説明

調理材およびその製造方法

【課題】蛸等の無脊椎軟体動物や鶏肉等の食肉を、筋肉のタンパク質を柔らかく調理することができる調理液、調理材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】シクロアリインと酸性化合物(例えば、有機酸)とアルコールとを含むタンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理液。アリウム属植物を加熱し、加熱した植物から酸性水を用いて抽出した抽出物とアルコールを含む、タンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理液。アリウム属植物を加熱し、加熱した植物を、酸性水を用いた抽出に供し、得られた抽出物とアルコールとを混合することを含む、調理液の製造方法。シクロアリインと酸性化合物とを含むタンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理材。アリウム属植物を加熱し、加熱した植物を切断し、切断した植物に酸性水を添加し、次いで乾燥することを含む、調理材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
タンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理液、調理材およびその製造方法に関する。特に、本発明は、無脊椎軟体動物の筋原繊維タンパク質や食肉のタンパク質を柔らかく調理することができる調理液、調理材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無脊椎軟体動物のイカ、タコ、エビ、アワビ、ハマグリ等は加熱すると身肉が硬くなる。この状態は火を通して加熱を続けても柔らかくならない。このため食するときに噛み切りづらく、硬いゴムのようなテクスチャーはよくないという欠点を有している。
【0003】
これは、身肉の筋原繊維タンパク質の構造に起因する。身肉の主体をなす筋肉はタンパク質の微細繊維の束からなっており、これを加熱すると熱変性によって著しく凝集し、硬くしまる。さらに、このとき脱水作用がおこり、そのために筋肉の柔らかさが減少するからである。また、鶏肉等の肉類についても同様の問題があった。
【0004】
特開平10−201450号公報(特許文献1)には、蛸の肉質軟化方法が開示され、この方法は下記の工程からなる。(1)生蛸を頭部および複数本の足に捌き、内蔵を除去して個体に形成し、この個体を洗浄する前処理工程、(2)前記工程により処理した個体を冷凍する冷凍工程、(3)前記工程により処理した冷凍個体を解凍した後、90〜95℃の範囲の温水に該個体の大きさに応じて3〜8秒間浸して加熱する加熱工程、(4)前記工程により処理した加熱個体を冷却する冷却工程、(5)前記工程により処理した冷却個体を30〜50分間煮込む煮込み工程。
【0005】
【特許文献1】特開平10−201450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法は、処理工程が比較的少なく、処理方法も簡単であり、しかも、添加物を一切使用しないで肉質を軟らかい状態で長期間保持することができ、また冷凍、解凍を繰り返しても水っぽくならないなどの特徴を有する方法である。しかし、家庭やレストラン、料理店などで簡単に利用できる方法ではなかった。また、蛸以外の無脊椎軟体動物を加熱調理する際に、筋肉のタンパク質を柔らかく煮ることができる方法でもない。
【0007】
家庭やレストラン、料理店で手軽に、しかも確実に蛸等の無脊椎軟体動物を加熱調理する際に、筋肉のタンパク質を柔らかく調理することができる調理液や調理材があれば、大いに利用されると期待され、また、無脊椎軟体動物を利用した料理のバリエーションも増え、食生活を豊かにすることが期待できる。さらに、鶏肉等の肉類についても柔らかく調理することができる調理液や調理材の出現が待たれるところである。
【0008】
尚、肉類を柔らかく調理することに関しては、タンパク質分解酵素を含む、例えば、パパイアやキウイフルーツとともに肉類を調理することが知られている。しかるに、タンパク質分解酵素は、人体に対しても悪影響が有る場合があることも知られている。タンパク質分解酵素が口に刺激を与え、場合によっては、赤くただれることもある。そこで、人体に対する悪影響がなく、肉類を柔らかく調理することができる安全な調理液や調理材の提供が待たれている。
【0009】
そこで本発明の目的は、蛸等の無脊椎軟体動物や鶏肉等の食肉を、筋肉のタンパク質を柔らかく調理することができる調理液、調理材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の通りである。
[請求項1]シクロアリインと酸性化合物とアルコールとを含むタンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理液。
[請求項2]酸性化合物が有機酸であり、アルコールがエタノールである請求項1に記載の調理液。
[請求項3]アリウム属植物を加熱し、加熱した植物から酸性水を用いて抽出した抽出物とアルコールを含む、タンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理液。
[請求項4]アリウム属植物が、玉葱、長葱、浅葱、分葱、韮、辣韮および大蒜からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の調理液。
[請求項5]アリウム属植物の茎および/または葉を用いる請求項3または4に記載の調理液。
[請求項6]アリウム属植物の茎および葉を切断することなく前記加熱に用いる請求項5に記載の調理液。
[請求項7]アリウム属植物の加熱を、アリウム属植物に含まれる酵素を失活させるように行う、請求項3〜6のいずれか1項に記載の調理液。
[請求項8]アリウム属植物の加熱を、50〜100℃の温度で、1〜30分加熱することで行う、請求項3〜7のいずれか1項に記載の調理液。
[請求項9]酸性水が、pH2〜4である請求項3〜8のいずれか1項に記載の調理液。
[請求項10]アルコールがエタノールである請求項3〜9のいずれか1項に記載の調理液。
[請求項11]タンパク質を含む食品素材が、肉、魚、貝類、イカ、タコ、エビ、またはカニである請求項1〜10のいずれか1項に記載の調理液。
[請求項12]アリウム属植物を加熱し、加熱した植物を、酸性水を用いた抽出に供し、得られた抽出物とアルコールとを混合することを含む、タンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理液の製造方法。
[請求項13]加熱した植物を、切断し、その後に酸性水を用いた抽出に供する請求項12に記載の製造方法。
[請求項14]シクロアリインと酸性化合物とを含むタンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理材。
[請求項15]酸性化合物が有機酸である請求項14に記載の調理材。
[請求項16]アリウム属植物を加熱し、加熱した植物を切断し、切断した植物に酸性水を添加し、次いで乾燥することを含む、タンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理材の製造方法。
[請求項17]乾燥がフリーズドライである請求項16に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の調理液および調理材を用いることで、蛸等の無脊椎軟体動物や鶏肉等の食肉を、筋肉のタンパク質を柔らかく調理することができる。また、本発明の製造方法によれば、本発明の調理液および調理材を、効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の調理液は、タンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するためのものであり、シクロアリインと酸性化合物とアルコールとを含み、具体的には、例えば、アリウム属植物を加熱し、加熱した植物から酸性水を用いて抽出した抽出物とアルコールとを混合したものである。本発明の調理液の原料となるアリウム属植物は、例えば、玉葱、長葱、浅葱、分葱、韮、辣韮および大蒜からなる群から選ばれる少なくとも1種であることができる。本発明では、アリウム属植物の茎および/または葉を用いることができ、これらアリウム属植物の茎および葉は、切断することなく加熱に用いることが好ましい。また、アリウム属植物は新鮮な生のものを用いることが、目的物質が良好な状態で含まれているという観点から好ましい。
【0013】
アリウム属植物には、匂い物質の前駆体硫黄化合物が含まれており、この前駆体硫黄化合物は、一般にs−アルキルシステインスルホキシド(別名アリーン)であると言われている。この匂い物質の前駆体硫黄化合物は、植物体の組織が損傷を受けると、ある種の酵素(アリイナーゼ)と反応して、匂い物質が生成される。この匂い物質はジアリルジスルフィド、プロピルアリルジスルフィド、ジアリルスルフィド、ジプロピルジスルフィド、ジアリルトリスルフィドなどスルフィド類であり、揮発性硫黄化合物である。これらの化合物は揮発性で独特な匂いを有し、辛み物質でもあるとともに、安定性が悪く、呈味性が良くない。しかし、匂い物質の前駆体硫黄化合物は、酵素反応を受けなければ、不揮発性で安定しており、匂いがなく、辛みもない。したがって、匂い物質の前駆体硫黄化合物の分解を抑制するという観点から、アリウム属植物の茎および葉は、切断することなく用いることが好ましい。
【0014】
匂い物質の前駆体硫黄化合物は、アリウム属植物の種類によって異なるが、例えば、玉葱の場合、s−プロペニル−L−システインスルホキシド(PeCSO)(または、s−アリル−L−システインスルホキシド)である。生の玉葱にはPeCSOが含まれており、生の玉葱の組織を破壊すると酵素の作用によってPeCSOは、上記揮発性硫黄化合物に変化する。それに対して、生の玉葱の組織を破壊することなく加熱によって酵素を失活させると、PeCSOは環状アミノ酸であるシクロアリインに変化する。シクロアリインは無臭の物質である。玉葱以外のアリウム属植物にも、PeCSOおよび/またはPeCSO以外のs−アルキルシステインスルホキシドが含まれている。
【0015】
本発明では、アリウム属植物に含まれる匂い物質の前駆体硫黄化合物を実質的に酵素(アリイナーゼ)と反応させることなしに抽出し、さらに、安定化して、調理液として実用可能なものにした。即ち、アリウム属植物を加熱し、加熱することで、植物体に含まれる酵素を失活させ、かつこの加熱によりPeCSOをシクロアリインに変換し、さらに、加熱した植物から酸性水を用いて、目的物質であるシクロアリインを抽出し、さらに得られた抽出物をアルコール混ぜてシクロアリインを安定化させる。失活させる酵素は、前記匂い物質の前駆体硫黄化合物を揮発性硫黄化合物に変化させる反応を触媒する酵素(アリイナーゼ)である。
【0016】
アリウム属植物の加熱の目的の1つは、植物体に含まれる酵素を失活させることなので、アリウム属植物の加熱は、少なくともアリウム属植物に含まれる酵素を失活させることができる条件で行えば良い。加熱方法は圧力釜または蒸し器を用いる蒸気加熱、電子レンジ、オーブン加熱などで行うことができる。加熱の際、植物は受け皿等の容器にのせて行うようにする。植物は水分が多いため、組織の中の一部が水滴を共に溶出するので、受け皿等の容器を用いることが好ましい。加熱時間は、加熱方法により異なるが、植物体の内部まで確実に熱が通って、柔らかくなった状態まで行う。アリウム属植物の加熱条件としては、例えば、50〜100℃の温度で、1〜30分の加熱時間を挙げることができる。上記酵素が失活する条件であれば、PeCSOのシクロアリインへの変換も生じる。
【0017】
加熱した植物では、既に酵素は失活しているのでそれを切断しても、酵素が作用して揮発性硫黄化合物が生成することはない。また、切断した方が、目的物質であるシクロアリインの抽出高率は高くなる。したがって、本発明では、加熱処理後、植物体を切断した後に、後述の酸性水を用いた抽出に供することが好ましい。
【0018】
さらに、加熱した植物から酸性水を用いて、目的物質であるシクロアリインを抽出するが、これは、酸性条件においてシクロアリインが安定であるからである。酸性水は、pH2〜4であることが、シクロアリインの安定性という観点からより好ましい。また、この酸性水を用いて得られる抽出液もほぼ同等のpH2〜4を示し、得られる調理液のpHもほぼ2〜4である。
【0019】
前記抽出は、酸性水での加熱抽出であることが好ましく、抽出後、濾過して抽出液を濾液として得ることが好ましい。加熱抽出の加熱温度は85℃以上とし、加熱時間は10〜20分とすることが好ましい。
【0020】
酸性水は水に酸性化合物を加えることで得られるものが好適に使用できる。水は軟水であればよく、水道水や井戸水を用いることができる。酸性化合物としては、例えば、有機酸を挙げることができ、さらに、有機酸としては、例えば、クエン酸、酒石酸、酢酸など食用の酸を用いることができる。有機酸の配合割合は、水に対して例えば、0.3〜1.5%の重量比とすることができ、pHが2〜4の範囲になるようすることが上述のように好ましい。配合する有機酸は1種または複数を用いることができる。
【0021】
抽出に用いる酸性水の量は、加熱前の植物体の質量とほぼ等量になるようにすることが適当である。
【0022】
目的物質であるシクロアリインは、酸性条件において安定であるが、しかし、その安定性は相対的には低く、酸性の抽出液のままでは、実用に耐え得る程の安定性は示さない。そこで、さらに安定性を向上させるために、本発明では抽出物をアルコールと混合する。本発明者らの研究の結果、シクロアリインは、アルコールの共存下で、より安定になり、長期間保存可能となることが判明した。アルコールは、食用という観点から、エタノールであることが適当である。具体的には、エタノールを含有する蒸留酒、例えば、ブランデー等を適量混合することが好ましい。
【0023】
より具体的には、例えば、上記抽出液の濾液にアルコールを所定量のアルコールを加え、その後、冷所に静置して上澄み液を本発明の調理液とすることができる。配合する有機溶媒は食用の点でエタノールが好ましい。エタノールの配合割合は濾液に対して、例えば、1〜15%(アルコール分)、好ましくは7〜15%(アルコール分)とすることができる。
【0024】
本発明は、上記本発明の調理液の製造方法も包含する。この製造方法は、アリウム属植物を加熱し、加熱した植物を、酸性水を用いた抽出に供し、得られた抽出物とアルコールとを混合することを含むものであり、その詳細は、上記で説明した通りである。
【0025】
さらに本発明は、アリウム属植物を加熱し、加熱した植物を切断し、切断した植物に酸性水を添加し、次いで乾燥することを含む、タンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理材の製造方法も包含する。この方法では、前述の方法のように酸性水での抽出工程を用いず、前述の方法と同様に、アリウム属植物を加熱し、加熱した植物を切断する。次いで、切断した植物に酸性水を添加し、次いでそのまま乾燥する。用いる酸性水は、前述の方法で用いた酸性水と同様のpH2〜4で有機酸を含むものであることが好ましい。酸性水の添加量は、加熱前の植物体の質量比で例えば、5〜20%の範囲とすることが適当である。
【0026】
また、乾燥方法は特に制限はないが、例えば、フリーズドライであることができる。この方法で得られる調理材は、固形状である。一方、前述の調理液は液状である。この固形状の調理材は、アルコールを含まないが、酸性水とともに乾燥してあるため、アルコールを含まなくても、液状の場合に比べ安定性に優れ、実用に耐える得る程度の安定性を有する。
【0027】
上記方法で得られる本発明の調理材は、シクロアリインと酸性化合物とを含み、さらに、アリウム属植物を構成していた成分の乾燥物をさらに含むものである。酸性化合物は、有機酸であることができる。また、酸性化合物の含有量は、前述の方法において、酸性水の添加量を加熱前の植物体の質量比で5〜20%の範囲にしたときに得られる量である。
【0028】
本発明の調理液および調理材は、例えば、肉、魚、貝類、イカ、タコ、エビ、カニ等のタンパク質を含む食品素材の調理に使用することができる。これらの素材以外でも、タンパク質を含む物であれば、良好に、即ち、タンパク質を硬化させることなく、調理することができる。
【0029】
肉、魚や無脊椎軟体動物のイカ、タコ、エビ、アワビ、ハマグリを煮調理する際、煮汁1リットルに対して本発明の調理液または調理材を例えば、3〜10gを使用することが適当である。生および冷凍品を解凍したものは、タンパク質が変性を受けていないので、それらを煮るあるいはゆでる際に本発明の調理液または調理材を用いることができる。ここで、煮るとは、調味料の入った煮汁中で加熱することである。一方、ゆでるとは水だけで加熱した場合であるが、ゆでる際に本発明の調理液または調理材を添加してゆでることで、筋原繊維タンパク質は柔らかくなる。
【0030】
また、煮る、あるいはゆでる場合だけでなく、揚げる、焼く、などの調理の際にも本発明の調理液および調理材を用いることができる。
【0031】
本発明の調理液および調理材が、例えば、無脊椎軟体動物の筋原繊維タンパク質を柔らかくする作用は、以下のような理由であると考えられるが、本発明はこの理論に拘泥するもではない。
【0032】
魚類筋肉(身肉)の主成分は筋原繊維タンパク質からなっている。筋原繊維タンパク質の主構成成分は、ミオシンとアクチンである。一方、無脊椎軟体動物の筋原繊維タンパク質には、ミオシン、アクチンのほかにパラミオシンとよばれる繊維状タンパク質が含まれている。パラミオシンは加熱すると硬くなり、しなやかな弾力性に欠ける性質をもつ。
【0033】
無脊椎軟体動物の身肉が加熱によって魚肉とは違った特異な硬さになるのは、パラミオシンに起因する。タンパク質分子の表面近くの水は、規則性のある構造をとっている結合水である。結合水によってタンパク質の内部構造は安定しているのであり、結合水の構造が変化したり、取り除かれると、タンパク質は変性する。加熱によって身肉が凝固するのは、タンパク質内部の結合水の変化によって、タンパク質が変性した結果である。
【0034】
アリウム属植物に含まれる匂い物質の前駆体硫黄化合物のイオンは、結合水の構造を強める力が強く、タンパク質分子の内部構造を安定し、変性を防ぐ作用を有する。この作用によって、加熱を与えても無脊椎軟体動物の筋原繊維タンパク質を構成しているミオシン、アクチン、パラミオシンの微細繊維の束は凝集せず、硬くしまることはない。
【実施例】
【0035】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0036】
実施例1
<調理液の製造>
以下の処方および製造法により本発明の調理液を製造した。
処方
玉ネギ(生) 1kg
エタノール 150g
クエン酸 5g
水 適量
【0037】
第1工程:玉ネギの外皮をむき、根を取り除いた後、水洗いする。
第2工程:圧力なべに水800gを入れ、内部に受け皿を設置し、玉ネギを受け皿にのせ、20分加熱、20分蒸らす。
第3工程:受け皿に残った蒸し汁を計量し、蒸し汁に新規の水を加えて1kgとする。
第4工程:前記第3工程の液にクエン酸5gを加える。
第5工程:前記第2工程で処理した玉ネギと第4工程の液を合わせて、85℃以上で10分加熱する。
第6工程:前記第5工程で処理したものを濾過して、濾液を得る。
第7工程:濾液850gにエタノール150g(エタノール78vol%)を合わせて、冷所に8〜10時間静置し、上澄み液を得て、本発明の調理液を完成する。
【0038】
実施例2
<調理材の製造>
以下の処方および製造法により本発明の調理材を製造した。
処方
玉ネギ(生) 1kg クエン酸 0.5g 水 適量
【0039】
第1工程:玉ネギの外皮をむき、根と取り除いた後、水洗いする。
第2工程:圧力なべに水800gを入れ、内部に受け皿を設置し、玉ネギを受け皿にのせ、20分加熱、20分蒸す。
第3工程:前記工程のものをミキサーで破砕する。
第4工程:第2工程の受け皿に残った蒸し汁を計量し、蒸し汁に新規の水を加えて100gとする。
第5工程:前記工程の液にクエン酸0.5を加える。
第6工程:前記第3工程で処理したものと第5工程の液を合わせて、85℃以上で10分加熱する。
第7工程:前記工程で処理した全部をフリーズドライで乾燥して、本発明の調理材を完成する。
【0040】
実施例3
<無脊椎軟体動物のイカを煮る>
以下の材料を用い、以下の方法で煮イカを調理した。
スルメイカ(生) 2はい
実施例1の調理液 4g
煮汁 酒 26g、砂糖 18g、
みりん 26g、しょうゆ 39g、
水 800ml
【0041】
第1工程:イカは皮をむいて、90℃以上の熱湯に10秒浸した後、取り出して冷水に浸す。
第2工程:煮汁に本発明の調理液4gを加えて、一度沸騰させる。
第3工程:前記の煮汁に第1工程のイカを入れ、90℃以上に加熱して20分煮る。
【0042】
<結果>
煮上がったイカは、噛むとスッと歯が通って柔らかかった。食味は、イカの旨みがあり良好であった。玉ネギの味、匂いは全く感じなかった。
【0043】
<第1工程の説明>
従来から用いられている技法で、湯通しと呼ばれている。
本実施例で湯通しを行うことは、無脊椎軟体動物を煮る際、表面のタンパク質を早く変性して、身肉中のうま味エキス分の流出を防ぐことを目的としている。
【0044】
<供試品>
イカの種類の中でも特に外套膜が発達して、煮ると硬くなるスルメイカを選択した。
【0045】
実施例4
<無脊椎軟体動物のエビ、ハマグリをゆでる>
以下の処方および方法でエビおよびハマグリをそれぞれゆでた。
処方
あまえび(生) 50g
ハマグリ(生) 50g
実施例1の調理液 4g
食塩 2g
水 800ml
【0046】
第1工程:あまえびは皮つき、ハマグリは殻から外し、80℃以上の熱湯(湯通し工程)に1〜2秒浸した後、取り出して冷水に浸す。
第2工程:水800mlに本発明の調理液4gと食塩2gを入れ、一度沸騰させる。
第3工程:前記に第1工程のあまえび、ハマグリを入れ、90℃以上に加熱して、あまえびは5分、ハマグリは10分ゆでる。
【0047】
<結果>
ゆで上がったエビはボソボソ感がなく柔らかく、ハマグリも柔らかった。エビ、ハマグリ共に食味は良好であり、玉ネギの味、匂いは全く感じなかった。
【0048】
以上、本発明の実施の形態および実施例を説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
実施例1においては、例えば、アリウム属植物を加熱する方法は、植物体に確実に熱が通って、酵素を失活することができるものであれば、ボイルなど他の方法によることも可能である。さらに、加熱に供するアリウム属植物は、複数組み合わせることができる。
あるいは、加える酸性水の量(水と有機酸の量)、抽出の加熱温度、時間は適宜選択できる。
また、濾液にアルコールを合わせた後、そのまま調理液として使用することも可能である。
さらに、アルコールの配合割合は、硫黄化合物を安定させることができる量であればよい。
その他、煮調理する際、本発明の調理液の使用量は状況に応じて選択できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、食品産業の分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロアリインと酸性化合物とアルコールとを含むタンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理液。
【請求項2】
酸性化合物が有機酸であり、アルコールがエタノールである請求項1に記載の調理液。
【請求項3】
アリウム属植物を加熱し、加熱した植物から酸性水を用いて抽出した抽出物とアルコールを含む、タンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理液。
【請求項4】
アリウム属植物が、玉葱、長葱、浅葱、分葱、韮、辣韮および大蒜からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の調理液。
【請求項5】
アリウム属植物の茎および/または葉を用いる請求項3または4に記載の調理液。
【請求項6】
アリウム属植物の茎および葉を切断することなく前記加熱に用いる請求項5に記載の調理液。
【請求項7】
アリウム属植物の加熱を、アリウム属植物に含まれる酵素を失活させるように行う、請求項3〜6のいずれか1項に記載の調理液。
【請求項8】
アリウム属植物の加熱を、50〜100℃の温度で、1〜30分加熱することで行う、請求項3〜7のいずれか1項に記載の調理液。
【請求項9】
酸性水が、pH2〜4である請求項3〜8のいずれか1項に記載の調理液。
【請求項10】
アルコールがエタノールである請求項3〜9のいずれか1項に記載の調理液。
【請求項11】
タンパク質を含む食品素材が、肉、魚、貝類、イカ、タコ、エビ、またはカニである請求項1〜10のいずれか1項に記載の調理液。
【請求項12】
アリウム属植物を加熱し、加熱した植物を、酸性水を用いた抽出に供し、得られた抽出物とアルコールとを混合することを含む、タンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理液の製造方法。
【請求項13】
加熱した植物を、切断し、その後に酸性水を用いた抽出に供する請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
シクロアリインと酸性化合物とを含むタンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理材。
【請求項15】
酸性化合物が有機酸である請求項14に記載の調理材。
【請求項16】
アリウム属植物を加熱し、加熱した植物を切断し、切断した植物に酸性水を添加し、次いで乾燥することを含む、タンパク質を含む食品素材を柔らかく調理するための調理材の製造方法。
【請求項17】
乾燥がフリーズドライである請求項16に記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−254817(P2006−254817A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78331(P2005−78331)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(505100894)
【Fターム(参考)】