説明

負荷を拡散させる湾曲したハイブリッドワッシャ

負荷を拡散させる湾曲したハイブリッドワッシャが開示されている。ワッシャの実例となる一実施形態は、複合層と、複合層に接着された金属層と、ワッシャ本体を通って延びる留め具開口部を有するワッシャ本体を備えている。また、床梁シートレール取付アセンブリ及びシートレール取付アセンブリにおいてシートレールから床梁ウェブに負荷を伝達する方法も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトジョイントに関するものである。更に具体的には、本発明は負荷を拡散させる湾曲したハイブリッドワッシャに関し、この負荷を拡散させる湾曲したハイブリッドワッシャは例えばシートレールアセンブリ等のボルトジョイントにおいて負荷を最適に拡散させるのに適している。
【背景技術】
【0002】
多数の構造的な応用形態、特に航空宇宙への応用形態において、取付箇所の局所的な負荷経路では、しばしば効率的な局所強化及び硬化が必要となる。この目的を達成するための広範囲に許容可能なある方法には、構造部材を互いに連結するのに「半径充填」形状のワッシャを使用する方法が挙げられる。これらのワッシャの一般的な機能は、余分な重量又は費用を加算せずに、遠回りをする負荷経路における偏った負荷を分散させ減らすことである。構造部材に所望される重要な物質特性には、高いせん断剛性、高いせん断強度、及び低濃度が挙げられるため、構造部材は負荷担持能力を高めるためにできるだけ厚みを持たせることができる。例えば、航空機の床構造へのシートレールの取付けは、様々な種類の負荷に耐えるように設計されなければならない。このような負荷の事例は、9G前方墜落の事例である。この特定の負荷の事例では、乗客が乗っているときにシート構造が転倒する影響で、シートレールに重度の垂直方向の負荷がかかる。高い垂直方向の負荷は、シートレールと床梁との接続により反発されなければならない。
【0003】
シートレールと床梁との接続部に、9G前方墜落事例に対する十分な強度を与える通常の方法には、シートレールフランジ、床梁ウェブ、又は両方の厚さを局所的に増加させることが挙げられ、ここで部品はボルトで互いに固定されている。加工パーツ又は組立てたアセンブリを使用することも可能であるが、補助的に接着された複合キャップを有する自動化されたレーザー溶接の構造体を使用して実行することはさらに困難である又は費用がかかる。
【0004】
シートレールと床梁との接続部の形状特性により、取付けには独特のやり方が必要となる。平坦な又は平面のウェブを有する複合床梁は従来、「半径充填」形状のワッシャを使用してボルト接続部からウェブに負荷を拡散しやすくする。ワッシャは通常金属製であり、キャップとウェブが交差する箇所の近くに位置する。しかしながら、「正弦波」型床梁ウェブの場合には、従来の「半径充填」形状のワッシャはウェブとキャップの交差箇所に収容することができない。
【0005】
従来の「半径充填」型ワッシャは、密度比に対して良好な固有のせん断強度を有するアルミニウム製である。しかしながら、腐食の問題があるために、アルミニウム製のパーツは多くの進歩した複合構造には適用できない。従来の半径充填型ワッシャ特有の一つの不利点は、ワッシャを「正弦波」型床梁ウェブ構成とともに収容することができないことである。さらに、ワッシャはモノリシック構造の金属片であるため、シートレール取付アセンブリにおけるボルト負荷の床梁ウェブへの伝達を最適なレベルで行うには構造的に有効ではない。
【発明の概要】
【0006】
本発明は概して、負荷を拡散させる湾曲したハイブリッドワッシャに関するものである。ワッシャの実例となる実施形態は、複合層と、複合層に接着された金属層と、ワッシャ本体を通って延びる留め具開口部を有するワッシャ本体を備えている。本発明は概して更に、シートレール取付アセンブリ及びシートレール取付アセンブリにおいてシートレールから床梁ウェブに負荷を伝達する方法にも関するものである。
本発明をここで添付の図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は負荷を拡散させる湾曲したハイブリッドワッシャの実例となる実施形態の通常の実施形態におけるシートレール取付アセンブリの斜視図である。
【図2】図2はシートレール取付アセンブリと、負荷を拡散させる湾曲したハイブリッドワッシャの断面図である。
【図3】図3はシートレール取付アセンブリの床梁ウェブに固定された、負荷を拡散させる湾曲したハイブリッドワッシャの断面図であり、さらに具体的には、アセンブリに負荷がかかったときの、ワッシャ内の高バイアス構成要素の負荷と、ウェブの歪み負荷の方向を図示している。
【図4】図4は負荷を拡散させる湾曲したハイブリッドワッシャの断面図であり、さらに具体的には、ワッシャに負荷がかかったときの、主要ボルト負荷、分散反発負荷、及び誘発された負荷の移動を図示している。
【図5】図5は負荷を拡散させる湾曲したハイブリッドワッシャの負荷担持機能を示すグラフである。
【図6】図6は航空機のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1に示すように、シートレール取付アセンブリ1は床梁ウェブ2を備え、この床梁ウェブ2は通常チタン製であり、強度と剛性を得るために、複数のウェブ隆起部3を含む波状の「正弦波」構成を有する。通常チタン製の平面的な金属製床梁キャップ6は、床梁ウェブ2に配置される。例えばグラファイト製であってよい複合床梁キャップ7は、金属製床梁キャップ6上に通常配置される。シートレール10は、複合床梁キャップ7上に配置される最下部レールフランジ11を含む。間隔を置いた一対の接続フランジ13は、最下部レールフランジ11から延びている。最上部レールフランジ12は、接続フランジ13上に配置される。乗客のシート(図示せず)は、当業者に周知の技術を用いて最上部レールフランジ12に固定される。
【0009】
通常の応用形態では、一対のワッシャ18が、シートレール10を床梁ウェブ2に固定する一対の締め具23上にそれぞれ配置されている。図2に示すように、間隔をおいた一対の締め具開口部14がシートレール10の最下部レールフランジ11を通って延びている。締め具開口部8はまた、金属製の床梁キャップ6と複合床梁キャップ7を通って、最下部レールフランジ11の締め具開口部14と整合した状態で延びている。図2に更に示すように、各締め具23は最下部レールフランジ11と通常係合する締め具先端部24を有する。各締め具23は、各締め具開口部14と対応する一対の締め具開口部8を通ってそれぞれ延びており、通常シートレール取付アセンブリ1の組立において、対応するワッシャ18に係合する固定ナット27を受ける。
【0010】
図1に示すように、各ワッシャ18はおおむね三角形状を有するワッシャ本体19を含む。ワッシャ本体19は、相互に角度をなした状態で配置される、一対のワッシャ側部26を含む。くぼんだワッシャ間隙22は、ワッシャ本体19の第3側部を形成し、ワッシャ側部26の間に延びている。したがって、以下に説明するように、各ワッシャ本体19のワッシャ間隙22は床梁ウェブ2のウェブ隆起部3の輪郭にほぼ一致する。
【0011】
図2に示すように、各ワッシャ18のワッシャ本体19は、高バイアス複合層20及び複合層20に接着された金属層21を備えている。ある実施形態では、複合層20はグラファイト/エポキシ樹脂である。ある実施形態では、金属層21は6A1−4Vチタンである。複合層20は、ワッシャ本体19の平面に対しておおむね平行である高バイアス複合材30(図3)の軸線に沿って高バイアス下にある。
【0012】
ワッシャ本体19の通常の製造方法では、複合層20を金属層21の先駆物質である金属(通常6A1−4Vチタン)板(図示せず)に積層し、その次にワッシャ側部26とワッシャ間隙22を切断しておおむね三角形状のワッシャ本体19を形成する。締め具開口部25は複合層20と金属層21を通って、ワッシャ本体19のほぼ中央を延びている。ワッシャ本体19と締め具開口部25は、当業者に周知のウォータージェット切断技術又は代替切断技術を用いて形成することができる。
【0013】
締め具開口部25は、締め具23が、シートレール10の最下部レールフランジ11に設けられた対応する締め具開口部14と、複合床梁キャップ7と金属製床梁キャップ6に設けられた、整合した締め具開口部8をそれぞれを通って延びたときに、対応する締め具23を受けるように構成されている。ナット27が締め具23上にねじ切られ、通常ワッシャ本体19の金属層21に当接させて締め、ワッシャ18を金属製床梁キャップ6に固定する。図1に示すように、各ワッシャ18のワッシャ本体19に設けられたワッシャノッチ22が床梁ウェブ2の補完的な形状を持つウェブ隆起部3を受けてウェブ隆起部3に係合する。
【0014】
通常の応用形態では、シートレールアセンブリ1は複数の航空機の客室座席(図示せず)を支持するように設計されており、複数の航空機の客室座席は、当業者に周知の固定技術を用いてシートレール10の最上部レールフランジ12に取り付けられている。衝突状況下では、シートレール10から各締め具23に歪み負荷、特に衝突負荷が印加される。各ワッシャ18により、床梁ウェブ2に対して対応する締め具23から衝突負荷が伝達される。図3に示すように、衝突負荷は通常、各締め具23とナット27によって対応するワッシャ18に印加される主要な締め具負荷28を含む。各ワッシャ18の複合層20により、複合層20の高バイアス複合材30の軸線に沿って、この主要な締め具負荷28の実質的な部分が分散又は分配される。この結果発生した歪み負荷32が床梁ウェブ2に印加される。高バイアス複合材30の軸線に沿った複合層20の高バイアス特性により、主要な締め具負荷28の実質的な部分が床梁ウェブ2の近傍に「送達」又は分配されやすくなる。その結果、従来のモノリシック構造の半径充填ワッシャの場合に比べて、主要な締め具負荷28が、床梁ウェブ2のより大きい部分に広がる又は分配される。これにより床梁ウェブ2のゲージ又は厚みを増加させる必要なしに、衝突負荷をシートレール10から床梁ウェブ2へ効率的に伝達しやすくなる。各ワッシャ18のワッシャ本体19上の、通常チタンである金属層21は、それぞれの対応するナット27からベアリング負荷を吸収することによって圧縮コールプレートとして作用する。
【0015】
図4は、衝突負荷がかかったときに、各ワッシャ18のワッシャ本体19にかかる主要な締め具負荷28に関連する分配された反応負荷34と誘発された曲げ運動36を示している。図5のグラフは、負荷を拡散させる湾曲したハイブリッドワッシャ1の負荷を担持する性能を示し、各締め具の先端部のたわみ(インチの単位)を各締め具にかかる負荷(ポンドの単位)の関数として表している。
【0016】
本発明は特定の実例となる実施形態に関連させて説明してきたが、当然ながら特定の実施形態は説明するためのものであり、限定するものではなく、当業者が他の変形例を発想することも可能である。
【0017】
ステップ57においてオートクレーブ処理が完了した後に通常、外板12、ティアストラップ18及びフランジ26a、26b(図2参照)を通る皿頭穴(図示せず)を開ける作業が伴う可能性がある普通の方法で、フレーム22を位置づけ及び設置し、その後例えばリベット20等の締め具を取り付け、据え込み加工する。
【0018】
本発明の実施形態は可能である様々な応用形態、特に例えば航空宇宙、海洋及び自動車への応用を含む運送業において使用することができる。したがって、ここで図6を参照すると、本発明の実施形態は図6に示す航空機64において使用することができる。
【0019】
図6に示すように、航空機64は、複数の系統82及び内装84を有する機体80を含むことができる。高レベル系統82の例は、一以上の推進系統86、電気系統88、油圧系統90、及び環境系統92が挙げられる。任意の数の他の系統も含むことができる。航空宇宙における実施例を示したが、本発明の原理を、例えば海洋及び自動車産業等のほかの産業分野に応用することができる。
【0020】
本発明の実施形態を特定の実例となる実施形態に関連させて説明してきたが、当然ながら特定の実施形態は説明するためのものであり、限定するものではなく、当業者が他の変形例を発想することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合層及び前記複合層に接着された金属層を有するワッシャ本体と、
前記ワッシャ本体を通って延びる締め具開口部
を含むワッシャ。
【請求項2】
前記複合層がグラファイト/エポキシ樹脂を含む、請求項1に記載のワッシャ。
【請求項3】
前記金属層がチタン合金を含む、請求項1に記載のワッシャ。
【請求項4】
前記複合層が、前記ワッシャ本体の平面に対しておおむね平行に配置された軸線に沿ってバイアスされている、請求項1に記載のワッシャ。
【請求項5】
前記ワッシャ本体に設けられたワッシャ間隙をさらに含む、請求項1に記載のワッシャ。
【請求項6】
前記ワッシャ本体がおおむね三角形状を有する、請求項1に記載のワッシャ。
【請求項7】
互いに角度をなして配置されている一対のワッシャ側部をさらに含む、請求項6に記載のワッシャ。
【請求項8】
前記ワッシャ本体に設けられ、前記一対のワッシャ側部の間に延びているワッシャ間隙をさらに含む、請求項7に記載のワッシャ。
【請求項9】
床梁ウェブと、
前記床梁ウェブ上に設けられた少なくとも一つの締め具開口部を有する金属製の床梁キャップと、
前記金属製床梁キャップ上に設けられた少なくとも一つの締め具開口部を有するシートレールと、
前記シートレールの前記少なくとも一つの締め具開口部と、前記金属製床梁キャップの前記少なくとも一つの締め具開口部を通って延びる少なくとも一つの締め具と、
複合層と前記複合層に接着された金属層を有するワッシャ本体と、前記複合層及び前記金属層を通って延びる締め具開口部を含む少なくとも一つのワッシャ
を備え、
前記少なくとも一つの締め具が、前記ワッシャ本体の前記締め具開口部を通って延びており、前記ワッシャ本体の前記複合層が前記金属製床梁キャップに係合する、
床梁取付けアセンブリ。
【請求項10】
前記金属製床梁キャップ及び前記シートレールの間に複合床梁キャップをさらに含む、請求項9に記載のシートレール取付けアセンブリ。
【請求項11】
前記少なくとも一つのワッシャが一対のワッシャを含み、前記少なくとも一つの締め具が一対の締め具を含む、請求項9に記載のシートレール取付けアセンブリ。
【請求項12】
前記ワッシャ本体の前記複合層が、グラファイト/エポキシ樹脂を含む、請求項9に記載の床梁及びシートレール取付けアセンブリ。
【請求項13】
前記ワッシャ本体の前記金属層がチタン合金を含む、請求項9に記載のワッシャ。
【請求項14】
前記ワッシャ本体の前記複合層が、前記ワッシャ本体の平面に対しておおむね平行に配置された軸線に沿ってバイアスされている、請求項9に記載のワッシャ。
【請求項15】
前記床梁ウェブに設けられた複数のウェブ隆起部と、前記ワッシャ本体に設けられ、前記複数のウェブ隆起部の一つを受けるワッシャノッチをさらに備える、請求項9に記載のワッシャ。
【請求項16】
前記ワッシャ本体がおおむね三角形状を有する、請求項15に記載のワッシャ。
【請求項17】
前記シートレールと前記床梁ウェブの間に床梁キャップを有する、シートレール取付けアセンブリにおいて、シートレールから床梁ウェブに負荷を伝達する方法であって、
前記シートレールに少なくとも一つの締め具開口部を設け、
前記床梁キャップに少なくとも一つの締め具開口部を設け、
前記床梁ウェブに係合する複合層を有するワッシャ本体を含む少なくとも一つのワッシャを設け、金属層が前記複合層に接着され、締め具開口部が前記ワッシャ本体を通って延び、
前記シートレールの前記少なくとも一つの締め具開口部、前記床梁キャップの前記少なくとも一つの締め具開口部、及び前記ワッシャ本体の前記締め具開口部に締め具を通して延在させ、
主要な締め具負荷を前記締め具及び前記ワッシャ本体のそれぞれを通して、前記シートレールから前記床梁ウェブまで伝達する
ステップを含む方法。
【請求項18】
前記ワッシャ本体の前記複合層がグラファイト/エポキシ樹脂を含み、前記ワッシャ本体の前記金属層がチタン合金を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ワッシャ本体の前記複合層が、前記ワッシャ本体の平面に対しておおむね平行に配置される軸線に沿ってバイアスされている、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記床梁ウェブに設けられた複数のウェブ隆起部と、前記ワッシャ本体に設けられたワッシャノッチをさらに備え、前記複数のウェブ隆起部の一つを受ける、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−527429(P2010−527429A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508550(P2010−508550)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/063547
【国際公開番号】WO2008/144321
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】