説明

誘導加熱装置

【課題】複数のビレットを同時に加熱し、加熱された状態にあるビレットを連続的に排出することができる誘導加熱装置において、省スペース化が可能で、且つ、誘導加熱コイルへのビレットの搬入を行う位置の自由度が高い構成を得る。
【解決手段】軸方向から見て扁平した構造を有するソレノイド構造の誘導加熱コイル101を水平面から傾けて配置する。誘導加熱コイル101内は傾斜面301を備え、この傾斜面301上に誘導加熱コイル101内に収納された複数のビレット102が配置される。加熱コイル部ビレット押出装置103を、傾斜した誘導加熱コイル101の傾いた方向に沿って移動可能な構造とすることで、位置Aと位置Bとの間において誘導加熱コイル101内部へのビレットの搬入が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省スペースで配置できるビレットの誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料によって構成された円筒形状のビレットを誘導加熱で加熱し、それを鋳造や鍛造に用いる技術が知られている。ビレットの誘導加熱において、生産性を高める方法として、ビレットを軸方向に複数直列に並べた状態で搬送しつつ加熱する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、ビレットを取り扱う技術として、特許文献2〜4に記載された構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−6016号公報
【特許文献2】特開平9−118429号公報
【特許文献3】特開平9−287018号公報
【特許文献4】特開2001−129610号公報
【特許文献5】WO2004/018130公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ビレットを軸方向に直列に並べて搬送しつつ誘導加熱を行う方法は、搬送方向の長さが長くなるので、設備の配置に長いスペースが必要とされる。このため、誘導加熱装置の配置が制約される。また、ビレットを軸方向に直列に並べて搬送しつつ誘導加熱を行う方法は、誘導加熱コイル内部へのビレットの搬入を行う位置が限定されている。
【0005】
このような背景において、本発明は、複数のビレットを同時に加熱し、加熱された状態にあるビレットを連続的に排出することができる誘導加熱装置において、省スペース化が可能で、且つ、誘導加熱コイルへのビレットの搬入を行う位置の自由度が高い構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、断面が軸に垂直な方向に長手形状に引き伸ばされた形状を有し、前記長手方向が水平面から傾いた状態で配置されたソレノイド構造の誘導加熱コイルと、前記誘導加熱コイルの内部において複数のビレットを前記傾いた下方向に転がすための傾斜面と、前記誘導加熱コイルの内部に向かって、軸方向からビレットを移動させるビレット移動手段とを備え、前記ビレット移動手段が前記誘導加熱コイルの長手形状に引き伸ばされた方向に沿って移動可能であり、この移動可能な範囲において、前記誘導加熱コイルの内部に向かってビレットを移動させることが可能であることを特徴とする誘導加熱装置である。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、誘導加熱コイルの内部において、ビレットが誘導加熱コイルの軸に垂直な方向に扁平した長手方向に沿って移動する。そして、誘導加熱コイル内へのビレットの搬入、および誘導加熱コイルからのビレットの排出は、誘導加熱コイルの軸方向に沿って行われる。このため、誘導加熱装置の長手方向の寸法を抑えることができ、省スペース化を図ることができる。また、ビレット移動手段を誘導加熱コイルの引き伸ばされた長手方向に沿って移動可能とすることで、この移動範囲におけるビレットの誘導加熱コイル内への押し込みが可能となる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記ビレット移動手段の前記移動可能な範囲において、前記ビレット移動手段が前記誘導加熱コイルの内部に納められたビレットを前記誘導加熱コイルの外部に排出することが可能なことを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱装置である。請求項2に記載の発明によれば、ビレット移動手段が移動可能な範囲における誘導加熱コイル内からのビレットの排出が可能となる。なお、誘導加熱過程におけるビレットは、斜面に沿って自重により転がって動き、その方向は、誘導加熱コイルの軸方向と直交するので、加熱の途中で不具合が発生したビレットを誘導加熱コイルの軸方向に移動させることで、当該ビレットの誘導加熱コイルからの排出を簡単に行うことができる。つまり、加熱中に転がって移動するビレットの移動方向に直交する軸方向にビレットを押し出すことで、不具合のあるビレットだけを列から外すことができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記誘導加熱コイルの軸方向両側には、前記ビレット移動手段の前記移動可能な範囲における前記ビレット移動装置によるビレットの移動を可能とする開閉式の断熱板が配置されていることを特徴とする。請求項3に記載の発明によれば、所定の位置における誘導加熱コイル内へのビレットの搬入または誘導加熱コイル内からのビレットの排出時に断熱板を開け、それ以外の状況で断熱板を閉めることで、ビレットの加熱効率の低下が抑えられる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記誘導加熱コイル内に複数のビレットが収納されている状態において、前記誘導加熱コイル内部の最下部のビレットが排出された後、前記収納された残りのビレットは、自重により前記傾斜面を下方に向かって転がり、この転がりによって生じた空いた空間に新たなビレットが前記ビレット移動手段によって挿入されることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明によれば、傾いた誘導加熱コイル内部の最下部から加熱されたビレットが排出されると、傾きに沿って重力により残りの複数のビレットが空いた隙間の分、斜面下方に向かって転がる。そして、隙間が生じた最上部に新たなビレットが搬入される。このサイクルを繰り返すことで、誘導加熱コイル内部のビレットは徐々に下方に転がりながら加熱されてゆき、順次誘導加熱コイルから排出される。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、前記誘導加熱コイルの内部において、複数のビレットが前記傾斜面を転がりながら誘導加熱により加熱されることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発明において、前記傾いた角度が水平面に対して3°〜10°であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、複数のビレットを同時に加熱し、加熱された状態にあるビレットを連続的に排出することができる誘導加熱装置において、省スペース化が可能で、且つ、誘導加熱コイルへのビレットの搬入を行う位置の自由度が高い構成が提供される。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、不具合のあるビレットを排出する機構として、誘導加熱コイルの内部にビレットを搬入する機構が利用されるので、構成を複雑化せずに不具合のあるビレットを誘導加熱コイルから排出することができる構成が得られる。また、排出対象となるビレットとして、ビレット移動手段の移動可能な範囲内のものを選択できるので、複数のビレットを排出対象として選択できる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、誘導加熱の効率の低下が抑えられる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、同時に加熱される複数のビレットの誘導加熱装置内部における移動が、自重による転がりによって行われるので、搬送機構が省略でき、構成が簡素化される。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、加熱されている状態において、ビレットが転がるので、均一な加熱が実現される。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、自重によるビレットの自走が生じ、且つ、自走するビレットの勢いがあり過ぎてビレットの変形や損傷が生じることがない条件が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態の誘導加熱装置の平面図(A)と側面図(B)である。
【図2】誘導加熱コイルの斜視図である。
【図3】誘導加熱コイルの側面図である。
【図4】誘導加熱コイルの内部にビレットを搬入する手順の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(誘導加熱装置の構成)
図1には、実施形態の誘導加熱装置100が示されている。ここで、図1(A)は上面図であり、図1(B)は(A)におけるY軸負の方向から見た側面図である。誘導加熱装置100は、誘導加熱コイル101を備えている。図2は、誘導加熱コイル101の斜視図である。誘導加熱コイル101は、断面が軸に垂直な方向に長手形状に引き伸ばされ、この引き伸ばされた長手方向が水平面から傾いた状態で配置されたソレノイド構造を有し、内部101aにおいてY軸方向に磁束を生じるように、断面で見て、両端がU字形で、その間を直線部で繋いだ形状の扁平したソレノイドコイル形状の巻線部101bを備えている。
【0022】
誘導加熱コイル101は、水平面(図のX−Y面)から5°の角度で傾いて設置されている。この角度は、3°〜10°程度が適当である。この角度が、3°未満であるとビレットの自重による転がっての移動が困難となる可能性が増大する。他方で、10°を超えるとビレットの自重による転がりの勢いが強くなり、端部への衝突や他のビレットへの衝突によるビレットの破損や変形の問題が生じる可能性が増大する。また、この角度が10°を超えると、ビレットの誘導加熱コイル101内への挿入、および誘導加熱コイル101内からの排出を行う際、隣接する位置から転がり落ちるビレットの速度が速くなり、ビレットを押すピストンの退避が間に合わなくなる問題が顕在化する。
【0023】
傾斜して配置された誘導加熱コイル101の内部101aには、加熱の対象となる複数のビレット102(図示する例では7個)が収納可能とされている。ビレットは、円筒形状を有している。ビレットの材質は、誘導加熱の対象となる金属材料であれば、特に限定されず、例えば、アルミ、鉄、ステンレス、銅、その他合金が利用可能である。なお、誘導加熱コイル101内に収納可能なビレットの数は、7個に限定されず、複数であればその他の数であってもよい。
【0024】
誘導加熱コイル101の外側は、断熱材で覆われており、特にその側面には、耐熱性セラミックス材料で構成された断熱板が取り付けられている。この断熱板について図3を参照して説明する。図3(A)および(B)には、図1(A)において、Y軸負の方向から見た誘導加熱コイル101の外観が示されている。誘導加熱コイル101のこの視点から見た側面(図1(A)における下側の側面)には、上下スライド開閉式の断熱板201が配置されている。なお、図3には、誘導加熱コイル101の内部に、収納可能な全てのビレット(この場合は、計7個)が収められた状態が示されている。また、図3には、誘導加熱コイル101の内部に配置された傾斜面301が示されている。傾斜面301は、誘導加熱コイル101の扁平した方向に沿って延在しており、誘導加熱コイル101と同様な角度で水平面から傾いている。この傾斜面301の上にビレットが配置される。
【0025】
図3(A)には、断熱板201を閉め、外部からは断熱板201に設けられたビレット挿入孔202が見え、そこから内部に納められた最上部のビレット210が見える状態が示されている。なお、上部というのは、傾いた状態における誘導加熱コイルの相対的に上の方向の部分のことをいい、下部というのは、相対的に下の方向の部分のこという。また、図3(A)には、最下部のビレットを図1のY軸正方向にピストンによって押し出すためのビレット押出用孔205が示されている。また、このビレット押出用孔205から最下部のビレット205の端面の一部が見えている状態が示されている。図3(B)には、断熱板201を上方にスライドさせ、誘導加熱コイル101の内部101aを外部に開放した状態が示されている。この図3(B)の状態では、内部に納められた上から5番目までのビレットの端面が外部に露出する。なお、詳細な説明は省略するが、断熱板201以外の部分も断熱構造とされている。
【0026】
図3(C)および(D)には、図1(A)において、Y軸正の方向から見た誘導加熱コイル101の外観が示されている。誘導加熱コイル101のこの視点から見た側面(図1(A)の上側の側面)には、上下スライド開閉式の断熱板203が配置されている。図3(C)には、断熱板203を閉め、外部からは断熱板203に設けられたビレット排出孔204が見え、そこから内部に納められた最下部のビレット211が見える状態が示されている。図3(D)には、断熱板203を上方にスライドさせ、誘導加熱コイル101の内部101aを外部に開放した状態が示されている。この図3(D)の状態では、内部に納められた上から5番目までのビレットの端面が外部に露出する。
【0027】
図1に示されるように、誘導加熱コイル101の側面には、ビレット移動手段の一例である加熱コイル部ビレット押出装置(加熱コイル部ワーク押出装置)103が配置されている。加熱コイル部ビレット押出装置103は、傾斜した誘導加熱コイル101の傾斜方向に沿って移動が可能な構造とされ、複数の位置からのビレットの誘導加熱コイル100への挿入、およびビレットの誘導加熱コイル100からの排出を行う機能を有している。
【0028】
以下、加熱コイル部ビレット押出装置103について説明する。加熱コイル部ビレット押出装置103は、ベースとなる架台104を備えている。図1には、架台104上に、誘導加熱コイル101内に挿入する前段階にあるビレット105が配置されている状態が示されている。架台104上には、シリンダ106が固定されている。シリンダ106からはピストン107が図のY軸方向に出し入れ可能とされ、ピストン107によってビレット105を誘導加熱コイル100の方向(Y軸正方向)に押し出すことが可能とされている。ピストン107の駆動は、電磁アクチュエータまたは油圧によって行われる。
【0029】
架台104は、誘導加熱コイル101の傾斜方向に沿って配置された2本のレール108を誘導加熱コイル101と同様に傾いた状態で、誘導加熱コイル101の傾斜方向に沿って平行に移動可能な状態とされている。なお、2本のレール108と架台104の係合関係についての記載は図示省略されている。2本のレール108の間には、同様に誘導加熱コイル101の傾斜方向に沿って配置された雄螺子ロッド109が配置されている。雄螺子ロッド109は、モータ110によって回転する。なお、図1(B)には、架台104の駆動機構を示すために、レール108に係る構成の記載が省略され、架台104の駆動機構を構成する雄螺子ロッド109が見える作図とされている。
【0030】
雄螺子ロッド109は、モータ110によって回転する。架台104の下部には、内側に雌螺子部を有した螺合部111が固定されている。螺合部111の雌螺子部は、雄螺子ロッド109に噛み合っている。モータ110が回転すると、雄螺子ロッド109が回転し、雄螺子ロッド109に噛み合った螺合部111を誘導加熱コイル101の傾斜方向に沿って移動する駆動力が生じる。この駆動力により、架台104は、誘導加熱コイル101の傾いた長手方向(雄螺子ロッド109の延在方向)に沿って平行移動する。この架台104の移動により、加熱コイル部ビレット押出装置103は、図1(A)の実線の位置Aと破線の位置Bとの間の任意の位置に移動が可能とされている。
【0031】
位置Aと位置Bの間において、加熱コイル部ビレット押出装置103が移動可能とすることで、この移動範囲におけるピストン107によるビレットの誘導加熱コイル101内への挿入、および誘導加熱コイル101内からのビレットの排出を行うことが可能とされている。
【0032】
傾斜して配置された誘導加熱コイル101の最下部のビレット収納位置に対応して、加熱コイル部ビレット押出装置112が配置されている。加熱コイル部ビレット押出装置112は、シリンダ113、シリンダ113から出入りするピストン114を備えている。ピストン114が図1のY軸方向に動くことで、誘導加熱コイル101の最下部に収納されたビレット211が、ビレット受け部115に押し出される。図示省略されているが、ビレット受け部115は、誘導加熱コイル101の傾斜と同様に傾斜しており、この傾斜により、誘導加熱コイル101からピストン114によってビレット受け部115に押し出されたビレットは、更にビレット受け部116に転がり落ちる。
【0033】
ビレット受け部116は、均一加熱コイル部押出装置117と、均一加熱コイル120との間に配置されている。均一加熱コイル部押出装置117は、シリンダ118とピストン119を備えている。ピストン119は、ビレット受け部116に配置されたビレットを均一加熱コイル120の内部に押し込む。均一加熱コイル120は、ソレノイドコイルにより構成された誘導加熱コイルであり、最終的なビレットの加熱状態を均一にし、また誘導加熱装置100の後段に配置される鋳造装置や鍛造装置等へのビレットの供給タイミングの変動等による加熱状態の変化(ビレットの温度変化)を吸収するための補助的な誘導加熱を行う。
【0034】
符号121は、ビレット位置決め装置121である。ビレット位置決め装置121は、押さえ部122、アーム部123、ピストン124、シリンダ125を備えている。押さえ部122は、均一加熱コイル120の内部に向かって、ピストン119によって押し込まれたビレットの先端面を押さえる。これにより、均一加熱コイル120内に収められたビレットの位置決めが行われる。ピストン124は、シリンダ125からの出入りが可能で、また回転が可能な構造とされている。アーム部123は、ピストン124のY軸方向への移動により、押さえ部122をY軸方向における前後に移動させる。またピストン124の回転により、押さえ部122が均一加熱コイル120の軸線上から退避する。
【0035】
均一加熱コイル120の出口側(図1(A)の上側)には、複数のコロを備えた転がり搬送部126が配置されている。ピストン116によって均一加熱コイル120内部から押し出されたビレットは、コロの回転により搬送部126の上をY軸正方向に向かって移動する。転がり搬送部126の先には、例えば、加熱され半溶融状態とされたビレットを用いての射出成形を行う射出成形装置(図示省略)が配置されている。誘導加熱装置100の後段に配置される装置は、射出成形装置に限定されず、加熱後のビレットを利用する装置であれば他の装置であっても構わない。
【0036】
(誘導加熱処理)
以下、ビレットの誘導加熱を行う手順の一例を説明する。まず、誘導加熱コイル101内に複数のビレットを収納する作業の手順の一例を説明する。図4には、誘導加熱コイル101内にビレットを収納する工程の一例が段階的に示されている。まず、図1に示すように架台104上にビレットを配置した状態の誘導加熱コイル部ビレット押出装置103を、一番下の位置に移動させる(図4(A))。
【0037】
次に、図3(B)に示すように断熱板201を上方向にスライドさせ、誘導加熱コイル101の内部を開放する。次いで、図1のピストン107を前進させ、架台104上のビレットをY軸正の方向に押し出し、このビレットを誘導加熱コイル101内に押し出し、挿入する。図4(A)の位置関係で誘導加熱コイル101内に挿入されたビレットは、重力の作用で傾斜面301を転がり落ち、図4(B)の状態となる。図4(B)には、図4(A)の状態から、傾斜面301をビレット2つ分の距離転がり落ち、誘導加熱コイル101内の最下部に位置したビレット302が示されている。
【0038】
最初のビレットの挿入を行った後、誘導加熱コイル101に高周波電流を流し、誘導加熱を開始する。次に、加熱コイル部ビレット押出装置103を図1(A)の位置に戻し、次のビレットを架台104上に配置する。そして、図4(A)と同じ位置に加熱コイル部ビレット押出装置103を移動させ、1つ目のビレットの場合と同様の作業を行い、2つ目のビレットの挿入を行う。2つ目のビレットは、既に1つ目のビレット302があるので、ビレット1つ分の距離を転がり、ビレット302に接触した位置で止まる。
【0039】
以上の操作を繰り返し、3つ目(図4(C))、4つ目(図4(D))、5つ目(図4(E))とビレットの挿入を順次行う。3つ目から後は、既に挿入されているビレットの上に新たなビレットを挿入する操作となり、挿入したビレットの転がりは生じない。こうして、順次ビレットの挿入を行い、誘導加熱コイル101内に7個のビレットを収納させる。その後、図3に示す断熱板201を閉め、図3(A)、図3(C)に示す状態とする。また、架台104を図1(A)の位置に移動させ、次に装填するビレットを架台104上に置き、再装填作業に備える。
【0040】
こうして、図1(A)の状態における加熱処理が行われる。そして、最初に収納したビレット(最下部のビレット)が規定の加熱状態に達したら、図1のピストン114を前進させ、ピストン114を図3のビレット押出用孔205から誘導加熱コイル101内に挿入し、最下部のビレット211(図1参照)をビレット受け部115に押し出し、その後ピストン114を後退させる。この際、押し出されたビレットがあった部分には、隣接する斜面上側に位置する次のビレットが重力の作用により転がり落ちてくる。
【0041】
ビレット受け部115に押し出されたビレットは、ビレット受け部116に転がり落ちる。このビレット受け部116に移動したビレットは、ピストン119の前進によって、高周波電流が流されている均一加熱コイル120内に挿入される。この際、ビレット位置決め装置121の機能により、均一加熱コイル120内におけるビレットのY軸上の位置が調整される。均一加熱コイル120内において、加熱の均一性が調整されたビレットは、ピストン119の更なる前進により、図1のY軸正方向に移動し、転がり搬送部126上を搬送され、誘導加熱装置100から外部に送り出される。
【0042】
また、誘導加熱コイル101内の最下部に位置したビレットをピストン114でビレット受け部115に押し出し後、誘導加熱コイル101内で6個となったビレットが、ビレット1個分転がり落ちることで、最上部にビレット1個分のスペースが生じる。この最上部の空きが生じたタイミングで、ピストン107を前進させ、図3のビレット挿入孔202から新たな加熱前のビレットを誘導加熱コイル101の最上部に挿入する。この新たに挿入されたビレットは、最下部のビレットが順次排出される毎に、徐々に下部に転がって移動してゆき、その過程において誘導加熱コイル101内で加熱されてゆく。
【0043】
こうして、(1)傾いた誘導加熱コイル101の最下部からの加熱されたビレットの排出→(2)ビレットが斜面を転がり落ちることでスペースが生じる最上部への新たなビレットの挿入、のサイクルが繰り返され、連続的なビレットの加熱処理が行われる。
【0044】
(不具合対応処理)
誘導加熱の途中で、ビレットの加熱状態の不具合や自重による転がっての移動が困難になる不具合が発生する場合がある。この不具合が発生した場合における対処の一例を説明する。例えば、図3の符号401のビレットに不具合が生じた場合を想定する。この場合、図3の断熱板201と203を開き、ビレット401を誘導加熱コイル101の側面において露出させる。こうして、図3(B)および図3(D)の状態を得る。次いで、図1の加熱コイル部ビレット押出装置103を図3のビレット401の部分に移動させ、図3(B)に示す側のビレット401の側面をピストン107によって押す。これにより、不具合のあったビレット401を図1のY軸正方向に押し出し、誘導加熱コイル101から強制的に途中排出させる。
【0045】
(優位性)
以上述べた構成では、軸方向から見て扁平した構造を有するソレノイド構造の誘導加熱コイル101を水平面から傾けて配置している。ここで、誘導加熱コイル101内は傾斜面301を備え、この傾斜面301上に誘導加熱コイル101内に収納された複数のビレット102が配置される。そして、加熱コイル部ビレット押出装置103を、傾斜した誘導加熱コイル101の傾いた方向に沿って移動可能な構造とすることで、位置Aと位置Bとの間において誘導加熱コイル101内部へのビレットの搬入が可能とされている。
【0046】
この構成によれば、最終的なビレットの排出方向(Y軸方向)と加熱途中のビレットの搬送方向(転がりつつ自走する方向)(X軸方向)とが直交しているので、ビレットが一方向に移動しつつ加熱され、更に排出される構造に比較して占有スペースが削減される。また、位置A〜位置Bの間において、誘導加熱コイル101内部へのビレットの搬入が可能であり、誘導加熱コイルへのビレットの搬入を行う位置の自由度が高い。
【0047】
また、誘導加熱コイル110を傾けて配置し、その内部をビレットが自重により転がりながら動くようにすることで、加熱コイル内にビレットの搬送装置を配置する必要がなく、構造が簡略化される。加熱コイル内に搬送装置を配置した場合、設備コストが高くなり、また高温による搬送装置の傷みが生じるので、メンテナンスコストが高くなるが、本実施形態の場合は、その問題が生じない。
【0048】
また、図4に示すように、加熱コイル部ビレット押出装置103を傾いた誘導加熱コイル101の開口の長手方向に沿って平行移動させることで、ビレットの誘導加熱コイル101への搬入時に、ビレットが転がる距離を抑えることができ、ビレットが長い距離を転がり、それによりビレットの破損等が生じる問題を回避することができる。
【0049】
また、誘導加熱コイル110の内部において、加わる磁束の方向を軸として、ビレットが回転しつつ移動するので、ビレット内部の加熱状態の均一性が得られる。
【0050】
また、誘導加熱コイル101の内部において、ビレットに不具合が生じた場合に、加熱コイル部ビレット押出装置103によって、当該不具合ビレットを誘導加熱コイル101の内部から排出することが簡単に行える。ビレットを軸方向に直線的に並べ、誘導加熱コイル内を搬送させながら誘導加熱を行う構造では、加熱途中の一部のビレットに不具合が発生した場合、当該不具合ビレットのみを排除することは簡単でなく、煩雑な作業が必要となる。これに対して、本実施形態の誘導加熱装置では、簡単な作業で当該不具合ビレットを選択的に排除することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、誘導加熱装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
100…誘導加熱装置、101…誘導加熱コイル、101a…誘導加熱コイルの内部、101b…誘導加熱コイルの巻線部、102…ビレット、103…加熱コイル部ビレット押出装置、104…架台、105…ビレット、106…シリンダ、107…ピストン、108…レール、109…雄ネジロッド、110…モータ、111…螺合部、112…加熱コイル部ビレット押出装置、113…シリンダ、114…ピストン、115…ビレット受け部、116…ビレット受け部、117…均一コイル部押出装置、118…シリンダ、119…ピストン、120…均一加熱コイル、121…ビレット位置決め装置、122…押さえ部、123…アーム部、124…ピストン、125…シリンダ、126…転がり搬送部、201…断熱板、202…ビレット挿入孔、203…断熱板、204…ビレット排出孔、205…ビレット押出用孔、210…最上部のビレット、211…最下部のビレット、301…傾斜面、302…ビレット、401…不具合が生じたビレット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が軸に垂直な方向に長手形状に引き伸ばされた形状を有し、前記長手方向が水平面から傾いた状態で配置されたソレノイド構造の誘導加熱コイルと、
前記誘導加熱コイルの内部において複数のビレットを前記傾いた下方向に転がすための傾斜面と、
前記誘導加熱コイルの内部に向かって、軸方向からビレットを移動させるビレット移動手段と
を備え、
前記ビレット移動手段が前記誘導加熱コイルの長手形状に引き伸ばされた方向に沿って移動可能であり、この移動可能な範囲において、前記誘導加熱コイルの内部に向かってビレットを移動させることが可能であることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記ビレット移動手段の前記移動可能な範囲において、前記ビレット移動手段が前記誘導加熱コイルの内部に納められたビレットを前記誘導加熱コイルの外部に排出することが可能なことを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記誘導加熱コイルの軸方向両側には、前記ビレット移動手段の前記移動可能な範囲における前記ビレット移動装置によるビレットの移動を可能とする開閉式の断熱板が配置されていることを特徴とする請求項2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記誘導加熱コイル内に複数のビレットが収納されている状態において、
前記誘導加熱コイル内部の最下部のビレットが排出された後、前記収納された残りのビレットは、自重により前記傾斜面を下方に向かって転がり、この転がりによって生じた空いた空間に新たなビレットが前記ビレット移動手段によって挿入されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の誘導加熱装置。
【請求項5】
前記誘導加熱コイルの内部において、複数のビレットが前記傾斜面を転がりながら誘導加熱により加熱されることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の誘導加熱装置。
【請求項6】
前記傾いた角度が水平面に対して3°〜10°であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−146538(P2012−146538A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4525(P2011−4525)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000227825)日本アジャックス・マグネサーミック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】