説明

試料作製方法

【課題】観察したい平面領域を広範囲にわたって観察することが可能な平面観察試料を得ることができる試料作製方法の提供を課題とする。
【解決手段】エネルギービームを照射することで、被観察平面を含む薄膜領域31を有する平面観察試料30を作製する試料作製方法であって、原試料から被観察平面を含む微小試料片20を摘出する微小試料片摘出工程と、該微小試料片20に、エネルギービーム照射方向に対する被観察平面の傾きの有無を現出させるマーカ手段を形成するマーカ手段形成工程と、前記マーカ手段に基づいて被観察平面をエネルギービームの照射方向に一致させる平行合わせ工程と、被観察平面を照射方向に一致させた状態で、エネルギービームを照射して被観察平面を含む薄膜領域31を加工する薄膜加工工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料作製方法に関し、より詳しくは、イオンビーム等のエネルギービームを用いて、目的とする平面領域を電子顕微鏡等にて観察することができる試料の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡或いはX線やその他の光線、粒子線を用いて対象試料の微細域の観察(画像的観察の他、分析や計測を含む)を行うには、それに適した試料が必要となる。例えば、電子デバイス等を構成するために半導体層、絶縁体層、その他の固体層を積層してなる基板において、観察すべき要観察領域がある場合に、作製されるべき試料としては、その要観察領域を断面的に観察するための断面観察試料、或いは要観察領域を平面的に観察するための平面観察試料が必要となる。
前記平面観察試料を作製する場合の問題点は、その観察されるべき平面領域を広範囲に試料の肉厚内に入れるためには、その試料を被観察平面と平行な面で正確に切断する必要がある。このことは、例えばミクロンオーダ或いはナノオーダの薄膜試料の厚み内に所望の被観察平面を広面積に収容することを考えれば、平行からの角度ズレを極小に抑えなければならないことが理解できる。
このような背景において、従来、この種の平面観察試料の作製方法として、例えば特開2006−84484号公報に記載の試料作製方法がある(特許文献1)。この特許文献1の明細書の実施例2においては、微小試料片9に形成されたコンタクトホール22の底に存在する異物や欠陥等を透過型電子顕微鏡観察するための試料作製方法として、コンタクトホール22に中央部断面26を形成し、このコンタクトホール22の中央断面26を横から観察することで、コンタクトホール22の底面25を正確に把握するようにした方法が開示されている。この特許文献1の方法によれば、コンタクトホール22の底面25を含む平面部(薄壁部)を含んだ平面試料が精度よく作製できる。
【特許文献1】特開2006−84484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記特許文献1の発明による平面観察試料の作製方法は、個々のコンタクトホールの底面の面積程度の極狭い範囲の平面領域を含む薄片試料の作製は可能であるが、前記コンタクトホールの底面よりもっと広い平面領域を観察することができる試料作製方法としては十分ではない。例えば光デバイスの活性領域等300nm厚の要観察領域を、厚み400nmの薄膜内に入れて縦横10μm×10μm寸法の薄膜を形成するには、角度ズレの許容値は約0.6度以下でなければならない。しかし上記特許文献1の試料作製方法では、エネルギービームの照射方向との試料との平行合わせが実質的に行われておらず、よって試料ホルダーの再現性の問題やサンプリングした試料の試料台への固定の際の取り付け角度のズレ等により、広い範囲を平面観察できるような平行度を得ることができない。
【0004】
そこで本発明は上記従来における問題点を解決し、観察したい平面領域を広範囲にわたって観察することが可能な平面観察試料を得ることができる試料作製方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明の試料作製方法は、エネルギービームを照射することで、被観察平面を含む薄膜領域を有する平面観察試料を作製する試料作製方法であって、原試料から被観察平面を含む微小試料片を摘出する微小試料片摘出工程と、該微小試料片にエネルギービーム照射方向に対する被観察平面の傾きの有無を現出させるマーカ手段を形成するマーカ手段形成工程と、前記マーカ手段に基づいて被観察平面をエネルギービームの照射方向に一致させる平行合わせ工程と、被観察平面を照射方向に一致させた状態でエネルギービームを照射して被観察平面を含む薄膜領域を加工する薄膜加工工程とを有することを第1の特徴としている。
【0006】
上記本発明の第1の特徴によれば、微小試料片摘出工程において試料原板から被観察平面を含む微小試料片が摘出され、マーカ手段形成工程においてはエネルギービーム照射方向に対する被観察平面の傾きの有無を現出させるマーカ手段が微小試料片に形成され、平行合わせ工程においてはマーカ手段に基づいて被観察平面とエネルギービーム照射方向との平行合わせがなされ、薄膜加工工程においては被観察平面の向きが平行に一致された微小試料片に対してエネルギービームが照射されることで被観察平面が含まれた薄膜領域が加工される。エネルギービームとしては、集束イオンビーム、投射イオンビーム等のイオンビーム、レーザービームを用いることができる。
本発明の第1の特徴によれば、微小試料片にエネルギービーム照射方向に対する被観察平面の傾きの有無を現出させるマーカ手段を形成することより、該マーカ手段を観察することでエネルギービーム照射方向と被観察平面との傾きの有無が把握できると共に、現出される傾きがゼロ、即ち照射方向と被観察平面とが平行に一致するように、微小試料片の角度を修正することができる。
よって上記第1の特徴に係る試料作製方法によれば、観察したい被観察平面とエネルギービームの照射方向との平行度を高度に精度よく達成させることができるので、広範囲の被観察平面であっても、それを十分に含む薄膜領域を持つ平面観察試料を作製することができる。
【0007】
また本発明の試料作製方法は、上記本発明の第1の特徴に加えて、マーカ手段は、被観察平面を同一平面内に含む積層とクロスする断面若しくは被観察平面と平行な積層とクロスする断面において、該クロスする断面に形成した段差の前後に現出する前記積層のラインであることを第2の特徴としている。
【0008】
上記本発明の第2の特徴によれば、マーカ手段は、被観察平面が存在する積層とクロスする断面若しくは被観察平面と平行な積層とクロスする断面に現れる積層のラインを利用して、断面の途中に形成された段差の前後に現出する積層ラインとして構成されている。
前記段差は、垂直な段差の他、適当な傾斜を持った斜面的な段差であってもよい。
本発明の第2の特徴によれば、マーカ手段が段差の前後に現出する積層ラインとして構成されることで、段差の前後に現出される積層ラインの相互の直線的一致、不一致により、積層とエネルギービーム照射方向との平行の一致、不一致を容易に判断することができ、これを一致する方向に試料片の角度を正確且つ容易に修正することができる。即ち、エネルギービーム照射方向から見た積層ラインが段差の前後で直線状態に一致している場合には、エネルギービーム照射方向と積層とが平行状態にあり、よってエネルギービーム照射方向と被観察平面とが平行状態にあると判断できる。一方、エネルギービーム照射方向から見た積層ラインが段差の前後で直線状態に一致していない場合には、エネルギービーム照射方向と積層とが平行状態からズレている状態にあることが容易に判断できるのである。この場合には積層ラインが段差の前後で直線状態に一致するように修正することで、平行状態を達成することができる。
本発明の第2の特徴によれば、マーカ手段が、積層ラインを利用してそのラインの段差前後での一致、不一致で平行状態を見ることができるので、広範囲の領域にわたって平行状態の有無の判断を容易に、確実に行うことができると共に、ラインの一致をもって平行状態に修正することができ、平行状態の確認とその修正動作を容易に、確実に行うことができる。
勿論、前記段差は、その段の深さを大きくし、或いは被観察平面を挟んだ位置に対で形成し、或いは段差を複数個所に設け、或いは2段階の段差を形成する等、種々の段差を採用することができる。例えば被観察平面を挟む位置に対で段差を形成することで、被観察平面とエネルギービーム照射方向とのより確実な平行を確保することができる。
【0009】
また本発明の試料作製方法は、上記本発明の第1又は第2の特徴に加えて、マーカ手段形成工程は、被観察平面を同一平面内に含む積層若しくは被観察平面と平行な積層に対して、略直角方向にクロスする断面を形成して積層ラインを現出させると共に、前記断面に段差を形成して該段差の前後に連続する積層ラインを現出させることからなることを第3特徴としている。
【0010】
上記本発明の第3の特徴によれば、マーカ手段形成工程は、被観察平面を同一平面内に含む広範な積層がある場合には、その積層を利用して、その積層に略直角方向にクロスする断面を形成し、且つこの断面に段差を形成することで行うことができる。また被観察平面を含む積層と平行な積層がある場合には、この被観察平面と平行な積層を利用して、その積層に略直角方向にクロスする断面を形成し、且つこの断面に段差を形成することで行うことができる。
例えば半導体デバイス等のウエハおいては絶縁膜等が均質な層として形成されている場合が多く、且つそれらの層は観察したい層の面(被観察平面)に平行な層として形成している場合が多い。従ってこれらの積層面を利用することで、被観察平面とエネルギービーム照射方向との平行を合わせることが可能となるのである。
積層に略直角方向にクロスする断面を形成することで、積層のラインをより鮮明な細い線として現出させることができるので、積層ラインの観察がより容易となり、また段差を介した積層ラインの一致化作業が容易にできる。勿論、前記断面は略直角方向にクロスさせなければならないことはない。積層ラインが鮮明に観察できる程度に適当な角度でクロスしておればよい。
上記本発明の第3の特徴によれば、マーカ手段を、微小試料片に現出する平行度チェックや平行度修正が容易な積層ラインとして、容易に、確実に形成することができる。
【0011】
また本発明の試料作製方法は、上記本発明の第2又は第3の特徴に加えて、平行合わせ工程は、エネルギービームの照射方向から積層ラインを観察しながら、該積層ラインが段差の前後において直線状態に一致するように、微小試料片の傾きを修正させることからなることを第4の特徴としている。
【0012】
上記本発明の第4の特徴によれば、作業者はエネルギービームの照射方向から積層ラインを観察しながら、段差前後での積層ラインの直線状態の一致、不一致を容易に確認しつつ微小試料片の傾きを修正して、被観察平面がエネルギービームの照射方向に一致した試料を容易に、確実に作製することができる。
【0013】
また本発明の試料作製方法は、上記本発明の第1〜第4の何れかに記載の特徴に加えて、エネルギービームとして集束イオンビームを用いることを第5の特徴としている。
【0014】
上記本発明の第5の特徴によれば、集束イオンビームを加工手段として試料作製を行うようにしているので、試料の微細な加工を容易に、正確に短時間で行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の試料作製方法によれば、エネルギービームの照射方向と被観察平面との平行合わせを行うようにしているので、観察したい平面領域とエネルギービームの照射方向とを正確に平行にすることができ、よって広範囲にわたって現に観察することが可能な平面観察試料の作製を容易、確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下の図面を参照して、本発明の実施の形態に係る試料作製方法を説明し、本発明の理解に供する。しかし以下の説明は本発明の実施形態であって、特許請求の範囲に記載の内容を限定するものではない。
【0017】
図1は本発明の実施形態に係る試料作製方法に用いられる装置の概略を説明する図である。図2は試料作製の大まかな手順を説明する図である。図3は本発明の実施形態に係る試料作製方法のうち試料原板から微小試料片を摘出するまでの工程を説明する平面図、図4は微小試料片からマーカ手段を形成するまでの工程を説明する平面図、図5はマーカ手段を形成した状態を示す微小試料片の斜視図、図6はマーカ手段を形成した微小試料片から被観察平面を含む薄膜領域を加工する工程を説明する平面図である。
【0018】
まず図1を参照して、本発明実施形態に係る試料作製方法は、減圧状態にあるケース内、その他の減圧室内において、エネルギービームとして集束イオンビームを用いた集束イオンビーム加工装置を用いて行うことができる。集束イオンビーム加工装置は、少なくとも集束イオンビーム照射手段1と、試料ホルダー2と、試料台3を備えており、また試料移送用のマニピュレータプローブ4(図3参照)、デポジションガス供給手段5(図4参照)が備えられている。
前記試料ホルダー2は、試料台3を取り付けるための取付部2aを有し、該取付部2aが回転軸の回りに180度の角度、少なくとも90度を越える角度で回転できるように構成されている。これによって、試料の角度を実質的に全角度範囲で調整することができるようにしている。角度調整は例えば0.1度の精度程度とするが、作製されるべき平面観察試料の角度ズレの許容度に応じた調整角度精度を持つものを用意することになる。
【0019】
図2を参照して、本実施形態に係る試料作製方法では、原試料10から微小試料片20を摘出し、この微小試料片20から更に最終的な平面観察試料30を作製する。
前記原試料10は、光デバイス、電子デバイス、その他のデバイス用に作製される半導体ウエハ、半導体チップ、その他のウエハ、チップ等、その肉厚内に各種の積層L1、L2が構成された金属板、非金属板、その他イオンビームの照射による加工が可能な材料片が対象となる。このような原試料10から任意の箇所の微小な一部だけを摘出(採取)して微小試料片20とする。原試料10の他の部分は引き続いて製品等への利用可能性が保持される。
微小試料片20は、原試料10において観察を要する部位を内部に含むようにして摘出された試料粗片である。この試料粗片である微小試料片20から被観察平面を広範囲に含む薄膜領域31を持つ最終的な平面観察試料30が作製される。
最終的な平面観察試料30は、その薄膜領域31を、例えば10μm×10μm角、厚み400nmの薄膜領域とし、且つその薄膜内に厚み300nmの要観察部位の被観察平面全体が収まるような試料として作製される。
【0020】
今、例えば量子井戸を構成する活性層が、図2に示す原試料10の積層L1であり、その積層L1の観察したい平面領域が、例えば原試料10の中央付近の厚み内に位置している場合について、その観察したい平面領域(被観察平面)を観察できる試料の作製方法を説明する。
図3を参照して、図3は原試料10の平面である。まず原試料10から被観察平面を中に含む微小試料片20を摘出する微小試料片摘出工程を説明する。
摘出は、まず被観察平面を内部に含む矩形状(長方形を含む)の一定領域を切り取り部11として、その周辺部12を、集束イオンビームの照射により、垂直方向の溝として加工する(周辺部加工)(図3のイ)。この際、矩形状の一部、例えば矩形状の一辺を延長するような形で、支持部13を残す。
次に前記切り取り部11の一辺、具体的には前記支持部13が形成されている側の辺とは対向する一辺11aに対して、斜め方向、例えば45度方向に集束イオンビームを照射して、切り取り部11の底部を切断する(図3のロ)。この状態で、切り取り部11は支持部13によってのみ原試料10とつながっている。
次に原試料10を180度回転させて(図3のハ)、前記支持部13が形成されている側の辺とは対向する一辺11aに対して、その一辺11aの一方の隅に前記マニピュレータプローブ4の先端部を接合固定する(図3のニ)。接合固定は図示しないデポジションガスを両者の当接部に供給し、形成されるデポジション膜によって行うことができる。
次に前記マニピュレータプローブ4が接合固定された切り取り部11に対して、前記支持部13を集束イオンビームによって切断する(図3のホ)。
以上によって切り取り部11は、マニピュレータプローブ4によって原試料10から、微小試料片20として摘出される(図3のヘ)。
図3の(ヘ)は微小試料片20を斜視図として表している。この微小試料片20の表面(平面)21は、前記切り取り部11の表面(平面)であり、また原試料10の表面である。また符合22は微小試料片20の垂直切断矩形面(45度傾斜の場合は正方形となる)であり、符号23は微小試料片20の傾斜底面である。
【0021】
図4を参照して、前記微小試料片20にマーカ手段を形成するマーカ手段形成工程を説明する。
まず前記マニピュレータプローブ4により、それに接合固定された状態の微小試料片20を移動して、試料台3の側面3b(長方形側面)に接合固定する(図4のト)。接合固定はデポジションガス供給手段5を用い、微小試料片20の前記表面(平面)21が試料台3の上面(円弧状上面)3aに略平行になるようにして、微小試料片20の垂直切断矩形面22を試料台3の側面3bに接合固定する。
微小試料片20の試料台3への接合固定が終わると、次にマニピュレータプローブ4を集束イオンビームの照射によりスパッタ除去する。そして試料台3の上面3aが集束イオンビームの照射方向(図面上において紙面の表面側から裏面側に垂直方向に照射される)と略直角になるように配置する(図4のチ)。このとき微小試料片20の表面(平面)21も集束イオンビームの照射方向と略直角となる。
以上のように配置された微小試料片20に対して、試料台3から側方に突出する微小試料片の突出端辺側を、破線d1に示すような適当な幅をもって、集束イオンビームの照射により削除し、クロス断面CSを形成する。更に破線d2に従って集束イオンビームの照射によって段差Dを形成する(図4のリ)。
【0022】
図5も参照して、前記クロス断面CSは、微小試料片20の表面21に略直角な面である。従ってクロス断面CSは、微小試料片20の前記表面21に平行的に積層された各積層L1、L2に対しても、これを略直角方向にクロスするクロス断面となる。このため、クロス断面CSには各積層L1、L2の積層ラインk1、k2が現出することになるのである。勿論、クロス断面CSを形成することで、その断面上に観察したい領域を確認することができる。
更に前記クロス断面CSに段差Dを形成することで、前記積層L1、L2は段差Dを介して連続する積層ラインk1、k2として現出されることになる。
本実施形態では、この段差Dを介して段差Dの前後に連続して現出する積層ラインk1、k2がマーカ手段となる。
なお前記破線d1の位置は、前記段差Dを介した積層ラインk1、k2が十分観察できるような面積のクロス断面CSを現出させることができる位置とするが、当然ながら、被観察平面(観察したい領域)が破線d1よりも前記突出端辺側になることがないようにする。
【0023】
前記積層ラインk1、k2は、被観察平面が積層L1と同一平面上にある場合には、積層ラインk1だけが現出すればよく、積層ラインk2は現出する必要はない。一方、被観察平面を含む積層L1がなく或いは積層L1の積層範囲が狭くてクロス断面CSによってクロスされないような場合には、被観察平面と平行であって且つクロス断面CSによってクロスされるような積層L2を利用した積層ラインk2が用いられることになる。
また積層ラインk1、k2は、積層L1、L2そのものの断面ラインの他、積層界面を示す断面ラインであってもよい。本発明の積層ラインは積層界面を示すラインもその範疇に含むものとする。
【0024】
以上のようにして本実施形態では、マーカ手段は段差Dを介した積層ラインk1、k2として形成されるが、マーカ手段付きの微小試料片20から更に平面観察試料30を作製する工程を、図6に従って説明する。この工程は、マーカ手段に基づいて被観察平面(積層L1と同一平面上にある)を集束イオンビーム照射方向と一致させる平行合わせ工程と、集束イオンビームを照射して被観察平面を含む薄膜領域を加工する薄膜加工工程とからなる。
【0025】
まず平行合わせ工程を説明する。
図4(リ)で示す状態、即ち、試料台3の上面が集束イオンビーム照射方向に略直角となっている状態から、試料ホルダー2を操作して、試料台3の側面3bが集束イオンビーム照射方向に略直角になるようにする(図6のヌ)。
図6の(ヌ)を参照して、集束イオンビーム照射方向(図面上は紙面の上方から下方に向けて垂直な方向)に試料台3の側面3bを略直角に調整した状態では、微小試料片20のクロス断面CSも集束イオンビーム照射方向に略直角となる。このとき、各積層L1、L2については、集束イオンビーム照射方向に対して略平行にはなるが、あくまでも略であって、正確な平行状態が達成されているわけではない。
即ち、集束イオンビーム照射方向からクロス断面CS上に現れる積層ラインk1、k2を観察した際に、積層L1、L2が集束イオンビーム照射方向に正確に平行であれば、積層ラインk1、k2が段差Dの前後で正確に直線状態となるが、積層L1、L2が集束イオンビーム照射方向に対して傾斜している場合には、積層ラインk1、k2が段差Dの前後でズレた状態に見えることになる。
従って試料作製者は、集束イオンビーム照射方向から走査イオンビーム像又は走査型電子顕微鏡像でクロス断面CSの積層ラインk1、k2の像観察を行い、積層ラインk1、k2が段差Dの前後にてズレがある場合(図6のヌ)には、試料ホルダー2を操作して、前記積層ラインk1、k2が段差Dの前後で1直線上に一致するまで傾斜補正を行う。これによって積層L1、L2を集束イオンビーム照射方向に対して正確に平行状態にすることができる(図6のル)。
前記傾斜補正の操作は像観察を行いながらするので、ラインの一致状況を確認しながら確実に、容易に行うことができる。
【0026】
次に薄膜加工工程を説明する。
図6の(ヲ)を参照して、この薄膜加工工程では、集束イオンビームを被観察平面が属する積層L1に平行(図面上は紙面の上方から垂直下方)に照射して、被観察平面を含む薄膜領域31を加工する。集束イオンビーム照射による薄膜領域31の形成は、積層ラインk1(例えば300nm厚)が薄膜の厚み(例えば400nm厚)内に入るように、積層ラインk1に平行な線に沿って行い、薄膜領域31以外の部分を削り取り領域32として削り取る。集束イオンビームの照射による削り取りは、削り取る領域のみにイオンビームを照射することで、薄膜領域31を残して削り取ることを実現できる。
以上のようにして、薄膜領域31の表裏面が被観察平面(積層L1)に平行となるように試料の削り取りを行うことで、被観察平面を広範囲に含むことができる薄膜領域31を備えた平面観察試料30が作製される。なお他の部分33も適当に削り取り加工を施すことで、取り扱いに適した平面観察試料30の全体形状を得ることができる。
得られた平面観察試料30は、薄膜領域31をもって透過電子顕微鏡等による観察に供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡或いはX線やその他の光線、粒子線を用いて対象試料の微細域の観察(画像的観察の他、分析や計測を含む)を行うのに適した広範囲の平面観察試料を作製する方法として、産業上で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る試料作製方法に用いられる装置の概略を説明する図である。
【図2】試料作製の大まかな手順を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態に係る試料作製方法のうち試料原板から微小試料片を摘出するまでの工程を説明する平面図である。
【図4】微小試料片からマーカ手段を形成するまでの工程を説明する平面図である。
【図5】マーカ手段を形成した状態を示す微小試料片の斜視図である。
【図6】マーカ手段を形成した微小試料片から被観察平面を含む薄膜領域を加工する工程を説明する平面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 集束イオンビーム照射手段
2 試料ホルダー
2a 取付部
3 試料台
3a 上面
3b 側面
4 マニピュレータプローブ
5 デポジションガス供給手段
10 原試料
11 切り取り部
11a 一辺
12 周辺部
13 支持部
20 微小試料片
21 表面(平面)
22 垂直切断矩形面
23 傾斜底面
30 平面観察試料
31 薄膜領域
32 削り取り領域
L1、L2 積層
d1、d2 破線
k1、k2 積層ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギービームを照射することで、被観察平面を含む薄膜領域を有する平面観察試料を作製する試料作製方法であって、原試料から被観察平面を含む微小試料片を摘出する微小試料片摘出工程と、該微小試料片にエネルギービーム照射方向に対する被観察平面の傾きの有無を現出させるマーカ手段を形成するマーカ手段形成工程と、前記マーカ手段に基づいて被観察平面をエネルギービームの照射方向に一致させる平行合わせ工程と、被観察平面を照射方向に一致させた状態でエネルギービームを照射して被観察平面を含む薄膜領域を加工する薄膜加工工程とを有することを特徴とする試料作製方法。
【請求項2】
マーカ手段は、被観察平面を同一平面内に含む積層とクロスする断面若しくは被観察平面と平行な積層とクロスする断面において、該クロスする断面に形成した段差の前後に現出する前記積層のラインであることを特徴とする請求項1に記載の試料作製方法。
【請求項3】
マーカ手段形成工程は、被観察平面を同一平面内に含む積層若しくは被観察平面と平行な積層に対して、略直角方向にクロスする断面を形成して積層ラインを現出させると共に、前記断面に段差を形成して該段差の前後に連続する積層ラインを現出させることからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の試料作製方法。
【請求項4】
平行合わせ工程は、エネルギービームの照射方向から積層ラインを観察しながら、該積層ラインが段差の前後において直線状態に一致するように、微小試料片の傾きを修正させることからなることを特徴とする請求項2又は3に記載の試料作製方法。
【請求項5】
エネルギービームとして集束イオンビームを用いることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の試料作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−170225(P2008−170225A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2644(P2007−2644)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】