説明

誘電体膜、及びその製造方法

【課題】ディスプレイパネル用のガラス基板に反りを生じることなく積層される緻密な誘電体膜、及び鉛などの有害物を含有しない環境負荷が小さいガラス組成物を用いて形成される誘電体膜の製造方法を提供。
【解決手段】ガラス基板の反りを抑制することのできる、2以上の誘電体層を有する誘電体膜であって、ガラス基板上に設けられる最下層の誘電体層(A)は、酸化物換算で、SiOを1〜15mol%、Bを10〜50mol%、ZnOを30〜50mol%、及び一般式:RO(式中、Rは、K、Na又はLiから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を示す。)で表されるアルカリ金属の酸化物を0〜12mol%含むガラス組成物から形成され、かつそのガラス転移点は、480℃〜540℃であり、一方、最下層の上に設けられる誘電体層(B)を形成するガラス組成物のガラス転移点は、430℃〜480℃である誘電体膜などにより提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体膜、及びその製造方法に関し、より詳しくは、ディスプレイパネル用のガラス基板に反りを生ぜずに積層される緻密な誘電体膜、及び鉛などの有害物を含有しない環境負荷が小さいガラス組成物を用いた誘電体膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイパネル、例えば、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)は、大型フラットディスプレイとして脚光を浴び、大型テレビ受像機として実用化され、急速に普及しはじめている。蛍光表示管(以下、VFDという)は、文字や記号の表示デバイスとして自動車、オーディオ機器、デジタルマルチメータ等の計測器等の表示デバイスとして用いられており、また、フィールドエミッションディスプレイ(以下、FEDという)は、ブラウン管に代わる未来のディスプレイデバイスとして期待を集めている。
【0003】
PDPは、一対のガラス板に微少間隔をもうけて対向し、底部に蛍光体を有する放電空間が得られるように周囲を封着したもので、放電によって発生する紫外線で刺激発光する蛍光体により映像を映すことができる。PDPで映像が表示される側のガラス板を前面板、他方を背面板と呼んでいる。一般的なAC型PDPの背面板は、図2に示すような構造をしている。
背面板10bには、ストライプ状の隔壁16が形成され、これら隔壁16の凹部の底面には、隔壁と平行に1本の電極13(アドレス電極ともいう)が形成され、電極の表面に誘電体層15が形成され、電極を覆っている。また、これら隔壁16の壁面などには紫外線の照射を受けて発光する蛍光体17が塗付されている。
前面板10aには、ストライプ状のITO等により形成され、可視光を透過する透明電極11と、透明電極上に設けられた1本の銀等により形成されたバス電極12が配置されている。この電極を覆うように、ガラス等で構成される誘電体膜15が形成され、この誘電体膜を覆うようにMgO膜14が蒸着により形成される。このような構造のPDPを形成するには、銀で形成される電極、誘電体や隔壁等は既存の厚膜技術が用いられている。
【0004】
一方、一般的なVFDは、図3に示すように、フェースガラス21とガラス基板22から構成される真空容器をもち、真空容器中のフィラメント26より放出された電子を格子電極23で制御しセグメント電極24に衝突せしめ、セグメント電極24上の蛍光体を刺激発光させて、文字、記号等を表示するものである。ガラス基板に表示部となるセグメント電極が形成され、当該電極への信号を伝達する配線27と、該配線27とセグメント電極24間を絶縁する絶縁体層25が配置されている。
ガラス基板への電極や絶縁体の形成方法には厚膜技術が多用され、セグメント電極への配線は厚膜銀ペーストで形成されることが多く、これを覆う絶縁体は厚膜ガラスペーストによる誘電体であり、セグメント電極はグラファイトを主成分とする厚膜ペーストで形成される。なお、セグメント電極と配線の導通を確保する為、絶縁層はスルーホールを形成するように印刷する。
【0005】
これに対して、図4に示すFEDは、対向する2枚のガラス基板31で構成される真空容器の一方のガラス基板31bに、電子を放出する電子放出素子36を形成し、放出された電子を他方のガラス基板31aの蛍光体33に衝突せしめ刺激発光させるものである。電子放出素子36が形成されたガラス基板31bには、電子放出素子36への信号を送る配線38と、該配線38を覆う誘電体37と、スぺーサー35上に設けられたゲート電極34が形成されている。電子放出素子36は、スぺーサー35が設けられていない個所に設けられる。なお、ガラス基板等で構成されるVFDの真空容器の機械的強度を増すために、図示していないが2枚のガラス基板の間に誘電体等で形成される支柱状の構造物を設けることがある。FEDの各構成要素は、薄膜技術を多用して形成されるが、誘電体は厚膜技術により形成される。
【0006】
これらPDP、VFD、FEDは、その基板として高歪点ガラス(例えば、旭硝子製 PD−200)やソーダライムガラスを用いるため、焼成温度は高くても600℃に制限されている。そのため、ガラスの軟化点をこの温度以下にしなければ、緻密な焼成膜は得られない。
従来のガラスは、鉛やビスマスを含有させることでこの軟化点を実現していた。特許文献1、2には鉛を含有するガラスが開示され、特許文献3にはビスマスを含有するガラスが開示されている。有害物である鉛を含有している従来のガラスを用いれば、得られる厚膜ガラスペーストの誘電体は、焼成によって基板が反ることもない。
【0007】
しかし、ガラスに含まれるこれら鉛やビスマスは、ディスプレイデバイスが廃棄されるときはもちろん、ディスプレイデバイスを製造する際も廃棄物として地球環境に放出され、土壌、地下水、河川等の汚染、公害などの環境問題を引き起こすことになる。
【0008】
かかる問題に対して、特許文献4、5ではPを含むガラスが開示されているが、Pを含むガラスは耐水性に問題があり、実用性に難がある。特許文献3、特許文献6〜10にはB−Si−Zn系ガラスの組成が開示されている。
【0009】
ところが、こうした鉛を含まないガラスを用いると、得られる厚膜ガラスペーストの誘電体は、焼成したときに基板が大きく反る場合がある。特に、基板一面にガラス膜を形成する誘電体では、基板の反りが顕著となる。基板に反りが生じればデバイスを組み立てる際に、特に封着工程で封着ができなくなるので真空容器が得られず、結果としてデバイスが得られないという不具合や、精度を確保する上で不具合を生じることとなる。
そのため、特許文献10では、ガラス基板の変形を防止するために、PDP用の隔壁形成材料を600℃以下で焼成するとしている。しかしながら、それに用いるガラス組成物の構成成分については何ら考慮がなされていない。
【0010】
このようなガラス基板の変形は、焼成工程に伴うバインダーの消失と低融点ガラスの溶融により、焼成後の隔壁に体積収縮が発生するため生じるとされ、例えば、特許文献11においても、前面パネルと背面パネルとを重ね合わせたときに、隔壁端部の反り上がりに起因して放電空間の区画が不十分になり、所定の放電セルにおける放電が隣接する放電空間にまで広がって、隣接放電セルに誤放電を引き起こす(放電の干渉が生じる)としている。この文献では、主として、誘電体層の形成箇所を限定するなど装置設計面からの対策が記載されるだけで、ガラス組成物自体の改良には言及していない。
【0011】
このような状況下、鉛やビスマスなどの有害物を含まないガラスを含むガラスペーストを用いて、PDPなどディスプレイ用のガラス基板上に塗布し誘電体を形成する際、その焼成工程で基板の反りを実質的に抑制しながら、精度が確保されたデバイスを組み立てることができる誘電体、その製造に適したガラス組成物が求められている。
【特許文献1】特開平8−119725
【特許文献2】特開平11−60273
【特許文献3】特開平9−283035
【特許文献4】特開平8−301631
【特許文献5】特開2000−128567
【特許文献6】特開平9−278482
【特許文献7】特開2000−226231
【特許文献8】特開2000−226232
【特許文献9】特開2000−313635
【特許文献10】特開2000−327370
【特許文献11】特開2001−319580
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記従来の問題点に鑑み、ディスプレイパネル用のガラス基板に反りを生ぜずに積層される緻密な誘電体膜、及び鉛などの有害物を含有しない環境負荷が小さいガラス組成物を用いた誘電体膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、PDPなどのガラス基板上に、鉛やビスマスを含まないガラス組成物を用いて積層される誘電体膜において、ガラスペーストを塗布し焼成する過程でガラス基板に反りが生じないように誘電体層を少なくとも2層以上にして、そのうちの最下層(ガラス基板側)を特定のガラス組成物を用いて形成することにより、ガラス基板の反りを実質的に抑制できるだけでなく、緻密で耐電圧特性に優れる誘電体膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、鉛やビスマスを実質的に含まずにガラス基板の反りを抑制することのできる、2以上の誘電体層を有する誘電体膜であって、ガラス基板上に設けられる最下層の誘電体層(A)は、酸化物換算で、SiOを1〜15mol%、Bを10〜50mol%、ZnOを30〜50mol%、及び一般式:RO(式中、Rは、K、Na又はLiから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を示す。)で表されるアルカリ金属の酸化物を0〜12mol%含むガラス組成物から形成され、かつそのガラス転移点は、480℃〜540℃であり、一方、最下層の上に設けられる誘電体層(B)を形成するガラス組成物のガラス転移点は、430℃〜480℃であることを特徴とする誘電体膜が提供される。
【0015】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、誘電体層(A)を形成するガラス組成物は、さらに、酸化物換算で、BaO、CaO又はSr0から選ばれるいずれかのアルカリ土類金属の酸化物を1〜35mol%含むことを特徴とする誘電体膜が提供される。
【0016】
一方、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、誘電体層(A)を形成するガラス組成物は、さらに、アルミナ、シリカ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、チタニア又は耐熱無機顔料から選ばれる少なくとも1種の無機酸化物粉末を、組成物全量に対して5〜20重量%含むことを特徴とする誘電体膜が提供される。
【0017】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、誘電体層(A)を形成するガラス組成物の熱膨張係数は、70〜81×10−7/℃であることを特徴とする誘電体膜が提供される。
【0018】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、誘電体層(B)を形成するガラス組成物は、酸化物換算で、SiOを15〜40mol%、Bを10〜50mol%、ZnOを20〜50mol%、及び一般式:RO(式中、Rは、K、Na又はLiから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を示す。)で表されるアルカリ金属の酸化物を12〜15mol%含むことを特徴とする誘電体膜が提供される。
【0019】
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、誘電体膜全体の膜厚が10〜60μmであり、かつ誘電体層(A)の膜厚が5〜50μmであることを特徴とする誘電体膜が提供される。
【0020】
一方、本発明の第7の発明によれば、第1〜6の発明に係り、ガラス基板上に、酸化物換算で、SiOを1〜15mol%、Bを10〜50mol%、ZnOを30〜50mol%、及び一般式:RO(式中、Rは、K、Na又はLiから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を示す。)で表されるアルカリ金属の酸化物を0〜12mol%含むガラス転移点が480℃〜540℃のガラス組成物、樹脂及び溶剤からなるガラスペースト(a)を用いて最下層の誘電体層(A)を形成した後、さらにその上にガラス転移点が480℃〜540℃のガラス組成物、樹脂及び溶剤からなるガラスペースト(b)を塗布し、焼成して誘電体層(B)を形成することを特徴とする誘電体膜の製造方法が提供される。
【0021】
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、ガラス基板上に、ガラスペースト(a)を塗布し、焼成して最下層の誘電体層(A)を形成した後、次に、その上にガラスペースト(b)を塗布し、焼成して誘電体層(B)を形成することを特徴とする誘電体膜の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、ガラス基板に接する最下の誘電体層と、その上を覆う2層目の誘電体層から少なくとも構成される鉛やビスマス等の有害物を含まない誘電体膜であり、最下の誘電体層が特定の組成を有するガラス組成物を用いて形成される。そのため、ガラス組成物を含むペーストをディスプレイパネル用のガラス基板に塗布し、所定の温度で焼成したときに、ガラス基板に接する最下の誘電体層が基板の反りを抑制して、反りの程度を鉛やビスマスを含むガラス組成物と同程度にすることができる。
そして、2層目の誘電体層が、最下層の誘電体層を形成するガラス組成物とは異なる成分を配合したガラスペーストで形成されるので、基板の反りと電気特性の両方の特性が満足できる誘電体膜とすることができる。
このようなことから、本発明の誘電体膜は、PDP、VFD、FEDなどのディスプレイパネルを構成する誘電体膜として有用であり、工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の誘電体膜、その製造方法について図面を用いて詳細に説明する。
【0024】
1.誘電体膜
本発明の誘電体膜は、鉛やビスマスを実質的に含まずにガラス基板の反りを抑制することのできる、2以上の誘電体層を有する誘電体膜であって、ガラス基板上に設けられる最下層の誘電体層(A)は、酸化物換算で、SiOを1〜15mol%、Bを10〜50mol%、ZnOを30〜50mol%、及び一般式:RO(式中、Rは、K、Na又はLiから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を示す。)で表されるアルカリ金属の酸化物を0〜12mol%含むガラス組成物から形成され、かつそのガラス転移点は、480℃〜540℃であり、一方、最下層の上に設けられる誘電体層(B)を形成するガラス組成物のガラス転移点は、430℃〜480℃であることを特徴とする。
【0025】
すなわち、本発明の誘電体膜(以下、単に誘電体ともいう)は、図1に示すような積層構造をしており、ガラス基板上に鉛やビスマスを含まないガラス組成物によって形成され、ガラス基板(4)に接する最下の誘電体層(2)と、その上に形成される誘電体層(3)の2層以上からなり、最下の誘電体層(2)がガラス基板(4)の反りを抑制して形成され、その上に誘電体層(3)が形成されることで、十分な耐電圧特性を有する誘電体膜(1)を構成している。
【0026】
これまでPDPなどのガラス基板(以下、単に基板ともいう)には、一種類の誘電体形成用ガラスペーストが用いられ、これを基板に塗布し焼成することによって誘電体が一層又は二層以上積層されていた。ところが、背景技術で述べた通り、実質的に鉛やビスマスを含まない一種類のガラス組成物によって誘電体を形成すると、ガラスペーストを焼成する際にガラス基板に反りを生じてしまう。本発明は、ガラス基板上に積層される誘電体を少なくとも二種類の誘電体形成用ガラスペーストを用いて二層以上の誘電体膜とすることで、このような基板の反りを抑制することを意図している。
また、ディスプレイデバイスの焼成温度を低温化しようとすれば、最下層だけでは対応しにくいため、最下層の上を、より軟化しやすいガラスを含む誘電体で覆い、誘電体全体として所望の耐電圧特性を得ようとするものである。
【0027】
本発明においては、ガラス基板に接する最下の誘電体層が、反りの小さい誘電体であるため、その上に形成する誘電体層の材料として、より低い温度で軟化し、基板を大きく反らせうるガラス組成物を用いても構わない。これは、積層する誘電体の焼成による反りを最下層の誘電体が吸収するために、基板の反りは、反りの小さいガラス組成物を用いて誘電体を形成した場合に生じる反りと変わらないからである。
つまり、最下層の誘電体層の上に誘電体層(以下、2層目ともいう)を覆った後、2層目を焼成する際に、すぐに最下層の誘電体が軟化することで、その上に積層した誘電体の収縮を基板に伝えないためである。一方、ガラス基板は誘電体と比較すればはるかに硬く、誘電体が焼成される温度では誘電体の収縮により反ることしかできない。
【0028】
このように、基板に反りを生じさせにくいガラス組成物によって最下層の誘電体を形成すると、その上に最下層よりも基板に反りを生じさせやすい2層目の誘電体を形成したとしても、ソーダライムガラス基板に反りの問題は生じない。
ところが、層の位置関係が逆になるように、2層目の誘電体層用のガラス組成物によって誘電体の最下層を形成した後、2層目の誘電体層を最下層用のガラス組成物によって形成すると、基板の反りは全く改善されず、反りの値は最下層の誘電体材料を反映した値となる。言い換えれば、基板の反りは、基板に直接触れるガラス組成物の組成によって決まり、基板に触れないガラス組成物には支配されないということになる。
【0029】
PDPやVFDのガラス基板に誘電体膜を形成するに当たり、これまでも複数の誘電体ペーストを積層して誘電体を形成することがあった。これは基板に形成され欠陥が見つかった誘電体の上に再び誘電体層を形成することで、ピンホールなどの欠陥を補うためである。
例えば、PDPデバイスの前面板に形成されている誘電体膜にピンホールやボイドなどの欠落・欠陥が発生することがあり、そのままデバイスを製造すると、完成時の点灯検査で電極の断線を引き起こし、製品歩留まりが低下することがあり、あるいは点灯検査では不良にならないとしても、時間がたてば不良となる原因を内在させているので信頼性が低い製品となる。
そこで、特開2000−294141では、誘電体膜を印刷・焼成後、MgO膜を形成する前に検査を行い、検出された欠落・欠陥を修正する工程を追加している。開口している欠落・欠陥には修正用ガラスペーストを塗布し、乾燥後、必要に応じて形状の修正を行い、開口していない気泡状欠陥は、レーザーを照射することで開口している欠陥に変化させ、同様に修正用ガラスペーストを塗布し、乾燥後、必要に応じて形状の修正を行うのである。この場合、修正用ガラスペーストは、通常、誘電体層と実質的に同じ組成の材料が用いられる。
【0030】
本発明は、このような誘電体層に生じた欠陥部を修正する場合のように同じガラス組成の材料を用いるのではなく、基板の反りにくいガラス組成物と、それとは成分が異なるガラス組成物を用いて2以上の誘電体層を形成することによって、基板の反りを抑制するだけでなく耐電圧特性をも満足させようとするものである。
【0031】
誘電体膜の厚さは、特に制限されないが、全体の膜厚が10〜60μmであり、かつ最下層の膜厚が5〜50μmであることが好ましい。全体の膜厚が10μm未満では耐電圧性の面で好ましくなく、最下層が5μm未満であると、基板に反りが生じることがあり好ましくない。1層目と2層目のそれぞれ誘電体の膜厚が10μm以上を確保できれば、基板の反りや誘電体全体での耐電圧特性の問題は生じないため、より好ましい。しかし、全体の膜厚が60μmを超えるか、最下層の膜厚が50μmを超えるとコスト面で好ましくない。
また、本発明では2層目の誘電体が最下層の誘電体よりも低いガラス転移点を有する特徴から、最下層と2層目の誘電体を同時に焼成した場合、2層目の誘電体が先に軟化し、最下層の誘電体の脱バインダーを阻害することがあり得る。このような事態を防ぐために各誘電体の膜厚(焼成後)は50μm以下であることが望ましい。
【0032】
なお、誘電体膜は2層に限られるのではなく、本発明の目的を損なわないのであれば2層以上設けることができ、2層目の誘電体の上に2層目と同じ材料で誘電体を形成する事ができる。
【0033】
2.ガラス組成物
本発明では、ガラス基板に接する最下層の誘電体層(A)と、2層目の誘電体層(B)とがそれぞれガラス成分の異なるガラス組成物によって形成される。
【0034】
本発明において、最下の誘電体層を形成するためのガラス組成物は、酸化物換算で、SiOを1〜15mol%、Bを10〜50mol%、ZnOを30〜50mol%、及びアルカリ金属の酸化物:RO(式中、Rは、K、Na又はLiから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を示す)を0〜12mol%含み、かつガラス転移点が480℃〜540℃であり、また、2層目の誘電体層を形成するためのガラス組成物は、ガラス転移点が430℃〜480℃であることを特徴とする。
【0035】
(A)最下の誘電体層
ガラス基板にガラス組成物を含むガラスペースト組成物(以下、単にガラスペーストともいう)を塗布し、焼成して誘電体を形成した場合、基板の反りに影響するのは最下の誘電体層である。これはガラスペーストの焼成過程でガラスが収縮して基板の反りを生じさせる為である。
【0036】
本発明において、最下の誘電体層は、ガラス転移点が480〜540℃のガラス組成物を用いて形成されなければならない。好ましいガラス転移点は、480〜510℃の範囲である。なお、ガラス転移点は、TG−DTAやTMAで測定することができる。
【0037】
ディスプレイデバイスは、二枚のガラス基板等を張り合わせ、封着して真空容器を形成するので、ガラス組成物のガラス転移点は、ディスプレイデバイスの封着工程の加熱条件と密接な関係を有している。封着工程は、430℃で封着材料を軟化、焼成して行うため、本発明の誘電体膜を形成するガラス組成物のガラス転移点をこの温度より高くして、既に形成されている隔壁や誘電体を軟化させないようにしなければならない。
一般には、所望の軟化点とすれば安定なガラスを得ることができるが、SiOやアルカリ金属酸化物との配合の関係で基板に反りを生じるため、ガラス組成物のガラス転移点がこの範囲内に入るような組成とすることが重要である。
上述の通り、ディスプレイデバイスの焼成温度は最高でも600℃であるが、望ましくは570℃以下である。このような焼成温度の制約のもとでも基板の反りは最重要な課題であることから、最下層の誘電体に含まれるガラス組成物は、次のように構成される。
【0038】
ガラス中のSiOは、必須の構成要素で、ガラスのネットワークフォーマーとなる成分である。ガラス中の含有量は、酸化物換算で1〜15mol%であり、含有量が1mol%未満ではガラスの耐水性や耐薬品性が劣り、15mol%を超えると所望の軟化点を得るため、後述するアルカリ金属酸化物RO成分が多くなり焼成後の基板に反りを生じる。好ましい含有量は、3〜13mol%である。
【0039】
ガラス中のBは、必須の構成要素で、軟化点を下げるとともに流動性を増加し、ガラスを安定させる成分である。ガラス中の含有量は、酸化物換算で10〜50mol%であり、含有量が10mol%未満では軟化点が高くなり所望の値を実現できず、50mol%を超えると軟化点が低くなり所望の値を実現できないとともにガラスの耐水性や耐薬品性が劣る結果となる。より好ましい含有量は45mol%以下である。
【0040】
ガラス中のZnOは、必須の構成要素で、軟化点を下げ、熱膨張係数を適宜に調整する成分である。ガラス中の含有量は、酸化物換算で30〜50mol%である。ガラス中の含有量が30mol%未満では所望の軟化点を実現できず、50mol%を超えるとガラス化が困難となる。より好ましい含有量は、30〜45mol%である。
【0041】
所望の軟化点を得て安定なガラスを得ようとすると、SiOやアルカリ金属酸化物との配合の関係で基板の反りを生じるからである。
アルカリ金属酸化物ROは、ガラスの必須の構成要素であり、KO、NaO、又はLiOのいずれか1種以上を含んでいる。これらは軟化点を下げて熱膨張係数を上昇させる成分である。
ガラス中のRO含有量は、酸化物換算で0〜12mol%である。この含有量が12mol%を超えると、焼成後の基板を大きく反らせる結果となる。
【0042】
一般的にガラス組成物の熱膨張がガラス基板のそれよりも大きければ、このガラス組成物を基板に塗布し焼成すると基板が反ることになる。これは焼成時の加熱から降温の過程で、基板上のガラス組成物が降温するだけ収縮することによる。すなわち熱膨張係数の分だけガラス組成物が収縮しようとするため、当然、基板も収縮するが、基板の収縮よりガラス組成物の収縮が大きければ(基板の熱膨張係数よりガラス組成物のそれが大きければ)、基板のガラス組成物側は、ガラス組成物がない側より収縮することとなる。
つまり、基板の面による収縮度の違いにより基板は反ることとなる。逆に基板の収縮がガラス組成物の収縮より大きければ、ガラス組成物に基板による圧縮がかかり、基板が反ることはない。
【0043】
しかし、ガラス組成物の熱膨張が基板のそれよりも小さい値であっても基板に反りを生じさせる場合がある。
本出願人は、基板の反りに対してROなどガラスの組成が大きく影響し、またSiO、ZnOとの組成のバランスにも起因することを確認している。ガラス転移点が500℃であって鉛を含まないガラスのうち、ROが12mol%を超えて含むガラスと、ROを12mol%よりも少なく含むガラスとで、その焼成後の基板の反りを調べると、前者(ROを多く含むガラス)の方が反る度合いが大きかった。これはROを多く含むガラスは、ガラス同士が軟化点近傍の温度で凝集し、焼結してガラス膜になり無理に収縮するのに対し、ROが少ないガラスは、軟化点以上の温度でガラスが流動性を得て、近接するガラス粒子と溶融してガラス膜になるため、無理な収縮が起きないためと考えられる。
【0044】
鉛を含まないガラスは、同じ軟化点の鉛を含むガラスに比べると、所望の軟化点にするためにROを多く含むという特徴がある。鉛を含むガラスでは焼成後に基板が反らないのに、鉛を含まないガラスを用いると基板が反る場合があるのはこのためである。
Oは、ガラス中でRイオンとして伝導し、電気絶縁性に悪影響を及ぼす。かかる観点からもROの含有率は12mol%以下に制限される。
【0045】
また、アルカリ土類金属の酸化物であるBaOは、ガラスの軟化点を下げる効果があり、35mol%まで加えることができる。BaOは熱膨張係数を上昇させる作用があり、かかる観点から上記の添加量が望ましい。ガラス中での含有量は、酸化物換算で10〜20mol%が好ましい。
本発明のガラス組成物にはCaO、SrOを適宜加えることができる。CaO、SrOはガラスにとって必須の構成要素ではないが、これらを含むことでガラスを安定化させる効果がある。しかし、これらは熱膨張係数を上昇させる作用があり、過剰に含まれると熱膨張係数が大きくなり、ソーダライムガラス等を基板とするには不適切となる。CaO、SrOのガラス中の含有量は、酸化物換算で35mol%以下が望ましい。特にCaOの含有量は、酸化物換算で1〜5mol%であることが好ましい。
【0046】
また、本発明のガラス組成物にはZrOを適宜加えることができる。ZrOは、ガラスの必須構成要素ではないが、耐水性や耐薬品性を高める効果がある。ただし、ガラス中の含有量が酸化物換算で15mol%を超えると、ガラスの軟化点を上昇させ、所望の値を実現できない。
Alもガラスの必須構成要素ではないが、耐水性、耐薬品性向上の効果がある。ただし、ガラス中の含有量が酸化物換算で15mol%を超えると、軟化点が高くなり所望の値を実現できない。
【0047】
ガラス組成物の粉末の粒度は、D50で10μm以下であることが望ましく、さらには5μm以下が好ましい。粒度が10μmよりも大きいと緻密な誘電体を得ることができなくなる。ガラス組成物の粉末の粒度は、マイクロトラック(登録商標)で確認することができる。所望の粒度の粉末を得るには、ボールミル、ジェットミル等の公知の手段で粉砕することができる。
【0048】
ガラス組成物を調製するには、単一のガラス組成物を用いてもよいし、複数のガラス組成物を用意して混合しても良い。基板の反りを生じさせるために実用的ではないガラス組成物でも、本発明で規定したガラス組成物となるように各成分を混合することで、基板の反りを改善できる。
【0049】
PDP等の誘電体を形成するために、上記ガラス組成物に無機酸化物を混合して用いることができる。無機酸化物としては、アルミナ、シリカ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、チタニアもしくは耐熱無機顔料が挙げられ、これらから選択された1種類以上の無機酸化物をガラス組成物に加えることができる。無機酸化物を加えることで透明性が損なわれる場合があるが、PDPの透明誘電体では、ガラス膜の透過率を確保できる範囲で無機酸化物を加えることができ、それによりガラス膜の機械的強度の向上を図ることができる。
耐熱無機顔料としては、Fe−Co−Cr複合酸化物、Cu−Cr−Mn複合酸化物、Cu−Cr−Fe複合酸化物、Ni−Mn−Fe−Co複合酸化物、Fe−Mn系複合酸化物、Fe−Cu−Mn系複合酸化物の黒色顔料やCr酸化物の緑色顔料などを用いることができる。
無機酸化物の粒度D50は、10μm以下、さらには5μm以下が好ましい。これよりも大きいと緻密な誘電体を得られなくなる。
【0050】
ガラスセラミック材料の熱膨張係数は、ガラス組成物と無機酸化物により定まり、これらの組み合わせを変えることで制御可能である。熱膨張係数は50〜87×10−7/℃の範囲が望ましい。ソーダライムガラス等の基板の熱膨張係数は83〜87×10−7/℃であり、これ以下の値でなければ焼成の際にデバイスの反りを生じる。
シリカの熱膨張係数は140×10−7/℃であり、フォルステライトのそれは95×10−7/℃であり、これらをガラス組成物に配合することで熱膨張係数を上げる効果が得られる。シリカ(石英)は相転位することが知られ、クリストバライト等に相転位すると熱膨張係数は急激に変化する。熱膨張係数の変化により隔壁や誘電体にクラックが生じることもある。かかる事態を防ぐために石英ガラスを用いることができる。石英ガラスは熱膨張係数が55×10−7/℃であり、これをガラス組成物に配合することで熱膨張係数を下げる効果が得られる。
【0051】
無機酸化物粉末は、1種類のみを選択してもよいが、それに限定されるのではなく、複数種類を組み合わせることができる。隔壁や誘電体を白色にしたい場合はTiOを添加できる。また、誘電率を上昇させたいときもTiOの添加が効果的である。
無機酸化物粉末の含有量は、用途によっても異なるが、ガラスよりも少ないことが望ましく、5〜20重量%、好ましくは8〜15重量%とする。PDPの場合、含有量が5重量%より少なくなると緻密な誘電体膜は形成できるが、白色の誘電体を実現できなくなる。また、20重量%を超えると、緻密な誘電体を実現できなくなるという問題がある。
【0052】
(B)2層目の誘電体層
本発明において、2層目の誘電体層を形成するためのガラス組成物は、ガラス転移点が430℃〜480℃でなければならない。また、酸化物換算でSiO 15〜40mol%、B 10〜50mol%、ZnO 20〜50mol%、アルカリ金属の酸化物の合計RO(KO、NaO、LiO)12〜15mol%を含むことが望ましい。
【0053】
本来ならば、基板に反りを生じさせにくい前記最下層に相当する誘電体のみで層全体を形成できれば効率的である。ところが、耐電圧などの電気特性を満足できない場合がある。基板に反りを生じさせにくいガラス組成物を用いた最下層の誘電体は、既に述べたように組成的な制約を受けているので、電気特性が犠牲になっている。そのため、2層目の誘電体層は、犠牲になった最下層の誘電体層の電気特性を補って、全体として所望の電気特性が得られるのに最適な組成とする必要がある。
【0054】
ここで、誘電体膜の電気特性には、誘電体膜を構成するガラスが強固に固着したか否かが影響する。ガラスが軟化しガラスやフィラー粒子が強固に固着していれば、電気的な衝撃を与えても機械的に破壊することなく、高い耐電圧特性を確保できる。そのためには、ガラス粒子が十分に軟化することが必要である。
【0055】
また、ディスプレイデバイスの製造工程では、省エネルギーや寸法精度を確保するために焼成温度の低温化が求められている。ところが、前記のとおり、最下層の誘電体に含まれるガラスはSiO、ZnO、ROなどの量が規定されている。このため、安定なガラスでBやアルカリ土類酸化物等の流動性を高める成分を増やしたとしても、そのガラス転移点を480℃よりも低くすることは困難である。最下層の誘電体に含まれるガラスでは、その組成的制約から焼成温度の低温化には不十分な場合がある。そこで、2層目の誘電体層はガラス転移点が430〜480℃のガラス組成物を用いて形成されなければならない。
【0056】
したがって、2層目の誘電体に含まれるガラスは、好ましくは次のように規定される。
ガラス中のSiOの含有量は、特に制限されるものではないが、酸化物換算で15〜40mol%であることが好ましい。含有量が15mol%未満ではガラスの耐水性や耐薬品性が劣り、40mol%を超えると所望の軟化点を得るため、後述するアルカリ金属酸化物RO成分が多くなり焼成後の基板に反りを生じる。好ましい含有量は、18〜35mol%である。
【0057】
ガラス中のBの含有量は、特に制限されるものではないが、酸化物換算で10〜50mol%であり、含有量が10mol%未満では軟化点が高くなり所望の値を実現できず、50mol%を超えると軟化点が低くなり所望の値を実現できないとともにガラスの耐水性や耐薬品性が劣る結果となる。より好ましい含有量は45mol%以下である。
【0058】
ガラス中のZnOの含有量は、特に制限されるものではないが、酸化物換算で20〜50mol%である。ガラス中の含有量が20mol%未満では所望の軟化点を実現できず、50mol%を超えるとガラス化が困難となる。より好ましい含有量は、25〜45mol%である。
【0059】
アルカリ金属酸化物RO(KO、NaO、又はLiOのいずれか1種以上)の含有量は、特に制限されるものではないが、酸化物換算で12〜15mol%である。この含有量が12mol%以上であるものは入手しやすいことから、好ましいものである。但し、含有量が15mol%を超えると、電気特性を悪化させるので好ましくない。すなわち、前記の通り、ROは、ガラス中でRイオンとして伝導し、電気絶縁性に悪影響を及ぼす。
【0060】
また、アルカリ土類金属の酸化物であるBaOは、特に制限されるものではないが、ガラスの軟化点を下げる効果があり、35mol%まで加えることができる。BaOは熱膨張係数を上昇させる作用がある。ガラス中での含有量は、酸化物換算で10〜20mol%が好ましい。
本発明において2層目の誘電体層を形成するガラス組成物には、CaO、SrOを適宜加えることができる。これらを含むことでガラスを安定化させる効果がある。しかし、これらは熱膨張係数を上昇させる作用があり、過剰に含まれると熱膨張係数が大きくなりソーダライムガラス等を基板とするには不適切となる。CaO、SrOのガラス中の含有量は、酸化物換算で35mol%以下が望ましい。特にCaOの含有量は、酸化物換算で1〜5mol%であることが好ましい。
【0061】
また、ガラス組成物にはZrOを適宜加えることができる。ZrOは、耐水性や耐薬品性を高める効果がある。ただし、ガラス中の含有量が酸化物換算で15mol%を超えると、ガラスの軟化点を上昇させ、所望の値を実現できない。
Alもガラスの必須の構成要素ではないが、耐水性、耐薬品性向上の効果がある。ただし、ガラス中の含有量が酸化物換算で15mol%を超えると、軟化点が高くなり所望の値を実現できない。
【0062】
ガラス組成物の粉末の粒度は、最下層と同様に、D50で10μm以下であることが望ましく、さらには5μm以下が好ましい。粒度が10μmよりも大きいと緻密な誘電体を得ることができなくなる。
【0063】
このように最下層と2層目で異なる材料のガラス組成物を用いて誘電体の層を形成するのは、従来のようなガラス組成物では基板が反ってしまうので、最下層を形成するには本発明で規定したガラス組成物を用いて基板の反りを抑えなければならないが、このガラス組成物だけを用いて全ての誘電体膜を形成したのでは耐電圧特性が不十分になるためである。
ただし、2層目の誘電体層には、ガラス基板の反りを抑制する機能が要求されず、組成的な面で厳格に制約されないことから材料設計の自由度が広がる。つまり、2層目の誘電体の層は、本発明の目的を損なわないものであれば前記で規定されない組成であっても構わない。例えば、2層目の誘電体の層に用いるガラス組成物をSiOやROを多くして所望の特性にすることができる。ただし、2層目のガラス組成物の組成的な自由度が広がるとしても、基板にソーダライムガラスを用いる限り、ガラス転移点は430℃〜540℃に制限される。
【0064】
4.ガラスペースト組成物
本発明においてガラスペースト組成物は、上記それぞれのガラス組成物と樹脂、溶剤を必須の構成要素とし、必要により適宜無機酸化物粉末や分散剤等が加えられたものである。
【0065】
樹脂は、ペーストの粘性を保持し、また塗布・乾燥後の形状を維持し、乾燥膜の耐薬品性を向上させる成分である。樹脂は焼成工程で分解または燃焼し、ガラス組成物の軟化点以下で完全に除去されなければならない。軟化点以上の温度で燃焼したりする樹脂は、発生した脱ガスが軟化したガラス膜に閉じ込められ、気泡などのボイドを多数発生するからである。
このような観点から、好ましい樹脂として、エチルセルロース、アクリル、ポリビニルブチラール、メチルスチレンを挙げることができる。アクリルにはメタクリル樹脂も含まれる。これら樹脂は単独で用いても複数の種類を混合しても構わない。
ガラスペースト組成物における樹脂の配合量は、通常、無機成分100重量%に対し0.5〜10重量%とする。ここで無機成分とは、ガラス組成物と必要に応じて加えられる無機酸化物(セラミック)から構成される。樹脂の量が0.5重量%よりも少ないとペースト中のガラスセラミック組成物粉末が沈降し、ペーストの保存性を害する。また、10重量%よりも樹脂が多いと、粘度が高くなり多量の溶剤を加えなければ塗布に適した粘度にできなくなる。
【0066】
溶剤は、ペーストの流動性を向上させるのに欠かせない構成要素である。しかも、樹脂を溶解できるだけでなく、乾燥工程で揮発しなければならない。揮発性のみを重視し、沸点が150℃に満たない溶剤を用いると、塗布工程でペーストが乾き作業性の悪化をもたらす。
かかる観点から溶剤の沸点は150℃以上であることが望ましく、樹脂の溶解性からテルピノール、ジヒドロテルピノール、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノブチレート等が選択される。
溶剤の配合量は、その種類などにもよるが、無機成分100重量%に対し20〜45重量%とする。配合量が20重量%未満ではペースト化することが困難であり、45重量%を超えると乾燥時の膜の収縮が大きくなり乾燥膜にクラックが発生しやすい。また、溶剤が多いと乾燥時のエネルギー消費を多くするばかりでなく、乾燥時の収縮が大きくなり、乾燥温度の偏りで乾燥膜にクラックを生じることがある。
【0067】
ガラスペースト組成物には、消泡剤、分散剤、可塑剤など厚膜ガラスペーストとして公知の添加物を加えることができる。このようなガラスペースト組成物を製造するには、特別な手段が要求されるものではなく、ロールミル、ボールミルなど公知の方法を用いることができる。
【0068】
なお、ガラスペースト組成物は、形成する誘電体層が最下層であるか2層目であるかによってガラス組成だけが異なり、それ以外の構成要素はほぼ同様である。
すなわち、2層目の誘電体層形成用ガラス組成物は、最下層の誘電体に用いると基板の反りを生じるものであっても、最下層の誘電体よりもガラス転移点を低くしうる材料であれば採用することができる。最下層の上に積層される2層目の誘電体層形成用ガラス組成物は、基板の反りに関与しない。
ガラスペースト組成物は、スクリーン印刷などの方法でソーダライムガラス基板に印刷され、乾燥により溶剤が除去され、焼成されて誘電体膜となる。
【0069】
5.誘電体膜の製造方法
本発明の誘電体膜の製造方法は、ガラス基板上に、酸化物換算で、SiOを1〜15mol%、Bを10〜50mol%、ZnOを30〜50mol%、及び一般式:RO(式中、Rは、K、Na又はLiから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を示す。)で表されるアルカリ金属の酸化物を0〜12mol%含むガラス転移点が480℃〜540℃のガラス組成物、樹脂及び溶剤からなるガラスペースト(a)を用いて最下層の誘電体層(A)を形成した後、さらにその上にガラス転移点が480℃〜540℃のガラス組成物、樹脂及び溶剤からなるガラスペースト(b)を塗布し、焼成して誘電体層(B)を形成することを特徴とする。
【0070】
本発明の方法で、誘電体膜を製造するには、ガラス基板の反りを抑える観点から、まず、基板に反りを生じにくいガラスペースト(厚膜ペーストともいう)で最下層の誘電体を形成し、次に、この上に耐電圧特性を実現するために電気特性に特化した組成の誘電体を形成することで、少なくとも2層の誘電体層からなる誘電体膜を積層する。
例えば、ガラス基板の上に最下層の誘電体用ガラスペースト(a)を印刷、焼成により形成した後に、2層目の誘電体用ガラスペースト(b)を印刷、焼成して形成する。若しくは、1層目の誘電体用ガラスペースト(a)を印刷、乾燥した後、2層目以降の誘電体用ガラスペースト(b)を順次に印刷、乾燥して積層した後に、一度に焼成することで形成する。
【0071】
誘電体を焼成する過程は、最下層の誘電体と2層目の誘電体を個別に焼成しても、同時に焼成しても基板の反りや電気特性には同様な効果が得られる。
基板の反りは最下層の誘電体に依存し、最下層の誘電体が未焼成で完成していなくても、最下層の誘電体は、2層目およびその上の誘電体と基板への影響は、あらかじめ最下層の誘電体が焼成されている場合と変わるところがない。最下層の誘電体が未焼成であれば、最下層の誘電体は基板に固着されていないことから、同時に焼成される2層目の誘電体の反りを基板に伝えることはないからである。
このように、異なるガラスペースト組成物で複数の層の誘電体を形成すれば、基板の反りと電気特性の両方の特性を満足できる。
【0072】
上述の通り、PDP、VFD、FEDでは、ガラス基板としてソーダライムガラスが多用されていることから、ガラス基板上に塗布されたガラスペースト組成物を600℃以下の温度で焼成する必要がある。
なお、誘電体を形成するには、厚膜ガラスペーストの印刷等に限定されるのではなく、例えば誘電体用ガラスペーストを塗工、乾燥して得られるグリーンシート状の材料を貼り付けることもできる。
【0073】
ディスプレイデバイスは、二枚のガラス基板等を張り合わせ封着して真空容器を形成する。封着工程は430℃程度まで加熱して封着材料を軟化、焼成して行うが、本発明で用いるガラス組成物のガラス転移点がこの温度より高いので、既に形成されている隔壁や誘電体が軟化することなく、ディスプレイデバイスの寸法精度を確保することができる。
【実施例】
【0074】
以下に、本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0075】
(基板の反りの評価)
基板の反りは、ガラス基板へガラスペーストを塗布、焼成後に次の方法で評価した。焼成後の基板の反りを検出しやすくするために、50mm×50mmの正方形で厚さ0.55mmのソーダライムガラス基板を用い、その一面にガラスペーストをスクリーン印刷し、120℃×5分で乾燥し、ピーク条件580℃×5分のベルト式焼成炉で焼成して、焼成膜厚20μmのガラス膜を焼き付けて評価用基板をえた。
この基板のガラスペーストが焼き付けられていない面を、表面粗さ計(東京精密製、surfcom E−MD−S39A型)で40mmトレースして、ガラス基板の反りを確認した。なお、基板の熱膨張係数は86×10−7/℃である。
基板の反りは、ガラスペーストが塗布されている側が凹に反ることを「正に反る」とし、その逆(ペーストが塗布されている側に凸で反る)を「負に反る」とした。得られた結果は絶対値で示した。基板の反りが0〜50μmの範囲内であれば、実用上は問題ない。
【0076】
(耐電圧の評価)
ガラス基板に銀ペーストを焼き付けて銀電極を形成し、これに表2の組みあわせでガラスペーストを印刷、焼成して積層された誘電体を形成した。誘電体の上に銀ペーストを印刷、焼成(ピーク温度500℃×5分)して銀電極を得た。断面から見ると誘電体(広さ3mm×3mm)は、銀電極に挟まれた構造となっている。この試料の銀電極間に直流電位を印加し、誘電体の絶縁破壊が発生した電位を記録した。
【0077】
(実施例1−5)
ガラスは、Pb及びBiを含有せずアルカリ金属酸化物を0〜12mol%含有するように、組成が表1に示すもの(ガラスA−F)を用いた。このガラス組成物を1300℃で溶融、急冷し、ボールミルで粉砕した。得られたガラス粉末の粒度は、マイクロトラック(登録商標)で測定し、ガラス転移点及び軟化点は、TG−DTA(セイコー電子社製、TG/DTA320型)で測定した。得られたガラス粉末の粒径を表1に示す。なお、表1中の各成分の含有量は、酸化物換算mol%である。
ガラス粉末を棒状に加圧成形し、570℃×30分間焼成して、直径4mm×長さ10mmの試料を得た。この試料をTMA(セイコー電子社製TMA320型)にセットして熱膨張係数を測定した。
ガラス粉末90重量%に対して、Cu−Cr−Mn複合酸化物粉末10重量%からなる混合物100重量%にビヒクル40重量%を加え、ロールミルで混合してガラスペースト組成物を得た。ビヒクルは、樹脂にエチルセルロース(分子量80000)10重量%、溶剤にテルピノール90重量%を混合し、60℃に加熱してビヒクルを得た。次に、このガラスペースト組成物を用いて、上記の方法によって基板の反りを評価した。
さらに、上記基板についてガラス膜上にガラスペーストを印刷し、ベルト式焼成炉で560℃×5分の条件で焼成して、総厚40μmのガラス膜を得た。この基板の裏面を表面粗さ計でトレースして、基板の反りを確認した。また、前記の要領で耐電圧特性を評価した。表2に1層目と2層目に用いたガラスの種類と基板の反り、耐電圧特性などを示す。
【0078】
(比較例1−4)
1層目の誘電体を形成するためのガラスとして、アルカリ金属酸化物の含有量が12mol%を超えるか、Pbを含有するものを用いて(比較例1、3、4)、実施例と同様にして、表1に示すガラス組成物を調製した。このガラス転移点、軟化点、熱膨張係数、及び粒度を測定した。次に、実施例と同様に基板の反り、耐電圧特性を評価した。比較例2は、1層目も2層目も共に反りの少ないガラスAのみを用いて積層し、誘電体膜を形成した。表2に1層目と2層目に用いたガラスの種類と基板の反り、耐電圧特性などを示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
「評価」
上記の実施例及び比較例で作製した各ガラス組成物の熱膨張係数は、いずれも基板のそれよりも小さい値である。しかし、比較例1、3のガラス組成物を最下層の形成に用いた場合は、基板の反りが大きすぎて実用のレベルを超えている。反りの少ないガラスAのみを積層した誘電体(比較例2)は、ガラスEの上にガラスAを積層した誘電体(比較例1)よりも耐電圧が劣ることがわかる。
一方、実施例1−4のガラス組成物では基板の反りは実用レベルの範囲内であり、比較例4として示した従来からの鉛を含むガラスと同程度である。これにより、本発明のガラス組成物が、PDPなどのディスプレイデバイス用のガラス基板に形成される誘電体材料として有用であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の誘電体膜の積層構造を示す断面図である。
【図2】一般的なAC型PDPの構造の前面板および背面板を示す一部破断斜視図である。
【図3】VFDの構造を示す一部破断斜視図である。
【図4】FEDの構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 誘電体膜
2 第1の誘電体層
3 第2の誘電体層
4 ガラス基板
10a 前面板
10b 背面板
11 透明電極
12 バス電極
13 アドレス電極
14 MgO電極
15 誘電体膜
16 隔壁
17 蛍光体
21 フェイスガラス
22 ガラス電極
23 格子電極
24 セグメント電極
25 絶縁層
26 フィラメント
27 配線
28 端子
31a、31b ガラス基板
32 陽極
33 蛍光体
34 ゲート電極
35 スペーサー
36 エミッタ電極
37 抵抗層
38 カソード電極
B 青色
G 緑色
R 赤色

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛やビスマスを実質的に含まずにガラス基板の反りを抑制することのできる、2以上の誘電体層を有する誘電体膜であって、
ガラス基板上に設けられる最下層の誘電体層(A)は、酸化物換算で、SiOを1〜15mol%、Bを10〜50mol%、ZnOを30〜50mol%、及び一般式:RO(式中、Rは、K、Na又はLiから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を示す。)で表されるアルカリ金属の酸化物を0〜12mol%含むガラス組成物から形成され、かつそのガラス転移点は、480℃〜540℃であり、一方、最下層の上に設けられる誘電体層(B)を形成するガラス組成物のガラス転移点は、430℃〜480℃であることを特徴とする誘電体膜。
【請求項2】
誘電体層(A)を形成するガラス組成物は、さらに、酸化物換算で、BaO、CaO又はSr0から選ばれるいずれかのアルカリ土類金属の酸化物を1〜35mol%含むことを特徴とする請求項1に記載の誘電体膜。
【請求項3】
誘電体層(A)を形成するガラス組成物は、さらに、アルミナ、シリカ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、チタニア又は耐熱無機顔料から選ばれる少なくとも1種の無機酸化物粉末を、組成物全量に対して5〜20重量%含むことを特徴とする請求項1に記載の誘電体膜。
【請求項4】
誘電体層(A)を形成するガラス組成物の熱膨張係数は、70〜81×10−7/℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体膜。
【請求項5】
誘電体層(B)を形成するガラス組成物は、酸化物換算で、SiOを15〜40mol%、Bを10〜50mol%、ZnOを20〜50mol%、及び一般式:RO(式中、Rは、K、Na又はLiから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を示す。)で表されるアルカリ金属の酸化物を12〜15mol%含むことを特徴とする請求項1に記載の誘電体膜。
【請求項6】
誘電体膜全体の膜厚が10〜60μmであり、かつ誘電体層(A)の膜厚が5〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の誘電体膜。
【請求項7】
ガラス基板上に、酸化物換算で、SiOを1〜15mol%、Bを10〜50mol%、ZnOを30〜50mol%、及び一般式:RO(式中、Rは、K、Na又はLiから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を示す。)で表されるアルカリ金属の酸化物を0〜12mol%含むガラス転移点が480℃〜540℃のガラス組成物、樹脂及び溶剤からなるガラスペースト(a)を用いて最下層の誘電体層(A)を形成した後、さらにその上にガラス転移点が480℃〜540℃のガラス組成物、樹脂及び溶剤からなるガラスペースト(b)を塗布し、焼成して誘電体層(B)を形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の誘電体膜の製造方法。
【請求項8】
ガラス基板上に、ガラスペースト(a)を塗布し、焼成して最下層の誘電体層(A)を形成した後、次に、その上にガラスペースト(b)を塗布し、焼成して誘電体層(B)を形成することを特徴とする請求項7に記載の誘電体膜の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−290683(P2006−290683A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114369(P2005−114369)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】