説明

豚、牛の心膜、又は人の屍体の心臓弁のような、動物又は人由来の生物組織の処理方法、及び、それによって処理された生物組織

本発明はグルタルアルデヒド付着した、豚の又は牛の心膜、又は人の屍体の、心臓弁のような、動物又は人由来の生物組織の処理方法に関しており、当該方法は、特に生体適合性、細胞個体群、及び有効寿命を増加するための、特にコラーゲン組織の物理的プラズマ処理をもたらすものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚の心臓弁、牛の心膜の心臓弁、又は人の屍体の心臓弁のような、動物又は人由来の生物組織の処理方法、及びそれによって処理された生物組織に関連している。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景について、特に組織工学の分野においてコラーゲンマトリクスとしての、様々に前処理した動物由来組織の利用に係る操作方法が、未来の改良した治療方法に対する様々な外科手術分野において重要となってきていることを述べなければならない。関連した利用分野は、心血管手術において見られ得るが、整形外科及び脳外科も利用分野として考えられる。
【0003】
心血管手術におけるコラーゲンマトリクスの利用のために、良好な血液適合性及び機械的安定性が確保されなければならない。これに関して例えば、豚の弁、又は牛の心膜弁のような動物由来心臓弁が、小さな直径と、生物的又は機械的血液ポンプのポンプ室とを備えた生物血管プロテーゼと同様に述べられるべきである。整形外科手術治療において、特に安定なコラーゲンマトリクスが、軟骨、靭帯、及び腱の代替物用に特に関心をもたれている。最後に脳外科において、例えば腫瘍手術後の頭蓋骨閉鎖用コラーゲン組織が、本発明の利用分野とみなされ得る。
【0004】
本発明が基礎としている特定の問題は、例えば心臓弁置換から明らかとされる。世界中で一年に200,000人を超える患者に移植された心臓弁置換のうち、約50%が人工的な、機械心臓弁で作られており、50%が豚の心臓弁と牛の心膜の弁に基づく生物移植から成される。機械的心臓弁の移植は、永久的なアフターケアのために、プロテーゼから来る塞栓症予防のための、血餅抑制治療の管理を必要とする。よって、このようにして通院する患者は、実際上「人工血友病患者」となる。
【0005】
動物由来の生物心臓弁は、長期安定性をなし得るために、グルタルアルデヒドで処理されなければならない。こうしてグルタルジアルデヒドから生成した遊離アルデヒド基のために、生物心臓弁はそれ自体毒性を有し、よって細胞とコロニー形成することができない。細胞コロニー形成は、これら生物弁に、より著しく長い期間耐久性を与えるはずである。しかしながら細胞コロニー形成前には解毒が必要となるだろう。先行技術から、これに係る医学的研究が公知であって、遊離アルデヒド基を結合させる物質が用いられる。これに係る参考文献が参照文献(非特許文献1〜4)になされている。
【0006】
また、クエン酸の補助により解毒を成し遂げるための試験が実施された。これは、特に非特許文献5に開示されているように成功した。
【0007】
そこで成し遂げられた解毒度は、ほんの20〜30%であった。
【0008】
グルタルアルデヒドの付着した組織の適切な解毒と、それによる移植後の、身体の自身の組織による被覆可能性、いわゆる「内皮化(Endothelialisierung)」とがあれば、血栓を抑制するための治療管理無しで生涯継続することのできる心臓弁のゴールを達成することが可能となろう。
【0009】
本発明の範囲の更なる例は、小穴血管プロテーゼである。この種類の移植片は、一般的に現在のところプラスチック材料、つまりPTFE又はPETで作られている。それらは、特に末梢下肢用血管代替物、大動脈冠動脈バイパス、及び末梢透析用シャントとしての用途において、比較的高い閉塞率を有している。これらプロテーゼ領域内での血管閉塞の結果は、下肢切断を含む、結果として、死又はシャント補正が必須となる、強烈な心筋梗塞となる。ここでも、豚、牛、又はヤギ供与者(ドナー)血管の形態をした動物由来の小穴グルタルアルデヒド付着生物組織は、この種類の組織が解毒され且つ内皮化され得る、又は血流内において内皮化され得るならば、かなりの改良をもたらすであろう。筋肉ポンプの用途においても、血液に接触するようになる構成要素が例えば適切な解毒処置によって生体適合性を増すことができれば、血栓塞栓症合併症を回避することができるだろう。
【0010】
動物由来コラーゲンマトリクスの形態の、この種類の生物組織の更なる利用分野は、股関節、膝関節及び踝関節の、変形性関節症治療のための、安定で生体適合性可能なグルタルアルデヒド付着した且つ解毒した生物組織であってもよい。また、対応するグルタルアルデヒド付着し且つ解毒した牛心膜の補助による、傷又は腫瘍手術後の頭蓋骨を閉鎖するための脳保護性用途としての更なる利用が、例えば胸部手術における胸壁又は横隔膜置換として、腹壁置換用腹壁手術又はENT領域内の鼓膜置換と同様に、用途として考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】EP 0 897 997 B1
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Gott J.P., Chih P., Dorsey L., Jay J.L., Jett G.K., Schoen F.J., Girardot J.M., Guyton R.A. “Calcification of porcine valves: a successful new method of antimineralisation” in Ann Thorac Surg 1992; 53: 207-216
【非特許文献2】Jones M., Eidbo E.E., Hilbert S.L., Ferrans V.J., Clarck R.E. “Anticalcification treatments of bioprosthetic heart valves: in vivo studies in sheep” in J Cardiovasc Surg 1989; 4: 69-73
【非特許文献3】Grabenwoeger M., Sider J., Fitzal F., Zelenka C., Windberger U., Grimm M. “Impact of glutaraldehyde on calcification of pericardial bioprosthetic heart valve material” in Ann Thorac Surg 1996; 62: 772-7
【非特許文献4】Webb C.L., Benedict J.J., Schoen F.J., Linden J.A., Levy R.J. “Inhibition of bioprosthetic valve calcification with aminodiphosphonate covalently bound material to residual aldehyde groups” in Ann Thorac Surg 1988; 46: 309-16
【非特許文献5】Gulbins H., Goldemund A., Anserson I., Haas U., Uhlig A., Meiser B., Reichart B. “Preseeding with autologous fibroblasts improves endothelialisation of glutaraldehyde-fixed porcine aortic valves” in J Thorac Cardiovasc Surg 2003; 125: 592-601
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
先行技術の略述した問題に関して、本発明は、動物又は人間由来のコラーゲン組織を処置するための方法と、それによって処理された生物組織とを開示することを課題としており、当該組織の生体適合性及び長期安定性が、生体内での使用時間が著しく増加し得るように、理想的な場合では永久的な使用素質があるように、増加するのである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の基礎的概念は、これら課題を解決するために、生物組織の物理的プラズマ処理をもたらす。
【0015】
この、用いられたガスが励起されてラジカル化され、グルタルアルデヒド付着のために生成した遊離アルデヒド基による毒性を化学的に中和する、物理的プラズマ処理によって、組織の移植特性を改良するための第1ステップとして、従来技術と比較して、著しく改良された解毒がそれによって成し遂げられたということが試験によって示された。上記試験は、80%超の解毒度を生み出した。閉鎖した内皮表面は、このようにして試験組織の血液接触面上にコロニー形成され得た。
【0016】
プラズマ処理中に基本的に進行する化学処理は、処理ガス酸素の例を用いて簡単に略述され得る。よってプラズマ、つまり酸素イオン内に存在する構成要素と、励起した酸素とが、組織表面上での炭化水素との反応中に二酸化炭素と水を形成する。この反応は、このようにして、グルタルアルデヒド付着によって生成されたような、組織表面上に存在するアルデヒド基を、解毒という意味で除去するために用いられ得る。
【0017】
用いられるプラズマガス法のための好ましい方法条件は請求項2及び3中に与えられ、その中で酸素は、好ましくは励起ガスとして用いられる。しかしながら窒素、水素、及びアルゴンが用いられても良い。プラズマ生成用エネルギー入力は、有利には、高周波電磁場によって、特にマイクロ波場によって実行される。
【0018】
上記プラズマガス法は一般的に、イオン化されるべきガスを真空の処理室内に導入することによって実行される。加えて、大気(圧)条件下で励起した反応ガスを有するプラズマジェットを用いることによって、大気(圧)プラズマによってプラズマ処理を実行することも可能である。プラズマジェットは、移植表面に渡ってガイドされ、それによって局所的浄化が生じる。このことは、反応ガス中に存在する酸素イオンが、炭化水素及び組織表面と反応を起こし、二酸化炭素と水を形成するということを生じるのである。
【0019】
大気圧条件下でのプラズマ処理では、組織の乾燥形態というかたちの必須条件がもはや必要ではなく、それによって初期状態の湿った組織ですら、生物組織を上記プラズマガス法で処理室内において最初に処理するために、直接的に処理することが可能となるのに反し、プラズマ処理前に一般的に水を含む生物組織が乾燥される、特に真空及び温度の影響受ける場合には解毒結果が非常に有利となる。
【0020】
生物組織は、したがって処理の持続期間中、完全に水分のない状態を保たれる。
【0021】
移植使用用プラズマ処理を受ける組織には湿気が供給され、その中でそれは例えば液体中に置かれる。それによって初期の硬度を取り戻し、且つ、例えば永久に弾性であって、豚の心臓弁に対応する実施において長期間安定となる。
【0022】
本発明に係る方法の、特に好ましい展開は、請求項8〜10に与えられており、それらによると、プラズマ処理を受ける組織には生体適合性の金属含有被膜が設けられる。この被膜は、永続的に細胞成長を促す、移植表面上の追加の生体適合性構成要素である。
【0023】
金属含有被膜を実行するための選択方法は、人工医学的移植物(片)内のプラスチック材料表面の被膜内においてそれによって処理された表面の生体適合性に関して確信する結果を既にもたらしたPACVD法である。この金属含有被膜は、Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、Ir、Au、Pd、Pt、Ag及びCuから成る金属の群から選択される。これに関連して、チタンは特に成功したことが示されてきており、且つ、多くの種類の移植用途において特に生体適合性材料として長い間用いられてきた。また上記被覆材料で、銀及び銅も、抗菌試薬として被膜内に補足的に又は一つだけ入れられても良い。
【0024】
請求項11〜14は、人又は動物の体内における移植片として用いられ得るような、動物又は人間由来の生物組織に関している。本発明によると、身体と接触するようになり得る少なくとも表面が、解毒の為に本発明に係るプラズマ処理を受ける。上記したように生体適合性は、生物組織上の生体適合性の金属含有被膜によって改善された。生物組織は、好ましくは心臓弁、血管プロテーゼ、機械的又は生体力学的血液ポンプの血液接触面、頭蓋骨開口部用閉鎖挿入物、軟骨、硬骨、腱、横隔膜、胸壁、腹壁、又は鼓膜代替物(置換物)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の記載は、実施形態において本発明をより詳しく記載するものである。
【0026】
豚の心臓弁が、人体への移植片として用いられるべき、動物由来のコラーゲン組織として、一例として用いられる。
【0027】
これは、安定化のため従来の方法で、供与者動物から除去後、非細分化(dezellularisiert)及びグルタルアルデヒド付着処理される。この場合、上記弁は0.1〜0.4%のグルタルアルデヒド溶液内にもたらされ、3〜6mmHgの低圧で24〜48時間にわたって、流れる溶液中で固定された。
【0028】
このようにして処理された豚の心臓弁は、次に真空状態下で且つ温度の供給と共にゆっくり乾燥され、こうして完全に脱水される。
【0029】
その後、豚の心臓弁のプラズマ処理が処理室内で行われる。この目的で、処理室は完全に真空(排気)状態にされ、次に酸素が導入される。例えば40kHz又は13.56MHzの高周波電磁波を入力することによって、又は、マイクロ波による励起によって、プラズマが点火される。それに連結されたエネルギー供給によって、処理室内に存在する酸素ガスが励起されて、ラジカル化される。
【0030】
このプラズマガスは、次の反応式にしたがって、グルタルアルデヒド付着移植物(片)の表面上で炭化水素基CxHyに作用する。
CxHy + (x+y/4)O2 → xCO2 + y/2H2O
【0031】
判るように、例えばアセトアルデヒドのような移植片表面上の炭化水素は、比較的無害な化学物質である二酸化炭素と水に転化され、移植片表面から容易に除去され得る。
【0032】
上記プラズマ処理は、次に移植片表面上に金属含有被膜をつけるために継続される。この目的で、ガス状前駆物質が被覆室内へ供給され、且つ、プラズマエネルギーの影響下で原子構成要素に解離される。このようにして生成したイオンが表面にとまる。典型的にはチタンが、PACVD法の補助によって金属含有被膜として本質的につけられる。なおまたそのような方法は、プラスチック材料基板を被覆する実施例を用いて特許文献1に詳細に記載されている。
【0033】
前処置用及び被覆用の両方の反応圧は、0.1〜1030mbarである。プラズマを用いる際、当該圧力は理想的には>50mbarであるべきである。前処理のために、作用ガス(例えば酸素)が反応器内に、0.04Nl/minのガス容積流量で導入される。約1mbarへ端圧の安定化後、60secの継続時間20Wの出力で容量プラズマ入力が行われる。次にガス供給が遮られ、反応(器)室は完全に真空にされる。キャリヤガス(水素)が続く被覆のために、0.09Nl/minのガス容積流量で前駆物質Ti[N(CH3)2]4上にガイドされ、被覆室内へ導入される。被覆継続時間は約300secであって、調節されたプラズマ出力は20Wである。次にガス供給は再度停止され、被覆室は通気される。
【0034】
豚の心臓弁にプラズマ負荷及び被覆するためのこの真空処理後、これらは再度液体中に置かれ、その結果供給された液体によって当初の硬度を回復する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
豚、牛の心膜、又は人の屍体の心臓弁のような、動物又は人由来の生物組織の生体適合性を増すための処理方法であって、当該組織の物理的プラズマ処理によって特徴づけられる、方法。
【請求項2】
プラズマ処理としてのプラズマガス法において、窒素、水素、アルゴン、又は好ましくは酸素をイオン化ガスとして用いることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プラズマ生成のためのエネルギー入力が、高周波電磁場、特にマイクロ波場によって行われることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
プラズマ処理が、大気圧条件下でプラズマジェットを用いることによる、大気圧プラズマによって行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記組織が、プラズマガス法によって処理される前に乾燥されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
乾燥が、真空及び温度の影響によって行われることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
プラズマ処理後、乾燥した移植片に水分が供給されることを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
プラズマ処理を受ける組織に、生体適合性の金属含有被膜が設けられることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
金属含有被膜が、PACVD法によってつけられることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
金属含有被膜が、Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、Ir、Au、Pd、Pt、Ag及びCuからなる群から選択されることを特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
人体内又は動物体内の移植片として用いるための、動物又は人由来の生物組織であって、当該体と接触するようになされ得る少なくともその表面が、解毒のためのプラズマ処理されることを特徴とする、生物組織。
【請求項12】
プラズマ処理した表面に、生体適合性の金属含有被膜が設けられることを特徴とする、請求項11に記載の生物組織。
【請求項13】
金属含有被膜が、Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、Ir、Au、Pd、Pt、Ag及びCuからなる群から選択されることを特徴とする、請求項12に記載の生物組織。
【請求項14】
生物組織が、心臓弁、血管プロテーゼ、機械的又は生体力学的血液ポンプの血液接触面、頭蓋骨開口部用閉鎖挿入物、又は、軟骨、硬骨、腱、横隔膜、胸壁、腹壁又は鼓膜の代替物として構成されることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の生物組織。

【公表番号】特表2010−518925(P2010−518925A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550214(P2009−550214)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/000155
【国際公開番号】WO2008/101566
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(509238258)ジーエフイー ナノメディカル インターナショナル アーゲー (1)
【Fターム(参考)】