説明

負極および電池

【課題】サイクル特性を向上させることができる負極およびそれを用いた電池を提供する。
【解決手段】負極集電体11に、導電性接着層12を介して負極活物質層13が設けられている。導電性接着層12は、導電性粒子と結着材とを有している。導電性粒子:結着材の質量比は70:30から95:5の範囲内が好ましい。導電性粒子の平均粒子径は、0.01μm以上20μm以下の範囲内が好ましい。負極活物質層13は、構成元素としてSiを含む非晶質相を有している。負極活物質層13は、更に構成元素として酸素を含有し、その含有量は5原子数%以上40原子数%以下の範囲内であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素(Si)を構成元素として含む負極およびそれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器の高性能化および多機能化に伴い、それらの電源である二次電池の高容量化が要求されている。この要求に応える二次電池としてはリチウムイオン二次電池があるが、現在実用化されているものは、負極に黒鉛を用いているので、電池容量は飽和状態にあり、大幅な高容量化は難しい。そこで、負極にケイ素を用いることにより高容量化を図ることが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−171876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ケイ素は充放電に伴う膨張収縮が大きいので、充放電を繰り返すと、膨張収縮による応力により負極集電体から負極活物質層が脱落し、集電性が低下してサイクル特性が低下してしまうという問題があった。
【0004】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、負極集電体と負極活物質層との接着性および集電性を向上させることができる負極および電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による負極は、負極集電体に、導電性粒子および結着材を有する導電性接着層を介して、負極活物質層が設けられ、この負極活物質層は、構成元素としてケイ素を含む非晶質相を有するものである。
【0006】
本発明による電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、負極は、負極集電体に、導電性粒子および結着材を有する導電性接着層を介して、負極活物質層が設けられ、この負極活物質層は、構成元素としてケイ素を含む非晶質相を有するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の負極によれば、導電性接着層を介して、ケイ素を含む非晶質相を有する負極活物質層を設けるようにしたので、負極活物質層の膨張収縮による応力を緩和することができ、負極集電体と負極活物質層との接着性を向上させることができる。また、集電性も向上させることができる。よって、この負極を用いた本発明の電池によれば、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0008】
特に、導電性接着層における導電性粒子と結着材との割合を、導電性粒子:結着材の質量比で70:30から95:5の範囲内とすれば、また、導電性粒子の平均粒子径を、0.01μm以上20μm以下の範囲内とすれば、より高い効果を得ることができる。
【0009】
更に、負極集電体を厚みが50μm以下の銅箔または銅合金箔により構成し、その十点平均粗さRzを1.0μm以上4.0μm以下とするようにすれば、また、負極活物質層が構成元素として酸素を含有し、その含有量を5原子数%以上40原子数%以下とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係る負極10の断面構成を表したものである。負極10は、例えば、負極集電体11に、導電性接着層13を介して、ケイ素を構成元素として含む負極活物質層12が設けられた構造を有している。導電性接着層12および負極活物質層13は、負極集電体11の両面に形成されていてもよく、片面に形成されていてもよい。
【0012】
負極集電体11は、高い導電性を有する金属材料により構成することが好ましく、特に、銅箔または同合金箔により構成することが好ましい。負極集電体11厚みは、例えば50μm以下とすることが好ましい。厚みがあまり厚いと負極活物質層13の膨張収縮により応力がかかり、負極集電体11と負極活物質層13との接着性が低下してしまうからである。また、負極集電体11の厚みは、20μm以上であることが好ましい。厚みがあまり薄いと負極活物質層13を支える能力が低下してしまうからである。
【0013】
負極集電体11の表面は粗化されていることが好ましい。負極集電体11と導電性接着層12との接着性を向上させることができるからである。負極集電体11の表面粗さは、JIS B0601付属書1記載の十点平均粗さRzで、1.0μm以上4.0μm以下の範囲内であることが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。なお、負極集電体11の表面粗さは、導電性接着層12を介して負極活物質層13が設けられている領域において、少なくとも上記範囲内であればよい。
【0014】
導電性接着層12は、例えば、導電性粒子と結着材とを有しており、これにより導電性を確保しつつ、負極活物質層13の膨張収縮による応力を緩和し、負極集電体11と負極活物質層13との接着性を向上させることができるようになっている。導電性接着層12の厚みは、0.1μm以上20μm以下が好ましい。あまり薄いと導電性接着層12による応力緩和効果を得ることができず、あまり厚いと導電性が低下してしまうからである。
【0015】
導電性粒子としては、金属粒子あるいは炭素粒子が挙げられ、それらの1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。金属粒子としては、例えば、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),スズ(Sn),ビスマス(Bi),亜鉛(Zn),ニッケル(Ni),パラジウム(Pd),クロム(Cr),インジウム(In),アンチモン(Sb),アルミニウム(Al),ゲルマニウム(Ge),タングステン(W),モリブデン(Mo),マンガン(Mn),チタン(Ti)あるいはマグネシウム(Mg) の単体または合金よりなるものが挙げられる。炭素粒子としては、例えば、カーボンブラックが挙げられる。導電性粒子の平均粒子径は、0.01μm以上20μm以下の範囲内が好ましい。平均粒子径があまり小さいと導電性粒子が凝集して、導電性に分布が生じてしまい、平均粒子径があまり大きいと導電性粒子間の接触性が低下し、導電性が低下してしまうからである。
【0016】
結着材としては、例えば、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が挙げられ、そのいずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。熱可塑性樹脂としては、水素結合性の官能基を有するものが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。これは、金属との間で水素結合をすることにより濡れ性がよくなるためであると考えられる。水素結合性を有する官能基としては、例えば、水素基、アミド基、ウレア基、イミド基、エステル基、エーテル基、チオエーテル基、スルホン基、あるいはケトン基が挙げられる。水素結合性を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、熱可塑性ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリアミド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリビニルエーテル、ポリサルホン、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマーサル、ポリ酢酸ビニル、メタクリル樹脂、あるいはアイオノマー樹脂が挙げられる。
【0017】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、メラミン樹脂、あるいはウレア樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビルフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、テトラヒドロキシフェノルエタン型エポキシ樹脂、ポリアルコールポリグリコール型エポキシ樹脂、グリセリントリエーテル型エポキシ樹脂、ポイオレフィン型エポキシ樹脂、エポキシ化大豆油、シクロペンタジエンジオキシド、あるいはビニルシクロヘキセンジオキシドが挙げられる。中でも、ビルフェノールA型エポキシ樹脂あるいはノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0018】
導電性接着層12における導電性粒子と結着材との割合は、導電性粒子:結着材の質量比で、70:30から95:5の範囲内であることが好ましい。導電性粒子の割合を多くすると導電性は向上するが接着性は低下してしまい、逆に結着材の割合を多くすると接着性は向上するが導電性は低下してしまうからである。
【0019】
負極活物質層13は、ケイ素を含む非晶質相を有していることが好ましい。膨張収縮による応力を小さくすることができるからである。また、負極活物質層13の少なくとも一部は、気相法により形成されたものであることが好ましい。気相法により負極活物質層13を形成した場合には、負極活物質層13の膨張収縮により負極集電体11にかかる応力が大きいが、導電性接着層12により応力が緩和され、優れた特性を得ることができるからである。
【0020】
負極活物質層13において、ケイ素は単体で含まれていても、合金で含まれていても、化合物で含まれていてもよい。ケイ素以外の構成元素としては、例えば、スズ,ニッケル,銅,鉄(Fe),コバルト(Co),マンガン,亜鉛,インジウム,銀,チタン,ゲルマニウム,ビスマス,アンチモン,あるいはクロムが挙げられる。また、負極活物質層13は、構成元素として酸素(O)を含むことが好ましい。負極活物質層13の膨張収縮を抑制し、応力を緩和することができるからである。負極活物質層13に含まれる酸素の少なくとも一部は、ケイ素と結合していることが好ましく、結合の状態は一酸化ケイ素でも二酸化ケイ素でも、あるいはそれ以外の準安定状態でもよい。負極活物質層13における酸素の含有量は、5原子数%以上40原子数%以下の範囲内であることが好ましい。これよりも少ないと十分な効果を得ることができず、これよりも多いと不可逆容量が増加してしまうからである。なお、負極活物質層13には、充放電により電解液などが分解して負極活物質層13の表面に形成される被膜は含めない。よって、負極活物質層13における酸素の含有量を算出する際には、この被膜に含まれる酸素は含めない。
【0021】
この負極10は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0022】
まず、例えば、導電性粒子と結着材とを分散媒を用いて混合し、負極集電体11に塗布したのち、分散媒を除去することにより導電性結着層12を形成する。次いで、導電性結着層12の上に、例えば気相法により負極活物質層13を成膜する。気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法が挙げられ、具体的には、真空蒸着法,スパッタ法,イオンプレーティング法,レーザーアブレーション法,CVD(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長)法などが挙げられる。その際、負極活物質層13に酸素を添加する場合には、例えば雰囲気中に酸素を導入する。これにより図1に示した負極10が得られる。
【0023】
また、負極活物質層13は、例えば、ケイ素を構成元素として含む非晶質の粉末を用い、必要に応じて結着材と混合して導電性接着層12の上に塗布することにより形成するようにしてもよく、そののち結晶質化しない程度に熱処理を行うようにしてもよい。更に、これらと気相法とを組み合わせて負極活物質層13を形成するようにしてもよい。
【0024】
この負極10は、例えば、次のような二次電池に用いられる。
【0025】
図2は、その二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、いわゆるコイン型といわれるものであり、外装カップ21に収容された負極10と、外装缶22の内に収容された正極23とが、セパレータ24を介して積層されたものである。
【0026】
外装カップ21および外装缶22の周縁部は絶縁性のガスケット25を介してかしめることにより密閉されている。外装カップ21および外装缶22は、例えば、ステンレスあるいはアルミニウムなどの金属によりそれぞれ構成されている。
【0027】
正極23は、例えば、正極集電体23Aと、正極集電体23Aに設けられた正極活物質層23Bとを有しており、正極活物質層23Bの側が負極活物質層12と対向するように配置されている。正極集電体23Aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどにより構成されている。
【0028】
正極活物質層23Bは、例えば、正極活物質としてリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着材を含んでいてもよい。リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、一般式Lix MIO2 で表されるリチウム含有金属複合酸化物が好ましい。リチウム含有金属複合酸化物は、高電圧を発生可能であると共に、高密度であるため、二次電池の更なる高容量化を図ることができるからである。なお、MIは1種類以上の遷移金属であり、例えばコバルトおよびニッケルのうちの少なくとも一方が好ましい。xは電池の充放電状態によって異なり、通常0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム含有金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2 あるいはLiNiO2 などが挙げられる。
【0029】
なお、正極23は、例えば、正極活物質と導電材と結着材とを混合して合剤を調製し、この合剤を分散媒に分散させて合剤スラリーを作製し、この合剤スラリーを金属箔よりなる正極集電体23Aに塗布し乾燥させたのち、圧縮成型し正極活物質層23Bを形成することにより作製することができる。
【0030】
セパレータ24は、負極10と正極23とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ24は、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンにより構成されている。
【0031】
セパレータ24には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含んでおり、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、1,3−ジオキソール−2−オン、4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいはハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体などの非水溶媒が挙げられる。溶媒はいずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。中でも、1,3−ジオキソール−2−オンおよび4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンの少なくとも一方を用いるようにすれば、電解液の分解反応を抑制することができるので好ましい。また、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を用いるようにしても、電解液の分解反応を抑制することができるので好ましい。
【0032】
ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体は、環式化合物でも鎖式化合物でもよいが、環式化合物の方がより高い効果を得ることができるので好ましい。このような環式化合物としては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0033】
電解質塩としては、例えば、LiPF6 ,LiCF3 SO3 あるいはLiClO4 などのリチウム塩が挙げられる。電解質塩は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
この二次電池は、例えば、負極10、電解液が含浸されたセパレータ24および正極23を積層して、外装カップ21と外装缶22との中に入れ、それらをかしめることにより製造することができる。
【0035】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極23からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極10に吸蔵される。放電を行うと、例えば、負極10からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極23に吸蔵される。この充放電に伴い負極活物質層13は膨張収縮するが、本実施の形態では、負極活物質層13にケイ素を含む非晶質相を有すると共に、導電性結着層12を設けるようにしたので、負極活物質層13の膨張収縮による応力が緩和される。
【0036】
本実施の形態に係る負極10は、次のような二次電池に用いてもよい。
【0037】
図3は、その二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、リード31,32が取り付けられた電極巻回体30をフィルム状の外装部材41内部に収容したものであり、小型化,軽量化および薄型化が可能となっている。リード31,32は、それぞれ、外装部材41の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。リード31,32は、例えば、アルミニウム,銅,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0038】
外装部材41は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材41は、例えば、ポリエチレンフィルム側と電極巻回体30とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材41とリード31,32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム42が挿入されている。密着フィルム42は、リード31,32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0039】
なお、外装部材41は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
【0040】
図4は、図3に示した電極巻回体30のI−I線に沿った断面構造を表すものである。電極巻回体30は、負極10と正極33とをセパレータ34および電解質層35を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ36により保護されている。
【0041】
負極10は、負極集電体11の両面に導電性結着層12を介して負極活物質層13が設けられた構造を有している。正極33も、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられた構造を有しており、正極活物質層33Bと負極活物質層12とが対向するように配置されている。正極集電体33A,正極活物質層33Bおよびセパレータ34の構成は、それぞれ上述した正極集電体23A,正極活物質層23Bおよびセパレータ24と同様である。
【0042】
電解質層35は、高分子化合物よりなる保持体に電解液を保持させたいわゆるゲル状の電解質により構成されている。ゲル状の電解質は高いイオン伝導率を得ることができると共に、電池の漏液を防止することができるので好ましい。電解液の構成は、図2に示したコイン型の二次電池と同様である。高分子材料としては、例えばポリフッ化ビニリデンが挙げられる。
【0043】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0044】
まず、負極10および正極33のそれぞれに、保持体に電解液を保持させた電解質層35を形成し、リード31,32を取り付ける。次いで、電解質層35が形成された負極10と正極33とをセパレータ34を介して積層し、巻回して、最外周部に保護テープ36を接着して電極巻回体30を形成する。続いて、例えば、外装部材41の間に電極巻回体30を挟み込み、外装部材41の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、リード31,32と外装部材41との間には密着フィルム42を挿入する。これにより、図3,4に示した二次電池が完成する。
【0045】
また、次のようにして製造してもよい。まず、負極10および正極33のそれぞれにリード31,32を取り付けたのち、負極10と正極33とをセパレータ34を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ36を接着して、電極巻回体30の前駆体である巻回体を形成する。次いで、この巻回体を外装部材41に挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状としたのち、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を、外装部材41の内部に注入する。続いて、外装部材41の開口部を真空雰囲気下で熱融着して密封し、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル状の電解質層35を形成する。これにより、図3,4に示した二次電池が完成する。
【0046】
この二次電池の作用は、図2に示したコイン型の二次電池と同様である。
【0047】
このように本実施の形態によれば、導電性接着層12を介して、ケイ素を含む非晶質相を有する負極活物質層13を設けるようにしたので、負極活物質層13の膨張収縮による応力を緩和することができ、負極集電体11と負極活物質層13との接着性を向上させることができる。また、集電性も向上させることができる。よって、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0048】
特に、導電性接着層12における導電性粒子と結着材との割合を、導電性粒子:結着材の質量比で70:30から95:5の範囲内とすれば、また、導電性粒子の平均粒子径を、0.01μm以上20μm以下の範囲内とすれば、より高い効果を得ることができる。
【0049】
更に、負極集電体11の厚みを50μm以下、その十点平均粗さRzを1.0μm以上4.0μm以下とするようにすれば、また、負極活物質層13が構成元素として酸素を含有し、その含有量を5原子数%以上40原子数%以下とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【実施例】
【0050】
更に、本発明の具体的な実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【0051】
(実施例1−1)
図1に示した負極10を作製した。まず、導電性粒子として、平均粒子径が2μmの銀粒子を用意すると共に、結着材として、熱可塑性ポリイミドとビスフェノールA型エポキシ樹脂とを1:1の質量比で混合したものを用意した。次いで、導電性粒子80質量%と、結着材20質量%とを、イソプロピルアルコールを分散媒として混合し、表面粗さRz1.0μm、厚み20μmの銅箔よりなる負極集電体11の上に塗布したのち、イソプロピルアルコールを揮発させて厚み1μmの導電性結着層12を形成した。
【0052】
続いて、導電性結着層12の上に、電子ビーム蒸着法によりケイ素を蒸着して厚み6μmの負極活物質層13を成膜した。その際、雰囲気中に酸素ガスを導入し、負極活物質層13に酸素を添加した。作製した負極10について、X線回折測定およびラマン分光測定を行ったところ、負極活物質層13におけるケイ素の結晶性は非晶質であることが確認された。また、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)により元素分析を行ったところ、負極活物質層13Bにおける酸素の含有量は5原子数%であった。更に、作製した負極10について、断面をミクロトームにより切り出し、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)とEDXとを併用して構造を調べたところ、負極集電体11と負極活物質層13との間に、導電性結着層12が形成されていることが確認された。
【0053】
実施例1−1に対する比較例1−1として、導電性結着層を形成せずに、負極集電体に負極活物質層を直接成膜したことを除き、他は実施例1−1と同様にして負極を作製した。
【0054】
比較例1−2として、負極集電体に導電性結着層を介して負極活物質層を成膜したのち、800℃で10時間の加熱処理を行ったことを除き、他は実施例1−1と同様にして負極を作製した。比較例1−2の負極についてX線回折測定を行ったところ、ケイ素に帰属するピークがみられた。すなわち、負極活物質層におけるケイ素の結晶性は非晶質から結晶質に変化していることが確認された。
【0055】
比較例1−3として、負極活物質層の形成方法を変えたことを除き、他は実施例1−1と同様にして負極を作製した。負極活物質層は、結晶性ケイ素粒子と、ポリフッ化ビニリデンと、分散媒とを混合して導電性結着層の上に塗布し、分散媒を揮発させたのち、熱処理することにより形成した。
【0056】
比較例1−4として、導電性結着層を形成せずに、比較例1−3と同様にして負極活物質層を形成したことを除き、他は実施例1−1と同様にして負極を作製した。すなわち、実施例1−1と同様の負極集電体を用い、結晶性ケイ素粉末を塗布して熱処理することにより負極活物質層を形成した。
【0057】
次いで、作製した実施例1−1および比較例1−1〜1−4の負極10を用いて、図2に示したようなコイン型の試験電池を作製した。対極はリチウム金属板とし、セパレータには多孔質ポリプロピレンフィルムを用いると共に、電解液には炭酸エチレンと炭酸ジエチルとを炭酸エチレン:炭酸ジエチル=1:2の体積比で混合した溶媒にLiPF6 を1mol/lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0058】
作製した実施例1−1および比較例1−1〜1−4の試験電池について、1mA/cm2 の電流密度で充放電を50サイクル行い、1サイクル目に対する50サイクル目の放電容量の割合を放電容量維持率として求めた。その結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示したように、導電性接着層12を設けると共に、負極活物質層13におけるケイ素の結晶性を非晶質とした実施例1−1によれば、導電性接着層を設けなかった比較例1−1に比べて放電容量維持率を大幅に向上させることができた。これに対して、負極活物質層におけるケイ素の結晶性を結晶質とした比較例1−2によれば、導電性接着層を設けても放電容量維持率を向上させることができなかった。また、負極活物質層を結晶性ケイ素粉末を用いて焼成により形成した比較例1−3においても、導電性接着層を設けなかった比較例1−4と比べて、放電容量維持率を向上させることができなかった。
【0061】
すなわち、導電性接着層12を設けると共に、負極活物質層13にケイ素を含む非晶質相を有するようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0062】
(実施例2−1−1〜2−6−3)
導電性接着層12における導電性粒子と結着材との混合割合および導電性接着層12の厚みを表2に示したように変えたことを除き、他は実施例1−1と同様にして負極10および試験電池を作製した。なお、実施例2−3−3は実施例1−1と同一である。作製した実施例2−1−1〜2−6−3の試験電池についても、実施例1−1と同様にして放電容量維持率を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示したように、導電性接着層12における導電性粒子の割合を大きくするに従い放電容量維持率は向上したのち低下する傾向がみられ、また、導電性接着層12の厚みを厚くするに従い放電容量維持率は向上したのち低下する傾向がみられた。すなわち、導電性接着層12における導電性粒子と結着材との割合を、導電性粒子:結着材の質量比で70:30から95:5の範囲内とすれば、また、導電性接着層12の厚みを0.1μm以上20μm以下の範囲内とすれば、優れた効果を得られることが分かった。
【0065】
(実施例3−1〜3−19)
導電性接着層12における導電性粒子の種類を表3に示したように変えたことを除き、他は実施例1−1と同様にして負極10および試験電池を作製した。作製した実施例3−1〜3−19の試験電池についても、実施例1−1と同様にして放電容量維持率を求めた。得られた結果を実施例1−1の結果と共に表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
表3に示したように、いずれも実施例1−1と同様に高い放電容量維持率を得ることができた。すなわち、いずれの導電性粒子を用いても、優れた効果を得られることが分かった。
【0068】
(実施例4−1〜4−7)
導電性接着層12における導電性粒子の平均粒子径を表4に示したように変えたことを除き、他は実施例1−1と同様にして負極10および試験電池を作製した。作製した実施例4−1〜4−7の試験電池についても、実施例1−1と同様にして放電容量維持率を求めた。得られた結果を実施例1−1の結果と共に表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
表4に示したように、導電性粒子の平均粒子径を大きくするに従い放電容量維持率は向上したのち低下する傾向がみられた。すなわち、導電性粒子の平均粒子径を0.01μm以上20μm以下の範囲内とすれば、優れた効果を得られることが分かった。
【0071】
(実施例5−1〜5−6)
導電性接着層12において結着材として用いる熱硬化性樹脂の種類を表5に示したように変えたことを除き、他は実施例1−1と同様にして負極10および試験電池を作製した。作製した実施例5−1〜5−6の試験電池についても、実施例1−1と同様にして放電容量維持率を求めた。得られた結果を実施例1−1の結果と共に表5に示す。
【0072】
【表5】

【0073】
表5に示したように、いずれも実施例1−1と同様に高い放電容量維持率を得ることができた。すなわち、樹脂の種類を変えても、優れた効果を得られることが分かった。
【0074】
(実施例6−1−1〜6−2−4)
負極集電体11の表面粗さRzまたは厚みを表6に示したように変えたことを除き、他は実施例1−1と同様にして負極10および試験電池を作製した。なお、実施例6−1−2および実施例6−2−1は実施例1−1と同一である。作製した実施例6−1−1〜6−2−4の試験電池についても、実施例1−1と同様にして放電容量維持率を求めた。得られた結果を表6に示す。
【0075】
【表6】

【0076】
表6に示したように、負極集電体11の表面粗さRzを大きくするに従い放電容量維持率は向上したのち低下する傾向がみられ、負極集電体11の厚みを厚くすると放電容量維持率は低下する傾向がみられた。すなわち、負極集電体11の表面粗さRzを1.0μm以上4.0μm以下の範囲内とすれば、また、負極集電体11の厚みを20μm以上50μm以下の範囲内とすれば、優れた効果を得られることが分かった。
【0077】
(実施例7−1〜7−4)
負極活物質層13における酸素の含有量を表7に示したように変えたことを除き、他は実施例1−1と同様にして負極10および試験電池を作製した。なお、酸素の含有量は、負極活物質層13成膜する際に導入する酸素ガスの量を調節することにより制御し、分析は実施例1−1と同様にして行った。作製した実施例7−1〜7−4の試験電池についても、実施例1−1と同様にして放電容量維持率を求めた。得られた結果を実施例1−1の結果と共に表7に示す。
【0078】
【表7】

【0079】
表7に示したように、酸素の含有量を増加させるに従い放電容量維持率は向上したのち低下する傾向がみられた。すなわち、負極活物質層13における酸素の含有量を5原子数%以上40原子数%以下の範囲内とすれば、優れた効果を得られることが分かった。
【0080】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、液状の電解質である電解液、またはいわゆるゲル状の電解質を用いる場合について説明したが、他の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、イオン伝導性を有する固体電解質、固体電解質と電解液とを混合したもの、あるいは固体電解質とゲル状の電解質とを混合したものが挙げられる。
【0081】
なお、固体電解質には、例えば、イオン伝導性を有する高分子化合物に電解質塩を分散させた高分子固体電解質、またはイオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などよりなる無機固体電解質を用いることができる。高分子固体電解質の高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物、アクリレート系高分子化合物を単独あるいは混合して、または共重合させて用いることができる。また、無機固体電解質としては、窒化リチウムあるいはリン酸リチウムなどを含むもの用いることができる。
【0082】
また、上記実施の形態および実施例では、コイン型または巻回ラミネート型の二次電池について説明したが、本発明は、円筒型,角型,ボタン型,薄型,大型あるいは積層ラミネート型などの他の形状を有する二次電池についても同様に適用することができる。加えて、二次電池に限らず、一次電池についても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の一実施の形態に係る負極の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した負極を用いた二次電池の構成を表す断面図である。
【図3】図1に示した負極を用いた他の二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【図4】図3に示した二次電池のI−I線に沿った構造を表す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
10…負極、11…負極集電体、12…導電性結着層、13…負極活物質層、21…外装カップ、22…外装缶、23,33…正極、23A,33A…正極集電体、23B,33B…正極活物質層、24,34…セパレータ、25…ガスケット、31,32…リード、30…電極巻回体、35…電解質層、36…保護テープ、41…外装部材、42…密着フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体に、導電性粒子および結着材を有する導電性接着層を介して、負極活物質層が設けられ、
この負極活物質層は、構成元素としてケイ素を含む非晶質相を有する
ことを特徴とする負極。
【請求項2】
前記導電性接着層における導電性粒子と結着材との割合は、導電性粒子:結着材の質量比で、70:30から95:5の範囲内である
ことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項3】
前記導電性接着層は、前記導電性粒子として、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),スズ(Sn),ビスマス(Bi),亜鉛(Zn),ニッケル(Ni),パラジウム(Pd),クロム(Cr),インジウム(In),アンチモン(Sb),アルミニウム(Al),ゲルマニウム(Ge),タングステン(W),モリブデン(Mo),マンガン(Mn),チタン(Ti)およびマグネシウム(Mg) からなる群のうちの少なくとも1種を含む金属粒子、並びに炭素粒子のうちの1種以上を含む
ことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項4】
前記導電性粒子の平均粒子径は、0.01μm以上20μm以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項5】
前記導電性接着層は、前記結着材として、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のうちの少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項6】
前記導電性接着層は、前記結着材として、水素結合性を有する熱可塑性樹脂と、エポキシ樹脂,フェノール樹脂,ポリイミド,ポリウレタン,メラミン樹脂,ウレア樹脂からなる群のうちの少なくとも1種の熱硬化性樹脂とを含む
ことを特徴とする請求項5記載の負極。
【請求項7】
前記負極集電体は、厚みが50μm以下の銅箔または銅合金箔よりなり、その十点平均粗さRzは1.0μm以上4.0μm以下である
ことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項8】
前記負極活物質層の少なくとも一部は気相法により形成された
ことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項9】
前記負極活物質層は、酸素を構成元素として含有し、その含有量は5原子数%以上40原子数%以下である
ことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項10】
正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記負極は、負極集電体に、導電性粒子および結着材を有する導電性接着層を介して、負極活物質層が設けられ、
この負極活物質層は、構成元素としてケイ素を含む非晶質相を有する
ことを特徴とする電池。
【請求項11】
前記導電性接着層における導電性粒子と結着材との割合は、導電性粒子:結着材の質量比で、70:30から95:5の範囲内である
ことを特徴とする請求項10記載の電池。
【請求項12】
前記導電性接着層は、前記導電性粒子として、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),スズ(Sn),ビスマス(Bi),亜鉛(Zn),ニッケル(Ni),パラジウム(Pd),クロム(Cr),インジウム(In),アンチモン(Sb),アルミニウム(Al),ゲルマニウム(Ge),タングステン(W),モリブデン(Mo),マンガン(Mn),チタン(Ti)およびマグネシウム(Mg) からなる群のうちの少なくとも1種を含む金属粒子、並びに炭素粒子のうちの1種以上を含む
ことを特徴とする請求項10記載の電池。
【請求項13】
前記導電性粒子の平均粒子径は、0.01μm以上20μm以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項10記載の電池。
【請求項14】
前記導電性接着層は、前記結着材として、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のうちの少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項10記載の電池。
【請求項15】
前記導電性接着層は、前記結着材として、水素結合性を有する熱可塑性樹脂と、エポキシ樹脂,フェノール樹脂,ポリイミド,ポリウレタン,メラミン樹脂,ウレア樹脂からなる群のうちの少なくとも1種の熱硬化性樹脂とを含む
ことを特徴とする請求項14記載の電池。
【請求項16】
前記負極集電体は、厚みが50μm以下の銅箔または銅合金箔よりなり、その十点平均粗さRzは1.0μm以上4.0μm以下である
ことを特徴とする請求項10記載の電池。
【請求項17】
前記負極活物質層の少なくとも一部は気相法により形成された
ことを特徴とする請求項10記載の電池。
【請求項18】
前記負極活物質層は、酸素を構成元素として含有し、その含有量は5原子数%以上40原子数%以下である
ことを特徴とする請求項10記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−123141(P2007−123141A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315876(P2005−315876)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】