlのもの)を添加し、そしてプレートを37℃のインキュベーター内に10〜30分間据えた。次に、2〜3mlの培地を各プレートに添加した。PBS/トリプシン溶液及び培地中の細胞を、卓上遠心機で遠心してペレットにした。PBS/トリプシン溶液及び培地を吸引し、そして細胞を培地中で再懸濁した。細胞を続いて組織培養ディッシュにプレーティングした。
【0052】
MCF−10A(Neo)細胞の増殖培地は、DMEM/F12、5.6%ウマ血清、20ng/mlの上皮増殖因子(これらは全て、Upstate Biotechnolgy., Inc.から購入)、100μg/mlストレプトマイシン、100ユニット/mlのペニシリン、10μg/mlのインスリン(Sigma)、0.25μg/mlのフンジゾン(fungizone)、及び2nMのL−グルタミンから成る。MDA−MB−231細胞の増殖培地は、RPMI、2nMのL−グルタミン、100μg/mlのストレプトマイシン、及び100ユニット/mlのペニシリンから成る。
【0053】
抗体。EPhA2の細胞内ドメインを認識する抗体はD7である(Upstate Biochemicals,ニューヨーク)。このモノクローナル抗体(MAb)は、Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue Universityにおいて述べられているように、バルクの培養物から産生された。この抗体による免疫沈降のために、30μlを使用した。イムノブロットのために、TBSTB(30mlの5M NaCl、50mlの1M Tris、pH7.6、1mlのTween−20、1gのBSA、及び920mlの蒸留水)中で1:1希釈したものを使用した。免疫蛍光顕微鏡のために、抗体は希釈せずに使用した。
【0054】
HPTPに対するモノクローナル抗体(10.1及び7.1)は、Alfred Schroff, Ph. D. Thesis, Purdue Universityにおいて述べられているように開発した。免疫沈降の場合、10.1(α−HPTP−B)を10μl使用した。イムノブロッティングの場合、当該抗体はTBSTB中で1:100に希釈した。免疫蛍光顕微鏡の場合、当該抗体はPBS中で1:10に希釈した。同一の条件を、HPTPに対する外のMAb、7.1(α−HPTP−A/B)に使用した。HPTPに対するポリクローナル抗体の場合、10μlの抗体を免疫沈降に使用した。イムノブロッティングの場合、当該抗体はTBSTB中に1:2000で希釈した。免疫蛍光顕微鏡の場合、当該抗体は、PBS中で1:100に希釈した。
【0055】
ホスホチロシンを検出するために、4G10として知られている抗体を使用した。この抗体は、大量培養で産生した。イムノブロッティングの場合、TBSTB中での1:1希釈を使用した。免疫蛍光顕微鏡に使用した二次抗体は、PBS中で1:40希釈したDAR−F1及び/又は1:00希釈したDAM−Rhであった。イムノブロッティング実験の場合、ヤギ抗マウス(MAb用)又はヤギ抗ウサギ(PAb用)をTBSTB中で1:10,000希釈して使用した。
【0056】
アフィニティーマトリックス。プロテイン−AセファロースをSigmaから購入した。Affi−ゲル10はBioRadから購入した。
【0057】
他の材料。他の材料は、Fisher、Pierce、Malinckrodt、New England Biolabs、QIAGEN、及びRoche Diagnosticsから購入した。
【0058】
LMW−PTPの発現及び精製。増殖培地(M9ZB)は以下のように調製した:4Lのフラスコ中、20gのN−ZアミンA(カゼイン加水分解産物)、10gのNaCl、2gのNH4Cl、6gのKH2PO4、及び12gのNa2HPO4H2Oを2Lの蒸留水中に溶解した。培地のpHを続いてNaOHのペレットで7.4に調整した。500mlのフラスコに対し、200mlのM9ZB溶液を注いだ。培地の2つの容器を続いて20分間オートクレーブした。室温に冷却した後、ろ過滅菌した、20mLの40%グルコース及び2mLの1MMgSO4溶液を2Lの培地当たり添加した。播種直前に、200μlの50mg/mLアンピシリンを、200ml(M9ZB)培地を含むフラスコに添加した。注目の遺伝子を有する組換えプラスミドを含むE.コリのBL21株の200mlの培養物を、250〜300rpm、37℃に設定した旋回シェーカー上で一晩生育させた。
【0059】
次の日、1.8mlの50mg/mlアンピシリンを残りの1.8Lの新鮮な培地に添加した。一晩経過した培地を、続いて新鮮な(M9ZB)培地中で1:10に希釈し、そして細胞を更に3時間増殖させた。600nmでの光学密度(OD600)が0.6〜1.0の間に達したとき、2mlの4mMIPTGを添加してタンパク質発現を誘導した。培養物は、WT−PTPアーゼの場合には更に3時間、又は変異体PTPアーゼの場合には更に6時間、37℃でインキュベートした。細胞は、5000rpmで15分間の冷却遠心によって収集した。上清を4Lのフラスコに注いで戻し、続いて廃棄する前に20分間オートクレーブした。細胞ペレットを10mLの0.85%NaCl中で再懸濁し、そして洗浄し、再び500rpmで遠心してペレットにし、続いて2mLの0.85%NaCl中で再懸濁した。混合物を小さい遠心管中に据え、続いて5000rpmで10分間遠心した。上清を捨て、そしてペレットを−20℃で一晩保存するか、又は直ちに可溶化した。
【0060】
細胞ペレットを融解し(妥当ならば)、続いて1mM EDTA及び1mM DTTを含む、pH5.0の100mM CH3COONa緩衝液中で再懸濁した。DTTを使用直前に添加した。細胞は、それらを、100psiの圧力ゲージに設定した予め冷やした、フレンチプレッシャーセルに2回かけることによって破壊した。可溶化物は、16,000rpmで15分間、冷却遠心機内で遠心してペレットにした。上清を新しい遠心管中に注ぎ、続いて、30mMのNaH2PO4、1mM EDTA及び60mM NaClを含む、pH4.8の10mM CH3COONa緩衝液で予め平衡化したSP−セファデックスC−50陽イオン交換カラム(1.5x30cm)に添加した。
【0061】
C−50カラムを、10倍量の総容積の10mM CH3COONa緩衝液で、A280が大体ゼロになるまで洗浄した。続いて、高塩濃度の溶液である、pH5.1の300mM NaH2PO4及び1mM EDTAでタンパク質を溶出した。流速は30〜40mL/時間に設定した。回収した各画分には約6ml含まれていた。最高のA280を有する画分を、タンパク質純度を得るために、15%SDSポリアクリルアミドゲル上で分離した。最も純粋な画分をまとめ、続いてAmicon限外ろ過装置を用いて大体5mlに濃縮した。濃縮液は、30mMのNaH2PO4、1mM EDTA及び60mM NaClを含む、pH4.8の10mM CH3COONa緩衝液で予め平衡化したSephadex G−50サイズ排除カラムに添加した。流速は15〜25ml/時間に設定し、そして約6mLの画分を回収した。最高のA280を有する画分を、タンパク質純度を得るために15%SDSポリアクリルアミドゲル上で試験した。最も純粋な画分をまとめ、そしてG−50緩衝液中で4℃で保存した。
【0062】
免疫蛍光顕微鏡。最大5枚のカバーガラスを3.5cmディッシュ上に据えた。特定の研究に適切な細胞系を、使用の24時間前にこれらのディッシュ内に据えた。細胞は通常この時間までに60〜70%コンフルエントに達した。細胞を3.7%ホルムアルデヒド溶液中に2分間固定し、続いて1%Triton中で5分間透過処理し、そしてユニバーサルバッファー(UB)中で5分間洗浄した。細胞は、続いて室温で一次抗体と30分間インキュベートした。次に、細胞をUB(12mlの5M NaCl、20mlの1M Tris、pH7.6、4mlの10%アジド)中で5分間洗浄した。細胞は続いて2次抗体と一緒に30分間インキュベートした。蒸留水中で簡単に5秒間洗浄した後、カバーガラスを、表を下にして、スライドガラス上の約5μlのFluorSave(Calbiochem)の上に据えた。細胞を室温で約15分間乾燥させ;続いて、それらを「Low」に設定したヘアドライヤーのもと、更に15分間又は乾くまで静置した。細胞は、蛍光顕微鏡の油浸レンズ(60x)で観察した。
【0063】
免疫沈降。モノクローナル抗体による免疫沈降(IP)の場合、ウサギ抗マウスプロテインAセファロース(RAMPAS)を使用した。ポリクローナル抗体によるものの場合、プロテインAセファロース(PAS)を使用した。ビーズは、最初に、プロテインAセファロースを、1.5mLの遠心管の100μlの印まで添加することによって調製した。次に、1mlのUBを添加してビーズを膨潤させた。RAMPASの場合、50μl/mlのウサギ抗マウス(RAM)IgGもビーズとUBの遠心管に添加した。混合物は、者移転スターラー上で一晩4℃で回転させた。次の日、ビーズを3回1mlのUB中で洗浄した。続いて、ビーズをUB中50%のスラリーにした。
【0064】
細胞のプレートを氷上に据えた。細胞を2〜3mlのPBSで1回洗浄した。その後、細胞は、1mMのNa3VO4、10μg/mlのロイペプチン、及び10μg/mlのアプロチニンを含む、1%Triton可溶化緩衝液(5mlの1M Tris、pH7.6、3mlの5mM NaCl、1mlの10%NaN3、1mlの200mM EDTA、10mlの10% Triton X−100、80mlの蒸留水)又はRIPA可溶化緩衝液(5mlの1M Tris,pH7.6、3mlの5M NaCl、1mlの10% NaN3、1mlの200mM EDTA、10mlの10% Triton X−100、5mlの10%デオキシコール酸、500μlの20% SDS、74.5mlの蒸留水)中、氷上で5分間可溶化した。可溶化物を回収し、そして各組の可溶化物を、クーマシータンパク質アッセイ試薬を用いて等しいタンパク質含量に標準化した。590nmの吸光度を測定するためにプレートリーダーを使用した。前記可溶化物を適切な可溶化緩衝液で平衡化した後、試料を調製した。
【0065】
各試料につき、30μlのPAS(又はRAMPAS)を各試料チューブに添加した。次に、一次抗体を添加した。最後に、前記可溶化物の150〜200μl部分を添加した。試料を4℃で1.5時間又は一晩回転させた。試料は、続いて、細胞を可溶化するのに使用したものと同じ、1mlの可溶化緩衝液中で洗浄した。最後の洗浄の後、15μLのLaemmli緩衝液をペレット化したビーズに添加し、そして試料を10分間沸騰させた。その後、試料は、220Vに設定した15%SDSポリアクリルアミドゲル上に添加して1.75時間分離した。タンパク質分離の後、タンパク質をニトロセルロースに一晩かけて移した。
【0066】
基質捕捉。精製した、触媒として不活性のLMW−PTP組換え変異体であるD129A−BPTP及びC12A−BPTPを、潜在的な基質捕捉を作り出すために使用した。アフィニティーサポートは、最初に1〜1.5mlのAffiゲル10を、複数の容積の冷却した蒸留水中で洗浄することによって調製した。次に、モイストゲルを、5mg/mlの純粋なPTPアーゼと一緒に15mlのコニカルチューブに添加した。当該チューブを4℃で4時間回転させ、そしてタンパク質をビーズに結合させた。その後、1mlのAffiゲル当たり100μlのエタノールアミンを添加して、タンパク質と結合しなかった反応性ゲル部位をブロックし、つづいて当該チューブを更に1時間回転させた。スラリーを小さいプラスチックカラム内に注いだ。ビーズをカラム内に静置させ、それらを続いて20mlの蒸留水で洗浄した。洗浄液のpHを測定した。7以上である場合、pHを1mMのHClで調整した。次に、A280を測定した。ゼロ付近でない場合、A280がゼロ付近に達するまで洗浄を続けた。カラムは、使用するまで4℃で保存した。
【0067】
前記可溶化物を利用する前に、カラムを10mlの蒸留水で3回洗浄し、続いて適切な可溶化緩衝液中で平衡化した。細胞は、適切な可溶化緩衝液中で5分間、氷上で可溶化した。可溶化物を回収し、そしてカラムに添加して様々な時間4℃でインキュベートした。続いて、ビーズを適切な可溶化緩衝液中で3回洗浄した。Laemmli緩衝液をビーズに添加し、これを10分間煮沸した。試料を15%SDSポリアクリルアミドゲル上で分離し、そして最終的にニトロセルロースに一晩かけて移した。
【0068】
脱リン酸。MCF−10A(Neo)細胞を80%コンフルエントにまで増殖させた。細胞を1%Triton可溶化緩衝液中、5分間氷上で可溶化した。可溶化物を回収し、一まとめにした。EphA2 IPを調製した:30μlのD7、30μlのRAMPAS、及び200μlの可溶化物。当該IPを1.5時間4℃で混合した。それらを500μlのTriton可溶化緩衝液中で2回洗浄し、続いて500μlの蒸留水中で2回洗浄した。各ペレットを10mMの50μl CH3COONa緩衝液中で再懸濁し、そしてチューブを37℃のウォーターバス内に5分間据えて温度を生理学的条件に調整した。次に、選択した濃度の500μlのPTPアーゼ溶液をチューブに添加し、EphA2と選択した時間反応させた。当該反応終了時に、ビーズをペレット化し、そして上清を吸引によって除去した。Laemmli緩衝液を各試料に添加し、そしてそれらを10分間煮沸した。最後に、タンパク質を10%SDSポリアクリルアミドゲル上で分離し、そして一晩かけてニトロセルロース膜上に移した。
【0069】
イムノブロッティング。前記ニトロセルロース膜をPonceau Sで染色して、分子量マーカーの位置を同定して印をつけた。当該膜を複数回蒸留水中ですすぎ、色素を除いた。当該膜上の非特異的部位を、Teleosteanゼラチン(50mlのTBSTB及び「茶」色を呈すのに十分なゼラチン)溶液でブロッキングした。当該膜を当該ブロッキング溶液中、室温で30分間インキュベートした。次に、当該膜を一次抗体と一緒に30分間インキュベートした。当該膜を3回、それぞれTBSTB中で10分間洗浄し、これに続き、二次抗体と一緒に30分間インキュベートした。その後、当該膜を3回、TBSTB中でそれぞれ8分間インキュベートし、続いて2回、TBS(30mlの5M NaCl、50mlの1M Tris,pH7.6、920mlの蒸留水)中でそれぞれ6分間インキュベートした。次に、化学発光試薬を膜に添加した(1:1)。最後に、フィルムを膜に曝露し、これをサランラップで包み、そして現像した。
【0070】
小規模のDNA精製。HPTP遺伝子を含むプラスミドpET−11dを、QIAGENから市販されているQIAprep Miniprepを用いてE.コリのBL21株から精製した。HPTP−A及びHPTP−Bを含むE.コリをいずれも、しかし別々に、LB/Ampプレート上にストリーキングした。両プレートを37℃のインキュベーター内に一晩据えた。次の日、3mlのLB培地及び6μlのアンピシリンを2つの滅菌スナップトップチューブ内に据えた。当該チューブを、続いてHPTP−A又はHPTP−Bとラベルした。各プレート由来の1つのコロニーを使用し、それぞれラベルしたチューブに、HPTP−A遺伝子又はHPTP−B遺伝子を含むコロニーを播種した。当該チューブを、250rpmに設定したシェーカー上に一晩(12〜16時間)載せた。次の日、培地を遠心してペレットにし、そして上清を吸引で除去した。
【0071】
QIAprep Miniprepプロトコールを用いて、細菌のペレットからDNAを精製するために、細菌のペレットを250μlの緩衝化RNアーゼA溶液(緩衝液P1)中で再懸濁した。次に、細胞懸濁液をマイクロチューブ内に据え、そして、NaOH及びSDSを含む250μlのアルカリ性可溶化緩衝液(緩衝液P2)中に据えた。当該チューブを穏やかに5回反転させた。可溶化は5分間実施した。混合物は、つづいて、350μlの中和緩衝液(緩衝液N3)を添加することによって中和した。
【0072】
当該チューブを13,000rpmで10分間遠心した後、情勢をQIAprepスピンカラムに移した。当該スピンカラムを2mlの回収チューブ内に据えた。一緒に、それらを遠心機に据え、そして13,000rpmで1分間遠心した。フロースルーを廃棄した。次に、当該スピンカラムを750μlの緩衝液PEで洗浄し、そして13,000rpmで1分間遠心した。フロースルーの廃棄後、当該スピンカラムを1回以上13,000rpmで1分間遠心した。当該スピンカラムを、きれいなマイクロチューブ内に据え、そしてDNAを60μlの緩衝液EBで溶出し、そして−20℃で保存した。
【0073】
コード領域の増幅。ポリメラーゼ連鎖反応を使用して、遺伝子のコード領域を増幅させた。フォワード鎖のために設計したプライマーは、HindIII制限部位を含む:AAT TTA AAG CTT CCA TGG CGG AAC AGG CTA CCA AG(配列番号1)。リバース鎖のために設計したプライマーは、EcoRI制限部位を含む:CGT TCT TGG AGA AGG CCC ACT GAG AAT TCT TCG T(配列番号2)。リバース鎖のために設計した追加のプライマーは、BamH I制限部位を含む:GCG CGC GGA TCC TCA GTG GGC CTT CTC C(配列番号3)。
【0074】
要約すると、40μlの蒸留水、5μlの10x緩衝液、1μlのフォワードプライマー、1μlのリバースプライマー、1μlのdNTP及び1μlのpfuポリメラーゼから成る50μlの反応混合物を調製した。反応混合物は、以下のサイクルに設定したサーマルサイクラー内に据えた:94℃で2分間、94℃で1分間、55℃で1分間、65℃で1分間、65℃で10分間、続いて4℃で維持。2〜4のステップを、次の65℃で10分間のステップに進む前に30回繰り返した。
【0075】
前記サイクルが終了してから、PCR産物を1%アガロースゲル(600mgのアガロース、1.2mlの50X TAE、58.8mlの蒸留水)上で解析した。当該PCR産物は、続いて、QIAGENから市販されているQIAquick PCR精製キットを用いて精製した。要約すると、5倍量の緩衝液PBを1倍量のPCR産物反応混合物に添加し、そして簡単に混合した。混合物をQIAquickスピンカラムに添加し、そして13,000rpmで1分間遠心した。フロースルーの廃棄後、750μlのPE緩衝液を当該カラムに添加し、そして13,000rpmで1分以上遠心した。当該カラムをきれいなマイクロチューブ内に据え、そして30μlの緩衝液EBを当該カラムに添加した。カラムを室温で1分間、前記緩衝液と一緒にインキュベートし、その後13,000rpmで1分間遠心してDNAを溶出した。
【0076】
伸長の除去。PCR産物の反応混合物を消化のために調製した:5μlのPCR産物、1μlのNEBバッファー2、1μlの10X BSA、及び0.9μlのHindIII/BamHIストック。InvitrogenのpcDNA3ベクター(図1)の消化のための反応混合物を調製した:1μlのpcDNA3、1.5μlのNEBバッファー2、1.5μlの10X BSA、0.5μlのHindIII、及び0.5μlのBamHI。プラスミドpcDNA3は、5.4kbの哺乳類発現ベクターである。HPTP遺伝子は、このベクターのHindIII/BamHI部位内にクローニングし、そして当該遺伝子の発現は、CMVプロモーターによって駆動させた。PCR産物及び哺乳類発現ベクターpcDNA3を37℃で2.5時間消化した。消化産物を1%アガロースゲル上で解析した。分離後、ゲルの写真を撮った。PCR産物及びpcDNA3の消化は、それぞれ491bp及び5,428bpであるフラグメントを生成することが予想された。
【0077】
消化産物を含むゲルの断片を、当該ゲルから除去し、そしてマイクロチューブ内に据えた。ゲルから消化産物を除去するために、QIAGENから市販されているQIAquickゲル抽出キットを使用した。要約すると、210μlの緩衝液QGをチューブに添加した。当該チューブを50℃のウォーターバス内に約10分間、2〜3分おきに混合して静置した。次に、70μlのイソプロパノールを当該チューブに添加し、そして混合した。試料を続いて回収チューブとくっつけたカラム内に据え、そして13,000rpmで1分間遠心した。フロースルーの廃棄後、500μlの緩衝液QGをカラムに添加し、そして当該カラムを13,000rpmで1分間遠心した。フロースルーを廃棄し、そしてカラムを750μlの緩衝液PEで洗浄し、続いて13,000rpmで1分間遠心した。フロースルーを廃棄し、そしてカラムを1回以上13,000rpmで1分間遠心して、DNAを溶出させた。DNAは−20℃で保存した。
【0078】
ライゲーション及び形質転換。増幅したHPTP−A及びHPTP−B遺伝子はいずれも、しかし別々に、pcDNA2ベクターとライゲーションした。ライゲーション反応混合物を調製した:10μlのインサート、5μlのベクター、2μlの10Xライゲーションバッファー、2μlの10X ATP、及び1μlのリガーゼ。ライゲーション混合物を16℃に設定したサーマルサイクラー内に18時間据え、続いて温度を4℃に維持した。
【0079】
コンピテントE.コリEHα5株を、ライゲーション混合物で形質転換させた。それぞれ200μlのコンピテントE.コリ(DHα5)を含む2つのマイクロチューブを氷上で融解させた。ライゲーション混合物を、細胞の各チューブに添加し、当該チューブを簡単にボルテックスにかけ、そして次に、氷上で20分間インキュベートした。チューブを42℃のウォーターバス内に1.5分間据え、続いて氷上に2分間据えた。チューブの中身を、1mlのLBを含むチューブ内に別々に据えた。混合物を250rpmに設定したシェーカー上に45分間据えた。次に、200μlの各培地を2つのLB/Ampプレート上に蒔いた。プレートは、蓋を上にして37℃のインキュベーター内に10分間据え、続いて蓋を下にして一晩(16〜18時間)据えた。
【0080】
コロニーのスクリーニング。QIAprep Miniprepプロトコールを使用し、6つの細菌培養物それぞれからDNAを精製した。精製したDNAを含むチューブを適当にラベルした:コロニーA1、コロニーA2、コロニーB1、コロニーB1、コロニーB2等。コロニーをスクリーニングするために、それぞれに由来する精製DNAをHindIII及びBamHI;NdeI及びEcoRI;並びにAccIで消化した。HindIII/BamHI消化反応液を調製した:5μlのベクター/インサート、1μlのNEEBバッファー2、1μlの10X BSA、1.8μlのHindIII/BamHIストック、6.2μlの蒸留水。HindIII/BamHIストックは以下の様に調製した:7.2μlのBamHIをを9.6μlのHindIIIに添加した。次に、NdeI/EcoRI消化反応液を調整した:5μlのベクター/インサート、0.5μlのEcoRI、0.3μlのNdeI、1.5μlのNEBバッファー4、7.7μlの蒸留水。最後に、AccI消化反応液を調製した:5μlのベクター/インサート、0.5μlのAccI、1.5μlのNEBバッファー3、及び8μlの蒸留水。全ての消化は、37℃で一晩行った。消化物は、1%アガロースゲル上で分離し、そしてゲルの写真を撮った。
【0081】
中規模のDNA精製。6時間たった5mlの培養物を250rpmに設定したシェーカー上で37℃で増殖させた。5mlの培地を50mlのLBで希釈した。チューブをシェーカー上に据えた。次の日、40mlの一晩たった培養物を、5mlのネジ口遠心管に移し、そして5000rpmで5分間の遠心によってペレット化した。BioRadから市販されているQUANTUM MidiPrepを使用し、中規模にDNAを精製した。要約すると、上清を流し捨て、そして5mlの細胞再懸濁溶液を細胞のペレットに添加した。チューブをボルテックスにかけ、細胞を再懸濁した。次に、5mlの細胞可溶化物をチューブに添加し、続いて6〜8回反転させた。混合物を、5mlの中和溶液を添加することによって中和し、続いてチューブを6〜8回反転させて当該溶液を中和した。混合物を8000rpmで10分間遠心した。上清を、1mlのQuantumPrepマトリックスと一緒に新しいチューブに移した。混合物を穏やかに15〜30秒間回転させ、続いて8000rpmで2分間遠心した。ペレットから洗浄緩衝液を排出した後、600μlの洗浄緩衝液をマトリックスに添加し、そして振とうによって混合した。チューブを8000rpmで2分間遠心した。ペレットから洗浄緩衝液を排出し、600μlの洗浄緩衝液をチューブに添加してペレットを再懸濁した。スピンカラムをマイクロチューブに取り付け、そして穴をマイクロチューブの蓋に開けた。チューブを12,000rpmで30秒間遠心した後、フロースルーを廃棄した。次に、500μlの洗浄緩衝液をチューブに添加し、そして当該チューブを12,000rpmで30秒間遠心した。フロースルーを廃棄し、続いて当該カラムを12,000rpmで2分以上遠心し、残りの洗浄緩衝液を除去した。カラムをきれいな遠心管に移した。DNAを600μlのTE(pH8)で溶出させた。
【0082】
次に、DNAは、1/10量の5M NaCl、続いて合計量(NaCl+DNA)の2倍の100%エタノールを添加することによってエタノール沈殿した。マイクロチューブを数回穏やかに反転させ、そして−20℃で20分間インキュベートした。DNAを13,000rpmで10分間遠心してペレットにした。滅菌条件下、エタノール/NaClをペレットから吸引した。ペレットをフード内で風乾するまで放置した。その後、DNAを100μlの滅菌TE(pH8)中で再懸濁した。DNA試料の濃度を決定するために260nmの吸光度(A260)を測定した。DNAは−20℃で保存した。
【0083】
トランスフェクション。MCF−10A(Neo)細胞系においてHPTPを発現させるために、Roche Diagnosticsから市販されているFuGENE(商標)トランスフェクションキットを使用した。細胞を、使用前に6穴プレートに18時間プレーティングし、それらのコンフルエントがトランスフェクションの日に50%となるようにした。マイクロチューブ内で、97μlの無血清希釈培地を3μlのFuGENE試薬に添加した。希釈したFuGENEを室温で5分間インキュベートした。次に、1μgのDNAを第二のマイクロチューブに添加した。一滴ずつ、希釈したFuGENE試薬をDNAに添加した。当該チューブを穏やかにたたき、チューブの中身を混合した。チューブは、続いて室温で15分間インキュベートした。細胞上の培地に、2mlの新鮮な培地を再び据えた。一滴ずつ、FuGENE/培養液をプレーティングされた細胞に添加し、続いてプレートを回転させてプレートの周りに中身を分配した。細胞は37℃で36〜48時間インキュベートした。
【0084】
解析の日に、細胞を1%Triton可溶化緩衝液中で可溶化し、HPTP及びD7の免疫沈降を行った。試料は、最終的に15%SDSポリアクリルアミドゲル上で分離し、続いてニトロセルロースに一晩かけて移した。次の日、イムノブロッティングが、EphA2、HPTP、及びホスホチロシンに対する抗体により行われた。
【0085】
結果
LMW−PTPの発現及び精製
LMW−PTPは、陽イオン交換クロマトグラフィー(典型的に、SP−セファデックスC−50カラムを用いる)、続いて、サイズ排除クロマトグラフィー(典型的に、セファデックスG50カラムを用いる)、を包含する二段階の精製スキームを用いて精製されうる。組換えタンパク質(E.コリにおける発現の後に単離されたもの)と、天然のウシ又はヒトのタンパク質との間の軽微な差異は、組換えタンパク質が、天然の組織タンパク質のように、N末端のアラニン残基上でアセチル化されていないことである。この実施例において、WT−BPTP、D129A−BPTP、及びC12A−BPTPが、pET−11発現系を用いて発現し、そして精製された。精製タンパク質、HPTP−A及びHPTP−Bのストックの補給品は既に手元にあった。
【0086】
E.コリからのWT−BPTPの発現及び精製は容易に行われ、そして良好な品質のタンパク質を生成させた(発現培地1L当たり40〜50mg)。組換え体、変異PTPアーゼの発現は、あまりタンパク質をもたらさなかった(発現培地1L当たり10〜15mg)。D129Aウシ変異体の場合、インキュベーション期間は6時間に増大され、そして洗浄緩衝液を1mMのEDTAに変えて変異体タンパク質とC50カラムとの結合を増大させた。一旦精製した後、タンパク質はリン酸緩衝液中−20℃で数ヶ月間安定であった。
【0087】
MCF−10A(Neo)とMDA−MB−231細胞系におけるLMW−PTPの比較。
タンパク質レベル。EphA2は非形質転換MCF−10A(Neo)細胞系においてチロシンリン酸化されるが、悪性MDA−MB−231細胞系においてはされない。
【0088】
MCF−10A(Neo)とMDA−MB−231細胞系におけるLMW−PTPの内因性タンパク質レベルは、最初にイムノブロッティング解析によって比較された。その結果は、MDA−MB−231細胞系におけるタンパク質レベルと比較して、MCF−10A(Neo)細胞系におけるLMW−PTPのタンパク質レベルが低いことを明らかにした。このことは、MDA−MB−231細胞系で観察される、LMW−PTPのより高いタンパク質レベルが、MCF−10A(Neo)細胞系と比較した細胞系において実質的により脱リン酸されているEphA2と相関しうることを示唆している。
【0089】
EphA2はMCF−10A(Neo)細胞系においてチロシンリン酸化されるが、当該細胞のより高レベルのチロシンリン酸化でさえも、EphA2がそのリガンドの可溶性形態で処理され、又は細胞表面で人工的に活性化される場合には達成されうる(Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue University)。このことを考慮して、LMW−PTPがMCF−10A(Neo)細胞においてEphA2を脱リン酸するが、MDA−MB−231細胞と同程度まではしないことも示唆されうる。EphA2のリン酸化と脱リン酸の間には競合があるようであり、そしてMDA−MB−231細胞において、そのバランスは脱リン酸の方へ傾くようである。しかしながら、MCF−10A(Neo)細胞においては、そのバランスは一方向又は他に実質的に傾かない。その結果、EphA2はMCF−10A(Neo)細胞系において幾つかのそのチロシンリン酸化を残す。
【0090】
細胞内局在。全てがLMW−PTPに対するポリクローナル及びモノクローナル抗体のパネルは、MCF−10A(Neo)細胞及びMDA−MB−231細胞を染色するために使用した。MCF−10A(Neo)細胞及びMDA−MB−231細胞におけるLMW−PTPの細胞内局在を決定するために、細胞をカバーグラス上で一晩増殖させた。固定及び透過処理後、細胞を一次抗体で染色してLMW−PTPを検出した。二次抗体に付着させた蛍光タグは、蛍光顕微鏡でのLMW−PTPの細胞内局在の観察を容易にした。LMW−PTPは、拡散してMCF−10A(Neo)細胞内に広く分布することが明らかとなった。MDA−MB−231細胞が染色された場合、LMW−PTPは、膜ラッフルに局在していることが明らかとなった。このことは興奮するような発見であり、何故ならば、EphA2は、同様に、MDA−MB−231細胞系において膜ラッフル内に局在することが知られていたからである(Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue University)。
【0091】
LMW−PTPとEphA2との間でのin vitroでのタンパク質間相互作用
免疫共沈降。2つのタンパク質を、いずれかのタンパク質に対する別々の抗体により免疫共沈降する試みがなされた。LMW−PTPの免疫共沈降は、D7のEphA2特異的抗体で免疫沈降し、続いて7.1又は10.0LMW−PTP抗体でイムノブロッティング解析をした場合、容易に検出可能であった。免疫共沈降は、10.1抗体でブロッティングした場合、より明らかであった。LMW−PTPの相対的なタンパク質レベル解析から予想されるように、LMW−PTPは、MCF−10A(Neo)細胞系からより、MDA−MB−231細胞系からより免疫共沈降した。7.1又は10.1項体のいずれかで免疫共沈降し、続いて、D7抗体でイムノブロッティングした場合、あまり劇的でない結果が得られた。D7 IPコントロールのものと大体共線性のバンドが、7.1及び10.1IPのレーンにおいて見られた。このことは、これらのバンドがEphA2を表しているであろうことを示唆している。
【0092】
タンパク質の免疫共沈降が我々の細胞系の両方で生じたことはやや驚くべくことであった。相互作用が検出されうることが予想されたが、これは、MCF−10A(Neo)細胞系においてより可能性があると予想され、何故ならば、EphA2がそこでチロシンリン酸化されるためである。しかしながら、ホスファターゼとその基質との相互作用はかなり一過性であるか、又はかなり弱いので、相互作用は容易には検出されえないとも考えられた。我々の件では、相互作用は両細胞系で検出された。
【0093】
In vitroでの脱リン酸
基質捕捉において、EphA2とLMW−PTPとの間での直接的な相互作用を検出する試みは失敗したので、代わりにin vitroでの試験が実施された。我々は、純粋なLMW−PTPが、免疫沈降によって単離されたEphA2を脱リン酸する能力を試験した。我々は、LMW−PTPがEphA2を酵素濃度依存的に且つ時間依存的に脱リン酸したことに気付いた。
【0094】
予想されるように、LMW−PTPによるEphA2の脱リン酸の範囲は、大量のホスファターゼが使用された場合に、少量使用された場合よりもより大きいことが明らかとなった。LMW−PTPによる、酵素濃度依存性のEphA2の脱リン酸は、高レベルのLMW−PTPがMDA−MB−231細胞のチロシンリン酸化を抑制するという仮定と一致している。より高いLMW−PTPレベルがこれらの細胞におけるEphA2の実質的な脱リン酸を引き起こすと考えられている。EphA2の酵素濃度依存性の脱リン酸は、基本的な速度論的挙動に従う。反応速度は、酵素濃度が増大するにつれて増大する。その結果、単位時間当たりより大きなターンオーバーが存在する。当該反応の進行がより長期間にわたり研究される場合、より高い酵素濃度が、より低い酵素濃度と比較して、EphA2を脱リン酸し続けることがわかる。観察される脱リン酸の安定化は、当該タンパク質が非常に薄い条件下で不安定であることに起因するようである。
【0095】
LMW−PTPとEphA2との間のin vivoでのタンパク質間相互作用
ベクターの構築。MCF−10A(Neo)細胞系においてLMW−PTPを過剰発現する効果を検討するために、LMW−PTPのコード領域を含むpcDNA3真核生物発現ベクターが構築された。マイクログラム単位の量のpET−11dプラスミドが、市販のDNA精製キットを用いて容易に単離された。プライマーは、LMW−PTPのA−及びB−イソ型のコード領域を増幅するよう設計され、そして使用された。
【0096】
PCR産物は、QIAGENから市販されているPCR産物精製キットを用いて精製された。LMW−PTPイソ酵素の増幅されたコード領域は、伸長を除去するためにBamHI及びHindIIIで消化された。生成した「粘着末端」は、哺乳類発現ベクターpcDNA3におけるインサートのディレクショナルクローニングを可能にし、これはまた、HindIII及びBamHIで消化された。イソ酵素の消化は、491bpのフラグメントを生成した。pcDNA3の消化は、環状ベクターよりも18少ない塩基対を有する、開いたベクターを生成させた。
【0097】
細胞の形質転換の後、構築されたベクターが細胞から単離され、そして制限酵素群を用いてスクリーニングされ、LMW−PTPのヒトA−及びB−イソ酵素のコード領域が、当該制限酵素によって生じた切断により示されるとおりに、それらの各ベクター内に存在していたか否かを決定した。
【0098】
MCF−10A(Neo)細胞におけるLMW−PTPの過剰発現
MCF−10A(Neo)細胞におけるLMW−PTPの過剰発現が、EphA2のチロシンリン酸化状態に対する、ホスファターゼのタンパク質の増大効果を検討するために試みられた。大量の前記構築ベクターが、市販のDNA精製キットを用いて、高度に純粋な形態で単離された。この手順を用いたベクターの単離は、大きな困難なしに行われた。市販のトランスフェクションキットFuGENEは、それぞれ、「空の」pcDNA3、HPTP−A/pcDNA3及びHPTP−B/pcDNA3でMCF−10A(Neo)細胞系をトランスフェクションするために使用された。当該「空の」ベクターは本実験におけるコントロールとしての役割を果たし、その結果、EphA2のチロシンリン酸化状態のあらゆる変化が、LMW−PTPレベルの増大に起因し、そして当該哺乳類発現ベクターには起因しないと考えられるはずである。
【0099】
MCF−10A(Neo)細胞系におけるHPTP−Bの過剰発現は、EphA2のチロシンリン酸化レベルの低下をもたらした。EphA2のチロシンリン酸化における知覚可能な差異は、HPTP−Aが同一の細胞系で過剰発現した場合には見られなかった。この情報から、EphA2とLMW−PTPの相互作用はイソ酵素特異的であると結論付けることができ、これは不合理な可能性ではない。前記イソ酵素のアミノ酸配列における差異は、なぜ一つのイソ酵素だけが優先的にEphA2と相互作用するように見えるかということの潜在的な理由となりうる。しかしながら、同様に前記差異を説明する多数の他の理由が存在する。
【0100】
考察
形質転換した乳房上皮、例えばMDA−MB−231において、EphA2はチロシンリン酸化されない。しかしながら、EphA2のチロシンリン酸化の回復は、これらの細胞が過酸化バナジン酸(pervanadate)イオンで処理される場合に生じる(Zantek, N. D. (1999), Ph. D. Thesis, Purdue University)。このことは、PTPアーゼがEphA2のチロシンリン酸化の減少を引き起こしていることを強力に示唆するものである。あた、エフリンA1リガンドの可溶性形態によるEphA2の処理及び細胞表面でのEphA2の架橋は、EphA2の一過性チロシンリン酸化を引き起こす。これらの処理により時間とともに生じるEphA2のチロシンリン酸化の減少は、EphA2とのPTPアーゼの相互作用に起因すると思われる。
【0101】
実施例II.低分子量タンパク質チロシンホスファターゼによるEphA2の制御
材料と方法
細胞系及び抗体。ヒト乳房(MCF−10A、MCF 10A ST、MCF−7、MDA−MB−231、MDA−MB−435、SK−BR−3)上皮細胞は、実施例Iに記載及び概説(Paine, T. M. , Soule, H. D., Pauley, R. J. & Dawson, P. J. (1992) Int J Cancer 50,463-473 ; Jacob, A. N., Kalapurakal, J. , Davidson, W. R. , Kandpal, G. , Dunson, N. , Prashar, Y. & Kandpal, R. P. (1999) Cancer Detection & Prevention 23,325-332 ; Shevrin, D. H. , Gorny, K. 1. & Kukreja, S. C. (1989) Prostate 15,187-194)のように培養した。ホスホチロシン(PY20)及びβ−カテニン特異的なモノクローナル抗体は、Transduction Laboratories(Lexington,KY)から購入した。ホスホチロシン(4G10)及びEphA2(クローンD7)特異的モノクローナル抗体は、Upstate Biotechnology,Inc.(Lake Placid,NY)から購入した。ビンキュリンに対するモノクローナル抗体は、NeoMarkers(Fremont,CA)から購入した。
【0102】
細胞可溶化物。細胞可溶化物を収集し、そして概説のように等しい添加のために標準かされた(Kinch, M. S. Clark, G. J, Der, C. J. & Burridge, K. (1995) J Cell Biol 130, 461-471)。等しい添加を確認するために、ブロットは概説のとおりストリッピングされ、そしてβ−カテニン又はビンキュリン特異的な抗体で再プローブされた(Kinch, M. S. Clark, G. J, Der, C. J. & Burridge, K. (1995) J Cell Biol 130, 461-471)。
【0103】
免疫沈降及びウェスタンブロット解析:EphA2又はLMW−PTPの免疫沈降は、ウサギ抗マウス(Chemicon,Temecula,CA)複合プロテインAセファロース(Sigma,St.Louis,MO)を用いて、既述のとおり実施された(Zantek, N. D. , Azimi, M. , Fedor-Chaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638)。等しい添加を確認するために、ブロットは概説のようにストリッピングされ(Kinch, M. S. Clark, G. J, Der, C. J. & Burridge, K. (1995) J Cell Biol 130, 461-471)、EphA2又はLMW−PTP特異的抗体で再プローブされた。ウェスタンブロット解析は、標準化された細胞可溶化物で実施され、そして免疫沈降は、Zantek, N. D. , Azimi, M. , Fedor-Chaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638において詳述されているように実施された。抗体の結合は、高感度ケミルミネッセンス(ECL;Pierce,Rockford,IL)によって検出し、そしてオートラジオグラフィー(Kodak X−OMAT;Kodak,Rochester,NY)によって可視化した。
【0104】
EGTA及び過酸化バナジン酸処理。「カルシウムスイッチ」実験を概説のとおり(Zantek, N. D. , Azimi, M. , FedorChaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638)、70%コンフルエントに増殖したMCF−10A細胞及び終濃度4mMのEGTAを含む培地を用いて実施した。過酸化バナジン酸は、0,1,10又は100mMの終濃度で、単層培地中のMDA−MB−231に添加され、そして当該処理は、37℃、5%CO2で10分間インキュベートしてもよい。組み合わせたEGTA−過酸化バナジン酸処理の場合、MDA−MB−231細胞は最初に100mM過酸化バナジン酸で処理され、続いてEGTA処理にかけられた。
【0105】
in vitroキナーゼ及びホスファターゼ処理。EphA2に対するLMW−PTP活性を評価するために、EphA2はMCF−10A細胞から免疫沈降され、そして0.45,7.8,又は26.5mg/mLの濃度の精製LMW−PTPタンパク質と一緒に、0.5,15,又は30分間インキュベートされた。本アッセイは、Laemmliサンプルバッファーの添加を介して終了した。当該処理におけるEphA2のホスホチロシン含量は、続いて、ホスホチロシン特異的抗体を用いるウェスタンブロットを用いて観察された。in vitroでの自己リン酸化活性を決定するために、免疫沈降したEphA2は、Zantek, N. D. , Azimi, M. , FedorChaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638において詳述されているようにin vitroキナーゼアッセイを用いて評価した。
【0106】
トランスフェクション及び選択。MCF−10A細胞の単層は、30〜50%コンフルエントにまで増殖され、そして、Lipofectamine PLUS(Life Technologies,Inc.,Grand Island,NY)を用いて、pcDNA3.1−LMW−PTP又はpcDNA3.1−D129A−LMW−PTPをトランスフェクションされた。当該トランスフェクション手順のコントロールとして、空のpcDNA3.1ベクターを同一の細胞系に平行してトランスフェクションした。一過性トランスフェクションは、トランスフェクション後48時間増殖させてもよい。安定な系の場合、ネオマイシン耐性細胞が、16mg/mLのネオマイシンを含む増殖培地(Medistech,Inc.,Herndon,VA)中で選択された。LMW−PTPの過剰発現を確認するために、ウェスタンブロット解析が、LMW−PTP特異的抗体を用いて実施された。親細胞及び空のpcDNA3.1ベクターをトランスフェクションした細胞は、ネガティブコントロールとして使用した。
【0107】
増殖アッセイ。単層アッセイを用いて細胞増殖を評価するために、1x105個の細胞を、組織培養処理した多数の穴のディッシュ内に1,2,4又は6日間、3回一組の実験において播種した。細胞数は、試料をトリプシン懸濁し、続いて、血球計数器を用いて顕微鏡により評価することによって評価した。ソフトアガーでのコロニー形成は、Zelinski, D. P. , Zantek, N. D. , Stewart, J. , Irizarry, A. & Kinch, M. S. (2001) Cancer Res 61,2301-2306) ; Clark, G. J. , Kinch, M. S. , Gilmer, T. M., Burridge, K. & Der, C. J. (1996) Oncogene 12,169-176において詳述されているように実施され、そして定量された。EphA2アンチセンスを用いる実験の場合、細胞は、ソフトアガー中での懸濁の前に、オリゴヌクレオチドと一緒にインキュベートした。示したデータは、少なくとも3つの異なる実験の代表的なものである。
【0108】
アンチセンス処理。MCF−10A Neo細胞及び安定してLMW−PTPを過剰発現しているMCF−10A細胞の単層は、30%コンフルエントにまで増殖され、そして詳述されているとおりに、EphA2アンチセンスオリゴヌクレオチドをトランスフェクションされた。逆位のEphA2オリゴヌクレオチド又はトランスフェクション試薬単独でトランスフェクションされた試料は、ネガティブコントロールを提供した。
【0109】
結果
EphA2は関連のチロシンホスファターゼによって制御される。
複数の独立した調査系は、EphA2が関連のチロシンホスファターゼによって制御されることを示唆した。最初に、EphA2は、非形質転換上皮細胞において迅速に脱リン酸されうる。ホスホチロシン抗体(PY20又は4G10)を用いたウェスタンブロット解析は、EphA2−リガンド結合のEGTA媒介型の破壊後5分以内に、より低レベルのEphA2ホスホチロシン含量を示した(図2A)。同様に、EphA2のチロシンリン酸化は、非形質転換上皮細胞の、EphA2−リガンド結合のドミナントネガティブインヒビター(例えばEphA2−Fc)とのインキュベーション後に低下した。同一の結果が、MCF−12A、MCF10−2、HEK293、MDCK及びMDBK細胞を含む、多数の非形質転換上皮細胞系を用いて得られた。これらの知見を基に、我々は、チロシンホスファターゼインヒビターが、EGTA処理に応じてのEphA2ホスホチロシン含量の減少を防ぎ得るかを問うた。事実、インヒビター、例えばオルトバナジン酸ナトリウムは、EGTAによるMCF−10A細胞の処理の後、EphA2ホスホチロシンの低下を防いだ(図2B)。
【0110】
我々の研究所によるこれまでの研究は、EphA2のホスホチロシン含量が、非形質転換上皮細胞と比較して、悪性上皮細胞において大きく低下することを示した(Zelinski, D. P. , Zantek, N. D., Stewart, J. , Irizarry, A. & Kinch, M. S. (2001) Cancer Res 61, 2301-2306; Zantek, N. D. , Azimi, M. , Fedor-Chaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638)。従って、我々は、チロシンホスファターゼ活性が、悪性細胞におけるEphA2のホスホチロシン含量の低下に寄与し得るか否かを問うた。EphA2は悪性乳ガン細胞(MDA−MB−231、MDA−MB−435、MCFneoST、又はPC−3細胞)においてチロシンリン酸化されなかったが、オルトバナジン酸ナトリウム濃度の増大を伴うインキュベーションは、EphA2のチロシンリン酸化を迅速且つ激しく低下させた(図2C)。細胞のバナジン酸塩処理がしばしば生理学的に無関係な部位の誇大なリン酸化を導き得るので、我々は、32P−ATPで標識されたEphA2を用いて、ホスホペプチドマッピング研究をin vitro又はin vivoのいずれかで実施した。これらの研究は、非形質転換MCF−10A細胞及びバナジン酸塩処理MDA−MB−231細胞におけるチロシンリン酸化の同一パターンを解明した。細胞質ドメインは、無差別にリン酸化されているかもしれない多数の部位を含むが、これらは本明細書で利用した条件下ではリン酸化されず、このことは、バナジン酸塩が無関係の部位のリン酸化を増大させなかったことを示唆している。要するに、これらの結果は、EphA2が、悪性細胞においてEphA2ホスホチロシン含量を抑制する関連のホスファターゼによって制御されることを示す。
【0111】
LMW−PTPはEphA2と相互作用し、そしてそれを脱リン酸する
悪性細胞においてEphA2を制御し得るチロシンホスファターゼを同定するために、我々は、LMW−PTPが関連分子EphB4を制御するという最近の報告(Jacob, A. N., Kalapurakal, J. , Davidson, W. R. , Kandpal, G. , Dunson, N. , Prashar, Y. & Kandpal, R. P. (1999) Cancer Detection & Prevention 23,325-332)を検討した。我々の最初の実験は、非形質転換(MCF−10A Neo)及び悪性(MCF−7,SK−BR−3,MDA−MB−435,MDA−MB−231)の哺乳類上皮細胞におけるLMW−PTPの発現及び機能の目録を作成することから開始した(図3)。全細胞可溶化物のウェスタンブロット解析は、非形質転換MCF−10A哺乳類上皮細胞と比較した場合の、腫瘍由来乳ガン細胞における比較的高レベルのLMW−PTPを解明した。等しい試料の添加を確認するために、膜をストリッピングし、そしてコントロールタンパク質(ビンキュリン)に対する抗体で再プローブして、高レベルのLMW−PTPが添加の間違い又は悪性細胞におけるタンパク質レベルの一般化された増大を反映しなかったことを証明した。MCF−10の悪性変異体MCFneoSTも、LMW−PTP発現の増大を示し、これは、EphA2がこれらの細胞においてチロシンリン酸化されないという最近の報告(Zantek, N. D., Walker-Daniels, J. , Stewart, J. C. , Hansen, R. K. , Robinson, D., Miao, H. , Wang, B. , Kung, H. J. , Bissell, M. J. & Kinch, M. S. (2001) Clin Cancer Res 7,3640-3648)に基づくと興味深いものであった。遺伝的に適合した系の使用も、細胞期限又は培養条件に起因する潜在的な差異を排除した。従って、最高レベルのLMW−PTPが悪性上皮細胞において一貫して見られ、そしてEphA2ホスホチロシン含量に反比例していた。
【0112】
上文の結果は、LMW−PTPが腫瘍細胞においてEphA2のホスホチロシン含量をネガティブに制御し得るという、示唆的な、しかし間接的な証拠を提示した。この仮説を更に検討するために、我々は最初に、前記2つの分子がin vivoで相互作用するか否かを問うた。EphA2は、特異的抗体(クローンD7)を用いてMDA−MB−231細胞から免疫沈降され、そしてこれらの複合体はSDS−PAGEによって分離された。次に、ウェスタンブロット解析により、LMW−PTPがEphA2免疫複合体内で顕著に見られたことを明らかにした(図4A)。反対の実験により、EphA2が免疫沈降したLMW−PTPの複合体において同様に検出されうることを確認した(図4B)。無関係の抗体によるコントロールの免疫沈降により、前記2つの分子の相互作用の特異性を確認した。
【0113】
免疫共沈降では、EphA2がLMW−PTPの基質としての役割を果たし得るか否かを明らかにできなかった。このことに直接取り組むために、EphA2は、通常チロシンリン酸化されているMCF−10A細胞から免疫沈降された。精製したEphA2は、続いて、異なる濃度の精製LMW−PTPと一緒にインキュベートされ、その後、ホスホチロシン特異的抗体(PY20及び4G10)によるEphA2のウェスタンブロット解析を行った。これらの実験は、精製したLMW−PTPが、用量及び時間依存的にEphA2を脱リン酸し得ることを示した(図5A)。
【0114】
in vitroでの研究は、EphA2がLMW−PTPによってin vitroでリン酸化されうることを示したが、我々は、in vitroでの研究がin vivoでの類似の状況を常に表すものではないと認識した。従って、LMW−PTPは、MCF−10A細胞において異所的に過剰発現した。この特定の細胞系は、非形質転換MCF−10A細胞が低レベルの内因性LMW−PTPを有し、且つこれらの非形質転換上皮細胞におけるEphA2が通常チロシンリン酸化されないために選択された。LMW−PTPの異所的な過剰発現は、特異的な抗体を用いたウェスタンブロット解析によって決定した場合(図6A)、安定なトランスフェクションによって達成された。重要なことに、LMW−PTPの過剰発現は、ベクターをトランスフェクションしたネガティブコントロールと比較して、EphA2のホスホチロシン含量を低下させるのに十分であった(図6A)。同一な結果が、異なる実験を使用し、異なるトランスフェクタントを用い、且つ安定及び一過性トランスフェクションした両試料において得られ、その結果、クローンのバリエーションについての潜在的な関心を排除した。更に、低下したホスホチロシン含量は、LMW−PTPを過剰発現している細胞のホスホチロシン含量が概して低下したように、EphA2特異的であった(図6B)。
【0115】
LMW−PTP過剰発現細胞は上皮細胞の悪性転換を引き起こす
チロシンリン酸化EphA2は、腫瘍細胞の増殖をネガティブに制御し、一方、リン酸化されてないEphA2は、強力な発ガンタンパク質として働く(Zelinski, D. P. , Zantek, N. D., Stewart, J. , Irizarry, A. & Kinch, M. S. (2001) Cancer Res 61, 2301-2306; Zantek, N. D. , Azimi, M. , Fedor-Chaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638)。従って、我々は、LMW−PTPの過剰発現が悪性転換を誘導するのに十分であるか否かを問うた。この疑問に取り組むために、我々は上述のMCF−10A細胞を利用し、これを野生型LMW−PTP又はベクターコントロールのいずれかでトランスフェクションした。我々の最初の研究は、単層培養におけるコントロール及びLMW−PTP過剰発現細胞の増殖速度を評価した。標準的な2次元培養条件を用いて評価した場合、LMW−PTPを過剰発現しているMCF−10A細胞の増殖速度は、対応するコントロールの増殖速度よりも有意に遅かった(P<0.05)(図7A)。
【0116】
増殖の2次元的な評価はしばしば、腫瘍細胞の悪性の特徴を反映しなかった。その代わりに、ソフトアガー及び再構成した基底膜を用いた細胞挙動の3次元的解析は、悪性の挙動を評価する、更に関連している方法を提供し得る。ベクターをトランスフェクションしたMCF−10A細胞は、大部分ソフトアガーにコロニー形成することができないが、LMW−PTPを過剰発現している細胞は、強拡大の顕微鏡1視野当たり平均4.9コロニーを形成した(P<0.01;図7B)。他の3次元アッセイ系を用いた最近の知見に基づき、我々はまた、3次元の再構成した基底膜を用いて、細胞の挙動を評価した。更に攻撃的な表現型と一致して、マトリゲルにおける細胞挙動の顕微鏡による評価は、LMW−PTP過剰発現細胞の悪性の特徴を確認した。マトリゲルの上に又はその中に、LMW−PTP過剰発現細胞は、ベクターをトランスフェクションした細胞よりも大きなコロニーを形成した。つまり、多数の且つ異なる系と一致した結果が、LMW−PTPの過剰発現が悪性転換を誘導するのに十分であることを示唆する。
【0117】
LMW−PTP過剰発現細胞の発ガン性の表現型はEphA2発現に関連している
EphA2のチロシンリン酸化は、その内部移行及び分解を誘導する。従って、我々は、LMW−PTPの過剰発現が、EphA2のタンパク質レベルを増大させうると仮定した。事実、全細胞可溶化物のウェスタンブロット解析は、ベクターをトランスフェクションしたコントロールと比較した場合の、LMW−PTPを過剰発現するMCF−10A細胞におけるより高レベルのEphA2を明らかにした(図6A)。更に、このEphA2は、チロシンリン酸化されなかった(図6B)。しかしながら、ウェスタンブロット解析は、ホスホチロシンの通常のレベルがLMW−PTP形質転換細胞において変化しなかったので、低下したホスホチロシン含量がEphA2にとって選択的であったことを明らかにした(図6C)。
【0118】
LMW−PTPの過剰発現がEphA2発現を増大させ、そしてそのホスホチロシン含量を低下させたという発見が興味深いのは、この表現型が、高度に攻撃的な腫瘍細胞の暗示であったためである(Zelinski, D. P. , Zantek, N. D., Stewart, J. , Irizarry, A. & Kinch, M. S. (2001) Cancer Res 61, 2301-2306; Zantek, N. D. , Azimi, M. , Fedor-Chaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638)。従って、我々は、悪性細胞におけるLMW−PTPの選択的なターゲティングがEphA2に影響を与えるか否かを問うた。これを達成するために、触媒として不活性なLMW−PTPの酵素的な変異体(D129A)(Zhang, Z. , Harms, E. & Van Etten, R. L. (1994) Journal of Biological Chemistry 269,25947-25950)は、高レベルの野生型LMW−PTPを有し(図3)、且つリン酸化されてないEphA2を過剰発現するMDA−MB−231細胞において過剰発現した。LMW−PTPD129Aの異所的な過剰発現は、EphA2のレベルを低下させることが明らかとなった。更に、免疫沈降した材料のウェスタンブロット解析は、このEphA2がチロシンリン酸化されたことを明らかにした(図6C)。従って、一致した結果が、野生型LMW−PTPの過剰発現が、腫瘍由来細胞において観察されているEphA2の過剰発現及び機能的変化を付与するのに必要且つ十分であることを示している。
【0119】
LMW−PTPを過剰発現しているMCF−10A細胞におけるEphA2はチロシンリン酸化されなかったが、それは酵素活性を保持していた。in vitroでのキナーゼアッセイは、LMW−PTP形質転換MCF−10A細胞由来のEphA2が、ベクターをトランスフェクションしたコントロールに匹敵したレベルの酵素活性を有していたことを証明した(図8A)。等しい試料添加を確認するために、2つのコントロールが実施された。等量のインプットの可溶化物は、β−カゼイン抗体を用いたウェスタンブロット解析によって確認した。更に、免疫沈降したEphA2を分割し、そしてその材料の半分をSDS−PAGEによって分離し、そしてEphA2及びホスホチロシン特異的抗体を用いたウェスタンブロット解析によって解析した(図8B)。従って、リン酸化EphA2及び非リン酸化EphA2はいずれも酵素活性があった。
【0120】
EphA2のレベルがLMW−PTP形質転換細胞において上昇したので、我々は、EphA2の発ガン活性が、この表現型に寄与し得るか否かを問うた。このことに取り組むために、我々はアンチセンスストラテジーによる我々の経験を利用し、LMW−PTP形質転換細胞におけるEphA2発現を選択的に低下させた(Hess A. R., Seftor, E. A. , Gardner, L. M. , Carles-Kinch, K., Schneider, G. B. , Seftor, R. E. , Kinch, M. S. & Hendrix, M. J. C. (2001) Cancer Res 61,3250-3255.)。我々は、ウェスタンブロット解析により、これらのストラテジーの成功を検証し(図9A)、そして次に、EphA2発現の低下がソフトアガーのコロニー形成を変化させるか否かを問うた。事実、EphA2アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたトランスフェクションは、LMW−PTP形質転換MCF−10A細胞のソフトアガーコロニー形成を少なくとも87%に低下させた(P<0.01;図9B)。対照的に、逆位のアンチセンスコントロールヌクレオチドコントロールによるこれらの細胞のトランスフェクションは、ソフトアガーでのコロニー形成を有意に変化させなかった。従って、我々は、アンチセンスオリゴヌクレオチドによる結果が、トランスフェクション手順によって生じた非特異的な毒性からもたらされたということを排除することができた。つまり、我々の結果は、EphA2を発現する細胞において、過剰発現したLMW−PTPの発ガン性の作用が高レベルのEphA2を必要とすることを示す。
【0121】
考察
我々による本研究の主要な発見は、EphA2が関連のチロシンホスファターゼによって制御されるということであり、そして我々は、LMW−PTPをEphA2のチロシンリン酸化の必須の制御因子として同定している。我々はまた、LMW−PTPが転移性ガン細胞において過剰発現し、そしてLMW−PTPの過剰発現が非形質転換上皮細胞モデルに対し悪性転換を付与するのに十分であることも証明する。最後に、我々は、LMW−PTPがEphA2の発現をアップレギュレートし、そしてLMW−PTPの発ガン活性がEphA2のこの過剰発現を必要とすることを証明する。
【0122】
我々の研究所及び他者からの最近の報告は、多数の悪性上皮細胞が、チロシンリン酸化されていない高レベルのEphA2を発現することを示した。これまで、我々は、これらの抑制されたレベルのEphA2チロシンリン酸化を、低下したリガンド結合と関連付けていた。悪性細胞はしばしば不安定な細胞間接触を有しており、そして我々は、このことが、EphA2が、隣接細胞の膜に結合したそのリガンドと安定的に相互作用する能力を低下させると仮定していた。部分的に、我々の本データは、EphA2のホスホチロシン含量も、悪性細胞において過剰発現している関連のチロシンホスファターゼによってネガティブに制御されるという新しいパラダイムを示唆する。EphA2のリン酸化と細胞間接着との関係を考慮すると、我々は、細胞間接触もLMW−PTPの発現及び機能を制御し得るということを排除できず、これは、将来の研究により、この可能性について対処されるべきである。
【0123】
高レベルのLMW−PTPが、悪性ガンの複数の異なる細胞モデルにおいて観察されたという事実は、LMW−PTPの過剰発現が悪性転換を付与するのに十分であることを考慮するならば注目すべきである。LMW−PTPを過剰発現している細胞は、ソフトアガーにコロニー形成する能力を手に入れ、そして、3次元の基底膜。例えばマトリゲルにおいて培養した場合、悪性の表現型を獲得する。しかしながら、特にLMW−PTPを過剰発現しているMCF−10A上皮細胞は細胞増殖の2次元アッセイを用いて測定した場合に細胞増殖速度の低下を示した。この後者の観察は、高レベルのLMW−PTPが他の細胞型の単層での増殖速度を同様に低下させるという最近の報告と一致している(Shimizu, H. , Shiota, M. , Yamada, N., Miyazaki, K. , Ishida, N., Kim, S. & Miyazaki, H. (2001) Biochemical & Biophysical Research Communications 289, 602-607; Fiaschi, T. , Chiarugi, P., Buricchi, F., Giannoni, E. , Taddei, M. L. , Talini, D. , Cozzi, G. , ZecchiOrlandini, S. , Raugei, G. & Ramponi, G. (2001) Journal of Biological Chemistry 276,49156-49163)。そのような発見は、LMW−PTPが悪性転換をネガティブに制御し得るということを示唆すると解釈されたが、我々の発見は、非常に異なる結論を支持している。これと一致して、我々の研究所及び他者による最近の研究は、MCF−10A細胞の悪性転換がしばしば単層での増殖速度の低下を伴い、そしてMCF−10Aの最も攻撃的な変異体が、in vivoで、単層培養において最も遅い増殖を示すことを証明している。これらの発見は、非形質転換上皮細胞系を用いた場合の発ガン遺伝子の機能の設計及び解釈に影響を与える。
【0124】
EphA2チロシンリン酸化の生化学的な結論は、大部分が不明確なままである。自己リン酸が酵素活性に必要な他の受容体チロシンキナーゼと異なり、EphA2のチロシンリン酸化は、その酵素活性に必要ではない。我々による本結果と一致して、EphA2は、そのホスホチロシン含量における劇的な差異にも関わらず、非形質転換細胞及び腫瘍由来細胞において、匹敵するレベルの酵素活性を保持している(Zantek, N. D. , Azimi, M. , Fedor-Chaiken, M. , Wang, B. , Brackenbury, R. & Kinch, M. S. (1999) Cell Growth & Differentiation 10,629-638)。同様に、EphA2の自己リン酸の抗体を媒介する刺激は、EphA2の酵素活性レベルを変化させない。EphA2細胞質ドメインのホスホペプチド解析は、1つの可能性のある説明を提供する。EphA2は、残基772に推定上の活性化ループチロシンを有するが(Lindberg, R. A. & Hunter, T. (1990) Molecular & Cellular Biology 10,6316-6324)、in vitro又はin vivoのいずれのホスホペプチド解析も、この部位が正常な細胞モデルにおいてリン酸化されず、又は悪性細胞モデルにおいて外因性リガンドに応答しないことを明らかにした。従って、共通の活性化ループチロシンの欠如は、チロシンリン酸化されない、細胞におけるEphA2の酵素活性の保持を説明することができる。
【0125】
EphA2のチロシンリン酸化はその固有の酵素活性に必要であるようには見えないが、リガンド媒介型のチロシンリン酸化は、EphA2タンパク質の安定性を制御する。具体的には、チロシンリン酸化は、c−Cblアダプタータンパク質と相互作用し、そして次に内部移行してプロテオソーム内で分解されるようEphA2を運命付ける(J. Walker-Daniels et al. , Mol. Cancer Res. 2002 Nov; 1 (1) : 79-87)。結果的に、LMW−PTPのホスファターゼ活性は、EphA2タンパク質の安定性を増大させることが予想される。事実、最高レベルのEphA2が、高レベルのLMW−PTPを有する細胞において一貫して見られる。この発見の1つの興味深い暗示は、それがEphA2の遺伝的制御から独立した機構を提供し、なぜ高レベルのEphA2が多数の異なる腫瘍において見られるかを説明する。別の可能性は、LMW−PTPがEphA2の遺伝子発現をアップレギュレートし、そして、我々による本発見はこの可能性を形式的には排除しない。EphA2インヒビターがLMW−PTPを過剰発現する細胞の悪性の特徴を逆転させたという事実は、EphA2のアップレギュレーションがLMW−PTPを媒介する形質転換の細胞性挙動に関連することを示唆している。
【0126】
要約すると、我々による本研究は、この実施例及びKikawa et al. , J. Biol. Chem. 277 (42): 39274-39279 (2002)に記載のように、腫瘍由来ガン腫細胞において過剰発現する新規発ガン遺伝子としてLMW−PTPを同定する。我々はまた、EphA2と同様に、過剰発現したLMW−PTPの生化学的作用と生物学的作用を関連付ける。これらの発見は、上皮細胞の転移の進行に寄与する生化学的機構及び生物学的機構の理解に影響を与える。更に、我々による本研究は、EphA2又はLMW−PTPを過剰発現する多数のガン細胞を標的とする機会を最終的に提供する重要なシグナル伝達系を同定する。
【0127】
実施例III.LMW−PTPの過剰発現の効果
細胞系及び試薬は、実施例IIに記載のものを使用した(Kikawa et al. , J. Biol. Chem. 277 (42): 39274-39279 (2002))。細胞の可溶化物の生成方並びに免疫沈降及びウェスタンブロット(イムノブロット)解析、EGTA及び過酸化バナジン酸処理、トランスフェクション及び選択、並びに増殖アッセイ、を実施する方法も、実施例IIに記載の通りである(Kikawa et al. , J. Biol. Chem. 277 (42): 39274-39279 (2002))。
【0128】
非形質転換細胞におけるLMW−PTP過剰発現の形態学的効果
野生型ヒトLMW−PTP、又は対応するベクターコントロールで安定的にトランスフェクションされたMCF−10A細胞の単層培養物を、顕微鏡にかけた(600x)(図10)。非形質転換(ベクター)細胞は、特徴的な上皮の形態を保持したが、LMW−PTPをトランスフェクションした細胞は、悪性上皮細胞の特徴である間充織の表現型の形をとった。従って、LMW−PTPの過剰発現は、細胞の2次元的な形態を変化することが観察された。
【0129】
LMW−PTPをトランスフェクションしたMCF−10A細胞は、更に、高細胞密度で培養した場合、悪性転換の特徴である3次元的な病巣を形成することが観察された(図11)。
【0130】
形質転換細胞におけるLMW−PTP不活性化効果
腫瘍細胞においてLMW−PTPを阻害するという生物学的な結果を評価するために、高度に浸潤性のMDA−MB−231細胞がLMW−PTP変異体(D129A)で安定的にトランスフェクションされた。D129Aは基質捕捉変異体として機能し、それにより腫瘍細胞において内因性LMW−PTPの活性と離れて競合する。それは、形質転換細胞においてLMW−PTPを効果的に不活性化する。
【0131】
D129Aをトランスフェクションした細胞は、対応する(ベクター)コントロールと比較して、ソフトアガーにおけるコロニー形成の低下を示した(図12)。従って、形質転換細胞におけるLMW−PTPの不活性化は、ソフトアガーでのコロニー形成の減少をもたらす。このことは、LMW−PTPが、悪性細胞の特徴である足場依存性の細胞増殖及び/又は生存に必要であることを示す。
【0132】
また、LMW−PTPの不活性化が、形質転換細胞における2次元の形態及びEphA2分布を変化させることが明らかとなった。ドミナントネガティブなLMW−PTP(D129A)又は対応するベクターコントロールを発現するMDA−MB−231細胞の形態は、標識したEphA2の免疫蛍光形態学によって評価した(図13)。コントロール培養物MDA−MB−231は、通常、EphA2が膜ラッフルに拡散して分布し又はそこに豊富に存在している、間充織の形態をとる。対照的に、D129Aをトランスフェクションした細胞は、細胞間接触部位内にEphA2が豊富に存在する、特徴的な上皮の形態を示す。
【0133】
D129A LMW−PTP MDA−MB−231細胞は、EphA2のリン酸化状態に対するその効果を決定するために、EGTAで処理された。5x106個のコントロール及びD129AをトランスフェクションしたMDA−MB−231細胞からの洗剤抽出は、実施例I及びIIに記載のように収集した。D7抗体でEphA2を免疫沈降した後、試料はSDS−PAGEで分離され、そしてホスホチロシン特異的(4G10)抗体を用いたウェスタンブロット解析にかけられた。D129Aをトランスフェクションした細胞におけるEphA2は、EGTAによる処理後であっても、より高度にチロシンリン酸化されることが明らかとなった(図14)。EGTAは、細胞間接触を不安定化し、それにより、リガンド結合の損失の後であっても、EphA2が脱リン酸されるのを防ぐ。
【0134】
図15は、LMW−PTPをトランスフェクションしたMCF−10A細胞及びD129AをトランスフェクションしたMDA−MB−231(形質転換した)細胞を用いた免疫蛍光顕微鏡研究に由来する証拠を要約する表である。LMW−PTPをトランスフェクションしたMCF−10A細胞の変化した形態及びマーカーは、悪性転換と一致している。更に、D129Aを過剰発現する細胞の形態は、あまり攻撃的でない(より分化した)表現型と一致する。
【0135】
形質転換細胞及び非形質転換細胞におけるEphA2及びLMW−PTPの共存
コントロール及びLMWをトランスフェクションしたMCF−10A細胞におけるEphA2(D7抗体を用いる)及びLMW−PTP(ウサギポリクローナル血清を用いる)の細胞内局在は、ホルマリン固定し(3.7%、2分)、洗剤で透過処理した(0.5%Triton−X−100を含むPBS)、カバーガラス上で培養した単層において評価した。イメージ(図16A)はニコン社製顕微鏡(600x)を用いて視覚化し、そしてイメージはニコン社製デジタルカメラ及びソフトウェアを用いて捕らえた。
【0136】
野生型LMW−PTPの過剰発現は、ストレスファイバーの形成を引き起こすことが明らかとなった(コントロールの細胞において優勢な接着帯と対照的)。反対の状況において、LMW−PTPのドミナントネガティブなインヒビター(D129A)は、MDA−MB−231におけるストレスファイバーの数を減少させる。これらの観察は、野生型LMW−PTPが悪性(遊走性及び浸潤性)の表現型を促進し、一方、LMW−PTPの阻害は攻撃的な表現型を逆転させるのに十分であるという仮説と一致している。
【0137】
局所接着に対するLMW−PTP過剰発現の効果
局所接着の機構は、パキシリン特異的抗体を用いて決定した場合、更に免疫蛍光顕微鏡によりMDA−MB−231細胞において評価された。パキシリンの細胞内局在は、ホルマリン固定し(3.7%、2分)、洗剤で透過処理した(0.5%Triton−X−100を含むPBS)カバーガラス上で培養した単層において評価した。イメージ(図18)はニコン社製顕微鏡(600x)を用いて視覚化し、そしてイメージはニコン社製デジタルカメラ及びソフトウェアを用いて捕らえた。
【0138】
野生型LMW−PTPの過剰発現は、特に細胞遊走及び浸潤の最前線での、局所接着の突出を増大させ、このことは、より攻撃的な表現型と一致している。反対の状況において、LMW−PTPのドミナントネガティブなインヒビター(D129A)は、MDA−MB−231における局所接着の突出を低下させ、局所接着の(局在化というよりむしろ)散在性の分布をもたらし、このことは細胞遊走又は浸潤と一致している。
【0139】
悪性の特徴の病理学的マーカー
サイトケラチン(図19)及びビメンチン(図20)の発現は、免疫蛍光顕微鏡を用いて評価した。サイトケラチン及びビメンチンの染色は、ホルマリン固定し(3.7%、2分)、洗剤で透過処理した(0.5%Triton−X−100を含むPBS)、カバーガラス上で培養した単層において評価した。イメージ(図18)はニコン社製顕微鏡(600x)を用いて視覚化し、そしてイメージはニコン社製デジタルカメラ及びソフトウェアを用いて捕らえた。
【0140】
野生型LMW−PTPの過剰発現は、サイトケラチンの発現を減少させるが、ビメンチンの発現を増大させることが明らかとなった。これらの結果は、中間径フィラメントタンパク質の発現におけるこれらの変化が、ガンの診断及び分類の病理学者によってしばしば使用されることを考慮すると、注目すべきことである。
【0141】
実施例IV.非形質転換上皮細胞の腫瘍形成能に対するLMW−PTP過剰発現の効果
細胞(MCF−10A、MCF−10A Neo(コントロール)及び安定的に野生型LMW−PTPを過剰発現する、トランスフェクションしたMCF−10A細胞)を、皮下注射を介してマウスに導入した。2つの投与量レベルを使用した:約200万個及び500万個の細胞。3匹のマウスを各グループに含めた。マウスは注射してから20日目に観察され、そして腫瘍(存在する場合)のサイズを測定した。
【0142】
図21は、注射後20日目に観察した、5x106個の細胞を注射したマウスについての腫瘍測定データを示す。親MCF−10A細胞又はコントロールベクターを注射したマウスのいずれも、注射部位での腫瘍形成を示さなかった。しかしながら、安定的に野生型LMW−PTPを過剰発現するMCF−10A細胞を注射したマウスは、500万個の細胞を注射したマウスのうち3匹全てが、そして100万個の細胞を注射した3匹のマウスのうち2匹が、有意な増殖を示した。これらの結果は、LMW−PTPの過剰発現が、非形質転換上皮細胞に腫瘍形成能を付与するのに十分であることを示唆している。EphA2は、我々が、非形質転換上皮細胞に対して腫瘍形成能を付与することができることに気付いた唯一の他の発ガン遺伝子である。
【0143】
本明細書で引用した、全ての特許、特許出願、及び刊行物、及び電子的に入手可能な材料(例えば、ヌクレオチド配列の、例えばGenBank及びRefSeqへの提出、並びにアミノ酸配列の、例えばSwissProt、PIR、PRF、PDBへの提出、並びにGenBank及びRefSeqにおける注釈付きのコード領域からの翻訳、を含む)は、引用によって組み入れられる。前述の詳細な説明及び例は、理解を明確にするためだけに示したものである。不必要な限定がそれらから理解されるべきではない。本発明は、特許請求の範囲内に含まれるであろう当業者にとって自明な変動について示し、そして説明した正確な詳細に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】図1は、5.4kbの哺乳類発現ベクターである真核生物発現ベクターpcDNA3の模式的なマップを示す。独特の制限部位を示す。HPTP遺伝子はこのベクターのHind III/BamH I部位内にクローニングした。
【図2】図2は、EphA2が関連のホスファターゼによって制御されることを示す。(A)MCF−10Aヒト哺乳類上皮細胞の単層を、4mMのEGTAの存在下又は不在下(「C」としてコントロールを表す)、洗浄剤抽出の前に20分間インキュベートした。試料をSDS−PAGEで分離し、そしてホスホチロシン特異的抗体(PY20及び4G10;上段)でプローブした。膜をストリッピングし、そしてEphA2特異的抗体で再プローブして等しいサンプル添加を確認した(下段)。(B)MCF−10A細胞は、EGTAを用いて、NaVO4の存在下又は不在下で、上文で詳述したように処理してホスファターゼ活性を阻害した。(B)EphA2は、指定の濃度のNaVO4の存在下で37℃で10分間インキュベートしたMDA−MB−231細胞から免疫沈降された。
【図3】図3は、LMW−PTPタンパク質レベルが悪性細胞系において上昇することを示す。洗浄剤可溶化物(2〜7レーン)を非形質転換型(MCF−10Aneo)、発ガン遺伝子形質転換型(MCF−10AneoST)、及び腫瘍由来型(MCF−7,SK−BR−3,MDA−MB−435,MDA−MB−231)の哺乳類上皮細胞から収集した。この試料をSDS−PAGEによって分離し、そしてLMW−PTP特異的抗体を用いたウェスタンブロットにかけた(上段)。精製したLMW−PTP(レーン1)は、ウェスタンブロット解析のためのポジティブコントロールを提供した。続いて膜をストリッピングし、そしてビンキュリン特異的抗体で再プローブして試料の添加を評価した(下段)。注目すべきは、LMW−PTPが、非形質転換(MCF−10Aneo)試料の相対的に過剰な添加にも関わらず、腫瘍由来細胞において過剰発現しているということである。
【図4】図4は、EphA2及びLMW−PTPがin vivoで分子複合体を形成することを示す。(A)EphA2の複合体は、5x106のMCF−10A又はMDA−MB−231細胞から免疫沈降し、SDS−PAGEによって分離し、そしてLMW−PTP特異的抗体を用いてウェスタンブロット解析にかけた。(B)複合体の形成を確認するために、LMW−PTPの複合体を同様に免疫沈降によって単離し、そしてEphA2特異的抗体でプローブした。
【図5】図5は、EphA2は、in vitroでLMW−PTPの基質としての役割を果たし得ることを示す。EphA2は、指定量のLMW−PTPタンパク質との37℃での0〜30分間のインキュベーション前に、5x106のMCF−10A細胞から免疫沈降した。続いて、この試料をSDS−PAGEによって分離し、そしてホスホチロシン特異的抗体によるウェスタンブロット解析にかけた。膜をストリッピングし、そしてEphA2特異的抗体で再プローブして等量のサンプル添加を確認した。
【図6】図6は、LMW−PTPがEphA2をin vivoで脱リン酸することを示す。(A)MCF−10A細胞は、野生型LMW−PTPをコードする発現ベクターで安定的にトランスフェクションした。洗浄剤可溶化物をSDS−PAGEによって分離し、そして、LMW−PTPの過剰発現を確認するために、LMW−PTP抗体と、ポジティブコントロールを提供する精製LMW−PTPとを用いたウェスタンブロットにかけた。続いて、対応する試料を、添加用コントロールとしてのβ−カゼイン特異的抗体でプローブした。(B)EphA2を免疫沈降し、そしてEphA2(上段)及びP−Tyr(下段)特異的抗体を用いてウェスタンブロットを実施した。(C)コントロール及びLMW−PTPをトランスフェクションした細胞におけるホスホチロシンの全体レベルは、特異的な抗体を用いて比較した。注目すべきは、内因性のEphA2発現の差異を克服するために、等量のEphA2がこれらの結果のために利用されたことである(項目Bと対照的)。(D)LMW−PTPのドミナントネガティブ型(D129A)又は対応するベクターのコントロールをトランスフェクションしたMDA−MB−231細胞におけるEphA2のタンパク質レベル(上段)及びホスホチロシン含量は、ウェスタンブロット解析によって評価した。LMW−PTP活性がEpは2ホスホチロシン含量の低下及びEphA2タンパク質レベルの増大に関連するという一貫した発見に注目すべきである。
【図7】図7は、LMW−PTPが悪性の特徴を増強することを示す。(A)足場依存性の細胞増殖を評価するために、1x105個のコントロール又はLMW−PTPをトランスフェクションしたMCF−10A細胞を単層培地内に播種し、そして細胞数を顕微鏡により示した間隔で評価した。(B)平行の研究において、コントロール及びLMW−PTPをトランスフェクションした細胞をソフトアガー中で懸濁した。37℃での5日間のインキュベーション後のコロニー形成(強拡大1視野当たりのもの)を示す。これらの結果は、少なくとも別々の実験の代表例を示した。*はp<0.01を示す。
【図8】図8は、EphA2がLMW−PTP形質転換細胞において酵素活性を保持することを示す。等量のEphA2をコントロール又はLMW−PTP形質転MCF−10A細胞から免疫沈降し、そしてin vitroでのキナーゼアッセイにかけた。(A)γ−32P標識ATPによる自己リン酸化は、オートラジオグラフィーによって評価した。等量の試料添加を確認するために、免疫沈降した材料の一部を(B)EphA2又は(C)ホスホチロシン抗体を用いるウェスタンブロット解析によって評価した。EphA2はLMW−PTP形質転換細胞においてチロシンリン酸化されないが、それは酵素活性を保持している。内因性のEphA2発現の差異を克服するために、等量のEphA2がこれらの結果に利用されたことに注目すべきである(例えば、図5Bを参照のこと)。
【図9】図9は、LMW−PTPによる悪性転換がEphA2の過剰発現に関連することを示す。MCF−10A細胞を、EphA2アンチセンス(AS)オリゴヌクレオチド、逆方向のアンチセンス(IAS)オリゴヌクレオチド又はネガティブコントロールを提供するためのトランスフェクション試薬単独、を用いて処理した。(A)EphA2特異的抗体を用いるウェスタンブロット解析は、当該アンチセンス処理がEphA2のタンパク質レベルを低下させたことを確認した(上段)。続いて膜をストリッピングし、そしてβ−カテニンについて再プローブして等しい試料添加を確認した(下段)。(B)平行の試料を懸濁し、そしてソフトアガー中で5日間インキュベートした。強拡大の顕微鏡1視野当たり(HPF)の平均コロニー数を示す。*はp<0.01を示す。
【図10】図10は、LMW−PTPの過剰発現がトランスフェクションしたMCF−10A細胞の2次元的な形態を変化させることを示す。
【図11】図11は、LMW−PTPを過剰発現する、トランスフェクションされたMCF−10A細胞が高い細胞密度で病巣を形成することを示す。
【図12】図12は、形質転換細胞におけるLMW−PTPの不活性化が、ソフトアガーでのコロニー形成の低下をもたらすことを示す。
【図13】図13は、形質転換細胞におけるLMW−PTPの不活性化が、2次元的な形態及びEphA2の分布を変化させることを示す。
【図14】図14は、LMW−PTPを不活性化させるためにD129Aをトランスフェクションした形質転換細胞のEGTA処理の結果を示す。
【図15】図15は、免疫蛍光の発見の要約を示す。
【図16A】図16Aは、コントロール及びトランスフェクションされたMCF−10A細胞におけるEphA2とLMW−PTPの共存を示す。
【図16B】図16Bは、LMW−PTPを不活性化させるためにD129Aをトランスフェクションした形質転換細胞におけるEphA2とLMW−PTPの共存を示す。
【図17】図17は、アクチン骨格の変化した構成がLMW−PTPの発現及び機能に関連することを示す。
【図18】図18は、変化した局所接着の形成が、LMW−PTPの発現及び機能に関連することを示す。
【図19】図19は、LMW−PTPによって変化したサイトケラチンの発現を示す。
【図20】図20は、LMW−PTP発現によって変化したビメンチンの発現を示す。
【図21】図21は、5x106個のEphA2過剰発現MCF−10A細胞及びコントロールを注射したマウスにおける、注射後20日目の腫瘍の発生に関連するデータを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子量タンパク質チロシンキナーゼ(LMW−PTP)を発現するガン細胞を含んで成る哺乳類のガンの処置方法であって、当該哺乳類に、LMW−PTPの活性を阻害するのに有効な処置物質を投与することを含んで成る方法。
【請求項2】
低分子量タンパク質チロシンキナーゼ(LMW−PTP)及びEphA2受容体分子を発現するガン細胞を含んで成る哺乳類のガンの処置方法であって、当該哺乳類に、LMW−PTPの活性を阻害するのに有効な第一の処置物質及びEphA2受容体分子の生体活性を望ましく変化させるのに有効な第二の処置物質を投与することを含んで成る方法。
【請求項3】
第一及び第二の処置物質が同時に送達される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第一の処置物質が第二の処置物質の前に送達される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
第二の処置物質が第一の処置物質の前に送達される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
EphA2受容体分子の生体活性を望ましく変化させることが、EphA2受容体分子のホスホチロシン含量を増大させることを含んで成る、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの処置物質が細胞毒性物質と共有結合している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
ガン細胞が転移性ガン腫細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
哺乳類のガンの診断方法であって:
当該哺乳類から得られる生体材料中の細胞を可溶化して細胞可溶化物を生成せしめ;
当該細胞可溶化物を、LMW−PTPと結合する診断物質と接触させて結合複合体を形成せしめ;
当該結合複合体を検出し;そして
LMW−PTPが、前記生体材料において、非ガン性生体材料と比較して過剰発現しているか否かを決定すること、を含んで成り、
LMW−PTPの過剰発現が当該哺乳類におけるガン細胞の存在の指標である、方法。
【請求項10】
哺乳類のガンの診断方法であって:
LMW−PTP活性について、当該哺乳類の生体材料をアッセイし;そして
LMW−PTPが、前記生体材料において、非ガン性生体材料と比較して過剰発現しているか否かを決定すること、を含んで成り、
LMW−PTPの過剰発現が当該哺乳類におけるガン細胞の存在の指標である、方法。
【請求項11】
前記生体材料が前記哺乳類中のものである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記生体材料が、前記哺乳類の組織、器官又は体液を含んで成る、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項13】
前記生体材料が前記哺乳類から得られる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳類から前記生体材料を得ることを更に含んで成る、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
EphA2受容体分子を標的とする候補のガン治療物質の有効性を評価する方法であって:
EphA2受容体分子及びLMW−PTPを発現しているガン細胞を、候補の治療物質と接触させ、処置された細胞を生成せしめ;
当該処置されたガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性を決定し;
当該処置されたガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性を、類似の未処置のガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性と比較すること、
を含んで成り、
当該処置された細胞におけるLMW−PTPの量又は活性の低下が、前記候補の治療物質のEphA2ターゲティングの有効性の指標である、方法。
【請求項1】
低分子量タンパク質チロシンキナーゼ(LMW−PTP)を発現するガン細胞を含んで成る哺乳類のガンの処置方法であって、当該哺乳類に、LMW−PTPの活性を阻害するのに有効な処置物質を投与することを含んで成る方法。
【請求項2】
低分子量タンパク質チロシンキナーゼ(LMW−PTP)及びEphA2受容体分子を発現するガン細胞を含んで成る哺乳類のガンの処置方法であって、当該哺乳類に、LMW−PTPの活性を阻害するのに有効な第一の処置物質及びEphA2受容体分子の生体活性を望ましく変化させるのに有効な第二の処置物質を投与することを含んで成る方法。
【請求項3】
第一及び第二の処置物質が同時に送達される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第一の処置物質が第二の処置物質の前に送達される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
第二の処置物質が第一の処置物質の前に送達される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
EphA2受容体分子の生体活性を望ましく変化させることが、EphA2受容体分子のホスホチロシン含量を増大させることを含んで成る、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの処置物質が細胞毒性物質と共有結合している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
ガン細胞が転移性ガン腫細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
哺乳類のガンの診断方法であって:
当該哺乳類から得られる生体材料中の細胞を可溶化して細胞可溶化物を生成せしめ;
当該細胞可溶化物を、LMW−PTPと結合する診断物質と接触させて結合複合体を形成せしめ;
当該結合複合体を検出し;そして
LMW−PTPが、前記生体材料において、非ガン性生体材料と比較して過剰発現しているか否かを決定すること、を含んで成り、
LMW−PTPの過剰発現が当該哺乳類におけるガン細胞の存在の指標である、方法。
【請求項10】
哺乳類のガンの診断方法であって:
LMW−PTP活性について、当該哺乳類の生体材料をアッセイし;そして
LMW−PTPが、前記生体材料において、非ガン性生体材料と比較して過剰発現しているか否かを決定すること、を含んで成り、
LMW−PTPの過剰発現が当該哺乳類におけるガン細胞の存在の指標である、方法。
【請求項11】
前記生体材料が前記哺乳類中のものである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記生体材料が、前記哺乳類の組織、器官又は体液を含んで成る、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項13】
前記生体材料が前記哺乳類から得られる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳類から前記生体材料を得ることを更に含んで成る、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
EphA2受容体分子を標的とする候補のガン治療物質の有効性を評価する方法であって:
EphA2受容体分子及びLMW−PTPを発現しているガン細胞を、候補の治療物質と接触させ、処置された細胞を生成せしめ;
当該処置されたガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性を決定し;
当該処置されたガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性を、類似の未処置のガン細胞におけるLMW−PTPの量又は活性と比較すること、
を含んで成り、
当該処置された細胞におけるLMW−PTPの量又は活性の低下が、前記候補の治療物質のEphA2ターゲティングの有効性の指標である、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2006−501153(P2006−501153A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−506837(P2004−506837)
【出願日】平成15年5月22日(2003.5.22)
【国際出願番号】PCT/US2003/016269
【国際公開番号】WO2003/099313
【国際公開日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【出願人】(598063203)パーデュー・リサーチ・ファウンデーション (59)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年5月22日(2003.5.22)
【国際出願番号】PCT/US2003/016269
【国際公開番号】WO2003/099313
【国際公開日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【出願人】(598063203)パーデュー・リサーチ・ファウンデーション (59)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】
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