説明

負極体及びリチウムイオン電池

【課題】Alを含む材料からなる負極集電体を利用した場合、LiとAlとの合金化を防止することができる負極体及びこの負極体を利用したリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン電池100に利用される負極体1であって、Al又はAl合金からなる負極集電体11と、負極活物質粒子と硫化物固体電解質粒子との混合粉末を含む負極層12と、負極集電体11と負極層12との間に介在されて、LiとAlとの合金化を防止する合金化防止層13とを備える。この合金化防止層13は、電子伝導度が106S/m以上で、かつ硫化物と反応しない材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池に好適な負極体、及びこの負極体を利用したリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器といった比較的小型の電気機器の電源に、正・負極体間でのリチウムイオンの授受反応を利用したリチウム電池やリチウムイオン二次電池(以下、単にリチウムイオン電池と呼ぶ)が利用されている。
【0003】
このリチウムイオン電池は、正極体と負極体とこれら電極体の間に配される電解質層とを備える。各電極体はさらに、集電機能を有する集電体と、活物質を含む電極層とを備える。そして、正極体と負極体との間で電解質層を介してリチウム(Li)イオンが移動することによって充放電を行う方式の二次電池である。また近年では、有機電解液に代えて無機固体電解質を用いた全固体型電池が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記リチウムイオン電池として、例えば、特許文献1に記載のものが挙げられる。ステンレス箔からなる正極集電体の上に、LiCoO2を原料とする電子ビーム蒸着法により正極層を成膜した正極体、Li金属膜からなる負極層の上に、ステンレス箔を貼り合わせて負極集電体を形成した負極体、Li2S-P2S5からなる固体電解質層が記載されている。負極集電体は、一般的に、特許文献1に記載のように、ステンレスやCu等が利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009‐259696号公報
【特許文献2】特開2005‐259682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
負極集電体として、特許文献1に記載された材質よりも柔軟で取り扱いが容易であり、かつ低コストである材質としてAlを含む材料を利用することが検討されている。しかし、負極集電体としてAlを含む材料を利用すると、リチウムイオン電池の充放電を繰り返すことで負極集電体上に生成されるLiの析出物との接触によって、LiとAlとが反応して合金化してしまう。Li-Al合金は結晶が脆く微粉化するため、電池の充放電時の体積膨張収縮によって割れる虞がある。この割れに伴って負極集電体と負極層との接触面積が減少すると高抵抗層が形成され、電池特性を低減する原因となる。
【0007】
集電体としてAlを含む材料を利用した例として、特許文献2に、Alからなる正極集電体の表面に、Alへのアルカリによる浸食作用を防御するために酸化膜層を形成した集電体が記載されている。しかし、Alを含む材料からなる負極集電体の表面に、酸化膜層を形成したとしても、この酸化膜層は絶縁体であるため、高抵抗層となり電池特性を低減する虞がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、リチウムイオン電池に利用される負極体であって、Alを含む材料(Al又はAl合金)からなる負極集電体を利用した場合、LiとAlとの合金化を防止することができる負極体を提供することにある。また、本発明の別の目的は、本発明の負極体を利用したリチウムイオン電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、負極集電体と負極層との間に、LiとAlとの合金化を防止するLi-Al合金化防止層(以下、単に合金化防止層と呼ぶ)を備えることで、上記目的を達成する。
【0010】
(1)本発明負極体は、リチウムイオン電池に利用される負極体であって、Al又はAl合金からなる負極集電体と、負極活物質粒子と硫化物固体電解質粒子との混合粉末を含む負極層と、上記負極集電体と上記負極層との間に介在されて、LiとAlとの合金化を防止する合金化防止層とを備える。上記合金化防止層は、電子伝導度が106S/m以上で、かつ硫化物と反応しない材料からなる。
【0011】
この構成によれば、負極集電体と負極層との間に合金化防止層を備えることで、Liイオンが負極層を介して負極集電体に到達することを防止できるので、リチウムイオン電池の充放電の繰り返しによって負極集電体上にLiが析出されることを抑制できる。よって、負極集電体としてAlを含む材料を利用しても、AlがLiの析出物と接触することを防止できるので、LiとAlとが反応して合金化することを防止でき、負極集電体上において高抵抗層の形成を防止できる。ここで、Liイオンが負極層を介して負極集電体に到達することを有効に防止するには、合金化防止層のLiイオン伝導度が10-8S/m以下であることが好ましく、実質的にゼロであることがより好ましい。
【0012】
また、合金化防止層は、電子伝導度が106S/m以上であることで、負極層と負極集電体との間における電子伝導を十分に許容し、リチウムイオン電池の充放電に十分な電極体の集電を安定して確保することができる。
【0013】
本発明では、負極層が負極活物質粒子と硫化物固体電解質粒子との混合粉末を含むことから、負極層において、負極活物質粒子の周囲に硫化物固体電解質粒子が存在する構造となっている。この硫化物固体電解質粒子が、負極層内でLiイオンの伝導を媒介するので、Liイオンのやり取りを安定して行うことができる。硫化物固体電解質は、酸化物のものに比較して、一般的に高いLiイオン伝導性を示すので好適である。負極層が硫化物固体電解質粒子を含むので、合金化防止層が硫化物と反応しない材料からなることで、負極集電体と硫化物との反応を抑制し、負極集電体の材質変化を防止でき、それに伴う負極集電体の変色を防止できる。よって、負極集電体の脆化を防止し、集電体としての機能を保つことができる。
【0014】
上述のように、負極集電体と負極層との間に合金化防止層を介在することで、LiとAlとの合金化を防止することができるので、負極集電体にAlを含む材料(Al又はAl合金)を利用することができる。Alを含む材料は、従来負極集電体の構成材料として用いられていたステンレス等に比較して、柔軟かつ低コストであるため、負極体の取り扱いが比較的容易にでき、更にコストの削減も図れる。
【0015】
(2)本発明の負極体の一形態として、上記合金化防止層は、炭素材料を主成分とする材料からなることが挙げられる。
【0016】
炭素材料は、上記電子伝導度、及び硫化物と反応しない特性を兼備するため、合金化防止層として好適に利用できる。炭素材料には後述するように各種具体的材料が存在するが、この各種炭素材料の中でも、グラファイトを用いることが好ましい。合金化防止層は、各種炭素材料から選択される1種以上を主成分とし、その他、導電材料を添加してもよい。
【0017】
(3)本発明の負極体の一形態として、上記負極活物質粒子は、上記合金化防止層を構成する炭素材料と同じ材料からなることが挙げられる。
【0018】
この構成によれば、同じ材料であることで、合金化防止層と負極層との密着性がよくなる。よって、合金化防止層と負極層との接合界面において、クラック等が生じにくく、高抵抗層の形成をより一層防止できる。
【0019】
(4)本発明の負極体の一形態として、上記合金化防止層の厚みは、10〜50μmであることが挙げられる。
【0020】
合金化防止層の厚みを10μm以上とすることで、負極集電体と負極層との間の間隔を十分に確保することができ、LiとAlとが反応して合金化することを防止でき、負極集電体上において高抵抗層の形成を防止できる。一方、合金化防止層の厚みが厚過ぎると、負極体の小型化が難しいので、上限は50μm以下とすることが好ましい。
【0021】
(5)本発明のリチウムイオン電池は、正極体と、負極体と、両電極体の間に配される固体電解質層とを備えるリチウムイオン電池であって、上記負極体に、本発明の負極体を利用したことを特徴とする。
【0022】
上記構成を備えるリチウムイオン電池であれば、電池特性に優れる。これは、負極体の説明の際に述べたように、利用する負極体に備わる合金化防止層により、LiとAlとが反応して合金化することを防止でき、負極集電体上において高抵抗層の形成を防止できているからである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の負極体は、負極集電体と負極層との間に合金化防止層を介在することで、Liイオンが負極層を介して負極集電体に到達することを防止できるので、負極集電体にAlを含む材料(Al又はAl合金)を利用しても、LiとAlとが反応して合金化することを防止でき、負極集電体上において高抵抗層の形成を防止できる。Alを含む材料からなる負極集電体を利用することで、負極体の取り扱いが比較的容易であり、コストの削減も図れる。
【0024】
本発明のリチウムイオン電池は、本発明の負極体を利用するので、電池特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係るリチウムイオン電池の概略構成図である。
【図2】図1に示すリチウムイオン電池の組立て前の状態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の負極体の実施形態を説明する。本発明の負極体は、図1に示すようなリチウムイオン電池100の負極体1として利用できる。このリチウムイオン電池100には、負極体1の他に、正極体2と固体電解質層(SE層)3を備えており、負極体1と正極体2との間でLiイオンのやり取りをすることで電池として機能する。以下、負極体1の構成を中心にリチウムイオン電池100の各構成を詳細に説明する。
【0027】
[負極体]
本発明の負極体1は、Al又はAl合金からなる負極集電体11と、負極層12と、この負極集電体11と負極層12との間に介在される合金化防止層13とを備える。
【0028】
(負極集電体)
負極集電体11は、後述する負極層12の集電を行うものである。負極集電体11は導電材料であり、本発明では、Al又はAl合金からなる材料を用いることを特徴の一つとする。Al又はAl合金は、柔らかく軽いという特性を有し、取り扱いが比較的容易であり、また従来用いられていたステンレス等に比較してコストの削減が図れる。
【0029】
(負極層)
負極層12は、負極活物質粒子と硫化物固体電解質粒子との混合粉末を加圧成形することで得られる層である。負極活物質粒子は、電池反応の主体となる負極活物質で構成されている。負極活物質としては、C,Si,Ge,Sn,Al,Li合金、またはLi4Ti5O12等のLiを含む酸化物を利用することができる。この負極活物質粒子の好ましい平均粒径は、1〜15μmである。硫化物固体電解質粒子は、Liイオン伝導性の高い硫化物系固体電解質で構成されており、負極層12内でLiイオンの伝導を媒介するために必要である。硫化物系固体電解質としては、Li2S-P2S5系、Li2S-SiS2系、Li2S-B2S3系等が挙げられ、更にP2O5やLi3PO4が添加されてもよい。この硫化物固体電解質粒子の好ましい平均粒径は、1〜5μmである。
【0030】
負極層12は、負極活物質粒子と硫化物固体電解質粒子との混合粉末の他、必要に応じて導電助剤や結着材(バインダー)を含有してもよい。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)といったカーボンブラック等が挙げられる。結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVdF)等が挙げられる。
【0031】
負極層における負極活物質粒子及び硫化物固体電解質粒子の各混合割合は、負極層全体に対する負極活物質粒子の割合が少なくなると、電池容量の低下を招く虞がある。一方、負極層全体に対する負極活物質粒子の割合が多くなり過ぎると、相対的に硫化物固体電解質粒子等の割合が少なくなり、負極層内でのLiイオンの伝導を媒介し難くなり内部抵抗が増加したり、結着性の低下を招く虞がある。そのため、負極層における負極活物質粒子及び硫化物固体電解質粒子の好ましい各混合割合は、負極活物質粒子:40〜60質量%、硫化物固体電解質粒子:40〜60質量%である。
【0032】
(合金化防止層)
合金化防止層13は、リチウムイオン電池の充放電の繰り返しによって負極集電体11上に生成されるLiの析出物と、負極集電体11に適用するAl又はAl合金とが反応して、LiとAlとが合金化することを防止するための層である。上記負極集電体11と上記負極層12との間に合金化防止層13を介在させることで、Liイオンが負極層12を介して負極集電体11に到達することを防止できるので、上記Liの析出物の生成を抑制することができる。よって、AlがLiの析出物と接触することを防止できる。Liイオンが負極層12を介して負極集電体11に到達することを有効に防止するには、合金化防止層13のLiイオン伝導度が10-8S/m以下であることが好ましく、実質的にゼロであることがより好ましい。また、合金化防止層13は、電子伝導度が106S/m以上であることで、負極層12と負極集電体11との間における電子伝導を十分に許容し、リチウムイオン電池の充放電に十分な電極体の集電を確保する。更に、上記負極層12に含まれる硫化物の固体電解質との反応を防止するために、合金化防止層13は、硫化物と反応しない材料からなる。
【0033】
合金化防止層13の構成材料として、炭素材料を主成分とする材料が挙げられる。炭素材料としては、グラファイト、アセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)といったカーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)等が挙げられる。上記炭素材料の中でも、グラファイトを用いることが特に好ましい。合金化防止層13は、上述した炭素材料から選択される1種以上を主成分とし、その他、導電材料を添加してもよい。導電材料としては、例えば、Ni,Fe,Cr及びこれらの合金(例えば、ステンレス等)から選択される1種が挙げられる。合金化防止層13に、従来負極集電体として用いられていた導電材料を含んだとしても、その量が比較的少なければ、負極体全体として高価な材料の使用量を削減できる。合金化防止層13が、炭素材料及び導電材料の混合材料からなるとき、その混合比として好ましい範囲は、70:30〜95:5である。
【0034】
合金化防止層13の構成材料と、上記負極層12に含まれる負極活物質粒子の構成材料とが同じであることが好ましい。両者が同じであることで、合金化防止層13と負極層12との密着性がよくなり、合金化防止層13と負極層12との接合界面において、クラック等が生じにくく、高抵抗層の形成をより一層防止できる。
【0035】
合金化防止層13の厚みは、10μm以上であることで、負極集電体11と負極層12との間を十分に確保することができ、LiとAlとが反応して合金化することを防止でき、負極集電体13上において高抵抗層の形成を防止できる。一方、50μm以下であることで、負極体1の大型化を防止できる。例えば、グラファイトで合金化防止層13を形成した場合、この合金化防止層13の厚みは、10〜30μmであることが好ましい。
【0036】
合金化防止層13は、構成材料が粉末状であればその粉末を加圧成形することで作製してもよいし、真空蒸着法やレーザーアブレーション法等の気相法で作製してもよい。
【0037】
負極体1の成形方法として、負極体1の構成部材(負極層12、合金化防止層13、負極集電体11)を一度に加圧成形する方法が挙げられる。合金化防止層13の構成材料が粉末状の場合、まず負極層12の構成材料となる粉末を金型内に充填し、その上に合金化防止層13の構成材料となる粉末を層状に充填する。更にその上にAl又はAl合金からなる負極集電体11を配置する。これら負極層12、合金化防止層13、負極集電体11を一度に加圧成形することで、各部材12,13,11間において密着性がよくなる。その他、負極層12と合金化防止層13とを加圧成形し、合金化防止層13の上に負極集電体11を貼り合わせてもよい。また、負極層12と合金化防止層13とを別々に加圧成形したものを用意してもよい。いずれの場合も、加圧圧力は150〜550MPaとすることが好ましい。
【0038】
[正極体]
正極体2は、正極集電体21と、正極層22とを備える。
【0039】
(正極集電体)
正極集電体21は導電材料であり、取り扱いが比較的容易であり低コストである点から、Al又はAl合金からなる材料を用いることが好ましい。正極集電体21は、導電材料のみから構成されていてもよいし、絶縁基板上に導電材料の膜を形成したもので構成されていてもよい。後者の場合、導電材料が集電体として機能する。
【0040】
(正極層)
正極層22は、電池反応の主体となる正極活物質粒子を含む粉末を加圧成形することで得られる層である。正極活物質としては、層状岩塩型の結晶構造を有する物質、例えば、LiαXβ(1-X)O2(αはCo,Ni,Mnから選択される1種、βはFe,Al,Ti,Cr,Zn,Mo,Biから選択される1種、Xは0.5以上)で表わされる物質を挙げることができる。その具体例としては、LiCoO2やLiNiO2,LiMnO2,LiCo0.5Fe0.5O2,LiCo0.5Al0.5O2等を挙げることができる。また、それ以外に、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2のような系も適用が可能である。その他、正極活物質として、スピネル型の結晶構造を有する物質(例えば、LiMn2O4等)や、オリビン型の結晶構造を有する物質(例えば、LiXFePO4(0<X<1))を用いることもできる。
【0041】
上記正極層22は、この正極層22内でLiイオンの伝導を媒介し、Liイオン伝導性を改善する固体電解質粒子を含有していてもよい。固体電解質粒子としては、Li2S-P2S5等の硫化物系を好適に利用することができる。その他、必要に応じて導電助剤や結着材(バインダー)を含有してもよい。
【0042】
正極層22の加圧成形の条件は、適宜選択することができる。例えば、加圧圧力は150〜550MPaとすることが好ましい。
【0043】
[固体電解質層]
固体電解質層(SE層)3は、固体電解質で構成されており、Liイオン伝導性の高い硫化物系固体電解質で構成されていることが好ましい。硫化物系固体電解質としては、Li2S-P2S5系、Li2S-SiS2系、Li2S-B2S3系等が挙げられ、更にP2O5やLi3PO4が添加されてもよい。上記負極層12の構成物質である硫化物固体電解質粒子と同じ材質であってもよい。その他、LiPON等の酸化物系固体電解質で構成してもよい。
【0044】
SE層3は、図2に示すように、負極体1の負極層12側に形成した負極側固体電解質層(NSE層)3aと、正極体2の正極層22側に形成した正極側固体電解質層(PSE層)3bとを圧接接合して形成されている。NSE層3aとPSE層3bとは、同一の固体電解質で構成されている。
【0045】
[その他]
上記正極層22とSE層3(PSE層3b)の材質によっては、正極層22とSE層3(PSE層3b)との間に中間層(図示せず)を有していてもよい。中間層は、SE層3に固体状の硫化物を用いた場合に必要となるものであって、正極層22とSE層3との間の高抵抗化を抑制する層である。SE層に含まれる硫化物固体電解質と、正極層22に含まれる酸化物の正極活物質とが反応して、高抵抗層が形成されることがある。中間層を設けることで、この高抵抗層の形成を抑制し、充放電に伴うリチウムイオン電池100の放電容量の低下を抑制できる。中間層に用いる材料としては、非晶質のLiイオン伝導性酸化物、例えば、LiNbO3やLiTaO3等を利用できる。特にLiNbO3は、正極層22とSE層3との界面近傍の高抵抗化を効果的に抑制できる。
【実施例】
【0046】
本発明のリチウムイオン電池を作製し、その電池性能を評価した。
【0047】
[実施例のリチウムイオン電池]
グラファイトの粉末(体積分布中心粒径D50=10μm)とLi2S-P2S5系固体電解質の粉末(D50=2.5μm、イオン伝導度=3×10-4S/cm)とPTFEバインダーとを、体積比で48.5:48.5:3の割合で、50rpmで4時間かけてボールミルで混合して負極合材を作製した。この負極合材を金型内に充填し、その上にグラファイト(D50=10μm、電子伝導度=106S/m、イオン伝導度=0S/m)を層状に充填し、更にその上にAl箔(厚さ20μm)を配置した。これを金型温度200℃とした状態で、360MPaの圧力で加圧成形した。そうすることで、負極集電体(Al箔)の上に合金化防止層(グラファイトの成形体)が形成され、合金化防止層の上に負極層(グラファイト+Li2S-P2S5系固体電解質の成形体)が形成された負極体が形成される。この負極体における負極層の厚さは60μm、合金化防止層の厚さは30μmであった。合金化防止層を構成するグラファイトと負極層に含まれるグラファイトとは同一特性の材料である。
【0048】
また、LiCoO2の粉末(D50=10μm)とLi2S-P2S5系固体電解質の粉末(D50=2.5μm、イオン伝導度=3×10-4S/cm)とアセチレンブラック(D50=3μm)とPTFEバインダーとを、体積比で48:48:3:1の割合で、50rpmで4時間かけてボールミルで混合して正極合材を作製した。この正極合材を金型内に充填し、その上にAl箔(厚さ20μm)からなる正極集電体を配置した。これを金型温度200℃とした状態で、360MPaの圧力で加圧成形した。そうすることで、正極集電体(Al箔)の上に正極層(LiCoO2+Li2S-P2S5系固体電解質の成形体)が形成された正極体が形成される。この正極体における正極層の厚さは60μmであった。
【0049】
次に、負極体の負極層の上、及び正極体の正極層の上にそれぞれ、蒸着法を用いてLi2S‐P2S5系固体電解質を成膜して、負極側固体電解質層(厚さ5μm)及び正極側固体電解質層(厚さ5μm)を形成した。
【0050】
そして、負極体と正極体に形成した各固体電解質層同士が対向するように両電極体を積層し(図2参照)、その積層方向に10MPaの圧力で加圧し、190℃の温度で120分加熱することで、上記各固体電解質層同士を融着し両電極体を接合し(図1参照)、リチウムイオン電池を作製した。
【0051】
以上のようにして作製したリチウムイオン電池を充放電試験用セルに組み込み、これを試料No.1-1とした。
【0052】
[比較例のリチウムイオン電池]
負極体において、合金化防止層を形成しない点を除いては、試料No.1-1と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。つまり、この負極体は、負極集電体(Al)の上に負極層(グラファイト+Li2S-P2S5系固体電解質の成形体)が形成された負極体である。このリチウムイオン電池を充放電試験用セルに組み込み、これを試料No.1-2とした。
【0053】
負極体において、負極層の構成材料を変更して負極体を作製した以外は、試料No.1-2と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。この負極体は、負極集電体(Al)の上に、蒸着法を用いて金属Li箔(20μm)を成膜して形成した。つまり、この負極体は、負極集電体(Al)の上に負極層(金属Li)が形成された負極体である。このリチウムイオン電池を充放電試験用セルに組み込み、これを試料No.1-3とした。
【0054】
[電池の評価]
試料No.1-1〜1-3のリチウムイオン電池について、3.0〜4.2Vのカットオフ電圧で、0.05mA/cm2の定電流にて、充放電を1サイクルとする充放電サイクル試験を実施し、充放電サイクル特性を調べた。
【0055】
その結果、試料No.1-1のリチウムイオン電池は、100サイクル後も安定して動作することが確認できた。これに対して、試料No.1-2の電池は15サイクル、試料No.1-3の電池は12サイクルで、それぞれ4.2Vまで充電できない現象が確認された。
【0056】
試験終了後に各試料のリチウムイオン電池を分解し、負極集電体を確認すると、試料No.1-1の負極集電体には割れは見受けられなかったが、試料No.1-2,1-3の負極集電体には割れが発生しているのが目視できた。
【0057】
以上の結果から、負極体において、負極集電体にAlを含む材料を利用した場合、負極集電体と負極層との間に合金化防止層を設けることで、リチウムイオン電池の充放電の繰り返しによって負極集電体上にLiが析出されることを抑制でき、LiとAlとが反応して合金化することを防止できることがわかる。LiとAlとの合金化を防止できることで、充放電サイクル特性の向上を図ることができることがわかる。
【0058】
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、本発明の範囲は上述した構成に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の負極体は、種々の電気機器の電源としてのリチウムイオン電池に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
100 リチウムイオン電池
1 負極体
11負極集電体 12負極層 13合金化防止層
2 正極体
21 正極集電体 22正極層
3 固体電解質層(SE層)
3a 負極側固体電解質層(NSE層) 3b 正極側固体電解質層(PSE層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池に利用される負極体であって、
Al又はAl合金からなる負極集電体と、
負極活物質粒子と硫化物固体電解質粒子との混合粉末を含む負極層と、
前記負極集電体と前記負極層との間に介在されて、LiとAlとの合金化を防止する合金化防止層とを備え、
前記合金化防止層は、電子伝導度が106S/m以上で、かつ硫化物と反応しない材料からなることを特徴とする負極体。
【請求項2】
前記合金化防止層は、炭素材料を主成分とする材料からなることを特徴とする請求項1に記載の負極体。
【請求項3】
前記負極活物質粒子は、前記合金化防止層を構成する炭素材料と同じ材料からなることを特徴とする請求項2に記載の負極体。
【請求項4】
前記合金化防止層の厚みは、10〜50μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の負極体。
【請求項5】
正極体と、負極体と、両電極体の間に配される固体電解質層とを備えるリチウムイオン電池であって、
前記負極体は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の負極体であることを特徴とするリチウムイオン電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−164571(P2012−164571A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25173(P2011−25173)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】