説明

試料溶液の固相抽出装置

【課題】固相カートリッジへの試料水送液を、時間を短縮して、一定した送液速度で送るための一ポンプ等の駆動源により複数の固相に試料をチャージを可能とする固相抽出装置を提供する。
【解決手段】二つの駆動シリンジに対し、複数のシリンジを対応設置させる。各シリンジにはプランジャーを嵌合してあり、プランジャーは駆動シリンジに係合させてある。各シリンジは逆止弁を介して、所望の固相カートリッジに連結させてある。一方の駆動シリンジに対応する複数のシリンジは別々の逆止弁を介して固相に連結して、他方の駆動シリンジも同様である。駆動シリンジの作動により、交互に夫々の固相に送液する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、複数試料溶液の固相抽出装置に関するもので、更に詳しくは固相カートリッジへの試料を加圧送液する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水道水や環境水中に残留する農薬分析のための前処理として固相抽出が使用されている。従来技術としては、シリンジポンプを2つ用いバルブで切り替え、2流路で固相カートリッジへ送液する構成、二つの駆動装置による1流路で送る連続送液や、一つの駆動装置で1検体のみの送液装置が実施されていた。
【0003】
液体試料を高速で送液する場合、例えば設定容量1000mlの試料を100ml/minで送液した時、従来法に於いて精製水970ml、河川水850mlとなり、試料溶液の粘性により試料固相負荷装置内部圧力が減圧になり、特に河川水では約15%の誤差が生じ、正確な送液が出来ない。
【0004】
又、例えば従来異なる量を送液する場合、送液する量毎に別箇の装置を必要とし、夫々購入せざるを得なかった。
【0005】
【特許文献1】特開2006−170178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、固相カートリッジへ試料を大量に送液する際、多くの時間がかかり、一定した送液速度を確保することが出来ない。又、分析者により結果の偏りがある等の問題がある。
このため、多数の検体の処理には多数の処理装置が必要となり、処理費用の増大、設置場所の確保等の固相前処理に費用と時間がかかり、前処理の効率化とコストパフォーマンスが求められていた。
【0007】
又、試料によっては、例えば高粘性試料溶液の如く正確な送液が出来ない場合もあり、簡単な固相抽出法の使用も限られるケースもあり、その使用範囲が限定され、よりコストのかかる処理を取らざるを得ないこともある。特に、GC分析に於いては、送液誤差は1%までが許容範囲であり、これに対応する送液誤差をクリアーすることは至難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明に於いては、上記の諸問題を解決するため、複数のシリンジを用いて連続的に加圧送液を行なえるようにし、固相カートリッジへの試料送液の時間短縮、一定した送液速度を保てると共に、複数種類の検体の前処理をも一台で行なえる、更に極めて精度の高い正確な送液装置システムを提案し、更に下記の各手段を提案せんとするものである。第一に、二つの駆動シリンジを一の駆動部で交互に駆動を繰り返しさせると共に、夫々の駆動シリンジに対応して複数のプランジャーを係合させ、該プランジャーの嵌合する各シリンジは所望の固相に連結することを特徴とする試料溶液の固相抽出装置を提案する。
【0009】
又、第二に、一つの駆動シリンジに取付けられた複数のシリンジを各々異なる容量とすることにより、異なった容量の送液を一定時間内に送液することを特徴とする請求項1記載の試料溶液の固相抽出装置を特徴とする。
【0010】
又、第三に、前記シリンジによる試料溶液の吐出及び/或いは吸引と関連して、二つの駆動シリンジの夫々が一時停止時間を置くように制御されることを特徴とする試料溶液の固相抽出装置を提案する。
【0011】
又、第四に、固相抽出装置に試料温度測定のための温度センサーを備え、該温度センサーからの出力データを記録部に送り、記録することを特徴とする試料溶液の固相抽出装置を提案する。
【0012】
又、第五に、試料温度測定のための温度センサーで得られた温度データにより、試料固相負荷が行なわれる前に温度制御部で、試料溶液を設定温度に制御することを特徴とする試料溶液の固相抽出装置を提案する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の駆動シリンジに対応した複数のシリンジを用いて、連続的に加圧送液が行なえ、特にシリンジを各駆動シリンジに複数置くことによって、異なるメソッドを同時に処理することが出来、それにより多成分の有害物質の前処理が一度に効率的に行なえる。勿論、連続的な加圧送液が行なえ、固相カートリッジへの試料水送液の時間短縮、一定した送液速度供給が可能である。
この結果、多量試料中の農薬等の微量目的物質を効率的かつ迅速に固相抽出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明一実施例について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施例を示す概略説明図で、4本のシリンジを二つの駆動シリンジで駆動し、2個の固相カートリッジに試料溶液を供給する試料溶液供給装置である。
【0016】
本実施例は、二つの駆動シリンジ3,31と4個のシリンジ1A、1B、1C、1D及び該シリンジに嵌合されたプランジャー2A、2B、2C、2Dより構成されている。二つの駆動シリンジ3,31はモーター(図示せず)に駆動されて上下動する既知の構成、例えばポールネジ等を使用して作動できる。
【0017】
5は、試料溶液で、該試料溶液5に一端を連通した吸引流路6A、6B、6C、6Dによって、夫々逆止弁9A、9B、9C、9Dに連結させてある。逆止弁9A、9B、9C、9Dの一端は、夫々シリンジ1A、1B、1C、1Dに他端は吐出流路7A、7B、7C、7Dによって固相カートリッジ4,41に連結してある。
【0018】
ここで、固相カートリッジ4,41としてあるのは、所謂固相であり、カートリッジタイプに限らずシリンジバレル型やルアーデバイス型、ディスク型、ディスイカートリッジ等のも含むものである。
【0019】
この実施例では、シリンジ1A、1B、1C、1Dは、等容量のものを使用し、2個のシリンジ1A、1Bは、平行してプランジャー2A、2Bを介して駆動シリンジ3に、シリンジ1C、1Dは、平行してプランジャー2C、2Dを介して、駆動シリンジ31に夫々係合させてある。
【0020】
そして、シリンジ1Aとシリンジ1Cは、逆止弁9A、9Cを経て吐出流路7A、7Bを介して固相4に接続し、シリンジ1Bと1Dは逆止弁9B、9Dを経て、吐出流路7C、7Dを介して固相41に接続してある。
【0021】
その作動について説明すれば、駆動シリンジ31の上昇により、プランジャー2C、2Dは上昇し、シリンジ1C、1Dに吸引収納されている試料溶液8Cは、圧縮されて逆止弁9Cを介して吐出流路7Bを経て固相4に、試料溶液8Dは圧縮されて、逆止弁9Dを介して吐出流路7Dを経て固相41に夫々供給される。
【0022】
一方、駆動シリンジ3は下降し、プランジャー2A、2Bは下降する。これにより、シリンジ1A、1Bは吸引されると逆止弁9A、9Bは開放され、吸入流路6A、6Bを経て試料溶液5を吸入し、夫々のシリンジ1A、1B内に試料溶液8A8Bを吸入収納する。
【0023】
このようにして、一方のシリンジ1C、1Dが最後まで吐出されると、他のシリンジ1A、1Bが満杯に吸引し、次にシリンジ1A、1Bから吐出が始まり、シリンジ1C、1Dは吸入動作に入る。
【0024】
このように、常時、4本のシリンジを交互に動作させることで、2流路への供給が円滑に実施される。
又、この動作は、シリンジ容量の異なる図2に示す実施例に於いても、全く変わることなく実施される。
【0025】
液体試料を高速で送液する場合、前述の如く試料溶液の粘性により、試料固相抽出装置の内部圧力、例えばシリンジ、吐出流路、吸入流路等が減圧になり、正確な送液が出来ない。又、シリンジ内の気泡混入の問題もある。
上記本願発明を用いることによって、高粘性試料溶液の正確な送液が可能となる。
100ml/minの時(設定量1000ml、シリンジ容量5ml、2秒停止)、精製水で990ml、河川水で991mlとなり、前述の従来法に対し大幅に改善された(図4)。
【0026】
一台のシステムで異なる試料水送液スピードのメソッドを同時に処理することが実現できる。例えば、一方で5mlのシリンジを用いて、10ml/minの送液をした場合、他方に1mlのシリンジを取り付けると、2ml/minの送液が可能である。別紙図4に示す表の如く使用可能である。
【0027】
試料溶液の一部対象では、水温の影響があるため温度データを記録しておく必要がある。センサー10で測定された水温は、記録計11に記録される。
センサー10の設置場所として、a、固相カートリッジ自体がある。aにおける測定は、固相自体の管理に役立つ。b試料溶液内の場合、耐溶液性が必要である。試料溶液の吸着等の恐れがある場合は、c、ライン上などラインの配管等の温度が伝わる所で測定をする。
【0028】
従来法では、一定温度のみ制御を行なうため、システム全体を温度調整したり、試料液のみを温度調整していた。しかし、この方法では、試料溶液の保存性に関係がなければ不要な温度制御を行なわないので、効率的に温度制御を行ない、固相への負荷温度をコントロール出来る。
固相へ負荷される試料温度を制御することで、安定した固相吸着、(ラインへの吸着低減、試料損失低減、固相への負荷率増大、固相への試料負荷量軽減等)が出来る。
【0029】
温度制御部について説明する。
センサー10より受け取った試料溶液温度に対し、温度制御部12は、コントローラーの設定温度に制御することによって、試料溶液を前記設定温度にする。温度制御部12は、加熱が必要な場合は、ヒーターを用いる。冷却が必要な場合は、冷媒を用いる。冷媒の種類には、ペルチャやファンによる空冷、液体窒素或いはドライアイス等がある。
【0030】
制御場所について説明する。
試料溶液ボトルや固相へ付加する前、ライン上等、固相へ負荷される直前まで制御できるが、固相自体への設置が多用される。
【0031】
PCBなどの脂溶性の高い成分は、ガラス容器に吸着する。このシステムを使用すれば、吸着のし易い試料容器内の試料溶液は、温度を上げて吸着を低減できる。しかも、固相へ負荷される液は、固相へ確実に吸着できるように冷却し、保持させることが出来る。
【0032】
本発明の作動について、特記されるべき点は、二つの駆動シリンジの高速駆動により、高速で送液する場合、試料溶液5を一定量シリンジ1内に吸引或いは試料溶液8を一定量シリンジ1外に吐出した場合、その終了時点で、二つの駆動シリンジの作動を止め、プランジャー2の動作を停止して、一時停止時間を置き、次の動作に入ることである。
【0033】
この一時停止は、試料溶液の粘性を考慮して、所望量の吸引、吐出が出来る程度、および溶液内の気泡(空気空間)が混入しない程度の時間、溶液によって定められるが、約1〜20秒程度停止させるものである。
この停止動作は、モーター、駆動シリンジの作動制御部に於いて、所望時間を設定して適宜選択するプログラムにより制御できる。
【0034】
この一時停止時間を置いて動作させることにより、粘性の高い試料溶液の正確な送液が可能になり、装置自体の活用効率を高めることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明一実施例概略作動説明図
【図2】本発明他実施例概略作動説明図
【図3】本発明一要部概略説明図
【図4】本発明と従来法による実施例比較表
【図5】本発明一実施例による異メソッド比較表
【符号の説明】
【0036】
1 シリンジ
2 プランジャー
3 駆動シリンジ
4 固相
5 試料溶液
6 流路(吸引)
7 流路(吐出)
8 試料溶液(シリンジ内)
9A/9B 逆止弁
9C/9D 逆止弁
10 センサー
11 記録部
12 温度制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの駆動シリンジを一の駆動部で交互に駆動を繰り返しさせると共に、夫々の駆動シリンジに対応して複数のプランジャーを係合させ、該プランジャーの嵌合する各シリンジは所望の固相に連結することを特徴とする試料溶液の固相抽出装置。
【請求項2】
一つの駆動シリンジに取付けられた複数のシリンジを各々異なる容量とすることにより、異なった容量の送液を一定時間内に送液することを特徴とする請求項1記載の試料溶液の固相抽出装置。
【請求項3】
前記シリンジによる試料溶液の吐出及び/或いは吸引と関連して、二つの駆動シリンジの夫々が一時停止時間を置くように制御されることを特徴とする請求項1又は2記載の試料溶液の固相抽出装置。
【請求項4】
固相抽出装置に試料温度測定のための温度センサーを備え、該温度センサーからの出力データを記録部に送り、記録することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の試料溶液の固相抽出装置。
【請求項5】
試料温度測定のための温度センサーで得られた温度データにより、試料固相負荷が行なわれる前に温度制御部で、試料溶液を設定温度に制御することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の試料溶液の固相抽出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−215859(P2008−215859A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49993(P2007−49993)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年8月30日〜9月1日 社団法人 日本分析機器工業会主催の「第44回「2006年分析展」」にて出品
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】