説明

認知症治療薬

【課題】認知症及び/又はそれに伴う随伴症状に対する改善・治療効果に優れ、一般的に用いられている治療法では改善しにくい症例に対しても有効な、認知症治療薬の提供。
【解決手段】フェルラ酸又はその薬学的に許容される塩と、アシュワガンダ又はその抽出物とを組み合わせてなる認知症治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知症及び/又はそれに伴う種々の随伴症状を改善・治療するための認知症治療薬に関する。より詳しくは、認知症に伴う、記憶、思考、見当識、理解、学習能力、言語、判断を含む多数の高次皮質機能障害を含む認知機能障害及び/又はそれらに伴うせん妄、幻覚や妄想、抑うつ気分、意欲低下、睡眠障害、不安、焦燥、緊張、全身倦怠感、不定愁訴、パーキンソン症状、神経麻痺など、多彩な精神神症状及び神経症状を改善・治療するための認知症治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症は、認知機能障害、主として記憶、判断力、見当識の障害によって特徴づけられる疾患であり、「アルツハイマー型認知症」、「血管性認知症」、「脳損傷、脳機能不全及び身体疾患による他の精神障害」など多くの下位区分がある。この疾患の初発は一般的には60代から80代もしくはそれ以降に生じる。多くは進行性の経過をたどり、その間、せん妄、幻覚や妄想、抑うつ気分、意欲低下、睡眠障害、不安、焦燥、緊張、全身倦怠感、不定愁訴、パーキンソン症状、神経麻痺など、多彩な精神神症状及び神経症状を呈する。
【0003】
認知症の一般的な治療法として、アルツハイマー型認知症においては、コリンエステラーゼ阻害薬を用いる薬物療法がある。血管性認知症の場合には、進行の予防が大切であり、抗高血圧薬、抗凝固薬、抗血小板薬などの薬物が用いられることがある。また、認知症に伴う上記精神神症状及び神経症状といった多彩な症状に対しては、抗精神病薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬、抗パーキンソン病薬などを処方しうる。抑肝散も認知症の治療によく用いられる。
【0004】
しかしながら、コリンエステラーゼ阻害薬は、消化器症状、肝毒性などの副作用のため、その使用は制限的である。また、抗高血圧薬、抗凝固薬、抗血小板薬などには予防効果はあるものの、認知症そのものに対しては一般的に改善効果を期待することは困難である。抑肝散は、低カリウム血症を引き起こすことが知られており、その使用には注意を要する。さらに、抗精神病薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬、抗パーキンソン病薬などの薬物は、高齢者に使用した場合、興奮、錯乱、過沈静などを及ぼす可能性があることに留意せねばならない。
【0005】
近年、認知症の下位分類である「アルツハイマー型認知症」、「血管性認知症」、「脳損傷、脳機能不全及び身体疾患による他の精神障害」など多岐にわたる各々の認知症者やレビー小体病者における脳内で、活性化されたミクログリア(活性型ミクログリア)が増加しており、これらが認知症の病態発生に関与している、という研究成果が報告された(非特許文献1、及び2)。また、うつ病や幻覚妄想状態を主症状とする統合失調症者、パーキンソン病、ピック病などの病態発生にも活性型ミクログリアが関与していることを示唆する研究成果も報告された(非特許文献3、4、及び5)。
【0006】
一方、最近、種々の食物や草木などに含まれる物質が脳機能を改善させる作用を有することが科学者の注目を集めている(非特許文献6)。それらのうち、様々な食物に含まれ、強力な抗酸化作用及び抗炎症作用を有するフェルラ酸が、動物実験により、ミクログリアの活性化を抑制し、また、神経保護作用を有するとの研究成果が報告された(非特許文献7、8及び9)。さらに、インドの伝統医学で抗痴呆薬として用いられているアシュワガンダ(Withania somnifera Dunal)に含まれるウィタノシドが、やはり動物実験により、神経再生作用、シナプス再生作用を有すること、及び認知機能改善作用があるという研究成果が報告された(非特許文献10及び特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-176428号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Gerhard A, Schwarz J, Myers R, Wise R, Banati RB. Evolution of microglial activation in patients after ischemic stroke: a [11C](R)-PK11195 PET study. Neuroimage 24(2):591-595, 2005
【非特許文献2】Mrak RE, Griffin WS. Common inflammatory mechanisms in Lewy body disease and Alzheimer disease. J Neuropathol Exp Neurol 66:683-686, 2007.
【非特許文献3】McNally L, Bhagwagar Z, Hannestad J. Inflammation, glutamate, and glia in depression: a literature review. CNS Spectr 13:501-510, 2008.
【非特許文献4】van Berckel BN, Bossong MG, Boellaard R, Kloet R, Schuitemaker A, Caspers E, Luurtsema G, Windhorst AD, Cahn W, Lammertsma AA, Kahn RS. Microglia activation in recent-onset schizophrenia: a quantitative (R)-[11C]PK11195 positron emission tomography study. Biol Psychiatry 64:820-822, 2008.
【非特許文献5】Ouchi Y, Yoshikawa E, Sekine Y, Futatsubashi M, Kanno T, Ogusu T, Torizuka T. Microglial activation and dopamine terminal loss in early Parkinson's disease. Ann Neurol. 57:168-175, 2005.
【非特許文献6】Gomez-Pinilla F. Brain foods: the effects of nutrients on brain function. Nat Rev Neurosci 9:568-578, 2008.
【非特許文献7】Wenk GL, McGann-Gramling K, Hauss-Wegrzyniak B, Ronchetti D, Maucci R, Rosi S, Gasparini L, Ongini E. Attenuation of chronic neuroinflammation by a nitric oxide-releasing derivative of the antioxidant ferulic acid. J Neurochem 89:484-493, 2004.
【非特許文献8】Cho JY, Kim HS, Kim DH, Yan JJ, Suh HW, Song DK. Inhibitory effects of long-term administration of ferulic acid on astrocyte activation induced by intracerebroventricular injection of beta-amyloid peptide (1-42) in mice. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 29:901-907, 2005.
【非特許文献9】Cheng CY, Su SY, Tang NY, Ho TY, Chiang SY, Hsieh CL. Ferulic acid provides neuroprotection against oxidative stress-related apoptosis after cerebral ischemia/reperfusion injury by inhibiting ICAM-1 mRNA expression in rats. Brain Res 1209:136-150, 2008.
【非特許文献10】Kuboyama T, Tohda C, Komatsu K. Withanoside IV and its active metabolite, sominone, attenuate Aβ (25-35)-induced neurodegeneration. Eur J Neurosci 23:1417-26, 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、フェルラ酸又はウィタノシドのヒトに対する認知症治療効果を確認したという報告は未だされていない。また本発明者の経験によれば、これらの一方を用いた場合でも、認知症治療効果は必ずしも十分なものではなく、これらの治療法によっても改善しにくい症例も少なからず存在する。
【0010】
従って本発明は、認知症及び/又はそれに伴う随伴症状に対する改善・治療効果に優れ、一般的に用いられている治療法では改善しにくい患者に対しても有効な、認知症治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、フェルラ酸とアシュワガンダを組合せ、それらの異なる作用を重ね合わせることにより、一般に用いられている治療法では改善が困難な認知症及び/又はそれに伴う種々の随伴症状の改善に有効なのではないか、との仮説を立てた。そして、認知症患者に対し、フェルラ酸とアシュワガンダエキスとを組み合わせた組成物を実際に投与してその効能を確認し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、フェルラ酸又はその薬学的に許容される塩と、アシュワガンダ又はその抽出物とを組み合わせてなる認知症治療薬を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の認知症治療薬は、認知症及び/又はそれに伴う種々の随伴症状に対し、一般的に用いられている治療法では改善しにくい症状に対しても優れた治療効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で用いるフェルラ酸は、これを含有する植物から抽出することもでき、化学合成により工業的に製造することもできる。
【0015】
フェルラ酸を含有する植物としては、例えば、コーヒー、タマネギ、ダイコン、レモン、センキュウ、トウキ、マツ、オウレン、アギ、カンショ、トウモロコシ、大麦、小麦、コメ等が好ましく、特にコメが好ましい。例えば、米糠から米油を製造する際の廃棄物や副産物である廃油、アルカリ油滓、粗脂肪酸を原料として、これらをアルカリ加水分解して安価に得ることができる。
【0016】
またフェルラ酸は、例えば4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド(バニリン)とマロン酸の縮合脱炭酸などによって製造することもできる。
【0017】
フェルラ酸は、薬学的に許容される塩の形で用いることにより水溶性を向上させ、有効性を増大させることもできる。このような塩形成用の塩基物質としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;水酸化アンモニウム等の無機塩基;アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基を用いることができるが、特にアルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物が好ましい。
【0018】
また、本発明で用いるアシュワガンダ(Withania somnifera Dunal)は、インド、ネパール、中東、地中海沿岸のナス科の常緑低木植物であり、インドを中心とした熱帯に広く分布する。アシュワガンダは、インドの伝統医療「アーユルヴェーダ」において古くから健康増進に用いられている。
【0019】
本発明において、アシュワガンダは、主に根茎部又は葉が利用される。アシュワガンダは、根茎部又は葉の乾燥粉砕物として用いてもよいが、抽出物(エキス)として用いるのが好ましい。抽出物としては特に限定されないが、好ましくはエタノール水溶液抽出物である。アシュワガンダ抽出物は、例えば、エキス乾燥粉末として、株式会社前忠、日本新薬株式会社などから販売されている。
【0020】
本発明の認知症治療薬は、フェルラ酸又はその薬学的に許容される塩と、アシュワガンダ又はその抽出物とを含有する配合剤の形態であってもよく、また、フェルラ酸又はその薬学的に許容される塩を含有する製剤と、アシュワガンダ又はその抽出物を含有する製剤とからなるキットの形態であってもよい。
【0021】
本発明の認知症治療薬が上記いずれの形態の場合であっても、それぞれの製剤は、許容される担体を用いて製造することができる。本発明の認知症治療薬を製造するにあたり、活性成分、すなわちフェルラ酸又はその薬学的に許容される塩、及びアシュワガンダ又はその抽出物は、通常、賦形剤を用いて混合されるか、賦形剤により希釈されるか、或いはカプセル、サシェ、ペーパー又は他のコンテナの形態にできる担体に封入される。賦形剤を希釈剤として用いる場合、賦形剤は活性成分に対して媒体、担体又は媒質として作用する固形、半固形、液体組成物であってもよい。このように、本発明の認知症治療薬は、錠剤、丸剤、粉末剤、トローチ剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、溶液剤、シロップ剤、軟及び硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、滅菌注射溶液及び滅菌包装粉剤の剤型にできる。また、キャンディー、ガム、クッキー等の菓子類や、飲料、パン類、スープ類等の食品の形態とすることもできる。本発明の認知症治療薬は、経口用又は注射用のいずれであってもよいが、経口用であることがより好ましい。
【0022】
フェルラ酸又はその薬学的に許容される塩を含有する製剤と、アシュワガンダ又はその抽出物を含有する製剤とからなるキットの形態の場合、両製剤の形態は、同一であっても、異なってもよい。例えば、一方の製剤が経口用で、他方の製剤が注射剤であってもよい。好ましくは、いずれもが経口用の形態である。
【0023】
本発明において、フェルラ酸又はその塩、アシュワガンダ又はその抽出物は、それぞれ認知症患者に有効量投与することにより、認知症に伴う諸症状、例えば、記憶、思考、見当識、理解、学習能力、言語、判断を含む多数の高次皮質機能障害を含む認知機能障害及び/又はそれらに伴うせん妄、幻覚や妄想、抑うつ気分、意欲低下、睡眠障害、不安、焦燥、緊張、全身倦怠感、不定愁訴、パーキンソン症状、神経麻痺など、多彩な精神神症状及び神経症状などを改善することができる。また、従来の認知症治療薬によっても改善しにくい患者に対しても有効である。
【0024】
上記有効量とは、治療的に効果のある量を意味する。本発明の認知症治療薬の具体的投与量は、個々の患者の症状、年齢、体重等や、投与形態、投与回数、他剤の併用等を考慮し、適宜決定することができるが、経口投与の場合、成人1日あたりの投与量は、フェルラ酸又はその塩は、50〜1000mg/日、更には100〜600mg/日、特に200〜400mg/日が好ましく、アシュワガンダ又はその抽出物は、エキス乾燥粉末として、50〜1000mg/日、更には100〜600mg/日、特に200〜400mg/日が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これはいかなる意味においても本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
実施例1
72歳女性は、家族に指示されたことを忘れる、食事を作ったことを忘れる、といった短期記憶の障害が徐々に進行し、日常生活に障害を来すようになった。また、「貯金を使われる」といった妄想も出現し、些細なことで怒るといった易怒性も呈するようになった。このため診療が開始されるようになった。MMSE(Folstein MF et al. "Mini-mental state". A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician. J Psychiatr Res. 12:189-98, 1975)は19点であった。MRI上、軽度の側頭葉萎及び脳室の拡大が認めたが、大脳皮質下における年齢相応のラクナ梗塞を認める所見以外に脳梗塞の既往等、脳器質的疾患の所見は認めなかった。これらの所見から、ICD-10及びDSM-IVによりアルツハイマー型認知症と診断された。
【0027】
薬物療法としてコリンエステラーゼ阻害薬であるドネペジル3mg/日を開始したが、嘔気と除脈の副作用が出現し、同薬の継続は困難であった。妄想、易怒性に対しては、ベンゾジアゼピン抗不安薬や少量の抗精神病薬などを使用したが、ふらつきや傾眠傾向、又は、嚥下障害、小刻み歩行といった錐体外路症状などの副作用が出現し、いずれの薬物も内服継続が困難であった。
【0028】
そこで、フェルラ酸を使用する方針とし、200mg/日(朝100mg、夕方100mg)から開始とし、その内服量を維持した。その4週後には、該患者の妄想は顕著に改善した。また、言動は穏やかになり、易怒性もした。副作用は認められなかった。しかしながら、依然として短期記憶の障害は継続した。この時点でのMMSEは18点であった。
【0029】
その後、6か月間フェルラ酸の内服を続けたが、やはり短期記憶の障害は改善せず、MMSEは18点であった。このため、フェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)に加え、アシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)を併用することとした。
【0030】
その後、3か月が経過した頃より、MMSEは18点であるものの、これまでは不可能であった定期的な服薬が自力で行えるようになった。また、フェルラ酸とアシュワガンダ・エキスによる併用療法を開始し6か月が経った頃からは、会話量が増加し、自発的に散歩するなど、活動性が上昇した。これらにより、家族の介護上における負担は低下し、生活の質が向上した。このため、フェルラ酸を中止し、アシュワガンダ・エキス単独による治療法を選択することとした。
【0031】
しかしながら、フェルラ酸の使用を中止して1か月が経過した頃より、再び妄想、易怒性が出現するようになった。このため、治療方針を再び変更し、フェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)とアシュワガンダ・エキスアシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)による併用療法を開始した。その後、妄想、易怒性は改善した。
【0032】
その後はフェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)とアシュワガンダ・エキスアシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)による併用療法を維持、1年が経過したが、MMSEは20点と、記銘力障害がわずかに改善し、妄想、易怒性といった症状の再発もなく、良好な状態が継続している。
【0033】
実施例2
78歳男性は、何度も同じ質問を繰り返す、といった短期記憶の障害が出現し、また、多動に加え、日付の感覚がなくなるなどの見当識障害が認められるせん妄状態がしばしば出現するようになった。さらには、誘因なく突然泣いたり、怒ったりと情動も不安定となった。歩行は小刻みになり、手指振戦、仮面様の顔貌といったパーキンソン症状も呈するようになり、日常生活に障害を来すようになった。このため診療が開始されるようになった。MMSEは18点であった。MRI上、年齢相応の委縮が認められた。また、線条体を中心とした大脳基底核や大脳皮質下に多数のラクナ梗塞を認めた。これらの所見から、ICD-10及びDSM-IVにより血管性認知症と診断された。
【0034】
薬物療法として抗パーキンソン病薬であるアマンタジンを用いたが、情動が不安定となり、継続して使用することが困難であった。不安定な情動に対しては、ベンゾジアゼピン抗不安薬や少量の抗精神病薬などを使用したが、ふらつきや傾眠傾向、又は、嚥下障害、小刻み歩行といった錐体外路症状などの副作用が出現し、パーキンソン症状は増悪、いずれの薬物も内服継続が困難であった。また、見当識障害も悪化した。
【0035】
そこで、フェルラ酸を使用する方針とし、200mg/日(朝100mg、夕方100mg)から開始とし、その内服量を維持した。その4週後には、該患者の言動は穏やかになり、情動は安定した。見当識障害も改善し、意識が清明となった。副作用は認められなかった。しかしながら、短期記憶の障害は継続した。この時点でのMMSEは17点であった。
【0036】
その後、6か月間フェルラ酸の内服を続けたが、やはり短期記憶の障害は改善せず、MMSEは17点であった。このため、フェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)に加え、アシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)を併用することとした。
【0037】
その後、3か月が経過した頃より、MMSEは17点であるものの、これまでは不可能であった定期的な服薬が自力で行えるようになった。また、フェルラ酸とアシュワガンダ・エキスによる併用療法を開始し6か月が経った頃からは、活動性が上昇、小刻み歩行等のパーキンソン症状も改善し、自発的に外出することが可能となった。このため、フェルラ酸を中止し、アシュワガンダ・エキス単独による治療法に切り替える方針とした。
【0038】
しかしながら、フェルラ酸の使用を中止して1か月が経過した頃より、再び情動が不安定となり、感情失禁が認められるようになった。せん妄状態も呈するようになった。また、パーキンソン症状も再び認められるようになった。
【0039】
このため、治療方針を再び変更し、フェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)とアシュワガンダ・エキスアシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)による併用療法を開始した。その後、情動は安定し、パーキンソン症状も改善した。
【0040】
その後はフェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)とアシュワガンダ・エキスアシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)による併用療法を維持、1年が経過したが、MMSEは17点と、記銘力障害の増悪は認められず、不安定な情動、見当識障害、パーキンソン症状は改善し、良好な状態が継続している。
【0041】
実施例3
64歳女性は、61歳時にくも膜下出血を起こし、脳外科手術を受けた。一命はとりとめたものの意識障害は数週間に渡り続いた。その後、意識は回復したものの、意味不明のことを話したり、記名力障害を呈したりするといった後遺症が残った。MMSEは12点であった。
【0042】
錯乱を伴ったせん妄状態を繰り返し、しばしば興奮状態となったため、抗精神病薬による治療が開始された。また、63歳時にはうつ状態も併発し、抗うつ薬による治療も開始された。しかしながら、抗うつ薬の併用により情動が不安定となり、急に泣き出したり、興奮したりする状態となった。このため、抗うつ薬は使用できなかった。一方、抗精神病薬によりせん妄状態は改善したものの、口数は減り、表情は硬く、また、小刻み歩行が出現するなど、パーキンソン症状が認められるようになった。これらの経過から、家族より抗精神病薬による治療は行わないでほしいとの強い希望が出た。
【0043】
このため、フェルラ酸を使用し、抗精神病薬は漸減中止とする治療方針とした。フェルラ酸は200mg/日(朝100mg、夕方100mg)から開始とし、その内服量を維持した。その後、4週間かけて抗精神病薬を漸減中止とした。抗精神病薬を中止したにもかかわらず、該患者の言動は穏やかになり、情動は安定した。見当識障害も改善し、意識が清明となった。また、他者の声かけに笑顔で返答できるようになった。せん妄が惹起されることもなくなった。副作用は認められなかった。しかしながら、短期記憶の障害は継続した。この時点でのMMSEは13点であった。
【0044】
その後、6か月間フェルラ酸の内服を続けたが、やはり短期記憶の障害は改善せず、MMSEは12点であった。このため、フェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)に加え、アシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)を併用することとした。
【0045】
その後、3か月が経過した頃より、MMSEは13点であるものの、活動性が上昇し、笑顔が出現する頻度が増した。また、フェルラ酸とアシュワガンダ・エキスによる併用療法を開始し6か月が経った頃からは、歩行も円滑に行えるようになった。このため、フェルラ酸を中止し、アシュワガンダ・エキス単独による治療法に切り替える方針とした。
【0046】
しかしながら、フェルラ酸の使用を中止して1か月が経過した頃より、再び情動が不安定となり、せん妄が認められるようになった。
【0047】
このため、治療方針を再び変更し、フェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)とアシュワガンダ・エキスアシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)による併用療法を開始した。その後、情動は安定し、せん妄は改善した。
【0048】
その後はフェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)とアシュワガンダ・エキスアシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)による併用療法を維持、1年が経過したが、MMSEは16点と、記銘力障害の著明な改善は認められないものの、不安定な情動、見当識障害、パーキンソン症状は認められず、良好な状態が継続している。
【0049】
実施例4
75歳女性は、1年ほど前から孫が机で遊んでいるという幻視が出現するようになった。また、半年前からは前かがみの姿勢をすることが多くなり、小刻み歩行、手指振戦といったパーキンソン症状が出現するようになった。短期記憶の障害も認められ、MMSEは22点であった。また興奮状態を伴うせん妄状態が繰り返し出現した。MRI検査では異常は認められなかったが、脳血流SPECT検査では頭頂葉から側頭葉、後頭葉にかけて血流低下が認められた。これらから、レビー小体病と診断された。
【0050】
このため、ドネペジルと抗不安薬とによる治療が開始された。しかしながら、ドネペジルは除脈を誘発したため、使用困難であった。また、ふらつきが出現するようになりしばしば転倒するようになったため、抗不安薬の使用は不可能であった。そこで同疾患に有効とされる抑肝散を使用することとした。しかしながら低カリウム血症となり、同薬を中止することとなった。
【0051】
このため、フェルラ酸を使用する方針とした。フェルラ酸は200mg/日(朝100mg、夕方100mg)から開始とし、その内服量を維持した。その4週間後、該患者の幻視は消失し、せん妄状態を呈することもなくなった。パーキンソン症状も改善傾向となり、背筋は伸び、手指振戦などといった症状は消失した。意識も清明になり、家族と穏やかに会話ができるようになった。副作用は認められなかった。しかしながら、短期記憶の障害は継続した。この時点でのMMSEは21点であった。
【0052】
その後、6か月間フェルラ酸の内服を続けたが、短期記憶の障害は改善せず、MMSEは21点のままであった。このため、フェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)に加え、アシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)を併用することとした。
【0053】
その後、3か月が経過した頃より、MMSEは22点であるものの、さらに活動性が上昇し、笑顔が出現する頻度が増した。また、フェルラ酸とアシュワガンダ・エキスによる併用療法を開始し6か月が経った頃からは、歩行が円滑となり、パーキンソン症状は改善した。このため、フェルラ酸を中止し、アシュワガンダ・エキス単独による治療法に切り替える方針とした。
【0054】
しかしながら、フェルラ酸の使用を中止して1か月が経過した頃より、再び幻視を呈するようになり、しばしばせん妄が出現するようになった。また、手指振戦、仮面用顔貌といったパーキンソン症状が認められるようになった。
【0055】
このため、治療方針を再び変更し、フェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)とアシュワガンダ・エキスアシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)による併用療法を開始した。その後、情動は安定し、せん妄は改善した。
【0056】
その後はフェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)とアシュワガンダ・エキスアシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)による併用療法を維持、1年が経過したが、MMSEは23点と、記銘力障害の著明な改善は認められないものの、幻視、見当識障害、せん妄状態、パーキンソン症状は認められず、良好な状態が継続している。
【0057】
実施例5
58歳男性は、元来、几帳面で真面目な性格であった。しかし、1年ほど前から、以前にはみられなかった、他人をからかって笑ったり、わいせつな話しを公然としたりする言動が認められるようになった。また、スプーンとナイフを取り違えて使うといった失認失行に加え、記銘力障害も認められるようになった。さらに、どんな質問に対しても、ふざけた内容の返答を繰り返すといった滞続言語も認められるようになった。易怒性も亢進した。MRIでは前頭葉、側頭葉に萎縮が認められた。これらから、ピック病と診断された。MMSEは24点であった。治療とにはフェルラ酸を使用する方針とした。
【0058】
フェルラ酸は200mg/日(朝100mg、夕方100mg)から開始とし、その内服量を維持した。その6週間後、おどけや、わいせつな発言が減少するようになった。失認及び失効も改善した。しかしながら、短期記憶の障害は継続しており、この時点でのMMSEは25点であった。
【0059】
その後、6か月間フェルラ酸の内服を続けたが、短期記憶の障害は改善せず、MMSEは25点のままであった。このため、フェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)に加え、アシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)を併用することとした。
【0060】
その後、3か月が経過した頃より、MMSEは25点で変化は認められないものの、変化した人格はほぼもとにもどった。また、フェルラ酸とアシュワガンダ・エキスによる併用療法を開始し6か月が経った頃からは、就労が可能となった。このため、フェルラ酸を中止し、アシュワガンダ・エキス単独による治療法に切り替える方針とした。
【0061】
しかしながら、フェルラ酸の使用を中止して1か月が経過した頃より、再び易怒性が亢進、おどけたり、ふざけたりといった人格の変化が認められるようになった。
【0062】
このため、治療方針を再び変更し、フェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)とアシュワガンダ・エキスアシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)による併用療法を開始した。その後、症状は再び改善し、就労を継続した。
【0063】
フェルラ酸200mg/日(朝100mg、夕方100mg)とアシュワガンダ・エキスアシュワガンダ・エキス200mg/日(朝100mg、夕方100mg)による併用療法を維持、1年が経過したが、MMSEは27点と、記銘力障害の著明な改善は認められないものの、人格変化などの症状は改善、良好な状態が継続している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルラ酸又はその薬学的に許容される塩と、アシュワガンダ又はその抽出物とを組み合わせてなる認知症治療薬。
【請求項2】
フェルラ酸又はその薬学的に許容される塩と、アシュワガンダ又はその抽出物とを含有する配合剤である請求項1記載の認知症治療薬。
【請求項3】
フェルラ酸又はその薬学的に許容される塩を含有する製剤と、アシュワガンダ又はその抽出物を含有する製剤とからなるキットである請求項1記載の認知症治療薬。
【請求項4】
経口製剤である請求項1〜3のいずれかに記載の認知症治療剤。

【公開番号】特開2011−51942(P2011−51942A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203346(P2009−203346)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(505234616)株式会社 グロービア (4)
【出願人】(509248051)
【Fターム(参考)】