説明

誘導発熱ローラ装置

【課題】 ローラの肉厚内に形成した気液二相の熱媒体を封入する軸方向と同方向に延びるジャケット室の有効幅を、ローラの温度に制限されることなく簡単な構造で調整することができるようにすること。
【解決手段】 貫通孔11aの両端部に密閉栓23と伸縮自在のブッシュ24および固定ブッシュ22を配置してジャケット室11を形成し、前記密閉栓23に固定した連結ロッド26を、固定ブッシュ22の貫通ねじ孔22aと噛合して貫通する位置決めねじ25と回転伝達を制限する継手27を介して連結し、位置決めねじ25の回転で密閉栓23を貫通孔11a内で摺動移動して密閉栓23の位置を決める。これにより両側の密閉栓23で囲まれたジャケット室の有効幅を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘導発熱ローラ装置、詳しくはローラの周壁に形成した気液二相の熱媒体を封入するジャケット室の有効長を調整する調整機構に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導発熱ローラ装置は、回転する中空のローラの内部に、ローラの軸方向に沿って電磁誘導用のコイルを設置し、このコイルに流す交流電流で発生する交番磁束によりローラの周壁に電流を誘起し、その電流でローラの周壁をジュール発熱させる装置である。図3はこのような誘導発熱ローラ装置の一例を示すもので、1は中空のローラ、2はローラ1の両側に一体的に取り付けられた駆動軸、3は磁束発生機構、4は磁束発生機構3の誘導コイル、5は磁束発生機構3を支持する支持ロッド、6は軸受、7は温度センサ、8は制御器、9は交流電源、10は回転トランスである。駆動軸2はモータMに連結され、モータMの回転によりローラ1は回転する。
【0003】
磁束発生機構3を支持する支持ロッド5は駆動軸2内に挿通され、軸受6を介して駆動軸2によって支持されている。この支持によって磁束発生機構3はローラ1の中空内に回転することなく保持される。
誘導コイル4は、複数に分割されローラ1の軸方向に沿って配列され各誘導コイル4のリード線は支持ロッド5内を経由して外部に引き出されて制御器8を介して交流電源9に接続されている。温度センサ7はローラ1内に挿入され、その検出信号は回転トランス10により外部に導出し、制御器8に送られる。制御器8は温度検出信号に基づいて各誘導コイル4に印加する電圧を調整する。
【0004】
11は気液二相の熱媒体を封入するジャケット室で、たとえばドリルによってローラ1の軸方向に沿って穿孔し、適量の蒸留水などを注入してその端部を閉塞して形成される。このようなジャケット室11はローラ1の円周方向に沿って複数設けられ、各ジャケット室11内に封入した蒸留水などの液体が高温部位で熱を奪って気化し、その気体は低温部位に移動して熱を放出して液化する。すなわち、この潜熱の移動でローラ1の軸方向における表面温度を均一化し、ローラ1の表面に圧接した処理物12を均一に加熱または奪熱する。
【0005】
このようなジャケット室11は、ローラ1の外周表面からできるだけ近接した位置に設けることが望ましいが、ローラ1に加えられる荷重を考慮する必要があり、ジャケット室11からローラ1の外周表面まである程度の肉厚を確保しなければならない。この肉厚を確保すると、処理物12の軸方向の幅がジャケット室11の軸方向の幅よりも小さいと処理物12が当接する区域よりも当接しない区域の温度が肉厚内の熱流速の差によってジャケット室11がある限り高くなる。
【0006】
この温度差を低減するためにジャケット室の軸方向の幅を調整することが考えられている。このようにジャケット室の軸方向の幅の調整を可能にした従来例を、図3に示す誘導発熱ローラ装置と対応する部分に同一の符号を付して図4に示す。なお、図4では一つのジャケット室11の一方の端部を示しているが、ローラ1の円周方向に沿って設けられた複数のジャケット室11のすべての両側の端部において同様に形成されている。
【0007】
図4において、11aはローラ1の軸方向に沿ってドリルによって穿孔された貫通孔、13は貫通孔11aの開口端部に固定された中央部分が突出するブッシュ、14は外周にネジが形成された隔壁、15は内周面にネジが形成された筒状の送りネジ、16はスプラインシャフト、17はブッシュ13の突出部の外周に遊嵌する磁石筒、18は軸受、19はブッシュ13の突出部の内部に遊嵌する磁石棒、20は磁石棒19を回転する回転軸、21は回転軸19を支持する軸受である。
【0008】
隔壁14は、スプラインシャフト16に挿通され、その外周のネジは送りネジ15の内面のネジと噛合している。スプラインシャフト16はその一端は磁石筒17に固定され、軸受18で支持されている。外部から回転軸19を回転すると、磁石棒19が回転し、その回転で磁石筒17が回転し、スプラインシャフト16が回転し、隔壁14を回転し、隔壁14は筒状の送りネジ15により移動し、両側の隔壁14で区画されたジャケット室11のローラ1の軸方向の端部からの位置を、処理物12の幅などに応じて調整する。
【特許文献1】特許第2731983号公報
【0009】
しかし、隔壁の位置を磁石の回転で設定する以上の構成では、磁気結合により回転運動をジャケット内部に伝達し、隔壁の往復運動に変換しているが、ローラの温度が高温の場合使用できる磁石がなく、低温ローラにしか対応できないという問題があった。また、磁気結合では伝達できるトルクが小さく、このため軸受などを設けて隔壁の移動抵抗を小さくする必要があり、構造が複雑になる問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、ローラの肉厚内に形成した気液二相の熱媒体を封入する軸方向と同方向に延びるジャケット室の有効幅を、ローラの温度に制限されることなく簡単な構造で調整することができ、もって斯かる問題を解消する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ローラの周壁にその軸方向に延びる貫通孔を、互いに独立して、前記ローラの円周方向に沿って複数設け、前記各貫通孔の両端を貫通孔内に沿って移動可能な密閉栓で密封してジャケット室を形成し、その各ジャケット室内に気液二相の熱媒体を封入してなる誘導発熱ローラ装置において、前記各貫通孔の両端部の内周面にそれぞれ固定され、中央部に貫通ねじ孔を有する固定ブッシュと、前記固定ブッシュのねじ孔のねじと噛合し、前記固定ブッシュを貫通する位置決めねじと、一端が前記位置決めねじに回転伝達を制限する継手を介して連結され、他端が前記密閉栓に固定された連結ロッドとを有し、前記位置決めねじの回転により前記連結ロッドを直線移動して前記密閉栓の位置を調整してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、固定ブッシュのねじ孔で支持したねじと密閉栓に固定した連結ロッドとを、回転伝達を制限する継手を介して連結しているので、ローラの温度に制限される部材も回転軸を支持する軸受けを必要とせず、簡単な構造で密閉栓の位置、すなわちジャケット室の長さ幅を調整することができる。また、密閉栓と固定ブッシュとを伸縮自在の筒状のブッシュに連結すると、固定ブッシュのねじ孔からのジャケット室内の気液二相の熱媒体の漏れを防ぎ、ジャケット室の機密性をより高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ローラの肉厚内に形成した気液二相の熱媒体を封入する軸方向と同方向に延びるジャケット室の有効幅を、ローラの温度に制限されることなく簡単な構造で調整することができるようにする目的を、ローラに穿孔した貫通孔の両側の端部に、ジャケット室を構成する摺動可能の密閉栓を設け、この密閉栓にロッドを固定し、このロッドに回転伝達を制限する継手を介して固定ブッシュのねじ孔で支持したねじに連結し、ねじの回転による直線移動を密閉栓に伝達することにより実現した。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の実施例に係る誘導発熱ローラ装置のジャケット室の一端部の構成を示す断面図である。なお、図4に示す従来のジャケット室の一端部の構成と対応する部分には同一の符号を付している。すなわち、図1において、1は中空のローラ、2はローラ1の端縁に一体的に取り付けられた駆動軸、11aはローラ1の軸方向に沿ってドリルによって穿孔された貫通孔、12は処理物である。
【0015】
22は貫通孔11aの開口端部に嵌め込み固定された有底円筒状の固定ブッシュ、23は隔壁14の外周にシールリング23aを嵌め込んだ密閉栓、24は一端が密閉栓23の周縁に固定され他端が固定ブッシュ22の周縁に固定された伸縮自在の筒状のブッシュ、25は位置決めねじである。位置決めねじ25は有底円筒状の固定ブッシュ22の底部中央部に形成した貫通ねじ孔22aと噛合して、固定ブッシュ22で支持されている。
【0016】
図2は、位置決めねじ25と密閉栓23との連結構造を示す図で、26は連結ロッド、27は回転伝達を制限する継手である。連結ロッド26に一端は密閉栓23に固定され、他端は継手27を介して位置決めねじ25の一端に連結されている。
【0017】
以上の構成で外部に導出した位置決めねじ25のねじ頭25aを回転すると、位置決めねじ25は固定ブッシュ22の底部中央部に形成した貫通ねじ孔22aと噛合して、回転しながら貫通孔11aに沿ってローラ1の端縁側または中央部側へ移動する。継手27はその回転を制限しその移動を連結ロッドに伝達し、密閉栓23を貫通孔11aに沿ってローラ1の端縁側または中央部側へ直線移動する。この移動により密閉栓23を所定の位置に位置決め固定する。
【0018】
以上の説明はジャケット室の一端部についてのものであるが、斯かる構成は複数ある各ジャケット室の両端部に適用するものであることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例に係る誘導発熱ローラ装置のジャケット室の一端部の構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す位置決めねじと密閉栓との連結構造を示す図ある。
【図3】誘導発熱ローラ装置の断面図である。
【図4】従来のジャケット室の一端部の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 ローラ
2 駆動軸
14 隔壁
11 ジャケット室
11a 貫通孔
22 固定ブッシュ
23 密閉栓
24 伸縮自在のブッシュ
25 位置決めねじ
26 連結ロッド
27 継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラの周壁にその軸方向に延びる貫通孔を、互いに独立して、前記ローラの円周方向に沿って複数設け、前記各貫通孔の両端を貫通孔内に沿って移動可能な密閉栓で密封してジャケット室を形成し、その各ジャケット室内に気液二相の熱媒体を封入してなる誘導発熱ローラ装置において、前記各貫通孔の両端部の内周面にそれぞれ固定され、中央部に貫通ねじ孔を有する固定ブッシュと、前記固定ブッシュのねじ孔のねじと噛合し、前記固定ブッシュを貫通する位置決めねじと、一端が前記位置決めねじに回転伝達を制限する継手を介して連結され、他端が前記密閉栓に固定された連結ロッドとを有し、前記位置決めねじの回転により前記連結ロッドを直線移動して前記密閉栓の位置を調整してなることを特徴とする誘導発熱ローラ装置。
【請求項2】
一端が密閉栓の周縁に固定され他端が固定ブッシュの周縁に固定された伸縮自在の筒状のブッシュとを備えてなることを特徴とする請求項1に記載の誘導発熱ローラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−16973(P2007−16973A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201810(P2005−201810)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】