説明

試験片の作製方法および耐食性評価方法

【課題】接合する金属板の強度が異なる場合においても、加工を受けた金属板を接合して用いる場合の合わせ構造部における耐食性を精度良く評価することが可能な試験片の作製方法およびその試験片を用いた耐食性評価方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る試験片の作製方法は、金属板同士の合わせ構造部における耐食性を評価するための試験片の作製方法であって、合わせ構造部を構成する金属板に加工を施すことで形成された金属板の湾曲した面に、平坦部を設け、該設けた平坦部同士を接合して合わせ構造部を形成する。
また、本発明に係る耐食性評価方法は、上記試験片の作製方法により作製された試験片を用いて、金属板同士の合わせ構造部における耐食性を評価するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板同士の合わせ構造部における耐食性を評価するための試験片の作製方法およびその試験片を用いた耐食性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、建築物、家電製品などの製品の長寿命化やライフサイクルコストを最小化することが社会的に求められている。上記のような製品や鋼構造物は、金属板を重ね合わせた上で、溶接や接着剤等を用いて金属板類を接合することにより、所望する形状に形成して用いられることが多い。また、製品外観を確保する観点から、所望とする形状に接合した後に、リン酸塩を中心とする化成処理工程、電着塗装などの塗装処理工程を経ることが一般的である。これらの処理は、外観を確保することのみならず、酸素、水分、塩化物等の腐食性物質から金属板をバリアすることにより、耐食性を向上することにも貢献している。
【0003】
しかし、上述した金属板類を溶接や接着剤等を用いて接合した部位の金属板が重ね合わされた部分(以下、この部分を「合わせ構造部」という)の内部は、化成処理や電着塗装を完全に施すことは難しく、無処理に近い裸金属板の状態になっていることが多い。そのため、上記金属板の合わせ構造部は、一旦腐食性物質が入り込むと腐食が起こりやすく、製品の寿命や耐久性に大きな影響を与える。そのため、腐食の厳しい部位や腐食環境の厳しい地域で使用される製品類については、一般的に表面処理を施した金属板、例えば、亜鉛系やアルミ系の溶融めっきや、電気めっき、あるいは、それらに合金化処理を施した表面処理鋼板、並びにこれらの表面処理鋼板の表面に有機樹脂等の保護性皮膜を付与した鋼板を用いて使用されることが多い。
【0004】
また、上記製品等に使用される表面処理を施した金属板は、曲げ加工やプレス加工などにより所望の形状へ加工して使用されることが多く、金属板の合わせ構造部内部の無塗装部における耐食性は、使用する表面処理金属板の加工による損傷に大きく影響される。そのため、製品としての耐久性は、上記合わせ構造部の耐久性によって大きく影響されることとなる。このため、合わせ構造部での表面処理金属板の耐食性を精度良く評価することは極めて重要である。
【0005】
しかし、製品の設計段階において、使用する表面処理金属板を選定する際には、素材自体や、あるいは加工を施した状態での耐食性試験を実施することはあるものの、加工した表面処理金属板を重ね合わせて接合した部分の重ね合わせ構造部の耐食性までは考慮していないのが普通である。例えば、非特許文献1には、各種亜鉛めっき鋼板(溶融亜鉛めっき鋼板:GI、電気亜鉛めっき鋼板:EG、合金化溶融亜鉛めっき鋼板:GA)を母材とするプレコート鋼板に、プレスによりリブ加工を施してから屋外暴露試験に供して、加工部の耐食性に及ぼすめっき皮膜の影響について評価した結果が開示されている。
【非特許文献1】塩田、八内、壱岐島、「CAMP−ISIJ」、Vol.2、1989年、p.608
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記非特許文献1に記載の評価において、上記プレコート鋼板は、鋼板を接合する以前に塗装を実施している。そのため、合わせ構造部の内部は、上述したように、実際に使用されている状態とは乖離しており、表面処理鋼板自体の合わせ構造部内部における耐食性を評価するものとはなっていない。
【0007】
このような状況において、本発明者らは、上記の問題を解決すべく研究を重ねた。その結果、被評価サンプルの表面に加工を加え、それら加工を加えた2つの表面処理金属板の被加工面同士を重ね合わせて接合し、その接合部に形成された合わせ構造部の腐食試験を行うことにより、実際に使用されている状態に近い形で表面処理金属板の耐食性を評価できることを見出し、特許出願(特願2007−006852)を行った。
【0008】
上記特許出願に記載の方法によれば、十分な精度で、金属板の合わせ構造部における耐食性を評価し得ることが確認された。しかし、その後の検討を重ねる中で、接合する金属板の強度が異なる場合において、加工後の金属板の反り返り度合い等の加工後の形状が異なることに起因して、合わせ構造部における耐食性評価の精度が低下することが明らかとなった。
【0009】
そこで、本発明は、接合する金属板の強度が異なる場合においても、加工を受けた金属板を接合して用いる場合の合わせ構造部における耐食性を精度良く評価することが可能な試験片の作製方法およびその試験片を用いた耐食性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、接合する金属板の強度が異なる場合においても、合わせ構造部における耐食性を精度良く評価できる方法について鋭意検討を行った。その結果、(1)金属板に加工を加えた後に、この金属板に、平面部を有する深絞り加工を施すことにより、金属板の表面を平坦化し、(2)表面を平坦化した2つの金属板の平坦面を対向させて、それぞれの一部を重ね合わせて接合した試験片を作製し、(3)その接合部の合わせ構造部を対象として公知の腐食試験を行う、ことにより、接合する金属板の強度が異なる場合においても、被加工面耐食性を精度良く評価できることを見出した。
【0011】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、以下のような特徴を有する。
[1]金属板同士の合わせ構造部における耐食性を評価するための試験片の作製方法であって、合わせ構造部を構成する金属板に加工を施すことで形成された金属板の湾曲した面に、平坦部を設け、該設けた平坦部同士を接合して合わせ構造部を形成することを特徴とする試験片の作製方法。
[2]前記[1]において、金属板の湾曲した面に設ける平坦部が、深絞り加工により形成されることを特徴とする試験片の作製方法。
[3]前記[1]または[2]において、湾曲した面に、深さが2mm以上であり、平坦部面積と深さとから算出される比である平坦部面積(mm)/深さ(mm)が、200以上2000以下となるように、深絞り加工を施し、平坦部を形成することを特徴とする試験片の作製方法。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、金属板に施される加工が、摺動加工であることを特徴とする記載の試験片の作製方法。
[5]前記[4]において、金属板に施される加工が、曲げ曲げ戻しを含む摺動加工であることを特徴とする試験片の作製方法。
[6]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、金属板に施される加工が、引張加工または張出加工であることを特徴とする試験片の作成方法。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかにおいて、合わせ構造部を形成した後に、リン酸塩による化成処理を施し、さらに、電着塗装を施すことを特徴とする試験片の作製方法。
[8]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の試験片の作製方法により作製された試験片を用いて、金属板同士の合わせ構造部における耐食性を評価することを特徴とする耐食性評価方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接合する金属板の強度が異なる場合においても、加工を受けた金属板を接合して用いる場合の合わせ構造部における耐食性を精度良く評価することが可能な試験片の作製方法およびその試験片を用いた耐食性評価方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例を説明する。
【0014】
本発明に係る金属板同士の合わせ構造部における耐食性を評価するための試験片の作製方法は、合わせ構造部を構成する金属板に加工を施すことで形成された金属板の湾曲した面に、平坦部を設け、この設けた平坦部同士を接合して合わせ構造部を形成するものである。そして、本発明に係る耐食性評価方法は、上記方法により作製された試験片を用いて、加工を受けた金属板を接合した合わせ構造部における耐食性の評価を行うものである。
【0015】
前記合わせ構造部を構成する金属板としては、鋼、アルミニウム、銅、マグネシウム、これらの合金等からなる板を用いることができ、それらの成分には特に制限がない。しかし、実用上は、合わせ構造部の耐食性の評価に対する要望が強い、自動車や家電製品等に多く使用されている鋼板類、中でも、亜鉛系めっき処理を施した表面処理鋼板、例えば、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき後に合金化処理を施した合金化溶融亜鉛めっき鋼板、アルミニウムの含有率が高い溶融亜鉛−アルミめっき鋼板や、耐食性を向上させる目的として上記鋼板にさらに有機樹脂等の皮膜を付与した鋼板等を用いることが好ましい。また、接合させる2つの金属板の種類は、自動車や家電製品等に実用されている合わせ構造部の状況に合わせて選択すればよく、同種のものであっても異種のものであっても良い。
【0016】
本発明に係る耐食性評価方法は、加工を受けた金属板同士を接合した合わせ構造部における耐食性の評価を行うものである。そこで、本発明では、加工を受け、湾曲した金属板の表面処理面に平坦部を設けることで平坦化した後に、それらを対向して重ね合わせてから、例えば、スポット溶接や接着剤等により接合して合わせ構造部を形成する。そして、接合した金属板同士をそのまま、あるいは必要に応じて適当な大きさに切断後、腐食試験に供するものである。
【0017】
前記湾曲した金属板の表面処理面に平坦部を設ける方法としては、深絞り加工により形成することが好ましい。平坦化する他の方法としては、張出成型、引張成型、圧延等が挙げられるが、これらは金属板の表面処理面を加工した後に、さらに加工を加えることになり、一定の評価が困難になるため好ましくない。深絞り加工は金属板の表面処理面を加工した後に、被評価面にさらに加工を加えることがなく、一定の評価が得られるため特に好ましい。
【0018】
深絞り加工により形成される平坦部の平坦性は、加工深さと加工した後の平坦部の面積に影響される。本発明者らは、加工深さと平坦部の面積を変化させて検討を行った。その結果、平坦部面積と深さとから算出される比である平坦部面積(mm)/深さ(mm)が、200以上2000以下の場合に十分な平坦性が得られることを見出した。200より小さい場合は、平坦部面積が小さくなる為に評価のばらつきが大きくなるだけでなく、絞り成型が厳しいため、素材が限定される場合があるので好ましくない。2000より大きい場合は、平坦部の絞り量が低すぎるため、十分な平坦性が保てなくなるため好ましくない。200より大きい場合は、平坦部面積が大きくなる為に評価のばらつきが小さくなるだけでなく、絞り成型が容易であるため、素材が限定されることがないため好ましい。2000以下の場合は、平坦部の絞り量が適量であるため、十分な平坦性が保てるため好ましい。
【0019】
しかし、加工深さが2mmより浅い場合は、いずれの面積を用いても十分に平坦化することが困難となる。加工深さを2mm以上とすると、いずれの面積を用いても十分に平坦化することが容易である。そのため、加工深さは2mm以上とすることが好ましい。
【0020】
なお、形成された平坦部の平坦化状況を確認する方法には制限は無い。例えば、レーザ顕微鏡により湾曲率を算出する方法を用いることも可能である。また、簡便な方法としては、平坦面に水平器を乗せることにより平坦か否かを判定することもできる。
【0021】
実際に使用されている製品状態に近い形で耐食性評価を行うために、金属板に施される加工は、摺動加工とすることが好ましい。これは、製品は一般的にプレス加工により製品形状を得ることが多く、耐久性(耐食性)が課題となり得る部位は平面で擦られる部位が多いためである。
【0022】
また、近年、製品形状が複雑化し、その形状を得るためには、プレス機のダイスにビードを設けることにより対応していることが多い。そのため、ビード通過部をより精度良くシミュレートするためには、曲げ曲げ戻しを含む摺動加工を行うことがより好ましい。
【0023】
さらに、実際に使用されている鋼板の適用部位によっては、金属板に施される加工としては、引張加工や張出加工が好ましい。これは、プレス等の加工により鋼板が伸展し、加工前後での実質的なめっき付着量が大きく変化している場合が多いからである。特に、めっき鋼板のめっき皮膜に延性が無い場合には、引張加工や張出加工におけるめっき皮膜の脱離が生じやすく、適応部位に応じためっき皮膜の損傷をシミュレートする必要があるためである。さらに、めっき鋼板表面に有機樹脂等の皮膜を付与した鋼板の場合、摺動に対する健全性は保たれるが、引張応力や圧縮応力に対しては有機樹脂等の皮膜が追随出来ずに、皮膜に局部的な欠損部が生じ、その部位を基点に腐食が進行する場合がある。このようなめっき皮膜やその上層に形成した皮膜が損傷する場合の耐食性を精度良くシミュレートするためには、引張加工や張出加工を行うことが好ましい。
【0024】
自動車や家電製品等に用いられる金属板の場合には、プレス加工後に、美麗な外観を得るだけではなく、耐久性を向上させる目的で、リン酸塩等による化成処理や、電着塗装を施すことが多い。この場合、電着塗装による塗膜下の腐食は、裸の金属板の腐食挙動とは異なることが多い。そのため、電着塗装をして使用されることをシミュレートする場合には、リン酸塩等による化成処理および電着塗装を施した試験片を作製し、この試験片により耐食性評価を実施することが好ましい。
【0025】
また、本発明に係る試験片を用いて耐食性評価を行う際の腐食試験方法については、特に制限は無く、従来から用いられている暴露試験や、塩水噴霧試験、及び、塩水噴霧と乾湿繰り返しや温度変化を加えた複合サイクル試験などを用いることができる。前記複合サイクル試験は種々の条件があるが、例えば、JASO−M−609−91で規定される試験方法や、米国自動車技術会で定めたSAE−J2334に規定された腐食試験方法を用いることができる。
【実施例1】
【0026】
以下、本発明の効果を実施例により説明する。
【0027】
[金属板の加工]
金属板として使用した供試材を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すように、母材が鋼板記号SPCで表される軟質の冷延鋼板(軟鋼)と、その鋼板に表面処理を施した表面処理鋼板(鋼板記号:Zn−Ni30、GA45、GI60、GI100、Zn−Al、GA45+有機被覆)、高強度鋼(H4−SPC,H6−SPC)の合計9種類の試験用鋼板を準備した。これらの鋼板(板厚0.8mm)から、幅80mm×長さ350mmの一次試験片を準備し、図1に示すようなダイス1とビード2を模した冶具を用いて、曲げ曲げ戻しを含む摺動加工であるドロービード加工を施した。これにより、鋼板の評価面とダイス肩およびビード部との間で、長さ150mm以上の摺動をおこさせ、図2に示すような形状の二次試験片を得た。
【0030】
なお、上記ドロービード加工は、用いた冶具のダイス肩およびビード部の曲率半径を、それぞれ2mmR、5mmRとした。また、ダイス1の押し付け圧力は、5.88×10N/m、引き抜き速度は2m/minで行った。さらに、試験片には潤滑油としてスギムラ化学社製:プレトン303PX2を、片面に対して1.5g/mずつ両面に塗布した後、ドロービード加工を実施した。
【0031】
[平坦化処理加工]
上記ドロービード加工を施した鋼板に、平坦部を設ける平坦化処理加工を行った。平坦化処理加工として、まず、鋼板を所定のサイズに切り出した後、深絞り加工を施し、三次試験片を得た。深絞り加工の水準を表2に示す。
尚、深絞り加工は、面積3600mm、800mmである2種類ダイスを用い、インナ圧力294200N(30tf)、ブランク圧力49033N(5tf)とし、潤滑油としてスギムラ化学社製:プレトン303PX2を片面に対して3g/mずつ両面に塗布した後、実施した。
【0032】
【表2】

【0033】
深絞り加工を施した三次試験片について、平坦性の評価を行った。また、平坦化処理加工を施さないサンプルについても比較として平坦性の評価を行った。平坦性の評価は、三次試験片を水平面上に置き、三次試験片表面5箇所に市販の水平器を乗せ、ドロービード引き抜き方向の平坦性を調査した。評価基準は以下の通りである。なお、水平器を乗せた場合に、水平器の丸印の中央に気泡が来た場合を「平坦」、丸印の範囲内で気泡がズレた場合を「ややズレ」、丸印の範囲を超えて気泡がズレた場合を「大きなズレ」として評価を行った。
「◎」:5箇所とも平坦な場合。
「○」:4箇所平坦で、1箇所にややズレが認められる場合。
「△」:3箇所以上が平坦で、1箇所以上に大きなズレが認められる場合。
「×」:2箇所以上に大きなズレが認められる場合。
【0034】
[耐食性評価]
上記により作製した三次試験片の評価面同士を重ね合わせてスポット溶接により接合し、図3に示すような耐食性評価用の試験片を作製した。その後、この耐食性評価用試験片に、日本パーカライジング社製のパルボンドを使用し、標準条件(35℃、120秒)にて浸漬してリン酸塩化成処理を実施した。続いて、関西ペイント社製の電着塗料を用いて電着塗装および焼付処理を行った。なお、電着塗装の膜厚は焼き付け塗装後の膜厚は20μmとし、市販の電磁膜厚計を用いて測定を行った。また、耐食性に及ぼす摺動の影響を評価するために、無加工の試験片および平坦化処理加工を施さない試料も作製し評価に供した。
【0035】
次いで、上記のようにして作製した耐食性評価用試験片について、図4に示すような、SAE−J2334に規定される、乾燥、湿潤、塩水噴霧の工程からなる複合サイクル腐食試験を行った。なお、各鋼板の耐食性評価は、以下の手順で実施した。
1)スポット溶接部を打ち抜き、合わせ構造部を分解する。
2)塗装の剥離(ネオス社製 デスコート300、15分浸漬)。
3)めっきおよび錆の除去(希薄塩酸浸漬)。
4)合わせ構造部に生じた最大侵食深さ(L)を(株)ミツトヨ社製のポイントマイクロメータで測定。
【0036】
次に、耐食性試験における精度の評価を行った。評価は、各水準について5組の試験を実施し、上記最大侵食深さ(L)のばらつきにより行った。ここで、各水準のばらつきは、それぞれの5組の合わせ構造部について、最大の最大侵食深さ(Lmax)から、最小の最大侵食深さ(Lmin)を引いた差分(ΔL=Lmax−Lmin)を算出し、以下のように評価を実施した。
「◎」:ΔL≦0.05mm
「○」:0.05mm<ΔL≦0.1mm
「△」:0.1mm<ΔL≦0.2mm
「×」:0.2mm<ΔL
耐食性試験の評価結果の妥当性は、めっき付着量と最大侵食深さの関係により評価した。自動車分野において、実際に走行している自動車の解析結果から、SPC、GA45、GI60、GI100、Zn−Ni30に関しては、めっき付着量と最大侵食深さには負の相関関係が認められることが知られており、めっき付着量と最大侵食深さの相関関係を調査することにより、耐食性評価方法の結果の妥当性について評価が可能である。そこで、本発明に係る耐食性評価方法により評価した結果から、めっき付着量と最大侵食深さの相関関係を調査し、本発明に係る耐食性評価方法の結果の妥当性について評価を実施した。
【0037】
以上により得られた評価結果を試験片作製条件と共に表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
上記表3に示す評価結果から、以下の事項が明らかとなった。
【0040】
(1)サンプルNo.1〜9は、平坦化加工を実施した本発明例、サンプルNo.10〜18は、平坦化加工を行わなかった比較例である。平坦化加工を実施した本発明例1〜9において平坦性評価の結果は良好であり、平坦性が向上していることがわかる。さらに、耐食性評価の精度評価の結果は、本発明例1〜9において、比較例1〜9と比べてΔLが大幅に減少しており、精度が大幅に向上していることがわかる。
【0041】
(2)サンプルNo.3及びNo.19〜22は平坦化加工における加工深さを変化させた本発明例である。平坦部面積(mm)/深さ(mm)が3600であるサンプルNo.19(本発明例10)は、平坦化加工を行っていないサンプルNo.12(比較例3)に比べると耐食性評価の精度は向上しているものの、その効果はあまり顕著であるとはいえない。一方、平坦部面積(mm)/深さ(mm)が180であるサンプルNo.22(本発明例13)は、耐食性評価の精度は十分得られているが、最大侵食深さ平均値(mm)の値は、他の本発明例におけるそれに比べて大きな値となっている。このことから、サンプルNo.22では、平坦化加工時に鋼板表面に損傷が加わり、めっき皮膜の脱離が生じていることが予想される。これらの結果から、平坦部面積(mm)/深さ(mm)が200以上2000以下の場合に、より精度良く、合わせ構造部の耐久性(耐食性)を評価し得ることが分かる。
【0042】
(3)サンプルNo.23および24は、平坦部の面積を変化させて、評価を実施した本発明例である。平坦部面積(mm)/深さ(mm)が800で、加工深さが1mmであるNo.23(本発明例14)の場合は、平坦化加工を行っていないサンプルNo.12(比較例3)に比べると耐食性評価の精度は向上しているものの、その効果はあまり顕著であるとはいえない。このことから、加工深さは2mm以上が好適であることが分かる。
【0043】
(4)図5(a)に、本発明例のサンプルNo.1〜5、また、図5(b)には比較例のサンプルNo.10〜14についてのめっき付着量と最大侵食深さ平均値の関係を示す。図5(a)及び図5(b)中に決定係数であるR−2乗値を記載する。本発明例と比較例のR−2乗値を比較すると、本発明例の方が大きく1に近く、直線性が向上している事がわかる。このことから、本発明方法は、有効な試験方法であり、さらに、より耐食性評価の精度が向上することがわかる。
【実施例2】
【0044】
[金属板の加工]
金属板として使用した供試材として、表1中のNo.1、3、4、5、7の5種類の供試材を準備した。そして、これらの鋼板に、下記の方法により、引張加工又は張出加工を実施した。
・ 引張加工
前記5種類の供試材から幅80mm×長さ350mmの一次試験片を準備し、引張加工を実施した。図6に引張加工試験の概念図を示す。供試材の鋼板の長手方向の伸びが15%となった時点で、加工を終了し、2次試験片を得た。尚、予備試験として、供試材表面にスクライブドサークルを印字して引張加工試験を行い、供試材の面積変化を測定した結果、1.05倍になることを確認した。
・ 張出加工
前記5種類の供試材から、300mm角の一次試験片を準備し、張出加工を実施し、2次試験片を得た。なお、条件は下記の通りである。
ポンチ:150mmΦ
ダイス:160mmΦ
ブランクホールド力:980665N(100tf)
加工量:20%
図7に張出加工試験の概念図を示す。尚、予備試験として、供試材表面にスクライブドサークルを印字して張出加工を行い、供試材の面積変化を測定した結果、1.4倍になることを確認した。
また、引張加工及び張出加工を実施しない比較試験片も準備した。
【0045】
[平坦化処理加工]
上記引張加工又は張出加工を施した供試材および引張加工及び張出加工を実施しない比較試験片に対して、2次試験片及び比較試験片を所定サイズに切り出した後、深絞り加工を実施し、3次試験片を得た。平坦化処理加工方法はいずれの鋼板の場合も、表2中の水準No.Cに記載の平坦部面積が3600mm、加工深さが5mmとした。
【0046】
深絞り加工を施した三次試験片について、平坦性の評価を行った。なお、平坦性の評価は、実施例1と同様である。
【0047】
[耐食性評価]
上記により作製した三次試験片の評価面同士を重ね合わせてスポット溶接により接合し、実施例1と同様のリン酸塩処理及び電着塗装を実施し、図3に示すような耐食性評価用の試験片を作製し、実施例1と同様に5組の合わせ部内部の最大腐食深さの平均値を求めた。
【0048】
耐食性試験の評価結果の妥当性は、めっき付着量と最大侵食深さの関係により評価した。自動車分野において、引張加工及び張出加工を主体とする加工モードの実プレス品の場合、GA+有機皮膜(エポキシ系樹脂)の耐食性は、GAと同等であることが明らかとなっている。また、SPC、GA45、GI60、GI100に関しては、めっき付着量と最大侵食深さには負の相関関係が認められることが知られており、めっき付着量と最大侵食深さの相関関係を調査することにより、耐食性評価方法の結果の妥当性について評価が可能である。そこで、本発明に係る耐食性評価方法により評価した結果から、めっき付着量と最大侵食深さの相関関係を調査し、本発明に係る耐食性評価方法の結果の妥当性について評価した。
【0049】
以上により得られた評価結果を試験片作製条件と併せて表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
上記表4に示す評価結果から、以下の事項が明らかとなった。
(1)サンプルNo.25〜29は、張出加工を行った本発明例、サンプルNo.35〜39は加工を行わなかった比較例である。図8に張出加工後のめっき付着量と最大腐食深さ平均値の関係を示す。本発明例では、加工後のめっき付着量と最大腐食深さには負の相関関係が認められており、試験の妥当性が明らかとなった。
また、比較例である加工を行わなかったGA+有機皮膜(サンプルNo.39)においてはGA(サンプルNo.36)に比べて顕著な耐食性向上効果が認められ実際の部品をシミュレートできていないのに対し、張出成型を行った本発明例GA+有機皮膜(サンプルNo.29)の場合にはGA(サンプルNo.26)と同等の耐食性であることが確認され、実際の部品をシミュレートできていることが分かる。
(2)図9に引張加工後めっき付着量と最大腐食深さ平均値の関係を示す。サンプルNo.30〜34は引張加工を行った本発明例である。GA+有機皮膜(サンプルNo.34)はGA(サンプルNo.31)と同等の耐食性であることから、実際の部品をシミュレート出来ていることが分かる。そして、加工後のめっき付着量と最大腐食深さには負の相関関係が認められていることから試験の妥当性が明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る実施例において用いた、試験片にドロービード加工を施す冶具の一例を示す図である。
【図2】本発明に係る実施例において作製した、二次試験片の形状の一例を示す図である。
【図3】本発明に係る実施例において作製した、耐食性評価用試験片の形状の一例を示す図である。
【図4】本発明に係る実施例において行った、複合サイクル腐食試験の工程の一例を示す図である。
【図5】本発明に係る実施例において、本発明例および比較例についてめっき付着量と最大侵食深さの関係を調べた結果を示す図である。
【図6】本発明に係る実施例において用いた、試験片に引張加工を施す冶具の一例を示す図である。
【図7】本発明に係る実施例において用いた、試験片に張出加工を施す冶具の一例を示す図である。
【図8】本発明に係る実施例において、本発明例および比較例についてめっき付着量と最大侵食深さの関係を調べた結果を示す図である。
【図9】本発明に係る実施例において、本発明例および比較例についてめっき付着量と最大侵食深さの関係を調べた結果を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 ダイス
2 ビード
3 ポンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板同士の合わせ構造部における耐食性を評価するための試験片の作製方法であって、合わせ構造部を構成する金属板に加工を施すことで形成された金属板の湾曲した面に、平坦部を設け、該設けた平坦部同士を接合して合わせ構造部を形成することを特徴とする試験片の作製方法。
【請求項2】
金属板の湾曲した面に設ける平坦部が、深絞り加工により形成されることを特徴とする請求項1に記載の試験片の作製方法。
【請求項3】
湾曲した面に、深さが2mm以上であり、平坦部面積と深さとから算出される比である平坦部面積(mm)/深さ(mm)が、200以上2000以下となるように、深絞り加工を施し、平坦部を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の試験片の作製方法。
【請求項4】
金属板に施される加工が、摺動加工であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の試験片の作製方法。
【請求項5】
金属板に施される加工が、曲げ曲げ戻しを含む摺動加工であることを特徴とする請求項4に記載の試験片の作製方法。
【請求項6】
金属板に施される加工が、引張加工または張出加工であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の試験片の作成方法。
【請求項7】
合わせ構造部を形成した後に、リン酸塩による化成処理を施し、さらに、電着塗装を施すことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の試験片の作製方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の試験片の作製方法により作製された試験片を用いて、金属板同士の合わせ構造部における耐食性を評価することを特徴とする耐食性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−92648(P2009−92648A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151441(P2008−151441)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】