説明

誘電体としての適用のためのエナメル組成物と、そのようなエナメル組成物の用途

【課題】誘電体内へのガス泡の形成を防止可能な、あるいは少なくとも抑制可能な、改善されたエナメル組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、誘電体として適用するためのエナメル組成物に関する。本発明はまた、誘電体として適用するための、そのようなエナメル組成物の用途に関する。本発明は、さらに、そのようなエナメル組成物を持つ誘電層に関する。加えて、本発明は、そのような誘電層と、ステンレス鋼から少なくとも部分的に製造した支持構造とのアセンブリに関する。この場合、誘電層は、ステンレス鋼から製造した支持構造の一部分上に設けられる。本発明は、さらに、そのようなアセンブリを製造するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体として適用するためのエナメル組成物に関する。本発明はまた、誘電体として適用するための、そのようなエナメル組成物の用途に関する。本発明は、さらに、そのようなエナメル組成物を持つ誘電層に関する。加えて、本発明は、そのような誘電層と、ステンレス鋼から少なくとも部分的に製造した支持構造とのアセンブリに関する。この場合、誘電層は、ステンレス鋼から製造した支持構造の一部の上に設けられる。本発明は、さらに、そのようなアセンブリを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱素子の製造に誘電体中間層としてエナメルを使用することが知られている。この場合、誘電エナメル層上に、一般的にシルクスクリーン技術によって、金属トラックが設けられる。金属トラックを通して電流を導くことによって、熱を発生させて、それを、例えば液体を加熱するために、有効に適用できる。この場合、エナメルからの誘電体の製造は、比較的適切に熱を導通するが電気および磁気放射をほとんど導かない、機械的に強力な誘電体を生じる。さらに、エナメル誘電体は、平面や、例えば管等の曲面に比較的簡単に設けることができる。しかしながら、誘電体として適用するためのエナメルの組成は、特に高温(>400℃)での電気的性質の最適化を可能にするために重要である。誘電体の固有電気抵抗は、一般的に室温で高く、通常、1012Ω・cmより高いが、温度が上昇すると急降下し、400℃で約10Ω・cmである。リーク電流の大きさは、エナメル組成物の一部を形成するアルカリ金属酸化物で調節することができる。リーク電流を検出することによって、加熱素子の温度に関する、また通常、加熱素子によって加熱する媒体の温度に関する関連情報が得られる。品質を決定する、またそのことから適用性が決定するもう一つの特性は、誘電体のブレークダウン電圧である。誘電体を最適に機能させるには、誘電層の温度に関わりなくブレークダウン電圧を最大にしなければならない。この場合、誘電体のブレークダウン電圧は、例えば、誘電体の層の厚さ、エナメル組成物、誘電体内に延びる孔、エナメルの汚染、誘電体内に包含されたガス泡のサイズ等を含む多因子によって決定する。一般的に、エナメルの溶解状態中にエナメル内にガス泡が生じることが、理想的なブレークダウン電圧の(有意な)減少に最も関連することであると推測されている。エナメル層内のガス泡の(恒久的な)形成には、多数の原因が根底にあることを実験は示している。例えば、一般的に、溶解エナメルによる大気中の二酸化炭素の吸収は常に発生し、これによって、ガス泡がエナメル内に形成される。さらに、支持構造への溶解エナメルの適用中に、通常、大気(または他のタイプのガス)がエナメルに含まれる。このことによっても、ガス泡形成は同様に生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、誘電体内へのガス泡の形成を防止可能な、あるいは少なくとも抑制可能な、改善されたエナメル組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、この目的のために、序文で明示したタイプのエナメル組成物を提供する。この場合、エナメル組成物は、0からほぼ10質量%の酸化バナジウムからなるが、0から5質量%であることがより好ましい。実験は、エナメル組成物に僅かな酸化バナジウムを添加することによって、エナメル内のガス泡形成を抑制できること、また、ガス泡が依然として発生した場合には、エナメルから比較的効果的に、そして(ほぼ)完全に追い出すことができることを示した。酸化バナジウムの存在から多くの場合にエナメル層が比較的緩やかに閉じるという特質は、エナメル層内に比較的大きなガス泡が包含されることを防止する機能の重要な部分を担う。このように、比較的高密度の無孔構造で、比較的コンパクトなエナメルを形成でき、ブレークダウン電圧を相当に増加できる。試験結果は、このエナメル組成物によって形成した誘電体のブレークダウン電圧が、従来のエナメル組成物で達成可能な最大ブレークダウン電圧に比べ、少なくとも500%増加することを示した。さらに、本発明によって改善されたエナメル組成物を用いることによって、形成した誘電体内に、比較的高い圧縮応力(約1.1x10Paの代わりに約2.2x10Pa)を生じさせることもできるため、亀裂形成、そしてそれに関連するブレークダウン電圧の減少を同様に防止できる。従来のエナメル組成物のブレークダウン電圧とは対照的に、改善されたエナメル組成物のブレークダウン電圧は、エナメル組成物の加熱および冷却の反復数に関わりなく、長期間に渡り、実質的に一定値を保つため、エナメル組成物は、より耐久性がある。実験は、従来の誘電体での破損が、誘電体を数日間交流にかけた場合に生じることを示した。これは、誘電体に相当な劣化が生じる高度な分極が生じた結果である。誘電体の比較的急速な劣化とそれに伴う比較的急激な破損のこれらの悪影響を、本発明によるエナメル組成物を用いることによって防止できる。本発明によるエナメル組成物のもう一つの有意な利点は、酸化バナジウムを添加することによって、従来のエナメルに比べ、支持構造へのエナメルの顕著に良好な粘着が達成できることである。実験は、この場合、改善されたエナメル組成物が、エナメル組成物中の酸化バナジウムの濃度に依存して、従来のエナメルよりも最高約400%適切に支持構造へ粘着することを示した。本発明により改善されたエナメル組成物は、比較的高い圧縮応力、比較的高い軟化温度、そして比較的に低い誘電率、また、それに関連して、例えば加熱素子等の、多様な用途で誘電体としての適用に特に適当なエナメル組成物を形成する比較的高いブレークダウン電圧を持つという特徴がある。酸化バナジウムの含有量は、少なくとも0から10質量%であることに注目すべきである。このことは、上記に明示した有利な特性をエナメル組成物へ付与することが可能なよう、本発明によるエナメル組成物のいずれの変形実施例にも酸化バナジウムが存在することを意味する。
【0005】
酸化バナジウムは、実際、バナジウムと酸素との化合物の系統群によって形成され、これらの化合物は、バナジウムの酸化数による特徴がある。この場合、バナジウム族は、以下の化合物によって形成される。V2n−1(例えば、VO、VおよびV)、V2n+1(例えば、V)そしてVO。エナメル組成物内へ適用する酸化バナジウムは、比較的に安定な化合物であるV2O5によって実質的に形成されることが好ましい。および/あるいは高温(>660℃)でのエナメル組成物の溶解中に、もう一つの酸化バナジウムから形成される。
【0006】
十分な信頼性および耐久性のある様式でエナメル組成物のガラス格子を構成するために、エナメル組成物は、5から13質量%のBと、33から53質量%のSiOからなることが好ましい。エナメル組成物は、また、エナメル組成物の格子構造をさらに改善するために、5から15質量%のAl、および/あるいは0から10質量%のBiOからなることが好ましい。エナメルの粘性を改善するために、エナメル組成物には、20から30質量%のCaO、および/あるいは0から10質量%のPbOを加えることがより好ましい。加えて、一方で、エナメル組成物は、エナメル組成物の高温におけるリーク電流の最適化を可能にすることによって温度調節を可能にするために、そして他方で、亀裂の形成に十分に対抗可能なようにエナメル組成物の圧縮応力を増加させることによって、ブレークダウン電圧に有意な減少をもたらすために、0から10質量%のアルカリ金属酸化物からなることが好ましい。アルカリ金属酸化物は、以下の金属の一つ以上の酸化物によって形成することがより好ましい。リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウム。しかしながら、エナメルのその後の処理を可能にするために、一般的に、低温度(<1000℃)でエナメル組成物を溶解できることが重要である。さて、試験結果は、低温度でエナメル組成物を比較的容易に溶解可能にするためには、PbO、VおよびBiOの全質量割合が、4質量%を超えることが好ましいということを示した。
【0007】
本発明はまた、誘電体として適用するための、本発明によるエナメル組成物の用途に関する。
【0008】
本発明は、さらに、本発明によるエナメル組成物を持つ誘電層に関する。エナメル組成物は、実際、泡を含まないガラス、特に誘電体が必要な、または少なくとも望ましい多様な適用例に用いることができる。したがって、本発明によるエナメル組成物によって形成したガラス繊維を持つことを想定することも可能である。加えて、エナメル組成物は、例えば、プリント回路基板(PCB)や他のタイプの適用内へ含ませることができる。しかしながら、誘電層は、例えば、オランダ特許NL1014601に指定されて示されている加熱素子の構成要素として適用することが好ましい。
【0009】
本発明は、さらに、そのような誘電層と、(フェライト)ステンレス鋼(AISI430および/あるいはAISI444が好ましい)から少なくとも部分的に製造した支持構造とのアセンブリに関する。この場合、誘電層は、ステンレス鋼から製造した支持構造の一部分に適用する。支持構造は、全体がステンレス鋼から製造されることがより好ましい。その場合、支持構造は、通常、板状になる。しかしながら、支持構造をより広く解釈することも想定可能である。この場合、支持構造を、例えば液体容器とみなすことができ、加熱素子を用いて、エナメル誘電体を通して液体を加熱できる。誘電層の層厚さは、実質的に60マイクロメートルから200マイクロメートルであることが好ましい。そして60から120マイクロメートルであればより好ましい。形成されたエナメル層は、泡を含まず比較的に信頼性が高く強い構造を持つため、信頼性の高い誘電体に比較的高いブレークダウン電圧を備えるのに、(約140マイクロメートルの従来の層厚さに比べ)上記の比較的小さな層厚さで十分である。明らかではあるが、より小さな層厚さは、材料の節約になるので、一般的に、経済的観点から魅力的である。特定な好適実施例においては、アセンブリは、加熱素子によって形成される。この場合、誘電層の、支持構造から遠隔な側面に、熱発生手段を設ける。熱発生手段は、一般的に、エナメル・コーティングへの厚膜として適用される、一つ以上の金属トラックによって形成されることになる。
【0010】
本発明は、また、上記に明示したアセンブリを製造するための、次のステップからなる方法に関する。a)ステンレス鋼から製造した支持構造の一部分の少なくとも一部にエナメルを適用するステップ。そしてb)支持構造上へエナメルを焼き付けるステップ。ステップb)による支持構造上へのエナメルの焼き付けは、840℃から940℃の温度で実行することが好ましい。ステップa)による支持構造へのエナメルの適用は、湿式スプレー技術、シルクスクリーン技術または液浸技術によって実行することが好ましい。ステップb)の実行後にエナメルの最終層厚さが、実質的に80マイクロメートルから135マイクロメートルになるよう、ステップa)中に支持構造へ適量のエナメルを適用することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この方法は、以下の非限定的な実験の記述に基づいて説明できる。
【0012】
(例1)
従来の回転溶解方法を用い、異なる原材料を適切な比率で混合して、エナメル・フリットAを溶解した。これによって、溶解後、以下の組成を持つガラスが生じた。B:8%(m/m);SiO:45%(m/m);V:3%(m/m);Al:10%(m/m);CaO:28%(m/m);PbO:6%(m/m)(全100%(m/m))。このガラス・エナメル・フリットを、それから従来のボールミルで挽いて、1−2B25600#の微粉度を持つエナメル・スラリーを形成した。このエナメル・スラリーは、以下の組成を持っていた。エナメル・フリットA100重量部、ジルコン・シリケート10重量部、そして水55重量部。挽いて100メッシュ・シーブの篩にかけた後、このエナメルをステンレス鋼基板(AISI444)上へスプレーし、920℃の温度でこの基板上へ焼き付けた。焼き付け後の層厚さは、120±10マイクロメートルに達した。
【0013】
(例2)
例1と同様であるが、(溶解後)以下の組成を持つエナメル・フリットBを用いた。B:8%(m/m);SiO:45%(m/m);V:5%(m/m);Al:10%(m/m);CaO:25%(m/m);PbO:4%(m/m);LiO:3%(m/m)(全100%(m/m))。
【0014】
明らかではあるが、本発明は、ここに説明した模範的な実施例に限定されず、添付の請求項の範囲内で、本分野の同業者には自明である多数の変形が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0からほぼ10質量%で存在する酸化バナジウムからなる、誘電体として適用するためのエナメル組成物。
【請求項2】
前記酸化バナジウムが、Vによって実質的に形成されることを特徴とする、請求項1に記載のエナメル組成物。
【請求項3】
前記エナメル組成物が、また、5から13質量%のB、33から53の質量%のSiO、5から15質量%のAl、そして20から30質量%のCaOからなることを特徴とする、請求項1または2に記載のエナメル組成物。
【請求項4】
前記エナメル組成物が、さらに、0から10質量%のPbOおよび/あるいは0から10質量%のBiOからなることを特徴とする、前述の請求項のいずれかに記載のエナメル組成物。
【請求項5】
前記エナメル組成物が、0から10質量%のアルカリ金属酸化物からなることを特徴とする、前述の請求項のいずれかに記載のエナメル組成物。
【請求項6】
前記アルカリ金属酸化物が、以下の金属、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムの一つ以上の酸化物によって形成されることを特徴とする、請求項5に記載のエナメル組成物。
【請求項7】
誘電体として適用するための、請求項1から6のいずれかに記載のエナメル組成物の用途。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載のエナメル組成物を持つ誘電層。
【請求項9】
請求項8に記載の誘電層と、ステンレス鋼から少なくとも部分的に製造した支持構造とのアセンブリであって、前記誘電層が、ステンレス鋼から製造した前記支持構造の一部に適用されている、アセンブリ。
【請求項10】
前記誘電層の層厚さが、実質的に115マイクロメートルから130マイクロメートルであることを特徴とする、請求項9に記載のアセンブリ。
【請求項11】
前記アセンブリが加熱素子によって形成され、前記支持構造から遠隔な誘電層の側面に、熱発生手段が設けられていることを特徴とする、請求項9または10に記載のアセンブリ。
【請求項12】
請求項9または10に記載のアセンブリを製造するための方法であって、
a)ステンレス鋼から製造した支持構造の前記一部の少なくとも一部分にエナメルを適用するステップ、そして
b)前記支持構造上へ前記エナメルを焼き付けるステップからなる、方法。
【請求項13】
ステップb)による前記支持構造上への前記エナメルの焼き付けが、840℃から940℃の温度で実行されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップa)による前記支持構造への前記エナメルの適用が、湿式スプレー技術によって実行されることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
ステップb)の実行後の前記エナメルの最終層厚さが、実質的に60マイクロメートルから200マイクロメートルになるよう、適量のエナメルがステップa)中に前記支持構造へ適用されることを特徴とする、前述の請求項12から14のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2008−521200(P2008−521200A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−542951(P2007−542951)
【出願日】平成17年11月23日(2005.11.23)
【国際出願番号】PCT/NL2005/050049
【国際公開番号】WO2006/083160
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(506071645)フェロ テクニーク ホールディング ビー.ヴイ. (4)
【氏名又は名称原語表記】FERRO TECHNIEK HOLDING B.V.
【住所又は居所原語表記】Bremstraat 1,NL−7011 AT Gaanderen,the Netherlands
【Fターム(参考)】