説明

試料の分析処理におけるデータ出力方法、分析装置、分析システム、前記方法を実施するためのプログラム、およびこのプログラムの記憶媒体

【課題】尿や血液などの試料を分析する場合に、その分析結果が被験者の薬剤投与の影響を受けたものであるか否かを容易に判断することが可能な分析装置を提供する。
【解決手段】試料容器30の情報記録部31に記録されている被験者識別情報を読み取り可能な読み取り手段10と、試料容器に収容されている試料Uの分析結果のデータを出力可能なデータ出力手段17とを備えている、分析装置A1であって、読み取り手段10により読み取られた被験者識別情報に対応する被験者の薬剤投与情報を外部から取得することが可能な情報取得手段15をさらに備えており、データ出力手段17によって前記分析結果のデータが出力されるときには、このデータに対応する被験者の薬剤投与情報のデータも併せて出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿や血液などの試料を分析してその分析結果などのデータを出力するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
尿や血液などの試料を分析するための分析装置としては、試料の分析処理を行なうことに加えて、試料容器に付されているバーコードなどの情報記録部から、試料提供者である被験者を識別するための情報(被験者識別情報)を読み取るようにしたものがある(たとえば、特許文献1を参照)。このような分析装置においては、試料の分析結果をプリンタによって印字する際に、その分析結果とともに被験者識別情報も印字することができる。このことにより、前記分析結果がいずれの被験者に対応するのかを適切に判断することが可能となる。
【0003】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように、未だ改善すべき余地があった。
【0004】
すなわち、尿や血液などの試料の分析処理を行なう場合において、被験者が薬剤投与を受けていると、この薬剤の影響を受けて、分析結果の値が本来の値とは異なったものとなる場合がある。ところが、前記従来技術においては、分析装置を利用して試料を分析した場合に、その分析結果や被験者識別情報のデータが出力されるに過ぎず、被験者の薬剤投与情報は出力されない。これでは、分析結果が薬剤投与の影響を受けたものであるか否かを容易かつ的確に判断することは困難である。また、従来においては、分析装置を使用する検査者が試料の分析結果に疑問をもった際には、この検査者が被験者のカルテを見るなどして、被験者に対する薬剤投与の状況を調べる必要があった。したがって、このようなことも煩わしいものとなっていた。
【0005】
従来においては、特許文献2に記載されたシステムがある。このシステムにおいては、複数の被験者の健康診断の結果やその他の種々の情報を、コンピュータ・ネットワークを利用して一元的に管理している。しかし、このシステムにおいても、分析装置から試料の分析結果のデータを出力させる際には、被験者の薬剤投与情報のデータはなんら出力されず、その分析結果が薬剤投与の影響を受けたものであるか否かを容易かつ的確に判断することは困難なものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−196626号公報
【特許文献2】特開昭63−500546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであって、尿や血液などの試料を分析する場合に、その分析結果が被験者の薬剤投与の影響を受けたものであるか否かを容易に判断することが可能な試料の分析処理におけるデータ出力方法、分析装置、分析システム、前記方法を実施するためのプログラム、およびこのプログラムを記憶した記憶媒体を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
本発明の第1の側面により提供される試料の分析処理におけるデータ出力方法は、試料容器の情報記録部に記録されている被験者識別情報を、分析装置に設けられている読み取り手段により読み取らせるステップと、前記試料容器に収容されている試料の分析結果のデータを、前記分析装置に設けられているデータ出力手段を用いて出力させるデータ出力ステップと、を有している、試料の分析処理におけるデータ出力方法であって、前記読み取り手段を用いて読み取った被験者識別情報に対応する被験者の薬剤投与情報を、前記分析装置の外部から取得するステップを、さらに有しており、前記データ出力ステップにおいて、前記分析結果のデータを出力させるときには、前記被験者の薬剤投与情報のデータも併せて出力させることを特徴としている。
【0010】
本発明の第2の側面により提供される分析装置は、試料容器の情報記録部に記録されている被験者識別情報を読み取り可能な読み取り手段と、前記試料容器に収容されている試料の分析結果のデータを出力可能なデータ出力手段と、を備えている、分析装置であって、前記読み取り手段により読み取られた被験者識別情報に対応する被験者の薬剤投与情報を外部から取得することが可能な情報取得手段を、さらに備えており、前記データ出力手段によって前記分析結果のデータが出力されるときには、このデータに対応する被験者の薬剤投与情報のデータも併せて出力されるように構成されていることを特徴としている。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記情報取得手段は、前記薬剤投与情報を記憶した外部の情報処理装置との間でデータ通信を行なうことが可能な通信部を含み、かつ前記情報処理装置から前記薬剤投与情報を取得可能である。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記読み取り手段は、前記試料容器の情報記録部に前記被験者識別情報とともに被験者の薬剤投与情報が記録されているときに、この薬剤投与情報をも読み取り可能であり、前記情報取得手段は、前記読み取り手段を含んだ構成とされている。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記薬剤投与情報の内容が前記試料の分析結果に影響を及ぼす内容であるか否かを判断する判断手段を、さらに備えており、 前記判断手段が、前記薬剤投与情報の内容が前記試料の分析結果に影響を及ぼす内容であると判断した場合には、前記分析結果のデータが出力されるときに、これに併せて前記薬剤投与情報のデータも出力される一方、前記判断手段が、前記薬剤投与情報の内容が前記試料の分析結果に影響を及ぼす内容ではないと判断した場合には、前記分析結果のデータが出力されるときに、これに併せて前記薬剤投与情報のデータは出力されず、または前記薬剤投与情報とともに薬剤投与が分析結果に影響を及ぼさないことを示唆するデータが出力される構成とされている。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記試料について複数項目の分析がなされ、かつ前記薬剤投与情報の内容が前記試料の分析結果に影響を及ぼす内容であると前記判断手段によって判断された場合には、前記複数項目のうち、いずれの項目の分析結果に影響を及ぼすかを示唆する追加のデータが、前記薬剤投与情報とともに出力されるように構成されている。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記判断手段は、試料中の特定成分とこの特定成分の分析結果に影響を及ぼす薬剤との対応関係を示すデータを記憶しており、 前記薬剤投与情報の内容が前記試料の分析結果に影響を及ぼす内容であるか否かの判断は、前記対応関係を示すデータに基づいて行なわれるように構成されている。
【0016】
本発明の第3の側面により提供される分析システムは、分析装置と、この分析装置との間でデータ通信が可能な情報処理装置と、を備えており、前記分析装置は、試料容器の情報記録部に記録されている被験者識別情報を読み取り可能な読み取り手段と、前記試料容器に収容されている試料の分析結果のデータを出力可能なデータ出力手段と、を備えている、分析システムであって、前記情報処理装置は、被験者についての薬剤投与情報を記憶しており、前記分析装置は、前記読み取り手段により読み取られた被験者識別情報に対応する被験者の薬剤投与情報を前記情報処理装置から取得することが可能であり、前記データ出力手段によって前記分析結果のデータが出力されるときには、このデータに対応する被験者の薬剤投与情報のデータも併せて出力されるように構成されていることを特徴としている。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記情報処理装置は、前記薬剤投与情報の内容が前記試料の分析結果に影響を及ぼす内容であるか否かを判断可能であり、かつその判断結果のデータを前記分析装置に送信するように構成されている。
【0018】
本発明の第4の側面により提供されるプログラムは、試料容器の情報記録部に記録されている被験者識別情報を読み取り可能な読み取り手段と、前記試料容器に収容されている試料の分析結果のデータを出力可能なデータ出力手段と、このデータ出力手段へのデータ送出処理が可能な制御手段と、を備えている分析装置の駆動に用いられるプログラムであって、前記読み取り手段により読み取った被験者識別情報に対応する被験者の薬剤投与情報を、前記分析装置の外部から取得するステップと、前記データ出力手段によって前記分結果のデータを出力させるときに、この分析データに対応する被験者の薬剤投与情報のデータも併せて出力させるステップと、を前記制御手段の制御により実行させるためのデータを含んでいることを特徴としている。
【0019】
本発明の第5の側面により提供される記憶媒体は、本発明の第4の側面により提供されるプログラムを記憶していることを特徴としている。
【0020】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る分析装置を備えた分析システムの一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示す分析システムのブロック図である。
【図3】図1に示す分析装置の読み取り部と試料容器の情報記録部の一例を示す要部断面図である。
【図4】図1に示す分析装置の分析部を示す要部斜視図である。
【図5】試料の成分とこの成分の分析結果に影響を及ぼす薬剤との関係を示すデータの具体例を示す説明図である。
【図6】図1に示す分析装置の制御部の動作処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図7】図1に示す分析装置が出力する報告書の一例を示す図である。
【図8】図1に示す分析装置が出力する報告書の他の例を示す図である。
【図9】図1に示す分析装置が出力する報告書の他の例を示す図である。
【図10】図1に示す分析装置が出力する報告書の他の例を示す図である。
【図11】図1に示す分析装置が出力する報告書の他の例を示す図である。
【図12】図1に示す分析装置の制御部の動作処理手順の他の例を示すフローチャートである。
【図13】図1に示す分析装置の読み取り部と試料容器の情報記録部の他の例を示す要部断面図である。
【図14】本発明に係る分析装置を備えた分析システムの他の例を示すブロック図である。
【図15】図14に示す分析装置の制御部の動作処理手順の一部の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0023】
図1〜図4は、本発明が適用された分析装置およびこの分析装置を含む分析システムの一例を示している。図1に示すように、本実施形態の分析システムAS1は、分析装置A1と情報処理装置5とを具備している。この分析システムAS1は、たとえば病院内に設置されており、分析装置A1と情報処理装置5とは、通信線Lを介して接続されている。ただし、分析装置A1と情報処理装置5とは、これらの相互間においてデータ通信可能であればよく、これらをたとえば病院内に構築された構内情報通信網(LAN)、あるいはインターネットなどの回線を利用して通信接続させた構成とすることもできる。
【0024】
分析装置A1は、試料容器30に収容されている尿Uの分析処理を行なうためのものであり、分析装置本体部1と、搬送装置2とを有している。尿Uは、本発明でいう試料の一例に相当する。
【0025】
搬送装置2は、試料容器30を起立保持するラック3を一定の経路で搬送するためのものである。この搬送装置2としては、従来既知の搬送装置(たとえば、特開2009−229233号公報に記載の搬送装置)と同様な構成とすることが可能であり、その具体的な構造の詳細は省略する。この搬送装置2においては、ラック3が所定の始端領域Saに投入されると、その後にこのラック3は矢印N1〜N3で示す方向に順次搬送されて、最終的には所定の終端領域Eaに到達するようになっている。後述するバーコードの読み取りや、試料容器30からの尿Uの採取は、ラック3が矢印N2方向に搬送される過程において行なわれる。
【0026】
分析装置本体部1は、読み取り部10、吸引ノズル11a、および後述する機器類を備えている。図3に示すように、試料容器30には、たとえばバーコード31aが印刷されたラベル31bを利用して構成された情報記録部31が設けられている。この情報記録部31には、尿Uの提供者である被験者を識別するための被験者識別情報が記録されている。読み取り部10は、たとえばバーコードリーダであり、その正面に試料容器30が搬送されてくると、この試料容器30の情報記録部31から被験者識別情報を読み取る。吸引ノズル11aは、読み取り部10の正面を通過した試料容器30から尿Uを所定量だけ吸引して採取するためのものである。吸引ノズル11aによって採取された尿Uは、後述する分析部13に供給されて分析される。
【0027】
図2に示すように、分析装置A1は、前記した読み取り部10や搬送装置2に加えて、吸引ノズル用駆動部11、制御部12、分析部13、通信部15、プリンタ17、表示部18、および操作部19を備えている。
【0028】
吸引ノズル用駆動部11は、吸引ノズル11aを利用した尿Uの採取、および採取した尿Uを分析部13の所定位置に分注する動作を行なわせるための機構(図示略)を備えている。分析部13としては、従来既知の分析装置(たとえば、特許第2561509号公報、あるいは国際公開WO2006/112470公報に記載の分析装置)において用いられている分析部と同様な構成とすることが可能である。図4を参照して分析部13を簡
単に説明すると、この分析部13は、載置台13b上に配置された複数の試験片41と、光学測定器13aとを備えている。各試験片41には、複数の試薬パッド42が設けられており、吸引ノズル11aによって採取された尿Uはそれら試薬パッド42上に分注される。複数の試薬パッド42は、尿中の所定の成分と反応し、かつその成分の濃度に対応した度合いに発色するように構成されている。光学測定器13aは、XおよびY方向に移動自在であり、尿Uが点着された後の各試薬パッド42の発色度合い(光反射率など)を測定可能である。この光学測定器13aの測定データに基づき、尿中の所定成分の濃度が算出される。
【0029】
図2において、プリンタ17は、尿Uの分析結果と被験者識別情報とのデータを所定の用紙に印字出力するためのものであり、本発明でいうデータ出力手段の一例に相当する。ただし、後述するように、一定要件下において、前記用紙には被験者の薬剤投与情報のデータも印字出力される。表示部18は、液晶表示パネルなどの画像表示画面を備えており、たとえば操作部19の操作をガイドするための画面表示を行なう。ただし、この表示部18に尿Uの分析結果を表示させてもよい。この場合、表示部18も、本発明でいうデータ出力手段の具体例に相当することとなる。
【0030】
制御部12は、たとえばマイクロコンピュータを用いて構成されており、記憶部12aを具備している。この制御部12は、本発明でいう制御手段、あるいは判断手段の一例に相当する。記憶部12aには、分析装置A1の各部の動作制御や各種のデータ処理を制御部12によって実行させるためのプログラムや各種のデータが記憶されている。
【0031】
記憶部12aに記憶されたデータとしては、尿中の所定成分とこの成分の分析結果に影響を及ぼす薬剤との関係を示すデータD1がある。このデータD1は、たとえば図5に示すような内容である。尿中のブドウ糖(GLU)の分析結果は、被験者がチミペロンの投与を受けている場合に偽陽性になり易く、アスコルビン酸、またはアンビシリンの投与を受けている場合には偽陰性になり易い。このような事情を反映し、データD1においては、尿中の「ブドウ糖」の分析結果に影響を及ぼす薬剤として、チミペロン、アスコルビン酸、およびアンビシリンなどの例が挙げられている。以下同様に、データD1においては、タンパク質(PRO)、ウロビリノゲン(URO)、ビリルビン(BIL)、クレアチニン(CRE)、pH、潜血(BLD)、ケトン体(KET)、亜硝酸塩(NIT)、および白血球(LEU)などの尿中の成分と、各成分の分析結果に悪影響を及ぼす可能性が高い薬剤との対応関係が示されている。このデータD1は、尿Uの分析処理を終えた後に参照され、尿Uの分析結果が被験者の薬剤投与の影響を受けたものであるか否かを判断するのに利用される。
【0032】
情報処理装置5は、たとえばパーソナルコンピュータを利用して構成されており、図2に示すように、記憶部51aを有する制御部51、表示部53、操作部52、および通信部54を具備している。この情報処理装置5は、たとえばこの分析システムAS1が設置されている病院に来所する多くの被験者(患者を含む)についての被験者識別情報、通院歴、処方履歴、健康診断結果の履歴、およびその他の様々な情報を管理し、または確認するためのものである。記憶部51aには、薬剤投与情報のデータD2が記憶されている。このデータD2は、前記した処方履歴に対応するものであり、たとえば被験者に処方された薬剤の名称、量、処方日、および薬剤を処方した診療科などを示す情報を含んでいる。
【0033】
分析装置A1の通信部15は、情報処理装置5から薬剤投与情報を取得するのに利用され、本発明でいう情報取得手段の一例に相当する。もちろん、通信部15は、前記以外の通信用途に利用することが可能である。制御部12は、尿Uの分析処理を終えてその分析結果をプリンタ17により印字させるときには、一定要件下において、前記した薬剤投与情報も併せて印字させる。ただし、その詳細については後述する。
【0034】
次に、分析装置A1を利用して尿Uの分析処理を実行する場合におけるデータ出力方法の一例、ならびに分析装置A1の制御部12の動作処理手順の一例について、図6に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0035】
まず、搬送装置2を駆動させて、ラック3を前記した一定経路で搬送させる過程において、試料容器30が所定位置に到達すると、読み取り部10によって試料容器30の情報記録部31から被験者識別情報が読み取られる(S1)。すると、制御部12は、情報処理装置5にアクセスし、前記被験者識別情報に対応する薬剤投与情報のデータD2が記憶部51aに記憶されているか否かを確認する(S2)。
【0036】
前記確認の結果、前記被験者識別情報に対応する薬剤投与情報のデータD2が記憶部51aに記憶されていれば、制御部12はそのデータD2を取得して記憶部12aに一時的に記憶させる(S3:YES,S4)。その後、試料容器30が所定の試料採取位置に到達すると、制御部12は、吸引ノズル11aを利用して試料容器30から尿Uを採取させるとともに、この尿Uの分析処理を分析部13において実行させる(S5)。
【0037】
制御部12は、情報処理装置5から取得した薬剤投与情報(データD2)の内容が尿Uの分析結果に影響を及ぼす内容であるか否かについての判断も行なう(S6)。この判断に際しては、図5を参照して説明したデータD1を参照する。したがって、たとえば、尿Uの分析項目としてビリルビン(BIL)やケトン体(KET)が挙げられている場合において、被験者にエパルレスタットが投与されている場合には、制御部12は、前記薬剤投与情報の内容は尿Uの分析結果に影響を及ぼすものと判断する。ただし、このような判断は、分析項目と投与薬剤との関係のみに基づいて行なうのではなく、被験者に対する薬剤投与の期間なども考慮して行なうことが好ましい。たとえば、薬剤投与情報中に処方日と薬剤の量(何日分)の情報があれば、薬剤投与の最終日を特定することができる。したがって、この薬剤投与の最終日が現時点よりも所定日数以上も前であるような場合には、もはや薬剤の影響はないものと判断することができる。
【0038】
制御部12は、薬剤投与情報の内容が尿Uの分析結果に影響を及ぼす内容であると判断した場合には(S7:YES)、尿Uの分析結果をプリンタ17により所定の用紙に印字させる際に、これに併せて薬剤投与情報も印字させる。このことにより、たとえば図7に示すような報告書6Aが作成される。この報告書6Aにおいては、被験者識別用のデータD10、分析項目のデータD11、分析結果のデータD12が印字出力されているが、これらに加えて、薬剤投与によって影響が及んだ分析項目を特定するためのデータ13、投与薬剤名を示すデータ14、および分析結果に対する薬剤の影響の内容を示すデータD15も印字出力されている。図面において、データD13は、「*」の記号を用いて表示されているが、これ以外の記号、文字、図柄を用いることができる。たとえば、被験者にエパルレスタットが投与されている場合、ビリルビン(BIL)やケトン体(KET)の分析値に影響が及ぶために、データD13〜D15は、分析項目のデータD11のうち、ビリルビン(BIL)やケトン体(KET)の項目に対応する箇所に印字出力されている。データD15は、図面において「FP?」と表示されているが、これは偽陽性の疑いがあることを示唆している。報告書6Aには、前記以外に、薬剤の処方日、投薬量、あるいは投薬の最終日のデータを追加表示させてもかまわない。
【0039】
前記したような報告書6Aが作成されれば、分析装置A1を使用する検査者は、尿Uの分析結果が被験者に投与された薬剤の影響を受けている可能性が高いことを容易かつ迅速に察知することができる。したがって、尿Uの分析結果が薬剤投与の影響を受けていることによって本来の適正な値ではないにも拘わらず、この値が適正であると誤って認識されるといった虞を無くし、または少なくする利点が得られる。また、前記検査者が、たとえ
ば情報処理装置5を操作して被験者の処方履歴をわざわざ調べるような必要もなく、検査者の負担軽減を図ることもできる。とくに、報告書6Aは、薬剤投与の影響を受けている可能性が高い分析項目とそうではない分析項目とを容易に区別し得るようになっている。したがって、分析項目ごとにその分析結果が薬剤投与の影響を受けているか否かを調べる必要はなく、検査者の負担がより少なくなる。
【0040】
分析結果と薬剤投与情報とを併せて印字させる場合、前記した報告書6Aとは異なる態様の報告書を作成することもできる。すなわち、図8に示す報告書6Bにおいては、投与薬剤名を示すデータD14が、分析項目のデータD11に対応した配置とはされていない。ただし、データD13の存在により、薬剤投与によって影響が及んだ分析項目を的確に察知することが可能である。また、図面には示していないが、本発明においては、データD13,D15を省略し、薬剤投与情報として、投与薬剤名を示すデータD14のみが印字出力される構成とすることもできる。検査者は、データD14で示された投与薬剤名に基づいて、その薬剤の影響を受けた可能性が高い分析項目を比較的容易に察知することが可能であり、データD14が印字出力されていない場合と比較すると、検査者の負担はかなり少なくなるからである。
【0041】
一方、前記した場合とは異なり、被験者識別情報に対応する薬剤投与情報のデータD2が情報処理装置に記憶されていない場合には(S3:NO)、制御部12は、前記した態様の報告書は作成しない。また、情報処理装置5に薬剤投与情報のデータD2が記憶されていたとしても、その薬剤投与情報の内容が尿Uの分析結果に影響を及ぼす内容ではないと判断された場合においても(S7:NO)、制御部12は、前記した態様の報告書を作成しない。このような場合、制御部12は、試料容器30が所定の試料採取位置に到達した時点で、尿Uの採取およびその分析処理を実行させ、かつその分析結果をプリンタ17によって所定の用紙に印字させる(S9,S10)。このことにより、たとえば図9に示すような報告書6Cが作成される。この報告書6Cにおいては、被験者識別用のデータD10、分析項目のデータD11、およびその分析結果のデータD12が印字されるものの、薬剤投与情報は印字されない。このような報告書6Cが作成された場合、分析装置A1を使用する検査者は、尿Uの分析結果が投与薬剤の影響を受けていない適正なものである旨を即座に察知するできることとなる。
【0042】
尿Uの分析結果が投与薬剤の影響を受けていない場合、前記した報告書6Cとは異なる態様の報告書として、たとえば図10および図11に示すような報告書6D,6Eを作成してもかまわない。より具体的には、情報処理装置5に被験者識別情報に対応する薬剤投与情報のデータD2が記憶されていない場合には、報告書6Dのように、薬剤投与情報が無いことを積極的に示すデータD20を印字出力させることができる。一方、薬剤投与情報のデータD2が情報処理装置5に記憶されていた場合であって、その薬剤投与情報の内容が分析結果に影響を及ぼす内容ではないと判断された場合には、報告書6Eのように、投与薬剤名を示すデータD21とともに、その薬剤は分析結果に影響を及ぼすものではないことを積極的に示すデータD22を印字出力することができる。この場合、薬剤の処方日、あるいは薬剤投与の最終日などのデータを追加印字させてもよい。
【0043】
次に、制御部12の動作処理手順の他の例について、図12に示すフローチャートを参照して説明する。
【0044】
ただし、本実施形態の動作処理が実行される前提として、次に述べるような構成が条件とされる。すなわち、図13に示すように、試料容器30に設けられている情報記録部31Aには、被験者識別情報と、この被験者識別情報に対応する薬剤投与情報とが記録されている。ただし、被験者識別情報に対応する薬剤投与情報が無い場合もある。情報記録部31Aは、その記録情報が比較的多くなるために、好ましくは、ICタグを用いて構成さ
れている。この場合、読み取り部10は、バーコードリーダに代えて、または加えて、ICタグリーダを用いた構成とされる。もちろん、情報記録部31Aについては、ICタグに代えて、記録情報量を比較的多くすることが可能な二次元コードを用いた構成、あるいは複数のバーコードを用いた構成とすることもできる。
【0045】
図12に示すフローチャートは、ステップS2’,S4’が、図6に示したフローチャートのS2,S4とは相違するものの、これ以外の各ステップは図6と同様である。本実施形態においては、試料容器30の情報記録部31Aから被験者識別情報を読み取ったときには(S1)、制御部12は、情報記録部31に薬剤投与情報が記録されているか否かを確認する(S2’)。制御部12は、情報記録部31Aに薬剤投与情報が記録されている場合には、読み取り部10を利用して情報記録部31Aから薬剤投与情報を読み取り、そのデータを記憶する(S3:YES,S4’)。したがって、本実施形態においては、読み取り部10が、本発明でいう情報取得手段の具体例に相当する。ステップS4’以降においては、図6を参照して説明したのと同様な処理が行なわれる。
【0046】
本実施形態によれば、薬剤投与情報を情報処理装置5から取得する必要がない。したがって、分析装置A1を情報処理装置5と通信接続することなく、それ単独で使用しつつ、図7〜図11で示した報告書6A〜6Eと同様な報告書を適切に作成することができる。
【0047】
図14は、本発明に係る分析システムの他の実施形態を示している。同図において、前記実施形態と同一または類似の要素には、前記実施形態と同一の符号を付している。
【0048】
図14に示す分析システムAS2においては、尿中の成分とこの成分の分析結果に影響を及ぼす薬剤との関係を示すデータD1が、分析装置A2の制御部12には記憶されておらず、情報処理装置5Aの制御部51に記憶されている。分析装置A2の制御部12は、図15のフローチャートに示すように、試料容器30の情報記録部31から被験者識別情報を読み取ると(S20)、その後はこの被験者識別情報とともに尿の分析項目についての情報を通信部15を介して情報処理装置5Aに送信するように構成されている(S21)。情報処理装置5Aの制御部51は、前記の情報を分析装置A2から受け取ると、この制御部51に記憶しているデータD1,D2に基づいて、尿Uの分析結果に薬剤投与が影響を及ぼすか否かを判断する。この判断結果のデータは、分析装置A2の制御部12が受信する(S22)。
【0049】
本実施形態によれば、情報処理装置5Aにおいて処理された前記判断結果のデータに基づいて、前述した報告書6A〜6Eと同様な報告書を作成することが可能である。本実施形態においては、分析装置A2の制御部12にデータD1を記憶させておく必要がないことに加え、尿Uの分析結果に薬剤投与が影響を及ぼすか否かの判断を制御部12に実行させる必要もない。したがって、制御部12のデータ処理負担などを少なくし、分析装置A2の低コスト化を図るのに好ましいものとなる。
【0050】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。
【0051】
本発明でいう薬剤投与情報は、少なくとも被験者に投与された薬剤を特定する情報(必ずしも薬剤名でなくてもよい)を含むものであればよく、薬剤の処方日などの他の情報を含んでいなくてもかまわない。本発明でいうデータ出力手段は、プリンタや表示部に限らない。たとえば、図2に示した通信部15を、本発明でいうデータ出力手段とすることもできる。
【0052】
本発明に係る分析装置および分析システムで分析される試料は、尿に限らず、血液やその他の物質とすることが可能であり、試料の具体的な種類は限定されない。また、分析処
理の具体的内容も限定されない。本発明は、試料容器用の搬送装置を備えた比較的大型の分析装置だけではなく、そのような搬送装置を具備しない小型の分析装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
AS1,AS2 分析システム
A1,A2 分析装置
U 尿(試料)
5,5A 情報処理装置
10 読み取り部(読み取り手段)
12 制御部(制御手段、判断手段)
12a 記憶部(制御部の)
15 通信部(情報取得手段)
17 プリンタ(データ出力手段)
30 試料容器
31,31A 情報記録部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料容器の情報記録部に記録されている被験者識別情報を、分析装置に設けられている読み取り手段により読み取らせるステップと、
前記試料容器に収容されている試料の分析結果のデータを、前記分析装置に設けられているデータ出力手段を用いて出力させるデータ出力ステップと、
を有している、試料の分析処理におけるデータ出力方法であって、
前記読み取り手段を用いて読み取った被験者識別情報に対応する被験者の薬剤投与情報を、前記分析装置の外部から取得するステップを、さらに有しており、
前記データ出力ステップにおいて、前記分析結果のデータを出力させるときには、前記被験者の薬剤投与情報のデータも併せて出力させることを特徴とする、試料の分析処理におけるデータ出力方法。
【請求項2】
試料容器の情報記録部に記録されている被験者識別情報を読み取り可能な読み取り手段と、
前記試料容器に収容されている試料の分析結果のデータを出力可能なデータ出力手段と、
を備えている、分析装置であって、
前記読み取り手段により読み取られた被験者識別情報に対応する被験者の薬剤投与情報を外部から取得することが可能な情報取得手段を、さらに備えており、
前記データ出力手段によって前記分析結果のデータが出力されるときには、このデータに対応する被験者の薬剤投与情報のデータも併せて出力されるように構成されていることを特徴とする、分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の分析装置であって、
前記情報取得手段は、前記薬剤投与情報を記憶した外部の情報処理装置との間でデータ通信を行なうことが可能な通信部を含み、かつ前記情報処理装置から前記薬剤投与情報を取得可能である、分析装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の分析装置であって、
前記読み取り手段は、前記試料容器の情報記録部に前記被験者識別情報とともに被験者の薬剤投与情報が記録されているときに、この薬剤投与情報をも読み取り可能であり、
前記情報取得手段は、前記読み取り手段を含んだ構成とされている、分析装置。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれかに記載の分析装置であって、
前記薬剤投与情報の内容が前記試料の分析結果に影響を及ぼす内容であるか否かを判断する判断手段を、さらに備えており、
前記判断手段が、前記薬剤投与情報の内容が前記試料の分析結果に影響を及ぼす内容であると判断した場合には、前記分析結果のデータが出力されるときに、これに併せて前記薬剤投与情報のデータも出力される一方、
前記判断手段が、前記薬剤投与情報の内容が前記試料の分析結果に影響を及ぼす内容ではないと判断した場合には、前記分析結果のデータが出力されるときに、これに併せて前記薬剤投与情報のデータは出力されず、または前記薬剤投与情報とともに薬剤投与が分析結果に影響を及ぼさないことを示唆するデータが出力される構成とされている、分析装置。
【請求項6】
請求項5に記載の分析装置であって、
前記試料について複数項目の分析がなされ、かつ前記薬剤投与情報の内容が前記試料の分析結果に影響を及ぼす内容であると前記判断手段によって判断された場合には、前記複数項目のうち、いずれの項目の分析結果に影響を及ぼすかを示唆する追加のデータが、前
記薬剤投与情報とともに出力されるように構成されている、分析装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の分析装置であって、
前記判断手段は、試料中の特定成分とこの特定成分の分析結果に影響を及ぼす薬剤との対応関係を示すデータを記憶しており、
前記薬剤投与情報の内容が前記試料の分析結果に影響を及ぼす内容であるか否かの判断は、前記対応関係を示すデータに基づいて行なわれるように構成されている、分析装置。
【請求項8】
分析装置と、この分析装置との間でデータ通信が可能な情報処理装置と、を備えており、
前記分析装置は、
試料容器の情報記録部に記録されている被験者識別情報を読み取り可能な読み取り手段と、
前記試料容器に収容されている試料の分析結果のデータを出力可能なデータ出力手段と、
を備えている、分析システムであって、
前記情報処理装置は、被験者についての薬剤投与情報を記憶しており、
前記分析装置は、前記読み取り手段により読み取られた被験者識別情報に対応する被験者の薬剤投与情報を前記情報処理装置から取得することが可能であり、
前記データ出力手段によって前記分析結果のデータが出力されるときには、このデータに対応する被験者の薬剤投与情報のデータも併せて出力されるように構成されていることを特徴とする、分析システム。
【請求項9】
請求項8に記載の分析システムであって、
前記情報処理装置は、前記薬剤投与情報の内容が前記試料の分析結果に影響を及ぼす内容であるか否かを判断可能であり、かつその判断結果のデータを前記分析装置に送信するように構成されている、分析システム。
【請求項10】
試料容器の情報記録部に記録されている被験者識別情報を読み取り可能な読み取り手段と、
前記試料容器に収容されている試料の分析結果のデータを出力可能なデータ出力手段と、
このデータ出力手段へのデータ送出処理が可能な制御手段と、
を備えている分析装置の駆動に用いられるプログラムであって、
前記読み取り手段により読み取った被験者識別情報に対応する被験者の薬剤投与情報を、前記分析装置の外部から取得するステップと、
前記データ出力手段によって前記分結果のデータを出力させるときに、この分析データに対応する被験者の薬剤投与情報のデータも併せて出力させるステップと、
を前記制御手段の制御により実行させるためのデータを含んでいることを特徴とする、プログラム。
【請求項11】
請求項10に記載のプログラムを記憶していることを特徴とする、記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−169840(P2011−169840A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35675(P2010−35675)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【復代理人】
【識別番号】100152342
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 益史
【Fターム(参考)】