説明

誘電体磁器組成物

【課題】CuOを含有させなくても、低温での焼成が可能であり、且つQ・f値を向上させることができる誘電体磁器組成物を提供する。
【解決手段】本発明の誘電体磁器組成物は、主成分として、BaO−Nd23−TiO2系化合物、及び2MgO・SiO2を含み、副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及びリチウム化合物を含み、リチウム化合物の質量をLiOに換算した場合に、リチウム化合物の含有量cが、主成分100質量部に対して、0.04質量部<c<3.24質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、需要が増加している携帯電話等の移動体通信機器では、数百MHz〜数GHz程度の準マイクロ波と呼ばれる高周波帯が使用されている。そのため、移動体通信機器に用いられるフィルタ、共振器、コンデンサ等の電子デバイスとして、高周波特性を有するデバイス(以下、「高周波デバイス」と記す。)が要求されている。また、近年の移動体通信機器の小型化に伴い、高周波デバイスにも小型化が要求されている。
【0003】
小型の高周波デバイスを実現するためには、高周波デバイスの材料として、使用周波数における比誘電率が高く、誘電損失が小さく、且つ共振周波数の温度特性の変化が小さい材料を用いることが要求される。このような材料としては、従来、BaO−希土類酸化物−TiO2系の誘電体磁器組成物(以下、「高誘電率材」と記す。)が用いられている。この高誘電率材を用いて高周波デバイスを形成する際は、高誘電率材と、高周波デバイス内部の電極や配線となる導体材とを同時焼成するため、導体材としては、高誘電率材の焼結温度よりも融点が高く、高誘電率材との同時焼成中に溶融しない材料を用いる必要があった。ところが、高誘電率材の焼結温度は1300〜1400℃と高温であるため、従来は、融点が高く、且つ高価なPdやPtを導体材に用いなければならなかった。一方、安価で、且つ低抵抗であるAg又はAgを主成分とする合金(以下、「Ag系金属」と記す。)は、融点が860〜1000℃程度であり、高誘電率材の焼結温度よりも低いため、導体材に用いることができなかった。
【0004】
上記高誘電率材を用いた高周波デバイスを更に高特性化、小型化するために、高誘電率材から形成される高誘電率層と、これより比誘電率の低い誘電体磁器組成物(以下、低誘電率材)から形成される低誘電率層とを接合させた多層型デバイスが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
上記多層型デバイスに用いられる低誘電率材としては、下記特許文献2に示すように、主成分として、比誘電率の高いxBaO・yNd・zTiOと、比誘電率の低い2MgO・SiOとを共に含む誘電体磁器組成物(以下、「複合材」と記す。)が挙げられる。
【0006】
この複合材には、副成分(焼結助剤)として、ZnO、B、及びCuOが含まれているため、異材質であるxBaO・yNd・zTiOと2MgO・SiOとの間で、焼成収縮挙動、線膨張係数を一致させ、且つ異材質界面での過剰な反応を抑制し、両者を欠陥なく同時焼成することができる。
【0007】
また、複合材の焼結温度は、800〜950℃程度であり、従来の高誘電率材の焼結温度より低いため、PdやPtより融点が低く、低抵抗であり、且つ安価なAg系金属を導体材として用いることができる。すなわち、複合材は、導体材であるAg系金属の溶融を抑制できるほどの低温で、Ag系金属と同時焼成することが可能である。
【特許文献1】特開平9−139320号公報
【特許文献2】特開2006−124270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2に示す複合材に副成分として含まれるCuOには、複合材の焼結温度を低下させる効果があったが、本発明者は、鋭意研究の結果、複合材からCuOを除くことによって、複合材とAg系金属との同時焼成中に、Ag系金属の溶融をより確実に抑できることを見出した。
【0009】
しかし、複合材にCuOを含有させない場合、複合材自体の焼結温度が上昇する傾向があり、複合材とAg系金属とを低温(Ag系金属の融点より低い温度)で同時焼成し難くなる傾向があることも、本発明者が同時に見出した。また、複合材にCuOを含有させない場合、複合材の誘電損失が大きくなり、Q・f値(単位:GHz)が小さくなる傾向があることも見出した。なお、Qは、誘電体における現実の電流と電圧の位相差と、理想の電流と電圧の位相差90度との差である損失角度δの正接tanδの逆数であり、fは共振周波数である。
【0010】
上述のように、複合材との同時焼成中にAg系金属の融点が下がることを抑制するためには、複合材にCuOを含有させないことが望まれるが、複合材にCuOを含有させない場合、複合材自体の焼結温度が上昇して、低温(Ag系金属の融点より低い温度)での複合材の焼成が困難となり、またQ・f値が低下する傾向がある。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、CuOを含有させなくても、低温での焼成が可能であり、且つQ・f値を向上させることができる誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の誘電体磁器組成物は、主成分として、BaO−Nd23−TiO2系化合物、及び2MgO・SiO2を含み、副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及びリチウム化合物を含み、リチウム化合物の質量をLiOに換算した場合に、リチウム化合物の含有量cが、主成分100質量部に対して、0.04質量部<c<3.24質量部、好ましくは0.10質量部≦c≦3.00質量部、より好ましくは0.20質量部≦c≦1.62質量部であることを特徴とする。
【0013】
上記組成によれば、リチウム化合物を含有することで、従来副成分として用いられていたCuOを含まなくても、誘電体磁器組成物とAg系金属との同時焼成中にAg系金属の融点を低下させず、低温(Ag系金属の融点より低い温度)での誘電体磁器組成物の焼成を可能とし、且つ誘電損失を小さくし、Q・f値を向上させる効果が得られるようになる。
【0014】
なお、誘電体磁器組成物とは、誘電体磁器の原料組成物であり、誘電体磁器組成物を焼結させることによって、焼結体である誘電体磁器が得られる。また、焼結とは、誘電体磁器組成物を加熱すると、誘電体磁器組成物が焼結体と呼ばれる緻密な物体になる現象である。一般に、加熱前の誘電体磁器組成物に比べて、焼結体の密度、機械的強度等は大きくなる。また、焼結温度とは、誘電体磁器組成物が焼結する際の誘電体磁器組成物の温度である。また、焼成とは、焼結を目的とした加熱処理を意味し、焼成温度とは、加熱処理の際に誘電体磁器組成物が曝される雰囲気の温度である。
【0015】
また、上記本発明の誘電体磁器組成物を低温で焼成することが可能であるか否か(低温焼結性)の評価は、誘電体磁器組成物の焼成温度を徐々に下げて焼成し、所望の誘電体高周波特性が得られるレベルに誘電体磁器組成物が焼結しているかどうかで判断することができる。また、本発明の誘電体磁器組成物についての誘電特性は、Q・f値、温度変化による共振周波数の変化(共振周波数の温度係数τf)、及び比誘電率εrによって評価することができる。Q・f値、共振周波数の温度係数τf、及び比誘電率εrは、日本工業規格「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法」(JISR 1627 1996年度))に従って測定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、CuOを含有させなくても、低温での焼成が可能であり、且つQ・f値を向上させることができる誘電体磁器組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
(誘電体磁器組成物)
本実施形態の誘電体磁器組成物は、主成分として、BaO−Nd23−TiO2系化合物、及び2MgO・SiO2を含み、副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及びリチウム化合物を含む。リチウム化合物の質量をLiOに換算した場合に、リチウム化合物の含有量cは、主成分100質量部に対して、0.04質量部<c<3.24質量部である。
【0019】
<主成分>
本実施形態の誘電体磁器組成物に含まれる主成分は、組成式{α(xBaO・yNd・zTiO)+β(2MgO・SiO)}で表すことができる。組成式{α(xBaO・yNd・zTiO)+β(2MgO・SiO)}におけるαは、xBaO・yNd・zTiO成分の体積比率(体積%)を表し、βは、2MgO・SiO成分の体積比率を表す。また、α及びβは、α+β=100(体積%)の関係を満たす。
【0020】
なお、主成分の一部として含有される2MgO・SiOは、フォルステライト結晶の形態で誘電体磁器組成物に含有されていることが好ましい。誘電体磁器組成物にフォルステライト結晶が含有されているか否かは、X線回折装置(XRD)によって確認することができる。
【0021】
BaO−Nd−TiO系化合物は、高い比誘電率εrを有し、その値は55〜105程度である。一方、2MgO・SiO(フォルステライト)は、単体で低いεrを有し、その値は6.8程度である。本実施形態では、誘電体磁器組成物に、主成分として、εrの高いBaO−Nd−TiO系化合物と、εrの低い2MgO・SiOとを含有させることで、誘電体磁器組成物のεrを下げることができる。
【0022】
本実施形態の誘電体磁器組成物から形成される誘電体層を、従来のBaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物(高誘電率材)から形成される誘電体層と接合して多層型デバイスを形成する場合、本実施形態の誘電体磁器組成物の比誘電率が、高誘電率材の比誘電率より低いほど多層型デバイスを高特性化できる。このような理由から、本実施形態の誘電体磁器組成物のεrは50以下であることが好ましく、40以下であることが好ましく、35以下であることが更に好ましく、25〜35であることが特に好ましい。
【0023】
BaO−Nd−TiO系化合物は、正の共振周波数の温度係数τf(単位:ppm/K)を有する場合が多い。一方、2MgO・SiO(フォルステライト)は、単体で負のτfを有し、その値は−65(ppm/K)程度である。本実施形態では、誘電体磁器組成物に、主成分として、正のτfを有するBaO−Nd−TiO系化合物と、負のτfを有する2MgO・SiOとを含有させることで、正のτfと負のτfとが相殺され、誘電体磁器組成物のτfをゼロ近傍とすることができる。さらに、主成分中の2MgO・SiOの含有率を増減させることで、誘電体磁器組成物のτfを調整することができる。なお、温度係数τf、及び後述するQ・f値は、焼結後の誘電体磁器組成物、すなわち誘電体磁器が示す値である。
【0024】
なお、誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τf(単位:ppm/K)は下記式(1)で算出される。
【0025】
τf=〔f−fref/fref(T−Tref)〕×10(ppm/K)・・・式(1)
【0026】
ここでfは温度Tにおける共振周波数(kHz)を表し、frefは基準温度Trefにおける共振周波数(kHz)を表す。τfの絶対値の大きさは、温度変化に対する誘電体磁器組成物の共振周波数の変化量の大きさを意味する。コンデンサ、誘電体フィルタ等の高周波デバイスでは、温度による共振周波数の変化を小さくする必要があるため、誘電体磁器組成物のτfの絶対値を小さくすることが要求される。
【0027】
本実施形態の誘電体磁器組成物のτfは、−40(ppm/K)〜+40(ppm/K)であることが好ましく、−28(ppm/K)〜+28(ppm/K)であることがより好ましく、−20(ppm/K)〜+20(ppm/K)であることが更に好ましい。τfを上記の好適範囲内とすることによって、誘電体磁器組成物を誘電体共振器に利用する場合、誘電体共振器の共振周波数の温度変化を小さくすることができ、誘電体共振器を高特性化することができる。
【0028】
BaO−Nd−TiO系化合物のQ・f値(単位:GHz)は、2000〜8000GHz程度である。一方、2MgO・SiO(フォルステライト)単体のQ・f値は、200000GHz程度であり、2MgO・SiOの誘電損失は、BaO−Nd−TiO系化合物の誘電損失に比べて小さい。本実施形態では、誘電体磁器組成物に、主成分として、BaO−Nd−TiO系化合物と、BaO−Nd−TiO系化合物に比べて誘電損失の小さいフォルステライトとを含有させることで、誘電損失の小さい誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0029】
なお、誘電体磁器組成物のQ・f値(単位:GHz)とは、誘電損失の大きさを表し、現実の電流と電圧の位相差と、理想の電流と電圧の位相差90度との差である損失角度δの正接tanδの逆数Q(Q=1/tanδ)と、共振周波数fとの積である。
【0030】
理想的な誘電体磁器に交流を印加すると、電流と電圧は90度の位相差をもつ。しかしながら、交流の周波数が高くなり高周波となると、誘電体磁器の電気分極又は極性分子の配向が高周波の電場の変化に追従できず、あるいは電子又はイオンが伝導することにより、電束密度が電場に対して位相の遅れ(位相差)をもち、現実の電流と電圧は90度以外の位相をもつことになる。このような位相差に起因して、高周波のエネルギーの一部が熱となって放散する現象を、誘電損失と呼ぶ。誘電損失の大きさは、上述のQ・f値で表される。誘電損失が小さくなればQ・f値は大きくなり、誘電損失が大きくなればQ・f値は小さくなる。誘電損失は高周波デバイスの電力損失を意味し、高周波デバイスでは高特性化を実現するために誘電損失が小さいことが要求されるため、Q・f値の大きい誘電体磁器組成物が求められる。
【0031】
本実施形態の誘電体磁器組成物のQ・f値は、4000GHz以上であることが好ましく、4500GHz以上であることがより好ましい。
【0032】
xBaO・yNd・zTiO成分の体積比率αは、15≦α≦75であることが好ましく、25≦α≦65であることがより好ましく、35≦α≦55であることが更に好ましい。
【0033】
また、2MgO・SiO成分の体積比率βは、25≦β≦85であることが好ましく、35≦β≦75であることがより好ましく、45≦β≦65であることが更に好ましい。
【0034】
αが75を超えて、βが25未満となると、誘電体磁器組成物のεrが大きくなる傾向があり、従来の高誘電率材と接合した多層型デバイスの高特性化が難しくなる傾向がある。またαが75を超えて、βが25未満となると、τfが正方向へ大きくなる傾向があり、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなる傾向がある。一方、αが15未満となり、βが85を超えると、誘電体磁器組成物のτfが負方向へ大きくなる傾向があり、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなる傾向がある。そこで、xBaO・yNd・zTiO成分の体積比率α、及び2MgO・SiO成分の体積比率βを、上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制することができる。
【0035】
主成分の組成式{α(xBaO・yNd・zTiO)+β(2MgO・SiO)}におけるx、y、及びzは、それぞれBaO、Nd、及びTiOのモル比率(モル%)を表し、x+y+z=100(モル%)の関係を満たす。
【0036】
BaOのモル比率xは、9≦x≦22であることが好ましく、10≦x≦19であることがより好ましく、14≦x≦19であることが更に好ましい。
【0037】
xが9未満となると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向があり、また高周波デバイスの電力損失が大きる傾向がある。一方、xが22を超えると、低温での焼結性が損なわれて誘電体磁器を形成できなくなる傾向があり、さらには誘電損失が大きくなり、Q・f値が大きく低下して、高周波デバイスの電力損失が大きくなる傾向がある。そこで、BaOのモル比率xを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制することができる。
【0038】
Ndのモル比率yは、9≦y≦29であることが好ましく、9≦y≦22であることがより好ましく、12≦y≦17であることが更に好ましい。
【0039】
yが9未満となると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向があり、また高周波デバイスの電力損失が大きくなる傾向がある。一方、yが29を超えると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向があると共に、τfも負方向へ大きくなる傾向がある。そのため、高周波デバイスの電力損失が大きくなり、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなる傾向がある。そこで、Ndのモル比率yを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制することができる。
【0040】
TiOのモル比率zは、61≦z≦74であることが好ましく、61.5≦z≦74であることがより好ましく、65≦z≦71であることが更に好ましい。
【0041】
zが61未満となると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向があると共に、τfも負方向へ大きくなってしまう傾向がある。従って、高周波デバイスの電力損失が大きくなり、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなる傾向がある。一方、zが74を超えると、低温焼結性が損なわれ、誘電体磁器を形成できなくなるという傾向がある。そこで、TiOのモル比率zを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制することができる。
【0042】
<副成分>
本実施形態の誘電体磁器組成物は、上記主成分(BaO−Nd−TiO系化合物及び2MgO・SiO2)に対する副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及びリチウム化合物を含む。なお、誘電体磁器組成物は、本発明の効果を損なわない程度の量であれば、副成分としてCuOを更に含有してもよいが、CuOを含有しないことが好ましい。
【0043】
上記の各副成分を誘電体磁器組成物に含有させることによって、誘電体磁器組成物の焼結温度が低下するため、Ag系金属からなる導体材の融点より低い温度で、誘電体磁器組成物をAg系金属と同時に焼成することが可能となる。
【0044】
副成分の一種である亜鉛酸化物の含有量は、亜鉛酸化物の質量をZnOに換算した場合の値a(単位:質量部)が、主成分100質量部に対して、0.1≦a≦12.0であることが好ましく、0.5≦a≦9.0であることがより好ましく、1.0≦a≦7.0であることが更に好ましい。
【0045】
aが0.1未満となると、低温焼結効果(より低い温度での誘電体磁器組成物の焼結を可能とする効果)が不充分なものとなる傾向がある。一方、aが12.0を超えると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向がある。そこで、亜鉛酸化物の含有量aを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。なお、具体的な亜鉛酸化物としては、ZnO等が挙げられる。
【0046】
副成分の一種であるホウ素酸化物の含有量は、ホウ素酸化物の質量をBに換算した場合の値b(単位:質量部)が、主成分100質量部に対して、0.1≦b≦12.0であることが好ましく、0.5≦b≦9.0であることがより好ましく、1.0≦b≦7.0であることが更に好ましい。
【0047】
bが0.1未満となると、低温焼結効果が不充分なものとなる傾向がある。一方で、bが12.0を超えると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向がある。そこで、ホウ素酸化物の含有量bを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。なお、具体的なホウ素酸化物としては、B等が挙げられる。
【0048】
副成分の一種であるリチウム化合物の含有量は、リチウム化合物の質量をLiOに換算した場合の値c(単位:質量部)が、主成分100質量部に対して、0.04<c<3.24であり、0.10≦c≦3.00であることが好ましく、0.20≦c≦1.62であることがより好ましい。
【0049】
cが0.04以下となると、低温焼結効果が不充分なものとなる傾向がある。一方、cが3.24以上となると、Q・f値が向上し難い傾向がある。そこで、リチウム化合物の含有量cを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制でき、誘電体磁器組成物がCuOを含有させなくても、誘電体磁器組成物の低温での焼成が可能であり、且つQ・f値を向上させることができる。具体的なリチウム化合物としては、上記効果を得やすいという理由から、LiOを用いることが好ましい。
【0050】
副成分の一種であるアルカリ土類金属酸化物の含有量は、アルカリ土類金属酸化物の質量をRO(Rはアルカリ土類金属元素)に換算した場合の値d(単位:質量部)が、主成分100質量部に対して、0.2≦d≦5.0であることが好ましく、0.5≦d≦3.5であることがより好ましく、1.0≦d≦3.0であることが更に好ましい。アルカリ土類金属酸化物を誘電体磁器組成物に含有させることによって、誘電体磁器組成物の低温焼結効果が顕著となる。
【0051】
dが0.2未満となると、低温焼結効果十分に得られなくなる傾向がある。一方、dが5.0を超えると、低温焼結効果は顕著となるものの、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向がある。そこで、アルカリ土類金属酸化物の含有量dを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【0052】
なお、アルカリ土類金属であるRとしては、Ba、Sr、Caのいずれかが好ましく、これらの2種以上を混合して用いてもよい。アルカリ土類金属RとしてBaを用いた場合、アルカリ土類金属酸化物の含有量dは、BaO換算で0.5≦d≦3.5であることが好ましい。また、アルカリ土類金属RとしてSrを用いた場合、アルカリ土類金属酸化物の含有量dは、SrO換算で0.4≦d≦2.5であることが好ましい。また、アルカリ土類金属RとしてCaを用いた場合、アルカリ土類金属酸化物の含有量dは、CaO換算で0.2≦d≦1.5であることが好ましい。具体的なアルカリ土類金属酸化物ROとしては、BaO、SrO、CaO等が挙げられる。
【0053】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、副成分として、上記副成分以外にAgを更に含有することが好ましい。これにより、誘電体磁器組成物の低温焼結効果がより顕著となり、安定した静電容量や絶縁抵抗値を有する誘電体磁器を得ることが可能となる。また、誘電体磁器組成物に副成分としてAgを含有させることにより、内部導体にAg系金属を使用した場合に、内部導体から誘電体素地中へのAgの拡散を抑制することができる。
【0054】
誘電体磁器組成物に、副成分としてAgを更に含有させる場合、Agの含有量e(単位:質量部)は、主成分100質量部に対して、0.3≦e≦3.0であることが好ましく、1.0≦e≦2.0であることがより好ましい。
【0055】
eが0.3未満となると、低温焼結効果が十分に得られなくなる傾向があり、また、誘電体素地中へのAgの拡散を十分に抑制できない傾向がある。誘電体素地中へのAgの拡散を十分に抑制できない場合、誘電体内のAgの含有量が不均一化して誘電率のバラツキが発生したり、または内部導体中のAgの含有量が低減することによって内部導体と誘電体素地との間で空隙が発生したり、または外部との接続部分における内部導体の引き込みによって導体不良が発生したりする傾向がある。一方で、eが3.0を超えると、低温焼結効果は得られるものの、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向がある。また、誘電体素地中へ拡散したAgの量が、誘電体が許容できるAgの取り込み量を超えてしまい、誘電体素地中においてAgが偏析しやすくなり、高周波デバイス等における電圧負荷寿命等の信頼性が低下する傾向がある。そこで、副成分であるAの含有量を、上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制することができる。
【0056】
上記本実施形態では、従来副成分として用いられていたCuOに代えて、リチウム化合物を含有するため、誘電体磁器組成物とAg系金属との同時焼成中に、Ag系金属の融点の低下を一層抑制できる。また、上記組成を有する本発明の誘電体磁器組成物は、CuOを含有しなくても、低温(Ag系金属の融点より低い温度)で焼成することが可能であり、且つ誘電損失を小さくし、Q・f値を向上させることができる。
【0057】
上記本実施形態では、誘電体磁器組成物の主成分は、BaO−Nd23−TiO2系化合物を含むため、従来のBaO−希土類酸化物−TiO2系の誘電体磁器組成物(高誘電率材)の材質と類似している。そのため、本実施形態の誘電体磁器組成物の焼成時における収縮挙動および線膨張係数が、高誘電率材と同等となる。従って、本実施形態の誘電体磁器組成物と高誘電率材とを接合し、焼成して、多層型デバイスを製造することによって、接合面に欠陥が生じ難く、高特性の多層型デバイスを得ることができる。
【0058】
(誘電体磁器組成物の製造方法)
次に、本実施形態の誘電体磁器組成物の製造方法の一例について説明する。
【0059】
誘電体磁器組成物の主成分及び副成分の各原料としては、例えば、BaO−Nd−TiO2系化合物、2MgO・SiO2、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、リチウム酸化物、及びアルカリ土類金属酸化物、又は焼成(後述する仮焼等の熱処理)によってこれらの酸化物となる化合物を用いることができる。焼成(後述する仮焼等の熱処理)により上記酸化物となる化合物としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、硫化物、有機金属化合物等が例示される。
【0060】
誘電体磁器組成物の製造では、例えば、主成分の原料の一部となる炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンをそれぞれ所定量秤量して混合する。この混合の際は、得られる誘電体磁器組成物の主成分の組成式xBaO・yNd・zTiOにおけるモル比x、y及びzが、上述の好適範囲内となるように、各原料を秤量する。
【0061】
炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンの混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができ、例えば、純水、エタノール等の溶媒を用いたボールミルにより行えばよい。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0062】
炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンの混合物を、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃で、12〜36時間程度乾燥させた後、仮焼する。この仮焼によって、BaO−Nd−TiO系化合物を合成する。仮焼温度は、1100〜1500℃であることが好ましく、1100〜1350℃であることがより好ましい。また、仮焼は1〜24時間程度行うことが好ましい。
【0063】
合成されたBaO−Nd−TiO系化合物は、粉砕して粉末とした後、乾燥する。これにより、BaO−Nd−TiO系化合物の粉末を得る。粉砕は、乾式粉砕又は湿式粉砕等の粉砕方式で行うことができ、例えば、純水、エタノール等の溶媒を用いたボールミルにより行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。粉末の乾燥は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃の乾燥温度で、12〜36時間程度行えばよい。
【0064】
また、主成分である2MgO・SiO(フォルステライト)の原料である酸化マグネシウムと酸化シリコンとをそれぞれ所定量秤量して混合する。酸化マグネシウムと酸化シリコンの混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができ、例えば、純水、エタノール等の溶媒を用いたボールミルにより行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0065】
酸化マグネシウムと酸化シリコンとの混合物を、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃で、12〜36時間程度乾燥させた後、仮焼する。この仮焼によって、2MgO・SiO(フォルステライト結晶)を合成する。仮焼温度は、1100〜1500℃であることが好ましく、1100〜1350℃であることが好ましい。また、仮焼は1〜24時間程度行うことが好ましい。
【0066】
合成されたフォルステライト結晶を、粉砕して粉末とした後に乾燥する。これにより、2MgO・SiO(フォルステライト結晶)の粉末を得る。粉砕は乾式粉砕又は湿式粉砕等の粉砕方式でおこなうことができ、例えば、純水、エタノール等の溶媒を用いたボールミルにより行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。粉末の乾燥は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃の乾燥温度で、12〜36時間程度行えばよい。
【0067】
なお、上述のように、マグネシウム含有原料及びシリコン含有原料からフォルステライト結晶を合成するのではなく、市販のフォルステライトを用いてもよい。すなわち、市販のフォルステライトを、上述した方法で粉砕し、乾燥してフォルステライトの粉末を得ても良い。
【0068】
次に、得られたBaO−Nd−TiO系化合物の粉末と、2MgO・SiO(フォルステライト結晶)の粉末とを、上述の体積比率α:βで配合することによって、誘電体磁器組成物の主成分が得られる。このように、BaO−Nd−TiO系化合物と2MgO・SiO(フォルステライト)とを配合することにより、BaO−Nd−TiO系化合物単独を主成分とする場合に比べて、誘電体磁器組成物のεrを下げることができ、共振周波数の温度係数をゼロ近傍とすることができると共に、誘電損失を小さくすることができる。
【0069】
なお、上述の2MgO・SiO(フォルステライト結晶)の添加効果を大きくするためには、フォルステライト中に含まれる未反応の原料成分を少なくする必要があるため、酸化マグネシウムと酸化シリコンとの混合物を調製する際は、マグネシウムのモル数がシリコンのモル数の2倍となるように、酸化マグネシウムと酸化シリコンとを混合することが好ましい。
【0070】
次に、得られた誘電体磁器組成物の主成分の粉末と、誘電体磁器組成物の副成分の原料である亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、リチウム酸化物、及びアルカリ土類金属炭酸塩とを、それぞれ所定量秤量した後、これらを混合して原料混合粉末とする。なお、副成分の各原料の秤量は、完成後の誘電体磁器組成物において、各副成分の含有量が、主成分に対して所望の上記比率(質量部)となるように行う。また、混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができ、例えば、純水、エタノール等の溶媒を用いたボールミルにより行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0071】
原料混合粉末を、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃の乾燥温度で12〜36時間程度乾燥する。
【0072】
次に、原料混合粉末を、後述する焼成温度(860〜1000℃)以下の温度、例えば700〜800℃で、1〜10時間程度仮焼する。このように仮焼を焼成温度以下の温度で行うことによって、原料混合粉末中のフォルステライトが融解することを抑制でき、完成後の誘電体磁器組成物中に、結晶の形でフォルステライトを含有させることができる。
【0073】
仮焼後の原料混合粉末に対して粉砕を行った後に、原料混合粉末を乾燥して、誘電体磁器組成物が得られる。粉砕は乾式粉砕又は湿式粉砕等の粉砕方式でおこなうことができ、例えば、純水、エタノール等の溶媒を用いたボールミルにより行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。粉砕後の原料混合粉末の乾燥は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃の処理温度で、12〜36時間程度行えばよい。
【0074】
上述ように各原料を混合する以前の時点と、各原料を混合して原料混合粉末とした後の時点で、計2回の仮焼及び粉砕を行うことにより、誘電体磁器組成物の主成分と副成分とが均一に混合されて、材質が均一な誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0075】
なお、誘電体磁器組成物に副成分としてAgを更に含有させる場合、例えば、仮焼前の原料混合粉末に、Agを含有する原料を加えればよい。Agを含有する原料としては、金属状態のAg(以下、「金属Ag」と記す。)、又は仮焼により金属Agとなる化合物が用いられる。仮焼により金属Agとなる化合物としては、例えば、硝酸銀(AgNO)、酸化銀(AgO)、又は塩化銀(AgCl)等が挙げられる。
【0076】
また、誘電体磁器組成物に副成分としてAgを更に含有させる場合、仮焼前の原料混合粉末ではなく、仮焼後の原料混合粉末に金属Agを更に添加した後、原料混合粉末の粉砕及び乾燥を行ってもよい。
【0077】
上述した本実施形態の誘電体磁器組成物は、例えば、高周波デバイスの一種である多層型デバイスの製造に用いることができる。多層型デバイスは、内部にコンデンサ、インダクタ等の誘電デバイスを一体的に作りこまれた複数のセラミック層からなる多層セラミック基板から作られる。この多層セラミック基板は、互いに誘電特性が異なる誘電体磁器組成物から形成されるグリーンシートを複数枚用意し、内部電極となる導体材をグリーンシート間に配し、または各グリーンシートにスルーホールを形成した後に、グリーンシートを複数積層し、これらを同時焼成して製造される。
【0078】
多層型デバイスの製造においては、本実施形態の誘電体磁器組成物に、ポリビニルアルコール系、アクリル系、又はエチルセルロース系等の有機バインダー等を混合した後、得られた混合物をシート状に成型してグリーンシートを得る。グリーンシートの成型方法としては、シート法や印刷法等の湿式成型法を用いてもよく、プレス成型等の乾式成型を用いてもよい。
【0079】
次に、得られたグリーンシートと、これとば誘電特性が異なる他のグリーンシートとを、その間に内部電極となる導体材のAg系金属を配した状態で交互に複数積層し、この積層体を所望の寸法に切断してグリーンチップを形成する。得られたグリーンチチップに脱バインダー処理を施した後に、グリーンチップを焼成して、焼結体を得る。焼成は、例えば、空気中のような酸素雰囲気にて行うことが好ましい。また、焼成温度は、導体材として用いるAg系金属の融点以下であることが好ましく、具体的には、860〜1000℃であることが好ましく、870〜940℃であることがより好ましい。得られた焼結体に外部電極等を形成することにより、Ag系金属からなる内部電極を備える多層型デバイスが得られる。
【0080】
このように、本実施形態の誘電体磁器組成物を用いて得られる多層型デバイス等の電子デバイスにおいて、内部電極中のCu又はZnの含有率は、6質量%以下であることが好ましい。このような内部電極は、焼成中に溶融し難いため、得られる電子デバイスにおいてショート不良等を抑制できる。なお、本発明において、誘電体磁器組成物、および誘電体磁器組成物を用いて形成される電子デバイスは、Cuを含有しないことが好ましいが、本発明の効果を損なわない程度の量であれば、Cuを含有してもよい。
【0081】
以上、本発明に係る誘電体磁器組成物の好適な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。
【0082】
例えば、本発明に係る誘電体磁器組成物は、低温での焼成を可能とし、且つQ・f値の向上させる効果を阻害しない範囲内で、他の化合物が含まれていてもよい。例えば、誘電体磁器組成物の主成分に対してマンガン酸化物を含有させることにより、誘電損失を小さく抑えることができる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
[試料No.1〜49]
誘電体磁器組成物の主成分100質量部に対するLiOの含有量(質量部)を表1に示す値となるようにそれぞれ変化させて、試料No.1〜49の誘電体磁器組成物をそれぞれ作製した。そして、得られた誘電体磁気組成物を用いて測定用試料をそれぞれ作製し、これらのfr、εr、Q・f値、及び焼結密度を測定した。また、試料No.7、14、21、28、30〜35、42、49については、τfの測定も行った。これらの測定結果を表1に示す。誘電体磁気組成物の作製方法、測定用試料の作製方法及びその評価方法は、表1に示した条件(LiO含有量、焼結温度)を変化させたこと以外は、全て以下に例として示す試料No.21における場合と同様とした。
【0085】
(試料No.21)
組成式{α(xBaO・yNd・zTiO)+β(2MgO・SiO)}で表され、α=55(体積%)、β=45(体積%)、x=18.5(モル%)、y=15.4(モル%)、z=66.1(モル%)である主成分と、主成分100質量部に対して、6.0質量部のZnOと、2.0質量部のBと、0.6質量部のCaOと、0.20質量部のLiOと、1.0質量部のAgとを副成分として含有する試料No.21の誘電体磁器組成物を、以下に示す手順で作製した。
【0086】
まず、主成分の原料であるBaCO、Nd(OH)、及びTiOを、これらを仮焼した後に得られるxBaO・yNd・zTiOにおけるモル比x、y及びzが上記の値となるようにそれぞれ秤量した。
【0087】
秤量した原料に純水を加えて、スラリー濃度が25質量%であるスラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて16時間湿式混合した後、120℃で24時間乾燥して、粉末を得た。この粉末を、空気中で、4時間、1200℃で仮焼して、組成式xBaO・yNd・zTiO(x=18.5(モル%)、y=15.4(モル%)、z=66.1(モル%))で表されるBaO−Nd−TiO2系化合物を得た。このBaO−Nd−TiO2系化合物に純水を加えて、スラリー濃度が25質量%であるスラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて16時間粉砕した後、120℃で24時間乾燥し、BaO−NdTiO系化合物の粉末を製造した。
【0088】
次に、主成分の他の原料であるMgO、及びSiOを、マグネシウム原子のモル数がケイ素原子のモル数の2倍となるようにそれぞれ秤量した。秤量した原料に純水を加え、スラリー濃度が25質量%であるスラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて16時間湿式混合した後、120℃で24時間乾燥して、粉末を得た。この粉末を、空気中で、3時間、1200℃で仮焼して、フォルステライト結晶(2MgO・SiO)を得た。このフォルステライト結晶に純水を加えて、スラリー濃度が25%であるスラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて16時間粉砕した後、120℃で24時間乾燥して、フォルステライト結晶の粉末を製造した。
【0089】
次に、得られたBaO−NdTiO系化合物の粉末と、フォルステライト結晶の粉末とを、55:45の体積比率で混合した混合物に対して、誘電体磁器組成物の副成分の原料であるZnO、B、CaCO、及びLiOをそれぞれ配合した後、更に純水を加えて、スラリー濃度が25質量%であるスラリーを作製した。このスラリーをボールミルにて16時間湿式混合した後、120℃で24時間乾燥して、原料混合粉末を得た。得られた原料混合粉末を、空気中で、2時間、750℃で仮焼して、仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末に、誘電体磁器組成物の副成分である金属Agを配合した。次に、金属Agを配合した仮焼粉末に純水を加えて、スラリー濃度が25質量%であるスラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて16時間湿式粉砕した後、120℃で24時間乾燥して、試料No.21の誘電体磁器組成物の粉末を得た。なお、BaO−Nd−TiO系化合物の粉末とフォルステライト結晶の粉末との混合物に対するZnO、B、CaCO、LiO、及び金属Agの各配合量は、完成後の誘電体磁器組成物において、主成分100質量部に対して、ZnOが6.0質量部、Bが2.0質量部、CaOが0.6質量部、LiOが0.20質量部、金属Agが1.0質量部それぞれ含有されるように調整した。
【0090】
試料No.21の誘電体磁器組成物の粉末に、バインダーとしてポリビニルアルコール水溶液を加えて造粒したものを、直径12mm×高さ6mmの円柱状に成型し、これを920℃の焼成温度で1時間焼成して、試料No.21の誘電体磁器を得た。次に、誘電体磁器の表面を削り、直径10mm×高さ5mmの円柱ペレットを作成して試料No.21の測定用試料を得た。
【0091】
試料No.21の測定用試料の誘電特性を示すεr、Q・f値(単位:GHz)、及びτf(単位:ppm/K)を、日本工業規格「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法」(JISR 1627 1996年度)に従って測定した。また、アルキメデス法により、試料No.21の測定用試料の焼結体密度(単位:g/cm)を測定した。これらの測定結果を表1に示す。なお、εr、Q・f値、及びτfの測定に際して、測定周波数は7.5GHzとした。また共振周波数fを−40〜85℃の温度範囲で測定し、τf=〔f−fref/fref(T−Tref)〕×10(ppm/K)・・・式(1)によりτfを算出した。また、式(1)におけるTは85℃とし、基準温度Trefは−40℃とした。また、表1に示すfrは20℃における共振周波数である。また、焼結体密度は高いほど好ましく、特に4.0g/cmを超えることが好ましい。
【0092】
【表1】

【0093】
試料No.15〜21の測定結果から、LiOの含有量が主成分100質量部に対して0.2質量部である誘電体磁器組成物は、820〜920℃の焼成温度で焼成可能であり、焼成後に1942〜4756GHzのQ・f値を示すことが確認された。また、試料No.22〜42の測定結果から、副成分であるLiOの含有量が主成分100質量部に対して0.4〜1.62質量部である誘電体磁器組成物は、800〜920℃の焼成温度で焼成可能であり、焼成後に2005〜5660GHzのQ・f値を示すことが確認された。
【0094】
一方、試料No.1〜14の測定結果から、LiOの含有量が主成分100質量部に対して0.04質量部以下である誘電体磁器組成物は、800℃及び820℃の焼成温度では焼結せず、焼成後に誘電体磁器が得られないことが確認された。そのため、焼成温度が800℃又は820℃であった試料No.1、2、8、9では、fr、εr、Q・f値、及び焼結密度が測定できなかった。
【0095】
また、試料No.43〜49と試料No.15〜42とを比較することにより、LiOの含有量が主成分100質量部に対して3.24質量部である誘電体磁器組成物を860〜900℃で焼成した場合のQ・f値は、LiOの含有量が主成分100質量部に対して3.24質量部未満(0.20〜1.62質量部)である誘電体磁器組成物を同様の860〜900℃で焼成した場合のQ・f値より小さく、4000未満であることが確認された。
【0096】
[試料No.50]
組成式{α(xBaO・yNd・zTiO)+β(2MgO・SiO)}で表され、α=55(体積%)、β=45(体積%)、x=18.5(モル%)、y=15.4(モル%)、z=66.1(モル%)である主成分と、主成分100質量部に対して、6.0質量部のZnOと、2.0質量部のBと、0.6質量部のCaOと、0質量部のCuOと、1.0質量部のAgとを副成分として含有する試料No.50の誘電体磁器組成物を、試料No.21と同様の方法で作製した。
【0097】
試料No.1、8、15、22、29、36、43、50の各誘電体磁器組成物の成形体に対して、熱機械分析(TMA:Thermo Mechanical Analysis)を行った。TMAでは、各試料を室温から1100℃まで昇温させ、各温度における各試料の膨張率(単位:長さ%)を求めた。なお、各試料の膨張率は、昇温開始前(室温時)の各誘電体磁器組成物の成形体の寸法(長さ)を100%として算出した。また、各試料の昇温速度は10℃/分とした。また、各試料の昇温雰囲気に対して200ml/分の空気を供給し続けながら、各試料を昇温させた。また、各試料に3.0gの測定荷重を印加し続けた状態でTMAを行った。TMAの結果を図1に示す。なお、図1において、横軸(Temperature)は各試料の温度を示し、縦軸(Expansion rate)は各試料の膨張率を示す。また、図1において、膨張率が減少し始める温度は、誘電体磁器組成物の成形体が焼結し始める温度を意味する。
【0098】
図1に示すように、誘電体磁器組成物におけるLiOの含有量が大きくなるほど、焼結カーブが低温側にシフトすることが確認された。すなわち、誘電体磁器組成物におけるLiOの含有量が大きくなるほど、誘電体磁器組成物がより低温で焼結し、より低温で収縮することが確認された。
【0099】
また、LiOを含有する各試料、特に試料No.15、22、29、36は、CuOを含有する試料No.50と同様に低温で焼結することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】試料No.1、8、15、22、29、36、43、50に対する熱機械分析(TMA)の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として、BaO−Nd23−TiO2系化合物、及び2MgO・SiO2を含み、
副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及びリチウム化合物を含み、
前記リチウム化合物の質量をLiOに換算した場合に、前記リチウム化合物の含有量cが、前記主成分100質量部に対して、0.04質量部<c<3.24質量部である、ことを特徴とする誘電体磁器組成物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−227483(P2009−227483A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71970(P2008−71970)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】