説明

誘電体磁器およびこれを用いた積層セラミックコンデンサ

【課題】 平均結晶粒径が100nm以下であっても高誘電率の誘電体磁器と、このような誘電体磁器を誘電体層として備えた積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】 チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子からなり、前記結晶粒子の平均結晶粒径が30〜100nmであり、誘電体磁器のCukα線を用いたときのX線回折チャートにおいて、室温における前記チタン酸バリウムの(200)面および(002)面の回折ピークのそれぞれの半値幅を0.2〜0.26deg.とすることにより、高誘電率の誘電体磁器を得ることができる。また、結晶粒子の粒径の変動係数が45%以下である場合に、さらに高誘電率を得ることができる。また、誘電体層として、前記誘電体磁器を適用することにより、高容量の積層セラミックコンデンサを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子により構成される誘電体磁器と、それを誘電体層として用いる積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などモバイル機器の普及や、パソコンなどの主要部品である半導体素子の高速、高周波化に伴い、このような電子機器に搭載される積層セラミックコンデンサは、小型、高容量化の要求がますます高まっており、そのため積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層は薄層化と高積層化が求められている。
【0003】
そのため、薄層化される誘電体層に用いることのできる微粒のチタン酸バリウム粉末が開発されているが、例えば、特許文献1では、比表面積の大きい水酸化バリウム粉末および酸化チタン粉末を用い、これらの混合粉末を大気圧よりも低い圧力の下で加熱することにより、平均粒径が0.1μm(100nm)以下のチタン酸バリウム粉末が合成され、このような微粒のチタン酸バリウム粉末を積層セラミックコンデンサの誘電体層に適用することが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−2738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された微粒のチタン酸バリウム粉末を用いて緻密な誘電体磁器を得ようとしても、焼成時に原料粉末であるチタン酸バリウム粉末が粒成長しやすいため、平均粒径が100nm以下の結晶粒子により構成される誘電体磁器を得ることは困難である。
【0005】
また、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子は平均粒径が100nm以下になると比誘電率が低下する傾向にあり、高誘電率化が困難とされている。
【0006】
従って本発明は、平均結晶粒径が100nm以下であっても高誘電率の誘電体磁器と、このような誘電体磁器を誘電体層として備えた高容量の積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の誘電体磁器は、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子からなり、前記結晶粒子の平均結晶粒径が30〜100nmであり、誘電体磁器のCukα線を用いたときのX線回折チャートにおいて、室温における前記チタン酸バリウムの(200)面および(002)面の回折ピークのそれぞれの半値幅が0.2〜0.26deg.であることを特徴とする。
【0008】
また、上記誘電体磁器では、前記結晶粒子の粒径の変動係数が45%以下であることが望ましい。
【0009】
また、本発明の積層セラミックコンデンサは、前記誘電体磁器からなる誘電体層と内部電極層との積層体から構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の誘電体磁器によれば、結晶粒子がチタン酸バリウムを主成分とするものであり、その結晶粒子の平均結晶粒径が100nm以下であっても、誘電体磁器のCukα線を用いたときのX線回折チャートにおいて、室温におけるチタン酸バリウムの(200)面および(002)面の回折ピークのそれぞれの半値幅を0.2〜0.26deg.としたことにより、高誘電率を有する誘電体磁器を得ることができる。
【0011】
また、本発明の誘電体磁器において、前記結晶粒子の粒径の変動係数が45%以下である場合に、さらに高誘電率を有する誘電体磁器を得ることができる。
【0012】
また、本発明の積層セラミックコンデンサによれば、誘電体層として、前記誘電体磁器を適用することにより、高容量の積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の誘電体磁器はチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子により構成されるものであり、その結晶粒子の平均結晶粒径が30〜100nmであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の誘電体磁器は誘電体磁器のCukα線を用いたときのX線回折チャートにおいて、室温(25℃)におけるチタン酸バリウムの(200)面および(002)面の回折ピークのそれぞれの半価幅を0.2〜0.26deg.とすることが重要である。
【0015】
誘電体磁器が上記した結晶構造であると、結晶粒子の平均結晶粒径が30〜100nmであっても比誘電率を3500にできるという利点がある。
【0016】
本発明の誘電体磁器を構成する結晶粒子は、上述のように、平均結晶粒径が100nm以下の極めて微粒の結晶粒子であり、この場合、比誘電率を高められるという理由から結晶粒子の粒径の変動係数が45%以下であることが望ましい。
【0017】
ここで、粒径についての変動係数とは、結晶粒子の粒径の標準偏差を平均結晶粒径で除した値であり、粒径のばらつきを表す指標である。なお、結晶粒子の平均結晶粒径は、誘電体磁器の切断面を研磨した後にエッチングを施し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真に映し出されている結晶粒子の輪郭から画像処理にて各粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、このようにして直径を求めた結晶粒子約100個の平均値を求めたものである。また、測定した各結晶粒子の粒径のデータから標準偏差を求める。
【0018】
また、本発明の誘電体磁器は相対密度が99%以上、特に、99.7%以上であることが望ましい。誘電体磁器の相対密度が高いと、空隙のように空気で占められている領域が少ないことから比誘電率をさらに高められるという利点がある。
【0019】
図1(a)は、本発明の誘電体磁器を25℃において測定したときの(200)面、(002)面のX線回折図であり、図1(b)は本発明の誘電体磁器を150℃において測定したときの(200)面、(002)面のX線回折図である。
【0020】
図1(a)において回折ピークAの中に描いた2つのピークB、Cは(200)面、(002)面の当該回折ピークを擬フォークト関数により分離したことを示している。回折ピークの分離は、擬フォークト関数を用い、(200)面、(002)面のピーク幅が同一になるという制約を設け、また、(200)面および(002)面の回折強度比が(200)面、(002)面のそれぞれの多重度の関係(2:1)になるように回折ピークのプロファイルをフィッティングする。こうして(200)面、(002)面の個々のピークB、Cに分離したものにできる。
【0021】
この場合、回折ピークの分離は、当該回折ピークに対して最適なフィッティングになるような関数を選択することがよく、この場合、擬フォークト関数(ガウス関数とローレンツ関数との組合せ)の他に、ガウス関数、ローレンツ関数およびピアソン−7関数等のうちいずれかの関数を用いることが可能である。なお、図1(a)の回折ピークB、C内の矢印、および図1(b)の回折ピークDの矢印はいずれも半値幅を示す。
【0022】
そして、本発明の誘電体磁器は、チタン酸バリウムの(200)面および(002)面を示す回折ピークB、Cを有し、室温(25℃)において正方晶系の結晶構造を有するものであり、例えば、擬フォークト関数を用いた分離からさらに明確化されるように、(200)面および(002)面の回折ピークB、Cのそれぞれの半価幅が0.2〜0.26deg.であることが重要であり、特に、半値幅が0.21〜0.25deg.の範囲であることが望ましい。
【0023】
これに対して、チタン酸バリウムを主成分とする誘電体磁器において、(200)面および(002)面の回折ピークのそれぞれの半価幅が0.2deg.よりも小さい場合には、結晶子径が大きくなるとともに、(200)面および(002)面のそれぞれの回折ピークの分離が顕著となり、正方晶性の高い結晶粒子となるが、結晶粒子が大きくなることから微粒化を図ることが困難である。
【0024】
一方、(200)面および(002)面の回折ピークのそれぞれの半価幅が0.26deg.よりも大きい場合には、結晶子径が小さくなりすぎることから(200)面および(002)面のそれぞれの回折ピークの分離ができない状態となり、このため結晶相は立方晶系の結晶構造を取るようになる。
【0025】
本発明の誘電体磁器において、チタン酸バリウムの(200)面の回折ピークBおよび(002)面の回折ピークCの2θからブラッグの式によりd(200)およびd(002)を求め、これらの比(d(002)/d(200))を算出したときに求められる結晶構造の格子定数比(c/a比)は1.001〜1.004であることが望ましい。室温(25℃)において、格子定数比(c/a比)が1.001〜1.004であれば、格子歪みが比較的小さな正方晶系の結晶構造を有するものとなり、微粒であっても高誘電率にすることが可能になる。
【0026】
また、本発明の誘電体磁器は、チタン酸バリウムのキュリー温度よりも高い温度領域である150℃において、X線回折により測定されるチタン酸バリウムの(200)面、(002)面の回折ピークは分離されるものではなく、結晶構造は立方晶系であり、チタン酸バリウムの(200)面および(002)面が重なる回折ピークの半価幅は0.13deg.以下であり、格子定数比(c/a比)は1.000である。
【0027】
上記のように、本発明の誘電体磁器は、150℃におけるチタン酸バリウムの(200)面、(002)面の回折ピークが重畳し1本の回折ピークとして現れることから、キュリー温度より高い領域では立方晶系を示すものであり、一方、キュリー温度よりも低い温度領域では、150℃における(200)面の回折ピークよりも回折ピークの幅が広がるものであることから、キュリー温度を境に高温側と低温側とで結晶構造が大きく変化するものとなる。
【0028】
なお、図1(a)に示した本発明の誘電体磁器のように、X線回折チャートにおいて、(200)面と(002)面とのピーク分離が明確でないような回折ピークAが正方晶性の結晶構造であることの確認は、図1(b)に示したように、当該誘電体磁器が相変態するキュリー温度よりも高い温度にて測定したX線回折チャートとの比較を行うことで可能である。
【0029】
この場合、キュリー温度よりも低い室温付近で測定したX線回折チャートにおける(200)面および(002)面の回折ピークAの幅が、キュリー温度よりも高い温度で測定したX線回折チャートの回折ピークDの幅よりも大きくなる方向に変化するものは、誘電体磁器の結晶構造がキュリー温度を境に室温付近の温度領域で正方晶系の結晶構造を有するものになっている。
【0030】
上述したように、X線回折チャートにおいて、(200)面と(002)面とのピーク分離が明確にできないような誘電体磁器であっても、キュリー温度を境に、その上下の温度において結晶構造を評価することおよび室温において測定した回折ピークを最適な関数を用いて分離することを組み合わせることにより、結晶構造が正方晶系であることを正確に評価することができる。
【0031】
次に、本発明の誘電体磁器の製造方法について説明する。
【0032】
本発明の誘電体磁器を形成するための誘電体原料粉末の製法について説明する。まず、炭酸バリウム粉末および酸化チタン粉末からなる混合粉末を調製する。
【0033】
炭酸バリウム粉末の純度は99%以上、特に、99.9%以上、酸化チタン粉末の純度は99%以上、特に、99.9%以上であることが望ましい。純度が少なくとも99%以上の炭酸バリウム粉末および酸化チタン粉末を用いることにより、得られるチタン酸バリウム粉末もまた高純度化できる。
【0034】
この場合、炭酸バリウム粉末は、形状が柱状晶を有するものであるが、比表面積は10〜100m/gであるものが好ましく、長辺のサイズが150nm以下であることが好ましい。また、酸化チタン粉末の平均粒径は20〜100nm、比表面積は10〜100m/gが望ましい。炭酸バリウム粉末および酸化チタン粉末が上記の範囲の比表面積や平均粒径を有するものであれば微粒化が容易になる。
【0035】
次に、混合粉末をビーズミルを用いて混合し予備粉砕する。ビーズミルは粉砕を短時間で行え、かつ粉砕時におけるメディアボール等による衝撃に起因するメディアボールからのコンタミを低減できるという利点がある。なお、ビーズミルの容器の内張および粉砕ボールは、純度99%以上のジルコニアが好ましい。
【0036】
本発明では、次に、得られた混合粉末を、大気圧よりも低い圧力下で加熱して仮焼粉末を得る工程を取り入れるものである。
【0037】
本発明において、仮焼粉末を得るための仮焼条件は、大気圧よりも低い圧力下で加熱する条件の下、用いる混合粉末を500℃以下の温度領域で5質量%/℃以上の重量変化を伴う加熱を行うことが望ましい。具体的には、200℃における重量変化の値と500℃における重量変化との差を温度差で除して求める。
【0038】
通常、原料粉末を加熱して仮焼を行う場合には、混合粉末をセラミック容器に充填し、セラミック容器内の混合粉末が均熱を保てる状態にして加熱する。つまり、セラミック容器に、それと同じ材質の蓋で覆って加熱することが行われる。
【0039】
これに対して、本発明の誘電体磁器に用いる誘電体粉末は、炭酸バリウム粉末および酸化チタン粉末の混合粉末を充填したセラミック容器の内部における均熱性よりも、混合粉末における炭酸バリウム粉末の500℃以下での分解を促進させることに重点をおいている。混合粉末における炭酸バリウム粉末の分解を促進させる方法としては、例えば、セラミック容器に蓋などをしないで開放する方法や、セラミック容器の上部側の側面に通気用の穴を開けたものを用いることが好適である。
【0040】
例えば、混合粉末を500℃以下の温度領域で−3質量%/℃の条件で加熱した場合(セラミック容器に蓋をして0.1Paにて加熱)には、加熱の温度が直接、混合粉末に伝達されなくなり、また、セラミック容器に蓋をしていることから加熱する条件の低温の温度における原料粉末のうち、炭酸バリウムからの分解ガスである炭酸ガスの揮発が遅くなる。そのためBaTiO等の副生成物が形成されるため、仮焼段階におけるチタン酸バリウム粉末は凝集しやすくなり、仮焼後のチタン酸バリウム粉末は加熱温度の上昇とともに粒成長しやすい。
【0041】
一方、500℃以下の温度領域で−5質量%/℃以上の減量を伴う条件で加熱したチタン酸バリウム粉末の平均粒径は100nm以下のチタン酸バリウム粉末を得やすく、仮焼粉末として、このような平均粒径を有する仮焼粉末を用いることにより、焼成後の結晶粒子を適正な粒径(平均粒径30〜100nm)に制御することができ、これにより微粒であっても高誘電率の誘電体磁器を容易に形成できる。
【0042】
なお、本発明のチタン酸バリウム粉末の製法では、セラミック容器として、熱電導率が高く、原料粉末との反応性の低い材質が好ましく、例えば、ジルコニアやカーボンが好適である。
【0043】
これまで、チタン酸バリウム粉末を固相法により合成する場合、減圧の条件にて加熱することは行われてきた。しかしながら、従来はいずれも設定温度や設定圧力については条件を決めていたものの、加熱される原料粉末の熱分解挙動を制御することは行われていなかった。
【0044】
そのため、減圧の条件にて加熱しても、原料粉末を500℃以下の温度領域で5質量%/℃以上の重量変化を伴うように加熱することを考慮しない場合には、加熱時に粒成長しやすく、焼成後の結晶粒子として、平均結晶粒径が100nm以下、特に、20〜100nmのチタン酸バリウム粉末を得ることは困難となる。
【0045】
次に、上記チタン酸バリウム粉末を用いて得られる本発明の誘電体磁器の製造方法について説明する。
【0046】
本発明の誘電体磁器は、上記のチタン酸バリウム粉末を有機バインダを加えて所定の形状に成形し、800℃以上の温度で、例えば、カーボン型を用いたホットプレス法による焼成を行うことにより得られる。圧力は10MPa以上であることが好ましい。なお、適当な焼結助剤を添加することにより、常圧での焼成も可能である。
【0047】
図2は、本発明の積層セラミックコンデンサの例を示す断面模式図である。本発明の積層セラミックコンデンサはコンデンサ本体10の端部に外部電極12が設けられている。コンデンサ本体10は誘電体層13と内部電極層14とが交互に積層され構成されている。図2では誘電体層13と内部電極層14との積層状態を単純化して示しているが、本発明の積層セラミックコンデンサは誘電体層13と内部電極層14とが数百層にも及ぶ積層体となっている。
【0048】
ここでの誘電体層13は上述した本発明の誘電体磁器によって形成されることが重要である。内部電極層14は高積層化しても製造コストを抑制できるという点でNiやCuなどの卑金属が望ましく、特に、本発明のコンデンサを構成する誘電体層13との同時焼成を図るという点でNiがより望ましい。この内部電極層14の厚みは平均で1μm以下が好ましい。なお、図2では、誘電体層13と内部電極層14との積層の状態を単純化して示しているが、本発明の積層セラミックコンデンサは、誘電体層13と内部電極層14とが数百層にも及ぶ積層体を形成している。
【0049】
本発明の積層セラミックコンデンサは、高誘電率の誘電体磁器を適用したものであることから、従来の積層セラミックコンデンサよりも誘電体層を薄層化でき、さらに高容量の積層セラミックコンデンサを形成できる。
【0050】
また、このような積層セラミックコンデンサを作製する場合には、上記したチタン酸バリウム粉末にYなどの添加剤を加えて配合した混合粉末をグリーンシートに成形するとともに、内部電極層となる導体ペーストを調製して前記グリーンシートの表面に印刷した後積層して積層体を形成する。しかる後、内部電極層に合わせた雰囲気で積層体を所定の温度で焼成する。この後、焼成された積層体の端面にさらに導体ペーストを印刷して焼成して外部電極を形成することにより積層セラミックコンデンサが得られる。
【実施例】
【0051】
まず、原料粉末として以下に示す炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末を準備した。炭酸バリウム粉末は短辺の寸法が平均で20nm、長辺の寸法が平均で100nmであり、純度は99.9%とした。酸化チタン粉末は平均粒径が20nmであり、純度は99.9%のものを用いた。組成はBa/Ti=1とした。
【0052】
次に、上記の炭酸バリウム粉末および酸化チタン粉末とを用いて攪拌機により混合粉末を調製した。次に、調製した混合粉末をイオン交換水を用いてビーズミルにより予備粉砕し、次いで、大気中、温度120℃で乾燥を行った。この場合、混合容器およびボールは純度99.9%のジルコニアを用いた。
【0053】
次に、この混合粉末を純度99.5%の安定化ジルコニア(CaOを3%含む)製のセラミック容器(厚み5mm)または同じ厚みのカーボンの容器に充填し、表1に示す温度および圧力の条件にて加熱し仮焼粉末を調製した。この場合、加熱炉の昇温速度は300℃/minとした。
【0054】
また、セラミック容器に充填した原料粉末の上部に熱電対をセットし、加熱される原料粉末の温度を測定した。
【0055】
また、原料粉末の加熱時の熱重量変化は、予め、熱重量分析装置を用いて、混合粉末を調製する圧力に設定して評価した。この際、熱重量分析においてもセラミック容器に蓋をしたものと蓋をしていない状態で分析を行った。熱重量分析には99.6%のアルミナ製の容器を用いた。測定は200℃における重量変化の値と500℃における重量変化との差を温度差で除して求めた。
【0056】
得られたチタン酸バリウム粉末について、以下の評価を行った。
【0057】
得られたチタン酸バリウム粉末について、電子顕微鏡観察により、その平均粒径とその変動係数を測定した。チタン酸バリウム粉末の平均粒径および粒径の変動係数は、得られたチタン酸バリウム粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)写真に映し出されているチタン酸バリウム粉末の輪郭を画像処理し、各粉末の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、これを平均化して求めた。抽出した100個のチタン酸バリウム粉末の粒径の全てのデータから変動係数を求めた。
【0058】
次に、チタン酸バリウム粉末を用いて直径12mm、厚み1mmのペレット状の成形体を作製し、800〜1000℃、2時間の条件にてホットプレス(HP)焼成を行った。各試料の焼成温度は相対密度を99%以上にできる温度とした。
【0059】
誘電体磁器についても結晶粒子の平均結晶粒径と粒径の変動係数を求めた。この場合、得られた焼結体の破断面を研磨した後、これも走査型電子顕微鏡(SEM)写真に映し出されている結晶粒子の輪郭を画像処理し、各結晶粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、これを平均化して求めた。抽出した100個の結晶粒子の粒径の全てのデータから変動係数を求めた。
【0060】
次に、X線回折装置により得られた誘電体磁器の結晶構造の同定を行った。X線管球はCukαとし、走査角度はチタン酸バリウムの(200)面および(002)面のある角度(2θ=44〜46°)とし、室温(25℃)および150℃にて測定した。測定数は各試料3個とし平均値を求めた。
【0061】
次に、誘電体磁器について、相対密度と比誘電率を測定した。密度はアルキメデス法を用いて測定し、理論密度との比を相対密度として求めた。なお、チタン酸バリウムの理論密度は6.1とした。
【0062】
比誘電率は焼結体試料の両主面にIn−Gaの金属を塗布して、LCRメータ(HP社製4192A)を用いて静電容量を測定し、試料の厚みと表面積から比誘電率を求めた。試料数は各10個とした。静電容量の測定条件は周波数1kHz,交流電圧1Vrmsとし、電圧印加1分後の値を読み取った。
【0063】
また、比誘電率の直流電圧依存性を評価した。この場合、試料厚み0.5mmに対して最大1000Vまでの直流電圧を印加した。
【0064】
比較例として、表1に示すように、大気中および500℃以下の温度領域で5質量%/℃よりも重量変化の小さい加熱条件を設定して調製したチタン酸バリウム粉末および蓚酸チタニルバリウム粉末(蓚酸塩)を用い、それらの焼結体である誘電体磁器について本発明の試料と同じ評価を行った。
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
表1、2の結果から明らかなように、チタン酸バリウムを主成分とし、その結晶粒子の平均結晶粒径が30〜100nmであるとともに、誘電体磁器のX線回折チャートにおいて、チタン酸バリウムの(200)面および(002)面の回折ピークのそれぞれの半値幅を0.2〜0.26deg.である本発明の試料No.2〜8では、比誘電率が3500以上であった。特に、粒径の変動係数が45%以下の試料では比誘電率が3700以上であった。
【0067】
これに対して、チタン酸バリウムの(200)面および(002)面の回折ピークのそれぞれの半値幅を0.2deg.よりも低い値の試料では結晶粒子の平均結晶粒径が150〜200nmの試料No.9、10では比誘電率が3300以下となり、また、結晶粒子の平均結晶粒径が30nmより小さい場合(試料No.19には結晶構造が立方晶系となり、比誘電率は1700と低かった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1(a)は、本発明の誘電体磁器を25℃において測定したときの(200)面、(002)面のX線回折図であり、図1(b)は本発明の誘電体磁器を150℃において測定したときの(200)面、(002)面のX線回折図である。
【図2】本発明の積層セラミックコンデンサの例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0069】
10 コンデンサ本体
12 外部電極
13 誘電体層
14 内部電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子からなり、前記結晶粒子の平均結晶粒径が30〜100nmであり、誘電体磁器のCukα線を用いたときのX線回折チャートにおいて、室温における前記チタン酸バリウムの(200)面および(002)面の回折ピークのそれぞれの半値幅が0.2〜0.26deg.であることを特徴とする誘電体磁器。
【請求項2】
前記結晶粒子の粒径の変動係数が45%以下であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の誘電体磁器からなる誘電体層と内部電極層との積層体から構成されていることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−12990(P2009−12990A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173851(P2007−173851)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】