説明

誘電加熱用高周波電源装置

【課題】溶着作業中に発生する絶縁破壊やコロナ放電が、被加熱体の品質に影響を与えない一時的な場合には、溶着作業を継続することが可能な誘電加熱用高周波電源装置を提供する。
【解決手段】高周波出力部10は、所定の周波数を有する高周波を生成して出力する。高周波印加部20は、高周波出力部10が出力する高周波を、加工部60の一対の電極61及び62に印加する。加工部60は、高周波印加部20によって一対の電極61及び62に印加される高周波を利用して、被加熱体63を加工する。絶縁破壊検出部30は、加工部60で生じる絶縁破壊現象を検出する。放電検出部40は、加工部60で生じる放電現象を検出する。出力制御部50は、絶縁破壊検出部30及び放電検出部40における検出結果に基づいて、高周波出力部10からの高周波出力を一時的停止又は完全停止によって制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料等の被加熱体が狭持された一対の電極間に高周波を印加し、材料が有する誘電損失を利用して被加熱体の加熱又は溶着を行う誘電加熱用高周波電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電加熱用高周波電源装置とは、ポリ塩化ビニル樹脂やポリプロピレン樹脂等の誘電損失が大きな高分子材料等に、加熱又は溶着等の加工を施す装置である。図8は、この誘電加熱用高周波電源装置の一例を説明する概念図である。図8において、樹脂フイルムが複数重ね合わされた被加熱体63は、一対の電極61及び62で狭持され、その一対の電極61及び62間に高周波電源100から高周波が印加されることによって、複数の樹脂フイルムが溶着される。
【0003】
一対の電極61及び62間へ高周波を印加する時間は予め定められており、通常であれば溶着作業に問題は生じない。ところが、被加熱体63の材料や形状のばらつき、また作業環境の温度や湿度の変化等の様々な要因が影響して、以下の問題が生じることがある。
【0004】
第1に、溶着作業中に被加熱体63が高周波電圧に耐えることができず、被加熱体63の絶縁破壊が発生するという問題である(図9(a))。
第2に、溶着作業中に電極61と電極62との間で絶縁破壊が発生するという問題である(図9(b))。この問題では、絶縁破壊で生じる火花によって、近傍の被加熱体63にも損傷を与えるおそれがある。
第3に、溶着作業中に電極61から空間へコロナ放電が発生するという問題である(図9(c))。この問題は、被加熱体63を急速に加熱し、被加熱体63が電極62と比較して面積が広くかつ厚みがある形状で、上述した2通りの絶縁破壊がいずれも発生し難い場合に生じ易い。
【0005】
これらの問題の対策として、絶縁破壊の状態を検出して高周波の印加を停止させることにより、被加熱体63に損傷を与えないようにする技術が開示されている(特許文献1〜3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−249486号公報
【特許文献2】特開2002−334775号公報
【特許文献3】特開2006−344535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1〜3に開示された技術は、絶縁破壊の状態を検出した場合に、いずれも一対の電極への高周波の印加を停止させる技術である。すなわち、誘電加熱用高周波電源装置の完全停止である。
【0008】
しかしながら、上述した被加熱体の絶縁破壊は、溶着作業中の異物混入等が原因で一過的に起こることもあり、数回程度の絶縁破壊では被加熱体の損傷に影響がない場合もある。また、永久絶縁破壊にはならない電極間の絶縁破壊や空間へのコロナ放電は、複数回生じても被加熱体の損傷に影響がない場合も考えられる。このような場合には、溶着作業を継続することが可能であり、上記従来技術のように誘電加熱用高周波電源装置を完全に停止して溶着作業を中断してしまうと、製造歩留まりの悪化や製品の品質低下を招いてしまう。
【0009】
また、上述した特許文献1〜3に開示された技術は、絶縁破壊によって一対の電極間に発生する直流貫通電流を検知する手法をとっているが、この手法では電極から空間へ発生するコロナ放電等を検出することは技術的に不可能である。
【0010】
それ故に、本発明の目的は、溶着作業中に発生する絶縁破壊やコロナ放電が、被加熱体の品質に影響を与えない一時的な場合には、溶着作業を継続することが可能な誘電加熱用高周波電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、高周波による誘電損失を利用して被加熱体の加熱又は溶着を行う誘電加熱用高周波電源装置に向けられている。そして、上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る誘電加熱用高周波電源装置は、高周波出力部、高周波印加部、絶縁破壊検出部、放電検出部、及び出力制御部を備えている。
【0012】
高周波出力部は、所定の周波数を有する高周波を出力する。高周波印加部は、高周波出力部から出力される高周波を、被加熱体が狭持された一対の電極間に印加する。絶縁破壊検出部は、一対の電極間に生じる電圧の変化を監視し、絶縁破壊現象を検出する。放電検出部は、高周波印加部から一対の電極間へ進行する高周波と、一対の電極間から高周波印加部へ反射する高周波との、間に生じる電圧の変化を監視し、コロナ放電現象を検出する。出力制御部は、絶縁破壊検出部及び放電検出部のいずれかにおいて現象が検出されると、高周波出力部からの高周波出力を予め定めた時間だけ一時的に停止する。
【0013】
ここで、出力制御部は、絶縁破壊検出部における現象検出の累積回数が第1の所定値を超えるか、又は放電検出部における現象検出の累積回数が第2の所定値を超えると、高周波出力部からの高周波出力を完全に停止するとよい。
【0014】
なお、典型的な絶縁破壊検出部は、高周波印加部の出力に接続され、一対の電極間の短絡によって生じる貫通電流に起因して低下する電圧を検出する貫通電流検出部、及び貫通電流検出部で検出された電圧と所定の閾値とを比較して、絶縁破壊現象の発生を判断する絶縁破壊判定部で構成される。
【0015】
また、典型的な放電検出部は、高周波印加部から一対の電極間へ進行する高周波の電圧と、一対の電極間から高周波印加部へ反射する高周波の電圧とを、抽出する方向性結合器、方向性結合器で抽出された2つの電圧をそれぞれ微分し、当該2つの電圧の変化を検出する微分回路、及び2つの電圧の変化の差分を求め、所定の閾値とを比較して、放電現象の発生を判断する放電判定部で構成される。また、高周波印加部は、被加熱体でコロナ放電現象が発生した時に、高周波印加部から一対の電極間へ進行する高周波の位相と、一対の電極間から高周波印加部へ反射する高周波の位相とが、同相関係となるように位相を調整する位相調整回路を備えることが望ましい。
【0016】
さらに、出力制御部は、絶縁破壊検出部及び放電検出部のいずれかにおいて現象が検出されると、所定の時間だけ高周波出力の一時的な停止を指示する制御信号を高周波出力部へ出力するタイマ、タイマが制御信号を出力した回数を、絶縁破壊現象及び放電現象毎に、累積的にカウントするカウンタ、及びカウンタのカウント値が第1又は第2の所定値を超えると、高周波出力の完全な停止を指示する制御信号を高周波出力部へ出力するラッチ回路で構成可能である。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明によれば、溶着作業中に発生する絶縁破壊やコロナ放電が、被加熱体の品質に影響を与えない一時的な場合には溶着作業を継続し、被加熱体の品質に影響を与えるような場合であれば溶着作業を停止するため、被加熱体の品質を維持しつつ被加熱体及び電極の損傷による損害を最小限に留めることが可能となる。この効果は、製造プロセスの最終段階で行われる溶着作業において絶大である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る誘電加熱用高周波電源装置1の構成を示す機能ブロック図
【図2】切換回路12の具体的な回路の一例を示す図
【図3】整合回路24の具体的な回路の一例を示す図
【図4】絶縁破壊検出部30の具体的な回路の一例を示す図
【図5】放電検出部40の具体的な回路の一例を示す図
【図6】出力制御部50の具体的な回路の一例を示す図
【図7】位相調整回路23及び伝送ラインのインピーダンス特性を説明する図
【図8】誘電加熱用高周波電源装置の一例を説明する概念図
【図9】誘電加熱用高周波電源装置で生じる絶縁破壊及びコロナ放電を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明を行う。
図1は、本発明の一実施形態に係る誘電加熱用高周波電源装置1の構成を示す機能ブロック図である。図1において、本発明の誘電加熱用高周波電源装置1は、高周波出力部10と、高周波印加部20と、絶縁破壊検出部30と、放電検出部40と、出力制御部50と、加工部60とを備える。加工部60は、加熱や溶着等の加工を施す対象となる被加熱体63を、一対の電極(又は電極を構成する金型)61及び62で狭持する構造である。
【0020】
まず、誘電加熱用高周波電源装置1の各構成の概要を説明する。
高周波出力部10は、所定の周波数を有する高周波を生成して出力する。高周波印加部20は、高周波出力部10が出力する高周波を、加工部60の一対の電極61及び62に印加する。加工部60は、高周波印加部20によって一対の電極61及び62に印加される高周波を利用して、被加熱体63を加工する。絶縁破壊検出部30は、加工部60で生じる絶縁破壊現象を検出する。放電検出部40は、加工部60で生じる放電現象を検出する。出力制御部50は、絶縁破壊検出部30及び放電検出部40における検出結果に基づいて、高周波出力部10からの高周波出力を制御する。
【0021】
次に、誘電加熱用高周波電源装置1の各構成の詳細な構成及び動作を説明する。
高周波出力部10は、発振回路11と、切換回路12とを備える。発振回路11は、誘電加熱処理に適した周波数を有する高周波を生成する回路であり、例えば水晶発振回路、位相制御型発振回路、DDS発振回路、CR発振回路、又はLC発振回路等が用いられる。発振回路11の発振方式は、半導体方式及び電子管(真空管)方式のいずれであってもよい。この発振回路11から出力される高周波は、数mWレベルの小信号である。切換回路12は、出力制御部50から与えられる制御信号に従って、発振回路11で生成された高周波を高周波印加部20へ出力するか否かを切り換える回路であり、例えば入出力端子間の導通状態又は遮断状態を切り換える高周波スイッチ等が用いられる。図2は、切換回路12の具体的な回路の一例を示す図であり、高速ダイオードを用いた回路(図2(a))、トランジスタのベースバイアスをカットオフする回路(図2(b))、2ゲートFETのゲート電圧をスイッチする回路(図2(c))、及びダブルバランス回路(図2(d))を示している。なお、切換回路12が行う出力の切り換えは、1μsec以下の速度で行われることが望ましい。
【0022】
高周波印加部20は、励振増幅回路21と、電力増幅回路22と、位相調整回路23と、整合回路24とを備える。励振増幅回路21は、発振回路11から出力される高周波を、電力増幅回路22が動作できるレベルまで増幅する。電力増幅回路22は、励振増幅回路21で増幅された高周波を、誘電加熱処理に必要な電力が得られるまでさらに増幅する。この電力増幅回路22には、例えば電子管や電力用半導体等の増幅素子が用いられる。位相調整回路23は、電力増幅回路22で電力増幅された高周波の位相を調整する。具体的には、電力増幅回路22から整合回路24を見たインピーダンスが、被加熱体63が短絡した時(異常状態)が被加熱体63が短絡していない時(定常状態)に比べて高くなるように調整される。この位相調整回路23には、例えば反射型ハイブリッド回路や同軸ケーブル等が用いられる。整合回路24は、位相調整回路23が出力する高周波を放電検出部40を介して入力し、高周波で生じる電力を効率よく被加熱体63に供給するために、被加熱体63との間でインピーダンスマッチングを行う。この整合回路24としては、例えば図3の構成が考えられる。なお、被加熱体63は、加熱による温度や物理的寸法の変化と同時に複素インピーダンスも変化するため、この変化に自動で追従して常に最適なインピーダンスマッチングを行えるように整合回路24を構成することが望ましい。
【0023】
一般的に、誘電加熱の作業環境では、高周波印加部20から物理的に距離をおいて加工部60が設けられることがある。この場合、整合回路24を被加熱体63の近傍に配置する方が、電力損失が少なく効率的である。従って、位相調整回路23から整合回路24までの伝送ラインを、同軸線路や平行線路等を用いて構築することが好ましい。なお、この伝送ラインの線路長を適切に設定してやれば、位相調整回路23として機能させることができ、位相調整回路23を省略することも可能である。
【0024】
また、電子管方式の発振回路を用いて自励発振させる従来の装置において当業者には周知の問題(説明は省略)であった、被加熱体63における絶縁破壊の発生、これに伴うインピーダンスの低下、この低下による更なる絶縁破壊の拡大、という悪循環を繰り返すという問題に対しては、本発明では以下のように対応している。
【0025】
すなわち、被加熱体63で絶縁破壊が発生した時に、電力増幅回路22から整合回路24へ進行する高周波(進行波)の位相と、整合回路24から電力増幅回路22へ反射する高周波(反射波)の位相とが、同相関係となるように、位相調整回路23及び/又は伝送ラインを予め設定しておく。これにより、電力増幅回路22から整合回路24を見た反射波の無い定常時のインピーダンスRlに対し、反射波が発生した異常時のインピーダンスRl’は、定常時と比較して高い側に遷移することになる。一方、電力増幅回路22の出力電力Poは、Po=Vdd2/(2・Rl)で近似されるので低下側に遷移する。
【0026】
このことから、被加熱体63で絶縁破壊が発生しても、絶縁破壊を縮小させる方向に動作し、電極61及び62や被加熱体63での損傷を最小限に留めることができる。例えば、位相調整回路23及び/又は伝送ラインの位相定数をβとし、特性インピーダンスをZoとし、絶縁破壊時の整合回路24の入力インピーダンスをZlとすると、異常時のインピーダンスRl’は一般的に下記式で表せる(図7を参照)。
Rl’=Zo・(Zl+jZo・tanβ)/(Zo+jZl・tanβ)
この式でtanβを適当な値に選ぶとRl<<Rl’となり、電力増幅回路22の出力電力Poが低下することになる。
【0027】
加工部60は、整合回路24の出力と接続される電極61(ホット側)と、グラウンドと接続される電極62(コールド側)とを、一対で有している。被加熱体63は、ポリ塩化ビニル樹脂フイルムやポリプロピレン樹脂フイルム等の熱可塑性材料、又は木材等であり、この電極61と電極62との間に挟まれる。
【0028】
絶縁破壊検出部30は、整合回路24の出力である電極61に接続され、加工部60において生じる被加熱体63の絶縁破壊及び電極61と電極62との間の絶縁破壊を検出する。この絶縁破壊検出部30は、例えば図4に示す構成で実現される。図4に示す絶縁破壊検出部30は、貫通電流検出回路31と、絶縁破壊判定回路32とを備える。
【0029】
図4において、貫通電流検出回路31は、直列接続された絶縁破壊検知用の抵抗R及び高周波電流抑制用のインダクタLを介して直流電源Vccを電極61に印加し、抵抗RとインダクタLとの接続点aに現れる電圧を取り出す構成である。この構成により、定常状態時には、抵抗R、インダクタL、及び被加熱体63の内部抵抗により直流電源Vccを分圧した電圧Hiが接続点aに現れ、絶縁破壊が生じた異常状態時には、被加熱体63の内部抵抗が短絡して電極61及び62間に貫通電流が流れることになるため、抵抗R及びインダクタLのみで直流電源Vccを分圧した電圧Loが接続点aに現れる。すなわち、定常状態から異常状態に遷移すると、接続点aに現れる電圧が電圧Hiから電圧Loへ低下することになる。
【0030】
絶縁破壊判定回路32は、貫通電流検出回路31の接続点aに現れる電圧を入力し、所定の閾値Vdcと比較して、絶縁破壊が生じているか否かを判定する。具体的には、この閾値Vdcは、電圧Hiから電圧Loまでの間の任意の値に設けられ、絶縁破壊判定回路32は、入力する電圧が閾値Vdc以下になれば、絶縁破壊が生じたことを通知するトリガ信号を出力する。
【0031】
再び図1を参照して、放電検出部40は、高周波印加部20の位相調整回路23と整合回路24との間に設けられ、加工部60において生じる電極61から空間へのコロナ放電を検出する。この放電検出部40は、例えば図5に示す構成で実現される。図5に示す放電検出部40は、方向性結合器41と、検波回路42及び43と、微分回路44及び45と、減算回路46と、コロナ放電判定回路47とを備える。
【0032】
図5において、方向性結合器41は、電力増幅回路22から位相調整回路23を介して整合回路24へ進行する高周波(進行波)の電圧を抽出して、検波回路42へ出力する。また、方向性結合器41は、整合回路24から位相調整回路23を介して電力増幅回路22へ反射する高周波(反射波)の電圧を抽出して、検波回路43へ出力する。この抽出は、各高周波を1/1000倍以下で分離することで行われる。検波回路42は、方向性結合器41から出力された進行波の交流電圧を検波して、直流電圧Vfを求める。検波回路43は、方向性結合器41から出力された反射波の交流電圧を検波して、直流電圧Vrを求める。微分回路44は、直流電圧Vfを微分して(dVf/dt)、進行波の変化(加速度)を演算する。微分回路45は、直流電圧Vrを微分して(dVr/dt)、反射波の変化(加速度)を演算する。
【0033】
周知のように、被加熱体63でコロナ放電等が生じた瞬間では、反射波は増大する方向に変化し、進行波は減少する方向に変化する。この現象を検出するために、減算回路46は、直流電圧Vrの微分値から直流電圧Vfの微分値を減算して、変化の差(=dVr/dt−dVf/dt)を求める。そして、コロナ放電判定回路47は、この変化の差を入力し、所定の閾値Vthと比較して、コロナ放電が生じているか否かを判定する。この閾値Vthは、電極61及び62のサイズや被加熱体63の大きさ及び材質等に基づいて任意に定められ、コロナ放電判定回路47は、入力する変化の差が閾値Vth以上になれば、コロナ放電が生じたことを通知するトリガ信号を出力する。なお、インピーダンス不整合等の原因により、進行波の変化と反射波の変化とが同方向であるような場合には、このトリガ信号は出力されない。
【0034】
再び図1を参照して、出力制御部50は、絶縁破壊検出部30及び放電検出部40に接続され、各々の検出部から出力されるトリガ信号に従って、個別に高周波出力部10の切換回路12を制御する。この出力制御部50は、例えば図6に示す構成で実現される。図6に示す出力制御部50は、第1及び第2のタイマ51及び52と、第1及び第2のカウンタ53及び54と、第1及び第2のラッチ回路55及び56とを備える。
【0035】
第1のタイマ51は、絶縁破壊検出部30の出力に接続される。そして、第1のタイマ51は、絶縁破壊検出部30の絶縁破壊判定回路32からトリガ信号を入力すると、入力時点から予め定めた時間が経過するまでの間、切換回路12の入出力端子間を遮断させる制御信号を切換回路12へ出力する。典型的な制御信号は、パルス信号である。この制御によって、加工部60で絶縁破壊が生じた場合には、高周波出力部10から加工部60への高周波の印加が、予め定めた時間だけ一時的に停止される。予め定めた時間の経過後は、切換回路12の入出力端子間が導通状態に復帰し、高周波出力部10から加工部60への高周波の印加が自動に再開される。
【0036】
第1のカウンタ53は、第1のタイマ51が出力する制御信号を入力し、第1のタイマ51が切換回路12に対して行った一時的停止の回数を累積的にカウントする。このカウントは、例えばパルス信号の立ち上がりを検出することで行われる。そして、第1のカウンタ53は、カウントした累積回数が所定値に到達する(カウントアップ)と、第1のラッチ回路55にその旨を通知する。
【0037】
第1のラッチ回路55は、通常状態では切換回路12の入出力端子を導通させる信号(又は無信号)を切換回路12へ出力しており、第1のカウンタ53からカウントアップの通知を受けて、切換回路12の入出力端子間を遮断させる制御信号を切換回路12へ出力する。この制御信号の出力は、溶着作業者による手動操作等によって解除されるまで維持される。この制御によって、複数回継続して加工部60で絶縁破壊が生じた場合には、高周波出力部10から加工部60への高周波の印加が、完全に停止される。
【0038】
なお、放電検出部40から出力されるトリガ信号に対しては、第2のタイマ52、第2のカウンタ54、及び第2のラッチ回路56を用いて、絶縁破壊検出部30で説明した内容と同様の一時的な停止及び完全停止の処理が行われる。なお、第1のカウンタ53がカウントアップする所定値と、第2のカウンタ54がカウントアップする所定値とが、同じであっても異なっていてもよい。
【0039】
以上のように、本発明の一実施形態に係る誘電加熱用高周波電源装置1によれば、絶縁破壊又はコロナ放電の発生回数が所定値以下であれば、高周波の印加を予め定めた時間だけ一時的に停止して、所定値を超えれば完全に停止するようにしている。
これにより、溶着作業中に発生する絶縁破壊やコロナ放電が、被加熱体63の品質に影響を与えない一時的な場合は溶着作業を継続し、被加熱体63の品質に影響を与えるような場合であれば溶着作業を停止できるので、被加熱体63の品質を維持しつつ被加熱体63及び電極62(金型)の損傷による損害を最小限にとどめることが可能となる。
また、発振回路11の出力を切換回路12で制御する構成であるため、高速で高周波出力を停止させることが可能となる。
【0040】
なお、上記実施形態で説明した高周波印加部20、絶縁破壊検出部30、放電検出部40、及び出力制御部50の詳細な回路は一例であって、同等の機能を有する回路であれば同様に本発明に適用することが可能である。
また、加工部60の構造も、図1に示したものに限らず、高周波を印加する一対の電極を備えたものであれば他の構造も適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の装置は、誘電損失が大きな高分子材料等を加工する場合等に利用可能であり、特に溶着作業中に発生する絶縁破壊やコロナ放電が被加熱体の品質に影響を与えない一時的なときには溶着作業を継続したい場合に適している。
【符号の説明】
【0042】
1 誘電加熱用高周波電源装置
10 高周波出力部
11 発振回路
12 切換回路
20 高周波印加部
21 励振増幅回路
22 電力増幅回路
23 位相調整回路
24 整合回路
30 絶縁破壊検出部
31 貫通電流検出回路
32 絶縁破壊判定回路
40 放電検出部
41 方向性結合器
42、43 検波回路
44、45 微分回路
46 減算回路
47 コロナ放電判定回路
50 出力制御部
51、52 タイマ
53、54 カウンタ
55、56 ラッチ回路
60 加工部
61、62 電極
63 被加熱体
100 高周波電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波による誘電損失を利用して被加熱体の加熱又は溶着を行う誘電加熱用高周波電源装置であって、
所定の周波数を有する高周波を出力する高周波出力部と、
前記高周波出力部から出力される高周波を、前記被加熱体が狭持された一対の電極間に印加する高周波印加部と、
前記一対の電極間に生じる電圧の変化を監視し、絶縁破壊現象を検出する絶縁破壊検出部と、
前記高周波印加部から前記一対の電極間へ進行する高周波と、前記一対の電極間から前記高周波印加部へ反射する高周波との、間に生じる電圧の変化を監視し、コロナ放電現象を検出する放電検出部と、
前記絶縁破壊検出部及び前記放電検出部のいずれかにおいて現象が検出されると、前記高周波出力部からの高周波出力を予め定めた時間だけ一時的に停止する出力制御部とを備える、誘電加熱用高周波電源装置。
【請求項2】
前記出力制御部は、前記絶縁破壊検出部における現象検出の累積回数が第1の所定値を超えるか、又は前記放電検出部における現象検出の累積回数が第2の所定値を超えると、前記高周波出力部からの高周波出力を完全に停止する、請求項1に記載の誘電加熱用高周波電源装置。
【請求項3】
前記絶縁破壊検出部は、
前記高周波印加部の出力に接続され、前記一対の電極間の短絡によって生じる貫通電流に起因して低下する電圧を検出する貫通電流検出部と、
前記貫通電流検出部で検出された電圧と所定の閾値とを比較して、絶縁破壊現象の発生を判断する絶縁破壊判定部とを備える、請求項1に記載の誘電加熱用高周波電源装置。
【請求項4】
前記放電検出部は、
前記高周波印加部から前記一対の電極間へ進行する高周波の電圧と、前記一対の電極間から前記高周波印加部へ反射する高周波の電圧とを、抽出する方向性結合器と、
前記方向性結合器で抽出された2つの電圧をそれぞれ微分し、当該2つの電圧の変化を検出する微分回路と、
前記2つの電圧の変化の差分を求め、所定の閾値とを比較して、放電現象の発生を判断する放電判定部とを備える、請求項1に記載の誘電加熱用高周波電源装置。
【請求項5】
前記出力制御部は、
前記絶縁破壊検出部及び前記放電検出部のいずれかにおいて現象が検出されると、前記所定の時間だけ高周波出力の一時的な停止を指示する制御信号を前記高周波出力部へ出力するタイマと、
前記タイマが前記制御信号を出力した回数を、絶縁破壊現象及び放電現象毎に、累積的にカウントするカウンタと、
前記カウンタのカウント値が前記第1又は第2の所定値を超えると、高周波出力の完全な停止を指示する制御信号を前記高周波出力部へ出力するラッチ回路とを備える、請求項2に記載の誘電加熱用高周波電源装置。
【請求項6】
前記高周波印加部は、前記被加熱体でコロナ放電現象が発生した時に、前記高周波印加部から前記一対の電極間へ進行する高周波の位相と、前記一対の電極間から前記高周波印加部へ反射する高周波の位相とが、同相関係となるように位相を調整する位相調整回路を備える、請求項4に記載の誘電加熱用高周波電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−262825(P2010−262825A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112588(P2009−112588)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(390024394)山本ビニター株式会社 (16)
【出願人】(503308922)株式会社ノダRFテクノロジーズ (1)
【Fターム(参考)】