説明

誘電性エラストマー組成物およびアンテナ用部材

【課題】環境への影響を配慮しつつ優れた難燃性を有するとともに、アンテナ材料として十分な誘電特性を有する誘電性エラストマー組成物、および、該組成物を成形してなるアンテナ用部材を提供する。
【解決手段】エチレンプロピレンゴム等のエラストマー 100 重量部に対して、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を 50〜400 重量部、ポリブロモフェニルエーテルおよびポリブロモビフェニルを除く臭素系難燃剤を 10〜200 重量部それぞれ配合してなる誘電性エラストマー組成物であって、周波数 1 GHz および温度 30℃において、この組成物の比誘電率が 3 以上、誘電正接が 0.02 以下であり、アンテナ用部材はこの組成物を成形してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた難燃性と誘電特性とを合わせ持つ誘電性エラストマー組成物、および該組成物を成形してなるアンテナ用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、コードレスフォン、RFID等に用いるパッチアンテナ、電波望遠鏡やミリ波レーダ等のレンズアンテナ等の目覚しい普及、衛星通信機器の著しい発達に伴い、通信信号の周波数の高周波化および通信機器の一層の小型化が望まれている。通信機器は、通信機器内部に組み込まれたアンテナ材料の比誘電率が高くなると、より一層の高周波化および小型化が図れる。比誘電率は、誘電体内部の分極の程度を示すパラメータである。従って、比誘電率の高いアンテナ材料を使用できれば、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機器の小型化が図れる。また、通信機器の使用態様が多様化するにつれ、アンテナ材料には、低温から高温まで電気的特性の変化が少ないことや、難燃性に優れること等も求められている。
【0003】
従来、低温から高温まで広い温度範囲にわたって、高い比誘電率を示し、かつ低誘電正接を有するアンテナを得るための材料として、エチレンプロピレンゴム等のエラストマーに、−40℃〜100℃の温度範囲において比誘電率の温度係数α(単位:1/℃)が(−200〜100)×10-6 の範囲にあるバリウム・ネオジム系セラミックス粉末等を配合した誘電性エラストマー組成物が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、アンテナ材料等における難燃性向上策としては、従来、ポリブロモジフェニルエーテル(以下、PBDEと記す)やポリブロモビフェニル(以下、PBBと記す)等の臭素系あるいは塩素系のハロゲン系難燃剤を配合することが知られている。また、PBB、PBDE以外の臭素系難燃剤の場合、難燃性を高めるため通常は三酸化アンチモンを併用している。
また、一般的に、エラストマー系材料において難燃性を向上させるためには、上記ハロゲン系難燃剤の他、金属水酸化物、膨張化黒鉛などを配合することが知られている。金属水酸化物は、例えば電子写真装置の転写ベルト等を構成するエラストマー系材料等に配合することが知られている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1の誘電性エラストマー組成物は、低温から高温まで電気的特性の変化が少なく優れた誘電特性を有するが、難燃剤を含んでおらず、難燃性が要求される用途には使用できないという問題がある。
このような誘電性エラストマー組成物の難燃性向上のために、難燃剤として上記ハロゲン系難燃剤を用いる場合では、廃棄時にハロゲン系難燃剤からダイオキシンが発生することが懸念され、環境上好ましくない。特に、PBB、PBDEについては、2003年1月制定の欧州連合(EU)のRoHS指令(電気・電子機器における特定有害物質の使用制限指令)により、これらを電機電子製品に使用することができない。
また、PBB、PBDE以外の臭素系難燃剤は使用禁止とされていないものの、上述したように三酸化アンチモンを併用しており、この三酸化アンチモンには不純物として鉛、水銀、六価クロム、カドミウム等を微量に含むので好ましくない。
【0006】
難燃剤として金属水酸化物を用いる場合では、多量に含有させないと難燃性効果が出にくく、多量に含有すると一般的には誘電正接が高くなるため、アンテナ材料のように低誘電正接が要求される用途においての使用は知られていない。
また、アンテナ材料において膨張化黒鉛を配合する場合では、難燃性は向上するが、上記誘電特性が極端に悪化するので好ましくない。
【特許文献1】特開2006−1989号公報
【特許文献2】特開2005−97493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題に対処するためになされたもので、環境への影響を配慮しつつ優れた難燃性を有するとともに、アンテナ材料として十分な誘電特性を有する誘電性エラストマー組成物、および、該組成物を成形してなるアンテナ用部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の誘電性エラストマー組成物は、エラストマー 100 重量部に対して、金属水酸化物を 50 重量部〜400 重量部、PBDEおよびPBBを除く臭素系難燃剤を 10 重量部〜200 重量部それぞれ配合してなる誘電性エラストマー組成物であって、周波数 1 GHz および温度 30℃において、上記誘電性エラストマー組成物の比誘電率が 3 以上、誘電正接が 0.02 以下であることを特徴とする。
【0009】
上記誘電性エラストマー組成物において、上記エラストマー 100 重量部に対して、カーボンブラックを 5 重量部〜40 重量部配合したことを特徴とする。
また、上記誘電性エラストマー組成物は、誘電性セラミックス粉末を配合してなることを特徴とする。また、上記金属水酸化物は、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする。
【0010】
上記臭素系難燃剤は、エチレンビスペンタブロモベンゼン、または、デカブロモジフェニルエーテルであることを特徴とする。また、エラストマーがエチレンプロピレンゴムであることを特徴とする。
【0011】
本発明のアンテナ用部材は、誘電性エラストマー組成物を成形してなり、この誘電性エラストマー組成物が上記記載の誘電性エラストマー組成物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の誘電性エラストマー組成物は、エラストマー 100 重量部に対して、難燃剤として金属水酸化物を 50〜400 重量部、PBDEおよびPBBを除く臭素系難燃剤を 10〜200 重量部それぞれ配合してなり、周波数 1 GHz および温度 30℃において、上記誘電性エラストマー組成物の比誘電率が 3 以上、誘電正接が 0.02 以下であるので、アンテナ材料として十分な誘電特性を維持しながら、難燃性にも優れる。
【0013】
上記誘電性エラストマー組成物において、上記エラストマー 100 重量部に対してカーボンブラックを 5〜40 重量部配合したので、成形体表面へのプロセスオイルのブリードがなく電極との密着性が低下しないため、誘電性エラストマー成形体の誘電特性の変化を抑制することができる。
【0014】
金属水酸化物と臭素系難燃剤とを併用するので、PBDE、PBB以外の臭素系難燃剤を使用しながら、三酸化アンチモンを併用せずに優れた難燃性を確保でき、環境上好ましい。また、難燃剤が金属水酸化物のみの場合と比較して、金属水酸化物の配合量を少なくでき、成形性が悪化することや、誘電正接が高くなること等を抑制できる。
【0015】
また、上記誘電性エラストマー組成物は、誘電性セラミックス粉末を配合するので、比誘電率を未配合の場合よりも高くできる。
【0016】
本発明のアンテナ用部材は、上記誘電性エラストマー組成物を成形してなるので、高い比誘電率および低誘電正接を維持しつつ難燃性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
上述したように、難燃剤として金属水酸化物を用いる場合では、多量に含有させないと難燃性効果が出にくく、多量に含有させると一般的には誘電正接が高くなるため、アンテナ材料等では金属水酸化物が使用されていなかった。また、難燃性に優れる臭素系難燃剤(PBB、PBDE以外)は、三酸化アンチモンを併用するために環境上好ましくない。
これらのことから、本発明者らは、難燃剤である金属水酸化物と臭素系難燃剤(PBB、PBDE以外)とを併用し、それらの配合割合を種々検討することで、三酸化アンチモン等を併用せずに極力環境への負荷のない組成で、アンテナ材料として十分な誘電特性と難燃性とを両立した誘電性エラストマー組成物を得た。本発明は以上のような知見に基づくものである。
【0018】
本発明に使用できる金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ドーソナイト、アルミン酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。これらの金属水酸化物は、高熱下で吸熱脱水反応を起こすことにより、吸熱し、水分子を放出することで、温度を低下させ難燃性を付与できる。なお、上記金属水酸化物は、分散性、加工性などを改良するため、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、エポキシ系表面処理剤、高級脂肪酸またはその塩、高級アルコール、界面活性剤等により表面処理が施されていてもよい。
【0019】
これらの金属水酸化物は、1種類または2種類以上を併用してもよい。2種類以上の金属水酸化物を併用する場合、それぞれの金属水酸化物が異なる温度で吸熱脱水反応を開始するため、より優れた難燃性を付与できる。
【0020】
以上の金属水酸化物の中で、安価でかつ水和物含有量が多いことから、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムから選ばれた少なくとも一つであることが好ましい。水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムは、BET比表面積が 1〜20 m2/g 以下の範囲にあり、かつ平均粒子径が 0.1〜50μmの範囲であることが好ましい。また、それぞれの分解温度は、水酸化マグネシウムが 300〜350℃、水酸化アルミニウムが 200〜230℃である。
【0021】
水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウムについて、シランカップリング剤を用いた表面処理方法としては、乾式法、湿式スラリー法を採用できる。また、上記のように予め表面処理を行なう以外に、誘電性エラストマー組成物中にシランカップリング剤も添加して、混合しながら表面処理させることもできる。
また、水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウムについて、高級脂肪酸またはその塩で表面処理する場合は、高級脂肪酸またはその塩を溶かして噴霧し、ヘンシェルミキサー等により乾式法で表面処理する方法等を採用できる。高級脂肪酸およびその塩としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸およびそれらのナトリウム塩、カリウム塩等が用いられる。
【0022】
本発明に使用できる水酸化マグネシウムの市販品としては、神島化学工業社製:WX−3(平均粒子径 2.5μm、表面処理:なし)、WH−3(平均粒子径 2.5μm、表面処理:有)、N−4(平均粒子径 1.1μm、表面処理:有)およびN−6(平均粒子径 1.3μm、表面処理:有)、協和化学社製:キスマ5A(平均粒子径 0.85μm、表面処理:有)およびキスマ5B(平均粒子径 0.87μm、表面処理:有)、堺化学工業社製:MGZ−1(平均粒子径 0.8μm、表面処理:有)およびMGZ−3(平均粒子径 0.1μm、表面処理:有)、タテホ化学工業社製:エコーマグZ−10などが挙げられる。また、水酸化アルミニウムの市販品としては、日本軽金属社製:B703S(平均粒子径 2μm)などが挙げられる。
【0023】
本発明の臭素系難燃剤としては、PBDEおよびPBBを除く臭素系難燃剤であれば任意のものを使用できる。例えば、エチレンビスペンタブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエーテル、TBA−ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、ビス(3,5-ジブロモ-4-ジブロモプロピルオキシフェニル)スルホン、トリアリルイソシアネート6臭化物、ヘキサブロモシクロドデカン、オクタブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、エチレンビステトラブロモフタルイミド、臭素化ポリスチレン等が挙げられる。
これらの中で、融点が 300℃以上、臭素化率が 80%以上と高いことから、エチレンビスペンタブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエーテルが好ましい。エチレンビスペンタブロモベンゼンの市販品としては、鈴裕化学社製:FCP801が、デカブロモジフェニルエーテルの市販品としては、鈴裕化学社製:FCP83Dがそれぞれ挙げられる。
【0024】
本発明の誘電性エラストマー組成物における金属水酸化物および臭素系難燃剤の配合割合は、金属水酸化物がエラストマー 100 重量部に対して 50〜400 重量部、臭素系難燃剤がエラストマー 100 重量部に対して 10〜200 重量部である。より好ましくは、金属水酸化物がエラストマー 100 重量部に対して 50〜300 重量部、臭素系難燃剤がエラストマー 100 重量部に対して 50〜200 重量部である。さらに好ましくは、金属水酸化物がエラストマー 100 重量部に対して 100〜250 重量部、臭素系難燃剤がエラストマー 100 重量部に対して 50〜100 重量部である。
金属水酸化物の配合割合が、50 重量部未満であると、難燃性確保のため臭素系難燃剤を多量に配合する必要があり、成形性が悪化し、誘電正接が高くなるとともに、環境上好ましくない。金属水酸化物が 400 重量部をこえると成形性が悪化する、誘電正接が高くなる等の問題がある。また、金属水酸化物を上記範囲で配合することで、比誘電率の温度変化を小さくできるという効果も得られる。
一方、臭素系難燃剤が 10 重量部未満であると、上記金属水酸化物の配合範囲では、十分な難燃性(具体的には後述の実施例に記載する試験)を得ることができない。
【0025】
本発明の誘電性エラストマー組成物を構成するエラストマーとしては、周波数 1 GHz および温度 30℃において、上記金属水酸化物および臭素系難燃剤を配合したときの比誘電率が 3 以上、誘電正接が 0.02 以下(より好ましくは 0.01 以下)となるものであれば使用でき、天然ゴム系エラストマーおよび合成ゴム系エラストマーを使用できる。
【0026】
天然ゴム系エラストマーとしては、天然ゴム、塩化ゴム、塩酸ゴム、環化ゴム、マレイン酸化ゴム、水素化ゴム、天然ゴムの二重結合にメタクリル酸メチル、アクリロニトリル、メタクリル酸エステル等のビニルモノマーをグラフトさせてなるグラフト変性ゴム、窒素気流中でモノマー存在下に天然ゴムを粗錬してなるブロックポリマー等を挙げることができる。これらは、天然ゴムを原料とするものの他、合成 cis-1,4-ポリイソプレンを原料としたエラストマーを挙げることができる。
【0027】
合成ゴム系エラストマーとしては、イソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンターポリマー、クロロスルホン化ポリエチレンゴム等のポリオレフィン系エラストマー、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー(SBS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)等のスチレン系エラストマー、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、ナイロン12、ブチルゴム、ブタジエンゴム、ポリノルボルネンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等を挙げることができる。
【0028】
これらのエラストマーは、1種類または2種類以上を混合して用いることができる。また、エラストマーの持つ弾力性を損なわない範囲内で、熱可塑性樹脂の1種または2種以上を配合して用いることができる。
本発明においてエラストマーとして天然ゴム系エラストマーおよび/または合成非極性エラストマーの中から選ばれる1種または2種以上を用いた場合には電気絶縁性に優れた誘電性エラストマーを得ることができる。合成非極性のエラストマーとしては、上述した中でエチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、イソブチレンゴム、イソプレンゴム等を挙げることができる。
特にエチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴムは誘電正接が極めて低いので、アンテナ用部材の材料として好ましく用いることができる。
【0029】
本発明に使用できるカーボンブラックは、ハードカーボン、ソフトカーボン等の顔料、耐摩耗性向上等に使用されるカーボンブラックを挙げることができる。ただし、導電性の良いアセチレン系のカーボンブラックは、誘電正接の増加量が多いので好ましくない。カーボンブラックの市販品としては、例えば東海カーボン社製:シーストS等を挙げることができる。
上記カーボンブラックの配合割合はエラストマー 100 重量部に対して 5〜40 重量部である。5 重量部未満の場合、カーボンブラックの保油効果が少ないため成形体表面へのプロセスオイルのブリードが発生し、電極との密着性が低下し、誘電特性が大きく変化するので好ましくない。また、40 重量部をこえる場合、誘電正接が大きくなるため、好ましくない。高誘電率かつ低誘電正接化のための最適な配合量は、10〜35 重量部である。
【0030】
本発明の誘電性エラストマー組成物は、その比誘電率を向上させるため、誘電性セラミックス粉末を配合することが好ましい。
本発明に使用できる誘電性セラミックス粉末は、IIa、IVa、III b、IVb族の酸化物、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、またはIIa、IVa、III b、IVb族を含む複合酸化物から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。具体的には、TiO2、CaTiO3、MgTiO3、Al23、BaTiO3、SrTiO3、Ca227、SiO2、Mg2 SiO4、Ca2 MgSi27 、あるいは比誘電率の温度依存性を改良するため、アルカリ土類金属と希土類酸化物を配合したBaO−TiO2−Nd23系セラミックス等が挙げられる。配合する誘電性セラミックス粉末は、誘電特性を示すものであれば特に限定しない。また、特性改良のため、Al、Zr等の微量組成物を配合してもよい。
【0031】
誘電性セラミックス粉末の平均粒子径は 0.01〜100μm 程度が好ましい。0.01μm より小さい場合、取り扱いが困難であり、結着性を阻害するため好ましくない。100μm より大きい場合、成形体内での誘電特性のばらつきを引き起こす恐れがあるので好ましくない。より実用的な範囲は、0.1〜20μm 程度である。
【0032】
本発明の誘電性エラストマー組成物における誘電性セラミックス粉末の配合割合は、エラストマー 100 重量部に対して 50〜1000 重量部であることが好ましい。より好ましくは、エラストマー 100 重量部に対して 200〜900 重量部である。上記範囲で誘電性セラミックス粉末を配合することで、未配合時よりも比誘電率を 2〜20 程度向上させることができる。
【0033】
本発明においては、本発明の効果を妨げない範囲で(1)エラストマーと、セラミックス粉末との界面の親和性や接合性を向上させ、機械的強度を改良するために、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ジルコニアアルミネート系カップリング剤等のカップリング剤を、(2)電極形成のためのメッキ性を改良するために、タルク、ピロリン酸カルシウム等の微粒子性充填剤を、(3)熱安定性を一層改善するために酸化防止剤を、(4)耐光性を改良するために紫外線吸収剤等の光安定剤を、(5)耐衝撃性を改良するために耐衝撃性付与剤を、(6)着色するために染料、顔料などの着色剤を、(7)物性を調整するために可塑剤、硫黄やパーオキサイド等の架橋剤を、(8)加硫を進めるための加硫促進剤をそれぞれ配合できる。
【0034】
また、本発明の誘電性エラストマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内でガラスファイバー、チタン酸カリウムウィスカ等のチタン酸アルカリ金属繊維、酸化チタン繊維、ホウ酸マグネシウムウィスカやホウ酸アルミニウウムウィスカ等のホウ酸金属塩系繊維、ケイ酸亜鉛ウィスカやケイ酸マグネシウムウィスカ等のケイ酸金属塩系繊維、カーボンファイバ、アルミナ繊維、アラミド繊維等の各種有機または無機の充填剤を併用できる。
【0035】
本発明の誘電性エラストマー組成物の製造方法としては、特に制限がなく、各種の混合成形方法を用いることができる。例えば、上述したカーボンブラック、金属水酸化物、臭素系難燃剤、誘電性セラミックス粉末、各種添加剤、加硫剤等をエラストマーに配合し、これをバンバリーミキサー、ローラー、2軸押し出し機等で混錬して製造する方法などが挙げられる。
【0036】
本発明のアンテナ用部材は、上記で得られた誘電性エラストマー組成物を所定形状、例えば平板状や円板状に成形することで得られる。成形方法としては、加熱圧縮成形、射出成形、トランスファー成形、押し出し成形など任意の方法を採用できる。
【実施例】
【0037】
実施例1〜実施例15および比較例1〜比較例7
エチレンプロピレンゴム(三井化学社製:EPT−3095)と、水酸化マグネシウム(神島化学工業社製:WX−3またはN−4)と、臭素系難燃剤(鈴裕化学社製:FCP801またはFCP83D)と、誘電性セラミックス粉末(共立マテリアル社製:HF120またはSTNAS)と、カーボンブラック(東海カーボン社製:シーストS)とをそれぞれ表1に示す配合割合で混合し、さらに加硫促進剤およびプロセスオイル(出光興産社製:PW380)を含む加工助剤を加えて、加圧ニーダで混練り後、加熱圧縮成形にて、150 mm × t2 mm のシート成形体を得た。その成形体から 13 mm×2 mm×100 mm の試験片を加工した。なお、加硫条件は、それぞれ 170℃×20分である。
各実施例および比較例にて得られた誘電性エラストマー成形体の試験片について、難燃性、比誘電率、誘電正接およびブリードの有無の測定を以下の方法により行なった。測定結果を表1に併記する。なお、エチレンプロピレンゴムとしては三井化学社製:EPT−3095のほか、JSR社製:EP35等も使用することができる。
【0038】
<難燃性試験>
得られた試験片を垂直に設置し、ガスバーナーの炎を接炎させて 10 秒間静止。すぐに離して燃焼状態を確認した。燃焼時間を計測し、消火後に再度接炎して 10 秒間静止。すぐに離して燃焼時間を計測。1回目、2回目ともに 10 秒以内に自己消火し、火種が 10 秒以内になくなれば難燃性が十分であるとして「○」を、自己消火に 10 秒以上かかったり、火種が 10 秒以内になくならなければ難燃性が不十分であるとして「×」をそれぞれ記録する。
【0039】
<比誘電率および誘電正接の測定>
得られた成形体から、1.5 mm×1.5 mm×80 mm の短冊状試験片を加工し、空洞共振器法(1998年7月、Electronic Monthly誌、16〜19頁)を用いて、1 GHz の周波数帯で 30℃における比誘電率および誘電正接を測定した。
【0040】
<ブリードの有無確認試験>
加熱圧縮成形にて得られた 100 mm×80 mm×2.0 mm の成形体の表面を目視し、プロセスオイルのブリードの有無を観察した。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すように、実施例1〜実施例15は、難燃性に優れ、誘電正接も 0.01 以下であった。
これに対して、比較例1、比較例5、比較例7では、金属水酸化物と臭素系難燃剤とが所定配合割合でなかったため難燃性に劣った。比較例2は、カーボンブラックを配合していないため、表面にブリードが発生した。比較例3は、カーボンブラックの配合量が多いため、誘電正接が 0.02 以上を示した。比較例6は、臭素系難燃剤を多量に配合することで難燃性には優れたが、誘電正接が高くなった。なお、比較例4では、難燃剤の配合割合が多すぎて成形できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の誘電性エラストマー組成物は、環境への負荷が少なく、優れた難燃性および誘電特性を有するので、高周波通信機のアンテナ、回路基板、フィルター、共振器、コンデンサー、圧電素子等の電子部品用材料として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー 100 重量部に対して、金属水酸化物を 50〜400 重量部、ポリブロモジフェニルエーテルおよびポリブロモビフェニルを除く臭素系難燃剤を 10〜200 重量部それぞれ配合してなる誘電性エラストマー組成物であって、
周波数 1 GHz および温度 30℃において、前記誘電性エラストマー組成物の比誘電率が 3 以上、誘電正接が 0.02 以下であることを特徴とする誘電性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記誘電性エラストマー組成物において、前記エラストマー 100 重量部に対して、カーボンブラックを 5〜40 重量部配合したことを特徴とする請求項1記載の誘電性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記誘電性エラストマー組成物は、誘電性セラミックス粉末を配合してなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の誘電性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記金属水酸化物は、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の誘電性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記臭素系難燃剤は、エチレンビスペンタブロモベンゼン、または、デカブロモジフェニルエーテルであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の誘電性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記エラストマーがエチレンプロピレンゴムであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の誘電性エラストマー組成物。
【請求項7】
誘電性エラストマー組成物を成形してなるアンテナ用部材であって、
前記誘電性エラストマー組成物は、請求項1ないし請求項6のいずれか一項記載の誘電性エラストマー組成物であることを特徴とするアンテナ用部材。

【公開番号】特開2008−239946(P2008−239946A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279192(P2007−279192)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】