説明

誘電体磁器組成物およびこれを用いた電子部品

【課題】所望の誘電率20〜30を有するCaZrOの低損失特性を維持しつつ低温焼成化が可能な誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】誘電体磁器組成物は、主成分として、組成式CaZrOで表される成分を93.8〜98.6重量%含み、主成分に対する副成分として、Biを1〜5重量%、LiOを0.4〜1.2重量%の範囲で含む。また、電子部品は、上記誘電体磁器組成物と内部配線とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ag/Cu等の低融点導体材料を内部配線として使用可能な低温焼結性を有する誘電体磁器組成物およびこれを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、携帯電話等の移動体通信では、数百MHz〜数GHz程度のいわゆる準マイクロ波と呼ばれる高周波帯が使用されている。そのため、移動体通信機器に用いられる共振器、フィルタ、コンデンサ等の電子部品においても高周波特性が重要視されている。
【0003】
このような電子部品に関して、目的によっては、使用周波数における所望の誘電率が20〜30で、誘電損失の小さな誘電体磁器組成物が要望される場合がある。誘電損失の評価には、例えばQ=1/tanδと共振周波数fとの積であるQf値で示される品質係数が用いられ、誘電損失が小さくなれば品質係数Qf値は大きくなる。誘電損失は高周波部品の電力損失を意味するので、品質係数Qf値の大きな誘電体磁器組成物が求められている。
【0004】
このように誘電率が20〜30で、誘電損失の小さな誘電体材料の一例として、組成式CaZrOで表されるセラミックスが知られている。しかしながら、CaZrOセラミックスの場合、焼結温度が1200℃以上であるため、CaZrOセラミックス基板上にAg/Cu等の電気伝導度に優れる内部電極を形成して多層に積層しても同時焼成が困難であるという問題がある。そこで、このようなAg/Cu等の低融点導体材料を内部電極に用いた多機能基板を同時焼成により得ようとする場合には、例えば900℃程度まで焼成温度を低下させる必要がある。
【0005】
特許文献1には、CaZrOセラミックスを主成分の一部として含み、LiO−B−SiO−CaO−Al系ガラスフリットを副成分として含有させることで、低温焼成化させた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−213138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示されるセラミックス組成物の場合、低温焼成化のための副成分の添加により品質係数Qf値が低下しているものであり、さらなる低損失の維持が要望されている。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、所望の誘電率20〜30を有するCaZrOの低損失特性を維持しつつ低温焼成化が可能な誘電体磁器組成物およびこれを用いた電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる誘電体磁器組成物は、主成分として、組成式CaZrOで表される成分を93.8〜98.6重量%含み、前記主成分に対する副成分として、Biを1〜5重量%、LiOを0.4〜1.2重量%の範囲で含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる電子部品は、上記誘電体磁器組成物と内部配線とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、所望の誘電率20〜30を有するCaZrOの低損失特性を維持しつつ低温焼成化が可能な誘電体磁器組成物およびこれを用いた電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本実施の形態の電子部品の一例としてバンドパスフィルタの構成例を示す概略断面図である。
【図2】図2は、副成分の添加量を変化させた場合の品質係数Qf値の大小を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0014】
本実施の形態の誘電体磁器組成物は、主成分として、組成式CaZrOで表される成分を93.8〜98.6重量%含んでいる。また、本実施の形態の誘電体磁器組成物は、このような主成分に対する副成分として、Biを1〜5重量%、LiOを0.4〜1.2重量%の範囲で含んでいる。
【0015】
まず、主成分として組成式CaZrOで表される成分を含むのは、CaZrOセラミックスが、目的とする誘電率εr=20〜30を有し、かつ、低損失材料として高い品質係数Qf値を有するためである。このような主成分は、誘電体磁器組成物において、副成分の含有量に応じて、93.8〜98.6重量%含まれていればよい。
【0016】
また、副成分として酸化ビスマスBiと酸化リチウムLiOとを含むのは、主成分であるCaZrOセラミックスの粉末に、焼成時に液相を形成する焼結助剤として少量添加させることで、Ag/Cu等の低融点導体材料との同時焼成を可能にする低温焼成化のためである。すなわち、酸化ビスマスBiと酸化リチウムLiOが共融混合物を生成し、酸化ビスマスBiの融点が低下することで低い温度域で液相を形成する。この低融点液相形成材と濡れ性の良好な主成分中の酸化カルシウムCaOおよびジルコニアZrOを均一に混合させることで、低温域において酸化カルシウムCaOおよびジルコニアZrOとの粒界拡散を促進させ強固なネックを形成させる。これにより、CaZrOセラミックス単体の場合よりも低い温度で焼結体を形成することが可能となる。
【0017】
ここで、本発明の目的は、Ag/Cu等の低融点導体材料を内部配線とする電子部品に用いられる低温焼結可能な誘電体磁器組成物を提供することにあり、品質係数Qf値の特性低下は電子部品の損失が大きくなることを意味するので、目標値以上、例えばQf値=15000GHz以上を維持しながら、低温焼結化を図るものである。このような観点から、酸化ビスマスBi、酸化リチウムLiOの含有量が、それぞれBiが1〜5重量%、LiOを0.4〜1.2重量%に設定される。
【0018】
まず、酸化ビスマスBi、酸化リチウムLiOは、ともに少量のほうが主成分の特性(Qf値)を活かすのに有効となるが、少量になり過ぎると、Ag/Cu等の導体材料との同時焼成が可能な温度までの低温焼成化が難しくなるため、酸化ビスマスBiは1重量%、LiOは0.4重量%以上とした。また、逆に、酸化ビスマスBi、酸化リチウムLiOは、ともに含有量を増加させる程、低温焼成化は容易となるものの、主成分の特性(Qf値)が低下してしまう。酸化ビスマスBiの場合には、5重量%を超えると、Qf値が目標値よりも低下してしまうので、含有量を5重量%以下とした。酸化リチウムLiOの場合には、1.2重量%を超えると、Qf値が目標値よりも低下してしまう上に、焼結の程度を示す密度も低下してしまうので、含有量を1.2重量%以下とした。
【0019】
なお、添加する副成分が酸化ビスマスBiのみの場合は、焼成温度を目標温度まで低温化できなかったり、誘電率が目標値から外れてしまうので、不適である。同様に、添加する副成分が酸化リチウムLiOのみの場合は、Qf値が目標値よりも大幅に低下してしまうので、不適である。
【0020】
次に、本実施の形態の誘電体磁器組成物およびこれを用いた電子部品の製造法について説明する。
【0021】
(1)原材料準備
まず、主成分として、酸化カルシムCaO及びジルコニアZrOの粉末を所定量用意するとともに、主成分に対して添加する副成分として酸化ビスマスBiおよび酸化リチウムLiOを所定量ずつ用意する。
【0022】
(2)混合
上記の粉末を混合して原料混合粉末とする。混合は、乾式混合、湿式混合等の混合方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた混合方式により行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。混合が完了した後、原料混合粉末を60℃〜200℃、好ましくは90℃〜110℃で2〜36時間程度乾燥させる。
【0023】
(3)仮焼
原料混合粉末を焼成温度以下の温度、例えば、700℃〜800℃にて1〜10時間程度で仮焼を行う。
【0024】
(4)粉砕
その後、仮焼をした原料混合粉末を粉砕して乾燥する。粉砕は、乾式粉砕、湿式粉砕等の粉砕方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた粉砕方式により行うことができる。粉砕時間は4〜36時間程度とすればよい。粉砕した粉末の乾燥は60℃〜200℃、好ましくは90℃〜110℃で2〜36時間程度とすればよい。
【0025】
(4)成型
得られた粉末に対して、必要に応じて有機ビヒクルを添加して、ペーストを調製し、ポリエチレンテレフタレート等の基材フィルム上に該ペーストを塗布する。塗布後、乾燥により有機溶剤を除去してグリーンシートを形成する。なお、有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。溶媒としては、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン、イソプロピルアルコール等を、バインダとしては、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等を用いることができる。また、有機ビヒクルは、ジ−n−ブチルフタレート等の可塑剤等を含んでいてもよい。なお、成型はシート法に限られない。印刷法等の湿式成型の他、プレス成型等の乾式成型でもよく、所望の形状に応じて成型方法を適宜選択することが可能である。
【0026】
(5)電極形成・積層
形成したグリーンシート上に、所定形状の内部電極が形成されるようにAg(または、Cu)を含有する導電性ペーストを内部配線として塗布する。このように、導電性ペーストが塗布されたグリーンシートを必要に応じて複数作製し、積層して積層体を得る。また、この積層体には、所定形状の端子が形成されるように導電性ペーストを塗布する。その後、乾燥により導電性ペーストから有機溶剤を除去する。
【0027】
(6)焼成
上述の誘電体磁器組成物の製造方法における焼成工程及びアニール工程と同様の工程を行う焼成は、例えば、空気中のような酸素雰囲気の他、還元雰囲気にて行うことが望ましい。また、焼成温度は内部電極として用いるAgまたはAgを主成分とする合金やCuまたはCuを主成分とする合金等の導体材料の融点以下、例えば860℃〜1100℃、好ましくは880℃〜960℃であることが求められる。本実施の形態では、例えば933℃に設定している。
【0028】
(7)切断
冷却後、切断により個品化することで、誘電体磁器組成物と内部配線とが同時焼成された電子部品が完成する。
【0029】
図1は、このような製造方法に従い製造された電子部品の一例として、携帯電話等における高周波通信用のバンドパスフィルタの構成例を示す概略断面図である。すなわち、上述の誘電体磁器組成物からなる誘電体グリーンシートを作成し、必要に応じてスルーホール加工を形成し、Agペーストをスクリーン印刷法で形成・乾燥させたグリーンシートを積層後、焼成・切断加工を経て個品化したものである。図1中に示すバンドパスフィルタ1において、2は、誘電体磁器組成物(積層セラミックス)からなる誘電体部分であり、L1は、インダクタを構成するAg導体によるコイルパターン部分であり、C1〜C3は、Ag導体により形成されるキャパシタパターン部分であり、3は、L1とC1とを導通させるAg導体が充填されたビアホール部分であり、LC共振回路が形成されている。
【0030】
なお、誘電体磁器組成物を用いた電子部品としては、図1に例示したような誘電体磁器組成物と配線パターンのみからなるものであってもよく、さらには外部に素子が個別に実装されたものであってもよい。
【0031】
さらには、誘電体磁器組成物自身をセラミック基板として用いる電子部品であってもよい。特に、誘電体磁器組成物中の主成分であるCaZrOセラミックスは、線熱膨張係数αがα=8.9ppm/K程度であるので、例えば、誘電体磁器組成物をセラミック基板として半導体部品とPC基板との間に物理的に配することにより熱応力を緩和させることができる。すなわち、半導体部品(例えば、Siチップ部品)をPC基板上に直接搭載させた場合、Siチップ部品、PC基板それぞれの線熱膨張係数が2.4ppm/K,15ppm/K程度であり、両者間の線熱膨張の違いから応力が生じ、Siチップ部品の破損などを生じ得るが、両者の中間の線熱膨張係数を有する本発明の誘電体磁器組成物をセラミック基板として介在させることで、熱応力を緩和させ、Siチップ部品の破損を防止することができる。
【実施例】
【0032】
以下、上記の実施の形態に即した、本発明の誘電体磁器組成物の実施例について説明する。本実施例では、副成分である酸化ビスマスBi、酸化リチウムLiOの添加量(重量%)を変えた場合に形成される誘電体磁器組成物の特性値を求め、その良否を判定したものである。結果を表1に示す。なお、この結果は、焼成温度を933℃(炉の設定温度)とし、焼成時間を2時間とした場合の特性値を示している。品質係数Qfの良否判定は、15000GHz未満を△、15000GHz以上を○、20000GHz以上を◎として評価した。なお、Qfの評価は5GHzでの測定値である。また、933℃の低温焼成による焼結の程度を示す密度ρの良否判定は、基板の相対密度から判定した。
【0033】
【表1】

【0034】
また、副成分の添加量を変化させた場合の品質係数Qf値の大小の様子を図2に示す。図2では、黒丸の大きさ(面積)の大小が品質係数Qf値の大小をイメージ的に表している。
【0035】
このような結果に基づく主要な評価対象は品質係数Qf値とし、密度ρの評価は補助的とした。本実施例によれば、いずれの場合も誘電率εrは、目標とする20〜30の範囲内にある。また、酸化ビスマスBiの添加量としては、5重量%を超えると、品質係数Qfが低下してしまうので、1〜5重量%の範囲内がよいことが分かる。また、酸化リチウムLiOの添加量としては、1.2重量%を超えると、品質係数Qfが低下するとともに密度ρも低下してしまうので、0.4〜1.2重量%の範囲内がよいことが分かる。特に、品質係数Qf値に注目して評価すると、図2に示す品質係数Qf値の大小のイメージ図からも分かるように、Biを1〜2.5重量%、LiOを0.4〜1.0重量%とするのが、より好適といえる。
【符号の説明】
【0036】
2 誘電体磁器組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として、組成式CaZrOで表される成分を93.8〜98.6重量%含み、
前記主成分に対する副成分として、Biを1〜5重量%、LiOを0.4〜1.2重量%の範囲で含むことを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の誘電体磁器組成物と内部配線とを含むことを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−215478(P2010−215478A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67004(P2009−67004)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】