説明

誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】比誘電率および交流破壊電圧が高く、誘電損失が低く、温度特性および焼結性が良好な誘電体磁器組成物を提供する。
【解決手段】(Ba1−u−v−w,Ca,Mg,Srα(Ti1−x,Zr)Oの組成式で表わされる主成分と、酸化ニッケルと、酸化セリウムと、酸化マンガンと、を有する誘電体磁器組成物であって、前記組成式中のuが0.20〜0.27であり、前記組成式中のvが0.018〜0.049であり、前記組成式中のwが0.004〜0.018であり、前記組成式中のxが0.118〜0.149であり、前記組成式中のαが0.95〜1.02であり、前記酸化ニッケルを前記主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部含有し、前記酸化セリウムを前記主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部含有し、前記酸化マンガンを前記主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部含有する誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に進む電気機器の高性能化に伴い、電気回路の小型化、複雑化もまた急速に進んでいる。そのため、電子部品にもより一層の小型化、高性能化が求められている。すなわち、良好な温度特性を維持しつつ、小型化しても静電容量を維持するために比誘電率が高く、さらに高電圧下で使用するために交流破壊電圧が高い誘電体磁器組成物および電子部品が求められている。
【0003】
従来、磁器コンデンサ、積層コンデンサ、高周波用コンデンサ、高電圧用コンデンサ等として広く利用されている高誘電率誘電体磁器組成物として、特許文献1に示すものが知られている。この特許文献1には、組成式が(Ba1−xCa)(Ti1−yZr)O(但し、0.10<x≦0.25、0<y≦0.25)で表されるチタン酸バリウムを主成分とする誘電体磁器組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、組成式が(Ba1−xCa)(Ti1−yZr)O(但し、0<x≦0.25、0<y≦0.25)で表される、チタン酸バリウムを主成分とし、さらにY、MgO、Alを含有する誘電体磁器組成物が開示されている。
【0005】
しかし、このような従来の高誘電率誘電体磁器組成物では、比誘電率を3000以上とした場合に、誘電損失を低減することが困難であるとともに、6kV/mm以上の高い交流破壊電圧を確保することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−104774号公報
【特許文献2】特開2003−109430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、比誘電率および交流破壊電圧が高く、誘電損失が低く、温度特性および焼結性が良好な誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、このような誘電体磁器組成物により構成される誘電体層を有する電子部品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成するために、鋭意検討を行った結果、誘電体磁器組成物の組成を特定の成分とし、これらの比率を所定範囲とすることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明に係る誘電体磁器組成物は、(Ba1−u−v−w,Ca,Mg,Srα(Ti1−x,Zr)Oの組成式で表わされる主成分と、酸化ニッケルと、酸化セリウムと、酸化マンガンと、を有する誘電体磁器組成物であって、
前記組成式中のuが0.20〜0.27であり、
前記組成式中のvが0.018〜0.049であり、
前記組成式中のwが0.004〜0.018であり、
前記組成式中のxが0.118〜0.149であり、
前記組成式中のαが0.95〜1.02であり、
前記酸化ニッケルを前記主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部含有し、
前記酸化セリウムを前記主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部含有し、
前記酸化マンガンを前記主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部含有する誘電体磁器組成物である。
【0010】
本発明によれば、比誘電率および交流破壊電圧が高く、誘電損失が低く、温度特性および焼結性が良好な誘電体磁器組成物を提供することができる。また、本発明によれば、室温における熱暴走を防ぐことができる誘電体磁器組成物を提供することができる。具体的には、誘電体磁器組成物のキュリー温度を20℃以下にすることで室温における熱暴走を防ぐことができる。
【0011】
ここで、熱暴走とは発熱が更なる発熱を招くという正のフィードバックにより、温度の制御が出来なくなる現象である。
【0012】
本発明の実施形態に係る電子部品は、前記誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する。
【0013】
本発明の実施形態に係る電子部品としては、特に限定されないが、単板型セラミックコンデンサ、貫通型コンデンサ、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(A)は本発明の一実施形態に係るセラミックコンデンサの正面図、図1(B)は本発明の一実施形態に係るセラミックコンデンサの側面断面図である。
【図2】図2は本発明の一実施形態に係る貫通型コンデンサの斜視図である。
【図3】図3は本発明の一実施形態に係る誘電体磁器組成物の温度に対する比誘電率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0016】
セラミックコンデンサ2
図1(A)に示すように、本発明の実施形態に係るセラミックコンデンサ2は、誘電体層10と、その対向表面に形成された一対の端子電極12,14と、この端子電極12,14に、それぞれ接続されたリード端子6,8とを有する構成となっており、これらは保護樹脂4に覆われている。セラミックコンデンサ2の形状は、目的や用途に応じて適宜決定すればよいが、誘電体層10が円板形状となっている円板型のコンデンサであることが好ましい。また、そのサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよいが、通常、直径が5〜20mm程度、好ましくは5〜15mm程度である。
【0017】
誘電体層10の厚みは、特に限定されず、用途等に応じて適宜決定すれば良いが、好ましくは0.3〜2mmである。誘電体層10の厚みを、このような範囲とすることにより、中高圧用途に好適に用いることができる。
【0018】
端子電極12,14は、導電材で構成される。端子電極12,14に用いられる導電材としては、たとえば、Cu、Cu合金、Ag、Ag合金、In−Ga合金等が挙げられる。
【0019】
誘電体層10
前記セラミックコンデンサ2の誘電体層10は、本発明の実施形態に係る誘電体磁器組成物により構成される。
【0020】
本発明の実施形態に係る誘電体磁器組成物は、(Ba1−u−v−w,Ca,Mg,Srα(Ti1−x,Zr)Oの組成式で表わされる主成分と、酸化ニッケルと、酸化セリウムと、酸化マンガンと、を有する誘電体磁器組成物である。
【0021】
前記組成式中のuは、Caの比率を表し、その範囲は0.20〜0.27、好ましくは0.22〜0.24である。Caがこの範囲で含有されることにより、比誘電率が向上し、誘電損失が低下し、温度特性が良好になる傾向となる。
【0022】
前記組成式中のvは、Mgの比率を表し、その範囲は0.018〜0.049、好ましくは0.028〜0.03である。Mgがこの範囲で含有されることにより、比誘電率、交流破壊電圧および焼結性が向上し、温度特性が良好になる傾向となる。
【0023】
前記組成式中のwは、Srの比率を表し、その範囲は0.004〜0.018、好ましくは0.015〜0.017である。Srがこの範囲で含有されることにより、温度特性が良好となり、誘電損失が低下する傾向となる。
【0024】
前記組成式中のxは、Zrの比率を表し、その範囲は0.118〜0.149、好ましくは0.13〜0.14である。Zrがこの範囲で含有されることにより、誘電損失が低下し、交流破壊電圧が向上し、温度特性が良好になる傾向となる。
【0025】
前記組成式中のαは、0.95〜1.02であり、より好ましくは1.01〜1.015である。αをこの範囲とすることにより、比誘電率および焼結性が向上し、誘電損失およびキュリー温度が低下する傾向となる。
【0026】
本発明の実施形態に係る誘電体磁器組成物は、酸化ニッケルを前記主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部含有し、好ましくは0.05〜0.3重量部、より好ましくは、0.1〜0.2重量部重量部含有する。酸化ニッケルがこの範囲で含有されることにより、比誘電率、交流破壊電圧および焼結性が向上する傾向となる。
【0027】
本発明の実施形態に係る誘電体磁器組成物は、酸化セリウムを前記主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部含有し、好ましくは0.05〜0.3重量部、より好ましくは、0.1〜0.2重量部含有する。酸化セリウムがこの範囲で含有されることにより、温度特性が良好となり、交流破壊電圧および比誘電率が向上し、誘電損失が低下する傾向となる。
【0028】
本発明の実施形態に係る誘電体磁器組成物は、酸化マンガンを前記主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部含有し、好ましくは0.05〜0.3重量部、より好ましくは、0.1〜0.2重量部含有する。酸化マンガンがこの範囲で含有されることにより、比誘電率、交流破壊電圧および焼結性が向上し、誘電損失が低下する傾向となる。
【0029】
以下では酸化ニッケル、酸化セリウムまたは酸化マンガンを「副成分」とする。
【0030】
セラミックコンデンサ2の製造方法
次に、セラミックコンデンサ2の製造方法について説明する。
まず、焼成後に図1に示す誘電体層10を形成することとなる誘電体磁器組成物粉末を製造する。
【0031】
主成分の原料および各副成分の原料を準備する。主成分の原料としては、Ba、Ca、Mg、Sr、Ti、Zrの各酸化物および/または焼成により酸化物となる原料や、これらの複合酸化物などが挙げられ、たとえば、炭酸バリウム(BaCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化セリウム(CeO)、酸化マンガン(MnO)などを用いることができる。この他、たとえば水酸化物など、焼成後に酸化物やチタン化合物となる種々の化合物を用いることも可能である。その場合、金属元素の元素数が合うように、含有量を適宜変更すればよい。
【0032】
また、主成分の原料は、固相法により製造してもよいし、水熱合成法や蓚酸塩法などの液相法により製造してもよいが、製造コストの面から、固相法により製造することが好ましい。
【0033】
各副成分の原料としては、特に限定されず、上記した各副成分の酸化物や複合酸化物、または焼成によりこれら酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択して用いることができる。
【0034】
本発明の実施形態に係る誘電体磁器組成物の製造方法としては、まず主成分の原料または、主成分の原料と副成分の原料とを配合し、ジルコニアボールなどによるボールミルなどを用いて湿式混合する。副成分をこの時点で配合する場合には、上記した誘電体磁器組成物の組成になるように各副成分を配合してもよいし、一部のみ配合して、仮焼き後に残りの副成分を添加してもよい。
【0035】
得られた混合物を、造粒し、成形して、得られた成形物を、空気雰囲気中にて仮焼きすることにより、仮焼き粉を得ることができる。仮焼き条件としては、たとえば、仮焼き温度を、好ましくは1000〜1300℃、より好ましくは1150〜1250℃、仮焼き時間を、好ましくは0.5〜4時間とすれば良い。また、主成分の原料と、副成分の原料と、を別々に仮焼した後、混合して誘電体磁器組成物粉末としても良い。
【0036】
次いで、得られた仮焼き粉を粗粉砕する。ここで、仮焼き前に添加した副成分の原料と合わせて上記した誘電体磁器組成物の組成になるように副成分を添加する。
【0037】
仮焼き粉または仮焼き粉と副成分の原料を、ボールミルなどにより湿式粉砕して、さらに混合し、乾燥して誘電体磁器組成物粉末とする。上記のように、誘電体磁器組成物粉末を固相法により製造することで、所望の特性を実現しながら、製造コストの低減を図ることができる。
【0038】
次いで、得られた誘電体磁器組成物粉末にバインダを適量添加し、造粒し、得られた造粒物を、所定の大きさを有する円板状に圧縮成形することにより、グリーン成形体とする。そして、得られたグリーン成形体を、焼成することにより、誘電体磁器組成物の焼結体を得る。なお、焼成の条件としては、特に限定されないが、保持温度が、好ましくは1200〜1400℃、より好ましくは1280〜1360℃であり、焼成雰囲気を空気中とすることが好ましい。
【0039】
得られた誘電体磁器組成物の焼結体の主表面に、端子電極を印刷し、必要に応じて焼き付けすることにより、端子電極12,14を形成する。その後、端子電極12,14に、ハンダ付等により、リード端子6,8を接合し、最後に、素子本体を保護樹脂4で覆うことにより、図1(A)、図1(B)に示すような単板型セラミックコンデンサを得る。
【0040】
このようにして製造された本発明のセラミックコンデンサは、リード端子6,8を介してプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々異なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0042】
上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として誘電体層が単層である単板型セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、単板型セラミックコンデンサに限定されず、上記した誘電体磁器組成物を含む誘電体ペーストおよび電極ペーストを用いた通常の印刷法やシート法により作製される積層型セラミックコンデンサであっても良い。
【0043】
たとえば、図2に示す貫通型コンデンサ22の誘電体層210を上記した誘電体磁器組成物を用いて作製してもよい。貫通型コンデンサ22は、誘電体層210と、誘電体層210の一方の表面に互いに絶縁されて独立した個別電極212a、212bと、個別電極の対向表面に形成された共通電極214とを有し、誘電体層210、個別電極212a、212bおよび共通電極214には2つの貫通孔216a、216bが形成された構成となっている。
【0044】
誘電体層210は、上記のセラミックコンデンサ2の誘電体層10と同様の方法で製造することができる。また、誘電体層210の貫通孔216a、216bは誘電体磁器組成物粉末の造粒物を圧縮成形する際に形成することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0046】
試料1
主成分の原料として、BaCO、CaCO、MgCO、SrCO、TiOおよびZrOを、それぞれ準備した。また、副成分の原料として、NiO、CeO、MnCOをそれぞれ準備した。そして、準備したこれらの原料を、表1の試料1に示す組成となるように、それぞれ秤量し、この原料配合物をボールミルで湿式混合撹拌を3時間行い、脱水乾燥後、1170〜1210℃で仮焼成し、化学反応を行わせた。
【0047】
次いで、これを粗粉砕した後,再びポットミルで微粉砕し,脱水乾燥した後,これに有機結合剤としてポリビニルアルコール(PVA)を添加し,造粒整粒を行い,顆粒粉末とした。この顆粒粉末を300MPaの圧力で成形し直径16.5mm,厚さ1.15mmの円板状の成形物とした。
【0048】
得られた成形体を、空気中で、1350℃前後で本焼成し,磁器素体を得た。このようにして得られた磁器素体の両面に銀(Ag)ペーストで焼付け電極を形成し、これにリード線を半田付けして磁器コンデンサを得た。このようにして得られた試料の比誘電率、誘電損失、交流破壊電圧、キュリー温度、温度特性、焼結性を測定した結果を表3に示す。
【0049】
(比誘電率(ε))
比誘電率εは、コンデンサ試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータ(アジレントテクノロジー社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した(単位なし)。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では、3000以上を良好とした。
【0050】
(誘電損失(tanδ))
誘電損失(tanδ)は、コンデンサ試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータ(アジレントテクノロジー社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定した。誘電損失は低いほうが好ましく、本実施例では0.5%以下を良好とした。
【0051】
(交流破壊電圧(AC−Eb))
交流破壊電圧(AC−Eb)は、コンデンサの試料に対し、コンデンサの両端に交流電界を100V/sで徐々に印加し、100mAのもれ電流が流れた時点での電界値を交流破壊電界として測定した。交流破壊電界は高いほうが好ましく、本実施例では、6.0kV/mm以上を良好とした。
【0052】
(キュリー温度(Cp))
コンデンサ試料の雰囲気温度を−40〜100℃に変化させた際の温度に対する比誘電率の関係をグラフ化し、変曲点をキュリー温度(Cp)とした。なお、比誘電率は前記方法により測定した。キュリー温度が室温よりも高いと、コンデンサを室温で用いた場合、熱暴走するおそれがある。したがって、本実施例では20℃以下を好ましい範囲とした。また、試料1と試料41sについては、−40〜100℃の範囲における比誘電率の変化を表すグラフを図3に示す。
【0053】
(温度特性(TC))
コンデンサ試料に対し、−25℃と85℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件で静電容量を測定し、基準温度20℃における静電容量に対する−25℃および85℃での静電容量の変化率(単位は%)を算出した。本実施例ではΔC/C20は、+20%〜−55%が好ましい範囲とし、−25℃と85℃の両方でこの範囲を満たす場合は「○」、少なくとも一方が外れる場合には「×」とした。
【0054】
(焼結性)
得られた焼結体について、焼成後の焼結体の寸法および重量から、焼結体密度を算出し、その焼結体密度が5.2g/cm以上のものを○、5.2g/cm未満の物を×とした。ここで、基準を5.2g/cm未満としたのは、5.2g/cm未満だと素地の強度が著しく低下してしまうためである。
【0055】
試料2〜61
試料2〜61(表1、2)に示す組成となるように秤量した以外は、試料1と同様にして各コンデンサ試料を得た後、比誘電率、誘電損失、交流破壊電圧、キュリー温度、温度特性および焼結性を評価した。結果を表3または4に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
試料1〜12より、組成式中のαが0.95〜1.02の場合は(試料1、3〜11)、αが1.020を超える場合(試料2)に比べ、焼結性が良好であることが確認できた。また、組成式中のαが0.95〜1.02の場合は(試料1、3〜11)、αが0.95未満の場合(試料12)に比べ、比誘電率が高くなり、誘電損失およびキュリー温度が低くなることが確認できた。
【0061】
試料1、13〜21より、組成式中のuが0.20〜0.27の場合(試料1、14〜20)には、uが0.27を超える場合(試料13)に比べ、比誘電率が高くなり、誘電損失が低くなることが確認できた。また、組成式中のuが0.20≦u≦0.27の場合(試料1、14〜20)には、uが0.20未満の場合(試料21)に比べ、温度特性が良好になることが確認できた。
【0062】
試料1、22〜26より、組成式中のvが0.018〜0.049の場合は(試料1、23〜25)、vが0.048を超える場合(試料22)に比べ、比誘電率が高くなり、焼結性が良好であることが確認できた。また、組成式中のvが0.018〜0.049の場合は(試料1、23〜25)、vが0.018未満の場合(試料26)に比べ、交流破壊電圧が高くなり、温度特性が良好になることが確認できた。
【0063】
試料1、27〜33より、組成式中のwが0.004〜0.018の場合は(試料1、28〜32)、wが0.018を超える場合(試料27)に比べ、温度特性が良好になることが確認できた。また、組成式中のwが0.004〜0.018の場合は(試料1、28〜32)、wが0.004未満の場合(試料33)に比べ、誘電損失が低くなることが確認できた。
【0064】
試料1、34〜41より、組成式中のxが0.118〜0.149の場合は(試料35〜40)、xが0.149を超える場合(試料34)に比べ、交流破壊電圧が高くなり、温度特性が良好になることが確認できた。また、組成式中のxが0.118〜0.149の場合は(試料35〜40)、xが0.118未満の場合(試料41)に比べ、交流破壊電圧が高くなり、温度特性が良好になり、誘電損失が低くなることが確認できた。
【0065】
試料1、42〜48より、酸化ニッケルの含有量が主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部の場合は(試料1、43〜47)、酸化ニッケルの含有量0.4重量部を超える場合(試料42)に比べ、比誘電率および交流破壊電圧が高くなり、焼結性が良好になることが確認できた。また、酸化ニッケルの含有量が主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部の場合は(試料1、43〜47)、酸化ニッケルの含有量が0.03重量部未満の場合(試料48)に比べ、比誘電率および交流破壊電圧が高くなることが確認できた。
【0066】
試料1、49〜55より、酸化セリウムの含有量が主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部の場合は(試料50〜54)、酸化セリウムの含有量が0.4重量部を超える場合(試料49)に比べ、比誘電率が高くなり、誘電損失が低くなり、温度特性が良好になることが確認できた。また、酸化セリウムの含有量が主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部の場合は(試料50〜54)、酸化セリウムの含有量が0.03重量部未満の場合(試料55)に比べ、交流破壊電圧が高くなり、温度特性が良好になることが確認できた。
【0067】
試料1、56〜60より、酸化マンガンの含有量が主成分100重量に対して0.03〜0.4重量部の場合は(試料1、57〜59)、酸化マンガンの含有量が0.4重量部を超える場合(試料56)に比べ、比誘電率および交流破壊電圧が高くなり誘電損失が低くなることが確認できた。また、酸化マンガンの含有量が主成分100重量に対して0.03〜0.4重量部の場合は(試料1、57〜59)、酸化マンガンの含有量が0.03重量部未満の場合(試料60)に比べ比誘電率が高くなり焼結性が良好になることが確認できた。
【0068】
なお、主成分の組成はuが0.20〜0.27、vが0.018〜0.049、wが0.004〜0.018、xが0.118〜0.149、αが0.95〜1.02を満たしていても、副成分を含まない場合は(試料61)、比誘電率および交流破壊電圧が低下し、誘電損失が上昇し、焼結性が悪くなることが確認できた。
【0069】
さらに、図3(A)より試料1はキュリー温度が−10℃であり、−10℃を超えると温度の上昇とともに比誘電率が低下することが確認できた。このように、キュリー温度が−10℃と低いことで、室温(20℃)付近では、温度の上昇とともに比誘電率が低下する。これにより、交流電場印加により試料が発熱しても比誘電率が低下していき発熱が抑えられるため、発熱が更なる発熱を招くという正のフィードバックを回避することとなり、熱暴走を防ぐことができる。
【0070】
一方、図3(B)より試料41sはキュリー温度が35℃であり、35℃以下では温度の上昇とともに比誘電率が上昇し、35℃以上では温度の上昇とともに比誘電率が低下することが確認できた。このように、キュリー温度が35℃と高いと、室温20℃付近では、温度の上昇とともにキュリー温度までは比誘電率が上昇する。これにより、交流電場印加により試料が発熱しても比誘電率が低下しないため、発熱が更なる発熱を招くという正のフィードバック状態となり、熱暴走する可能性がある。
【符号の説明】
【0071】
2… 単板型セラミックコンデンサ
4… 保護樹脂
6,8… リード端子
10… 誘電体層
12,14… 端子電極
22… 貫通型コンデンサ
210… 誘電体層
212a、212b… 個別電極
214… 共通電極
216a、216b… 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Ba1−u−v−w,Ca,Mg,Srα(Ti1−x,Zr)Oの組成式で表わされる主成分と、酸化ニッケルと、酸化セリウムと、酸化マンガンと、を有する誘電体磁器組成物であって、
前記組成式中のuが0.20〜0.27であり、
前記組成式中のvが0.018〜0.049であり、
前記組成式中のwが0.004〜0.018であり、
前記組成式中のxが0.118〜0.149であり、
前記組成式中のαが0.95〜1.02であり、
前記酸化ニッケルを前記主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部含有し、
前記酸化セリウムを前記主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部含有し、
前記酸化マンガンを前記主成分100重量部に対して0.03〜0.4重量部含有する誘電体磁器組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する電子部品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−190145(P2011−190145A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57662(P2010−57662)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】