説明

誘電体セラミックスおよび共振器、並びに誘電体セラミックスの製造方法

【課題】 強度および破壊靱性などの機械的特性をより向上させた誘電性セラミックスを提供する。
【解決手段】 La,Al,Ca,Tiを含有する多結晶体の誘電体セラミックスであって、その結晶粒界にCaAl1219(ヒボナイト)結晶を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体セラミックスおよびこれを用いた誘電体共振器、並びに誘電体セラミックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話の中継基地局などには電波を拾うための共振器が組み込まれている。その共振器の中核部には、フィルタとしての誘電性部材が使用される。この誘電性部材は、例えば、誘電体セラミックスからなる。従来、優れた誘電特性を有する誘電体セラミックスとして、La,Al,CaおよびTiを含有するものが提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−76633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年は共振器のコンパクト化が進んでおり、組み込みの際に加わる応力等によって誘電性部材に亀裂や破損が生じる恐れがあった。従って、強度および破壊靱性などの機械的特性をより向上させた誘電性セラミックスが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様による誘電体セラミックスは、La,Al,Ca,Tiを含有する多結晶体であり、その結晶粒界にCaAl1219(ヒボナイト)結晶を有する。
【0006】
また、本発明の一態様による誘電体共振器は、前記誘電体セラミックスからなる誘電性部材をフィルタとして用いる。
【0007】
また、本発明の一態様による誘電体セラミックスの製造方法は、La,Al,Ca,Tiを含有する多結晶体であり、その結晶粒界にCaAl1219(ヒボナイト)結晶を有する誘電体セラミックスの製造方法であって、酸化ランタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウムおよび酸化チタンの粉末を混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥させた前記混合物を成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を焼成する焼成工程とを有する。前記混合工程において、前記酸化アルミニウムおよび前記炭酸カルシウムの平均粒径は、それぞれ1μm未満である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様による誘電体セラミックスによれば、機械的特性を向上させることができる。
【0009】
また、本発明の一態様による誘電体共振器によれば、誘電性部材の機械的特性を向上させることができ、組み立て等もより容易となる。
【0010】
また、本発明の一態様による誘電体セラミックスの製造方法によれば、機械的特性の優れた誘電体セラミックスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る共振器を模式的に示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0013】
本発明の実施の形態による誘電体セラミックスは、La,Al,Ca,Tiを含有する多結晶体であって、その結晶粒界にCaAl1219(ヒボナイト)結晶を有する。
【0014】
粒界にCaAl1219(ヒボナイト)結晶を有する誘電体セラミックスとすれば、従来よりも機械的特性を向上させることができる。その理由は次の通りである。従来からLa−Al−Ca−Ti系の誘電体セラミックスは主にLaAlOやCaTiOなどの結晶から構成されており、その結晶同士はSi,Al,Caなどを含む非晶質相から構成される粒界によって結合されている。そして、誘電体セラミックスの強度は粒界の強度に依存する。本実施形態による誘電体セラミックスでは、この粒界に、柱状のヒボナイト(CaAl1219)結晶を析出させることにより、その粒子架橋効果により、誘電体セラミックスが粒界破壊を起こした際に、粒界に集中する応力を柱状のヒボナイト(CaAl1219)結晶により分散させることができるようになる。従って、誘電体セラミックスの機械的特性を向上させることが可能となる。さらには、ビボナイト(CaAl1219)結晶を粒界に存在させると、そのピンニング効果によって、結晶の粒成長が抑制され、微細結晶で構成された高緻密な結晶形態をとることができるため、機械的特性が向上する。
【0015】
なお、上記ヒボナイト結晶が結晶の3重点に相当する粒界にあれば、より機械的特性を向上させることが可能となるために好ましい。
【0016】
また、上記粒子架橋効果とは、セラミック多結晶体において、2つ以上のセラミック粒子の粒界に集中する応力を、2つ以上のセラミック粒子に接するあるいはその粒界に接するように存在させた矩形形状の結晶に分散させる効果のことである。
【0017】
また、ピンニング効果とは、主成分の結晶以外の、主成分と反応性の低い少数の他の結晶をセラミック多結晶体中に存在させ、セラミック多結晶体を構成する主成分の結晶の粒成長を抑制する効果のことである。
【0018】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、組成式をαLa2X・βAl23・γCaO・δTiO2(但し、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γ,δがそれぞれ0
.056≦α≦0.214,0.056≦β≦0.214,0.286≦γ≦0.500,0.230<δ<0.470の範囲にあり、α+β+γ+δ=1であることを満足している。
【0019】
本実施形態による誘電体セラミックスにおいて、各成分のモル比α,β,γおよびδを上記の範囲に限定した理由は以下の通りである。
【0020】
まず、0.056≦α≦0.214としたのは、この範囲にすると、誘電体セラミックスの比誘電率(εr)が大きく,Q値が高く、共振周波数の温度係数τfの絶対値が小さくなるからである。特に、αの下限は0.078が好ましく、αの上限は0.187が好ましい。
【0021】
また、0.056≦β≦0.214としたのは、この範囲にすると、誘電体セラミックスの比誘電率(εr)が大きく、Q値が高く、τfの絶対値が小さくなるからである。特に、βの下限は、0.078が好ましく、βの上限は、0.187が好ましい。
また、0.286≦γ≦0.500としたのは、この範囲にすると、誘電体セラミックス
の比誘電率(εr)が大きく、Q値が高く、τfの絶対値が小さくなるからである。特に、γの下限は0.330が好ましく、γの上限は0.470が好ましい。
【0022】
また、0.230<δ<0.470としたのは、この範囲にすると、誘電体セラミックスの比誘電率(εr)が大きく,Q値が高く,τfの絶対値が小さくなるからである。特に、δの下限は0.340が好ましく,δの上限は0.450が好ましい。
【0023】
また、本実施形態による誘電体セラミックスは、X線回折における2θ=36.2℃付近のヒボナイト(CaAl1219)結晶のピーク強度X1と、2θ=33.1°付近の主ピーク強度X2の比率X1/X2が0.001〜0.1であるとよい。この比率X1/X2は小さすぎると、ヒボナイト(CaAl1219)結晶が少なくなり、結晶粒界での粒子架橋効果が思うように発揮されず、従来のLa−Al−Ca−Ti系誘電体セラミックスと同等以上の高い機械的特性が得られることが困難となる。一方、比率X1/X2が大きすぎると、ヒボナイト(CaAl1219)結晶が多くなり、柱状結晶が重なることから、重なりの部分と結晶粒界の間に空隙が生じるため、この部分が気孔として誘電体セラミックス中に多く残存し、誘電体セラミックスの密度を低下させ、結果として、機械的特性が低下し易くなる。よって、本実施の形態による誘電体セラミックスの上記比率X1/X2は、0.001以上、0.1以下であるとよい。
【0024】
なお、上記X線回折チャートは、例えばX線回折装置(BrukerAXS社製 ADVANCE)により、測定範囲2θ=10°〜0°,CuKα測定の条件で測定することが可能である。さらに、ヒボナイト結晶と本実施形態の誘電体セラミックスの主ピークが存在する2θ=31°〜38°の条件でCuKα測定すれば、より正確な測定を実施することが可能である。
【0025】
また、本実施形態による誘電体セラミックスでは、ヒボナイト(CaAl1219)結晶の平均粒径が500nm〜3μmであるとより好ましい。ヒボナイト結晶の平均粒径が小さすぎると、平均粒径が小さすぎるために、粒子架橋効果やピンニング効果が得られにくく、ヒボナイト結晶の平均粒径が大きすぎると、結晶が大きすぎ、ヒボナイト結晶が粒界に応力を発生させる要因となる可能性があるため好ましくない。
【0026】
ヒボナイト結晶の平均粒径が500nmを超えると、粒子架橋効果やピンニング効果が十分得られ、3μm以下であると、ヒボナイト結晶が粒界に応力を発生させる要因となる可能性が低いため好ましい。
【0027】
なお、ヒボナイト結晶の平均粒径については、電子顕微鏡を用いて所定倍率にて結晶写真をとり、この写真の所定範囲内の結晶粒径を写真のスケールに合わせて測定して、その平均値を算出することによって得られる。
【0028】
また、本実施形態による誘電体セラミックスでは、ヒボナイト(CaAl1219)結晶のアスペクト比が1〜5であるとより好ましい。ヒボナイト結晶のアスペクト比が小さすぎると、ヒボナイト結晶の長さが短く、粒界において粒子架橋効果が得られにくく、アスペクト比が大きすぎると、ヒボナイト結晶が長すぎて粒界に応力を発生させる要因となる可能性があるため好ましくない。
【0029】
ヒボナイト結晶のアスペクト比が1以上であると、粒界において粒子架橋効果が十分得られ、アスペクト比が5以下であると、粒界に応力を発生させる要因となる可能性が低いため好ましい。
【0030】
なお、上記アスペクト比は、透過電子顕微鏡により、誘電体セラミックスの粒界を観察
して柱状のヒボナイト(CaAl1219)結晶を確認し、画像に移った矩形形状の長軸の長さaと短軸の長さbの比率a/bを算出することにより求めることが可能である。
【0031】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、ボイド率が4%以下であるとより好ましい。これにより、誘電体セラミックスがより緻密化されるため、強度や硬度などの機械的特性の低下を抑えることができる。よって、ハンドリング時、落下時、共振器内への取付け時および各携帯電話基地局等への設置後にかかる衝撃等によって、誘電体セラミックスにカケや割れおよび破損等が生じ難い。より好ましくはボイド率を3%以下とする。
【0032】
なお、このボイド率は、例えば100μm×100μmの範囲が観察できるように、任意の倍率に調節した金属顕微鏡またはSEM等により、誘電体セラミックスの磁器表面および内部断面の数カ所を写真または画像として撮影し、この写真または画像を画像解析装置により解析して数カ所のボイド率を算出し、この算出したボイド率の平均値を求めることにより算出することが可能である。画像解析装置としては例えばニレコ社製のLUZEX−FS等を用いればよい。
【0033】
また、本実施形態による誘電体セラミックスは、不可避不純物として、Fe,Sr,Na,Ca,K,Si,Pb,Ni,CuまたはMgを酸化物換算で合計1質量%以下含んでいても良い。これにより、各種誘電特性の値が低下することが抑制され、焼結体としての機械的特性の低下が抑制される。
【0034】
なお、不可避不純物量は、誘電体セラミックスの一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸などの溶液に溶解した後、IPC発光分光分析装置(島津製作所製:ICPS−8100)を用いてそれぞれの元素の量を測定し酸化物換算することにより得られる。測定装置の誤差は分析値をnとするとn±√nである。
【0035】
次に、本実施形態による誘電体セラミックスの製造方法について以下に詳細を説明する。具体的には、例えば以下の工程(1)〜(6)を実施する。
【0036】
(1) 出発原料として、高純度の酸化ランタン(La)と高純度の酸化アルミニウム(Al),炭酸カルシウム(CaCO)および酸化チタン(TiO)の各粉末を準備する。しかる後、それぞれの原料を所望の割合となるように秤量後、純粋を加え、混合原料の平均粒径が2μm以下となるまで1〜100時間、ジルコニアボール等を使用したボールミルにより湿式混合及び粉砕を行い混合物を得る。このとき、出発原料のうち、酸化アルミニウムと炭酸カルシウムについては、予め粉砕するなどして微粒化させ、焼成時の反応性を高めた平均粒径1μm未満の原料を用いる。
【0037】
なお、上記各原料の粒径の測定方法としては、出発原料および混合、粉砕後の原料の一部を分散媒中に分散機を用いて分散させた後、例えばマイクロトラック(9320−X100;日機装(株)社製)を用いたレーザー回折・散乱法により粒径や粒度分布を測定することができる。 また、得られた粒度分布の粒度データから、累積度数50%の粒径(
D50)を平均粒径とする。他に粒度データ累積度数10%(D10)の粒径や累積度数90%(D90)の粒径などを求めることも可能である。
【0038】
(2) (1)で得られた混合物をステンレス製容器に移し、乾燥後、メッシュパスして、本実施形態による誘電体セラミックスの原料粉末を得る。
【0039】
(3) (2)で得られた原料粉末に3〜10重量%のバインダと純水を加えた後、ジルコニアボール等を使用したボールミルにより湿式混合を行い、その後、例えばスプレードライ法等により造粒し、造粒粉体を得る。
【0040】
(4) (3)で得られた造粒体を、例えば金型プレス法、冷間静水圧プレス法、および押し出し成形法等により任意の形状に成形する。なお、造粒体の形態は粉体等の固体のみならず、スラリー等の固体、液体混合物でも良い。この場合、液体は水以外の液体、例えばIPA(イソプロピルアルコール)、メタノ−ル、エタノ−ル、トルエン、又はアセトン等でも良い。
【0041】
(5)得られた成形体を大気中1500℃〜1700℃で5〜10時間保持して焼成する。より好ましくは1550〜1650℃で焼成するのが良い。
【0042】
なお、本実施の形態による誘電体セラミックスの製造方法では、誘電体セラミックスの粒界にヒボナイト(CaAl1219)結晶を存在させるために、上記(1)の工程において、原料として用いる酸化アルミニウムと炭酸カルシウムの平均粒径を1μm未満とし、焼成時における酸化アルミニウムと炭酸カルシウムの反応性を高めている。酸化アルミニウムと炭酸カルシウムの平均粒径が1μm未満であると、酸化アルミニウムと炭酸カルシウムの焼成時における反応性が向上し、粒界にヒボナイト結晶を生成しやすい。
【0043】
また、従来の誘電体セラミックスの製造方法では、上記(1)の工程の前に、予め酸化ランタンと酸化アルミニウム、炭酸カルシウムと酸化チタンをそれぞれ混合し、熱処理後、粉砕して適度な平均粒径のLaAlOとCaTiOの合成原料を得てから、両者を混合する方法が用いられているが、本実施の形態による誘電体セラミックスの製造方法では、この合成原料を生成せずに、酸化ランタン(La),酸化アルミニウム(Al),炭酸カルシウム(CaCO)および酸化チタン(TiO)を直接混合するため、粒界にヒボナイト(CaAl1219)結晶を生成しやすくなる。 また、合成
原料を生成する必要がないので、製造コストを低減できる。
【0044】
また、(5)の工程の後に、(5)の工程によって得られた焼成体を酸素5〜30体積%以上含むガス中において、温度1500〜1700℃、圧力300〜3000気圧で、1分〜100時間、より好ましくは、温度1550〜1650℃、圧力1000〜2500気圧で20分〜3時間熱処理してもよい。この熱処理により、焼成体をより緻密化して、機械的特性を向上させるとともに、表面に酸化皮膜を作って表面を滑らかにし、亀裂等の発生する可能性をより低減させることができる。
【0045】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスを使用した誘電体共振器の一例について以下に説明する。図1に示すTEモ−ド型の誘電体共振器1は、軽量なアルミニウム等の金属からなる金属ケース2と、金属ケース2の内壁の相対向する両側に設けられた入力端子3及び出力端子4と、入出力端子3と出力端子4の間にフィルタとして配置された、上述した誘電体セラミックスからなる誘電性部材5とを有する。このような誘電体共振器1は、入力端子3からマイクロ波が入力され、マイクロ波は誘電性部材5と自由空間との境界の反射によって誘電性部材5内に閉じこめられ、特定の周波数で共振を起こす。そして、この信号が出力端子4と電磁界結合して出力される。
【0046】
また、図示しないが、本実施形態の誘電体セラミックスを同軸型共振器やストリップ線路共振器、誘電体磁器共振器およびその他の共振器に適用しても良いことは勿論である。
【0047】
さらには、入力端子3および出力端子4を誘電体磁器5に直接設けても誘電体共振器1を構成できる。
【0048】
また、誘電性部材5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなる所定形状の共振媒体であるが、その形状は直方体、立方体、板状体、円板、円柱、多角柱、または、その他共
振が可能な立体形状であればよい。また、入力される高周波信号の周波数は500MHz〜500GHz程度であり、共振周波数としては2GHz〜80GHz程度が実用上好ましい。
【実施例1】
【0049】
ヒボナイト(CaAl1219)結晶を粒界に有する本実施形態の誘電体セラミックスと、比較例としてヒボナイト(CaAl1219)結晶のない従来の誘電体セラミックスを製造し、両者の機械的特性を比較する試験を実施した。
【0050】
まず、本実施形態による誘電体セラミックスの製造方法を以下に示す。
出発原料として純度99.5%以上、平均粒径1μmの酸化ランタン(La)と、純度99.5%以上、平均粒径1μmの酸化チタン(TiO)と、純度99.5%以上、平均粒径0.8μmの酸化アルミニウム(Al),純度99.5%以上、平均粒径0.8μmの炭酸カルシウム(CaCO)を準備する。
【0051】
そしてそれぞれの出発原料を誘電体セラミックスの組成式を、αLa2X・βAl23・γCaO・δTiO2(但し、3≦x≦4)としたとき、α=0.150,β=0.1
50,γ=0.35,δ=0.35のモル比となるように秤量後、ボールミル内にジルコニアボールとともに投入し、1〜100時間の湿式混合を行ってスラリーを得た。
【0052】
そして、上記スラリーに1〜10質量%のバインダを加えて、さらに所定時間湿式混合した後、ボールミルからスラリーを取り出し、これをスプレードライヤーで噴霧造粒して2次原料を得て、この2次原料を金型プレス成形法により、厚さ5mm,幅7mm,長さ65mmの角柱状に複数個ずつ成形し、成形体を得た。
【0053】
得られた成形体を大気中1500℃〜1700℃で10時間保持して焼成して本実施形態の誘電体セラミックスの角柱状焼結体の試料を得た。
【0054】
また、比較例の従来の誘電体セラミックスについては、出発原料として純度99.5%以上のLa,Al,CaCOおよびTiOを準備し、それぞれの出発原料を誘電体セラミックスの組成式を、αLa2X・βAl23・γCaO・δTiO2
但し、3≦x≦4)としたとき、α=0.150,β=0.150,γ=0.35,δ=0.35のモル比となるように秤量後、LaとAlとを混合した混合原料とCaCOとTiOを混合した混合原料とし、それぞれの混合原料を別々のボールミル内で純水を加え、混合原料の平均粒径が2μm以下となるまでジルコニアボールを使用したボールミルにより、湿式混合および粉砕し1次調合を行い2種類の混合物を得る。 そ
してそれぞれの混合物を乾燥後、1200℃で仮焼しLaAlO,CaTiO仮焼物を得る。
【0055】
得られた2種類の仮焼物を湿式粉砕により、LaAlO,CaTiOの仮焼物ともに1〜2μmの平均粒径となるように、ジルコニアボールを使用したボールミルを使って粉砕しLaAlO、CaTiOの原料を得る。
そして前記LaAlO原料、CaTiO原料を混合し、純水を加え1〜100時間ジルコニアボールを使用したボールミルにより、湿式混合を行ってスラリーを得た。
【0056】
そして、上記スラリーに1〜10質量%のバインダを加えてから所定時間混合した後、脱水し、このスラリーをスプレードライヤーで噴霧造粒して2次原料を得て、この2次原料を金型プレス成形法により、厚さ5mm,幅7mm,長さ65mmの柱状に複数個ずつ成形し、成形体を得た。 得られた成形体を大気中1500℃〜1700℃で10時間保
持して焼成して従来の誘電体セラミックスの角柱状焼結体の試料を得た。
【0057】
次に、本実施形態による誘電体セラミックスの複数個の角柱状焼結体と従来の誘電体セラミックスの複数個の角柱状焼結体について、JIS R 1601−1995に準拠した試験片形状となるよう研削加工と研磨加工をそれぞれ施し、アセトン中で超音波洗浄した。その後、本実施形態の誘電体セラミックスからなる複数の角柱状焼結体と従来の誘電体セラミックスからなる複数の角柱状焼結体について、それぞれ3点曲げ強度試験を実施し、その3点曲げ強度データから、本実施形態の誘電体セラミックスと従来の誘電体セラミックスのそれぞれの3点曲げ強度の平均値を算出した。
【0058】
また、3点曲げ強度試験後にその試験片の一部を使い、本実施形態による誘電体セラミックスと従来の誘電体セラミックスの焼結体について、X線回折装置(BrukerAXS社製 ADVANCE)により、測定範囲2θ=10°〜0°,CuKα測定の条件で表面をX線回折測定し、ヒボナイト(CaAl1219)結晶の有無を確認した。
【0059】
その結果、従来の誘電体セラミックスの焼結体は、上記複数個の角柱状体の3点曲げ強度の平均値が190MPaであり、X線回折でヒボナイト(CaAl1219)結晶のピークは検出されなかった。
【0060】
これと比較して、本実施形態による誘電体セラミックスの焼結体については、上記複数個の角柱状体の3点曲げ強度の平均値が230MPaであり、従来の誘電体セラミックスと比較して、強度が向上していることが確認された。また、X線回折でヒボナイト(CaAl1219)結晶のピークが検出された。
【0061】
また、出発原料の酸化アルミニウム(Al)と炭酸カルシウム(CaCO)の平均粒径を1.0μmとし、それ以外は上記本実施の形態による誘電体セラミックスと同等の製造方法により製造した比較例について、同様の方法にて3点曲げ強度を測定したところ、3点曲げ強度が180MPaと低下した。
【実施例2】
【0062】
次に、本実施形態による誘電体セラミックスについて、αLa2X・βAl23・γCaO・δTiO2の組成式におけるα,β,γ,δの値をいろいろな数値に変え、より好
ましい誘電特性が得られる範囲を検討した。
【0063】
試料については、上記組成式のα,β,γ,δの値が表1に示すモル比の値となるように、出発原料である純度99.5%以上、平均粒径1μmの酸化ランタン(La)と、純度99.5%以上、平均粒径1μmの酸化チタン(TiO)と、純度99.5%以上、平均粒径0.8μmの酸化アルミニウム(Al)と、純度99.5%以上、平均粒径0.8μmの炭酸カルシウム(CaCO)の混合比率を調整し、焼結体の形状を円柱状とした以外は、実施例1に記載の本実施形態による誘電体セラミックスの製造方法と同様の製造方法を用いて試料No.1〜24を製造した。
【0064】
また、誘電特性は、円柱共振器法により測定周波数3.5〜4.5GHzで比誘電率εr,Q値を測定した。Q値は、マイクロ波誘電体において一般的に成立する(Q値)×(測定周波数f)=一定の関係から、1GHzでのQ値に換算した。
【0065】
結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示すように、0.056≦α≦0.214,0.056≦β≦0.214,0.286≦γ≦0.500,0.230≦δ≦0.470の範囲内にある試料No.2−5,8−10,13−17,19,21,22,24については、比誘電率εrが40〜48の範囲内、Q値が30000以上であり、より良好な特性が得られる。
【0068】
αの値が0.056未満あるいは0.214を超える範囲の試料No.1,6については、比誘電率εrが40〜48の範囲内ではない。
【0069】
また、βの値が0.056未満あるいは0.214を超える範囲の試料No.7,11についてもαの値と同様に比誘電率εrがより良好な40〜48の範囲内ではない。
【0070】
また、γの値が0.286未満あるいは0.5を超える範囲の試料No.12,18については、比誘電率εrかまたはQ値が30000未満である。
【0071】
また、δの値が0.230以下あるいは0.470以上の範囲の試料No.1については、比誘電率εrが40〜48の範囲内ではない。
【実施例3】
【0072】
次に、実施例2の試料No.14と同じ組成の誘電体セラミックスについて、1500〜1700℃の範囲で焼成し、X線回折における2θ=36.2°付近のヒボナイト(CaAl1219)結晶のピーク強度X1と、2θ=33.1°付近の主ピーク強度X2の比率X1/X2の値を調整し、実施例1,2と同様の方法にて曲げ強度、比誘電率εr,Q値を測定した。
【0073】
結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2から、全ての試料について、曲げ強度は200MPa以上であり、優れた機械的特性を示したが、特に、X1/X2の値が0.001〜0.1の範囲の試料No.26〜29については、曲げ強度が230MPa以上、比誘電率εrが40〜48,Q値が30000以上のより良好な範囲となった。
【符号の説明】
【0076】
1:誘電体共振器
2:金属ケース
3:入力端子
4:出力端子
5:誘電性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
La,Al,Ca,Tiを含有する多結晶体の誘電体セラミックスであって、その結晶粒界にCaAl1219(ヒボナイト)結晶を有することを特徴とする誘電体セラミックス。
【請求項2】
組成式を、
αLa2X・βAl23・γCaO・δTiO2(但し、3≦x≦4)
と表したときモル比α,β,γ,δが下記式を満足することを特徴とする請求項1に記載の誘電体セラミックス。
0.056≦α≦0.214
0.056≦β≦0.214
0.286≦γ≦0.500
0.230<δ<0.470
α+β+γ+δ=1
【請求項3】
X線回折における2θ=36.2°付近のヒボナイト(CaAl1219)結晶のピーク強度X1と、2θ=33.1°付近の主ピーク強度X2の比率X1/X2が0.001〜0.1であることを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体セラミックス。
【請求項4】
前記ヒボナイト(CaAl1219)結晶の平均粒径が500nm〜3μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の誘電体セラミックス。
【請求項5】
前記ヒボナイト(CaAl1219)結晶のアスペクト比が1〜5であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の誘電体セラミックス。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の誘電体セラミックスからなる誘電性部材をフィルタとして用いたことを特徴とする誘電体共振器。
【請求項7】
La,Al,Ca,Tiを含有する多結晶体であり、その結晶粒界にCaAl1219(ヒボナイト)結晶を有する誘電体セラミックスの製造方法であって、
酸化ランタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウムおよび酸化チタンの粉末を混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を乾燥させる乾燥工程と、
乾燥させた前記混合物を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成する焼成工程と
を有し、
前記混合工程において、前記酸化アルミニウムおよび前記炭酸カルシウムの平均粒径は、それぞれ1μm未満である誘電性セラミックスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−153050(P2011−153050A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16578(P2010−16578)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】