説明

誘電体磁器組成物の製造方法

【課題】微細で、かつ、結晶性が高く、しかも、焼成工程における粒成長を抑制することが可能な誘電体磁器組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】チタン酸バリウムを主たる成分とする主成分粉末を作製する主成分粉末作製工程を備えた誘電体磁器組成物の製造方法において、主成分粉末作製工程が、バリウム化合物とチタン化合物とを含む混合物を仮焼する仮焼工程と、前記仮焼工程で得られた仮焼物を酸溶液により洗浄する酸洗浄工程とを備えた工程であり、酸洗浄後に得られる主成分粉末が、一般式ABO3で表され、Aサイト元素とBサイト元素のモル比であるA/B比が1.0未満、0.9以上であるペロブスカイト型複合酸化物であるという要件を満たすようにする。
酸洗浄工程後に得られる主成分粉末が、結晶軸のa軸に対するc軸の比であるc/a軸比が1.010以上、比表面積が7m2/g以上という要件を満たすようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘電体磁器組成物の製造方法に関し、詳しくは、チタン酸バリウムを主たる成分とする誘電体磁器組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層セラミックコンデンサの誘電体などに用いられる誘電体セラミック組成物の製造方法として種々の方法が提案されている。それらの1つに、BaTiO3、SrTiO3、(BaSr)TiO3、Ba(TiZr)O3などの一般式ABO3で表されるペロブスカイト型化合物を、Aサイト元素とBサイト元素のモル比であるA/B比が1.01〜1.40の範囲になるように湿式反応させることにより得た反応生成物粉体を、粒子の成長が起こる温度よりも低い温度で仮焼し、得られた仮焼物を酸溶液で洗浄することによって過剰のA群元素を除去し、平均粒径が0.3μm以下で、A/B比がほぼ1のペロブスカイト型化合物の微粉末を製造する方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
そして、この特許文献1の方法によれば、従来の湿式法によるペロブスカイト型化合物の微粉末に比べて、反応が充分に進行していて未反応物が少なく、また結晶性が良好で結晶化度が高く、物理的特性および電気的特性が良好で、かつ、それらのバラツキが少ない、品質の安定したペロブスカイト型ABO3化合物の微粉末が得られるとされている。
【0004】
ところで、近年、積層セラミックコンデンサの小型・大容量化が進み、誘電体層の厚みは1μm程度にまで薄層化し、積層数も800層を超える積層セラミックコンデンサが実用化されるに至っており、さらなる小型・大容量化のために、誘電体層(セラミック層)の厚みを1μm以下の領域にまで薄層化する取り組みも行われている。
【0005】
そして、サブマイクロメーターの厚みの誘電体層を実現するためには、誘電体層を構成するセラミック焼結体の粒子径を、好ましくは100nm以下にまで微細化することが必要になる。
しかしながら、誘電体層を構成するセラミック焼結体(例えば、BaTiO3系セラミック)は、その粒子径が微細になると、誘電率が低下してしまうことが知られている。この誘電率の低下は、セラミック焼結体の結晶性(結晶軸のa軸に対するc軸の比(c/a軸比)の低下に起因するものである。
【0006】
したがって、サブマイクロメーターの厚みの誘電体層を実現するためには、焼結されて誘電体層を構成することになるセラミック焼結体粒子ついてみた場合に、その焼結前の原料粒子(例えば、チタン酸バリウム系材料の仮焼粉末)が微細で、結晶性が高く、しかも焼成工程で粒成長しにくいものであることが必要である。
【0007】
しかしながら、上述の従来のペロブスカイト型化合物微粉末の製造方法により得られるペロブスカイト型化合物微粉末は、粒径が0.3μm以下(300nm)程度と、サブマイクロメーターの厚みの誘電体層を実現するためには必ずしも十分でなく、また、出発のモル比であるA/B比が1.01〜1.40とAサイトが著しく過剰であるため、必ずしも十分に結晶性の高いペロブスカイト型化合物微粉末を得ることができないという問題点がある。
【0008】
また、特許文献1には、積層セラミックコンデンサに適用した場合の焼成工程における粒成長の抑制についても、十分な対応策が示されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2999821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、微細で、結晶性が高く、かつ、焼成工程における粒成長を抑制することが可能な誘電体磁器組成物の製造方法を提供すること目的する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の誘電体磁器組成物の製造方法は、
バリウム化合物とチタン化合物とを含むセラミック素原料からチタン酸バリウムを主たる成分とする主成分粉末を作製する主成分粉末作製工程を備えた誘電体磁器組成物の製造方法であって、
前記主成分粉末作製工程は、
バリウム化合物とチタン化合物とを含む混合物を仮焼する仮焼工程と、
前記仮焼工程で得られた仮焼物を酸溶液により洗浄する酸洗浄工程と
を備え、
前記酸洗浄後に得られる前記主成分粉末は、一般式ABO3で表され、Aサイト元素とBサイト元素のモル比であるA/B比が1.0未満、0.9以上であるペロブスカイト型複合酸化物であること
を特徴としている。
【0012】
本発明の誘電体磁器組成物の製造方法において、前記酸洗浄工程後に得られる主成分粉末は、結晶軸のa軸に対するc軸の比であるc/a軸比が1.010以上、比表面積が7m2/g以上であることが望ましい。
【0013】
また、前記主成分粉末作製工程で得られた主成分粉末に、モル比調整のためのBaを含む化合物を添加する工程をさらに備えていることが望ましい。
【0014】
また、前記モル比調整のためのBaを含んだ化合物はBaCO3であることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の誘電体磁器組成物の製造方法は、主成分粉末作製工程が、バリウム化合物とチタン化合物とを含む混合物を仮焼する仮焼工程と、仮焼工程で得られた仮焼物を酸溶液により洗浄する酸洗浄工程とを備え、酸洗浄を経た後に、主成分粉末として、一般式ABO3で表され、Aサイト元素とBサイト元素のモル比(A/B比)が1.0未満、0.9以上であるペロブスカイト型複合酸化物が得られるようにしているので、微細で、かつ、結晶性が高く、焼成工程における粒成長を抑制することが可能な誘電体磁器組成物を確実にしかも効率よく製造することができる。
【0016】
すなわち、チタン酸バリウムなどの主成分粉末を酸洗浄することにより、表面近くの結晶性の低い部分が除かれるため、結晶性を高めることができる。
また、酸洗浄により粒子の表面部分が除かれるとともに、凝集も抑制、緩和されるため、粒子径を小さくすることができる。
なお、本発明においては、酸洗浄に用いる酸として、酸解離定数pKaが−1.3以下の強酸を用いることが望ましい。具体的には、本発明において用いることが可能な酸として、塩酸、硫酸、硝酸、ヨウ化水素酸などが例示される。
【0017】
また、酸洗浄工程後に得られる主成分粉末の、結晶軸のa軸に対するc軸の比(c/a軸比)を1.010以上、比表面積を7m2/g以上にすることにより、結晶性が高く、粒子径が小さい、積層セラミックコンデンサの誘電体層に用いた場合に、高い比誘電率(εr)を実現することが可能な誘電体磁器組成物を得ることが可能になり、本願発明をより実効あらしめることができる。
【0018】
また、主成分粉末作製工程で得られた主成分粉末に、モル比調整のためのBaを含む化合物を添加する工程をさらに備えている場合、チタンに比べて、酸洗浄工程における溶出の割合の大きいBaを補って、AサイトとBサイトの割合を制御することが可能になり、所望の特性を備えた誘電体磁器(積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層など)を形成することが可能な誘電体磁器組成物を得ることができる。
また、Ba化合物は焼成時の粒成長を抑制する効果があるので、微細な結晶粒子を実現することができる。
【0019】
また、モル比調整のためのBaを含んだ化合物としてBaCO3を用いることにより、特殊な材料を用いることなく、容易かつ確実に、AサイトとBサイトの割合を制御して、所望の特性を備えた誘電体磁器を形成することが可能な誘電体磁器組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の誘電体磁器組成物の製造方法により製造された誘電体磁器組成物を誘電体材料として用いて作製した積層セラミックコンデンサを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0022】
[チタン酸バリウム粉末の合成]
出発原料として、比表面積が30m2/gのBaCO3粉末と、100m2/gのTiO2粉末をBaとTiのモル比が1.00になるように秤量した。そして、これに純水を加え、直径が2mmのPSZメディアを使用してボールミルにて混合、粉砕しスラリーを得た。
【0023】
それから、得られたスラリーを乾燥することにより、BaCO3粉末、TiO2粉末が均一に混合、粉砕された乾燥粉末を得た。
【0024】
この乾燥粉末を、酸化ジルコニウム質の匣(さや)に入れて、バッチ式の炉で、800〜1050℃、2〜5時間保持の条件で仮焼することにより、BaTiO3を主たる成分とする仮焼粉末を作製(合成)した。
【0025】
次に、塩酸濃度が0.12N、0.6N、1.8N、3.0Nの塩酸水溶液を準備した。この水溶液を60℃に保持し、上述のようにして作製した仮焼粉末を所定量投入して、120分間撹拌を行って酸洗浄を実施した。
【0026】
それから、酸洗浄後の仮焼粉末を含む塩酸水溶液を遠心分離機にかけた後、上澄み液を除去した。それから、上澄み液を除去した後の粉体に純水を添加し、撹拌した後、同様にして遠心分離機にかけ、上澄み液を取り除いた。このような純水添加→撹拌→遠心分離→上澄み液除去の処理を合計3回繰り返すことにより、酸洗浄済みの主成分粉末(チタン酸バリウムを主たる成分とする主成分粉末)を得た。
【0027】
このようにして得た、チタン酸バリウムを主たる成分とする主成分粉末の比表面積をBET法で測定した。
また、X線回折測定を行い、かつリートベルト解析を行うことにより、結晶軸のa軸に対するc軸の比(c/a軸比)を求めた。
また、BaとTiのモル比(A/B比)をガラスビード法で測定した。
その結果を表1に示す。なお、表1において試料番号に*印を付したものは本発明の要件を備えていないものである。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すように、濃度が0.12N、0.6N、1.8Nの塩酸を用いて洗浄した試料番号B,C,Dの場合、Aサイト元素とBサイト元素のモル比(A/B比)が1.0未満、0.9以上、比表面積が7m2/g以上で、c/a軸比が1.010以上の主成分粉末(チタン酸バリウムを主たる成分とする主成分粉末)が得られていることが確認された。すなわち、仮焼、合成の工程を経て得られる仮焼粉末を、適切に酸洗浄することにより、結晶性の低い表面部分を溶解除去して結晶性を高める(c/a軸比を高くする)ことが可能になること、および、凝集を抑制、緩和して粒子径を小さくできることが確認された。
一方、酸洗浄を行わない試料番号Aの場合、結晶性の低い表面部分がそのまま残り、粒子径が大きいため、比表面積が5.6m2/gと小さくなること、c/a軸比も1.010未満で結晶性も低くなることが確認された。
また、濃度が3.0Nの塩酸を用いて洗浄した試料番号Eの場合、比表面積が20.7m2/gと大きく、c/a軸比も1.010以上となるが、Bサイト成分が溶解されすぎて、Aサイト元素とBサイト元素のモル比(A/B比)が0.660と極端に小さくなることが確認された。これは、酸洗浄に用いた塩酸の濃度および洗浄時間の関係から、酸洗浄(酸による結晶表面の溶解)が進みすぎて、結晶の表面が大きく除去されることによるものである。
表1に示した結果から、酸に対する溶出は、BサイトのTiに比べてAサイトのBaの方が多いので、Bサイトが過剰の結晶性の高い主成分粉末(チタン酸バリウムを主たる成分とする主成分粉末)が得られることがわかる。
【0030】
また、従来、Bサイト過剰のチタン酸バリウムは仮焼時の粒成長が著しく、微粒で結晶性の高いBサイト過剰のチタン酸バリウム系の誘電体セラミックを合成することは困難であったが、酸洗浄工程を備えた本発明の方法によれば、表1の試料番号B,C,Dに示すように、Bサイト過剰で、粒径の小さい(比表面積の大きい)チタン酸バリウム系の誘電体セラミックを効率よく製造できることがわかる。
【0031】
なお、酸洗浄前のA/B比は、1.0000〜1.0050の範囲にあること(AサイトとBサイトが等モルか、Aサイト過剰であること)が好ましいことが、表1の結果、および表1に示していない予備的な試験の結果から確認されている。これは、洗浄前のA/B比が1.0000を下回ると仮焼時の粒成長が顕著となり、微粒のチタン酸バリウム粉末を得ることができなくなり、また、A/B比が1.0050を上回ると結晶性を高めることができなくなることによる。
【0032】
また、酸洗浄後のA/B比は1.0未満、0.9以上であることが好ましい。A/B比が0.9を下回ると、Tiの割合が過度に大きくなり、Ti化合物の偏析といった不具合が起こることによる。
なお、上記の例では、塩酸3.0Nで120分の条件とした場合、酸洗浄によるバリウム化合物の溶出が多くなりすぎる結果となったが、酸の濃度や酸洗浄時間などの条件、さらには温度条件などを制御することにより、塩酸濃度が3.0Nあるいはそれ以上の濃度の酸溶液を用いたり、また、塩酸濃度が0.12N未満の酸溶液を用いたりすることも可能である。
【0033】
[積層セラミックコンデンサの作製]
上述のようにして作製した主成分粉末(チタン酸バリウム粉末)を用いて、以下に説明する方法で、積層セラミックコンデンサ用の誘電体磁器組成物を作製した。
【0034】
まず、作製したBaTiO3粉末100モルに対して、添加物としてMgOを1.0モル、Dy23を0.8モル、SiO2を1.3モル添加するとともに、Ba/Ti比が1.007になるようにモル比(A/B比)調整用のBaCO3を添加、配合した。
【0035】
モル比(A/B比)調整用のBaCO3の配合量は、表2の各試料番号の試料において、以下の割合となるようにした。なお、以下の割合は、酸洗浄後のBaTiO3粉末100モルに対するBaCO3のモル数である。
試料番号1:BaCO3の配合量0.4モル
試料番号2:BaCO3の配合量2.2モル
試料番号3:BaCO3の配合量5.1モル
試料番号4:BaCO3の配合量10.4モル
試料番号5:BaCO3の配合量34.7モル
【0036】
なお、酸洗浄を行った上記主成分粉末(BaTiO3)の場合、表面のバリウム化合物が酸に溶解するため、モル比調整用のBa化合物の添加量は酸洗浄を行っていないもの(試料番号1の試料)に比べて多くなる。
【0037】
それから、BaCO3を配合した配合物にポリビニルブチラール系のバインダー、およびエタノールなどの有機溶剤を加え、ボールミル(直径が2mmのPSZメディアを使用)により混合、粉砕した。
【0038】
このスラリーを用いてドクターブレード法により、平面形状が矩形のセラミックグリーンシートを作製し、Niを主体とする導電性ペーストを印刷した。このグリーンシートを複数枚積層して積層体を作製した。
それから、積層体をN2雰囲気にて350℃の温度に保持し、バインダーを燃焼させた後、酸素分圧10-9〜10-12MPaのN2−H2−H2Oガスからなる還元雰囲気中において所定温度で焼成した、
【0039】
焼成後の積層体の端部にAgペーストを塗布し、N2雰囲気、600℃で焼成して外部電極を形成した。
これにより、図1に示すような構造を有する積層セラミックコンデンサを作製した。
【0040】
なお、この積層セラミックコンデンサ20は、積層セラミック素子11中に、セラミック誘電体層12を介して、複数の内部電極13a,13bが積層され、かつ、セラミック誘電体層12を介して互いに対向する内部電極13a,13bが交互に積層セラミック素子11の異なる側の端面14a,14bに引き出された構造を有している。そして、積層セラミック素子11の端面14a,14bには、内部電極13a,13bと電気的に接続する外部電極15a,15bが形成されている。
この実施例では、作製した積層セラミックコンデンサの、セラミック誘電体層の厚みが0.8μm、静電容量に寄与するセラミック誘電体層の積層数が100層となるようにしている。
【0041】
[特性の評価]
上述のようにして作製した積層セラミックコンデンサについて、静電容量をLCRメーターを用いて、1kHz,0.5Vrmsの条件で測定し、比誘電率εrを算出した。
【0042】
また、セラミック誘電体層の結晶粒径をSEM画像解析法により、500箇所測定し、平均結晶粒径、および最大結晶粒径を求めた。
【0043】
また、絶縁抵抗計を使用して、1000個の積層セラミックコンデンサについて抵抗値を測定し、抵抗値が100kΩ以下の試料をショート不良とし、全測定試料に対する、ショート不良と評価された試料の比率をショート不良率として求めた。その結果を表2に示す。なお、表2において試料番号に*印を付したものは本発明の要件を備えていない主成分粉末を使用して作製したものである。
【0044】
【表2】

【0045】
本願発明の要件を備えた誘電体磁器組成物(表1の試料番号B,C,Dの酸洗浄後のチタン酸バリウム粉末にBaCO3を添加して調製した誘電体磁器組成物)を用いて作製した、表2の試料番号2,3および4の積層セラミックコンデンサの場合、モル比調整のために添加したBaCO3の粒成長抑制効果により、セラミック誘電体層を構成するチタン酸バリウムの粒成長が抑制され、平均結晶粒径が157〜167nm、最大結晶粒径が282〜376nmと極めて小さいことが確認された。
【0046】
さらに、その結果、セラミック誘電体層の厚みが0.8μm、積層数100層とした積層セラミックコンデンサのショート不良率は2〜3%と小さく抑えられることが確認された。
また、セラミック誘電体層の比誘電率も良好で、特に問題がないことが確認された。
【0047】
一方、本願発明の要件を備えていない誘電体磁器組成物(表1の試料番号Aの酸洗浄を行っていないチタン酸バリウム粉末にBaCO3を添加して調製した誘電体磁器組成物)を用いて作製した、表2の試料番号1の積層セラミックコンデンサの場合、モル比調整のために添加したBaCO3の添加量が少なく、大きな粒成長抑制効果が得られないことから、平均結晶粒径が198nmと大きくなることが確認された。さらに、最大結晶粒径が500nmを超え、ショート不良も25%と高くなることが確認された。
【0048】
また、表1の誘電体磁器組成物(表1の試料番号Eの酸洗浄後のチタン酸バリウム粉末にBaCO3を添加して調製した誘電体磁器組成物)を用いて作製した、表2の試料番号5の積層セラミックコンデンサの場合、平均結晶粒径が150nmと小さいにもかかわらず、最大結晶粒径が500を超え、その結果ショート不良も20%と高くなることが確認された。
これは、酸洗浄後のチタン酸バリウム粉末(表1の試料番号Eのチタン酸バリウム粉末)のAサイト元素とBサイト元素のモル比(A/B比)が0.660と小さいため、チタン酸バリウム粉末全体としては粒成長が抑制され、平均結晶粒径が150nmと小さくなるものの、多量に添加されたBaCO3は必ずしも均一に混合せず、Tiが過剰な部分で粒成長を起こしてしまい、最大結晶粒径が500を超えることになったものと考えられる。
【0049】
これらの結果から、酸洗浄後のAサイト元素とBサイト元素のモル比(A/B比)が極端に小さくなることは必ずしも好ましいことではなく、1.0未満、0.9以上の範囲が好ましいことがわかる。
【0050】
なお、上記実施例では、本発明の方法で製造される誘電体磁器組成物を用いて積層セラミックコンデンサを製造する場合を例にとって説明したが、本発明の方法により製造される誘電体磁器組成物は、積層セラミックコンデンサに限らず、 多層部品などの他の積層セラミック電子部品にも適用することが可能である。
【0051】
本発明はさらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、本発明の誘電体磁器組成物を製造する場合の原料の種類や具体的な組成、仮焼工程における温度や時間などの条件、酸洗浄に用いる酸の種類、酸の濃度、酸洗浄の時間などに関し、発明の範囲内において種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0052】
11 積層セラミック素子
12 セラミック誘電体層
13a,13b 内部電極
14a,14b 積層セラミック素子の端面
15a,15b 外部電極
20 積層セラミックコンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリウム化合物とチタン化合物とを含むセラミック素原料からチタン酸バリウムを主たる成分とする主成分粉末を作製する主成分粉末作製工程を備えた誘電体磁器組成物の製造方法であって、
前記主成分粉末作製工程は、
バリウム化合物とチタン化合物とを含む混合物を仮焼する仮焼工程と、
前記仮焼工程で得られた仮焼物を酸溶液により洗浄する酸洗浄工程と
を備え、
前記酸洗浄後に得られる前記主成分粉末は、一般式ABO3で表され、Aサイト元素とBサイト元素のモル比であるA/B比が1.0未満、0.9以上であるペロブスカイト型複合酸化物であること
を特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項2】
前記酸洗浄工程後に得られる主成分粉末は、結晶軸のa軸に対するc軸の比であるc/a軸比が1.010以上、比表面積が7m2/g以上であることを特徴とする請求項1記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項3】
前記主成分粉末作製工程で得られた主成分粉末に、モル比調整のためのBaを含む化合物を添加する工程を備えていることを特徴とする請求項1または2記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項4】
前記モル比調整のためのBaを含んだ化合物はBaCO3であることを特徴とする請求項3記載の誘電体磁器組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−79720(P2011−79720A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235069(P2009−235069)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】