説明

認証媒体

【課題】 従来のICカードなどに比べてきわめて安価に製造できる上、磁気カードなどに比べてセキュリティの点でも問題が少ない、新規な認証媒体を提供する。
【解決手段】 認証媒体1の媒体本体10を、薄葉紙、不織布、プラスチックやゴムの多孔質体のシートなどで形成し、例えば薄葉紙や不織布では、当該薄葉紙や不織布を形成する繊維Fの絡み合いによって形成された細孔模様を、照合要素として用いる。
【効果】 細孔模様は自然発生的に生じるものであり、一つとして同じものはないため、個々の認証媒体1の、細孔模様のパターンを、例えば光学式リーダなどで読み取って照合することで、その認証媒体1を所持している利用者や、その認証媒体を貼り付けた物品などを識別することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、人や物品を識別するための認証媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】人や物品を機械によって識別するために、例えばICカード、磁気カード等の認証媒体を用いた認証システムや、あるいは人の場合は指紋や音声、網膜の血管パターンなどの身体的な特徴を利用した認証システムなどが普及しつつある。しかし後者の認証システムは、利用者が、あらかじめ自身の特徴を機械に登録しておく必要があるため、例えば特定の施設の、限られた利用者を対象とした識別には適しているものの、不特定多数の利用者の識別や、あるいは物品の識別には適さなかった。
【0003】これに対し前者の、認証媒体を用いた認証システムであれば、その認証媒体の所持者を、認証媒体内のデータ、もしくは認証媒体内のデータから導き出されるホストコンピュータ内のデータなどに基づいて識別できる。したがって、例えば保険証や有価証券類、各種施設の入出場管理用(入場券など)、交通機関の乗車券、搭乗券など、不特定多数の利用者を対象とした識別に適用することができる。
【0004】また、例えば認証媒体をラベルとして物品の表面に貼り付けたり、タグとして物品に取り付けたりすれば、認証媒体によってその物品を識別できる。このため認証媒体を用いた認証システムは、例えば各種物流システムなどにおける物品の識別および管理に適用することもできる。しかし、前述した従来の認証媒体のうちICカードは、1枚のカードの中に、識別情報などを記録したICチップと、このICチップにデータを入出力する端子またはアンテナとを組み込んだ複雑な構造を有しており、コストがきわめて高くつくという問題がある。
【0005】また磁気カードは、ICカードに比べて構造が簡単で、より低コストで製造できるものの、記録内容の意図的な改ざんなどが容易であり、セキュリティの点で問題がある。この発明の目的は、従来の認証媒体の、上記のような種々の問題を解決し、きわめて安価に製造できる上、セキュリティの点でも問題が少ない、新規な認証媒体を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段および発明の効果】請求項1記載の発明は、シート状の多孔質体の細孔模様を、照合要素として用いることを特徴とする認証媒体である。シート状の多孔質体としては、例えば薄葉紙や不織布などを挙げることができる他、プラスチックやゴムなどからなる多孔質体のシートなどを挙げることもでき、このうち前者においては、繊維を漉いて薄葉紙や不織布を製造する際に、繊維の絡み合いによって形成された細孔模様を、また後者の、プラスチックやゴムからなる多孔質体のシートでは発泡剤の発泡などによって形成された細孔模様を、それぞれ照合要素として用いる。またゴムの多孔質体のシートは、例えば未加硫のゴムに食塩等の粉末を配合してシート状に加硫したのち、食塩の粉末を水によってシート中から溶出させて製造することもでき、その場合は、粉末の溶出によって形成された細孔模様を照合要素として用いる。
【0007】これらの細孔模様は何れも、多孔質体を製造する際に、いわば自然発生的に生じるものであり、一つとして同じものはないため、個々の認証媒体の、細孔模様のパターンを、例えば光学式リーダなどで読み取って照合することで、その認証媒体を所持している利用者や、その認証媒体を貼り付けた物品などを識別することができる。しかも認証媒体は、その全体を上記の多孔質体で形成するか、もしくは照合要素として、その一部分を上記の多孔質体で形成すればよく、構造が簡単で、きわめて安価に製造できる。
【0008】また多孔質体のパターンを意図的に改ざんすることは不可能であるため、セキュリティの問題を、これまでよりも著しく改善することもできる。なお多孔質体としては、前記のうち薄葉紙または不織布を用いるのが、薄肉化が容易で、カードなどの認証媒体の形状に形成するのに適している上、より安価であることから好ましい。したがって請求項2記載の発明は、多孔質体として薄葉紙または不織布を用い、当該薄葉紙または不織布を構成する繊維の絡み合いによって形成された細孔模様を、照合要素として用いる請求項1記載の認証媒体である。
【0009】また上記薄葉紙または不織布を構成する繊維の一部を着色すると、細孔模様による識別に加えて、着色した繊維の分布パターンの違いや、着色した繊維の色の違いなどによる識別も可能となり、識別に用いる情報量を増加させることができる。したがって請求項3記載の発明は、繊維の一部を着色した請求項2記載の認証媒体である。
【0010】また、多孔質体の表面を透明フィルムでラミネートすると、細孔模様の耐久性を向上することができる。したがって請求項4記載の発明は、多孔質体の表面に、透明フィルムをラミネートした請求項1記載の認証媒体である。
【0011】
【発明の実施の形態】図1(a)は、この発明の認証媒体1の、実施の形態の一例を示す平面図である。また図1(b)は、上記例の認証媒体1の、積層構造を説明する分解斜視図である。図1(b)に示すようにこの例の認証媒体1は、その全体を、ICカード、磁気カードなどと同様のカード形状に形成した、多孔質体としての薄葉紙または不織布からなる媒体本体10の片面に、透明フィルム11をラミネートした2層構造を有する。透明フィルム11をラミネートすることによって、先に述べたように細孔模様の耐久性を向上することができる。
【0012】媒体本体10は、図1(a)中に拡大して示したように、上記薄葉紙または不織布を構成する繊維Fの絡み合いによって形成された、照合要素として用いる細孔模様を有する。そして図の例では、媒体本体10の表面の、特定の部分を、印刷した枠10aで囲って、照合要素としての細孔模様の読み取り領域10bを規定している。このように、媒体本体10上に細孔模様の読み取り領域10bを規定した場合には、例えば光学式リーダなどでの読み取りを容易に、かつ確実に行うことができる。
【0013】ただし読み取り領域10bを規定せず、媒体本体の全面を、細孔模様の読み取り領域としてもよい。また媒体本体10それ自体はプラスチック板や厚紙などで形成するとともに、当該媒体本体10の、上記枠10a内を切り取り、そこへ薄葉紙や不織布などを貼り付けて、細孔模様の読み取り領域10bとしてもよい。枠10aで囲った読み取り領域10b内の細孔模様は、先に述べたように薄葉紙や不織布ごとに異なっており、一つとして同じものはないため、例えば認証媒体1の製造時や発行時などに、読み取り領域10b内の細孔模様のパターンを、前述した光学式リーダなどで読み取り、読み取ったパターンと各種のデータとを関連付けて、ホストコンピュータに登録して管理することで、認証媒体1を持参した使用者や、あるいは認証媒体1を貼り付けたり取り付けたりした物品を識別することができる。また識別時に、ホストコンピュータに登録した情報を更新したりすることもできる。
【0014】また、薄葉紙や不織布を構成する繊維Fの一部を着色した場合には、例えば図2(a)(b)に示すように、着色した繊維F′の、読み取り領域10b内での位置や数なども、薄葉紙や不織布ごとに異なっており、一つとして同じものはないため、着色した繊維F′の分布パターンの違いによる識別も可能となり、識別に用いることのできる情報量を増加させることができる。さらに、繊維F′の色を違えれば、当該色の違いによる識別も可能となり、識別に用いることのできる情報量をさらに増加させることができる。
【0015】媒体本体10の表面には、例えば図1(a)(b)中に二点鎖線で示すように、各種の情報を印刷したり書き込んだりする貯めの領域10cを設けてもよい。上記認証媒体1のうち、媒体本体10を構成する薄葉紙としては、例えばこうぞ、みつまた、マニラ麻、ジュート麻(黄麻)、ケナフなどの天然繊維から抄造したいわゆる和紙や、レーヨン、ビニロン、ポリエステル、ナイロンなどの化学繊維(再生繊維および合成繊維)を紙状に抄造したもの、あるいは天然繊維と化学繊維とを混合して紙状に抄造したものなどを挙げることができる。
【0016】薄葉紙は、例えばジュート麻やケナフなどの靭皮繊維、マニラ麻などの葉脈繊維、または化学繊維を1種単独で、あるいは2種以上を所定の比率で混合して軽く叩解し、湿潤紙力増強剤等の内添剤を添加したのち、傾斜短網抄紙機などを用いて抄造し、さらに必要に応じて、含浸塗工機などで水溶性樹脂を塗工して製造する。また不織布としては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン等の種々の繊維からなるシート状の不織布が何れも使用可能である。
【0017】不織布は、上記繊維の1種または2種以上を適当な方法でウェブ状(薄綿状)またはマット状に配列し、接着剤の接着力や、あるいは繊維自身の熱融着力によって繊維相互を接合させて製造する。薄葉紙および不織布としては、目が詰まっているものよりも、ある程度、目が粗いものが好ましい。目が詰まっているものは、細孔模様のパターンの確認が難しくなる傾向がある。
【0018】シート状の多孔質体としては、前述したようにプラスチックやゴムからなる多孔質体のシートを使用することもできる。このうちプラスチック製の、多孔質体のシートとしては、例えばポリスチレンフォームやポリ塩化ビニルフォームなどの、種々のプラスチックの発泡体からなるシートを挙げることができる。これらのシートは、例えばプラスチックに発泡剤を混合し、シート状に押出発泡成形して製造する。
【0019】またウレタンフォームを用いることもできる。ウレタンフォームからなるシートは、例えばポリエステルと水とジイソシアネートとを反応させて、架橋と同時に発泡させる常法によって製造する。またゴム製の、多孔質体のシートとしては、例えばアクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)などの合成ゴムや、あるいは天然ゴムからなる種々の多孔質体のシートを用いることができる。
【0020】かかる多孔質体のシートは、例えば未加硫のゴムと、ゴムの加硫温度以下で発泡する発泡剤とを混合し、シート状に成形したのち、加硫と同時に発泡させて製造する。また前記のように食塩などの、水溶性で、かつゴムの加硫温度でガス化しない化合物の粉末を未加硫のゴムに混合し、シート状に成形して加硫させたのち、水洗して、上記化合物の粉末をシートから溶出させることによっても製造できる。
【0021】媒体本体10を保護して、傷つきなどによる細孔模様の損壊を防止するための透明フィルム11としては、種々の材料からなる透明なフィルムが何れも使用可能である。かかる透明フィルム11としては、例えばポリプロピレンフィルム、ナイロンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、EVOH系フィルム(エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルムなど)、ポリ塩化ビニリデン系共重合樹脂フィルムなどを挙げることができる。
【0022】透明フィルム11を媒体本体10の表面にラミネートする方法としては、たとえばウエットラミネート法、ドライラミネート法、無溶剤ラミネート法、ワックスラミネート法、サーマルラミネート法などの、従来公知の種々のラミネート法が何れも適用可能である。これらのラミネート法によって、媒体本体10の表面に、透明フィルム11をラミネートする際には接着剤を用いる。接着剤としては、両者に対して接着性を有する種々の接着剤が何れも使用可能である。
【0023】かかる接着剤としては、例えば酢酸ビニル系、アクリル系、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系、ポリエステル系、ウレタン系、ポリアミド系などの各種樹脂を含み、そして上述した各ラミネート法などに応じた、水溶性タイプ、エマルジョンタイプ(以上、ウエットラミネート用)、溶剤タイプ(ドライラミネート用)、無溶剤タイプ(無溶剤ラミネート用)、ホットメルトタイプ(サーマルラミネート用)、紫外線硬化タイプ、電子線硬化タイプ等の各種タイプの接着剤を挙げることができる。
【0024】また押出成形機を用いてフィルム状に押出成形した直後の、加熱溶融状態の樹脂を、媒体本体10の表面に連続的に、積層、接着して冷却、固化させることで透明フィルム11を形成する、いわゆるエクストルージョンラミネート法によって、媒体本体10の表面に透明フィルム11をラミネートすることもできる。この場合は接着剤を省略することができる。なお図では、媒体本体10の、図において上面側の表面にのみ透明フィルム11をラミネートしているが、反対側である下面側の表面にも透明フィルム11をラミネートしてもよい。
【0025】これらの、2層もしくは3層の積層構造を有する認証媒体1は、その片面側から光を照射して、反対面に透過した透過光の、細孔模様のシルエットのパターンを読み取る透過式と、片面側から光を照射して、同じ側で、反射光の細孔模様のパターンを読み取る反射式の、いずれの方式による細孔模様の識別にも用いることができる。なお、細孔模様の識別を反射式のみで行う場合は、媒体本体10の、図において下面側の表面に、黒色などの、細孔模様を際立たせる色合いの着色フィルムをラミネートしてもよい。また着色フィルムに代えてシートや台紙などを積層してもよい。
【0026】前述した印刷や書き込みなどは、透明フィルム11の表面や、あるいは図示しない反対側の表面にラミネートする透明フィルムや着色フィルム、シート、台紙などの、前記領域10cに対応する部分に行うようにしてもよい。上記例の認証媒体1は、前述したように保険証や有価証券類(クレジットカード、デビットカード、キャッシュカードなどを含む)、各種施設の入出場管理用(スポーツイベント、映画館、劇場、博覧会、展覧会の入場券や、見本市、展示会などでの出退の管理)、交通機関の乗車券、搭乗券など、不特定多数の利用者を対象とした識別に好適に適用できる。
【0027】また認証媒体1は、例えば郵便、宅配便その他の輸送システムや、倉庫管理、企業における在庫管理、図書館における本の管理などの、各種物流システムにおける物品の識別および管理に好適に適用することもできる。
【0028】
【実施例】実施例1媒体本体10のもとになるシート状の多孔質体として、ポリプロピレン繊維からなる、長尺帯状の不織布〔旭化成(株)製の商品名エルタスP3020、厚み0.19mm、坪量11.5g/m2〕を用いた。また透明フィルム11としては、厚み200μmの、長尺帯状のポリエステルフィルムを用いた。
【0029】上記不織布の片面に、読み取り領域10bを規定する枠10aを連続的に印刷後、グラビアロールを用いて、その上に、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系の、エマルジョンタイプの接着剤を、塗布量1.0g/m2で連続的に塗布した。そして塗布直後の不織布と透明フィルム11とを、接着剤の塗布面を挟んで連続的に、一対の積層ロール間を通して積層したのち、トンネル式の乾燥機を通過させて、50℃の温風で連続的に乾燥させて2層構造の積層体を得た。
【0030】次に、得られた積層体を、縦54mm×横86mmのカード状に切り出して、認証媒体1を製造した。上記の工程を経て製造した100枚の認証媒体1の、読み取り領域10bの細孔模様のパターンを、光学式リーダで読み取って比較したところ、完全に一致するものは1枚もなかった。そしてこのことから、実施例1の認証媒体1は、人や物品を識別するのに利用できることが確認された。
【0031】実施例2不織布として、実施例1で使用したのと同じ物性を有し、なおかつ黒色に着色した繊維を0.1重量%混入させたものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、認証媒体1を製造した。製造した100枚の認証媒体1の、読み取り領域10bの細孔模様のパターンを、光学式リーダで読み取って比較したところ、完全に一致するものは1枚もなかった。また読み取り領域10bに含まれる、黒色に着色した繊維の数と分布を、やはり光学式リーダで読み取って比較したところ、完全に一致するものは1枚もなかった。
【0032】そしてこのことから、実施例2の認証媒体1は、実施例1に比べて、識別に用いる情報量を増加できることが確認された。
実施例3実施例1で製造した2層構造の認証媒体1の、透明フィルム11と反対側の表面に、厚み25μmの、黒色に着色したPETフィルムを貼り付けて3層構造の認証媒体1を製造した。
【0033】製造した100枚の認証媒体1の、読み取り領域10bの細孔模様のパターンを、透明フィルム11側から、光学式リーダで読み取って比較したところ、完全に一致するものは1枚もなかった。そしてこのことから、実施例3の構成でも細孔模様の読み取りは可能であり、人や物品を識別できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】同図(a)は、この発明の認証媒体の、実施の形態の一例を示す平面図、同図(b)は、上記例の認証媒体の、積層構造を説明する分解斜視図である。
【図2】同図(a)(b)はいずれも、認証媒体の媒体本体を形成する薄葉紙または不織布の、繊維の一部を着色した際に、当該着色した繊維の、読み取り領域での分布の状態を説明する平面図である。
【符号の説明】
1 認証媒体
10 媒体本体(薄葉紙、不織布)
11 透明フィルム
F 繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】シート状の多孔質体の細孔模様を、照合要素として用いることを特徴とする認証媒体。
【請求項2】多孔質体として薄葉紙または不織布を用い、当該薄葉紙または不織布を構成する繊維の絡み合いによって形成された細孔模様を、照合要素として用いる請求項1記載の認証媒体。
【請求項3】繊維の一部を着色した請求項2記載の認証媒体。
【請求項4】多孔質体の表面に、透明フィルムをラミネートした請求項1記載の認証媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2003−286694(P2003−286694A)
【公開日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−89508(P2002−89508)
【出願日】平成14年3月27日(2002.3.27)
【出願人】(000108306)ゼネラル株式会社 (17)
【Fターム(参考)】