説明

負極材料、負極および電池、ならびにそれらの製造方法

【課題】入出力特性を確保しつつサイクル特性を向上させることが可能な電池を提供する。
【解決手段】正極および負極と共に電解液を備え、正極と負極との間に設けられたセパレータに電解液が含浸されている。この負極の負極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極活物質221の表面に複数の被覆粒子222を有する負極材料220を含んでおり、その複数の被覆粒子220は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含んでいる。充放電時に負極活物質221においてリチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションが起きやすくなると共に、その負極活物質221の化学的安定性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質を有する負極材料、それを用いた負極および電池、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ一体型VTR(video tape recorder )、携帯電話あるいはノートパソコンなどのポータブル電子機器が広く普及しており、その小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、ポータブル電子機器の電源として、電池、特に軽量で高エネルギー密度の二次電池の開発が進められている。中でも、充放電反応にリチウムの吸蔵および放出を利用する二次電池(いわゆるリチウムイオン二次電池)は、鉛電池やニッケルカドミウム電池よりも大きなエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えており、その負極は、負極集電体上に負極活物質層を有している。この負極活物質層中の負極活物質としては、黒鉛などの炭素材料が広く用いられている
【0004】
負極活物質として炭素材料を用いる場合には、電池容量が既に理論容量近くまで達していることから、さらなる電池容量の向上が課題である。この課題を解決するために、負極活物質層の厚さを厚くして、電池内における負極活物質層の占有割合を負極集電体やセパレータの占有割合に対して相対的に大きくする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この高容量化を図るために負極活物質層の厚さを意図的に厚くする技術を、本明細書では「厚塗り」と呼ぶこととする。
【特許文献1】特開平09−204936号公報
【0005】
負極活物質層を厚塗りする技術は、電池容量を向上させる上で有用であるが、その反面、新たな問題も引き起こす。具体的には、電池容積一定で負極活物質層の厚さを同一材質・密度のまま厚く設計しようとすると、電池内における負極集電体の占有比率が小さくなり、その負極集電体の単位面積当たりに形成される負極活物質量が増える。このため、同一電気容量を充放電した場合には、相対的に負極の電流密度が増加する。したがって、負極においては、リチウムイオンのインターカレーション(吸蔵)およびデインターカレーション(放出)が間に合わなくなり、場合によってはリチウムが析出し、デンドライトとなって失活するため、充放電時におけるリチウムイオンの入出力特性が低下してしまう。また、充放電を繰り返すと放電容量が大幅に低下するため、サイクル特性も低下してしまう。
【0006】
この問題は、負極活物質層を厚塗りした場合だけでなく、やはり高電池容量を得るために負極活物質層の体積密度を高くした場合においても同様に生じる。負極活物質層の体積密度が大きくなると、リチウムイオンの動く隙間が少なくなるため、充電時におけるリチウムイオンの移動速度が遅くなるからである。この高容量化を図るために負極活物質層の体積密度を意図的に高くする技術を、本明細書では「高体積密度化」と呼ぶこととする。
【0007】
ところで、最近では、ポータブル電子機器の高性能化および多機能化に伴い、電池容量に関してより一層の向上が求められていることから、炭素材料に代えてケイ素やスズなどを用いることが検討されている(例えば、特許文献2参照。)。ケイ素の理論容量(4199mAh/g)およびスズの理論容量(994mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも格段に大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。
【特許文献2】米国特許第4950566号明細書
【0008】
負極活物質として高理論容量のケイ素等を用いれば、電池容量の向上が図られるが、その反面、リチウムイオンを吸蔵した場合に負極活物質が高活性になるため、電解液が分解されやすくなる。これにより、充放電を繰り返すと、負極活物質として炭素材料を用いて厚塗りや高体積密度化した場合と同様に、サイクル特性が低下してしまう。
【0009】
これらの入出力特性やサイクル特性を改善するために、既にいくつかの技術が提案されている。具体的には、負極活物質として炭素材料を用いる場合について、結晶性黒鉛コア上に、アルカリ金属元素やアルカリ土類金属元素が添加された炭素シェルを設ける技術(例えば、特許文献3参照。)や、負極活物質の表面に、ヒドロキシドなどのコーティング元素含有化合物および導電剤を含む表面処理層を設ける技術(例えば、特許文献4参照。)や、負極活物質の表面に、金属や金属酸化物の薄膜を設ける技術(例えば、特許文献5参照。)が知られている。
【特許文献3】特開2000−164218号公報
【特許文献4】特開2003−100296号公報
【特許文献5】特開2003−249219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、最近のポータブル電子機器では、高性能化および多機能化が益々進行する傾向にあるため、二次電池の入出力特性およびサイクル特性に関してより一層の向上が望まれている。特に、負極活物質として炭素材料を用いる場合には、負極活物質層を厚塗りや高体積密度化する場合においても入出力特性およびサイクル特性を向上させることが重要であり、一方、負極活物質として高理論容量のケイ素等を用いる場合には、入出力特性を維持しつつサイクル特性を向上させることが重要である。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、入出力特性を確保しつつサイクル特性を向上させることが可能な負極材料、負極および電池、ならびにそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の負極材料は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質の表面に複数の被覆粒子を有し、複数の被覆粒子がアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含むものである。また、本発明の負極材料の製造方法は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質の表面に複数の被覆粒子を有する負極材料の製造方法であって、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を溶解したのち、それを負極活物質の表面に析出させて複数の被覆粒子を形成するものである。
【0013】
本発明の負極は、負極集電体上に負極活物質層を有し、負極活物質層が電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質の表面に複数の被覆粒子を有する負極材料を含み、複数の被覆粒子がアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含むものである。また、本発明の負極の製造方法は、負極集電体上に負極活物質層を有し、負極活物質層が電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質の表面に複数の被覆粒子を有する負極材料を含む負極の製造方法であって、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を溶解したのち、それを負極活物質の表面に析出させて複数の被覆粒子を形成するものである。
【0014】
本発明の電池は、正極および負極と共に電解液を備えた電池であって、負極が負極集電体上に負極活物質層を有し、負極活物質層が電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質の表面に複数の被覆粒子を有する負極材料を含み、複数の被覆粒子がアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含むものである。また、本発明の電池の製造方法は、正極および負極と共に電解液を備え、負極が負極集電体上に負極活物質層を有し、負極活物質層が電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質の表面に複数の被覆粒子を有する負極材料を含む電池の製造方法であって、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を溶解したのち、それを負極活物質の表面に析出させて複数の被覆粒子を形成するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の負極材料あるいはその製造方法によれば、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質の表面にアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含む複数の被覆粒子を形成しているので、負極活物質において電極反応物質のインターカレーションおよびデインターカレーションが起きやすくなると共に、その負極活物質の化学的安定性が向上する。これにより、本発明の負極材料あるいはその製造方法を用いた負極あるいは電池、またはその製造方法によれば、電極反応時に電極反応物質が円滑に吸蔵および放出されると共に、電解液の分解反応が抑制されるため、入出力特性を確保しつつサイクル特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る負極材料の断面構成を模式的に表している。この負極材料10は、例えば電池などの負極を備えた電気化学デバイスに用いられるものであり、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質1と、その表面に設けられた複数の被覆粒子2とを有している。
【0018】
負極活物質1は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、例えば、炭素材料を含んでいる。電極反応時(電極反応物質の吸蔵・放出時)における結晶構造の変化が非常に少なく、高いエネルギー密度が得られるからである。なお、電極反応物質の種類については、任意に選択可能である。一例を挙げれば、負極材料がリチウムイオン二次電池に用いられる場合には、リチウムである。
【0019】
この炭素材料としては、例えば、黒鉛、難黒鉛化性炭素あるいは易黒鉛化性炭素などが挙げられる。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものである。これらの炭素材料は、単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれであってもよい。
【0020】
中でも、炭素材料としては、黒鉛が好ましい。電気化学当量が大きいため、より高いエネルギー密度が得られるからである。特に、人造黒鉛よりも天然黒鉛が好ましい。さらに高いエネルギー密度が得られるからである。
【0021】
黒鉛としては、X線回折法によって測定されるC軸方向の格子面間隔d002 が0.340nm以下であるものが好ましく、0.335nm以上0.338nm未満であるものがより好ましい。より高いエネルギー密度が得られるからである。
【0022】
難黒鉛化性炭素としては、X線回折法によって測定されるC軸方向の格子面間隔d002 が0.37nm以上、真密度が1.70g/cm3 未満であると共に、空気中における示差熱分析(Differential Thermal Analysis :DTA)で700℃以上に発熱ピークを示さないものが好ましい。より高いエネルギー密度が得られるからである。
【0023】
上記した格子面間隔d002 については、例えば、X線および標準物質としてそれぞれCuKα線および高純度シリコンを用いたX線回折法によって測定可能である。
【0024】
なお、炭素材料の比表面積などの他の条件は、負極材料の使用用途や要求性能などに応じて任意に設定可能である。
【0025】
複数の被覆粒子2は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含んでいる。この被覆粒子2を有しているのは、負極活物質1において電極反応物質のインターカレーションおよびデインターカレーションが起きやすくなると共に、その負極活物質1の化学的安定性が向上するからである。前者の作用により、負極の電流密度が増加した場合においても電極反応が生じやすくなると共に、後者の作用により、電極反応時に負極活物質1が高活性になった場合においても他の物質と反応しにくくなる。この他の物質とは、例えば、負極材料がリチウムイオン二次電池に用いられた場合における電解液である。
【0026】
アルカリ金属の種類は、短周期型周期表における1A属元素であれば特に限定されないが、中でも、リチウム、ナトリウムあるいはカリウムが好ましい。また、アルカリ土類金属の種類は、短周期型周期表における2A属元素であれば特に限定されないが、中でも、マグネシウムあるいはカルシウムが好ましい。いずれの場合においても、十分な効果が得られるからである。これらのアルカリ金属やアルカリ土類金属は、単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
【0027】
アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の種類は特に限定されないが、中でも、塩化物塩、炭酸塩あるいは硫酸塩が好ましい。十分な効果が得られるからである。これらの塩化物塩等は、単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
【0028】
アルカリ金属塩の具体例は、以下の通りである。塩化物塩としては、塩化リチウム、塩化ナトリウムあるいは塩化カリウムなどが挙げられる。炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムあるいは炭酸カリウムなどが挙げられる。硫酸塩としては、硫酸リチウム(Li2 SO4 )、硫酸ナトリウム(Na2 SO4 )あるいは硫酸カリウム(K2 SO4 )などが挙げられる。
【0029】
アルカリ土類金属塩のうち、炭酸塩としては、例えば、炭酸マグネシウムあるいは炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0030】
この複数の被覆粒子2は、負極活物質1の表面の少なくとも一部にあればよい。すなわち、複数の被覆粒子2は、負極活物質1の表面の一部にあってもよいし、全部にあってもよい。この場合には、複数の被覆粒子2が集合することにより、負極活物質1の表面の少なくとも一部を膜状に覆っていてもよい。もちろん、上記した一連の被覆粒子2の態様は、混在していてもよい。なお、図1では、複数の被覆粒子2が単層構造をなしている場合を示しているが、それらが負極活物質1上に積み重なることによって積層構造をなしていてもよい。この場合には、被覆粒子2の総厚(いわゆる膜厚)が均一になっていてもよいし、変化していてもよい。
【0031】
負極活物質1に対する複数の被覆粒子2の割合は任意に設定可能であるが、0.1重量%以上10重量%以下であるのが好ましい。電極反応物質のインターカレーションおよびデインターカレーションがより起きやすくなると共に、負極活物質1の化学的安定性がより向上するからである。詳細には、割合が0.1重量%よりも少ないと、被覆粒子2の数が少なすぎるため、電極反応物質のインターカレーションおよびデインターカレーションが十分に起きないと共に負極活物質1の化学的安定性が十分に向上しない可能性があり、一方、10重量%よりも多いと、被覆粒子2の数が多すぎて内部抵抗が増加するため、十分な入出力特性が得られない可能性がある。なお、上記した「負極活物質1に対する複数の被覆粒子2の割合」とは、負極活物質1の重量に対する複数の被覆粒子2の重量の割合であり、(複数の被覆粒子2の重量/負極活物質1の重量)×100で表される。
【0032】
この負極活物質1に対する複数の被覆粒子2の割合については、例えば、被覆粒子2が溶解性を示す場合には、被覆粒子2が設けられた負極活物質1の重量と、被覆粒子2が溶解除去された負極活物質1の重量とから算出可能である。
【0033】
なお、図1では、負極活物質1および複数の被覆粒子2の構成を説明しやすくするために、その構成を模式的に示している。負極活物質1および被覆粒子2の形状、粒径および数などは任意に設定可能であり、それらが図1に示した態様に限定されるわけではない。
【0034】
図1に示した負極材料10の構造(負極活物質1の表面に複数の被覆粒子2を有する構造)は、例えば、X線光電子分光法(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis :ESCA)による元素分析(深さ方向分析)によって確認可能である。なお、上記したESCAによる元素分析を行う場合には、負極活物質1あるいは被覆粒子2に若干の不純物等が混入している可能性があるが、その場合においてもESCAによって負極材料10の構造を確認可能である。なぜなら、ESCAによる元素分析において、負極活物質1は炭素材料がリッチな領域として測定され、被覆粒子2はアルカリ金属塩等がリッチな領域として測定されるはずだからである。
【0035】
この負極材料は、例えば、以下の手順によって製造可能である。
【0036】
まず、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種(以下、単に「アルカリ金属塩等」ともいう。)の粉末を溶解させた処理溶液を調製する。この際、溶媒の種類は特に限定されないが、負極材料を非水溶媒系の電気化学デバイスに用いた場合に、被覆粒子2が溶解して負極活物質1から脱離することを回避するためには、溶媒として非水溶媒よりも水を用いるのが好ましい。続いて、負極活物質1を処理溶液中に浸積させたのち、その処理溶液を攪拌して負極活物質1を分散させる。この際、攪拌速度および攪拌時間などの条件は、任意に設定可能である。最後に、負極活物質1を浸積させた溶液を濾過したのち、高温の真空環境中で負極活物質1を乾燥させて、溶液中に溶解していたアルカリ金属塩等を負極活物質1の表面に析出させる。この際、真空度(圧力)、温度および乾燥時間などの条件は、任意に設定可能である。これにより、負極活物質1の表面に複数の被覆粒子2が形成されるため、負極材料が完成する。
【0037】
この負極材料を製造する場合には、例えば、処理溶液中のアルカリ金属塩等の溶解量(重量)と、処理溶液中への負極活物質1の投入量(重量)とを調整することにより、負極活物質1に対する複数の被覆粒子2の割合を所望の値となるように設定可能である。
【0038】
なお、処理溶液を濾過する際には、その処理溶液を収容している器の壁面にアルカリ金属塩等の一部が残存し、アルカリ金属塩等の溶解量と析出量との間に誤差が生じる可能性がある。しかしながら、負極活物質1を浸積させた処理溶液を十分に攪拌した状態で濾過すれば、処理溶液中に溶解しているアルカリ金属塩等の大部分が負極活物質1の表面に移行して定着するため、上記した誤差はごく僅かとなる。これにより、上記した方法によって負極活物質1に対する複数の被覆粒子2の割合を高精度に設定可能である。
【0039】
本実施の形態の負極材料およびその製造方法によれば、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な材料として炭素材料によって負極活物質1を形成し、その負極活物質1の表面にアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含む複数の被覆粒子2を形成しているので、複数の被覆粒子2を形成しない場合と比較して、以下の利点が得られる。第1に、負極活物質1において電極反応物質のインターカレーションおよびデインターカレーションが起きやすくなるため、負極の電流密度が増加した場合においても電極反応が生じやすくなる。第2に、負極活物質1の化学的安定性が向上するため、電極反応時に負極活物質1が高活性になった場合においても他の物質と反応しにくくなる。したがって、負極材料が用いられた電気化学デバイスの性能向上に寄与することができる。
【0040】
この場合には、アルカリ金属塩等を溶解したのちに析出させる簡単な処理によって複数の被覆粒子2を形成しているため、その複数の被覆粒子2を簡単かつ安定に形成することができる。
【0041】
特に、負極活物質1が炭素材料として天然黒鉛を含み、あるいは負極活物質1に対する複数の被覆粒子2の割合が0.1重量%以上10重量%以下であれば、より高い効果を得ることができる。
【0042】
次に、上記した負極材料の使用例について説明する。負極を備えた電気化学デバイスの一例として電池を挙げると、負極材料は以下のようにして用いられる。
【0043】
(第1の電池)
図2は、第1の電池の断面構成を表している。この電池は、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
【0044】
この二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、正極21および負極22がセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されたものである。電池缶11は、例えば、ニッケル鍍金された鉄によって構成されており、その一端部および他端部はそれぞれ閉鎖および開放されている。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。この円柱状の電池缶11を用いた電池構造は、円筒型と呼ばれている。
【0045】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることによって取り付けられている。これにより、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料によって構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上になると、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することによって電流を制限し、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料によって構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
【0046】
巻回電極体20の中心には、センターピン24が挿入されていてもよい。この巻回電極体20では、アルミニウムなどによって構成された正極リード25が正極21に接続されており、ニッケルなどによって構成された負極リード26が負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接されることによって電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は、電池缶11に溶接されることによって電気的に接続されている。
【0047】
図3は、図2に示した巻回電極体20の一部を拡大して表している。正極21は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0048】
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。正極活物質層21Bは、正極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて導電剤や結着剤などを含んでいてもよい。
【0049】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な材料としては、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、あるいはリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物が挙げられ、特に、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0050】
リチウムと遷移金属元素とを含むリチウム複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni(1-z) Coz 2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Coy Mnw 2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 4 )などが挙げられる。中でも、ニッケルを含む複合酸化物が好ましい。高い電池容量および優れたサイクル特性が得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe(1-u) MnuPO4(u<1))などが挙げられる。
【0051】
また、上記した他、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化鉄、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
【0052】
導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケッチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。なお、導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
【0053】
結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。なお、正極21および負極22が巻回されている場合には、柔軟性に富むスチレンブタジエン系ゴムあるいはフッ素系ゴムなどが好ましい。
【0054】
負極22は、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。ただし、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0055】
負極集電体22Aは、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する金属材料によって構成されているのが好ましい。この金属材料としては、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどが挙げられ、中でも、銅が好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。負極活物質層22Bは、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な材料として、上記した負極材料を含んでおり、必要に応じて導電剤や結着剤などを含んでいてもよい。
【0056】
この二次電池では、正極活物質とリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極活物質との間で量を調整することにより、正極活物質による充電容量よりも負極活物質の充電容量の方が大きくなっているのが好ましい。
【0057】
図4および図5は、負極活物質層22Bに用いられる負極材料220の断面構成を表しており、いずれも図1に対応している。
【0058】
初回の充電前において、負極材料220は、図4に示したように、上記した負極材料10と同様の構成を有しており、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質221の表面に複数の被覆粒子222を有している。負極活物質221および被覆粒子222の構成は、それぞれ負極活物質1および被覆粒子2の構成と同様である。
【0059】
初回の充電後において、負極材料220は、図5に示したように、負極活物質221および複数の被覆粒子222と共に、その複数の被覆粒子222を覆う被膜223を有していてもよい。この被膜223は、非水溶媒系の電解液中において初回の充電時に負極材料220と電解液との間で不可逆的な反応が生じることによって形成され、負極22と電解液との間に電極反応物質イオン(ここではリチウムイオン)の伝導性はあるが電子の伝導性はない安定界面を形成するものである。すなわち、被膜223は、いわゆるSEI(Solid Electrolyte Interface )膜であり、電解液の分解生成物などを含む。一例を挙げれば、電解液が炭酸エステル系の溶媒を含むリチウムイオン二次電池では、被膜223がリチウム、炭素および酸素等を構成元素として有する材料を含む。この被膜223の存在により、充放電時に負極22でリチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションが起きやすくなる。
【0060】
図5に示したように、被覆粒子222は被膜223とは別個に形成されるものである。すなわち、被膜223は初回の充電を経て形成されるものであるのに対して、被覆粒子222は充電の有無に関係なく負極活物質221の表面に事前に形成されているものである。図4に示した負極材料220の構造(負極活物質221の表面に複数の被覆粒子222を有する構造)および図5に示した負極材料220の構造(負極活物質221の表面に複数の被覆粒子222および被膜223を有する構造)は、例えば、上記した負極材料と同様に、ESCAによる元素分析によって確認可能である。後者の場合には、被覆粒子222と被膜223とが部分的に相互拡散する可能性があるが、その場合においてもESCAによって負極材料220の構造を確認可能である。なぜなら、ESCAによる元素分析において、被覆粒子222はアルカリ金属塩等がリッチな領域として測定され、被膜223は上記したリチウム、炭素および酸素等がリッチな領域として測定されるはずだからである。
【0061】
負極活物質層22Bの厚さは特に限定されないが、高電池容量を得るために厚塗り仕様の厚さ(例えば50μm以上)であるのが好ましい。十分な電池容量が得られるからである。特に、上記した厚さは、60μm以上120μm以下であるのがより好ましい。負極活物質221に複数の被覆粒子222を設ける効果がより高くなり、具体的にはサイクル特性がより向上するからである。詳細には、負極活物質層22Bの厚さが厚くなりすぎると、リチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションが起こりにくくなる可能性がある。なお、上記した「負極活物質層22B」の厚さとは、負極集電体22Aの片面側における負極活物質層22Bの厚さである。すなわち、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられている場合には、両方の負極活物質層22Bの厚さの和ではなく、各負極活物質層22Bの厚さを指す。この負極活物質層22Bの厚さの定義および適正範囲は、正極活物質層21Bの厚さについても同様である。
【0062】
また、負極活物質層22Bの体積密度は特に限定されないが、高電池容量を得るために高体積密度仕様の体積密度(例えば1.60g/cm3 以上)であるのが好ましい。十分な電池容量が得られるからである。特に、体積密度は、1.70g/cm3 以上1.95g/cm3 以下であるのがより好ましい。負極活物質層22Bの厚さを適正化した場合と同様の理由により、サイクル特性がより向上するからである。
【0063】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどからなる合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜によって構成されており、それらの2種以上の多孔質膜を積層した構造であってもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は、ショート防止効果に優れており、シャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下でシャットダウン効果が得られると共に電気化学的安定性に優れているので好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも化学的安定性を備えた樹脂であれば、ポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合させたものであったり、ブレンド化したものであってもよい。
【0064】
このセパレータ23には、液状の電解質として電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0065】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。この非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、エチレンスルフィトあるいはビストリフルオロメチルスルホニルイミドトリメチルヘキシルアンモニウムなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性が得られるからである。この場合には、特に、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)とを混合したものが好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するため、より高い効果が得られるからである。
【0066】
この溶媒は、不飽和結合を有する環状炭酸エステルや、ハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルあるいは環状炭酸エステルなどを含んでいるのが好ましい。サイクル特性が向上するからである。不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸ビニレンあるいは炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。ハロゲンを有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。ハロゲンを有する環状炭酸エステルとしては、例えば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
【0067】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。このリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 5 SO2 2 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 2 )、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 3 )、塩化リチウム(LiCl)あるいは臭化リチウム(LiBr)などが挙げられる。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性が得られるからである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、六フッ化リン酸リチウムが好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0068】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であるのが好ましい。この範囲外ではイオン伝導性が低下するため、十分な電池容量が得られない可能性があるからである。
【0069】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0070】
この二次電池は、例えば、以下の手順によって製造可能である。
【0071】
まず、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを形成して正極21を作製する。この場合には、例えば、正極活物質の粉末と、導電剤と、結着剤とを混合した正極合剤を溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとし、正極集電体21Aに均一に塗布して乾燥させたのち、圧縮成型する。
【0072】
また、上記した負極材料を用いて負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成して負極22を作製する。この場合には、例えば、負極材料の粉末と、導電剤と結着剤とを混合した負極合剤を溶媒に分散させてペースト状の負極合剤スラリーとし、負極集電体22Aに均一に塗布して乾燥させたのち、圧縮成型する。
【0073】
なお、正極活物質層21Bおよび負極活物質層22Bを形成する際には、上記したように正極合剤スラリーおよび負極合剤スラリーを塗布する代わりに、正極合剤および負極合剤をそれぞれ正極集電体21Aおよび負極集電体22Aに貼り付けてもよい。
【0074】
次に、正極集電体21Aに正極リード25を溶接して取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接して取り付けたのち、正極21および負極22をセパレータ23を介して巻回させて巻回電極体20を形成する。続いて、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接したのち、巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟みながら電池缶11の内部に収納する。続いて、電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめて固定する。これにより、図2および図3に示した二次電池が完成する。
【0075】
この円筒型の二次電池およびその製造方法によれば、負極22の負極活物質層22Bが上記した負極材料と同様の構成を有する負極材料220を含んでいるので、高電池容量を得るために負極活物質層22Bを厚塗りや高体積密度化した場合においても、充放電時にリチウムイオンが円滑に吸蔵および放出されると共に、電解液の分解反応が抑制される。したがって、入出力特性を確保しつつサイクル特性を向上させることができる。
【0076】
特に、負極材料220の負極活物質221が炭素材料を含む場合には、負極活物質層22Bを厚塗りや高体積密度化すると入出力特性が低下しやすい傾向にあることから、負極活物質221に複数の被覆粒子222を設けることより、負極活物質層22Bを厚塗りや高体積密度化した場合においても十分な入出力特性を得ることができる。
【0077】
特に、負極活物質221が炭素材料として天然黒鉛を含むようにすれば、電池容量およびサイクル特性をより向上させることができる。また、負極活物質221に対する複数の被覆粒子222の割合が0.1重量%以上10重量%以下であれば、サイクル特性をより向上させることができる。
【0078】
さらに、負極活物質層22Bの厚さが60μm以上120μm以下であり、あるいは負極活物質層22Bの体積密度が1.70g/cm3 以上1.95g/cm3 以下であれば、サイクル特性をより向上させることができる。
【0079】
(第2の電池)
図6は、第2の電池の分解斜視構成を表している。この電池は、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものである。このフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0080】
正極リード31および負極リード32は、例えば、それぞれ外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの金属材料によって構成されており、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。正極リード31および負極リード32を構成する金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
【0081】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされた矩形状のアルミラミネートフィルムによって構成されている。この外装部材40では、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向していると共に、各外縁部が融着あるいは接着剤によって互いに密着されている。外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂によって構成されている。
【0082】
なお、外装部材40は、上記した3層構造のアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造のラミネートフィルムによって構成されていてもよいし、またはポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムによって構成されていてもよい。
【0083】
図7は、図6に示した巻回電極体30のVII−VII線に沿った断面構成を表している。この電極巻回体30は、正極33および負極34がセパレータ35および電解質36を介して積層されたのちに巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ37によって保護されている。
【0084】
正極33は、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34Bおよびセパレータ35の構成は、それぞれ第1の電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。
【0085】
図8および図9は、負極活物質層34Bに用いられる負極材料340の断面構成を表しており、それぞれ図4および図5に対応している。この負極材料340は、第1の電池における負極材料220と同様の構成を有しており、初回の充電前には、図8に示したように、負極活物質341の表面に複数の被覆粒子342を有し、初回の充電後には、図9に示したように、負極活物質341および複数の被覆粒子342と共に被膜343を有している。負極活物質341、被覆粒子342および被膜343の構成は、それぞれ第1の電池における負極活物質221、被覆粒子222および被膜223の構成と同様である。
【0086】
電解質36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状になっている。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に電池の漏液が防止されるので好ましい。
【0087】
高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物や、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物あるいはアクリレート系高分子化合物や、ポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ化ビニリデンの重合体などが挙げられる。これらは、単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。特に、酸化還元安定性の点から、フッ化ビニリデンの重合体などのフッ素系高分子化合物などが好ましい。電解液中における高分子化合物の添加量は、両者の相溶性によっても異なるが、5質量%以上50質量%以下であるのが好ましい。
【0088】
電解液の構成は、上記した第1の電池における電解液の構成と同様である。ただし、第2の電池における溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0089】
なお、電解液を高分子化合物に保持させた電解質36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0090】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極33からリチウムイオンが放出され、電解質36を介して負極34に吸蔵される。一方、放電を行うと、負極34からリチウムイオンが放出され、電解質36を介して正極33に吸蔵される。
【0091】
この二次電池は、例えば、以下の3種類の製造方法によって製造可能である。
【0092】
第1の製造方法では、最初に、第1の電池の製造方法と同様の手順により、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製し、正極33および負極34に塗布したのちに溶剤を揮発させてゲル状の電解質36を形成する。続いて、正極集電体33Aおよび負極集電体34Aにそれぞれ正極リード31および負極リード32を取り付ける。続いて、電解質36が形成された正極33および負極34をセパレータ35を介して積層させたのちに長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させて巻回電極体30を形成する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させて巻回電極体30を封入する。この際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、二次電池が完成する。
【0093】
第2の製造方法では、最初に、正極33および負極34にそれぞれ正極リード31および負極リード32を取り付けたのち、正極33および負極34をセパレータ35を介して積層して巻回させると共に最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させて袋状の外装部材40の内部に収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製し、袋状の外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とし、ゲル状の電解質36を形成する。これにより、二次電池が完成する。
【0094】
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第1の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとクロロトリフルオロエチレンとを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体に加えて、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質36が形成されるため、二次電池が完成する。
【0095】
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、膨れ特性が改善される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや溶媒などが電解質36中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質36との間において十分な密着性が得られる。
【0096】
このラミネートフィルム型の二次電池およびその製造方法に関する作用および効果は、上記した第1の電池と同様である。
【0097】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0098】
本実施の形態の負極材料は、負極活物質1の構成材料が異なることを除き、第1の実施の形態の負極材料(図1参照)と同様の構成を有している。
【0099】
負極活物質1は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な材料のいずれか1種あるいは2種以上として、例えば、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料を含んでいる。高いエネルギー密度が得られるからである。この金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体、合金あるいは化合物であってもよいし、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するものであってもよい。
【0100】
ただし、本発明における合金は、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含有するものも含み、非金属元素を含有していてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0101】
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、電極反応物質と合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛(Pb)、ビスマス、カドミウム(Cd)、銀、亜鉛、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズからなる群のうちの少なくとも1種が好ましい。電極反応物質を吸蔵および放出する能力が大きいため、極めて高いエネルギー密度が得られるからである。
【0102】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を含む材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物、スズの単体、合金あるいは化合物、またはそれらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
【0103】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含有する材料が挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を含有する材料が挙げられ、ケイ素に加えて、上記した第2の構成元素を含有していてもよい。ケイ素の合金あるいは化合物としては、例えば、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 O、SiOv (0<v≦2)、SnOw (0<w≦2)あるいはLiSiOなどが挙げられる。
【0104】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含有する材料が挙げられる。スズの化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を含有するものが挙げられ、スズに加えて、上記した第2の構成元素を含有していてもよい。スズの合金あるいは化合物としては、例えば、SnSiO3 、LiSnO、Mg2 Snなどが挙げられる。
【0105】
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を含有する材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を含有する材料が好ましい。第2の構成元素は、例えば、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、セリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、例えば、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリンからなる群のうちの少なくとも1種である。スズに加えて第2および第3の構成元素を含むことにより、サイクル特性が向上するからである。
【0106】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として含有し、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0107】
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を含んでいてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を含んでいてもよい。より高い効果が得られるからである。
【0108】
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性あるいは非晶質の構造を有しているのが好ましい。また、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合しているのが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
【0109】
SnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合させた混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解したのちに凝固させることによって形成可能である。この他、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法などによっても形成可能である。中でも、メカノケミカル反応を利用する方法が好ましい。負極活物質1が低結晶あるいは非晶質の構造になるからである。メカノケミカル反応を利用する方法では、例えば、遊星ボールミル装置やアトライタなどの製造装置を用いることができる。
【0110】
また、元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSでは、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、グラファイトであれば、炭素の1s軌道(C1s)のピークは284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば、炭素が金属元素あるいは半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合している。
【0111】
なお、XPSでは、例えば、スペクトルのエネルギー軸の補正に、C1sのピークを用いる。通常、表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。XPSにおいて、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0112】
この負極材料は、第1の実施の形態と同様の手順によって製造可能である。この際、負極活物質1は、塗布法、気相法、液相法、溶射法あるいは焼成法、またはそれらの1種あるいは2種以上の方法によって形成可能である。気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(Chemical Vapor Deposition :CVD)法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電解鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。焼成法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合し、溶剤に分散させて塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
【0113】
本実施の形態の負極材料およびその製造方法によれば、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な材料として金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料によって負極活物質1を形成し、その負極活物質1の表面にアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含む複数の被覆粒子2を形成しているので、第1の実施の形態と同様の作用により、負極材料が用いられた電気化学デバイスの性能向上に寄与することができる。
【0114】
特に、負極活物質1がケイ素の単体、合金および化合物、ならびにスズの単体、合金および化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含み、あるいは第1の構成元素であるスズと第2の構成元素であるコバルト等と第3の構成元素であるホウ素等とを含有する材料を含むようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0115】
本実施の形態の負極材料およびその製造方法に関する他の効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0116】
この負極材料およびその製造方法は、第1の実施の形態と同様に、第1および第2の電池に用いることができる。
【0117】
第1の電池において、負極活物質221の形成材料として、ケイ素の単体、合金あるいは化合物、スズの単体、合金あるいは化合物、またはそれらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料を用いる場合には、例えば、負極活物質221が気相法、液相法、溶射法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成され、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとが界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。具体的には、界面において負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに拡散し、あるいは負極活物質層22Bの構成元素が負極集電体22Aに拡散し、または両者の構成元素が互いに拡散し合っているのが好ましい。充放電に伴う負極活物質層22Bの膨張および収縮による破壊が抑制されると共に、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとの間の電子伝導性が向上するからである。このことは、第2の電池についても同様である。
【0118】
この負極材料およびその製造方法を用いた二次電池およびその製造方法においても、上記した第1および第2の電池と同様の効果を得ることができる。特に、負極活物質221,341が金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料を含むため、高電池容量を得ることができる。
【実施例】
【0119】
本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【0120】
(実施例1−1)
以下の手順によって、図2〜図4に示した円筒型の二次電池を製造した。この際、負極22の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
【0121】
まず、正極21を作製した。最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃で5時間焼成してリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。このリチウムコバルト複合酸化物をX線回折法によって分析したところ、得られたピークはJCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standard)ファイルに登録されたピークとよく一致していた。続いて、リチウムコバルト複合酸化物を粉砕して粉末状にしたのち、その粉末95質量部と炭酸リチウム粉末5質量部とを混合して正極活物質を得た。この際、レーザ回折法によって測定されるリチウムコバルト複合酸化物の累積50%粒径を15μmとした。続いて、正極活物質94質量部と、導電剤としてケッチェンブラック(ライオン株式会社製)3質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。最後に、帯状のアルミニウム箔(厚さ=20μm)からなる正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層21Bを形成した。この際、正極活物質層21Bについて、正極集電体21Aの片面側における厚さを97μmとし、体積密度を3.55g/cm3 とした。
【0122】
次に、負極22を作製した。最初に、負極活物質221として、炭素材料である粒状黒鉛粉末(MCMB(Mesocarbon Microbead):メソカーボンマイクロビーズ)を準備した。この際、X線回折法によって測定されるC軸方向の格子面間隔d002 を0.3363nmとし、平均粒径を25μmとし、窒素(N2 )BET(Brunauer-Emmett-Teller )法によって測定される比表面積を0.8m2 /gとした。続いて、アルカリ金属塩として塩化リチウム(LiCl)粉末を水に溶解させて塩化リチウム水溶液を調製し、その塩化リチウム水溶液中にMCMBを浸積させたのち、1時間攪拌した。続いて、MCMBを浸積させた塩化リチウム水溶液を濾過したのち、120℃で1時間真空乾燥し、負極活物質221の表面に塩化リチウムを析出させて複数の被覆粒子222を形成することにより、負極材料220を得た。
【0123】
得られた負極材料220の比表面積を窒素ガスBET法によって測定したところ、負極活物質221の比表面積が5%程度減少していた。また、被覆粒子222の形成前後において、目視によって外観の色を調べたところ、全体に渡って黒色から灰色に変化した。これらの比表面積の減少や外観色の変化から、負極活物質221の表面に被覆粒子222が形成されたことが確認された。参考までに、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)によって負極材料220の表面を10000倍で観察してみたところ、その倍率では負極活物質221の表面に被覆粒子222を観察することができず、各被覆粒子222の粒径はサブミクロン以下であることが分かった。
【0124】
被覆粒子222を形成する際には、水の重量を一定にしたままで、それに溶解させる塩化リチウムの量を調整することにより、負極活物質221に対する複数の被覆粒子222の割合を1重量%とした。確認までに、被覆粒子222の形成前後における重量差を調べたところ、その重量差は塩化リチウムの溶解量に一致していた。このことから、塩化リチウム水溶液中における全ての塩化リチウムが負極活物質221の表面に析出したことが確認された。
【0125】
続いて、負極材料220を90質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合して負極合剤としたのち、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。最後に、帯状の電解銅箔(厚さ=15μm)からなる負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して負極活物質層22Bを形成した。この際、負極活物質層22Bについて、負極集電体22Aの片面側における厚さを90μmとし、体積密度を1.81g/cm3 とした。
【0126】
続いて、正極21および負極22を用いて二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体21Aの一端にアルミニウム製の正極リード25を溶接して取り付けると共に、負極集電体22Aの一端にニッケル製の負極リード26を溶接して取り付けた。続いて、正極21と、微多孔性のポリエチレン延伸フィルムからなるセパレータ23(厚さ=25μm)と、負極22と、上記したセパレータ23とをこの順に積層させたのち、その積層体を巻回させて巻回電極体20を作製した。続いて、正極リード25を安全弁機構15に溶接すると共に負極リード26を電池缶11に溶接したのち、ニッケル鍍金された鉄製の電池缶11の内部に巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟みながら収納した。続いて、電解液を調製したのち、その電解液を減圧方式によって電池缶11の内部に注入してセパレータ23に含浸させた。この電解液を調製する際には、溶媒として炭酸エチレンと炭酸ジエチルと炭酸プロピレンと炭酸ビニルエチレンとを50:30:17:3の重量比で混合したのち、電解液中の濃度が1mol/kgとなるように電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させた。最後に、アスファルトが塗布されたガスケット17を介して電池缶11をかしめて安全弁機構15、熱感抵抗素子16および電池蓋14を固定した。これにより、電池缶11の内部の気密性が確保され、直径18mm×高さ65mmの円筒型の二次電池が完成した。
【0127】
(実施例1−2〜1−6)
アルカリ金属塩として塩化ナトリウム(NaCl:実施例1−2)、塩化カリウム(KCl:実施例1−3)、炭酸リチウム(Li2 CO3 :実施例1−4)、炭酸ナトリウム(Na2 CO3 :実施例1−5)、あるいは炭酸カリウム(K2 CO3 :実施例1−6)を用いたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0128】
(実施例1−7,1−8)
アルカリ金属塩に代えて、アルカリ土類金属塩として炭酸マグネシウム(MgCO3 :実施例1−7)あるいは炭酸カルシウム(CaCO3 :実施例1−8)を用いたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0129】
(比較例1)
複数の被覆粒子222を形成しなかったことを除き、実施例1−1〜1−8と同様の手順を経た。
【0130】
これらの実施例1−1〜1−8および比較例1の二次電池について入出力特性およびサイクル特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0131】
入出力特性を調べる際には、23℃の雰囲気中で二次電池を充放電させたのち、初回充放電効率(%)=(放電容量/充電容量)×100を算出した。この際、1Cの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で総充電時間が4時間になるまで充電したのち、1500mAの定電流で電池電圧が3.0Vに達するまで放電した。上記した「1C」とは、理論容量を1時間で放電しきる電流値である。
【0132】
サイクル特性を調べる際には、23℃の雰囲気中で1サイクル充放電させて放電容量を測定し、引き続き同雰囲気中でサイクル数の合計が100サイクルとなるまで充放電させて放電容量を測定したのち、放電容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100を算出した。この際、充放電条件については入出力特性を調べる場合と同様にした。
【0133】
なお、上記した入出力特性およびサイクル特性を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実施例および比較例についても同様である。
【0134】
【表1】

【0135】
表1に示したように、複数の被覆粒子222を形成した実施例1−1〜1−8では、それを形成しなかった比較例1と比較して、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩の種類に関係なく、初回充放電効率および放電容量維持率が高くなった。なお、表1では、アルカリ金属塩とアルカリ土類金属塩とを混合させた実施例を開示していない。しかしながら、アルカリ土類金属塩あるいはアルカリ土類金属塩を個別に用いた場合に上記した結果が得られることは表1の結果から確かであり、アルカリ金属塩とアルカリ土類金属塩とを混合させた場合に初回充放電効率や放電容量維持率が低下する特別な理由も考えられないことから、両者を混合させた場合においても同様の結果が得られることは明らかである。
【0136】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてMCMBを用いた場合に、その負極活物質の表面にアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含む複数の被覆粒子を形成することにより、入出力特性が確保されると共にサイクル特性が向上することが確認された。
【0137】
(実施例2−1〜2−5)
負極活物質層22Bの厚さを95μmとし、負極活物質221に対する複数の被覆粒子222の割合を0.05重量%(実施例2−1)、0.1重量%(実施例2−2)、1重量%(実施例2−3)、10重量%(実施例2−4)、あるいは15重量%(実施例2−5)としたことを除き、実施例1−6と同様の手順を経た。この場合には、炭酸カリウムの溶解量や炭酸カリウム水溶液と負極活物質221との混合比を調整して、割合が上記した各値となるようにした。
【0138】
(比較例2)
複数の被覆粒子222を形成しなかったことを除き、実施例2−1〜2−5と同様の手順を経た。
【0139】
これらの実施例2−1〜2−5および比較例2の二次電池について入出力特性およびサイクル特性を調べたところ、表2および図10に示した結果が得られた。
【0140】
【表2】

【0141】
表2に示したように、複数の被覆粒子222を形成した実施例2−1〜2−5では、それを形成しなかった比較例2と比較して、初回充放電効率が同等以上になったと共に放電容量維持率が高くなった。この場合には、負極活物質221に対する複数の被覆粒子222の割合に着目すると、表2および図10に示したように、初回充放電維持率は割合に依存せずにほぼ一定であったが、放電容量維持率は割合が0.1重量%以上になるか10重量%以下になると大幅に高くなる傾向を示した。
【0142】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質に対する複数の被覆粒子の割合が0.1重量%以上10重量%以下であればサイクル特性がより向上することが確認された。
【0143】
(実施例3−1〜3−4)
負極活物質層22Bの厚さを50μm(実施例3−1)、60μm(実施例3−2)、120μm(実施例3−3)、あるいは130μm(実施例3−4)としたことを除き、実施例1−6と同様の手順を経た。
【0144】
(比較例3−1〜3−4)
複数の被覆粒子222を形成しなかったことを除き、実施例3−1〜3−4と同様の手順を経た。
【0145】
これらの実施例3−1〜3−4および比較例3−1〜3−4の二次電池について入出力特性およびサイクル特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。なお、表3に示した「維持率増加分」とは、実施例1−6,2−3,3−1〜3−4と比較例1,2,3−1〜3−4との間で負極活物質層22Bの厚さごとに比較した場合における放電容量維持率の増加量であり、以降においても同様である。
【0146】
【表3】

【0147】
表3に示したように、複数の被覆粒子222を形成した実施例3−1〜3−4では、それを形成しなかった比較例3−1〜3−4と比較して、初回充放電効率および放電容量維持率が高くなった。
【0148】
この場合には、負極活物質層22Bの厚さごとに維持率増加分を比較すると、その維持率増加分は厚さが60μm以上になるか120μm以下になると大幅に増加する傾向を示した。この結果は、複数の被覆粒子222が放電容量維持率に及ぼす影響について、以下のことを表している。負極活物質層22Bの厚さが60μmよりも薄いと、充電時に負極22の電流密度が十分に低くなり、電極反応の律速過程である負極活物質層22Bと電解液との界面でリチウムイオンの移動速度が速いため、被覆粒子222を形成した効果が十分に現れない。一方、負極活物質層22Bの厚さが120μmよりも厚いと、充電時に負極22の電流密度が高くなりすぎて、被覆粒子222を形成しても上記した界面でリチウムイオンが十分に移動できないため、被覆粒子222を形成した効果が十分に現れない。これに対して、負極活物質層22Bの厚さが60μm以上120μm以下であると、充電時に負極22の電流密度が高くなっても、被覆粒子222の存在によってリチウムイオンが移動しやすくなるため、その被覆粒子222を形成した効果が十分に現れる。
【0149】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質層の厚さを変更した場合においても入出力特性が確保されると共にサイクル特性が向上し、その厚さが60μm以上120μm以下であればサイクル特性がより向上することが確認された。
【0150】
(実施例4−1〜4−4)
負極活物質層22Bの体積密度を1.60g/cm3 (実施例4−1)、1.70g/cm3 (実施例4−2)、1.95g/cm3 (実施例4−3)、あるいは2.00g/cm3 (実施例4−4)としたことを除き、実施例2−3と同様の手順を経た。
【0151】
(比較例4−1〜4−4)
複数の被覆粒子222を形成しなかったことを除き、実施例4−1〜4−4と同様の手順を経た。
【0152】
これらの実施例4−1〜4−4および比較例4−1〜4−4の二次電池について入出力特性およびサイクル特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
【0153】
【表4】

【0154】
表4に示したように、複数の被覆粒子222を形成した実施例4−1〜4−4では、それを形成しなかった比較例4−1〜4−4と比較して、初回充放電効率および放電容量維持率が高くなった。
【0155】
この場合には、負極活物質層22Bの体積密度ごとに維持率増加分を比較すると、その維持率増加分は体積密度が1.70g/cm3 以上になるか1.95g/cm3 以下になると大幅に増加する傾向を示した。この結果は、複数の被覆粒子222が放電容量維持率に及ぼす影響について、以下のことを表している。負極活物質層22Bの体積密度が1.70g/cm3 よりも低いと、充電時に負極22内におけるリチウムイオンの移動速度が速くなり、電極反応の律速過程である負極活物質層22Bと電解液との界面でも同様にリチウムイオンの移動速度が速いため、被覆粒子222を形成した効果が十分に現れない。一方、負極活物質層22Bの体積密度が1.95g/cm3 よりも高いと、充電時に負極22内におけるリチウムイオンの移動速度が遅くなり、被覆粒子222を形成しても上記した界面でリチウムイオンが十分に移動できないため、被覆粒子222を形成した効果が十分に現れない。これに対して、負極活物質層22Bの体積密度が1.70g/cm3 以上1.95g/cm3 以下であると、体積密度が高い場合においても被覆粒子222の存在によってリチウムイオンが移動しやすくなるため、その被覆粒子222を形成した効果が十分に現れる。
【0156】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質層の体積密度を変更しても入出力特性が確保されると共にサイクル特性が向上し、その体積密度が1.70g/cm3 以上1.95g/cm3 以下であればサイクル特性がより向上することが確認された。
【0157】
(実施例5−1)
負極活物質221の比表面積を1.5m2 /g(実施例5−1)としたことを除き、実施例2−3と同様の手順を経た。
【0158】
(実施例5−2,5−3)
負極活物質221としてMCMBに代えて天然黒鉛を用い、その比表面積を2.2m2 /g(実施例5−2)あるいは4.1m2 /g(実施例5−3)としたことを除き、実施例2−3と同様の手順を経た。
【0159】
(比較例5−1〜5−3)
複数の被覆粒子222を形成しなかったことを除き、実施例5−1〜5−3と同様の手順を経た。
【0160】
これらの実施例5−1〜5−3および比較例5−1〜5−3の二次電池について入出力特性およびサイクル特性を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
【0161】
【表5】

【0162】
表5に示したように、複数の被覆粒子222を形成した実施例5−1〜5−3では、それを形成しなかった比較例5−1〜5−3と比較して、初回充放電効率および放電容量維持率が高くなった。
【0163】
この場合には、負極活物質221の種類ごとに維持率増加分を比較すると、その維持率増加分はMCMBよりも天然黒鉛において大幅に増加する傾向を示した。この結果は、複数の被覆粒子222が放電容量維持率に及ぼす影響について、以下のことを表している。高結晶で面間隔が狭い天然黒鉛を用いた場合には、MCMBを用いた場合と比較して、負極活物質層22Bと電解液との界面でリチウムイオンの移動速度が遅くなるため、負極活物質層22Bの厚さや体積密度を大きくすると、放電容量維持率が大幅に低下しやすい傾向にある。この場合には、負極活物質221の表面に被覆粒子222を形成すると、負極活物質層22Bの厚さや体積密度が大きい場合においてもリチウムイオンの移動速度が速くなるため、その被覆粒子222を形成した効果が十分に現れる。また、負極活物質221の表面に被覆粒子222が存在すると、比表面積が大きい天然黒鉛を用いた場合においても電解液の分解が抑制されるため、やはり複数の被覆粒子222を形成した効果が十分に現れる。
【0164】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質として炭素材料を用いた場合に、その炭素材料の種類および比表面積を変更しても入出力特性が確保されると共にサイクル特性が向上し、天然黒鉛を用いればサイクル特性がより向上することが確認された。
【0165】
(実施例6−1〜6−8)
以下の手順を除き、実施例1−1〜1−8と同様に円筒型の二次電池を製造した。
【0166】
リチウムコバルト複合酸化物を得る場合には、炭酸リチウムと炭酸コバルトとの混合物を890℃で5時間焼成したのち、平均粒径が10μmとなるまで粉砕した。また、正極活物質層21Bを形成する場合には、リチウムコバルト複合酸化物と炭酸リチウムとの混合物91質量部と、導電剤としてグラファイト(ロンザ株式会社製 KS−15)6質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合した。
【0167】
負極活物質221としては、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料であるSnCoC含有材料を用いた。すなわち、最初に、原料としてコバルト粉末とスズ粉末と炭素粉末とを用意し、コバルト粉末とスズ粉末とを合金化してコバルト・スズ合金粉末としたのち、その合金粉末に炭素粉末を加えて乾式混合した。続いて、伊藤製作所製の遊星ボールミルの反応容器中に混合物20gを直径9mmの鋼玉約400gと一緒にセットした。続いて、反応容器中をアルゴン雰囲気に置換したのち、毎分250回転の回転速度による10分間の運転と10分間の休止とを運転時間の合計が30時間になるまで繰り返した。最後に、反応容器を室温まで冷却し、合成されたSnCoC含有材料を取り出したのち、280メッシュのふるいを通して粗粉を取り除いた。このSnCoC含有材料の組成を分析したところ、スズの含有量は50質量%、コバルトの含有量は29.4質量%、炭素の含有量は19.6質量%であった。この際、スズおよびコバルトの含有量については誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分析によって測定し、炭素の含有量については炭素・硫黄分析装置によって測定した。
【0168】
得られたSnCoC含有材料をX線回折法によって分析したところ、2θ=20°〜50°の範囲に半値幅を有する回折ピークが観察された。また、SnCoC含有材料をXPSによって分析したところ、図11に示したように、ピークP1が得られた。このピークP1を解析すると、表面汚染炭素のピークP2と、それよりも低エネルギー側(284.5eVよりも低い領域)にSnCoC含有材料中におけるC1sのピークP3とが得られた。すなわち、SnCoC含有材料中の炭素が他の元素と結合していることが確認された。
【0169】
負極22を作製する場合には、負極活物質221としてSnCoC含有材料を有する負極材料220を80質量部と、導電剤としてグラファイト(ロンザ株式会社製 KS−15)11質量部およびアセチレンブラック1質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン8質量部とを混合して負極合剤としたのち、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。こののち、帯状の電解銅箔(厚さ=10μm)からなる負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して負極活物質層22Bを形成した。
【0170】
二次電池を組み立てる際には、多孔性のポリプロピレンによって多孔性のポリエチレンが挟まれた3層構造のセパレータ23(宇部興産株式会社製 UP3015,厚さ=25μm)を用いた。また、電解液を調製する際には、溶媒として炭酸エチレンと炭酸ジメチルと4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとを20:60:20の重量比で混合したのち、電解液中の濃度がいずれも0.5mol/kgとなるように電解質塩として六フッ化リン酸リチウムおよびビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 5 SO2 2 )を溶解させた。
【0171】
(比較例6)
複数の被覆粒子222を形成しなかったことを除き、実施例6−1〜6−8と同様の手順を経た。
【0172】
これらの実施例6−1〜6−8および比較例6の二次電池について、放電電圧が2.6Vに達するまで放電したことを除き、実施例1−1〜1−8および比較例1と同様に入出力特性およびサイクル特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。なお、上記した放電電圧の変更は、以降の一連の実施例および比較例についても同様である。
【0173】
【表6】

【0174】
表6に示したように、複数の被覆粒子222を形成した実施例6−1〜6−8では、それを形成しなかった比較例6と比較して、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩の種類に関係なく、初回充放電効率および放電容量維持率が高くなった。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてSnCoC含有材料を用いた場合に、その負極活物質の表面にアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含む複数の被覆粒子を形成することにより、入出力特性が確保されると共にサイクル特性が向上することが確認された。
【0175】
(実施例7−1〜7−4)
実施例6−1〜6−8と同様に負極活物質221としてSnCoC含有材料を用いたことを除き、実施例2−1,2−2,2−4,2−5と同様の手順を経た。
【0176】
これらの実施例7−1〜7−4の二次電池について入出力特性およびサイクル特性を調べたところ、表7および図12に示した結果が得られた。
【0177】
【表7】

【0178】
表7に示したように、複数の被覆粒子222を形成した実施例7−1〜7−4では、それを形成しなかった比較例6と比較して、初回充放電効率および放電容量維持率が高くなった。
【0179】
この場合には、表7および図12に示したように、初回充放電効率は割合が0.1重量%以上になると大幅に高くなり、放電容量維持率は割合が10重量%以下になると大幅に高くなる傾向を示した。この結果は、割合が0.1重量%よりも少ないと、被覆粒子222の数が少なすぎるため、負極活物質層22Bと電解液との界面でリチウムイオンが十分に移動できなくなり、一方、10重量%よりも多いと、被覆粒子222の数が多すぎるため、放電容量が低下しやすいことを表している。
【0180】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質に対する複数の被覆粒子の割合が0.1重量%以上10重量%以下であれば、初回充放電効率およびサイクル特性がより向上することが確認された。
【0181】
(実施例8−1〜8−6)
負極活物質221として、SnMnC含有材料(実施例8−1)、SnFeC含有材料(実施例8−2)、SnNiC含有材料(実施例8−3)、SnCuC含有材料(実施例8−4)、SnCoB含有材料(実施例8−5)、あるいはSnCoP含有材料(実施例8−6)を用いたことを除き、実施例6−6と同様の手順を経た。
【0182】
(比較例8−1〜8−6)
複数の被覆粒子222を形成しなかったことを除き、実施例8−1〜8−6と同様の手順を経た。
【0183】
これらの実施例8−1〜8−6および比較例8−1〜8−6の二次電池について入出力特性およびサイクル特性を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
【0184】
【表8】

【0185】
表8に示したように、複数の被覆粒子222を形成した実施例8−1〜8−6では、それを形成しなかった比較例8−1〜8−6と比較して、初回充放電効率および放電容量維持率が高くなった。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてスズと共に他の金属元素を含む合金を用いた場合に、その金属元素を変更しても入出力特性が確保されると共にサイクル特性が向上することが確認された。
【0186】
(実施例9−1,9−2)
負極活物質221であるSnCoC含有材料の組成(質量比)を56:33:9:9(実施例9−1)あるいは43.7:25.6:29.7(実施例9−2)としたことを除き、実施例6−6と同様の手順を経た。
【0187】
(比較例9−1,9−2)
複数の被覆粒子222を形成しなかったことを除き、実施例9−1,9−2と同様の手順を経た。
【0188】
これらの実施例9−1,9−2および比較例9−1,9−2の二次電池について入出力特性およびサイクル特性を調べたところ、表9に示した結果が得られた。
【0189】
【表9】

【0190】
表9に示したように、複数の被覆粒子222を形成した実施例9−1,9−2では、それを形成しなかった比較例9−1,9−2と比較して、初回充放電効率および放電容量維持率が高くなった。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてスズを含む合金を用いた場合に、その組成を変更しても入出力特性が確保されると共にサイクル特性が向上することが確認された。
【0191】
(実施例10−1〜10−8)
負極活物質221としてSnCoC含有材料に代えてケイ素を用いたことを除き、実施例6−1〜6−8と同様の手順を経た。負極活物質221を形成する場合には、偏向式電子ビーム蒸着源を用いた電子ビーム蒸着法によって負極集電体21Aの両面にケイ素を堆積させた。
【0192】
(比較例10)
複数の被覆粒子222を形成しなかったことを除き、実施例10−1〜10−8と同様の手順を経た。
【0193】
これらの実施例10−1〜10−8および比較例10の二次電池について入出力特性およびサイクル特性を調べたところ、表10に示した結果が得られた。
【0194】
【表10】

【0195】
表10に示したように、複数の被覆粒子222を形成した実施例10−1〜1−8では、それを形成しなかった比較例10と比較して、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩の種類に関係なく、初回充放電効率および放電容量維持率が高くなった。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてケイ素を用いた場合においても、入出力特性が確保されると共にサイクル特性が向上することが確認された。
【0196】
(実施例11−1,11−2)
電子ビーム蒸着法に代えて、スパッタ法(実施例11−1)あるいは焼結法(実施例11−2)によって負極活物質221を形成したことを除き、実施例10−6と同様の手順を経た。焼結法によって負極活物質221を形成する場合には、負極活物質221としてケイ素粉末(平均粒径=1μm)90質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合して負極合剤とし、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとしたのち、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布し、焼成した。
【0197】
(実施例11−3)
負極活物質221としてケイ素に代えてスズを用い、電子ビーム蒸着法に代えて鍍金法によって負極活物質221を形成したことを除き、実施例10−6と同様の手順を経た。この負極活物質221を形成する場合には、スズ鍍金液を用いて、電解鍍金法によって負極集電体21Aの両面にスズを堆積させた。
【0198】
(比較例11−1〜11−3)
複数の被覆粒子222を形成しなかったことを除き、実施例11−1〜11−3と同様の手順を経た。
【0199】
これらの実施例11−1〜11−3および比較例11−1〜11−3の二次電池について入出力特性およびサイクル特性を調べたところ、表11に示した結果が得られた。
【0200】
【表11】

【0201】
表11に示したように、複数の被覆粒子222を形成した実施例11−1〜11−3では、それを形成しなかった比較例11−1〜11−3と比較して、初回充放電効率および放電容量維持率が高くなった。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてスズを用いたり、あるいは負極活物質としてケイ素やスズを用いた場合に形成方法を変更しても、入出力特性が確保されると共にサイクル特性が向上することが確認された。
【0202】
(実施例12−1)
以下の手順によって、図6〜図8に示したラミネートフィルム型の二次電池を製造したことを除き、実施例6−6と同様の手順を経た。
【0203】
この二次電池を製造する場合には、最初に、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製した。この際、負極活物質層34Bの導電剤としては、グラファイト(JFEスチール株式会社製 メソフェーズ小球体・球晶黒鉛)を用いた。続いて、高分子化合物としてフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体を準備したのち、その高分子化合物と電解液と混合溶剤とを混合して前駆溶液を調製した。この際、高分子化合物の組成として、重量平均分子量が70万である成分と31万である成分とを9:1の重量比で混合し、共重合体中におけるヘキサフルオロプロピレンの割合を7重量%とした。続いて、バーコータを用いて正極33および負極34の両面に前駆溶液を塗布したのち、混合溶剤を揮発させてゲル状の電解質層36を形成した。続いて、正極集電体33Aの一端にアルミニウム製の正極リード31を溶接して取り付けると共に、負極集電体34Aの一端にニッケル製の負極リード32を溶接して取り付けた。続いて、正極33と、ポリエチレン製のセパレータ35(東燃化学株式会社製 E16MMS,厚さ=16μm)と、負極34と、上記したセパレータ35とをこの順に積層し、長手方向に巻回させたのち、粘着テープからなる保護テープ37で巻き終わり部分を固定して巻回電極体30を形成した。最後に、外側から、ナイロン(厚さ=30μm)と、アルミニウム(厚さ=40μm)と、無延伸ポリプロピレン(厚さ=30μm)とが積層された3層構造のラミネートフィルム(総厚=100μm)からなる外装部材40の内部に巻回電極体30を減圧封入することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。
【0204】
(実施例12−2,12−3)
実施例12−1と同様にラミネートフィルム型の二次電池を製造したことを除き、実施例10−6,11−1と同様の手順を経た。
【0205】
(比較例12−1〜12−3)
複数の被覆粒子222を形成しなかったことを除き、実施例12−1〜12−3と同様の手順を経た。
【0206】
これらの実施例12−1〜12−3および比較例12−1〜12−3の二次電池について入出力特性およびサイクル特性を調べたところ、表12に示した結果が得られた。
【0207】
【表12】

【0208】
表12に示したように、複数の被覆粒子222を形成した実施例12−1〜12−3では、それを形成しなかった比較例12−1〜12−3と比較して、初回充放電効率および放電容量維持率が高くなった。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてSnCoC含有材料あるいはケイ素を用いた場合に、電池構造を変更しても入出力特性が確保されると共にサイクル特性が向上することが確認された。
【0209】
上記した表1〜表12、図10および図12の結果から明らかなように、本発明の二次電池では、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質として、炭素材料、あるいは金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料を含む場合に、その負極活物質の表面にアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含む複数の被覆粒子を形成することにより、負極活物質の種類、組成および形成方法や電池構造などに関係なく、入出力特性が確保されると共にサイクル特性が向上することが確認された。
【0210】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の負極材料あるいは負極の用途は、必ずしも電池に限られず、電池以外の他の電気化学デバイスであってもよい。この他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
【0211】
また、上記した実施の形態および実施例では、電解質として、電解液、あるいは電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合について説明したが、他の種類の電解質を用いるようにしてもよい。この他の種類の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス、イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したものや、他の無機化合物と電解液とを混合したものや、それらの無機化合物とゲル状電解質とを混合したものなどが挙げられる。
【0212】
また、上記した実施の形態および実施例では、電池の種類として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の電池は、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極活物質の充電容量を正極活物質の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に伴う容量とリチウムの析出および溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和によって表される二次電池についても同様に適用可能である。
【0213】
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が円筒型およびラミネートフィルム型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、本発明の電池は、角型、コイン型あるいはボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。また、本発明の電池は、二次電池に限らず、一次電池などの他の種類の電池についても同様に適用可能である。
【0214】
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウムあるいはカリウムなどの他の1A族元素や、マグネシウムあるいはカルシウムなどの2A族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属を用いてもよい。これらの場合においても、負極活物質として、上記した実施の形態で説明した材料を用いることが可能である。
【0215】
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の負極材料、負極あるいは電池における負極活物質に対する複数の被覆粒子の割合について、実施例の結果から導き出された数値範囲を適正範囲として説明しているが、その説明は、割合が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、割合が上記した範囲から多少外れてもよい。このことは、上記した割合に限らず、負極活物質層の厚さや体積密度などについても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0216】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る負極材料の構成を模式的に表す断面図である。
【図2】第1の電池の構成を表す断面図である。
【図3】図2に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図4】第1の電池に用いた負極材料の初回充電前の構成を模式的に表す断面図である。
【図5】第1の電池に用いた負極材料の初回充電後の構成を模式的に表す断面図である。
【図6】第2の電池の構成を表す分解斜視図である。
【図7】図6に示した巻回電極体のVII−VII線に沿った構成を表す断面図である。
【図8】第2の電池に用いた負極材料の初回充電前の構成を模式的に表す断面図である。
【図9】第2の電池に用いた負極材料の初回充電後の構成を模式的に表す断面図である。
【図10】負極活物質に対する複数の被覆粒子の割合と初回充放電効率および放電容量維持率との間の相関(負極活物質:MCMB)を表す図である。
【図11】XPSによるSnCoC含有材料の分析結果を表す図である。
【図12】負極活物質に対する複数の被覆粒子の割合と初回充放電効率および放電容量維持率との間の相関(負極活物質:SnCoC含有材料)を表す図である。
【符号の説明】
【0217】
1,221,341…負極活物質、2,222,342…被覆粒子、10,220,340…負極材料、11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活物質層、23,35…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム、223,343…被膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質の表面に複数の被覆粒子を有し、
前記複数の被覆粒子は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含む
ことを特徴とする負極材料。
【請求項2】
前記複数の被覆粒子は、前記負極活物質の表面の少なくとも一部を膜状に覆っていることを特徴とする請求項1記載の負極材料。
【請求項3】
前記アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種は、塩化物塩、炭酸塩および硫酸塩からなる群のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の負極材料。
【請求項4】
前記アルカリ金属塩は、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、炭酸リチウム(Li2 CO3 )、炭酸ナトリウム(Na2 CO3 )および炭酸カリウム(K2 CO3 )からなる群のうちの少なくとも1種であり、
前記アルカリ土類金属塩は、炭酸マグネシウム(MgCO3 )および炭酸カルシウム(CaCO3 )のうちの少なくとも1種である
ことを特徴とする請求項3記載の負極材料。
【請求項5】
前記負極活物質に対する前記複数の被覆粒子の割合は、0.1重量%以上10重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の負極材料。
【請求項6】
前記負極活物質は、炭素材料を含むことを特徴とする請求項1記載の負極材料。
【請求項7】
前記炭素材料は、天然黒鉛であることを特徴とする請求項6記載の負極材料。
【請求項8】
前記負極活物質は、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料を含むことを特徴とする請求項1記載の負極材料。
【請求項9】
前記金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料は、ケイ素(Si)の単体、合金および化合物、ならびにスズ(Sn)の単体、合金および化合物からなる群のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項8記載の負極材料。
【請求項10】
前記金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料は、第1の構成元素であるスズと、第2の構成元素であるコバルト(Co)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、インジウム(In)、セリウム(Ce)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)およびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種と、第3の構成元素であるホウ素(B)、炭素(C)、アルミニウム(Al)およびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種とを含有する材料であることを特徴とする請求項8記載の負極材料。
【請求項11】
電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質の表面に複数の被覆粒子を有する負極材料の製造方法であって、
アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を溶解したのち、それを前記負極活物質の表面に析出させて前記複数の被覆粒子を形成する
ことを特徴とする負極材料の製造方法。
【請求項12】
負極集電体上に負極活物質層を有し、
前記負極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質の表面に複数の被覆粒子を有する負極材料を含み、
前記複数の被覆粒子は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含む
ことを特徴とする負極。
【請求項13】
前記複数の被覆粒子は、前記負極活物質の表面の少なくとも一部を膜状に覆っていることを特徴とする請求項12記載の負極。
【請求項14】
前記アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種は、塩化物塩、炭酸塩および硫酸塩からなる群のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項12記載の負極。
【請求項15】
前記アルカリ金属塩は、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムからなる群のうちの少なくとも1種であり、
前記アルカリ土類金属塩は、炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムのうちの少なくとも1種である
ことを特徴とする請求項14記載の負極。
【請求項16】
前記負極活物質に対する前記複数の被覆粒子の割合は、0.1重量%以上10重量%以下であることを特徴とする請求項12記載の負極。
【請求項17】
前記負極活物質は、炭素材料を含むことを特徴とする請求項12記載の負極。
【請求項18】
前記炭素材料は、天然黒鉛であることを特徴とする請求項17記載の負極。
【請求項19】
前記負極活物質層の厚さは、60μm以上120μm以下であることを特徴とする請求項17記載の負極。
【請求項20】
前記負極活物質層の体積密度は、1.70g/cm3 以上1.95g/cm3 以下であることを特徴とする請求項17記載の負極。
【請求項21】
前記負極活物質は、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料を含むことを特徴とする請求項12記載の負極。
【請求項22】
前記金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料は、ケイ素の単体、合金および化合物、ならびにスズの単体、合金および化合物からなる群のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項21記載の負極。
【請求項23】
前記金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料は、第1の構成元素であるスズと、第2の構成元素であるコバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、セリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種と、第3の構成元素であるホウ素、炭素、アルミニウムおよびリンからなる群のうちの少なくとも1種とを含有する材料であることを特徴とする請求項21記載の負極。
【請求項24】
負極集電体上に負極活物質層を有し、前記負極活物質層が電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質の表面に複数の被覆粒子を有する負極材料を含む負極の製造方法であって、
アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を溶解したのち、それを前記負極活物質の表面に析出させて前記複数の被覆粒子を形成する
ことを特徴とする負極の製造方法。
【請求項25】
正極および負極と共に電解液を備えた電池であって、
前記負極は、負極集電体上に負極活物質層を有し、
前記負極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質の表面に複数の被覆粒子を有する負極材料を含み、
前記複数の被覆粒子は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を含む
ことを特徴とする電池。
【請求項26】
前記複数の被覆粒子は、前記負極活物質の表面の少なくとも一部を膜状に覆っていることを特徴とする請求項25記載の電池。
【請求項27】
前記アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種は、塩化物塩、炭酸塩および硫酸塩からなる群のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項25記載の電池。
【請求項28】
前記アルカリ金属塩は、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムからなる群のうちの少なくとも1種であり、
前記アルカリ土類金属塩は、炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムのうちの少なくとも1種である
ことを特徴とする請求項27記載の電池。
【請求項29】
前記負極活物質に対する前記複数の被覆粒子の割合は、0.1重量%以上10重量%以下であることを特徴とする請求項25記載の電池。
【請求項30】
前記負極材料は、前記複数の被覆粒子を覆うと共に前記負極と前記電解液との間に電極反応物質イオンの伝導性はあるが電子の伝導性はない安定界面を形成する被膜を有することを特徴とする請求項25記載の電池。
【請求項31】
前記負極活物質は、炭素材料を含むことを特徴とする請求項25記載の電池。
【請求項32】
前記炭素材料は、天然黒鉛であることを特徴とする請求項31記載の電池。
【請求項33】
前記負極活物質層の厚さは、60μm以上120μm以下であることを特徴とする請求項31記載の電池。
【請求項34】
前記負極活物質層の体積密度は、1.70g/cm3 以上1.95g/cm3 以下であることを特徴とする請求項31記載の電池。
【請求項35】
前記負極活物質は、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料を含むことを特徴とする請求項25記載の電池。
【請求項36】
前記金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料は、ケイ素の単体、合金および化合物、ならびにスズの単体、合金および化合物からなる群のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項35記載の電池。
【請求項37】
前記金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する材料は、第1の構成元素であるスズと、第2の構成元素であるコバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、セリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種と、第3の構成元素であるホウ素、炭素、アルミニウムおよびリンからなる群のうちの少なくとも1種とを含有する材料であることを特徴とする請求項35記載の電池。
【請求項38】
正極および負極と共に電解液を備え、前記負極が負極集電体上に負極活物質層を有し、前記負極活物質層が電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質の表面に複数の被覆粒子を有する負極材料を含む電池の製造方法であって、
アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種を溶解したのち、それを前記負極活物質の表面に析出させて前記複数の被覆粒子を形成する
ことを特徴とする電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−16245(P2009−16245A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178365(P2007−178365)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】