説明

象牙質知覚過敏症の治療に使用するための高グルロン酸/マンヌロン酸比を有するアルギン酸塩を含む組成物

本発明は、象牙質知覚過敏症を治療するための特定のアルギン酸塩を含む口腔ケア組成物およびそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、象牙質知覚過敏症を治療するための特定のアルギン酸塩を含む口腔ケア組成物およびそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
象牙質知覚過敏症は、集団の最大35%までに影響を及ぼすと考えられている比較的一般的な状態である。「典型的に化学、熱、触覚または浸透圧刺激に反応する露出された象牙質から生じる痛みであり、それは歯の不具合または病状のいずれかの他の形態から生じるものと説明できない」と記載されている状態は、下層の象牙質の口腔環境に対する露出から生じると考えられている((Addy M,Mostafa P,Absi EG,and Adams,D.Cervical dentine hypersensitivity:Aetiology and management with particular reference to dentifrices.In:Proceedings of Symposium on Hypersensitive Dentine.Origin and Management(ed.N.H.Rowe),pp147.E. & S Livingstone Ltd.,Edinburgh and London.1985)。
【0003】
象牙質は、歯のバルクを形成する浸透性石化組織であり、歯髄からエナメル質−象牙質またはセメント質−象牙質の結合部まで延びる多数の細管により穴があいている。エナメル質が腐食するか、または歯茎が減少すると、細管が露出し、口腔と歯髄における神経線維との間に経路を与える。知覚過敏症の象牙質は、スメア層を欠いているというのが一般的な見解であり、知覚過敏症の歯において象牙質の細管は、歯の表面で開き、歯髄まで開出していると示唆されている。
【0004】
流体力学理論(Brannstrom,M.,and Astrom,A.,A Study on the Mechanism of Pain Elicit from Dentin.Journal of Dental Research,1964,43,619)と呼ばれている、象牙質知覚過敏症における1つの理論は、外的刺激に対する細管の露出が、神経の過敏を引き起こし、不快感を導き得ると示唆している。流体力学理論の結果は、象牙質知覚過敏症が、歯の神経を低い感受性にすることによって、または外的刺激に対する神経の露出を限定するように細管を塞ぐことによって治療できることを示している。
【0005】
シュウ酸塩およびストロンチウム塩などの細管閉塞剤は、象牙質の細管を封止または遮断するのに役立ち、外的刺激の作用を減少させるように機能する。このような閉塞剤はまた、カリウム塩などの神経脱感作剤と相乗的に作用して、細管からの神経脱感作剤の自然なフラッシングを減少させるのに役立ち得る。拡散性に関する研究において、細管閉塞化合物は、生理学的に関連する外側への流体の流れに対して象牙質ディスクを通る神経脱感作剤の保持力を増加させることが示されている(Pashley DH,Mathews WG,The effects of outward forced convective flow on inward diffusion in human dentine in vitro,Arch Oral Biol,1993 41,7,679−687)。
【0006】
これらの研究は、インビボでの条件下で、象牙質の細管の閉塞が、可溶性神経脱感作化合物の内側への拡散を阻害せずに外側への流体の流れを阻害できることを示唆している。
【0007】
多くの薬剤、例えばホルムアルデヒド、フッ化ナトリウムまたはフッ化スズ、塩化亜鉛、硝酸銀、クエン酸ナトリウム/クエン酸(米国特許第4011309号明細書,Marion Laboratories Inc)、ストロンチウム塩(米国特許第3122483号明細書,Rosenthal M.W.,Block drug company)、カリウムおよび他のアルカリ金属硝酸塩(英国特許第1466930号明細書,Hodosh,M)が、象牙質知覚過敏症を治療するために提案されている。
米国特許第4775525号明細書(Pera)は、口腔衛生を促進するため、特に歯垢を除去することによって虫歯を減少させるためにアルギン酸ナトリウムを含む製剤および方法に関する。
【0008】
米国特許第5885551号明細書(Smetanaら)は、治療有効量のアルギン酸塩を過敏症の歯に投与することによって象牙質知覚過敏症を治療する方法に関する。
【0009】
現在驚くべきことに、本明細書に記載した特定のアルギン酸塩が、米国特許第5885551号明細書に記載されているものなどの他のアルギン酸塩と比べて、高い象牙質の細管閉塞特性を示すことが見出された。従って、本発明において使用するアルギン酸塩は、象牙質知覚過敏症のための改善された治療を提供すると予想される。
【0010】
アルギン酸塩はアルギン酸の塩であり、α−L−グルクロン酸およびβ−D−マンヌロン酸の残基から構成されるポリウロン酸[(C]の混合物を含むと記載されている。アルギン酸塩は、高グルロン酸アルギン酸塩または高マンヌロン酸アルギン酸塩であり得る。米国特許第5885551号明細書に記載されるアルギン酸塩は、Keltone LVCR(登録商標)およびKeltone HVCR(登録商標)として市販されているアルギン酸ナトリウムであり、各々、高マンヌロン酸アルギン酸塩である。すなわち、それらは約1:1未満、約0.6:1〜約0.7:1のα−L−グルロン酸対β−Dマンヌロン酸の比を示す。
【発明の概要】
【0011】
本発明によれば、象牙質知覚過敏症の治療に使用するための、1.0:1.0より高いα−L−グルロン酸対β−D−マンヌロン酸の比を有するアルギン酸塩を含む口腔ケア組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】種々のアルギン酸塩により送達されるHc流量の減少(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に使用するためのアルギン酸塩は、約1.2:1.0〜約1.8:1.0、例えば約1.3:1.0、約1.4:1.0、約1.5:1.0、約1.6:1.0、または約1.7:1.0の範囲などの1.0:1.0より高いα−L−グルロン酸対β−D−マンヌロン酸の比(本明細書以下でG:M比と称する)を示す。1.0:1.0のG:M比より高い高グルロン酸アルギン酸塩の例としては、ISP(International Speciality Products,Waterfield,Tadworth Surrey.UK)により製造されている、Manugel LBA、Manugel GHBおよびManugel DBPとして市販されているものが挙げられ、それらの各々は、約1.5:1.0のG:M比を有する。一実施形態において、アルギン酸塩はManugel LBAである。最も好適には、本発明に使用するためのアルギン酸塩は、約1.5:1.0のα−L−グルロン酸対β−D−マンヌロン酸の比を含む。
【0014】
本発明に使用するためのアルギン酸塩は、高分子量範囲(約2.05×10〜約3×10ダルトン)(例えばManugel DPB);中間分子量範囲(約1.38×10〜約2×10ダルトン)(例えばManugel GHB)または低分子量範囲(約2×10〜約1.35×10ダルトン)(例えばManugel LBA)などの任意の数の平均分子量範囲(例えば約1×10ダルトン〜約1×10ダルトン)を示し得る。一実施形態において、アルギン酸塩は、約2×10〜約1.35×10ダルトンの平均分子量範囲を含む。分子量は、当該技術分野において公知の多くの方法、例えばマルチレーザー光散乱を用いるサイズ排除クロマトグラフィーにより決定され得る。
【0015】
本発明に係る組成物に使用するためのアルギン酸塩は、Brookfield粘度計(Brookfield Engineering Laboratories,Inc.,11 Commerce Boulevard,Middlesboro,MA.USA)で、37℃にて1%w/w水溶液として測定した場合、約1〜約500センチポイズ(cP)の範囲の粘度を含む。より好適には、本発明に使用するためのアルギン酸塩は、Brookfield粘度計で、37℃にて1%w/w水溶液として測定した場合、低い粘度、好適には約1〜約100cPの範囲、より好適には約1〜約50cPの範囲、例えば約1〜約20cPを有する。特に、高い比のα−L−グルロン酸対β−D−マンヌロン酸グルロン酸比(1.0:1.0より高い)および本明細書に記載の低い粘度、すなわち約1〜約100cPの範囲(例えばManugel LBA)を含むアルギン酸塩が、これらの特徴を含まない他のアルギン酸塩と比べて、高いレベルの細管閉塞を示すことを見出した。
【0016】
本発明の組成物は、好適には、約0.5〜約6.0%wtのアルギン酸塩、例えば約1.0%〜約3.0%wtのアルギン酸塩を含む。
【0017】
本発明の組成物は、このような目的のために口腔ケア組成物の技術分野において従来使用されているものから選択される研磨剤、界面活性剤、増粘剤、保湿剤(humectant)、香味剤、甘味剤、乳白剤または着色剤、防腐剤および水などの適切な製剤を含む。このような剤の例は欧州特許第929287号明細書に記載されている。
【0018】
本発明に使用するための好適な界面活性剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)、水素化ヒマシ油、ソルビタンエステル、ポリエチレン−ポリプロピレントリブロック共重合体(例えばポロキサマー(商標))が挙げられる。好ましい界面活性剤としては、PEG−40またはPEG−60水素化ヒマシ油およびソルビタンエステルが挙げられる。
【0019】
本発明の組成物に使用するための好適な保湿剤(humectant)としては、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコール、またはそれらの混合物が挙げられ、それらの保湿剤は5〜70%の範囲で存在してもよい。
【0020】
本発明に使用するための好適な香味剤としては、ペパーミント、スペアミント、および果実フレーバーが挙げられる。所望の場合、食用有機酸、例えばクエン酸などのさらなる唾液刺激剤が含まれてもよい。
【0021】
本発明に使用するための好適な防腐剤としては、パラベン(メチルおよびプロピルパラベン)、安息香酸ナトリウム、およびソルビン酸カリウムが挙げられる。
【0022】
本発明の組成物はさらに、25〜3500ppmのフッ化物、好ましくは100〜1500ppmを与えるような量で、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ(II)またはアミンフッ化物によって与えられるものなどのフッ化物イオン源を含んでもよい。
【0023】
本発明に使用するための好適なさらなる成分としては、再石灰化剤、抗菌剤、虫歯予防剤、抗歯石剤(anticalculus agent)、保湿剤(moisturising agent)、息をさわやかにする剤(breath freshening agent)および脱感作剤が挙げられる。
【0024】
本発明に使用するための好適な抗菌剤としては、クロルヘキシジン、セチルピリジニウム塩化物、亜鉛塩またはトリクロサンが挙げられる。好ましい抗菌剤は、セチルピリジニウム塩化物、クロロヘキシジンおよび亜鉛塩である。
【0025】
脱感作剤の例としては、例えば国際公開第02/15809号に記載されている細管遮断剤または神経脱感作剤およびそれらの混合物が挙げられる。好適な脱感作剤としては、塩化ストロンチウム、酢酸ストロンチウムもしくは硝酸ストロンチウムなどのストロンチウム塩またはクエン酸カリウム、塩化カリウム、炭酸水素カリウム、グルコン酸カリウムおよび特に硝酸カリウムなどのカリウム塩が挙げられる。
【0026】
本発明の口腔ケア組成物は、典型的に、歯磨き粉、噴霧剤、口内洗浄液、ゲル、ドロップ剤(lozenge)、チューイングガム、錠剤、トローチ剤(pastille)、およびインスタント粉末(instant powder)の形態で製剤化される。一実施形態において、本発明の組成物は口内洗浄液または歯磨き剤の形態である。一実施形態において、本発明の組成物は口内洗浄液である。
【0027】
口内洗浄液および口内噴霧剤組成物は、使用の直前に使用者が希釈するための濃縮液として「即時使用(ready to use)」形態、または使用の直前に使用者が溶解するための錠剤もしくは小袋中のインスタント粉末などの固体形態で提供されてもよい。錠剤は好適には主要成分としてキシリトールおよび/またはソルビトールを用いて調製されてもよい。小袋および錠剤は、溶解中にさらに口内洗浄液を提供するように、または好適な発泡性の結合剤、例えば炭酸ナトリウム/重炭酸ナトリウムおよびクエン酸、発泡性口内洗浄液を組み込むことによって製剤化されてもよい。
【0028】
本発明に係る組成物は、都合の良い任意の順序で、必要な場合、所望の値にpHを調整して、適切な相対量で成分を混合することによって調製され得る。
【0029】
本発明に係る組成物は、経口に許容可能なpH、典型的には約pH5〜10、より好ましくはpH5.5〜8の範囲を有する。
【0030】
本発明のさらなる態様において、本明細書上記のアルギン酸塩を含む、象牙質知覚過敏症の治療に使用するための口腔ケア組成物が提供される。
【0031】
本発明のさらなる態様において、本明細書上記のアルギン酸塩を含む組成物の有効量を、それを必要とする個体に適用することを含む、象牙質知覚過敏症を治療する方法が提供される。
【実施例】
【0032】
本発明を以下の実施例によりさらに説明する。
【0033】
実施例1−水力学的コンダクタンス(HC)測定
Hcモデルは、Pashleyら(Greenhill JD,Pashley DH.The effects of desensitising agents on the hydraulic conductance of human dentin in vitro.J.Dent Res 1981;60:686−698)によるオリジナルのデザインに基づく。エッチングした象牙質ディスクをヒトの臼歯から準備し、スプリットチャンバ装置内に歯髄を下にして置く。チャンバの底部は、模倣象牙質流体を含有する流体リザーバーに接続されている単一の入口部を除いて閉じられており、チャンバの上部は空気に対して開口している。模倣象牙質流体を含有する圧力容器の内側の圧力を1p.s.iまで増加させることによって底部の入口部を介して静水圧を象牙質ディスクに適用する。安定化時間の後、象牙質ディスクを通過する流体の流速を測定する。
【0034】
プロトコル
象牙質透過率を、ベースラインにて、および各剤(水中に分散した3%w/wアルギン酸塩)での処理後、各試料について水力学的コンダクタンスの関数として測定した。各ディスクはその独自のコントロールとしての機能を果たした。処理する前に、各試料の水力学的コンダクタンスを唾液薄膜の適用後に測定した。この値を100%の透過率を表すように設定し、ディスクのベースライン透過率と呼ぶ。シーラントの適用後、水力学的コンダクタンスを評価した(5分にわたって)。この値を使用して、特定のシーラントについての透過率減少の割合を算出した。処理の後、ディスクを模倣した経口チャレンジに供した。順に、これらは(i)10%クエン酸での5秒のリンス、(ii)0.17%KClでリンスしながら30秒のブラシ、および(iii)10秒のパージ圧力の適用(ディスクの歯髄側上に12p.s.i)。各処理群において3個の象牙質ディスクを使用した。
【0035】
結果
Hc実験から得た結果を表1に詳細に示す。Hcモデルにおける象牙質透過率の減少の初期の割合を図1のグラフに示す。象牙質透過率(水力学的コンダクタンス)の80%以上の減少の達成は望ましい(「良」と記載している)細管閉塞システムとみなす。
【表1】

【0036】
で指定したアルギン酸塩は、低いG:M比(すなわち1.0:1.0未満)を含み、本発明の範囲外であるが、比較目的のために本明細書に含まれる。
【0037】
試験したアルギン酸塩のG:M比を以下に示す。
【表2】

【0038】
実施例2−典型的な歯磨き剤組成
【表3】

【0039】
実施例3−典型的な口内洗浄液組成
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
象牙質知覚過敏症の治療に使用するための、1.0:1.0より高いα−L−グルロン酸対β−D−マンヌロン酸の比を有するアルギン酸塩を含む口腔ケア組成物。
【請求項2】
前記アルギン酸塩が、約1.2:1.0〜1.8:1.0のα−L−グルロン酸対β−D−マンヌロン酸の比を有する、請求項1に記載の口腔ケア組成物。
【請求項3】
前記アルギン酸塩が、約1.4:1.0〜1.8:1.0のα−L−グルロン酸対β−D−マンヌロン酸の比を有する、請求項1または請求項2に記載の口腔ケア組成物。
【請求項4】
前記アルギン酸塩が、Brookfield粘度計で、37℃にて1%w/w水溶液として測定した場合、1〜100cPの範囲の粘度を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の口腔ケア組成物。
【請求項5】
前記アルギン酸塩が、Manugel LBA、Manugel DMBまたはそれらの混合物から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の口腔ケア組成物。
【請求項6】
前記アルギン酸塩が、Manugel LBAである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の口腔ケア組成物。
【請求項7】
前記アルギン酸塩が、前記組成物の約0.5%wt〜約6%wtの量で存在する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の口腔ケア組成物。
【請求項8】
口内洗浄液の形態である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の口腔ケア組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の口腔ケア組成物を調製する方法であって、都合の良い任意の順序で必要な割合で前記口腔ケア組成物の成分を混合することを含む方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物の有効量を、それを必要とする個体に適用することを含む、象牙質知覚過敏症を治療する方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−514307(P2013−514307A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543700(P2012−543700)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069699
【国際公開番号】WO2011/073229
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【Fターム(参考)】