説明

豚マイコプラズマ肺炎ワクチン

【課題】 豚マイコプラズマ肺炎に対する効果的、経済的、かつ安全性の高いワクチンを提供すること。
【解決手段】 マイコプラズマ・ハイオニューモニエのアドヘジン蛋白(P97)とそのパラログ中にある反復配列を含むポリペプチド、該ポリペプチドをコードする遺伝子、ならびに該ポリペプチドを含む豚マイコプラズマ肺炎ワクチン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコプラズマ・ハイオニューモニエのアドヘジン蛋白(P97)とそのパラログ中にある反復配列を含むポリペプチド、該ポリペプチドをコードする遺伝子、ならびにそれらの豚マイコプラズマ肺炎ワクチンとしての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
豚のマイコプラズマ肺炎はマイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mycoplasma hyopneumoniae: Mhp)を原因菌とする慢性肺炎で、致死率は低いものの伝播が迅速で罹患率は高い。Mhp感染豚には、特徴的な肺病変が形成され、肺の機能低下を引き起こすため、Mhp感染は増体率及び飼料効率に悪影響を及ぼし、経済的損失が大きい。
【0003】
Mhpの表面抗原蛋白とその利用に関する報告としては、Mhpの46kdの膜蛋白質に対するモノクローナル抗体を用いてELISA法により豚マイコプラズマ肺炎を診断する方法(特許文献1)、Mhpの46kdの膜蛋白質又はその一部をコードするDNAを用いて豚マイコプラズマ肺炎を診断する方法(特許文献2、3)、Mhpの分子量の異なる数種の膜蛋白質を含む組成物を用いて豚マイコプラズマ肺炎を診断する方法(特許文献4)などがあるものの、これらの抗原蛋白をワクチンに用いる記載はない。
【0004】
現在、数種類の豚マイコプラズマ肺炎に対するワクチンが販売されており、その接種によりMhpの感染を防ぐことはできないが、肺病変を軽減する程度の効果は得られている。これらのワクチンは、基本的に培養したMhp菌体を不活化し、アジュバントと混合したものであり、例えば培養物の表面浮遊物(特許文献5)、Mhp培養液の上清とアジュバント(特許文献6)を含むワクチンなどが報告される。
【0005】
近年、様々な動物用ワクチンのコンポーネント化が進む中で、Mhpワクチンのそれが進まなかった理由として、病原因子及び防御因子の解析が進展しなかったことが挙げられる。例えば、従来、Mhpワクチン効果は血清中の抗体価すなわち液性免疫と結び付けられて考えていた。そこで、多くの研究者により菌体表面の構成蛋白に対する抗体レスポンスと肺病変形成抑制又は感染防御との関連性についての試みがなされたが、明確な成績は得られなかった。一方、TackerらはMhpの肺病変形成の抑制には液性免疫よりむしろ全身性細胞性免疫が有意に作用し、特にIFN-γとワクチン効果の相関性が高いことを報告した(非特許文献1)。以後この報告を支持する成績が次々と報告され、現在ではMhpのワクチン効果には全身性細胞性免疫が大きく関与しているとの見解が一般的である。しかし、多種類の菌体成分の中でどの成分が全身性細胞性免疫の誘導に関わっているかは明確になっていない。また、肺局所の免疫に関する検討は充分とはいえない。
【0006】
一方、ワクチン抗原として不活化抗原を用いる際の問題点として、安全性とコストの問題が挙げられる。現在市販されているワクチンに関してもその副作用としてアレルギー様反応のショックや発熱による元気消失が報告されている。しかしながら、様々なコンポーネントを含む菌体を使用している限り、原因物質を同定するのは困難である。また、Mhp菌体を培養する際に用いられる培養基は価格が高い馬血清や豚血清、および高蛋白な成分を含むことが多いので、製造コストが高くなる上、このような蛋白含有量の高いワクチンの頻回接種はアレルギー等の副作用の発現率を高めることになる。従って、Mhp菌体構成成分の中で肺病変形成に関わる成分のみを特定し、その成分のみからなるワクチン(コンポネートントワクチン)を提供することが望まれる。
【0007】
本発明者らは、先にマイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mhp)アドヘジン蛋白(P97)の部分蛋白を発現する無毒化豚丹毒菌YS-19株を用いて豚を免疫化した結果、YS-19株の投与した検体の血清中および鼻腔中に、豚丹毒に対する抗体とP97に対する抗体を誘導することに成功し、前記YS-19株が2種類の疾患に対して効果のあるワクチンとして使用できる可能性を示した(特許文献7参照)。また、前記YS-19株を豚に経鼻投与することにより強毒のMhpに対して肺病抑制効果が付与できること、その効果には、該株によって賦与される全身性細胞性免疫と肺局所に産生されるIgA抗体、すなわち液性免疫が重要な役割を果たすことを報告している(非特許文献2、3を参照)。しかしながら、上記のP97の部分蛋白の豚マイコプラズマ肺炎に対するワクチンとしての有効性については確認されていない。
【0008】
【特許文献1】特公平7−95069公報
【特許文献2】特許第2772531号公報
【特許文献3】特許第3121868号公報
【特許文献4】特表平11−501809号公報
【特許文献5】特開平6−172213号公報
【特許文献6】特開平7−118167号公報
【特許文献7】特開2002−119285号公報
【非特許文献1】Thacherら Am.J.Vet.Res 61,1384,2000
【非特許文献2】Shimojiら Infect.Immun. 70,226,2002
【非特許文献3】Shimojiら Vaccine 21,532,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、Mhp菌体構成成分の中で、肺病変形成に関わる成分のみを特定し、これを豚マイコプラズマ肺炎に対する効果的、経済的、かつ安全性の高いワクチンとして提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mhp)アドヘジン蛋白(P97)の反復配列領域(R1+2)を導入した弱毒化豚丹毒菌YS-19株を豚の鼻腔内に投与した結果、その肺に炎症性の病変像が観察され、その後、強毒Mhpで攻撃したところ、肺病変抑制効果が認められることを見出した。そこで、この反復配列領域(R1+2)に着目し、この領域を含むポリペプチド単独での有効性を検討した結果、YS-19株と同様なワクチン効果が得られること、またIL-8産生を誘導することを確認した。本発明は、かかる知見により完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 以下の(a)〜(e)に示すポリペプチド。
(a) 配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ豚マイコプラズマ肺炎に対する防御免疫誘導活性を有するポリペプチド
(c) 配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと機能的に同等であり、かつ配列番号2に示すアミノ酸配列と相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド
(d) 配列表の配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(e) 配列表の配列番号4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ豚マイコプラズマ肺炎に対する防御免疫誘導活性を有するポリペプチド
(2) (1)に記載のポリペプチドをコードする遺伝子。
(3) 以下の(f)〜(i)に示すDNAを含む遺伝子。
(f) 配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるDNA
(g) 配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ豚マイコプラズマ肺炎に対する防御免疫誘導活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(h) 配列表の配列番号3に示す塩基配列からなるDNA
(i) 配列表の配列番号3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ豚マイコプラズマ肺炎に対する防御免疫誘導活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(4) (2)又は(3)に記載の遺伝子を含む組換えベクター。
(5) (2)又は(3)に記載の遺伝子により形質転換された形質転換体。
(6) (1)に記載のポリペプチドの製造方法であって、(5)に記載の形質転換体を培地に培養し、得られる培養物から該ポリペプチドを採取することを含む方法。
(7) (6)に記載の方法によって製造されたポリペプチド。
(8) (1)又は(7)に記載のポリペプチドを含む、豚マイコプラズマ肺炎ワクチン。
(9) (2)又は(3)に記載の遺伝子を含む、豚マイコプラズマ肺炎ワクチン。
(10) アジュバンドを含む、(8)又は(9)に記載のワクチン。
(11) 全身性又は粘膜免疫誘導型のワクチンである、(8)〜(10)のいずれかに記載のワクチン。
(12) 豚マイコプラズマ肺炎に感染したか、感染する可能性のあるヒトを除く動物に、(8)〜(11)のいずれかに記載のワクチンを投与することを含む、豚マイコプラズマ肺炎を予防及び/又は治療する方法。
(13) 動物が豚である、(12)に記載の方法。
(14) 投与経路が、鼻腔内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内、又は経口的である、(12)に記載の方法。
(15) (1)に記載のポリペプチドに対する抗体。
(16) 抗体がモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体である、(15)に記載の抗体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、豚マイコプラズマ肺炎ワクチンとして利用できるポリペプチドが提供される。該ポリペプチドは、遺伝子組換え技術を用いて非病原性の組換え菌によって大量に生産することができ、また、これを成分とするワクチンは、不要な成分が削減できることから安全性が高く、マイコプラズマ全菌体を使用したワクチンよりも安価となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
1.豚マイコプラズマ肺炎ワクチン用ポリペプチド及び遺伝子
本発明によれば、豚マイコプラズマ肺炎ワクチンとして用いることのできるポリペプチドとして、配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ豚マイコプラズマ肺炎に対する防御免疫誘導活性を有するポリペプチドが提供される。
【0014】
本発明によればまた、豚マイコプラズマ肺炎ワクチンとして用いることのできるポリペプチドとして、配列表の配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列表の配列番号4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ豚マイコプラズマ肺炎に対する防御免疫誘導活性を有するポリペプチドが提供される。配列表の配列番号4に示すアミノ酸配列は、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mhp)E-1株由来のアドヘジン蛋白(P97)の部分配列であって、反復配列領域1(R1)と反復配列領域2(R2)が含まれる。R1は、配列表3に示す上記アドヘジン蛋白(P97)の一部をコードする遺伝子の塩基配列の76−225位に、R2は、562-633位に相当する。
【0015】
上記の「配列番号2(又は配列番号4)に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
【0016】
上記アミノ酸の欠失、置換若しくは付加は、上記ポリペプチドをコードする遺伝子を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。
【0017】
上記の「豚マイコプラズマ肺炎に対する防御免疫誘導活性を有する」とは、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mhp)の感染に応答して好中球遊走因子であるIL-8の産生を促し、マイコプラズマ菌体周辺に好中球を遊走させ、該菌を貪食させるという機構に基づく細胞性免疫を誘導する活性を有することをいい、当該活性が配列番号2(又は配列番号4)に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドが有する活性と実質的に同等であることをいう。
【0018】
上記のポリペプチドには、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと機能的に同等であり、かつ配列番号2に示すアミノ酸配列と相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドも含まれる。このようなポリペプチドとは、配列番号2に記載のアミノ酸配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを意味する。ポリペプチドの相同性を決定するには、文献(Wilbur, W.J. and Lipman, D.J., Proc.Natl.Acad., Sci. USA(1983) 80, 726-730)に記載のアルゴリズムに従えばよい。
【0019】
従って、MhpP97蛋白パラログ、具体的には、配列番号18、20、22、24にそれぞれ示すアミノ酸配列からなるMhp271, Mhp385, Mhp493, Mhp684もまた本発明のポリペプチドの範囲内である。Mhp271, Mhp385, Mhp493, Mhp684は、それぞれNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)にGene ID:3105322, 3105685, 3105785, 3105747として登録されており、これらより配列情報は入手可能である。
【0020】
本発明のポリペプチドは、後述のように該ポリペプチドをコードするDNAを含む形質転換体を培養することによっても製造することができ、あるいは、アミノ酸数の数によっては、公知のペプチド合成法又によって製造することができる。ペプチド合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによってもよい。
【0021】
本発明によれば、豚マイコプラズマ肺炎ワクチンとして用いることのできる遺伝子が提供される。かかる遺伝子としては、上記のポリペプチドをコードする遺伝子であればいかなるものでもよく、具体的には、配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるDNA;配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ豚マイコプラズマ肺炎に対する防御免疫誘導活性を有するポリペプチドをコードするDNA;配列表の配列番号3に示す塩基配列からなるDNA;配列表の配列番号3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ豚マイコプラズマ肺炎に対する防御免疫誘導活性を有するポリペプチドをコードするDNAが挙げられる。
【0022】
上記の「配列番号1(又は配列番号3)に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNA」としては、配列番号1(又は3に示す)塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNA等が挙げられる。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えば、ナトリウム濃度が、10mM〜300mM、好ましくは20〜100mMであり、温度が25℃〜70℃、好ましくは42℃〜55℃での条件をいう。
【0023】
2.組換えベクター及び形質転換体
(1) 組換えベクターの作製
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明の遺伝子を挿入することにより得ることができる。本発明の遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で該遺伝子を発現することが可能であり、宿主内で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等のいずれであってもよい。プラスミド DNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322, pUC118等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110, pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13, YEp24, YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージが挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0024】
上記ベクターには複製開始点、選択マーカー、プロモーターを含み、必要に応じてエンハンサー、ターミネーター、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。
【0025】
複製開始点としては、大腸菌用ベクターには、例えばCol1E1、R因子、F因子由来のものが、酵母用ベクターには、例えば2μm DNA、ARS1由来のものが、動物細胞用ベクターには、SV40、アデノウイルス由来のものが用いられる。
【0026】
プロモーターとしては、大腸菌用ベクターには、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等が、酵母用ベクターには、gal1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等が、動物細胞用ベクターには、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が用いられる。
【0027】
選択マーカーとしては、大腸菌用ベクターには、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等が、酵母用ベクターには、Leu2、Trp1、Ura3遺伝子等が、動物細胞用ベクターには、ネオマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等が用いられる。
【0028】
ベクターは商業的に入手可能なものを使用することができるが、そのようなベクターには、宿主細胞が大腸菌である場合は、例えばpETベクター(Novagen社製) 、pTrxFUSベクター(Invitrogen社製) 、pCYBベクター(NEW ENGLAMD Bio Labs社製) 等が、宿主細胞が酵母である場合は、例えばpESP-1発現ベクター(STRATAGENE社製) 、pAUR123ベクター(宝酒造社製)、pPICベクター(Invitrogen社製) 等が、また宿主細胞が動物細胞である場合は、例えばpMAM-neo発現ベクター (CLONTECH社製) 、pCDNA3.1ベクター(Invitrogen社製) 、pBK-CMVベクター (STRATAGENE社製) 等が、宿主細胞が昆虫細胞である場合は、例えばpBacPAKベクター (CLONTECH社製) 、pAcUW31ベクター(CLONTECH社製) 、pAcP(+)IE1ベクター(Novagen社製) 等がそれぞれ挙げられる。
【0029】
また、上記ベクターには、発現されるポリペプチドの検出及び精製を容易にするためにタグを組み込んでもよい。タグの例としては、例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、マルトース結合プロテイン、ヒスチジン(His6)等が挙げられる。これらのタグに親和性のある担体(ヒスチジンであればニッケルをキレートした担体)を用いることにより、アフィニティー精製が可能となる。
【0030】
(2) 形質転換体の作製
本発明の形質転換体は、上記の組換えベクターを導入することにより得ることができる。ここで、宿主としては、目的遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、大腸菌(Escherichia coli)等のエシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌;サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母;サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ヒトGH3、ヒトFL細胞等の動物細胞;あるいはSf9、Sf21等の昆虫細胞が挙げられる。
【0031】
宿主細胞へのベクターの導入は、宿主の種類に応じて公知の方法で行うことができ、たとえば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リポフェクション法等が挙げられる。また、上記の各宿主細胞への遺伝子導入は、組換えベクターによらない方法、例えばパーティクルガン法なども用いることができる。
【0032】
3.本発明のポリペプチドの製造
本発明のポリペプチドは、前記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清のほか、培養細胞若しくは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。
【0033】
本発明の形質転換体を培地に培養する方法は、その宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0034】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、該生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスチープリカー等が用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0035】
培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、30〜37℃で6〜62時間程度行う。培養期間中、pHは7.0〜7.5に保持する。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0036】
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
【0037】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が用いられる。培養は、通常、5%CO2存在下、37℃で1〜30日行う。培養中は必要に応じてカナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0038】
培養後、ポリペプチドが菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することにより該ポリペプチドを抽出する。また、ポリペプチドが菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、蛋白質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中からポリペプチドを単離精製することができる。
【0039】
本発明において好ましい精製方法は、例えば、ポリペプチドを前記のタグ(ヒスチジン等)によって担体に結合させて回収し、その後、担体から遊離させる方法である。
【0040】
4.本発明のポリペプチド及び遺伝子を含むワクチン
本発明のポリペプチドは、豚への鼻腔内投与により、肺に炎症性の病変をもたらし、その後、強毒Mhpで攻撃により、その病変を抑制する作用を有する。従って、本発明のポリペプチドは、豚マイコプラズマ肺炎ワクチンとして用いることができる。
【0041】
また、本発明の遺伝子を適当なプラスミドDNAに組み込んだ組換えDNAもまた、豚マイコプラズマ肺炎ワクチン(DNAワクチン)として用いることができる。DNAワクチンとして用いる組換えDNAは、本発明の遺伝子に、その転写を可能とする制御領域、例えば動物細胞内での遺伝子発現のための各種プロモーター及びエンハンサーを連結することによって構築される。DNAワクチンは、抗原蛋白そのものを免疫原とする場合に比較すると、数回の接種で免疫応答が持続すること、プラスミドDNAの精製が簡便かつ安定であるという点で有利である。
【0042】
本明細書において、「ワクチン」という用語は免疫応答を生じ得る物質を意味し、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ感染による豚マイコプラズマ肺炎発症の予防ワクチン 、並びに豚マイコプラズマ肺炎の治療ワクチンを含む広い意味で用いられる。
【0043】
本発明のワクチンは、免疫反応を増強するためのアジュバントや薬学的に許容可能な担体(トランスフェクション試薬など)と一緒に配合して医薬組成物の形態で提供することができる。アジュバンドとしては、例えばフロイントの完全若しくは不完全アジュバント、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムなどのアルミニウム化合物、ムラミルペプチド、カリウムミョウバン、サポニン若しくはその誘導体、鉱物油又は植物油等を用いることができる。薬学的に許容可能な担体とは、生体の細胞中にDNAワクチンをトランスフェクションするのに適したものであり、例えば、リポソーム、金粒子、カチオン性ポリマーなどの公知のトランスフェクション試薬が挙げられる。
【0044】
ワクチン製剤には、更に、リン酸ナトリウム塩、リン酸カリウム塩、水酸化ナトリウム、塩酸等のpH調節剤、硫酸カナマイシン、エリスロマイシン等の抗生物質、乳糖、グルタミン酸カリウム、D−ソルビトール、アミノ酢酸等の安定剤、塩化ナトリウム等の等張化剤などを加えることも可能である。
【0045】
本発明のワクチンは、通常の能動免疫法で投与することができ、注射により投与する全身性ワクチン、注射によらず経鼻投与等により投与する粘膜誘導型ワクチンのいずれの態様で使用できる。
【0046】
本発明のワクチンは、豚マイコプラズマ肺炎の防御に有効な量、すなわち、該感染に対して動物、好ましくは豚において免疫を誘導する量を、単回又は反復投与により投与することができる。ワクチンの投与経路としては、鼻腔内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内、又は経口的のいずれであってもよい。また、本発明のワクチンは、他の抗原成分と混合して用いてもよい。
【0047】
ワクチンの投与量、投与回数は対象動物の種類、症状等より異なるが、例えば上記のポリペプチド量として体重1kgあたり10μg〜50μg程度を、1週間から数週間に一度の頻度で、数回投与することにより動物に防御免疫を誘導することができる。
【0048】
5.本発明のポリペプチドに対する抗体
本発明の抗体は以下の一般的な抗体調製方法によって取得できる。
(1)ポリクローナル抗体の作製
上記のようにして調製したポリペプチドを用いて動物を免疫する。免疫は、哺乳動物(例えばラット、マウス、ウサギなど)に投与することにより行われる。抗原の動物1匹当たりの投与量は、ウサギの場合、例えばアジュバントを用いて100〜500μgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。また、投与部位は静脈内、皮下又は腹腔内である。免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜3週間間隔で、1〜10回、好ましくは2〜3回免疫を行う。そして、最終の免疫日から6〜60日後に抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得る。抗体価の測定は、酵素免疫測定法(ELISA;enzyme-linked immunosorbent assay)、放射性免疫測定法(RIA;radioimmuno assay)等により行うことができる。
【0049】
抗血清から抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0050】
(2) モノクローナル抗体の作製
上記のようにして調製されたポリペプチドを用いて動物を免疫する。必要であれば、免疫を効果的に行うため、前記と同様アジュバント(市販のフロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント等)を混合してもよい。
【0051】
免疫は、哺乳動物(例えばラット、マウス、ウサギなど)に投与することにより行われる。抗原の1回の投与量は、マウスの場合1匹当たり50μgである。投与部位は、主として静脈内、皮下、腹腔内である。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜3週間間隔で、最低2〜3回行う。そして、最終免疫後、抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞が好ましい。
【0052】
次に、ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物由来の細胞であって一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株として、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地 (ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む) で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。例えば、ミエローマ細胞の具体例としてはP3X63-Ag.8.U1(P3U1)、P3/NSI/1-Ag4-1、Sp2/0-Ag14などのマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
【0053】
ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用培地中に、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを15:1〜25:1の割合で混合し、ポリエチレングリコール等の細胞融合促進剤存在下、あるいは電気パルス処理(例えばエレクトロポレーション)により融合反応を行う。細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。例えば、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培地を用いて培養し、生育する細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0054】
次に、増殖したハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウェルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法 (ELISA; enzyme-linked immunosorbent assay)、RIA (radioimmuno assay)等によってスクリーニングすることができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的に単クローン抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立する。樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法等を採用することができる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%牛胎児血清含有 RPMI-1640培地又はMEM 培地等の動物細胞培養培地中、通常の培養条件 (例えば37℃,5% CO濃度) で3〜10日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。
【0055】
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安分画法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜に選択して、又はこれらの方法を組み合わせることにより精製することができる。
【0056】
6.本発明の免疫制御用医薬
本発明のポリペプチドは、後記実施例に示すように、好中球遊走因子であるIL-8の産生を誘導し、炎症反応に関係する蛋白群発現を制御する転写因子であるNF-κBを誘導する。従って、本発明のポリペプチドは、免疫応答を惹起し、免疫反応を活性化の方向に制御する作用を有することから、免疫賦活剤として用いることができる。本免疫賦活剤は、免疫機能低下によりもたらされる疾患や病態、例えば、ガンなどの悪性腫瘍、生活習慣病(高血圧症、糖尿病など)等の治療に有効である。
【0057】
一方、本発明のポリペプチドに対する抗体は、免疫反応を抑制性の方向に制御する免疫抑制剤として用いることができ、好中球の刺激応答による炎症反応により進行する疾患や病態、例えば、創傷、悪性腫瘍(胃癌、大腸癌、乳癌、肺癌などの癌)、自己免疫疾患(慢性関節リウマチ、多発性硬化症など)、アレルギー性疾患(気管支喘息発作、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、蕁麻疹など)、炎症性疾患(炎症性腸疾患(IBD)、潰瘍性大腸炎など)等の治療に有効である。
【0058】
これらの免疫制御用医薬は、ポリペプチド等をそれ単体で、あるいは薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、当分野において公知の手法にて、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、内用液剤(懸濁剤、シロップ剤、乳剤など)、外用液剤(注入剤、含嗽・洗口剤、噴霧・エアゾール剤、吸入剤、塗布剤など)、軟膏剤、注射剤、点滴剤、坐剤等の各種製剤に製剤化して用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
(実施例1) MhpR1+2遺伝子のクローニング及び組換えMhpR1+2蛋白の発現
まず、強毒MhpE-1株の染色体遺伝子から二つの反復配列R1+2を含む遺伝子(MhpR1+2遺伝子という)をクローニングする目的で、ジーンバンクに登録されている配列を基に以下のPCR用プライマーを設計した。
Forward Primer:AAGGTAAAAGAGAAGAAGTAG(配列番号5)
Reverse Primer:TTTTTACCTAAGTCAGGAAGG(配列番号6)
【0061】
上記プライマーを用い、MhpE-1株のDNAを鋳型にしてPCRを実施した。PCRは、熱変性:94℃,30秒、アニーリング:55℃,30秒、伸長:72℃,90秒を1サイクルとして35回繰り返した。得られた増幅産物、すなわちMhpR1+2遺伝子をTAクローニングベクターpCR2.1にライゲーションし、大腸菌TOP10(Invitrogen)に形質転換した。得られた形質転換体からプラスミドを調製し、プラスミド上にあるM13プライマー配列及びT7プロモーター配列を利用して、クローニングしたMhpR1+2遺伝子の配列をサイクルシークエンス法で決定した。クローニングしたMhpR1+2遺伝子の塩基配列を配列番号1に、該遺伝子によりコードされるアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0062】
この遺伝子を発現ベクターであるpBADgIIIにクローニングするために、配列決定した遺伝子からEcoRIサイトを付加した以下のプライマーを設計した。
Forward Primer:GGGAATTCGGTAAAAGAGAAGAAGTAGATAAA(配列番号7)
Reverse Primer:GGGAATTCTTCGGTAGTTGTGTTTTGTTG(配列番号8)
【0063】
上記プライマーを用いて前述と同じPCR条件にてPCRを実施し、得られた増幅産物をEcoRIで処理した。あらかじめEcoRIで処理してあったpBADgIIIのサイトにMhpR1+2遺伝子を挿入し、pBADgIII R1+2を構築した。pBADgIIIベクターは、アラビノースの添加により発現を開始するプロモーターPBADが導入され、C末端にHisTagが付加するように設計されている蛋白発現用プラスミドである。pBADgIII R1+2を大腸菌Top10(Invitrogen)に形質転換し、形質転換体pBADgIII R1+2-23株を得た。この株をLENNOX L Broth(LB)で37℃にて4時間培養後、アラビノースを最終濃度が0.05%になるように添加し、更に37℃にて3時間培養し、蛋白発現を誘導した。集菌後、菌体をグアニジン緩衝液に浮遊し、超音波処理後、再度遠心し上清を採取した。この上清に含まれる組換えMhpR1+2蛋白(rMhpR1+2)はMhp97に対するモノクローナル抗体とウエスタンブロッティングにて検出した。rMhpR1+2のC末端にはヒスチジンタグが付加されていたため、rMhpR1+2をニッケルアフィニティーカラムで精製し、精製rMhpR1+2を得た。
【0064】
(実施例2) 豚へのrMhpR1+2投与試験
実施例1で得られた精製rMhpR1+2をワクチン抗原として用いて以下の試験を行った。
約28日齢のSPF豚にリン酸緩衝食塩液で希釈したrMhpR1+2をスプレーにて鼻腔内に投与した。翌日、剖検し肺病変を観察したところ、豚丹毒菌YS-19株投与24時間後と同様の肺病変を認めた。本病変はMhp由来の他の組換え蛋白(リポ核酸還元酵素のC末端部分蛋白:NrC)を接種した豚では認められなかった。また、rMhpR1+2投与群の豚の肺洗浄液中には、対照群(ワクチン無接種群、抗原(NrC)投与群)に比べて好中球が多数観察され(図1)、炎症性の病変と判断された。本病変は投与5日後の剖検豚には認められなかった。
【0065】
また、rMhpR1+2投与から2週後の豚を強毒MhpE-1株で3日間連続して鼻腔内に攻撃した。最終攻撃から6週後剖検し、肺病変を対照群と比較してワクチン効果を判定した。rMhpR1+2投与群では対照群に比べて有意な肺病変抑制効果を示した。これらの結果から、Mhp感染豚の肺病変形成にはP97蛋白のR1+2領域が関与していることが明らかとなった(表1)。また、この作用が免疫系を刺激し、肺病変の抑制効果をもたらすものと考えられた。
【0066】
【表1】

【0067】
(実施例3) rMhpR1+2のサイトカイン誘導能
豚末梢血単核球を分離培養後、rMhpR1+2を添加し、単核球から産生されるサイトカインを同定したところ、強力な好中球誘導因子であるインターロイキン8(IL-8)の産生が誘導されていることが明らかとなった(図2)。
【0068】
(実施例4) サイトカイン誘導エピトープの同定
豚末梢血単核球を分離培養後、実施例3と同様にして下記の合成ペプチドNO.1〜No.8を用いてIL-8産生の誘導試験を行い、エピトープの同定を試みた。図3は各合成ペプチドのアミノ酸配列とMhpP97R1+2蛋白のアミノ酸配列との関係を示す。
【0069】
ペプチドNo.1:ILPQPPA(配列番号9)
ペプチドNo.2:PAAKPEAAKPEAAKPETAKP(配列番号10/配列番号2)
ペプチドNo.3:PVAAKPEAAKPVAAKPETTKPVATNTNTN(配列番号11)
ペプチドNo.4:INVFLELVHQSEYE(配列番号12)
ペプチドNo.5:EYEEQKILKELDKT(配列番号13)
ペプチドNo.6:QFQEVKVASDQYQK(配列番号14)
ペプチドNo.7:PEAAKPEAAKPEAAKP(配列番号15)
ペプチドNo.8:PEAAKPEAAKP(配列番号16)
【0070】
その結果、ペプチドNo.2:PAAKPEAAKPEAAKPETAKPがもっとも高いIL-8産生誘導能を示した(図4)。
【0071】
(実施例5) MhpP97蛋白パラログのサイトカイン誘導能
Minionらの報告によると(J.Bacteriol., 186, 7123-7133, 2004)、Mhp染色体遺伝子上にはMhp271(塩基配列;配列番号17, アミノ酸配列;配列番号18)、Mhp385(塩基配列;配列番号19, アミノ酸配列;配列番号20)、Mhp493(塩基配列;配列番号21, アミノ酸配列;配列番号22)、Mhp684(塩基配列;配列番号23, アミノ酸配列;配列番号24)という4つのMhpP97蛋白パラログが存在する。このうち、前記ペプチドNo.2:PAAKPEAAKPEAAKPETAKPの配列に高いホモロジーをもつMhp271蛋白を大腸菌により発現させ、これを豚末梢血単核球に作用させたところ、同様にIL-8産生を誘導した(図5)。
【0072】
(実施例6) rMhpR1+2の免疫賦活活性
LPS又は抗原(rMhpR1+2)にてJ774.1細胞(マウスマクロファージ様株化細胞)を刺激した後、核分画を精製して電気泳動し、膜に転写した。この膜に、転写因子NF-κBに特異的に結合するヌクレオチド配列を有するプローブを結合させた。LPS刺激と同様にrMhpR1+2でも核内に移行したNF-κBが検出され、NF-κBが抗P65l抗体(NF-κBを構成するP65分子特異抗体)と結合し、分子量が増大したバンドが確認できた(図6)。
【0073】
NF-κBは、炎症反応に関係する蛋白群発現を制御する転写因子の中心的存在である。NF-κBは細胞質内ではIκBと結合した状態で存在するが、細胞が外からの刺激(サイトカイン、抗原、炎症)を受けると、細胞質内のIκBが即座に分解され、NF-κBの核内への流入が起こる。これが初期の免疫反応に関与するさまざまな遺伝子(TMF-α、IL-1、IL-8等)の上流にあるプロモーター領域に結合することにより、これらの遺伝子が発現するとされている。このように、NF-κBは初期の免疫反応のスイッチになっていることから、NF-κBの誘導活性を示すrMhpR1+2は、免疫賦活剤として利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】rMhpR1+2投与群、対照群の豚から採取した肺洗浄液の病理学的観察を示す。
【図2】rMhpR1+2刺激による豚末梢血単核球のサイトカイン(IFN-γ、IL-1、IL-8)の産生量を示す。
【図3】各合成ペプチド(No.1〜No.8)のアミノ酸配列とMhpP97R1+2蛋白のアミノ酸配列との関係を示す。
【図4】各合成ペプチド(No.1〜No.8)刺激による豚末梢血単核球のIL-8産生量を示す。
【図5】Mhp97蛋白パラログ(Mhp271)刺激による豚末梢血単核球のIL-8産生量を示す。
【図6】rMhpR1+2蛋白によるNF-κB誘導を確認した電気泳動写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(e)に示すポリペプチド。
(a) 配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ豚マイコプラズマ肺炎に対する防御免疫誘導活性を有するポリペプチド
(c) 配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと機能的に同等であり、かつ配列番号2に示すアミノ酸配列と相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド
(d) 配列表の配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド
(e) 配列表の配列番号4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ豚マイコプラズマ肺炎に対する防御免疫誘導活性を有するポリペプチド
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドをコードする遺伝子。
【請求項3】
以下の(f)〜(i)に示すDNAを含む遺伝子。
(f) 配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるDNA
(g) 配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ豚マイコプラズマ肺炎に対する防御免疫誘導活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(h) 配列表の配列番号3に示す塩基配列からなるDNA
(i) 配列表の配列番号3に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ豚マイコプラズマ肺炎に対する防御免疫誘導活性を有するポリペプチドをコードするDNA
【請求項4】
請求項2又は3に記載の遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の遺伝子により形質転換された形質転換体。
【請求項6】
請求項1に記載のポリペプチドの製造方法であって、請求項5に記載の形質転換体を培地に培養し、得られる培養物から該ポリペプチドを採取することを含む方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法によって製造されたポリペプチド。
【請求項8】
請求項1又は7に記載のポリペプチドを含む、豚マイコプラズマ肺炎ワクチン。
【請求項9】
請求項2又は3に記載の遺伝子を含む、豚マイコプラズマ肺炎ワクチン。
【請求項10】
アジュバンドを含む、請求項8又は9に記載のワクチン。
【請求項11】
全身性又は粘膜免疫誘導型のワクチンである、請求項8〜10のいずれかに記載のワクチン。
【請求項12】
豚マイコプラズマ肺炎に感染したか、感染する可能性のあるヒトを除く動物に、請求項8〜11のいずれかに記載のワクチンを投与することを含む、豚マイコプラズマ肺炎を予防及び/又は治療する方法。
【請求項13】
動物が豚である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
投与経路が、鼻腔内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内、又は経口的である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載のポリペプチドに対する抗体。
【請求項16】
抗体がモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体である、請求項15に記載の抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−311824(P2006−311824A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136340(P2005−136340)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(591193370)株式会社微生物化学研究所 (14)
【Fターム(参考)】