認知力のためのチモールおよび/またはp−シメンまたは植物抽出物を含有する新規な栄養補給食品組成物
本発明は、活性成分として、チモールおよび/またはp−シメン、またはチモールまたはp−シメン含有植物抽出物を含有する、新規な栄養補給食品組成物に関する。この組成物は、学習、記憶および覚醒度、精神病安定性および維持などの認知機能および心理社会的状態を改善するのに有用である。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、学習、記憶、および覚醒度などの認知機能を改善し、ならびに心理社会的圧力を緩和するための、活性成分としてチモールおよび/またはp−シメン、またはチモールおよび/またはp−シメン含有植物抽出物を含む新規な栄養補給食品組成物または食品添加剤に関する。チモール、p−シメン、および濃縮タイム抽出物はまた、低酸素症に起因する病状を治療するためにも、神経障害性疼痛および精神病の病状を軽減するためにも有用である。
【0002】
[背景技術]
記憶、学習および覚醒度は、中脳内の、特に情報が処理されて記憶が固定される海馬内の神経回路に依存する。精神能力および学習はシナプスの柔軟性、すなわち新しい受容体の動員による神経結合の強化、新しいシナプスの形成、および最終的に新しい神経結合の発生に依存する。
【0003】
(長期)記憶の形成および脳の効率的な機能は、ニューロン間の伝達強度を強化するための新しいタンパク質の合成に依存する。シナプス強化に充てられる新しいタンパク質の生成は、ニューロン内の化学および電気信号によって始動される。
【0004】
長期増強(LTP)は、短い馴化シナプス前電気的刺激バースト(およそ100Hzで1秒間)に続いて中枢神経系(CNS)内の特定のシナプスで生じる、シナプス伝達の持続性の増強(生体外では数時間、生体内では数日間または数週間)について述べるのに使用される用語である。この現象は、それによって記憶が形成されて脳内に保存される主要機序の1つであると広く見なされる。LTPは、生体外および生きている動物の双方で観察されている。実験条件下では、一連の短い高周波数の電気的刺激をシナプスに与えることで、化学シナプス強度を数分から数時間にわたり増強できる。最も重要なことには、LTPは生きている動物においてシナプスの柔軟性に寄与し、高度に適応できる神経系の基礎を提供する。
【0005】
2つの異なる受容体タイプ、すなわちN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体複合体およびα−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソオキサゾールプロピオン酸(AMPA)受容体が、LTP過程に主に関与する。LTP中に、主要な興奮性神経伝達物質であるグルタメートがシナプス前ニューロンから放出され、シナプス後膜上のAMPA受容体に結合してそれを活性化してその脱分極を引き起こす。静止膜電位では、NMDA受容体チャネルはマグネシウムイオンによってブロックされるが、シナプス後膜の脱分極がこのブロックを除去し、NMDA受容体の活性化と引き続くカルシウムの細胞内への侵入を可能にする。この細胞内カルシウムの上昇はタンパク質キナーゼを活性化すると考えられ、遺伝子転写および強化タンパク質の構築を引き起こし(Neihoff 2005年,Speak Memory 210〜223頁)、AMPA受容体の強化された感受性をもたらし、ひいては神経伝達とLTP維持をさらに促進する。
【0006】
NMDA受容体はNR1−およびNR2−サブユニットのアセンブリーから構成され、グルタメート結合領域はこれらのサブユニットの接合部に形成される。グルタメートに加えて、NMDA受容体は受容体機能を調節するために共作動薬グリシンを必要とする。グリシン結合部位がNR1サブユニット上に見られるのに対し、NR2サブユニットはNMDA受容体の機能を調節する制御分子であるポリアミンのための結合部位を保有する。
【0007】
このようにしてアミノ酸グリシンは、NMDA受容体複合体において、グルタメートと共に正のアロステリックな調節因子および必須共作動薬として機能することが知られている(Danysz 1998年,Pharmacol.Rev.,50(4),597〜664頁)。グリシン輸送体(GlyT)は、シナプス前神経末端または膠細胞内へのグリシンの再取り込みによる、シナプス後グリシン作動性作用の終結、および低細胞外グリシン濃度の維持において重要な役割を果たす。したがってグリシン作用の終結は、概して迅速な再取り込みによって仲介される。2つのグリシン輸送体GlyT1およびGlyT2が知られており、12個の推定上の膜貫通領域によって特徴づけられている一方、同一遺伝子からコードされる3種の変異型GlyT1(GlyT1a、b、およびc)が同定されている(BorowskyおよびHoffman(1998年),J.Biol.Chem.,273(44),29077〜29085頁)。
【0008】
GlyT1は、前脳内の唯一の塩化ナトリウム依存グリシン輸送体であり、それはそこでNMDA受容体と共に同時発現される。この部位でGlyT1は、シナプスにおけるグリシンの細胞外レベルを調節する役割を担うと考えられ(Lopez−Corcuera(2001年),Mol.Membr.Biol.,18(1),13〜20頁)、NMDA受容体機能の調節をもたらす。
【0009】
実際、マウスおよびラット双方の海馬の切片標本において、シャッファー側枝刺激に際して選択的GlyT1拮抗薬N−[3−(4’−フルオロフェニル)−3−(4’−フェニルフェノキシ)]プロピルサルコシン(NFPS)の存在下で、CA1錐体細胞内に強化されたNMDA受容体反応が観察された(Bergeronら(1998年),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95(26),15730〜15734頁)。生体内では、成体マウスにおいてNFPSの全身性投与が歯状回中でLTPを増大させ、音響驚愕反応のプレパルス抑制を強化し、GlyT1の阻害がNMDA受容体機能に行動に関わる様式で影響することが示された(Kinneyら(2003年),J.Neurosci.,23(20),7586〜7591頁)。
【0010】
このようなデータは、正常な個体において、精神病性症候群予防のために、そして記憶および学習などの生理学的認知機能を維持しまたは促進するために、シナプスのNMDA受容体の局所微小環境においてグリシンの細胞外レベルを上昇させることで、NMDA受容体シナプスの機能を増強できる化合物の潜在的有用性を強調する。
【0011】
高齢者および若年者の双方、学生、建設労働者、運転手、パイロット、医師、販売員、重役、主婦、「高度専門職」をはじめとする毎日の仕事において特に高い記憶および注意力を必要とする個人、および精神的ストレスまたは日々のストレスを受けている人々、ならびに統合失調症などの精神医学的不安定性を起こしやすい人々において学習、記憶および覚醒度を改善するのに使用してもよい化合物、ならびに栄養補給食品組成物の開発に対する関心の高まりがある。
【0012】
したがってNMDA受容体機能を増強し、学習、記憶、および覚醒度を改善できる化合物または栄養補給食品組成物が、非常に望ましいであろう。
【0013】
特開2004002237号公報は、老化防止化合物の多数の植物原料の一つとしてローズマリーを含む、老化防止食材または医薬品の使用を開示する。髪および皮膚および目と骨の健康に対する有益な効果に加えて、この組成物の特許請求される用途の一つは学習機能および記憶の改善である。
【0014】
[発明の詳細な説明]
本発明に従って下の式1の化合物、またはその塩、誘導体、代謝産物または類似体が、LTPを誘発するそれらの能力を通じて、海馬機能の活性化物質であることが分かった。それらはグリシン輸送体GlyT1を阻害することでグリシンの再取り込みを阻害することによって、または別の経路の活性化によって、または双方の機序によって機能できる。これらの生物学的活性は、記憶形成および記憶の固定において重要であり、したがってこれらの化合物は認知機能を増強するのに有用である。
式I:
【化1】
式中、
R1=H、OHまたはOMe、および
R2=H、OH、またはOMeである。
【0015】
特に本発明に従って、チモール、およびチモールを含有する植物抽出物が、グリシン輸送体GlyT1の阻害によってグリシンの再取り込みを抑制する能力を有することが分かった。結果として生じる細胞外グリシンレベル増大はNMDA受容体の追加的活性化をもたらし、これはいくつかの遺伝子の転写活性化を誘発する第1のステップであり、引き続いて記憶形成および記憶固定に関与する主要な細胞性機序であるLTPを誘発する。
【0016】
植物抽出物中に見られる別の化合物であるp−シメンが、異なる機序を通じてLTPの誘発を可能にすることもまた分かった。双方の過程は同じ生物学的利点を有し、すなわちそれらはどちらも海馬機能を促進して強化された認知機能につながるので、本発明の別の態様はこれらの2つの活性成分を一緒に使用して認知機能を増強することである。
【0017】
したがって本発明の一態様は、認知機能を増強するための式Iの化合物またはチモール酢酸を含む新しい栄養補給食品組成物である。特に好ましい式Iの化合物は、チモールおよびp−シメンである。
【0018】
式Iの化合物は、既知の方法を使用して合成的に生成できる。それらは既知の手順を使用して植物などの天然原料から抽出でき、またはそれらは、好ましくは海馬機能の効果的な増強剤であるのに十分な量のチモールおよび/またはp−シメンを含有するタイム抽出物である、植物抽出物の構成要素として使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】GlyT1阻害アッセイにおける、チモールおよび濃縮タイム抽出物の用量反応曲線を示す。アッセイ結果は、放射性グリシンの細胞内への内部移行の%阻害として提示される。図1は、細胞アッセイにおいて、2つの異なるタイム抽出物、ならびにタイムの最も顕著な揮発性構成要素であるチモールが、GlyT1の作用を特異的に阻害できることを明らかに実証する。
【図1a】ALXでは、IC50=6.46nMであることを示す。
【図1b】サルコシンでは、IC50=35.9nMであることを示す。
【図1c】ORG24569では、IC50=0.02μMであることを示す。
【図1d】チモールでは、IC50=13.6μMであることを示す。
【図1e】タイム抽出物1では、IC50=48.2μg/mLであることを示す。
【図1f】タイム抽出物2では、IC50=45.1μg/mLであることを示す。
【図2a】エラー回数として表される、降下行動試験からの結果を示す。タイム抽出物で処置されたマウスは、それらの年齢をマッチさせた対照よりも成績が有意により良く、正の対照で処置されたマウスに匹敵した。タイム処置群およびイチョウまたはロリプラム処置群の性能間には、どの時点でも統計的差違が観察されなかった。a:訓練期間における、ビヒクル処置された年齢をマッチさせた同腹子との有意差。b:試験期間における、ビヒクル処置された年齢をマッチさせた同腹子との有意差。c:休薬期間における、ビヒクル処置された年齢をマッチさせた同腹子との有意差。
【図2b】降下行動試験、潜伏期間。タイム抽出物で処置されたマウスは、それらの年齢をマッチさせた対照よりも成績が有意により良く、正の対照で処置されたマウスに匹敵した。タイム処置群およびイチョウまたはロリプラム処置群の性能間には、どの時点でも統計的差違が観察されなかった。
【図3a】物体提示の3時間前および3時間後の各コーナーにおける滞在時間。黒丸は物体の位置を表す。
【図3b】物体提示前に全ての4つのコーナーで過ごされた総時間について正規化された、各コーナーにおける滞在時間。
【図3c】対照およびイチョウ(Ginkgo biloba)(GBE)処置動物と比較した、タイム抽出物処置群の活動相における学習曲線。全群において成績は経時的により良くなったが、対照と処置群との間に差は見られなかった(p=0.44)。このデータは、全ての動物が課題を学習できることを示す。
【図3d】逆位置の学習。エラーは最初の活動相において記録した。エラー率は、タイム抽出物では100%から約20%に、双方の対照群では約60〜70%に低下した(最後の2つの時間ビンではp=0.011)。時間ビンはそれぞれ2時間に相当する。
【0020】
[植物抽出物]
チモールおよび/またはp−シメンを含有するいくつかの植物種があり、植物抽出物の原料になり得る。好ましくは植物は、双方の化合物を含有することからタイム属のメンバーであるが、抽出物原料はどちらかの化合物を含有することが知られているあらゆる植物であってもよい。チモール/p−シメンを含有することが知られているその他の植物の例としては、ホースミント(モナルダ・プンクタータ(Monarda punctata)、およびM.フィスツロサ(fistulosa)などの近縁のヤグルマハッカ種)、アジョワンキャラウェイ(Trachyspermum ammi)、ディル(Anethum graveolens)、フェヌグリーク(Trigonella foenum−graecum)、ウィンターセイボリー(Satureja montana)、セロリ(Apium graveolens)、ティーツリー(Melaleuca alternifolia)、およびカルダモン(Elettaria cardamomum)が挙げられる。
【0021】
タイム抽出物は、タチジャコウソウ(T.vulgaris)、ソースタイム(T.zygis)、ブロードリーフタイム(T.pulegioides)、ヨウシュイブキジャコウソウ(T.serpyllum)、T.ボルンムエレリ(bornmuelleri)、T.デカサツス(decassatus)、T.ロンギカウリス(longicaulis)、T.シリアカス(syriacus)、およびシンプタイム(Thymus schimp)などのタイム属のあらゆる種から作製されてもよい。好ましくはタイムは、タチジャコウソウ(Thymus vulgaris)である。一般にタイム抽出物は、少なくとも約25〜80%のチモール、好ましくは約40〜65%のチモール、より好ましくは約50〜60%のチモールを含有すべきである。一般にタイム抽出物は、少なくとも約5〜55%のp−シメン、好ましくは約10〜40%のp−シメンを含有すべきである。
【0022】
明細書および特許請求の範囲全体を通じた用法で、「タイム抽出物」という用語は広義で使用されることが意図され、水蒸気蒸留、超臨界CO2(SF−CO2)抽出、水性抽出、亜酸化窒素抽出、アルコールベース抽出、またはエタノールなどの変性剤で任意に変性された酢酸エチル、プロパン、アセトンなどの有機溶剤ベース抽出などの従来の手段によって作製された植物抽出物を包含できる。抽出物はヒトおよび動物による摂取が意図されるので、抽出物は規制当局によって認可されたものであるべきである。
【0023】
タイム抽出物に関する重要なパラメーターは、次のものだけである。
1)それは動物またはヒトによる摂取のための栄養補給食品組成物中での使用に許容可能であるべきである。したがってその調製のために用いられる溶剤は、種々の規制当局によって意図される用途のために認可されたものであるべきである。したがって好ましい抽出手順は、水蒸気蒸留、SF−CO2、C2〜4アルコール抽出、および酢酸エチル抽出である。
2)それは、認知力改善および/または心理社会的状態改善などの所望の効果が達成されるように、すなわち対象が改善された記憶機能を示し、またはストレス状況により生産的な様式で対処できるように、十分な量の活性化合物チモールまたはp−シメンまたは双方を含有すべきである。明細書および特許請求の範囲全体を通じた用法で、「認知機能を改善する量」および「心理社会的状態を改善する量」という用語は、この概念を伝えることが意図される。様々な状態の改善度は、標準心理学的アセスメント試験を使用して評価できる。
【0024】
明細書および特許請求の範囲全体を通じた用法で、「抽出物」という用語は、従来の抽出物(すなわち標準親油性抽出物などの全抽出物)、ならびに2種以上の抽出手順を使用して製造される抽出物(所望構成物を濃縮するために第2の抽出が使用されることが多い、全抽出物がさらに精製されている「濃縮」抽出物)を含む。
【0025】
タイム抽出物は典型的に、生物活性でおよび/または活性構成要素チモールおよび/またはp−シメンの生物学的利用能を増大させてもよい、その他の化合物を含有する。それらがタイム抽出物中に存在する量は、使用されるタイム種、植物の生育条件、そして当然ながらタイム抽出物を調製するのに使用される方法をはじめとする、いくつかの要素に基づいて変動する。超臨界CO2法を使用して調製される典型的なタチジャコウソウ(Thymus vulgaris)抽出物は、(チモールおよびp−シメンに加えて)カルバクロール、1,8−シネオール、ボルネオール、ゲラニオール、リナロール、ボルニル、酢酸リナリル、チモールメチルエーテルおよびa−ピネン、アピゲニン、ルテオリン、チモニン、ナリンゲニン、およびカリオフィレンを含有する。
【0026】
[チモールは精神状態に有益である]
既述したように、記憶、学習、および精神的安定性の基盤はLTPであり、または脳内、特に海馬内のAMPAおよびNMDA受容体活性化を通じて起きる神経結合の強化である。
【0027】
GlyT1におけるそれらの活性を通じたグリシン再取り込み阻害物質として、チモールおよびチモール含有タイム抽出物は、NMDA受容体近傍にグリシンを蓄積させることでそれを活性化し、記憶形成および記憶固定に関与する主要な細胞機序であるLTPの誘発を最終的にもたらす。
【0028】
さらにp−シメンは、(チモールとは異なるステップにおいてではあるが)同一生化学的経路の活性化を誘発してLTP誘発をもたらし、記憶機能を改善するのに同様に有益である。したがってチモールおよびp−シメン、およびそのどちらかまたは双方を含有する抽出物は、海馬機能を活性化して記憶の形成および固定を改善し、ならびに精神的健康を改善できる。
【0029】
[本発明によって改善される病状]
本発明の文脈で「治療」とは、併用治療ならびに予防もまた包含する。予防は、発症リスクの低下、病状の回復、容易な介入、およびまたは将来発症する病状の重篤性を最小化することを意味することができる。
【0030】
明細書および特許請求の範囲全体を通じた用法で、「改善された認知機能」という用語は、次のような良好な認知性およびバランスをサポートし維持する状態を指すことを意図する。
・以下をはじめとする強化された学習
−言語処理
−問題解決
−知的機能
・心理社会的負担に対処する能力
・強化された注意力および集中力
・強化された記憶および想起能力、特に短期記憶
・強化された精神的敏捷性および精神的覚醒状態、精神的疲労の低減
・以下をはじめとする精神的状態の安定化
−分娩後の病状の緩和
−パートナー、子供との離別、愛する人の死亡、または結婚生活の問題に起因する心理学的負担の緩和
−転居、転職または類似した出来事に付随する問題の緩和
−交通事故に続くストレスの多い状態またはその他のネガティブな社会的圧力の緩和
・以下をはじめとするストレス緩和
−作業過負荷、疲労および/または「燃え尽き」に関連した症状の治療、予防、および軽減
−ストレスに対する抵抗性または耐性の増大
−健常人におけるリラクセーションのサポートおよび促進
・以下をはじめとする「病状改善」
−過敏および倦怠感の低減
−肉体的および精神的疲労の低減、予防または軽減
−病人または健常人における良質の睡眠の促進、すなわち不眠症および睡眠障害への対抗、およびエネルギーのより概括的な増大
【0031】
本発明の好ましい一態様では、特に、強化された認知機能および/または心理社会的サポートに対する特別な必要性を感じる人々のために、組成物を栄養補給剤として使用してもよい。強化された認知機能から恩恵を受けるであろう人々の非総記的一覧には、以下が含まれる。
高齢者、
学生または試験準備中の人々、
多大な学習をしている子供、すなわち乳児、幼児、就学前児童、および就学児童、
建設労働者、または潜在的に危険な機械類を操作する人々、
トラック運転手、パイロット、鉄道運転士、またはその他の運輸専門職、
航空管制官、
販売員、重役、およびその他の「高度専門職」、
警察官および兵士、
主婦、
またはスポーツ競技者、チェス競技者、ゴルファー、(俳優、音楽家などの)職業的パフォーマーなどの毎日の仕事において多量のストレスに曝されるあらゆる人々、または毎日の仕事において特に高度な注意力/集中力/高い精神的および心理的能力を必要とする人々。
【0032】
これらの改善を達成するために、数日間(例えば少なくとも6または10日間)にわたる投与が推奨され、数週間にわたる毎日の投与が一般に好ましい。
【0033】
ヒトへの応用の他に、本発明の組成物は獣医学界における追加的用途を有する。強化された度認知機能から恩恵を受ける動物としては、ストレスの多い状況に置かれる動物が挙げられる。このような状態は、例えば捕獲または輸送後に起き、または畜舎環境(居住場所または飼い主の変更)に起因するかもしれず、動物が類似性障害を発生し、苦痛を感じ、または攻撃的であり、または常同行為、または不安および強迫行動を示す場合に生じる。ストレスを被る動物としては、競技用動物(例えばイヌ、ウマ、ラクダ)、または様々なスポーツで使用される動物、芸当する動物(サーカス動物、および舞台、テレビまたは映画に出演する動物など)、および馬場馬術およびその他の高度に訓練された動作を演じるウマもまた挙げられる。
【0034】
好ましい「動物」は、ペットまたはコンパニオンアニマルおよび家畜である。ペットの例は、イヌ、ネコ、鳥、観賞魚、モルモット、(ジャック)ウサギ、ノウサギ、およびフェレットである。家畜の例は、水産養殖魚、ブタ、ウマ、反芻動物(畜牛、ヒツジ、およびヤギ)、および家禽である。
【0035】
[栄養補給食品の用途/調合/投薬]
「栄養補給食品」という用語は、ここでの用法では栄養および製薬の応用分野の双方における有用性を意味する。したがって新規な栄養補給食品組成物は、食品および飲料の栄養補給剤として、そしてカプセルまたは錠剤などの固形製剤、または溶液または懸濁液などの液剤であってもよい、経腸的または非経口用途のための医薬製剤として使用できる。
【0036】
本発明に係る栄養補給食品組成物は、保護親水コロイド(ガム、タンパク質、加工デンプンなど)、バインダー、塗膜形成剤、封入剤/封入材、壁/シェル材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、表面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着材、キャリア、充填材、共化合物、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動化剤、味覚マスキング材、増量剤、ゼリー化剤、ゲル形成剤、抗酸化剤、および抗菌剤をさらに含有してもよい。
【0037】
さらに本発明の栄養補給食品組成物にマルチビタミン剤およびミネラル補給剤を添加して、食生活によっては欠けている適量の必須栄養素を得てもよい。マルチビタミン剤およびミネラル補給剤はまた、疾患予防と、生活習慣パターンに起因する栄養損失および欠乏症からの保護のためにも有用である。
【0038】
本発明に係る栄養補給食品組成物は、例えば食品または飼料(のための添加剤/栄養補給剤)、食品または飼料プレミックス、強化食品または飼料、錠剤、丸薬、顆粒、糖衣丸、カプセル、および粉末および錠剤などの発泡性調合物などの固形形態の、または例えば飲料、ペースト、および油性懸濁液などの溶液、エマルジョンまたは懸濁液などの液体形態の、特に経口投与に標準的なあらゆる形態である、身体に投与するのに適したあらゆるガレヌス製剤形態であってもよい。ペーストは硬質または軟質シェルカプセルに組み込まれてもよく、カプセルは例えば(魚、ブタ、家禽、ウシ)ゼラチン、植物タンパク質またはリグニンスルホネートのマトリックスを特徴とする。その他の応用形態の例は、経皮、非経口または注射投与のためのものである。食餌および医薬組成物は、制御(遅延)放出製剤の形態であってもよい。
【0039】
食品および酪農製品の例としては、例えばマーガリン、スプレッド、バター、チーズ、ヨーグルトまたは乳飲料が挙げられる。
【0040】
強化食品の例は、シリアルバー、ならびにケーキやクッキーおよびポテトチップスなどのベーカリー製品である。
【0041】
飲料は、非アルコールおよびアルコール飲料、ならびに飲用水および液体食品に添加するための液体調製品を包含する。非アルコール飲料は、例えば清涼飲料、スポーツドリンク、果汁、レモネード、茶、およびミルクベースの飲料である。液体食品は、例えばスープおよび酪農製品である。チモールおよび/または濃縮タイム抽出物またはp−シメンを含有する栄養補給食品組成物は、約10〜1000mgの1日量、好ましくは約50〜750mgの1日量、またはより好ましくは約100〜500mgの1日量の範囲で、成人が認知性機能を改善する量で、チモールまたはタイム含有植物抽出物を摂取するように、清涼飲料、エネルギーバー、またはキャンディに添加されてもよい。p−シメンについては、認知性機能を改善する量は約5〜500mgの1日量、好ましくは約25〜375mgの1日量、より好ましくは約50〜250mgの1日量の範囲である。
【0042】
栄養補給食品組成物が医薬製剤であれば、組成物は薬学的に許容できる賦形剤、希釈剤またはアジュバントをさらに含有する。それらの調合のために、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences,第20版、Williams & Wilkins,PA,USAで開示されるような標準技術を使用してもよい。経口投与のためには、好ましくは錠剤およびカプセルが使用され、それは例えばゼラチンまたはポリビニルピロリドンなどの適切な結合剤、例えば乳糖またはデンプンなどの適切な充填材、例えばステアリン酸マグネシウムなどの適切な潤滑剤、および任意にさらなる添加剤を含有する。1日量は食品調合物に関するものと実質的に同一であるが、投与を容易にするために投与単位あたりより小さな用量に分割してもよく、毎日複数の投与単位(1〜4個のカプセルなど)を摂取してもよい。好ましいのは、合わせて10〜1000mg、より好ましくは50〜750mg、およびなおもより好ましくは100〜500mgの1日量を提供する、チモールおよび/または濃縮タイム含有植物抽出物誘導体である。p−シメンでは好ましい1日量は約5〜500mg、好ましくは25〜375mg、なおもより好ましくは50〜250mgである。
【0043】
ヒトを除く動物において、本発明の目的では、タイムまたはタイム抽出物の適切な1日量は、毎日体重1kgあたり0.001mgから体重1kgあたり約1000mgの範囲内であってもよい。より好ましいのは体重1kgあたり約0.1mg〜約500mgの1日量であり、特に好ましいのは体重1kgあたり約1mg〜100mgの1日量である。
【0044】
本発明のより良い例示のために、以下の制限を意図しない例を提示する。
【0045】
[実施例1]
[タイム抽出物の調製および組成]
適切なタイム抽出物の販売元としては、MDidea(MDidea Exporting Division,No.9,WBSS,Ntez.YC,China)、FLAVEX(FLAVEX Naturextrakte GmbH,Nordstrasse 7,D−66780 Rehlingen,Germany)、およびWhite Lotus Aromatics(602 S.Alder Street,Port Angeles,WA 98362−6612,USA)が挙げられる。
【0046】
[タイム抽出物の調製および組成]
以下の実施例では「−se」はフェノールタイプのタイム抽出物1を指し、「−to」はテルピネオールタイプのタイム抽出物2を指し、どちらもドイツ国のFlavexから入手される。
【0047】
乾燥タイム葉を製粉し、超臨界二酸化炭素で抽出した。抽出パラメーターは次のとおりであった。温度45℃;使用圧力300バール(−to)または100バール(−se);1kgの植物材料あたり17kg(−to)および15kg(−se)の二酸化炭素を要した;圧力を30℃で60バールに低下させることで分離器内に抽出物を得た。それぞれ25kg(−to)または50kg(−se)の植物材料が、1kgの抽出物を生じた。
【0048】
抽出物1(−se)は次の組成(ガスクロマトグラフィーによる分析)を有した:精油の総含量は65.3%(残りの部分は植物ワックス)であった。揮発性構成要素を下に列記する。
チモール:53%
p−シメン:34%
リナロール:2.2%
カリオフィレン:2%
カルバクロール:1.7%
【0049】
抽出物2:(−to)は47.8%の精油を含有した。揮発性化合物の組成を下に列記する。
チモール:52.0%
p−シメン:18.7%
γテルピネン:7.2%
カルバクロール:3.7%
カリオフィレン:3.7%
リナロール:3.7%
ボルネオール:1.5%
βミルセン:1.2%
1,8シネオール:1.1%
αピネン:0.6%
リモネン:0.3%
【0050】
[実施例2]
[細胞アッセイにおけるグリシン輸送体1の阻害]
ヒトグリシン輸送体1b cDNA(GlyT1)を安定して発現するCHO細胞を、10%透析ウシ胎仔血清、ペニシリン、ストレプトマイシン、プロリン、および抗生物質G418を含有する、米国カールスバッドのインビトロジェン(Invitrogen(Carlsbad,USA))から購入したダルベッコ変法イーグル培地中で慣例的に成育させた。アッセイの前日にトリプシン処理によって細胞を収集し、前述の培地に播種した。アッセイ直前に、150mM NaCl、1mM CaCl2、2.5mM KCl、2.5mM MgCl2、10mMグルコース、および10mM N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸を含有する取り込み緩衝液(「Hepes」緩衝液)によって培地を交換した。
【0051】
細胞内へのグリシン取り込みは英国スラウのアマシャム・バイオサイエンスGEヘルスケア(Amersham Biosciences GE Healthcare(Slough,UK))からの60nM放射性標識[3H]グリシンの添加、および室温で30分のインキュベーションによって判定された。上の緩衝液による穏やかな3回の洗浄によって取り込まれなかった標識を除去した後、液体シンチレーション測定によって取り込まれたグリシンを定量化した。
【0052】
GlyT1輸送体を通じたグリシン取り込みは、用量依存的様式でタイム抽出物またはチモールの添加によって阻害された。GlyT1の既知の阻害剤として、全て米国セントルイスのシグマ(Sigma、(St.Louis,USA))から得られるサルコシン、ORG24598、およびALX5407を使用した。グリシン取り込み阻害の測定されたIC50値、および代表的な用量反応曲線をそれぞれ表1および図1a〜1fに示す。
【0053】
図1は、細胞アッセイにおいて、2つの異なるタイム抽出物、ならびにタイムの最も顕著な揮発性構成要素であるチモールが、GlyT1の作用を特異的に阻害できることを明らかに実証する。
図1aはALX5407では、IC50=6.46nMであることを示す。
図1bはサルコシンでは、IC50=35.9nMであることを示す。
図1cはORG245698では、IC50=0.02μMであることを示す。
図1dはチモールでは、IC50=13.6μMであることを示す。
図1eはタイム抽出物1では、IC50=48.2μg/mLであることを示す。
図1fはタイム抽出物2では、IC50=45.1μg/mLであることを示す。
【0054】
【表1】
【0055】
[実施例3]
[海馬切片培養]
ギロチンを使用して7日齢のウィスター系ラットを断頭した。1分以内に開頭して大脳半球を分離して取り出し、双方の海馬を切り出して、137mM NaCl、5mM KCl、0.85mM Na2HPO4、1.5mM CaCl2、0.66mM KH2PO4、0.28mM MgSO4、1mM MgCl2、2.7mM NaHCO3、1mMキヌレン酸、および0.6%D−グルコースを含有する氷冷緩衝液に入れた。
【0056】
同一緩衝液中で振動刃ミクロトーム(VT1200S;Leica Microsystems(Schweiz)AG,Heerbrugg,Switzerland)を使用して、横行海馬切片(400μm)を調製した。海馬切片をメンブレンインサート(Millicell Culture Plate Inserts、0.4μm)に個別に入れて、25%熱不活性化ウマ血清、1×GlutaMAX、1×ペニシリン/ストレプトマイシン、0.6%グルコース、および1mMキヌレン酸を含有する、BMEとMEM(どちらもインビトロジェンから)の1:1混合物を含有する培地中で、35℃、5%CO2、95%湿度で培養した(Stoppini,BuchsおよびMuller(1991年),J.Neurosci.Methods,37(2),173〜82頁)。
【0057】
48時間の培養後に、140mM NaCl、5mM KCl、1.3mM CaCl2、25mM HEPES(pH7.3)、33mM D−グルコース、および0.02mMビククリンメチオダイド中で、15分間にわたり、タイム抽出物またはその構成物の添加によってシナプスのNMDA受容体を活性化した。サルコシン(100μM)およびALX5407(20nM)を正の対照として慣例的に使用した。追加的な正の対照は、姉妹培養物への200μMのグリシンの添加を含んでいた。処置後に切片を洗浄して、免疫組織化学的検査免疫組織化学のために固定した。常態では長期増強と関連付けられている、強化されたシナプス活性のマーカーを定量化し、学習および記憶の生体外モデルとした(下の表2参照)。
【0058】
【表2】
【0059】
タイム抽出物ならびにp−シメンとチモールの双方による海馬培養養物の処置は、LTPに典型的な生化学的マーカーを誘発した(pCREB:cAMP応答要素結合タンパク質の活性化形態;pMAPK:マイトジェン活性化タンパク質キナーゼの活性化形態;GLUR1:AMPA受容体1の細胞表面存在)。
【0060】
[実施例4]
[ゼブラフィッシュの非連合学習および記憶のモデルである、音響驚愕反応アッセイにおけるタイム抽出物1の効果]
習慣化は非連合学習および記憶の最も単純な形態の1つであり、反復刺激に対する反応低下をもたらす(ThompsonおよびSpencer(1966年),Psychol.Rev.,73(1),16〜43頁)。脊椎動物で研究された顕著な行動の1つは驚愕反応であり、これは突然の音響、触覚または視覚刺激によって引き起こされる迅速な体筋の収縮で、単純な神経回路によって媒介される(Koch(1999年),Prog.Neurobiol.,59(2),107〜128頁)。
【0061】
受精の20日後には、哺乳類に匹敵する機能性血液脳関門を有することが知られているゼブラフィッシュにおいて、音響驚愕反応(ASR)に対するタイム抽出物1の効果を評価した。試験魚を英国ウォトフォードのミリポア(Millipore(Watford,UK))からの48ウェルプレート中でウェル毎に1匹ずつ泳がせて、それらが泳ぐ水中に溶解させた、異なる濃度の試験化合物に曝した。24時間後に、魚を英国ノッティンガムのTracksys Ltd.からのソニー(Sony)XC EI50 CEカメラと、オランダ国ワゲニンゲンのNoldusからのEthovisionソフトウェアとを含む自動化ライブ追跡システムに入れた。15分間の順化後に、魚をEthovisionソフトウェアと同期させた一連の音響に曝した。48ウェルプレート上に配置した英国バートンフレミングのNoiseMeter Ltd.からのNM102騒音計を使用した測定で、長さ0.6秒、周波数200Hz、および113デシベルの聴覚的合図を1秒間隔、(試行間間隔、ITIと称される)で、デル(Dell)コンピュータに接続した側面マウントスピーカー(48ウェルプレートの側面から10cm離して配置したBell Packard)から発生させた。音響セッションは最大50回の音からなり、各聴覚刺激エピソード間に15分間の回復期をおいて2回のセッションを行った。各聴覚刺激に応えた移動距離を測定することで、個々の魚毎にASRを分析した。これは驚愕反応の定量的な読み取りを提供し、聴覚刺激の開始から1秒間の魚の移動距離と定義された。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
[実施例5]
[伝統的齧歯類学習および記憶モデルにおけるタイム抽出物の効果]
連合学習および記憶行動についてもまた、生体外LTPアッセイによって同定されゼブラフィッシュモデルで有効性が証明されたタイム抽出物の経口投与後に、齧歯類で調べた。この目的で、マウスに連合学習および記憶パラダイムを施した。床に36Vの電気格子を装着した反応ボックスに、マウスを個別に入れた。動物が電気ショックを受けた際、それらの正常な反応は絶縁プラットフォーム上に飛び上がって疼痛刺激を避けることである。格子上に戻った動物の大部分は、電気ショックを受けると迅速に飛び上がりプラットフォームに戻った。動物は5分間にわたり訓練され、各マウスがショックを受けた回数、またはエラーを犯した回数を記録した。このデータは学習データを構成した。24時間および48時間目に再試験を行い、これらの試行は記憶力テストの役割を果たした。各群でショックを受けた動物数、プラットフォームから飛び降りるまでの時間、最初の3分間のエラー回数を記録した。訓練終結後5日間の休薬期間後、記憶の減退を試験した。
【0064】
試験は6つの試験群(各群あたりn=12)を含んだ。タイム、イチョウ、およびビヒクルは、研究全体を通じて、毎日経口胃管栄養法を通じて投与された(10ml/kg)試験物質またはビヒクルであった。イチョウ(Ginkgo biloba)の処置用量は100mg/kg BWであり、タイム抽出物は3種の用量(40(低用量)、120(中用量)、360(高用量)mg/kg BW)で試験された。ロリプラムは試験の30分前に腹腔内注射によって投与された(体重1kg当たり0.1mg/kg)。
【0065】
ビヒクル処置同腹子(負の対照)と比較すると、タイム処置動物は、訓練および記憶相において、および休薬期間後に有意により良い学習および記憶能を示し、イチョウ(Ginkgo biloba)またはロリプラム(正の対照)で処置されたマウスと同様の良好な成績を上げた。
【0066】
図2は、エラー回数として表される、降下行動試験結果のグラフを示す。図に示すようにタイム抽出物で処置されたマウスは、年齢をマッチさせた対照よりも成績が有意により良く、正の対照化合物で処置されたマウスに匹敵した。タイム処置群およびイチョウまたはロリプラム処置群の性能間には、どの時点でも統計的差違が観察されなかった。図2において「a」は訓練期間におけるビヒクル処置された年齢をマッチさせた同腹子との有意差を示し、「b」は試験期間におけるビヒクル処置された年齢をマッチさせた同腹子との有意差を示し、「c」は休薬期間におけるビヒクル処置された年齢をマッチさせた同腹子との有意差を示す。
【0067】
[実施例6]
[新しい完全に自動化された齧歯類学習および記憶モデルにおけるタイム抽出物の効果]
本発明者らは、ホームケージ内で長期にわたり動物行動を自動モニタリングできるようにする、スイス国チューリッヒのNewBehavior AGからのIntelliCage(登録商標)システム内で、イチョウ(Ginkgo biloba)およびタイム抽出物で処置されたマウスの認知能力を試験して、それらのビヒクル処置された年齢をマッチさせた対照と比較した。IntelliCage(登録商標)は、元来、社会的隔離および頻繁な試験環境に起因する過剰なストレスなしに、社会集団内で認知性および動機づけパラダイム中で実験的動物を試験するために検証された(Galsworthyら、2005年、Behav Brain Res157:211−217頁;Onishchenkoら,2007年,Toxicol Sci97:428〜437頁)。さらにIntelliCage(登録商標)システムは、対照と共に収容される様々な度合いの海馬損傷がある動物を迅速に区別し(Lippら、2004年、FENS annual meeting)、IntelliCage(登録商標)が海馬依存行動を試験するのに適することが示唆される。
【0068】
[試験群および処置]
試験は3つの試験群(群当たりn=12〜14;1群=ビヒクル処理マウス(対照);2群=イチョウ(Ginkgo biloba)(GBE);3群=タイム抽出物(タイム))を含んだ。8週間の研究全体にわたり全てのマウスに、毎日経口胃管栄養法を通じて(10ml/kg)試験物質またはビヒクルが投与された。イチョウ(Ginkgo biloba)の処置用量は100mg/kg BWであり、タイム抽出物では350mg/kg BWであった。
【0069】
[IntelliCages(登録商標)]
スイス国チューリッヒのNewBehavior AGからのIntelliCage(登録商標)は、ホームケージ様環境内において、トランスポンダー装着マウスの自発的および学習行動の自動モニタリングができるようにするシステムである。各IntelliCage(登録商標)は、本質的に大型ラットケージ(37.5×55×20.5cm)であり、その中に4つの記録(オペラント)チャンバーを含む金属フレームが入れられる。記録チャンバーはケージの四隅に収められ、それぞれ15×15×21cmの床領域の直角三角形領域をカバーする。ケージ内アンテナが個々のマウス毎のコーナー訪問の自動モニタリングを可能にし、各コーナー内の光線が個々の鼻突っ込みおよび給水瓶口のリッキングの自動記録を可能にする。4つの三角形のマウスシェルターがケージ中央に配置され、その上には食物に自由にアクセスできるようにする食物ホッパーが位置している。
【0070】
各記録チャンバーは、次のものを含む。(1)チャンバーへの入口の役割を果たし、コーナー訪問を記録する環状アンテナを収容するプラスチック環(内径30mm)、(2)マウスがチャンバーに入ったらその上に座る格子床、(3)給水瓶口にアクセスできるようにする2つの円形開口部(13mm径)、鼻突っ込みを記録する光線が各開口部を横切っている、(4)給水瓶口へのアクセスを許可する(ドア開放)または禁止する(ドア閉鎖)2つの電動式ドア、(5)2本の給水瓶、(6)それを通じて空気の吹き付けが嫌悪刺激として送達できる管、(7)馴化実験に使用できる、異なる色の光ダイオード。
【0071】
[実験相]
4〜5日間の順化期間中、マウスは全てのコーナー、水および餌に自由にアクセスしてケージを自由に探索した。次のモジュール(鼻突っ込み順応、3日間)では、マウスは鼻突っ込みを利用することを学ばねばならない。この相では、全てのドアは最初に閉じられた。したがってマウスは、ドアを開けて給水瓶口に到達するために鼻を突っ込まなくてはならなかった。収集されたデータは、順化相と同じパラメーターを含み、特に個々のマウスの最も好ましくない(すなわち訪問の頻度が最も少ない)コーナーは、次のモジュールのプログラミングのために記録された。
【0072】
[物体認識]
マウスの内在性探索活動を試験するために、2つの同一の物体が、それぞれコーナー1および2中またはコーナー3および4中のどちらかに置かれた。動物にはケージを探索する機会があり、水と餌への自由アクセスがあった。物体提示の3時間前および3時間後に訪問を記録した。図3aは物体認識試験の結果を示す。イチョウ群では、コーナー4の訪問時間に有意な増大が見られた。タイム抽出物では、訪問時間の明らかな増大がコーナー3で見られた。
【0073】
図3a:物体提示の3時間前および3時間後の各コーナーにおける滞在時間。黒丸は物体の位置を表す。それぞれタイム抽出物ではコーナー3でp=0.001、イチョウ(Ginkgo biloba)ではコーナー4でp=0.004。
【0074】
[位置学習(学習能力の測定)]
位置学習行動を調査するために、このモジュールでマウスを試験した。鼻突っ込み適応相において判定された最も好ましくないコーナーを個々のマウス毎の「正しい」コーナーと命名し、このコーナー内への鼻突っ込みだけが、電動ドアの開口を始動させ給水瓶にアクセスできるようにする。その他の全てのコーナーへの鼻突っ込みは「間違い」であり、空気の吹き付け(1秒間)の形態の嫌悪刺激をもたらす。
【0075】
図3bは、対照およびイチョウ(Ginkgo biloba)(GBE)処置動物と比較した、タイム抽出物処置群の活動相における学習曲線を示す。全群において成績は時間とともにより良くなったが、対照と処置群との間に差は見られなかった(p=0.44)。このデータは、全ての動物が課題の学習に成功したことを示す。
【0076】
[逆位置の学習]
このモジュールでは、「正しい」コーナーが前の試験モジュールの「正しい」コーナーの対角線上反対側に指定された。「間違った」コーナーへの訪問は、この場合もまた負の強化(空気の吹き付け)の対象となった。予期されたように、このモジュールの始まりには初期エラー率が高かったが、全ての群はすぐに課題を学習した。最初の10時間では、群間に差はなかった。さらにタイム抽出物処置群は、試験期間の終わりには他のいずれの群よりも有意に成績が良かった。
【0077】
図3c:逆位置の学習。エラーは最初の活動相において記録した。エラー率は、タイム抽出物では100%から約20%に、対照群およびGBE処置の双方では約60〜70%に低下し、この行動試験においてタイム処置動物がイチョウ処置マウスよりも成績が良いことが示唆された(最後の2つの時間ビンではp=0.011)。時間ビンはそれぞれ2時間に相当する。
【0078】
[実施例7]
[ゼラチンカプセルの調製]
次の成分を含む軟質ゼラチンカプセルを調製してもよい。
【0079】
【表4】
【0080】
ヒト成人に、毎日2個のカプセルを3ヶ月間にわたり投与してもよい。認知機能、覚醒度、および作業集中能力が改善されると思われる。
【0081】
[実施例8]
[即席フレーバー清涼飲料の調製]
【0082】
【表5】
【0083】
全成分を混合して、500μmの篩を通して篩掛けする。得られた粉末を適切な容器に入れて、管状ブレンダー内で少なくとも20分間混合する。飲料を調製するためには、得られた混合粉末の125gを十分な水と混合して1リットルの飲料を生成する。
【0084】
即席清涼飲料は、1食あたり(250ml)約30mgの濃縮タイム抽出物を含有する。強化剤として、そして一般的な健康のために、毎日2食(500ml)を飲用してもよい。
【0085】
[実施例9]
[チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有する乾燥ドッグフード]
市販のイヌ用基礎食(例えばMERA−Tiernahrung GmbH,Marienstrasse 80−84,D−47625 Kevelaer−Wetten,GermanyからのMera Dog「Brocken」)に、ビタミンC(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)C−EC)およびその誘導体、すなわち一リン酸アスコルビルナトリウム(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのSTAY−C(登録商標)50)またはL−アスコルビン酸ナトリウム/カルシウムの三リン酸、二リン酸、および一リン酸エステルの混合物(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)STAY−C(登録商標)35)などの抗酸化剤と共に、体重1kgあたり50mgのチモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物の1日量をイヌに投与するのに十分な量で、チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有するコーンオイル懸濁液を噴霧する。約90重量%の乾燥物質を含有するように、食品組成物を乾燥させる。1日あたりおよそ200gの乾燥ドッグフードを摂取する体重10kgの平均的なイヌでは、ドッグフードは1kgあたりおよそ2500mgのチモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有する。より体重の重いイヌでは、飼料混合物を適宜調製する。イヌのストレス、恐怖、および攻撃性の低減のために、動物保護施設のイヌにドッグフードを定期的に与えることができる。動物病院の受診、または動物病院への滞在、または休暇中の別離前には、ストレス性の事象の少なくとも1週間前、その最中、およびその後1週間、ドッグフードを与えることができる。
【0086】
[実施例10]
[チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有する湿潤キャットフード]
市販のネコ用基礎食(例えばHappy Cat「Adult」,Tierfeinnahrung,Suedliche Hauptstrase 38,D−86517 Wehringen,Germany)に、ビタミンC(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)C−EC)およびその誘導体、すなわち一リン酸アスコルビルナトリウム(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのSTAY−C(登録商標)50)またはL−アスコルビン酸ナトリウム/カルシウムの三リン酸、二リン酸、および一リン酸エステルの混合物(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)STAY−C(登録商標)35)などの抗酸化剤と共に、体重1kgあたり100mgのチモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物の1日量をネコに投与するのに十分な量で、チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有するコーンオイル懸濁液を混合する。およそ400gの湿潤キャットフードを摂取する体重5kgの平均的なネコでは、キャットフードは1kgあたりおよそ1250mgのチモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有する。約90重量%の乾燥物質を含有するように、食品組成物を乾燥させる。ネコのストレス、恐怖、および攻撃性の低減のために、動物保護施設のネコにキャットフードを定期的に与えることができる。動物病院の受診、または動物病院への滞在前には、ストレス性の事象の少なくとも1週間前、その最中、およびその後1週間、キャットフードを与えることができる。
【0087】
[実施例11]
[チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有するイヌのおやつ]
市販のイヌのおやつ(例えばMera−Tiernahrung GmbH,Marienstrasse 80−84,47625 Kevelaer−Wetten,Germanyが供給するMera Dog「Biscuit」)に、ビタミンC(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)C−EC)およびその誘導体、すなわち一リン酸アスコルビルナトリウム(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのSTAY−C(登録商標)50)またはL−アスコルビン酸ナトリウム/カルシウムの三リン酸、二リン酸、および一リン酸エステルの混合物(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)STAY−C(登録商標)35)などの抗酸化剤と共に、おやつ1gあたりが5〜50mgのチモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を投与するのに十分な量で、チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有するコーンオイル懸濁液を噴霧する。約90重量%の乾燥物質を含有するように、食品組成物を乾燥させる。恐怖および緊張を低下させるために、日中ドッグフードに加えて、または給餌が保証されない場合、すなわち旅行中に毎日5回まで、おやつを与えることができる。
【0088】
[実施例12]
[チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有するネコのおやつ]
市販のネコのおやつ(例えばWhiskas,Masterfoods GmbH,Eitzer Str.215,27283 Verden/Aller,Germanyが供給するWhiskas Dentabits)に、ビタミンC(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)C−EC)およびその誘導体、すなわち一リン酸アスコルビルナトリウム(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのSTAY−C(登録商標)50)またはL−アスコルビン酸ナトリウム/カルシウムの三リン酸、二リン酸、および一リン酸エステルの混合物(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)STAY−C(登録商標)35)などの抗酸化剤と共に、おやつ1gあたりが5〜50mgのチモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を投与するのに十分な量で、チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有するコーンオイル懸濁液を噴霧する。約90重量%の乾燥物質を含有するように、食品組成物を乾燥させる。恐怖および緊張を低下させるために、日中キャットフードに加えて、または給餌が保証されない場合、すなわち旅行中に毎日5回まで、おやつを与えることができる。
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、学習、記憶、および覚醒度などの認知機能を改善し、ならびに心理社会的圧力を緩和するための、活性成分としてチモールおよび/またはp−シメン、またはチモールおよび/またはp−シメン含有植物抽出物を含む新規な栄養補給食品組成物または食品添加剤に関する。チモール、p−シメン、および濃縮タイム抽出物はまた、低酸素症に起因する病状を治療するためにも、神経障害性疼痛および精神病の病状を軽減するためにも有用である。
【0002】
[背景技術]
記憶、学習および覚醒度は、中脳内の、特に情報が処理されて記憶が固定される海馬内の神経回路に依存する。精神能力および学習はシナプスの柔軟性、すなわち新しい受容体の動員による神経結合の強化、新しいシナプスの形成、および最終的に新しい神経結合の発生に依存する。
【0003】
(長期)記憶の形成および脳の効率的な機能は、ニューロン間の伝達強度を強化するための新しいタンパク質の合成に依存する。シナプス強化に充てられる新しいタンパク質の生成は、ニューロン内の化学および電気信号によって始動される。
【0004】
長期増強(LTP)は、短い馴化シナプス前電気的刺激バースト(およそ100Hzで1秒間)に続いて中枢神経系(CNS)内の特定のシナプスで生じる、シナプス伝達の持続性の増強(生体外では数時間、生体内では数日間または数週間)について述べるのに使用される用語である。この現象は、それによって記憶が形成されて脳内に保存される主要機序の1つであると広く見なされる。LTPは、生体外および生きている動物の双方で観察されている。実験条件下では、一連の短い高周波数の電気的刺激をシナプスに与えることで、化学シナプス強度を数分から数時間にわたり増強できる。最も重要なことには、LTPは生きている動物においてシナプスの柔軟性に寄与し、高度に適応できる神経系の基礎を提供する。
【0005】
2つの異なる受容体タイプ、すなわちN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体複合体およびα−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソオキサゾールプロピオン酸(AMPA)受容体が、LTP過程に主に関与する。LTP中に、主要な興奮性神経伝達物質であるグルタメートがシナプス前ニューロンから放出され、シナプス後膜上のAMPA受容体に結合してそれを活性化してその脱分極を引き起こす。静止膜電位では、NMDA受容体チャネルはマグネシウムイオンによってブロックされるが、シナプス後膜の脱分極がこのブロックを除去し、NMDA受容体の活性化と引き続くカルシウムの細胞内への侵入を可能にする。この細胞内カルシウムの上昇はタンパク質キナーゼを活性化すると考えられ、遺伝子転写および強化タンパク質の構築を引き起こし(Neihoff 2005年,Speak Memory 210〜223頁)、AMPA受容体の強化された感受性をもたらし、ひいては神経伝達とLTP維持をさらに促進する。
【0006】
NMDA受容体はNR1−およびNR2−サブユニットのアセンブリーから構成され、グルタメート結合領域はこれらのサブユニットの接合部に形成される。グルタメートに加えて、NMDA受容体は受容体機能を調節するために共作動薬グリシンを必要とする。グリシン結合部位がNR1サブユニット上に見られるのに対し、NR2サブユニットはNMDA受容体の機能を調節する制御分子であるポリアミンのための結合部位を保有する。
【0007】
このようにしてアミノ酸グリシンは、NMDA受容体複合体において、グルタメートと共に正のアロステリックな調節因子および必須共作動薬として機能することが知られている(Danysz 1998年,Pharmacol.Rev.,50(4),597〜664頁)。グリシン輸送体(GlyT)は、シナプス前神経末端または膠細胞内へのグリシンの再取り込みによる、シナプス後グリシン作動性作用の終結、および低細胞外グリシン濃度の維持において重要な役割を果たす。したがってグリシン作用の終結は、概して迅速な再取り込みによって仲介される。2つのグリシン輸送体GlyT1およびGlyT2が知られており、12個の推定上の膜貫通領域によって特徴づけられている一方、同一遺伝子からコードされる3種の変異型GlyT1(GlyT1a、b、およびc)が同定されている(BorowskyおよびHoffman(1998年),J.Biol.Chem.,273(44),29077〜29085頁)。
【0008】
GlyT1は、前脳内の唯一の塩化ナトリウム依存グリシン輸送体であり、それはそこでNMDA受容体と共に同時発現される。この部位でGlyT1は、シナプスにおけるグリシンの細胞外レベルを調節する役割を担うと考えられ(Lopez−Corcuera(2001年),Mol.Membr.Biol.,18(1),13〜20頁)、NMDA受容体機能の調節をもたらす。
【0009】
実際、マウスおよびラット双方の海馬の切片標本において、シャッファー側枝刺激に際して選択的GlyT1拮抗薬N−[3−(4’−フルオロフェニル)−3−(4’−フェニルフェノキシ)]プロピルサルコシン(NFPS)の存在下で、CA1錐体細胞内に強化されたNMDA受容体反応が観察された(Bergeronら(1998年),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95(26),15730〜15734頁)。生体内では、成体マウスにおいてNFPSの全身性投与が歯状回中でLTPを増大させ、音響驚愕反応のプレパルス抑制を強化し、GlyT1の阻害がNMDA受容体機能に行動に関わる様式で影響することが示された(Kinneyら(2003年),J.Neurosci.,23(20),7586〜7591頁)。
【0010】
このようなデータは、正常な個体において、精神病性症候群予防のために、そして記憶および学習などの生理学的認知機能を維持しまたは促進するために、シナプスのNMDA受容体の局所微小環境においてグリシンの細胞外レベルを上昇させることで、NMDA受容体シナプスの機能を増強できる化合物の潜在的有用性を強調する。
【0011】
高齢者および若年者の双方、学生、建設労働者、運転手、パイロット、医師、販売員、重役、主婦、「高度専門職」をはじめとする毎日の仕事において特に高い記憶および注意力を必要とする個人、および精神的ストレスまたは日々のストレスを受けている人々、ならびに統合失調症などの精神医学的不安定性を起こしやすい人々において学習、記憶および覚醒度を改善するのに使用してもよい化合物、ならびに栄養補給食品組成物の開発に対する関心の高まりがある。
【0012】
したがってNMDA受容体機能を増強し、学習、記憶、および覚醒度を改善できる化合物または栄養補給食品組成物が、非常に望ましいであろう。
【0013】
特開2004002237号公報は、老化防止化合物の多数の植物原料の一つとしてローズマリーを含む、老化防止食材または医薬品の使用を開示する。髪および皮膚および目と骨の健康に対する有益な効果に加えて、この組成物の特許請求される用途の一つは学習機能および記憶の改善である。
【0014】
[発明の詳細な説明]
本発明に従って下の式1の化合物、またはその塩、誘導体、代謝産物または類似体が、LTPを誘発するそれらの能力を通じて、海馬機能の活性化物質であることが分かった。それらはグリシン輸送体GlyT1を阻害することでグリシンの再取り込みを阻害することによって、または別の経路の活性化によって、または双方の機序によって機能できる。これらの生物学的活性は、記憶形成および記憶の固定において重要であり、したがってこれらの化合物は認知機能を増強するのに有用である。
式I:
【化1】
式中、
R1=H、OHまたはOMe、および
R2=H、OH、またはOMeである。
【0015】
特に本発明に従って、チモール、およびチモールを含有する植物抽出物が、グリシン輸送体GlyT1の阻害によってグリシンの再取り込みを抑制する能力を有することが分かった。結果として生じる細胞外グリシンレベル増大はNMDA受容体の追加的活性化をもたらし、これはいくつかの遺伝子の転写活性化を誘発する第1のステップであり、引き続いて記憶形成および記憶固定に関与する主要な細胞性機序であるLTPを誘発する。
【0016】
植物抽出物中に見られる別の化合物であるp−シメンが、異なる機序を通じてLTPの誘発を可能にすることもまた分かった。双方の過程は同じ生物学的利点を有し、すなわちそれらはどちらも海馬機能を促進して強化された認知機能につながるので、本発明の別の態様はこれらの2つの活性成分を一緒に使用して認知機能を増強することである。
【0017】
したがって本発明の一態様は、認知機能を増強するための式Iの化合物またはチモール酢酸を含む新しい栄養補給食品組成物である。特に好ましい式Iの化合物は、チモールおよびp−シメンである。
【0018】
式Iの化合物は、既知の方法を使用して合成的に生成できる。それらは既知の手順を使用して植物などの天然原料から抽出でき、またはそれらは、好ましくは海馬機能の効果的な増強剤であるのに十分な量のチモールおよび/またはp−シメンを含有するタイム抽出物である、植物抽出物の構成要素として使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】GlyT1阻害アッセイにおける、チモールおよび濃縮タイム抽出物の用量反応曲線を示す。アッセイ結果は、放射性グリシンの細胞内への内部移行の%阻害として提示される。図1は、細胞アッセイにおいて、2つの異なるタイム抽出物、ならびにタイムの最も顕著な揮発性構成要素であるチモールが、GlyT1の作用を特異的に阻害できることを明らかに実証する。
【図1a】ALXでは、IC50=6.46nMであることを示す。
【図1b】サルコシンでは、IC50=35.9nMであることを示す。
【図1c】ORG24569では、IC50=0.02μMであることを示す。
【図1d】チモールでは、IC50=13.6μMであることを示す。
【図1e】タイム抽出物1では、IC50=48.2μg/mLであることを示す。
【図1f】タイム抽出物2では、IC50=45.1μg/mLであることを示す。
【図2a】エラー回数として表される、降下行動試験からの結果を示す。タイム抽出物で処置されたマウスは、それらの年齢をマッチさせた対照よりも成績が有意により良く、正の対照で処置されたマウスに匹敵した。タイム処置群およびイチョウまたはロリプラム処置群の性能間には、どの時点でも統計的差違が観察されなかった。a:訓練期間における、ビヒクル処置された年齢をマッチさせた同腹子との有意差。b:試験期間における、ビヒクル処置された年齢をマッチさせた同腹子との有意差。c:休薬期間における、ビヒクル処置された年齢をマッチさせた同腹子との有意差。
【図2b】降下行動試験、潜伏期間。タイム抽出物で処置されたマウスは、それらの年齢をマッチさせた対照よりも成績が有意により良く、正の対照で処置されたマウスに匹敵した。タイム処置群およびイチョウまたはロリプラム処置群の性能間には、どの時点でも統計的差違が観察されなかった。
【図3a】物体提示の3時間前および3時間後の各コーナーにおける滞在時間。黒丸は物体の位置を表す。
【図3b】物体提示前に全ての4つのコーナーで過ごされた総時間について正規化された、各コーナーにおける滞在時間。
【図3c】対照およびイチョウ(Ginkgo biloba)(GBE)処置動物と比較した、タイム抽出物処置群の活動相における学習曲線。全群において成績は経時的により良くなったが、対照と処置群との間に差は見られなかった(p=0.44)。このデータは、全ての動物が課題を学習できることを示す。
【図3d】逆位置の学習。エラーは最初の活動相において記録した。エラー率は、タイム抽出物では100%から約20%に、双方の対照群では約60〜70%に低下した(最後の2つの時間ビンではp=0.011)。時間ビンはそれぞれ2時間に相当する。
【0020】
[植物抽出物]
チモールおよび/またはp−シメンを含有するいくつかの植物種があり、植物抽出物の原料になり得る。好ましくは植物は、双方の化合物を含有することからタイム属のメンバーであるが、抽出物原料はどちらかの化合物を含有することが知られているあらゆる植物であってもよい。チモール/p−シメンを含有することが知られているその他の植物の例としては、ホースミント(モナルダ・プンクタータ(Monarda punctata)、およびM.フィスツロサ(fistulosa)などの近縁のヤグルマハッカ種)、アジョワンキャラウェイ(Trachyspermum ammi)、ディル(Anethum graveolens)、フェヌグリーク(Trigonella foenum−graecum)、ウィンターセイボリー(Satureja montana)、セロリ(Apium graveolens)、ティーツリー(Melaleuca alternifolia)、およびカルダモン(Elettaria cardamomum)が挙げられる。
【0021】
タイム抽出物は、タチジャコウソウ(T.vulgaris)、ソースタイム(T.zygis)、ブロードリーフタイム(T.pulegioides)、ヨウシュイブキジャコウソウ(T.serpyllum)、T.ボルンムエレリ(bornmuelleri)、T.デカサツス(decassatus)、T.ロンギカウリス(longicaulis)、T.シリアカス(syriacus)、およびシンプタイム(Thymus schimp)などのタイム属のあらゆる種から作製されてもよい。好ましくはタイムは、タチジャコウソウ(Thymus vulgaris)である。一般にタイム抽出物は、少なくとも約25〜80%のチモール、好ましくは約40〜65%のチモール、より好ましくは約50〜60%のチモールを含有すべきである。一般にタイム抽出物は、少なくとも約5〜55%のp−シメン、好ましくは約10〜40%のp−シメンを含有すべきである。
【0022】
明細書および特許請求の範囲全体を通じた用法で、「タイム抽出物」という用語は広義で使用されることが意図され、水蒸気蒸留、超臨界CO2(SF−CO2)抽出、水性抽出、亜酸化窒素抽出、アルコールベース抽出、またはエタノールなどの変性剤で任意に変性された酢酸エチル、プロパン、アセトンなどの有機溶剤ベース抽出などの従来の手段によって作製された植物抽出物を包含できる。抽出物はヒトおよび動物による摂取が意図されるので、抽出物は規制当局によって認可されたものであるべきである。
【0023】
タイム抽出物に関する重要なパラメーターは、次のものだけである。
1)それは動物またはヒトによる摂取のための栄養補給食品組成物中での使用に許容可能であるべきである。したがってその調製のために用いられる溶剤は、種々の規制当局によって意図される用途のために認可されたものであるべきである。したがって好ましい抽出手順は、水蒸気蒸留、SF−CO2、C2〜4アルコール抽出、および酢酸エチル抽出である。
2)それは、認知力改善および/または心理社会的状態改善などの所望の効果が達成されるように、すなわち対象が改善された記憶機能を示し、またはストレス状況により生産的な様式で対処できるように、十分な量の活性化合物チモールまたはp−シメンまたは双方を含有すべきである。明細書および特許請求の範囲全体を通じた用法で、「認知機能を改善する量」および「心理社会的状態を改善する量」という用語は、この概念を伝えることが意図される。様々な状態の改善度は、標準心理学的アセスメント試験を使用して評価できる。
【0024】
明細書および特許請求の範囲全体を通じた用法で、「抽出物」という用語は、従来の抽出物(すなわち標準親油性抽出物などの全抽出物)、ならびに2種以上の抽出手順を使用して製造される抽出物(所望構成物を濃縮するために第2の抽出が使用されることが多い、全抽出物がさらに精製されている「濃縮」抽出物)を含む。
【0025】
タイム抽出物は典型的に、生物活性でおよび/または活性構成要素チモールおよび/またはp−シメンの生物学的利用能を増大させてもよい、その他の化合物を含有する。それらがタイム抽出物中に存在する量は、使用されるタイム種、植物の生育条件、そして当然ながらタイム抽出物を調製するのに使用される方法をはじめとする、いくつかの要素に基づいて変動する。超臨界CO2法を使用して調製される典型的なタチジャコウソウ(Thymus vulgaris)抽出物は、(チモールおよびp−シメンに加えて)カルバクロール、1,8−シネオール、ボルネオール、ゲラニオール、リナロール、ボルニル、酢酸リナリル、チモールメチルエーテルおよびa−ピネン、アピゲニン、ルテオリン、チモニン、ナリンゲニン、およびカリオフィレンを含有する。
【0026】
[チモールは精神状態に有益である]
既述したように、記憶、学習、および精神的安定性の基盤はLTPであり、または脳内、特に海馬内のAMPAおよびNMDA受容体活性化を通じて起きる神経結合の強化である。
【0027】
GlyT1におけるそれらの活性を通じたグリシン再取り込み阻害物質として、チモールおよびチモール含有タイム抽出物は、NMDA受容体近傍にグリシンを蓄積させることでそれを活性化し、記憶形成および記憶固定に関与する主要な細胞機序であるLTPの誘発を最終的にもたらす。
【0028】
さらにp−シメンは、(チモールとは異なるステップにおいてではあるが)同一生化学的経路の活性化を誘発してLTP誘発をもたらし、記憶機能を改善するのに同様に有益である。したがってチモールおよびp−シメン、およびそのどちらかまたは双方を含有する抽出物は、海馬機能を活性化して記憶の形成および固定を改善し、ならびに精神的健康を改善できる。
【0029】
[本発明によって改善される病状]
本発明の文脈で「治療」とは、併用治療ならびに予防もまた包含する。予防は、発症リスクの低下、病状の回復、容易な介入、およびまたは将来発症する病状の重篤性を最小化することを意味することができる。
【0030】
明細書および特許請求の範囲全体を通じた用法で、「改善された認知機能」という用語は、次のような良好な認知性およびバランスをサポートし維持する状態を指すことを意図する。
・以下をはじめとする強化された学習
−言語処理
−問題解決
−知的機能
・心理社会的負担に対処する能力
・強化された注意力および集中力
・強化された記憶および想起能力、特に短期記憶
・強化された精神的敏捷性および精神的覚醒状態、精神的疲労の低減
・以下をはじめとする精神的状態の安定化
−分娩後の病状の緩和
−パートナー、子供との離別、愛する人の死亡、または結婚生活の問題に起因する心理学的負担の緩和
−転居、転職または類似した出来事に付随する問題の緩和
−交通事故に続くストレスの多い状態またはその他のネガティブな社会的圧力の緩和
・以下をはじめとするストレス緩和
−作業過負荷、疲労および/または「燃え尽き」に関連した症状の治療、予防、および軽減
−ストレスに対する抵抗性または耐性の増大
−健常人におけるリラクセーションのサポートおよび促進
・以下をはじめとする「病状改善」
−過敏および倦怠感の低減
−肉体的および精神的疲労の低減、予防または軽減
−病人または健常人における良質の睡眠の促進、すなわち不眠症および睡眠障害への対抗、およびエネルギーのより概括的な増大
【0031】
本発明の好ましい一態様では、特に、強化された認知機能および/または心理社会的サポートに対する特別な必要性を感じる人々のために、組成物を栄養補給剤として使用してもよい。強化された認知機能から恩恵を受けるであろう人々の非総記的一覧には、以下が含まれる。
高齢者、
学生または試験準備中の人々、
多大な学習をしている子供、すなわち乳児、幼児、就学前児童、および就学児童、
建設労働者、または潜在的に危険な機械類を操作する人々、
トラック運転手、パイロット、鉄道運転士、またはその他の運輸専門職、
航空管制官、
販売員、重役、およびその他の「高度専門職」、
警察官および兵士、
主婦、
またはスポーツ競技者、チェス競技者、ゴルファー、(俳優、音楽家などの)職業的パフォーマーなどの毎日の仕事において多量のストレスに曝されるあらゆる人々、または毎日の仕事において特に高度な注意力/集中力/高い精神的および心理的能力を必要とする人々。
【0032】
これらの改善を達成するために、数日間(例えば少なくとも6または10日間)にわたる投与が推奨され、数週間にわたる毎日の投与が一般に好ましい。
【0033】
ヒトへの応用の他に、本発明の組成物は獣医学界における追加的用途を有する。強化された度認知機能から恩恵を受ける動物としては、ストレスの多い状況に置かれる動物が挙げられる。このような状態は、例えば捕獲または輸送後に起き、または畜舎環境(居住場所または飼い主の変更)に起因するかもしれず、動物が類似性障害を発生し、苦痛を感じ、または攻撃的であり、または常同行為、または不安および強迫行動を示す場合に生じる。ストレスを被る動物としては、競技用動物(例えばイヌ、ウマ、ラクダ)、または様々なスポーツで使用される動物、芸当する動物(サーカス動物、および舞台、テレビまたは映画に出演する動物など)、および馬場馬術およびその他の高度に訓練された動作を演じるウマもまた挙げられる。
【0034】
好ましい「動物」は、ペットまたはコンパニオンアニマルおよび家畜である。ペットの例は、イヌ、ネコ、鳥、観賞魚、モルモット、(ジャック)ウサギ、ノウサギ、およびフェレットである。家畜の例は、水産養殖魚、ブタ、ウマ、反芻動物(畜牛、ヒツジ、およびヤギ)、および家禽である。
【0035】
[栄養補給食品の用途/調合/投薬]
「栄養補給食品」という用語は、ここでの用法では栄養および製薬の応用分野の双方における有用性を意味する。したがって新規な栄養補給食品組成物は、食品および飲料の栄養補給剤として、そしてカプセルまたは錠剤などの固形製剤、または溶液または懸濁液などの液剤であってもよい、経腸的または非経口用途のための医薬製剤として使用できる。
【0036】
本発明に係る栄養補給食品組成物は、保護親水コロイド(ガム、タンパク質、加工デンプンなど)、バインダー、塗膜形成剤、封入剤/封入材、壁/シェル材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、表面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着材、キャリア、充填材、共化合物、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動化剤、味覚マスキング材、増量剤、ゼリー化剤、ゲル形成剤、抗酸化剤、および抗菌剤をさらに含有してもよい。
【0037】
さらに本発明の栄養補給食品組成物にマルチビタミン剤およびミネラル補給剤を添加して、食生活によっては欠けている適量の必須栄養素を得てもよい。マルチビタミン剤およびミネラル補給剤はまた、疾患予防と、生活習慣パターンに起因する栄養損失および欠乏症からの保護のためにも有用である。
【0038】
本発明に係る栄養補給食品組成物は、例えば食品または飼料(のための添加剤/栄養補給剤)、食品または飼料プレミックス、強化食品または飼料、錠剤、丸薬、顆粒、糖衣丸、カプセル、および粉末および錠剤などの発泡性調合物などの固形形態の、または例えば飲料、ペースト、および油性懸濁液などの溶液、エマルジョンまたは懸濁液などの液体形態の、特に経口投与に標準的なあらゆる形態である、身体に投与するのに適したあらゆるガレヌス製剤形態であってもよい。ペーストは硬質または軟質シェルカプセルに組み込まれてもよく、カプセルは例えば(魚、ブタ、家禽、ウシ)ゼラチン、植物タンパク質またはリグニンスルホネートのマトリックスを特徴とする。その他の応用形態の例は、経皮、非経口または注射投与のためのものである。食餌および医薬組成物は、制御(遅延)放出製剤の形態であってもよい。
【0039】
食品および酪農製品の例としては、例えばマーガリン、スプレッド、バター、チーズ、ヨーグルトまたは乳飲料が挙げられる。
【0040】
強化食品の例は、シリアルバー、ならびにケーキやクッキーおよびポテトチップスなどのベーカリー製品である。
【0041】
飲料は、非アルコールおよびアルコール飲料、ならびに飲用水および液体食品に添加するための液体調製品を包含する。非アルコール飲料は、例えば清涼飲料、スポーツドリンク、果汁、レモネード、茶、およびミルクベースの飲料である。液体食品は、例えばスープおよび酪農製品である。チモールおよび/または濃縮タイム抽出物またはp−シメンを含有する栄養補給食品組成物は、約10〜1000mgの1日量、好ましくは約50〜750mgの1日量、またはより好ましくは約100〜500mgの1日量の範囲で、成人が認知性機能を改善する量で、チモールまたはタイム含有植物抽出物を摂取するように、清涼飲料、エネルギーバー、またはキャンディに添加されてもよい。p−シメンについては、認知性機能を改善する量は約5〜500mgの1日量、好ましくは約25〜375mgの1日量、より好ましくは約50〜250mgの1日量の範囲である。
【0042】
栄養補給食品組成物が医薬製剤であれば、組成物は薬学的に許容できる賦形剤、希釈剤またはアジュバントをさらに含有する。それらの調合のために、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences,第20版、Williams & Wilkins,PA,USAで開示されるような標準技術を使用してもよい。経口投与のためには、好ましくは錠剤およびカプセルが使用され、それは例えばゼラチンまたはポリビニルピロリドンなどの適切な結合剤、例えば乳糖またはデンプンなどの適切な充填材、例えばステアリン酸マグネシウムなどの適切な潤滑剤、および任意にさらなる添加剤を含有する。1日量は食品調合物に関するものと実質的に同一であるが、投与を容易にするために投与単位あたりより小さな用量に分割してもよく、毎日複数の投与単位(1〜4個のカプセルなど)を摂取してもよい。好ましいのは、合わせて10〜1000mg、より好ましくは50〜750mg、およびなおもより好ましくは100〜500mgの1日量を提供する、チモールおよび/または濃縮タイム含有植物抽出物誘導体である。p−シメンでは好ましい1日量は約5〜500mg、好ましくは25〜375mg、なおもより好ましくは50〜250mgである。
【0043】
ヒトを除く動物において、本発明の目的では、タイムまたはタイム抽出物の適切な1日量は、毎日体重1kgあたり0.001mgから体重1kgあたり約1000mgの範囲内であってもよい。より好ましいのは体重1kgあたり約0.1mg〜約500mgの1日量であり、特に好ましいのは体重1kgあたり約1mg〜100mgの1日量である。
【0044】
本発明のより良い例示のために、以下の制限を意図しない例を提示する。
【0045】
[実施例1]
[タイム抽出物の調製および組成]
適切なタイム抽出物の販売元としては、MDidea(MDidea Exporting Division,No.9,WBSS,Ntez.YC,China)、FLAVEX(FLAVEX Naturextrakte GmbH,Nordstrasse 7,D−66780 Rehlingen,Germany)、およびWhite Lotus Aromatics(602 S.Alder Street,Port Angeles,WA 98362−6612,USA)が挙げられる。
【0046】
[タイム抽出物の調製および組成]
以下の実施例では「−se」はフェノールタイプのタイム抽出物1を指し、「−to」はテルピネオールタイプのタイム抽出物2を指し、どちらもドイツ国のFlavexから入手される。
【0047】
乾燥タイム葉を製粉し、超臨界二酸化炭素で抽出した。抽出パラメーターは次のとおりであった。温度45℃;使用圧力300バール(−to)または100バール(−se);1kgの植物材料あたり17kg(−to)および15kg(−se)の二酸化炭素を要した;圧力を30℃で60バールに低下させることで分離器内に抽出物を得た。それぞれ25kg(−to)または50kg(−se)の植物材料が、1kgの抽出物を生じた。
【0048】
抽出物1(−se)は次の組成(ガスクロマトグラフィーによる分析)を有した:精油の総含量は65.3%(残りの部分は植物ワックス)であった。揮発性構成要素を下に列記する。
チモール:53%
p−シメン:34%
リナロール:2.2%
カリオフィレン:2%
カルバクロール:1.7%
【0049】
抽出物2:(−to)は47.8%の精油を含有した。揮発性化合物の組成を下に列記する。
チモール:52.0%
p−シメン:18.7%
γテルピネン:7.2%
カルバクロール:3.7%
カリオフィレン:3.7%
リナロール:3.7%
ボルネオール:1.5%
βミルセン:1.2%
1,8シネオール:1.1%
αピネン:0.6%
リモネン:0.3%
【0050】
[実施例2]
[細胞アッセイにおけるグリシン輸送体1の阻害]
ヒトグリシン輸送体1b cDNA(GlyT1)を安定して発現するCHO細胞を、10%透析ウシ胎仔血清、ペニシリン、ストレプトマイシン、プロリン、および抗生物質G418を含有する、米国カールスバッドのインビトロジェン(Invitrogen(Carlsbad,USA))から購入したダルベッコ変法イーグル培地中で慣例的に成育させた。アッセイの前日にトリプシン処理によって細胞を収集し、前述の培地に播種した。アッセイ直前に、150mM NaCl、1mM CaCl2、2.5mM KCl、2.5mM MgCl2、10mMグルコース、および10mM N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸を含有する取り込み緩衝液(「Hepes」緩衝液)によって培地を交換した。
【0051】
細胞内へのグリシン取り込みは英国スラウのアマシャム・バイオサイエンスGEヘルスケア(Amersham Biosciences GE Healthcare(Slough,UK))からの60nM放射性標識[3H]グリシンの添加、および室温で30分のインキュベーションによって判定された。上の緩衝液による穏やかな3回の洗浄によって取り込まれなかった標識を除去した後、液体シンチレーション測定によって取り込まれたグリシンを定量化した。
【0052】
GlyT1輸送体を通じたグリシン取り込みは、用量依存的様式でタイム抽出物またはチモールの添加によって阻害された。GlyT1の既知の阻害剤として、全て米国セントルイスのシグマ(Sigma、(St.Louis,USA))から得られるサルコシン、ORG24598、およびALX5407を使用した。グリシン取り込み阻害の測定されたIC50値、および代表的な用量反応曲線をそれぞれ表1および図1a〜1fに示す。
【0053】
図1は、細胞アッセイにおいて、2つの異なるタイム抽出物、ならびにタイムの最も顕著な揮発性構成要素であるチモールが、GlyT1の作用を特異的に阻害できることを明らかに実証する。
図1aはALX5407では、IC50=6.46nMであることを示す。
図1bはサルコシンでは、IC50=35.9nMであることを示す。
図1cはORG245698では、IC50=0.02μMであることを示す。
図1dはチモールでは、IC50=13.6μMであることを示す。
図1eはタイム抽出物1では、IC50=48.2μg/mLであることを示す。
図1fはタイム抽出物2では、IC50=45.1μg/mLであることを示す。
【0054】
【表1】
【0055】
[実施例3]
[海馬切片培養]
ギロチンを使用して7日齢のウィスター系ラットを断頭した。1分以内に開頭して大脳半球を分離して取り出し、双方の海馬を切り出して、137mM NaCl、5mM KCl、0.85mM Na2HPO4、1.5mM CaCl2、0.66mM KH2PO4、0.28mM MgSO4、1mM MgCl2、2.7mM NaHCO3、1mMキヌレン酸、および0.6%D−グルコースを含有する氷冷緩衝液に入れた。
【0056】
同一緩衝液中で振動刃ミクロトーム(VT1200S;Leica Microsystems(Schweiz)AG,Heerbrugg,Switzerland)を使用して、横行海馬切片(400μm)を調製した。海馬切片をメンブレンインサート(Millicell Culture Plate Inserts、0.4μm)に個別に入れて、25%熱不活性化ウマ血清、1×GlutaMAX、1×ペニシリン/ストレプトマイシン、0.6%グルコース、および1mMキヌレン酸を含有する、BMEとMEM(どちらもインビトロジェンから)の1:1混合物を含有する培地中で、35℃、5%CO2、95%湿度で培養した(Stoppini,BuchsおよびMuller(1991年),J.Neurosci.Methods,37(2),173〜82頁)。
【0057】
48時間の培養後に、140mM NaCl、5mM KCl、1.3mM CaCl2、25mM HEPES(pH7.3)、33mM D−グルコース、および0.02mMビククリンメチオダイド中で、15分間にわたり、タイム抽出物またはその構成物の添加によってシナプスのNMDA受容体を活性化した。サルコシン(100μM)およびALX5407(20nM)を正の対照として慣例的に使用した。追加的な正の対照は、姉妹培養物への200μMのグリシンの添加を含んでいた。処置後に切片を洗浄して、免疫組織化学的検査免疫組織化学のために固定した。常態では長期増強と関連付けられている、強化されたシナプス活性のマーカーを定量化し、学習および記憶の生体外モデルとした(下の表2参照)。
【0058】
【表2】
【0059】
タイム抽出物ならびにp−シメンとチモールの双方による海馬培養養物の処置は、LTPに典型的な生化学的マーカーを誘発した(pCREB:cAMP応答要素結合タンパク質の活性化形態;pMAPK:マイトジェン活性化タンパク質キナーゼの活性化形態;GLUR1:AMPA受容体1の細胞表面存在)。
【0060】
[実施例4]
[ゼブラフィッシュの非連合学習および記憶のモデルである、音響驚愕反応アッセイにおけるタイム抽出物1の効果]
習慣化は非連合学習および記憶の最も単純な形態の1つであり、反復刺激に対する反応低下をもたらす(ThompsonおよびSpencer(1966年),Psychol.Rev.,73(1),16〜43頁)。脊椎動物で研究された顕著な行動の1つは驚愕反応であり、これは突然の音響、触覚または視覚刺激によって引き起こされる迅速な体筋の収縮で、単純な神経回路によって媒介される(Koch(1999年),Prog.Neurobiol.,59(2),107〜128頁)。
【0061】
受精の20日後には、哺乳類に匹敵する機能性血液脳関門を有することが知られているゼブラフィッシュにおいて、音響驚愕反応(ASR)に対するタイム抽出物1の効果を評価した。試験魚を英国ウォトフォードのミリポア(Millipore(Watford,UK))からの48ウェルプレート中でウェル毎に1匹ずつ泳がせて、それらが泳ぐ水中に溶解させた、異なる濃度の試験化合物に曝した。24時間後に、魚を英国ノッティンガムのTracksys Ltd.からのソニー(Sony)XC EI50 CEカメラと、オランダ国ワゲニンゲンのNoldusからのEthovisionソフトウェアとを含む自動化ライブ追跡システムに入れた。15分間の順化後に、魚をEthovisionソフトウェアと同期させた一連の音響に曝した。48ウェルプレート上に配置した英国バートンフレミングのNoiseMeter Ltd.からのNM102騒音計を使用した測定で、長さ0.6秒、周波数200Hz、および113デシベルの聴覚的合図を1秒間隔、(試行間間隔、ITIと称される)で、デル(Dell)コンピュータに接続した側面マウントスピーカー(48ウェルプレートの側面から10cm離して配置したBell Packard)から発生させた。音響セッションは最大50回の音からなり、各聴覚刺激エピソード間に15分間の回復期をおいて2回のセッションを行った。各聴覚刺激に応えた移動距離を測定することで、個々の魚毎にASRを分析した。これは驚愕反応の定量的な読み取りを提供し、聴覚刺激の開始から1秒間の魚の移動距離と定義された。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
[実施例5]
[伝統的齧歯類学習および記憶モデルにおけるタイム抽出物の効果]
連合学習および記憶行動についてもまた、生体外LTPアッセイによって同定されゼブラフィッシュモデルで有効性が証明されたタイム抽出物の経口投与後に、齧歯類で調べた。この目的で、マウスに連合学習および記憶パラダイムを施した。床に36Vの電気格子を装着した反応ボックスに、マウスを個別に入れた。動物が電気ショックを受けた際、それらの正常な反応は絶縁プラットフォーム上に飛び上がって疼痛刺激を避けることである。格子上に戻った動物の大部分は、電気ショックを受けると迅速に飛び上がりプラットフォームに戻った。動物は5分間にわたり訓練され、各マウスがショックを受けた回数、またはエラーを犯した回数を記録した。このデータは学習データを構成した。24時間および48時間目に再試験を行い、これらの試行は記憶力テストの役割を果たした。各群でショックを受けた動物数、プラットフォームから飛び降りるまでの時間、最初の3分間のエラー回数を記録した。訓練終結後5日間の休薬期間後、記憶の減退を試験した。
【0064】
試験は6つの試験群(各群あたりn=12)を含んだ。タイム、イチョウ、およびビヒクルは、研究全体を通じて、毎日経口胃管栄養法を通じて投与された(10ml/kg)試験物質またはビヒクルであった。イチョウ(Ginkgo biloba)の処置用量は100mg/kg BWであり、タイム抽出物は3種の用量(40(低用量)、120(中用量)、360(高用量)mg/kg BW)で試験された。ロリプラムは試験の30分前に腹腔内注射によって投与された(体重1kg当たり0.1mg/kg)。
【0065】
ビヒクル処置同腹子(負の対照)と比較すると、タイム処置動物は、訓練および記憶相において、および休薬期間後に有意により良い学習および記憶能を示し、イチョウ(Ginkgo biloba)またはロリプラム(正の対照)で処置されたマウスと同様の良好な成績を上げた。
【0066】
図2は、エラー回数として表される、降下行動試験結果のグラフを示す。図に示すようにタイム抽出物で処置されたマウスは、年齢をマッチさせた対照よりも成績が有意により良く、正の対照化合物で処置されたマウスに匹敵した。タイム処置群およびイチョウまたはロリプラム処置群の性能間には、どの時点でも統計的差違が観察されなかった。図2において「a」は訓練期間におけるビヒクル処置された年齢をマッチさせた同腹子との有意差を示し、「b」は試験期間におけるビヒクル処置された年齢をマッチさせた同腹子との有意差を示し、「c」は休薬期間におけるビヒクル処置された年齢をマッチさせた同腹子との有意差を示す。
【0067】
[実施例6]
[新しい完全に自動化された齧歯類学習および記憶モデルにおけるタイム抽出物の効果]
本発明者らは、ホームケージ内で長期にわたり動物行動を自動モニタリングできるようにする、スイス国チューリッヒのNewBehavior AGからのIntelliCage(登録商標)システム内で、イチョウ(Ginkgo biloba)およびタイム抽出物で処置されたマウスの認知能力を試験して、それらのビヒクル処置された年齢をマッチさせた対照と比較した。IntelliCage(登録商標)は、元来、社会的隔離および頻繁な試験環境に起因する過剰なストレスなしに、社会集団内で認知性および動機づけパラダイム中で実験的動物を試験するために検証された(Galsworthyら、2005年、Behav Brain Res157:211−217頁;Onishchenkoら,2007年,Toxicol Sci97:428〜437頁)。さらにIntelliCage(登録商標)システムは、対照と共に収容される様々な度合いの海馬損傷がある動物を迅速に区別し(Lippら、2004年、FENS annual meeting)、IntelliCage(登録商標)が海馬依存行動を試験するのに適することが示唆される。
【0068】
[試験群および処置]
試験は3つの試験群(群当たりn=12〜14;1群=ビヒクル処理マウス(対照);2群=イチョウ(Ginkgo biloba)(GBE);3群=タイム抽出物(タイム))を含んだ。8週間の研究全体にわたり全てのマウスに、毎日経口胃管栄養法を通じて(10ml/kg)試験物質またはビヒクルが投与された。イチョウ(Ginkgo biloba)の処置用量は100mg/kg BWであり、タイム抽出物では350mg/kg BWであった。
【0069】
[IntelliCages(登録商標)]
スイス国チューリッヒのNewBehavior AGからのIntelliCage(登録商標)は、ホームケージ様環境内において、トランスポンダー装着マウスの自発的および学習行動の自動モニタリングができるようにするシステムである。各IntelliCage(登録商標)は、本質的に大型ラットケージ(37.5×55×20.5cm)であり、その中に4つの記録(オペラント)チャンバーを含む金属フレームが入れられる。記録チャンバーはケージの四隅に収められ、それぞれ15×15×21cmの床領域の直角三角形領域をカバーする。ケージ内アンテナが個々のマウス毎のコーナー訪問の自動モニタリングを可能にし、各コーナー内の光線が個々の鼻突っ込みおよび給水瓶口のリッキングの自動記録を可能にする。4つの三角形のマウスシェルターがケージ中央に配置され、その上には食物に自由にアクセスできるようにする食物ホッパーが位置している。
【0070】
各記録チャンバーは、次のものを含む。(1)チャンバーへの入口の役割を果たし、コーナー訪問を記録する環状アンテナを収容するプラスチック環(内径30mm)、(2)マウスがチャンバーに入ったらその上に座る格子床、(3)給水瓶口にアクセスできるようにする2つの円形開口部(13mm径)、鼻突っ込みを記録する光線が各開口部を横切っている、(4)給水瓶口へのアクセスを許可する(ドア開放)または禁止する(ドア閉鎖)2つの電動式ドア、(5)2本の給水瓶、(6)それを通じて空気の吹き付けが嫌悪刺激として送達できる管、(7)馴化実験に使用できる、異なる色の光ダイオード。
【0071】
[実験相]
4〜5日間の順化期間中、マウスは全てのコーナー、水および餌に自由にアクセスしてケージを自由に探索した。次のモジュール(鼻突っ込み順応、3日間)では、マウスは鼻突っ込みを利用することを学ばねばならない。この相では、全てのドアは最初に閉じられた。したがってマウスは、ドアを開けて給水瓶口に到達するために鼻を突っ込まなくてはならなかった。収集されたデータは、順化相と同じパラメーターを含み、特に個々のマウスの最も好ましくない(すなわち訪問の頻度が最も少ない)コーナーは、次のモジュールのプログラミングのために記録された。
【0072】
[物体認識]
マウスの内在性探索活動を試験するために、2つの同一の物体が、それぞれコーナー1および2中またはコーナー3および4中のどちらかに置かれた。動物にはケージを探索する機会があり、水と餌への自由アクセスがあった。物体提示の3時間前および3時間後に訪問を記録した。図3aは物体認識試験の結果を示す。イチョウ群では、コーナー4の訪問時間に有意な増大が見られた。タイム抽出物では、訪問時間の明らかな増大がコーナー3で見られた。
【0073】
図3a:物体提示の3時間前および3時間後の各コーナーにおける滞在時間。黒丸は物体の位置を表す。それぞれタイム抽出物ではコーナー3でp=0.001、イチョウ(Ginkgo biloba)ではコーナー4でp=0.004。
【0074】
[位置学習(学習能力の測定)]
位置学習行動を調査するために、このモジュールでマウスを試験した。鼻突っ込み適応相において判定された最も好ましくないコーナーを個々のマウス毎の「正しい」コーナーと命名し、このコーナー内への鼻突っ込みだけが、電動ドアの開口を始動させ給水瓶にアクセスできるようにする。その他の全てのコーナーへの鼻突っ込みは「間違い」であり、空気の吹き付け(1秒間)の形態の嫌悪刺激をもたらす。
【0075】
図3bは、対照およびイチョウ(Ginkgo biloba)(GBE)処置動物と比較した、タイム抽出物処置群の活動相における学習曲線を示す。全群において成績は時間とともにより良くなったが、対照と処置群との間に差は見られなかった(p=0.44)。このデータは、全ての動物が課題の学習に成功したことを示す。
【0076】
[逆位置の学習]
このモジュールでは、「正しい」コーナーが前の試験モジュールの「正しい」コーナーの対角線上反対側に指定された。「間違った」コーナーへの訪問は、この場合もまた負の強化(空気の吹き付け)の対象となった。予期されたように、このモジュールの始まりには初期エラー率が高かったが、全ての群はすぐに課題を学習した。最初の10時間では、群間に差はなかった。さらにタイム抽出物処置群は、試験期間の終わりには他のいずれの群よりも有意に成績が良かった。
【0077】
図3c:逆位置の学習。エラーは最初の活動相において記録した。エラー率は、タイム抽出物では100%から約20%に、対照群およびGBE処置の双方では約60〜70%に低下し、この行動試験においてタイム処置動物がイチョウ処置マウスよりも成績が良いことが示唆された(最後の2つの時間ビンではp=0.011)。時間ビンはそれぞれ2時間に相当する。
【0078】
[実施例7]
[ゼラチンカプセルの調製]
次の成分を含む軟質ゼラチンカプセルを調製してもよい。
【0079】
【表4】
【0080】
ヒト成人に、毎日2個のカプセルを3ヶ月間にわたり投与してもよい。認知機能、覚醒度、および作業集中能力が改善されると思われる。
【0081】
[実施例8]
[即席フレーバー清涼飲料の調製]
【0082】
【表5】
【0083】
全成分を混合して、500μmの篩を通して篩掛けする。得られた粉末を適切な容器に入れて、管状ブレンダー内で少なくとも20分間混合する。飲料を調製するためには、得られた混合粉末の125gを十分な水と混合して1リットルの飲料を生成する。
【0084】
即席清涼飲料は、1食あたり(250ml)約30mgの濃縮タイム抽出物を含有する。強化剤として、そして一般的な健康のために、毎日2食(500ml)を飲用してもよい。
【0085】
[実施例9]
[チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有する乾燥ドッグフード]
市販のイヌ用基礎食(例えばMERA−Tiernahrung GmbH,Marienstrasse 80−84,D−47625 Kevelaer−Wetten,GermanyからのMera Dog「Brocken」)に、ビタミンC(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)C−EC)およびその誘導体、すなわち一リン酸アスコルビルナトリウム(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのSTAY−C(登録商標)50)またはL−アスコルビン酸ナトリウム/カルシウムの三リン酸、二リン酸、および一リン酸エステルの混合物(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)STAY−C(登録商標)35)などの抗酸化剤と共に、体重1kgあたり50mgのチモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物の1日量をイヌに投与するのに十分な量で、チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有するコーンオイル懸濁液を噴霧する。約90重量%の乾燥物質を含有するように、食品組成物を乾燥させる。1日あたりおよそ200gの乾燥ドッグフードを摂取する体重10kgの平均的なイヌでは、ドッグフードは1kgあたりおよそ2500mgのチモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有する。より体重の重いイヌでは、飼料混合物を適宜調製する。イヌのストレス、恐怖、および攻撃性の低減のために、動物保護施設のイヌにドッグフードを定期的に与えることができる。動物病院の受診、または動物病院への滞在、または休暇中の別離前には、ストレス性の事象の少なくとも1週間前、その最中、およびその後1週間、ドッグフードを与えることができる。
【0086】
[実施例10]
[チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有する湿潤キャットフード]
市販のネコ用基礎食(例えばHappy Cat「Adult」,Tierfeinnahrung,Suedliche Hauptstrase 38,D−86517 Wehringen,Germany)に、ビタミンC(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)C−EC)およびその誘導体、すなわち一リン酸アスコルビルナトリウム(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのSTAY−C(登録商標)50)またはL−アスコルビン酸ナトリウム/カルシウムの三リン酸、二リン酸、および一リン酸エステルの混合物(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)STAY−C(登録商標)35)などの抗酸化剤と共に、体重1kgあたり100mgのチモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物の1日量をネコに投与するのに十分な量で、チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有するコーンオイル懸濁液を混合する。およそ400gの湿潤キャットフードを摂取する体重5kgの平均的なネコでは、キャットフードは1kgあたりおよそ1250mgのチモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有する。約90重量%の乾燥物質を含有するように、食品組成物を乾燥させる。ネコのストレス、恐怖、および攻撃性の低減のために、動物保護施設のネコにキャットフードを定期的に与えることができる。動物病院の受診、または動物病院への滞在前には、ストレス性の事象の少なくとも1週間前、その最中、およびその後1週間、キャットフードを与えることができる。
【0087】
[実施例11]
[チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有するイヌのおやつ]
市販のイヌのおやつ(例えばMera−Tiernahrung GmbH,Marienstrasse 80−84,47625 Kevelaer−Wetten,Germanyが供給するMera Dog「Biscuit」)に、ビタミンC(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)C−EC)およびその誘導体、すなわち一リン酸アスコルビルナトリウム(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのSTAY−C(登録商標)50)またはL−アスコルビン酸ナトリウム/カルシウムの三リン酸、二リン酸、および一リン酸エステルの混合物(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)STAY−C(登録商標)35)などの抗酸化剤と共に、おやつ1gあたりが5〜50mgのチモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を投与するのに十分な量で、チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有するコーンオイル懸濁液を噴霧する。約90重量%の乾燥物質を含有するように、食品組成物を乾燥させる。恐怖および緊張を低下させるために、日中ドッグフードに加えて、または給餌が保証されない場合、すなわち旅行中に毎日5回まで、おやつを与えることができる。
【0088】
[実施例12]
[チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有するネコのおやつ]
市販のネコのおやつ(例えばWhiskas,Masterfoods GmbH,Eitzer Str.215,27283 Verden/Aller,Germanyが供給するWhiskas Dentabits)に、ビタミンC(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)C−EC)およびその誘導体、すなわち一リン酸アスコルビルナトリウム(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのSTAY−C(登録商標)50)またはL−アスコルビン酸ナトリウム/カルシウムの三リン酸、二リン酸、および一リン酸エステルの混合物(例えばスイス国カイザーアウグストのDSM Nutritional Products Ltd.からのROVIMIX(登録商標)STAY−C(登録商標)35)などの抗酸化剤と共に、おやつ1gあたりが5〜50mgのチモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を投与するのに十分な量で、チモールおよび/またはp−シメンまたはタイム抽出物を含有するコーンオイル懸濁液を噴霧する。約90重量%の乾燥物質を含有するように、食品組成物を乾燥させる。恐怖および緊張を低下させるために、日中キャットフードに加えて、または給餌が保証されない場合、すなわち旅行中に毎日5回まで、おやつを与えることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
認知機能を改善するまたは心理社会的状態を改善する量のチモールおよび/またはp−シメンを投与するステップを含む、動物またはヒトにおいて認知機能および/または心理社会的状態を改善する方法。
【請求項2】
チモールを投与するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
チモールが植物抽出物の構成要素である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
植物抽出物がタイム抽出物である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
タイム抽出物が少なくとも約25〜80%のチモールを含有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
p−シメンを投与するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
p−シメンが植物抽出物の構成要素である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
植物抽出物がタイム抽出物である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
タイム抽出物が少なくとも約5〜55%のp−シメンを含有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
認知機能および/または心理学的状態が、良好な認知性およびバランスの維持、学習、言語処理、問題解決、知的機能、心理社会的負担に対処する能力、注意力および集中力、記憶、想起能力、精神的敏捷性、精神的覚醒状態、精神的疲労、精神的状態の安定化、ストレス緩和、作業過負荷ストレス、ストレス関連疲労および/または燃え尽き、およびリラクセーション促進からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
認知機能を改善する量または心理社会的状態を改善する量のチモールおよび/またはp−シメンを含む、動物またはヒトにおいて認知機能または心理社会的状態を改善するための栄養補給食品または薬剤を製造するのに使用される組成物。
【請求項12】
チモールを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
チモールが植物抽出物の構成要素である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
タイム抽出物である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
タイム抽出物が少なくとも約25〜80%のチモールを含有する、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
組成物がp−シメンを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項17】
p−シメンが植物抽出物の構成要素である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
タイム抽出物である、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
タイム抽出物が少なくとも約5〜55%のp−シメンを含有する、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
認知機能および/または心理社会的状態が、良好な認知性およびバランスの維持、学習、言語処理、問題解決、知的機能、心理社会的負担に対処する能力、注意力および集中力、記憶、想起能力、精神的敏捷性、精神的覚醒状態、精神的疲労、精神的状態の安定化、ストレス緩和、作業過負荷ストレス、ストレス関連疲労および/または燃え尽き、およびリラクセーション促進からなる群から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項1】
認知機能を改善するまたは心理社会的状態を改善する量のチモールおよび/またはp−シメンを投与するステップを含む、動物またはヒトにおいて認知機能および/または心理社会的状態を改善する方法。
【請求項2】
チモールを投与するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
チモールが植物抽出物の構成要素である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
植物抽出物がタイム抽出物である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
タイム抽出物が少なくとも約25〜80%のチモールを含有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
p−シメンを投与するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
p−シメンが植物抽出物の構成要素である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
植物抽出物がタイム抽出物である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
タイム抽出物が少なくとも約5〜55%のp−シメンを含有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
認知機能および/または心理学的状態が、良好な認知性およびバランスの維持、学習、言語処理、問題解決、知的機能、心理社会的負担に対処する能力、注意力および集中力、記憶、想起能力、精神的敏捷性、精神的覚醒状態、精神的疲労、精神的状態の安定化、ストレス緩和、作業過負荷ストレス、ストレス関連疲労および/または燃え尽き、およびリラクセーション促進からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
認知機能を改善する量または心理社会的状態を改善する量のチモールおよび/またはp−シメンを含む、動物またはヒトにおいて認知機能または心理社会的状態を改善するための栄養補給食品または薬剤を製造するのに使用される組成物。
【請求項12】
チモールを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
チモールが植物抽出物の構成要素である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
タイム抽出物である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
タイム抽出物が少なくとも約25〜80%のチモールを含有する、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
組成物がp−シメンを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項17】
p−シメンが植物抽出物の構成要素である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
タイム抽出物である、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
タイム抽出物が少なくとも約5〜55%のp−シメンを含有する、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
認知機能および/または心理社会的状態が、良好な認知性およびバランスの維持、学習、言語処理、問題解決、知的機能、心理社会的負担に対処する能力、注意力および集中力、記憶、想起能力、精神的敏捷性、精神的覚醒状態、精神的疲労、精神的状態の安定化、ストレス緩和、作業過負荷ストレス、ストレス関連疲労および/または燃え尽き、およびリラクセーション促進からなる群から選択される、請求項11に記載の組成物。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図1f】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図1f】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【公表番号】特表2011−500616(P2011−500616A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529295(P2010−529295)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008821
【国際公開番号】WO2009/049900
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008821
【国際公開番号】WO2009/049900
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】
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