説明

試料作製装置および試料作製方法

【課題】 半導体装置表面に付着している微小異物を採取し、精度の良い観察、分析を行うことができる試料作製装置および試料作製方法を提供する。
【解決手段】 埋包試料30は、無機固体物12中に微小異物10を埋め込ませて採取したものである。無機固体物12が試料ホルダ14a、14bの左右方向に退けられ、微小異物10が上下の試料ホルダ14aと14bの対向面にそれぞれ直接接触するに至るまで埋包試料30を圧縮する。微小異物と上下の試料ホルダとの接触部分を結ぶ経路は、微小異物10以外の第3物質である無機固体物10によって阻害されることがない測定経路となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造時に混入する微小異物を採取し、分析を行うための試料作製装置および試料作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造において20〜50μmφの微小異物が半導体表面に付着することがある。そこで微小異物のこれ以上の付着を防ぐためには、微小異物を観察および分析し、発生源を特定してその発生を押さえることが必要となる。微小異物を観察、分析するための装置として、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)などが挙げられる。これらの装置を用いた分析に使用される試料は、一般的に目視または顕微鏡を見ながら手でピンセット等を用いて採取する。半導体装置表面に付着する微小異物は1点物であり、その観察、分析を確実に行うためには、試料を紛失しないことと同時に、観察、分析を精度良く行うことができる試料の作製が求められる。
【0003】
従来技術によると、微小試料を採取する際に、デポジション膜を用いて微小試料を保持する技術が提案されている。デポジション膜はタングステンや銅などの金属で形成されており、微小試料はデポジション膜によって確実に保持される。採取された微小試料は、観察、分析を行うための試料となる。これは特許文献1に開示されている。この技術によると、微小試料を紛失することなく確実に採取することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2000−162102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている技術では、微小試料を保持させるデポジション膜の部分が前記金属で形成されている。微小試料を観察、分析する時に、このような金属の膜などの微小試料以外の第3物質が測定経路上にあると、精度の良い観察、分析を行うことができない。例えば電子顕微鏡による観察では、測定経路上に微小試料以外の第3物質が存在すると、微小試料を正確に観察することができない。また分光分析では、光の通過経路上に微小試料以外の第3物質が存在すると、正確なピークが検出されず、微小試料の正確な分析を行うことができない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の試料作製装置は、機械的に制御することが可能であって、柔軟性を有する無機固体物が一方のプローブの先端に差し込まれている一対のプローブと、板状の第1試料ホルダと、第1試料ホルダに重ね合わせて用いる板状の第2試料ホルダを備えており、第1試料ホルダと第2試料ホルダの双方の対向面が、無機固体物より高い硬度を有していることを特徴とする。
【0007】
プローブの先端に差し込まれている無機固体物に埋め込んで採取した微小試料を、第1試料ホルダと第2試料ホルダによって挟みこむ。無機固体物が試料ホルダの左右方向へ退けられ、微小試料が上下の試料ホルダと直接接するに至るまで、無機固体物に埋め込まれている微小試料を圧縮する。微小試料が上下の試料ホルダとそれぞれ直接接している経路上には、第3物質である無機固体物が存在しないため、精度の良い観察、分析を行うことができる測定経路を確保することができる。
【0008】
試料作製装置では、第2試料ホルダの第1試料ホルダと対向する面が、第1試料ホルダに向けて凸に湾曲していることが好ましい。微小試料が埋め込まれている無機固体物を第1試料ホルダと第2試料ホルダで圧縮する際に、第2試料ホルダに形成されている凸の湾曲部によって無機固体物がホルダの左右方向へ退けられやすくなるため、凸の湾曲部は微小試料とホルダを直接接触させるための補助的な役割を果たす。
【0009】
本発明は、試料作製装置を用いた試料の作製方法をも提供する。本発明の試料作製方法は、微小試料を無機固体物に埋め込んで採取する工程と、第1試料ホルダ上に、微小試料が埋め込まれている無機固体物を配置する工程と、第1試料ホルダ上に配置された無機固体物からプローブを分離する工程と、第1試料ホルダと第2試料ホルダを、微小試料が第1試料ホルダと第2試料ホルダの双方の対向面にそれぞれ直接接するに至るまで接近させる工程を備えている。
【0010】
試料を作製する場合、まず、無機固体物が差し込まれているプローブを機械的に操作して、微小試料を無機固体物に埋め込んで採取する。無機固体物は柔軟性を有するため、微小試料を埋め込んで確実に採取することができる。次に、無機固体物に埋め込まれている微小試料(以下「埋包試料」という)を第1試料ホルダ上に配置する。先端に何も差し込まれていないもう一方のプローブを操作することによって、埋包試料が差し込まれているプローブから埋包試料をそぎ落とし、第1試料ホルダ上へ埋包試料を配置することができる。
【0011】
次に、埋包試料が配置されている第1試料ホルダに第2試料ホルダを重ね合わせ、第1試料ホルダと第2試料ホルダを接近させて埋包試料を試料ホルダで挟み込む。第1試料ホルダと第2試料ホルダの双方の対向面は、無機固体物より高い硬度を有しているため、埋包試料を第1試料ホルダと第2試料ホルダによって圧縮することができる。
【0012】
さらに第1試料ホルダと第2試料ホルダを、微小試料が第1試料ホルダと第2試料ホルダの双方の対向面にそれぞれ直接接するに至るまで接近させ、薄片化させる。このとき無機固体物は圧縮されることによって試料ホルダの左右方向へ退けられる。その結果、微小試料が第1試料ホルダおよび第2試料ホルダにそれぞれ直接接している経路上には第3物質である無機固体物が存在しなくなる。すなわち微小試料以外の第3物質によって阻害されない測定経路が形成される。
【0013】
本発明の第2の試料作製装置は、機械的に制御することが可能であって、正負のどちらにも帯電させることが可能な一対のプローブを備えており、一対のプローブのうち一方は正に帯電しており、他方は負に帯電していることを特徴とする。帯電している微小異物を採取する場合、異なる極性に帯電しているプローブを近づけることにより、微小異物を採取することができる。微小試料を試料ホルダ上に配置する際には、微小試料を試料ホルダへ置いた後、微小試料が付着しているプローブに逆バイアスをかけることにより、微小試料を試料ホルダ上に配置することができる。
【0014】
微小試料が配置されている試料ホルダに他の試料ホルダを重ね合わせて、挟みこむことにより、微小試料を圧縮することができ、観察、分析用の試料とすることができる。試料には無機固体物など微小試料以外の第3物質は存在しないため、微小試料の精度の良い観察、分析を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、半導体装置上に付着している微小異物を採取し、精度の良い観察および分析を行うことができる試料を作製することができる。作製した試料は、微小異物以外の第3物質によって測定経路が阻害されることなく、観察、分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
下記に説明する実施例の好ましい特徴を列記する。
(第1特徴) 無機固体物の材料としてインジウムを用いる。
(第2特徴) 無機固体物の形状を扁平球体状にする。
(第3特徴) プローブがマイクロマニピュレーターに備え付けられている。
(第4特徴) 作業時に35℃以上の加熱を行わない。
(第5特徴) 第2試料ホルダに湾曲形成されている凸部と試料ホルダ面がなす鋭角の角度は1°以下である。
【実施例】
【0017】
(第1実施例)
図1に、本発明の第1実施例の試料作製装置について、プローブ付近の断面図を示す。一対のプローブ14a、14bのうち、一方のプローブ14aの先端には扁平球体状の無機固体物12が差し込まれている。他方のプローブ14bには何も差し込まれていない。半導体ICのリードピン16上に微小試料10が付着している。
【0018】
図2に、微小異物が付着している半導体ICの上視図を示す。微小試料(微小異物)10は半導体IC20のリードピン16上に付着している。大きさは20〜50μmφであり、微小であるため、微小試料を採取するためのプローブの操作には高い精度が求められる。そのため、高精度に制御する装置として公知であるマイクロマニピュレーターにプローブが備え付けられていることが好ましい。
【0019】
図3に、第1実施例又は後記する第2実施例の試料作製装置を用いて、微小試料を採取したときのプローブ先端の拡大断面図を示す。プローブ14aの先端に差し込まれている無機固体物12に微小試料10を埋め込んで採取している。無機固体物12に埋め込まれている微小試料10を埋包試料30とする。
【0020】
図4に、第1試料ホルダ40a上に配置されている埋包試料30からプローブ14aを抜いたときの断面図を示す。埋包試料30からプローブ14aを抜いた後、埋包試料30中の無機固体物12には、プローブを抜いた部分に孔が形成されている。後記する上下の試料ホルダによって埋包試料30を圧縮する際に、この孔が形成されていることによって、埋包試料30中の無機固体物12が試料ホルダの左右方向(矢印方向)へ退けられやすくなる。
【0021】
図5に、埋包試料30を試料ホルダで圧縮している状態の断面図を示す。埋包試料30を上下から圧縮している第1試料ホルダ40aおよび第2試料ホルダ40bはダイヤモンドで形成されている。ダイヤモンドは硬度が非常に高いため、埋包試料30を容易に圧縮することができる。埋包試料30中の無機固体物12が試料ホルダの左右方向に退けられ、微小試料10が上下の試料ホルダの対向面にそれぞれ直接接するに至るまで埋包試料30を圧縮する。
【0022】
微小試料が上下の試料ホルダに直接接することにより、図5に示す矢印方向に分析を行うための測定経路が形成される。矢印方向に測定を行うことで、測定経路を無機固体物に阻害されることなく観察、分析を行うことができる。例えば電子顕微鏡による観察では、矢印方向に観察することにより、測定対象である微小試料の表面に無機固体物がないので、無機固体物に阻害されることなく微小試料を観察することができる。また分光分析では、光の経路を矢印方向にすることで、無機固体物に阻害されることなく光が微小試料を透過し、あるいは微小試料によって吸収され、精度の良い分光分析を行うことができる。
【0023】
微小試料を埋め込んで採取するため、無機固体物は柔軟性を有することが求められる。柔軟性を有する金属としてインジウムは汎用的な材料であり、他の材料と比べて比較的安価に入手できる。そのため、無機固体物の材料にはインジウムを用いるのが好ましい。
【0024】
無機固体物の形状は扁平球体状にすることが好ましい。左右方向に広がっている形状であるため、埋包試料を試料ホルダで圧縮する際に、無機固体物が左右方向に広がりやすくなる。その結果、微小試料が第1試料ホルダと第2試料ホルダの対向面にそれぞれ接しやすくなるからである。
【0025】
試料作製を行う際の環境温度は35℃以下であることが好ましい。35℃以上になると有機物が変質してしまうおそれがあるため、観察時に当初の微小異物とは異なる外観で観察される可能性があるからである。また分光分析時には、当初の微小異物に含まれていた有機成分とは異なる有機物のピークが検出されてしまう可能性があるため、微小異物の分析が困難になるからである。
【0026】
(第2実施例)
図6に、本発明の第2実施例の試料作製装置について、試料ホルダの断面図を示す。第2試料ホルダ40bの第1試料ホルダ40aとの対向面には、第1試料ホルダ40aに向かって凸状の湾曲部分40cが形成されている。埋包試料30からプローブ14aを抜いた部分に形成されている孔(図4参照)に湾曲部分40cを接触させた状態で、埋包試料30を上下の試料ホルダで圧縮することにより、埋包試料30中の無機固体物は左右方向へ退けられやすくなる。湾曲部分40cは、埋包試料30中の微小試料を上下の試料ホルダに直接接するに至るまで圧縮するための補助的な役割を果たす。
【0027】
分光分析用の試料を作製する場合、第2試料ホルダに湾曲形成されている凸部と、試料ホルダ面がなす鋭角の角度が1°以下である事が好ましい。1°以上の場合、片側の試料ホルダから入射した光が、凸部によって曲げられることで、透過スペクトルへの影響が考えられるため、精度の良い測定を行うことができないからである。
【0028】
(第3実施例)
図7に、本発明の第3実施例の試料作製装置について、プローブ先端の図を示す。第3実施例の試料作製装置は、一対のプローブ54a、54bを備えている。一方のプローブ54aは正に帯電しており、他方のプローブ54bは負に帯電している。微小試料10が帯電している場合、微小試料10は異なる極性に帯電しているプローブの方に付着する。微小試料10を第1試料ホルダ上に置いた後、微小試料10が付着しているプローブに逆バイアスをかけることにより、微小試料10とプローブの間に反発力が生じ、第1試料ホルダ上に微小試料10を配置することができる。
【0029】
微小試料10が配置されている第1試料ホルダに第2試料ホルダを重ね合わせて、挟みこむことにより、容易に微小試料10を圧縮することができ、観察、分析用の試料を作製することができる。試料には無機固体物など微小試料以外の第3物質は存在しないため、微小試料の精度の良い観察、分析を行うことができる。
【0030】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1実施例の分光分析用試料作製装置のプローブ先端の図を示す。
【図2】半導体ICのリードピン上に微小試料が付着している図を示す。
【図3】微小異物が埋め込まれている無機固体物の図を示す。
【図4】微小異物が埋め込まれている無機固体物からプローブを抜いた図を示す。
【図5】試料ホルダによって圧縮された微小試料が埋め込まれている無機固体物の図を示す。
【図6】第2実施例の分光分析用試料作製装置の試料ホルダの図を示す。
【図7】第3実施例の分光分析用試料作製装置のプローブ先端の図を示す。
【符号の説明】
【0032】
10:微小試料(微小異物)
12:無機固体物
14a:無機固体物が差し込まれているプローブ
14b:プローブ
16:半導体ICのリードピン
20:半導体IC
30:埋包試料
40a:第1試料ホルダ
40b:第2試料ホルダ
40c:第2試料ホルダの凸状の湾曲部分
54a:正に帯電しているプローブ
54b:負に帯電しているプローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的に制御することが可能であって、柔軟性を有する無機固体物が一方のプローブの先端に差し込まれている一対のプローブと、
板状の第1試料ホルダと、
前記第1試料ホルダに重ね合わせて用いる板状の第2試料ホルダを備えており、
前記第1試料ホルダと第2試料ホルダの双方の対向面が、前記無機固体物より高い硬度を有していることを特徴とする試料作製装置。
【請求項2】
前記第2試料ホルダの前記第1試料ホルダと対向する面が、前記第1試料ホルダに向けて凸に湾曲していることを特徴する請求項1に記載の試料作製装置。
【請求項3】
請求項1に記載の試料作製装置を用いて試料を作製する方法であり、
微小試料を前記無機固体物に埋め込ませて採取する工程と、
前記第1試料ホルダ上に、微小試料が埋め込まれている無機固体物を配置する工程と、
前記第1試料ホルダ上に配置された無機固体物からプローブを分離する工程と、
前記第1試料ホルダと前記第2試料ホルダを、微小試料が前記第1試料ホルダと前記第2試料ホルダの双方の対向面にそれぞれ直接接するに至るまで接近させる工程を備えている試料作製方法。
【請求項4】
機械的に制御することが可能であって、正負のどちらにも帯電させることが可能な一対のプローブを備えており、
前記一対のプローブの一方は正に帯電しており、他方は負に帯電していることを特徴とする試料作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−216069(P2008−216069A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54358(P2007−54358)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】