説明

試料中のウイルスを検出する方法およびシステム

【課題】ウイルスを高感度に検出する検出方法および検出装置を提供する。
【解決手段】蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つウイルス結合性物質と試料を混合して試料溶液を調製する工程、共焦点光学系を用いて該試料溶液の蛍光信号の時間経過を計測する工程を含む、試料中のウイルスまたは/およびウイルス感染細胞由来ウイルス関連物質を検出する方法。上記のウイルス結合性物質は、糖、抗体、タンパク質、ペプチド、核酸、脂質、低分子化合物からなる群から選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のウイルスを検出するための迅速、高感度な試験方法、および試料中のウイルスを検出するための試薬、機器に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、新型肺炎やトリインフルエンザなどのウイルス感染症が全世界的に大きな脅威となっている。ウイルスはヒトや動植物のさまざまな病気の原因の一つであり、その検査・診断のためにはウイルスの確認が非常に重要である。特に、抗生物質の効かないウイルス感染症を克服するためには、治療薬の開発と共に迅速な診断法を確立し、治療に役立てることは勿論、素早い公衆衛生上の対策を講じることが不可欠である。また、種々の抗ウイルス剤が臨床応用され始めたことによりその治療効果の確認のため極低濃度のウイルスを検出する技術も必要とされている。さらに、細胞培養等によって生産されるバイオ医薬品の安全性確保のため、ウイルスを高感度に検出することが重要となってきている。
【0003】
従来のウイルス検査・診断法としては、ウイルス抗原あるいは抗ウイルス抗体の免疫学的測定が一般的である。しかしながら、ウイルス感染から数週間〜数ヶ月は、ウイルス量あるいは抗ウイルス抗体量が少ないため、これらの免疫学的測定法では検出できない場合が多い。したがって、検出できない期間をできる限り短縮するため、免疫学的測定限界下のウイルスを高感度に検出できる技術の開発が急務とされている。また、現行の検査方法は、専門知識を持つ技術者と装置設備が必要であり、大病院や臨床検査機関の検査室、あるいは大学や公的研究所レベル以上の施設でなければ実施できない。
【0004】
近年、ポリメラーゼチェインリアクション(PCR)法に代表される、核酸増幅技術により、極微量のウイルスでも検出できる可能性が開けてきた。しかしながら、PCR法などによっても極微量のウイルス検出は特殊な施設と高度な技術が必要とされ、一般的な施設で簡便に実施することはきわめて困難である。
【0005】
一方、ヒトインフルエンザでは、近年、優れた治療薬が市場に出たが、その投与条件は感染後48時間以内であり、それ以後では、治療効果が極端に下がる。このことは、ウイルス感染直後のウイルス量の少ない時期の診断こそが重要であるにもかかわらず、現行の簡易検査法では検出感度が低すぎる為検出できないという危険性が高いことを示唆している。また、精度においても十分とは言えず、昨今のトリインフルエンザでは、最終の確定診断は、ウイルス分離検査の結果を待たなければならなかった。インフルエンザは、現在、全世界で新型ウイルスの出現が危惧されており、その高感度で精度の高い迅速検査方法の確立は、危急の課題である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明は、診療現場、さらには動物まで含んだ包括的な公衆衛生対策に即応できるウイルスの検出方法、検出装置とそのための試薬を製作し、迅速で高感度、かつ信頼度の高い診断系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、試料中のウイルスを簡単なシステムで迅速、高感度に検出するための試験方法を開発するため鋭意研究を重ね、共焦点光学系と適切な蛍光標識試薬を組合せることにより迅速で高感度、かつ信頼度の高いウイルス検出が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の通りである。
1. 蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つウイルス結合性物質と試料を混合して試料溶液を調製する工程、共焦点光学系を用いて該試料溶液の蛍光信号の時間経過を計測する工程を含む試料中のウイルスまたは/およびウイルス感染細胞由来ウイルス関連物質を検出する方法。
2. 前記ウイルス結合性物質が、糖、抗体、タンパク質、ペプチド、核酸、脂質、低分子化学物質からなる群から選ばれる項1に記載の方法。
3. ウイルスが粒子状態であり、ウイルス表層にて蛍光標識物質と結合することを特徴とする、項1記載の方法。
4. あらかじめウイルス粒子の一部または全部を物理的または化学的に破砕することを特徴とする、項1記載の方法。
5. 試料中のウイルスの抽出および精製のための前処理工程をさらに含むことを特徴とする、項1〜4のいずれかに記載の方法。
6. ウイルスの平均粒子直径が短径1〜1000nm、長径5〜10000nmであることを特徴とする、項1〜5のいずれかに記載の方法。
7. ウイルスがインフルエンザウイルスであることを特徴とする、項1〜6のいずれかに記載の方法。
8. 蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つウイルス結合性物質と共焦点光学系を含むウイルスまたは/およびウイルス感染細胞由来ウイルス関連物質の検出システム。
9. 前記ウイルス結合性物質が、糖、抗体、タンパク質、ペプチド、核酸、脂質、低分子化学物質からなる群から選ばれる項8に記載のシステム。
10. 蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つウイルス結合性物質の蛍光波長が350〜800nm、分子量が120以上、共焦点光学系の共焦点領域が10−16〜10−10リットルであることを特徴とする、項8または9に記載のシステム。
11. ウイルスの平均粒子直径が短径1〜1000nm、長径5〜10000nmであることを特徴とする、項8〜10のいずれかに記載のシステム。
12. 測定対象のウイルスがインフルエンザウイルスであることを特徴とする、項8〜11のいずれかに記載のシステム。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の測定対象となるウイルスとしては、アデノウイルス(ヒトおよびサル、ウシ、ブタ、イヌ、マウス、トリなどの動物アデノウイルス)、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、EBウイルス、ヒトヘルペスウイルス6,7,8型、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、コイなどの動物ヘルペスウイルスなど)、ポックスウイルス(痘瘡ウイルス、牛痘ウイルス、ワクシニアウイルス、サル痘ウイルス、伝染性軟属腫ウイルスなど)、ポリオーマウイルス(BKウイルス、JCウイルスなど)、パピローマウイルス(ヒトおよびウシ、ウマ、ヒツジなどの動物パピローマウイルス)、パルボウイルス(ヒトおよび動物パルボウイルス、アデノ随伴ウイルスなど)、肝炎ウイルス(A、B、C、D、E、FおよびG型肝炎ウイルス、TTウイルスなど)、ピコルナウイルス(ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルスなど)、カリシウイルス(ノロ(小型球形)ウイルスなど)、アストロウイルス(ヒトおよび動物のアストロウイルスなど)、トガウイルス(風疹ウイルス、チクングニヤウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルスなど)、フラビウイルス(日本脳炎ウイルス、西ナイル熱ウイルス、デングウイルス、黄熱ウイルスなど)、インフルエンザウイルス(ヒトA、BおよびC型インフルエンザウイルス、ブタ、ウマ、トリなどの動物インフルエンザウイルス)、パラミキソウイルス(パラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、RSウイルス、牛疫ウイルス、イヌジステンパーウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ヘンドラウイルス、ニパウイルスなど)、ラブドウイルス(狂犬病ウイルス、水泡性口内炎ウイルスなど)、フィロウイルス(エボラウイルス、マールブルグウイルスなど)、コロナウイルス(SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルス、ヒトおよびウシ、ブタ、ウマ、ニワトリなどのコロナウイルス)、アルテリウイルス、ブニヤウイルス(ハンタウイルスなど)、アレナウイルス(ラッサウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスなど)、ボルナウイルス、レオウイルス(ロタウイルス、オルソレオウイルスなど)、レトロウイルス(HTLV(ヒトTリンパ球向性ウイルス、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、SIV(サル免疫不全ウイルス)、ラウス肉腫ウイルス、動物レトロウイルスなど)、昆虫ウイルス(ポックスウイルス、イリドウイルス、パルボウイルス、バキュロウイルス)、植物ウイルス、バクテリオファージなどが挙げられる。
【0010】
ウイルスまたは/およびウイルス感染細胞由来ウイルス関連物質を含む可能性のある試料としては、血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液、尿、便、糞、リンパ液、涙液、および各種臓器などの哺乳類(ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、イノシシ、ヒツジ、ウサギ、特にヒト)、鳥類(ニワトリ、アヒル、ウズラ、七面鳥、カモ、キジなど)、無脊椎動物(昆虫;カイコ、ハチ、アリ、クワガタ、カブトムシなど、甲殻類;エビ、カニなど)、植物(桑、小豆、ソラマメ、トマト、ナス、キュウリ、メロン、タバコ、菊、ユリ、バラなど)の生体由来の試料、食品(卵、牛乳、大豆、小麦、米などの穀類、魚介類、或いは加工食品など)、河川、土壌などの環境由来の試料が例示される。
ウイルス結合性物質は、ウイルスに特異的に結合するものであれば特に限定されず、糖、抗体、タンパク質(糖蛋白を含む)、ペプチド、核酸、脂質(糖脂質を含む)、低分子化学物質などが広く例示される。例えば、インフルエンザウイルスの検出には、ウイルス結合性物質としてフェチュインが好ましく使用できる。好ましいウイルス結合性物質は、ウイルスに特異的な抗体、或いはフェチュインなどのタンパク質、ガングリオシドLysoGM3などの糖脂質が挙げられる。
【0011】
具体的なウイルスとウイルス結合性物質の組み合わせを以下に例示する:
もっとも好ましいウイルス結合性物質は、各ウイルスの特異抗体および各ウイルスのレセプター様物質である。レセプターが以下に示すような蛋白質の場合、ウイルスとの結合部位を含む完全長の蛋白質、部分長蛋白質あるいはペプチドでも構わない。ポリオウイルスに対するCD155、麻疹ウイルスに対するCD46およびCD150、牛疫ウイルスおよびイヌジステンパーウイルスに対するCD155、シンドビスウイルスに対するラミニンレセプター、ラッサ熱ウイルスおよびリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスに対するa-ジストログリカン、コクサッキーウイルスに対するCAR、CD55およびavb3インテグリン、エコーウイルスに対するCD55およびa2 b1インテグリン、ヒトコロナウイルスに対するアミノペプチダーゼN、マウス肝炎ウイルスに対するBgp1、HIVおよびSIVに対するCD4、ケモカインレセプター(CXCR4およびCCR3など)およびガラクトシルセラミド、トリ白血病ウイルスに対するTVAおよびTVB、マウス白血病ウイルスに対するMCAT-1およびPiT-2、ネコ白血病ウイルスおよびサル肉腫ウイルスに対するPiT-1、単純ヘルペスウイルスに対するHveA、HveB、HveC、Prr1およびPrr2、ヒトヘルペスウイルス6型に対するCD46、ヒトヘルペスウイルス7型に対するCD4、EBウイルスに対するCR2、ライノウイルスに対するICAM-1およびLDLR、アデノウイルスに対するCAR、avb3インテグリンおよびavb5インテグリンなどが挙げられる。また、糖鎖をレセプターとするウイルスでは、該当の糖鎖を含有する糖蛋白質、糖脂質あるいは遊離の糖鎖自身がウイルスに結合する。例えば、インフルエンザウイルスAおよびB型、パラインフルエンザウイルス、レオウイルス3型、マウスポリオーマウイルス、イヌパルボウイルスおよびアデノウイルスではシアル酸が、インフルエンザウイルスC型では9-O-アセチルシアル酸が、ヒトおよびウシコロナウイルスでは、N-アセチル-9-O-アセチルシアル酸が、HIVではガラクトシルセラミドが、単純ヘルペスウイルスおよびヒトサイトメガロウイルスでは硫酸ヘパリンがレセプターとして機能する。
【0012】
また、ウイルス結合性物質として抗ウイルス薬が挙げられる。インフルエンザウイルスに対するザナミビルやリン酸オセルタミビルなどのノイラミダーゼ阻害剤および塩酸アマンタジンや塩酸リマンタジンなどのウイルスイオンチャンネル阻害剤、多様なウイルスに対するウイルス特異的DNAまたはRNAポリメラーゼ阻害剤およびその生体内代謝産物、例えば、単純ヘルペスウイルスに対しアシクロビルおよびビダラビンなど、サイトメガロウイルスに対しガンシクロビルなど、HIVに対しジドブジン、ジダノシン、ザルシタビン、サニルブジンおよびラミブジンなど、B型肝炎ウイルスに対しラミブジンなど、レトロウイルスに対する逆転写酵素阻害剤、例えばHIVに対しエファビレンツ、ネビラピンおよびメシル酸デラビルジンなど、あるいは、HIVに対するプロテアーゼインヒビター、例えばメシル酸サキナビル、リトナビル、インジナビル、メシル酸ネルフィナビルおよびアンプレナビルなどが挙げられるが、これに限定されるものではなく、またウイルスに対する結合を強め、または蛍光標識を行うために化学的修飾をされた誘導体も含まれ、また将来的に開発される抗ウイルス薬も含まれる。また、ウイルス表面の糖鎖構造と結合するレクチン類、例えばHIVとコンカナバリンAが挙げられる。また、ウイルスDNAまたはRNAに結合する相補的な配列を有するDNA、RNA、ペプチドヌクレイックアシッドといった核酸配列結合物質が挙げられる。
【0013】
ウイルス結合物質は、単独で使用して蛍光標識されてもよく、ウイルス結合物質をポリマー(例えば、キトサン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などの親水性ポリマー)あるいは微粒子(例えば量子ドットなどのナノ粒子)に多数結合して高分子/のウイルス結合物質とし、該ポリマーあるいはポリマー/微粒子に結合されたウイルス結合物質をさらに蛍光標識してもよい。このような構成とすることで、複数の隣接するウイルス結合物質にウイルスを構成する蛋白質等のウイルス由来の複数の物質が結合し、さらに感度を高めることもできる。微粒子は、一定時間懸濁可能である限り、大きさは特に限定されず、また微粒子の素材も、ポリマー微粒子のような有機微粒子、あるいは量子ドットなどの無機微粒子のいずれでもよい。ウイルス結合物質は、ポリマー、微粒子に吸着させてもよく、必要に応じてスペーサーを介して共有結合により連結してもよい。
【0014】
また、2種以上のウイルス結合物質を組み合わせて使用して、類似するウイルスのタイプを決定することも可能である。例えば、ヒトインフルエンザウイルスとトリインフルエンザウイルスの各々に選択的なウイルス結合物質(2,6-、あるいは2,3-結合様式の末端シアル酸を有する糖鎖)を必要に応じてポリマーあるいは担体に結合し、これらを用いてウイルス含有検体を検査することにより、ウイルスの種類/型をより確実に検出することができる。
【0015】
蛍光標識としては、蛍光強度が強く安定したものが好ましい。例えばAlexa,ローダミン各種(ローダミン6G,ローダミングリーン、TMR,TAMRA)、Bodipy、Cy5、R6G、FAM、JOE、ROX、EDANS、などが好ましく使用できるが、これらに限定されない。蛍光標識は、常法に従いウイルス結合性物質に結合される。
【0016】
蛍光標識試薬の蛍光波長は、350〜800nm程度が例示される。蛍光標識試薬の分子量は特に規定されないが、20000以下が好ましく、より好ましくは120〜80000である。
【0017】
本発明で使用する共焦点光学系は、従来より顕微鏡(共焦点顕微鏡)に用いられている技術であり、蛍光相関分光分析(FCS)法などに応用されている。FCSは、蛍光分子を励起するレーザ部、共焦点光学系、蛍光検出部、演算と解析を行うデジタル相関器の4つの部分を有する。FCSは、抗原−抗体反応、SNPタイピング、DNA−タンパク質相互作用、低分子−タンパク質相互作用などの低分子物質の検出に応用された例はあるが、タンパク質や核酸などよりはるかに大きなウイルスの検出に応用できることは全く知られていなかった。
共焦点光学系として、共焦点(レーザ)顕微鏡が使用できるが、レーザをスキャンする機能は必ずしも必要なく、溶液中の1点(例えばサブフェムトリットル領域)の蛍光強度を相関法により計測できればよい。
【0018】
共焦点光学系(FCS)による測定は、以下の手順(i)〜(v)で行うことができる。
(i)試料中のウイルス結合性物質を予め蛍光標識する、ただしウイルス結合性物質が蛍光性を有する場合はこの操作を省くことも出来る。
(ii)レーザ光を対物レンズでフェムトリットル以下の領域まで焦点を絞る。
(iii)分子がレーザの焦点領域を通過するミリ秒以下の時間内に、数百〜数千個のフォトンが発生する。
(iv)溶液中の蛍光標識されたウイルス結合性物質がウイルスと結合することにより分子サイズが大きくなるために、溶液中の移動速度が遅くなる。
(v)移動速度の変化と蛍光強度を自己相関法で解析し、分子間相互作用を観測する。
【0019】
共焦点光学系の共焦点領域は、10−16〜10−10リットル程度、好ましくは10−16〜10−13リットル程度が好ましく使用できる。
【0020】
ウイルスを含む試料は、超音波処理、界面活性剤処理などにより破砕後にウイルス測定に供してもよい。このようにすることで、ウイルスの測定感度を向上させることが可能である。
ウイルスまたはその破砕物の平均粒子直径は、短径1〜1000nm、長径5〜10000nm程度、好ましくは短径10〜200nm、長径10〜1000nm程度である。ウイルスまたはその破砕物の平均粒子直径が小さすぎると検出感度が低下し、大きすぎると検出が困難になる。
【0021】
試料溶液中のウイルス量は、特に制限はなく、例えば1×10〜1×1015pfu/ml程度が例示される。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
本実施例にて用いたウイルス液の調製法、ウイルスの感染力価の測定法、ウイルスの部分精製法、ウイルス粒子の破砕法は以下の通りである。
<ウイルス液の調製法>
A/New Caledonia/20/99 (H1N1)およびA/Hyogo/73/2002 (H1N1)株について、組織培養細胞を用いてウイルス液を調製した。MDCK(Madin-Darby canine kidney)細胞の単層培養にウイルスをMultiplicity of Infection (M.O.I.)が0.01(計算上0.1%の細胞が感染する)になるよう接種し、5μg/mlトリプシン(Sigma製)添加、血清非添加Minimum Essential Medium(MEM、Sigma製)で34℃、3〜5日間培養した。培養上清を2,500gで10分間遠心し、上清をウイルス液として-80℃で保存した。
A/Puerto Rico/8/34 (H1N1)について、発育鶏卵を用いてウイルス液を調製した。種ウイルスを1x103〜104倍希釈して(感染価にして1x103〜104CIU/ml)発育鶏卵10日卵の漿尿膜腔へ200μl接種し、34℃で転卵しながら2〜3日培養した。採取した漿尿液を2,500gで10分間遠心し、上清をウイルス液として-80℃で保存した。
【0024】
CIU(Cell Infecting Unit)は感染性ウイルス粒子の数の単位で、1CIUは、理論上1感染性粒子に等しい。
<感染力価の測定法>
MDCK細胞に4倍段階希釈したウイルス液を接種、34℃で14時間培養し、エタノールで感染細胞を固定した。一次抗体として抗インフルエンザウイルスウサギポリクローナル抗体(大阪府立公衆衛生研究所、奥野良信博士より分与)、続いて二次抗体としてFITC結合抗ウサギIgGヤギ血清(医学生物学研究所製)を用いた間接蛍光抗体法で感染細胞を標識した後、蛍光顕微鏡(Zeiss製)で観察し、画像解析により計数して感染力価を算出した。
結果:
A/New Caledonia/20/99 (H1N1):3.9x106 CIU/ml
A/Hyogo/73/2002 (H1N1):5.6x107CIU/ml
A/Puerto Rico/8/34 (H1N1):1.1x108 CIU/ml
<ウイルスの部分精製法>
A/New Caledonia/20/99 (H1N1)について、部分精製ウイルスを作製した。上記方法にて調製したウイルス液を、60%グリセロールphosphate buffered saline(PBS)に20%グリセロールPBSを積み重ねた上に重層し、113,000g、4℃で1時間遠心(日立製超遠心機使用)した。60%グリセロールPBSと20%グリセロールPBSの間のウイルス層を採取し、100%グリセロールクッションの上に重層、113,000g、4℃で1時間遠心(日立製超遠心機使用)して濃縮し、部分精製ウイルスとした。この操作により、ウイルス液を約100倍の濃度に精製濃縮した。
<ウイルス粒子の破砕法>
A/New Caledonia/20/99 (H1N1)のウイルス液を超音波(日本精機製作所)で5秒間処理、あるいは、等量の1% polyoxyethylene(10) octylphenol ether(Triton X-100、和光純薬)と混合し(最終濃度0.5%)、ウイルス粒子を破砕した。
[実施例1]蛍光標識糖タンパク質プローブによるインフルエンザウイルスの検出
糖タンパク質の一種であるフェチュインは、インフルエンザウイルスが結合しうる糖鎖構造を表面に複数持つことが一般的に知られている。インフルエンザウイルス(ニューカレドニア株)とフェチュインを混合し、遠心操作でインフルエンザウイルス粒子を沈殿させると、ウイルス粒子に結合したフェチュインが共沈することから、溶液中でウイルス粒子とフェチュインが複合体を形成することからもこれは明らかである(図1)。
【0025】
そこで、フェチュインに蛍光色素ローダミンを導入し、蛍光相関分光を用いたインフルエンザウイルス検出プローブとすることとした。フェチュインは、精製されたものが市販されている(例えば和光純薬)。フェチュインの蛍光基の導入には、ローダミン−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体を用いた。ローダミン−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体は、既知の方法により調製でき、また市販もされている(例えば、モレキュラープローブ社)。ローダミン−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体5mg/ml濃度でDMSOに溶解し、80μlを10mg/ml濃度のフェチュイン400μlと混合し、次いで1M重炭酸ナトリウム溶液を40μlを加えた。1時間室温で攪拌したのち、ゲルろ過法により反応後のフェチュインから過剰の蛍光標識試薬の除去を行った。蛍光基の導入量は、紫外可視光分光光度計により波長570nmの吸収を測定することにより確認した。
【0026】
ローダミン標識フェチュインをインフルエンザウイルス(ニューカレドニア株)とリン酸バッファー生理食塩水(PBS)中で混合し、1時間のインキュベーションの後、混合液30μlを用いてFCS−101(FCS測定装置; 東洋紡製)により微小空間蛍光強度を測定した。その結果、蛍光ポリスチレンビーズの場合と類似した蛍光強度変動パターンが認められた(図2)。ウイルス力価と、蛍光強度変動シグナルの頻度の関係を検討したところ相関関係が認められ、検出限界は1×10pfu/mlであった(図3A)。
【0027】
同様に蛍光強度変動を観測することにより、インフルエンザウイルス感染培養細胞の培養上清中の増殖ウイルスも検出できることが示された。この培養上清には1×10pfu/ml程度のインフルエンザウイルスが含まれ、検出限界はおよそ2×10 pfu/ml(4倍希釈液)であることが示された。したがって、精製されたウイルス溶液と感染細胞培養上清の両者においてFCS−101による検出を行うことが可能である(図3B)。
(実施例2)蛍光標識糖鎖を利用したインフルエンザウイルスの検出
ヒト型あるいはトリ型かを区別するためには、2-6結合型シアル酸および2-3結合型シアル酸を有する蛍光標識糖鎖をプローブとして用いることができる。2-3結合型シアル酸を有する蛍光標識糖鎖の作製のために、糖脂質であるガングリオシドLysoGM3にローダミンを導入した(図4)。
【0028】
ジメチルホルムアミド溶媒40μl中でローダミン−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体 130nmol、ガングリオシドLysoGM3 65nmol、および終濃度0.1%トリエチルアミンを混合した。一晩室温で反応させた後、逆相高速液体クロマトグラフィーで精製し、蛍光標識されたガングリオシドLysoGM3を得た。飛行時間型質量分析計およびNMR測定により構造を確認した。
【0029】
2-3結合型シアル酸に結合するインフルエンザPR8株、および2-6結合型シアル酸に結合するインフルエンザHyogo株に関して、2-3結合型シアル酸蛍光糖鎖プローブを用いてFCS―101による検出感度について検討した。一定濃度のローダミン標識2-3結合型シアル酸プローブを、鶏卵中で培養したインフルエンザウイルス(PR8株およびHyogo株)の希釈液とリン酸バッファー生理食塩水(PBS)中で混合し、直ちにその混合液30μlを用いてFCS−101により微小空間蛍光強度を測定した。2-3結合型シアル酸蛍光糖鎖プローブによりインフルエンザPR8株の検出限界は1.5 × 10 pfu/mlに対し、インフルエンザHyogo株の検出限界は2.5 × 10 pfu/mlであり、1桁異なる結果が得られた。このことは、PR8株は2-3結合型シアル酸に対して高親和性であるという既知の事実と一致する(図5)。以上の結果から、シアル酸蛍光糖鎖プローブを用いて種特異性を識別し、高感度にインフルエンザウイルスを検出できることが示された。
【比較例】
【0030】
インフルエンザウィルス迅速診断キットの感度試験
1. 試料
使用したインフルエンザウイルス
・ A/New Caledpnia/20/99(H1N1)
2. 試験方法
評価対象
・ エスプラインインフルエンザA,B-N(富士レビオ製)
・ キャピリアFluA,B(タウンズ製)
各インフルエンザウイルス迅速診断キットの操作方法(製造者のプロトコール)に従って行った。
3. 試験結果
キャピリアFluA,B、エスプラインインフルエンザA,B-Nの検出感度は、どちらも1.0×10 pfu/mlと1.0×10 pfu/mlの間であった。
【0031】
【表1】

【0032】
(実施例3)糖鎖ポリマー型蛍光標識プローブによるインフルエンザウイルスの検出
検出感度、シグナル強度をさらに向上させるために、文献(Y. Makimuraら, Chemoenzymatic synthesis and application of a sialoglycopolymer with a chitosan backbone as a potent inhibitor of human influenza virus hemagglutination., Carbohydrate Research, 2006年, May 20)にしたがい、ウイルスに結合するシアル酸を末端に持つ糖鎖をタンデムに親水性ポリマーに多数固定した物質に蛍光官能基を導入し、ウイルス検出用プローブとした。該蛍光プローブを用いることにより、複数の隣接する糖鎖構造にウイルス粒子表面を構成する複数のタンパク質が結合し、高い親和性をもたらすものと期待された。該蛍光プローブの構造を、図6に示す。親水性ポリマーとしては、キトサンを使用した。
【0033】
まず、2-6型結合様式の末端シアル酸を有する糖鎖をタンデムに固定した蛍光標識ポリマー(Rho-SGP α2-6 type, SGP: sialoglycopeptide)を用いて、2-6型末端シアル酸を認識するインフルエンザウイルスHyogo株、および2-3型末端シアル酸を認識するインフルエンザウイルスPR8株の検出を、実施例1、実施例2と同様に本発明の方法により行った。その結果を図7に示す。該蛍光プローブの検出感度は、両株共1×10pfu/mlの検出限界であり、また、シグナルであるピーク数が増大した。低分子型糖鎖蛍光プローブに比較し、ポリマー化により期待された検出感度、シグナル強度の向上を確認することができた。一方で、Hyogo株はPR8株よりも5倍のシグナル強度を示すことから、Hyogo株が2-6型末端シアル酸により高い親和性を示すことを反映した。
【0034】
次に、2-3型結合様式の末端シアル酸を有する糖鎖をタンデムに固定した蛍光標識ポリマー(Rho-SGP α2-3 type)を用いて、2-6型末端シアル酸を認識するインフルエンザウイルスHyogo株、および2-3型末端シアル酸を認識するインフルエンザウイルスPR8株の検出を、実施例1、実施例2と同様に本発明の方法により行った。その結果を図8に示す。該蛍光プローブの検出感度はRho-SGP α2-6 typeと同等であり、シグナル強度はさらに向上した。一方で、Hyogo株のシグナル強度はPR8株の1.5倍で、2-6型認識と2-3型認識で逆転はしなかったが、その差が大きく減じた。これは、PR8株が2-3型末端シアル酸により高い親和性を示すことを反映しているものと考えられた。このことから、Rho-SGP α2-6 typeおよびRho-SGP α2-3 typeの蛍光プローブを併用し、シグナル強度を比較することにより、インフルエンザウイルスの高感度検出と、ヒト型、トリ型の識別が可能であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】フェチュインをインフルエンザウイルス(ニューカレドニア株)と混合し、遠心操作によりウイルス粒子を沈殿させ、沈殿物にふくまれるフェチュインを、抗フェチュイン抗体により検出した結果。
【図2】蛍光標識糖タンパク質(フェチュイン)とインフルエンザウイルスを混合した場合の蛍光強度の時間変動。
【図3】蛍光標識糖タンパク質(フェチュイン)によるインフルエンザウイルスのFCS検出。
【図4】2-3結合型シアル酸蛍光糖鎖プローブの構造
【図5】2-3結合型シアル酸蛍光糖鎖プローブ(トリ型糖鎖)を用いてインフルエンザPR8株(トリ型認識)、Hyogo株(ヒト型認識)をFCS検出した結果。
【図6】糖鎖ポリマー型蛍光標識プローブの構造
【図7】糖鎖ポリマー型蛍光標識プローブ(Rho-SGP α2-6 type)を用いてインフルエンザPR8株、Hyogo株を検出した結果。
【図8】糖鎖ポリマー型蛍光標識プローブ(Rho-SGP α2-3 type)を用いてインフルエンザPR8株、Hyogo株を検出した結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つウイルス結合性物質と試料を混合して試料溶液を調製する工程、共焦点光学系を用いて該試料溶液の蛍光信号の時間経過を計測する工程を含む、試料中のウイルスまたは/およびウイルス感染細胞由来ウイルス関連物質を検出する方法。
【請求項2】
前記ウイルス結合性物質が、糖、抗体、タンパク質、ペプチド、核酸、脂質、低分子化学物質からなる群から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ウイルスが粒子状態であり、ウイルス表層にて蛍光物質と結合することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
あらかじめウイルス粒子の一部または全部を物理的または化学的に破砕することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
試料中のウイルスの抽出および精製のための前処理工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ウイルスの平均粒子直径が、短径1〜1000nm、長径5〜10000nmであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ウイルスがインフルエンザウイルスであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
蛍光標識されたあるいは蛍光性を持つウイルス結合性物質と共焦点光学系を含む、ウイルスまたは/およびウイルス感染細胞由来ウイルス関連物質の検出システム。
【請求項9】
前記ウイルス結合性物質が、糖、抗体、タンパク質、ペプチド、核酸、脂質、低分子化学物質からなる群から選ばれる請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
蛍光標識されたあるいは、蛍光性を持つウイルス結合性物質の蛍光波長が350〜800nm、分子量が120以上、共焦点光学系の共焦点領域が10−16〜10−10リットルであることを特徴とする、請求項8または9に記載のシステム。
【請求項11】
ウイルスの平均粒子直径が短径1〜1000nm、長径5〜10000nmであることを特徴とする、請求項8〜10のいずれかに記載のシステム。
【請求項12】
測定対象のウイルスがインフルエンザウイルスであることを特徴とする、請求項8〜11のいずれかに記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−20565(P2007−20565A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163071(P2006−163071)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(503303466)学校法人関西文理総合学園 (26)
【出願人】(391048049)滋賀県 (81)
【出願人】(503113050)株式会社テクノサイエンス (3)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】