説明

誘導式のエネルギ供給及びレーザ照射により内燃機関のピストンを製作するための方法

本発明は、内燃機関のピストンを製作するための方法であって、ピストンが、エッジ部を備えた燃焼室凹部を有しており、前記エッジ部は、該エッジ部が第1のステップにおいて誘導式のエネルギ供給により再溶融され且つ引き続くステップにおいてレーザビームにより再溶融されることにより硬化される。この場合、本発明では、レーザビームを、相対的な回転運動中にピストンに対して誘導させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の特徴を有する、誘導式のエネルギ供給及びレーザ照射により内燃機関のピストンを製作するための方法に関する。
【0002】
DE102007044696.0(特表2010−531946号公報)から、エッジ部を備えた燃焼室凹部を有するピストンを製作するためには、エッジ部を、第1のステップでは誘導式のエネルギ供給によって再溶融し、引き続くステップではレーザビームによって再溶融することにより、当該エッジ部を硬化させることが公知である。この燃焼室凹部のエッジ部の再溶融は、抵抗力のある組織構造を生ぜしめるので、前記ピストン、特にエッジ部の耐用年数は、燃焼圧及び燃焼温度に関する、今日の内燃機関に対する極端な要求に、ピストンの簡単な鋳造により製作されるエッジ部よりも良好に応えている。
【0003】
既に使用されている前記方法は、ピストンの強度に対する要求及び耐用年数の向上に対する要求の高まりに基づき、まだ十分に満足のいくものではない。それというのも、レーザビームは、該レーザビームが周回する間、このレーザビームの形状によって限られた大きさの範囲でしか溶融して硬化させないのに対して、別の範囲、即ちエッジ部のより深くに位置する範囲は溶融されず、ピストンの、正確にはピストン素材の、鋳造時に生じた組織構造を保持するからである。
【0004】
従って本発明の根底を成す課題は、燃焼室凹部を誘導式に加熱し且つレーザビームによって溶融する、内燃機関のピストンを製作するための方法を、更に改善することにある。
【0005】
この課題は、請求項1の特徴部に記載の構成手段によって解決される。
【0006】
本発明では、レーザビームを、相対的な回転運動中にピストンに対して誘導させる。
【0007】
ここでまず最初に確認しておかねばならないのは、一方ではピストンは静止しており、且つレーザビームはピストンに対して相対的な回転運動を行っている、即ち、レーザビーム自体はエッジ部に沿って運動される、ということである。これに対して択一的には、レーザビームを1点に向け、且つ同時にピストンをレーザビームに関して相対的に回転運動させる。これらの両バリエーションにおいて考えられるのは、レーザビームは、1つのレーザビーム源又は複数のレーザビーム源から直接にエッジ部に向けられるか、又は少なくとも1つのレーザビームを、例えばミラー系(スキャナとも呼ぶ)を介して間接的にエッジ部に向けて照射することである。
【0008】
本発明による方法を実施する際には、レーザビームは固定された状態で且つピストンは回転している状態、又はその逆の状態で、レーザビームが燃焼室凹部のエッジ部に向けられ、その結果、1つのレーザビーム源又は複数のレーザビーム源からのレーザビームは、ピストンに対して相対的な回転運動中に誘導される。この誘導は、例えばピストン行程軸線、エッジ部の頂点の上下の領域、エッジ部の横断面に関して行われる。これにより、本発明による方法では、エッジ部のより大きな表面積のみならず、より大きな深さをも溶融することができ、延いては組織構造の変化に基づいて、前記公知の方法に比べて著しく改良された硬化を達成することが可能である。つまりこのことは、本発明に基づく方法を実施することにより、公知の硬化方法によって得られる再溶融痕よりも幅が広く且つ深い再溶融痕が得られる、ということを意味している。
【0009】
本発明の改良では、レーザビームは回転運動中に断続的な点状で、燃焼室凹部のエッジ部の再溶融されるべき領域に向けられる。再溶融過程(溶融過程)を最適化し、且つ燃焼室凹部若しくはエッジ部のより一層大きな範囲(幅及び深さ)を再溶融するためには、レーザビームが複数のいわゆる「レーザポイント」又は「レーザスポット」に分配される。このことは例えば、レーザビームが相応の制御装置によって一時的に接続及び遮断されるか、又はレーザビームをあるときはエッジ部に向け、別のときにはこのエッジ部から離反する方向に向けることにより、レーザスポットを相応の光学系によって形成することにより行うことができる。このエッジ部の、レーザビームによる断続的な点状の照射は、1態様ではピストン又はレーザビーム源の回転運動中、連続的に行うことができる。
【0010】
本発明の別の態様では、まず最初にエッジ部の1部分領域が再溶融されてから、ピストンがレーザビームに対して相対的に回転運動され(又は反対に、レーザビームが回転運動されてピストンは静止している)、次いで次の部分領域が再溶融され、この場合、回転運動は、エッジ部の半径位置の周面が全体的に溶融されるまで、何度も実施される。これにより、エッジ部は、再溶融プロセスを最適化し、且つこのエッジ部の抵抗力を改善するために、部分領域毎に再溶融され、この場合、レーザビームの誘導により、特に点状照射との関連において、再溶融プロセスのための所望の幅及び深さを生ぜしめることができる。
【0011】
本発明の別の改良では、レーザビームの強度は照射、特に点状照射の経過中は不変であるか、又は変えられる。つまりこれは、レーザビームの誘導中、即ちレーザビームがエッジ部を全体的に掃射している間は、強度延いてはエネルギ供給は不変であってよい、ということを意味しており、このことは、エッジ部の延在部において一様な再溶融プロセスをもたらす。局所的に、即ち部分領域毎に異なる硬化度が所望されている場合には、レーザビームの強度をその誘導中に、また回転運動に関しても変更することができる。その結果、異なる硬化度を有するエッジ部の複数の部分領域が得られる。
【0012】
エッジ部の周方向延在部において、異なる硬化度を得るためには、強度延いてはエネルギ供給の変更を、再溶融されるべき領域に対するレーザビームの滞留時間に基づいて生ぜしめ且つ/又はレーザ源のエネルギ出力に基づいて生ぜしめることが考えられる。
【0013】
全体として本発明は、一方ではエッジ部の再溶融される範囲(特に幅及び深さ)が著しく増大され、更に所望の場合は、エッジ部の周方向延在部において異なる硬化度を生ぜしめることが可能である、という利点を提供する。更に、エッジ部の再溶融されるべき領域にわたるレーザビームの誘導と、特にエッジ部の断続的な点状の照射とが、エッジ部の再溶融に十分なエネルギを供与し、これにより、所望の深さ及び幅を再溶融することができ、しかもこれにより、照射された領域が溶け出して(wegschmilzt)、延いては鋳造プロセス(又は鍛造プロセス)により製作されたエッジ部の幾何学的な形状が変えられるということが同時に避けられる、という重大な利点を提供する。
【0014】
つまり本発明は、スキャナ、ビーム分配又は複数のレーザの使用に基づき、同じプロセス時間(例えばピストン加工のための回転)で著しく大きな溶融体積が得られる、という利点を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】レーザビームの誘導中のエッジ部の断続的な点状照射方法を示した図である。
【図2】レーザビームの誘導中のエッジ部の断続的な点状照射の別の方法を示した図である。
【図3】レーザビームの誘導中のエッジ部の断続的な点状照射の更に別の方法を示した図である。
【図4】レーザビームの誘導中のエッジ部の断続的な点状照射の更に別の方法を示した図である。
【0016】
以下に、本発明の実施例を図面につき詳しく説明する。
【0017】
図1には、回転送りの最中のピストン又はレーザビームの送り方向Vに関して、まず最初に、燃焼室凹部のエッジ部に対して、ピストン行程軸線に関して上下に掃射するように、レーザ源の接続及び遮断によって、又は適当な光学系によって、複数のレーザスポットをレーザビームで照射してから、1回の送り運動が行われ、照射を繰り返し、その後再び送り方向に進行させて、最終的にエッジ部の半径位置の周面を一周するまで、再度レーザビームを照射する、ということが示されている。
【0018】
同じ方法が図2及び図3に示されており、この場合は異なる数のレーザスポットに基づいて、異なるエネルギが、エッジ部の再溶融のために供給される。
【0019】
最後に図4に示した別の変化態様では、回転送り中にレーザビームがエッジ部の領域全体を掃射するが、この掃射は必ずしも点状ではなくて、連続的に行われてもよい。
【0020】
図1から図4には、その時々のレーザスポットに基づいて同じ再溶融エネルギが供給されることが示されている一方で、照射中に1つ又は複数のレーザスポットに関して異なるエネルギ及び/又は異なる滞留時間を指定することも考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のピストンを製作するための方法であって、ピストンが、エッジ部を備えた燃焼室凹部を有しており、前記エッジ部を、第1のステップにおいて誘導式のエネルギ供給により再溶融し且つ引き続くステップにおいてレーザビームにより再溶融することによって硬化させる形式のものにおいて、
レーザビームを、相対的な回転運動中にピストンに対して誘導させることを特徴とする、内燃機関のピストンを製作するための方法。
【請求項2】
エッジ部の再溶融されるべき領域に対して、レーザビームを断続的な点状で照射する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
まず最初にエッジ部の1部分領域を再溶融してから、ピストンをレーザビームに対して相対的に回転送りさせ(又はその逆)、次いでエッジ部の次の部分領域を再溶融し、この場合に前記回転送りをステップ毎に、エッジ部の半径位置に延在する周面全体が溶融されるまで何度も行う、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
照射、特に点状照射の過程におけるレーザビームの強度が不変である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
照射、特に点状照射の過程におけるレーザビームの強度を変化させる、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
レーザビームの強度を、エッジ部の再溶融されるべき領域に対するレーザビームの滞留時間に基づき変化させる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
レーザビームの強度を、エッジ部の再溶融されるべき領域に対するレーザビーム源のエネルギ出力に基づき変化させる、請求項5記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−529586(P2012−529586A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514384(P2012−514384)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003474
【国際公開番号】WO2010/142439
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(504233247)カーエス コルベンシュミット ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (20)
【氏名又は名称原語表記】KS Kolbenschmidt GmbH
【住所又は居所原語表記】Karl−Schmidt−Strasse, D−74172 Neckarsulm, Germany
【Fターム(参考)】