説明

試料形状補正方法

【課題】 試料の厚みに特定した所定の試料の補正を考慮した場合に、複雑な工程を不要としながらも精度の高い蛍光X線分析方法を可能とする。
【解決手段】 蛍光X線分析方法による分析対象試料の形状を補正するための試料形状補正方法であって、試料の蛍光X線スペクトルにおけるピークの出ない高エネルギー領域AR−Hのバックグラウンド強度BG1、BG2に基づいて試料の厚みを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析方法による定量分析の対象となる試料の形状を補正するための試料形状補正方法であり、特に試料の厚みを補正する試料形状補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析はX線を試料に照射した結果得られる蛍光X線を分析することで元素を定量するために用いられる分析方法である。
【0003】
図5は、蛍光X線分析装置の構成図である。図5において、101はX線管球で、該X線管球101からの一次X線102を試料103に照射し、試料103から励起されて発生する蛍光X線104を、エネルギー分散型X線検出器(EDS検出器)105で検出し、試料の分析を行うように構成されている。
【0004】
一般に、定量分析は試料の面積がX線照射領域より十分大きく、また試料の厚みが検出器に検出されるX線強度に影響しないほど十分な厚みが有ることを前提としている。したがって、図5に示した蛍光X線分析装置では、試料103を理想的な形状(一次X線が十分当たり、凹凸のない形)にしないと正しい定量分析精度が得られない。このような条件が満たされない場合は、常に同じ条件となるように試料形状を揃える必要がある。
【0005】
つまり、試料103の面積が小さくて十分にX線が当たらないときや試料の厚さが薄くX線が透過していくときは分析値が真値より低く算出されてしまう。この影響をなくすために、通常プレスによる固形化及び表面研磨等の前処理を行うことが多い。
【0006】
そこで、試料に対し前処理をしなくても測定できるように形状を補正する方法が考えられてきた。下記特許文献1は、分析対象試料を、蛍光X線と散乱X線との強度比による検量線を求める主要成分と、共存成分とからなるものと仮定して、共存成分の主要成分に対する吸収に関する補正係数を、分析対象試料の組成を仮定して理論計算により算出し、分析対象試料から測定算出した強度比に、補正係数を用いた検量線を適用し、分析対象における主要成分の含有率を求める技術を開示している。
【特許文献1】特開平10−82749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献1による方法では、予め検量線を求めておき、また蛍光X線の強度と散乱X線の強度を測定し、さらに両強度の比を算出する他、補正係数を分析対象試料の組成を仮定して理論計算により算出し、これらの各ファクタを用いて、試料の主要成分の含有率を求めるという工程を要している。
【0008】
試料の厚みに特定した所定の試料の補正を考慮した場合には、複雑な工程を不要としながらも精度の高い分析方法が望まれる。
【0009】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、所定の試料の厚みに特定した補正を考慮した場合に、複雑な工程を不要としながらも精度の高い蛍光X線分析方法を可能とする、試料形状補正方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る蛍光X線分析方法は、前記課題を解決するために、蛍光X線分析方法による分析の対象となる試料の形状を補正するための試料形状補正方法であって、前記試料の蛍光X線スペクトルにおけるピークの出ない高エネルギー領域のバックグラウンド強度に基づいて試料の厚みを補正する。
【0011】
高エネルギーエリアのバックグラウンドBG1及びバックグラウンドBG2は、高分子材料、特にプラスチックサンプルならどんな試料でもほとんど変化しない。よって、高分子材料の試料を分析の際には、厚みが不十分でも、本発明の試料形状補正方法に基づいて、厚みを補正することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る試料形状補正方法は、試料の蛍光X線スペクトルにおけるピークの出ない高エネルギー領域のバックグラウンド強度に基づいて試料の厚みを補正するので、所定の試料の試料の厚みに特定した補正を考慮した場合に、複雑な工程を不要としながらも精度の高い蛍光X線分析方法を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。本実施の形態は、高分子材料の具体例であるプラスチックを分析対象試料とし、プラスチックを構成する元素を定量する場合の、蛍光X線分析方法に適用できる試料形状補正方法である。
【0014】
プラスチックは、高分子材料の一種であり、比較的低密度で下地の無い材料である。蛍光X線分析方法では、試料の厚みが検出器に検出されるX線強度に影響しないほど十分な厚みが有ることが望まれる。しかし、厚みが十分とれないプラスチック試料しか用意できない状況では、試料を破壊しないでも定量分析を可能にすることが望まれる。
【0015】
そこで、プラスチックの試料の場合には、本発明により、プラスチックの蛍光X線スペクトルにおけるピークの出ない高エネルギー領域のバックグラウンド強度に基づいて試料の厚みを補正する。以下、プラスチック試料にあって厚み方向の補正を可能とする原理について説明する。
【0016】
図1は、厚さが十分なプラスチック試料のスペクトル1と、厚さが不十分なプラスチック試料のスペクトル2を示す蛍光X線スペクトル図である。横軸はエネルギー(keV)、縦軸は元素の濃度に対応している。濃度は時間S(秒)におけるカウント値Cを、さらに電流値mAで除算した値である。スペクトル1及びスペクトル2ともピークが各元素を示している。スペクトル1にあって各元素の濃度は、ピークの面積に関係する。
【0017】
スペクトル2の方が全ての元素においてピークがスペクトル1よりも小さくなっている。試料の厚さが十分とれないとき、ピークの面積が小さくなっていることを示す。つまり、試料が薄いときには、各元素の濃度が低く算出される。
【0018】
図1にあって、エネルギーが30keV以上のエリアすなわち高エネルギーエリアにはスペクトル1及びスペクトル2ともピークが現れておらず、バックグラウンドBG1及びバックグラウンドBG2のみが見られる。バックグラウンドは、ピークがほとんど見られないエネルギー領域である。この高エネルギーエリアの、特に33.5keV〜35.5keVのエリアAR−HのバックグラウンドBG1及びバックグラウンドBG2はプラスチックサンプルならどんな試料でもほとんど変化しない。
【0019】
図2は、33.5keV〜35.5keVのエリアAR−HのバックグラウンドBG1及びバックグラウンドBG2の面積SP1及びSP2を取り出して比較する図である。本実施の形態では、このエリアAR−HのバックグラウンドBG1及びバックグラウンドBG2の面積SP1及びSP2は、プラスチック試料の厚みにのみ依存して変化するものと見なすことができる。
【0020】
図3は、高エネルギーエリアにおけるプラスチック試料の厚みの変化に対するエリアAR−HにおけるバックグラウンドBGの面積比の変化を示す特性図である。厚みd3までBGの面積比yはリニアに変化する。ここで、面積比yとは、基準とする厚みd0のバックグラウンドの基準面積BG0に対する相対値BG/BG0をいうものとする。
【0021】
本実施の形態では、試料の厚みとBGの面積比が厚みd3(面積比y3)までの領域でリニアであることを利用して、プラスチック試料の厚みをバックグラウンドBGの面積比に基づいて補正する。例えば、図1のスペクトル1及びスペクトル2の試料がそれぞれ厚みd1及びd2であるものとすると、スペクトル2に係数y1/y2をかけることでスペクトル2を厚みd1に相当するスペクトルに変換することができる。
【0022】
具体的に、図1において厚みd2に対応するスペクトル2におけるPbのピークの一つの強度I2について、このI2に前述の係数y1/y2をかけることで厚みd1に相当するスペクトル1のPbのピークの一つの強度I1に変換することができる。したがって、厚みd1について強度I1と濃度の検量線が求められている場合、他の厚みd2における強度I2についても、厚みd1に相当するように変換した強度(y1/y2)・I2を用いて前記検量線から濃度を得ることができる。このように、本実施の形態によると、試料の厚みにかかわらず、検量線を用いてPbなどの含有成分の濃度を測定することができる。
【0023】
図4は、本発明の試料形状補正方法を適用してプラスチック試料の厚みを補正し、プラスチック試料の定量分析を行う蛍光X線分析装置の構成図である。X線管球101からの一次X線102を試料103に照射し、試料103から励起されて発生する蛍光X線104を、EDS検出器105で検出する構成は既に説明した通りである。
【0024】
EDS検出器105は、例えばSi半導体検出器110にて蛍光X線104を検出する。Si半導体検出器110は検出したX線の強度を電流に変換して出力し、信号処理部111はSi半導体検出器110の出力を前述のようにバックグランドBGの面積を用いてスペクトルを所定の厚みd1の試料に相当するものに変換する。これによって、厚みd1の試料について与えられた検量線を用い、所定の成分の濃度を求めることができる。
【0025】
このように、試料103が厚さの不十分なプラスチックであっても、コンピュータシステム112は、前述した試料形状補正方法に基づいて厚さを補正し、プラスチック試料の定量分析を、複雑な工程を不要としながらも高精度のうちに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】相互に厚さの異なる二つのプラスチック試料の蛍光X線スペクトル図である。
【図2】高エネルギーエリアのバックグラウンドの拡大図である。
【図3】高エネルギーエリアにおけるプラスチック試料の厚みの変化に対するバックグラウンドBGの面積比の変化を示す特性図である。
【図4】本発明の試料形状補正方法を適用してプラスチック試料の厚みを補正し、プラスチック試料の定量分析を行う蛍光X線分析装置の構成図である。
【図5】一般的な蛍光X線分析装置の構成図である。
【符号の説明】
【0027】
101 X線管球、102 一次X線、103 試料、104 蛍光X線、105 EDS検出器、110 信号処理部、112 コンピュータシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光X線分析方法による分析対象試料の形状を補正するための試料形状補正方法であって、
前記試料の蛍光X線スペクトルにおけるピークの出ない高エネルギー領域のバックグラウンド強度に基づいて試料の厚みを補正することを特徴とする試料形状補正方法。
【請求項2】
高分子材料試料の厚みを補正することを特徴とする請求項1記載の試料形状補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−71496(P2006−71496A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256034(P2004−256034)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【出願人】(000232324)日本電子エンジニアリング株式会社 (11)
【Fターム(参考)】