説明

誘導加熱装置,定着装置および画像形成装置

【課題】小サイズの用紙を連続通紙した場合でも,部分的な過昇温が発生せず,安定した定着性能を有するとともに、発熱効率のよい誘導加熱装置,定着装置および画像形成装置を提供する。
【解決手段】定着装置1は,加熱ローラ51と,加圧ローラ12と,加熱ローラ51に磁束を印加する磁束発生部13とを有するものであって,加熱ローラ51が,磁束発生部13に近い方から順に,第1導電層(主発熱体層)と第2導電層(発熱制御層)と第3導電層(補助発熱層)とを有し,第1導電層と第2導電層とが磁性材で構成され,第2導電層のキュリー温度が,第1導電層のキュリー温度よりも低く,第3導電層が,第1導電層と第2導電層とのいずれよりも常温で低透磁率である素材で構成されており,第1導電層は回転体であり,第2導電層および第3導電層は固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,コピー機,プリンタ等の画像形成装置およびそれに用いられる定着装置,あ
るいは誘導加熱装置に関する。さらに詳細には,電磁誘導加熱を利用した誘導加熱装置,
定着装置および画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より,画像形成装置の定着装置等において,電磁誘導加熱方式による誘導加熱装置
を有するものがある。電磁誘導加熱方式の加熱装置は一般に,誘導発熱体と,その誘導発
熱体に磁束を印加する励磁部とを有する。誘導発熱体は,例えば無端ベルト状の導電体,
より望ましくは,磁性導電体である。励磁部は,例えば励磁コイルとコア等を有し,高周
波の交番電圧が印加されることによって磁束を発生させるものである。その磁束によって
誘導発熱体に渦電流を生じさせる。これにより,誘導発熱体は,電気抵抗によるジュール
熱を発生する。
【0003】
画像形成装置には様々なサイズの用紙が通紙される。定着装置は,その幅方向(通紙方
向に垂直な方向)のうち,実際に通紙された部分では用紙に熱を奪われて温度が低下する
が,通紙されなかった部分は熱を奪われないのであまり温度が低下しない。すなわち,加
熱ローラの幅のうち,用紙幅より外側の部分は用紙による温度低下が起きない。次回の用
紙の定着のために,その状態から再び加熱されると,温度低下しなかった部分もさらに昇
温する。そのため,比較的小サイズの用紙が連続して通紙された場合には,誘導発熱体の
うちその用紙の通紙領域外の部分が過昇温するおそれがあった。
【0004】
これに対し,特許文献1には,定着温度よりやや高い温度をキュリー温度とした磁性材
料によるパイプまたはフィルムを用いた定着装置が開示されている。さらに,そのパイプ
等の外側に励磁部が,内側にそのパイプ等より電気抵抗率の低い非磁性材料が,それぞれ
配置されている。この文献に記載の装置によれば,キュリー温度以上に昇温した部分では
,そのパイプ等が非磁性体となる。そして,誘導電流が電気抵抗率の低い非磁性材料を流
れるので,その部分の発熱量は小さくなるとされている。
【0005】
あるいは,特許文献2には,発熱体である定着ベルトが回転可能に保持され,その外側
に励磁部が配置されている定着装置が開示されている。さらに,本文献の定着装置では,
定着ベルトの内部に隙間を開けて対向コアが固定されている。この対向コアはキュリー点
190℃のフェライトで形成されている。この文献によれば,定着ベルトの温度が上昇し
てキュリー点より高くなった箇所では,対向コアの透磁率が低下するので,発熱量が低下
する。従って,過昇温が防止されているとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3900692号公報
【特許文献2】再公表特許WO2004/063819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,前記した両文献に記載の定着装置には,以下のような問題点があった。
例えば,特許文献1に記載の技術では,主な発熱体が定着温度よりやや高い温度をキュリ
ー温度とした磁性材料のみである。そのため,過昇温を防止する機能を有する代わりに,
通常の温度範囲における発熱効率が不十分であった。そのため,例えばウォームアップ時
間が長いという問題点があった。
【0008】
また,過昇温を効果的に防止するには,キュリー温度を設定した部材の温度が,定着ベ
ルト等の表面温度に応じて感度よく変化する必要がある。しかし,特許文献2に記載の装
置では,対向コアと定着ベルトとの間に間隔があいているので,これらの間での熱伝導に
やや時間がかかる。そのため,対向コアがキュリー温度を超える前に,外側の定着ベルト
のみが過昇温してしまうおそれがあった。
【0009】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。
すなわちその課題とするところは,小サイズの用紙を連続通紙した場合でも,部分的な過
昇温が発生せず,安定した定着性能を有するとともに発熱効率のよい誘導加熱装置,定着
装置および画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の誘導加熱装置は,発熱体と,発熱体に磁
束を印加する励磁コイルとを有する誘導加熱装置であって,発熱体が,励磁コイルに近い
方から順に,第1導電層と第2導電層と第3導電層とを有し,第1導電層と第2導電層と
が磁性材で構成され,第2導電層のキュリー温度が,第1導電層のキュリー温度よりも低
く,第3導電層が,第1導電層と第2導電層とのいずれよりも常温で低透磁率である素材
で構成されており,第1導電層は回転体であり,第2導電層および第3導電層は装置内に
固定して設けられているものである。
【0011】
本発明の誘導加熱装置によれば,常温においては,磁性体である第1導電層と第2導電
層とが主に発熱する。第3導電層は,常温においては第1導電層および第2導電層よりも
低透磁率であり,励磁コイルから遠い側に配置されているので,あまり発熱しない。発熱
体のうち励磁コイルに近い側に加熱対象を配置すれば,加熱対象は,第1導電層と第2導
電層とによる熱によって効率よく加熱される。さらに,第2導電層のキュリー温度が,第
1導電層のキュリー温度よりも低い。従って,加熱対象により近い第1導電層としては,
キュリー温度等に関係なく,常温での発熱効率のよい材質を選択することができる。
【0012】
そして,この第2導電層のキュリー温度を,この装置の目標とする加熱温度よりやや高
い温度とすれば,過昇温状態となった部分では第2導電層の透磁率が変化し,それによっ
て磁束密度分布も変化する。一方,さほど高温状態とはなっていない部分では,磁束密度
はほとんど変化しない。従って,低温部分はさらに昇温されるとともに,高温部分では発
熱量が低下する。なお,キュリー温度の調整は,金属の種類や,パーマロイ等の合金の場
合ではその成分比の選択によって可能である。
【0013】
過昇温箇所では,第1導電層または第2導電層の透磁率が低下することにより,第1導
電層と第2導電層とを貫いて第3導電層に到達する磁束が増える。ここで本発明では,第
3導電層があるので,ここで発生する渦電流による逆起電力が,第1導電層と第2導電層
の磁束密度をさらに減少させる方向に働く。さらに,第1導電層が回転体であり,第2導
電層および第3導電層は装置内に固定して設けられているので,被加熱部材に接触する部
分の熱容量を小さく形成できる。従って,短時間でのウォームアップが可能である。これ
により,小サイズの用紙を連続通紙した場合でも,部分的な過昇温が発生せず,安定した
定着性能を有するとともに発熱効率のよい誘導加熱装置となっている。
【0014】
さらに本発明では,第1導電層がニッケルで形成されており,第2導電層が,パーマロ
イで形成されていることが望ましい。
ニッケルは透磁率が高く,発熱体として適している。また,パーマロイ(鉄−ニッケル
合金)は透磁率が高く,ヒステリシス損失が小さい材質である。第2導電層がパーマロイ
で形成されていれば,適切なキュリー温度と高い発熱効率を有する加熱装置とすることが
できる。
【0015】
さらに本発明では,第3導電層の体積抵抗率が5.0×10-8Ωm以下であることが望
ましい。
このようなものであれば,第3導電層の体積抵抗率が小さいので,第3導電層に磁束が
かかって渦電流が流れてもその発熱量は小さい。
【0016】
さらに本発明では,第2導電層のキュリー温度が150〜220℃の範囲内であること
が望ましい。
このようなものであれば,定着装置に適している。
【0017】
また本発明は,加熱ローラと,加圧ローラと,加熱ローラに磁束を印加する励磁コイル
とを有する定着装置であって,加熱ローラが,励磁コイルに近い方から順に,第1導電層
と第2導電層と第3導電層とを有し,第1導電層と第2導電層とが磁性材で構成され,第
2導電層のキュリー温度が,第1導電層のキュリー温度よりも低く,第3導電層が,第1
導電層と第2導電層とのいずれよりも常温で低透磁率である素材で構成されており,第1
導電層は回転体であり,第2導電層および第3導電層は装置内に固定して設けられている
ものにも及ぶ。
【0018】
また本発明は,シートにトナー像を形成する画像形成部と,そのトナー像をシートに定
着させる定着装置とを有する画像形成装置であって,定着装置が,加熱ローラと,加圧ロ
ーラと,加熱ローラに磁束を印加する励磁コイルとを有し,加熱ローラが,励磁コイルに
近い方から順に,第1導電層と第2導電層と第3導電層とを有し,第1導電層と第2導電
層とが磁性材で構成され,第2導電層のキュリー温度が,第1導電層のキュリー温度より
も低く,第3導電層が,第1導電層と第2導電層とのいずれよりも常温で低透磁率である
素材で構成されており,第1導電層は回転体であり,第2導電層および第3導電層は装置
内に固定して設けられているものにも及ぶ。
【発明の効果】
【0019】
本発明の誘導加熱装置,定着装置および画像形成装置によれば,小サイズの用紙を連続
通紙した場合でも,部分的な過昇温が発生せず,安定した定着性能を有するとともに発熱
効率がよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【図2】本形態に係る定着装置の概略構成図である。
【図3】定着ローラの層構成を示す説明図である。
【図4】加圧ローラの層構成を示す説明図である。
【図5】キュリー温度到達の前後での発熱率の変化を示すグラフ図である。
【図6】キュリー温度到達の前後での発熱効率の変化を示すグラフ図である。
【図7】第1導電層と第3導電層との材質と発熱効率との関係を示すグラフ図である。
【図8】第2導電層と第3導電層との体積抵抗率と発熱効率との関係を示すグラフ図である。
【図9】第2導電層と第3導電層との体積抵抗率とキュリー温度到達の前後での発熱率の変化との関係を示すグラフ図である。
【図10】第2導電層と第3導電層との比透磁率とキュリー温度到達の前後での発熱率の変化との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する
。本形態は,電磁誘導加熱方式の定着装置を有する画像形成装置に本発明を適用したもの
である。
【0022】
本形態の画像形成装置100は,図1に概略構成を示すように,中間転写ベルト101
を有する,いわゆるタンデム方式のカラープリンタである。中間転写ベルト101は,無
端状ベルト部材であり,その図中両端部がローラ102,103によって支持されている
。中間転写ベルト101の図中下部に沿って,イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン
(C),ブラック(K)の各色の画像形成部104Y,104M,104C,104Kお
よび画像濃度センサ105が配置されている。この画像濃度センサ105は,レジストセ
ンサとしての機能をも有している。
【0023】
各色の画像形成部104Y,104M,104C,104Kはいずれも同様の構成であ
る。それぞれ,感光体ドラム106とその周囲に配置された帯電装置107,露光装置1
08,現像装置109,クリーナ装置110を有している。また,中間転写ベルト101
を挟んで感光体ドラム106に対向する位置に,1次転写装置111が配置されている。
図1中では画像形成部104Yによって代表して示している。
【0024】
図1中で下方に示すのは,用紙Pを収容する給紙装置112である。給紙装置112の
上部には,用紙Pを送り出す給紙ローラ113が設けられている。用紙Pは,給紙装置1
12から搬送経路114に沿って上方へ送られる。搬送経路114を挟んで,ローラ10
3と対面する位置に,2次転写装置115が配置されている。さらにその下流側(図中上
方)には,定着装置1が配置されている。定着装置1は,加熱ローラ11,加圧ローラ1
2,磁束発生部13を有している。定着装置1については,後に詳述する。定着装置1よ
り搬送経路114のさらに下流側には,排紙ローラ116および排紙トレイ117が配置
されている。
【0025】
次に,本形態の画像形成装置100の動作を簡単に説明する。この画像形成装置100
は,画像形成の指示を受けると,その画像信号から各色の画像データを生成する。生成さ
れた各色の画像データは,対応する画像形成部104Y,104M,104C,104K
にそれぞれ送出される。各色の画像形成部104Y,104M,104C,104Kは,
画像データに基づいて,それぞれの感光体ドラム106を帯電・露光して静電潜像を形成
する。さらに,形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する。
【0026】
形成されたトナー像は,順次,1次転写装置111によって中間転写ベルト101に転
写され,重ね合わせられる。中間転写ベルト101に重ね合わせられたトナー像は,2次
転写装置115によって用紙Pに転写される。トナー像を担持した用紙Pは,さらに搬送
されて定着装置1に至り,定着装置1によって加熱されるとともに加圧される。これによ
りトナー像が用紙Pに定着される。トナー像が定着された用紙Pは,排紙ローラ116に
よって排紙トレイ117に排出される。
【0027】
本形態の定着装置1は,図2に概略構成を示すように,加熱ローラ51,加圧ローラ1
2,磁束発生部13を有している。加熱ローラ51と加圧ローラ12とは互いに平行に配
置され,いずれも回転可能に支持されている。加圧ローラ12は,加熱ローラ51へ向け
て軸と垂直の方向に付勢される。これにより,加熱ローラ51と加圧ローラ12との間に
ニップが形成される。そして,ニップの出口(図中右側)の近傍には,定着後の用紙を加
熱ローラ51から分離するための分離爪14が備えられている。なお,この図2は,図1
の定着装置1を,右が下となるように90度回転させて示したものである。
【0028】
加熱ローラ51は,図2に示すように,芯金21と断熱層22とを含む定着ローラ27
と,その外周側に配置された定着ベルト52,定着ローラ27と定着ベルト52との間に
固定された摺接部材53を有している。本形態の加熱ローラ51は,定着ローラ27の外
径が,定着ベルト52の内径よりかなり小径に形成されている。従って,その図2中上部
において,定着ローラ27と定着ベルト52との間に空間Sがある。この空間S内に,2
層構造の摺接部材53が固定されて配置されている。摺接部材53は,定着ベルト52を
挟んで,磁束発生部13に対向する位置に固定されている。
【0029】
摺接部材53は,図2に示した横面形状が扇形で,図中奥行き方向に加熱ローラ51と
ほぼ同等の長さを有するものである。摺接部材53の図中上面は,定着ベルト52の内周
側に沿って湾曲した曲面となっており,定着ベルト52の内側の面に接触している。すな
わち,定着ベルト52は,定着ローラ27と摺接部材53とに架け渡されている。そして
,定着ローラ27は,定着ベルト52を挟んで,加圧ローラ12に圧接されている。定着
ローラ27または加圧ローラ12が回転駆動されることにより,定着ベルト52も回転さ
れる。摺接部材53は,加熱ローラ51の回転軸に平行に配置されて固定されており,回
転しない。
【0030】
本形態の加熱ローラ51は,摺接部材53がある位置では,図3に示すように,内側(
図中下側)から芯金21,断熱層22,補助発熱層58,発熱制御層59,主発熱体層5
5,弾性層56,離型層57の7層構成になっている。このうち,芯金21と断熱層22
とは互いに接着されてローラ状となっている。これらを合わせて定着ローラ27という。
また,主発熱体層55,弾性層56,離型層57は互いに接着されて,無端ベルト状にな
っている。これらを合わせて定着ベルト52という。摺接部材53は,補助発熱層58と
発熱制御層59とが重ねられた2層構成となっている。本形態では,主発熱体層55が第
1導電層に,発熱制御層59が第2導電層に,補助発熱層58が第3導電層にそれぞれ相
当する。なお,図3では,定着ベルト52と摺接部材53との区別のために,これらの間
に多少の隙間を設けているが,実際には互いに接触している。
【0031】
芯金21は,加熱ローラ51の全体を支持する支持体であり,十分な耐熱性と強度を有
することが必要である。芯金21は,非磁性材でも磁性材でも構わないが,どちらかとい
うと非磁性材の方が望ましい。芯金21としては,例えば,壁厚4mm程度で,外径15
〜25mmφの銅製パイプとするとよい。あるいは,鉄,SUS,アルミ等の材質のもの
を用いることもできる。
【0032】
断熱層22は,定着ベルト28に発生した熱を芯金21へ逃がさないためのものである
。そのために,熱伝導率が低く,耐熱性および弾性を有する,ゴム材や樹脂材のスポンジ
体(断熱構造体)のものが好ましい。このようなものとすれば,定着ベルト28のたわみ
を許容し,ニップ幅を大きく保つことができる。また,加熱ローラ51全体としての硬度
を小さくして,定着性や通紙性等を良好なものとできる。また,断熱層22として,ソリ
ッド体とスポンジ体との2層構造のものを使用してもよい。
【0033】
また,例えば,断熱層22として,シリコンスポンジ材を用いる場合は,厚さ1〜10
mmさらに望ましくは2〜7mmのものを使用するとよい。また,この断熱層22の硬度
は,アスカーC硬度で20〜60度,さらに望ましくは30〜50度の範囲内とする。な
お,この加熱ローラ51全体としてのローラ硬度は,アスカーC硬度で30〜90度程度
が好ましい。
【0034】
摺接部材53の補助発熱層58は,ほぼ均一の厚さの円筒面の一部の形状である。また
,補助発熱層58は,発熱制御層59のみに接触し,定着ベルト52にも定着ローラ27
にも接触していない。補助発熱層58は,非磁性材でも磁性材でも構わないが,どちらか
というと非磁性材の方が望ましい。比透磁率は0.99〜1000,望ましくは0.99
〜1.1の範囲内とする。特に本形態では,補助発熱層58には,常温において発熱制御
層59と主発熱体層55とのいずれよりも低透磁率である材料を用いる。ここで,本発明
における「常温」とは,過昇温状態ではない温度範囲のことであり,本形態では発熱制御
層59のキュリー温度以下の温度範囲に相当する。
【0035】
また,補助発熱層58としては,電気抵抗率の低い材料を用いる。補助発熱層58の体
積抵抗率は,1.0〜10.0×10-8Ωm,望ましくは1.0〜2.0×10-8Ωmの
範囲内のものとする。特に本形態では,補助発熱層58には,高温において発熱制御層5
9よりも低抵抗である材料を用いる。厚さ0.1〜4mm,望ましくは0.4〜2mmの
銅製とするとよい。あるいは,上記の比透磁率及び体積抵抗率の範囲内であれば,鉄,S
US,アルミ等の材質のものを用いることもできる。ここで,本発明における「高温」と
は,過昇温状態である温度範囲のことであり,本形態では発熱制御層23のキュリー温度
を超えた温度範囲に相当する。
【0036】
摺接部材53の発熱制御層59は,ほぼ均一の厚さの円筒面の一部の形状である。そし
て,発熱制御層59の図2中上面は,そのほぼ全域にわたって,定着ベルト52の主発熱
体層55に常時接触している。発熱制御層59としては,常温において,補助発熱層58
よりも適度に体積抵抗率の大きい磁性体を用いる。さらに本形態では,定着温度と同程度
の温度にキュリー点を有する材質を用いる。例えば,比透磁率は,50〜2000,望ま
しくは100〜1000の範囲内のものとする。また,キュリー温度より低温の温度範囲
での体積抵抗率は,2〜200×10-8Ωm,望ましくは5〜100×10-8Ωmの範囲
内のものとする。
【0037】
また,目標とする定着温度が約180℃(170〜190℃)の場合には,キュリー温
度は,150〜220℃,望ましくは180〜200℃の範囲内のものとする。本実施例
では,キュリー温度が190℃のパーマロイを使用している。パーマロイでは,ニッケル
の比率が高いほどキュリー温度の高いものを得ることができるので,パーマロイの成分比
によって発熱制御層59のキュリー温度を調整する。また,クロム,コバルト,モリブデ
ン等を含む合金とすることによってもキュリー温度の調整が可能である。なお,発熱制御
層59の厚さは,0.05〜2mm,望ましくは0.1〜1mmの範囲内とすることが好
ましい。また,摺接部材53全体の周方向の大きさは,磁束発生部13の励磁コイルの幅
と同等以上であることが好ましい。
【0038】
定着ベルト52の主発熱体層55は,磁束発生部13によって発生される磁束を受けて
誘導電流が誘起され,それによって発熱する層である。そのため,比透磁率が高く,補助
発熱層58よりも適度に体積抵抗率が大きい磁性材を用いる。例えば,ニッケル,磁性ス
テンレス,パーマロイ等が好ましい。また,比透磁率は,50〜500,望ましくは10
0〜200の範囲内のものとする。また,体積抵抗率は,1〜100×10-8Ωm,望ま
しくは1〜10×10-8Ωmの範囲内のものとする。なお,主発熱体層55の厚さは,1
0〜100μm,望ましくは20〜50μmの範囲内とすることが好ましい。本形態では
,主発熱体層55は,無端状のニッケル電鋳ベルトによって形成されている。
【0039】
弾性層56は,トナー像に均一かつ柔軟に熱を伝えるためのものである。この弾性層5
6が適度な弾性を有することにより,トナー像が押しつぶされたり不均一な溶融となるこ
とによる画像ノイズの発生を防止できる。そのために,弾性層56には,耐熱性と弾性と
を有するゴム材や樹脂材を用いる。その材料としては,例えば,定着温度での使用に耐え
られるシリコンゴム,フッ素ゴム等の耐熱性エラストマーが適している。また,上記の材
料に,熱伝導性や補強等を目的とした各種の充填材を混入したものでもよい。そのうち熱
伝導性の向上のために充填される粒子の例としては,ダイヤモンド,銀,銅,アルミニウ
ム,大理石,ガラス等が挙げられる。実用的には,シリカ,アルミナ,酸化マグネシウム
,窒化ホウ素,酸化ベリリウム等が好ましい。
【0040】
この弾性層56としては,厚さ10〜800μm,さらに望ましくは100〜300μ
mの範囲内のものとする。弾性層24の厚さが10μm未満では厚さ方向の十分な弾力性
を得ることが難しい。また,この厚さが800μmを超えていると,主発熱体層55で発
生した熱を加熱ローラ51の外周面まで到達させることが難しく,熱効率が悪いので好ま
しくない。
【0041】
弾性層56の硬度は,JIS硬度で1〜80度,さらに望ましくは5〜30度の範囲内
のものとする。この範囲内の硬度であれば,弾性層56の強度の低下や密着性の低下を防
止しつつ,安定した定着性を確保できる。硬度がこの範囲内となるシリコンゴムとして,
例えば,1成分系,2成分系,または3成分系以上のシリコンゴム,LTV(Low T
emperature Vulcanizable:低温加硫)型,RTV(Room
Temperature Vulcanizable:常温加硫)型,またはHTV(H
igh Temperature Vulcanizable:高温加硫)型のシリコン
ゴム,縮合型または付加型のシリコンゴム等が使用できる。本形態では,JIS硬度10
度で厚さ200μmのシリコンゴムを使用している。
【0042】
離型層57は,定着ベルト52の最外層をなし,定着ベルト52と用紙との離型性を高
めるためのものである。この離型層57としては,定着温度での使用に耐えられるととも
にトナーに対する離型性に優れたものを使用する。例えば,シリコンゴムやフッ素ゴム,
あるいはPFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体),PT
FE(四フッ化エチレン),FEP(四フッ化エチレン・六フッ化エチレン共重合体),
PFEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素樹脂が好ましい
。あるいは,これらを混合したものでもよい。
【0043】
離型層57の厚さは5〜100μm,さらに望ましくは10〜50μmの範囲内のもの
とする。また,この離型層57と弾性層56との接着力を向上させるために,プライマー
等による接着処理を行ってもよい。また,離型層57の中に,必要に応じて,導電材,耐
摩耗材,良熱伝導材等をフィラーとして添加してもよい。なお,本形態では,主発熱体層
55の上に弾性層56及び離型層57を被覆することによって,定着ベルト28を製造す
る。
【0044】
次に,加圧ローラ12について説明する。加圧ローラ12は,図4に示すように,芯金
31,断熱層32,離型層33を有している。芯金31は,壁厚3mmのアルミ製パイプ
である。強度が確保できれば,芯金31に代えて,PPSのような耐熱性の材質によるモ
ールドのパイプを用いてもよい。あるいは,鉄パイプを使用することも不可能ではないが
,電磁誘導による影響を受けにくい非磁性のものがより好ましい。
【0045】
芯金31の外周には,断熱層32が設けられている。断熱層32は,厚さ3〜10mm
の範囲内のシリコンスポンジゴムの層である。1層の断熱層32に代えて,シリコンゴム
とシリコンスポンジとの2層構造としてもよい。
【0046】
加圧ローラ12の最外周の離型層33は,加熱ローラ51の離型層57と同様に,用紙
に対するローラ表面の離型性を向上させるためのものである。この離型層33は,PTF
EまたはPFA等のフッ素系樹脂による厚さ10〜50μmの範囲内の層である。なお本
形態では,加圧ローラ12は,加熱ローラ51に対して300〜500Nの荷重で加圧さ
れており,定着装置1のニップ幅は約5〜15mmとなっている。本形態とは異なるニッ
プ幅で使用したい場合には,加圧ローラ12の荷重を変更して調整すればよい。
【0047】
次に,磁束発生部13について説明する。磁束発生部13は,加熱ローラ51の外周に
対面するとともに,加熱ローラ51の長手方向に沿って,加熱ローラ51に平行に配置さ
れている。磁束発生部13は,図2に示すように,励磁コイル41と磁性体コア42とコ
イルボビン43とを有している。本形態ではさらに,高周波インバータ44,サーミスタ
45,制御部46を有している。
【0048】
励磁コイル41は,加熱ローラ51の長手方向に沿って巻かれたコイルである。その横
断面(図2参照)は,加熱ローラ51の外周に倣ってやや湾曲した形状となっている。こ
の励磁コイル41には,高周波インバータ44が接続され,10〜100kHz,100
〜2000Wの高周波電力が供給される。そのため,本形態では,励磁コイル41の巻き
線として,細い素線を数十〜数百本束ねてリッツ線としたものを使用している。この励磁
コイル41は通電時に自己発熱する。その場合でも絶縁性を保てるように,巻き線に耐熱
性の樹脂が被覆されたものを使用している。さらに,例えばファン等によって,励磁コイ
ル41を空冷することが望ましい。なお,本形態の励磁コイル41は,その長手方向に一
繋がりのものであり,複数個に分断されているものではない。
【0049】
磁性体コア42は,磁気回路の効率を上げるためと,磁気遮蔽のためのものである。こ
の磁性体コア42は,メインコア47,端部コア48,裾コア49を有している。メイン
コア47は,その横断面が図2に示すようなアーチ形状のものである。本形態では,長さ
が約10mmのコア片を,加熱ローラ51の軸方向に13個配置したものとしている。な
お,メインコア47として,断面が略「E」字の形状で,中央部に加熱ローラ51側へ突
出した部分のあるものを使用しても良い。このようにすれば,さらに発熱効率を高めるこ
とができる。また,端部コア48は,横断面が四角形状で長さが5〜10mmのコア片を
,加熱ローラ51の両端部に配置したものである。また,裾コア49は,横断面が四角形
状のものを,加熱ローラ51の長手方向寸法に略対応した範囲に連続的に配置したもので
ある。
【0050】
磁性体コア42はいずれも,高透磁率でありかつ渦電流の損失が低い材質で形成されて
いる。本形態の磁性体コア42のキュリー温度は,140〜220℃,さらに望ましくは
160〜200℃の範囲内とすることが望ましい。本形態では高周波を用いるため,コア
内における渦電流の損失が大きくなりがちである。また,パーマロイのような高透磁率の
合金によるコアでは,さらに渦電流の損失が大きくなりがちである。そこで,このような
材質を使用する場合は薄板を積層した構造のコアとすることが望ましい。なお,励磁コイ
ル41と磁性体コア42とによる磁気回路部分の磁気遮蔽が,他の手段によって十分にで
きる場合には,コアなし(空芯)にしてもよい。さらに,磁性体コア42として,樹脂材
に磁性粉を分散させたものを用いることもできる。この素材は,透磁率はやや低いが,形
状を自由に設定できるという利点がある。
【0051】
さらに本形態では,加熱ローラ51の表面に当接して配置されたサーミスタ45を有し
ている。サーミスタ45は,加熱ローラ51のローラ軸方向について,どのサイズの用紙
を通紙した場合でも用紙が通過する箇所に配置される。例えば,左寄せで通紙される画像
形成装置であれば,加熱ローラ51の左端部の近くである。また,加熱ローラ51の回転
方向について,定着ニップの入口よりやや上流側に配置されている。このサーミスタ45
によって,加熱ローラ51の定着前の場所における表面温度が検出される。
【0052】
そして,定着処理時には,サーミスタ45によって検出された表面温度が適切な定着温
度の範囲内となるように,制御部46によって高周波インバータ44が制御される。適切
な定着温度は,トナーの種類等に応じてあらかじめ設定されており,例えば,100〜2
00℃程度である。なお,加熱ローラ51の表面温度の検出は,サーミスタ45に限らず
,非接触式の温度センサによって行ってもよい。
【0053】
次に,本形態の定着装置1による定着処理動作について説明する。本形態の定着装置1
では,加圧ローラ12が定着ベルト52を挟んで定着ローラ27に押し付けられ,加圧ロ
ーラ12と定着ベルト52との間に,用紙が挿入されるニップが形成されている。定着処
理時には,図2中に矢印で示すように,加圧ローラ12が図中時計回り方向に回転駆動さ
れる。これにより,加熱ローラ51の定着ベルト52および定着ローラ27は,加圧ロー
ラ12との摩擦力によって,図中反時計回り方向に従動回転される。なお,この駆動と従
動との関係は,逆でもよい。
【0054】
磁束発生部13においては,高周波インバータ44によって,励磁コイル41に高周波
電力が供給される。これにより発生した磁束は,磁性体コア42の内部を通る。そして,
その磁束は,磁性体コア42の突起部間で外部に出て,加熱ローラ51に至る。発熱制御
層59がそのキュリー温度より低温の常温状態であれば,主発熱体層55と発熱制御層5
9とがともに透磁率が高い状態である。この状態では,発熱制御層59のシールド効果に
より,磁束はその反対側(補助発熱層58の側)へはほとんど漏れない。
【0055】
すなわち,常温では,磁束のほとんどは,主発熱体層55と発熱制御層59との厚みの
中を定着ベルト52の周方向に進み,磁束発生部13へ戻る。このため,これらの層では
磁束密度が非常に高い。従って,これらの層では発熱量が大きい。例えば,ウォームアッ
プ時はこの状態であるので,主発熱体層55と発熱制御層59とがともに大きく発熱する

【0056】
このように発生した熱は,主発熱体層55に接着されている弾性層56を介して,加熱
ローラ51の表面へ伝達される。そして,加熱ローラ51の表面が適切な定着温度となる
ように,制御部46によって高周波インバータ44が制御される。トナー像を担持する用
紙Pは,トナー像の載っている面を加熱ローラ51の側に向けた状態で,加熱ローラ51
と加圧ローラ12との間のニップに挿入される。そして,加熱ローラ51と加圧ローラ1
2との間のニップを,図2中左から右へ通過する間に,トナーが溶融されて用紙Pに定着
される。
【0057】
ニップを通過した用紙Pは,加熱ローラ51から分離されて後段へと搬送される。用紙
Pが,ニップを通過した後も定着ベルト52に張り付いたままであれば,分離爪14によ
って定着ベルト52から強制的に分離される。これにより,用紙Pが定着装置1でジャム
になることが防止されている。なお,分離爪14の先端部は,定着ベルト52の表面に接
触していてもしていなくてもよい。
【0058】
用紙Pの定着処理により,用紙P及びトナーによって加熱ローラ51から熱が奪われる
。そのため,ローラの軸方向について用紙Pの通紙された範囲では,定着ベルト52の表
面温度が下がる。サーミスタ45は,用紙Pが通紙される箇所で温度を検出する。制御部
46は,サーミスタ45の検出結果を受けて,高周波インバータ44を制御する。すなわ
ち,次回の用紙Pが定着ニップまで搬送されてくるまでに適切な定着温度の範囲内となる
ように,制御部46は,高周波インバータ44から励磁コイル41に供給される高周波電
力を増減する。
【0059】
この定着装置1によって,比較的用紙幅の小さい用紙Pを連続して定着処理すると,通
紙範囲外においては次第に熱が溜まる。そのため,加熱ローラ51の軸方向のうち,通紙
範囲外においては発熱制御層59の温度が特に上昇し,その部分の温度がキュリー温度を
超える場合がある。発熱制御層59の温度がキュリー温度を超えた箇所では,発熱制御層
59の透磁率が大きく低下する。これにより,発熱制御層59によるシールド効果が弱く
なる。すなわち,通紙範囲外の高温となった部分では,発熱制御層59の透磁率が大きく
低下して,磁束の大部分が主発熱体層55と発熱制御層59とを貫通してさらに内周側へ
漏れる。これにより,主発熱体層55と発熱制御層59とを通る磁束密度が大きく減少す
るので,これらによる発熱量も大きく低下する。
【0060】
さらに本形態では,発熱制御層59に接して補助発熱層58が設けられている。高温箇
所において主発熱体層55と発熱制御層59とを貫いて漏れた磁束は,第3導電層である
補助発熱層58に掛かる。補助発熱層58は,例えば銅製であり低抵抗であるので,渦電
流が容易に流れる。そのため,補助発熱層58に掛かっている磁束による渦電流の大部分
は,補助発熱層58中に発生する。補助発熱層58は低抵抗であるので,渦電流が流れて
もほとんど発熱しない。また,補助発熱層58に発生する渦電流による起電力が,磁束を
打ち消す方向に働く。そのため,主発熱体層55と発熱制御層59との磁束密度がさらに
低下する。従って,発熱量がさらに低下する。従って,高温箇所では,加熱ローラ51の
半径方向のいずれの箇所でもほとんど発熱しない状態となる。
【0061】
従って,過昇温となった箇所では,発熱制御層59の透磁率が変化するとともに,発熱
量が大きく低下する。一方,通紙範囲内の高温となっていない部分では発熱量はほとんど
変わらない。これは,この範囲においては,発熱制御層59の透磁率が低下せず,磁束密
度の分布が常温状態からほとんど変化しないことによる。このように,補助発熱層58が
第3導電層として機能することにより,発熱制御層59の透磁率の分布が変化した際に,
主発熱体層55と発熱制御層59との発熱量をさらに低下させることができる。さらに,
本形態では補助発熱層58の厚さが他の層に比較して大きいので,第3導電層の発熱量を
より抑制でき,定着装置の全体として熱効率のよいものとできる。
【0062】
さらに本形態では,発熱制御層59のほぼ全面が主発熱体層55に接しているので,表
面温度の変化が発熱制御層59に素早く伝わる。従って,加熱ローラ51の一部において
,その表面温度が,定着に適した温度を超えて高くなるとすぐに,その部分の発熱量が大
きく低下するので,過昇温状態が続くことはない。このような効果が得られるように,発
熱制御層59のキュリー温度が選択されている。
【0063】
本形態では,定着ローラ27の外径が小さく,定着ベルト52と定着ローラ27との接
触面積が小さい。従って,定着ベルト52から定着ローラ27へ逃げる熱の量も小さいの
で,短時間で昇温させることができる。さらに,発熱制御層59を摺接部材53に設け,
定着ベルト52を比較的薄い3層のみとしたことから,定着ベルト52を薄く形成するこ
とができる。従って,定着ベルト52の熱容量が小さく,ウォームアップ時間が短いもの
となっている。また,定着ベルト52が薄いことから,十分な柔軟性を有するものとでき
る。従って,十分な大きさの定着ニップを確保できる。
【0064】
次に,本形態の定着装置による効果を確認するために行った様々な実験の結果について
説明する。まず,第1の実験として,摺接部材を補助発熱層を有しない発熱制御層のみの
ものとした点の他は本形態と同じ構成の画像形成装置を比較例とし,本形態の実施例との
比較実験を行った。
【0065】
この実験では,発熱制御層59がキュリー温度を超えたときの前後での発熱量の変化の
度合いを,前の発熱量に対する後の発熱量の割合によって発熱率として求めた。その結果
を図5に示す。ここでは,全導電層による合計の発熱量で比較した。比較例では,発熱率
65%程度までしか低下しなかったのに比較して,実施例では,30%以下となった。こ
のことから,第3導電層を有することによって,キュリー温度を超えたときの発熱量の低
下の割合を大きくすることができることが分かった。
【0066】
次に,第2の実験として,上記と同じ実施例と比較例について,発熱効率を比較した。
ここでの発熱効率とは,定着装置全体の発熱量のうち,有効な発熱である第1〜第3導電
層の全体による発熱量が占める割合のことである。インバーターの電源損失を除いて算出
した。これ以外の発熱,つまり無駄な発熱としては,コイルのジュール発熱や,周辺板金
等の誘導発熱等がある。第2の実験の結果を図6に示す。この図に示すように,実施例に
おいても,比較例においても,発熱効率は約97%であり,大差ない。すなわち,補助発
熱層58を有する摺接部材53を用いても,発熱効率を低下させることにはならないこと
が確認できた。
【0067】
さらに,第3の実験として,発明者らは,主発熱体層55(第1導電層)と補助発熱層
58(第3導電層)とに,磁性材を用いた場合と非磁性材を用いた場合とで,発熱効率に
与える影響を調べた。この実験では,主発熱体層55と補助発熱層58とに,磁性材では
ニッケルを使用し,非磁性材では銅を使用した。この実験の結果を図7に示す。補助発熱
層58の材質にかかわらず,主発熱体層55を非磁性材とすると,磁性材とした場合より
やや発熱効率が低下した。このことより,補助発熱層58は磁性材でも非磁性材でも構わ
ないが,主発熱体層55は磁性材である方が好ましいことが分かった。
【0068】
次に,第4の実験として,発熱制御層59(第2導電層)の体積抵抗率に対して補助発
熱層58(第3導電層)の体積抵抗率の大きさを変えたものを3種類用意し,それらによ
る発熱効率の違いを調べた。ただし,比透磁率にはほとんど差がない材質を選択した。第
1の例は,発熱制御層59の体積抵抗率に対して補助発熱層58の体積抵抗率が約1.5
%のものである。具体的には,発熱制御層59の材質としてパーマロイを,補助発熱層5
8の材質として銅を使用した。これを「極小」の例とした。第2の例は,発熱制御層59
の体積抵抗率に対して補助発熱層58の体積抵抗率が約8.5%のものである。具体的に
は,発熱制御層59の材質としてパーマロイを,補助発熱層58の材質としてアルミニウ
ム合金を使用した。これを「小」の例とした。第3の例は,発熱制御層59の体積抵抗率
に対して補助発熱層58の体積抵抗率が約125%のものである。具体的には,発熱制御
層59の材質としてパーマロイを,補助発熱層58の材質として非磁性ステンレスを使用
した。これを「大」の例とした。この実験の結果を図8に示す。補助発熱層58の体積抵
抗率が,発熱制御層59のそれに比較して小さくても大きくても,発熱効率には大差ない
ことが分かった。
【0069】
次に,第5の実験として,第4の実験と同じ3種類の加熱ローラによる過昇温時の発熱
率の違いを調べた。ここでの発熱率とは,発熱制御層59がキュリー温度を超えたときの
前後での主発熱体層55の発熱量の変化の度合いを前の発熱量に対する後の発熱量の割合
として求めたものである。この実験では,第1の実験の場合とは異なり,主発熱体層55
のみによる発熱量を比較した。この実験の結果を図9に示す。補助発熱層58の体積抵抗
率の大きさが,発熱制御層59のものに比較して大きいと,発熱制御層59がキュリー温
度を超えても,主発熱体層55の発熱量はあまり低下しない。このことから,補助発熱層
58の体積抵抗率は,発熱制御層59の体積抵抗率と比較して小さいことが望ましいこと
がわかった。
【0070】
次に,第6の実験として,補助発熱層58(第3導電層)の比透磁率の大きさを変えた
ものを3種類用意し,それらによる発熱率の違いを調べた。ここでの発熱率は,第5の実
験のものと同じである。ただし,体積抵抗率にはあまり差がない材質を選択した。補助発
熱層58の第1の例は,高温時(発熱制御層59がキュリー温度を超えたとき)における
補助発熱層58の比透磁率が発熱制御層59の比透磁率の50%程度のものである。具体
的には,発熱制御層59の材質としてパーマロイを,補助発熱層58の材質としてアルミ
ニウム合金を使用した。これを,「小」の例とした。第2の例は,高温時における補助発
熱層58の比透磁率が発熱制御層59の比透磁率と同程度のものである。具体的には,発
熱制御層59の材質としてパーマロイを,補助発熱層58の材質として銅−ニッケル合金
を使用した。これを,「同」の例とした。第3の例は,高温時における補助発熱層58の
比透磁率が発熱制御層59の比透磁率の500%程度のものである。具体的には,発熱制
御層59の材質としてパーマロイを,補助発熱層58の材質としてニッケルを使用した。
これを,「大」の例とした。
【0071】
この実験の結果を図10に示す。補助発熱層58の比透磁率の大きさが,発熱制御層5
9のものに比較して同程度かまたは大きいと,発熱制御層59がキュリー温度を超えても
,主発熱体層55の発熱量はあまり低下しない。このことから,補助発熱層58の比透磁
率は,発熱制御層59の比透磁率と比較して小さいことが望ましいことがわかった。
【0072】
次に,第7の実験として,補助発熱層58(第3導電層)の体積抵抗率を変えたものを
用意し,小サイズ用紙を連続通紙して,本形態の効果を調べた。補助発熱層58の体積抵
抗率として,1.0×10-8〜8.0×10-7Ωmまでの4種類のものを用意した。この
実験の結果を以下の表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように,補助発熱層58の体積抵抗率が5.0×10-8Ωm以下であれば,
過昇温抑制の効果が十分にあり,定着ベルト52の変形は見られなかった。7.0×10
-8Ωmでは,やや変形が見られたものの,実験後に温度が低下することにより,ほぼ元に
戻った。8.0×10-7Ωmでは,定着ベルト52は破損した。このことから,補助発熱
層58の体積抵抗率は,5.0×10-8Ωm以下であることが望ましいことが分かった。
【0075】
以上詳細に説明したように,本形態の画像形成装置によれば,加熱ローラ51に,第1
導電層(主発熱体層55)と第2導電層(発熱制御層59)と第3導電層(補助発熱層5
8)とを有している。従って,部分的に高温となり,定着ベルト52の表面温度が発熱制
御層59のキュリー温度を超えた場合には,その箇所の発熱制御層59の透磁率が大きく
低下する。従って,その部分の磁束密度が大きく低下し,発熱量が減少するので,過昇温
が防止されている。さらに,主発熱体層55が磁性材によるものであるので,加熱ローラ
51としての発熱効率がよい。また,補助発熱層58の体積抵抗率を発熱制御層59の体
積抵抗率に比較して小さいものとしたので,キュリー温度を超えたときの発熱量の低下が
顕著なものとなっている。すなわち,小サイズの用紙を連続通紙した場合でも,部分的な
過昇温が発生せず,安定した定着性能を有するとともに発熱効率のよい定着装置および画
像形成装置となっている。さらに,定着ベルト52の熱容量が小さく,また定着ベルト5
2から定着ローラ27へ逃げる熱の量も小さいので,ウォームアップ時間が短いものとな
っている。
【0076】
なお,本形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって
本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば,本形態ではカラープリンタとしたが,1色の画像形成部のみを有する単色プリ
ンタに本発明を適用することもできる。その場合には,加熱ローラ51として弾性層56
の無いものとしてもよい。
【0077】
また例えば,主発熱体層55として,樹脂にニッケル,パーマロイ等の磁性材の粒子を
分散させたものとしてもよい。あるいは,樹脂材にこれらの磁性材をコーティングしたも
のとしてもよい。主発熱体層55として,樹脂ベースのものを用いれば,定着ベルト28
全体としての柔軟性がさらに大きくなり,用紙の分離性を向上させることができる。なお
,このようなものでは,対外的な導電性は得られないかもしれないが,渦電流は通ること
が可能である。本発明の導電層としてはこのようなものも含まれる。
【符号の説明】
【0078】
1 定着装置
12 加圧ローラ
13 磁束発生部
51 加熱ローラ
55 主発熱体層
58 補助発熱層
59 発熱制御層
100 画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体と,前記発熱体に磁束を印加する励磁コイルとを有する誘導加熱装置において,
前記発熱体が,前記励磁コイルに近い方から順に,第1導電層と第2導電層と第3導電
層とを有し,
前記第1導電層と前記第2導電層とが磁性材で構成され,
前記第2導電層のキュリー温度が,前記第1導電層のキュリー温度よりも低く,
前記第3導電層が,前記第1導電層と前記第2導電層とのいずれよりも常温で低透磁率
である素材で構成されており,
前記第1導電層は回転体であり,前記第2導電層および前記第3導電層は装置内に固定
して設けられていることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導加熱装置において,
前記第1導電層がニッケルで形成されており,
前記第2導電層が,パーマロイで形成されていることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の誘導加熱装置において,
前記第3導電層の体積抵抗率が5.0×10-8Ωm以下であることを特徴とする誘導加
熱装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の誘導加熱装置において,
前記第2導電層のキュリー温度が150〜220℃の範囲内であることを特徴とする誘
導加熱装置。
【請求項5】
加熱ローラと,加圧ローラと,前記加熱ローラに磁束を印加する励磁コイルとを有する定
着装置において,
前記加熱ローラが,前記励磁コイルに近い方から順に,第1導電層と第2導電層と第3
導電層とを有し,
前記第1導電層と前記第2導電層とが磁性材で構成され,
前記第2導電層のキュリー温度が,前記第1導電層のキュリー温度よりも低く,
前記第3導電層が,前記第1導電層と前記第2導電層とのいずれよりも常温で低透磁率
である素材で構成されており,
前記第1導電層は回転体であり,前記第2導電層および前記第3導電層は装置内に固定
して設けられていることを特徴とする定着装置。
【請求項6】
シートにトナー像を形成する画像形成部と,そのトナー像をシートに定着させる定着装置
とを有する画像形成装置において,
前記定着装置が,
加熱ローラと,加圧ローラと,前記加熱ローラに磁束を印加する励磁コイルとを有し

前記加熱ローラが,前記励磁コイルに近い方から順に,第1導電層と第2導電層と第3
導電層とを有し,
前記第1導電層と前記第2導電層とが磁性材で構成され,
前記第2導電層のキュリー温度が,前記第1導電層のキュリー温度よりも低く,
前記第3導電層が,前記第1導電層と前記第2導電層とのいずれよりも常温で低透磁率
である素材で構成されており,
前記第1導電層は回転体であり,前記第2導電層および前記第3導電層は装置内に固定
して設けられていることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−101375(P2013−101375A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−286105(P2012−286105)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2007−328217(P2007−328217)の分割
【原出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】