説明

試験装置及び試験方法

【課題】 モータの短絡を判定する際の利便性を向上させることができる試験装置及びその試験方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 線間電圧測定回路22が、三相巻線121〜123の各線間電圧を測定し、電圧印加回路20が、三相巻線のうち、2相にインパルス信号を印加する。また、応答時間測定回路23が、インパルス信号の印加後に線間電圧が所定の検出閾値と一致するまでの応答時間を測定する。更に、短絡判定回路27が、三相巻線121〜123の2相の各組合せにおける応答時間の総和に基づいて、モータ1の短絡を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験装置及び試験方法に係り、更に詳しくは、インパルス信号を印加することにより巻線の絶縁評価試験を行う試験装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
モータは電磁鋼板を積み重ねた鉄心に絶縁された電線を巻くことによって形成される。この電線の絶縁が焼損又は劣化した場合、電線間、あるいは、電線と鉄心との間に絶縁不良による短絡が生じ、モータの焼損や感電事故につながる恐れがある。このため、モータ、トランス、電磁コイルなどの巻線を含む製品では、巻線の絶縁劣化等の短絡を判定することを目的として、巻線の絶縁評価試験が行われる。
【0003】
モータは、その生産工程においてステータ又はロータに巻線が施される場合、それぞれ単体で巻線の絶縁評価試験が行われる。しかしながら、例えば、エアコン、冷蔵庫などに用いられるコンプレッサーでは、金属製容器にモータのステータ及びロータに直結した圧縮機を組み込み、冷媒圧縮ガスの圧力に耐えるように、金属製容器に収納し、完全密閉溶接が行われる。この溶接工程では、溶融金属粉、いわゆるスパッタが容器内に飛散して巻線に付着することにより、巻線の短絡が生じる可能性がある。このため、溶接工程の後にも、巻線の絶縁評価試験が行われている。
【0004】
巻線の絶縁評価試験は、例えば、高電圧のサージインパルスをモータの三相巻線に印加し、その応答信号を測定することによって行われる。すなわち、短絡が生じた巻線では、短絡のない巻線(正常品)とはインピーダンスが異なるため、インパルスの応答信号が正常値と異なる値を示す。このため、測定した応答信号を正常値と比較することにより、巻線の短絡を判定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロータに永久磁石が組み込まれた三相モータ、例えば、IPM(Interior Permanent Magnet)モータが知られている。IPMモータは、回転数の制御が容易であるという利点を有し、電気自動車(EV)などに利用されている。IPMモータでは、ロータに永久磁石が組み込まれているため、ロータの回転角度によって、巻線のインピーダンスが変動する。このようなIPMモータの絶縁評価試験を行うには、ロータの回転角度を特定の回転位置で静止させる必要がある。
【0006】
ロータを特定の回転位置で静止させるための方法として、三相巻線の特定の2相に直流電流を流すという技術が知られている。この方法により、三相巻線に対して特定の回転位置でロータを静止させ、この回転位置において巻線にインパルス信号を印加すれば、巻線の短絡を判定することができる。しかしながら、モータを装置に取り付けた後に絶縁評価試験を行う場合、ロータを回転させるのが煩雑であるという問題があった。特に、電気自動車では、ロータを回転させれば自動車が移動してしまうため、この問題はとりわけ重要である。
【0007】
また、ロータに永久磁石が配置されていない三相モータ、例えば、かご型三相誘導モータでは、アルミバーからなるケージロータが2次巻線として作用する。このため、IPMモータの場合と同様に、ロータの回転位置に応じて三相巻線のインピーダンスが変動し、ロータが任意の回転位置にある状態でモータの短絡を判定することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、モータの短絡を判定する際の利便性を向上させることができる試験装置及びその試験方法を提供することを目的とする。特に、ロータが任意の回転位置にある状態でモータの絶縁劣化等の短絡を精度良く判定することができる試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の本発明による試験装置は、三相巻線からなる電動機の短絡を判定するための試験装置であって、上記三相巻線の各線間電圧を測定する線間電圧測定手段と、上記三相巻線のうち、2相にインパルス信号を印加する電圧印加手段と、上記インパルス信号の印加後に上記線間電圧が所定の検出閾値と一致するまでの応答時間を測定する応答時間測定手段と、上記三相巻線の2相の各組合せにおける上記応答時間の総和に基づいて、上記電動機の短絡を判定する短絡判定手段とを備えて構成される。
【0010】
この様な構成によれば、三相巻線の2相の各組合せにおける応答時間の総和がロータの回転位置にかかわらず一定となるという原理を利用し、応答時間の総和に基づいて、電動機の短絡を判定している。従って、ロータの回転位置を特定することなく電動機の短絡を判定することができるので、電動機の短絡を判定する際の利便性を向上させることができる。特に、電気自動車のように、電動機の取付後に巻線の絶縁評価のためにロータを回転させることが困難な製品について、ロータを回転させることなく電動機の短絡を判定することができる。
【0011】
第2の本発明による試験装置は、上記構成に加え、上記応答時間の総和と判定閾値とを比較する応答時間比較手段を備え、上記短絡判定手段が、上記応答時間比較手段の比較結果に基づいて、上記電動機の短絡を判定するように構成される。
【0012】
第3の本発明による試験方法は、三相巻線からなる電動機の短絡を判定するための試験方法であって、上記三相巻線の各線間電圧を測定する線間電圧測定ステップと、上記三相巻線のうち、2相にインパルス信号を印加する電圧印加ステップと、上記インパルス信号の印加後に上記線間電圧が所定の閾値と一致するまでの応答時間を測定する応答時間測定ステップと、上記三相巻線の2相の各組合せにおける上記応答時間の総和に基づいて、上記電動機の短絡を判定する短絡判定ステップとを備えて構成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明による試験装置及び試験方法では、三相巻線の2相の各組合せにおける応答時間の総和がロータの回転位置にかかわらず一定となるという原理を利用し、応答時間の総和に基づいて、電動機の短絡を判定している。従って、ロータの回転位置を特定することなく電動機の短絡を判定することができるので、電動機の短絡を判定する際の利便性を向上させることができる。特に、電気自動車のように、電動機の取付後にロータを回転させることが困難なものに電動機が取り付けられた場合であっても、ロータを回転させることなく電動機の短絡を判定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態による試験装置の一構成例を示した回路図であり、試験装置の一例としてインパルス試験装置100が示されている。
【図2】図1のU−V相の電気的等価回路を示した説明図である。
【図3】図1の巻線121に短絡が生じた場合の様子を示した説明図である。
【図4】図1のインパルス試験装置100の動作の一例を示した図であり、インパルス信号を印加した場合の線間電圧の変化を示している。
【図5】図1のインパルス試験装置100による絶縁評価試験が行われるモータ1の一例を示した説明図である。
【図6】図5のIPMモータにおける動作の一例を示した図である。
【図7】図1のインパルス試験装置100の短絡判定処理の一例を示したフローチャートである。
【図8】図7におけるU−V相の応答時間測定(ステップS102)の一例を示したフローチャートである。
【図9】図7におけるV−W相の応答時間測定(ステップS103)の一例を示したフローチャートである。
【図10】図7におけるW−U相の応答時間測定(ステップS104)の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施の形態による試験装置の一構成例を示した回路図であり、試験装置の一例としてインパルス試験装置100が示されている。インパルス試験装置100は、モータ1の短絡を判定するための電子機器であり、より詳しくは、モータ1の三相巻線121〜123にインパルス信号を印加することにより、三相巻線121〜123の短絡を判定する動作を行う。巻線の短絡とは、巻線を形成する電線間、あるいは、電線と鉄心との間に絶縁不良が生じることを指す。例えば、電線間又は電線と鉄心間に電流が流れる状態や、電線の絶縁皮膜が熱により炭化し、サージインパルス等の高電圧が印加されれば、電流が流れ得るような状態も含む。
【0016】
インパルス試験装置100は、IPMモータ1、スイッチSW2〜SW4、電圧印加回路20、高圧分圧器21、線間電圧測定回路22、応答時間測定回路23、加算回路24、応答時間比較部25、判定閾値記憶部26及び短絡判定回路27により構成される。
【0017】
モータ1は、三相巻線121〜123からなるステータを備えた電動機であり、三相巻線121〜123の一端を中性点124にそれぞれ接続することにより、スター結線を形成している。モータ1の例としては、ロータの表面に永久磁石が配置されたSPMモータ(Surface Permanent Magnet Motor)や、複数のアルミ棒又は銅棒などの導電性剛体の両端を環状導体に接続させたかご形構造のロータを有するかご形モータなどがある。ここでは、モータ1が、ロータ内部に永久磁石が埋め込まれたIPMモータであるものとする。以下、巻線121〜123をそれぞれU相、V相、W相の巻線とし、U相、V相及びW相の巻線がそれぞれ端子125〜127を介して電圧印加回路20と接続されているものとする。
【0018】
電圧印加回路20は、三相巻線121〜123のうち、2相の巻線に電圧Vのインパルス信号を印加する信号出力手段である。インパルス信号とは、所定の時間幅より短い電圧信号を指し、例えば、3000〜5000V程度の信号を印加する。また、−5000〜−3000V程度の負極性の信号を印加する構成であっても良い。
【0019】
この電圧印加回路20は、DC電源201と、充電用コンデンサ202と、開閉接点SW1a及びSW1bを有する充放電切替スイッチSW1とからなる。DC電源201は、開閉接点SW1aを介して充電用コンデンサ202へ電荷を供給し、充電用コンデンサ202を充電する電源装置である。充電用コンデンサ202は、開閉接点SW1bを介してインパルス信号を2相の巻線に印加する容量素子である。
【0020】
充放電切替スイッチSW1は、2つの開閉接点SW1a及び1bからなる連動スイッチであり、いずれか一方がオン状態であれば、他方がオフ状態であるように構成されている。すなわち、開閉接点SW1aがオンすれば、DC電源201と充電用コンデンサ202とが接続され、開閉接点SW1bがオフされて、充電用コンデンサ202とモータ1とが非接続になり、DC電源201から充電用コンデンサ202への充電が行われる。次に、開閉接点SW1aをオフすれば、DC電源201と充電用コンデンサとが遮断され、開閉接点SW1bがオンし、充電用コンデンサ202からモータ1へのインパルス信号の出力が行われる。ここでは、図示しない制御部の制御信号に基づいて、開閉接点SW1a及びSW1bのオンオフが切り替えられるものとする。
【0021】
スイッチSW2〜SW4は、それぞれ2つの開閉接点を連動してオンオフさせる連動スイッチである。このスイッチSW2〜SW4は、充電用コンデンサ202の両端をモータ1の端子125〜127に切替可能に接続する切替部品であり、具体的には、図示しない制御部の制御信号に基づいて、モータ1の端子125〜127のうち、いずれか2つの端子と充電用コンデンサ202の両端とを接続する。
【0022】
スイッチSW2は、2つの開閉接点SW2a及びSW2bを連動してオンオフさせる連動スイッチであり、開閉接点SW2a及びSW2bのオンオフが互いに一致するように接続状態が切り替えられる。このスイッチSW2は、充電用コンデンサ202の両端とモータ1の端子125及び126とを接続又は遮断する。また、スイッチSW3は、2つの開閉接点SW3a及び3bを連動してオンオフさせる連動スイッチであり、開閉接点SW3a及びSW3bのオンオフが互いに一致するように接続状態が切り替えられる。スイッチSW3は、充電用コンデンサ202の両端とモータ1の端子126及び127とを接続又は遮断する。
【0023】
スイッチSW4は、2つの開閉接点SW4a及びSW4bを連動してオンオフさせる連動スイッチであり、開閉接点SW4a及びSW4bのオンオフが互いに一致するように接続状態が切り替えられる。この切り替えにより、充電用コンデンサ202の両端とモータ1の端子127及び125とが接続又は遮断される。
【0024】
電圧印加回路20は、三相巻線121〜123のうち、いずれか2相にインパルス信号を印加する。すなわち、開閉接点SW1bがオンし、充電用コンデンサ202からインパルス信号が出力された場合、スイッチSW2がオン状態であり、スイッチSW3及びSW4がそれぞれオフ状態であれば、U−V相の巻線121及び122にインパルス信号を印加する。
【0025】
また、スイッチSW3がオン状態であり、スイッチSW2及びSW4がそれぞれオフ状態であれば、V−W相の巻線122及び123にインパルス信号を印加する。スイッチSW4がそれぞれオン状態であり、スイッチSW2及びSW3がそれぞれオフ状態であれば、W−U相の巻線123及び121にインパルス信号を印加する。
【0026】
高圧分圧器21は、充電用コンデンサ202から開閉接点SW1b及びスイッチSW2〜SW4を介して線間にインパルス信号を与えた結果の信号電圧を測定するために、線間電圧測定回路22へ入力される電圧を所定の分圧比に分圧する分圧抵抗である。
【0027】
線間電圧測定回路22は、三相巻線121〜123の各線間電圧を測定する線間電圧測定手段である。線間電圧とは、三相巻線121〜123にそれぞれ対応する端子125〜127のうち、2つの端子の電位差を指す。ここでは、インパルス信号が印加される2相の巻線の線間電圧を測定しており、例えば、スイッチSW2がオン状態であり、スイッチSW3及びSW4がそれぞれオフ状態であれば、U−V相の巻線121及び122の線間電圧、すなわち、端子125及び126間の電位差を測定する。ここでは、インパルス信号が線間電圧測定回路22に直接入力されることを防止するため、高圧分圧器21による分圧レベルに基づいて、巻線の線間電圧を求めるものとする。
【0028】
応答時間測定回路23は、インパルス信号の印加後に巻線の線間電圧が所定の検出閾値と一致するまでの応答時間を測定する測定手段である。巻線の線間電圧は、インパルス信号により一時的に上昇した後、接地電圧である0V以下に低下する。この際、線間電圧が検出閾値と一致するまでの応答時間は、インパルス信号の印加された巻線のインピーダンスと線形の関係を有する。従って、応答時間測定回路23は、応答時間を測定することにより、間接的に巻線のインピーダンスを測定している。このような応答時間の測定は、U−V相、V−W相及びW−U相の3通りの組合せについて、それぞれ行われる。ここでは、応答時間測定回路23が、インパルス信号の印加後、巻線の線間電圧が接地電圧と一致するまでのゼロクロス時間を応答時間として測定するものとする。
【0029】
加算回路24は、応答時間測定回路23により測定された応答時間の総和を求める演算手段であり、三相巻線121〜123の2相の各組合せにおける応答時間の総和を算出する。具体的には、U−V相、V−W相及びW−U相の3通りの応答時間の総和を算出する。
【0030】
また、試験対象のモータ1が短絡のない標準品である旨を指示するユーザ操作が行われた場合、加算回路24は、算出された応答時間の総和を判定閾値として判定閾値記憶部26に格納する。ここでは、インパルス試験装置100が、試験対象のモータ1が標準品であるか、あるいは、短絡の有無を判定する対象の被試験品であるかについて、ユーザが指定するための図示しない試験体指定スイッチを有するものとする。例えば、短絡がないモータ1を標準品として、試験体指定スイッチを標準品側に切り替えて応答時間の総和を測定し、判定閾値が算出された後、標準品のモータ1を被試験品に入れ替え、試験体指定スイッチを被試験品側に切り替えて応答時間の総和を測定する。
【0031】
また、加算回路24が、標準品の応答時間の総和から、試験体のバラツキ等を考慮したマージンを差し引いた許容値を判定閾値として算出する構成がより望ましい。例えば、2以上の標準品の応答時間の総和を測定し、総和の平均値から3σ(シグマ)を差し引いた値を判定閾値として算出する。
【0032】
応答時間比較部25は、加算回路24により算出された応答時間の総和と、判定閾値記憶部26に保持される判定閾値とを比較する比較手段である。具体的には、加算回路24により算出された応答時間の総和が、判定閾値より小さいか否かを判定する。
【0033】
判定閾値記憶部26には、判定閾値を保持する記憶装置であり、例えば、加算回路24により算出された判定閾値を保持している。
【0034】
短絡判定回路27は、加算回路24により算出された応答時間の総和に基づいて、モータ1の短絡を判定する判定手段であり、具体的には、応答時間比較部25の比較結果に基づいて、モータ1の短絡を判定する。すなわち、U−V相、V−W相及びW−U相の応答時間の総和が、判定閾値記憶部26内の判定閾値より小さければ、モータ1が短絡していると判定する。一方、応答時間の総和が判定閾値以上であれば、モータ1は短絡していないと判定する。
【0035】
三相巻線121〜123は、スター結線を形成しているため、U−V相、V−W相及びW−U相のインピーダンスの総和は、ロータの回転位置によらず一定になる。更に、応答時間は、巻線のインピーダンスと線形の関係を有することから、U−V相、V−W相及びW−U相の応答時間の総和は、ロータの回転位置によらずに一定になる。この原理を利用し、短絡判定回路27が、応答時間の総和に基づいて、モータの短絡を判定するので、ロータの回転位置によらずに精度良くモータの短絡を判定することができる。このため、モータの短絡を判定する際に、ロータの回転位置を特定する必要がなく、モータの短絡を判定する際の利便性を向上させることができる。
【0036】
図2は、図1のU−V相の電気的等価回路を示した説明図である。インパルス信号は高周波成分を含む信号であることから、インパルス信号に対する応答を求める場合、インパルス試験装置100を分布定数回路として扱う必要がある。すなわち、U−V相の巻線121,122は、巻線に比例したインダクタンスLと、直流抵抗Rと、巻線121及び122内の各電線間に生じる浮遊容量Cと、巻線121,122の鉄心30,31及び電線間に生じる浮遊容量Cとを有している。
【0037】
このため、電圧印加回路20からインパルス信号が印加された場合、U−V相の巻線121,122の線間電圧は、インダクタンスL、浮遊容量C及びCにより振動し、直流抵抗Rによって減衰消滅する。また、V−W相の巻線122,123及びW−U相の巻線123,121についても同様の等価回路とみなすことができる。
【0038】
図3は、図1の巻線121に短絡が生じた場合の様子を示した説明図である。巻線121は、鉄心30に2以上の層を形成するように電線を巻くことによって形成される。巻線121の同一層内、あるいは、異なる層間に短絡が生じた場合、例えば、巻線のn回転分に相当する地点間に短絡経路Qが形成され、この短絡経路Qに電流Iが流れる。このため、巻線121のインダクタンスL、直流抵抗R、浮遊容量C及びCがそれぞれ変更され、結果的にインピーダンスが変化したことになり、インパルス信号に対する2相の巻線121,122の応答時間が変動する。このように、巻線に短絡が生じれば、応答時間が変動するので、U−V相、V−W相及びW−U相の応答時間の総和を測定することにより、巻線の短絡を判定することができる。
【0039】
図4は、図1のインパルス試験装置100の動作の一例を示した図であり、インパルス信号が印加された場合の線間電圧の変化を示している。縦軸に電圧を示し、横軸に時間を示している。図4(a)は、図1の電圧印加回路20から発生するインパルス信号を示し、短い時間幅からなる電圧Vのインパルス信号が生成されている。
【0040】
図4(b)は、U−V相、V−W相及びW−U相の巻線にインパルス信号が印加された場合の線間電圧の変化をそれぞれ示している。例えば、U−V相の巻線121,122の線間電圧は、インパルス信号の印加によって急上昇して最大値をとり、その後に減少してゼロクロス時間TUVに接地電圧と一致して0Vとなり、以降、減衰振動を繰り返す。また、V−W相の巻線122,123の線間電圧は、U−V相の巻線121,122の線間電圧と同様の変化を示すが、そのゼロクロス時間TVWは、TUVに比べて短くなっている。同じように、W−U相の巻線123,121の線間電圧のゼロクロス時間TWUは、TUVに比べて長くなっている。これらのゼロクロス時間の違いは、モータ1のロータ内に埋め込まれた永久磁石と巻線の位置関係(すなわちロータの回転位置)の違いによって生じている。
【0041】
図5は、図1のインパルス試験装置100による絶縁評価試験が行われるモータ1の一例を示した説明図であり、ここでは、IPMモータが示されている。図5(a)には、IPMモータの断面が模式的に示されている。IPMモータは、内部に永久磁石131〜134が埋め込まれたロータ41と、三相巻線121〜123からなるステータ42とにより構成される。ロータ41には、S極をステータ42に対向させ、N極をロータ41の回転軸へ向けて配置された永久磁石131,133と、N極をステータ42に対向させ、S極をロータ41の回転軸へ向けて配置された永久磁石132,134とが交互に埋め込まれている。ここでは、4個の永久磁石が埋め込まれるものとする。三相巻線121〜123は、電磁鋼板を積み重ねた鉄心に絶縁された電線を巻くことによって形成される。
【0042】
図5(b)には、図5(a)の状態からロータ41を反時計回りに回転させた場合の様子が示されており、図5(c)には、図5(b)の状態からロータ41を反時計回りに回転させた場合の様子が示されている。IPMモータ1では、三相巻線121〜123と永久磁石131〜134との磁気相互作用によってロータ41が回転駆動される。
【0043】
IPMモータ1では、ロータ41に永久磁石131〜134が埋め込まれているため、ロータ41の回転位置に応じて、三相巻線121〜123の周囲の磁界が変化し、各巻線121〜123のインピーダンスもそれぞれ変動する。このため、巻線の絶縁評価試験時に、インパルス信号に対する応答時間も変動する。
【0044】
図6は、図5のIPMモータにおける動作の一例を示した図であり、ロータの回転角度を変化させた場合のU−V相、V−W相及びW−U相のインピーダンスの変化の様子を示している。縦軸にインピーダンスを示し、横軸にロータの回転角度を示している。図6(a)は、各巻線121〜123に短絡がない場合のインピーダンスの変化の様子を示し、図6(b)は、W相に短絡がある場合のインピーダンスの変化の様子を示している。
【0045】
図6(a)に示すように、各巻線121〜123に短絡がない場合、U−V相、V−W相及びW−U相の巻線のインピーダンスは、それぞれ位相が120度ずつずれた正弦波形を示している。このため、ロータの回転角度にかかわらず、U−V相、V−W相及びW−U相の巻線のインピーダンスの総和は一定となっている。
【0046】
一方、W相に短絡がある場合、U−V相のインピーダンスは図6(a)と同一であるが、V−W相のインピーダンスがわずかに増加し、W−U相のインピーダンスが大幅に増加している。この場合も、U−V相、V−W相及びW−U相の巻線はそれぞれ正弦波形を示し、その位相は、短絡がない場合とそれぞれ同一となっている。このため、U−V相、V−W相及びW−U相の巻線のインピーダンスの総和は、ロータ回転角度にかかわらずに一定となっている。
【0047】
図7のステップS101〜S110は、図1のインパルス試験装置100の短絡判定処理の一例を示したフローチャートである。まず、ユーザが試験体指定スイッチを切り替えることにより、試験対象のモータ1が、短絡のない標準品と、短絡の有無が判定される被試験品とのいずれであるかの指定が行われる(ステップS101)。次に、U−V相の巻線121,122についてインパルス信号に対する応答時間が測定され、V−W相の巻線122,123と、W−U相の巻線123,121とについても順次応答時間が測定される(ステップS102〜S104)。更に、加算回路24が、U−V相、V−W相及びW−U相の応答時間の総和を算出する(ステップS105)。
【0048】
また、加算回路24が、試験対象のモータ1が標準品であるか否かを判定する(ステップS106)。モータ1が標準品である旨がユーザにより指定されていれば、加算回路24が、当該モータ1の応答時間の総和から、試験対象のバラツキ等を考慮したマージンを差し引いた値を判定閾値として算出し、この判定閾値を判定閾値記憶部26に格納して処理を終了する(ステップS109)。一方、モータ1が被試験品である旨がユーザにより指定されていれば、応答時間比較部25が、モータ1の応答時間の総和と判定閾値とを比較する(ステップS107)。応答時間の総和が判定閾値より小さければ、短絡判定回路27が、モータ1に短絡があると判定し、処理を終了する(ステップS108)。一方、応答時間の総和が判定閾値以上であれば、モータ1に短絡がないと判定し、処理を終了する(ステップS110)。
【0049】
図8のステップS201〜S205は、図7におけるU−V相の応答時間測定(ステップS102)の一例を示したフローチャートである。まず、U−V相の巻線121,122が選択される(ステップS201)。すなわち、図示しない制御部により生成された制御信号に基づいて、スイッチSW2がオンし、スイッチSW3及びSW4がオフされ、モータ1の端子125及び126が電圧印加回路20と接続される。次に、充電用コンデンサ202への充電が終了したか否かを判定する(ステップS202)。充電用コンデンサ202への充電が終了していれば、電圧印加回路20が、U−V相の巻線121,122にインパルス信号が印加する(ステップS203)。更に、応答時間測定回路23が、インパルス信号が印加されたU−V相の巻線121,122の線間電圧と、所定の検出閾値とが一致したか否かを判定する(ステップS204)。線間電圧が検出閾値と一致すれば、インパルス信号が印加されてからその時点までの時間を応答時間として記憶し、処理を終了する(ステップS205)。
【0050】
図9のステップS301〜S305は、図7におけるV−W相の応答時間測定(ステップS103)の一例を示したフローチャートである。このフローチャートは、U−V相の巻線121,122の代わりに、V−W相の巻線122,123にインパルス信号が印加され、このインパルス信号に対する応答時間が測定されることを除けば、図8のステップS201〜205と同一であるため、説明を省略する。
【0051】
図10のステップS401〜S405は、図7におけるW−U相の応答時間測定(ステップS104)の一例を示したフローチャートである。このフローチャートは、U−V相の巻線121,122の代わりに、W−U相の巻線123,121にインパルス信号が印加され、このインパルス信号に対する応答時間が測定されることを除けば、図8のステップS201〜205と同一であるため、説明を省略する。
【0052】
本実施の形態によれば、三相巻線121〜123の2相の各組合せにおける応答時間の総和がロータの回転位置にかかわらず一定となるという原理を利用し、短絡判定回路27が、応答時間の総和に基づいて、モータ1の短絡を判定している。従って、ロータの回転位置を特定することなくモータ1の短絡を判定することができるので、モータ1の短絡を判定する際の利便性を向上させることができる。特に、電気自動車のように、モータ1の取付後に巻線の絶縁評価のためにロータを回転させることが困難な製品について、ロータを回転させることなくモータ1の短絡を判定することができる。
【0053】
なお、本実施の形態では、モータ1が、三相巻線121〜123からなるステータを備える場合の例について説明した。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、モータ1が、三相巻線からなるロータを備える構成であり、インパルス試験装置100が、ロータの三相巻線の短絡を判定する構成であってもよい。
【0054】
また、本実施の形態では、インパルス試験装置100が、モータ1の短絡を判定する場合の例について説明した。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、モータ、発電機などの電動機の短絡を判定する構成であってもよい。例えば、この電動機として、三相巻線からなるステータ又はロータを備えた発電機の短絡を判定する構成であってもよい。
【0055】
また、本実施の形態では、短絡判定回路27が、三相巻線121〜123の応答時間の総和が判定閾値より小さければ、モータ1が短絡していると判定し、判定閾値以上であれば、モータ1が短絡していないと判定する場合の例について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、巻線の短絡を判定するための第1の判定閾値よりも大きい第2の判定閾値が定められ、第2の判定閾値に基づいて、巻線の断線(オープン)を判定する構成であってもよい。すなわち、応答時間の総和が第1の判定閾値よりも小さければ、巻線が短絡していると判定し、応答時間の総和が第2の判定閾値よりも大きければ、巻線が断線していると判定し、応答時間の総和が、第1の判定閾値以上であって、かつ、第2の判定閾値以下であれば、巻線は短絡も断線もしていないと判定するものとする。
【0056】
この場合、2以上の標準品について、3相巻線121〜123の応答時間の総和をそれぞれ求め、これらの総和の平均値から3σ(シグマ)を差し引いた値を第1の判定閾値とし、これらの総和の平均値に3σを加えた値を第2の判定閾値とすることが望ましい。
【0057】
また、本実施の形態では、U−V相、V−W相及びW−U相の巻線にインパルス信号を印加し、それぞれ応答時間を測定する場合の例について説明したが、本発明は、応答時間を計3回測定する構成に限定されない。例えば、U−V相、V−W相及びW−U相の巻線の応答時間を測定した後、インパルス信号を逆方向に印加して再度応答時間を測定することにより、応答時間を計6回測定する構成であってもよい。
【0058】
また、本実施の形態では、インパルス信号に対する応答時間の総和に基づいて、モータ1の短絡を判定する場合の例について説明した。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、三相巻線121〜123のインピーダンスをそれぞれインピーダンス測定器により求め、三相巻線121〜123のインピーダンスの総和を判定閾値と比較することにより、モータ1の短絡を判定する構成であっても良い。すなわち、三相巻線121〜123のインピーダンスの総和は、回転位置にかかわらず一定となることから、被試験品のインピーダンスの総和と標準品のインピーダンスの総和とを比較することにより、被試験品のモータ1の短絡を判定することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 モータ
20 電圧印加回路
21 高圧分圧器
22 線間電圧測定回路
23 応答時間測定回路
24 加算回路
25 応答時間比較部
26 判定閾値記憶部
27 短絡判定回路
30,31 鉄心
41 ロータ
42 ステータ
100 インパルス試験装置
121〜123 巻線
124 中性点
125〜127 端子
131〜134 永久磁石
201 DC電源
202 充電用コンデンサ
SW1 充放電切替スイッチ
SW2〜SW4 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相巻線からなる電動機の短絡を判定するための試験装置であって、
上記三相巻線の各線間電圧を測定する線間電圧測定手段と、
上記三相巻線のうち、2相にインパルス信号を印加する電圧印加手段と、
上記インパルス信号の印加後に上記線間電圧が所定の検出閾値と一致するまでの応答時間を測定する応答時間測定手段と、
上記三相巻線の2相の各組合せにおける上記応答時間の総和に基づいて、上記電動機の短絡を判定する短絡判定手段とを備えたことを特徴とする試験装置。
【請求項2】
上記応答時間の総和と判定閾値とを比較する応答時間比較手段を備え、
上記短絡判定手段が、上記応答時間比較手段の比較結果に基づいて、上記電動機の短絡を判定することを特徴とする請求項1に記載の試験装置。
【請求項3】
三相巻線からなる電動機の短絡を判定するための試験方法であって、
上記三相巻線の各線間電圧を測定する線間電圧測定ステップと、
上記三相巻線のうち、2相にインパルス信号を印加する電圧印加ステップと、
上記インパルス信号の印加後に上記線間電圧が所定の閾値と一致するまでの応答時間を測定する応答時間測定ステップと、
上記三相巻線の2相の各組合せにおける上記応答時間の総和に基づいて、上記電動機の短絡を判定する短絡判定ステップとを備えたことを特徴とする試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−215514(P2012−215514A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81968(P2011−81968)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(599007967)株式会社計測器センター (1)
【Fターム(参考)】