説明

誘導通信線の展張方式

【課題】複線式鉄道車両用の誘導無線通信方式おける金属回路方式による誘導通信線の展張を低コストで行えるようにした誘導通信線の展張方式を提供する。
【解決手段】複線式鉄道の上り下り車両1a,1bにそれぞれ設けられた送信アンテナ5a,5b及び受信アンテナ6a,6bと、複線式軌道4a,4bに沿って展張された誘導通信線8a,8bとの電磁誘導による誘導無線通信方式における誘導通信線の展張方式において、前記複線式軌道の中間部に設置された中柱11の所要の高さに二条の誘導通信線20を水平又は垂直に展張し、前記複線式鉄道の上り下り車両1a,1bで前記二条の誘導通信線20を共用するようにしたことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複線式鉄道の鉄道車両の乗務員と車両運行指令室等との間での誘導無線による通信方式における金属回路方式による誘導通信線の展張方式に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の、例えば地下鉄などの複線式鉄道における鉄道車両の乗務員と、車両運行指令室等との間で誘導無線による通信を行う場合は、図4の鉄道車両の走行する地下トンネルの横断面の模式図に示すように、複線式鉄道の車両軌道の各外側の壁等に沿ってそれぞれ金属回路方式を構成する二条の誘導通信線を展張し、この誘導通信線を介して行っている。即ち、図4において1a,1bは鉄道車両であり、それぞれ車両本体2a,2b,車輪組立3a,3bにより構成され、それぞれ地下鉄道用として敷設された上り,下りレール(軌道)4a,4b上に停車又は走行している状態を示している。
【0003】
5a,5bは送信アンテナであり、上下線路の車両本体2a,2bの例えば車両連結部の両側面の上部に設置されている。6a,6bは受信アンテナであり、送信アンテナ5a,5bと同様に車両連結部の両側面の下部に設置されている。7a,7bは鉄道車両1a,1bが走行する地下トンネルであり、このトンネル7a,7bの両外側には、金属回路方式を構成するそれぞれ二条の誘導通信線8a,8bが展張されている。
【0004】
なお、送信アンテナ5a,5b及び受信アンテナ6a,6bが車両本体2a,2bの両側に設置されているのは、車両本体2a,2bが上り線路又は下り線路の何れを走行しても誘導通信線8a,8bとの電磁誘導による結合が十分に行われるようにするためである。
また、トンネル7a,7bの両外側には、例えば第三軌条(トロリー線),通信ケーブル,信号用ケーブル,照明用ケーブル,光ファイバケーブルなどの異種ケーブルを設置する異種ケーブルダクト9a,9bや異種ケーブル棚10a,10bが設けられている。11はトンネル7a,7bの上り下り軌道の中間部に設けられている中柱である。
【0005】
図5は、車両1aから、例えば車両運行指令室に対して報告情報等を送信する場合の模式的系統図である。図5において12は車両1aに設けられた列車無線設備としての送信機、13は送信アンテナ5aから送出される送信信号の電磁波であり、誘導通信線8aと電磁誘導により結合される。14a.14bは誘導通信線8aに接続されている線路結合器、15は終端抵抗器、16は基地局であり線路結合器14a,14bにそれぞれ接続されている。17は基地局16に接続されている車両運行指令室である。基地局16には受信機が実装され(図示を省略)、復調した音声信号等を車両運行指令室17へ送りモニターする。なお、基地局16,線路結合器14,終端抵抗器15は、誘導通信線8の展張に伴ってそれぞれ複数設置されている。
【0006】
車両1aの送信機12からの送信信号は送信アンテナ5aから電磁波13として送出され、電磁誘導により誘導通信線8aと結合して報告情報等は送信され、線路結合器14及び基地局16の図示していない受信機で復調され、車両運行指令室17でモニターされる。
前述の送信アンテナ5aから送出される電磁波13と誘導通信線8aとの電磁誘導による結合状況は、図6に示すように、車両1aの送信アンテナ5aから送出される送信信号としての電磁波13は、誘導通信線8aと電磁結合され送信される。
【0007】
図7は、車両運行指令室17から車両1aに対して指令情報等を送信する場合の模式的系統図である。車両運行指令室17からの指令情報は、基地局16に実装された送信機(図示を省略)からの送信信号として線路結合器14aを介して誘導通信線8aに送信される。この誘導通信線8aから送出される送信信号に対応する電磁波18は、車両1aに設けられた受信アンテナ6aとの電磁誘導の結合により、当該受信アンテナ6aで受信され指令情報等が車両1aの受信機19により受信される。
前述の誘導通信線8aから送出される電磁波18と受信アンテナ6aの電磁誘導による結合状況は、図8に示すように、誘導通信線8aに発生する送信信号としての電磁波18は受信アンテナ6aとの電磁結合により受信される(例えば、特許文献1又は特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−174407号公報
【特許文献2】特開2003−81091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の誘導通信線の展張方式としての金属回路方式は、大地帰路方式や広幅二線方式に比較し、二条の誘導通信線の間隔を狭くして(約200〜500mm)展張するため、外来雑音の影響を受け難く、隣接した区間との分離ができる等有利な通信方式である。しかしながら、従来のこの展張方式は、複線式鉄道の各軌道の外側(外壁等)にそれぞれ金属回路として二条の誘導通信線を展張しているものであった。従って、複線区間では、四条の誘導通信線を必要とすると共に、多種類の異種ケーブルとの構築上の競合による誘導通信線の展張場所の制限及びコスト面で不利であった。本発明は、これらの課題を解決するために成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による誘導通信線の展張方式は、複線式鉄道の上り下り車両にそれぞれ設けられた送信アンテナ及び受信アンテナと、複線式軌道に沿って展張された誘導通信線との電磁誘導による誘導無線通信方式における誘導通信線の展張方式において、前記複線式軌道の中間部に設置された中柱の所要の高さに二条の誘導通信線を展張し、前記複線式鉄道の上り下り車両で前記二条の誘導通信線を共用するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、前述した構成を採ることにより、誘導通信線の展張方式でありながら、誘導通信線の展張場所の制限を受けることなく、かつ展張に関わるコストの低減を計ることができたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る誘導通信線の展張方式の一実施例を、図1及び図2に示した鉄道車両の走行する地下トンネルの横断面の模式図により説明する。なお、図1及び図2における各部の記号のうち、従来例について説明した各部と同一箇所は同一記号を付してある。この実施例においては、金属回路方式を構成する二条の誘導通信線20を複線軌道のレール4a,4bの中間に設けられている中柱11を挟んで、ほぼ水平に設置されている。この二条の誘導通信線20の設置する高さは、車両1a又は1bに設けてある送信アンテナ5a,5bと受信アンテナ6a,6bの位置関係にゆだねられるが、例えば、地下鉄車両の場合で、送信アンテナ5a,5bの中心の高さを、レール4の上面を基準として2600mmに設けられている場合、誘導通信線20の設置高さを2600mm以下にすると良い。
【0012】
また、二条の誘導通信線20の相互間の間隔は、中柱11を挟んでおおむね200〜500mmまたはそれ以上にするのが望ましい。受信アンテナ6a,6bの中心の高さは、レール4の上面を基準として1300mm以上に設けることが望ましい。また、送信アンテナ5a,5b及び受信アンテナ6a,6bのレール4の中心(軌道中心)から水平方向への距離は、それぞれ1300mm程度となり、この場合の誘導通信線20のレール4の中心からの水平距離はおおむね1700mmとなる。即ち、送信アンテナ5及び受信アンテナ6と誘導通信線20との水平方向の距離は、約400mm程度となる。二条の誘導通信線20の前述したような設置位置の選択は、中柱11側に異種ケーブルが殆ど設けられていないことから、誘導通信線20の展張位置を自由に定めることができる。
【0013】
なお、従来例における二条の内の一方(高い方)の誘導通信線8の設置高さは通常レール4の上面より2600mm程度の位置にあり、他方(低い方)の誘導通信線8の設置高さは2100mm程度の位置である。また、誘導通信線8のレール4の中心(軌道中心)から水平方向への距離は、1750〜1850mm程度であり、送信アンテナ5及び受信アンテナ6と誘導通信線20との水平方向の距離は450〜550mm程度である。従って、本発明の誘導通信線20の水平方向の設置位置の方が、従来例に比較して約50〜150mm程度、送信アンテナ5に近い位置に設けられることになる。
【0014】
この実施例における送信アンテナ5aから送出される電磁波と誘導通信線20との誘導無線の電磁結合の状況は、図1に示すように両者間の距離が従来例よりも短くなるため、結合の度合いが深まり、十分な電磁結合を図ることができた。
また、誘導通信線20から送出される電磁波と受信アンテナ6aとの誘導無線の電磁結合の状況は、図2に示すように両者間の距離が従来例より縦方向では長く、水平方向で短くなったため、若干の感度低下は発生するが、誘導通信線20から送出される電磁波は受信アンテナ6で確実にキャッチすることができる。
【0015】
図3に、誘導通信線を従来例のように複線軌道の各外側(外壁)に設けた場合と、本発明のように複線軌道の中柱に沿って設けた場合との、車両1aの送信アンテナ5aから送出される電磁波13aの誘導通信線20又は8での受信レベル特性を比較したデータをグラフ図として示す。図3に示すように、本発明における誘導通信線20に近い方の送信アンテナ5aからの受信レベルが約97dB(実線のデータ)に対して、従来例の誘導通信線8に近い方の送信アンテナ5aからの受信レベルは約95dB(破線のデータ)である。また、本発明における誘導通信線20から遠い方の送信アンテナ5aからの受信レベルが約67dBに対して、従来例の誘導通信線8から遠い方の送信アンテナ5aからの受信レベルは約58dBである。
【0016】
即ち、本発明における送信アンテナ5aと誘導通信線20との距離と、従来例の送信アンテナ5aと誘導通信線8との距離との差は、50〜150mm程度とそれ程大きくはないが、前述したように本発明の誘導通信線20での送信アンテナ5aからの受信レベルと従来例の誘導通信線8での送信アンテナ5aからの受信レベルとでは、近い方及び遠い方共に本発明の受信レベルが高い。従って、近い方及び遠い方の送信アンテナ5aから送出される合成された電磁波の受信レベルの差は、更に大きくなり、本発明の展張方式における受信レベルの優位性は明らかである。
【0017】
前述した本発明に係る図1及び図2の誘導通信線の展張方式の実施例は、二条の誘導通信線20を中柱11を挟んで水平方向に並列に展張したものであるが、図示はしていないが他の実施例としては、二条の誘導通信線20を中柱11の片側又は中柱11を挟んで上下(垂直)方向に並列に展張するようにしてもよい。この場合も、誘導通信線20を展張する高さは、特に車両1aに設けられている送信アンテナ5の高さを考慮して展張することを要する。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明による誘導通信線の展張方式は、複線式鉄道の軌道間に中柱を有する又は中柱相当施設を設置可能な誘導無線式の列車通信システムに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の複線軌道における誘導通信線の展張方式の一実施例の横断面と列車からの送信状態を示す模式図である。
【図2】本発明の複線軌道における誘導通信線の展張方式の一実施例の横断面と列車での受信状態を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施例と従来例との誘導通信線の展張方式における受信レベル特性を比較したグラフ図である。
【図4】従来の複線軌道における誘導通信線の展張方式の一例の横断面を示す模式図である。
【図5】車両から例えば車両運行指令室に対して報告情報等を送信する場合の模式的系統図である。
【図6】従来の複線軌道における誘導通信線の展張方式の一例の横断面と列車からの送信状態を示す模式図である。
【図7】車両運行指令室から車両に対して指令情報等を送信する場合の模式的系統図である。
【図8】従来の複線軌道における誘導通信線の展張方式の一例の横断面と列車の受信状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0020】
1a,1b 鉄道車両
2a,2b 車両本体
3a,3b 車輪組立
4a,4b レール(軌道)
5a,5b 送信アンテナ
6a,6b 受信アンテナ
7a,7b 地下トンネル
8a,8b,20 誘導通信線
9a,9b 異種ケーブルダクト
10a,10b 異種ケーブル棚
11 中柱
12 送信機
13 送信アンテナからの電磁波
14 線路結合器
15 終端抵抗器
16 基地局
17 車両運行指令室
18 誘導通信線からの電磁波
19 受信機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複線式鉄道の上り下り車両にそれぞれ設けられた送信アンテナ及び受信アンテナと、複線式軌道に沿って展張された誘導通信線との電磁誘導による誘導無線通信方式における誘導通信線の展張方式において、
前記複線式軌道の中間部に設置された中柱の所要の高さに二条の誘導通信線を展張し、前記複線式鉄道の上り下り車両で前記二条の誘導通信線を共用するようにしたことを特徴とする誘導通信線の展張方式。
【請求項2】
前記複線軌道の中間部の前記中柱に展張される二条の前記誘導通信線を前記中柱を挟んで略水平方向に所要の間隔をもって並列に展張するようにした請求項1に記載の誘導通信線の展張方式。
【請求項3】
前記複線軌道の中間部の前記中柱に展張される二条の前記誘導通信線を上下(垂直)方向に所要の間隔をもって並列に展張するようにした請求項1に記載の誘導通信線の展張方式。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−86704(P2006−86704A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268292(P2004−268292)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000166650)株式会社日立国際電気エンジニアリング (100)
【Fターム(参考)】