識別マーク付形鋼の製造方法および識別マーク付鋼矢板
【課題】圧延において形鋼へ識別マークを付す際に、刻設マークが形成された部分の圧延ロールの周速度と、この圧延ロールとの接触位置における形鋼の通過速度と、に速度差が生じる場合であっても、所定寸法の識別マークを形成することができる識別マーク付形鋼の製造方法を提供する。
【解決手段】圧延ロールに形成された刻設マークを形鋼に転写して、前記刻設マークと同形状の転写マークを形成し、この転写マークの圧延方向端部を圧延ロールで押圧することで、所定形状の前記識別マークを形成する構成とされており、刻設マークが形成された圧延ロールの周速度と、一対の圧延ロール間を通過する前記形鋼の通過速度と、の速度差を求め、この速度差から前記転写マークの圧延方向の変形量を予め算出し、前記刻設マークの前記圧延ロール周方向長さを、前記識別マークの前記圧延方向長さに対して前記変形量分だけ増加させておくことを特徴とする。
【解決手段】圧延ロールに形成された刻設マークを形鋼に転写して、前記刻設マークと同形状の転写マークを形成し、この転写マークの圧延方向端部を圧延ロールで押圧することで、所定形状の前記識別マークを形成する構成とされており、刻設マークが形成された圧延ロールの周速度と、一対の圧延ロール間を通過する前記形鋼の通過速度と、の速度差を求め、この速度差から前記転写マークの圧延方向の変形量を予め算出し、前記刻設マークの前記圧延ロール周方向長さを、前記識別マークの前記圧延方向長さに対して前記変形量分だけ増加させておくことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別マークが付与された識別マーク付形鋼の製造方法および識別マーク付鋼矢板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
形鋼製品には、製造者を特定するために、必要に応じてその表面に識別マークを付すことがある。
そこで、例えば特許文献1,2には、H形鋼の圧延時に、圧延ロールに形成された刻設マークをH形鋼のウエブ部あるいはフランジ部に転写することにより、識別マークを付す方法が開示されている。
また、特許文献3には、鉄枕木用形鋼などの溝型形鋼において、竪ロールを使用して製品の肩部に識別マークを転写する方法が開示されている。
【0003】
上述の特許文献1,2に記載された発明では、H形鋼を対象としていることから、ウエブ部を圧延する一対の水平ロールの周速度と水平ロール間を通過するH形鋼の通過速度が略一致することになる。同様に、フランジ部を圧延する一対の垂直ロールの周速度と垂直ロール間を通過するH形鋼の通過速度が略一致することになる。このため、水平ロールや垂直ロールに形成された刻設マークが、そのままの形状でH形鋼のウエブ部及びフランジ部に転写されることになり、比較的簡単に鮮明な識別マークを付すことが可能であった。
【0004】
一方、特許文献3に記載された発明では、鉄枕木用形鋼の肩部に識別マークを付している。詳述すると、鉄枕木用形鋼の溝底部に相当するウエブ部の溝外面には軌条が配設されるため、ウエブ部に凹凸を付すことができず、また溝側壁に相当するフランジ部は敷石に埋設されてしまうため、施工後も視認できるように鉄枕木用形鋼の肩部に識別マークを付しているのである。ここで、特許文献3に記載された発明では、竪ロールを利用して鉄枕木用形鋼の肩部に識別マークを形成しているが、肩部を押圧する竪ロールの周速度と竪ロール間を通過する鉄枕木用形鋼の通過速度が略一致することになるため、やはり、比較的簡単に鮮明な識別マークを付すことが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−051902号公報
【特許文献2】特開2003−285102号公報
【特許文献3】特開昭60−040602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、土木工事等で使用される鋼矢板(シートパイル)は、断面U字状の溝形をなしており、溝底部に相当するウエブ部と、溝側壁に相当するフランジ部と、鋼矢板同士を連結する連結部と、を備えている。このような鋼矢板においては、従来、特に強いニーズもなく、識別マークを付すことはあまり実施されていなかった。しかし、近年では、海外での使用量が増加してきており、鋼矢板の製造者を確認することができるように識別マークを付すことが求められている。
【0007】
この鋼矢板においては、上述の鉄枕木用形鋼のように使用状況に応じた制約がないことから、ウエブ部に識別マークを付すことが可能である。また、鋼矢板を圧延する場合においては、一対の水平ロールによってウエブ部、フランジ部、連結部の形状を成形することが可能となる。
【0008】
ここで、鋼矢板等を圧延する一対の水平ロールにおいては、前記ウエブ部を圧延する部分におけるロール径が互いに異なるため、一方の圧延ロールのウエブ部を圧延する部分における周速度と、他方の圧延ロールのウエブ部を圧延する部分における周速度と、が互いに異なることになる。これにより、一対の水平ロール間を通過する鋼矢板の通過速度と、これら水平ロールの周速度と、の間に速度差が生じることになる。このため、水平ロールに形成された識別マークを、そのままの形状でウエブ部に転写することができず、鮮明な識別マークを容易に形成することができなかった。
【0009】
なお、上述のような問題は、鋼矢板に限定されるものではなく、鉄枕木や溝形鋼などの形鋼の通過速度と、刻設マークが形成された部分の圧延ロールの周速度と、の間に速度差が生じる場合に生じることになる。
また、ロールの周速度と鋼矢板の速度を合わせるように、例えば、凹側のロール径を小さくするなどの方法がとられていたが、この場合、ロールの使用寿命が短くなり、高コストとなっていた。
【0010】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、鋼矢板等の形鋼の圧延において形鋼へ識別マークを付す際に、刻設マークが形成された部分の圧延ロールの周速度と、この圧延ロールとの接触位置における形鋼の通過速度と、に速度差が生じる場合であっても、所定寸法の識別マークを形成することができる識別マーク付形鋼の製造方法、及び、鮮明な識別マークが付された識別マーク付鋼矢板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る識別マーク付形鋼の製造方法は、少なくとも一対の圧延ロールによって形鋼の圧延を行う際に、前記形鋼に識別マークを形成する識別マーク付形鋼の製造方法であって、前記圧延ロールに形成された刻設マークを前記形鋼に転写して、前記形鋼に前記刻設マークと同形状の転写マークを形成し、この転写マークの圧延方向端部を前記圧延ロールで押圧することで、所定形状の前記識別マークを形成する構成とされており、前記刻設マークが形成された圧延ロールのうち前記刻設マークが形成された部分の周速度と、一対の圧延ロール間を通過する前記形鋼の通過速度と、の速度差を求め、この速度差から前記転写マークの圧延方向の変形量を予め算出し、前記刻設マークの前記圧延ロール周方向長さを、前記識別マークの前記圧延方向長さに対して前記変形量分だけ増加させておくことを特徴としている。
【0012】
この構成の識別マーク付形鋼の製造方法によれば、前記圧延ロールに形成された刻設マークを前記形鋼に転写して、前記刻設マークと略同形状の転写マークを形成し、前記転写マークの圧延方向端部を前記圧延ロールで押圧することによって、前記識別マークを形成する構成としているので、刻設マークが形成された圧延ロール周速度と形鋼の通過速度との間に速度差が生じた場合であっても、所定形状の識別マークを形成することが可能となる。
【0013】
また、刻設マークが形成された圧延ロールの周速度と一対の圧延ロール間を通過する前記形鋼の通過速度との速度差を求め、この速度差による転写マークの変形量を予め算出しておき、前記刻設マークの前記圧延ロール周方向長さを、前記識別マークの前記圧延方向長さに対して、前記変形量分だけ増加させているので、転写マークを前記圧延ロールによって変形させることにより、所定寸法の識別マークを形成することが可能となる。
よって、刻設マークが形成された圧延ロールの周速度と形鋼の通過速度との間に速度差が生じる場合であっても、鮮明な識別マークを形成することができる。これにより、識別マークの視認性に優れた識別マーク付形鋼を製出することができる。
【0014】
ここで、一対の前記圧延ロールのうち、前記形鋼の前記通過速度との速度差が小さい周速度となる前記圧延ロールに前記刻設マークを形成することが好ましい。
前記形鋼を挟持して押圧する前記一対の圧延ロールのうち、形鋼の前記通過速度との速度差が小さい圧延ロールの方が、形鋼に転写された転写マークの変形量が小さくなる。よって、刻設マークを識別マークに対して大きく変形させる必要がなくなり、鮮明な識別マークを比較的容易に形成することが可能となる。
【0015】
また、一対の前記圧延ロールのうち、前記形鋼の前記通過速度よりも遅い周速度となる前記圧延ロールに前記刻設マークを形成することが好ましい。
刻設マークが形成された圧延ロールの周速度が、前記形鋼の前記通過速度よりも速い場合には、形鋼に転写された転写マークに対して圧延ロールが衝突することになり、転写マークが、圧延ロール(刻設マーク)によって削り取られるように変形することになる。一方、刻設マークが形成された圧延ロールの周速度が、前記形鋼の前記通過速度よりも遅い場合には、圧延ロールに対して形鋼に転写された転写マークが衝突していくため、転写マークは圧延ロール(刻設マーク)によって押し潰されるように変形することになる。
【0016】
これらの転写マークの変形状態を比較すると、刻設マークが形成された圧延ロールの周速度が前記形鋼の前記通過速度よりも遅い場合の方が、転写マークの形状の変化が少ない傾向にある。よって、一対の前記圧延ロールのうち、前記形鋼の前記通過速度よりも遅い周速度となる前記圧延ロールに前記刻設マークを形成することにより、鮮明な識別マークを確実に付すことが可能となるのである。
【0017】
また、本発明に係る識別マーク付鋼矢板は、延在方向に垂直な断面において、U字溝形状をなし、その溝底部に相当するウエブ部の溝外面側に識別マークが形成されていることを特徴としている。
一対の圧延ロールによってウエブ部を挟持して圧延を実施する場合には、前記ウエブ部の溝外面側を押圧する部分のロール径が、前記ウエブ部の溝内面側を押圧する部分のロール径よりも小さくなり、その周速度が遅くなる傾向にある。このため、ウエブ部の溝外面側に識別マークを形成することにより、変形が少なく鮮明な識別マークを形成することが可能となる。
【0018】
ここで、前記識別マークは、前記ウエブ部の表面に対して傾斜する傾斜部と、この傾斜部に連設され、前記ウエブ部の表面に対して平行に延在する水平部と、を備えていることが好ましい。
この場合、水平部が所定形状を成すことにより、識別マークが鮮明に視認されることになる。また、識別マークに、前記ウエブ部の表面に対して傾斜する傾斜部が設けられているので、識別マーク(鋼矢板)の意匠性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明によれば、鋼矢板等の形鋼の圧延において形鋼へ識別マークを付す際に、刻設マークが形成された部分の圧延ロールの周速度と、この圧延ロールとの接触位置における形鋼の通過速度と、に速度差が生じる場合であっても、所定寸法の識別マークを形成することができる識別マーク付形鋼の製造方法、及び、鮮明な識別マークが付された識別マーク付鋼矢板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態である識別マーク付鋼矢板の断面説明図である。
【図2】図1に示すX方向矢視図である。
【図3】図2に示す識別マークの拡大説明図である。
【図4】図3おけるY−Y断面図である。
【図5】図1に示す識別マーク付鋼矢板を圧延する圧延ロールユニットの説明図である。
【図6】図5に示す圧延ロールユニットの上側ロールの説明図である。
【図7】図5に示す圧延ロールユニットの下側ロールの説明図である。
【図8】図7に示す下側ロールに形成された刻設マークの拡大説明図である。
【図9】図8に示す刻設マークの拡大断面説明図である。
【図10】本発明の一実施形態である識別マーク付形鋼の製造方法を示すフロー図である。
【図11】転写マークから識別マークへの変形状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態である識別マーク付形鋼の製造方法および識別マーク付鋼矢板について、添付した図面を参照して説明する。
本実施形態である識別マーク付形鋼の製造方法は、土木工事等に使用される鋼矢板(シートパイル)に、製造者等の情報を示す識別マークを付すものである。
【0022】
まず、図1から図4を用いて、本実施形態である識別マーク付形鋼の製造方法によって製造される識別マーク付鋼矢板10について説明する。
この識別マーク付鋼矢板10は、図1に示すように、延在方向に直交する断面において、U字溝形状をなしており、このU字溝の溝底部に相当するウエブ部11と、U字溝の溝側壁に相当するフランジ部12と、このフランジ部12の突端側(図1において上端側)に形成され、鋼矢板10同士を連結する連結部13と、を備えている。そして、ウエブ部11の溝外面11a側(図1において下面側)には、図2に示すように、製造者を示す識別マーク20が設けられている。
【0023】
ここで、上述の識別マーク20は、図4に示すように、ウエブ部11の表面(溝外面11a)から外部に向けて突出するように設けられている。すなわち、本実施形態では、識別マーク20が陽刻されているのである。なお、この識別マーク20は、ウエブ部11の圧延方向Sに一定の間隔で複数形成されている。
【0024】
この識別マーク20は、図3及び図4に示すように、ウエブ部11の表面(溝外面11a)に対して傾斜する傾斜部21と、この傾斜部21に連設され、ウエブ部11の表面(溝外面11a)に対して略平行に延在する水平部22と、を備えている。そして、この水平部22の形状が、所定寸法及び所定形状となるように、識別マーク20が形成されているのである。
【0025】
次に、このような識別マーク20を付す圧延ロールユニット30について、図5から図9を用いて説明する。
上述の識別マーク付鋼矢板10は、図5に示す圧延ロールユニット30による圧延時に、識別マーク20が付されることによって製造される。
【0026】
図5に示す圧延ロールユニット30は、一対の圧延ロール(上側ロール31及び下側ロール36)を備えている。
上側ロール31は、軸線O1を中心にして回動する構成とされており、図6に示すように、その外周面に、図1に示す鋼矢板10の溝内面11b(図1において上面)側形状に対応する成形凸部32及び一対の成形凹部33,33が形成されている。
下側ロール36は、軸線O2を中心にして回動する構成とされており、図7に示すように、その外周面に、図1に示す鋼矢板10の溝外面11a(図1において下面)側形状に対応する成形凹部37及び一対の成形凸部38,38が形成されている。
【0027】
軸線O1と軸線O2とは、図5に示すように互いに平行に配置されている。また、鋼矢板10のウエブ部11の溝内面11bに上側ロール31の成形凸部32が、ウエブ部11の溝外面11aに下側ロール36の成形凹部37が、それぞれ接触することになる。ここで、上側ロール31の軸線O1から成形凸部32の先端(ウエブ部11の溝内面11bに接触する部位)までの距離L1/2と、下側ロール36の軸線O2から成形凹部37の底部(ウエブ部11の溝外面11aに接触する部位)までの距離L2/2とは、L1>L2の関係とされている。すなわち、ウエブ部11に接触する部分においては、上側ロール31のロール径が下側ロール36のロール径よりも大きくなるように設定されているのである。
【0028】
このため、ウエブ部11が接触する部分においては、上側ロール31の周速度VR1が、下側ロール36の周速度VR2よりも速くなるのである。これにより、上側ロール31と下側ロール36との間を通過する鋼矢板10の通過速度VSは、上側ロール31の周速度VR1よりも遅く、かつ、下側ロール36の周速度VR2よりも速くなる。すなわち、VR2<VS<VR1の関係となっているのである。
また、本実施形態では、上側ロール31の周速度VR1と鋼矢板10の通過速度VSとの速度差ΔV1は、下側ロール36の周速度VR2と鋼矢板10の通過速度VSとの速度差ΔV2よりも大きくなるように設定されている。すなわち、ΔV2<ΔV1の関係となっているのである。
【0029】
そして、本実施形態においては、下側ロール36の成形凹部37の底面に、鋼矢板10のウエブ部11の溝外面11a側に識別マーク20を付すための刻設マーク40が形成されている。すなわち、一対の圧延ロール(上側ロール31及び下側ロール36)のうち、鋼矢板10の通過速度VSとの速度差がより小さく、かつ、鋼矢板10の通過速度VSよりも遅い周速度(VR2)となる下側ロール36に、刻設マーク40が配設されているのである。
【0030】
この刻設マーク40の形状は、上述した識別マーク20に対応して設計されており、図8に示すように、識別マーク20の形状から下側ロール36の周方向長さがΔLだけ長くなるように、変形させられた形状とされている。
【0031】
ここで、図9に示すように、刻設マーク40の周方向端部は面取加工されており、回転方向R前方側の面取部41の傾斜角度を大きくしている。例えば、回転方向R前方側の面取部41の傾斜角度(軸線O2に直交する断面においてロール径方向と面取部41とがなす角度)α1が、回転方向R後方側の面取部42の傾斜角度(軸線O2に直交する断面においてロール径方向と面取部42とがなす角度)α2よりも大きくなるように設定することが好ましい。
【0032】
次に、この圧延ロールユニット30を用いた識別マーク付鋼矢板の製造方法について、図10及び図11を用いて説明する。
図8に示す刻設マーク40の形状は、次のようにして設計されることになる。
まず、刻設マーク40を形成する一対の圧延ロール(上側ロール31及び下側ロール36)の周速度VR1、VR2と、一対の圧延ロール(上側ロール31及び下側ロール36)間を通過する鋼矢板10の通過速度VSと、を比較し、刻設マーク40を形成する圧延ロールを選択する。本実施形態では、鋼矢板10の通過速度VSとの速度差がより小さく、かつ、鋼矢板10の通過速度VSよりも遅い周速度(VR2)となる下側ロール36が選択されることになる。
【0033】
次に、この下側ロール36の周速度VR2と鋼矢板10の通過速度VSとの速度差ΔV2を求める。
そして、刻設マーク40をそのままの形状で鋼矢板10のウエブ部11に転写した転写マーク50に対して、下側ロール36と鋼矢板10との速度差ΔV2による変形量を算出する。すなわち、下側ロール36の周速度VR2が鋼矢板10の通過速度VSよりも遅いことから、刻設マーク40の回転方向R前方側部分に、ウエブ部11に転写された転写マーク50が衝突し、転写マーク50が圧延方向Sに変形するのである。なお、この変形量は、下側ロール36の成形凹部37におけるロール径、刻設マーク40の深さ、速度差ΔV2等から算出されることになる。
【0034】
また、刻設マーク40の圧延ロール周方向長さを、識別マーク20の圧延方向S長さに対して、前記変形量分だけ増加させるのである。すなわち、算出された変形量が、上述のΔLに相当するように、刻設マーク40を設計しておくのである。
【0035】
そして、圧延時において、下側ロール36に形成された刻設マーク40を、通過する鋼矢板10のウエブ部11の溝外面11aに転写して、図11に示すように、刻設マーク40と同形状の転写マーク50を形成し、この転写マーク50の圧延方向S前方側を下側ロール36の刻設マーク40の回転方向R前方側部分で押圧することで変形し、傾斜部21と水平部22とを備えた識別マーク20が形成されることになる。
なお、この圧延の前工程において、ウエブ部11のうち識別マーク20を形成する部分の肉厚を厚く形成しておくことが好ましい。
【0036】
以上のような構成とされた本実施形態である識別マーク付形鋼(識別マーク付鋼矢板10)の製造方法によれば、下側ロール36に形成された刻設マーク40を鋼矢板10に転写して、刻設マーク40と同形状の転写マーク50を形成し、この転写マーク50の圧延方向S端部を下側ロール36(刻設マーク40の回転方向R前方側部分)で押圧することで、転写マーク50を変形させて所定形状の識別マーク20を形成する構成としているので、刻設マーク40が形成された下側ロール36の周速度VR2と、鋼矢板10の通過速度VSと、の間に速度差ΔV2が生じる場合であっても、所定形状の識別マーク20を形成することが可能となる。
【0037】
また、本実施形態では、刻設マーク40が形成された下側ロール36の周速度VR2と鋼矢板10の通過速度VSとの速度差ΔV2を求め、この速度差ΔV2により下側ロール36(刻設マーク40の回転方向R前方側部分)が転写マーク50を変形させる変形量を算出しておき、刻設マーク40の下側ロール36の周方向長さを、識別マーク20の圧延方向S長さに対して変形量分だけ増加させているので、転写マーク50を下側ロール36(刻設マーク40の回転方向R前方側部分)によって変形させることによって、所定寸法の識別マーク20を形成することが可能となる。
【0038】
また、一対の圧延ロール(上側ロール31及び下側ロール36)のうち、鋼矢板10の通過速度VSとの速度差が小さい周速度VR2となる下側ロール36に刻設マーク40を形成しているので、転写マーク50の変形量が抑制されることになり、鮮明な識別マーク20を比較的容易に形成することが可能となる。さらに、刻設マーク40を、識別マーク20の形状から大きく変形させる必要がなくなる。
【0039】
また、一対の圧延ロール(上側ロール31及び下側ロール36)のうち、鋼矢板10の通過速度VSよりも遅い周速度VR2となる下側ロール36に刻設マーク40を形成しているので、下側ロール36(刻設マーク40の回転方向R前方側部分)に対して鋼矢板10に転写された転写マーク50が衝突していくため、転写マーク50は下側ロール36(刻設マーク40の回転方向R前方側部分)によって押し潰されるように変形することになる。よって、転写マーク50の形状の変化が少なくなり、より鮮明な識別マーク20を付すことが可能となる。
【0040】
さらに、上述のように、鋼矢板10の通過速度VSよりも周速度が遅く、かつ、速度差が相対的に小さくなる下側ロール36によって、ウエブ部11の溝外面11aに識別マーク20が付されることになるため、変形が少なく鮮明な識別マーク20を形成することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態では、識別マーク20が、ウエブ部11の表面(溝外面11a)に対して傾斜する傾斜部21と、この傾斜部21に連設され、ウエブ部11の表面(溝外面11a)に対して略平行に延在する水平部22と、を備えているので、水平部22が所定形状をなすことによって識別マーク20を確実に視認することが可能となる。また、識別マーク20の圧延方向一端部に傾斜部21が設けられているので、この識別マーク20によって鋼矢板10の意匠性の向上を図ることができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、圧延の前工程において、ウエブ部11の識別マーク20を形成する部分の肉厚を厚く形成しているので、識別マーク20の突出高さが確保されることになり、識別マーク20の視認性をさらに向上させることができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態である識別マーク付形鋼の製造方法および識別マーク付鋼矢板について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、図1に示す断面形状をなす鋼矢板に識別マークを付すものとして説明したが、これに限定されることはなく、圧延を実施する際において圧延ロールの周速度と形鋼の通過速度との間に速度が生じる場合であれば、本発明に係る識別マーク付形鋼の製造方法を適用することができる。
また、識別マークは、図示された形状のものに限定されることはなく、任意の形状とすることができる。
【実施例】
【0044】
本発明の効果を確認すべく行った確認実験について説明する。
本実施形態で図示したような圧延ロールユニットを用いて識別マークを形成した。実施例1、2では、鋼矢板のウエブ部の溝外面に識別マークを形成した。ここで、下側ロールの成形凹部におけるロール径L2を782mmとした。また、刻設マークの深さを実施例1では0.5mm、実施例2では1.0mmとした。そして、成形凹部における周速度VR2を2021mm/sとし、鋼矢板の通過速度VSを2284mm/sとした。
【0045】
また、実施例3、4では、鋼矢板のウエブ部の溝内面に識別マークを形成した。ここで、上側ロールの成形凸部におけるロール径L1を1087mmとした。また、刻設マークの深さを実施例3では0.5mm、実施例4では1.0mmとした。そして、成形凸部における周速度VR1を2808mm/sとし、鋼矢板の通過速度VSを2284mm/sとした。
【0046】
これらのデータを元に、転写マークの変形量を算出した。また、実際に識別マークを形成し、識別マークの形状を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
この表1の結果から、周速度と通過速度との速度差が大きく、かつ、鋼矢板の通過速度よりもロールの周速度が速い上側ロールに刻設マークを形成した実施例3,4では、算出された変形量が5.3mm,7.6mmと大きく、実際に形成された識別マークも大きく変形しているのが確認された。
【0049】
一方、周速度と通過速度との速度差が小さく、かつ、鋼矢板の通過速度よりもロールの周速度が遅い下側ロールに刻設マークを形成した実施例1,2では、算出された変形量が2.3mm,3.2mmと比較的小さく、実際に形成された識別マークも大きく変形しておらず、視認性の高い識別マークを形成できることが確認された。
【0050】
また、実施例1と実施例2、実施例3と実施例4とを比較すると、刻設マークの深さを深くした方が識別マークの突出高さが高くなるが、変形量は大きくなる傾向にある。よって、識別マークの視認性を考慮して、刻設マークの深さを設定することが好ましいことが確認された。
【符号の説明】
【0051】
10 識別マーク付鋼矢板(識別マーク付形鋼)
11 ウエブ部
11a 溝外面
20 識別マーク
21 傾斜部
22 水平部
30 圧延ユニット(一対の圧延ロール)
31 上側ロール(圧延ロール)
36 下側ロール(圧延ロール)
40 刻設マーク
50 転写マーク
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別マークが付与された識別マーク付形鋼の製造方法および識別マーク付鋼矢板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
形鋼製品には、製造者を特定するために、必要に応じてその表面に識別マークを付すことがある。
そこで、例えば特許文献1,2には、H形鋼の圧延時に、圧延ロールに形成された刻設マークをH形鋼のウエブ部あるいはフランジ部に転写することにより、識別マークを付す方法が開示されている。
また、特許文献3には、鉄枕木用形鋼などの溝型形鋼において、竪ロールを使用して製品の肩部に識別マークを転写する方法が開示されている。
【0003】
上述の特許文献1,2に記載された発明では、H形鋼を対象としていることから、ウエブ部を圧延する一対の水平ロールの周速度と水平ロール間を通過するH形鋼の通過速度が略一致することになる。同様に、フランジ部を圧延する一対の垂直ロールの周速度と垂直ロール間を通過するH形鋼の通過速度が略一致することになる。このため、水平ロールや垂直ロールに形成された刻設マークが、そのままの形状でH形鋼のウエブ部及びフランジ部に転写されることになり、比較的簡単に鮮明な識別マークを付すことが可能であった。
【0004】
一方、特許文献3に記載された発明では、鉄枕木用形鋼の肩部に識別マークを付している。詳述すると、鉄枕木用形鋼の溝底部に相当するウエブ部の溝外面には軌条が配設されるため、ウエブ部に凹凸を付すことができず、また溝側壁に相当するフランジ部は敷石に埋設されてしまうため、施工後も視認できるように鉄枕木用形鋼の肩部に識別マークを付しているのである。ここで、特許文献3に記載された発明では、竪ロールを利用して鉄枕木用形鋼の肩部に識別マークを形成しているが、肩部を押圧する竪ロールの周速度と竪ロール間を通過する鉄枕木用形鋼の通過速度が略一致することになるため、やはり、比較的簡単に鮮明な識別マークを付すことが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−051902号公報
【特許文献2】特開2003−285102号公報
【特許文献3】特開昭60−040602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、土木工事等で使用される鋼矢板(シートパイル)は、断面U字状の溝形をなしており、溝底部に相当するウエブ部と、溝側壁に相当するフランジ部と、鋼矢板同士を連結する連結部と、を備えている。このような鋼矢板においては、従来、特に強いニーズもなく、識別マークを付すことはあまり実施されていなかった。しかし、近年では、海外での使用量が増加してきており、鋼矢板の製造者を確認することができるように識別マークを付すことが求められている。
【0007】
この鋼矢板においては、上述の鉄枕木用形鋼のように使用状況に応じた制約がないことから、ウエブ部に識別マークを付すことが可能である。また、鋼矢板を圧延する場合においては、一対の水平ロールによってウエブ部、フランジ部、連結部の形状を成形することが可能となる。
【0008】
ここで、鋼矢板等を圧延する一対の水平ロールにおいては、前記ウエブ部を圧延する部分におけるロール径が互いに異なるため、一方の圧延ロールのウエブ部を圧延する部分における周速度と、他方の圧延ロールのウエブ部を圧延する部分における周速度と、が互いに異なることになる。これにより、一対の水平ロール間を通過する鋼矢板の通過速度と、これら水平ロールの周速度と、の間に速度差が生じることになる。このため、水平ロールに形成された識別マークを、そのままの形状でウエブ部に転写することができず、鮮明な識別マークを容易に形成することができなかった。
【0009】
なお、上述のような問題は、鋼矢板に限定されるものではなく、鉄枕木や溝形鋼などの形鋼の通過速度と、刻設マークが形成された部分の圧延ロールの周速度と、の間に速度差が生じる場合に生じることになる。
また、ロールの周速度と鋼矢板の速度を合わせるように、例えば、凹側のロール径を小さくするなどの方法がとられていたが、この場合、ロールの使用寿命が短くなり、高コストとなっていた。
【0010】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、鋼矢板等の形鋼の圧延において形鋼へ識別マークを付す際に、刻設マークが形成された部分の圧延ロールの周速度と、この圧延ロールとの接触位置における形鋼の通過速度と、に速度差が生じる場合であっても、所定寸法の識別マークを形成することができる識別マーク付形鋼の製造方法、及び、鮮明な識別マークが付された識別マーク付鋼矢板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る識別マーク付形鋼の製造方法は、少なくとも一対の圧延ロールによって形鋼の圧延を行う際に、前記形鋼に識別マークを形成する識別マーク付形鋼の製造方法であって、前記圧延ロールに形成された刻設マークを前記形鋼に転写して、前記形鋼に前記刻設マークと同形状の転写マークを形成し、この転写マークの圧延方向端部を前記圧延ロールで押圧することで、所定形状の前記識別マークを形成する構成とされており、前記刻設マークが形成された圧延ロールのうち前記刻設マークが形成された部分の周速度と、一対の圧延ロール間を通過する前記形鋼の通過速度と、の速度差を求め、この速度差から前記転写マークの圧延方向の変形量を予め算出し、前記刻設マークの前記圧延ロール周方向長さを、前記識別マークの前記圧延方向長さに対して前記変形量分だけ増加させておくことを特徴としている。
【0012】
この構成の識別マーク付形鋼の製造方法によれば、前記圧延ロールに形成された刻設マークを前記形鋼に転写して、前記刻設マークと略同形状の転写マークを形成し、前記転写マークの圧延方向端部を前記圧延ロールで押圧することによって、前記識別マークを形成する構成としているので、刻設マークが形成された圧延ロール周速度と形鋼の通過速度との間に速度差が生じた場合であっても、所定形状の識別マークを形成することが可能となる。
【0013】
また、刻設マークが形成された圧延ロールの周速度と一対の圧延ロール間を通過する前記形鋼の通過速度との速度差を求め、この速度差による転写マークの変形量を予め算出しておき、前記刻設マークの前記圧延ロール周方向長さを、前記識別マークの前記圧延方向長さに対して、前記変形量分だけ増加させているので、転写マークを前記圧延ロールによって変形させることにより、所定寸法の識別マークを形成することが可能となる。
よって、刻設マークが形成された圧延ロールの周速度と形鋼の通過速度との間に速度差が生じる場合であっても、鮮明な識別マークを形成することができる。これにより、識別マークの視認性に優れた識別マーク付形鋼を製出することができる。
【0014】
ここで、一対の前記圧延ロールのうち、前記形鋼の前記通過速度との速度差が小さい周速度となる前記圧延ロールに前記刻設マークを形成することが好ましい。
前記形鋼を挟持して押圧する前記一対の圧延ロールのうち、形鋼の前記通過速度との速度差が小さい圧延ロールの方が、形鋼に転写された転写マークの変形量が小さくなる。よって、刻設マークを識別マークに対して大きく変形させる必要がなくなり、鮮明な識別マークを比較的容易に形成することが可能となる。
【0015】
また、一対の前記圧延ロールのうち、前記形鋼の前記通過速度よりも遅い周速度となる前記圧延ロールに前記刻設マークを形成することが好ましい。
刻設マークが形成された圧延ロールの周速度が、前記形鋼の前記通過速度よりも速い場合には、形鋼に転写された転写マークに対して圧延ロールが衝突することになり、転写マークが、圧延ロール(刻設マーク)によって削り取られるように変形することになる。一方、刻設マークが形成された圧延ロールの周速度が、前記形鋼の前記通過速度よりも遅い場合には、圧延ロールに対して形鋼に転写された転写マークが衝突していくため、転写マークは圧延ロール(刻設マーク)によって押し潰されるように変形することになる。
【0016】
これらの転写マークの変形状態を比較すると、刻設マークが形成された圧延ロールの周速度が前記形鋼の前記通過速度よりも遅い場合の方が、転写マークの形状の変化が少ない傾向にある。よって、一対の前記圧延ロールのうち、前記形鋼の前記通過速度よりも遅い周速度となる前記圧延ロールに前記刻設マークを形成することにより、鮮明な識別マークを確実に付すことが可能となるのである。
【0017】
また、本発明に係る識別マーク付鋼矢板は、延在方向に垂直な断面において、U字溝形状をなし、その溝底部に相当するウエブ部の溝外面側に識別マークが形成されていることを特徴としている。
一対の圧延ロールによってウエブ部を挟持して圧延を実施する場合には、前記ウエブ部の溝外面側を押圧する部分のロール径が、前記ウエブ部の溝内面側を押圧する部分のロール径よりも小さくなり、その周速度が遅くなる傾向にある。このため、ウエブ部の溝外面側に識別マークを形成することにより、変形が少なく鮮明な識別マークを形成することが可能となる。
【0018】
ここで、前記識別マークは、前記ウエブ部の表面に対して傾斜する傾斜部と、この傾斜部に連設され、前記ウエブ部の表面に対して平行に延在する水平部と、を備えていることが好ましい。
この場合、水平部が所定形状を成すことにより、識別マークが鮮明に視認されることになる。また、識別マークに、前記ウエブ部の表面に対して傾斜する傾斜部が設けられているので、識別マーク(鋼矢板)の意匠性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明によれば、鋼矢板等の形鋼の圧延において形鋼へ識別マークを付す際に、刻設マークが形成された部分の圧延ロールの周速度と、この圧延ロールとの接触位置における形鋼の通過速度と、に速度差が生じる場合であっても、所定寸法の識別マークを形成することができる識別マーク付形鋼の製造方法、及び、鮮明な識別マークが付された識別マーク付鋼矢板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態である識別マーク付鋼矢板の断面説明図である。
【図2】図1に示すX方向矢視図である。
【図3】図2に示す識別マークの拡大説明図である。
【図4】図3おけるY−Y断面図である。
【図5】図1に示す識別マーク付鋼矢板を圧延する圧延ロールユニットの説明図である。
【図6】図5に示す圧延ロールユニットの上側ロールの説明図である。
【図7】図5に示す圧延ロールユニットの下側ロールの説明図である。
【図8】図7に示す下側ロールに形成された刻設マークの拡大説明図である。
【図9】図8に示す刻設マークの拡大断面説明図である。
【図10】本発明の一実施形態である識別マーク付形鋼の製造方法を示すフロー図である。
【図11】転写マークから識別マークへの変形状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態である識別マーク付形鋼の製造方法および識別マーク付鋼矢板について、添付した図面を参照して説明する。
本実施形態である識別マーク付形鋼の製造方法は、土木工事等に使用される鋼矢板(シートパイル)に、製造者等の情報を示す識別マークを付すものである。
【0022】
まず、図1から図4を用いて、本実施形態である識別マーク付形鋼の製造方法によって製造される識別マーク付鋼矢板10について説明する。
この識別マーク付鋼矢板10は、図1に示すように、延在方向に直交する断面において、U字溝形状をなしており、このU字溝の溝底部に相当するウエブ部11と、U字溝の溝側壁に相当するフランジ部12と、このフランジ部12の突端側(図1において上端側)に形成され、鋼矢板10同士を連結する連結部13と、を備えている。そして、ウエブ部11の溝外面11a側(図1において下面側)には、図2に示すように、製造者を示す識別マーク20が設けられている。
【0023】
ここで、上述の識別マーク20は、図4に示すように、ウエブ部11の表面(溝外面11a)から外部に向けて突出するように設けられている。すなわち、本実施形態では、識別マーク20が陽刻されているのである。なお、この識別マーク20は、ウエブ部11の圧延方向Sに一定の間隔で複数形成されている。
【0024】
この識別マーク20は、図3及び図4に示すように、ウエブ部11の表面(溝外面11a)に対して傾斜する傾斜部21と、この傾斜部21に連設され、ウエブ部11の表面(溝外面11a)に対して略平行に延在する水平部22と、を備えている。そして、この水平部22の形状が、所定寸法及び所定形状となるように、識別マーク20が形成されているのである。
【0025】
次に、このような識別マーク20を付す圧延ロールユニット30について、図5から図9を用いて説明する。
上述の識別マーク付鋼矢板10は、図5に示す圧延ロールユニット30による圧延時に、識別マーク20が付されることによって製造される。
【0026】
図5に示す圧延ロールユニット30は、一対の圧延ロール(上側ロール31及び下側ロール36)を備えている。
上側ロール31は、軸線O1を中心にして回動する構成とされており、図6に示すように、その外周面に、図1に示す鋼矢板10の溝内面11b(図1において上面)側形状に対応する成形凸部32及び一対の成形凹部33,33が形成されている。
下側ロール36は、軸線O2を中心にして回動する構成とされており、図7に示すように、その外周面に、図1に示す鋼矢板10の溝外面11a(図1において下面)側形状に対応する成形凹部37及び一対の成形凸部38,38が形成されている。
【0027】
軸線O1と軸線O2とは、図5に示すように互いに平行に配置されている。また、鋼矢板10のウエブ部11の溝内面11bに上側ロール31の成形凸部32が、ウエブ部11の溝外面11aに下側ロール36の成形凹部37が、それぞれ接触することになる。ここで、上側ロール31の軸線O1から成形凸部32の先端(ウエブ部11の溝内面11bに接触する部位)までの距離L1/2と、下側ロール36の軸線O2から成形凹部37の底部(ウエブ部11の溝外面11aに接触する部位)までの距離L2/2とは、L1>L2の関係とされている。すなわち、ウエブ部11に接触する部分においては、上側ロール31のロール径が下側ロール36のロール径よりも大きくなるように設定されているのである。
【0028】
このため、ウエブ部11が接触する部分においては、上側ロール31の周速度VR1が、下側ロール36の周速度VR2よりも速くなるのである。これにより、上側ロール31と下側ロール36との間を通過する鋼矢板10の通過速度VSは、上側ロール31の周速度VR1よりも遅く、かつ、下側ロール36の周速度VR2よりも速くなる。すなわち、VR2<VS<VR1の関係となっているのである。
また、本実施形態では、上側ロール31の周速度VR1と鋼矢板10の通過速度VSとの速度差ΔV1は、下側ロール36の周速度VR2と鋼矢板10の通過速度VSとの速度差ΔV2よりも大きくなるように設定されている。すなわち、ΔV2<ΔV1の関係となっているのである。
【0029】
そして、本実施形態においては、下側ロール36の成形凹部37の底面に、鋼矢板10のウエブ部11の溝外面11a側に識別マーク20を付すための刻設マーク40が形成されている。すなわち、一対の圧延ロール(上側ロール31及び下側ロール36)のうち、鋼矢板10の通過速度VSとの速度差がより小さく、かつ、鋼矢板10の通過速度VSよりも遅い周速度(VR2)となる下側ロール36に、刻設マーク40が配設されているのである。
【0030】
この刻設マーク40の形状は、上述した識別マーク20に対応して設計されており、図8に示すように、識別マーク20の形状から下側ロール36の周方向長さがΔLだけ長くなるように、変形させられた形状とされている。
【0031】
ここで、図9に示すように、刻設マーク40の周方向端部は面取加工されており、回転方向R前方側の面取部41の傾斜角度を大きくしている。例えば、回転方向R前方側の面取部41の傾斜角度(軸線O2に直交する断面においてロール径方向と面取部41とがなす角度)α1が、回転方向R後方側の面取部42の傾斜角度(軸線O2に直交する断面においてロール径方向と面取部42とがなす角度)α2よりも大きくなるように設定することが好ましい。
【0032】
次に、この圧延ロールユニット30を用いた識別マーク付鋼矢板の製造方法について、図10及び図11を用いて説明する。
図8に示す刻設マーク40の形状は、次のようにして設計されることになる。
まず、刻設マーク40を形成する一対の圧延ロール(上側ロール31及び下側ロール36)の周速度VR1、VR2と、一対の圧延ロール(上側ロール31及び下側ロール36)間を通過する鋼矢板10の通過速度VSと、を比較し、刻設マーク40を形成する圧延ロールを選択する。本実施形態では、鋼矢板10の通過速度VSとの速度差がより小さく、かつ、鋼矢板10の通過速度VSよりも遅い周速度(VR2)となる下側ロール36が選択されることになる。
【0033】
次に、この下側ロール36の周速度VR2と鋼矢板10の通過速度VSとの速度差ΔV2を求める。
そして、刻設マーク40をそのままの形状で鋼矢板10のウエブ部11に転写した転写マーク50に対して、下側ロール36と鋼矢板10との速度差ΔV2による変形量を算出する。すなわち、下側ロール36の周速度VR2が鋼矢板10の通過速度VSよりも遅いことから、刻設マーク40の回転方向R前方側部分に、ウエブ部11に転写された転写マーク50が衝突し、転写マーク50が圧延方向Sに変形するのである。なお、この変形量は、下側ロール36の成形凹部37におけるロール径、刻設マーク40の深さ、速度差ΔV2等から算出されることになる。
【0034】
また、刻設マーク40の圧延ロール周方向長さを、識別マーク20の圧延方向S長さに対して、前記変形量分だけ増加させるのである。すなわち、算出された変形量が、上述のΔLに相当するように、刻設マーク40を設計しておくのである。
【0035】
そして、圧延時において、下側ロール36に形成された刻設マーク40を、通過する鋼矢板10のウエブ部11の溝外面11aに転写して、図11に示すように、刻設マーク40と同形状の転写マーク50を形成し、この転写マーク50の圧延方向S前方側を下側ロール36の刻設マーク40の回転方向R前方側部分で押圧することで変形し、傾斜部21と水平部22とを備えた識別マーク20が形成されることになる。
なお、この圧延の前工程において、ウエブ部11のうち識別マーク20を形成する部分の肉厚を厚く形成しておくことが好ましい。
【0036】
以上のような構成とされた本実施形態である識別マーク付形鋼(識別マーク付鋼矢板10)の製造方法によれば、下側ロール36に形成された刻設マーク40を鋼矢板10に転写して、刻設マーク40と同形状の転写マーク50を形成し、この転写マーク50の圧延方向S端部を下側ロール36(刻設マーク40の回転方向R前方側部分)で押圧することで、転写マーク50を変形させて所定形状の識別マーク20を形成する構成としているので、刻設マーク40が形成された下側ロール36の周速度VR2と、鋼矢板10の通過速度VSと、の間に速度差ΔV2が生じる場合であっても、所定形状の識別マーク20を形成することが可能となる。
【0037】
また、本実施形態では、刻設マーク40が形成された下側ロール36の周速度VR2と鋼矢板10の通過速度VSとの速度差ΔV2を求め、この速度差ΔV2により下側ロール36(刻設マーク40の回転方向R前方側部分)が転写マーク50を変形させる変形量を算出しておき、刻設マーク40の下側ロール36の周方向長さを、識別マーク20の圧延方向S長さに対して変形量分だけ増加させているので、転写マーク50を下側ロール36(刻設マーク40の回転方向R前方側部分)によって変形させることによって、所定寸法の識別マーク20を形成することが可能となる。
【0038】
また、一対の圧延ロール(上側ロール31及び下側ロール36)のうち、鋼矢板10の通過速度VSとの速度差が小さい周速度VR2となる下側ロール36に刻設マーク40を形成しているので、転写マーク50の変形量が抑制されることになり、鮮明な識別マーク20を比較的容易に形成することが可能となる。さらに、刻設マーク40を、識別マーク20の形状から大きく変形させる必要がなくなる。
【0039】
また、一対の圧延ロール(上側ロール31及び下側ロール36)のうち、鋼矢板10の通過速度VSよりも遅い周速度VR2となる下側ロール36に刻設マーク40を形成しているので、下側ロール36(刻設マーク40の回転方向R前方側部分)に対して鋼矢板10に転写された転写マーク50が衝突していくため、転写マーク50は下側ロール36(刻設マーク40の回転方向R前方側部分)によって押し潰されるように変形することになる。よって、転写マーク50の形状の変化が少なくなり、より鮮明な識別マーク20を付すことが可能となる。
【0040】
さらに、上述のように、鋼矢板10の通過速度VSよりも周速度が遅く、かつ、速度差が相対的に小さくなる下側ロール36によって、ウエブ部11の溝外面11aに識別マーク20が付されることになるため、変形が少なく鮮明な識別マーク20を形成することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態では、識別マーク20が、ウエブ部11の表面(溝外面11a)に対して傾斜する傾斜部21と、この傾斜部21に連設され、ウエブ部11の表面(溝外面11a)に対して略平行に延在する水平部22と、を備えているので、水平部22が所定形状をなすことによって識別マーク20を確実に視認することが可能となる。また、識別マーク20の圧延方向一端部に傾斜部21が設けられているので、この識別マーク20によって鋼矢板10の意匠性の向上を図ることができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、圧延の前工程において、ウエブ部11の識別マーク20を形成する部分の肉厚を厚く形成しているので、識別マーク20の突出高さが確保されることになり、識別マーク20の視認性をさらに向上させることができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態である識別マーク付形鋼の製造方法および識別マーク付鋼矢板について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、図1に示す断面形状をなす鋼矢板に識別マークを付すものとして説明したが、これに限定されることはなく、圧延を実施する際において圧延ロールの周速度と形鋼の通過速度との間に速度が生じる場合であれば、本発明に係る識別マーク付形鋼の製造方法を適用することができる。
また、識別マークは、図示された形状のものに限定されることはなく、任意の形状とすることができる。
【実施例】
【0044】
本発明の効果を確認すべく行った確認実験について説明する。
本実施形態で図示したような圧延ロールユニットを用いて識別マークを形成した。実施例1、2では、鋼矢板のウエブ部の溝外面に識別マークを形成した。ここで、下側ロールの成形凹部におけるロール径L2を782mmとした。また、刻設マークの深さを実施例1では0.5mm、実施例2では1.0mmとした。そして、成形凹部における周速度VR2を2021mm/sとし、鋼矢板の通過速度VSを2284mm/sとした。
【0045】
また、実施例3、4では、鋼矢板のウエブ部の溝内面に識別マークを形成した。ここで、上側ロールの成形凸部におけるロール径L1を1087mmとした。また、刻設マークの深さを実施例3では0.5mm、実施例4では1.0mmとした。そして、成形凸部における周速度VR1を2808mm/sとし、鋼矢板の通過速度VSを2284mm/sとした。
【0046】
これらのデータを元に、転写マークの変形量を算出した。また、実際に識別マークを形成し、識別マークの形状を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
この表1の結果から、周速度と通過速度との速度差が大きく、かつ、鋼矢板の通過速度よりもロールの周速度が速い上側ロールに刻設マークを形成した実施例3,4では、算出された変形量が5.3mm,7.6mmと大きく、実際に形成された識別マークも大きく変形しているのが確認された。
【0049】
一方、周速度と通過速度との速度差が小さく、かつ、鋼矢板の通過速度よりもロールの周速度が遅い下側ロールに刻設マークを形成した実施例1,2では、算出された変形量が2.3mm,3.2mmと比較的小さく、実際に形成された識別マークも大きく変形しておらず、視認性の高い識別マークを形成できることが確認された。
【0050】
また、実施例1と実施例2、実施例3と実施例4とを比較すると、刻設マークの深さを深くした方が識別マークの突出高さが高くなるが、変形量は大きくなる傾向にある。よって、識別マークの視認性を考慮して、刻設マークの深さを設定することが好ましいことが確認された。
【符号の説明】
【0051】
10 識別マーク付鋼矢板(識別マーク付形鋼)
11 ウエブ部
11a 溝外面
20 識別マーク
21 傾斜部
22 水平部
30 圧延ユニット(一対の圧延ロール)
31 上側ロール(圧延ロール)
36 下側ロール(圧延ロール)
40 刻設マーク
50 転写マーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の圧延ロールによって形鋼の圧延を行う際に、前記形鋼に識別マークを形成する識別マーク付形鋼の製造方法であって、
前記圧延ロールに形成された刻設マークを前記形鋼に転写して、前記形鋼に前記刻設マークと同形状の転写マークを形成し、この転写マークの圧延方向端部を前記圧延ロールで押圧することで、所定形状の前記識別マークを形成する構成とされており、
前記刻設マークが形成された圧延ロールのうち前記刻設マークが形成された部分の周速度と、一対の圧延ロール間を通過する前記形鋼の通過速度と、の速度差を求め、
この速度差から前記転写マークの圧延方向の変形量を予め算出し、
前記刻設マークの前記圧延ロール周方向長さを、前記識別マークの前記圧延方向長さに対して前記変形量分だけ増加させておくことを特徴とする識別マーク付形鋼の製造方法。
【請求項2】
一対の前記圧延ロールのうち、前記形鋼の前記通過速度との速度差が小さい周速度となる前記圧延ロールに前記刻設マークを形成することを特徴とする請求項1に記載の識別マーク付形鋼の製造方法。
【請求項3】
一対の前記圧延ロールのうち、前記形鋼の前記通過速度よりも遅い周速度となる前記圧延ロールに前記刻設マークを形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の識別マーク付形鋼の製造方法。
【請求項4】
延在方向に垂直な断面において、U字溝形状をなし、その溝底部に相当するウエブ部の溝外面側に識別マークが形成されていることを特徴とする識別マーク付鋼矢板。
【請求項5】
前記識別マークは、前記ウエブ部の表面に対して傾斜する傾斜部と、この傾斜部に連設され、前記ウエブ部の表面に対して平行に延在する水平部と、を備えていることを特徴とする請求項4に記載の識別マーク付鋼矢板。
【請求項1】
少なくとも一対の圧延ロールによって形鋼の圧延を行う際に、前記形鋼に識別マークを形成する識別マーク付形鋼の製造方法であって、
前記圧延ロールに形成された刻設マークを前記形鋼に転写して、前記形鋼に前記刻設マークと同形状の転写マークを形成し、この転写マークの圧延方向端部を前記圧延ロールで押圧することで、所定形状の前記識別マークを形成する構成とされており、
前記刻設マークが形成された圧延ロールのうち前記刻設マークが形成された部分の周速度と、一対の圧延ロール間を通過する前記形鋼の通過速度と、の速度差を求め、
この速度差から前記転写マークの圧延方向の変形量を予め算出し、
前記刻設マークの前記圧延ロール周方向長さを、前記識別マークの前記圧延方向長さに対して前記変形量分だけ増加させておくことを特徴とする識別マーク付形鋼の製造方法。
【請求項2】
一対の前記圧延ロールのうち、前記形鋼の前記通過速度との速度差が小さい周速度となる前記圧延ロールに前記刻設マークを形成することを特徴とする請求項1に記載の識別マーク付形鋼の製造方法。
【請求項3】
一対の前記圧延ロールのうち、前記形鋼の前記通過速度よりも遅い周速度となる前記圧延ロールに前記刻設マークを形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の識別マーク付形鋼の製造方法。
【請求項4】
延在方向に垂直な断面において、U字溝形状をなし、その溝底部に相当するウエブ部の溝外面側に識別マークが形成されていることを特徴とする識別マーク付鋼矢板。
【請求項5】
前記識別マークは、前記ウエブ部の表面に対して傾斜する傾斜部と、この傾斜部に連設され、前記ウエブ部の表面に対して平行に延在する水平部と、を備えていることを特徴とする請求項4に記載の識別マーク付鋼矢板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−35280(P2012−35280A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175514(P2010−175514)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]