説明

誘導加熱による溶融炉

【課題】加熱対象である導電性液体を非接触で良好に撹拌する。
【解決手段】導電性液体1を貯え、少なくとも周壁2aが発熱体3となっている容器2と、容器2の外に設けられ、発熱体3を誘導加熱すると共に、導電性液体1中に周方向の電流パスを発生させて導電性液体1を撹拌する上向きの電磁力Fを発生可能な加熱コイル装置4を備えている。発熱体3の内周面には、上下方向に細長く且つ電流パス10を貫通させると共に導電性液体1よりも電気伝導率と熱伝導率が高いフィン状仕切り5が周方向に間隔をあけて複数設けられている。加熱コイル装置4は仕切り間領域9に電磁力Fを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱による溶融炉に関する。更に詳しくは、本発明は、導電性液体を加熱対象とし、電磁撹拌を行いながら誘導加熱を行う溶融炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高レベル放射性廃棄物のガラス固化を行う場合、溶融ガラスに温度むらが発生するのを防止する必要がある。温度むらの発生は、溶融ガラスの粘性が高く(水の10000倍程度)、しかも熱伝導率がさほど高くない(水の10倍程度)ことに加えて、溶融ガラス中に高レベル放射性廃棄物が混じっていることに起因すると考えられている。
【0003】
溶融ガラスの温度むらを解消するためには、溶融ガラスを撹拌する必要がある。そのため、撹拌用の羽根車あるいは棒を使用して溶融ガラスをかき混ぜることが考えられている(特許文献1)。溶融ガラスの粘性は高く、撹拌用の羽根車あるいは棒には相応の強度が要求される。そのため、撹拌用の羽根車あるいは棒を金属製にする必要がある。
【0004】
また、非接触で溶融ガラスを撹拌する方法として、加熱による自然対流や電磁撹拌することが考えられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−101270号公報
【特許文献2】特開2010−37175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、溶融ガラスは通常1000℃を超える高温状態にあるので、金属製の羽根車や撹拌棒を用いることは耐久性の観点から必ずしも現実的であるとはいえない。
【0007】
また、自然対流や電磁撹拌による方法では、粘性が高く且つ熱伝導率がさほど高くない溶融ガラスに対しては常に十分な撹拌効果を得られるとはいえない。
【0008】
本発明は、加熱対象である導電性液体を非接触で良好に撹拌することができる誘導加熱による溶融炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の発明は、導電性液体を貯え、少なくとも周壁が発熱体となっている容器と、容器の外に設けられ、発熱体を誘導加熱すると共に、導電性液体中に周方向の電流パスを発生させて導電性液体を撹拌する上向きの電磁力を発生可能な加熱コイル装置を備え、発熱体の内周面には、上下方向に細長く且つ電流パスを貫通させると共に導電性液体よりも電気伝導率と熱伝導率が高いフィン状仕切りが周方向に間隔をあけて複数設けられており、加熱コイル装置は隣り合うフィン状仕切りの間の領域に電磁力を発生させるものである。
【0010】
したがって、容器に貯められた導電性液体は、加熱コイル装置によって誘導加熱された発熱体によって加熱される。加熱によって導電性液体は、発熱体に近い外周部分でより高温となって上昇し、発熱体から遠い中心部分で下降する(自然対流)。このとき、フィン状仕切りは導電性液体よりも熱伝導率が高く、誘導加熱された発熱体の外周部分から熱伝導で供給された熱によって導電性液体を加熱する。発熱体には複数のフィン状仕切りが周方向に間隔をあけて設けられており、フィン状仕切りとフィン状仕切りの間の領域(仕切り間領域)で導電性液体が最も高温となるので、導電性液体の上昇流は主に仕切り間領域に発生する。各仕切り間領域は容器周壁(発熱体)とフィン状仕切りとで三方を囲まれた謂わば煙突状の上昇パスであり、導電性液体の自然対流の上昇流をスムーズに上へと導く。
【0011】
また、加熱コイル装置は仕切り間領域に導電性液体を撹拌する上向きの電磁力を発生させる(電磁撹拌)。仕切り間領域には誘導加熱による上昇流が生じているので、この上昇流の方向と電磁撹拌による電磁力の方向とが一致することになり、導電性液体の容器内での循環が促進される。このとき、導電性液体の中に発生する周方向の電流パスは各フィン状仕切りを貫通する。フィン状仕切りは導電性液体よりも電気伝導率が高いので、フィン状仕切りが無い場合と比べると電流パスの電流密度が高くなり、発生する電磁力がより大きくなる。
【0012】
導電性液体を加熱する際、最初から電磁撹拌を行うようにしても良いが、最初は誘導加熱のみを行い、ある程度加熱が進んだ後に電磁撹拌を併用するようにしても良い。
【0013】
また、請求項2記載の誘導加熱による溶融炉は、導電性液体が高レベル放射性廃液とガラスとの混合体である。例えば、最初に発熱体を誘導加熱し、発熱体の熱で容器内の混合体を加熱する。混合体中のガラスは固体の状態では絶縁体であるが、高温の溶融状態になると導電性を有し、電磁撹拌が可能になる。発熱体による加熱で混合体中のガラスが溶融し導電性物質となった後、加熱コイル装置によって上向きの電磁力を発生させて電磁撹拌する。このように、高レベル放射性廃棄物のガラス固化に使用することができる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の誘導加熱による溶融炉では、発熱体の内周面に複数のフィン状仕切りを設けているので、誘導加熱される発熱体によって仕切り間領域をより集中的に加熱することができ、導電性液体の外周部分(仕切り間領域)と仕切り間領域よりも内側の中心部分との温度差をより大きくすることができる。そのため、導電性液体を誘導加熱することで生じる自然対流を促進することができる。また、各仕切り間領域は上昇流を上方へとスムーズに導く上昇パスであり、この点からも自然対流を促進することができる。さらに、加熱コイル装置は自然対流の上昇流中に上向きの電磁力を発生させるので、電磁撹拌によって導電性液体の容器内での循環を促進することができる。しかも、電磁撹拌を行うために導電性液体中に発生する周方向の電流パスを電気伝導率の高いフィン状仕切りに貫通させることで電流パスの電流密度を増加させることができるので、発生する電磁力がより強くなり、電磁撹拌による導電性液体の容器内循環をより促進させることができる。これらの結果、導電性液体をより良好に循環させることができ、たとえ導電性液体の粘性が大きい場合であってもより確実に撹拌することができる。即ち、導電性液体中に挿入して使用する羽根車や撹拌棒等の機械的な撹拌装置を使わずに、導電性液体をより確実に撹拌することができる。
【0015】
また、請求項2記載の誘導加熱による溶融炉では、まず最初に発熱体を誘導加熱し、発熱体の熱で容器内の混合体を加熱し、混合体中のガラスが溶融ガラスとなった後に電磁力を発生させることで、混合体を撹拌しながら加熱することができる。また、混合体の粘性が高い場合であっても、混合体の撹拌をより確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のガラス溶融炉の実施形態の一例を示す断面図である。
【図2】発熱体(容器の周壁)の平面図である。
【図3】フィン状仕切りの形状を示し、(A)は断面形状が矩形状を成す場合の断面図、(B)は横断面形状が三角形状を成す場合の断面図である。
【図4】加熱コイル装置を示し、第1の加熱工程(誘導加熱)における磁力線の発生の様子を示す断面図である。
【図5】加熱コイル装置を示し、第2の加熱工程(誘導加熱+電磁撹拌)における磁力線の発生の様子を示す断面図である。
【図6】加熱コイルである三相交流コイルを説明するための図で、各位相の相対な関係を示す図である。
【図7】溶融炉の作動を示すフローチャートである。
【図8】本発明のガラス溶融炉の他の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1〜図5に本発明の誘導加熱による溶融炉の実施形態の一例を示す。この溶融炉は、導電性液体1を貯え、少なくとも周壁2aが発熱体3となっている容器2と、容器2の外に設けられ、発熱体3を誘導加熱すると共に、導電性液体1中に周方向の電流パス10を発生させて導電性液体1を撹拌する上向きの電磁力Fを発生可能な加熱コイル装置4を備えるものである。
【0019】
本実施形態では、誘導加熱による溶融炉として、高レベル放射性廃液をガラス固化するのに使用されるガラス溶融炉を例に説明する。ただし、ガラス溶融炉以外の溶融炉に適用しても良い。高レベル放射性廃液をガラス固化するガラス溶融炉では、導電性液体1は高レベル放射性廃液とガラスとの混合体(以下、混合体1という)である。ガラスは容器2に入れる時点では固体であり、その後容器2内での加熱によって溶融される。ただし、容器2に入れる時点で既に液体の溶融ガラスを容器2に入れるようにしても良い。高レベル放射性廃液には、例えばルテニウム、パラジウム等の白金族粒子等の金属粒子が含まれている。
【0020】
本実施形態の容器2は容器本体2bと蓋2cより構成され、容器本体2b全体を発熱体3によって形成している。ただし、必ずしも容器本体2b全体を発熱体3によって形成する必要はなく、少なくとも周壁2aを発熱体3によって形成すれば足りる。少なくもと周壁2aを発熱体3によって形成することで混合体1の加熱が可能である。
【0021】
容器本体2bは、混合体1を誘導加熱する高温に耐え、混合体1によって腐食されない材料(構造材としての条件を備える材料)を使用して形成されている。また、本実施形態では容器本体2b自体を発熱体にしているので、加熱コイル装置4によって誘導加熱される材料(発熱体としての条件を備える材料)で形成されている。さらに、容器本体2bの内周面にフィン状仕切り5を一体形成するので、混合体1の電気伝導率よりも電気伝導率及び熱伝導率が大きく且つ電流パス10を貫通させることが可能な材料(フィン状仕切りとしての条件を備える材料)で形成されている。これらの条件(構造材としての条件,発熱体としての条件,フィン状仕切りとしての条件)を全て満たす材料としては、例えばクロム−鉄合金,インコネル,導電性セラミックス等の使用が可能である。
【0022】
容器本体2bは、例えば有底の円筒形状を成している。ただし、容器本体2bの形状は有底の円筒形状に限るものではない。容器本体2bの厚さは加熱コイル装置4が発生させた磁場が通り抜け可能な厚さとなっている。具体的には、例えば30mm程度にするのが好ましい。また、容器本体2bの内周面に混合体1による腐食を防止する保護層を設けても良い。保護層は例えば厚さ数mmのセラミックのコーティング層である。ただし、保護層はセラミックコーティング層に限るものではなく、また、厚さは数mmに限るものではない。
【0023】
蓋2cは、混合体1を誘導加熱する高温に耐え、混合体1によって腐食されない材料を使用して形成されている。この様な材料としては、例えば耐火れんが、セラミック等の耐熱材の使用が可能である。ただし、使用可能な材料はこれらに限るものではない。蓋2cには高レベル放射性廃液とガラスとの混合体1を導入する供給口6と排ガスを逃がす排ガス口7が設けられている。蓋2cによって容器本体2bの上を塞ぐことで放熱を防ぐことができ、容器2内の温度低下を防止することができると共に、容器2内の温度管理が容易になる。ただし、必ずしも蓋2cを設けて上部を開閉可能にする必要はなく、例えば上述の供給口6や排ガス口7を設ける場合等には蓋2cの代わりに天板等によって容器2の開口を塞ぐようにしても良い。また、容器2内の温度管理が不要等の場合には、蓋2cや天板等を設けなくても良い。
【0024】
本実施形態の容器本体2bの底板2bには流下ノズル8が設けられている。流下ノズル8には、図示しないバルブが設けられている。バルブを開き、流下ノズル8から溶湯(溶融させた混合体1)を排出することができる。流下ノズル8の下方には、図示しないガラス固化容器(キャニスター)が置かれる。
【0025】
発熱体3の内周面、即ち容器本体2bの周壁2aの内側面には、上下方向に細長く且つ電流パス10を貫通させると共に導電性液体よりも電気伝導率及び熱伝導率が高いフィン状仕切り5が周方向に間隔をあけて複数設けられている。フィン状仕切り5は発熱体3の内周面に一体形成されており、例えば別個に形成したフィン状仕切りを周壁1aの内側面に接合する場合のように接触熱抵抗を発生させることがない。
【0026】
また、本実施形態では、フィン状仕切り5を周方向に等間隔で形成している。ただし、必ずしも全てのフィン状仕切り5を等間隔に形成する必要はない。
【0027】
フィン状仕切り5の形状は、例えば混合体1の加熱、製造の容易性、混合体1の流動抵抗、容器本体2bの大きさ等を考慮して適宜決定される。例えば、図3(A)に示すように板形状(横断面形状:矩形)としても良く、図3(B)に示すように楔形状(横断面形状:三角形)としても良いが、これらに限られない。
【0028】
また、フィン状仕切り5の厚さも、例えば混合体1の加熱、製造の容易性、混合体1の流動抵抗、容器本体2bの大きさ等を考慮して適宜決定される。例えば、製造の容易性の観点からは容器本体2bの厚さと同じにすることが好ましいが、これに限られない。
【0029】
また、フィン状仕切り5の突出量(周壁2aからの突出距離)も、例えば磁場浸透厚さ、混合体1の加熱、製造の容易性、混合体1の流動抵抗、容器本体2bの大きさ等を考慮して適宜決定される。例えば、混合体1の流動抵抗を考慮すると、突出量は容器本体2bの直径の2割前後が好ましいが、これに限られない。
【0030】
また、フィン状仕切り5の枚数も、例えば混合体1の加熱、製造の容易性、混合体1の流動抵抗、容器本体2bの厚さや直径等を考慮して適宜決定される。例えば、容器本体2bの厚さや直径を考慮すると、枚数は例えば数枚〜数十枚が好ましく、より好ましくは、8〜16枚である。ただし、フィン状仕切り5の枚数はこれらに限られない。
【0031】
フィン状仕切り5は、少なくとも混合体1の液面よりも低い位置に設けておくことが好ましい。本実施形態では、発熱体3(周壁2a)の内周面の全長にわたってフィン状仕切り5が設けられている。ただし、必ずしもフィン状仕切り5を内周面の全長にわたって設ける必要はなく、例えば混合体1の加熱、製造の容易性、混合体1の上昇流路としての機能等を考慮して適宜決定される。
【0032】
フィン状仕切り5の電気伝導率は混合体1の電気伝導率よりも高いので、フィン状仕切り5を設けることで、導電性液体中に発生する周方向の電流パス10の実効的な電気伝導率を増加させることができる。実効的な電気伝導率は数式1の調和平均の式によって表される。ここで、添字のhは発熱体3、gはガラスを表し、fは電流パス10上の発熱体3(フィン状仕切り5)が占める長さの割合、σとσは各々発熱体3とガラスの電気伝導率である。
【0033】
【数1】

【0034】
なお、本実施形態では、実効的な電気伝導率の算出にガラスの電気伝導率σを使用しているが、混合体1の電気伝導率がわかる場合等にはガラスの電気伝導率σに代えて混合体1の電気伝導率を使用することが好ましい。ただし、一般的には混合体1の電気伝導率の正確な値は不明であり、また、混合体1におけるガラスの体積割合は高レベル放射性廃棄物の体積割合よりも大きく、かつガラスの電気伝導率は高レベル放射性廃棄物より小さいので、混合体1の電気伝導率はガラスの電気伝導率と大差ないと考えられるため、本実施形態のようにガラスの電気伝導率σを使用しても支障はない。
【0035】
例えば、直径(外径):400mm、厚さ:30mmの容器本体2b(発熱体3)の内周面に、厚さ:30mm、長さ80mmの板状のフィン状仕切り5を12枚設けた場合、fは約0.34となり、また、σとσはそれぞれ10〜10S/m,10S/m程度であるので、実効的な電気伝導率は50%程度増加する。これにより、発生する電磁力Fも50%程度増加する。
【0036】
フィン状仕切り5を設けることで、伝熱面積の増加によって伝熱を促進するという一般的な効果のほか、本発明では以下の効果もある。それらのため、混合体1の自然対流と電磁撹拌が促進される。
(1)フィン状仕切り5を設けていない場合に比べて、隣り合うフィン状仕切り5で挟まれた領域(仕切り間領域9)の混合体1の温度が高くなり、しかも仕切り間領域9は明確な自然対流のパスを形成するので、自然対流が促進される。
(2)フィン状仕切り5を設けていない場合に比べて、フィン状仕切り5を通過する周方向の電流密度に対する実効的な電気伝導率が増加するので、仕切り間領域9の混合体1に対する直接的な誘導加熱量が増加するとともに、この領域9の電磁撹拌が促進される。
【0037】
加熱コイル装置4は、発熱体を誘導加熱する電磁場を発生させる誘導加熱コイルであり、発熱体3を誘導加熱でき、且つ後述するようにフィン状仕切り5を貫通する電流パス10を発生させると共に隣り合うフィン状仕切り5の間の領域(仕切り間領域9)に上向きの電磁力Fを発生させることができる位置、本実施形態では容器本体2bの周壁2aの外側に設けられている。加熱コイル装置4と周壁2aとの間には隙間が設けられている。加熱コイル装置4は例えば空冷コイルである。ただし、空冷コイルに限るものではなく、水等の冷媒によって冷却されるコイルであっても良い。
【0038】
また、加熱コイル装置4は、仕切り間領域9に混合体1を撹拌する電磁力Fを発生させる電磁力発生手段としても使用される。そのため、加熱コイル装置4としての誘導加熱コイルは移動磁界の発生に適した三相交流コイルを使用している。
【0039】
加熱コイル装置4を図4及び図5に示す。加熱コイル装置4は周壁2aを囲むように設けられている。加熱コイル装置4である三相交流コイルは、A−X,B−Y,C−Zの組み合わせで各コイル4aがそれぞれペアとなって結線され、A,B,Cのコイル4aは巻き方向が同一であり、X,Y,Zのコイル4aは巻き方向が同一であり、A,B,Cのコイル4aとX,Y,Zのコイル4aの巻き方向は逆になっている。ここで、(磁場の強さ)=(巻き数)×(電流)の条件を見たすように、巻き数Nが決められる。また、各コイル4aに流す電流Iは、(電流)=(電圧)÷(インピーダンス)から求められる。
【0040】
各コイル4aは容器2の軸方向上側に向けてA→Z→B→X→C→Y→A→…→Yの順番に配置され、各コイル4aの位相差は60度となっている。例えば図6に示すように、Aが0度のとき、Zが60度、Bが120度、Xが180度、Cが240度、Yが300度である。各コイル4aに図示しない電源回路より電磁力発生用の三相交流の電流(撹拌用三相交流電流)が供給されると、例えば図5に矢印で示すように、コイル4aの周囲に磁力線Bが容器2の周壁2aを貫通して混合体1に達するように生じて、各コイル4aに流れる電流の変化によって容器2の軸方向上向きの移動磁界が形成される。即ち、各コイル4aは移動磁界の移動方向が上向きになるように結線されている。これにより、詳しくは後述するように、電磁力Fの方向と加熱による自然対流の方向とを一致させる。
【0041】
加熱コイル装置4によって上向きの移動磁界を形成することで、仕切り間領域9内の混合体1、即ち磁力線Bが径方向に貫通する位置に円周方向に流れる電流が発生する。この電流パス10は各フィン状仕切り5を貫通する。例えば、図5のP1位置では同図の奥側から手前側に向かう電流パス10が、P2位置では同図の手前側から奥側に向かう電流パス10が発生する。移動磁界と混合体1中に生じる電流とによってフレミングの左手の法則から上向きの電磁力Fが発生する。混合体1中に発生する電流パス10は場所によって方向が逆になるが、A,B,Cのコイル4aとX,Y,Zのコイル4aの巻き方向も逆になっているので、常に上向きの電磁力Fが発生する。この電磁力Fは仕切り間領域9に発生し、仕切り間領域9内の混合体1を上向きに駆動する。
【0042】
本実施形態では、混合体1の誘導加熱には単相交流電流が使用され、混合体1を撹拌する(電磁撹拌)ための電磁力Fを発生させる場合には三相交流電流が使用される。誘導加熱に単相交流電流ではなく三相交流電流を使用しても良いが、三相交流電流を使用すると溶融前の固体状態の混合体1に電磁力Fが作用してこれを動かすことになるので、このような現象の発生を防ぐために本実施形態では誘導加熱に単相交流電流を使用する。単相交流電流については、A,B,Zのコイル4a、X,Y,Cのコイル4aがそれぞれ同相になる。誘導加熱と電磁撹拌の両方を同時に行なう場合には、誘導加熱用の単相交流電流(加熱用交流電流)に撹拌用三相交流電流が重畳されて加熱コイル装置4に供給される。
【0043】
単相交流電流による誘導加熱では、磁場Bの時間変化によって混合体1内に電場(起電力E)と電流密度Jが発生して、これらの内積J・Eが単位体積・単位時間における発熱量になる。また、三相交流電流による電磁撹拌では、磁場Bの時間変化によって混合体1内に起電力Eと電流密度Jが発生して、外積J×Bが電磁力Fとなって混合体1を撹拌する。なお、単相交流電流でも電磁力(J×B)が生じるが、隣接する電磁力は互いに逆向きになるので、局所的な電磁撹拌にはなるが、三相交流電流による電磁撹拌のような広域的な電磁撹拌にはならない。
【0044】
次に、溶融炉の作動を図7に基づいて説明する。
【0045】
流下ノズル8のバルブ(図示せず)を閉じた状態で、固形ガラスと高レベル放射性廃液の混合体1を供給口6から容器2内に入れる(ステップS21)。ただし、ガラスについては溶融状態のものを入れるようにしても良い。この場合には第1の加熱工程を省略することも可能である。なお、必ずしも同じ供給口6から固形ガラスと高レベル放射性廃液の両方を入れる必要はなく、ガラス用の供給口と高レベル放射性廃液用の供給口を別々に設けてガラスと高レベル放射性廃液とを別々に入れても良い。
【0046】
容器2内に固形ガラスと高レベル放射性廃液の混合体1を入れた後、加熱コイル装置4によって発熱体3を誘導加熱する(第1の加熱工程:ステップS22)。例えば5kHz程度の周波数の単相交流電流を使用して発熱体3を例えば1000℃程度まで加熱する。この加熱によって混合体1中の固形ガラスが加熱されて溶融し、導電性の溶融ガラスとなる。なお、第1の加熱工程で混合体(導電性液体)1を加熱する温度は必ずしも1000℃程度に限るものではなく、加熱対象の導電性液体の種類等に応じて適宜決定される。
【0047】
固形ガラスが溶融し、導電性を有した後、加熱コイル装置4によって発熱体3を誘導加熱しながら混合体1を電磁撹拌する(第2の加熱工程:ステップS23)。即ち、加熱コイル装置4に誘導加熱用の単相交流電流を供給すると同時に、電磁撹拌用の三相交流電流を重畳して供給する。例えば100Hzオーダーの三相交流電流を供給する。この第2の加熱工程での誘導加熱の周波数をやや下げて(例えば1kHz程度)、発熱体3と溶融ガラスの両方を加熱する場合がある。これにより、発熱体3の温度上昇を抑えつつ、ガラスの直接加熱も行うことが可能になる。なお、本実施形態では導電性液体がガラスの混合体1であるため、電磁撹拌用の三相交流電流として例えば100Hzオーダーの三相交流電流を供給しているが、電磁撹拌用の三相交流電流の周波数としては100Hzオーダーに限るものではなく、導電性液体の種類等に応じて適宜決定する。例えば、導電性液体が液体金属の場合には、例えば50Hz,60Hz等の商用周波数の三相交流電流の使用が可能である。仕切り間領域9に電磁力Fを発生させることができる周波数であれば良い。
【0048】
発熱体3によって加熱された、あるいは誘導加熱によって直接加熱された混合体1は、発熱体3に近い外周部分でより高温となって上昇し、液面近くで反転して発熱体3から遠い中心部分で下降し、その後、底部近くで反転して発熱体3付近を上昇する(自然対流)。このとき、フィン状仕切り5は混合体1よりも熱伝導率が高く、誘導加熱された発熱体3の外周部分から熱伝導で供給された熱によって混合体1を加熱する。発熱体3には複数のフィン状仕切り5が周方向に間隔をあけて設けられており、フィン状仕切り5とフィン状仕切り5の間の領域(仕切り間領域9)で混合体1の温度が最も高くなるので、混合体1の上昇流は主に仕切り間領域9に発生する。各仕切り間領域9は容器2の周壁2a(発熱体3)とフィン状仕切り5,5とで三方を囲まれた謂わば煙突状の上昇パスであり、混合体1の自然対流による上昇流をスムーズに上へと導くことができる。また、発熱体3の内周面にフィン状仕切り5を設けることで、仕切り間領域9をより集中的に加熱することができ、仕切り間領域9と仕切り間領域9よりも内側の中心部分との温度差がより大きくなる。これらにより、混合体1の自然対流による容器2内循環がより強くてスムーズなものとなる。
【0049】
また、加熱コイル装置4は、仕切り間領域9に自然対流と同じ上向きの電磁力Fを発生させるので、この電磁力Fによって混合体1の循環が促進される。この電磁撹拌で生じる周方向の電流パス10は各フィン状仕切り5を貫通する。フィン状仕切り5は混合体1よりも電気伝導率が高いので、フィン状仕切り5が無い場合と比べると電流パス10の実効的な電流密度が高くなり、発生する電磁力Fがより大きくなる。したがって、より大きな電磁力Fによって混合体1をその自然対流と同じ方向に駆動することができる。
【0050】
このように本発明では、発熱体3の内周面にフィン状仕切り5を設けることで誘導加熱による混合体1の自然対流を促進でき、しかも自然対流を補助する電磁撹拌の電磁力Fをより大きくすることができるので、混合体1をより良好に循環させることができ、たとえ混合体1の粘性が大きい場合であってもより確実に撹拌することができる。即ち、混合体1中に挿入して使用する羽根車や撹拌棒等の機械的な撹拌装置を使わずに、粘性の大きな混合体1をより確実に撹拌することができる。
【0051】
混合体1をより確実に撹拌できるので、混合体1全体をより均一に加熱することができ、温度むらの発生を防止することができる。
【0052】
また、発熱体3にフィン状仕切り5を設けることで、混合体1をより広い面積で加熱することができ、混合体1全体をより均一に加熱することができる。この点からも混合体1の温度むらの発生を防止することができる。
【0053】
その後、流下ノズル8のバルブを開くと、容器2内の混合体1が流下ノズル8から排出されてガラス固化容器(キャニスター)に充填される(ステップS24)。混合体1中には例えばルテニウム、パラジウム等の白金族粒子等の金属粒子が分散されているので、金属粒子も一緒にガラス固化容器内に充填される。混合体1は加熱コイル装置4によって均一に加熱されており、温度むらがないので、混合体1を流下ノズル8からガラス固化容器にスムーズに充填することができる。このとき、加熱コイル装置4を停止させてから混合体1が冷めないうちに流下ノズル8から排出しても良いし、加熱コイル装置4を作動させたままの状態で混合体1を流下ノズル8から排出しても良い。
【0054】
なお、加熱によって混合体1中の高レベル放射性廃液の液体成分は一部抜けることがあるものの、必ずしも液体成分の蒸発(脱硝)まで行うことは想定していない。溶融炉が行う誘導加熱は通常は急速な加熱であって突沸現象を伴うからであり、液体成分の蒸発(脱硝)を行う場合には、例えばロータリーキルン等の装置を使用して前処理として行っておくことが好ましい。
【0055】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0056】
例えば、上述の説明では、発熱体3(容器2)の周壁2aのみを誘導加熱するようにしていたが、容器2の底板も発熱体3である場合には、底板も誘導加熱するようにしても良い。
【0057】
また、上述の説明では、誘導加熱の途中から電磁撹拌を行うようにしていたが、例えば加熱対象の導電性液体1が最初の状態から導電性を有している場合等には、最初から電磁撹拌を行うようしても良い。
【0058】
また、上述の説明では、誘導加熱の途中から電磁撹拌を行うようにしていたが、例えば加熱対象の導電性液体1が粘性の低いものである場合等には、電磁撹拌を行わなくても良い。
【0059】
さらに、上述の説明では、導電性液体1として高レベル放射性廃液とガラスの混合体1を例にしていたが、加熱の対象としてはこれに限るものではなく、導電性を有し電磁撹拌可能な流体であれば特に限定されるものではない。例えば、鉄やアルミ等の金属、非金属であってもある程度電気伝導率があるものや例えばガラスのように温度の上昇とともに電気伝導率が大きくなるものを加熱の対象にしても良い。また、例えば鉄やアルミ等の金属の溶融や精錬で、できるだけ均一な加熱が必要な場合、導電性液体1中に不純物を一様に分布させたい場合(例えば特定の不純物を混ぜて材料の機械的強度を増大させる場合など)等の使用に適している。
【0060】
また、上述の説明では、発熱体3によって容器本体2bを形成することで、容器2の周壁2aを発熱体3にしていたが、必ずしもこの構成に限るものではなく、例えば図8に示すように、別部材である発熱体3を容器本体2bの周壁2aの内周面に取り付けることで、容器2の周壁を発熱体3にしても良い。この場合、発熱体3は、例えば炭化ケイ素、二ケイ化モリブデン等によって形成されている。ただし、発熱体3の材料はこれらに限るものではなく、例えばインコネル等の金属でも良く、その他のものでも良い。また、容器本体2bは、例えば耐火れんが、セラミック等の耐熱材によって形成されている。ただし、容器本体2bの材料はこれらに限るものではない。発熱体3を含めた周壁の厚さは、加熱コイル装置4が発生させた磁場が通り抜け可能な厚さとなっている。また、発熱体3の内周面に保護層を設けても良い。
【0061】
また、上述の説明では、容器本体2bとして溶湯を排出する流下ノズル8を備えるものを使用していたが、流下ノズル8を備えていない容器本体2bを使用しても良い。流下ノズル8を備えていない容器本体2bを使用する場合には、例えば容器本体2bごとガラス固化容器に入れることが考えられる。即ち、容器本体2bとして、使い捨てタイプのものを使用しても良く、この場合には汚染された容器本体2bも溶湯と一緒に廃棄することが可能になる。
【符号の説明】
【0062】
1 混合体(導電性液体)
2 容器
2a 容器の周壁
3 発熱体
4 加熱コイル装置
5 フィン状仕切り
9 仕切り間領域
10 電流パス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性液体を貯え、少なくとも周壁が発熱体となっている容器と、前記容器の外に設けられ、前記発熱体を誘導加熱すると共に、前記導電性液体中に周方向の電流パスを発生させて前記導電性液体を撹拌する上向きの電磁力を発生可能な加熱コイル装置を備え、前記発熱体の内周面には、上下方向に細長く且つ前記電流パスを貫通させると共に前記導電性液体よりも電気伝導率と熱伝導率が高いフィン状仕切りが周方向に間隔をあけて複数設けられており、前記加熱コイル装置は隣り合う前記フィン状仕切りの間の領域に前記電磁力を発生させることを特徴とする誘導加熱による溶融炉。
【請求項2】
前記導電性液体は、高レベル放射性廃液とガラスとの混合体であることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱による溶融炉。

【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−32357(P2012−32357A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174279(P2010−174279)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】