説明

調質圧延方法および調質圧延装置、ならびに鋼帯の製造方法

【課題】荷重一定制御のような問題が生じず、また、高価なオンライン表面粗さ計がなくても、コイル内での変動があっても表面粗さを目標値に精度よく制御することができる鋼帯の調質圧延方法を提供すること。
【解決手段】以下の式で表される粗さ転写パラメータpが一定となるように、圧延荷重および/または出側張力を調整して調質圧延する。
p=α・p+β・f
ただし、pp:ピーク面圧(MPa)、f:先進率(%)、α、β:定数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調質圧延方法および調質圧延装置、ならびに鋼帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼帯の調質圧延は、冷間圧延プロセスにより目標厚さに仕上げられた冷延鋼帯を焼鈍した後、調質圧延機によって例えば伸び率1%程度の軽圧下を鋼帯に施すことによって行われる。また、場合によっては溶融亜鉛めっきや電気錫めっきなどの表面処理を焼鈍後の冷延鋼帯に施した後、調質圧延を施す場合もある。調質圧延を施すと鋼帯が一様に伸ばされることによって、鋼帯の形状が矯正されるとともに鋼帯の機械的性質(例えば降伏点伸び、引張り強さ、伸びなど)が調整される。したがって、調質圧延は鋼帯の形状を調整したり、あるいは鋼帯の機械的性質を調整したりする上で重要であり、さらに鋼帯の表面粗さなどの性状を調整することも調質圧延の重要な目的の一つである。
【0003】
このような調質圧延に用いられるワークロールの直径は、通常、300〜700mm程度であり、調質圧延に供される鋼帯の厚みが0.15〜3.0mm程度であることから、鋼帯を調質圧延する際には、鋼帯厚みに対して非常に大きな径を有するワークロールが用いられることとなる。また調質圧延は、ワークロールに潤滑材を供給せずに鋼帯を圧延するドライ圧延方式、あるいはワークロール表面への鋼帯材料の付着を防止するため、潤滑性の低い潤滑材をワークロールに供給して鋼帯を圧延する圧延方式が用いられる。つまり、鋼帯を調質圧延するときには、摩擦係数の低減を目的とした高潤滑性の潤滑材を用いないのが一般的であり、ワークロールと鋼帯表面との間の摩擦係数が非常に大きくなることが推察される。
【0004】
従来、鋼帯の表面粗さを目標範囲に制御することが重要である場合には、例えば特許文献1のような方法で平均面圧、すなわち、圧延荷重を決定した後、コイル内における圧延時の変動に対して常に該圧延荷重に一致するように、ロールギャップや圧延張力を変更していた。これを一般に荷重一定制御と呼ぶ。
【0005】
また、特許文献2には、オンラインの表面粗度測定装置により測定した調質圧延機出側の鋼板表面粗度と実績伸び率により、圧下力と出側張力を修正する方法が開示されている。特許文献3にも、調質圧延機出側の表面粗度測定装置により測定した表面粗度が所定の範囲に収まるように圧延荷重を自動制御する方法が開示されている。さらに、特許文献4には、表面粗さを連続的あるいは断続的に測定し、伸び率、入側張力、出側張力(湿式の場合はさらに摩擦係数)を修正する方法が開示されている。ここで、伸び率の修正とはすなわち圧下の修正とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−107701号公報
【特許文献2】特開平5−154526号公報
【特許文献3】特開平5−277533号公報
【特許文献4】特開2008−6453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来特許のうち、荷重一定制御では、圧延後の表面粗さを目標値に制御することが難しい。一つの要因はロールの磨耗によるものであり、通常、ロール表面に硬質クロムめっきを施すことにより、表面粗さの変動が抑えられている。しかし、コイル内での板厚変動や硬度変動に対し、荷重を一定としても表面粗さの変動が大きく目標値を外れることがあった。また、特許文献1に記載の方法では、ロール径が異なる場合に、鋼板表面粗さが目標値とならないことがある。
【0008】
特許文献2および3に開示の方法では、調質圧延機出側で連続的に表面粗さを測定することが前提となっており、高価なオンライン表面粗さ計を具備しなければならず、設備コストがかかる。
【0009】
特許文献4に開示の方法では断続的な測定でもよいとされており、必ずしもオンライン表面粗さ計は必要ないが、断続的な測定を行うにはラインを停止して検査台上でオペレータが測定するといった作業が必要となり、作業効率・生産効率が低い。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、荷重一定制御のような問題が生じず、また、高価なオンライン表面粗さ計がなくても、コイル内での変動があっても鋼帯の表面粗さを目標値に精度よく制御することができる調質圧延方法および調質圧延装置、ならびに鋼帯の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、調質圧延に関する実験や有限要素法(FEM)による計算も行い、調質圧延の粗さ転写に関し、支配的な影響を及ぼす因子について検討した。
【0012】
まず、調質圧延では、ロール径が非常に大きい上に、鋼帯の伸び率が1%程度であることから、圧延前後の鋼帯の板厚変化がロール径やロールバイトの圧延方向長さに比べて著しく小さい。したがって、面圧分布についてはHertzの弾性接触の式として知られている弾性円筒体が剛体平面に接触する場合の面圧分布と大きな差異がないことが分かった。したがって、そのピーク面圧が一つの重要な因子となる。
【0013】
特許文献1に記載の方法では上記のような知見を加味していないため、平均面圧を因子としており、そのため鋼板の表面粗さの精度は十分とは言い難い。調質圧延に供されるワークロール径は常に一定ではないから、因子を平均面圧からピーク面圧とすることによって、鋼板表面粗さを精度良く予測することができる。
【0014】
また、調質圧延の粗さ転写には、先進率も大きな影響を与えていることが判明した。すなわち、荷重を一定(すなわちピーク面圧を一定)とした場合でも、先進率が変わることによって表面粗さが変化することを新たに見出した。特許文献1に記載の方法では、このような先進率については考慮しておらず、鋼帯の表面粗さの精度は十分とは言い難い。
【0015】
先進率fは出側板速度V(mpm)とロール周速V(mpm)を用いて以下の(1)式で表される。通常、出側板速度は、圧延機出側に設置された板速計や、張力を制御する目的で調質圧延機出側に設置されたブライドルロールの回転速度などによって検出される。
f={(V/V)−1}×100[%] ・・・(1)
【0016】
さらに、本発明者は、調質圧延では伸び率が小さく摩擦係数が大きいため、ロールバイト内においてワークロールと鋼板表面はほぼ全面固着の状態となっているが、入口、出口付近では極僅かに相対滑りが発生しており、特に出口付近の相対滑りは粗さの転写を促進すること、および上記先進率がこの相対滑り量とよく相関することを見出した。出口付近の相対滑り量をオンラインで測定することは非常に困難であるが、このように先進率が相対滑り量とよく相関するため、先進率を二つ目の因子として活用することとした。
【0017】
特許文献2〜4ではオンラインでの表面粗さ測定を前提としているが、一般にオンライン表面粗さ計の出力は変動が大きく、制御に用いるためには移動平均などのフィルター処理が必要である。結果的にオンライン表面粗さ計で測定される鋼板表面粗さの変動は上述したロールの摩耗によるものが中心となり、そのような変動は本発明のように先進率をモニターすることにより修正することができる。
【0018】
特許文献4に示されているような断続的測定を含め、調質圧延機出側で鋼板表面粗さを測定することは、特にセットアップ精度が低くコイル先端から鋼板表面粗さを所定の範囲に収めることが困難な場合に有効であるが、これは主にロール径の影響が大きいことから本発明のようにピーク面圧を考慮することにより対処することができる。
【0019】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、以下の(1)〜(3)を提供する。
(1)冷間圧延および焼鈍後の鋼帯に対して調質圧延を行う調質圧延方法であって、以下の式で表される粗さ転写パラメータpが一定となるように、圧延荷重および/または出側張力を調整して調質圧延することを特徴とする調質圧延方法。
p=α・p+β・f
ただし、
pp:ピーク面圧(MPa)
f:先進率(%)
α、β:定数
である。
(2)冷間圧延および焼鈍後の鋼帯に対して調質圧延を行う調質圧延装置であって、鋼帯を圧延するワークロールを有する圧延スタンドと、入出側の張力を制御するためのブライドルロールと、以下の式で表される粗さ転写パラメータpが一定となるように、圧延荷重および/または出側張力を調整する制御部とを備えることを特徴とする調質圧延装置。
p=α・p+β・f
ただし、
pp:ピーク面圧(MPa)
f:先進率(%)
α、β:定数
である。
(3)素材を冷間圧延し、焼鈍した後、素材鋼帯を調質圧延して鋼帯を製造する鋼帯の製造方法であって、前記調質圧延は、以下の式で表される粗さ転写パラメータpが一定となるように、圧延荷重および/または出側張力を調整して行われることを特徴とする鋼帯の製造方法。
p=α・p+β・f
ただし、
pp:ピーク面圧(MPa)
f:先進率(%)
α、β:定数
である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ワークロール径の違いや、鋼帯の硬度変動、板厚変動に起因する荷重変動、張力変動があった場合にも、鋼帯粗さの変動を抑え目標値通りにすることができる。また、オンライン表面粗さ計のような高価な測定機を導入する必要がなく設備コストを低減することができ、また、断続的な粗さ測定も必要ないので作業性・生産性がよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る調質圧延方法を実施することが可能な調質圧延設備を模式的に示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本実施の形態においては、熱間圧延した素材を冷間圧延し、焼鈍した後、素材鋼帯を調質圧延し、所望の鋼帯を製造する。
【0023】
冷間圧延および焼鈍は常法に従って実施すればよく、条件等は特に限定されるものではない。また、鋼帯の材質には特に制限はなく、溶融めっき、電気めっきの施された鋼帯に対しても適用することができる。
【0024】
調質圧延は、ダル加工により表面粗さが平均粗さRaで0.5〜10μmに調整されたワークロールを備えた1以上の圧延スタンドからなる調質圧延設備を用いて行う。
【0025】
前記ワークロール表面への粗さの付与は、ワークロール表面にダル加工を施すことにより行うことができる。ここで、ダル加工の方法としては、ショットブラスト加工方式、放電ダル加工方式、レーザーダル加工方式、電子ビームダル加工方式等を用いることができる。さらに摩耗対策として、ダル加工後のロールにクロムメッキ加工をすることもある。
【0026】
上述した平均粗さRaは、「JIS B 0601(2001)」に基づき、表面の粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取りの部分の平均線の方向にx軸を、縦倍率の方向にy軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、以下の式(2)によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
【数1】

【0027】
なお、本発明における前記ワークロールの表面平均粗さRaの値としては、ワークロール表面の代表位置における上式(2)式で求めたRaの値としてもよく、また、ワークロール表面の複数位置において測定したRaの値を平均した値としてもよい。複数位置の平均値を用いる場合には、例えば、ワークロールの少なくとも鋼帯と接触する部分において、周方向に90°間隔で4点、幅方向に中央及び両端部で3点の計12点の平均値を用いるようにしてもよい。また、通常、評価長さ4mm、カットオフ0.8mmが用いられる。測定方向は軸方向(幅方向)とするとよい。
【0028】
また鋼帯表面平均粗さRaの値としても、例えば幅方向中央のような代表位置における上式(2)で求めたRaとしてもよく、また、鋼帯表面の複数位置において測定した値の平均としてもよい。
【0029】
ピーク面圧p(MPa)は、ロードセルにより測定する圧延荷重P(kN)と圧延される鋼帯の幅W(mm)を用いて、以下の(3)式により求めることができる。
【数2】

ただし、
π:円周率
R:ワークロール半径(mm)
ν:ポアソン比(ワークロール)
:ヤング率(ワークロール)(GPa)
である。
【0030】
また、先進率fを以下の(4)式で求める。
f={(V/V)−1}×100[%] ・・・(4)
ただし、
:出側板速度(mpm)
:圧延速度(ワークロール周速度)(mpm)
である。出側板速度(鋼帯速度)は、圧延機出側のブライドルロールの回転速度により、あるいは、板速計を設置することにより実測することができる。また、ワークロール周速度は、駆動モータ回転数と減速機のギア比からワークロール回転数を算出し、ワークロール外周長から求めればよい。
【0031】
以上により求めたピーク面圧と先進率から、以下の(5)式に示す一次式により粗さ転写パラメータpを計算することができる。
p=α・p+β・f ・・・(5)
なお、α、βは粗さパラメータとして与えられる定数である。
圧延中、実測荷重と実測先進率をもとに、ある制御周期で粗さ転写パラメータpを計算し、これが一定となるように、圧延荷重と出側張力を変更するように制御することができる。
【0032】
粗さ転写パラメータpの変動量が小さい場合、例えば目安として変動量が5%以下の場合には出側張力により制御することが望ましい。例えばpが大きくなった場合、出側張力を低減すると先進率fが小さくなってpの値が修正される。出側張力の変更では先進率fの変化が大きく、ピーク面圧pはほとんど変化しない。
【0033】
パラメータpが大きく急変し上記の目安の変動量を超えた場合には、出側張力の変更を停止し(出側張力をその時点の値で固定し)、パラメータpが目標値に戻るまで荷重を変更する。例えばpが非常に大きくなった場合、荷重を下げるとp、fとも小さくなってpの値が修正される。
【0034】
粗さパラメータ(定数)α、βは、鋼種、板厚、ロール表面粗さ、ロール加工方法などにより予め決定しておくことが望ましい。さらに、実測データを用いて常に更新されることが好ましい。例えば、圧延荷重、出側張力を変化させた調質圧延実験を行ない、鋼帯の粗さ転写率(圧延後鋼板の表面粗さ/ロール表面粗さ)を測定し、該転写率とピーク面圧p、先進率fとの相関を調査する(重回帰分析する)ことにより、α、βを求めることができる。α、βを鋼種(変形抵抗値など)、板厚、ロール使用距離などの操業データによる関数として求める方法も用いることができるのは言うまでもない。
【0035】
また、粗さ転写パラメータpの目標値を予め設定しておき、その目標値となるように制御しても良いし、圧延中のある段階でのパラメータ値をロックオン値として、この値を目標として制御しても良い。
【0036】
図1は、本発明の一実施形態に係る調質圧延方法を実施することが可能な調質圧延設備を模式的に示す概略構成図である。図1に示す調質圧延設備は、表面がダル加工されたワークロール2を有する圧延スタンド3、入出側の張力を制御するためのブライドルロール4、粗さ転写パラメータpを制御する制御部5を備えている。図1において、制御部5は、その制御の内容をブロックで示している。また、図1において、鋼帯は左方から右方に圧延され、左方に存在するコイル払い出し設備、および、右方に存在するコイル巻きとり設備などの関連設備は省略してある。
【0037】
制御部5において、粗さ転写パラメータpは、ロードセル6の荷重検出値より(3)式で求められるピーク面圧pと、出側ブライドル速度とロール速度(ワークロール周速度)から(4)式で求められる先進率fに基づき、(5)式により時々刻々求められる。求められた粗さ転写パラメータpは目標値との偏差Δpに基づき、一般的なPI制御により油圧式の圧下シリンダ7による荷重あるいは出側張力を変更することで目標値に調整することができる。
【0038】
PI制御のゲインは、テスト通板による調整のみで決定することもできるし、図1に示したように、予め予備通板などで決定した影響係数ゲインを設けてもよい。
【0039】
図1では圧延スタンド3は4段式のスタンドとして表記されているが、本発明は4段式の場合に限定するものではなく、2段式、6段式あるいはクラスタ型の圧延スタンドでも同様の調質圧延効果を奏する。
【0040】
また、本発明が適用される調質圧延設備は、表面がダル加工された上下ワークロール2を備えた少なくとも1台の圧延スタンドを有するものであれば良く、必要性と設置空間の許す範囲に応じて前後に圧延スタンドの台数を増やすことに制限はない。また、これら増やされた圧延スタンドについても、必要に応じて本発明を適用できることは言うまでもない。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
図1に示した調質圧延機により圧延を行った。ここでは、ワークロールは上下とも直径が600mm、胴長1400mm、バックアップロールは上下とも直径が2000mm、胴長1400mmのものを用いた。ワークロールの材質は5%クロム鍛鋼とした。ワークロール表面をショットブラスト法により表面平均粗さRa=2.5μmに仕上げた。調質圧延を行う鋼帯として板厚0.8mm、板幅1200mmで、表面の幅方向に測定した平均粗さRaが0.3〜0.5μm、降伏応力200MPaの低炭素鋼を用いた。圧延速度(ワークロールの外周速度)Vを200mpmで一定とした。図中、圧延機出側ブライドルロール(四本中左上)の回転速度により鋼帯速度(板速度)Vを実測できるようになっている。設定値は、圧延荷重4kN/mm、伸び率1%、前方、後方張力は98MPaとした。目標粗さは、平均粗さRaで1.2±0.2μmとした。
【0042】
上記鋼帯を、特許文献1に記載の従来技術と、本発明の方法により、10kmずつ圧延を行い、100mピッチで100点の圧延後鋼板粗さを測定することにより、目標粗さ範囲内に収まる確率を調査した。
【0043】
従来技術では、張力一定とし、荷重が目標値となるようにして鋼帯の表面粗さを制御した。目標粗さ範囲内に収まったのは、85%であった。一方、本発明の方法では、まず予備圧延を実施し、圧延荷重を設定値の+5%、+3%、±0%、−3%、−5%の5条件、前方張力(出側張力)についても同様の5条件で変化させ、合計25条件について先進率f[%]、鋼帯の粗さ転写率(圧延後鋼板粗さ/ロール粗さ)を測定した。ワークロールのヤング率を205.8GPa、ポアソン比を0.3とし、上記(3)式に基づきピーク面圧[MPa]を計算した。各条件と測定、計算結果を表1に示す。
【0044】
上記(5)式に基づく最小二乗法により鋼帯の粗さ転写率変化に対するpとfの寄与率(傾き)を求めてα=0.000707、β=2と決定し、上記予備圧延で最も目標の粗さに近かった条件の値を入力して粗さ転写パラメータp=0.9を目標値として設定した。表1には上記α、βの値を用いた、各条件でのp値も示してある。
【0045】
粗さ転写パラメータpの変動に対し、変動が3%より小さい場合は前方張力(出側張力)を変更した。変動が3%を超える急激な変動の場合には、前方張力(出側張力)は変更せずに荷重を変更することにより圧延荷重を変更した。表1の結果より、図1の影響係数ゲインは、出側張力変更の場合367[MPa]、圧延荷重変更の場合7.93[kN/mm]である。すなわち、図1における制御の閉ループにおいて、p値の目標に対する誤差1.0に対し、前方張力であれば367[MPa]、圧延荷重であれば7.93[kN/mm]変更するようにPI制御器に入力される。その結果、全測定点において目標粗さ範囲内となった。
【0046】
以上より、本発明に係る方法を用いることで、調質圧延により製造される鋼板表面粗さを目標粗さ範囲内に制御できることが確認された。このように、本発明の方法を用いることにより歩留まりが向上するので、工業上有用な効果をもたらすことが期待できる。
【0047】
【表1】

【符号の説明】
【0048】
1 鋼帯
2 ワークロール
3 圧延スタンド
4 ブライドルロール
5 制御部
6 ロードセル
7 圧下シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延および焼鈍後の鋼帯に対して調質圧延を行う調質圧延方法であって、以下の式で表される粗さ転写パラメータpが一定となるように、圧延荷重および/または出側張力を調整して調質圧延することを特徴とする調質圧延方法。
p=α・p+β・f
ただし、
pp:ピーク面圧(MPa)
f:先進率(%)
α、β:定数
である。
【請求項2】
冷間圧延および焼鈍後の鋼帯に対して調質圧延を行う調質圧延装置であって、鋼帯を圧延するワークロールを有する圧延スタンドと、入出側の張力を制御するためのブライドルロールと、以下の式で表される粗さ転写パラメータpが一定となるように、圧延荷重および/または出側張力を調整する制御部とを備えることを特徴とする調質圧延装置。
p=α・p+β・f
ただし、
pp:ピーク面圧(MPa)
f:先進率(%)
α、β:定数
である。
【請求項3】
素材を冷間圧延し、焼鈍した後、素材鋼帯を調質圧延して鋼帯を製造する鋼帯の製造方法であって、前記調質圧延は、以下の式で表される粗さ転写パラメータpが一定となるように、圧延荷重および/または出側張力を調整して行われることを特徴とする鋼帯の製造方法。
p=α・p+β・f
ただし、
pp:ピーク面圧(MPa)
f:先進率(%)
α、β:定数
である。


【図1】
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【公開番号】特開2012−171008(P2012−171008A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38242(P2011−38242)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】