説明

誘電体セラミックスおよび共振器

【課題】 機械的強度および比誘電率を向上させた誘電体セラミックスおよびフィルタとしてこの誘電体セラミックスを備える共振器を提供する。
【解決手段】 Ln,Al,Me,Ti(Ln=La,Nd,Smから選ばれる1種、Me=CaまたはSr)の酸化物の多結晶体100質量%に対し、リンを五酸化二リン換算
で0.7質量%以下(0質量%を除く)含有する誘電体セラミックスである。この誘電体セ
ラミックスは、リンを五酸化二リン換算で0.7質量%以下(0質量%を除く)含有するこ
とにより、リンを含有しない、およびリンを五酸化二リン換算で0.7質量%を超えて含有
する、Ln,Al,Me,Tiの酸化物の同じモル比の多結晶体からなる誘電体セラミックスと比較して、機械的強度を向上させることができるとともに、比誘電率を高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話の中継基地局,BSアンテナ等に組み込まれる共振器に使用される誘電体セラミックスに関する。また、フィルタとしてこの誘電体セラミックスを備える共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話の中継基地局,BSアンテナ等には共振器が組み込まれている。この共振器の中核部にはフィルタとして誘電体セラミックスが使用されており、周波数によって要求される比誘電率は異なることから様々な比誘電率を有する誘電体セラミックスが提案されている。
【0003】
このような誘電体セラミックスとして、本願出願人は、金属元素として希土類元素(Ln),Al,CaおよびTiを含み、これらの成分をモル比でaLnOx・bAl・cCaO・dTiOと表したとき、a,b,c,dおよびxの値が0.056≦a≦0.214,0.056≦b≦0.214,0.286≦c≦0.500,0.23≦d≦0.470,3≦x≦4を満足する誘
電体セラミックスを提案していた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−076633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
共振器のフィルタとして用いられる誘電体セラミックスには、フィルタとして載置台に取り付けるときにかかる応力によって欠けや割れが生じることが少ないことが望まれている。また、誘電体セラミックスの販売価格は年々下落していることから、焼成後の研削加工時や作製過程における取り扱いによって生じる欠けや割れを抑制して、歩留まりを向上させなければならず、誘電体セラミックスの機械的強度を向上させる必要があった。
【0006】
また、希土類元素を含有する組成において、希土類元素の原料は安定して入手することが困難となって価格が高騰することも考えられることから、誘電体セラミックスを構成する酸化物の多結晶体となる原料の使用量を抑えつつ、比誘電率が向上した誘電体セラミックスが求められている。
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、機械的強度および比誘電率を向上した誘電体セラミックスおよびフィルタとしてこの誘電体セラミックスを備える共振器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の誘電体セラミックスは、Ln,Al,Me,Ti(Ln=La,Nd,Smから選ばれる1種、Me=CaまたはSr)の酸化物の多結晶体100質量%に対し、リンを
五酸化二リン換算で0.7質量%以下(0質量%を除く)含有することを特徴とするもので
ある。
【0009】
本発明の共振器は、フィルタとして上記構成の本発明の誘電体セラミックスを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の誘電体セラミックスによれば、Ln,Al,Me,Ti(Ln=La,Nd,Smから選ばれる1種、Me=CaまたはSr)の酸化物の多結晶体100質量%に対し、
リンを五酸化二リン換算で0.7質量%以下(0質量%を除く)含有することにより、リン
を含有しない、およびリンを五酸化二リン換算で0.7質量%を超えて含有する、Ln,A
l,Me,Tiの酸化物の同じモル比の多結晶体からなる誘電体セラミックスと比較して、機械的強度を向上させることができるとともに、比誘電率を向上させることができる。そして、機械的強度を向上させることができることにより、焼成後の研削加工時や作製過程における取り扱いによって生じる欠けや割れを少なくすることで歩留まりを向上させることができる。また、リンを含有することで比誘電率を向上させることができるので、Ln,Al,Me,Tiの酸化物の同じモル比の多結晶体からなり、リンを含有しない誘電体セラミックスと同じ比誘電率を得ようとしたときには、リンの添加量の基準となる誘電体セラミックスを構成する酸化物の多結晶体となる原料の使用量を少なくすることができる。
【0011】
また、本発明の共振器によれば、上記構成の誘電体セラミックスからなる機械的強度が向上したフィルタを備えることから、長期間にわたって良好な性能を安定して維持した信頼性の高い共振器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の共振器の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態の誘電体セラミックスは、Ln,Al,Me,Ti(Ln=La,Nd,Smから選ばれる1種、Me=CaまたはSrのいずれか1種)の酸化物の多結晶体100質
量%に対し、リンを五酸化二リン換算で0.7質量%以下(0質量%を除く、以下同意)含
有することを特徴としている。このように、リンを五酸化二リン換算で0.7質量%以下含
有することにより、リンを含有しない、およびリンを五酸化二リン換算で0.7質量%を超
えて含有する、Ln,Al,Me,Tiの酸化物の同じモル比の多結晶体からなる誘電体セラミックスよりも機械的強度を向上させることができるとともに、比誘電率を向上させることができる。
【0015】
ここで、機械的強度を向上させることができるのは、誘電体セラミックスの焼成工程において、リンを五酸化二リン換算で0.7質量%以下含有することによって、理由は明らか
ではないがLn,Al,Me,Tiの酸化物の結晶の成長が抑えられて粒径が小さくなり、緻密化を図ることができるからであると考えられる。これに対し、リンを含有していなければ、上記効果を得ることができない。また、リンを五酸化二リン換算で0.7質量%を
越えて含有するときには、粒径を小さくすることはできるものの、リンの含有量の増加により粒界に形成される液相の体積が増加することとなるため、機械的強度を向上させる効果が低減する。
【0016】
そして、機械的強度を向上させることができることにより、焼成後の研削加工時や作製過程における取り扱い、フィルタとして載置台に取り付けるときにかかる応力によって生じる欠けや割れを少なくすることができる。好ましくは、リンを五酸化二リン換算で0.1
質量%〜0.5質量%含有させることにより、機械的強度を示す3点曲げ強度で240MPa以上とすることができる。
【0017】
また、比誘電率を向上させることができるのは、Ln,Al,Me,Tiの酸化物の多
結晶体からなる誘電体セラミックスの焼成工程において、リンを五酸化二リン換算で0.7
質量%以下含有することによって、粒界にリンの酸化物の液相が形成されて誘電体セラミックスの比誘電率に影響するボイドを減少させることできるとともに、上述した粒径を小さくできることにより多結晶体の体積が増加するからである。これに対し、リンを含有していなければ、ボイドを減少させることができず、リンを五酸化二リン換算で0.7質量%
を越えて含有するときには、リンの含有量の増加により粒界に形成される液相の体積が増加することとなるため、比誘電率を向上させる効果を得ることができない。
【0018】
また、リンを五酸化二リン換算で0.7質量%以下含有することによって、比誘電率を向
上させることができるので、Ln,Al,Me,Tiの酸化物の同じモル比の多結晶体からなり、リンを含有しない誘電体セラミックスと同じ比誘電率を得ようとしたときには、リンの添加量の基準となる誘電体セラミックスを構成する酸化物の多結晶体となる原料の使用量を少なくすることができる。
【0019】
なお、本実施形態における誘電体セラミックスの粒径については、プラニメトリック法により求めることができる。誘電体セラミックスの表面を研磨し、この研磨した面をSEMにより500倍の倍率で撮影する。そして、この撮影写真若しくは画像を用いて、面積が
既知の円を描き、円内の粒子数および円周にかかる粒子数をカウントして、以下のように粒径を算出する。
【0020】
円の面積をA,円内の粒子数をNc,円周にかかった粒子数をNj,倍率をMとしたとき、単位面積当たりの粒子数Ngは、(Nc+(1/2)×Nj)/(A/M2)で表されるため、円の面積A、円内の粒子数Nc、円周にかかった粒子数Nj、および倍率Mを得ることにより、単位面積当たりの粒子数Ngを得ることができる。そして、ここで得られた単位面積当たりの粒子数Ngを1/√(Ng)に入れて求めた値を本実施形態における粒径とする。
【0021】
また、本実施形態における誘電体セラミックスのボイド率については、誘電体セラミックスの表面を研磨し、この研磨した面をSEMにより200倍の倍率で撮影する。そして、
この撮影画像を画像解析装置(LUZEX−FS;ニレコ社製等)により解析して、数カ所におけるボイドの面積率を測定し、この算出した数カ所におけるボイドの面積率の平均値を本実施形態におけるボイド率とする。
【0022】
なお、本実施形態の誘電体セラミックス中に含まれる各成分の含有量については、誘電体セラミックスの一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸などによって溶解する前処理を行なった後に、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置(ICPS−8100;(株)島津製作所製)を用いて、検量線法またはイットリウムを内標準物質とする内標準法を用いて測定を行ない、得られた各成分の金属量を酸化物換算することにより得ることができる。
【0023】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、組成式を、αLa・βAl・γCaO・δTiO(但し、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γ,δが0.056≦α≦0.214,0.056≦β≦0.214,0.286≦γ≦0.500,0.230≦δ≦0.470,α+β+γ+δ=1を満足する組成とすることが好ましい。通常セラミックスは、多数の成形体を同時に焼成するが、焼成位置によっては多少なりの熱履歴の差を生じるものであり、この熱履歴の差は比誘電率のバラツキに繋がる。ここで、LnとしてLaを、MeとしてCaを選択したのは、理由はあきらかではないが、焼成工程での熱履歴の違いによって生じる比誘電率のバラツキを小さくすることができるからである。
【0024】
なお、ここでいう比誘電率のバラツキとは、多数の成形体を同時に焼成して得られた誘
電体セラミックスの任意の複数個における比誘電率の最大値から最小値を差し引いた値のことであり、La,Al,Ca,Tiの酸化物の多結晶体からなる誘電体セラミックスとすることで比誘電率のバラツキを0.3以下とすることができる。これにより、誘電体セラ
ミックスを量産するにあたって、誘電体セラミックスとなる成形体の焼成位置による比誘電率のバラツキを小さくすることができるので、目的とする比誘電率を有した誘電体セラミックスを安定して得ることができる。そして、上記組成範囲とすることにより、具体的には、比誘電率のバラツキが0.3以下であり、800〜900MHz帯の周波数の共振器に適し
た比誘電率が41〜45の誘電体セラミックスを得ることができる。
【0025】
次に、図1に示す断面図に基づいて本実施形態の共振器を説明する。
【0026】
図1に示す例の共振器1は、金属ケース2,入力端子3,出力端子4,セラミック体5および載置台6を有する。金属ケース2は、軽量なアルミニウム等の金属からなり、入力端子3および出力端子4は、金属ケース2の内壁の相対向する両側に設けられている。セラミック体5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなり、入力端子3と出力端子4との間の載置台6上に配置され、フィルタとして用いられるものである。
【0027】
このような共振器1において、入力端子3からマイクロ波が入力されると、入力されたマイクロ波は、セラミック体5と自由空間との境界における反射によってセラミック体5内に閉じこめられ、特定の周波数で共振を起こす。そしてこの共振した信号が出力端子4と電磁界結合することにより、金属ケース2の外部に出力される。
【0028】
上記構成の共振器1は、携帯電話の基地局やBSアンテナに好適に使用されるものである。なお、共振器1の構成は上述した構成に限定されず、入力端子3および出力端子4をセラミック体5に直接設けてもよい。また、セラミック体5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなる所定形状の共振媒体であるが、その形状は直方体,立方体,板状体,円板,円柱,多角柱または筒状体など共振が可能な立体形状であればよい。
【0029】
そして、共振器1が、機械的強度が向上した本実施形態の誘電体セラミックスをフィルタとして備えることにより、フィルタとして載置台に取り付けるときにかかる応力によって欠けや割れを生じることが少ないので、長期間にわたって良好な性能を安定して維持した信頼性の高い共振器1とすることができる。
【0030】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスの製造方法について説明する。
【0031】
まず、Lnの酸化物として、酸化ランタン(La),酸化ネオジウム(Nd)および酸化サマリウム(Sm)の粉末と、Meの酸化物として、酸化カルシウム(CaO)および酸化ストロンチウム(SrO)の粉末とを準備する。また、酸化アルミニウム(Al)および酸化チタン(TiO)の粉末を準備し、以上を出発原料とする。さらに、添加原料であるリンを含む粉末として、P,NHPO等を準備する。
【0032】
そして、La,Nd,Smから選ばれる1種と、CaOまたはSrOと、Alと、TiOとの出発原料である粉末を用いて所望の割合となるように秤量する。また、添加原料であるリンを含む粉末、例えばNHPOを、出発原料の総量100質量%に対して、五酸化二リン換算で0.7質量%以下秤量する。
【0033】
次に、秤量した出発原料と添加原料と純水とをボールミル等に入れ、ジルコニア質焼結体等からなるボールを使用して、平均粒径が2μm以下となるまで湿式混合および粉砕を行なってスラリーを得る。なお、焼成時の反応性を高めるには、予め粉砕するなどして平
均粒径が1μm未満に微粒化させた原料を用いることが好ましい。
【0034】
なお、各原料、または湿式で混合および粉砕を行なった際の平均粒径については、例えばマイクロトラック(9320−X100;日機装(株)製)を用いて、レーザー回折・散乱法
により粒径や粒度分布を測定し、得られた粒度分布データにおける累積度数50%の粒径(D50)を平均粒径とする。
【0035】
次に、スラリーに3〜10質量%のバインダを加えて所定時間混合した後、ボールミルからスラリーを取出し、スプレードライヤーで噴霧乾燥して造粒体を得る。そして、この造粒体を用いて、例えば金型プレス法,冷間静水圧プレス法または押し出し成形法等により任意の形状に成形する。
【0036】
次に、得られた成形体を大気中1500℃〜1700℃で1〜10時間保持して焼成する。これにより、誘電体セラミックスを得ることができる。なお、誘電体セラミックスをより緻密化させるためには、1550〜1650℃で焼成することが好ましい。
【0037】
そして、上記製造方法により作製された本実施形態の誘電体セラミックスは共振器のフィルタとして用いることができる。また、本実施形態の誘電体セラミックスは、共振器以外に、MIC(Monolithic IC)用誘電体基板,誘電体導波路または積層型セラミックコンデンサに使用することができる。
【実施例1】
【0038】
リンの含有量を異ならせたLn,Al,Me,Tiの酸化物の多結晶体からなる誘電体セラミックスを作製し、種々の特性を評価した。
【0039】
まず、出発原料として純度が99.5%以上であり、平均粒径が1μmのLnの酸化物(La,Nd,Sm)と、純度が99.5%以上であり、平均粒径が0.8μm
の酸化アルミニウム(Al)と、純度が99.5%以上であり、平均粒径が0.8μmの
Meの酸化物(CaO,SrO)と、純度が99.5%以上であり、平均粒径が1μmの酸化チタン(TiO)を準備した。また、添加原料として純度が99.5%以上であり、平均粒径が0.5mmのリン酸二水素アンモニウム(NHPO)を準備した。
【0040】
次に、出発原料については、Ln,Al,Me,Tiの酸化物のmol%が表1,2に示すように、また、添加原料については、出発原料の総量100質量%に対する質量%が表
1,2に示すように秤量し、純水とともにジルコニアボールの入ったボールミル内に入れ、26時間の湿式で混合および粉砕を行なってスラリーを得た。
【0041】
次に、このスラリーに6質量%のバインダを加えて、さらに所定時間湿式混合した後、ボールミルからスラリーを取り出し、これをスプレードライヤーで噴霧乾燥して造粒体を得た。そして、この造粒体を用いて、金型プレス成形法で、直径が20mm,厚みが10mmの円柱状のペレットを各試料について複数個成形し、成形体を得た。
【0042】
次に、得られた成形体を大気中1580℃で2時間保持して焼成して、試料No.1〜144
の誘電体セラミックスを得た。
【0043】
得られた各試料について、上記誘電体セラミックスの比誘電率,粒径,ボイド率の測定および3点曲げ強度試験を行なった。
【0044】
まず、比誘電率の測定については、各試料の平面部を平面研磨し、アセトンで洗浄し100℃で1時間乾燥させた後、円柱共振器法(国際規格IEC61338−1−3(1999))により
測定周波数3.5〜4.5GHzで各試料5個について比誘電率を測定し、平均値を算出した。
【0045】
次に、粒径については、プラニメトリック法により求めた。試料の表面を研磨し、この研磨した面をSEMにより500倍の倍率で撮影した。そして、この撮影画像を用いて面積
が既知の円を描き、円内の粒子数および円周にかかる粒子数をカウントして、以下のように粒径を算出した。
【0046】
円の面積をA,円内の粒子数をNc,円周にかかった粒子数をNj,倍率をMとしたとき、単位面積当たりの粒子数Ngは、(Nc+(1/2)×Nj)/(A/M2)で表されるため、この式に、円の面積A,円内の粒子数Nc,円周にかかった粒子数Njおよび倍率Mの値を入れて、単位面積当たりの粒子数Ngを得た。そして、得られた単位面積当たりの粒子数Ngを1/√(Ng)に入れて粒径を求めた。
【0047】
次に、ボイド率については、試料の表面を研磨し、この研磨した面をSEMにより200
倍の倍率で撮影した。そして、この撮影画像を画像解析装置(LUZEX−FS;ニレコ社製)により解析して、数カ所におけるボイドの面積率を測定し、この算出した数カ所におけるボイドの面積率の平均値をボイド率とした。
【0048】
次に、3点曲げ強度試験については、JIS R 1601−1995に準拠した試験片形状とすること以外は、上述した同様の方法で各試料について5個の試験片を作製した。そして、JIS R 1601−1995に準拠して3点曲げ強度を測定し、この3点曲げ強度の平均値を算出した。結果を表1,2に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表1,2から明らかなように、リンを含有しない試料は3点曲げ強度が200MPa未満
であった。また、リンを五酸化二リン換算で0.7質量%を越えて含有する試料は、粒径は
小さくなっているものの、リンの含有量の増加により粒界に形成される液相の体積が増加したため3点曲げ強度が200MPa未満であった。
【0052】
これに対し、リンを五酸化二リン換算で0.7質量%以下含有する試料は、リンの含有量
に応じて、ボイド率および粒径が小さくなっていることから、リンを含有していることにより、Ln,Al,Me,Tiの酸化物の結晶の成長が抑えられて粒径が小さくなり、緻密化を図ることができ、3点曲げ強度が200MPa以上となっている。このように、リン
を五酸化二リン換算で0.7質量%以下含有することにより、リンを含有しない、およびリ
ンを五酸化二リン換算で0.7質量%を超えて含有する、Ln,Al,Me,Tiの酸化物
の同じモル比の試料よりも、機械的強度が向上することが確認された。
【0053】
また、リンを五酸化二リン換算で0.1質量%〜0.5質量%含有させることにより、機械的強度を示す3点曲げ強度で240MPa以上であり、より機械的強度が向上することがわか
った。
【0054】
また、リンを五酸化二リン換算で0.7質量%以下含有する試料は、ボイド率および粒径
が小さく、多結晶体の体積が増加していることから、リンを含有しない、およびリンを五酸化二リン換算で0.7質量%を超えて含有する、Ln,Al,Me,Tiの酸化物の同じ
モル比の試料よりも、比誘電率の向上を図れることがわかった。
【0055】
また、リンを五酸化二リン換算で0.7質量%以下含有することによって、比誘電率を向
上させることができるので、Ln,Al,Me,Tiの酸化物の同じモル比の多結晶体からなり、リンを含有しない誘電体セラミックスと同じ比誘電率を得ようとしたときには、リンの添加量の基準となる誘電体セラミックスを構成する酸化物の多結晶体となる原料の使用量を少なくすることができることがわかった。
【0056】
このように、本実施形態の誘電体セラミックスは、リンを含有しない、およびリンを五酸化二リン換算で0.7質量%を超えて含有する試料よりも、機械的強度および比誘電率を
向上させることができるので、フィルタとして本実施形態の誘電体セラミックスを備えることにより、フィルタとして載置台に取り付けるときにかかる応力によって欠けや割れを生じることが少なくないので、長期間にわたって良好な性能を安定して維持した信頼性の高い共振器とできることがわかった。
【実施例2】
【0057】
実施例1と同様の方法にて、表3に示す構成の誘電体セラミックスを作製し、3点曲げ強度,比誘電率および比誘電率のバラツキについて評価した。
【0058】
まず、出発原料については、実施例1と同様のものを用いて、Ln,Al,Me,Tiの酸化物のmol%が表3に示すように、また、添加原料については、出発原料の総量100質量%に対する質量%が0.01質量%となるように秤量し、純水とともにジルコニアボー
ルの入ったボールミル内に入れ、26時間の湿式で混合および粉砕を行なってスラリーを得た。
【0059】
そして、これ以降の工程については、実施例1と同様にして行なった。なお、焼成において、各試料の複数個の成形体の焼成位置がランダムになるように配置して焼成を行なって試料No.145〜172の誘電体セラミックスを得た。
【0060】
なお、3点曲げ強度試験については、実施例1と同様にJIS R 1601−1995に準拠した試験片形状とすること以外は、上述した同様の方法で各試料について5個の試験片を作製した。そして、JIS R 1601−1995に準拠して3点曲げ強度を測定し、この3点曲げ強度の平均値を算出した。
【0061】
また、比誘電率の測定についても、実施例1と同様の方法で各試料5個の比誘電率を測定し、平均値を算出した。さらに、各試料の比誘電率の測定結果の最大値から最小値を差し引いた値を比誘電率のバラツキとした。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3から明らかなように、LnをLa、MeをCaとした試料は、比誘電率のバラツキが0.3以下であり、焼成工程での熱履歴の違いによって比誘電率の変化が小さいことがわ
かった。また、モル比α,β,γ,δが0.056≦α≦0.214,0.056≦β≦0.214,0.286≦
γ≦0.500,0.230≦δ≦0.470,α+β+γ+δ=1を満足する試料は、800〜900MHz
帯の周波数の共振器に適した41〜45の比誘電率とできることがわかった。
【符号の説明】
【0064】
1:共振器
2:金属ケース
3:入力端子
4:出力端子
5:セラミック体
6:載置台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ln,Al,Me,Ti(Ln=La,Nd,Smから選ばれる1種、Me=CaまたはSr)の酸化物の多結晶体100質量%に対し、リンを五酸化二リン換算で0.7質量%以下(0質量%を除く)含有することを特徴とする誘電体セラミックス。
【請求項2】
多結晶体の組成式を、αLa・βAl・γCaO・δTiO(但し、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γ,δが下記式を満足することを特徴とする請求項1に記載の誘電体セラミックス。
0.056≦α≦0.214
0.056≦β≦0.214
0.286≦γ≦0.500
0.230≦δ≦0.470
α+β+γ+δ=1
【請求項3】
フィルタとして請求項1または請求項2に記載の誘電体セラミックスを備えることを特徴とする共振器。

【図1】
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【公開番号】特開2012−111660(P2012−111660A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261382(P2010−261382)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】